JP2013176858A - ボールペンチップ及びそれを用いたボールペン - Google Patents
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Abstract
【課題】ボール及びチップ本体の摩耗が抑制され、また、筆感及び筆跡が良好なボールペンチップ及びそれを用いたボールペンを簡単な構造で提供する。
【解決手段】ボールペンチップにおいて、ボール抱持室の底壁には、前記ボールの曲率とは異なる曲率の曲面状の当接面が設けられており、前記ボールは当該当接面の一部である当接部に対して当接するようになっており、前記ボールと前記当接面との間に、インキ流通孔側から前記当接部までインキ流通孔側から除々に小さくなる第1の隙間が形成されていると共に、インキ流通溝の先端側から前記当接部までインキ流通溝の先端側から除々に小さくなる第2の隙間が形成されているとともに、前記ボールの表面及び/又は前記当接面の表面に炭素質膜を形成し、該炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有することを特徴とする。
【選択図】 図1
【解決手段】ボールペンチップにおいて、ボール抱持室の底壁には、前記ボールの曲率とは異なる曲率の曲面状の当接面が設けられており、前記ボールは当該当接面の一部である当接部に対して当接するようになっており、前記ボールと前記当接面との間に、インキ流通孔側から前記当接部までインキ流通孔側から除々に小さくなる第1の隙間が形成されていると共に、インキ流通溝の先端側から前記当接部までインキ流通溝の先端側から除々に小さくなる第2の隙間が形成されているとともに、前記ボールの表面及び/又は前記当接面の表面に炭素質膜を形成し、該炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有することを特徴とする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、チップ本体に、ボール抱持室と、該ボール抱持室の底壁の中央に形成したインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延びる複数本のインキ流通溝とを有し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップ及びそれを用いたボールペンに関する。
従来から、チップ本体に、ボール抱持室と、該ボール抱持室の底壁の中央に形成したインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延びる複数本のインキ流通溝とを有し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップについてよく知られている。
こうした、従来のボールペンチップにおいて、特開2000−71672号公報「ボールペンチップ」のように、ボール抱持室の底壁に、ボールと同形のボール座を設け、該ボール座にボールを載置することで、耐摩耗性等、高荷重での性能を向上してなるボールペンチップも、数多く提案されている。
また、ボールペンチップにおいて、特開2001−39077号公報「ボールペンチップ」に、ボール座を形成するためのボールをチップ先端側から押圧するハンマーリング加工によって、チップ金属素材の持つスプリングバック性によりボール座の内側部が持ち上がり、ボール座の外側部がボールと非接触となるため、座ぐり孔部を形成することが開示されている。
さらにまた、ボール座の摩耗を低減するため、セラミックス製のボールを用いたり、特開2004−338134号公報「ボールペンチップ及びボールペン」のように、金属製ボールの表面をダイヤモンド状炭素膜などの硬質の材料によりコーティングしたりすることが試みられている。また、ボールによるチップ本体の摩耗を低減するために、ボールだけでなくチップ本体を硬質の材料によりコーティングすることが試みられている。
しかし、特許文献1によるボールペンチップの製法では、単にボール座を形成しただけであるため、ボール座の摩耗が抑制されない。一方、特許文献2によるボールペンチップの製法では、座ぐり孔部を形成する新たな加工が必要となり、製造コストが高騰するとともに、ボール座までのインキ流通を良好にするものであって、ボール座のインキの流れを調整するものではなく、ボール座の摩耗を抑制することは難しい。
本件発明者による回転するボールとボール座との関係についての分析によれば、ボールとボール座との間にボールペン用インキが入り込むことで形成される流体潤滑、ボールとボール座の当接面とが直接に接触する境界潤滑、流体潤滑と境界潤滑とが混じり合った混合潤滑、のそれぞれの状態がある。
ここで、ボールペンに用いられるインキは、水性ボールペン用インキ、剪断減粘性が付与された水性又は油性のボールペン用インキ、油性ボールペン用インキ、に大別できる。近年、剪断減粘性が付与された水性又は油性のボールペン用インキ、及び、油性ボールペン用インキは、筆感向上等を目的として、粘度を低くすることが望まれている。
そのため、特許文献3のように、ボール及びチップ本体の硬度を高くしただけでは、ボール及びチップ本体の摩耗を完全に防止するには至っていないのが現実である。これは、ボールとチップ本体との接触部位をミクロ的に見た場合には、ボールとチップ本体との界面にボールペン用インキが介在することなく直接接触する境界潤滑の状態となる場合があり、特にボールペン用インキが低粘度の場合に生じやすい。
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、ボール及びチップ本体の摩耗が抑制され、また、筆感及び筆跡が良好なボールペンチップ及びそれを用いたボールペンを簡単な構造で提供することにある。
