まず、発明の実施形態を説明する前に、課題解決のための基本的考え方について説明する。
[機構の解明]
4H−SiC基板を用いたMOSFETでは、4H−SiC基板/SiO2 ゲート絶縁膜界面に多くの界面状態が存在し、それが移動度低下を引き起こしていることが分かっている。しかし、その起源については明確になっていない。
従来は、SiC/SiO2 絶縁膜界面のSiO2 ゲート絶縁膜側に生成された炭素クラスターなどがその原因であるとされていた。このように考えると、「3C−SiC基板を用いたMOSFETにて何故ノーマリーオンになるのか」がよく分からないことになる。また、「絶縁膜形成プロセスを工夫しても、十分に大きな移動度の4H−SiC基板を用いたMOSFETを作製できない」現状も理解できない。このため、界面移動度が低い原因を理解し、それに基づいて改善方法を立案する必要がある。
[SiC基板中でのC欠陥の電子状態についての考察]
4H−SiCと、3C−SiC中でのC欠陥の電子状態を第一原理計算により求めた。ここで、第一原理計算は、局所密度近似による密度汎関数法に基づいている。Siはノルム保存擬ポテンシャル、CなどSi以外の物質は、バンダービルトらによって開発された、ウルトラソフト擬ポテンシャルを用いている。図1(a)(b)(c)はそれぞれ、4H−SiC、6H−SiC、3C−SiC中でのC欠陥の状態密度を説明するための模式図である。
基板中にC欠陥が発生すると、C欠陥の周囲にある4つのSiがそれぞれ一つのダングリングボンドを持つことになる。Siのダングリングボンドは、SiCのバンドギャップの中間付近に状態を持っているので、C欠陥の周囲にある4つのSiが持つダングリングボンドが相互作用をすると、2つの「埋まった状態」と、2つの「空の状態」に分裂して、合計4つの状態になる。そして、そのうちの二つの状態(埋まった状態が一つと空の状態が一つ)が、4H−SiCのギャップ中に出現する。他の二つの状態は、埋まった状態が4H−SiCの価電子帯の内側に、空の状態は4H−SiCの伝導帯の内側に位置しており、4H−SiCのギャップ中には現れない。
一方、伝導帯、価電子帯のエネルギー位置は、SiCの構造によって変わってくる。それ故に、Siが持つダングリングボンドの相互作用によって発生する、これらの「埋まった状態」、「空の状態」の、ギャップ中での位置関係は、SiCの構造に依存することになる。
図1(a)に示すように、4H構造では、伝導帯直下に「空の状態」が発生している。この状態は、電子がトラップするので、移動度を低下させる源となる。それに対し、3C構造では、図1(c)に示すように、「埋まった状態」と伝導帯が関連しており、C欠陥が入ると、3C−SiC基板そのものがn型化してしまうことが、本計算により始めて分かった。これにより、3C−SiC基板のMOSFETを作製すると、ノーマリーオンになってしまう機構が解明できたことになる。つまり、nチャネルのMOSFETのチャネル部分がn型化してしまうためであった。ノーマリーオンになる点は、SiO2 中のCクラスターへの電荷トラップでは全く説明がつかなかった疑問点であった。
6H構造では、図1(b)に示すように、伝導帯の底が低下して、4H構造の伝導帯直下に現れた「空の状態」全体を取り込む形になる。その結果、電子がトラップされなくなり、6H−SiC基板を用いたMOSFETでは大きな移動度が得られることが良く理解できる。但し、6H構造では、バルクの電子移動度が小さ目なので、縦型MOSFETには不向きである。
以上から、4H−SiC基板中のC欠陥が、MOSFETの移動度を低下させる起源の一つであり、SiO2 中の電荷トラップだけがその起源ではないことが理解できる。
[基板表面近傍での欠陥発生機構]
SiC基板表面での欠陥の生成エネルギーを第一原理計算により求めた。SiC基板C面の最表面のC欠陥生成に必要なエネルギーは0.75eV、SiC基板Si面の最表面のSi欠陥生成に必要なエネルギーは4.6eVであった。水素終端のとれたSiC基板の最表面の元素は、ダングリングボンドを有しているので高いエネルギー状態にあり、簡単に離脱して欠陥を発生させることが分かる。
SiC/SiO2 絶縁膜界面近傍では、内部元素(C及びSi)と表面に発生した欠陥とが入れ替わりながら拡散していくことになる。このようにして、SiC/SiO2 絶縁膜界面近傍のSiC基板中には、多くの欠陥が発生することが分かった。
次に、SiC基板中での欠陥の生成エネルギーを第一原理計算により求めた。C欠陥生成に必要なエネルギーは4.0eV、Si欠陥生成に必要なエネルギーは7.5eVであり、SiC基板ではC欠陥が最も発生し易いことが分かった。
図2では、以上の様子をグラフにしている。SiC/SiO2 絶縁膜界面では、ダングリングボンドの存在界と面近傍での歪の開放の効果により、SiC基板内部よりもC欠陥が発生し易いことを示している。更に、一旦C欠陥が発生すると、その内側のC欠陥の発生し易さが増して行くことになる。それは、上記と同様に、ダングリングボンドが新たに発生すること、空間が空くために歪の開放が容易になることによる。つまり、界面近傍では、C欠陥が発生し易いことになる。こうして、界面から奥に数nmに渡り、C欠陥が発生し易い状態となる。この数nmは、当にチャネルを形成する部分であるため、移動度に非常に大きな影響を及ぼすことになる。
SiC基板内部でのC欠陥生成エネルギーは、4eVである。そして、基板中では、1013/cm3 程度のC欠陥が発生している(1300℃程度のエピタキシャル成長)。よって、界面のC欠陥生成エネルギーが0.75eVであれば、室温程度であっても1018/cm3 のC欠陥が発生すると考えられる。SiO2 の成膜では、ある程度の温度が加わることから、界面から3nm程度までは、1018/cm3 程度のC欠陥が発生してしまうと考えられる。
