JP6046379B2 - ボールペンチップ、ボールペン及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ボールペンチップ、ボールペン及びその製造方法に関し、特にボール及びボールホルダの少なくとも一方が炭素質膜により被覆されたボールペンチップ、ボールペン及びその製造方法に関する。
筆記具として使用されているボールペンの先端には、球状のボールペン用ボール(以下、単にボールともいう。)が設けられている。ボールは、ボールホルダに回転自在に保持されており、紙等の記録体の表面においてボールが回転することによりボール面に移動したインクが、記録体の表面に転写又は浸透することにより筆記が行われる。ボールが回転する際に、ボールとボールホルダとがこすれ合うと、ボール及びボールホルダが磨耗するおそれがある。ボール及びボールホルダが磨耗すると、筆記性が大きく低下する。このため、ボール及びボールホルダの磨耗を低減することが重要である。このため、ボール及びボールホルダの磨耗を低減することを目的として、ボール及びボールホルダの表面をダイヤモンド様炭素(DLC)膜等の硬い皮膜により被覆することが検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
特開2004−338134号公報
しかしながら、ボール及びボールホルダの表面に、単に硬い皮膜を形成しただけでは筆記性は向上しない。滑らかな筆記を行うためには、ボールとボールホルダとの界面に適量のインクが存在し、ボールとボールホルダとが直接に接触していない状態とすることが重要である。ボールの表面とインクとの親和性が低い場合には、ボールの表面においてインクがはじかれてしまい、ボールとボールホルダとの界面にインクを適切に保持することができず、滑らかな筆記ができない。従って、筆記性を向上させるためにはボール及びボールホルダとインクとが適切な親和性を有していることが重要である。
本願発明者らは、炭素質膜の表面状態により炭素質膜とインクとの親和性が変化することを見出した。
本開示は、得られた知見に基づき、耐久性だけでなく筆記性に優れたボールペンチップ及びボールペンを実現できるようにする。
本開示に係るボールペンチップは、ボールと、ボールを回転自在に保持するボールホルダと、ボールの表面及びボールホルダにおける少なくともボールと接触する部分の少なくとも一方を覆う炭素質膜とを備え、炭素質膜は、その表面において、炭素−水素結合の炭素−炭素結合に対する比が0.59未満である。
本開示のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、その表面において、sp3炭素−水素結合のsp3炭素−炭素結合に対する比が0.57未満であってもよく、sp2炭素−水素結合のsp2炭素−炭素結合に対する比が0.58未満であってもよい。
本開示のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、水素の含有量が2原子%以下であってもよい。
本開示のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、その表面における算術平均表面粗度Raが0.1μm以下であってもよい。
本開示のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、中間層を介してボールの表面の上に形成されていてもよい。
本開示のボールペンチップにおいて、炭素質膜は、中間層を介してボールホルダにおける少なくともボールと接触する部分の上に形成されていてもよい。
本開示に係るボールペンは、本開示のボールペンチップと、インキが充填されたインキ収容管とを備えている。
本開示における第1のボールペンチップの製造方法は、ボール及び該ボールを回転自在に保持するボールホルダを準備する工程と、ボールの表面及びボールホルダにおける少なくともボールと接触する部分の少なくとも一方を覆う、炭素質膜を形成する工程とを備え、炭素質膜を形成する工程は、グラファイトをターゲットとし、スパッタリング電源をパルス電源とするスパッタリング法により行い、パルス電源の平均出力の絶対値を2.7Wcm-2以上とし、パルス電源のパルス周波数を250kHz以上、1MHz以下とし、パルス電源のデューティー比を15%よりも大きく、90%以下とし、表面における炭素−水素結合の炭素−炭素結合に対する比が0.59未満の炭素質膜を形成する。
本開示における第2のボールペンチップの製造方法は、ボール及び該ボールを回転自在に保持するボールホルダを準備する工程と、ボールの表面及びボールホルダにおける少なくともボールと接触する部分の少なくとも一方を覆う、炭素質膜を形成する工程とを備え、炭素質膜を形成する工程は、グラファイトをターゲットとし、スパッタリング電源を直流パルス電源とするスパッタリング法により行い、パルス電源の最大電流密度の絶対値を55.8mAcm-2よりも大きくし、パルス電源のパルス周波数を250kHz以上、1MHz以下とし、表面における炭素−水素結合の炭素−炭素結合に対する比が0.59未満の炭素質膜を形成する。
第1及び第2のボールペンチップの製造方法は、炭素質膜を形成する工程において、ワーク側における平均電力密度の絶対値を19.7mWcm-2よりも大きくしてもよい。
本願に係るボールペンチップ、ボールペン及びその製造方法によれば、耐久性だけでなく筆記性に優れたボールペンチップ及びボールペンを実現できる。
一実施形態に係るボールペンを示す断面図である。 一実施形態に係るボールペンチップの要部を示す断面図である。 一実施形態に係るボールペンチップのボールを示す部分断面図である。 図2のIV−IV線における横断面を示す断面図である。 マグネトロンスパッタ装置の一例を示す概略図である。 一実施形態に係るボールペンチップのボールの変形例を示す部分断面図である。 一実施形態に係るボールペンチップの変形例の要部を示す断面図である。
まず、本願発明者らが見出した炭素質膜の特性について説明する。炭素質膜は、ダイヤモンド様カーボン(DLC)膜に代表されるsp2炭素−炭素結合(グラファイト結合)及びsp3炭素−炭素結合(ダイヤモンド結合)を含む膜である。DLC膜のようなアモルファス状態の膜であっても、ダイヤモンド膜のような結晶状態の膜であってもよい。以下においては、炭素質膜がDLC膜であるとして説明を行う。
