JP6707735B2 - 被覆膜とその製造方法およびpvd装置 - Google Patents

被覆膜とその製造方法およびpvd装置 Download PDF

Info

Publication number
JP6707735B2
JP6707735B2 JP2018063981A JP2018063981A JP6707735B2 JP 6707735 B2 JP6707735 B2 JP 6707735B2 JP 2018063981 A JP2018063981 A JP 2018063981A JP 2018063981 A JP2018063981 A JP 2018063981A JP 6707735 B2 JP6707735 B2 JP 6707735B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
hard carbon
coating film
white
mesh
ratio
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2018063981A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2018127719A (ja
Inventor
森口 秀樹
秀樹 森口
喬士 齋藤
喬士 齋藤
祥和 田中
祥和 田中
明宣 柴田
明宣 柴田
徹美 荒樋
徹美 荒樋
小川 勝明
勝明 小川
孝弘 岡崎
孝弘 岡崎
宏幸 杉浦
宏幸 杉浦
伊東 義洋
義洋 伊東
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Piston Ring Co Ltd
Nippon ITF Inc
Original Assignee
Nippon Piston Ring Co Ltd
Nippon ITF Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Piston Ring Co Ltd, Nippon ITF Inc filed Critical Nippon Piston Ring Co Ltd
Priority to JP2018063981A priority Critical patent/JP6707735B2/ja
Publication of JP2018127719A publication Critical patent/JP2018127719A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6707735B2 publication Critical patent/JP6707735B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Carbon And Carbon Compounds (AREA)
  • Physical Vapour Deposition (AREA)

