上記特許文献3に示された電動モータの休止時回転防止構造においては、電動モータの休止状態すなわち回転停止状態を維持するために、大きなコギングトルクを発生させるようになっている。これにより、回転停止状態にある電動モータに対して外力が入力する状況であっても、コギングトルクによって停止位置を保持することができる。
ところで、上記特許文献1に示されたインホイールモータ構造及び特許文献2に示された車両用駆動装置では、車両を走行させたり停車させたりするために、電動モータが高速又は低速で回転する状況が生じる。この場合、電動モータにおいては、回転状態にあるときには、ステータ側とロータ側との間で磁気結合状態が繰り返し生じており、モータ回転方向に対して正逆方向にコギングトルクが発生している。ここで、電動モータにおけるロータの慣性モーメントをIとし、電動モータの粘性減衰抵抗をCとし、回転角θを一階微分した回転角速度θ’とし、回転角θを二階微分した回転角加速度θ’’とし、電動モータに連結されるギア機構からのトルク(摩擦トルク)をTgとし、電動モータが発生するトルクをTmとすると、電動モータが発生するトルクTmは、Tm=Iθ’’+Cθ’+Tgと表すことができる。
この場合、回転状態にある電動モータにおいては上述したコギングトルクが発生しているため、回転停止状態に向けて電動モータの回転角速度θ’が小さくなると、減衰項であるCθ’が小さくなり、その結果、回転停止直前では、図10に示すように、電動モータが発生するトルクTmすなわちコギングトルクTmが相対的に大きくなる領域(振動発生領域)が生じる。このため、トルク変動を伴うコギングトルクTmがギア機構に伝達されると、ギア機構を構成するギアがコギングトルクTmによって回転方向に振動するようになり、歯合しているギア同士が当接して異音(ギアノイズ)が発生する可能性がある。このため、従来においては、電動モータが発生するトルク全体を大きくし、例えば、図11に示すように、低速回転時におけるコギングトルクの発生、言い換えれば、磁気結合状態が発生する現象を磁力によって抑制するようになっており、その結果、製造コストが高くなるとともに電力消費量が増大してしまう。
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、安価かつ簡素な構造により、電動駆動源の低速回転時における異音の発生を防止することが可能な車輪駆動装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の車輪駆動装置は、電動駆動源と、駆動力伝達機構とを備えている。前記電動駆動源は、電気的に回転制御されて車両の車輪を駆動するための回転駆動力を発生するものである。ここで、前記電動駆動源としては、具体的に電気的に回転制御されて回転駆動力を発生する電動モータを採用することができ、この場合、前記車輪を形成するホイール内に設けられて回転駆動力を発生するインホイールモータとすることができる。
前記駆動力伝達機構は、前記電動駆動源からの前記回転駆動力を前記車輪に伝達するものである。この場合、前記駆動力伝達機構は、前記電動駆動源からの回転出力を減速して前記車輪に伝達する減速機によって構成することができ、具体的に前記減速機として、前記電動駆動源からの回転出力を受け取るサンギアと、車両の車体側に固定されるリングギアと、前記サンギアと前記リングギアとに歯合して前記サンギアの周りを公転する複数のプラネタリギアと、前記複数のプラネタリギアのキャリアピンに固定されるプラネタリキャリアとを含んで構成することができる。
本発明による車輪駆動装置の特徴の一つは、前記駆動力伝達機構を構成する回転軸のうち、少なくとも前記電動駆動源が有する回転軸に対して、前記電動駆動源の回転に負荷を付与する回転負荷機構を、少なくとも前記電動駆動源が有する前記回転軸に形成した中空部内に設けたことにある。この場合、前記回転負荷機構は、少なくとも前記電動駆動源が有する前記回転軸と、車両の車体側に回転不能に固定された非回転部材との間に設けられる。そして、この場合には、前記回転負荷機構を、前記非回転部材に固着されて前記電動駆動源から出力される前記回転駆動力の伝達に伴って回転しない摩擦係止部材と、前記回転軸と一体的に回転して前記摩擦係止部材と摩擦係合する摩擦部材と、前記回転軸と一体的に回転して前記摩擦係止部材に向けて前記摩擦部材を付勢する付勢部材とから構成することができる。
