JP6290525B2 - 摺動部材及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は摺動部材及びその製造方法に関し、特に潤滑油が存在する環境において用いられる摺動部材及びその製造方法に関する。
摺動部材における摩擦を低減することは、摺動部材の寿命を延ばすだけでなく、エネルギー効率を向上させるためにも重要である。摺動部材における摩擦には、摺動部材の表面の特性が大きく影響する。さらに、内燃機関等の潤滑油中において摺動する機械部品は、潤滑油と摺動部材の表面との相互作用についても考慮する必要がある。
摺動部材の摩擦を低減するために、摺動部材の表面にダイヤモンド様カーボン(DLC)膜等の硬質炭素皮膜を形成することが検討されている。さらに、潤滑油中における摺動部材の摩擦を低減するために、水素の含有量が少ないDLC膜を用いることも検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
特開2000−297373号公報
しかしながら、潤滑油とDLC膜との相互作用は、DLC膜の表面状態によって大きく変化する。このため、DLC膜全体としての水素の含有量を制御したとしても、必要とする特性が得られるとは限らない。本願発明者らは、DLC膜の表面における炭素−水素結合(C−H)の状態が、潤滑油中における摩擦に大きな影響をおよぼすことを見出した。
本開示は、得られた知見に基づき、潤滑油中における摩擦を十分に低減した摺動部材を実現できるようにする。
本開示の摺動部材は、潤滑油の存在下において相手部材と摺動する摺動面となる基材と、基材の表面に設けられた、厚さが0.001μm以上、10μm以下の、水素を含む炭素質膜とを備え、炭素質膜は、試料に対する検出角度を90度としたX線光電子分光測定において得られるC1sピークをカーブフィッティングによりsp 3 C−Cの結合エネルギーに基づく第1ピーク、sp 2 C−Cの結合エネルギーに基づく第2ピーク、sp 3 C−Hの結合エネルギーに基づく第3ピーク、sp 2 C−Hの結合エネルギーに基づく第4ピークに分解することにより求めた、前記第3ピークの面積と前記第4ピークの面積との和の前記第1ピークの面積と前記第2ピークの面積との和に対する比が0.59未満であり、前記第3ピークの面積の前記第1ピークの面積に対する比が0.57未満であり、前記第4ピークの面積の前記第2ピークの面積に対する比が0.58未満である。
本開示の摺動部材において、炭素質膜は、水素の含有量が2原子%以下であってもよい。
本開示の摺動部材において、炭素質膜は、算術平均表面粗度Raが0.1μm以下であってもよい。
本開示の摺動部材において、炭素質膜は、中間層を介して基材の表面に設けられていてもよい。
本開示における第1の摺動部材の製造方法は、摺動部材の基材の表面に炭素質膜を形成する工程を備え、炭素質膜を形成する工程は、グラファイトをターゲットとし、スパッタリング電源を直流パルス電源とするスパッタリング法により行い、パルス電源の平均出力の絶対値を2.7Wcm-2以上とし、パルス電源のパルス周波数を250kHz以上、1MHz以下とし、パルス電源のデューティー比を15%よりも大きく、90%以下とし、試料に対する検出角度を90度としたX線光電子分光測定において得られるC1sピークをカーブフィッティングによりsp 3 C−Cの結合エネルギーに基づく第1ピーク、sp 2 C−Cの結合エネルギーに基づく第2ピーク、sp 3 C−Hの結合エネルギーに基づく第3ピーク、sp 2 C−Hの結合エネルギーに基づく第4ピークに分解することにより求めた、前記第3ピークの面積と前記第4ピークの面積との和の前記第1ピークの面積と前記第2ピークの面積との和に対する比が0.59未満で、厚さが0.001μm以上、10μm以下の炭素質膜を形成する。
本開示における第2の摺動部材の製造方法は、摺動部材の基材の表面に炭素質膜を形成する工程を備え、炭素質膜を形成する工程は、グラファイトをターゲットとし、スパッタリング電源を直流パルス電源とするスパッタリング法により行い、パルス電源の最大電流密度の絶対値を55.8mAcm-2よりも大きくし、パルス電源のパルス周波数を250kHz以上、1MHz以下とし、試料に対する検出角度を90度としたX線光電子分光測定において得られるC1sピークをカーブフィッティングによりsp 3 C−Cの結合エネルギーに基づく第1ピーク、sp 2 C−Cの結合エネルギーに基づく第2ピーク、sp 3 C−Hの結合エネルギーに基づく第3ピーク、sp 2 C−Hの結合エネルギーに基づく第4ピークに分解することにより求めた、前記第3ピークの面積と前記第4ピークの面積との和の前記第1ピークの面積と前記第2ピークの面積との和に対する比が0.59未満で、厚さが0.001μm以上、10μm以下の炭素質膜を形成する。
第1及び第2の摺動部材の製造方法は、炭素質膜を形成する工程において、基材側の平均電力密度の絶対値を19.7mWcm-2よりも大きくしてもよい。
本発明に係る摺動部材及びその製造方法によれば、潤滑油中における摩擦を十分に低減した摺動部材を実現できる。
成膜装置の一例を示す概略図である。
まず、本願発明者らが見出した炭素質膜の特性について説明する。炭素質膜は、ダイヤモンド様カーボン(DLC)膜に代表されるsp2炭素−炭素結合(グラファイト結合)及びsp3炭素−炭素結合(ダイヤモンド結合)を含む膜である。DLC膜のようなアモルファス状態の膜であっても、ダイヤモンド膜のような結晶状態の膜であってもよい。以下においては、炭素質膜がDLC膜であるとして説明を行う。