Description

本発明は、被覆膜とその製造方法およびPVD装置に関し、より詳しくは、各種摺動部材の被覆膜として好適な被覆膜とその製造方法および前記製造方法に用いられるPVD装置に関する。
近年、各種産業分野、特に自動車分野において、エンジン基材やその他機械基材等、摺動性が必要とされる部材の表面に硬質炭素膜を被覆させることが盛んに検討されている。
この硬質炭素膜は、一般的にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜、無定形炭素膜、i−カーボン膜、ダイヤモンド状炭素膜等、様々な名称で呼ばれており、構造的には結晶ではなく非晶質に分類される。
そして、この硬質炭素膜は、ダイヤモンド結晶に見られるような単結合(C−C)とグラファイト結晶に見られるような二重結合(C=C)とが混在していると考えられており、ダイヤモンド結晶のような、高硬度、高耐摩耗性、優れた化学的安定性等といった特徴に加えて、グラファイト結晶のような低硬度、高潤滑性、優れた相手なじみ性等といった特徴を併せ備えている。また、非晶質であるために、平坦性に優れ、相手材料との直接接触における低摩擦性、即ち、小さな摩擦係数や優れた相手なじみ性も備えている。
これらの特性は、成膜条件、摺動条件、相手材料により大きく変動するため、硬質炭素膜の組成、構造、表面粗さ等を制御することにより、これらの特性の向上を図る技術が提案されている。
一方、摺動部材にとって重要な特性である低摩擦性と耐摩耗性とは、互いにトレードオフの関係にあるため、これらを両立させることが難しい。
このため、低硬度化した硬質炭素層を規定したり、低硬度硬質炭素と高硬度硬質炭素の混在状態を規定したりして、低硬度の硬質炭素を活用することにより、被覆膜の低摩擦性と耐摩耗性をある程度両立させて、上記したトレードオフの関係を改善することが図られている。
しかしながら、この低摩擦性と耐摩耗性を両立させることについては、未だ十分とは言えないのが現状である。また、摺動部材の被覆膜には前記した低摩擦性や耐摩耗性に加えて耐チッピング性(耐欠損性)や耐剥離性が要求されるが、これらの特性の改善も未だ十分とは言えないのが現状である。
例えば、特許文献1では、炭素を主成分としたアモルファス構造体であって、平均径2nm以上からなるグラファイトクラスターを含む低硬度硬質炭素層と、平均径1nm以下からなるグラファイトクラスターを含む高硬度硬質炭素層とを交互に積層することにより、低摩擦性と耐摩耗性とが両立されると示されているが、その両立は未だ不十分であり、耐チッピング性や耐剥離性も十分とは言えない。
また、特許文献2では、炭素、水素を主成分とし、表面粗さがRmax0.5μm以下のプラズマCVD法で成膜された硬質炭素膜であって、X線回折結晶学的に非晶質構造であって、ダイヤモンド構造およびグラファイト構造のクラスターの混合体として、各クラスターの炭素原子数を規定することにより低摩擦性と耐摩耗性とを両立させているが、異常成長を防いで面粗さを小さくするためにダイヤモンド構造とグラファイト構造の両方のクラスターを必須としており、それぞれのクラスターは原子数が100〜2000と大きいため、X線回折では非晶質構造であっても電子線回折で微小領域を解析すると結晶質を含んでおり、クラスターのサイズが大きいこともあり、低摩擦性と耐摩耗性との両立には限界があり、耐チッピング性や耐剥離性も十分とは言えない。
また、特許文献3では、少なくとも鉄を含む金属基材上にDLC膜を配してなる金属部材であって、DLC膜はラマンスペクトルで波数が1550〜1600cm−1の範囲に観測されるグラファイトに起因するピークを有し、前記ピークの強度が、膜面内に複数異なって混在し、ピーク強度の最大と最小の差を1桁以上である金属部材が開示されており、高硬度のDLCと潤滑性に優れたDLC膜を同一膜面内で局所的に作り分けて、硬度が異なるDLC膜を同一面内で併せ持つ膜とすることにより、低摩擦性と耐摩耗性とが両立されると示されているが、硬度に優れるDLC膜および潤滑性に優れるDLC膜の面内での大きさは数10μmサイズと大きいため、場所による性能差が現れやすく、摺動面内で均一に低摩擦性と耐摩耗性を両立させることが難しい。
また、特許文献4では、sp結合性結晶の少なくとも一部が膜厚方向に連続的に連なった構造を有する硬質炭素膜が開示されているが、硬質炭素膜中に結晶性物質を含ませるためには基板に到達する炭素イオンのエネルギーを大きくする必要があり、成膜時のバイアス電圧を−400〜−1000Vと低くしている。しかし、このような成膜条件では、形成される膜は低硬度であり、耐摩耗性に劣る。従って、導電部材としては適していても優れた耐摩耗性が必要となる摺動部材の被覆膜として採用することができない。
また、特許文献5では、sp混成軌道を持つ炭素量が70原子%以上、且つグラファイトの(002)面が厚さ方向に沿って配向した窒素を含有する配向性DLC膜が開示されているが、成膜に際してプラズマCVDで窒素を用いており、バイアス電圧を−1500V以下と非常に低くしている。このため、sp混成軌道を持つ炭素電子が70%以上でsp/sp比が2.3〜∞と非常に大きくなって、低硬度で耐摩耗性に劣る被覆膜しか得られず、やはり、摺動部材の被覆膜として採用することができない。
さらに、特許文献6には、少なくとも10μmの厚さの水素非含有ta−c型DLCを含有するピストンリング用のDLC膜で、このta−c型DLC膜の外側1〜3μmにおけるsp比率をB、O、Siをドープすることにより低減させて、ならし時の摩擦に優れ、不十分な潤滑環境下での耐熱性向上、焼き付き抑制効果を有する非晶質膜が提案されているが、やはり、低摩擦性と耐摩耗性とを十分に両立させるものではない。
特開2001−261318号公報 特開平10−87396号公報 特開2009−184859号公報 特開2002−327271号公報 特開2011−148686号公報 特表2013−528697号公報
以上のように、従来の各技術は、いずれも、低摩擦性と耐摩耗性を両立させることについては十分とは言えず、耐チッピング性や耐剥離性の改善についても十分とは言えなかった。
そこで、本発明は、低摩擦性と耐摩耗性の両立を十分に改善させるだけでなく、耐チッピング性(耐欠損性)や耐剥離性の改善も図られた被覆膜とその製造方法および前記製造方法に用いられるPVD装置を提供することを課題とする。
摺動部材の被覆膜として硬質炭素膜の形成を行う場合、従来より、PVD法やCVD法などの気相成長法を用いて行われているが、その際、基材温度が高くなるとsp結合性炭素が生成しにくくなりsp結合性炭素リッチ(グラファイトリッチ)の硬質炭素膜、即ち、低硬度の硬質炭素膜が形成されてしまうため、基材温度を200℃以下に制御して成膜を行っていた。
しかし、本発明者が上記課題の解決について、種々の実験と検討を行うにあたって、上記した従来の概念にとらわれることなく、PVD法を用いて、基材温度を上げて硬質炭素膜の形成を行ったところ、基材温度を200℃を超える温度、好ましくは210℃以上、
より好ましくは220℃以上にして硬質炭素膜を形成した場合、従来とは全く異なる構造の硬質炭素膜が形成されるという、発明者自身も驚く結果が得られた。
具体的には、得られた硬質炭素膜の断面を明視野TEM(透過電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)像により観察したところ、白色の硬質炭素が膜の厚み方向に網目状に連なっており、この網目の隙間に黒色の硬質炭素が分散して網目状硬質炭素層が形成されていることが分かった。
そして、この硬質炭素膜の摺動特性を測定したところ、本来トレードオフの関係にある低摩擦性と耐摩耗性との両立が従来よりも遙かに改善されているだけでなく、耐チッピング性(耐欠損性)や耐剥離性も十分に改善されており、摺動性が必要とされる部材の表面に被覆させる硬質炭素膜として極めて好ましいことが分かった。
このような効果が得られた理由は、以下のように考えられる。
即ち、明視野TEM像において、白色の硬質炭素は相対的に低密度であり、黒色の硬質炭素は相対的に高密度であることを示している。
そして、低密度の白色の硬質炭素は軟質であり高密度の黒色の硬質炭素よりも衝撃に強く低摩擦性に優れている。このため、白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なって三次元的に連なった構造となることにより、外部から加わった応力を非常に効率的に分散させることができ、低摩擦性だけでなく、耐チッピング性も向上させることができる。
また、低密度の白色の硬質炭素が厚み方向に連続的に連なった組織は、剥離に強いため、このような硬質炭素膜は優れた耐剥離性を発揮することができる。
さらに、低密度の白色の硬質炭素の隙間に分散している高密度の黒色の硬質炭素は、白色の硬質炭素よりも硬質であるため、耐摩耗性が向上する。
この結果、このような硬質炭素膜を摺動性が必要とされる部材の表面に被覆させた場合、従来の硬質炭素膜を被覆させた場合に比べて、低摩擦性、耐摩耗性、耐チッピング性、耐剥離性を大幅に上昇させることができる。
なお、このように膜の厚み方向に網目状に連なった硬質炭素は、PVD法を用いて成膜することが好ましい。
即ち、従来より、CVD法でも硬質炭素を成膜できることが知られていたが、CVD法の場合には、成膜温度が高いために、高密度の黒色の硬質炭素を形成させる成膜方法として好適とは言えず、本発明者は、検討の結果、PVD法を採用し、成膜温度を適切に制御することにより、上記のような構造の硬質炭素膜が形成されることを見出した。また、CVD法では水素を含むガス原料を用いるため、膜の硬度が低下しやすく油中での低摩擦性にも劣るが、PVD法ではカソードに固体の炭素原料を用いるため、水素や不純物金属を含まない高硬度で、油中での低摩擦性に優れる硬質炭素を成膜できるメリットがある。
そして、この網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が大きすぎると耐摩耗性が低下しやすく、一方、ID/IG比が小さすぎると耐チッピング性向上効果が十分ではない。本発明者は検討の結果、好ましいID/IG比は1〜6であり、1.5〜5であると特に好ましいことを見出した。このような範囲に制御することにより、耐摩耗性と耐チッピング性を十分に両立させることができる。
請求項1に記載の発明は、上記の知見に基づくものであり、
基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
断面を明視野TEM像により観察したとき相対的に白黒で示される硬質炭素を有しており、