このようにして、SiC/SiO2 絶縁膜界面には、多くの界面C欠陥が発生する。4H−SiC基板を用いたMOSFETでは移動度に影響する、「絶縁膜形成プロセスを工夫しても、十分に大きな移動度の4H構造MOSFETを作製できない」理由が理解できた。3C−SiC基板を用いたMOSFETでは、チャネルがn型化するという現象として現れてくる、「3C−SiC基板を用いたMOSFETにて何故ノーマリーオンになる傾向が強いのか」という疑問も解けた。
本実施形態では、4H−SiCのMOS界面におけるC欠陥量を劇的に減らした、縦型DiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を提供する。そのために、MOS界面形成後に、炭素欠陥に炭素原子を補充することを特徴とする。具体的には、4H−SiC基板を用いた縦型DiMOSFETのゲート絶縁膜形成工程の直前、或いは直後に、炭素(C)をMOS界面近傍にイオン打ち込みする。そして、ゲート絶縁膜が形成された後に、低温にてアニールする。このとき、イオン打ち込みにより導入された炭素を格子間拡散(Cの格子間拡散の障壁は0.5eV以下であり、低温でも拡散する)させることができるので、多くのC欠陥を埋めることができる。重要な点は、高温アニールを通さないという点である。高温でアニールすると、格子間Cは高速で拡散して、MOS界面近傍から無くなってしまい、界面近傍のC欠陥を埋めることができない。
本プロセスを経たSiC半導体装置の最終構造では、C欠陥量が従来よりも桁違いに減少している。それを反映して、界面準位密度も桁違いに減少させることができる。その結果、移動度としては、150cm2/Vsから350cm2/Vs程度の十分に大きな値が得られる。典型的には、Si/SiO2 界面と同程度(300cm2/Vs程度)となる。ここで、150cm2/Vsは、未だC欠陥Vcが多少残っている場合である。350cm2/Vsは、通常のSiC/SiO2 界面を作製した場合の上限と考えてよい。つまり、C欠陥量と界面準位密度とは強く相関しており、C量/Si量の比を制御すれば、界面準位密度が劇的に低いMOS界面を形成可能である。
[4H−SiC基板中の余分な炭素に関して]
4H−SiC基板中にCが余分にある場合、以下の状態が考えられる。まず、格子間に存在する場合である。このとき、Cは格子間を簡単に拡散して、通常のアニールプロセス中に基板中を拡散して、外部に出てしまう。次に、格子間炭素(Ci)がダイマー(Ci2)を形成する場合である。このとき、格子間に安定に存在できるが、電子状態を計算し確認したが、ギャップ中に電子をトラップできる局在状態はない。よって、MOS界面近傍にCi2があっても、移動度に何の影響も出ない。特に、界面付近では、酸素が多くあるので、酸化されてCOとなって外部に放出されてしまう。さらに、Siを置換したCも存在する可能性がある。このときの電子状態も計算を行い確認したが、ギャップ中に電子をトラップできる局在状態はなく、MOS界面近傍にSiを置換したCがあっても、移動度に何の影響も出ない。
このように、4H−SiC基板側に余分な炭素があっても、MOS界面の移動度には、大きな影響を及ぼさないことが分かった。つまり、C量は、適切な範囲であれば、多い分には大きな問題はない。
[C欠陥量]
エピタキシャル成長によるSiC基板では、1013/cm3 オーダー以下のC欠陥しかないが、ドーパントなどのイオンを打ち込むと急激に増えることが分かっている。低ドーズであっても、1017/cm3 に達する(非特許文献2参照)。このように、C欠陥は、簡単に発生してしまうので、インプラダメージには非常に敏感である。
また、実際の4H−SiC基板を用いたMOSFETでは、1×1018/cm3 以上(面密度にして、1×1012/cm2 以上)の界面状態密度が報告されることが多い(非特許文献3参照)。基板内C欠陥は、電子を4つ出し入れする能力があるので、C欠陥量にして、2.5×1017/cm3 以上に相当する。例えば、界面状態密度は、8.9×1016/cm3(面密度にして、2×1011/cm2 )以上、8.9×1019/cm3(面密度にして、2×1013/cm2 )以下程度に分布している。これは、C欠陥量にして、2.2×1016/cm3 以上、2.3×1019/cm3 以下に相当する。
更に、(非特許文献3)では、3C−SiC基板を用いたMOSFETのp型ドーパント量は1×1018/cm3 であるが、ノーマリーオンになる傾向が見られる。3C−SiCにて、C欠陥が発生すると、価電子帯、伝導帯のそれぞれに2つずつの電子を供給される。つまり、3C−SiCでは、C欠陥はドナーとして振舞うことになる。これは、6H−SiCや、4H−SiCではなかった特性である。ノーマリーオンになる傾向があるのであれば、C欠陥量にして、5.0×1017/cm3 以上のC欠陥が存在すると考えられる。
[濃度の規定]
移動度に大きく影響を与えるC欠陥は、4H−SiC/SiO2 界面近傍の、4H−SiC側3nm以下に分布している。ここでは、Cが余分にない状態であれば、C欠陥密度Cdef は、
Cdef =|[Siの密度]+[p型ドーパントの密度]−[Cの密度]|
と言える。
移動度を大きくするにはC欠陥密度Cdef を、十分に小さくしなければならない。従来の実験では、この密度Cdefが2×1016/cm3 程度まで小さくできており、その時の移動度は、最大で100cm2/Vs程度である。これは、チャネルをエピタキシャル成長で作製した時でも同様である。
