JP2013176855A - ボールペンチップ及びそれを用いたボールペン - Google Patents

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Abstract

【課題】ボール及びボール抱持室の底壁の摩耗が抑制され、また、チップ先端が紙面と接触し難く、かつ良好な筆跡が得られるボールペンチップ及びそれを用いたボールペンを簡単な構造で提供する。
【解決手段】チップ本体の先端部に設けたボール抱持室に、ボールを抱持し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップにおいて、前記ボールの表面及び/または前記ボール抱持室の内面に、炭素質膜を設けるとともに、前記炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有するとともに、前記チップ先端縁より突出する長手方向のボール出長さは、前記ボールの後面がボール抱持室に当接した状態において、ボール外径の25%〜45%であることを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、チップ本体の先端部に設けたボール抱持室に、ボールを抱持し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップ及びそれを用いたボールペンに関する。
従来から、チップ本体に設けたボール抱持室にボールを抱持し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップについてよく知られている。
こうした、従来のボールペンチップにおいて、チップ先端縁からのボール出長さは、チップ先端が紙面(図示せず)と接触しないように、かつ良好な筆跡が得られ、摩耗等によりボールがチップ先端部から抜け落ちないように、ボール径の20〜30%の範囲内にしてあるのが普通であった。
さらにまた、ボールやボール抱持室の底壁の摩耗を低減するため、セラミックス製のボールを用いたり、特開2004−338134号公報「ボールペンチップ及びボールペン」のように、金属製ボールの表面をダイヤモンド状炭素膜などの硬質の材料によりコーティングしたりすることが試みられている。また、ボールによるボール抱持室の底壁の摩耗を低減するために、ボールだけでなくチップ本体を硬質の材料によりコーティングすることが試みられている。
特開2004−338134号公報
ところで、ボールペンに用いられるインキは、水性ボールペン用インキ、剪断減粘性が付与された水性又は油性のボールペン用インキ、油性ボールペン用インキ、に大別できる。近年、剪断減粘性が付与された水性又は油性のボールペン用インキ、及び、油性ボールペン用インキは、筆感向上等を目的として、粘度を低くすることが望まれている。
本発明者による、回転するボールとボール抱持室の底壁との関係についての分析によれば、ボールとボール抱持室の底壁との間にボールペン用インキが入り込むことで形成される流体潤滑、ボールとボール抱持室の底壁とが直接に接触する境界潤滑、流体潤滑と境界潤滑とが混じり合った混合潤滑、のそれぞれの状態がある。
しかし、特許文献1のように、ボール及びチップ本体の硬度を高くしただけでは、ボール及びチップ本体の摩耗を完全に防止するには至っていないのが現実である。これは、ボールとボール抱持室の底壁との接触部位をミクロ的に見た場合には、ボールとボール抱持室の底壁との界面にボールペン用インキが介在することなく直接接触する境界潤滑の状態となる場合があり、特にボールペン用インキが低粘度の場合に生じやすいためであると推測する。
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、ボール及びボール抱持室の底壁の摩耗が抑制され、また、チップ先端が紙面と接触し難く、かつ良好な筆跡が得られるボールペンチップ及びそれを用いたボールペンを簡単な構造で提供することにある。
本発明は、前記問題を解決するために、第1の構成として、チップ本体の先端部に設けたボール抱持室に、ボールを抱持し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップにおいて、前記ボールの表面及び/または前記ボール抱持室の内面に、炭素質膜を設けるとともに、前記炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有するとともに、前記チップ先端縁より突出する長手方向のボール出長さは、前記ボールの後面がボール抱持室に当接した状態において、ボール外径の25%〜45%であることを特徴とする。
