JP6006718B2 - 光学フィルタ、光学機器、電子機器及び反射防止複合体 - Google Patents

光学フィルタ、光学機器、電子機器及び反射防止複合体 Download PDF

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Description

本発明は、光透過性の基板上に屈折率傾斜薄膜と微細構造体をこの順に設けた反射防止複合体、及びそれを用いた光学フィルタ、ならびにこの光学フィルタを用いた光学機器及び電子機器に関する。
各種様々な用途で使用されている多くの光学フィルタは、フィルタ自身の反射に起因した問題を抱えている。例えば、場合により、撮像光学系などで使用される光学フィルタでは、フィルタを透過した光の一部が、他の部材によって反射され、光学フィルタの光出射面から、再び光学フィルタに入射される現象が起きる。このような場合に、光学フィルタがこの入射光の波長領域に反射率を持っていると、他の部材で反射して入射した光が光学フィルタにより再度反射される。その結果、この光学フィルタで反射された光に起因した不具合が発生する。従って、光学フィルタにおける反射防止機能の更なる強化が強く望まれている。
光吸収を持つタイプの光学フィルタにおいても、吸収構造体を有する面の反射率を限りなくゼロに近づけておけば、光吸収特性を調整する事によって所望の透過特性を得る事が可能である。
このような所望の波長領域に吸収を持つタイプの光学フィルタとしては、光量絞り装置などで用いられる、吸収型のND(Neutral Density)フィルタなどが一般的に広く知られている。
光量絞りは、銀塩フィルム、或いはCCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために光学機器に設けられている。光量絞りには、被写界が明るくなるにつれ、より小さく絞り込まれていく構造を有するものがある。このような構造の光量絞りにおいては、快晴時や高輝度の被写界を撮影する際、絞りはいわゆる小絞り状態となり、絞りのハンチング現象や光の回折現象などの影響を受け易い事から、像性能に劣化を生じさせる場合がある。
これに対する対策として、絞りを通る光路中の絞りの近傍にNDフィルタを配置するか、若しくはNDフィルタを絞り羽根に直接貼り付ける工夫をしている。このようにNDフィルタを配置する事で光量の制御を行い、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくすることができる。
近年では撮像素子の感度が向上するに従い、NDフィルタの濃度を濃くして、光の透過率をさらに低下させる改善がなされてきた。それによって、高感度の撮像素子を使用した場合であっても、絞りの開口が小さくなり過ぎないようにすることができる。
NDフィルタを構成する基板には、ガラスやプラスチック材料からなる透明基板が用いられる。任意形状への加工性や、小型化・軽量化などの要望に伴い、最近では様々なプラスチック材料が基板用として多く使用されるようになってきている。この基板用のプラスチック材料としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)及びPO(ポリオレフィン)等を挙げることができる。これらの中でも特に、耐熱性や柔軟性、さらにはコスト的な要素も含めた総合的な観点より、Arton(JSR社製:製品名)やZeonex(日本ゼオン社製:製品名)などに代表されるノルボルネン系の樹脂や、ポリイミド系の樹脂などが好適である。
このようなNDフィルタにおいても、最近の固体撮像素子の更なる高感度化、高精細化等に伴い、先に述べたようなフィルタ自身の反射に起因した、ゴーストやフレア等の撮影画像への不具合が生ずる可能性が高まってきている。
反射低減策としては次のような方法が知られている。まず、特開平8−075902号公報(特許文献1)では、例えばSiO2、MgF2、Nb25、TiO2、Ta25、ZrO2等の異なる材料からなる屈折率の異なる数種類の薄膜を積層して多層膜タイプの反射防止膜とし、任意の波長領域の反射率を抑制する方法が提案されている。また、特開2009−122216号公報(特許文献2)には、反射防止構造体として微細周期構造体を用いたNDフィルタが開示されている。
特開平8−075902号公報 特開2009−122216号公報
しかしながら、特許文献1で示されたような多層膜での反射防止膜の場合には、広い波長領域にわたって反射率を大幅に低減するには、多層膜を構成する薄膜材料として使用できる材料が限定されている。そのため、相当の層数を必要としたり、設計が複雑になってしまう。
また、特許文献2で示されているサブミクロンピッチで形成された微細周期構造体を、NDフィルタの反射防止構造体とする場合は、特許文献1で示した多層膜構成の場合よりも、反射防止の波長領域を拡げる事が比較的容易であり、さらに、反射率の低減も容易である。しかしながら、引用文献2に記載されている基板上に微細構造体を設ける構成では、これらの界面での光反射が問題となる場合がある。また、例えば多層薄膜からなる光吸収層でも、フィルタを構成する構造体間で生じる光反射を干渉効果のみでこれら全てを相殺させて、フィルタ総体としての反射をゼロに近づける事は著しく困難である。
本発明の目的は、上述のような光学フィルタの反射率に起因した不具合を低減できる、反射防止複合体、この反射防止複合体を備えた光学フィルタを提供する事にある。また、このような反射を低減した光学フィルタを用いた光学機器および電子機器を提供する事にある。
本発明にかかる光学フィルタは、
光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板と、
前記透明基板上に設けられ、膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
前記屈折率傾斜薄膜上に設けられ、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体と
を備え、
前記微細構造体は、前記透明基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され、
前記屈折率傾斜薄膜は、
2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記透明基板側の屈折率が前記透明基板の屈折率に近づき、且つ、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的である
ことを特徴とする。
本発明にかかる光学機器は、上記の特徴を有する光学フィルタを撮影光学系に用いたことを特徴とする。
本発明にかかる電子機器は、上記の特徴を有する光学フィルタを表示部に用いたことを特徴とする。