DLC膜は、化学気相堆積(CVD)法、レーザーアブレーション法及びスパッタ法等の種々の方法により形成することができる。一般にCVD法においては、炭化水素が原料として用いられる。炭化水素を原料としてDLC膜を成膜すると、原料中の水素が膜中に取り込まれるため、DLC膜はsp2炭素−水素結合及びsp3炭素−水素結合を多く含む。一方、スパッタ法等においては、グラファイト等の原料を用いてDLC膜を成膜することができる。原料を水素を含まないグラファイトとすれば、理論的には炭素−水素結合を含まないDLC膜が形成できるはずである。しかし、雰囲気中の水分等の影響を受けるため、グラファイト等の水素を含まない原料を用いて形成したDLC膜においても、膜中に数%〜5%程度水素が含まれている。
DLC膜に含まれる水素の分析は容易ではなく、一般には膜全体としての濃度が求められているにすぎない。しかし、本願発明者らはX線光電子分光法とカーブフィッティングを用いることにより、DLC膜の表面における水素の結合状態を明らかにした。これにより、DLC膜全体としての水素濃度を低減したとしても、DLC膜の表面における水素の結合状態を適切な状態としなければ、DLC膜とインクとの親和性を向上させることができないことを見出した。ボール等の表面を覆うDLC膜は、その表面における炭素−水素結合(C−H)の炭素−炭素結合(C−C)に対する比[C−H]/[C−C]をできるだけ小さくすればよい。具体的には、[C−H]/[C−C]を0.59未満とすることが好ましく、[C−H]/[C−C]を0.50以下とすることがより好ましく、[C−H]/[C−C]を0.41以下とすることがさらに好ましい。
さらに、sp2炭素−水素結合(sp2C−H)のsp2炭素−炭素結合(sp2C−C)に対する比sp2「C−H」/sp2[C−C]は0.58未満であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましく、0.51以下であることがさらに好ましい。sp3炭素−水素結合(sp3C−H)のsp3炭素−炭素結合(sp3C−C)に対する比sp3「C−H」/sp3[C−C]は0.57未満であることが好ましく、0.50以下であることがより好ましく、0.29以下であることがさらに好ましい。
なお、[C−H]、[sp2C−H]、[sp3C−H]、[C−C]、[sp2C−C]及び[sp3C−C]は、実施例において詳細に述べるXPS法とカーブフィッティングとを用いた方法により測定することができる。
表面におけるC−H結合を低減するためには、DLC膜全体としての水素濃度も低減することが好ましい。従って、DLC膜全体としての水素濃度は2原子%(at%)以下とすることが好ましく、1.2原子%以下とすることがさらに好ましい。なお、DLC膜全体としての水素濃度は、実施例において詳細に述べる高分解弾性反跳粒子検出法(High Resolution-Elastic Recoil Detection Analysis、HR−ERDA)により測定することができる。なお、原子%とは物質全体の原子数を100とした場合におけるある元素の原子数を表す。
以下に、DLC膜を設けたボールペンの具体例を述べる。図1に示すように、一実施形態に係るボールペンは、インク15を収容するインク収容管10とインク収容管10の先端部に取り付けられたボールペンチップ20とを有している。インク収容管10とボールペンチップ20とは直接接続されていても、接続部材(図示せず)を介して接続されていてもよい。また、インク収容管10及びボールペンチップ20からなるボールペンレフィルを収容するケース(図示せず)を備えていることが一般的であるが、インク収容管10がケースを兼ねている構成とすることも可能である。
図2に示すように、ボールペンチップ20は、ボール101と、ボール101を保持するボールホルダ111とを有している。
図3に示すように、ボール101は、ボール本体102とボール本体102の上に形成されたDLC膜103とを有している。ボール本体102の材質は、特に限定されないが、例えば各種金属の単体若しくは合金又はセラミックス等とすればよい。具体的に鋼、銅、アルミニウム又はニッケル等の金属単体を用いてもよく、洋白又はステンレス等の合金を用いてもよい。また、金属等の炭化物、酸化物、窒化物、硼化物又は硅化物等を用いることができる。炭化物としてはチタン、バナジウム、クロム、タンタル、ニオブ、モリブデン、ホウ素、ジルコン、タングステン若しくは珪素等の炭化物を用いることができる。酸化物としてはアルミニウム、クロム、マグネシウム、シリコン、ベリリウム、トリウム、チタン、カルシウム若しくはジルコン等の酸化物を用いることができる。窒化物としてはチタン、ホウ素、シリコン若しくはアルミニウム等の窒化物を用いることができる。硼化物としてはジルコン、クロム若しくはチタン等の硼化物を用いることができる。硅化物としてはモリブデン、チタン若しくはクロム等の硅化物を用いることができる。また、サーメット等の金属とセラミックスとの複合材料としてもよい。ボール本体102の直径は、特に限定されないが、一般的には0.25mm〜2.0mm程度である。
ボールホルダ111は、ステンレス鋼、銅合金、アルミニウム、及びニッケル等のボールペンチップのボールホルダとして従来から知れている材料を適宜選択することができる。本実施形態においては、フェライト系ステンレス鋼であるとして説明する。ボールホルダ111は、ボール101を保持するボール保持室113と、インクが供給されるインク通路114とを有している。ボール保持室113は、ボールホルダ111の先端部に形成された凹部であり、ボール保持室113の先端縁部118と底面116とによりボール101を回転自在に保持する。先端縁部118は、所定のかしめ角度で内側(ボール101の中心方向)にかしめられており、ボール101の一部が先端縁部118よりも突出するようにして、ボール101を回転自在に保持すると共に、ボール101のボール保持室113からの抜け落ちを防止する。
図4は図2のIV−IV線の位置における横断面を示している。図4においてボール101の図示は省略している。インク通路114は、ボール保持室113の底面116の中心に設けられており、筆記時に、インク収容管に収容されたインクが、ボール保持室113内に流通する際の主経路となっている。インク通路114の周囲には、所定の幅及び間隔で放射状に設けられた複数の溝部115が形成されている。筆記時には、インク通路114を通過したインクが、溝部115を介して、ボール保持室113内に供給される。底面116におけるインク通路114の周囲にはボール座117が設けられている。ボール座117は、筆記時にボール101と当接したボール保持室113の底面116の磨耗を抑えるために設けられており、ボール101と同形の球面状に形成されている。