また、第2の構成として、前記酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率は、0.1以上であることを特徴とする。
さらにまた、第3の構成として、前記炭素質膜は、sp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率が0.3以上であることを特徴とする。
また、第4の構成として、前記炭素質膜が、中間層を介して前記ボールの表面に設けており、前記中間層が、炭素及びシリコンを含むことを特徴とする。
さらにまた、第5の構成として、第1ないし第4のいずれか1項に記載のボールペンチップを、インキタンクの先端に具備し、前記インキタンク内に、ボールペン用インキを収容してなるボールペンであって、前記ボールペンチップとインキタンクとの間にチップ保持部材を具備し、このチップ保持部材の後方にインキタンクを着脱自在に取り付けたことを特徴とする。
本発明は、ボール及びボール抱持室の底壁の摩耗が抑制され、また、チップ先端が紙面と接触し難く、かつ良好な筆跡が得られるボールペンチップ及びそれを用いたボールペンを簡単な構造で提供することができた。
実施形態のボールペンチップを示す縦断面図である。 図1における100m筆記後の縦断面図である。 ボール表面を示す一部省略した要部拡大断面図である。 実施形態のボールペンチップを用いたボールペンを示す縦断面図である。 図4のキャップを取り外した状態を示す図である。
本発明によるボールペンチップ及びそれを用いたボールペンの実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明すると以下の通りである。
本発明の一実施形態であるボールペンチップ1の断面図は図1から図3に示す通りである。前記ボールペンチップ1は、例えば、φ2.3mm〜φ2.5、硬度が230Hv〜280Hvのステンレス鋼線材を切削加工によって得ている。このボールペンチップ1は、チップ本体11のボール抱持室13、インキ流通孔16と、インキ流通孔16から放射状に伸びるインキ流通溝15を作製後、ボール抱持室の底壁14に、φ0.7mmのボール10を載置し、チップ先端部12を内側へかしめることで、ボール10を回転自在に抱持してある。
尚、図1では、ステンレス鋼線材をドリルによる切削加工によってチップ本体11を形成する切削タイプを例示しているが、金属製のパイプ(例えばステンレス鋼製パイプ)の先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数(例えば、3個または4個)の内方突出部とによってボール抱持室を形成し、内方突出部によって設けた底壁にボールを載置し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップであってもよい。
チップ本体11に抱持されているボール10の材質は特に限定されないが、一般に金属またはセラミックスからなるものが用いられる。本発明によるボールペンには耐久性が求められるために、高度の高い材料が選択されることが好ましい。例えば、炭化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、炭化ケイ素などのセラミックスやステンレス鋼などの金属が用いられる。
なお、本実施形態においては、ボール10がチップ先端縁より臨出するボール出長さHは、ボール径の30%であり、かしめ角度αは90度であり、ボール10の縦方向のクリアランス(可動距離)は15μmであり、底壁4の傾斜角度βは135度である。尚、チップ先端部12のかしめ角度αは、紙当たり角度やインキ流路、かしめ保持力を考慮して60〜110度とすることが好ましく、70〜100度が最も好ましい。また、底壁4の角度βは、150度を超えると、長距離筆記における摩耗を抑制し難く、90度より小さいとインキを溜める空間が小さくなる傾向となるため、底壁の角度βは、90度以上、150度以下が好ましく、100度から140度が最も好ましい。
本発明によるボールペンチップにおいては、前記ボール10表面、または前記ボール10表面と前記ボール抱持室13の底壁14表面の両方に炭素質膜10Aが形成されていてもよい。
また、ボール抱持室の底壁14表面に炭素質膜10Aが形成される場合には、ボール10と接触する部分だけに炭素質膜が形成されていればよいが、製造の容易さや、使用による変形などの観点から、実際の接触部分よりも広い範囲に炭素質膜が形成されていてもよい。さらには、ボール抱持室13の内面全部に炭素質膜が形成されていてもよい。