移動度としては、150cm2/Vs以上を目標としているので、C欠陥密度Cdef は1015/cm3 オーダー未満でなくてはならない。このとき、Dit〜2×1010/cm2 程度である。
更に、C欠陥密度Cdef としては、1014/cm3 オーダー以下が好ましく、このときの移動度は、200cm2/Vs以上となる。C欠陥量が1013/cm3 に近づくと、移動度は350cm2/Vs程度となり、それ以上C欠陥が減っても移動度は同等である。
電荷密度から見積もったC欠陥密度Cdef は、従来の実験では最低でも2×1016/cm3 以上あることになる。よって、SiO2 /SiC界面近傍の界面±5nm以内の適当な領域に、炭素イオンを2×1016/cm3 以上打ち込むことが必要である。しかし、できる限りソフトに打ち込みたい。一番良いのは、SiO2 側にソフトに打ち込むことである。
[C欠陥導入位置とその量について]
上記のように、C欠陥は、チャネルの奥行きは3nm以下に分布している。Cは、イオンインプラにより、その近くに導入したい。C欠陥とCとの相互作用は2nm程度可能なので、5nm以内にピークがあると良い。従来の実験から、プロセス後のC欠陥量は、2×1016/cm3 以下まで低減できると考えられる。よって、ピーク値では、この程度以上の量の導入が必要である。絶縁膜側にCを導入する場合は、Cは簡単に拡散できる。C打ち込み量から、5nm以内が妥当と考えられる。それ以上離した場合は、打ち込むC量を増やさなくてはならず、絶縁膜へのダメージが大きくなってしまうためである。
イオンインプラの打ち込み量を5×1016/cm3 と固定して、ピーク位置を界面からの位置として変化させたところ、基板側5nm以上、絶縁膜側5nm以上では、移動度が急激に低下して行く様子が見られる。これは、C欠陥を埋めきれていないことを意味している。また、基板側2nmにピーク位置を固定して、イオン打ち込み量を変化させたところ、2×1016/cm3 以下で、急激に劣化している。これもC量が足りなかったためと考えられる。本実施形態のプロセスでは、5×1016/cm3 程度がベストである。あまり多く導入すると、インプラダメージの問題、コストの問題が出てくるので、できる少ない量とすることが望ましい。上限は、予想されるC欠陥量の最大値(2.3×1019/cm3 )であるが、現状では、2〜3桁低い量までは小さくできている。
炭素の殆どは、外部にアニールアウトするが、SiO2 中に余ったCは、窒化などにより、トラップ状態を不活性化できる。また、SiC中に余ったCも上記のように問題にならない。
[終端構造]
デバイス構造全体の終端構造は、通常イオン打ち込みで作っており、今回も同様にすればよい。更に、強力な終端構造が必要な場合は、STI(Shallow Trench Isolation)によって、SiO2 酸化膜を埋め込む方法も有効である。
[Nの導入]
本実施形態では、チャネル領域のトラップを低減し、且つ界面ラフネスの無力化をはかり、埋め込みチャネル構造の最適化をはかるために、Nをドープする。
従来の埋め込みチャネルに対しNをインプラし、拡散させた場合、図3(a)に示すように、Cの欠陥Vcがあるために、この部分にNが入り込みNsとなる。即ち、格子点Bsと格子点Nsが分布することになり、Nsがトラップになってしまう。
この場合、閾値Vthが小さくなってしまう。また、N量の制御が困難であり、閾値設定が困難(Vc量依存)となる。さらに、Ns量はBs量と必ずしも一致せず、Ns>Bsとなり易く、その結果Vthが小さくなる。
これに対し、本実施形態のようにCの導入によりVcを消した上でNを導入すると、図3(b)に示すように、VcがないのでBNペア(pnドープのペアを有するペア構造絶縁膜)となる。この場合、VcがないのでNsができず、不要なトラップが生成されない。また、閾値Vthは、絶縁膜直下のp濃度によって制御可能となる。B:N=1:1であるNBペア層となり、Vthが低くならずに済む。また、このNBペア層はゲート絶縁膜の一部として機能することになる。
このようにVcがなければ、N拡散によるBNペア構造の形成が可能となる。即ち、Vcがなければ、N原子の低温拡散により、p型ドーパントを補償することが可能となる。これにより、チャネル領域のトラップを確実に消滅させることができる。さらに、Nsがないので、チャネルとしてはより良質なものとなり、信頼性の向上をはかることが可能となる。
Nの拡散により4H−SiCにBNペア構造が形成される様子は、図4に示す通りである。即ち、図4(a)に示す構造に対し、図4(b)に示すようにNを拡散させると、図4(c)に示すように、p型ドーパントBがNを引き寄せ、安定なBNペアを形成する。これは、SiサイトにBNペアが入り込んだ新規構造であり、B量=N量が実現できる。このため、Vthが小さくなるのを防止できる。
なお、p型ドーパントとしてAlを用いることも可能であるが、この場合、図5(a)に示すように、バンドギャップ中に新たな状態が出現する可能性がある。一方、p型ドーパントとしてBを用いた場合、図5(b)に示すように、拡散によりp型チャネルを補償することができる。即ち、埋め込みチャネルを形成することが可能となる。つまり、p型ドーパントとしてはBが最も望ましいことになる。
Alを用いた場合は、バンドギャップが狭くなるので、誘電率は上昇する。よって、AlとNをSi位置に導入して絶縁膜を形成すると、高誘電体ゲート絶縁膜となる。その意味では、良いゲートスタック構成となる。しかし、チャネル部分では、ギャップ中レベルができることになるので、あまり好ましくない。
一方、バンドギャップが狭くなるので、p型SiC領域123と金属との接触抵抗が、低抵抗化する。この点は、Bを用いるよりも良いので、p型SiC領域123には、Alをドーパントとして用いた方がよい。
