以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳述する。
<実施形態の概要>
本実施形態に係るインクジェット記録装置の主要な構成を概説すると次のとおりである。
(1)本実施形態のインクジェット記録装置は、インクジェット方式で液滴を吐出する液体吐出ヘッドモジュール(以下、ヘッドモジュールという。)を複数個繋ぎ合わせて長尺のラインヘッドとして構成されたヘッドバーを備える。本例ではヘッドモジュールの単位でノズルがグループ化されている。
ヘッドモジュール毎に吐出効率の違いによる吐出特性(滴量)差があるため、ヘッドモジュール毎の吐出特性差を補正するために、グループの単位としてのヘッドモジュール毎に駆動電圧が調整(補正)される。なお、「吐出効率」は、吐出エネルギーを投入エネルギーで割った値として表すことができる。
(2)ヘッドバーは、一部のヘッドモジュールをヘッドモジュール単位で交換することができる。交換した新たなヘッドモジュールについて、他のヘッドモジュールの出力濃度に合わせるように、駆動電圧の補正が行われる。
(3)ヘッドモジュールは、複数のノズル(インク吐出口)を有し、各ノズルに対応した吐出エネルギー発生素子を備える。吐出エネルギー発生素子に駆動電圧を印加することにより、ノズルから液滴が吐出される。吐出滴量を制御する方式として、吐出エネルギー発生素子に印加する吐出用の駆動電圧パルス(「吐出駆動パルス」という。)のパルス数を変えて、一画素あたりの滴量(ドットサイズ)を制御する連射駆動方式が採用される。本実施形態では、一画素の記録周期(一記録周期)内で印加する吐出駆動パルス数を変えることで、小ドットを記録する小滴、中ドットを記録する中滴、大ドットを記録する大滴の3種類の滴量を打ち分ける滴量変調が可能な例を述べる。
(4)複数種類の滴量のうち、相対的に小さい滴量の吐出に使用する駆動波形は、それよりも相対的に大きな滴量を吐出する際に使用される駆動波形の中に内包される。つまり、小滴吐出用の駆動波形は中滴吐出用の駆動波形の中に内包されており、中滴吐出用の駆動波形は大滴吐出用の駆動波形の中に内包されている。最大滴量の駆動波形の一部を選択することで最大滴量よりも小さい滴量の駆動波形を得る。「駆動波形」という用語は、駆動電圧信号の電圧波形を意味している。波形はデジタルデータとして記述することができる。デジタル波形データをD/A変換(デジタル/アナログ変換)することにより、アナログ形式の電気信号を得ることができる。
(5)1本のヘッドバーを構成する複数個のヘッドモジュールについて、ヘッドモジュールの単位で駆動電圧の補正が行われる。小滴、中滴、大滴の滴サイズによらず、これら複数種類の滴量に対して単一の電圧補正値(各滴量に共通の電圧補正値)を適用する。
この補正処理は、ヘッドモジュール毎の吐出効率(吐出エネルギーを投入エネルギーで割った値)の違いによる噴射特性(吐出滴量)差を補正するものであり、駆動電圧の増減による補正が行われる。電圧補正値は、予め用意されている標準の駆動波形に対して、一定の補正倍率を乗算して波形の電圧値を調整(補正)する「補正倍率」を表す補正係数に相当するものである。標準の駆動波形を「標準波形」という。
(6)ヘッドモジュール毎の電圧補正値を決める方法に関して、実際に使用するハーフトーン処理を行った濃度測定用のチャート(「補正用チャート」という。)を出力し、その出力された補正用チャートの濃度を測定する。補正用チャートの測定結果を基に、ヘッドモジュール毎の出力濃度が同等になるように、駆動電圧を補正するための電圧補正値が求められる。
(7)ヘッドモジュール間の濃度合わせは、ヘッドバーにおいて基準となるヘッドモジュールの出力濃度に合わせる。基準となるヘッドモジュールを「基準ヘッドモジュール」という。基準ヘッドモジュールと、それ以外のヘッドモジュールとを区別するために、基準ヘッドモジュール以外のヘッドモジュールを「非基準ヘッドモジュール」と呼ぶ場合がある。
(8)ヘッドバーにおいて基準ヘッドモジュールが特定されていない場合は、当該ヘッドバーを構成しているある特定のヘッドモジュールについて、指定の滴サイズ(例えば、中滴)が予め定められている滴量になるように駆動電圧を補正し、この補正された特定のヘッドモジュールを基準ヘッドモジュールとして定める。その後、基準ヘッドモジュールの出力濃度を基準にして、他のヘッドモジュール(非基準ヘッドモジュール)の出力濃度が基準ヘッドモジュールと同等になるように、非基準ヘッドモジュールに対する駆動電圧を補正する。基準ヘッドモジュールに対して他のヘッドモジュールの出力濃度を相対的に合わせるためのヘッドモジュール毎の電圧補正値を求める際に、上記(6)で述べたとおり、実際に使用するハーフトーン処理を行った濃度測定用のチャート(パッチ)の出力と、その濃度計測が行われる。
(9)ハーフトーン処理は、印刷に使用する記録媒体の種類によって異なるため、記録媒体の種類毎に(ハーフトーンの処理内容毎に)、電圧補正値が定められる。