DLC膜103とインクとの親和性を高くするためには、DLC膜103に含まれる水素原子が少ない方がよい。具体的には、DLC膜103に含まれる水素原子は、2原子%(at%)以下とすることが好ましく、1.5at%以下とすることがより好ましい。
また、DLC膜103に含まれる水素原子の量が少ないだけではなく、DLC膜103の表面において炭素−水素結合(C−H)が少ないことが好ましい。具体的には、DLC膜103の表面における炭素−水素結合の炭素−炭素結合に対する割合[C−H]/[C−C]が0.59未満であることが好ましい。DLC膜103の表面において[C−H]/[C−C]を0.59未満とすることにより、インクとの親和性が高くなり、筆記の際の摩擦係数を小さくすることができる。従って、滑らかな筆記が可能となる。また、磨耗がほとんど生じないため、長期間の筆記を行った後においても摩擦係数はほとんど変化せず、良好な筆記性を維持することができる。[C−H]/[C−C]は0.50以下であることがより好ましく、0.41以下であることがさらに好ましい。また、sp2「C−H」/sp2[C−C]は0.58未満であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましく、0.51以下であることがさらに好ましい。sp3「C−H」/sp3[C−C]は0.57未満であることが好ましく、0.50以下であることがより好ましく、0.29以下であることがさらに好ましい。
DLC膜103は、固体グラファイト等をターゲットとして用いるスパッタリング法等により形成することが好ましい。特に、スパッタ電源に直流パルス電源を用いることが好ましい。
スパッタリング法はスパッタガスをイオン化し、原料となる固体ターゲットに衝突させてターゲット粒子をはじき出させ、はじき出されたターゲット粒子がワーク(基板)側に到達することにより、基板表面にターゲット粒子が堆積して皮膜を形成する。スパッタリング法で得られる膜構造は一般的に“Thornton”のゾーンモデル(J. A. Thornton: Ann. Rev. Mater. Sci., 7 (1977) 239.)により示されるが、基板温度及び圧力によって、膜の構造に変化が生じることが知られている。この理由は、堆積過程にある原子が基板からの熱エネルギーを受け取り、移動しやすくなるためである。基板からの熱の移動の他に、基板へ入射する粒子自身のエネルギーを変化させることによっても、被膜構造は変化すると期待される。しかし、原料となるターゲット粒子はスパッタガス粒子の衝突によってターゲットからはじき出されて得られる2次的なものである。従って、ターゲット原料を直接昇華させる電子ビームやアークイオンを用いた手法と比較して、ターゲット粒子のイオン化率は低く、ターゲット粒子イオンのエネルギーを直接制御して任意の膜構造を得るのは容易ではない。
一方、スパッタリング法ではターゲット粒子の他に、スパッタガス粒子もイオン化される。スパッタガス粒子は、ターゲットへ向かう他、一部は直接基板に向かう。また、ターゲットへ向かったスパッタガス粒子の一部はターゲット表面において反眺し、基板へと向かう。このように、スパッタリング法によるDLC膜の形成においては、ターゲット粒子のエネルギーの他に、堆積過程にある膜の表面に衝突するスパッタガス粒子のエネルギーによっても、皮膜構造が変化すると期待される。
次に、スパッタ電源について考えると、スパッタ電源にパルス電源を用いると、パルスの過渡的な電力特性がスパッタガス粒子及びターゲット粒子のエネルギーに影響を及ぼすことが期待される。パルス電源により放電を発生させる場合には、電力を投入した瞬間にターゲットに流れる電流が大きく上昇する。つまり、パルス電力の立ち上がりにおいて、過渡的に電流が流れる。パルス電力の立ち上がりにおける過渡的電力は、パルス周波数を高くすることにより高くなることを明らかとなった。パルス電力の立ち上がりにおける過渡的電力が高くなることにより、スパッタガス粒子のエネルギーは高くなると期待される。スパッタガス粒子のエネルギーが高くなると、スパッタガス粒子がワークと衝突する際のエネルギーを大きくできる。このため、軽い水素原子がワークの表面からはじき飛ばされ、DLC膜の表面における炭素−水素結合を減少させることができると考えられる。
このため、パルス周波数はできるだけ高くすることが好ましく、250kHz以上とすることがより好ましく、300kHz以上とすることがさらに好ましい。但し、パルス周波数を高くしすぎるとターゲット電流が逆に低下するため、パルス周波数を1MHzより高くしても効果は低下する。このため、1MHz以下とすることが好ましい。
また、パルスのデューティー比も、パルス電力の立ち上がりにおける過渡的電力に影響を与える。デューティー比が小さくなると、パルス電力の立ち上がりにおける過渡的電力は小さくなり、デューティー比が大きくなると、パルス電力の立ち上がりにおける過渡的電力は大きくなる。このため、デューティー比は15%よりも大きいことが好ましく、20%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。但し、デューティー比が大きくなりすぎると、アーキングを抑制するパルス電力のメリットが損なわれるため、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
また、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は2.7Wcm-2以上であることが好ましく、3.6Wcm-2以上とすることがより好ましい。また、ターゲット(カソード)側の最大電流密度は55.8mAcm-2よりも大きくすることが好ましく、60.0mAcm-2以上とすることがより好ましく、67.3mAcm-2以上とすることがさらに好ましい。ワーク側の平均電力密度の絶対値は19.7mWcm-2よりも大きくすることが好ましく、25.0mWcm-2以上とすることがより好ましく、28.0mWcm-2以上とすることがさらに好ましい。