本発明にかかる反射防止複合体は、
光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板上に設けられた膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
前記屈折率傾斜薄膜上に、密着層を介して設けられ、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体と
を備え、
前記透明基板の屈折率と前記微細構造体を構成する材料の屈折率は異なり、
前記微細構造体は、前記透明基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され、
前記屈折率傾斜薄膜は、
2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記透明基板側の屈折率が前記透明基板の屈折率に近づき、且つ、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的に変化する
ことを特徴とする。
本発明によれば、反射を著しく低減した光学フィルタを提供する事が可能である。更に、反射を著しく低減した反射防止複合体を提供する事が可能である。この光学フィルタを撮影光学系に用いた場合、フィルタの反射に起因した、例えばゴーストなどの不具合を著しく低減することができる。また、このような光学フィルタを特に光量絞り装置などに用いた撮像装置は画像劣化等、フィルタの反射に起因した不具合を改善した装置を得る事が可能である。
本発明に係る屈折率傾斜薄膜の屈折率分布例である。 光学フィルタの構成図である。 光学フィルタの構成例である。 本発明にかかる反射防止複合体を製造するために用いられるスパッタ装置の断面図である。 多層膜と屈折率傾斜薄膜の電子顕微鏡図である。 ピラーアレイ状の微細周期構造体の概略図である。 微細周期構造体の配列例である。 本実施例1において作製された光学フィルタの分光反射率特性である。 光学フィルタの構成図である。 光学フィルタの構成例である。 本実施例2により作製されたNDフィルタの分光反射率特性である。 本実施例3の光学絞り装置の説明図である。
本発明にかかる光学フィルタは、光透過性を有する基板と、屈折率傾斜薄膜と、微細構造体とを有する複合構造体として構成されたものである。また、本発明にかかる反射防止複合体は、屈折率傾斜薄膜と、微細構造体とを有する複合構造体として構成されたものである。
基板としては、基板としての強度や光学特性を有するものであり、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の形成用の基体として機能可能であるものが利用される。基板としては、ガラス系の材料からなる基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルホン)、PC(ポリカーボネート)、PO(ポリオレフィン)、PI(ポリイミド)及びPMMA(ポリメチルメタクリレート)等から選択した樹脂材料からなる基板を用いることができる。
なお、光学フィルタの表面に本発明の反射防止複合体を設ける場合には、反射防止機能を付与する対象としての光学フィルタ自体を基板として、光学フィルタの反射防止処理対象面に、屈折率傾斜薄膜と反射防止構造体を設けて本発明にかかる反射防止構造を有する光学フィルタとすることができる。光学フィルタの反射防止処理対象面には、必要に応じて上記の反射防止複合体用の基板を設け、この基板を介して屈折率傾斜薄膜と反射防止構造体を設けることができる。
他の方法として、上記の反射防止複合体を有する基板自体に光学フィルタの機能を持たせることで、光学フィルタとしての基板上に本発明の反射防止構造を設けることもできる。
一方、後述するように、反射防止複合体自体に光学フィルタの機能を持たせることもできる。その場合には、基板として、光学フィルタ用の基板としての強度や光学特性を有するものを選択すればよい。
屈折率傾斜薄膜は、その厚さ方向において基板と微細構造体との間に配置される。屈折率傾斜薄膜に光学フィルタとしての光吸収性を持たせることもできる。その場合の光吸収性は、目的とする光学フィルタの機能や特性に応じて設定される。入射光の所定の波長に対して、少なくともおよそ1%程度が吸収される場合に、当該波長に対して光吸収性を持つといえる。
基板上には膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜を設ける。また、膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜の上には、反射防止構造体を設ける。反射防止構造体としては、可視光の波長よりも短いピッチで多数の微細な突起が配列された面を有する微細構造体、あるいは可視光の波長よりも短いピッチでの凹凸の繰り返しを設けた面を有する微細構造体を用いることができる。この微細構造体としては、ランダムに形成された針状体及び柱状体等の突起、階段形状に微細に形成された凹凸構造の突出部または凹部によって大気や隣接する媒体との屈折率差を低減したものも含む。この微細構造体としては、公知の微細構造体から目的に応じて選択したものを用いることができる。例えば、基板を透過する可視光の波長よりも短い繰返し周期で配置された多数の突起からなる周期構造、あるいは基板を透過する可視光の波長よりも短い繰返し周期の凹凸構造からなる周期構造を持つ微細周期構造体であれば、光ナノインプリントなどの方法を用いて再現性良く作成することができる。
屈折率傾斜薄膜は、その厚さ方向において連続的かつ周期的に変化する屈折率変化を有する。この屈折率変化は、
(1)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に近づくように変化する部分と、
(2)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に近づくように変化する部分と、
を有することが好ましい。
なお、上記の屈折率変化の基板側終点とは、例えば、図1におけるAで示された点であり、反射防止用の微細周期構造体側の終点はBで示された点である。図1に示す例では、屈折率分布の変化の基板側終点(あるいは起点)Aを含む末端部分において、屈折率傾斜薄膜の屈折率が基板の屈折率に近づくように変化している。屈折率分布の変化の反射防止構造体側終点(あるいは起点)Bを含む末端部分においても同様に、屈折率傾斜薄膜の屈折率が反射防止構造体の屈折率に近づくように変化している。なお、点Aは基板側界面に位置してもよい。また、点Bも反射防止構造体側の界面に位置してもよい。また、連続的な変化や微小な屈折率差であれば反射は大きく低減でき、屈折率変化が滑らかで隣接する構造体、すなわち基板または微細周期構造体の屈折率に、屈折率が大きい方から近づいても、屈折率が小さい方から近づいてもよい。屈折率傾斜薄膜の膜厚方向における基板側の端部の屈折率と基板の屈折率の差aと、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向における微細周期構造体側の端部の屈折率と微細周期構造体の屈折率の差bとの和(a+b)が、屈折率傾斜薄膜の両面に隣接する2つの構造体間の屈折率差よりも小さくなっていればよい。