以下、本実施形態についてさらに詳細に説明する。
<インクジェットヘッドの構成例>
本実施形態に用いられるインクジェットヘッドの構成例について説明する。図1は本実施形態に用いられるインクジェットヘッドの斜視図である。図1では、インクジェットヘッド10の下方(斜め下方向)からノズル面を見上げた様子が図示されている。このインクジェットヘッド10は、複数個(n個)のヘッドモジュール12−i(i=1,2,…n)を繋ぎ合わせて構成されたラインヘッドである。複数個のヘッドモジュール12−i(i=1,2,…n)は共通のフレーム16に取り付けられて一体化され、バー状のラインヘッド(ヘッドバー)が構成される。フレーム16は、複数個のヘッドモジュール12−i(i=1,2,…n)を固定するための枠体として機能する。
ここでは17個(n=17)のヘッドモジュール12−iを並べて記録可能幅を長尺化したラインヘッドの構成を例示しているが、1本のラインヘッドを構成するために用いるヘッドモジュールの構造や個数、及びその配列形態は図示の例に限定されない。2個以上適宜の個数のヘッドモジュールを組み合わせることによって所望の記録可能幅を持つヘッドバーを構成することができる。
図1中の符号18は、ヘッドモジュール12−i(i=1,2,…n)毎にそれぞれ接続されたフレキシブル基板である。フレキシブル基板18を介してそれぞれのヘッドモジュール12−i(i=1,2,…n)に駆動信号や吐出制御信号などが供給される。
図2は、インクジェットヘッド10をノズル面20側から見た拡大図である。説明の便宜上、インクジェットヘッド10の長手方向(図2における横方向)を「X方向」といい、短手方向(図2における縦方向)を「Y方向」という。インクジェットヘッド10に対して記録媒体(図2中不図示)が搬送される方向が「Y方向」であり、「媒体搬送方向」或いは「副走査方向」に相当する方向である。Y方向に直交する記録媒体の幅方向が「X方向」であり、「媒体幅方向」或いは「主走査方向」に相当する方向である。
各ヘッドモジュール12−i(i=1,2,…n)は、インクジェットヘッド10における短手方向(Y方向)の両側からヘッドモジュール保持部材22によって支持されている。また、インクジェットヘッド10の長手方向(X方向)における両端部はヘッド保護部材24によって支持されている。
各ヘッドモジュール12−i(i=1,2,…n)は、複数のノズルがマトリクス状に配列された構造を有している。図2において符号26を付して図示した斜めの実線は、複数のノズルが一列に並んだノズル列を表している。
各ヘッドモジュール12-i(i=1,2,…n)の構造は共通しているため、以下、ヘッドモジュール12−i(i=1,2,…n)に共通の内容を説明する場合に符号12によってヘッドモジュールを示す。
図3はヘッドモジュール12におけるインク吐出面(ノズル面20)の平面図である。図3では図示の都合上、ノズル数を減らして描いているが、1個のヘッドモジュール12のノズル面20には、例えば、32×64個のノズル28が二次元配列されている。このヘッドモジュール12は、X方向(媒体幅方向)に対して角度γの傾きを有するv方向に沿った長辺側の端面と、Y方向(媒体搬送方向)に対して角度αの傾きを持つw方向に沿った短辺側の端面とを有する平行四辺形の平面視形状となっている。このようなヘッドモジュール12−iをX方向(用紙幅方向)に複数個繋ぎ合わせることにより(図2参照)、用紙幅について全描画範囲をカバーするノズル列が形成され、1回の描画走査で所定の記録解像度(例えば、1200dpi)による画像記録が可能なフルライン型のヘッドが構成される。
シングルパス方式に適用されるフルライン型プリントヘッドは、記録媒体の全面を描画範囲とする場合に限らず、記録媒体の面上の一部が描画領域となっている場合(例えば、用紙の周囲に非描画領域(余白部)を設ける場合など)には、所定の描画領域内の描画に必要なノズル列が形成されていればよい。
ヘッドモジュール12におけるノズル数やノズル密度、ノズルの配列形態は特に限定されず、様々な形態があり得る。例えば、主走査方向について所定の記録解像度を実現できるように、多数のノズルが一定の間隔で直線上に(一列に)並ぶ1次元ノズル配列であってもよいし、2本のノズル列を互いにそれぞれのノズル列内におけるノズル間隔(ノズル間ピッチ)の1/2ピッチだけノズル列方向にずらして配置した、いわゆる千鳥状配列であってもよい。また、更なる高記録解像度を実現するために、3本以上のノズル列を並べたマトリクス配列など、インク吐出面(ノズル面)に多数のノズルを二次元的に配列させる構成とすることができる。
二次元ノズル配列を有するインクジェットヘッドの場合、当該二次元ノズル配列における各ノズル28をX方向(「主走査方向」に相当)に沿って並ぶように投影(正射影)した投影ノズル列は、主走査方向(媒体幅方向)について、記録解像度を達成するノズル密度でノズルが概ね等間隔で並ぶ一列のノズル列と等価なものと考えることができる。「概ね等間隔」とは、インクジェット記録装置で記録可能な打滴点として実質的に等間隔であることを意味している。例えば、製造上の誤差や着弾干渉による媒体上での液滴の移動を考慮して僅かに間隔を異ならせたものなどが含まれている場合も「等間隔」の概念に含まれる。投影ノズル列(「実質的なノズル列」ともいう。)を考慮すると、主走査方向に沿って並ぶ投影ノズルの並び順に、ノズル位置(ノズル番号)を対応付けることができる。