以上から、チャネル部分のドーパントとしては、Bが適しており、p型SiC領域123のドーパントとしては、Alが適している。
[SiC表面のNに対するポテンシャルの形成]
図6(a)に示すように、SiC基板の表面に直接Nを導入した場合、SiCの表面にはN化バリアが形成されるので、通常はNは基板の奥には入り込めない。計算により、表面緩和がフリーであることが、最大の原因であることが分かった。このため、表面に窒化膜が形成されてしまう。そして、SiN島状成長による表面荒れが発生する。
これに対し、図6(b)に示すように、SiC基板上に薄い酸化膜を形成した後にNをドープすると、酸化膜の存在によって、緩和による表面安定化を抑制可能(表面緩和を拘束)となる。即ち、N原子に対する表面トラップが抑制でき、Nが基板の奥に入り込むことが可能になる。これにより、格子点BとNがペアリングを形成し、アクセプタを補償することになり、良好な埋め込みチャネル形成が可能となる。
以下、実施形態のSiC半導体装置を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図7は、第1の実施形態に係わるSiC半導体装置の素子構造を示す断面図であり、特にDiMOSFETに適用した例である。
高濃度n型(n+ 型)炭化珪素(4H−SiC:シリコンカーバイド)基板100の表面上に、低濃度n型(n- 型)4H−SiC層102が形成されている。本実施形態では、SiC基板100上にSiC層102を形成した構造を、素子形成用基板として用いている。n- 型SiC層102は、n+ 型SiC基板100よりも不純物濃度が低濃度に形成されており、耐圧保持層となる。SiCは多くの構造(ポリタイプ)をとるが、本実施形態では、SiCの構造としては4H構造とする。4H構造が最も耐圧が高く、且つバルク中の移動度が高いため、パワーデバイスを作製するには最適と考えられるからである。
SiC基板100の裏面には、導電性材料の電極160が形成されている。電極160はドレイン電極(第2の通電電極)となる。電極160は、Ni/Tiの蒸着などを用い、例えば1000℃のアニールを行うことで、SiC基板100の裏面にオーミック接続することができる。
SiC層102の表面上の一部に、互いに間隔を隔て所定の膜厚の複数の低濃度p型(p- 型)SiC領域(第1の4H−SiC領域)121が、SiC層102の表面から内部途中の深さまで選択的に形成されている。1つの半導体素子には、2つのSiC領域121がSiC層102の表面領域を挟むように配置される。こられの2つのSiC領域121は、リング状、蜂の巣状などに配置され、つながっている。或いはストライプ状になっていても良い。素子を中心で切った構造を示している。以下でも、同様である。この素子を並列に配置して、全体に電流を流し、電極への電圧印加によりスイッチングさせる。
各SiC領域121の表面上の一部に、それぞれSiC領域121の表面から内部途中の深さまで所定の膜厚の高濃度n型(n+ 型)SiC領域(第2の4H−SiC領域)122が選択的に形成されている。そして、各SiC領域121の表面上の一部に、SiC領域122に隣接してp型(p+ 型)SiC領域(第3の4H−SiC領域)123が形成されている。
このように、複数のp型SiC領域121は、n型SiC層102上の少なくとも一部に選択的に形成され、n型SiC領域122とp型SiC領域123とに接続するように配置されている。図7の例では、各SiC領域121の表面上の一部に、隣接したn型SiC領域122とp型SiC領域123とがそれぞれ1つずつ配置される例を示している。そして、1つの半導体素子を形成する際に、2つのp型SiC領域123が、2つのn型SiC領域122を挟むように配置される。言い換えれば、1つの半導体素子では、p型SiC領域123がn型SiC領域122の外側に配置される。また、各SiC領域121には、それぞれn型SiC領域122よりも内側にp型SiC層102と電気的に導通するチャネル領域124が形成されている。
チャネル領域124は、Cドープによる欠陥低減層である。そして、このチャネル領域124の表面部に、N拡散によるBNペア構造絶縁膜125が形成されている。
2つのn型SiC領域122の表面の一部に跨るように、絶縁膜130が形成されている。この絶縁膜130は、ゲート絶縁膜となるものであり、例えばSiO2 酸化膜が用いられる。ゲート絶縁膜130は、両側のn型SiC領域122の表面と、n型SiC領域122及びp型SiC領域123が形成されていない各SiC領域121の表面(BNペア構造絶縁膜125)と、2つのp型SiC領域121間のチャネル間領域となるp型SiC層102の表面とに接して形成される。
ゲート絶縁膜130上には、ゲート電極140が形成される。よって、ゲート電極140は、両側のn型SiC領域122の一部と、n型SiC領域122及びp型SiC領域123が形成されていない各SiC領域121の部分領域(ここがMOSFETのチャネル124となる)と、2つのSiC領域121間のチャネル間領域となる型p型SiC層102とに跨るようにゲート絶縁膜130を介して形成される。
また、n型SiC領域122の表面の他の一部とp型SiC領域123の表面上には、電極150が形成されている。電極150は、ソース電極(第1の通電電極)となる。ソース電極150は、Al/Niなどであり、800℃程度の温度で形成され、p型SiC領域123にオーミック接続される。かかるp型SiC領域123は、MOSでは基板コンタクト領域となる。同時に、ソース電極150は、n型SiC領域122にオーミック接続される。かかるn型SiC領域122は、MOSではソース領域となる。