スパッタリングガスにはアルゴンを用いることが一般的であるが、クリプトン及びキセノン等の他の希ガス又は窒素等を用いてもよい。
スパッタリングに用いる装置は特に限定されないが、例えば図5に示すようなマグネトロンスパッタ装置を用いることができる。図5に示すように、チャンバ221の下部に磁石を内蔵したターゲット台211が設けられ、ターゲット台211の上にターゲット207が配置されている。チャンバ221の上方には、電気的に浮いた(フローティング)状態であり、バイアス電圧を印加できるワークホルダ210が設けられ、ワークホルダ210にはワーク208が保持されている。ターゲット台211の内部にはターゲット207の中心部と対応する位置に中心磁石201が配置され、ターゲット207の周囲と対応する位置には外周磁石202が等間隔で配設されている。中心磁石201はS極をターゲット207側にして配置されており、外周磁石202はN極をターゲット207側にして配置されている。
チャンバ221の外壁の外側には、4つの外周磁石のそれぞれに対応して4つの第1外部磁石203及び4つの第2外部磁石204が重なるように配設されている。第1外部磁石203及び第2外部磁石204は、それぞれN極を中心磁石201側にして配置されている。第1外部磁石203及び第2外部磁石204はそれぞれ補助磁石として機能する。
チャンバ221の内部には、補助電極として機能するコイル205が設けられている。コイル205は、スパイラル状に巻かれ、一端がマッチング回路212を介して高周波電源213と接続されている。図1においては、コイル205の他端はフリーでどこにも接続されてないが、アース又は高周波電源と接続されていてもよい。
ターゲット台211には、ローパスフィルター214を介してスパッタ電源215が接続されている。ワークホルダ210には、ローパスフィルター216を介してバイアス電源218が接続されている。
第2外部磁石204を設けることにより、ワーク208の方向に向かう強力な磁場を形成することができる。これにより、磁場に沿ってイオンを効率的にワーク208の表面に入射させることが可能となる。さらにコイル205を設けることにより、ワーク表面に入射するプラズマ密度を高めることができ、緻密で均一なDLC膜を高速で形成することができる。イオンの中にはターゲットの炭素粒子の他にスパッタガスのArイオンも含まれることから、炭素を堆積させつつ、軽い水素をはじき飛ばす効果が向上する。このため、DLC膜の表面における炭素−水素結合を低減する効果をより高くすることができる。但し、このような第2外部磁石及びコイルを有していない通常の多重磁極マグネトロンスパッタ装置又は、外部磁石が設けられていない通常の平板マグネトロンスパッタ装置等を用いてDLC膜を形成してもよい。
DLC膜103は、スパッタリング法に代えて、アークイオンプレーティング法、レーザーアブレーション法又は電子ビーム蒸着等を用いて形成してもよい。
DLC膜103の膜厚は、ある程度厚い方がよく、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましい。但し、膜厚が厚くなると形成が困難となるため、3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。なお、ボール本体102の表面にできるだけ均一にDLC膜103を形成するために、ボール本体102を回転させながらDLC膜103を形成することが好ましい。
また、DLC膜103は被覆対象であるボール本体102の表面に直接形成することができるが、被覆対象とDLC膜103とをより強固に密着させるために、図6に示すようにボール本体102とDLC膜103との間に中間層105を設けてもよい。
中間層105の材質としては、被覆対象の種類に応じて種々のものを用いることができるが、珪素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タングステン(W)、又はアルミニウム(Al)からなるアモルファス膜等を用いることができる。また、これらの元素と炭素(C)及び窒素(N)の少なくとも一方を混合したアモルファス膜等を用いることもできる。その厚さは特に限定されないが、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましい。また、1μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。中間層は、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、又は真空蒸着法等を用いて形成すればよい。また、湿式クロムメッキを用いてもよい。ボール本体102の表面に中間層105を形成する場合には、中間層105の成膜中にボール本体102を回転させ、ボール本体102の表面全体に中間層105を形成することが好ましい。
DLC膜は、炭素と水素以外の元素を含んでいてもよい。例えば、シリコン(Si)又はフッ素(F)等が添加されていてもよい。また、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)等が含まれていてもよい。チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)等を加えることにより、DLC膜の表面にインク成分が皮膜を形成して低摩擦係数が得られるという効果が得られる。一方、DLC膜103及び121の表面における水素の結合状態をより容易に制御するために、炭素と水素以外の元素を含まない構成としてもよい。なお、ここでいう他の元素を含まない構成とは、痕跡量程度の不純物を含有する場合を含む。
DLC膜103の表面はできるだけ平滑である方が、摩擦が小さくなり好ましい。また、相手材を磨耗させる相手攻撃性も表面粗さが小さい方が低減できる。具体的には、DLC膜103の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm(100nm)以下が好ましく、0.05μm(50nm)以下がより好ましく、0.01μm(10nm)以下がさらに好ましく、0.003nm(3nm)以下が特に好ましい。