本発明において炭素質膜10Aは、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有している。このため、ボール10またはボール抱持室13の耐久性が高くなる。さらに本発明における炭素質膜10Aはインキとの親和性が高いため、ボールとボール抱持室内部との隙間にインキが保持され、ボール10とボール抱持室の底壁14との直接の接触が生じにくくなる。この結果、ボール10とボール抱持室の底壁14とが直接に接触することによるボール10とボール抱持室の底壁14の摩耗を低減でき、耐久性がさらに改良される。そして耐久性改良により使用に伴う書き味の劣化が生じにくくなる。その結果、ボールペンチップの交換は不要となり、長期にわたり安定した筆記性能を満足するボールペンを実現することができる。また、ボールとインキとの親和性が向上することにより、インキの供給を安定化することができるので、より均一な筆跡及び良好な筆感を実現することが可能となる。
尚、炭素質膜10Aにおいて炭素原子は種々の形態で酸素原子と結合する。具体的には、C−O、O=C−O、およびC=Oの形態で炭素原子と酸素原子とが結合していると考えられる。ここで、C−Oは水酸基及びエーテル等を主に構成し、C=Oはカルボニル基及びケトン等を主に構成し、O=C−Oは主にカルボキシル基及びエステル等を主に構成していると考えられる。これらの結合によって親水性が高くなると考えられる。また、炭素原子は、その他、炭素や水素とC−CまたはC−Hの形態で結合している。したがって、炭素の全結合(C−O、O=C−O、C=O、C−C、およびC−H)に対する酸素を含む結合(C−O、O=C−O、およびC=O)の割合(以下、COtotalという)が大きくなるほど、炭素質膜の表面における親水性が増大し、炭素質膜とインキとの親和性が高くなると考えられる。COtotalの値はボールの表面とインキとの親和性が高まり、長期及び長距離にわたり安定した筆記性能を維持しやすいので0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましい。一方、COtotalの値が大きくなりすぎると、炭素同士の結合が減少して硬度が低下する傾向があるため、0.5以下とすることが好ましく、0.45以下であることがより好ましい。
本発明において炭素質膜10Aは、任意の方法により、ボール10表面、またはボール抱持室13の底壁14表面に形成させることができる。炭素質膜10Aは、ボール10表面またはボール抱持室13の底壁14表面のいずれか一方に形成させればよいが、両方に形成させてもよい。
尚、炭素質膜10Aを形成する方法は、特に制限されない。例えば、炭化水素ガスを原料として用いるプラズマ化学気相堆積法(プラズマCVD法)又は触媒化学気相堆積法(CAT−CVD法)等により形成することができる。また、固体グラファイトを原料とするスパッタリング法、アークイオンプレーティング法等により形成することもできる。さらに、他の方法により形成してもよく、複数の方法を組み合わせて形成してもよい。
本発明において用いられる炭素質膜10Aは、ダイヤモンド様膜(DLC膜)に代表されるsp炭素−炭素結合(グラファイト結合)及びsp炭素−炭素結合(ダイヤモンド結合)を含む膜である。DLC膜のようなアモルファス状態の膜であっても、ダイヤモンド膜のような結晶状態の膜であってもよい。しかしながら、本発明において炭素質膜は、sp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率が高いほうが、炭素質膜の硬度が高くなるので好ましい。具体的には、sp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率が0.3以上であることが好ましい。
また、通常、炭素質膜はsp炭素−水素結合及びsp炭素−水素結合を含んでいるが、本発明における炭素質膜には炭素−水素結合は必須の構成要素ではない。また、炭素質膜には本発明の効果を損なわない範囲でシリコン(Si)又はフッ素(F)等が添加されていてもよい。
また、炭素質膜10Aへ炭素−酸素結合を導入する方法は、例えば酸素プラズマ又は酸素を含むガスのプラズマ等の照射により行えばよい。酸素を含むガスとしては水蒸気、空気等を用いることができる。また、酸素原子を含む有機物化合物等のガスを用いることもできる。さらに、酸素を含む雰囲気において炭素質膜に紫外線を照射したり、炭素質膜を酸化性の溶液に浸漬することによって、酸素を導入することもできる。また、炭素質膜を成膜する際に雰囲気中の酸素濃度を高くすることにより、炭素質膜を成膜する際に炭素−酸素結合を導入することも可能である。炭素質膜の成膜直後にはその表面に未結合手が存在している。このため、成膜直後の炭素質膜を酸素を含む雰囲気に放置することにより未結合手と酸素とを反応させて炭素−酸素結合を導入することも可能である。