DLC膜は、化学気相堆積(CVD)法、レーザーアブレーション法及びスパッタ法等の種々の方法により形成することができる。一般にCVD法においては、炭化水素が原料として用いられる。炭化水素を原料としてDLC膜を成膜すると、原料中の水素が膜中に取り込まれるため、DLC膜はsp2炭素−水素結合及びsp3炭素−水素結合を多く含む。一方、スパッタ法等においては、グラファイト等の原料を用いてDLC膜を成膜することができる。原料を水素を含まないグラファイトとすれば、理論的には炭素−水素結合を含まないDLC膜が形成できるはずである。しかし、雰囲気中の水分等の影響を受けるため、グラファイト等の水素を含まない原料を用いて形成したDLC膜においても、膜中に数%〜5%程度水素が含まれている。
DLC膜に含まれる水素の濃度はDLC膜の摩擦特性に影響を与えることが知られている。しかし、水素濃度が等しいDLC膜であっても、摩擦特性が大きく異なる場合が生じている。DLC膜に含まれる水素の分析は容易ではなく、一般には膜全体としての濃度が求められているにすぎない。本願発明者らはX線光電子分光(XPS)法とカーブフィッティングとを用いることにより、DLC膜の表面における水素の結合状態を明らかにした。その結果、DLC膜全体としての水素濃度を低減したとしても、DLC膜の表面における水素の結合状態を適切な状態としなければ、潤滑油の存在下において良好な摩擦特性を有するDLC膜は得られないことが明らかとなった。
本願発明者らの知見によれば、DLC膜の表面における炭素−水素結合(C−H)の炭素−炭素結合(C−C)に対する割合[C−H]/[C−C]をできるだけ小さくすることが、潤滑油の存在下における摩擦特性を向上させるために重要である。具体的には、[C−H]/[C−C]を0.59未満とすることが好ましい。また、[C−H]/[C−C]を0.50以下とすることがより好ましく、0.41以下とすることがさらに好ましい。
さらに、sp2炭素−水素結合(sp2C−H)のsp2炭素−炭素結合(sp2C−C)に対する割合[sp2C−H]/[sp2C−C]は0.58未満であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましく、0.51以下であることがさらに好ましい。sp3炭素−水素結合(sp3C−H)のsp3炭素−炭素結合(sp3C−C)に対する割合[sp3C−H]/[sp3C−C]は0.57未満であることが好ましく、0.50以下であることがより好ましく、0.29以下であることがさらに好ましい。
なお、[C−H]、[sp2C−H]、[sp3C−H]、[C−C]、[sp2C−C]及び[sp3C−C]は、実施例において詳細に述べるXPS法とカーブフィッティングとを用いた方法により測定することができる。
表面におけるC−H結合を低減するためには、DLC膜全体としての水素濃度も低減することが好ましい。従って、DLC膜全体としての水素濃度は2原子%(at%)以下とすることが好ましく、1.2原子%以下とすることがさらに好ましい。なお、DLC膜全体としての水素濃度は、実施例において詳細に述べる高分解弾性反跳粒子検出法(High Resolution-Elastic Recoil Detection Analysis、HR−ERDA)により測定することができる。なお、原子%とは物質全体の原子数を100とした場合におけるある元素の原子数を表す。
表面における[C−H]/[C−C]が小さいDLC膜は、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法、レーザーアブレーション法又は電子ビーム蒸着等を用いて形成することができる。中でも、スパッタリング法は、成膜面に硬質の粒子が付着するドロップレットと呼ばれる現象が発生しにくいため好ましい。
スパッタリング法はスパッタガスをイオン化し、原料となる固体ターゲットに衝突させてターゲット粒子をはじき出させ、はじき出されたターゲット粒子がワーク(基材)側に到達することにより、基材表面にターゲット粒子が堆積して皮膜を形成する。スパッタリング法で得られる膜構造は一般的に“Thornton”のゾーンモデル(J. A. Thornton: Ann. Rev. Mater. Sci., 7 (1977) 239.)により示されるが、基材温度及び圧力によって、膜の構造に変化が生じることが知られている。この理由は、堆積過程にある原子が基板からの熱エネルギーを受け取り、移動しやすくなるためである。しかし、基材が鋼の場合、焼き戻し温度を超えた温度を加えると硬度が低下し、耐摩耗性を維持することが困難となる。例えば基材が機械構造用炭素鋼又は機械構造用合金鋼であれば一般的な加熱の上限は200℃である。従って、膜構造を制御する手段として基材を加熱せずに膜構造を変化させることが好ましい。
基材からの熱の移動の他に、基材へ入射する粒子自身のエネルギーを変化させることによっても、被膜構造は変化すると期待される。しかし、原料となるターゲット粒子はスパッタガス粒子の衝突によってターゲットからはじき出されて得られる2次的なものである。従って、ターゲット原料を直接昇華させる電子ビームやアークイオンを用いた手法と比較して、ターゲット粒子のイオン化率は低く、ターゲット粒子イオンのエネルギーを直接制御して任意の膜構造を得るのは容易ではない。