この場合、前記付勢部材は、前記回転軸の回転に伴って前記摩擦部材に作用する遠心力の大きさに応じて、前記摩擦部材を前記摩擦係止部材に向けて付勢することができる。より具体的に、前記付勢部材は、前記遠心力の大きさが前記摩擦部材を前記摩擦係止部材に接触させるように付勢する付勢力よりも小さいとき、前記摩擦部材を前記摩擦係止部材に向けて付勢して摩擦係合させることができる。
これらによれば、回転負荷機構は、少なくとも電動駆動源(インホイールモータ)が有する回転軸の回転に対して負荷を付与することができる。具体的には、少なくとも電動駆動源(インホイールモータ)が有する回転軸と一体的に回転する摩擦部材が付勢部材によって付勢されて非回転部材に固着された摩擦係止部材と摩擦係合することにより、少なくとも電動駆動源(インホイールモータ)の回転軸の回転に対して負荷である摩擦制動力を付与することができる。そして、付勢部材は、回転軸の回転に伴って摩擦部材に作用する遠心力の大きさに応じて、遠心力が大きくなるとき、言い換えれば、回転軸が高速で回転するときには摩擦部材が摩擦係止部材に摩擦係合することを禁止し、遠心力が小さくなるとき、言い換えれば、回転軸が低速(極低速)で回転するときには摩擦部材を摩擦係止部材に向けて付勢して摩擦部材が摩擦係止部材に摩擦係合することを許可する。
これにより、例えば、車両が走行中或いは走行を開始する状況において、電動駆動源が車輪を駆動するために回転駆動力を発生し駆動力伝達機構に回転駆動力を出力するとき、すなわち、少なくとも電動駆動源が有する回転軸が高速回転して大きな回転駆動力(トルク)を発生しているときには、回転負荷機構は回転している回転軸に負荷を付与することがなく、回転軸の回転を阻害しない。従って、電動駆動源は、通常通り効率よく回転駆動力を駆動力伝達機構を介して車輪に伝達することができる。尚、少なくとも電動駆動源が有する回転軸が高速回転して大きな回転駆動力(トルク)を発生しているときに、仮に、回転負荷機構が回転している回転軸に負荷を付与した場合であっても、回転駆動力(トルク)に比して回転負荷機構が付与する負荷は小さいため、回転軸の回転を阻害しない。
一方、例えば、走行中の車両が停車に向けて減速する状況において、電動駆動源が回転駆動力を減少させるとき、すなわち、少なくとも電動駆動源が有する回転軸が低速回転となり小さな回転駆動力(トルク)を発生しているときには、遠心力の低下に伴って回転負荷機構は低速回転している回転軸に負荷を付与することができる。従って、上述したように、低速回転時におけるコギングトルクの発生、言い換えれば、磁気結合状態が発生する現象に起因する回転軸の振動を摩擦制動力によって機械的に抑制することができ、歯合しているギア同士が当接して異音(ギアノイズ)を発生させることを効果的に防止することができる。又、回転軸の低速回転時、すなわち、遠心力の低下時には、付勢部材が自動的に摩擦部材と摩擦係止部材とを摩擦係合させて摩擦制動力を発生させ、この摩擦制動力を回転負荷として付与することができるため、製造コスト及び電力消費量を大幅に低下させることができる。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係り、車輪毎に電動モータを有する、所謂、インホイールモータ方式を採用した車輪駆動装置10の断面構造を概略的に示している。
車輪駆動装置10は、タイヤ11が装着されるホイール12の内周側に電動駆動源としての電動モータ13(以下、この電動モータ13をインホイールモータ13と称呼する。)を備えている。インホイールモータ13は、ナックル14を介して、車両のサスペンション機構を構成する図示省略のロワーアームやアッパーアーム、タイロッド等の車体側と連結されるようになっている。又、車輪駆動装置10は、ブレーキ装置(例えば、ディスクブレーキ装置)を構成するブレーキディスクロータ15も備えており、このブレーキディスクロータ15は図示を省略するブレーキキャリパによって挟持されることによって摩擦による制動力を発生する。