本発明は、前記問題を解決するために、第1に、チップ本体に、ボール抱持室と、該ボール抱持室の底壁の中央に形成したインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延びる複数本のインキ流通溝とを有し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップにおいて、前記ボール抱持室の底壁には、前記ボールの曲率とは異なる曲率の曲面状の当接面が設けられており、前記ボールは当該当接面の一部である当接部に対して当接するようになっており、前記ボールと前記当接面との間に、インキ流通孔側から前記当接部までインキ流通孔側から除々に小さくなる第1の隙間が形成されていると共に、インキ流通溝の先端側から前記当接部までインキ流通溝の先端側から除々に小さくなる第2の隙間が形成されているとともに、前記ボールの表面及び/又は前記当接面の表面に炭素質膜を形成し、該炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有することを特徴とする。
第2に、前記当接部は、前記当接面の軸心方向の中央位置よりもチップ先端部側に位置していることを特徴とする。
第3に、前記当接面は、軸心に対して軸対称であり、前記当接部は、前記当接面の周方向に周回するように位置していることを特徴とする。
第4に、前記当接部は、前記当接面の周方向に略均等に位置しているとを特徴とする。
さらにまた、第1項ないし第4項のいずれか1項に記載のボールペンチップを、インキタンクの先端に具備し、前記インキタンク内に、ボールペン用インキを収容してなるボールペンであって、前記ボールペン用インキは、少なくとも微粒子を含有しており、 前記微粒子の大きさは、軸心方向における前記インキ流通孔側の第1の隙間の長さよりも小さいことを特徴とするボールペン。
本願発明の第1の構成によれば、前記ボール抱持室の底壁には、前記ボールの曲率とは異なる曲率の曲面状の当接面が設けられており、前記ボールは当該当接面の一部である当接部に対して当接するようになっており、前記ボールと前記当接面との間に、インキ流通孔側から前記当接部までインキ流通孔側から除々に小さくなる第1の隙間が形成されていると共に、インキ流通溝の先端側から前記当接部までインキ流通溝の先端側から除々に小さくなる第2の隙間が形成されているとともに、前記ボールの表面及び/又は前記当接面の表面に、該ボールの表面及び/又は前記当接面の表面を覆う炭素質膜を設け、該炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有することにより、ボールと当接面(当接部)との間を流体潤滑又は混合潤滑の状態に維持しやすい。これにより、当接面(当接部)の摩耗が抑制される。さらに本発明は、インキ流出量の安定、インキリターンの円滑、筆感の向上といった点でも効果があることが確認された。
本件発明者は、第1の隙間と第2の隙間とを形成することの効果について、以下のように分析している。すなわち、ボールが回転すると、それにつられて、ボールペン用インキがインキ流通孔から第1の隙間へと引きずり込まれ、ボールと当接面との間にボールペン用インキの層が形成される。このインキの層によって圧力が発生し、ボールを浮かせる力が発生する(くさび効果)。このことにより、底壁の摩耗が抑制される。ボールの曲率と当接面の曲率とが完全に一致していて第1の隙間が存在しない場合には、ボールと当接面との間にインキが引きずり込まれないため、摩耗抑制の効果が得られない。
また、筆記時には、紙面に吐出できなかったボールペン用インキが、ボール抱持室から当接面に戻される。このとき、第2の隙間が形成されているために、当該第2の隙間においてもインキの層が形成されるため、第1の隙間におけるインキの層による効果と相乗効果的に、筆感及び耐摩耗性を向上させることができる。
また、ボールと当接面との間に前記したような第1の隙間及び第2の隙間を形成するために、当接面の形状は、ボールの曲率と異なる曲率を有する曲面状とすることが重要である。
また、第1の隙間は、インキ流通孔側の開口(ボールとボール座の隙間)が小さい程、前述したくさび効果が高いので、インキ流通孔側の開口(ボールとボール座の隙間)を小さくしておくことが好ましい。具体的には、インキ流通孔側の開口(ボールとボール座の隙間)が軸心方向の長さで10μmを超えると、くさび効果が得られ難い。従って、インキ流通孔側の開口(ボールとボール座の隙間)は、軸心方向の長さにおいて10μm以下が好ましく、0.001μm〜5μmが更に好ましく、0.001μm〜1μmが最も好ましい。
また、第1の隙間がインキ流通孔側から更に除々に小さくなるように形成されているため、ボールの当接部の近傍で、高いくさび効果(ボールを浮かせる力)を得ることができる。このことにより、当接面(特に当接部)の摩耗を効果的に抑制することができる。
さらにまた、また、本発明による筆記具に用いられるインキは、炭素質膜との親和性が高いことが望ましい。例えばボールペンに用いられるインキには、水や、アルコールやグリコールエーテル等の親水性官能基を有する成分が含まれていることが多い。このような成分を含むインキは、従来使用されていたボール、例えば表面処理がなされていない炭化ケイ素からなるボールとは親和性が低い。このため、ボールとボール抱持室との接触部分が境界潤滑となり易い傾向がある。しかしながら、本発明においてはボールまたは当接面のいずれかに炭素質膜が形成されており、それと親和性の高いインキを用いることでボールと当接面との間が流体潤滑となりやすい。また、ボールとインキとの親和性が向上することにより、インキの供給を安定化することができるので、より均一な筆跡及び良好な筆感を実現することが可能となる。このような炭素質膜に対するインキの親和性は、接触角により評価することができる。
尚、炭素質膜を形成する方法は、特に制限されない。例えば、炭化水素ガスを原料として用いるプラズマ化学気相堆積法(プラズマCVD法)又は触媒化学気相堆積法(CAT−CVD法)等により形成することができる。また、固体グラファイトを原料とするスパッタリング法、アークイオンプレーティング法等により形成することもできる。さらに、他の方法により形成してもよく、複数の方法を組み合わせて形成してもよい。