白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なっており、黒色の硬質炭素が前記網目の隙間に分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなることを特徴とする被覆膜である。
請求項2に記載の発明は、
前記厚み方向に網目状に連なっている白色の硬質炭素の幅が、0.5〜10nmであることを特徴とする請求項1に記載の被覆膜である。
厚み方向に網目状に連なっている白色の硬質炭素の幅(網目を構成する白色の硬質炭素の線幅)を細くすることにより、外部からの衝撃吸収能力を向上させることができる。また、白色の硬質炭素の幅を細くすると網目が細かくなるため、網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素の大きさが小さくなり、耐摩耗性が向上する。この結果、耐チッピング性と耐摩耗性のバランスが優れた被覆膜を提供することができる。好ましい幅は、0.5〜10nmであり、特に1〜5nmであることが好ましい。
請求項3に記載の発明は、
前記厚み方向に網目状に連なっている白色の硬質炭素が、電子線回折で非晶質の散乱パターンを示すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被覆膜である。
厚み方向に網目状に連なっている白色の硬質炭素が非晶質となることにより、結晶方位性がなくなり、繰り返し応力や正負の応力が負荷された場合の耐チッピング性が向上する。また、非晶質の硬質炭素が網目状に連なることにより、網目状硬質炭素層の導電性は低いものとなり、二端子法で測定すると、導電体上に被覆した場合でも、1〜1000Ω・cmの電気抵抗を示す。
請求項4に記載の発明は、
前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素の少なくとも一部が、電子線回折で格子間隔0.3〜0.4nmの位置に回折スポットを示すことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の被覆膜である。
網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素についても、基本的には非晶質であってもよいが、少なくとも一部については結晶性を有するグラファイトを含んでいることが好ましく、特に、電子線回折で0.3〜0.4nmの位置に回折スポットを示す硬質炭素の場合には、グラファイトやグラフェンのC面、(002)面が厚み方向に積層するように配向するため、潤滑性が向上して好ましい。
請求項5に記載の発明は、
前記網目状硬質炭素層の水素含有量が、10原子%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の被覆膜である。
水素含有量が多い硬質炭素層は、油中での摩擦低減効果が水素を含まない場合に比べて小さく、また、硬度も低下しやすいため、耐摩耗性が低下しやすい。水素含有量が10原子%以下の場合、硬質炭素層が全体に高硬度となるため、耐摩耗性を向上させることができる。5原子%以下であると特に好ましい。さらに、水素以外に窒素(N)や硼素(B)、珪素(Si)、その他の金属元素については不可避不純物を除き、含まないことが好ましい。
請求項6に記載の発明は、
前記網目状硬質炭素層のナノインデンテーション硬度が、10〜35GPaであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の被覆膜である。
ナノインデンテーション硬度が大きすぎると、耐チッピング性が低下しやすい。一方、ナノインデンテーション硬度が小さすぎると、耐摩耗性が不足しやすい。特に好ましいナノインデンテーション硬度は15〜30GPaであり、特に、耐チッピング性を効果的に向上させることができる。
請求項7に記載の発明は、
前記厚み方向に網目状に連なっている白色の硬質炭素のsp/sp比が、0.2〜0.9であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の被覆膜である。
sp/sp比が小さすぎると、耐チッピング性向上効果が十分ではない。一方、sp/sp比が大きすぎると、耐摩耗性が大きく低下する。好ましいsp/sp比は0.2〜0.9であり、このような範囲に制御することにより、耐チッピング性と耐摩耗性を十分に両立させることができる。また、高荷重や繰り返し荷重を受けた際にも被覆膜が破壊しにくい。特に好ましい範囲は、0.22〜0.8である。
請求項8に記載の発明は、
前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素のsp/sp比が、0.15〜0.7であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の被覆膜である。
sp/sp比が0.15〜0.7であると、優れた耐摩耗性を得ることができ好ましい。特に好ましい範囲は、0.2〜0.55である。
請求項9に記載の発明は、
前記網目状硬質炭素層の下層に、さらに、網目状ではない硬質炭素層を有しており、
前記下層の硬質炭素層が、
明視野TEM像において、前記厚み方向に網目状に連なって白色を示す硬質炭素よりも暗色を示し、
sp/sp比が0.1〜0.3であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の被覆膜である。
厚み方向に網目状に連なって白色を示す硬質炭素よりも暗色を示す硬質炭素層は、より高密度で耐摩耗性に優れており、特に、sp/sp比を0.1〜0.3、特に、0.15〜0.3の範囲に制御することにより、耐摩耗性を十分に向上させることができる。
そして、このような硬質炭素層を下層として、耐チッピング性に優れた網目状硬質炭素層を積層して2層構造の被覆膜とすることにより、さらに優れた耐チッピング性と優れた耐摩耗性とを両立させた被覆膜を提供することができる。
請求項10に記載の発明は、
前記下層の硬質炭素層は、ナノインデンテーション硬度が35〜80GPaであることを特徴とする請求項9に記載の被覆膜である。
下層の硬質炭素層のナノインデンテーション硬度が35〜80GPaであると、被覆膜の耐摩耗性をより一層向上させることができるため好ましい。
請求項11に記載の発明は、
前記網目状硬質炭素層が、前記下層の硬質炭素から扇状に成長していることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の被覆膜である。
下層の硬質炭素から網目状硬質炭素層を逆円錐状の扇状に成長させた場合、その成長方向で下層の暗色の硬質炭素と上層の白色の網目状硬質炭素が入り混じった構造の部分が形成され、混合比が厚み方向で変化する部分が生じる。この結果、下層から上層に向かって膜質が滑らかに変化していくようになり、下層と網目状硬質炭素層界面での剥離を抑制することができる。
このように、下層の硬質炭素から網目状硬質炭素層を成長させて、成膜中に効率的に白色の硬質炭素が厚み方向に網状に連なったCVD的な組織を得ることができるため、成膜法としてPVD法を採用しても、優れた耐チッピング性と低摩擦性を実現させることができる。
請求項12に記載の発明は、
前記扇状の成長が、白色の硬質炭素を起点としていることを特徴とする請求項11に記載の被覆膜である。
白色の硬質炭素を成長起点として、網目状硬質炭素層を逆円錐状の扇状に成長させた場合、その成長方向で下層の暗色の硬質炭素と上層の白色の網目状硬質炭素が入り混じった構造の部分が形成され、混合比が厚み方向で変化する部分が生じる。この結果、下層から上層に向かって膜質が滑らかに変化していくようになり、下層と網目状硬質炭素層界面での剥離を抑制することができる。
このように、白色の硬質炭素を成長起点として網目状硬質炭素層を成長させて、成膜中に効率的に白色の硬質炭素が厚み方向に網状に連なったCVD的な組織を得ることができるため、成膜法としてPVD法を採用しても、優れた耐チッピング性と低摩擦性を実現させることができる。
請求項13に記載の発明は、
アーク式PVD法を用いて、
前記基材温度が200℃を超え300℃以下に維持されるように、バイアス電圧、アーク電流、ヒーター温度および/または炉内圧力を制御すると共に、
前記基材を自転および/または公転させながら、前記基材の表面に前記硬質炭素膜を被覆することにより、
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の被覆膜を製造することを特徴とする被覆膜の製造方法である。
アーク式PVD法は、イオン化率が高い活性なカーボン粒子を生成させて被覆させることが可能な成膜法であり、バイアス電圧やアーク電流、ヒーター温度、炉内圧力などを最適化することによって、活性なカーボン粒子から白色の硬質炭素を生成させて、これを成長起点として網目状硬質炭素層を形成させることができる。
そして、基材を自転や公転させることにより、PVD法でありながら、sp/sp比の大きい白色の硬質炭素層が網目状に成長すると共に、網目の隙間に黒色の硬質炭素を形成しながらCVD的に成長していき、網目状硬質炭素層を形成させることができる。
なお、上記した各パラメータの最適化に当って、特に重要なパラメータは、バイアス電圧、アーク電流、ヒーターによって制御される基材温度である。
即ち、バイアス電圧が−50Vを超える場合および−300V未満の場合には、網目状硬質炭素層を形成することが難しい。
そして、アーク電流が10A未満であると放電が難しく、200Aを超える場合には耐摩耗性が低下しやすい。
また、基材温度が200℃以下では、網目状硬質炭素層を形成することが難しく、300℃を超える場合には網目状硬質炭素層の耐摩耗性が低下しやすい。このため、基材温度としては200℃を超え300℃以下が好ましく、200℃を超え290℃以下であるとより好ましく、210〜290℃がさらに好ましく、210〜280℃がさらに好ましい。
請求項14に記載の発明は、
請求項13に記載の被覆膜の製造方法に用いられるPVD装置であって、
前記基材の温度を200℃を超え300℃以下に制御する制御手段が備えられたアーク式PVD装置であることを特徴とするPVD装置である。
アーク式PVD法を用いて硬質炭素を形成する場合、アーク式PVD装置のバイアス電圧によっては基材温度が200℃以下であったり、成膜中に基材温度が300℃を超えたりするケースが生じることがあり、上記のような構造の被覆膜が形成されない恐れがある。
このため、本発明に係るアーク式PVD装置においては、基材温度が200℃を超え300℃以下となるように制御することができる制御手段を設けて、基材を適切な温度で均一に加熱することを行っている。