<ヘッドモジュールの内部構造例>
ヘッドモジュール12は、各ノズル28に対応してインク吐出に必要な吐出エネルギーを発生させる吐出エネルギー発生素子(例えば、圧電素子や発熱素子)を備えている。ヘッドモジュール12は、制御装置から与えられる駆動信号及び吐出制御信号に従い、オンデマンドで液滴を吐出する。
図4は、ヘッドモジュール12における記録素子単位(吐出素子単位)となる1チャンネル分(1ノズル分)の液滴吐出素子の構造例を示す断面図である。ヘッドモジュール12は、液滴の吐出口であるノズル28が形成されたノズルプレート30と、ノズル28に対応する圧力室32、供給口34、共通流路36等の流路が形成された流路板38とを含んでいる。
流路板38は、圧力室32の側壁部を構成するとともに、共通流路36から圧力室32にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口34を形成する流路形成部材である。流路板38は一枚の基板で構成してもよいし、複数枚の基板を積層した構造であってもよい。ノズルプレート30及び流路板38は、シリコンを材料として半導体製造技術を利用して所要の形状に加工することが可能である。
共通流路36には複数の圧力室32がそれぞれの供給口34を介して接続されている。共通流路36は図示せぬ配管系を介してインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通している。インクタンクから供給されるインクは共通流路36を介して圧力室32に供給される。
圧力室32の一部の面(図4において天面)を構成する振動板40には、圧力室32毎に個別電極42を備えた圧電素子44が設けられている。本例の振動板40は、圧電素子44の下部電極に相当する共通電極46として機能する導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室32に対応して配置される圧電素子44の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
個別電極42に駆動電圧を印加することによって圧電素子44が変形して圧力室32の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル28からインクが吐出される。インク吐出後、共通流路36から供給口34を通って新しいインクが圧力室32に再充填される。
ノズル28、圧力室32、供給口34、圧電素子44を含んだ1チャンネル分のインク室ユニット50が1画素の記録を担う記録素子単位としての液滴吐出素子である。ヘッドモジュール12は、図3で説明した二次元ノズル配列に対応した複数のインク室ユニット50を備えている。
<連射駆動方式の駆動波形について>
次に、インクジェットヘッド10のインク吐出動作に適用される連射駆動方式の駆動波形の例について説明する。
図5は本実施形態で用いられる連射駆動方式の駆動波形の例を示す波形図である。横軸は時間(単位はマイクロ秒[μs])、縦軸は電圧(単位はボルト[V])を表す。図5に示した駆動波形60は、記録媒体上における一画素のドット記録を担う一記録周期内に複数の吐出駆動パルス61〜66が連続する駆動波形である。なお、「一記録周期」という用語は、当該分野において「一印字周期」、「一印刷周期」と呼ばれる場合がある。
図5では、6つの吐出駆動パルス61、62、63、64、65、66が連続する6発連射タイプの例が示されており、最終の吐出駆動パルス66には残響抑制用の波形要素(残響抑制部)としての残響抑制パルス67が組み合わされている。
時間軸に沿って先頭から(図5の左から)、第1吐出駆動パルス61、第2吐出駆動パルス62、第3吐出駆動パルス63、第4吐出駆動パルス64、第5吐出駆動パルス65、第6吐出駆動パルス66と呼ぶ。これら各吐出駆動パルス(61〜66)は、いわゆる引き-押し(pull-push)型の波形であり、1吐出駆動パルスの印加につき1発の吐出動作が行われる。
駆動波形60における先頭の第1吐出駆動パルス61は、ノズルに連通する圧力室の体積を拡張させる方向に圧電素子を変形させる「引き(pull)」動作の駆動を行う第1信号要素61aと、その引き動作で圧力室を拡張させた状態を維持(保持)する第2信号要素61bと、圧力室を収縮させる方向に圧電素子(不図示)を変形させる「押し(push)」動作の駆動を行う第3信号要素61cと、を含んで構成される。