ここで、第1の実施形態では、p型SiC領域121を形成するためにボロン(B)等のp- 型のイオンインプラがなされたこと、及びSiO2 膜130が成膜されたことで、C欠陥が生じている。C欠陥発生機構は既に記述した通りである。C欠陥は、余ったCがあれば、埋めることで安定化(基板中では、C欠陥当たり4eV程度の利得となる)できる。つまり、余分なCをMOS界面に導入し、MOS界面近傍において拡散させれば、C欠陥を埋めることで、MOS界面の特性改善が可能である。
これに加えて、欠陥低減層124にNを拡散させることにより、格子点BとNがペアリングを形成し、アクセプタを補償するため、良好な埋め込みチャネル形成が可能となる。
このような考えに基づく本実施形態のSiC半導体装置の製造工程を、図8のフローチャートに示す。図8に示すように本実施形態では、n- 型SiC膜形成工程(S1)と、p- 化用のイオン注入工程(S2)と、n+ 化用のイオン注入工程(S3)と、p+ 化用のイオン注入工程(S4)と、活性化のための高温アニール工程(S5)と、絶縁薄膜形成工程(S6)と、炭素(C)イオン打ち込み工程(S7)と、格子間C拡散のための低温アニール工程(S8)と、N拡散(新規BN構造)形成工程(S9)と、ゲート絶縁膜形成工程(S10)と、ソース電極形成工程(S11)と、アニール工程(S12)と、ゲート電極形成工程(S13)と、ドレイン電極形成工程(S14)と、アニール工程(S15)という一連の工程を実施する。
第1の実施形態におけるSiC半導体装置の製造方法のフローチャートに対応して実施される工程を表す工程断面図を、図9及び図10に示す。
図9(a)〜(d)では、図8のn- 型SiC膜形成工程(S1)からイオン注入工程(S4)までを示している。それ以降の工程は後述する。
まず、図9(a)に示すように、n- 型SiC膜形成工程(S1)として、n+ 型4H−SiC基板100の表面上に、n- 型4H−SiC層102を形成する。SiC基板100としては、例えば固体単結晶SiC基板が用いられる。n型SiC基板100内の不純物濃度(ドーピング濃度)は、1×1016原子/cm3 以上、1×1020原子/cm3 未満が好適である。ここでは、例えば、6×1017原子/cm3 で形成されたものを用いる。以後の実施形態でも、特に断らない限り、p型、n型に拘わらず、基板濃度として6×1017原子/cm3 の基板を用いている。SiC基板100として、(0001)面の六方晶系SiC基板(4H−SiC基板)が好適である。また、実施形態では(0001)面を用いているが、(000-1)面など他の面方位であっても、有効である。
そして、SiC層102は、エピタキシャル気相成長法によりSiC基板100の表面上にn- 型4H−SiC膜をエピタキシャル成長することにより形成される。エピタキシャル層を形成する際、原料ガスとして、例えばSiH4 ガス及びC3H8 ガスを用いることができる。また、不純物(ドーパント)としては、窒素(N)或いは燐(P)を用いるとよい。SiC層102は、耐圧保持層となる。SiC層102は、膜厚として、例えば5μm以上100μm以下が好適であり、高耐圧のデバイス程、厚くする必要がある。ここでは、例えば10μmに形成される。また、n型SiC層102の不純物濃度(ドーピング濃度)は、8×1014原子/cm3 以上、3×1017原子/cm3 未満が好適である。ここでは、例えば5×1015原子/cm3 で形成されたものを用いる。以後の実施形態でも、特に断らない限り、n- 型SiCの濃度として5×1015原子/cm3 を用いている。
次いで、図9(b)に示すように、p- 化用のイオン注入工程(S2)として、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成した酸化膜(図示せず)をマスクとして用い、導電型がp型の不純物を選択的にSiC層102の表面領域120に注入する。これにより、p- 型4H−SiC領域121を形成する。
p型SiC領域121における導電性不純物の濃度は、例えば1×1016/cm3 とすることができる。以後の実施形態でも、特に断らない限り、p- 型SiCの濃度として1×1016原子/cm3 を用いている。p型の不純物となるBイオンの注入の条件としては、例えば1×1015/cm2、80KeVとすることができる。ここでは、例えば300℃に基板を加熱した。p型SiC領域121における導電性不純物の濃度は、1×1013/cm3 以上、5×1017/cm3 以下が好適である。より好ましくは、1×1015/cm3 以上5×1016/cm3 以下がよい。
次いで、図9(c)に示すように、n+ 化用のイオン注入工程(S3)として、SiC領域121の表面の一部に、選択的にn型の導電性不純物を注入することにより、n+ 型4H−SiC領域122を形成する。具体的には、SiC領域121の形成に用いた酸化膜のマスクを除去した後、再度新たなパターンを有する酸化膜のマスク(図示せず)を、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成する。そして、新たなマスクの開口部を通して、n型の導電性不純物を注入することにより、n型SiC領域122を形成する。
n型SiC領域122における導電性不純物の濃度は、例えば2×1020/cm3 とすることができる。以後の実施形態でも、特に断らない限り、n+ 型SiCの濃度として2×1020原子/cm3 を用いている。n型の不純物となるNイオンの注入の条件としては、例えば1×1015/cm2、40KeVとすることができる。ここでは、300℃に基板を加熱した。n型SiC領域122における導電性不純物の濃度は、1×1014/cm3 以上5×1020/cm3 以下が好適である。より好ましくは、5×1015/cm3 以上3×1020/cm3 以下がよい。
