JP7209355B2 - 非晶質硬質炭素膜とその成膜方法 - Google Patents

非晶質硬質炭素膜とその成膜方法 Download PDF

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Description

本発明は、金型、自動車部品、工具等の基材の表面にカーボンを主成分として形成される非晶質硬質炭素膜とその成膜方法に関する。
一般にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜と呼ばれるカーボンを主成分とする非晶質硬質炭素膜は、低摩擦性および耐溶着性に優れた材料として近年注目されている。このような非晶質硬質炭素膜は、カーボン原料として炭化水素ガスを使用して成膜される水素含有の非晶質硬質炭素膜と、カーボン原料として固体カーボンを使用して成膜される水素フリーの非晶質硬質炭素膜とに大別され、この内でも、特に、水素フリーの非晶質硬質炭素膜は、高硬度で耐熱性が高く、また、油中における摩擦係数が小さいため、金型、自動車部品、工具等の基材の表面処理膜として使用されている。
このような水素フリーの非晶質硬質炭素膜は、一般的に、アーク式PVD法を用いて成膜されているが、従来のアーク式PVD法を用いて非晶質硬質炭素膜を成膜した場合、アーク放電中に陰極から直径数十nm~数μmの微細な粒子(粉砕粒子、マクロパーティクル)が放出されて、成膜中の非晶質硬質炭素膜に取り込まれることにより、膜表面が粗くなってしまうことがある。そして、この膜表面の粗さは、膜厚に比例して大きくなるため、近年、エンジン部品、特に、ピストンリングにおいて強く要望されている平滑性と厚膜化が両立した非晶質硬質炭素膜の形成に際して、大きな問題となっている。
そこで、このような平滑性と厚膜化の両立を図る成膜法として、ダクトや磁場を用いて、非晶質硬質炭素膜内に粉砕粒子が取り込まれることを抑制して成膜するFVA(Filtered Vacuum Arc)法が提案されているが、装置が高価であることに加えて、成膜速度が大きく低下して、コスト高を招くという問題があった。
このような状況下、アーク式PVD法で成膜した後、粉砕粒子により生じた膜表面の凹凸をラップ処理により取り除くことにより、膜表面の平滑化を図ることが提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、このような方法で得られた非晶質硬質炭素膜では、十分に膜表面を平滑化できず、さらに、ラップ処理の際に生じた粉砕粒子の脱落痕が摩耗起点となって耐摩耗性が低下するという問題がある。そのため、実用的な表面粗さにするために必要なラップ処理の工数がかかりコスト高となるため、膜磨き性が悪い。
また、耐摩耗性の向上を図る技術として、アーク式PVD法を用いて、柱状組織と粒状組織の二層構造からなる非晶質硬質炭素膜を成膜する技術が提案されている(特許文献2参照)。しかし、このような非晶質硬質炭素膜の場合では、成膜後にラップ処理を行ったとしても、膜表面に柱状構造に起因する凹凸が残るため、十分な平滑面を有する非晶質硬質炭素膜を得ることができない。
一方、電気接点や帯電防止品などに非晶質硬質炭素膜を設けることも行われているが、この場合には非晶質硬質炭素膜に導電性を備えていることが不可欠であるため、水素フリーの非晶質硬質炭素膜が用いられている。このような用途においても、非晶質硬質炭素膜に十分な平滑性が求められるが、上記したように、従来の水素フリーの非晶質硬質炭素膜ではマクロパーティクルを除去する必要がある。しかし、電気接点や電極部品、真空チャックなどは、基材材質や形状などの要因からラップ処理が行えない場合が殆どであり、ラップ処理を行わなくても十分な平滑性を備えた非晶質硬質炭素膜が求められている。
上記のような問題を克服するために、円柱状の陰極の側面でアーク放電を発生させて成膜することにより、粉砕粒子の基材への取り込みを抑制し、より平滑な表面を有する非晶質硬質炭素膜を成膜することができるアーク式PVD装置が開発されている(特許文献3参照)。しかし、このような装置を用いて非晶質硬質炭素膜を成膜した場合、成膜レートを確保しながら膜表面の平滑さを改善することはできるものの、十分な耐摩耗性を備えることができていないのが実状である。
特許第6359299号 特開2017-171989号公報 国際公開第2019/058587号
本発明は、上記した従来の非晶質硬質炭素膜における種々の問題に鑑みて、非晶質硬質炭素膜を厚膜に成膜した場合でも、膜表面の平滑性が維持されており、また、耐摩耗性にも優れている非晶質硬質炭素膜の成膜技術を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題の解決を図るにあたって、特許文献3に記載されているようなアークスポットを円柱状の陰極の外周面に生じさせて成膜を行う成膜方法を採用した場合には、アークスポットを円柱状の陰極の先端に生じさせて成膜を行う成膜方法を採用した場合に比べて、膜表面における表面粗さRa(μm)を膜厚d(μm)で除した面粗さ指数Ra/dが小さくなることに着目した。
図3は、非晶質硬質炭素膜の成膜における表面粗さRaと膜厚の関係を示すグラフであり、(a)円柱状の陰極の側面でアーク放電させて得られた非晶質硬質炭素膜、および、(b)円柱状の陰極の先端でアーク放電させて得られた非晶質硬質炭素膜における表面粗さRa(μm)と膜厚d(μm)との関係を示している。なお、図3に示す表面粗さRaは、成膜後、ラップ処理する前における表面粗さである。