第1信号要素61aは基準電位V0から電位を下げる立ち下がり波形部である。第2信号要素61bは第1信号要素61aで下降した電位(V1)を維持する波形部である。第3信号要素61cは第2信号要素61bの電位(V1)を基準電位V0に上昇させる立ち上がり波形部である。なお、基準電位V0はバイアス電位であり、本例では「−9.0V」となっている。
第1吐出駆動パルス61に続く、第2吐出駆動パルス62から第6吐出駆動パルス66の各吐出駆動パルスについても、同様に、「引き」、「維持」、「押し」の各動作に対応した信号要素を有している。第1吐出駆動パルス61で説明した各信号要素(61a、61b、61c)と同様に、他の吐出駆動パルス62〜66を示す符号の末尾に「a」、「b」、「c」の添字を付加して、「引き」、「維持」、「押し」の各信号要素を表記する。また、本明細書では基準電位V0に対する各吐出駆動パルス61〜66の第2信号要素61b〜66bの電位差を「電圧振幅」或いは、パルスの「波高」と呼ぶ。
本例の駆動波形60は、第1吐出駆動パルス61から第5吐出駆動パルス65まで、次第にパルスの電圧振幅(波高)が小さくなり、最終の第6吐出駆動パルス66の電圧振幅は先頭の第1吐出駆動パルス61の電圧振幅と同等又はそれよりも大きいものとする。すなわち、最終の吐出駆動パルス(ここでは第6吐出駆動パルス66)の電圧振幅は、他の先行する吐出駆動パルス(61〜65)の電圧振幅と比較して最も大きいものとする。時間軸上で先頭からk番目の第k吐出駆動パルスの電圧振幅の絶対値を|Vk|と表記すると(k=1,2,…6)、本例では、|V6|=|V1|=|V2|>|V3|>|V4|>|V5|の関係となっている。
また、本例の第6吐出駆動パルス66の第3信号要素66cには、メニスカス振動(残響)を静定させる残響抑制パルス67が組み合わされている。残響抑制パルス67は、基準電位V0よりも高電位の電位を維持する信号要素67bと、信号要素67bの電位から基準電位V0に電位を下げる信号要素67cと、を含む。
最終滴を吐出させる第6吐出駆動パルス66の後段に残響抑制パルス67を連続的に組み合わせた構成により、最終滴を吐出する際に圧力室32(図4参照)を収縮させる第3信号要素66cの電位差|V7|が、第6吐出駆動パルス66の圧力室32(図4参照)を膨張させる信号要素66aの電位差|V6|よりも大きいものとなる。
これにより、第6吐出駆動パルス66の印加で吐出される最終滴の吐出速度が他の先行滴の吐出速度に比べて最も大きくなり、最終滴が飛翔中に先行滴に追いついて、これらを一体的に合一させてから記録媒体に着弾させることができる。
駆動波形60における1つ又は複数の吐出駆動パルス(61〜66)が圧電素子44(図4参照)に印加されることにより、ノズルから液滴が吐出される。一記録周期内で印加される吐出駆動パルスの数と同数の吐出動作が一記録周期で行われる。図5に示す駆動波形60がそのまま圧電素子44(図4参照)に印加されると、一記録周期で6発の連射により液滴が連続吐出され、これら吐出液滴(6滴)は記録媒体に着弾する際に一体的に合体する。この合体した液滴(合一滴)が記録媒体上に付着することにより1ドットが記録される。
<吐出駆動パルスのパルス幅とパルス間隔について>
圧電駆動方式(ピエゾジェット方式ともいう。)のインクジェットヘッドの場合、1ノズルの吐出機構は、ノズルに連通する圧力室に圧電素子が設けられ、この圧電素子を駆動して圧力室内の液に圧力変動を与え、ノズルから液滴の吐出を行う仕組みとなっている。圧力室内の圧力の振動をそのまま吐出に利用するため、ノズルから液滴を強く打ち出すときは、圧力振動の正弦波に合わせた構成のパルス波形にすることが望ましい。
駆動波形60は、基準電位から電圧を下げると、圧力室が膨張するため、圧力は低下し、ノズル内のメニスカスは圧力室の方向(吐出方向と反対向きの方向)に引き込まれる。この「引き」波形要素の印加によりメニスカスの引き込み動作が開始された後、引き電圧を一定に維持すると、振動系の固有振動周期でメニスカスが振動する。このメニスカス振動によって丁度メニスカスの速度が再び0となるときに、圧力室を収縮させれば、最も加速されるところで、液滴を吐出することができる。このようなメニスカスの動きと、駆動波形による引き押しのサイクルを合わせることで効率的な吐出が可能である。
メニスカス振動の1周期が1共振周期Tcになるため、その約半分(Tc/2)でパルス幅を区切ると最も効率がよい。また、2発目のパルスは、1発目のパルスの印加によって発生したメニスカスの振動による引き込み、加速の動きに合わせて、引き−押しの波形要素が重なるようにパルス間隔が設定されることが好ましい。
インクジェットヘッドは、その流路構造や使用する液体の物性などから、安定して吐出させることができるパルス幅やパルス間隔がある。吐出駆動パルス61〜66は、このような安定吐出可能なパルス幅及びパルス間隔に定められている。