一方、スパッタリング法ではターゲット粒子の他に、スパッタガス粒子もイオン化される。スパッタガス粒子は、ターゲットへ向かう他、一部は直接基板に向かう。また、ターゲットへ向かったスパッタガス粒子の一部はターゲット表面において反眺し、基板へと向かう。このように、スパッタリング法によるDLC膜の形成においては、ターゲット粒子のエネルギーの他に、堆積過程にある膜の表面に衝突するスパッタガス粒子のエネルギーによっても、皮膜構造が変化すると期待される。
次に、スパッタ電源について考えると、スパッタ電源にパルス電源を用いると、パルスの過渡的な電力特性がスパッタガス粒子及びターゲット粒子のエネルギーに影響をおよぼすことが期待される。パルス電源により放電を発生させる場合には、電力を投入した瞬間にターゲットに流れる電流が大きく上昇する。つまり、パルス電力の立ち上がりにおいて、過渡的に電流が流れる。パルス電力の立ち上がりにおける過渡的電力は、パルス周波数を高くすることにより高くなることを明らかとなった。パルス電力の立ち上がりにおける過渡的電力が高くなることにより、スパッタガス粒子のエネルギーは高くなると期待される。スパッタガス粒子のエネルギーが高くなると、スパッタガス粒子がワークと衝突する際のエネルギーを大きくできる。このため、軽い水素原子がワークの表面からはじき飛ばされ、DLC膜の表面における炭素−水素結合を減少させることができると考えられる。但し、パルス周波数を高くしすぎるとターゲット電流が逆に低下することが知られている(例えば、M.Yamashita J. Vac. Sci. Technol. A, 7 (1989) 2752.)。
また、パルスのデューティー比も、パルス電力立ち上がりの過渡的電力に影響を与える。デューティー比が小さくなると、パルス電力立ち上がりの過渡的電力は小さくなり、デューティー比が大きくなると、パルス電力立ち上がりの過渡的電力は大きくなる。このため、デューティー比は15%よりも大きいことが好ましく、20%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。但し、デューティー比が大きくなりすぎると、アーキングを抑制するパルス電力のメリットが損なわれるため、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
一方、粒子をワークに効率良く入射させることも重要である。磁界が基板方向へ向くアンバランスドマグネトロンスパッタ法を用いることにより、粒子を基板に効率良く入射させることが可能となる。また、基板に向いた磁界の領域にプラズマを形成させる補助電極を用いることにより、基板へ向かうイオン密度の制御が可能となる。従って、基板へ向かう磁界を導入する目的で補助磁極を配置し、基板方向へ向かうイオン密度を制御する目的で補助電極を配置することにより、イオン化しにくい炭素をスパッタリングする場合にも、粒子の制御効率を向上させ、さらに基板へ向かうスパッタガス粒子のエネルギーの制御も容易となり、ワークへ投入する電力、すなわちイオンの量及びエネルギーを増加させることができる。
このため、DLC膜を成膜する場合には、スパッタリング電源として直流パルス電源を用い、周波数はできるだけ高くすることが好ましい。具体的にパルス周波数を250kHz以上とすることが好ましく、300kHz以上とすることがより好ましい。但し、パルス周波数を高くしすぎるとターゲット電流が逆に低下するため、1MHz以下とすることが好ましい。
また、ターゲット(カソード)側の平均電力密度の絶対値は2.7Wcm-2以上とすることが好ましく、3.6Wcm-2以上とすることがさらに好ましい。また、ターゲット(カソード)側の最大電流密度は55.8mAcm-2よりも大きくすることが好ましく、60.0mAcm-2以上とすることがより好ましく、67.3mAcm-2以上とすることがさらに好ましい。ワーク側の平均電力密度の絶対値は19.7mWcm-2よりも大きくすることが好ましく、25.0mWcm-2以上とすることがより好ましく、28.0mWcm-2以上とすることがさらに好ましい。基材の温度は200℃以下とするのが望ましい。
スパッタリングガスにはアルゴンを用いることが一般的であるが、クリプトン及びキセノン等の他の希ガス又は窒素等を用いてもよい。
DLC膜の成膜にはどのような装置を用いてもよいが、例えば、図1に示すようなマグネトロンスパッタ装置を用いることができる。図1に示すように、チャンバ221の下部に磁石を内蔵したターゲット台211が設けられ、ターゲット台211の上にターゲット207が配置されている。チャンバ221の上方には、電気的に浮いた(フローティング)状態であり、バイアス電圧を印加できるワークホルダ210が設けられ、ワークホルダ210にはワーク208が保持されている。ターゲット台211の内部にはターゲット207の中心部と対応する位置に中心磁石201が配置され、ターゲット207の周囲と対応する位置には外周磁石202が等間隔で配設されている。中心磁石201はS極をターゲット207側にして配置されており、外周磁石202はN極をターゲット207側にして配置されている。
チャンバ221の外壁の外側には、4つの外周磁石のそれぞれに対応して4つの第1外部磁石203及び4つの第2外部磁石204が重なるように配設されている。第1外部磁石203及び第2外部磁石204は、それぞれN極を中心磁石201側にして配置されている。第1外部磁石203及び第2外部磁石204はそれぞれ補助磁極として機能する。