図3に示すように、(a)では(b)に比べて、面粗さ指数Ra/dが小さくなっており、厚膜化しても表面粗さRaの増加を抑制でき、十分な表面平滑性を確保できる可能性のあることが分かる。そして、種々の実験の結果、厚膜化しても短時間でラップ可能な十分な表面平滑性を確保するためには、面粗さ指数Ra/dが0.035以下であればよく、0.025以下であればより好ましいことが分かった。
次に、本発明者は、上記したアークスポットを円柱状の陰極の外周面に生じさせて成膜を行う成膜方法を採用して、面粗さ指数Ra/dが0.035以下であると共に、十分な耐摩耗性を発揮する非晶質硬質炭素膜の具体的な成膜条件について、さらに実験と検討を行った。
従来、アーク式PVD法を用いて非晶質硬質炭素膜の成膜を行う場合には、基材温度が高くなるとsp結合性炭素が生成しにくくなり、耐摩耗性に劣る非晶質硬質炭素膜が形成されてしまうことや、基材の軟化などを考慮して、基材温度を200℃以下に制御すると共に、基材に印加する負のバイアス電圧を-300~-1500Vと絶対値をある程度大きくする必要があると、一般的に考えられていた。
しかし、本発明者が実験と検討を行ったところ、上記した従来の成膜条件とは大きく異なる成膜条件、具体的には、基材に印加する負のバイアス電圧を0~-50Vという小さな絶対値とし、基材温度を250℃~350℃という高い温度まで昇温させるという成膜条件の下で非晶質硬質炭素膜を形成した場合、膜表面の平滑性が維持されており、また、耐摩耗性にも優れている厚膜化された非晶質硬質炭素膜が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
そして、非晶質硬質炭素膜は、一般的に、グラファイト様のsp結合とダイヤモンド様のsp結合が混在した構造となっているが、得られた非晶質硬質炭素膜の断面を評価したところ、膜中においてsp結合のグラファイトのC軸が基材表面に対して平行に配向、即ち、グラファイトのC面、(002)面が基材と垂直方向に配向していることが分かった。このように、グラファイトのC面が基材と垂直方向に配向していると、摺動時に発生する熱が基材に逃げ易く、温度の上昇が抑制されるため、高温化による非晶質硬質炭素膜のグラファイト化からの非晶質硬質炭素膜の軟化を十分に抑制することができ、熱伝導機能が求められるピストンリングなどを基材とする被覆材として好ましい。
請求項1に記載の発明は、上記の知見に基づくものであり、
基材の表面に被覆される非晶質硬質炭素膜であって、
表面粗さRa(μm)を膜厚d(μm)で除した面粗さ指数Ra/dが、0.035以下であり、
膜中のグラファイトのC軸が、基材表面に対して平行に配向していることを特徴とする非晶質硬質炭素膜である。
また、得られた非晶質硬質炭素膜の断面を明視野TEM像において観察すると、グラファイト粒を核とした略円錐台状の異常成長粒が存在していることが分かる。このような異常成長粒は、主にグラファイト粒を核として膜厚方向に略逆円錐台状に組織成長している。なお、グラファイト粒は、上記したようにアーク式PVD法での成膜の際に、アーク放電により陰極より生じる粉砕粒子が非晶質硬質炭素膜に取り込まれたものである。
このような異常成長粒は、従来のアーク式PVD法で成膜した非晶質硬質炭素膜においても観察されることがあったが、その頂角は一般的に30°超であり、その後のラップ処理において膜から脱落し、その脱落痕により表面粗さが大きくなる結果を招いていた。
これに対して、本発明においては、異常成長粒の円錐台の頂角が5~30°であり、従来と比較してより小さな頂角となっている。その結果、ラップ処理の際にも膜表面から脱落することが十分に抑制され、ラップ後に脱落痕の少ない平滑な表面を得ることができる。
請求項2に記載の発明は、上記の知見に基づくものであり、
断面において、グラファイト粒を核とする略円錐台状の異常成長粒を有しており、
前記異常成長粒の円錐台の頂角が、5~30°であることを特徴とする請求項1に記載の非晶質硬質炭素膜である。
また、エンジン部品等の自動車部品などの表面に形成される非晶質硬質炭素膜のように、長期に亘って安定した摺動特性が求められる場合には、膜破壊による基材からの剥離や、自己摩耗を十分に抑制するために、ナノインデンテーション硬度が10~35GPaであることが好ましく、15~25GPaであるとより好ましい。
即ち、請求項3に記載の発明は、
ナノインデンテーション硬度が、10~35GPaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非晶質硬質炭素膜である。
また、厚膜化された非晶質硬質炭素膜の具体的な厚みとしては、十分な長寿命と耐久性を備えるという観点、および、摺動用被膜として好適な表面粗さを備えるという観点から、一般的には、1~50μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましい。
即ち、請求項4に記載の発明は、
膜厚が、1~50μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の非晶質硬質炭素膜である。
水素含有量が多い非晶質硬質炭素膜は、水素を含まない非晶質硬質炭素膜に比べて、油中での摩擦低減効果が小さく、また、硬度も低下しやすいため、耐摩耗性が低下しやすい。水素含有量が10原子%以下の場合、硬質炭素層が高硬度となるため、耐摩耗性を向上させることができ好ましい。5原子%以下であるとより好ましく、3原子%以下であると特に好ましい。さらに、水素以外に窒素(N)や硼素(B)、珪素(Si)、その他の金属元素については不可避不純物を除き、含まないことが好ましい。