本発明において用いられる炭素質膜は、ダイヤモンド様膜(DLC膜)に代表されるsp2炭素−炭素結合(グラファイト結合)及びsp3炭素−炭素結合(ダイヤモンド結合)を含む膜である。DLC膜のようなアモルファス状態の膜であっても、ダイヤモンド膜のような結晶状態の膜であってもよい。しかしながら、本発明において炭素質膜は、sp3炭素−炭素結合のsp2炭素−炭素結合に対する比率が高いほうが、炭素質膜の硬度が高くなるので好ましい。具体的には、sp3炭素−炭素結合のsp2炭素−炭素結合に対する比率が0.3以上であることが好ましい。
また、通常、炭素質膜はsp2炭素−水素結合及びsp3炭素−水素結合を含んでいるが、本発明における炭素質膜には炭素−水素結合は必須の構成要素ではない。また、炭素質膜には本発明の効果を損なわない範囲でシリコン(Si)又はフッ素(F)等が添加されていてもよい。
また、炭素質膜へ炭素−酸素結合を導入する方法は、例えば酸素プラズマ又は酸素を含むガスのプラズマ等の照射により行えばよい。酸素を含むガスとしては水蒸気、空気等を用いることができる。また、酸素原子を含む有機物化合物等のガスを用いることもできる。さらに、酸素を含む雰囲気において炭素質膜に紫外線を照射したり、炭素質膜を酸化性の溶液に浸漬することによって、酸素を導入することもできる。また、炭素質膜を成膜する際に雰囲気中の酸素濃度を高くすることにより、炭素質膜を成膜する際に炭素−酸素結合を導入することも可能である。炭素質膜の成膜直後にはその表面に未結合手が存在している。このため、成膜直後の炭素質膜を酸素を含む雰囲気に放置することにより未結合手と酸素とを反応させて炭素−酸素結合を導入することも可能である。
炭素質膜の膜厚は、特に限定されないが、0.001μm〜3μmの範囲が好ましく、0.005μm〜1μmの範囲であることがより好ましい。また、炭素質膜はボールまたは当接面の表面に直接形成することができるが、ボールまたは当接面と炭素質膜とをより強固に密着させるために、中間層を設けることが好ましい。中間層の材質としては、ボールまたは当接面の種類に応じて種々のものを用いることができるが、例えばケイ素(Si)と炭素(C)、チタン(Ti)と炭素(C)又はクロム(Cr)と炭素(C)からなるアモルファス膜等の公知のものを用いることができる。その厚みは特に限定されるものではないが、0.001μm〜0.3μmの範囲が好ましく、0.005μm〜0.1μmの範囲であることがより好ましい。中間層は、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法又はアークイオンプレーティング法等を用いて形成することができる。
また、前記炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有し、前記炭素質膜の表面における酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率は、0.1以上とすることで、炭素質膜とインキとの親和性が高くなり、長期及び長距離にわたり安定した筆記性能を維持することができる。
これは、ボールの表面とインキとの親和性が低い場合には、ボールの表面においてインキがはじかれてしまい、ボールとチップ本体との界面にインキを保持し難くなるため、特に長距離筆記時に摩耗を防止し難くなるため、炭素質膜の表面における酸素原子と結合した炭素原子を有し、ボール表面の親水性を高めることが好ましいためである。尚、炭素質膜における酸素原子と結合した炭素原子の中で、C−Oは水酸基及びエーテル等を主に構成し、C=Oはカルボニル基及びケトン等を主に構成し、O=C−Oは主にカルボキシル基及びエステル等を主に構成していると考えられる。このため、COtotalの値が大きくなるほど、炭素質膜の表面における親水性が増大し、炭素質膜とインキとの親和性が高くなると考えられるためである。COtotalの値は0.1以上とすることでボールの表面とインキとの親和性が高まり、長期及び長距離にわたり安定した筆記性能を維持しやすい。ただし、COtotalの値が大きくなりすぎると、炭素同士の結合が減少し硬度が低下するため、0.5以下とすることが好ましい。
本発明に用いるボールの材質は特に限定されないが、一般に金属またはセラミックスからなるものが用いられる。本発明による筆記具には耐久性が求められるために、高度の高い材料が選択されることが好ましい。例えば、炭化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、炭化ケイ素などのセラミックスやステンレス鋼などの金属が用いられる。チップ本体もステンレス鋼や銅合金、アルミニウム等、特に限定されるものではない。
さらに、本願発明の第2の構成によれば、前記当接部は、前記当接面の軸心方向の中央位置よりもチップ先端部側に位置していることで、この場合、第1の隙間の長さを、第2の隙間の長さよりも長く確保することができ、高い耐摩耗性を保証することができる。インキ流通孔から当接面に供給されるボールペンインキの量に比べ、ボール抱持室から当接面に戻ってくるボールペンインキの量は少ないため、第2の隙間よりも第1の隙間の方を長く設けることが、くさび効果発生の点で、効果的であるからである。
また、本願発明の第3の構成によれば、前記当接面は、軸心に対して軸対称であり、前記当接部は、前記当接面の周方向に周回するように位置していることで、前記当接面は、軸心に対して軸対称であり、前記当接部は、前記当接面の周方向に周回するように位置している。この場合、第1の隙間及び第2の隙間がバランスよく形成されるため、流体潤滑又は混合潤滑の状態をより一層維持しやすい。