パルス間隔TAは、先行するパルスの立ち下がりの開始から、次のパルスの立ち上がり開始までの時間間隔をいう。パルス幅TBは1つのパルスの立ち下がりの開始から立ち上がりの開始までの時間間隔をいう。吐出駆動パルス(61〜66)のパルス間隔TAは、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcと一致させることが好ましく、パルス幅TBは、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcの{(2×n)−1}/2とすることが望ましい(ただし、nは正の整数)。図5で説明した駆動波形60は、パルス間隔を共振周期Tcとほぼ一致させ、パルス幅をTc/2とほぼ一致させた例となっている。
また、残響抑制で重要となるのは、圧力室を拡張させる「引き」の信号要素(符号67c)の電圧(電位差)V8と、その立ち下げのタイミング(TD)である(図5参照)。メニスカス振動と逆位相のタイミングで圧力変動を与えるために、残響抑制パルス67の引き波形部(信号要素67c)の開始タイミングTDは、第6吐出駆動パルス66の第3信号要素66cの立ち上がりタイミングから共振周期Tcに近い値とする。
なお、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcは、インク流路系、インク(音響要素)、圧電素子の寸法、材料、物性値等から定まる振動系全体の固有周期である。共振周期Tcは、ヘッドの設計値(使用するインクの物性値を含む)から計算によって求めることができる。また、ヘッドの設計値から推定する方法に限らず、実験によってTcを測定する方法もある(特開2012−187920号公報参照)。
<滴量を異ならせて打滴する場合の例>
一記録周期の駆動波形60を構成している複数の吐出駆動パルス(61〜66)及び残響抑制パルス67のうち、後ろから一部のパルスを選択して使用することによって、小滴、中滴、大滴の3種類の滴量を打ち分けることができる。
図6(A)〜(C)は、1画素の記録を担う滴量を異ならせて打滴する場合に使用する駆動波形の例である。図6(A)は小滴、図6(B)は中滴、図6(C)は大滴のそれぞれの滴量の吐出に対応した波形図である。
小滴吐出のための波形(図6(A))は、図5で説明した駆動波形60のうち、第6吐出駆動パルス66と残響抑制パルス67のみを選択したものである。
中滴吐出のための波形(図6(B))は、図5で説明した駆動波形60のうち、第3吐出駆動パルス63から第6吐出駆動パルス66及び残響抑制パルス67のみを選択したものである。
大滴吐出のための波形(図6(C)は、図5で説明した駆動波形60の全体を選択したものである。
図6(A)〜(C)に示したとおり、中滴の波形は小滴の波形を内包し、大滴の波形は中滴及び小滴の波形を内包する関係にある。つまり、打滴制御可能な複数種の滴サイズのうち、最大の滴量に当たる大滴の駆動波形の後ろ側から順に一部のパルスを選択して圧電素子に印加することにより、吐出滴量を変更することができる。
<3種以上の滴種への拡張>
ここでは、3種類の滴種を打ち分ける例を説明したが、4種類以上の滴量変調を行う場合も同様の方法で波形を定めることができる。最大の滴量を吐出する駆動波形は、それよりも小さい滴量の波形を内包するものとする。つまり、最大滴量の滴種に対応した波形が全滴種の波形を内包したものとなっている。
なお、一記録周期の駆動波形に含まれる吐出駆動パルスの数や、各パルスの電圧振幅の大小関係は、本例の例示に限定されない。一記録周期中にM個の吐出駆動パルスを含んだ駆動波形のうち、後ろからK個(ただし、Kは1以上、M以下の整数)の吐出駆動パルスを選択して吐出エネルギー発生素子に供給することにより、滴量を異ならせた吐出が可能である。
このような駆動波形を実際のインクジェット記録装置に適用する場合には、全滴種の波形を内包した標準波形データ(最大滴量の滴種に対応した波形のデータ)をメモリ等の記憶手段に組み込み、滴種毎に何番目のパルスを、印加時の先頭パルスとするかという区切りの情報を保持する。全滴種の波形を内包した複数のパルスで構成される標準波形(最大滴量の波形)中の後ろの方からパルスを選択することによって、滴種を打ち分けることが可能である。
例えば、吐出エネルギー発生素子としての圧電素子に駆動信号を印加するための信号伝達ライン上に設けられたスイッチ素子を制御することによって、滴種に応じて印加する吐出駆動パルスを選択する。こうして、各圧電素子に対応して設けられたスイッチ素子を利用して、各種の滴種対応波形の駆動電圧が圧電素子に印加される。
<駆動電圧の補正方法について>
本実施形態では、予め用意された標準波形に対して、ヘッドモジュール毎に、ある一定の電圧補正倍率を乗算して駆動電圧を補正する。この電圧補正倍率を表す補正係数を「電圧補正値」とする。電圧補正値は、小滴、中滴、大滴の滴量によらず、各滴量に共通の補正係数としてヘッドモジュール毎に定められる。