即ち、請求項5に記載の発明は、
水素含有量が、10原子%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の非晶質硬質炭素膜である。
上記した本発明に係る非晶質硬質炭素膜は、アーク式PVD法を用いアークスポットを円柱状の陰極の外周面に生じさせて、そのアークスポットからカーボンを昇華させて、磁石および電磁コイルにより形成された磁場により、昇華させたカーボンを基材に誘導して成膜を行うことにより製造することができる。
即ち、アーク式PVD法は、イオン化率が高い活性なカーボン粒子を生成させて成膜することが可能な成膜法であり、バイアス電圧やアーク電流、ヒーター温度、炉内圧力などを最適化することによって、本発明に係る非晶質硬質炭素膜層を成膜することができる。
上記した各パラメータの内でも、特に、基材に印加するバイアス電圧の大きさが重要であり、具体的にはバイアス電圧を0~-50V、好ましくは0~-15Vに設定する。
そして、上記した他のパラメータの最適化にあたっては、アーク電流、炉内圧力、ヒーターによって制御される基材温度も重要である。
具体的には、アーク電流を10~200Aに制御し、炉内圧力を5.0Pa以下に制御して、基材の温度を250~350℃の範囲、好ましくは270~310℃の範囲に制御して非晶質硬質炭素膜を成膜することにより、本発明に係る非晶質硬質炭素膜を得ることができる。
即ち、請求項6に記載の発明は、
真空中でカーボンを主成分とする円柱状の陰極の外周面にアークスポットを形成させ、アーク放電を生じさせることにより、前記アークスポットから前記カーボンを昇華させて、磁石および電磁コイルにより形成された磁場により、前記昇華させたカーボンを基材に誘導して、前記基材の表面に請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の非晶質硬質炭素膜を成膜する非晶質硬質炭素膜の成膜方法であって、
前記基材に0~-50Vのバイアス電圧を印加すると共に、
アーク電流を10~200A、炉内圧力を5.0Pa以下に制御して、
前記基材の温度を250~350℃に制御しながら、
前記基材の表面に、前記非晶質硬質炭素膜を成膜することを特徴とする非晶質硬質炭素膜の成膜方法である。
本発明によれば、非晶質硬質炭素膜を厚膜に成膜した場合でも、膜表面の平滑性が維持されており、また、耐摩耗性にも優れている非晶質硬質炭素膜の成膜技術を提供することができる。
本発明の一実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の断面の一部を模式的に示す図である。 異常成長粒の円錐台の頂角の測定法を示す模式的斜視図である。 非晶質硬質炭素膜の成膜における表面粗さRaと膜厚の関係を示すグラフである。 本発明の一実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の断面の明視野TEM像である。 本発明の一実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の断面の明視野TEM像である。 本発明の一実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の断面の明視野TEM像である。 本発明の一実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の断面の明視野TEM像である。 本発明の一実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の成膜に用いられるアーク式PVD装置の構成を示す概略断面図である。 本発明の一実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の成膜に用いられるアーク式PVD装置の他の構成を示す概略断面図である。
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
[1]非晶質硬質炭素膜
1.非晶質硬質炭素膜
図1は、本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の模式的断面図である。また、図2は、異常成長粒の円錐台の頂角の測定法を示す模式的斜視図である。なお、図1、図2において、101は基材であり、102は非晶質硬質炭素膜であり、103は成膜中に粉砕粒子として取り込まれたグラファイト粒であり、104はグラファイト粒を核とした異常成長粒である。そして、αは円錐台の断面における頂角を示す。
本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜102は、膜表面における表面粗さRa(μm)を膜厚d(μm)で除した面粗さ指数Ra/dが0.035以下であり、膜中のグラファイトのC軸が基材表面に対して平行に配向している。これにより、厚膜化した場合でも十分な表面平滑性を確保することができる。
また、本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜102は、グラファイトのC軸が、基材表面に対して平行に配向している。これにより、上記したように、摺動時に発生する熱が基材に逃げ易く、温度の上昇が抑制されるため、高温化による非晶質硬質炭素膜のグラファイト化からの非晶質硬質炭素膜の軟化を十分に抑制することができる。なお、本実施の形態において、基材は、図1に示すような平面の表面を有する基材だけでなく、平面以外の表面、曲面や凹凸の表面を有する基材であってもよい。