チャンバ221の内部には、補助電極として機能するコイル205が設けられている。コイル205は、スパイラル状に巻かれ、一端がマッチング回路212を介して高周波電源213と接続されている。図1においては、コイル205の他端はフリーでどこにも接続されてないが、アース又は高周波電源と接続されていてもよい。
ターゲット台211には、ローパスフィルター214を介してスパッタ電源215が接続されている。ワークホルダ210には、ローパスフィルター216を介してバイアス電源218が接続されている。
第2外部磁石204を設けることにより、ワーク208の方向に向かう強力な磁場を形成することができる。これにより、磁場に沿ってイオンを効率的にワーク208の表面に入射させることが可能となる。さらにコイル205を設けることにより、ワーク表面に入射するプラズマ密度を高めることができ、緻密で均一なDLC膜を高速で形成することができる。イオンの中にはターゲットの炭素粒子の他にスパッタガスのArイオンも含まれることから、炭素を堆積させつつ、軽い水素をはじき飛ばす効果が向上する。このため、DLC膜の表面における炭素−水素結合を低減する効果をより高くすることができる。但し、このような第2外部磁石及びコイルを有していない通常の多重磁極マグネトロンスパッタ装置又は、外部磁石が設けられていない通常の平板マグネトロンスパッタ装置等を用いてDLC膜を形成してもよい。
DLC膜の膜厚は、ある程度厚い方がよく、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましい。但し、膜厚が厚くなると形成が困難となるため、10μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。また、DLC膜の表面はできるだけ平滑である方が、摩擦が小さくなる。このため、表面における算術平均粗度Raが0.1μm以下であることが好ましい。
また、DLC膜は被覆対象の表面に直接形成することができるが、被覆対象とDLC膜とをより強固に密着させるために、被覆対象とDLC膜との間に中間層を設けてもよい。
よい。
中間層の材質としては、被覆対象の種類に応じて種々のものを用いることができるが、珪素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タングステン(W)、又はアルミニウム(Al)からなるアモルファス膜等を用いることができる。また、これらの元素と炭素(C)及び窒素(N)の少なくとも一方とを混合したアモルファス膜等を用いることもできる。その厚さは特に限定されないが、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましい。また、1μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましい。中間層は、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、又は真空蒸着法等を用いて形成すればよい。また、湿式クロムメッキを用いてもよい。
DLC膜は、炭素と水素以外の元素を含んでいてもよい。例えば、シリコン(Si)又はフッ素(F)等が添加されていてもよい。また、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)等が含まれていてもよい。チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)等を加えることにより、DLC膜の表面に添加剤皮膜を形成して低摩擦係数が得られるという効果が得られる。一方、DLC膜の表面における水素の結合状態をより容易に制御するために、炭素と水素以外の元素を含まない構成としてもよい。なお、ここでいう他の元素を含まない構成とは、痕跡量程度の不純物を含有する場合を含む。
潤滑油中におけるDLC膜の摩擦特性は、DLC膜の表面粗さにも影響を受ける。DLC膜の表面粗さはできるだけ小さい方が、摩擦特性が向上する。また、相手材を磨耗させる相手攻撃性も表面粗さが小さい方が低減できる。具体的には、DLC膜の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm以下であることが好ましい。
DLC膜は、潤滑油が存在する環境において互いに摺動する一対の摺動部材の摺動面に形成されていればよい。一対の摺動面のそれぞれにDLC膜が形成されていてもよく、摺動面の一方のみにDLC膜が形成されていてもよい。摺動面のそれぞれにDLC膜が形成されている場合には、双方に同一組成のDLC膜が形成されていてもよく、互いに異なる組成のDLC膜が形成されていてもよい。また、摺動部材の摺動面以外の部分にもDLC膜が形成されていてもよい。
DLC膜を形成した摺動部材は、潤滑油が存在する環境において摺動が必要とされるあらゆる部材に適用することができる。具体的には、バルブリフター、ピストンリング、ピストンピン、ピストンスカート、カムロブ、カムジャーナル、クランクシャフト、コネクティングロッド、ミッションギヤ、ミッションプライマリシャフト、ミッションセカンダリーシャフト、スプラインシャフト、フリクションプレート、セパレータープレート、クラッチハウジング、デファレンシャルギヤ、回転ベーン及びタイミングチェーン等に適用することができ、これらの2種類以上を対象としてもよい。また、摺動部材の基材はどのような材質であってもよい。具体的には、金属、セラミクス若しくは樹脂又はこれらの複合材とすることができる。