また、本願発明の第4の構成によれば、前記当接部は、前記当接面の周方向に略均等に位置していることで、第1の隙間及び第2の隙間がバランスよく形成されるため、流体潤滑又は混合潤滑の状態をより一層維持しやすい。更にこの場合、当接部は、インク流通溝から離れた位置、特に好ましくは周方向にインク流通溝の略中間位置、に位置していることが好ましい。この場合、もし当接部が摩耗しても、インキ流通溝の機能への影響が少ないため、引き続き安定したインキの流れを維持することができる。
本願発明の第5の構成によれば、第1項ないし第4項のいずれか1項に記載のボールペンチップを、インキタンクの先端に直接、またはペン先保持部材を介して装着するとともに、前記インキタンク内に、ボールペン用インキを収容してなるボールペンであって、前記ボールペン用インキは、少なくとも微粒子を含有しており、 前記微粒子の大きさは、軸心方向における前記インキ流通孔側の第1の隙間の長さよりも小さくすることで、良好な筆跡及び筆感を得ることができる。これは、第1の隙間に微粒子が入り込むことで、潤滑性が高まって、ボールと当接面との隙間が維持され易いためであると考えられる。また、微粒子がクッションの様な反発機能を発揮することでも、ボールと当接面との間のインキの層が保たれやすくなると考えられる。
前記した微粒子は特に限定されるものではなく、無機顔料、有機顔料、加工顔料などの顔料や、有機微粒子、無機微粒子などが例示でき、顔料については、具体的にはカーボンブラック、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料、マイクロカプセル顔料等が挙げられ、微粒子については、具体的には、アクリル系、シリコーン系、ポリエチレン系等の樹脂微粒子やアルミナ微粒子、シリカ微粒子などが例示できる。尚、本発明における微粒子の大きさは、あくまでも平均の大きさをいうものであり、略球状の場合には平均粒径を示すものであり、遠心沈降式やレーザー回折式の測定によって求めるこができる。微粒子の大きさは、第1の隙問のインキ流通孔側の開口の軸心方向の長さよりも小さく、且つ、0.001μm〜10μm未満、好ましくは0.001μm〜5μmである。微粒子の形状は、真球形或いは略球形であることが最も好ましい。また、微粒子の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜15質量%が好ましい。
本発明は、ボール及びチップ本体の摩耗が抑制され、また、筆感及び筆跡が良好なボールペンチップ及びそれを用いたボールペンを簡単な構造で提供することができた。
図1から図4に示す第1の実施形態のボールペンチップ1は、ボール9を抱持するためのボール抱持室3と、当該ボール抱持室3の底壁4の中央に形成されたインキ流通孔7と、当該インキ流通孔7から放射状に延びる複数本(本例では4本)のインキ流通溝6と、を有するチップ本体2のチップ先端部2aを内側にかしめることにより、ボール抱持室3内に抱持されるボール9の一部をチップ先端縁より突出させると共に当該ボール9を回転自在に抱持するボールペンチップ1である。チップ本体2は、ステンレス鋼線材からなる。また、インキ流通孔7はチップ後部孔8に連続している。
ボール抱持室3の底壁4には、ボール9の曲率とは異なる曲率の曲面状の当接面5が設けられており、ボール9は当接面5の一部である当接部に対して当接するようになっている。
さらに、ボール9と当接面5との間に、インキ流通孔7側から前記当接部まで、インキ流通孔7側から除々に小さくなる第1の隙間S1が形成されていると共に、インキ流通溝6の先端側から前記当接部までインキ流通溝6の先端側から除々に小さくなる第2の隙間S2が形成されている。
そして、直径0.5mmの炭化タングステン(ISO K−10相当)のボールを用いている。ボールの大きさは、その筆記具の用途や筆記時に要求される描線の幅などによって決められるが、一般に0.25〜2.0mmの範囲から選択される。チップ本体には、フェライト系ステンレス鋼線材(下村特殊精工株式会社製:SF−20T)を用いている。
本発明においては、前記ボール表面、または前記当接面の少なくとも一方に炭素質膜が形成されている。このため、ボールは耐久性が高いだけでなく、ボールとインキとの親和性が高い。その結果、ボールとチップ本体との隙間にインキが保持され、ボールとチップ本体の内壁面との直接の接触が生じにくくなる。従って、ボールとチップ本体とが直接に接触することによるボール及びチップ本体の摩耗を低減でき、耐久性に優れ且つ使用に伴う書き味の劣化が生じにくいボールペンを実現することができる。また、ボールとインキとの親和性が向上することにより、インキの供給を安定化することができるので、より均一な筆跡及び描線を実現することが可能となる。
このようなボールペンチップ1は、以下のように製造される。例えばφ2.3mmで硬度が230Hv〜280Hvのステンレス鋼線材が所望の長さに切断され、ボール抱持室3、インキ流通孔7、及び、当該インキ流通孔7から放射状に伸びるインキ流通溝6、が作製される。その後、ボール抱持室3の底壁4にボール9を載置した状態でチップ先端部2a側からハンマーリングが行われ、スプリングバック性によってボール9より曲率半径の大きい曲面が形成された後、チップ先端部2aが内側へかしめられる。これにより、ボール9と異なる曲率の曲面状の当接面5が形成され、ボール9は当接面5の軸心方向の中央位置よりもチップ先端部2a側で軸心回りの周回線上の当接部5aにおいて当接する。これにより、ボール9と当接面5との間に、第1の隙間S1及び第2の隙間S2が形成される。
この第1の隙間S1と第2の隙間S2とが形成されていることにより、ボール9と当接面5(当接部5a)との間を流体潤滑又は混合潤滑の状態に維持しやすい。このため、当接面(当接部)の摩耗が抑制される。
なお、本実施形態においては、ボール9がチップ先端縁より臨出するボール出は、ボール径の30%であり、かしめ角度αは90度であり、ボール9の縦方向のクリアランス(可動距離)は15μmであり、底壁4の傾斜角度βは135度である(図2参照)。さらに、第1の隙間S1のインキ流通孔7側の軸心方向における開口の長さHは、0.9μmである(図4参照)。