つまり、屈折率傾斜薄膜の屈折率が、基板の屈折率と微細構造体を構成する材料の屈折率との屈折率差を低減するように膜厚方向に屈折率変化するとは、基板の屈折率Aと微細周期構造体の屈折率Bとの屈折率差|A−B|と(a+b)の関係が、|A−B|>a+bが成り立つことである。なお、この関係は、後述する図9における基板、他の屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の場合においても同様である。
なお、成膜方法によっては、基板上に形成される屈折率傾斜薄膜の最初の部分での厚さ方向の屈折率が一定である部分が生じても良い。例えば、後述するとおり、基板上に屈折率傾斜薄膜を成膜する際に、複数の薄膜形成用材料の配合比を変化させて膜厚方向での屈折率の連続的な変化を形成する。その際、一定の成膜材料濃度で成膜を開始してから、ある時間経過後に複数の薄膜形成用材料の配合比を変化させることができる。このような場合には、上記のような厚さ方向における屈折率の変化がない部分が生じてもよい。
基板側の屈折率変化の終点における屈折率は、基板の屈折率と同じか、あるいは、基板の屈折率に対して、目的とする光学フィルタの特性において許容される屈折率差の範囲内の屈折率であればよい。反射防止構造体側の屈折率変化の終点における屈折率も同様に、反射防止構造体の屈折率と同じか、あるいは、反射防止構造体の屈折率に対して、透過光の波長または波長領域における目的とする光学フィルタの特性において許容される屈折率差の範囲内の屈折率であればよい。これらの屈折率差は0.05以下が好ましい。従って、上述した厚さ方向における屈折率の変化がない部分が基板側の界面に接して存在する場合についても、この屈折率変化のない部分の屈折率が、基板の屈折率に対して0.05以内の屈折率差を有することが好ましい。この点は、反射防止構造体側の界面に接して厚さ方向における屈折率の変化がない部分が存在する場合においても同様である。
屈折率傾斜薄膜の厚さ方向の屈折率の変化の幅は、目的とする光学フィルタの特性や屈折率傾斜薄膜形成用の材料の種類やその組合せなどによって各種設定できる。例えば、屈折率傾斜薄膜の厚さ方向において、3種類の元素を用いて、SiO2からなる領域からTiO2からなる領域に変化させる場合は1.47〜2.70程度の範囲内で変化させることができる。
屈折率傾斜薄膜及び微細構造体が設けられた側とは反対側の基板面上に、反射防止構造体を更に設けることもできる。この反射防止構造体は、所望の光学フィルタの光学特性を得るために必要とされる反射防止機能を有するものであればよい。反射防止構造体としては、各種の微細構造体、例えば基板を透過する可視光の波長よりも短い周期で構成された凹凸構造を持つ微細周期構造体や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜を用いることができる。更に、この基板の裏面上の基板と反射防止構造体との間には第2の屈折率傾斜薄膜を設けることができる。
なお、基板の裏面側に、基板と、膜厚方向に屈折率が連続的に変化する屈折率傾斜薄膜と、所望の光の波長領域において反射防止効果を発現する反射防止構造体とを、それぞれこの順番に隣接させ配置する事で、反射防止構造内での光の反射率を著しく低減させることができる。すなわち、本発明では、膜厚方向において連続的に、好ましくは連続的かつ周期的に屈折率が変化する薄膜を用い、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の屈折率の関係を上記の(1)及び(2)のように設定している。
屈折率傾斜薄膜の膜厚は、目的とする機能に応じて適宜選択できる。屈折率傾斜薄膜の膜厚は、10〜4000nm、より好ましくは100〜1000nmとすることができる。
本発明にかかる反射防止構造の構成は、反射防止機能が必要とされる、NDフィルタを含む各種の光学フィルタ等の光学素子の反射防止処理用として極めて有用である。
本発明の反射防止構造を光学フィルタに適用する場合には、例えば以下の各形態が利用できる。
(1)光学フィルタの反射防止処理を行う面に、この面を基板として利用し、上記の構成となるように屈折率傾斜薄膜及び微細構造体を設けて本発明にかかる反射防止構造とし、反射防止構造付き光学フィルタとする。
(2)光学フィルタの反射防止処理を行う面に、基板、屈折率傾斜薄膜及び微細構造体を有する本発明にかかる反射防止構造を設けて、反射防止構造付き光学フィルタとする。
(3)本発明にかかる反射防止構造の基板、屈折率傾斜薄膜及び微細構造体のすくなくとも一つに光学フィルタとしての機能を付与して、反射防止構造付き光学フィルタとする。
以下、本発明の光学フィルタについて、NDフィルタとした場合について実施例に基いて説明する。
(実施例1)
図2のように構成した、吸収タイプのNDフィルタについて、以下に詳しく記載する。
なお、以下の各実施例における屈折率は、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の構成材料から540nmの波長の光での屈折率として特定できるものである。
NDフィルタの構造としては図2に示す構造を挙げることができる。この図2に示すNDフィルタは、基板13の片面(上面)側に屈折率傾斜薄膜12を配置し、屈折率傾斜薄膜12上に反射防止構造体111を配置し、基板13の裏面にも反射防止構造体112を配置した構成を有する。また、屈折率傾斜薄膜12は膜中の少なくても一部に吸収を持っている。
図2のような構成の場合、基板の反対面(下面)での反射が大きくなってしまう為、この面にも何らかの反射防止構造体112が必要となる場合が多い。このような反射防止構造体111、112としては、図3(a)及び(b)中に示したように、反射防止効果を持つ微細周期構造体151、152や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜161、162を用いた構成が挙げられる。更には、図3(c)及び(d)中に示したように、微細周期構造体15と反射防止膜16を併用した構成が挙げられる。本発明では、図3(a)及び図3(c)に示すように屈折率傾斜薄膜上の反射防止構造体111を微細構造体で構成し、かつ基板13の裏面にも反射防止構造体112を配置する。従って、図3(b)及び(d)に示す構成は参考例である。図3(a)示す構成であれば、例えば撮像素子側に光学フィルタのどちらの面を向けても、光学フィルタの反射に起因したゴースト光の発生を著しく抑制する事ができる。したがって、光学フィルタの方向を選ばず光学系内に配置する事も可能となる。