炭素質膜10Aの膜厚は、特に限定されないが、0.001μm〜3μmの範囲が好ましく、0.005μm〜1μmの範囲であることがより好ましい。また、炭素質膜10Aはボール10またはボール抱持室13の底壁14表面に直接形成することができるが、ボール10またはボール抱持室13の底壁14表面と炭素質膜とをより強固に密着させるために、中間層10Bを設けることが好ましい。中間層10Bの材質としては、ボールまたはボール抱持室の種類に応じて種々のものを用いることができるが、例えばケイ素(Si)と炭素(C)、チタン(Ti)と炭素(C)又はクロム(Cr)と炭素(C)からなるアモルファス膜等の公知のものを用いることができる。その厚みは特に限定されるものではないが、0.001μm〜0.3μmの範囲が好ましく、0.005μm〜0.1μmの範囲であることがより好ましい。中間層10Bは、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法又はアークイオンプレーティング法等を用いて形成することができる。
本発明の一実施形態であるボールペン2の断面図は図4、図5に示す通りである。このボールペン2は直液式ボールペンであり、ペン先保持部材3の両端にボールペンチップ2とインキタンク4とが取り付けられている。このペン先保持部材3には、インキタンク4の内圧上昇に伴う溢出インキを一時的に保持する櫛歯31が形成されている。この櫛歯31により保留溝32及び誘導溝33が画成され、インキを保溜する機能が発揮される。ボールペン2のボールペンチップ1側を先端側とすると、後端側にインキタンク4が取り付けられているが、本実施形態においてはインキタンク4は着脱自在に取り付けられており、ボールペン2はインキタンク交換式ボールペンである。
図4に図示されたボールペン2は、先軸5と、後軸6とをさらに具備している。前記先軸5はペン先保持部材3を収容しており、またその後端部に後軸6を着脱自在に取り付けるための螺合構造が設けられている。先軸5に収容されているペン先保持部材の後端側にはインキタンク4が着脱自在に取り付けられる構造が設けられている。図1に示されたボールペンにおいては、後述する先軸5の後端が突出して、筒状の結合部52が形成され、それにインキタンク4が着脱自在に接続されている。このインキタンク4は、後軸6を取り付けることによって後軸6内に収容される。前記ペン先保持部材3の先端にはボールペンチップ1が取り付けられている。
・先軸
前記先軸5は、両端が開口された筒状構造、例えば円筒体よりなり、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート等)の射出成形等により得られる。前記先軸5の後端部には、縮径された筒状の螺合部51と、該螺合部51の内側に同心円状に配置される筒状の結合部52とを備える。前記螺合部51の外面には、雄ネジ部が形成される。前記結合部52は、インキタンク4の取り付け時、インキタンク4の開口部内に圧入される。さらに、前記結合部52の後端の一部には、インキタンク4の取り付け時にインキタンク4の開口部の栓体9を後方へ押し外して開栓させるための突片52aが形成される。
・後軸
前記後軸6は、先端側が開口された有底筒状体よりなり、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート等)の射出成形等により得られる。前記後軸6の先端側開口部の内周面には、前記先軸5の螺合部51の雄ネジ部に着脱自在に螺合可能な雌ネジ部61が形成されている。また、前記後軸6は、インキタンク4内のインキ残量を外部より視認可能なよう、透明性を有することが好ましい。
・チップ保持部材
前記チップ保持部材3は、合成樹脂(例えば、ABS樹脂等)の射出成形等により得られる。このチップ保持部材3にはボールペンチップ1とインキタンク4とが取り付けられている。インキタンク4は着脱自在に取り付けられている。一方、図1に示されたボールペンにおいては、ボールペンチップ2は着脱不可能に取り付けられている。すなわち、本願発明においては、ボールペンチップの耐久性が高いために交換の必要性がなく、そのために着脱可能とする必要がないのである。ただし、より長期にわたって使用することを意図して、ボールペンチップを着脱可能に取り付けることも可能である。
本発明においてチップ保持部材3は、ボールペンチップ1とインキタンク4とを連結する機能を有するものである。ここで、より高い筆記特性を実現するために、チップ保持部材にインキ保溜機能を持たせることが好ましい。図4に示されたボールペンはインキ保溜機能を有するチップ保持部材を具備するものである。