電圧補正値は、例えば、標準波形におけるバイアス電位(基準電位V0)を基準にして、標準波形における電位の変化点に対して電圧補正値の倍率で電位の値が修正される。これにより、標準波形が電圧補正値の補正倍率で係数倍された補正後の駆動波形が得られる。図7では、図5で説明した駆動波形60と同一の波形を標準波形とし、この標準波形に対して、電圧補正値Rを乗算した補正後の駆動波形70の例が示されている。補正後の駆動波形70は、駆動波形60の各吐出駆動パルス(61〜66)の電圧振幅がR倍されたものとなる。本実施形態では、ヘッドモジュール毎に、適切な電圧補正値Rを定めることになる。また、電圧補正値は、印刷に使用する記録媒体の種類毎に定められる。
なお、本実施形態の圧電素子44は、マイナスの駆動電圧を印加して駆動する例を示しているが、駆動電圧として負電圧を印加するか、正電圧を印加するかについては、圧電素子の電極間に挟まれた圧電体の分極方向に応じて決定される。
<システム構成>
図8は本実施形態に係るインクジェット記録装置のシステム構成の要部を示したブロック図である。インクジェット記録装置100は、インクジェットヘッド10と、媒体搬送部102と、画像読取部104と、を備える。
インクジェットヘッド10は、図1〜図4で説明したように、複数個のヘッドモジュール12を組み合わせて構成されている。図8では図示の簡略化のため、1つのヘッドモジュール12のみを示した。ヘッドモジュール12は、複数の圧電素子44を備えており、ヘッドモジュール12には、圧電素子44のそれぞれに印加する駆動信号の波形を選択する波形選択回路106が設けられている。波形選択回路106は、各圧電素子44に対応して設けられたスイッチ素子を含んでいる。
また、図8では、インクジェットヘッド10として1つのブロックのみを示しているが、本例のインクジェット記録装置100は、カラー画像の形成を行う印刷システムであり、複数のインク色の各色にそれぞれ対応した複数のインクジェットヘッドを備える。本例では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の4色のインクを用い、それぞれの色のインクを吐出するためのインクジェットヘッドを色毎に備えている例を説明する。ただし、インクの色数やその組み合わせはこの例に限らない。例えば、CMYK4色の他に、ライトシアン(LC)、ライトマゼンタ(LM)などの淡色インクを加える態様や、赤、緑などの特色のインクを用いる態様も可能である。
媒体搬送部102は、図示せぬ記録媒体を搬送する手段である。記録媒体の搬送機構の形態は様々な構成が可能である。媒体搬送部102は、ドラム搬送方式、ベルト搬送方式、チェーン搬送方式その他の各種の搬送方式を採用することができ、これらの適宜の組み合わせで構成することができる。媒体搬送部102によって記録媒体を一定の方向に搬送することでインクジェットヘッド10と記録媒体とが相対移動することになる。媒体搬送部102は、インクジェットヘッド10に対して記録媒体を相対移動させる相対移動手段に相当する。また、媒体搬送部102には、記録媒体に対するインクジェットヘッド10の記録タイミング(インク吐出タイミング)の同期をとるために、記録媒体の位置を検知するセンサ(例えば、エンコーダ)が設けられる。
画像読取部104は、インクジェットヘッド10によって記録媒体上に記録された画像を読み取り、電子画像データ(読取画像データ)に変換する手段である。画像読取部104としては、例えば、CCDラインセンサを用いることができる。本例の画像読取部104は、媒体搬送路の途中に設置されるインラインセンサであり、インクジェットヘッド10によって記録された画像を排紙前の搬送中に読み取る。画像読取部104は、濃度測定用のチャート(パッチ)や、インクジェットヘッド10の不良ノズルを検知するためのテストチャートその他のテストチャートの出力結果を読み取ることができる。また、画像読取部104は、印刷ジョブで指定されている印刷対象の画像データに基づいて記録した印刷画像を読み取ることができる。
また、インクジェット記録装置100は、画像データ入力部110と、画像データ処理部120と、ドット種振り分けテーブル記憶部130と、テストチャート生成部140と、駆動信号生成部150と、画像解析部170と、を備える。
画像データ入力部110は、インクジェット記録装置100によって印刷しようとする画像内容を表す画像データを取り込むためのデータ取得部として機能する。画像データ入力部110は、外部又は装置内の他の信号処理部から画像データを取り込むデータ入力端子で構成することができる。また、画像データ入力部110には、有線又は無線の通信インターフェース部を採用してもよいし、メモリカードなどの外部記憶媒体(リムーバブルディスク)の読み書きを行うメディアインターフェース部を採用してもよく、若しくは、これら態様の適宜の組み合わせであってもよい。
印刷しようとする画像の画像データの形式には種々のものがあり得る。画像データ入力部110から取り込まれる画像データの形式は特に制限されない。ここでは説明を簡単にするために、インクジェット記録装置100で使用されるインク色と同じ色種、色数並びに解像度を持った階調画像であるとする。例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色インクを用いて出力解像度1200dpiを実現するインクジェット印刷システムの場合、画像データはCMYKの各色それぞれ8bit (256階調)を持った画像データである。