図3(a)及び(c)の構成の中でも、反射低減の観点からは図3(a)に示したような構成にする事がより望ましい。従って、本実施例では図3(a)のように、反射防止構造体として、基板13の両側の面で微細周期構造体151、152を形成した。
ここで、例えば図3(b)のような多層膜構成の反射防止膜161や162と同様の効果を持つ機能を屈折率傾斜薄膜12中に組み込む事も可能である。その場合は、表層の界面付近における所定の領域内で、屈折率を周期的に、且つ連続的に複数回増減させ、外気との界面反射防止用の屈折率プロファイルが必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜上に別途反射防止構造体を設けた構成とみなすことができる。また、反射防止膜の作成に際して、屈折率傾斜薄膜上に、屈折率傾斜薄膜の作成に使用する材料と異なる材料を使用し、屈折率が周期的かつ連続的に変化する反射防止膜を作成してもよい。このような反射防止膜の作成形態は、後述する図9及び図10における同様の構成部分にも適用可能である。
このようなNDフィルタ14を形成する基板13は屈折率が1.60程度となるように厚さ0.1mmのPETフィルムを使用した。本実施例ではPETフィルムを使用したが、これらに限らずガラス系の材料でも良いし、POやPI系、PEN、PES、PC、PMMA系などであっても良い。
<屈折率傾斜薄膜について>
屈折率傾斜薄膜12は、メタモードスパッタ法により、SiO2とNbOx膜の成膜レートを調整しながら、この2種類を混合させ、屈折率を膜厚方向で連続的に変化させる事で、所望の吸収特性を得るように調整し作製した。
<スパッタ装置構成>
図4は、本実施例で示す屈折率傾斜薄膜を作製したスパッタ成膜装置の基板搬送装置の回転軸に直交する面での平面断面図である。
スパッタ成膜装置としては、薄膜が形成される基板51を保持する回転可能な円筒状の基板搬送装置52を真空槽53内に備え、基板搬送装置52の外周部とその外側の真空槽53との間の環状空間に、2箇所のスパッタ領域54、55と、反応領域57が設けられている装置を用いた。領域59から基板を搬入する。
基板51は成膜される面が外側を向くように基板搬送装置52に搭載させた。スパッタ領域54、55には、ACダブル(デュアル)カソードタイプのターゲット54a、55aが装備されている。真空槽53の外側に高周波電源56が配置されている。ターゲット材の形状は平板型に限らず、円筒型のシリンドリカルタイプであっても良い。また、これらの他に、別途領域58には、例えばグリッド電極を有する高周波励起によるイオンガングリッドや、基板への正イオンの電荷蓄積を防ぐために正イオンを中和する低エネルギー電子を放出するニュートラライザ等を設ける事も可能である。本発明に用いるスパッタ装置は、例えばスパッタ領域を3領域以上設けても良く、上記装置以外の構成でも実施可能である。
本実施例では図4で示したスパッタ装置を用い、スパッタ領域54にSiターゲット、スパッタ領域55にNbターゲットを配置し、反応領域57には酸素を導入した構成で屈折率傾斜薄膜を形成した。基板搬送装置52に固定された基板51を高速回転させ、スパッタ領域54、55において、基板51上にSiとNbの極薄膜を形成した後、反応領域57でSiとNbの極薄膜を酸化させる。これにより、SiとNbの酸化膜を形成し、この動作を繰り返す事でSi酸化膜とNb酸化膜の混合膜を作製した。さらに、各スパッタ領域でのスパッタレートや酸化レートを、成膜中に連続的に変化させる事で、膜厚方向において連続的に屈折率が変化する屈折率傾斜薄膜を形成した。また、SiOとNbOxのそれぞれ単独での成膜条件を基に、SiとNbのスパッタレート、及び酸化レートを制御する事で、SiOとNbOx相当となる混合膜を作製する事も可能である。また、SiO膜単体の屈折率からNbOx膜単体の屈折率まで、屈折率を連続的に変化させる場合には、投入パワーを低くすると放電が不安定になる事がある為、酸化レートの制御時に、投入電力の制御だけではなくカソード上設けたマスク機構を併用した。
このような連続的な屈折率プロファイルを持つ屈折率傾斜薄膜の例が図1である。図1では、比較的高屈折率を持つ基板から、屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体の順に積層されている。そして、膜厚方向に対し、基板側から連続的に屈折率が増減するような変化を持っており、屈折率傾斜薄膜両端の界面に向かうにつれ、それぞれ隣接する構造体の屈折率に近づくような変化をとっている。
屈折率傾斜薄膜は、膜面に垂直な方向、つまり膜厚方向に屈折率が連続的、好ましくは連続的かつ周期的に変化している薄膜の事である。膜厚方向に屈折率が、連続的かつ周期的に変化している膜は、ルゲート膜、ルゲートフィルタなどとして呼ぶことも可能である。図5に多層膜と屈折率傾斜薄膜の電子顕微鏡写真の模式図を示す。図5(a)は多層膜の膜厚方向断面の模式図であり、図5(b)が屈折率傾斜薄膜の断面の模式図である。例えば、色の濃い部分がSiOで、色の薄い(白抜き)部分がNbとすると多層膜は、膜の界面が明確に分かれているのに対して、屈折率傾斜薄膜は、多層膜と異なり、膜の界面が明確に分かれていない。また、屈折率傾斜薄膜の屈折率変化の大きい部分ではコントラストが強くなる。
また、深さ方向分析によって得られた結果を、縦軸に濃度(強度)、横軸に深さ(膜厚など対応するパラメーター)を取ったプロットをデプス・プロファイルという。
測定試料の表面から内側に向かって組成分布を調べる深さ方向分析において、ミクロンオーダー以下の分析には加速イオンを用いて表面を削り取りながら分析する手法が良く用いられる。この方法はイオンスパッタリング法と呼ばれ、X線光電子分光法(XPS)やオージェ電子分光法(AESまたはESCA)などとして知られており、基板表面に層を形成した構造を持った光学部品や電子部品、機能材料の評価に多く用いられている。
これらのX線光電子分光法では、超高真空中で試料にX線を照射し、放出される電子(光電子)を検出する。放出される光電子は、対象となる原子の内殻電子に起因するものであり、そのエネルギーは元素ごとに定まることから、エネルギー値を知ることで定性分析を行う事が可能である。このように屈折率傾斜薄膜中の膜厚方向における組成の変化を評価し、デプス・プロファイルを得る事により、所望の屈折率分布を得る事ができているのかを確かめる事が可能である。