インホイールモータ13は、図1に示すように、モータ本体16と、車体側であるナックル14に一体的に接続されてモータ本体16を収容する筒状の非回転部材であるモータハウジング17とを備えている。モータ本体16は、ベアリングにより回転自在に軸支される中空状の出力軸16aを有しており、出力軸16aの外周面側には積層された電磁鋼板16bの外周に固定された複数の永久磁石16cからなるロータ16dが嵌挿されている。そして、ロータ16dの外周には、積層された電磁鋼板で形成される鉄心16eと、鉄心16eに形成された各ティース部に巻回配置される三相のコイルスロットに巻回されたコイル16fとから構成されるステータ16gが配置される。ロータ16dとステータ16gとは、所定のギャップを介して対面するとともにモータハウジング17により密閉されており、外部からの異物の侵入が防止されるようになっている。このように構成されるモータ本体16においては、ステータ16gのコイル16fに順次所定のタイミングで電流を供給することにより、ステータ16gに回転磁界を発生させ、ロータ16dを回転させることができる。
又、本実施形態に係る車輪駆動装置10は、インホイールモータ13による回転駆動力を車輪に伝達する駆動力伝達機構としての遊星歯車減速機20を備えている。遊星歯車減速機20は、モータ本体16(すなわち、インホイールモータ13)の出力軸16a、言い換えれば、モータ本体16の回転出力を同減速機20に入力する入力軸の先端側に配置された二段の遊星歯車機構21,22から構成される。
尚、本実施形態においては、遊星歯車減速機20を二段の遊星歯車機構21,22から構成して実施するが、必要となる減速比に応じて、一段の遊星歯車機構や三段以上の遊星歯車機構から遊星歯車減速機20を構成して実施可能であることは言うまでもない。又、本実施形態においては、遊星歯車減速機20を、モータ本体16の出力軸16aに対して二段の遊星歯車機構21,22を直列的に同軸に配置して実施するが、車軸に対してオフセットしたモータ本体16と同軸に配置されたカウンターギア機構と、車軸と同軸に配置されてカウンターギア機構と歯合する遊星歯車機構とから構成して実施することも可能である。
遊星歯車減速機20を形成する一段目の遊星歯車機構21の第1サンギア21aは、図2に示すように、インホイールモータ13を構成するモータ本体16の出力軸16a(すなわち入力軸)の先端部に一体的に形成されている。そして、第1サンギア21aは、複数(図2においては1つのみを図示)の第1プラネタリギア21bと歯合しており、複数の第1プラネタリギア21bは、更に、ナックル14に対して固定保持される内輪側部材23の内周面に形成されている第1リングギア21cと歯合するようになっている。これにより、複数の第1プラネタリギア21bは、それぞれ、第1サンギア21aの周りを公転するようになっている。尚、遊星歯車機構21を構成する第1サンギア21a、複数の第1プラネタリギア21b及び第1リングギア21cははすば歯車(ヘリカルギア)であり、車軸方向のスラスト荷重を受けられるようになっている。
又、複数の第1プラネタリギア21bをそれぞれ回転可能に支持する第1キャリアピン21dは第1プラネタリキャリア21eに固定されており、一段目の遊星歯車機構21の公転運動が二段目の遊星歯車機構22に伝達される。具体的に、遊星歯車機構21の第1プラネタリキャリア21eの中心に車軸と同軸に延びるシャフト21fが接続されており、シャフト21fには遊星歯車機構22の第2サンギア22aが一体的に形成されている。尚、シャフト21fはベアリングにより回転可能に軸支されている。そして、第2サンギア22aは、複数(図2においては一つのみを図示)の第2プラネタリギア22bと歯合しており、複数の第2プラネタリギア22bは、更に、内輪側部材23の内周面に形成されている第2リングギア22cと歯合するようになっている。これにより、複数の第2プラネタリギア22bは、それぞれ、第2サンギア22aの周りを公転するようになっている。尚、遊星歯車機構22を構成する第2サンギア22a、複数の第2プラネタリギア22b及び第2リングギア22もはすば歯車(ヘリカルギア)であり、車軸方向のスラスト荷重を受けられるようになっている。
ここで、第2サンギア22aと歯合する第2プラネタリギア22bの数は、例えば、ホイール12に形成されたボルト孔(取付孔)の数に一致しており、ホイール12に形成されたボルト孔(取付孔)の配置に一致するようになっている。更に、第2サンギア22aの周囲に配置される複数の第2プラネタリギア22bの中心(すなわち、後述する第2キャリアピン22dの中心)を結んで形成される多角形に外接する円の半径は、ホイール12のP.C.D(Pitch Circle Diameter)と一致するようになっている。