具体的な制御手段としては、基材を均一に加熱するためのヒーターを設ける方法や、基材をセットする治具に加熱機構および/または冷却機構を導入する方法、また、熱電対でモニターした基材温度を基にバイアス電圧やアーク電流を自動制御する方法などを挙げることができる。
請求項15に記載の発明は、
前記基材を自公転自在に支持する基材支持手段と、
前記基材の自転および/または公転の回転速度を制御する回転制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項14に記載のPVD装置である。
基材を自公転自在に支持して、その自公転を制御することにより、一層、基材を均一に加熱することができる。
また、本発明は、以下の側面からも捉えることができる。
即ち、請求項16に記載の発明は、
基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
相対的にsp/sp比が異なる2種類の硬質炭素を有しており、sp/sp比の大きな白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なっており、sp/sp比の小さな黒色の硬質炭素が前記網目の隙間に分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している前記黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなる、ことを特徴とする被覆膜である。
請求項17に記載の発明は、
基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
断面の明視野TEM像において、白色及び黒色のコントラストを有し、白色の硬質炭素が白色の点を起点として枝分かれしながら厚み方向に網目状に連なり、その隙間に黒色の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなることを特徴とする被覆膜である。
請求項18に記載の発明は、
基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
相対的にsp/sp比の大きな白色の硬質炭素が相対的にsp/sp比の大きな点を起点として枝分かれしながら厚み方向に網目状に連なり、その隙間に相対的にsp/sp比の小さな黒色の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している前記黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなる、ことを特徴とする被覆膜である。
請求項19に記載の発明は、
基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
断面の明視野TEM像において、白色及び黒色のコントラストを有し、白色の硬質炭素が枝分かれしながら厚み方向に網目状に連なり、その隙間に黒色の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなることを特徴とする被覆膜である。
請求項20に記載の発明は、
基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
相対的にsp/sp比の大きな白色の硬質炭素が枝分かれしながら厚み方向に網目状に連なり、その隙間に相対的にsp/sp比の小さな黒色の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している前記黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなる、ことを特徴とする被覆膜である。
本発明によれば、低摩擦性と耐摩耗性の両立を十分に改善させるだけでなく、耐チッピング性(耐欠損性)や耐剥離性の改善も図られた被覆膜とその製造方法および前記製造方法に用いられるPVD装置を提供することができる。
本発明の一実施の形態の被覆膜の断面における明視野TEM画像である。 図1の一部を拡大した図である。 本発明の一実施の形態の製造装置の成膜用の炉の要部を模式的に示す図である。 本発明の一実施例および従来例の被覆膜形成時の基材温度の変化を概念的に示す図である。 摩擦摩耗試験方法を模式的に示す図である。 本発明の一実施例の摩擦摩耗試験結果を示す顕微鏡写真である。 本発明の一実施例の摩擦摩耗試験結果を示す顕微鏡写真である。 従来例の摩擦摩耗試験結果を示す顕微鏡写真である。 従来例の摩擦摩耗試験結果を示す顕微鏡写真である。
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
1.基材
本発明において、被覆膜を形成させる基材としては特に限定されず、鉄系の他、非鉄系の金属あるいはセラミックス、硬質複合材料等の基材を使用することができる。例えば、炭素鋼、合金鋼、焼入れ鋼、高速度工具鋼、鋳鉄、アルミ合金、Mg合金や超硬合金等を挙げることができるが、被覆膜の成膜温度を考慮すると、200℃を超える温度で特性が大きく劣化しない基材が好ましい。
2.中間層
被覆膜の形成に際しては、基材上に予め中間層を設けることが好ましい。これにより、基材と被覆膜の密着性を向上させることができると共に、被覆膜が摩耗した場合には、露出したこの中間層に耐摩耗性機能を発揮させることができる。
このような中間層としては、Cr、Ti、Si、W、B等の元素の少なくとも1種を用いることができる。また、これらの元素の下層に、Cr、Ti、Si、Al等の少なくとも1種の窒化物、炭窒化物、炭化物等を用いることができ、このような化合物としては、例えばCrN、TiN、CrAlN、TiC、TiCN、TiAlSiN等を挙げることができる。
3.被覆膜
本発明の被覆膜は、その断面の明視野TEM像を観察すると、相対的に白黒2色で示される2種類の硬質炭素を有しており、白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なっており、黒色の硬質炭素がこの網目の隙間に分散して、網目状硬質炭素層を形成している。
図1は本発明の一実施の形態の被覆膜の断面の明視野TEM像であり、図2は図1の明視野TEM像の一部を拡大した図である。
図1において1は被覆膜であり2は基材である。図1より、被覆膜1の上層(表面側)に網目状の白色の硬質炭素(低密度の硬質炭素)が、白色の硬質炭素を起点として被覆膜1の表面に向かって扇状(逆円錐状)に拡がっており、網目の隙間に黒色の硬質炭素(高密度の硬質炭素)が分散している網目状硬質炭素層1aが形成されていることが分かる。
また、網目状硬質炭素層1aの下側(基材側)には、網目状ではなく、色調が前記白色の硬質炭素より暗い硬質炭素からなる下層1bが存在し、網目状硬質炭素層1aと下層1bとの間に下層1b側の硬質炭素と網目状硬質炭素が入り混じった構造の部分があることが分かる。
また、図2のような明視野TEM像により網目状硬質炭素層1aの網目の線幅を測定することができる。
本発明において、網目状に連なっている白色の硬質炭素は、幅が0.5〜10nm、より好ましくは1〜5nmであり、電子線回折で散漫散乱パターン(非晶性の散乱パターン)を有していることが好ましい。また、sp/sp比が0.2〜0.9、より好ましくは0.22〜0.8である。
一方、黒色の硬質炭素のうち少なくとも一部の硬質炭素中には電子線回析で格子間隔0.3〜0.4nmの位置に回折スポットを有していることが好ましい。また、sp/sp比が0.15〜0.7、より好ましくは0.2〜0.55である。
また、網目状硬質炭素層1aは、水素含有量が10原子%以下、より好ましくは5原子%以下であり、残部は実質的に炭素のみからなる。水素以外にN、B、Siその他の金属元素については不可避不純物を除き、含まないことが好ましい。また、ナノインデンテーション硬度が好ましくは10〜35GPa、より好ましくは15〜30GPaであり、ID/IG比が1〜6、より好ましくは1.5〜5である。
一方、下層1bは、ナノインデンテーション硬度が35〜80GPaであることが好ましく、sp/sp比が0.1〜0.3、より好ましくは0.15〜0.3である。
なお、網目状硬質炭素層と網目状でない硬質炭素層が繰り返し積層して被覆されている場合も本発明に含まれる。
4.被覆膜の製造方法およびアーク式PVD装置
(1)製造方法
上記被覆膜1の形成にはアーク式PVD法、スパッタPVD法などを適用できるが、特に好ましいのはアーク式PVD法である。
アーク式PVD法では、ターゲットからある確率で高温の溶融粒子が飛び出す。この粒子は、ドロップレットとも呼ばれ、高温で活性度が高い。このため、カーボンをターゲットとした場合、ある確率で高温で活性度の高い白色(低密度)の硬質炭素粒子が飛び出すこととなり、図1に示すように、高活性の白色粒子が起点となって白色の硬質炭素層が扇状に成長し、厚み方向に網目状に成長しやすい。
被覆膜をアーク式PVD法により形成する場合、バイアス電圧やアーク電流を調節したり、ヒーターにより基材を加熱したり、基材をセットする治具(ホルダー)に冷却機構を導入して基材を強制冷却したりして、基材温度が200℃を超え300℃以下、より好ましくは220〜275℃となるように製造条件を調整する。
なお、このとき好ましいバイアス電圧は、−50〜−300Vであるが、前記したヒーター加熱やホルダーからの冷却の他に、アーク電流を変化させたり、バイアス電圧を不連続やパルス状など間欠的に印加したりして電圧値を変化させるなどの方法によっても基材温度を制御することができるため、特に限定されない。
従来のアークPVD法では、バイアス電圧やアーク電流をパラメータとして成膜されていた。この結果、ワークの熱容量や取り付け治具、チャージ量などにより炉内温度がばらつき、基材温度は十分制御されたものではなかった。即ち、基材の温度制御を厳密に行うという概念が乏しく、基材の温度を制御することで硬質炭素層の組織を制御でき、組織を網目状化することで低摩擦性と耐摩耗性とを両立できて、さらに、耐チッピング性や耐剥離性も改善できるといった効果に対する知見がなかった。
また、成膜に際しては、基材を10〜200rpmの回転数で自転させたり、1〜20ppmの回転数で公転をさせたりすることが好ましい。
このような製造条件で、網目状硬質炭素層が形成できる理由は定かではないが、次のように考えられる。
即ち、基材温度が200℃を超え300℃以下の場合、温度が高いため硬質炭素層は低密度な硬質炭素層として成長しやすい。しかし、基材を10〜200rpmの回転数で自転させたり、1〜20ppmの回転数で公転させたりしていると、基材温度は200℃を超え300℃以下の温度を維持しているにも拘わらず、ターゲットから飛び出したカーボンイオンの運動エネルギーは、カーボンイオンが基材に対して正面から衝突するか、斜めに衝突するかによって大きく異なってくる。