なお、潤滑油が存在する環境とは、一対の摺動面の界面に単分子層以上の厚さの潤滑油の層が存在していればよい。界面の全体に潤滑油が存在している場合だけでなく、界面の一部に潤滑油が存在している場合も含む。また、少なくとも界面に潤滑油が存在していれば、摺動面を有する摺動部材の一部又は全部が潤滑油中に浸漬されている場合も含まれる。
摺動部材と組み合わすことができる潤滑油は特に限定されるものではなく、鉱油、合成油若しくは油脂又はこれらの混合物等の潤滑油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。より好ましくはエステルからなる油性材を含む潤滑油が望ましい。潤滑油は基油の他に、安定剤、酸化防止剤、分散剤、清浄剤及び粘度調整剤等の成分を含んでいてかまわない。また、潤滑油には半固体状のグリース等も含まれる。
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改良及び設計の変更を行ってよい。
(DLC膜組成の評価方法)
−水素濃度−
DLC膜に含まれる水素の濃度は、高分解弾性反跳粒子検出法(High Resolution-Elastic Recoil Detection Analysis、HR−ERDA)により測定した。測定には神戸製鋼所製の高分解能RBS分析装置HRBS500を用いた。試料面の法線に対して70度の角度でN2 +イオンを試料に照射し、偏光磁場型エネルギー分析器により反跳された水素イオンを検出した。入射イオンは1原子核あたりのエネルギーを240KeVとした。水素イオンの散乱角は30度とした。イオンの照射量はビーム経路にて振り子を振動させ、振り子に照射された電流量を測定することにより求めた。試料電流は約2nAであり、照射量は約0.3μCであった。
得られたデータに対して水素ピークにおける高エネルギー側のエッジの中点を基準として横軸のチャネルを反跳イオンのエネルギーに変換する処理及びシステムのバックグラウンドを差し引く処理を行った。処理後のデータについてシミュレーションフィッテングを行い、表面から12nmまでの範囲について水素のデプスプロファイルを求めた。さらに、DLC膜に含まれる全原子に対する水素原子の割合(at%)に換算した。この際に試料の構成元素は炭素と水素のみであると仮定した。デプスプロファイルの横軸をnm単位に換算する際には、DLC膜の密度はグラファイトの密度(2.25g/cm3)であるとした。定量値は、スパッタリング法により形成した既知濃度のDLC膜を測定することにより校正した。また、最表面に炭化水素からなる汚染層の存在を仮定した。汚染層の密度はパラフィンの密度(0.89g/cm3)とした。
(DLC膜組成の解析方法)
DLC膜組成はX線光電子分光(XPS)測定により評価した。XPS測定には日本電子社製JPS−9010を用いた。XPS測定の条件は、試料に対する検出角度を90度とし、X線源にはAlを用い、X線照射エネルギーを100Wとした。1回の測定時間は0.2msとし、1つの試料について32回測定を行った。炭素中を進む光電子の非弾性平均自由工程を考慮すると、表面から9nmまでの範囲について測定されると考えられる。さらに、光電子は表面から深くなるにつれて脱出しにくくなり、光電子の検出は表面から深くなるほど減衰する。従って、今回測定された情報の50%は表面からおよそ1.5nmまでの最表層の情報で占められていると考えられる。
XPS測定により得られた炭素1s(C1s)ピークを、炭素同士がsp3結合したsp3C−C及び炭素同士がsp2結合したsp2C−C、炭素と水素とがsp3結合したsp3C−H及び炭素と水素とがsp2結合したsp2C−Hの4つの成分にカーブフィッティングにより分解した。sp3C−Cの結合エネルギーは283.8eV、sp2C−Cの結合エネルギーは284.3eV、sp3C−Hの結合エネルギーは284.8eV、sp2C−Hの結合エネルギーは285.3eVとした。カーブフィッティングにより得られた各ピークの面積をsp3C−Cのピークの面積とsp2C−Cのピークの面積とsp3C−Hのピークの面積とsp2C−Hのピークの面積との総和により割った値を、各成分の組成比とした。sp3C−Cの組成比とsp2C−Cの組成比との和をC−Cの組成比とし、sp3C−Hの組成比とsp2C−Hの組成比との和をC−Hの組成比とした。
(DLC膜の表面粗さ)
DLC膜の表面粗さは算術平均表面粗度Raにより評価した。算術平均表面粗度Raは、JIS B−0601に準拠して求めた。表面粗さの測定には表面粗さ測定機(ミツトヨ社製:SurfTest501)を用いた。
(実施例1)
HRC硬さ60に調整した合金工具鋼(JIS:SKD11)からなるディスクの端面に、図1に示すマグネトロンスパッタ装置を用いてDLC膜を形成した。チャンバ内にテトラメチルシラン(Si(CH34)を導入し、基板に1kVのバイアス電圧を印加して、30分間放電を行った。ターゲット207にはグラファイトを用い、スパッタリングガスにはアルゴンを用いた。スパッタ電源215には直流パルス電源を用い、パルス周波数を300kHzとし、デューティー比を40%とし、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は3.6Wcm-2とした。また、最大電流密度の絶対値は68.2mAcm-2であった。スパッタリングガスにはアルゴンを用いた。