複数の第2プラネタリギア22bをそれぞれ回転可能に支持する第2キャリアピン22dは動力伝達部材である第2プラネタリキャリア22eに固定される。複数の第2キャリアピン22dは、図2に示すように、第2プラネタリキャリア22eを貫通して、車軸方向にて車両外側に延出して形成されている。そして、複数の第2キャリアピン22dの延出した側の端部には、ホイール12を車軸に固定するためのホイールナットと螺着するネジ部22d1が形成されている。すなわち、第2キャリアピン22dのうち、第2プラネタリキャリア22eから車軸方向にて車両外側に突出した部分(先端側部分)は、所謂、ハブボルトとして機能するボルトが形成されている。ここで、第2キャリアピン22dは第2プラネタリギア22bを回転可能に支持するものであるため、上述したように、ホイール12のボルト孔(取付孔)の配置及びP.C.Dと一致するように第2プラネタリギア22bが配設されることにより、第2キャリアピン22dの先端側部分(すなわち、ハブボルト部分)は、ホイールナットとともに汎用のホイール12を確実に車軸に対して固定することができる。
遊星歯車減速機20の外周には、アクスルベアリング30が配置される。アクスルベアリング30は、図2に示すように、ナックル14に固定されるつば部23aを一端に有する略円筒形状の内輪側部材23に形成されたインナーレース31と、外輪側部材32の内周面に形成されたアウターレース33と、インナーレース31とアウターレース33とによって画成される転動路内を転動するベアリング玉34とから主に構成される。このアクスルベアリング30によって、外輪側部材32が内輪側部材23に対して回転自在に保持される。尚、アクスルベアリング30のインナーレース31とアウターレース33を内輪側部材23や外輪側部材32と一体化することなく、別部品のインナーレースやアウターレースを内輪側部材23又は外輪側部材32に固定するようにしても良い。又、図示を省略するが、アスクルベアリング30には、転動路内に異物が侵入しないようにシール部材が設けられるようになっている。
外輪側部材32は、図2に示すように、遊星歯車減速機20の遊星歯車機構22を構成する第2プラネタリキャリア22eと、例えば、ボルト締結やカシメ締結等によって一体的に連結されており、第2プラネタリキャリア22eが安定して回転するように支持している。ここで、このように第2プラネタリキャリア22eと外輪側部材32とを一体的にすなわちガタ付きが生じることなく連結することにより、インホイールモータ13による回転駆動力が伝達されて第2プラネタリキャリア22eと外輪側部材32とが回転を開始する際の異音(ガタ音)の発生を効果的に防止することができる。そして、一体的に連結された第2キャリアピン22dの先端側部分(すなわち、ハブボルト部分)をホイール12のボルト孔(取付孔)に挿通した状態でホイールナットを螺着することによってホイール12を確実に車軸に対して固定し、インホイールモータ13による回転駆動力をダイヤ11に伝達することができる。
ここで、上記のように構成した車輪駆動装置10の作動、より詳しくは、インホイールモータ1により発生する出力としての回転駆動力の伝達経路について説明する。
運転者によって、例えば、車両のアクセルペダルが操作されて加速指示がなされると、図示を省略した車両制御装置からの指令によりインホイールモータ13、より詳しくは、モータ本体16が回転駆動を開始して回転駆動力を発生する。すなわち、モータ本体16においては、ロータ16dがステータ16gに対して回転し、この回転駆動力が出力軸16a(すなわち駆動力伝達機構の一部を構成する入力軸)を介して遊星歯車減速機20に伝達される。遊星歯車減速機20の遊星歯車機構21においては、出力軸16aに一体的に形成された第1サンギア21aを介して複数の第1プラネタリギア21bに回転が伝達されることにより、ナックル14に固定された第1リングギア21cに歯合する第1プラネタリギア21bは、それぞれ自転しつつ第1サンギア21aの周りを公転運動する。そして、この第1プラネタリギア21bの公転運動は、第1キャリアピン21dを介して連結された第1プラネタリキャリア21eによって取り出され、第1プラネタリキャリア21eに接続されたシャフト21fを一体的に回転させる。