即ち、基材に正面から入射したカーボンイオンは、衝突エネルギーが大きいため基材と衝突した際に高温となって白色で低密度またはsp/sp比の大きな硬質炭素となりやすく、一方、基材に斜めに入射したカーボンイオンは、衝突エネルギーが小さいため基材と衝突した際の温度が正面から入射した場合と比較して低温となって黒色で高密度またはsp/sp比の小さな硬質炭素として成膜される。
この結果、基材を自転や公転させながら成膜した硬質炭素層では、同じ成膜厚み位置でも、白色の硬質炭素と黒色の硬質炭素が混在するようになる。
そして、さらに上層に被覆が進むと、基材温度が200℃を超え300℃以下と高温になっているため、カーボンイオンが正面から入射した膜上には白色の硬質炭素が網目状に成長するようになる。一方、網目の隙間に斜めから入射したカーボンイオンは黒色の硬質炭素に形成される。
この結果、低密度で粗なため明視野TEM像で白色に見える硬質炭素が網目状に連なり、その隙間に、高密度で密なため黒色に見える硬質炭素が混在した網目状硬質炭素の組織が形成されるのではないかと考えられる。
さらに、この網目状硬質炭素は、基材温度が225℃を超えると、グラファイト化が一部で進行しやすくなり、黒色の硬質炭素内で結晶化が一部進行する場合がある。このような結晶化が進行すると、明視野TEM像において白色部と一部グラファイト化して黒色化した部分が混在した網目状組織となる。
ここで、この黒色化した部分を電子線回折で分析すると、0.3〜0.4nmの位置に弱い回折スポットが観察される。この位置は、sp構造のグラファイトやグラフェンのc面、即ち(002)面に相当すると考えられ、このような回折スポットを有する網目状硬質炭素は、グラファイトのc面が基材と平行方向に配向しているため、特に低摩擦性を向上させることができる。
なお、上記において基材温度を200℃を超え300℃以下の温度に設定しているのは、200℃以下の場合には、カーボンイオンが基材に正面から入射しても白色の硬質炭素として網目状に成長しにくく、一方、300℃を超える場合には、回転する治具によりカーボンイオンが基材に斜めに入射しても、黒色の硬質炭素が形成されず白色の硬質炭素が形成されやすく、その結果として、白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なり、黒色の硬質炭素がその網目の隙間に分散している本発明の網目状硬質炭素層が形成され難いと考えたためである。
そして、前記したように、基材温度は、アーク電流、ヒーター温度、炉内圧力などバイアス電圧の調整以外でも調整可能であるため、バイアス電圧は特に限定されないが、−50Vを超えると網目状硬質炭素層が形成されにくくなり、一方−300V未満の場合には網目状DLCが形成されにくくなることを考慮すると、−50〜−300Vが好ましく、−100〜−275Vがより好ましい。また、炉内圧力は10−4〜5×10−1Paの真空雰囲気とした場合、水素ガスや窒素ガスを導入した場合に比べて低摩擦で高耐摩耗性の硬質炭素膜を得ることができるため好ましい。
このような本発明に対して、従来の硬質炭素膜の製法では、特にアーク式PVD法で成膜する場合、高密度な被覆膜を形成するために、一般的にバイアス電圧を制御し、基材温度が200℃を超えて上昇しない条件下で成膜されていた。
また、バイアス電圧を−500〜−1000Vとし、内層(下層)に明視野TEM像で白色に見える層を被覆後、その上層にバイアス電圧−100Vで、明視野TEM像で内層よりも暗く見える硬質炭素層を成膜する技術が提案されているが、ここでは、バイアス電圧を制御することにより、厚み方向で硬質炭素膜の密度を傾斜化させることしか開示されておらず、本発明のような高度に制御された網目状硬質炭素からなる組織構造を形成させることはできず、本発明に係る硬質炭素膜のように、低摩擦性と耐摩耗性を十分に両立させて優れた摺動特性を有していると共に、耐チッピング性および耐剥離性も十分に優れた被覆膜を作製することができない。
本実施の形態の被覆膜は、アーク式PVD装置を用いて製造することができ、具体的な成膜装置としては、例えば、日本アイ・ティ・エフ社製アーク式PVD装置M720を挙げることができる。以下、このアーク式PVD装置を用いた被覆膜の製造について具体的に説明する。
まず、基材となる金属素材に、CrNを厚み10μmで被覆後、PVD装置から取り出し、面粗さがRzで0.3μmとなるように磨き処理を行う。次に、基材を自公転治具を備えるアーク式PVD装置にセットする。
次に、バイアス電圧やアーク電流の大きさを調整したり、無バイアス電圧となる時間を間欠的に導入して基材を冷却したり、基材をヒーター加熱したり、基材を回転させたりして、基材温度が200℃を超え300℃以下程度となるように制御して、硬質炭素膜を網目状に成長させる。
前記したように、本発明における成膜のメカニズムの詳細は不明であるが、基材温度をこのような高温環境下に置くことで、基材にある確率で飛び込んできた活性度の高い白色の硬質炭素粒子が起点となって、硬質炭素の膜成長が下層の影響を受けるようになり、黒色の硬質炭素の中で白色の硬質炭素がCVD成長するように、厚み方向に網目状に成長するものと考えられる。
このとき、上記高温の成膜環境下で基材を回転しながら成膜することで、白色の硬質炭素と黒色の硬質炭素とが厚み方向と回転方向のいずれの方向にも混在しやすくなり、白色の硬質炭素が網目状に厚み方向に被覆しやすくなる。
(2)アーク式PVD装置
次に、本実施の形態に係るアーク式PVD装置について具体的に説明する。図3は本実施の形態のアーク式PVD装置の成膜用の炉の要部を模式的に示す図である。
アーク式PVD装置は、成膜用の炉11と制御装置(図示省略)とを備えている。炉11には、真空チャンバー12、プラズマ発生装置(図示省略)、ヒーター13、基材支持装置としての自公転治具14、温度計側装置としての熱電対(T.C.10mm角バー)15およびバイアス電源(図示省略)および炉内の圧力を調整する圧力調整装置(図示省略)が設けられている。
また、基材支持装置に冷却水および/または温水や蒸気を供給する冷却加熱装置が設けられていることが好ましい。なお、Tはターゲット(カーボンターゲット)であり、21は中間層が形成された基材(鉄基材)である。また、ターゲットTは実際には5台備えているが、図3では簡略化のため1台のみ記載している。
プラズマ発生装置は、アーク電源、カソードおよびアノ−ドを備え、カソードとアノード間の真空アーク放電により、カソード材料であるカーボンターゲットTからカーボンを蒸発させると共に、イオン化したカソード材料(カーボンイオン)を含むプラズマを発生させる。バイアス電源は、基材21に所定のバイアス電圧を印加してカーボンイオンを適切な運動エネルギーで基材21へ飛翔させる。
自公転治具14は、円板状で、円の中心を回転の中心として矢印の方向に回転自在であり、円板上の中心を中心とする同心円上に、等間隔で、円板に対して垂直な回転軸を複数備えている。複数の基材21は、それぞれ前記回転軸に保持され、矢印の方向に回転自在である。これにより基材21は、自公転治具14に自転および公転自在に保持される。また、自公転治具14には、基材21と自公転治具14との間で速やかに熱が伝導し、基材21と自公転治具14の温度が略等しくなるようにステンレスなど熱伝導性が高い金属材料が用いられている。
ヒーター13および冷却装置は、自公転治具14をそれぞれ加熱、冷却し、これにより基材21が間接的に加熱、冷却される。ここで、ヒーター13は温度調節が可能となるように構成されている。一方、冷却装置は、冷却水の供給スピードが調整可能となるように構成されており、具体的には、冷却実施時には冷却水を自公転治具14および/または回転軸に供給し、冷却停止時には冷却水の供給を停止するように構成されており、加熱時には温水または蒸気を自公転治具14および/または回転軸に供給し、加熱停止時には温水または蒸気の供給を停止するように構成されている。また、熱電対15が基材21の近傍に取り付けられており、基材温度を間接的に計測して、アーク電流値、バイアス電圧値、ヒーター温度の少なくとも一つを成膜中に変化させることで、狙いとする基材温度に制御するように構成されている。
制御装置は、自公転治具14の回転速度を、網目状硬質炭素層が確実に形成されるように、また偏りのない成膜ができるように、予め選択された自転と公転の組み合わせの下、それぞれの回転速度を所定の回転速度に制御する。また、熱電対15による基材21の温度の計測結果に応じて、バイアス電圧、アーク電流、ヒーター温度、炉内圧力を最適化する。これにより、成膜中の基材21の温度を200℃を超え300℃以下の温度範囲に保つことができる。また、必要に応じて冷却装置の作動およびバイアス電圧の印加パターンを制御する。
例えば、基材温度を上中下段で計測して、その計測値を基に上中下段各位置のアーク電流値を成膜中に適宜変化させ、上中下段各位置の基材温度を狙い温度にするようなフィードバックシステムを組むことが好ましい。これにより上中下段での硬質炭素膜の膜組織の安定化を図ることができる。なお、従来の硬質炭素膜の成膜では、バイアス電圧やアーク電流などの成膜パラメータは決められた値を成膜前に制御装置に入力して、あらかじめプログラム化された成膜条件で行われることが多く、成膜途中で計測した基材の温度を基にアーク電流やヒーター温度を変更させるような成膜方法、装置はなかった。このため、炉内位置での温度バラつきやロット間での温度バラつきは本発明の方法と比較して大きいものであった。
5.被覆膜の検査方法
(1)TEM組織の観察
FIB(Focused Ion Beam)を用いて薄膜化した被覆膜を、TEM(透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)により、例えば加速電圧300kVで明視野TEM像を観察する。
(2)水素含有量の測定
HFS(Hydrogen Forward Scattering)分析により被覆膜中の水素含有量を測定する。
(3)硬質炭素層の粗密判定方法
硬質炭素皮膜の密度は、通常、GIXA法(斜入射X線分析法)やGIXR法(X線反射率測定法)によって測定可能である。しかし、硬質炭素層中で密度の小さい粗な硬質炭素と密度の大きい密の硬質炭素とが非常に微細に分散している場合、上記方法では各部の密度を高精度で測定することは難しい。
このような硬質炭素層に対しては、例えば、特許第4918656号公報に記載されている明視野TEM像の明るさを活用する方法を用いることができる。具体的には、明視野TEM像では、密度が低くなるほど電子線の透過量が増加するため、組成が同じ物質の場合、密度が低くなるほど像が白くなる。従って、同一組成からなる多層の硬質炭素層の各層の密度の高低を判定するために、硬質炭素層の組織断面における明視野TEM像を利用することは好ましい。