また、チップ先端部2aの内壁には、曲面状のシール面2bが形成されている。そして、図2に示すように、図2の縦断面における当接面5の先端縁と、当該当接面5と軸心J(図1参照)を挟んで対峙するシール面2bの先端縁と、を結ぶ線分K1、K2の交点Kが、ボールの略中心Cを通るようになっている。このことにより、ボール9の偏りが抑制され、ボール9が当接面5から外れにくいようになっている。これにより、ボール9の回転がスムーズであり、ボール9とシール面2bとの隙間も一定に維持されやすく、従って安定したインキ流出量を実現することができ、且つ、インキリターンしやすいという効果を奏することができる。また、ボール9の偏りが抑制されることで、ボール9の回転による当接部5a及びシール面2bの偏摩耗を抑制することもできる。
次に、炭素質膜の形成方法について説明する。ここでは、例として図5に示すように、ボール9表面に炭素質膜9Aを形成させる方法を説明する。ボール抱持室3の当接面5表面に炭素質膜を形成させる場合にも同様の方法を応用することができる。
まず、ボール9の表面にSiとCとを含むアモルファス膜からなる中間層9Bを形成させる。成膜には例えばイオン化蒸着法を用いることができる。この方法では、真空ポンプを用いてイオン化蒸着用のチャンバー内を所定の圧力に調整すると共に、チャンバー内にテトラメチルシラン(Si(CH3)4)を導入し、ボールにバイアス電圧(例えば1kV)を印加して、放電(例えば30分間)を行う。成膜の際にチャンバー内においてボールを回転させることにより、ボールの表面全面に中間層を形成することができる。
中間層9Bの形成後、チャンバー内に供給するガスをベンゼンに変更し、炭素質膜を形成する。チャンバー内を真空ポンプを用いて所定の圧力に調整した後、ボールにバイアス電圧(例えば1kV)を印加して、放電(例えば90分間)を行う。成膜の際にチャンバー内においてボールを回転させることによりボール9の表面全面に炭素質膜9Aを形成することができる。
この後、酸素を含む雰囲気においてプラズマ照射を行い、炭素質膜への炭素−酸素結合の導入を行う。チャンバー内を例えば100Paの圧力に調整し、出力を例えば10Wとしてプラズマ照射を行い、目的のボールを得ることができる。
得られた炭素質膜に含まれる炭素−酸素結合の割合は、X線光電子分光(XPS)測定により評価することができる。測定条件は、形成させる炭素質膜の種類、厚さなどによって調整されるが、例えば、試料に対する検出角度を90°とし、X線源にはAlを用い、X線照射エネルギーを100Wとすることができる。1回の測定の時間は0.1ms程度とされるのが一般的である。また、測定精度を高めるために、1つの試料について複数回、例えば64回測定を行ってその平均値を測定結果とすることがある。
炭素質膜中のC−O、C=O及びO=C−Oの割合を求めるために、XPS測定により得られた炭素1s(C1s)ピークを、炭素同士が結合したsp3C−C及びsp2C−C、炭素と水素とが結合したsp3C−H及びsp2C−H、炭素と酸素とが結合したC−O、C=O及びO=C−Oの7つの成分にカーブフィッティングにより分解する。カーブフィッティングにあたり、sp3C−Cの結合エネルギーは283.8eV、sp2C−Cの結合エネルギーは284.3eV、sp3C−Hの結合エネルギーは284.8eV、sp2C−Hの結合エネルギーは285.3eV、C−Oの結合エネルギーは285.9eV、C=Oの結合エネルギーは287.3eV、O=C−Oの結合エネルギーは288.8eVとするのが適当である。カーブフィッティングにより得られた各ピークの面積をC1sピーク全体の面積により割った値を、各成分の組成比とした。C−O、C=O及びO=C−Oの組成比の和を炭素−酸素結合した炭素原子の全炭素原子に対する割合(COtotal)とする。
炭素質膜が形成されたボールをオージェ電子分光分析装置(アルバックファイ株式会社製 PHI−660型)により分析することで、中間層および炭素質膜の厚さを測定することができる。具体的には、炭素質膜が形成されたボールの表面を段階的にエッチングし、各段階でオージェ電子分光分析法により表面分析を行う。測定条件は、例えば、電子銃の加速電圧を10kV、試料電流を500nm、アルゴンイオン銃の加速電圧を2kVとする。この測定条件により、ボール表面の40μm角の領域について、各深さにおける分析を行うことで、中間層や炭素質膜の厚さを測定することができる。
前記した方法により製造した炭素質膜9A付きのボール9について分析した場合には以下の結果が得られた。炭素質膜が形成されたボール9の表面から80nm程度の深さまではほぼ炭素原子(C)だけが存在しており、炭素質膜9Aが形成されていた。80nm〜120nmの深さにおいては、Si原子が存在しており、SiCからなる中間層9Bが形成されていた。100nm以上の深さの部分では炭化タングステン(WC)だけが検出され、ボール9である炭化タングステンの表面に、中間層9Bおよび炭素質膜9Aが形成されていることが確認された。
第1の実施形態を組み込んだボールペン
次に、図9に示すのは、第1の実施形態のボールペンチップ1をボールペン21に組み込んだ例である。具体的には、インキ収容筒22の先端部に、第1の実施形態のボールペンチップ1が装着されている。インキ収容筒22内には、油性ボールペン用インキ24と、グリース状のインキ追従体25と、が収容されている。
次に、図9に示すのは、第1の実施形態のボールペンチップ1をボールペン21に組み込んだ例である。具体的には、インキ収容筒22の先端部に、第1の実施形態のボールペンチップ1が装着されている。インキ収容筒22内には、油性ボールペン用インキ24と、グリース状のインキ追従体25と、が収容されている。
ボール9の後方には、コイルスプリング23が配設されており、この押圧力によって、ボール9がチップ先端部2aのシール面2b側に押圧されている。尚、ボール9を押圧するコイルスプリング23の押圧力は、10gfとしてあり、ボール保持力は、450gfであった。