そして、本実施の形態においては、図1に示すように、グラファイト粒103を核として異常成長粒104が、5~30°の頂角αで、略円錐台状に成長していることが好ましい。
図4~図7は、それぞれ、成膜条件を変えて作製した本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の断面を、加速電圧300kVの条件下で観測して得られた明視野TEM像である。なお、図4は後述する実施例12に、図5は実施例15に、図6は実施例9に、図7は実施例13に対応している。図4~図7に示すように、本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜には、グラファイト粒を核とした略円錐台状の異常成長粒が多数観察されるが、これらの円錐台の頂角は全て5~30°となっている。
これにより、ラップ処理の際にも膜表面から脱落することが十分に抑制され、成膜後のラップ処理の工数を十分に抑制することができ、膜磨き性に優れる。
また、本実施の形態においては、ナノインデンテーション硬度が、10~35GPaであることが好ましく、これにより、エンジン部品等の自動車部品など、長期に亘って安定した摺動特性が求められる非晶質硬質炭素膜においても、膜破壊による基材からの剥離や、自己摩耗を十分に抑制することができる。
また、十分な長寿命と耐久性を有するという観点から、また、実用に適した非晶質硬質炭素膜の具体的な膜厚dとしては、1~50μmであることが好ましく、これにより、十分な長寿命と耐久性を備える摺動用被膜を提供することができる。
また、本実施の形態においては、水素含有量が、10原子%以下であることが好ましく、これにより、硬質炭素層が高硬度となるため、耐摩耗性を向上させることができる。
なお、本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜は、単層の膜のみで被覆膜として十分な特性を備えているため、他の構造の膜をさらに上層や下層に積層しなくても被覆膜として実用可能であるが、他の構造や組成の膜を上層や下層に積層して使用することも可能である。
2.基材
本実施の形態において、非晶質硬質炭素膜を形成させる基材としては特に限定されず、鉄系の他、非鉄系の金属あるいはセラミックス、硬質複合材料等の基材を使用することができる。例えば、炭素鋼、合金鋼、軸受け鋼、焼入れ鋼、高速度工具鋼、鋳鉄、アルミ合金、Mg合金や超硬合金等を挙げることができるが、非晶質硬質炭素膜の成膜温度を考慮すると、250℃以上の温度で特性が大きく劣化しない基材が好ましい。
3.中間層
非晶質硬質炭素膜の形成に際しては、基材上に予め中間層を設けることが好ましい。これにより、基材と非晶質硬質炭素膜の密着性を向上させることができる。
このような中間層としては、Cr、Ti、Si、W、B等の元素の少なくとも1種を用いることができる。また、これらの元素の下層に、Cr、Ti、Si、W、Al等の少なくとも1種の窒化物、炭窒化物、炭化物等を用いることができ、このような化合物としては、例えばCrN、TiN、WC、CrAlN、TiC、TiCN、TiAlSiN等を挙げることができる。
[2]非晶質硬質炭素膜の成膜方法
次に、本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の成膜方法について、成膜装置、成膜方法の順に説明する。
1.アーク式PVD装置
本実施の形態において、非晶質硬質炭素膜の形成にはアークスポットを円柱状の陰極の外周面に生じさせて成膜を行うアーク式PVD法を用いる。
(1)基本的な構成
最初に、本実施の形態のアーク式PVD装置の基本的な構成について説明する。図8および図9は本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の成膜に用いられるアーク式PVD装置の構成を示す概略断面図であり、図9に円形の開口部42を有する板材41が設けられた空間形成部40が設けられていることを除いては、いずれの装置も基本的に同じ構成となっている。
本実施の形態において用いられるアーク式PVD装置10の基本的な構成は、従来のアーク式PVD装置と同様である。具体的には、アーク式PVD装置10は、真空チャンバー1と、基材保持手段2と、陰極保持手段3と、陰極4と、基材用の電源6と、アーク電源7と、トリガー電極8(放電開始手段)を備えている。なお、符号9はトリガー電極8の抵抗である。
(a)真空チャンバー
真空チャンバー1には排気口11が設けられており、排気口11に連結されたターボ分子ポンプやロータリーポンプなどの排気手段(図示省略)によって真空チャンバー1の内部を真空排気することができる。
また、真空チャンバー1は電気的にアースされていると共に、アーク電源7に電気的に接続されている。これにより、真空チャンバー1が陽極となり、陰極4と真空チャンバー1の壁面との間でアーク放電が生じてアークスポットが形成されるように構成されている。
(b)基材および基材保持手段
基材保持手段2は、真空チャンバー1内に収容されており、成膜対象となる基材20を保持する。また、基材保持手段2は真空チャンバー1と絶縁されている。なお、図8においては、1つの基材20を保持する基材保持手段2を示しているが、複数の基材20を保持することができるような基材保持手段を用いることもできる。
(c)陰極および陰極保持手段