ワーク側に到達した粒子のエネルギーの指標となるワーク側の平均電力密度の絶対値は28.0mW/cm2となった。電力密度は、電流測定手段により得られた電流値と、ワークホルダ210に印加したバイアス電圧及びワークホルダ210の表面積により求めた。成膜は60分間行い、その間の電力密度の平均値を求め、基板表面積で除した値を平均電力密度とした。また、パルス波形を解析し、1パルス区間の最大電流を求め、ターゲット面積で除した値を最大電流密度とした。パルス波形は、ターゲット電力出力ケーブルに電流プローブを設置し、放電中のパルス出力波形をオシロスコープ(LECROY社製:WS64Xs)により測定した。
DLC膜を形成したディスクについてJIS−K7218に準拠して摩擦係数を測定した。測定には摩擦磨耗試験機(オリエンテック社製:EKM-III1010)を用い、リングオンディスク方式により測定した。リングはHRC硬度を50に調整した機械構造用高炭素鋼(S45C)とした。リングの内径は20mm、外径は25.6mmとした。DLC膜を形成したディスクにリングを100kgfの荷重で押し付け、200rpmの回転数で回転させた。回転によりトルクアームが受ける摩擦力をロードセルにより測定し、平均摩擦力から以下の式(1)を用いて摩擦係数μを求めた。摩擦力を測定する位置はトルクアームを介して回転中心から150mmの距離とした。試験は常温の潤滑油中で行った。潤滑油には化学合成油0W−40(SN規格)を用いた。
μ=(F×R)/(W×r) ・・・ 式(1)
但し、Fは摩擦力、Wは押し付け荷重、Rは摩擦力測定子の回転中心からの距離、rはリング外周半径とリング内径半径の和を2で除した値、すなわちリング半径中心を表す。
得られたDLC膜の水素濃度は、0.9原子%であった。[sp3C−C]は0.34、[sp2C−C]は0.37、[sp3C−H]は0.10、[sp2C−H]は0.19であった。従って[C−C]は0.71であり、[C−H]は0.29であり、[C−H]/[C−C]は0.41となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.51となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.29となった。摩擦係数μは0.23であった。得られたDLC膜の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm以下であった。
(実施例2)
DLC膜を形成する際のパルス周波数を350kHzとして「実施例1」と同様にしてDLC膜を成膜し、摩擦係数を測定した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は4.1W/cm2となり、また最大電流密度の絶対値は67.3cm-2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は28.7mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、1.1原子%であった。[sp3C−C]は0.38、[sp2C−C]は0.39、[sp3C−H]は0.06、[sp2C−H]は0.17であった。従って[C−C]は0.77であり、[C−H]は0.23であり、[C−H]/[C−C]は0.30となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.44となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.16となった。摩擦係数は0.023であった。得られたDLC膜の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm以下であった。
(比較例1)
DLC膜を形成する際のパルス周波数を100kHzとして「実施例1」と同様にしてDLC膜を成膜し、摩擦係数を測定した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は2.0W/cm2となり、また最大電流密度の絶対値は20.6mAcm-2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は17.2mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、1.2原子%であった。[sp3C−C]は0.23、[sp2C−C]は0.40、[sp3C−H]は0.13、[sp2C−H]は0.23であった。従って[C−C]は0.63であり、[C−H]は0.36であり、[C−H]/[C−C]は0.61となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.62となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.59となった。摩擦係数は0.045であった。得られたDLC膜の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm以下であった。
(比較例2)