前記チップ保持部材3は、複数の円板状の櫛歯31を備えている。前記櫛歯31の相互間には、インキを一時的に保溜する保溜溝32が形成されている。前記櫛歯31には、前記各々の保溜溝32と接続している、軸方向に延びるスリット状の誘導溝33が形成されている。前記チップ保持部材3の櫛歯31群の最後端に位置する鍔部34には、前記誘導溝33と接続し且つインキタンク4側に開口する連通溝35が前後に貫設されている(図2参照)。また、前記櫛歯31には、空気流通用の凹溝36が形成されている。また、前記チップ保持部材3の中心には、中心孔37が貫設されている。前記中心孔37には、合成樹脂の押出成形体からなる第1のインキ誘導部材7が挿着される。また、ボールペンチップ1の内部には、ボール10後面にインキを誘導する繊維加工体よりなる第2のインキ誘導部材8が収容される。
なお、ここではチップ保持部材3としてインキタンク内の内圧上昇に伴う溢出インキを一時的に保持するインキ保溜機能を有する部材を例示したが、特にこれに限定されるものではない。
・インキタンク
図4、図5に示されたボールペン2において、前記インキタンク4は、合成樹脂(例えは、ポリエチレン等)の射出成形等により得られる。前記インキタンク4は、一般に先端が開口され且つ後端が閉鎖された有底筒状体であり、開口部の内周面には、インキタンク4内を封鎖する栓体9が、嵌着、溶着または接着等により設けられている。前記インキタンク4内には、ボールペン用インキが直接収容されている。尚、前記インキタンク4は、内部のインキ残量が視認可能なよう、透明性を有することが好ましい。
また、図1には、インキタンクにインキを直に貯蔵する直液式ボールペンが例示されているが、中綿にインキを含浸した中綿式ボールペンであってもよい。
また、本発明によるボールペンに用いられるインキは、水性インキ、水性ゲルインキ、油性インキ等、特に限定されるものではない。しかし、ニュートン粘性の水性インキ、剪断減粘性を付与した水性インキは、ボールとボール抱持室との接触部分が境界潤滑となって摩耗し易い傾向があるため、本発明による耐久性改良の効果が顕著に表れるので好ましい。さらに、本発明に用いられるインキの粘度も、特に限定されるものではないが、筆記時の粘度が10mPa・s未満(20℃)であるインキを用いた場合にも、同様に本発明の効果が顕著に表れるので好ましい。
また、筆記時の粘度が10mPa・s未満(20℃)の場合には、筆記距離0mのクリアランスAは、5μmより小さいと十分なインキ消費量が得られず、カスレなどが発生する恐れがあり、25μmを超えると、製造時におけるインキ漏れや垂れ下がりが発生する恐れがあることなどを考慮して適宜設定することができ、10μm≦A≦25μm、好ましくは、15μm≦A≦20μm、15μm≦A≦18μmが最も好ましい。
また、本発明によるボールペンに用いられるインキは、炭素質膜10Aとの親和性が高いことが望ましい。例えばボールペン2に用いられるインキには、アルコールやグリコールエーテル等の親水性官能基を有する成分が含まれていることが多い。このような成分を含むインキは、従来使用されていたボール、例えば表面処理がなされていない炭化ケイ素からなるボールとは親和性が低い。このため、ボールとボール抱持室との接触部分が境界潤滑となり易い傾向がある。しかしながら、本発明においてはボールまたはボール抱持室のいずれかに炭素質膜が形成されており、それと親和性の高いインキを用いることでボールとボール抱持室との間が流体潤滑となりやすい。このような炭素質膜に対するインキの親和性は、接触角により評価することができる。
さらに本発明は、インキ流出量の安定、ボール保持力の低下の抑制、筆感の向上といった点でも効果があることが確認された。これは、ボール10とボール抱持室13の底壁14との当接部は、筆圧を直接受けてボールが回転するが、筆記時の筆記角度によって、チップ先端部12の内面も当接していることを確認している。そのため、ボール10表面とインキとの親和性を高めることで、ボール出長さHを大きく、具体的には、25%〜45%としても、安定した筆記性能を維持することができ、且つ紙面などの筆記面とチップ先端部12の表面の接触を抑制し、前記したチップ先端部12の内面の摩耗抑制及びチップ先端部12の表面の摩耗を抑制する相乗効果によって、ボール保持力の低下を抑制し、長距離筆記において安定した筆記性能を維持することができる効果を奏する。尚、25%未満では、筆記時にチップ先端部が紙面に接触しやすく、45%を超えると衝撃等によってボール保持し難くなる傾向となるため、25%〜45%、好ましくは30%〜40%、最も好ましくは35%〜40%である。