陰極保持手段3は、真空チャンバー1内に収容されており、基材保持手段2に保持された基材20と対向するように陰極4を保持できるように構成されている。なお、陰極4はカーボンを主成分とする材料で構成されており、等方性黒鉛を用いることが望ましい。
具体的な陰極4としては、断面形状および太さが一様な円柱状の陰極が用いられる。このとき、直径としては8~25mmであることが好ましく、10~20mmであるとより好ましいが、25mm以上の太径の陰極や、長さが直径よりも短い形状の陰極であっても、陰極の外周面にアークスポットを生じさせることができれば用いることができる。
(d)電源
このアーク式PVD装置10においては、基材保持手段2に基材用の電源6が接続されており、基材保持手段2を介して基材20に負の電圧を印加できるように構成されている。同様に、陰極保持手段3には、アーク電源7が接続されており、陰極保持手段3を介して陰極4に負の電圧を印加できるように構成されている。
(2)本実施の形態のアーク式PVD装置の特徴部分
本実施の形態のアーク式PVD装置は、上記した従来の基本的な構造の下に、以下の特徴的な構造を備えている。
(a)放電開始手段
本実施の形態のアーク式PVD装置においても、放電開始手段としてのトリガー電極8を備えており、負の電圧が印加された陰極4にトリガー電極8の先端を接触させることにより、接触位置にアークスポットを生じさせて、陰極4と陽極である真空チャンバー1との間でアーク放電を発生させる点においては、従来の装置と同様であるが、トリガー電極8が陰極4に接触する位置が、陰極4の先端から陰極4の外周面に変更されている点において従来の装置と異なる。
これにより、陰極4の外周面にアークスポットを生じさせ、アークスポットから放出された粉砕粒子が基材20に向けて飛散しないようにすることができる。
なお、トリガー電極8としては、従来と同様に、例えば、モリブデン(Mo)から構成されたトリガー電極を用いることができる。
また、放電開始手段としては、上記したトリガー電極に替えて、レーザー光源を用いてもよい。レーザー光源からレーザー光を負の電圧が印加された陰極に照射させることにより、照射位置にアークスポットを生じさせて、陰極と陽極である真空チャンバーとの間でアーク放電を発生させることができる。
(b)磁場発生手段
磁場発生手段31は、円柱状の陰極4の周囲に環状に配置された部材であり、磁力線が陰極4の軸方向に沿った磁場を発生させる。これにより、アークスポットにおいて昇華させたカーボンを基材20に向けて誘導、飛散させて基材20の表面に付着させることができる。なお、この磁場発生手段31は、環状で一体に形成された部材に限定されず、複数の磁石を陰極に対して放射状に配置して環状に形成させた部材であってもよい。
なお、本実施の形態のアーク式PVD装置においては、磁場発生手段31としてコイルからなる電磁石が用いられており、このコイルがコイル筐体に収容されている。
(c)電位調整筒
本実施の形態のアーク式PVD装置では、上記したコイルを収納するためのコイル筐体が電位調整筒32として用いられている。このような電位調整筒32を設けた場合、上記したように、アーク放電の最中に、電位調整筒32には幾らか電子が流入する一方で、抵抗が繋がれているため、通常0~10V程度の負の電圧に維持される。そして、このように負の電圧の電位調整筒には、接地G2と比較して電子が流入しにくくなるため、アーク放電時、大部分の電子は電位調整筒32を回避して、接地G2に流れる。
具体的には、この電位調整筒32は、円柱状の陰極4の周囲に配置されると共に、接地G1、G2を介してアーク電源7に電気的に接続された環状の部材である。そして、電位調整筒32と接地G2とを接続する回路には抵抗33が設けられている。これにより、電位調整筒32は、陽極である真空チャンバー1とアーク電源7との接続における抵抗値よりも高い抵抗値でアーク電源7と電気的に接続される。
また、この電位調整筒32の陰極4の根元側の開口部は、封止板34により塞がれていることが好ましい。この封止板34は、陰極4に対して通電しないように構成されており、例えば、アルミナセラミックや耐熱プラスチックなどの絶縁物によって形成されている。なお、封止板34には、他の部材と接触する箇所に絶縁処理が施された金属板を用いることもできる。
このような電位調整筒32を設けることにより、上記したように、電位調整筒32の陰極4先端側の開口部を通って、電位調整筒32を迂回するようなアーク放電を、陰極4と陽極(真空チャンバー1)との間に生じさせることができる。これにより、アークスポットには、電位調整筒32を迂回する距離を短くしようとする陰極4の先端側への力が働く。
この結果、アークスポットを陰極4の根元側に移動させる力が緩和されて、アークスポットの根元側への移動速度を遅くすることができる。これにより、アークスポットを陰極4の外周面に生じさせても、陰極4のカーボン材を適切な速度で適切に昇華させることができるため、安定した成膜を継続して行うことができるようになる。
なお、電位調整筒32と接地G2との間に設けられた抵抗33の抵抗値は、0Ωを超え5Ω以下であることが好ましく、より好ましくは0.01~5Ωである。これにより、電位調整筒32を迂回するようなアーク放電を適切に生じさせることができる。
上記においては、電位調整筒による効果について説明したが、上記したように、絶縁材料または金属を用いて、電気的に絶縁された状態で筒状に作製された絶縁筒であっても、電位調整筒を設けた場合と同様に、陰極の外周面のカーボンを昇華させる際、アークスポットが陰極の根元に近付くにつれて、アーク放電の距離が長くなるようにでき、陰極のカーボン材を適切な速度で昇華させて、安定した成膜を継続して行うことができる。なお、この場合、絶縁筒と接地G2との間に抵抗を設ける必要がない。