なお、インクジェット記録装置100で使用するインク色の種類や解像度と異なる色の組み合わせや解像度の形式で特定された画像データを印刷する場合には、前処理として、色変換や解像度変などの処理を行い、インクジェット記録装置100で使用するインク色及び解像度の画像データに変換される。
画像データ処理部120は、色変換部121、階調変換部122、ハーフトーン処理部124を含んでいる。色変換部121は、インターナショナル・カラー・コンソーシアム(International Color Consortium:ICC)のプロファイル(以下「ICCプロファイル」という。)を使って、入力画像信号をCMYK信号に変換する。色変換部121は、ターゲットカラーを定義したICCプロファイル形式の「ターゲットプロファイル」と、インクジェット記録装置100のCMYK信号に対する色を定義したICCプロファイル形式の「プリンタプロファイル」とからデバイスリンクプロファイルを作成する。そして、色変換部121は、このデバイスリンクプロファイルを使って入力画像信号をCMYK信号に変換する。
階調変換部122は、インクジェットヘッド10で画像形成する際に、全体的にどのくらいの色の濃さで描画するかという濃度階調の特性を決める処理を行う。階調変換部122は、規定された発色特性になるように画像データを変換する。階調変換部122におけるCMYK→CMYKの変換方法の一例として、例えば、C信号、M信号、Y信号、K信号のそれぞれに、入力信号と出力信号の対応関係を規定した1次元ルックアップ(LUT)を用意し、この1次元LUTを用いて変換を行う。また、上記の1次元LUTを用いる態様以外に、多次元LUTを使って変換する方法も可能である。階調変換部122によって、CMYK各色について画素毎の階調データで表現されたCMYK信号が得られる。
また、この階調変換部122には、不吐ノズルによる画像欠陥を補正する不吐補正処理部を含むことができる。不吐補正の技術は、インクジェットヘッド10のノズル列における不吐ノズルの近傍のノズル(実質的なノズル列における近隣ノズル)に対応する画像位置のドットパターンを変更することにより、不吐ノズルに起因する記録不良部(スジ状の画像欠陥)を不吐ノズル以外の他のノズルからの吐出によるドットの記録で補い、画像欠陥の視認性を低減させる補正技術である。不吐ノズル近傍の画像位置の画像データが修正される。
ハーフトーン処理部124は、ドット種振り分け処理部126と量子化処理部128とを含む。ドット種振り分け処理部126は、ドット種振り分けテーブル記憶部130に格納されているドット種振り分けテーブルを参照することにより、CMYKの色別の階調データ(入力階調データ)を、滴量の異なる複数種類のドット種別にドットの記録量を表す出力階調データに変換するドット種振り分け処理を行う。
ドット種振り分けテーブル記憶部130には、入力階調値と、ドットの種類別に各ドットの記録量を表す出力階調値と、の対応関係を規定したドット種振り分けテーブルが格納されている。ここでいう「ドットの記録量」は、単位面積における画素の全数に対する記録ドット数の比率(ドット記録率)として表すことができる。すなわち、ドット種振り分けテーブルは、ある入力階調値の階調表現に際して、小ドット、中ドット、大ドットの各ドットサイズのドットが単位面積あたりにどのような割合(比率)で記録されるかを規定するものであり、入力階調値の大きさに対応して各ドットサイズの出現比率(滴量比率)が定められている。ドット種振り分けテーブルには、入力階調値の各階調におけるドット種別の出現比率を反映した出力階調値が規定されている。
このようなドット種振り分けテーブルは、インクの色毎に設けられ、また、使用される記録媒体の種類(用紙種)に応じて、複数種類のドット種振り分けテーブルが用意されている。ドット種振り分けテーブル記憶部130に記憶されている複数のドット種振り分けテーブルの中から、印刷条件に合わせて、プリント時にいずれかのドット種振り分けテーブルが選択される。
ドット種振り分け処理部126では、ドット種振り分けテーブルを参照して、各色の階調データを複数種類(小、中、大)のドット種別の記録量に振り分け、小ドット記録用の階調データ、中ドット記録用の階調データ、大ドット記録用の階調データを生成する。本例の場合、大滴(大ドット)は不吐補正用に用いられる。
量子化処理部128は、ドット種振り分け処理部126でドット種別に割り当てられた階調データに対して、ディザ法、誤差拡散法、濃度パターン法など、所定の量子化手法(いわゆるデジタルハーフトーニング処理方法)による量子化処理を行い、インクジェットヘッド10で出力可能なN値(Nは3以上、m未満の整数)のドットデータに変換する。例えば量子化処理部128は、8bit(256階調)の画像データを、大ドット、中ドット、小ドット、ドット無しの4階調(N=4)のドットデータに変換する処理を行う。