このような屈折率傾斜薄膜の設計手法は以前より各種様々な方法が検討されている。連続的な変化とは異なり、階段状に徐々に屈折率が変化するステップ型の屈折率分布であっても、この屈折率分布を調整する事で、連続的なインデックス変化を持たせた膜と、略同様の光学特性を得る事も可能である事が判明している。しかし、反射低減などにおいては、連続的な屈折率変化を持った方が、より理想的な特性を得る事ができる。さらに、薄膜中で界面が無くなり前後の膜組成が非常に近くなる事から、膜の密着強度の向上や、環境安定性の改善などの効果が現れる。このような観点からは、屈折率が連続的に変化する屈折率分布を選択する方が良い。
スパッタ法や蒸着法など、近年の成膜手法の発展により、屈折率の範囲は限定される事があるものの、少なくてもその範囲内では任意の屈折率を得ることができる。例えばスパッタ法においては、2種類の材料に対して同時に放電し、各材料の放電パワー、つまりターゲットへの投入パワーを変化させ、混合比を変える事で、2つの物質の間の屈折率を持つ、中間屈折率材料を作製する事が可能である。また、混合する種類は2種類以上であっても良い。
このようなスパッタ法の場合、1つの材料を低パワーとしていくと、放電が不安定になる場合がある。メタモードスパッタの場合は、反応モードになる場合がある。従って、2物質間の全ての屈折率を実現する為には、例えばマスク法により成膜量をコントロールするなど、投入パワー以外の要素も並行して調整し、膜厚を制御する必要があるが、この場合は、装置の機構や、制御が少なからず複雑化する。
以上より、本実施例で用いたメタモードスパッタ法においては、放電を安定的に維持、制御できる範囲内で屈折率を変化させた。
本実施例においては、屈折率傾斜薄膜中の山谷を複数形成したような屈折率のプロファイルを形成する事も可能であるが、制御の容易性などを考慮して、複雑化しないよう必要最低限の増減となるように設計した。
また、基板と反射防止構造体の界面は、屈折率差が生じ易い。反射防止の観点から基板と反射防止構造体に近い領域は、屈折率変化が緩やかな膜設計を行った。反射防止の観点からは図1に示した概念図のように屈折率差をできるだけ生じさせないように設計することが好ましい。しかしながら、所望の吸収を得るためには、屈折率が高い領域が必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜は基板に近い方から屈折率が緩やかに上昇し、少なくとも一点の変曲点を経て、反射防止構造体に向かって反射防止構造体の屈折率に緩やかに近づくことが好ましい。
一方、基板と屈折率傾斜薄膜との界面、および屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との界面においても、屈折率が異なるとその屈折率差に応じて反射が発生する。そこで、これらの界面での反射が問題となる場合は、屈折率差は出来るだけ小さくする事が望ましい。本実施例では、屈折率傾斜薄膜の成膜開始直後と成膜終了間際でのSiOとNbOxとのレート比を調整する事で、2つの界面での屈折率差をそれぞれで0.05以下となるように調整した。また、屈折率傾斜薄膜12の膜厚は200nmとなるように調整した。屈折率傾斜薄膜の膜厚は、薄い方が基板から反射防止構造体までの屈折率の変化率が急峻になる。そのため、反射防止の観点からは、膜厚が厚い方が好ましい。反射をより低減する必要がある場合は、400nm程度までに厚くする事で対応できる。
<反射防止構造体について>
屈折率傾斜薄膜12の形成後、UV硬化性樹脂を用いた光ナノインプリント法により、屈折率傾斜薄膜12上に、反射防止効果を持つサブミクロンピッチの微細構造体としての微細周期構造体151と152を形成した。
微細周期構造体は、近年の微細加工技術の向上とともに作製されるようになってきた。このような構造体の1つである、反射防止効果を持つ微細周期構造体は、モス・アイ構造体などと呼ぶことも可能である。構造体の形状を擬似的に屈折率の変化が連続的となる形状とする事で、物質間の屈折率差に起因した反射の低減を図ったものである。
図6は、基板上にピラーアレイ状に円錐体が配置された、反射防止効果を持つ微細周期構造体の概略例を示す上方向からの斜視図である。これと同様にホールアレイ状に配置した微細周期構造体の形成も可能である。このような構造体は、真空成膜法などで薄膜を単層、または複数層積層する事により作製する反射防止膜とは別の構造として、例えば物質表面などに生成される事が多い。
このような微細周期構造体の作製に関しては、様々な方法が提案されているが、本実施例ではUV硬化性樹脂を用いた光ナノインプリント法を用いた。
本実施例における微細周期構造体は図6のように円錐体を周期的に配置したピラーアレイ状とした。NDフィルタの用途を考慮し、少なくても可視波長領域の反射率は低減できる構造となるように、高さ350nm、周期250nmとなるように設計した。さらに、突起構造体のマトリックス状の配列に関して、図7(a)の平面図で示すように正方配列や、図7(b)の平面図で示すように三方(六方)配列などが考えられる。三方配列の方が基板材料の露出面が少ない事などから、反射防止効果が高いと言われている。従って、本実施例では三方配列のピラーアレイとした。
先に設計された形状を反転させたホールアレイ形状を持つモールドとしての石英基板に、UV硬化性樹脂を適量滴下した。その後、インプリントを施す基板に石英モールドを押し付けた状態でUV光を照射する事で樹脂を硬化させ、サブミクロンピッチのピラーアレイ状の微細周期構造体151、152を作製した。各種のUV硬化性樹脂を用いることができるが、ここでは、硬化後の屈折率を1.50に調整したPAK−01(商品名:東洋合成製)を用いた。
ここで、屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との密着性を向上させるために、プライマー処理を行い、屈折率傾斜薄膜上と微細周期構造体との間に密着層を設けた。プライマー液としては、界面活性剤である信越化学社製のKBM−503(商品名)をベースに、IPA(イソプロピルアルコール)や硝酸を適量加え、塗工後の硬化した密着層の屈折率が1.45となるように調整したものを用いた。これを、0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタを介し屈折率傾斜薄膜上に滴下し、スピンコートにより極薄膜となるように塗工した後、120℃10分間の乾燥処理をおこなって密着層を形成した。更に密着力を強化する必要がある場合は、前述のプライマー液の成分に更にTEOS(オルトケイ酸テトラエチル)などを加えても良い。また、プライマー液をより均一に塗工する為に、プライマー液塗工前に、基板にはUVオゾンによる親水化処理を施す事がより好ましい。さらに、基板両面に形成する場合は、濃度を適宜調整し、ディップコートにより塗工しても良いし、スピンコートで片面塗工した後に基板の表裏を変え、もう一方の面を再度スピンコートで塗工しても良いが、本実施例では後者を選択した。密着層と隣接する構造体との屈折率差も0.05以内とすることが好ましい。