このボールペン21を用いて紙面に筆記すると、インキ収容筒22にあるボールペンインキ24が、ボールペンチップ1の後部孔8からインキ流通孔7及びインキ流通溝6を通じてボール9に供給される。ボール9に供給されたボールペンインキ24は、筆圧によって前記クリアランス分だけボール9が当接面5側に移動する際に、チップ先端部2aの内壁とボール9との間に生じる隙間を介して、吐出されることになる。これによって、筆記がなされることになる。
また、筆記によってボール9が回転すると、それにつられて、ボールペン用インキ24がインキ流通孔7から第1の隙間S1へと引きずり込まれ、ボール9と当接面5との間にボールペン用インキ24の層が形成される。このインキの層によって圧力が発生し、ボール9を浮かせる力が発生する(くさび効果)。このことにより、当接面5の摩耗が抑制される。
また、筆記時には、紙面に突出できなかったボールペン用インキ24が、ボール抱持室3から当接面5に戻される。このとき、第2の隙間S2が形成されているために、当該第2の隙間S2においてもインキの層が形成されるため、第1の隙間S1におけるインキの層による効果と相乗効果的に、筆感及び耐摩耗性を向上させることができる。
実施例
前記した方法により、ボール9表面に炭素質膜9Aを形成させたボール(DLC−1)と、プラズマ照射条件を変えることにより、炭素−酸素結合の割合が異なる炭素質膜を得たボール(DLC−2)を作成した。具体的には、DLC−1は、高周波電源の出力を10Wとし、60秒秒間酸素プラズマを照射した。DLC−2は、高周波電源の出力を50Wとし、60秒間酸素プラズマを照射した。これらのボールに形成された炭素質膜に含まれる各結合の割合を前記した方法で測定した。得られた結果は表1に示す通りであった。
前記した方法により、ボール9表面に炭素質膜9Aを形成させたボール(DLC−1)と、プラズマ照射条件を変えることにより、炭素−酸素結合の割合が異なる炭素質膜を得たボール(DLC−2)を作成した。具体的には、DLC−1は、高周波電源の出力を10Wとし、60秒秒間酸素プラズマを照射した。DLC−2は、高周波電源の出力を50Wとし、60秒間酸素プラズマを照射した。これらのボールに形成された炭素質膜に含まれる各結合の割合を前記した方法で測定した。得られた結果は表1に示す通りであった。
酸素原子と結合した炭素原子の全炭素原子に対する比率(COtotal)は、DLC−1では0.16であり、DLC−2では0.43であった。酸素プラズマを照射する際の電源出力が高いDLC−2の方がDLC−1よりもCOtotalの値が大きくなった。COtotalをさらに詳しくみると、C−Oの全炭素に対する比率は、DLC−1とDLC−2とでほぼ同じとなったが、C=Oの比率は、DLC−2においてDLC−1の約6倍となり、O=C−Oの比率は、DLC−2においてDLC−1の約9倍となった。また、これらの炭素質膜におけるsp3炭素−炭素結合のsp2炭素−炭素結合に対する比率は0.3以上であった。
次に、炭素質膜を形成していない炭化タングステンボール(WC)、前記したDLC−1、または前記したDLC−2と、ボールペン用インキとの接触角に関し、測定を行った。得られた結果は表2に示す通りであった。
水性インキ、水性ゲルインキ及び油性インキのいずれについても、WCよりもDLC−1の接触角が小さく、さらにDLC−2の接触角が小さくなった。水性インキの場合には、未処理のWCボールでは60°程度あった接触角がDLC−1では55°程度まで低下し、DLC−2では3°程度まで低下しており非常に親和性が高くなっていることがわかる。水性ゲルインキについても、未処理のWCボールでは44°程度あった接触角がDLC−1では39°になり、DLC−2では22°程度まで低下した。油性インキについても、同様に32°程度あった接触角が、25°及び20°程度まで低下しており、いずれのインキにおいても、炭素−酸素結合を有する炭素質膜を形成することにより、インキとの親和性が向上することが明らかである。
尚、使用したインキは、水、有機溶剤、着色剤(水溶性染料)を含む水性インキ(株式会社パイロットコーポレーション製、20℃の環境下におけるインキ粘度は、2mPa・s)を用いて測定を行っている。水性ゲルインキは、市販のゲルインキボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製:G−2)に使用しているインキであり、有機溶剤、水溶性の染料系着色剤、剪断減粘性付与剤、保湿湿潤剤及び水等を含む。20℃の環境下で、剪断速度384.0秒−1における粘度は50mPa・sである。油性インキは、市販の油性ボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製)に使用しているインキを低粘度にしたものである。油性インキの場合、粘度が低い方が摩耗が大きくなるため、低粘度のインキを用いた。有機溶剤であるフェニルグリコール及びベンジルアルコール、油溶性の染料系着色剤、樹脂、潤滑剤及び粘度調整剤等を含む。20℃の環境下における粘度は1500mPa・sである。なお、粘度の測定にはデジタル粘度計(ブルックフィールド社製DV−II:CPE−42ローター)を用いた。
接触角の測定には、自動接触角測定機(協和界面科学社製DM−500)を用いた。炭素質膜の表面上にインキを1μl滴下して接触角を測定した。なお、測定タイミングは水性インキの場合には滴下直後とし、粘度の高い水性ゲルインキ及び油性インキの場合には滴下の3秒後とした。測定値は3点の平均値とした。
ボールペン用のインキは主に着色剤としての染料又は顔料と溶剤とからなり、水性ゲルインキの場合には増粘剤をさらに含んでいる。溶剤は水性インキ及び水性ゲルインキの場合には主に水である。このため、炭素質膜の表面がある程度親水性である方が炭素質膜とインキとの親和性が高くなる。また、油性インキの有機溶剤にも、アルコール系又はグリコエーテル系等の親水性の官能基を有する成分が含まれているため、炭素質膜の表面がある程度親水性である方が炭素質膜とインキとの親和性が高くなると考えられる。