図2においてはボールホルダ111側にはDLC膜を形成していないが、ボールホルダ111のボール101と接する部分にDLC膜121を形成してもよい。具体例を挙げると、図7に示すように、ボールホルダ111の先端縁部118及び底面116等の表面を覆うようにDLC膜121を形成することができる。なお、ボールホルダ111の外側等にもDLC膜を形成してもよい。さらに、ボールペンチップ20のボールホルダ111以外の部分にもDLC膜を形成してもよい。また、DLC膜121は、ボールホルダ111のボール101と接触する可能性がある部分にピンポイントで形成してもよい。例えば、ボール保持室113の先端部118及び底面(特にボール座117)にピンポイントで形成してもよい。DLC膜121についても、被覆対象との間に中間層を設けてかまわない。
ボールホルダ111側に形成するDLC膜121は、ボール本体102の表面に形成するDLC膜103と同様にして形成すればよい。ボールホルダ111の一部を覆うDLC膜121も、ボール本体102の表面を覆うDLC膜103と同様に、その表面における炭素−水素結合(C−H)の炭素−炭素結合(C−C)に対する割合[C−H]/[C−C]が小さいDLC膜であることが好ましい。但し、DLC膜121とDLC膜102とが完全に同一の組成である必要はない。また、DLC膜103を[C−H]/[C−C]が小さいDLC膜とすれば、DLC膜121はCVD法等により形成した水素原子を10%以上含むようなDLC膜であっても問題ない。
一方、ボールホルダ111の少なくとも一部に、[C−H]/[C−C]が小さいDLC膜を設けた場合には、DLC膜に覆われていない通常のボール又は水素を多く含むDLC膜により被覆されたボールと組み合わせることもできる。
ボールペンチップと組み合わせるインクはどのようなものであってもよい。水性インク、水性ゲルインク及び油性インクのいずれであってもよい。また、染料系のインクであっても顔料系のインクであっても、染料と顔料の併用系のインクであってもよい。インクには、界面活性剤等の潤滑剤が含まれていてもよい。潤滑剤を含有している場合には摩擦抵抗を軽減するという効果が期待できる。潤滑剤の具体例としては、脂肪酸、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等である。
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改良及び設計の変更を行ってよい。
(DLC膜組成の評価方法)
−水素濃度−
DLC膜に含まれる水素の濃度は、高分解弾性反跳粒子検出法(High Resolution-Elastic Recoil Detection Analysis、HR−ERDA)により測定した。測定には神戸製鋼所製の高分解能RBS分析装置HRBS500を用いた。試料面の法線に対して70度の角度でN2 +イオンを試料に照射し、偏光磁場型エネルギー分析器により反跳された水素イオンを検出した。入射イオンは1原子核あたりのエネルギーを240KeVとした。水素イオンの散乱角は30度とした。イオンの照射量はビーム経路にて振り子を振動させ、振り子に照射された電流量を測定することにより求めた。試料電流は約2nAであり、照射量は約0.3μCであった。
得られたデータに対して水素ピークにおける高エネルギー側のエッジの中点を基準として横軸のチャネルを反跳イオンのエネルギーに変換する処理及びシステムのバックグラウンドを差し引く処理を行った。処理後のデータについてシミュレーションフィッテングを行い、表面から12nmまでの範囲について水素のデプスプロファイルを求めた。さらに、DLC膜に含まれる全原子に対する水素原子の割合(at%)に換算した。この際に試料の構成元素は炭素と水素のみであると仮定した。デプスプロファイルの横軸をnm単位に換算する際には、DLC膜の密度はグラファイトの密度(2.25g/cm3)であるとした。定量値は、スパッタリング法により形成した既知濃度のDLC膜を測定することにより校正した。また、最表面に炭化水素からなる汚染層の存在を仮定した。汚染層の密度はパラフィンの密度(0.89g/cm3)とした。
(DLC膜組成の解析方法)
DLC膜組成はX線光電子分光(XPS)測定により評価した。XPS測定には日本電子社製JPS−9010を用いた。XPS測定の条件は、試料に対する検出角度を90度とし、X線源にはAlを用い、X線照射エネルギーを100Wとした。1回の測定時間は0.2msとし、1つの試料について32回測定を行った。炭素中を進む光電子の非弾性平均自由工程を考慮すると、表面から9nmまでの範囲について測定されると考えられる。さらに、光電子は表面から深くなるにつれて脱出しにくくなり、光電子の検出は表面から深くなるほど減衰する。従って、今回測定された情報の50%は表面からおよそ1.5nmまでの最表層の情報で占められていると考えられる。
XPS測定により得られた炭素1s(C1s)ピークを、炭素同士がsp3結合したsp3C−C及び炭素同士がsp2結合したsp2C−C、炭素と水素とがsp3結合したsp3C−H及び炭素と水素とがsp2結合したsp2C−Hの4つの成分にカーブフィッティングにより分解した。sp3C−Cの結合エネルギーは283.8eV、sp2C−Cの結合エネルギーは284.3eV、sp3C−Hの結合エネルギーは284.8eV、sp2C−Hの結合エネルギーは285.3eVとした。カーブフィッティングにより得られた各ピークの面積をsp3C−Cのピークの面積とsp2C−Cのピークの面積とsp3C−Hのピークの面積とsp2C−Hのピークの面積との総和により割った値を、各成分の組成比とした。sp3C−Cの組成比とsp2C−Cの組成比との和をC−Cの組成比とし、sp3C−Hの組成比とsp2C−Hの組成比との和をC−Hの組成比とした。
(DLC膜の表面粗さ)
DLC膜の表面粗さは算術平均表面粗度Raにより評価した。算術平均表面粗度Raは、JIS B−0601に準拠して求めた。表面粗さの測定には走査型プローブ顕微鏡(セイコーエプソン社製:SPI3800N)を使用した。
<DLC膜1の形成>