図1の明視野TEM像の場合、表面部の硬質炭素層の色調は内層部の硬質炭素の色調より白く見える。しかも、この表面部においては、白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なり、その隙間には黒色の硬質炭素が分散した網目状硬質炭素となっていることが分かる。白と黒の色調差を明瞭にするには、コントラストを強調するような色調補正を行うことができる。
(4)被覆膜の非晶性判定方法
FIBにて断面を薄膜化した被覆膜を加速電圧200kV、試料吸収電流10−9A、ビームスポットサイズ0.7nmφにて電子線回折を行い、極微小電子線回折図形の画像を取得して、その画像が散漫散乱パターンであれば非晶性と判定し、スポット状のパターンが観察されればスポット近傍の強度間隔Lを測定して、2Lλ=カメラ長の関係から格子間隔λ(nm)を求める。
(5)ラマン分光法によるID/IG比の測定方法
硬質炭素層は、ラマンスペクトル分析によるラマンスペクトルのピークを分離することにより得ることができる。具体的には、Dバンドのピーク位置を1350cm−1に固定して取り出し、そのピークの面積強度をIDとし、Gバンドのピーク位置は1560cm−1付近にフリーにセットしてピーク分離し、そのピークの面積強度をIGとして、ID/IG比を算出する。
(6)sp/sp比の測定方法
EELS分析(Electron Energy−Loss Spectroscopy:電子エネルギー損失分光法)により、sp強度、sp強度を算出することで、sp/sp比を算出することができる。具体的には、STEM(走査型TEM)モードでのスペクトルイメージング法を適用し、加速電圧200kv、試料吸収電流10−9A、ビームスポットサイズφ1nmの条件で、1nmのピッチで得たEELSを積算し、約10nm領域からの平均情報としてC−K吸収スペクトルを抽出し、sp/sp比を算出する。
本測測定方法を用いれば微小部におけるsp/sp比を測定可能であり、高密度の硬質炭素のsp/sp比は低密度の硬質炭素のsp/sp比よりも小さいため、硬質炭素の粗密判定方法として代用することができる。
(7)網目状硬質炭素層の導電率の測定方法
二端子法により、端子間に一定の電流を流して二端子間の電圧降下を測定し、抵抗値を算出して被覆膜の電気抵抗を測定する。
(8)ナノインデンテーション硬度の測定方法
ナノインデンテーション硬度は、エリオニクス社製ナノインデンターENT1100aを用いて、荷重300mgf、荷重分割数500ステップ、荷重負荷時間1秒の条件で測定する。
なお、網目状硬質炭素層が最上層の場合には、膜表面からナノインデンテーション硬度の測定が可能であるが、別の被覆層が設けられて最上層でない場合には、膜の断面を鏡面研磨した後に測定を行う。また、下層の膜についても、膜断面からナノインデンテーション硬度の測定を行う。
6.本実施の形態による効果
以上述べてきたように、本発明に掛かる被覆膜は、TEM組織の明視野像において白色を示す低密度の硬質炭素が、硬質炭素層の厚み方向に網目状に連続的に連なっており、その隙間にはTEM組織の明視野像において黒色を示す高密度の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層という従来の硬質炭素層には見られなかった非常に特異な組織構造を有している。
そして、低密度の白色の硬質炭素は、軟質で衝撃に強く低摩擦性に優れているため、このように白色の硬質炭素が三次元的に連なった構造となることで、外部から加わった応力を非常に効率的に分散することができ、低摩擦性と耐チッピング性とに優れる。また、厚み方向に連続的に連なった組織となっているため、剥離にも強い。
さらに、白色の硬質炭素の隙間に分散した黒色の硬質炭素は、高密度であるため耐摩耗性を向上させることができる。
この結果、低摩擦性と耐摩耗性を十分に両立させて、従来の被覆膜より大幅に摺動特性を向上させることができると共に、耐チッピング性および耐剥離性も従来の被覆膜より大幅に向上させることができる。特に好適な用途としては、ピストンリングなどの自動車用部品を挙げることができる。
次に、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
1.摩擦摩耗試験試料の作製
(1)基材、中間層の形成
基材(SWOSC−V相当材)を用意し、直径(φ)80mm、リング径方向幅(a1)2.6mm、リング軸方向幅(h1)1.2mmのピストンリング形状に形成し、その摺動面側の表面にアーク式PVD装置を用いて厚み10μmのCrN層を被覆した後、磨き処理を行い、面粗さRzで0.3μmのCrN層被覆鋼基材を準備した。
(2)被覆膜の形成
次に、図3に示す成膜用の炉11を備えるアーク式PVD装置を用いて、CrN層被覆鋼基材に、厚み0.2μmのCr中間層および厚み0.9μmの硬質炭素膜を以下に示す成膜条件の下で形成し、実施例、および従来例の試料を作製した。図4は本実施例および従来例の被覆膜形成時の基材温度の変化を概念的に示す図であり、横軸は成膜の時間、縦軸は基材温度である。
(a)実施例
CrN層被覆鋼基材を基材支持装置でもある自公転治具14に配置した後、アーク式PVD装置の炉11内にセットし、厚み0.2μmの金属Cr層を中間層として被覆後、ヒーター13を250℃に加熱し、6.8kW(−170V、40A)でアーク放電を行って、カーボンカソードを用いて硬質炭素の被覆を開始した。このとき、自公転治具14は、自転:39rpm、公転:4rpmの回転とした。また、炉11内の基材21の温度は、成膜初期の70℃から成膜後期の最高温度245℃まで連続的に上昇するようにアーク電流を40〜100Aの範囲で熱電対により制御した。
(b)従来例
硬質炭素成膜中のバイアス電圧を−75Vとし、実施例と同様にして成膜を行った。成膜中の基材温度は、70〜190℃まで連続的に上昇していた。
得られた各試料の表面に、再び磨き処理を施して、面粗さRzで0.15μmとした後、以下の各評価を行った。
2.被覆膜の評価
(1)明視野TEM像の観察
形成した被覆膜の明視野TEM像を観察した。観察結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例では、色調が暗い硬質炭素層の上に網目状硬質炭素層が形成されており、さらに、この網目状硬質炭素層は、白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なっており、黒色の硬質炭素がこの網目の隙間に分散して形成されていることが確認された。また、白色の硬質炭素の網目の線幅は0.5〜10nmであり、主に1〜5nmであることが確認された。
このような網目状硬質炭素層が形成されたのは、バイアス電圧−170Vの下、図4に示すように基材の被覆温度が200℃以下の成膜の初期においてまず下層が形成され、次いで230℃以上(本実施例においては、225〜245℃)に制御された温度条件下で上層が形成されたためである。
なお、210〜245℃、220〜245℃、200℃を超え295℃以下、200℃を超え250℃以下、210℃〜250℃以下、および220℃〜275℃、230℃〜260℃などに制御された温度条件でもバイアス電圧等を調整することにより上層が形成されることを確認した。
一方、従来例では、網目状硬質炭素層が形成されず、色調の暗い硬質炭素層のみが形成されていることが確認された。
(2)電気抵抗、ID/IG比、電子線回折、水素含有量、ナノインデンテーション硬度、sp/sp比の計測
実施例の被覆膜について、上層(網目状硬質炭素層)の電気抵抗、ID/IG比、電子線回折による非晶性、水素含有量、ナノインデンテーション硬度、sp/sp比を計測した。なお、電子線回折による非晶性の計測およびsp/sp比の計測は、白色硬質炭素と黒色硬質炭素の双方で行った。また、下層の硬質炭素層におけるナノインデンテーション硬度とsp/sp比も計測した。計測結果を表2に示す。
表2より、本実施例においては、上層(網目状硬質炭素層)の電気抵抗、ナノインデンテーション硬度、ID/IG比、白色硬質炭素および黒色硬質炭素の各々における電子線回折、sp/sp比、下層のナノインデンテーション硬度、sp/sp比のそれぞれが、本発明の主要な請求項の規定を満たしていることが確認された。
(3)摩擦摩耗試験
次に、各被覆膜に対して、自動車用摺動部材の評価で一般的に行われているSRV(Schwingungs Reihungund und Verschleiss)試験機による摩擦摩耗試験を行った。具体的には、図5に示すように、摩擦摩耗試験試料Wの摺動面を摺動対象であるSUJ2材24に当接させた状態で、100Nおよび1000Nの荷重を掛けて往復摺動させ、摩擦摩耗試験試料Wの摺動面を顕微鏡で観察した。なお、図5において22は中間層であり、23は被覆膜である。また、21’はCrNである。
試験結果の一例を図6〜図9に示す。図6は実施例の荷重100Nで10分間の摺動を行った後の摺動面の顕微鏡写真であり、図7は実施例の荷重1000Nで1時間の摺動を行った後の摺動面の顕微鏡写真である。また、図8は従来例の荷重100Nで10分間摺動を行った後の摺動試験結果を示す顕微鏡写真であり、図9は従来例の荷重1000Nで1時間の摺動を行った後の摺動試験結果を示す顕微鏡写真である。なお、図6、7の淡いグレー色の部分23は硬質炭素被覆膜であり、図8、9の中央の淡いグレー色の部分21’はCrNであり、その周囲の白色に近いグレー色の部分22がCrの中間層である。その周囲の濃いグレー色の部分23は硬質炭素被覆膜である。
図7に示すように、実施例では荷重1000Nで1時間摺動を行った後でも、硬質炭素の剥離が発生せず、摩耗が黒色の硬質炭素被覆層内に留まっており、実施例の被覆膜は、高荷重で使用しても長時間に亘ってチッピングや剥離が起きることがなく、被覆膜として優れた性能を有していることが確認できた。
一方、図8に示すように、従来例では荷重100Nで10分間摺動を行った時点で、チッピングもしくは剥離で硬質炭素被覆層が磨滅してしまい、CrN層被覆鋼基材のCrN層が露出していることが確認できた。さらに、図9に示すように、従来例では荷重1000Nで1時間の摺動を行うと、100Nの時と同様にチッピングもしくは剥離で硬質炭素被覆層が磨滅してしまい、CrN層被覆鋼基材のCrN層が露出していることが確認できた。
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
1、23 被覆膜
1a 網目状硬質炭素層
1b 下層
2、21 基材
11 炉
12 真空チャンバー
13 ヒーター
14 自公転治具(基材支持装置)
15 熱電対
21’ CrN
22 中間層
24 SUJ2材
T ターゲット
W 摩擦摩耗試験試料