次に、前記の各ボールを用いたボールペンチップを具備したボールペンを準備して、走行試験を行った。この試験は、20℃にてボールペンを紙面に対して70度傾斜させた状態で保持し、直径32mmの円を描くように回転させ、筆記用紙(JIS:P3201)を4m/分の速さで移動させる試験機を用いた。ボールペンが1つの円を描くことにより約10cmの距離を筆記する。筆記距離の100mごとにチップ先端縁からのボール先端位置までの距離を測定した。ボール及び当接面の摩耗により、チップ先端縁からのボール先端位置までの距離が小さくなるため、ボール先端位置の変化量(沈み量)を摩耗量とした。尚、油性インキは400gf(約3.92N)、水性インキ及び水性ゲルインキ100gf(約0.98N)で走行試験を行っている。
先に述べた摩耗量を測定した結果、炭素質膜を形成していない未処理のボール(WC)>表面に炭素−酸素結合の官能基導入を行っていない炭素質膜(DLC−0)>DLC−1>DLC−2という結果となった。これは、水性インキでは、ボールと当接面(当接部)との間で境界潤滑あるいは混合潤滑になると考えられるが、炭素−酸素結合を有する炭素質膜を形成した場合には、ボールと水性インキとの親和性が向上し、ボールとボールと当接面(当接部)との直接の接触が生じにくいため、ボール及び当接面が摩耗しにくくなったためである考えられる。
次に、図6から図8に示す第2の実施形態のボールペンチップ11も、ボール9を抱持するためのボール抱持室13と、当該ボール抱持室13の底壁14の中央に形成されたインキ流通孔17と、当該インキ流通孔17から放射状に延びる複数本(本例では4本)のインキ流通溝16と、を有するチップ本体12のチップ先端部12aを内側にかしめることにより、ボール抱持室13内に抱持されるボール9の一部をチップ先端縁より突出させると共に当該ボール9を回転自在に抱持するボールペンチップ11である。チップ本体12も、ステンレス鋼線材からなる。また、インキ流通孔17もチップ後部孔18に連続している。
本実施形態においても、ボール抱持室13の底壁14には、ボール9の曲率とは異なる曲率の曲面状の当接面15が設けられており、ボール9は当接面15の一部である当接部に対して当接するようになっている。また、ボール9は、第1の実施形態と同じボール9表面に、中間層9B及び炭素質膜9Aを形成したものを用いている。
ここで、本実施形態の特徴として、インキ流通溝16間の領域における当接面15の周方向における略中心の4カ所を高く形成することで、当接面15の周方向の当該4カ所において均等に、ボール9が略点状に当接している。すなわち、それら4カ所が当接部15aとなっている。
具体的には、周方向Rについて、ある当接面15とインキ流通溝16との接合部T1での交点Dから、当該当接面15と他のインキ流通溝16との接合部T2での交点Eまで、当接面15の高さにおいてD、E間の略中心位置が最も高くなっていて、この略頂部である当接部15aにおいてボール9が当接している。
さらに、本実施形態においても、ボール9と当接面15との間に、インキ流通孔17側から前記当接部までインキ流通孔17側から除々に小さくなる第1の隙間S1が形成されていると共に、インキ流通溝16の先端側から前記当接部までインキ流通溝16の先端側から除々に小さくなる第2の隙間S2が形成されている。
さらに、本実施形態においても、ボール9と当接面15との間に、インキ流通孔17側から前記当接部までインキ流通孔17側から除々に小さくなる第1の隙間S1が形成されていると共に、インキ流通溝16の先端側から前記当接部までインキ流通溝16の先端側から除々に小さくなる第2の隙間S2が形成されている。
そして、本実施形態の特徴として、当接面15とインキ流通溝16との接合部T1、T2の近傍において、ボール9と当接面15との間の第3の隙間S3が露出している。
このようなボールペンチップ11は、以下のように製造される。すなわち、例えばφ2.3mmで硬度が230Hv〜280Hvのステンレス鋼線材が所望の長さに切断され、ボール抱持室13、インキ流通孔17、及び、当該インキ流通孔17から放射状に伸びるインキ流通溝16、が作製される。その後、ボール抱持室3の底壁4にボール9とは異なる成型用のハンマ−リング用ボールを載置した状態で、チップ先端部2a側からハンマーリングが行われ、スプリングバック性によって曲率半径の大きい全体曲面内において当接部15aとなる4カ所が盛り上がった曲面が形成される。
本実施形態によれば、第1の隙間S1、第2の隙間S2及び第3の隙間S3が形成されていることにより、ボール9と当接面15(当接部15a)との間にインキを保持しやすく、当接面(当接部)の摩耗が抑制される。
また、本実施形態によれば、当接部15aがインキ流通溝16から離れて位置しているため、もし当接部15aが摩耗しても、インキ流通溝16の機能に与える影響が少ない。このため、引き続き安定したインキの流れを維持することができる。
本実施例においても、走行試験後の摩耗量を測定した結果、炭素質膜を形成していない未処理のボール(WC)>酸素プラズマ処理を行っていない炭素質膜(DLC−0)>DLC−1>DLC−2という結果となった。
なお、第1実施形態では、ハンマーリングによるスプリングバック性を利用した後、かしめ加工時に底壁を傾斜させ、第2実施形態では、ハンマ−リング用ボールによってボールより曲率半径の大きい(曲率の小さい)曲面状の当接面を形成しているが、第1の隙間S1及び第2の隙間S2を有する曲面状の当接面が得られるのであれば、当接面の形成方法は特に限定されるものではない。
また、ボールペンチップのかしめ角度α、ボール径、ボール出等も特に限定されるものではない。もっとも、底壁の角度βが90度より小さいと、当接面に第2の隙間S2を形成し難く、底壁の角度βが150度を超えると、第1の隙間S1を形成し難い。このため、底壁の角度βは、90度以上、150度以下が好ましく、100度から140度が最も好ましい。