次いで、図9(d)に示すように、p+ 化用のイオン注入工程(S4)として、SiC領域121の表面の他の一部に、SiC領域122と隣接するように選択的にp型の導電性不純物を注入することにより、p+ 型4H−SiC領域123を形成する。具体的には、SiC領域122の形成に用いた酸化膜のマスクを除去した後、再度新たなパターンを有する酸化膜のマスク(図示せず)を、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて形成する。そして、新たなマスクの開口部を通して、p型の導電性不純物を注入することにより、p型SiC領域123を形成する。
p型SiC領域123における導電性不純物の濃度は、例えば2×1020/cm2 とすることができる。p型の不純物となるAlイオンの注入の条件としては、例えば1×1015/cm2、40KeVとすることができる。ここでは、300℃に基板を加熱した。p型SiC領域123における導電性不純物の濃度は、1×1014/cm2 以上5×1020/cm2 以下が好適である。より好ましくは、5×1015/cm2 以上3×1020/cm2 以下がよい。
次に、アニール工程(S5)として、上述した注入工程の後、活性化アニール処理を行う。この活性化アニール処理としては、例えばアルゴン(Ar)ガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度1600℃、加熱時間30分といった条件を用いることができる。このようにして、図9(d)に示す構造を得る。このとき、SiC内部に導入されたドーパントの活性化は実現できるが、殆ど拡散はしない。
SiC領域121〜123の形成に際し、炭素イオンを共ドープすることが良く行われている。当然、ここでも、炭素イオンの共ドープをやっても構わない。しかし、その後に高温アニール(S5)を行うので、余分な炭素イオンは、SiC層102や基板100、或いは外部へと拡散してしまい、上記SiC領域121には残っていない。その結果、この段階での炭素イオンの共ドープの有無によるMOS界面の特性変化は観測できないレベルである。
図10(e)〜(h)では、図8の絶縁薄膜形成工程(S6)からN拡散(BN新規構造)形成工程(S9)まで工程を示している。
図10(e)に示すように、絶縁薄膜形成工程(S6)として、SiC層102、SiC領域121,122,123の表面全体を覆うように極薄の絶縁薄膜(SiO2 膜)126を形成する。絶縁薄膜(薄膜キャップ層)126の形成方法として、例えばドライ酸化(熱酸化)を行っても良い。例えば、1200℃、加熱時間3分という条件のドライ酸化により、極薄のドライ酸化膜を作製できる。
次いで、図10(f)に示すように、Cイオン注入工程(S7)として、炭素イオンを打ち込む。炭素イオンは、絶縁薄膜126とSiC領域121により形成されるMOS界面のSiC領域121側にピーク(本実施例では、5×1016/cm3 程度、ピーク位置は3nm程度とした)を持つように、しかも、できる限りソフトに打ち込むことがポイントとなる。つまり、必要最小限の加速電圧、且つ必要最小限の密度で打ち込み、アモルファス化しないように注意が必要である。Cイオンの注入の条件としては、例えば、1×1013/cm2、10KeVとすることができる。
このように、SiCチャネル上にSiO2 膜が形成された状態でCをイオン注入するプロセスが、簡単で安定で、しかも界面荒れが少ない。このとき、C欠陥とSi欠陥の一部がCによって埋められることなり、電子トラップが無くなる。これがベストモードである。Si欠陥にCが導入されても構わない。また、Cクラスターなどができても構わない。C欠陥さえ少なくできればよい。
打ち込むCは、界面近傍にできる限りソフトに導入したい。打ち込みに際して、C欠陥ができることはできる限り避けたいからである。ここでは、MOS界面のSiC領域121側にピークを持つようにしたが、絶縁薄膜126側にピークを持つようにCを導入して、そこからCを拡散させても構わない。SiO2 中に余ったCは、その後のプロセスで無くすことが可能である。SiC中に残ったCは、格子間のものはアニールアウトする。その他のものも、移動度に大きな影響を及ぼさない。
Cイオンの注入の条件などは、絶縁薄膜126の厚みに依存している。絶縁薄膜形成工程(S6)とCイオン注入工程(S7)との順番を変えて、Cイオン注入後に、絶縁薄膜126を形成することも可能である。
絶縁膜形成工程(S6)とCイオン注入工程(S7)とを終えた後、低温工程(S8)として、100℃に基板を加熱する。これにより、打ち込まれた余分なCが格子間を、ゆっくりと拡散して、MOS界面のSiC領域121側にあるC欠陥を埋めることが可能となる。即ち、ゲート電極下のチャネル領域124に欠陥低減層が形成されることになる。C欠陥は、Cが埋まると4eVも安定になるので、エピタキシャル成長の時のC欠陥量(1013/cm3 )以下まで埋めることが可能である。エピタキシャル成長の時よりも温度が低いことから、エントロピーの効果が小さく出るため、より少量のC欠陥量まで小さくできる。つまり、C欠陥量を1013/cm3 未満まで少なくすることが可能である。
エントロピーの効果をできる限り小さくしたければ、低温ほど好ましい。しかし、低温すぎると拡散しない(拡散障壁は0.5eV程度)ので、100℃から300℃以下が良く、プロセスの簡便性からもできる限り低温の100℃程度が良い。300℃以上に温度を上げると、拡散が高速になり、C欠陥を埋める前に基板側に拡散してしまう。