Claims (20)

  1. 基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
    断面を明視野TEM像により観察したとき相対的に白黒で示される硬質炭素を有しており、
    白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なっており、黒色の硬質炭素が前記網目の隙間に分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
    前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
    前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなることを特徴とする被覆膜。
  2. 前記厚み方向に網目状に連なっている白色の硬質炭素の幅が、0.5〜10nmである請求項1に記載の被覆膜。
  3. 前記厚み方向に網目状に連なっている白色の硬質炭素が、電子線回折で非晶質の散乱パターンを示す請求項1又は2に記載の被覆膜。
  4. 前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素の少なくとも一部が、電子線回折で格子間隔0.3〜0.4nmの位置に回折スポットを示す、請求項13のいずれか1項に記載の被覆膜。
  5. 前記網目状硬質炭素層の水素含有量が、10原子%以下である請求項14のいずれか1項に記載の被覆膜。
  6. 前記網目状硬質炭素層のナノインデンテーション硬度が、10〜35GPaである請求項15のいずれか1項に記載の被覆膜。
  7. 前記厚み方向に網目状に連なっている白色の硬質炭素のsp/sp比が、0.2〜0.9である請求項16のいずれか1項に記載の被覆膜。
  8. 前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素のsp/sp比が、0.15〜0.7である請求項17のいずれか1項に記載の被覆膜。
  9. 前記網目状硬質炭素層の下層に、さらに、網目状ではない硬質炭素層を有しており、
    前記下層の硬質炭素層が、明視野TEM像において、前記厚み方向に網目状に連なって白色を示す硬質炭素よりも暗色を示し、sp/sp比が0.1〜0.3である請求項18のいずれか1項に記載の被覆膜。
  10. 前記下層の硬質炭素層は、ナノインデンテーション硬度が35〜80GPaである請求項9に記載の被覆膜。
  11. 前記網目状硬質炭素層が、前記下層の硬質炭素から扇状に成長している請求項9又は10に記載の被覆膜。
  12. 前記扇状の成長が、白色の硬質炭素を起点としている請求項11に記載の被覆膜。
  13. アーク式PVD法を用いて、
    前記基材温度が200℃を超え300℃以下に維持されるように、バイアス電圧、アーク電流、ヒーター温度及び又は炉内圧力を制御すると共に、
    前記基材を自転及び又は公転させながら、前記基材の表面に前記硬質炭素膜を被覆することにより、
    請求項112のいずれか1項に記載の被覆膜を製造することを特徴とする被覆膜の製造方法。
  14. 請求項13に記載の被覆膜の製造方法に用いられるPVD装置であって、
    前記基材の温度を200℃を超え300℃以下に制御する制御手段が備えられたアーク式PVD装置であることを特徴とするPVD装置。
  15. 前記基材を自公転自在に支持する基材支持手段と、
    前記基材の自転及び又は公転の回転速度を制御する回転制御手段と
    を備えている請求項14に記載のPVD装置。
  16. 基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
    相対的にsp/sp比が異なる2種類の硬質炭素を有しており、sp/sp比の大きな白色の硬質炭素が厚み方向に網目状に連なっており、sp/sp比の小さな黒色の硬質炭素が前記網目の隙間に分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
    前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
    前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している前記黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなる、ことを特徴とする被覆膜。
  17. 基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
    断面の明視野TEM像において、白色及び黒色のコントラストを有し、白色の硬質炭素が白色の点を起点として枝分かれしながら厚み方向に網目状に連なり、その隙間に黒色の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
    前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
    前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなることを特徴とする被覆膜。
  18. 基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
    相対的にsp/sp比の大きな白色の硬質炭素が相対的にsp/sp比の大きな点を起点として枝分かれしながら厚み方向に網目状に連なり、その隙間に相対的にsp/sp比の小さな黒色の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
    前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
    前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している前記黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなる、ことを特徴とする被覆膜。
  19. 基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
    断面の明視野TEM像において、白色及び黒色のコントラストを有し、白色の硬質炭素が枝分かれしながら厚み方向に網目状に連なり、その隙間に黒色の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
    前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
    前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなることを特徴とする被覆膜。
  20. 基材の表面に被覆され、摺動部材に用いられる被覆膜であって、
    相対的にsp/sp比の大きな白色の硬質炭素が枝分かれしながら厚み方向に網目状に連なり、その隙間に相対的にsp/sp比の小さな黒色の硬質炭素が分散している網目状硬質炭素層が形成されており、
    前記網目状硬質炭素層をラマン分光法で測定したとき、ラマン分光スペクトルのDバンドとGバンドのピークの面積強度比であるID/IG比が1〜6であり、
    前記網目状に連なる前記白色の硬質炭素は、前記厚み方向に向かって扇状に拡がっており、前記網目の隙間に分散している前記黒色の硬質炭素が、非晶質硬質炭素とグラファイト結晶とからなる、ことを特徴とする被覆膜。
JP2018063981A 2018-03-29 2018-03-29 被覆膜とその製造方法およびpvd装置 Active JP6707735B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018063981A JP6707735B2 (ja) 2018-03-29 2018-03-29 被覆膜とその製造方法およびpvd装置