また、ボール出長さHを25%〜45%することで、書き出し性能及びインキ垂れ下がりを抑制する効果も奏する。これは、インキ組成によっても異なるが、ボールの表面とインキとの親和性を高めることで、ボール表面にインキが保持し易く、書き出し性能が向上し、且つボールとチップ先端部の内面との間にあるインキが乾燥し被膜を形成し易くなり、インキ垂れ下がり及びインキドライアップを抑制することができるためと推測する。
図1に示されたボールペンチップ1においては、直径0.5mmの炭化タングステン(ISO K−10相当)のボールを用いている。ボールの大きさは、そのボールペンの用途や筆記時に要求される描線の幅などによって決められるが、一般に0.25〜2.0mmの範囲から選択される。
・炭素質膜
本発明によるボールペンチップ1においては、ボール10またはボール抱持室13の底壁14表面の少なくとも一方に炭素質膜10Aが形成されている。次に、炭素質膜10Aの形成方法について説明する。ここでは、例としてボール10表面に炭素質膜10Aを形成させる方法を説明する。ボール抱持室の底壁14表面に炭素質膜を形成させる場合にも同様の方法を応用することができる。
まず、ボール10の表面にSiとCとを含むアモルファス膜からなる中間層10Bを形成させる。成膜には例えばイオン化蒸着法を用いることができる。この方法では、真空ポンプを用いてイオン化蒸着用のチャンバー内を所定の圧力に調整すると共に、チャンバー内にテトラメチルシラン(Si(CH)を導入し、ボールにバイアス電圧(例えば1kV)を印加して、放電(例えば30分間)を行う。成膜の際にチャンバー内においてボールを回転させることにより、ボール10の表面全面に中間層10Bを形成することができる。
中間層10Bの形成後、チャンバー内に供給するガスをベンゼンに変更し、炭素質膜を形成する。チャンバー内を真空ポンプを用いて所定の圧力に調整した後、ボールにバイアス電圧(例えば1kV)を印加して、放電(例えば90分間)を行う。成膜の際にチャンバー内においてボールを回転させることによりボール10の表面全面に炭素質膜10Aを形成することができる。
この後、酸素を含む雰囲気においてプラズマ照射を行い、炭素質膜への炭素−酸素結合の導入を行う。チャンバー内を例えば100Paの圧力に調整し、出力を例えば10Wとしてプラズマ照射を行い、目的のボールを得ることができる。
得られた炭素質膜10Aに含まれる炭素−酸素結合の割合は、X線光電子分光(XPS)測定により評価することができる。測定条件は、形成させる炭素質膜の種類、厚さなどによって調整されるが、例えば、試料に対する検出角度を90°とし、X線源にはAlを用い、X線照射エネルギーを100Wとすることができる。1回の測定の時間は0.1ms程度とされるのが一般的である。また、測定精度を高めるために、1つの試料について複数回、例えば64回測定を行ってその平均値を測定結果とすることがある。
炭素質膜中のC−O、C=O及びO=C−Oの割合を求めるために、XPS測定により得られた炭素1s(C1s)ピークを、炭素同士が結合したspC−C及びspC−C、炭素と水素とが結合したspC−H及びspC−H、炭素と酸素とが結合したC−O、C=O及びO=C−Oの7つの成分にカーブフィッティングにより分解する。カーブフィッティングにあたり、spC−Cの結合エネルギーは283.8eV、spC−Cの結合エネルギーは284.3eV、spC−Hの結合エネルギーは284.8eV、spC−Hの結合エネルギーは285.3eV、C−Oの結合エネルギーは285.9eV、C=Oの結合エネルギーは287.3eV、O=C−Oの結合エネルギーは288.8eVとするのが適当である。カーブフィッティングにより得られた各ピークの面積をC1sピーク全体の面積により割った値を、各成分の組成比とした。C−O、C=O及びO=C−Oの組成比の和を炭素−酸素結合した炭素原子の全炭素原子に対する割合(COtotal)とする。
炭素質膜10Aが形成されたボールをオージェ電子分光分析装置(アルバックファイ株式会社製 PHI−660型)により分析することで、中間層10Bおよび炭素質膜10Aの厚さを測定することができる。具体的には、炭素質膜10Aが形成されたボール10の表面を段階的にエッチングし、各段階でオージェ電子分光分析法により表面分析を行う。測定条件は、例えば、電子銃の加速電圧を10kV、試料電流を500nm、アルゴンイオン銃の加速電圧を2kVとする。この測定条件により、ボール表面の40μm角の領域について、各深さにおける分析を行うことで、中間層10Bや炭素質膜10Aの厚さを測定することができる。
前記した方法により製造した炭素質膜付きのボールについて分析した場合には以下の結果が得られた。炭素質膜10Aが形成されたボール10の表面から80nm程度の深さまではほぼ炭素原子(C)だけが存在しており、炭素質膜が形成されていた。80nm〜120nmの深さにおいては、Si原子が存在しており、SiCからなる中間層10Bが形成されていた。100nm以上の深さの部分では炭化タングステン(WC)だけが検出され、ボールである炭化タングステンの表面に、中間層10Bおよび炭素質膜10Aが形成されていることが確認された。