本発明によるボールペンチップにおいては、前記ボール表面、または前記ボール抱持室の当接面の少なくとも一方に炭素質膜が形成されている。前記ボール表面と前記当接面の両方に炭素質膜が形成されていてもよい。なお、当接面に炭素質膜が形成される場合には、当接面だけに炭素質膜が形成されていればよいが、製造の容易さや、使用による変形などの観点から、ボール抱持室内全体など、広い範囲に炭素質膜が形成されていてもよい。さらには、チップ本体の外面に炭素質膜が形成されていてもよい。
また、当接面の表面に形成する炭素質膜は、ボールの表面に形成する炭素質膜と官能基の導入量又はCOtotalの値等が同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、ボールペンチップの表面に炭素質膜を形成する場合も、炭素質膜と当接面との間に中間層を形成してもよい。
尚、実施形態では便宜上、ステンレス鋼線材をドリルによる切削加工によってチップ本体2を形成する切削タイプを例示しているが、金属製のパイプ(例えばステンレス鋼製パイプ)の先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数(例えば、3個または4個)の内方突出部とによってボール抱持室を形成し、内方突出部によって設けた底壁に当接面を設けたボールペンチップであってもよい。
本発明のボールペンチップは、ボールペンとして広く利用可能であり、当接面の摩耗を抑制できるので、特に0.5mm以下の小径のボールを用いたボールペンとして好適に用いることができる。
また、本発明のボールペンチップボールの回転による摩耗を抑制するので、ボールペンチップとインキタンクとの間にチップ保持部材を具備し、このチップ保持部材の後方にインキタンクを着脱自在に取り付けることで、ボールペンチップの交換を不要とし、長期及び長距離にわたり安定した筆記性能を維持するボールペンを提供することができる。
1、11 ボールペンチップ
2、12 チップ本体
2a 先端部
2b、12b シール面
3 ボール抱持室
4、14 底壁
5、15 当接面
5a、15a 当接部
6、16 インキ流通溝
7、17 インキ流通孔
8 後部孔
9 ボール
9A 炭素質膜
9B 中間層
21 ボールペン
22 インキタンク
23 コイルスプリング
24 ボールペン用インキ
25 インキ追従体
S1、S2、S3 隙間
T1、T2 接合部
α かしめ角度
β 底壁の角度
H 隙間の長さ
2、12 チップ本体
2a 先端部
2b、12b シール面
3 ボール抱持室
4、14 底壁
5、15 当接面
5a、15a 当接部
6、16 インキ流通溝
7、17 インキ流通孔
8 後部孔
9 ボール
9A 炭素質膜
9B 中間層
21 ボールペン
22 インキタンク
23 コイルスプリング
24 ボールペン用インキ
25 インキ追従体
S1、S2、S3 隙間
T1、T2 接合部
α かしめ角度
β 底壁の角度
H 隙間の長さ
Claims (5)
- チップ本体に、ボール抱持室と、該ボール抱持室の底壁の中央に形成したインキ流通孔と、該インキ流通孔から放射状に延びる複数本のインキ流通溝とを有し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持してなるボールペンチップにおいて、前記ボール抱持室の底壁には、前記ボールの曲率とは異なる曲率の曲面状の当接面が設けられており、前記ボールは当該当接面の一部である当接部に対して当接するようになっており、前記ボールと前記当接面との間に、インキ流通孔側から前記当接部までインキ流通孔側から除々に小さくなる第1の隙間が形成されていると共に、インキ流通溝の先端側から前記当接部までインキ流通溝の先端側から除々に小さくなる第2の隙間が形成されているとともに、前記ボールの表面及び/又は前記当接面の表面に炭素質膜を形成し、該炭素質膜が、炭素原子及び該炭素原子と結合した酸素原子を有することを特徴とするボールペンチップ。
- 前記当接部は、前記当接面の軸心方向の中央位置よりもチップ先端部側に位置していることを特徴とする請求項1に記載のボールペンチップ。
- 前記当接面は、軸心に対して軸対称であり、前記当接部は、前記当接面の周方向に周回するように位置していることを特徴とする請求項1または2に記載のボールペンチップ。
- 前記当接部は、前記当接面の周方向に略均等に位置しているとを特徴とする請求項1または2に記載のボールペンチップ。
- 請求項1ないし5のいずれか1項に記載のボールペンチップを、インキタンクの先端に具備し、前記インキタンク内に、ボールペン用インキを収容してなるボールペンであって、前記ボールペン用インキは、少なくとも微粒子を含有しており、前記微粒子の大きさは、軸心方向における前記インキ流通孔側の第1の隙間の長さよりも小さいことを特徴とするボールペン。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2012041073A JP2013176858A (ja) | 2012-02-28 | 2012-02-28 | ボールペンチップ及びそれを用いたボールペン |
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JP (1) | JP2013176858A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN104527264A (zh) * | 2014-12-18 | 2015-04-22 | 无锡伊诺永利文化创意有限公司 | 圆珠笔芯 |
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2012
- 2012-02-28 JP JP2012041073A patent/JP2013176858A/ja active Pending
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