鋼製のボール(ITI社製:KDN−15、直径0.5mm)を図5に示すマグネトロンスパッタ装置のワークホルダ210にセットした。ターゲット207にはグラファイトを用い、スパッタガスにはアルゴンを用いた。スパッタ電源215は直流パルス電源とし、パルス周波数を100kHzとし、デューティー比を40%とした。ターゲット側の平均電力密度の絶対値は2.0W/cm2となり、最大電流密度の絶対値は20.6mA/cm2であった。ワーク側に到達した粒子のエネルギーの指標となるワーク側の平均電力密度の絶対値は17.2mW/cm2となった。電力密度は、電流測定手段により得られた電流値と、ワークホルダ210に印加したバイアス電圧及びワークホルダ210の表面積により求めた。また、パルス波形を解析し、1パルス区間の最大電流を求め、ターゲット面積で除した値を最大電流密度とした。パルス波形は、ターゲット電力出力ケーブルに電流プローブを設置し、放電中のパルス出力波形をオシロスコープ(LECROY社製:WS64Xs)により測定した。成膜は60分間行い、その間の電力密度の平均値を平均電力密度とした。ボールについては成膜の際にチャンバ内においてボール本体を回転させることにより、ボール本体の表面全面にDLC膜が形成されるようにした。
得られたDLC膜の水素濃度は、1.2原子%であった。sp3[C−C]は0.23、sp2[C−C]は0.40、sp3[C−H]は0.13、sp2[C−H]は0.24であった。従って[C−C]は0.63であり、[C−H]は0.37であり、[C−H]/[C−C]は0.59となった。sp2[C−H]/sp2「C−C」は、0.60となり、sp3[C−H]/sp3「C−C」は、0.57となった。得られたDLC膜の算術平均表面粗度Raは0.1μm以下の0.0003μmであった。
<DLC膜2の形成>
DLC膜を形成する際のパルス周波数を200kHzとし、デューティー比を40%として「DLC膜1の形成」と同様にして成膜した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は2.6W/cm2となり、また最大電流密度の絶対値は55.8mA/cm2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は19.7mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、0.9原子%であった。[sp3C−C]は0.23、[sp2C−C]は0.40、[sp3C−H]は0.14、[sp2C−H]は0.23であった。従って[C−C]は0.63であり、[C−H]は0.37であり、[C−H]/[C−C]は0.59となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.58となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.61となった。得られたDLC膜の算術平均表面粗度Raは0.0003μmであった。
<DLC膜3の形成>
DLC膜を形成する際のパルス周波数を300kHzとし、デューティー比を40%として「DLC膜1の形成」と同様にして成膜した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は3.6W/cm2となり、また最大電流密度の絶対値は68.2mA/cm2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は28.0mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、0.9原子%であった。[sp3C−C]は0.34、[sp2C−C]は0.37、[sp3C−H]は0.10、[sp2C−H]は0.19であった。従って[C−C]は0.71であり、[C−H]は0.29であり、[C−H]/[C−C]は0.41となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.51となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.29となった。得られたDLC膜の算術平均表面粗度Raは0.0003μmであった。
<DLC膜4の形成>
DLC膜を形成する際のパルス周波数を350kHzとし、デューティー比を40%として「DLC膜1の形成」と同様にして成膜した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は4.1W/cm2となり、また最大電流密度の絶対値は67.3mA/cm2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は28.7mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、1.1原子%であった。[sp3C−C]は0.38、[sp2C−C]は0.39、[sp3C−H]は0.06、[sp2C−H]は0.17であった。従って[C−C]は0.77であり、[C−H]は0.23であり、[C−H]/[C−C]は0.30となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.44となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.16となった。得られたDLC膜の算術平均表面粗度Raは0.0003μmであった。
<DLC膜5の形成>
DLC膜を形成する際のスパッタ電源を直流パルス電源に代えて直流電源とした以外は「DLC膜1の形成」と同様にした。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は0.5W/cm2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は0mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、1.2原子%であった。sp3[C−C]は0.15、sp2[C−C]は0.40、sp3[C−H]は0.16、sp2[C−H]は0.29であった。従って[C−C]は0.55であり、[C−H]は0.45であり、[C−H]/[C−C]は0.82となった。sp2[C−H]/sp2「C−C」は、0.73となり、sp3[C−H]/sp3「C−C」は、1.07となった。得られたDLC膜の算術平均表面粗度Raは0.0003μmであった。
<DLC膜6の形成>