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018063981A JP6707735B2 (ja) 2018-03-29 2018-03-29 被覆膜とその製造方法およびpvd装置

Related Parent Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2016548483A Division JP6343767B2 (ja) 2014-09-17 2014-09-17 被覆膜とその製造方法およびpvd装置

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2018127719A JP2018127719A (ja) 2018-08-16
JP6707735B2 true JP6707735B2 (ja) 2020-06-10

Family

ID=63172258

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2018063981A Active JP6707735B2 (ja) 2018-03-29 2018-03-29 被覆膜とその製造方法およびpvd装置

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6707735B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US20240159313A1 (en) * 2021-03-26 2024-05-16 Nippon Piston Ring Co., Ltd. Sliding member, manufacturing method thereof, and coating film

Family Cites Families (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5161450B2 (ja) * 2005-09-30 2013-03-13 財団法人高知県産業振興センター プラズマcvd装置及びプラズマ表面処理方法
TW200741020A (en) * 2006-04-28 2007-11-01 Tatung Co Ltd Diamond-like carbon(DLC) film and manufacturing method thereof
JP5873754B2 (ja) * 2012-05-08 2016-03-01 本田技研工業株式会社 ダイヤモンド状炭素膜被覆部材およびその製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2018127719A (ja) 2018-08-16

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6311175B2 (ja) 被覆膜とその製造方法およびpvd装置
JP6534123B2 (ja) 被覆膜とその製造方法およびpvd装置
JP6343767B2 (ja) 被覆膜とその製造方法およびpvd装置
JP6273563B2 (ja) 被覆膜とその製造方法およびpvd装置
CN105683631B (zh) 活塞环及其制造方法
CN108472737A (zh) 硬质包覆层发挥优异的耐崩刀性的表面包覆切削工具及其制造方法
CN110770362A (zh) 滑动构件及包覆膜
JP2013096004A (ja) 耐剥離性に優れる被覆工具およびその製造方法
JP6707735B2 (ja) 被覆膜とその製造方法およびpvd装置
JP6604559B2 (ja) 被覆膜とその製造方法およびpvd装置
JP6653851B2 (ja) 被覆膜とその製造方法およびpvd装置
JP7209355B2 (ja) 非晶質硬質炭素膜とその成膜方法
WO2018181097A1 (ja) 硬質炭素被覆膜
Kiryukhantsev-Korneev et al. Studying the Diffusion-barrier Properties, Thermal Stability and Oxidation Resistance of TiAlSiCN, TiAlSiCN/AlO x, and TiAlSiCN/SiBCN Coatings
Ciupina et al. THIN FILMS DEPOSITED BY THERMIONIC VACCUM ARC METHOD
Budna Suitability of different nanocomposite concepts for self-lubricating hard coatings

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20180426

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20180426

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20181221

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20190115

RD02 Notification of acceptance of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7422

Effective date: 20190227

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20190311

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20190227

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20190514

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20190910

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20190926

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20200218

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20200318

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6707735

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250