(d)空間形成部
本実施の形態において、アーク式PVD装置には、図9に示すように、陰極保持手段で保持された円柱状の陰極4の真空チャンバー1側の先端部近傍の外周方向に筒状の空間を形成する空間形成部40が設けられていることが好ましい。なお、本実施の形態において、空間形成部40には、空間と真空チャンバー1との境界に配置された円形の開口部42を有する板材41を含む。
空間形成部40により形成された円柱状の陰極4の真空チャンバー1側の先端部近傍の周囲の空間は、開口部42以外は閉じられており、空間内で発生した粉砕粒子および昇華したカーボンは、開口部42の他に出口がない。また、開口部42は、筒状の空間形成部40の径よりも小さな径に形成されている。
このため、空間形成部40の壁面で跳ね返った粉砕粒子は、板材41によって跳ね返されて開口部42を通過することができず、殆どの粉砕粒子が空間形成部内に留まり、真空チャンバー1内へ飛散することがない。このため、空間形成部による空間が形成されていない図8に示すアーク式PVD装置と比較して基材に到達する粉砕粒子の量を抑制することができる。
なお、空間形成部40の開口部42は、形状としては、空間形成部40の径よりも小さな径の円形であることが好ましい。円形形状は加工が容易である点でも好ましい。また、径としては、30~150mmであることが好ましく、75~125mmであるとより好ましい。
そして、筒状の空間形成部40において、その径は、100~300mmであることが好ましい。径が小さ過ぎると粉砕粒子が開口部42を通って基材側に飛散してくる確率が高まる恐れがあり、一方、大き過ぎると複数のアーク蒸発源を隣接して搭載することが出来なくなる恐れがある。
また、筒状の空間形成部40において、その長さ(陰極4の軸方向の長さ)は通常120mm程度に設定されていることが好ましい。即ち、空間形成部40により形成された空間内に突出する陰極4の長さは、陰極の消費のスピード、アークスポットの移動速度等を考慮して適宜決定されるが、通常60mm程度に設定されることが好ましい。一方、アークスポットから開口部42までの距離が小さい場合には、粉砕粒子が開口部42を通過する機会が多くなる。これを抑制するため、アークスポットから開口部42までの距離は通常60mm程度に設定されることが好ましい。以上を考慮して、空間形成部40における長さは上記のように設定されることが好ましい。
2.非晶質硬質炭素膜の成膜方法
本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜をアーク式PVD法により形成する場合、上記したような円柱状の陰極を備えたアーク式PVD装置を用いて、基材表面に非晶質硬質炭素膜の成膜を行う。そして、円柱状の陰極の外周面にアークスポットを形成させ、アーク放電を生じさせることにより、アークスポットからカーボンを昇華させて、磁石および電磁コイルにより形成された磁場により、昇華させたカーボンを基材に誘導して、基材の表面に非晶質硬質炭素膜を形成させる。
なお、成膜の際は、アーク放電中のバイアス電圧を0~-50V、好ましくは0~-15Vの範囲内に設定し維持する。
そして、バイアス電圧やアーク電流を調節したり、ヒーターにより基材を加熱したり、基材をセットする冶具(ホルダー)に冷却機構を導入して基材を強制冷却したり、炉内圧力を調整したりすることにより、成膜中の基材温度が250~350℃の範囲に維持するように成膜条件を調整する。
そして、本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の成膜方法においては、アーク電流を10~200A、炉内圧力を5.0Pa以下に制御する。
このような成膜条件で、本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜を成膜できる理由については、次のように考えられる。
即ち、アークスポットを円柱状の陰極4の外周面に生じさせた場合、粉砕粒子は基材20の表面に向けては放出されないため、非晶質硬質炭素膜に粉砕粒子が取り込まれず、平滑な非晶質硬質炭素膜を成膜することができるが、成膜条件との相乗効果により、成膜される膜の組織が変化し、さらなる平滑性が実現されたと考えられる。
また、基材温度が250~350℃、バイアス電圧が0~-50Vの範囲、そして、アーク電流を10~200A、炉内圧力を5.0Pa以下に設定して成膜を行うと、ターゲットから飛び出したカーボンイオンは基材に衝突した時、高温の基材と絶対値が小さなバイアス電圧の影響を受けて、一定方向に結晶成長を行いやすいと考えられる。
このようにして形成された非晶質硬質炭素膜の断面を電子線回折で分析すると、0.3~0.4nmの位置に回折スポット、または広がりのある回折スポットが水平方向に観察される。この位置は、sp構造のグラファイトやグラフェンのc面、即ち(002)面に相当すると考えられ、このような回折スポット、または広がりのある回折スポットを有する柱状の硬質炭素は、グラファイトのc軸が基材表面と平行に配向、即ちc面が基材表面に対して垂直方向に配向している。
なお、上記において、非晶質硬質炭素膜の形成に際して基材温度に印加する負のバイアス電圧を0~-50Vに設定しているのは、-50Vを超えてバイアス電圧の絶対値が大きくなると、C軸配向性や向きが得られず、結果として優れた被膜特性を得ることができないからであり、また、バイアス電圧と円錐角度は比例関係にあるためである。