第1プラネタリギア21bの公転運動によってシャフト21fが一体的に回転すると、このシャフト21fの回転は遊星歯車機構22に伝達される。すなわち、遊星歯車機構22においては、シャフト21f(入力軸)に一体的に形成された第2サンギア22aを介して複数の第2プラネタリギア22bに回転が伝達される。これにより、ナックル14に固定された第2リングギア22cに歯合する第2プラネタリギア22bは、それぞれ自転しつつ第2サンギア22aの周りを公転運動する。この第2プラネタリギア22bの公転運動は、第2キャリアピン22dを介して、第2プラネタリキャリア22e、アクスルベアリング30の外輪側部材32、ブレーキ装置のブレーキディスクロータ15、ホイール12及びタイヤ11に直接的に伝達され、その結果、車輪が駆動される。
一方、アクスルベアリング30の外輪側部材32、ブレーキディスクロータ15、ホイール12及びタイヤ11は、上述した伝達経路に従って駆動力がインホイールモータ13から伝達されることによって一体的に回転している。このため、インホイールモータ13が駆動電流の減少に伴って、所謂、回生状態により作動すると、この回生状態による回生制動力がホイール12及びタイヤ11に伝達され、その結果、車輪が制動される。又、ブレーキ装置のブレーキキャリパがブレーキパッドを回転しているブレーキディスクロータ15に押圧することにより、車体側と一体的に固定されたブレーキパッドとブレーキディスクロータ15とが摩擦係合すると、この摩擦係合による摩擦力(制動力)がホイール12及びタイヤ11に伝達され、その結果、車輪が制動される。
又、本実施形態における車輪駆動装置10は、図1に示すように、インホイールモータ13(より詳しくはモータ本体16)が低速(極低速)で回転する状況、例えば、車両が停車する直前の状況であるときに、インホイールモータ13(モータ本体16)の回転に負荷(ブレーキ)を付与する回転負荷機構40を備えている。本実施形態における回転負荷機構40は、図3に拡大して詳細に示すように、モータ本体16の出力軸16aに形成された中空部の内部に収容される、摩擦係止部材41と、摩擦部材としてのブレーキシュー42と、付勢部材としての押しバネ43とを備えている。
本実施形態の摩擦係止部材41は、中実棒状に形成されており、図3に示すように、車体側に固定された非回転部材であるモータハウジング17に対して一端側(基端側)が回転不能に一体的に固着され、他端側(先端側)が出力軸16aの中空部内に進入するように突出している。ブレーキシュー42は、摩擦係止部材41の外周面に対して摩擦係合し、低速で一体的に回転する出力軸16aに対して付与する回転負荷としての制動力を発生するものである。このため、ブレーキシュー42は、図3に示すように、出力軸16aの内周面に一体的に固着されて摩擦係止部材41の外周面に向けて突出するガイドピンPによって支持されている。ここで、本実施形態においては、後述する図4,5に示すように、ブレーキシュー42を、摩擦係止部材41の外周面の周方向にて4つ設けて実施する。
押しバネ43は、図3に示すように、基端側が出力軸16aの内周面に固着され、先端側がブレーキシュー42に一体的に固着されている。そして、押しバネ43は、自由長よりも圧縮されて組み付けられていて、ブレーキシュー42を所定の付勢力によって摩擦係止部材41の外周面に向けて押し付けるように付勢している。これにより、摩擦係止部材41とブレーキシュー42との接触又は離間を可能とし、接触状態(摩擦係合状態)では、所定の押圧力によってブレーキシュー42を摩擦係止部材41の外周面に向けて押し付けている。
このように構成された回転負荷機構40においては、車両が停止し車輪が回転していないとき、すなわち、インホイールモータ13(モータ本体16)が回転していないときには、図4に示すように、押しバネ43がブレーキシュー42を摩擦係止部材41に向けて押し付けるように付勢することによって、摩擦係止部材41とブレーキシュー42とが摩擦係合した状態に維持される。このように、インホイールモータ13(モータ本体16)が回転停止状態であるときには、ブレーキシュー42が押しバネ43による最も大きな押圧力(付勢力)で摩擦係止部材41の外周面に押し付けられる。従って、インホイールモータ13(モータ本体16)の出力軸16aは、摩擦係止部材41とブレーキシュー42との摩擦係合に伴って発生する制動力が回転負荷として付与されることにより、回転停止状態に維持される。