DLC膜を形成する際のパルス周波数を200kHzとして「実施例1」と同様にしてDLC膜を成膜し、摩擦係数を測定した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は2.6W/cm2となり、また最大電流密度の絶対値は55.8mAcm-2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は19.7mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、0.9原子%であった。[sp3C−C]は0.23、[sp2C−C]は0.40、[sp3C−H]は0.14、[sp2C−H]は0.23であった。従って[C−C]は0.63であり、[C−H]は0.37であり、[C−H]/[C−C]は0.59となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.58となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.61となった。摩擦係数は0.047であった。得られたDLC膜の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm以下であった。
(比較例3)
DLC膜を形成する際のスパッタ電源を直流パルス電源に代えて直流電源とした以外は「実施例1」と同様にしてDLC膜を成膜し、摩擦係数を測定した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は0.5W/cm2となり、ワーク側の平均電力密度の絶対値は0W/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、1.2原子%であった。[sp3C−C]は0.15、[sp2C−C]は0.39、[sp3C−H]は0.16、[sp2C−H]は0.29であった。従って[C−C]は0.54であり、[C−H]は0.46であり、[C−H]/[C−C]は0.85となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.74となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、1.07となった。摩擦係数は0.048であった。得られたDLC膜の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm以下であった。
(比較例4)
DLC膜を形成する際のパルス周波数を300kHzとし、デューティー比を15%として「実施例1」と同様にしてDLC膜を成膜し、摩擦係数を測定した。なお、ターゲット側の平均電力密度の絶対値は3.3W/cm2となり、また最大電流密度の絶対値は48.8mAcm-2であった。ワーク側の平均電力密度の絶対値は24.8mW/cm2となった。
得られたDLC膜の水素濃度は、0.9原子%であった。[sp3C−C]は0.22、[sp2C−C]は0.37、[sp3C−H]は0.16、[sp2C−H]は0.25であった。従って[C−C]は0.59であり、[C−H]は0.41であり、[C−H]/[C−C]は0.69となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、0.68となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、0.73となった。摩擦係数は0.045であった。得られたDLC膜の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm以下であった。
<比較例5>
スパッタリング法に代えて、原料ガスにベンゼン(C66)を用いたイオン化蒸着法によりディスクの端面にDLC膜を形成し、摩擦係数を測定した。ガス圧を10-3Torrとし、C66を30ml/minの速度で連続的に導入しながら放電を行うことによりC66をイオン化し、イオン化蒸着を約10分間行い、厚さ0.1μmのDLC膜を基材の表面に形成した。
DLC膜を形成する際のワーク側電圧は1.5kV、ワーク側電流は50mA、フィラメント電圧は14V、フィラメント電流は30A、アノード電圧は50V、アノード電流は0.6A、リフレクタ電圧は50V、リフレクタ電流は6mAとした。
得られたDLC膜の水素濃度は、19.3原子%であった。[sp3C−C]は0.05、[sp2C−C]は0.27、[sp3C−H]は0.29、[sp2C−H]は0.39であった。従って[C−C]は0.32であり、[C−H]は0.68であり、[C−H]/[C−C]は2.13となった。[sp2C−H]/[sp2C−C]は、1.44となり、[sp3C−H]/[sp3C−C]は、5.80となった。摩擦係数は0.07であった。得られたDLC膜の表面における算術平均表面粗度Raは0.1μm以下であった。
Figure 0006290525
表1に実施例及び比較例の結果をまとめて示す。表1に示すように、スパッタ法によりDLC膜を形成することにより、ベンゼンガスを原料としたイオン化蒸着法を用いた場合よりも水素濃度をはるかに小さくできる。また、[C−H]/[C−C]も大きく低減でき摩擦係数μを小さくすることができる。
スパッタ法によりDLC膜を形成する際に直流パルス電源を用い、パルス周波数を高くすると、ターゲット側の電力密度が大きく上昇しており、ターゲットからのスパッタ粒子の脱離が効果的に生じていることが明らかである。また、ワーク側の平均電力密度の絶対値も大きく上昇しており、大きなエネルギーを有するスパッタ粒子がワークに到達していることが明らかである。また、パルス周波数が高くなるほど、ターゲットの最大電流密度の絶対値が高くなり、ターゲット側及びワーク側の電力密度の絶対値が上昇しており、より大きなエネルギーを有するスパッタ粒子をワークに到達させることができることを示している。パルス周波数を高くしてもERDAにより求めたDLC膜全体の水素濃度に大きな変化は認められないが、XPSにより求めたDLC膜の表面における炭素と結合した水素の量を示す[C−H]/[C−C]の値は小さくなった。パルス周波数を高くして、[C−H]/[C−C]を小さくすることにより、摩擦係数μを大幅に低減できた。