ここで、NDフィルタのように可視波長全域に吸収を持つフィルタの場合、紫外域にも吸収を持っている場合が多い。従って、使用するUV光の波長によっては、フィルタの基板側から光を照射した場合、NDフィルタがその光の少なくとも一部を吸収してしまい、十分な光が樹脂まで届かない場合がある。従って、そのような場合はモールド側からUV光を照射する必要があり、必要なUV光の波長を十分に透過する材質のモールドを選択する必要がある。
更に、光ナノインプリントのプロセスを考慮すると、基板13の片面にインプリントを施し、その後もう一方の面にインプリントすると、最初に形成した微細周期構造体に欠けやクラックなどのダメージを与えてしまう事が想定される。従って、基板両面にそれぞれインプリント用のモールドを配置し、両面同時に光ナノインプリントを実施する手法を選択した。この場合、UV光源も基板両面に2つ配置することで生産性を高めることができる。
<光学フィルタの特性>
以上によって作製されたNDフィルタの、分光反射率特性、及び分光透過率特性が図8である。濃度は約0.35〜0.50程度であり、可視波長領域において反射率が0.4%以下になっている。本構成により、非常に低い反射率を実現できた。測定には、分光光度計(U4100(株)日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた。
また、スパッタ法を用いることで、蒸着法などと比べて、密度の高い薄膜を安定的に形成することができる。
また、本実施例において、屈折率の制御に酸化物を用いたが窒化物でも良く屈折率傾斜薄膜として、連続的、周期的に屈折率が変化すれば各種の化合物を用いることができる。
また、基板と屈折率傾斜薄膜との間、及び/または屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体の間に、バッファ層を設けて、密着性や耐久性を改善することなども可能である。その場合はバッファ層を考慮した設計を行えば良い。バッファ層の屈折率は、これに隣接する基板または微細周期構造体と同じ、あるいは屈折率差を近接させる、好ましくはこれらの屈折率差を0.05以下とする。
バッファ層として密着層を設ける場合における密着層形成用の材料としては、シランカップリング剤の他には、Cr、Ti、TiOx、TiNx、SiOx、SiNx、AlOx、SiOxNyなどの無機材料や各種の有機材料が挙げられる。密着性を高める層の材質に応じて公知の材料から密着層形成用の材料を適宜選択して用いることができる。密着層の膜厚は、目的とするフィルタの光学的機能及び密着性が得られるように設定すればよい。密着層は、例えば10nm以下の薄膜として形成してもよい。
(実施例2)
図9のように基板両面に屈折率傾斜薄膜を形成したフィルタの作製について以下に記載する。
NDフィルタの他の構造として図9に示した構造を挙げることができる。この図9に示すNDフィルタは、基板23の片面(表の面)側に屈折率傾斜薄膜221を配置し、屈折率傾斜薄膜221上に反射防止構造体211を配置した後、基板23の裏面側にも同様に屈折率傾斜薄膜222(他の屈折率傾斜薄膜)と反射防止構造体212を配置した。NDフィルタ24における所望の波長領域に所望の吸収を持つ機能は、屈折率傾斜薄膜221、222の両方に持たせた。場合によっては屈折率傾斜薄膜221と222のどちらか一方のみであっても同様の特性を得る事は可能である。このような反射防止構造体211、212としては、図10(a)及び(b)中に示したように、反射防止効果を持つ微細周期構造体251、252や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜261、262を用いた構成が挙げられる。更に、図10(c)中に示したように、微細周期構造体25と反射防止膜26を併用した構成が挙げられる。
本発明では、図10(a)及び(c)に示す構成が採用される。従って、図10(b)に示す構成は参考例である。図10(a)及び(c)中でも、反射低減の観点からは図10(a)に示したような構成にする事がより望ましい。従って、本実施例では図10(a)のように、反射防止構造体として、基板23の両側の面で微細周期構造体251、252を形成した。
NDフィルタ24を形成する基板23には、屈折率が1.81の厚さ1.0mmのSFL−6ガラスを使用した。
実施例1と同様に、まずは基板23上の片面側に、屈折率傾斜薄膜221を、メタモードスパッタ法により、SiOとTiOx膜の成膜レートを調整しながら、この2種類を混合させ、屈折率を膜厚方向で連続的に変化させる事で、所望の吸収特性を得るように調整し作製した。その後、基板の表裏を変えて、再度同様にSiOとTiOxの混合膜である屈折率傾斜薄膜222を作製した。また屈折率傾斜薄膜221、222の膜厚は200nmとなるように調節した。
また、膜厚方向に屈折率を連続的に変化させる事に加え、TiOxのxを膜厚方向で変化させ、消衰係数も変化させる事で、屈折率傾斜薄膜221、222中の吸収特性を調整した。屈折率傾斜薄膜221は、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなるようにTiを多く含むように作成し、屈折率傾斜薄膜222は、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなるようにTiOを多く含むように作成した。つまり可視波長領域である400nm〜700nmにおける分光透過特性が、両面の屈折率傾斜薄膜総体として分散が小さい平坦な特性となるように膜設計を行った。
本実施例では図4で示したスパッタ装置を用い、スパッタ領域54にSiターゲット、スパッタ領域55にTiターゲットを配置し、反応領域57には酸素を導入した構成で屈折率傾斜薄膜を形成した。基板搬送装置52に固定された基板51を高速回転させ、スパッタ領域54、55において、基板51上にSiとTiの極薄膜を形成した後、反応領域57でSiとTiの極薄膜を酸化させる。これにより、SiとTiの酸化膜を形成し、この動作を繰り返す事でSi酸化膜とTi酸化膜の混合膜を作製した。さらに、各スパッタ領域でのスパッタレートや酸化レートを、成膜中に連続的に変化させる事で、膜厚方向において連続的に屈折率が変化する屈折率傾斜薄膜を形成した。また、SiOとTiOxのそれぞれ単独での成膜条件を基に、SiとTiのスパッタレート、及び酸化レートを制御する事で、SiOとTiOx相当となる混合膜を作製する事も可能である。また、SiO膜単体の屈折率からTiOx膜単体の屈折率まで、屈折率を連続的に変化させる場合には、投入パワーを低くすると放電が不安定になる事がある為、酸化レートの制御時に、投入電力の制御だけではなくカソード上設けたマスク機構を併用した。