また、上記において、非晶質硬質炭素膜の形成に際して基材温度を250~350℃に設定しているのは、250℃未満の場合はC軸配向性が得られないという問題がある一方で、350℃を超える場合は、C軸配向性は得られるものの、膜が軟質化して所望の被膜硬度を得ることができないからである。
そして、上記において、非晶質硬質炭素膜の形成に際してアーク電流を10~200Aに設定しているのは、10A未満の場合は、アーク放電が立ち上がらず、立ち上がっても持続しないため、コーティング装置として使用することができないという問題がある一方で、200Aを超える場合は基板温度が必要以上に上昇してしまうという問題があり、また、電源自体が少ないためである。
そして、上記において、非晶質硬質炭素膜の形成に際して炉内圧力を5.0Pa以下に設定しているのは、炉内圧力が5.0Paを超える場合は成膜速度が著しく低下し、実用性能にも劣るという問題があるためである。
基材温度は、アーク電流、ヒーター温度、炉内圧力などにより調整することができる。特に炉内圧力を10-4~5×10-1Paの高真空雰囲気とした場合、水素ガスや窒素ガスを導入した場合に比べて低摩擦で高耐摩耗性の硬質炭素膜を得ることができるため好ましい。
3.成膜後のラップ処理
本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜は、厚膜化した場合でも表面粗さの増大が抑制されているため、短時間のラップで平滑な膜表面を得ることができる。
具体的なラップ処理方法としては、砥粒をぶつけるショットブラストのようなラップ処理を用いてもよいが、ブラシラップやフィルムラップなど摺動により研磨を行うラップ処理は、膜表面の凸構造を摩耗させることにより表面の平滑化を行うことができるため好ましい。
[3]非晶質硬質炭素膜の検査方法
次に、本実施の形態に係る非晶質硬質炭素膜の検査方法について説明する。
1.表面粗さRaの測定、面粗さ指数Ra/dの算出
非晶質硬質炭素膜の膜表面の表面粗さRaは、非晶質硬質炭素膜を所定の膜厚に被覆した後に、炉内より基材を取り出し、摺動面をANSI B46.1(対応国際規格ISO4287)に準ずる方法により測定される。また、面粗さ指数Ra/dは、測定したRaを、膜厚dで除することにより算出される。
2.グラファイトのC軸配向性の判定方法
FIB(Focused Ion Beam)にて基材に対して垂直な断面を薄膜化した非晶質硬質炭素膜を加速電圧200kV、試料吸収電流10-9A、ビームスポットサイズ200nmφにて断面と垂直方向から制限視野電子線回折を行い、極微小電子線回折図形の画像を取得する。また、スポット近傍の強度間隔Lを測定して、2Lλ=カメラ長の関係から格子間隔λ(nm)を求める。
このように測定した際に、0.3~0.4nmの位置に回折スポット、または広がりをもった回折スポットが観察された場合、グラファイトのc軸が基材表面と平行に配向、即ちc面が基材表面に対して垂直方向に配向していると判定できる。このような回折スポット、または広がりをもった回折スポットはsp構造のグラファイトやグラフェンのc面、即ち(002)面が基材と平行な方向に規則的に配置されていることに由来すると考えられる。なお、膜全体が上記した構造を有していることを判定するためには、少なくとも上層部と下層部の2カ所以上に対して測定することが好ましい。
3.TEMによる組織の観察
FIBを用いて薄膜化した非晶質硬質炭素膜を、TEM(透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)により、例えば加速電圧300kVで明視野TEM像を観察する。明視野TEM像では、密度が低くなるほど電子線の透過量が増加するため、組成が同じ物質の場合、密度が低くなるほど像が白くなる。従って、観察条件を適宜設定することにより、密度が異なるグラファイトを核とした略円錐台の異常成長粒を可視化することができる。
4.ナノインデンテーション硬度の測定方法
ナノインデンテーション硬度は、エリオニクス社製ナノインデンターENT1100aを用いて、荷重300mgf、荷重分割数500ステップ、荷重負荷時間1秒の条件で測定する。測定は、膜表面からナノインデンテーション硬度の測定が可能であるが、別の被覆層などが設けられて最上層でない場合には、膜の断面を鏡面研磨した後に測定を行う。
5.水素含有量の測定
HFS(Hydrogen Forward Scattering)分析により非晶質硬質炭素膜中の水素含有量を測定する。
[4]本発明の効果
上記したように、本発明に係る非晶質硬質炭素膜は、表面粗さRa(μm)を膜厚d(μm)で除した面粗さ指数Ra/dが、0.035以下であり、厚膜化しても表面粗さの増大が抑制されている。
さらに、本発明に係る非晶質硬質炭素膜は、グラファイトのc軸が基材表面に対して平行方向に配向しているため、耐摩耗性が向上している。このため、平滑性と耐摩耗性に優れた非晶質硬質炭素膜を提供することができる。
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
以下の実験においては、非晶質硬質炭素膜の各種成膜条件を制御することによって、膜厚、膜硬度、面粗さ指数Ra/d、グラファイト粒の円錐角度、C軸の向きを変えて、非晶質硬質炭素膜の膜磨き性と耐摩耗性及び摩擦係数との関係を調べた。
1.試験片の作製