次に、停止している車両が走行を開始すると、すなわち、インホイールモータ13(モータ本体16)が回転駆動を開始すると、図5に示すように、出力軸16aと一体的にブレーキシュー42及び押しバネ43が回転を開始する。これにより、ブレーキシュー42には遠心力が発生し、この発生した遠心力の大きさが、摩擦係止部材41の外周面にブレーキシュー42を接触させるように押しバネ43が押し付けて付勢する付勢力の大きさよりも大きくなると、ブレーキシュー42は押しバネ43の付勢力に抗して摩擦係止部材41の外周面から離間する方向(すなわち、出力軸16aの半径方向外方)に変位する。この結果、車両が走行している状態、より詳しくは、インホイールモータ13(モータ本体16)の出力軸16aが回転している状態では、摩擦係止部材41とブレーキシュー42との摩擦係合が解除される。従って、インホイールモータ13(モータ本体16)の出力軸16aは、摩擦係止部材41とブレーキシュー42との摩擦係合が解除されて回転負荷が付与されず、効率の良い回転状態が維持される。
更に、走行している車両が停止に向けて減速すると、すなわち、インホイールモータ13(モータ本体16)が高速回転状態から低速回転状態に向けて変化すると、ブレーキシュー42に発生していた遠心力の大きさが出力軸16aの減速に伴って徐々に減少する。そして、減少した遠心力の大きさが押しバネ43の付勢力の大きさよりも小さくなると、図4に示すように、押しバネ43はブレーキシュー42を摩擦係止部材41に向けて押し付けるように付勢するようになる。この結果、ブレーキシュー42が摩擦係止部材41に対して摩擦係合して制動力を発生し始め、減速に伴って低速で回転している出力軸16aに対して回転負荷としての制動力を付与する。
ところで、上述したように、インホイールモータ13(モータ本体16)における出力軸16aの回転が低速になればなるほど、コギングトルクが相対的に大きくなる。このため、車両が停止する直前において、例えば、モータ本体16の出力軸16aの先端部に一体的に形成された第1サンギア21aがコギングトルクによって回転方向に振動すると、この第1サンギア21aと歯合する複数の第1プラネタリギア21bとの間で異音(カタカタ音)が発生しやすくなる。
これに対して、本実施形態においては、回転負荷機構40が低速で回転するモータ本体16の出力軸16aに回転負荷として摩擦による制動力を付与することができる。そして、このように付与される制動力は、コギングトルクによる出力軸16aの振動を抑制することができる。従って、図6に示すように、例えば、図10に示したようなコギングトルクが相対的に大きくなる振動発生領域(極低速回転時)となる前に、回転負荷機構40が回転するモータ本体16の出力軸16aに制動力を付加して機械的に回転を停止させることができる。この結果、車両が停止する直前において、コギングトルクによってモータ本体16の出力軸16aが回転方向に振動することを防止することができ、歯合するギア同士による異音(カタカタ音)の発生を効果的に防止することができる。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、回転負荷機構40は、インホイールモータ13(モータ本体16)の回転軸16aの回転に対して摩擦による制動力を負荷として付与することができる。具体的には、インホイールモータ13(モータ本体16)の回転軸16aと一体的に回転するブレーキシュー42が押しバネ43によって付勢されてモータハウジング17に固着された摩擦係止部材41と摩擦係合することにより、インホイールモータ13(モータ本体16)の回転軸16aの回転に対して負荷である制動力を付与することができる。そして、押しバネ43は、回転軸16aの回転に伴ってブレーキシュー42に作用する遠心力の大きさに応じて、遠心力が大きくなるとき、言い換えれば、回転軸16aが高速で回転するときにはブレーキシュー42が摩擦係止部材41に摩擦係合することを禁止し、遠心力が小さくなるとき、言い換えれば、回転軸16aが低速(極低速)で回転するときにはブレーキシュー42を摩擦係止部材41に向けて付勢してブレーキシュー42が摩擦係止部材41に摩擦係合することを許可する。