上記したように、イオン打ち込みプロセスを経たSiC領域121のC欠陥量は1017/cm3 以上である。このとき、移動度は、20cm2/Vs程度である。この大きなC欠陥量を、本実施形態のプロセスにより、1013/cm3 未満とすることが可能となる。このとき、C欠陥由来の界面電荷面密度は、1010/cm2 オーダー以下となり、界面の荒れなどが移動度劣化の主因となってくるレベルとなる。
DLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)測定によると、C欠陥量がおよそ1013/cm3 となっており、移動度が350cm2/Vs程度となっている。この移動度は、Si/SiO2 界面の移動度と同等であり、十分に良い界面が形成されていると言える。
エピタキシャル成長のチャネルを形成して、他は同様のプロセスのものと比較してみると、C欠陥量はC欠陥量がおよそ1016/cm3 程度、移動度が90cm2/Vs程度となっている。酸化膜形成などのプロセスを通ったことにより、C欠陥が多量にできていることが分かる。移動度は、コストを掛けた割には小さく、エピタキシャル成長のプロセスだけでは解決できない。ここで、やはりC欠陥を補償するためにCイオンインプラを導入すると、上記に良く一致して、C欠陥量がおよそ1013/cm3 となっており、移動度が350cm2/Vs程度となる。
次に、N拡散工程(S9)として、図10(g)に示すように、チャネル領域124の表面部にNを拡散によりドープすることにより、BNペア構造絶縁膜125を形成する。ここで、絶縁薄膜126を介してNをドープすることにより、表面に窒化膜を形成することなくNを内部に導入することができ、Si格子点にBとNのペア構造絶縁膜125を形成することができる。Nの導入の仕方としては、プラズマ窒化、NO窒化、N2O窒化、NO2窒化、NH3窒化、或いは、それらの組み合わせを用いればよい。特に、基板に窒素を届けることが目的なので、800℃〜1050℃の中温、かつ、450Torr〜700Torrの高圧での、NO窒化が最も有効である。
次に、ゲート絶縁膜形成工程(S10)として、図10(h)に示すように、絶縁薄膜126上に更に酸化膜を形成してゲート絶縁膜130を形成した後、ゲート絶縁膜130上にフォトリソグラフィ法を用いてパターンを有するレジスト膜(図示せず)を形成する。当該レジスト膜をマスクとして用いて、SiC領域123の表面及びSiC領域122の表面の一部に位置する酸化膜126,130の部分をエッチングにより除去する。これにより、両側のSiC領域122間を跨ぐゲート絶縁膜130が形成できる。
続いて、ソース電極形成工程(S11)として、かかるレジスト膜とゲート絶縁膜130が除去されて形成された開口部によって露出されたSiC領域123の表面及びSiC領域122表面の一部に、金属などの導電体膜を形成する。かかる導電体膜が、ソース電極150となる。その後、レジスト膜を除去することにより、当該レジスト膜上に位置していた導電体膜を除去(リフトオフ)する。また、ゲート絶縁膜130の幅をエッチバック等で狭くすれば、ゲート絶縁膜130とソース電極150とが接触しないように隙間を形成できる。ここで、ソース電極150となる導電体としては、例えば、ニッケル(Ni)が好適である。
[低温でのソース電極作製]
アニール工程(S12)として、ソース電極150を作製した後に、800℃熱処理を行う。例えば、アルゴン(Ar)ガス中で加熱時間5分とする。かかる熱処理により、Ni2Si電極150が形成される。SiC領域122には、大量のNが導入されているので、低い接触抵抗の電極構造が得られる。同時に、p型のコンタクトについては、SiC領域123には大量のAlが導入されているので、簡単に低接触抵抗のコンタクトが取れる。
更に、一部のAlの入ったSi格子点上にNが導入されることになる。このとき、ギャップ中状態ができて、実質的なバンドキャップ狭小化が起こる。そのため、価電子帯が上昇して、p型SiCと金属とのコンタクトが取りやすくなる。ソース電極/p+ 領域界面の接触抵抗が従来よりも桁違いに小さくできる。接触抵抗として、従来は、2×10-3Ωcm2 程度であるが、1×10-4Ωcm2 以下が実現できる。N量を増やせば、更に1×10-6Ωcm2 も可能である。
図10(h)において、ゲート電極形成工程(S13)として、ゲート絶縁膜としての酸化膜130上にゲート電極となる電極140を形成する。例えば、n型ポリシリコンなどで良い。また、ソース電極もn型ポリシリコンとして、ソース電極、ゲート電極とも、更にNi膜を形成して熱処理を行うことで、NiSi、Ni2Siなどのサリサイド膜を電極としてもよい。
[裏面電極]
次に、ドレイン電極形成工程(S14)として、SiC基板100の裏面上にドレイン電極となる電極160を形成することにより、前記図7に示す構造が得られる。ここで、裏面電極に関して、例えばNi/Ti積層電極などを使う。800℃程度の熱工程が必要になる。例えば、アルゴン(Ar)ガス中で加熱時間5分とする。かかる熱処理により、界面にNi2Siが形成され、オーミック接続ができる。
なお、SiC基板100として、例えば(000-1)面など、他の面を主表面とする4H−SiC基板を用いてもよい。或いは、トレンチ型MOSFETの(11-20)面、つまりA面でも同様である。つまり、SiO2 /SiC界面にCを導入して、低温でアニールすることで、界面近傍C欠陥を無くせば、従来よりも高移動度の界面を得ることができる。本実施形態のC打ち込みによりMOS界面のC欠陥を埋める方法は、その基板方位に関係なく有効であるからである。