その後、基板両面に形成された屈折率傾斜薄膜上にUV硬化性樹脂を用いた光ナノインプリント法により反射防止効果を持つサブミクロンピッチの微細周期構造体251、252を形成した。実施例1と同様の理由から、本実施例においても、ND膜を形成した基板両面にそれぞれインプリント用のモールドを配置し、両面同時に光ナノインプリントを実施した。ここで、実施例1と同様に、屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との密着性を向上させるために、プライマー処理を行い、屈折率傾斜薄膜上と微細周期構造体との間に密着層を設けた。
以上によって作製されたNDフィルタの分光反射率特性、及び分光透過率特性が図11である。濃度は約0.30〜0.35程度であり、可視波長領域において反射率が約0.4%以下になっている。本構成により、非常に低い反射率を実現できた。測定には、分光光度計(U4100(株)日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた。
以上のように、本発明にかかる反射防止構造の製造方法としては、基板上に屈折率傾斜薄膜を設ける工程と、前記屈折率傾斜薄膜上に、反射防止構造体を設ける工程とを有し、前記屈折率傾斜薄膜を2種以上の材料を用いた成膜法によりこれらの材料の混合比を変化させ、膜厚方向に屈折率を連続的に変化させて形成することを特徴とする製造方法を用いることができる。
上記の成膜法としては、各種のスパッタ法及び各種の蒸着法が利用でき、中でもメタモードスパッタ法を好適に用いることができる。上述の実施例1、2ではメタモードスパッタ法によりSiO2とNbOxまたはTiOxの混合膜を作製し、膜厚方向でその混合比率を変える事で連続的な屈折率を持つ傾斜薄膜を形成した。これに限らず、TaOx、ZrOx、AlOx、MoSiOx、MoOx、WOxなど、様々な金属または半金属の酸化物の材料を使用する事が可能である。前述したような屈折率傾斜薄膜と界面をなす構造体の屈折率などの関係から、必要とされる屈折率を実現できる材料であれば良く、プロセス上の制約などを考慮し、時々で最適な材料を選択すれば良い。また、3種類以上の金属または半金属の元素を含んだ材料を組合せても良い。3種類以上の材料を組み合わせると安定的に屈折率を傾斜させることが可能となり、吸収の低減など消衰係数の調整も行い易くなり設計の自由度が広がる。この際、酸化物に限らず窒化物でも同様に設計の自由度を広げることができる。
さらに、反応性蒸着などを用いる場合は、その導入ガスを制御し、屈折率や消衰係数を制御する事で傾斜薄膜を形成する事も可能である。膜厚方向で傾斜薄膜中の一部に吸収を持たせる構成でも良いし、全体的に吸収を持ちつつ屈折率を連続的に変化させても良い。成膜手法もメタモードスパッタ法だけに限らず、他のスパッタ法や、各種の蒸着法などでも良い。
本実施例のように形成された屈折率傾斜薄膜は、高密度の膜となり膜応力が問題となる事がある。その場合は本実施例のように、剛性の高いガラスなどの基板を用いると膜応力による反りなどの不具合を低減できる。また、屈折率傾斜薄膜を基板の両面に設けることで、それぞれの膜応力を打ち消しあい安定した光学フィルタを製造することができる。特に、本実施例に用いた基板の両面に屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体を設ける構成は、膜応力に対する基板の安定性を得られる。加えて、微細周期構造体を両面から光ナノインプリントにより反射防止構造体を一連の連続または同時の工程で形成することができるため生産性に優れる。
また、基板と屈折率傾斜薄膜との間、屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体の間、及び屈折率傾斜薄膜と反射防止構造体との間の少なくとも1箇所に、バッファ層を設けて、密着性や耐久性を改善することも可能である。その場合はバッファ層を考慮した設計を行えば良い。バッファ層の屈折率は、これに隣接する基板または微細周期構造体と同じ、あるいは屈折率差を近接させる、好ましくはこれらの屈折率差を0.05以下とする。
バッファ層として密着層を設ける場合における密着層形成用の材料としては、シランカップリング剤の他には、Cr、Ti、TiOx、TiNx、SiOx、SiNx、AlOx、SiOxNyなどの無機材料や各種の有機材料が挙げられる。密着性を高める層の材質に応じて公知の材料から密着層形成用の材料を適宜選択して用いることができる。密着層の膜厚は、目的とするフィルタの光学的機能及び密着性が得られるように設定すればよい。密着層は、例えば10nm以下の薄膜として形成してもよい。
(実施例3)
図12に光量絞り装置を示す。ビデオカメラあるいはデジタルスチルカメラ等の撮影光学系に使用するに適した光量絞り装置の絞りは、CCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものである。被写界が明るくなるにつれ、絞り羽根31を制御し、より小さく絞り込まれていく構造になっている。このとき、小絞り状態時に発生する像性能の劣化に対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタ34を配置し、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる構造にしている。入射光がこの光量絞り装置33を通過し、固体撮像素子(不図示)に到達する事で電気的な信号に変換され画像が形成される。
この絞り装置33内の例えばNDフィルタ34の位置に、実施例1や実施例2で作製されたNDフィルタを配置する。ただし、配置場所はこれに限らず、絞り羽根支持板32に固定するように配置する事も可能である。
これにより作製された光量絞り装置33は、フィルタの反射に起因したゴーストなどの不具合を著しく低減する事ができる。
これに限らず、他の光学装置であっても、実施例1や実施例2で作製されたような反射率を著しく低減した光学フィルタを用いることで、フィルタの反射に起因した装置上の不具合を著しく低減する事が可能である。
(他の実施例)
実施例1、2で記載したNDフィルタ以外の光学フィルタにおいても、同様の効果を期待でき、例えば撮像素子やポスターなど対象物を保護するようなフィルタには、所望とする波長領域の反射を低減する為の反射防止の保護フィルムや保護板として応用可能である。タッチパネル等に設けられる保護板に用いることで、表示部の視認性を向上させた電子機器とすることができる。また吸収を持つタイプの光学フィルタであれば例えばカラーフィルタやIRカットフィルタ、蛍光フィルタなど、様々なバンドパスフィルタ、エッジフィルタなどに応用する事が可能である。これらの光学フィルタに本発明を適用する事で、反射率を低減する事が可能となる。また、これらの光学フィルタを搭載する事で、前述の不具合を改善した各種の光学装置を得る事が可能となる。