これにより、例えば、車両が走行中或いは走行を開始する状況において、インホイールモータ13(モータ本体16)が車輪を駆動するために回転駆動力を発生し遊星歯車減速機20に回転駆動力を出力するとき、すなわち、モータ本体16の回転軸16aが高速回転して大きなトルクを発生しているときには、回転負荷機構40は回転している回転軸16aに負荷を付与することがなく、回転軸16aの回転を阻害しない。従って、インホイールモータ13(モータ本体16)は、通常通り効率よく回転駆動力を遊星歯車減速機20を介して車輪に伝達することができる。
一方、例えば、走行中の車両が停車に向けて減速する状況において、インホイールモータ13(モータ本体16)が回転駆動力を減少させるとき、すなわち、モータ本体16の回転軸16aが低速回転となり小さなトルクを発生しているときには、遠心力の低下に伴って回転負荷機構40は低速回転している回転軸16aに負荷を付与することができる。従って、上述したように、低速回転時におけるコギングトルクの発生、言い換えれば、磁気結合状態が発生する現象に起因する回転軸16aの振動を摩擦による制動力によって機械的に抑制することができ、歯合しているギア同士が当接して異音(ギアノイズ)を発生させることを効果的に防止することができる。又、回転軸16aの低速回転時、すなわち、遠心力の低下時には、押しバネ43が自動的にブレーキシュー42と摩擦係止部材41とを摩擦係合させて摩擦による制動力を発生させ、この制動力を回転負荷として付与することができるため、製造コスト及び電力消費量を大幅に低下させることができる。
上記実施形態においては、回転負荷機構40を構成する付勢部材として押しバネ43を設けて実施した。この場合、押しバネ43を採用して実施することに代えて、付勢部材として引きバネ44を採用して実施することも可能である。以下、この変形例を具体的に説明するが、上記実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この変形例においては、図7に示すように、回転負荷機構40を構成する摩擦係止部材41が中空状に形成されるとともに、インホイールモータ13(モータ本体16)の出力軸16aの中空部内に中実棒状に形成されたシャフト16sが形成される。そして、このシャフト16sの先端側は、中空状の摩擦係止部材41の内周面に設けられたベアリングによって回転可能に軸支される。又、この変形例においては、ブレーキシュー42が引きバネ44を介してモータ本体16のシャフト16sの外周面側に組み付けられる。尚、この変形例においては、ガイドピンPがシャフト16sの外周面から半径方向に延出するように設けられており、ブレーキシュー42がこのガイドピンPによって支持されるようになっている。
引きバネ44は、図7に示すように、基端側がモータ本体16のシャフト16sの外周面に固着され、先端側が半径方向外方に配置されたブレーキシュー42に一体的に固着されている。そして、引きバネ44は、自由長よりも伸張されて組み付けられていて、ブレーキシュー42を所定の付勢力によって中空状の摩擦係止部材41の外周面に向けて引き付けるように付勢している。これにより、この引きバネ44も、摩擦係止部材41とブレーキシュー42との接触又は離間を可能とし、接触状態(摩擦係合状態)では、所定の押圧力によってブレーキシュー42を摩擦係止部材41の外周面に向けて押し付けている。
このように構成された変形例に係る回転負荷機構40においても、車両が停止し車輪が回転していないとき、すなわち、インホイールモータ13(モータ本体16)が回転していないときには、図8に示すように、引きバネ44がブレーキシュー42を摩擦係止部材41に向けて引き付けるように付勢することによって、摩擦係止部材41とブレーキシュー42とが摩擦係合した状態に維持される。従って、この変形例の場合においても、インホイールモータ13(モータ本体16)の出力軸16aは、摩擦係止部材41とブレーキシュー42との摩擦係合に伴って発生する制動力が回転負荷として付与されることにより、回転停止状態に維持される。