実施例
前記した方法により、ボール表面に炭素質膜を形成させたボール(DLC−1)と、プラズマ照射条件を変えることにより、炭素−酸素結合の割合が異なる炭素質膜を得たボール(DLC−2)を作成した。具体的には、DLC−1は、高周波電源の出力を10Wとし、60秒秒間酸素プラズマを照射した。DLC−2は、高周波電源の出力を50Wとし、60秒間酸素プラズマを照射した。これらのボールに形成された炭素質膜に含まれる各結合の割合を前記した方法で測定した。得られた結果は表1に示す通りであった。
Figure 2013176855
酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率(COtotal)は、DLC−1では0.16であり、DLC−2では0.43であった。酸素プラズマを照射する際の電源出力が高いDLC−2の方がDLC−1よりもCOtotalの値が大きくなった。COtotalをさらに詳しくみると、C−Oの全炭素に対する比率は、DLC−1とDLC−2とでほぼ同じとなったが、C=Oの比率は、DLC−2においてDLC−1の約6倍となり、O=C−Oの比率は、DLC−2においてDLC−1の約9倍となった。また、これらの炭素質膜におけるsp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率は0.3以上であった。
次に、炭素質膜を形成していない炭化タングステンボール(WC)、前記したDLC−1、または前記したDLC−2と、ボールペン用インキとの接触角に関し、測定を行った。得られた結果は図4に示す通りであった。尚、ボールペン用インキは、水、有機溶剤、着色剤(水溶性染料)からなるボールペン用水性インキ(株式会社パイロットコーポレーション製、20℃の環境下におけるインキ粘度は、2mPa・s)を用いて測定を行っている。
未処理のWCボールでは60°程度あった接触角がDLC−1では55°程度まで低下し、DLC−2では3°程度まで低下しており非常に親和性が高くなっていることがわかる。炭素−酸素結合を有する炭素質膜10Aを形成することにより、ボールペン用インキとの親和性が向上することが明らかである。
接触角の測定には、自動接触角測定機(協和界面科学株式会社製DM−500(商品名))を用いた。ボールに設けた炭素質膜と同一条件にて設けた炭素質膜を有する試験プレート(WC、ISO K−10相当)の表面上にインキを1μl滴下して接触角を測定した。測定タイミングは滴下直後とし、測定値は3点の平均値とした。
尚、前記インキの表面張力は40mN/mであった。インキの表面張力は、インキタンクの交換時にスムーズにインキが供給されるように、20℃の環境下で、20mN/m以上、40mN/m以下とすることが好ましくは、25mN/m〜35mN/mとすることが最も好ましい。この表面張力の測定方法は、20℃の環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、ガラスプレートを用いて、垂直平板法によって測定によって求めることができる。
次に、前記の各ボールを具備したボールペンを準備して、走行試験を行った。この試験は、ボールペンを紙面に対して70度傾斜させた状態で保持し、直径32mmの円を描くように回転させ、筆記用紙(JIS:P3201)を4m/分の速さで移動させる試験機を用いて、ボールペンによる筆記距離を調べる試験である。ボールペンが1つの円を描くことにより約10cmの距離を筆記する。筆記距離の100mごとにボールホルダからのボール先端位置までの距離を測定した。ボール及びチップ本体の磨耗により、チップ本体からのボール先端位置までの距離(ボール出長さH)が小さくなるため、ボール先端位置の変化量(沈み量)を磨耗量とした。また、インキタンクに充填されたインキの消耗後は、インキタンクを交換し、さらに走行試験を継続した。
先に述べた摩耗量を測定した結果、炭素質膜を形成していない未処理のボール(WC)>表面に炭素−酸素結合の官能基導入を行っていない炭素質膜(DLC−0)>DLC−1>DLC−2という結果となった。これは、水性インキにおいては、ボール10とボール抱持室13の底壁14との間での境界潤滑或いは混合潤滑になると考えられるが、炭素−酸素結合を有する炭素質膜10Aを形成した場合には、ボール10と水性インキとの親和性が向上し、ボール10とボール抱持室13の底壁14との直接の接触が生じにくいため、ボール10及びボール抱持室13の底壁14が摩耗しにくくなったためである考えられる。また、DLC−0は、2000m筆記において、摩耗量Hが大きく、均一な筆跡を得られなかった。一方、DLC−1、DLC−2については、3000m、5000mの筆記においても安定した筆記性能を維持することができた。