DLC膜を形成する際のパルス周波数を300kHzとし、デューティー比を15%として、「DLC膜1の形成」と同様にしてDLC膜を成膜した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は3.3W/cm2となり、また最大電流密度の絶対値は48.8mAcm-2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は24.8mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、0.9原子%であった。[sp3C−C]は0.22、[sp2C−C]は0.37、[sp3C−H]は0.16、[sp2C−H]は0.25であった。従って[C−C]は0.59であり、[C−H]は0.41であり、[C−H]/[C−C]は0.69となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.68となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.73となった。得られたDLC膜の算術平均表面粗度Raは0.0003μmであった。
<DLC膜7の形成>
スパッタリング法に代えて、原料ガスにベンゼン(C66)を用いたイオン化蒸着法によりボールの表面にDLC膜を形成した。ガス圧を10-3Torrとし、C66を30ml/minの速度で連続的に導入しながら放電を行うことによりC66をイオン化し、イオン化蒸着を約10分間行い、厚さ0.1μmのDLC膜をボールの表面に形成した。
DLC膜を形成する際のワーク側電圧は1.5kV、ワーク側電流は50mA、フィラメント電圧は14V、フィラメント電流は30A、アノード電圧は50V、アノード電流は0.6A、リフレクタ電圧は50V、リフレクタ電流は6mAとした。
得られたDLC膜の水素濃度は、19.3原子%であった。[sp3C−C]は0.05、[sp2C−C]は0.27、[sp3C−H]は0.29、[sp2C−H]は0.39であった。従って[C−C]は0.32であり、[C−H]は0.68であり、[C−H]/[C−C]は2.13となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、1.44となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、5.80となった。得られたDLC膜の算術平均表面粗度Raは0.0003μmであった。
Figure 0006046379
表1に得られたDLC膜の組成をまとめて示す。表1に示すように、スパッタ電源に直流パルス電源を用いた場合には、直流電源を用いた場合よりもターゲット側の平均電力密度の絶対値が大きく上昇しており、ターゲットからのスパッタ粒子の脱離が効果的に生じていることが明らかである。また、ワーク側の平均電力密度の絶対値も大きく上昇しており、大きなエネルギーを有するスパッタ粒子がワークに到達していることが明らかである。また、パルス周波数が高くなるほど、ターゲットの最大電流密度の絶対値が高くなり、ターゲット側及びワーク側の電力密度の絶対値が上昇しており、より大きなエネルギーを有するスパッタ粒子をワークに到達させることができることを示している。このため、パルス周波数を高くしてもERDAにより求めたDLC膜全体の水素濃度に大きな変化は認められないが、XPSにより求めたDLC膜の表面における炭素と結合した水素の量を示す[C−H]/[C−C]の値は小さくなっている。
また、パルス周波数を高くして[C−H]を低減した場合に、sp2[C−C]は大きく変化していないのに対し、sp3[C−C]は上昇しており、より硬度が高いDLC膜が形成されていると考えられる。
一方、パルス周波数が同じ場合には、デューティー比が高い方がターゲット側の最大電流密度の絶対値が大きくなり、[C−H]/[C−C]の値は小さくなった。
(実施例1)
DLC膜3を形成したボールとボールホルダとを組み合わせて実施例1のボールペンチップを形成した。ボールホルダには、フェライト系ステンレス(下村特殊精工株式会社社製:SF−20T)からなる市販の油性ボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製:アクロボール)と同じものを用いた。ボールペンチップと油性インクを収容したインク収容管とを組み合わせてボールペンを得た。インクは、市販の油性ボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製:アクロボール)に使用しているインクを用いた。このインクは、有機溶剤であるベンジルアルコール、油溶性の染料系着色剤、樹脂、潤滑剤及び粘度調整剤等を含む。剪断速度500sec-1、20℃の環境下における粘度は2500mPa・sである。なお、粘度の測定にはデジタル粘度計(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製:AR−G2、ステンレス製40mm、2度のローター)を用いた。
得られたボールペンについて以下のような走行試験を行った。荷重200gf(1.86N)で、ボールペンを紙面に対して70度傾斜させた状態で保持し、直径32mmの円を描くように回転させ、筆記用紙(JIS:P3201)を4m/分の速さで移動させる試験機を用いて、1000mの筆記を行った。ボールペンが1つの円を描くことにより約10cmの距離を筆記する。ボール及びボールホルダの磨耗により、ボールホルダからのボール先端位置までの距離が小さくなるため、ボール先端位置の変化量(沈み量)を磨耗量とした。ボール先端位置の変化量の検出限界は約2μmであり、検出限界以下の場合において2μm以下の磨耗が生じている可能性があるが、以下においては磨耗量がほぼ0(≒0)として表す。
また、走行試験の前後における摩擦係数を以下のようにして得た。自動筆記抵抗測定機(新東科学株式会社製:トルク式摩擦抵抗測定機 TYPE:20)にて、筆記荷重200gf(約1.96N)で、ボールペンを紙面に対して70度傾斜させた状態で保持し、ステンレス製の下敷き上に配置した筆記用紙(JIS:P3201)を4m/分の速さで一定方向に移動させて筆記した際の筆記抵抗値を測定した。筆記抵抗値の測定においては、測定周波数10kHzにて4秒間測定を行ったデータを平均して、検体に対する平均筆記抵抗値を算出し、平均筆記抵抗値を垂直荷重(筆圧)で除した。さらに、5本の検体について測定を行いその平均値を筆記抵抗値とした。DLC膜を形成していない場合の走行前の筆記抵抗値を基準とする相対値を摩擦係数とした。て、具体的には、各実施例及び比較例の筆記抵抗値を後述する比較例6(DLC膜を形成していない比較例)の走行前の筆記抵抗値で除した値を摩擦係数とした。