又、この変形例に係る回転負荷機構40においては、停止している車両が走行を開始すると、すなわち、インホイールモータ13(モータ本体16)が回転駆動を開始すると、図9に示すように、出力軸16aのシャフト16sと一体的にブレーキシュー42及び引きバネ44が回転を開始する。これにより、ブレーキシュー42には遠心力が発生し、この発生した遠心力の大きさが、摩擦係止部材41の外周面にブレーキシュー42を接触させるように引きバネ44が引き付けて付勢する付勢力の大きさよりも大きくなると、ブレーキシュー42は引きバネ44の付勢力に抗して摩擦係止部材41の外周面から離間する方向(すなわち、出力軸16aの半径方向外方)に変位する。この結果、この変形例においても、車両が走行している状態、より詳しくは、インホイールモータ13(モータ本体16)の出力軸16aが回転している状態では、摩擦係止部材41とブレーキシュー42との摩擦係合が解除される。従って、インホイールモータ13(モータ本体16)の出力軸16aは、摩擦係止部材41とブレーキシュー42との摩擦係合が解除されて回転負荷が付与されず、効率の良い回転状態が維持される。
更に、この変形例に係る回転負荷機構40においても、走行している車両が停止に向けて減速すると、すなわち、インホイールモータ13(モータ本体16)が高速回転状態から低速回転状態に向けて変化すると、ブレーキシュー42に発生していた遠心力の大きさが出力軸16aの減速に伴って徐々に減少する。そして、減少した遠心力の大きさが引きバネ44の付勢力の大きさよりも小さくなると、引きバネ44はブレーキシュー42を摩擦係止部材41に向けて引き付けるように付勢するようになる。この結果、この変形例においても、ブレーキシュー42が摩擦係止部材41に対して摩擦係合して制動力を発生し始め、減速に伴って低速で回転している出力軸16aに対して回転負荷としての制動力を付与する。
従って、この変形例においても、回転負荷機構40が低速で回転するモータ本体16の出力軸16aに回転負荷として摩擦による制動力を付与することができて、コギングトルクによる出力軸16aの振動を抑制することができる。これにより、この変形例においても、図6に示したように、コギングトルクが相対的に大きくなる振動発生領域(極低速回転時)となる前に、回転負荷機構40が回転するモータ本体16の出力軸16aに制動力を付加して回転を停止させることができる。この結果、この変形例においても、車両が停止する直前において、コギングトルクによってモータ本体16の出力軸16aが回転方向に振動することを防止することができ、歯合するギア同士による異音(カタカタ音)の発生を効果的に防止することができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態及び変形例においては、モータ本体16の出力軸16aに中空部を形成しておき、この出力軸16aの中空部内に回転負荷機構40を収容するように実施した。この場合、インホイールモータ13(モータ本体16)の出力軸16aに対して駆動力伝達機構である遊星歯車減速機20が接続されている場合には、遊星歯車減速機20を構成する回転軸のうちのいずれかに中空部を形成しておき、この回転軸の中空部内に回転負荷機構40を設けて実施可能であることは言うまでもない。この場合においても、車体側に回転不能に設けられた摩擦係止部材41と回転軸と一体的に回転するブレーキシュー42とが押しバネ43又は引きバネ44の付勢力によって互いに摩擦係合することによって、上記実施形態及び変形例と同様の効果が得られる。
又、上記実施形態及び変形例においては、摩擦係止部材41に対してブレーキシュー42を付勢する付勢部材として押しバネ43又は引きバネ44を用いるように実施した。この場合、例えば、アクチュエータ等を利用して電気的にブレーキシュー42を摩擦係止部材41に向けて付勢するように実施することも可能である。この場合においても、上記実施形態及び変形例と同様の効果が期待できる。
更に、上記実施形態及び変形例においては、電動駆動源として各車輪に設けられたインホイールモータ13(モータ本体16)を採用して実施した。しかしながら、電動駆動源としては、必ずしも各車輪のそれぞれに独立的に設ける必要はなく、例えば、ドライブシャフト等を介して車輪のいずれかに回転駆動力を伝達する電動モータを採用して実施可能であることは言うまでもない。この場合においても、電動モータから出力された回転駆動力が駆動力伝達機構を構成する減速機としての遊星歯車減速機20に伝達されるため、上記実施形態及び変形例と同様の効果が得られる。