このように本実施形態によれば、p型4H−SiC領域121上に絶縁薄膜126を形成した後に、4H−SiC領域121と絶縁薄膜126との界面近傍にCを導入し、絶縁薄膜126の形成後に導入したCを拡散させることにより、界面におけるC欠陥を大幅に低減させることができる。従って、4H−SiC/SiO2 絶縁膜界面の移動度を大きくすることができる。即ち、高移動度の4H−SiC/SiO2 絶縁膜界面を実現することができ、DiMOSFETの素子特性の向上をはかることができる。
さらに、絶縁薄膜126を介してNを拡散させることにより、界面にBNペア絶縁膜125を形成することができる。これにより、チャネル領域のトラップを低減でき、界面ラフネスの無力化ができ、埋め込みチャネルの最適化が可能となる。さらに、Cの導入によりVcを消した上でNを導入することにより、Vthが小さくなるのを防止することもできる。
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態に係わるSiC半導体装置の素子構造を示す断面図であり、特にIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)に適用した例である。なお、図7と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
本実施形態が先に説明した第1の実施形態と異なる点は、n+ 型SiC基板100の代わりに、p+ 型4H−SiC基板200を用いたこと、及びn- 型SiC層102の代わりに、n+ 型4H−SiC層201とn- 型4H−SiC層202の積層構造を用いたことである。言い換えれば、高濃度p+ 型SiC基板200の表面上に、高濃度n+ 型SiC層201が形成され、その上に低濃度n- 型SiC層202が形成されている。SiC層201,202は、耐圧保持層となる。
そして、SiC層202に第1の実施形態と同様のSiC領域121,122,123及び欠陥低減層124が形成され、更に電極140,250,260が形成されている。
[IGBTの裏面コンタクト]
SiC基板200の裏面には、導電性材料の電極260が形成されている。この電極260はコレクタ電極(第2の通電電極)となる。本実施形態では、Ti/Al積層膜を用いた。例えば、800℃、Ar中2分のアニール工程によりオーミック接続が得られる。
また、SiC領域123上の電極250は、本実施形態ではエミッタ電極(第1の通電電極)となる。電極250がSiC領域122及びSiC領域123とオーミック接続される点は上述した通りである。
製造方法は、SiC基板200上にSiC層201,202を形成する以外は第1の実施形態と実質的に同じであり、チャネル領域124にCをドープして欠陥を低減させる工程も同じである。さらに、チャネル領域124にNを拡散させてBNペア構造絶縁膜125を形成する工程も同じである。
このような構造であっても、p型4H−SiC領域121上に絶縁薄膜126を形成した後に、4H−SiC領域121とゲート絶縁膜130との界面近傍にCを導入し、導入したCを拡散させることにより、界面におけるC欠陥を大幅に低減させることができる。本実施形態においても、C欠陥の少ないチャネル(1013/cm2 未満)ができており、印加電圧の全領域に亘って、移動度が十分に大きく、ピークでは350cm2/Vs程度であり、この点は第1の実施形態と同様である。
また、チャネル領域124の表面部にNを拡散させることにより、チャネル領域124の表面部にBNペア絶縁膜125を形成することができ、第1の実施形態と同様に、埋め込みチャネルの最適化が可能となる。
このように本実施形態では、高移動度の4H−SiC/SiO2 絶縁膜界面を実現することができ、高性能のIGBTを得ることができた。バイポーラ動作になるため、伝導度変調が起こり、オン抵抗が小さくなる。その結果、第1の実施形態のDiMOSFETに比べて、通電能力を大幅に高めることができる。
(変形例)
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。
実施形態では、DiMOSFET又はIGBTに適用した例を説明したが、SiC基板の表面部にp型の4H−SiC領域を有し、4H−SiC領域上にゲート絶縁膜を介してゲート電極を有する構造であれば適用可能である。
例えば、図12及び図13に示すような、トレンチ縦型MOSFETに適用することも可能である。このデバイスは、4H−SiC層102上に、p- 型の第1のSiC領域121とn+ 型の第2のSiC領域122を順次エピタキシャル成長した後、p+ 型の第3のSiC領域123をインプラにより形成する。続いて、第2のSiC領域122の部分を掘り込み、第1のSiC領域121の側面が露出するように溝を形成する。そして、溝の側面に、チャネル領域124としての欠陥低減層を形成し、更にN拡散によるBNペア構造絶縁膜125を形成する。さらに、ゲート絶縁膜130を形成した後に、溝内にゲート電極140を埋め込むことにより作製される。
また、実施形態では、チャネル領域124の表面に拡散するn型不純物としてNを用いたが、これに限らず、PやAsを用いることも可能である。PやAsを用いる場合、薄膜キャップ層として絶縁薄膜の代わりに、P又はAsがドープされたポリSi薄膜を形成しておく。そして、このポリSi薄膜を酸化させることにより、ポリSi薄膜からチャネル領域124にPやAsを拡散するようにしても良い。
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。