走行試験の前後においてボールの先端位置に変化は認められず、磨耗はほとんど生じておらず磨耗量はほぼ0(≒0μm)であった。また、走行試験前の摩擦係数は0.77であり走行試験後の摩擦係数は0.74であった。
(実施例2)
DLC膜4を形成したボールとボールホルダとを組み合わせた以外は実施例1と同様にした。磨耗量はほぼ0(≒0μm)であり、走行試験前の摩擦係数は0.76であり走行試験後の摩擦係数は0.77であった。
(比較例1)
DLC膜1を形成したボールとボールホルダとを組み合わせた以外は実施例1と同様にした。磨耗量はほぼ0(≒0μm)であり、走行試験前の摩擦係数は0.89であり走行試験後の摩擦係数は0.88であった。
(比較例2)
DLC膜2を形成したボールとボールホルダとを組み合わせた以外は実施例1と同様にした。磨耗量はほぼ0(≒0μm)であり、走行試験前の摩擦係数は0.90であり走行試験後の摩擦係数は0.88であった。
(比較例3)
DLC膜5を形成したボールとボールホルダとを組み合わせた以外は実施例1と同様にした。磨耗量はほぼ0(≒0μm)であり、走行試験前の摩擦係数は0.93であり走行試験後の摩擦係数は0.82であった。
(比較例4)
DLC膜6を形成したボールとボールホルダとを組み合わせた以外は実施例1と同様にした。磨耗量はほぼ0(≒0μm)であり、走行試験前の摩擦係数は0.92であり走行試験後の摩擦係数は0.89であった。
(比較例5)
DLC膜7を形成したボールとボールホルダとを組み合わせた以外は実施例1と同様にした。磨耗量はほぼ0(≒0μm)であり、走行試験前の摩擦係数は0.95であり走行試験後の摩擦係数は0.94であった。
(比較例6)
DLC膜を形成していないボールとボールホルダとを組み合わせた以外は実施例1と同様にした。磨耗量は8μmであり、走行試験前の摩擦係数は1.0であり走行試験後の摩擦係数は0.83であった。
なお、実施例1、2及び比較例1〜5については、荷重を400gf(約3.92N)として同様の走行試験を行った場合にも、磨耗はほとんど見られなかった。
Figure 0006046379
表2に各実施例及び比較例の結果をまとめて示す。水素の濃度が低いだけでなく、表面における[C−H]/「C−C」が小さいDLC膜3及び4を用いた実施例1及び実施例2は、走行試験前及び走行試験後の摩擦係数が共に小さく、良好な筆記性を示した。また、走行試験後の磨耗もほとんど生じておらず、良好な耐久性を示した。比較例1〜5については、磨耗はほとんど生じず、耐久性については問題なかった。しかし、走行試験前及び走行試験後の摩擦係数が、実施例1及び2と比べて高く、十分な筆記性が得られなかった。また、DLC膜を形成していない比較例6については、走行試験の前後において摩擦係数が大きく変化した。また、磨耗も認められた。
本発明に係るボールペンチップ、ボールペン及びその製造方法は、耐久性だけでなく筆記性に優れ、ボールペンチップ及びボールペン等として有用である。
10 インク収容管
15 インク
20 ボールペンチップ
101 ボール
102 ボール本体
103 DLC膜
105 中間層
111 ボールホルダ
113 ボール保持室
114 インク通路
115 溝部
116 底面
117 ボール座
118 先端縁部
121 DLC膜
201 中心磁石
202 外周磁石
203 第1外部磁石
204 第2外部磁石
205 コイル
207 ターゲット
208 ワーク
210 ワークホルダ
211 ターゲット台
212 マッチング回路
213 高周波電源
214 ローパスフィルター
215 スパッタ電源
216 ローパスフィルター
218 バイアス電源
221 チャンバ

Claims (8)

  1. ボールと、
    前記ボールを回転自在に保持するボールホルダと、
    前記ボールの表面及び前記ボールホルダにおける少なくとも前記ボールと接触する部分の少なくとも一方を覆う炭素質膜とを備え、
    前記炭素質膜は、2原子%以下の水素を含み、その表面において、炭素−水素結合の炭素−炭素結合に対する比が0.59未満であることを特徴とするボールペンチップ。
  2. 前記炭素質膜は、その表面において、sp3炭素−水素結合のsp3炭素−炭素結合に対する比が0.57未満であることを特徴とする請求項1に記載のボールペンチップ。
  3. 前記炭素質膜は、その表面において、sp2炭素−水素結合のsp2炭素−炭素結合に対する比が0.58未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールペンチップ。
  4. 前記炭素質膜は、算術平均表面粗度Raが0.1μm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のボールペンチップ。
  5. 前記炭素質膜は、中間層を介して前記ボールの表面の上に形成されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のボールペンチップ。
  6. 前記炭素質膜は、中間層を介して前記ボールホルダにおける少なくとも前記ボールと接触する部分の上に形成されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のボールペンチップ。
  7. 請求項1〜のいずれか1項に記載のボールペンチップと、
    インキが充填されたインキ収容管とを備えていることを特徴とするボールペン。
  8. ボール及び該ボールを回転自在に保持するボールホルダを準備する工程と、
    前記ボールの表面及び前記ボールホルダにおける少なくとも前記ボールと接触する部分の少なくとも一方を覆う、炭素質膜を形成する工程とを備え、
    前記炭素質膜を形成する工程は、
    グラファイトをターゲットとし、スパッタリング電源をパルス電源とするスパッタリング法により行い、
    前記パルス電源の平均出力の絶対値を2.7Wcm-2以上とし、
    前記パルス電源のパルス周波数を250kHz以上、1MHz以下とし、
    前記パルス電源のデューティー比を15%よりも大きく、90%以下とし、
    2原子%以下の水素を含み、表面における炭素−水素結合の炭素−炭素結合に対する比が0.59未満の炭素質膜を形成することを特徴とするボールペンチップの製造方法。
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