鋼基材を基材支持装置でもある自転治具に配置した後、アーク式PVD装置(日本アイ・ティ・エフ社製アーク式PVD装置M720)の炉内の公転治具にセットし、Arガスを75ccm流した状態で基材温度を熱電対によって制御すると共に、円柱状の焼結グラファイト原料の円柱側面で、アーク放電により、カーボンをイオン化させる真空アーク法を用いて、基材には基材バイアス電圧0~-300V、アーク電流150A、コイル電流60Aの条件で、炉内圧力0.1Paとして、基材を自転(40rpm)および公転(4rpm)させながら、基材の表面に、表1に示す膜厚及び膜硬度及び基材温度及び、面粗さ指数Ra/d及びグラファイト粒の円錐角度及びC軸の向きをそれぞれに変えて、非晶質硬質炭素膜を被覆した。なお、比較例5、6は従来の真空アーク法を用いて成膜した。
なお、面粗さ指数Ra/dは、上記したように非晶質硬質炭素膜を所定の膜厚に被覆した後に、炉内より基材を取り出し、摺動面をANSI B46.1に準ずる方法によりRaを測定し、膜厚dで除することにより算出した。
また、非晶質硬質炭素膜のグラファイトのC軸配向性は、上記したように電子線回折によって得られた回折像を元に分析した。
ナノインデンテーション硬度(硬度)については、上記したようにエリオニクス社製ナノインデンターENT1100aを用いて、荷重300mgf、荷重分割数500ステップ、荷重負荷時間1秒の条件で膜表面から測定した。
2.性能評価
非晶質硬質炭素膜について、得られた試験片を、フィルムラッピング(研磨剤:酸化アルミナ、番手:#6000)により、表面粗さRa0.01μm以下まで研磨し、下記試験条件下で往復動試験を実施し、動摩擦係数を測定した。さらに試験後の非晶質硬質炭素膜の摺動痕深さから摩耗量を測定した。
(試験条件)
・摺動側試験片:φ31×3mm(平板形状試験片、材質SCM415)
・相手側試験片:φ15×22mm(円筒形状試験片、材質SUJ2)
・試験装置 :往復動試験装置
・周波数 :25Hz
・試験温度 :40℃
・荷重 :300N
・測定時間 :120min後
(a)膜磨き性
膜磨き性の評価にあたっては、各例の摺動側試験片を表面粗さRa0.01μm以下まで研磨するのに要した時間で判定を行っており、2min以内であれば優、3min以内であれば良、5min以上であれば可、10min以上であれば不可と判定した。優、良、可であれば実用性能を満足すると判断できる。
(b)耐摩耗性
耐摩耗性の評価にあたっては、摩耗量が総膜厚の10%以下であれば優、20%以下であれば良、30%以下であれば可、31%以上あるいは総膜厚を超えて下地が露出する摩耗量であれば不可と判定した。優、良、可であれば実用性能を満足すると判断できる。
(c)評価結果
評価結果をまとめて表1に示す。
Figure 0007209355000001
表1より、面粗さ指数Ra/dが0.035以下であり、且つ、グラファイト粒の円錐角度が5~30°である場合において、膜磨き性と耐摩耗性が両立されることが確認できた。また、さらに、膜磨き性と耐摩耗性が両立されている場合には、非晶質硬質炭素膜のナノインデンテーション硬度が10~35GPaであることが確認できた。
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
1 真空チャンバー
2 基材保持手段
3 陰極保持手段
4 陰極
6 基材用の電源
7 アーク電源
8 トリガー電極
9 トリガー電極の抵抗
10 アーク式PVD装置
11 排気口
20、101 基材
31 磁場発生手段
32 電位調整筒
33 抵抗
34 封止板
40 空間形成部
41 板材
42 開口部
102 非晶質硬質炭素膜
103 グラファイト粒
104 異常成長粒
G1、G2 接地
α 頂角

Claims (6)

  1. 基材の表面に被覆される非晶質硬質炭素膜であって、
    表面粗さRa(μm)を膜厚d(μm)で除した面粗さ指数Ra/dが、0.035以下であり、
    膜中のグラファイトのC軸が、基材表面に対して平行に配向していることを特徴とする非晶質硬質炭素膜。
  2. 断面において、グラファイト粒を核とする略円錐台状の異常成長粒を有しており、
    前記異常成長粒の円錐台の頂角が、5~30°であることを特徴とする請求項1に記載の非晶質硬質炭素膜。
  3. ナノインデンテーション硬度が、10~35GPaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非晶質硬質炭素膜。
  4. 膜厚が、1~50μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の非晶質硬質炭素膜。
  5. 水素含有量が、10原子%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の非晶質硬質炭素膜。
  6. 真空中でカーボンを主成分とする円柱状の陰極の外周面にアークスポットを形成させ、アーク放電を生じさせることにより、前記アークスポットから前記カーボンを昇華させて、磁石および電磁コイルにより形成された磁場により、前記昇華させたカーボンを基材に誘導して、前記基材の表面に請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の非晶質硬質炭素膜を成膜する非晶質硬質炭素膜の成膜方法であって、
    前記基材に0~-50Vのバイアス電圧を印加すると共に、
    アーク電流を10~200A、炉内圧力を5.0Pa以下に制御して、
    前記基材の温度を250~350℃に制御しながら、
    前記基材の表面に、前記非晶質硬質炭素膜を成膜することを特徴とする非晶質硬質炭素膜の成膜方法。
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