111、112、211、212.反射防止構造体
12、221、222.屈折率傾斜薄膜
13、23.基板
15、151、152、251、252.微細周期構造体
16、161、162.反射防止膜
31.絞り羽根
32.絞り羽根支持板
33.光量絞り装置
34.NDフィルタ

Claims (15)

  1. 光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板と、
    前記透明基板上に設けられ、膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
    前記屈折率傾斜薄膜上に設けられ、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体と
    を備え、
    前記微細構造体は、前記透明基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され、
    前記屈折率傾斜薄膜は、
    2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記透明基板側の屈折率が前記透明基板の屈折率に近づき、且つ、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的である
    ことを特徴とする光学フィルタ。
  2. 前記屈折率傾斜薄膜は、
    前記透明基板の屈折率と前記微細構造体を構成する材料の屈折率との屈折率差を低減するように膜厚方向に屈折率変化することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
  3. 前記屈折率傾斜薄膜は、
    前記透明基板の屈折率をA、前記微細構造体を構成する材料の屈折率をB、前記屈折率傾斜薄膜の透明基板側端部の屈折率と前記透明基板の屈折率との差をa、前記屈折率傾斜薄膜の前記微細構造体側の端部の屈折率と前記微細構造体の屈折率との差をbとすると、
    |A−B|>a+b
    の関係が成り立つように膜厚方向に屈折率変化することを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。
  4. 前記透明基板の前記微細構造体側とは反対側の面上に、反射防止構造体を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
  5. 前記透明基板の前記微細構造体側とは反対側の面上に、反射防止構造体を備え、
    前記透明基板の前記微細構造体側とは反対側の面上に、前記反射防止構造体の屈折率と前記透明基板の屈折率との屈折率差を低減するように膜厚方向に屈折率変化する他の屈折率傾斜薄膜を設け、前記反射防止構造体は、前記他の屈折率傾斜薄膜の上に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
  6. 前記反射防止構造体は、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体を備えることを特徴とする請求項4または5に記載の光学フィルタ。
  7. 前記屈折率傾斜薄膜が3種類以上の元素から構成されている事を特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
  8. 前記屈折率傾斜薄膜の透明基板側の屈折率変化の終点と前記透明基板との屈折率差は、0.05より小さいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
  9. 前記微細構造体は、可視光の波長よりも短いピッチの周期構造を有すること特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学フィルタを撮影光学系に用いたことを特徴とする光学機器。
  11. 請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学フィルタを表示部に用いたことを特徴とする電子機器。
  12. 光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板上に設けられた膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
    前記屈折率傾斜薄膜上に、密着層を介して設けられ、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体と
    を備え、
    前記透明基板の屈折率と前記微細構造体を構成する材料の屈折率は異なり、
    前記微細構造体は、前記透明基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され、
    前記屈折率傾斜薄膜は、
    2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記透明基板側の屈折率が前記透明基板の屈折率に近づき、且つ、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的に変化する
    ことを特徴とする反射防止複合体。
  13. 前記密着層と前記微細構造体を構成する材料との屈折率差、及び、前記密着層と前記屈折率傾斜薄膜の前記密着層と隣接する部分の屈折率差が0.05以内であることを特徴とする請求項12に記載の反射防止複合体。
  14. 光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板を備え、
    前記屈折率傾斜薄膜は、
    前記透明基板の屈折率と前記微細構造体を構成する材料の屈折率との屈折率差を低減するように膜厚方向に屈折率変化することを特徴とする請求項12または13に記載の反射防止複合体。
  15. 前記屈折率傾斜薄膜は、
    前記透明基板の屈折率をA、前記微細構造体を構成する材料の屈折率をB、前記屈折率傾斜薄膜の透明基板側端部の屈折率と前記透明基板の屈折率との差をa、前記屈折率傾斜薄膜の前記微細構造体側の端部の屈折率と前記微細構造体の屈折率との差をbとすると、
    |A−B|>a+b
    の関係が成り立つように膜厚方向に屈折率変化することを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載の反射防止複合体。
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