また、パルス周波数を高くして[C−H]を低減した場合に、[sp2C−C]は大きく変化していないのに対し、[sp3C−C]は上昇しており、より硬度が高いDLC膜が形成されていると考えられる。
パルス周波数が同じ場合には、デューティー比が高い方がターゲット側の最大電流密度の絶対値が大きくなり、[C−H]/[C−C]の値は小さくなった。
本発明に係る摺動部材及びその製造方法は、潤滑油中における摩擦を十分に低減でき、潤滑油が存在する環境において用いられる摺動部材及びその製造方法等として有用である。
201 中心磁石
202 外周磁石
203 第1外部磁石
204 第2外部磁石
205 コイル
207 ターゲット
208 ワーク
210 ワークホルダ
211 ターゲット台
212 マッチング回路
213 高周波電源
214 スパッタリング電源
214 ローパスフィルター
215 スパッタ電源
216 ローパスフィルター
218 バイアス電源
221 チャンバ

Claims (7)

  1. 潤滑油の存在下において相手部材と摺動する摺動面となる表面を有する基材と、
    前記表面に設けられた、厚さが0.001μm以上、10μm以下の、水素を含む炭素質膜とを備え、
    前記炭素質膜は、試料に対する検出角度を90度としたX線光電子分光測定において得られるC1sピークをカーブフィッティングによりsp 3 C−Cの結合エネルギーに基づく第1ピーク、sp 2 C−Cの結合エネルギーに基づく第2ピーク、sp 3 C−Hの結合エネルギーに基づく第3ピーク、sp 2 C−Hの結合エネルギーに基づく第4ピークに分解することにより求めた、前記第3ピークの面積と前記第4ピークの面積との和の前記第1ピークの面積と前記第2ピークの面積との和に対する比が0.59未満であり、前記第3ピークの面積の前記第1ピークの面積に対する比が0.57未満であり、前記第4ピークの面積の前記第2ピークの面積に対する比が0.58未満であることを特徴とする摺動部材。
  2. 前記炭素質膜は、水素の含有量が2原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
  3. 前記炭素質膜は、算術平均表面粗度Raが0.1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材。
  4. 前記炭素質膜は、中間層を介して前記基材の表面に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の摺動部材。
  5. 摺動部材の基材の表面に炭素質膜を形成する工程を備え、
    前記炭素質膜を形成する工程は、
    グラファイトをターゲットとし、希ガス又は窒素をスパッタリングガスとし、スパッタリング電源を直流パルス電源とするアンバランスドマグネトロンスパッタリング法により行い、
    前記パルス電源の平均出力の絶対値を2.7Wcm-2以上とし、前記パルス電源のパルス周波数を250kHz以上、1MHz以下とし、
    前記パルス電源のデューティー比を15%よりも大きく、90%以下とし、
    試料に対する検出角度を90度としたX線光電子分光測定において得られるC1sピークをカーブフィッティングによりsp 3 C−Cの結合エネルギーに基づく第1ピーク、sp 2 C−Cの結合エネルギーに基づく第2ピーク、sp 3 C−Hの結合エネルギーに基づく第3ピーク、sp 2 C−Hの結合エネルギーに基づく第4ピークに分解することにより求めた、前記第3ピークの面積と前記第4ピークの面積との和の前記第1ピークの面積と前記第2ピークの面積との和に対する比が0.59未満で、厚さが0.001μm以上、10μm以下の炭素質膜を形成することを特徴とする摺動部材の製造方法。
  6. 摺動部材の基材の表面に炭素質膜を形成する工程を備え、
    前記炭素質膜を形成する工程は、
    グラファイトをターゲットとし、希ガス又は窒素をスパッタリングガスとし、スパッタリング電源を直流パルス電源とするアンバランスドマグネトロンスパッタリング法により行い、
    前記パルス電源の最大電流密度の絶対値を55.8mAcm-2よりも大きくし、前記パルス電源のパルス周波数を250kHz以上、1MHz以下とし、
    試料に対する検出角度を90度としたX線光電子分光測定において得られるC1sピークをカーブフィッティングによりsp 3 C−Cの結合エネルギーに基づく第1ピーク、sp 2 C−Cの結合エネルギーに基づく第2ピーク、sp 3 C−Hの結合エネルギーに基づく第3ピーク、sp 2 C−Hの結合エネルギーに基づく第4ピークに分解することにより求めた、前記第3ピークの面積と前記第4ピークの面積との和の前記第1ピークの面積と前記第2ピークの面積との和に対する比が0.59未満で、厚さが0.001μm以上、10μm以下の炭素質膜を形成することを特徴とする摺動部材の製造方法。
  7. 前記炭素質膜を形成する工程において、前記基材側の平均電力密度の絶対値を19.7mWcm-2よりも大きくすることを特徴とする請求項5又は6に記載の摺動部材の製造方法。
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