また、チップ先端部12の内壁の摩耗量を確認した結果、炭素質膜を形成していない未処理のボール(WC)>表面に炭素−酸素結合の官能基導入を行っていない炭素質膜(DLC−0)>DLC−1>DLC−2という結果となった。これは、ボール10とチップ先端部12の内壁との間でも混合潤滑になり、ボール10及びチップ先端部12の内壁が摩耗しにくくなったためである考えられる。尚、摩耗量は、ボール10を後方から押圧し、チップ先端部10の内壁にボールを当接した状態でのチップ先端からのボール出長さによって求めたものである。
また、有機溶剤、水溶性の染料系着色剤、剪断減粘性付与剤、保湿湿潤剤及び水からなる筆記具用水性ゲルインキ(株式会社パイロットコーポレーション製、20℃の環境下で、剪断速度384.0秒−1における粘度は50mPa・s)、有機溶剤であるフェニルグリコール及びベンジルアルコール、油溶性の染料系着色剤、樹脂、潤滑剤及び粘度調整剤かなる筆記具用油性インキ(20℃の環境下における粘度は1500mPa・s)においても、接触角は、WCボール>DLC−1>DLC−2という結果となった。尚、接触角は、粘度の高い水性ゲルインキ及び油性インキの場合には滴下の3秒後の測定(測定値は3点の平均値)によって求めることができる。
本発明のボールペンチップは、ボールペンとして広く利用可能であり、特にφ0.7mm以上のボールを用いたボールペンとして好適に用いることができる。
1 ボールペンチップ
2 ボールペン
3 インキ保溜部材
31 櫛歯
32 保留溝
33 誘導溝
34 鍔部
35 連通溝
36 凹溝
37 中心孔
4 インキタンク
5 先軸
6 後軸
7 第1のインキ誘導部材
8 第2のインキ誘導部材
9 栓体
10 ボール
10A 炭素質膜
10B 中間層
11 チップ本体
12 チップ先端部
13 ボール抱持室
14 底壁
14A 当接面
15 インキ流通溝
16 インキ流通孔
α かしめ角度
β 底壁の角度
H ボール出長さ

Claims (5)

  1. チップ本体の先端部に設けたボール抱持室に、ボールを抱持し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップにおいて、前記ボールの表面及び/または前記ボール抱持室の内面に、炭素質膜を設けるとともに、前記炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有するとともに、前記チップ先端縁より突出する長手方向のボール出長さは、前記ボールの後面がボール抱持室に当接した状態において、ボール外径の25%〜45%であることを特徴とするボールペンチップ。
  2. 前記酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率は、0.1以上であることを特徴とする請求項1に記載のボールペンチップ。
  3. 前記炭素質膜は、sp炭素−炭素結合のsp炭素−炭素結合に対する比率が0.3以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のボールペン。
  4. 前記炭素質膜が、中間層を介して前記ボールの表面に設けており、前記中間層が、炭素及びシリコンを含むことを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載のボールペンチップ。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項に記載のボールペンチップを、インキタンクの先端に具備し、前記インキタンク内に、ボールペン用インキを収容してなるボールペンであって、前記ボールペンチップとインキタンクとの間にチップ保持部材を具備し、前記チップ保持部材の後方にインキタンクを着脱自在に取り付けたことを特徴とするボールペン。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2015202688A (ja) * 2014-04-16 2015-11-16 株式会社パイロットコーポレーション 油性ボールペンレフィル及びそれを用いた油性ボールペン
JP2017035804A (ja) * 2015-08-07 2017-02-16 三菱鉛筆株式会社 ボールペン

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