ハーフトーン処理部124で生成された多値の信号(本例の場合、4値のマーキング信号)は、インクジェットヘッド10に送られ、対応するノズルの吐出エネルギー発生素子(例えば、圧電素子や発熱素子)の駆動制御に用いられる。
テストチャート生成部140は、ヘッドモジュール12毎の電圧補正値を求めるための濃度測定用の補正用チャートを形成するためのデータを生成する。補正用チャートは、特定の階調値(例えば、印刷濃度50%相当)の一様な濃度画像のチャート(「パッチ」とも言う。)である。テストチャート生成部140は、このような補正用チャートを印刷するためのチャートデータを生成することができる。この補正用チャートのデータを基に、ハーフトーン処理部124にて、ドット種振り分け処理、量子化処理が行われ、2種類以上の互いに異なる滴量のドット(ここでは、中ドットと小ドット)を含んだ補正用チャートのドットデータが生成される。テストチャート生成部140とハーフトーン処理部124の組み合わせが「補正用チャート生成部」に相当する。ハーフトーン処理を行った補正用チャートのドットデータに基づいてインクジェットヘッド10によって記録媒体に補正用チャートが印刷される。
また、テストチャート生成部140は、複数の滴種のうち、特定の1種類の滴種(例えば、中滴)のみを用いて、所望のドット記録率で一様な濃度のパッチを印刷するための濃度チャートのデータを生成することができる。
テストチャート生成部140は、濃度測定用チャートの他、不良ノズルを検出するための不良ノズル検出用テストチャートや、不吐補正パラメータを算出するための不吐補正用テストチャートなど、各種のテストチャートのデータを生成する機能を有する。
駆動信号生成部150は、標準波形データ記憶部152と、電圧補正値記憶部154と、補正演算部156(「電圧補正部」に相当)と、補正後波形データ記憶部158と、D/A変換部160と、を備える。
画像解析部170は、画像読取部104で読み取った読取画像を解析する処理部である。画像解析部170には、濃度測定部172と、検量線作成部174と、標準滴量データ記憶部176と、補正値決定部178と、が含まれる。
濃度測定部172は、濃度測定用のチャートの読取画像から光学濃度を測定する。濃度測定部172で測定される濃度は、例えば、反射濃度であり、入射光を反射光で割った値の常用対数として把握される。
検量線作成部174は、濃度測定部172で測定された印刷濃度の測定結果から、印加電圧と濃度の関係を表す検量線を作成する。印加電圧は電圧補正値と対応付けられるため、検量線は電圧補正値と濃度の関係を表すものとすることができる。
標準滴量データ記憶部176には、設計仕様で定められている中滴の標準滴量と印刷濃度の関係を記述した標準滴量データが記憶されている。補正値決定部178は、検量線作成部174で作成されたデータと、目標濃度の情報とを基に、適切な電圧補正値を定める演算処理を行う。補正値決定部178で求められた電圧補正値は、電圧補正値記憶部154に記憶される。検量線作成部174と補正値決定部178とを含んだ処理部が「電圧補正値算出部」に相当する。
駆動信号生成部150の標準波形データ記憶部152には、標準波形の波形データが格納されている。電圧補正値記憶部154には、ヘッドモジュール12毎に定められた電圧補正値が格納される。補正演算部156は、電圧補正値記憶部154に格納されている電圧補正値を適用して、標準波形の電圧を補正する補正演算を行う。電圧補正値を適用して得られた補正後の駆動波形のデータ(「補正後波形データ」という。)は、補正後波形データ記憶部158に記憶される。
こうして得られた補正後波形データをD/A変換部160にてアナログ形式の駆動信号に変換し、図示せぬアンプ回路(電力増幅回路)を介してインクジェットヘッド10に供給する。
D/A変換部160から出力された駆動信号は、波形選択回路106を介して各圧電素子44に供給される。波形選択回路106は、ハーフトーン処理部124で生成されたドット画像データに応じた吐出制御信号によって各圧電素子44に対応するスイッチ素子の制御が行われる。
インクジェット記録装置100は、システムを統括するシステム制御部180を備え、システム制御部180には、表示部182と入力装置184とが接続されている。
表示部182と入力装置184はユーザーインターフェース(UI)として機能する。入力装置184は、キーボード、マウス、タッチパネル、トラックボールなど、各種の手段を採用することができ、これらの適宜の組み合わせであってもよい。本例では入力装置184として、タッチパネル、キーボード、マウスの組み合わせが用いられる。なお、タッチパネルを表示部182の画面上に配置した構成のように、表示部182と入力装置184とが一体的に構成されている形態も可能である。
オペレータ(ユーザー)は、表示部182の画面に表示される内容を見ながら入力装置184を使って印刷条件の入力、画質モードの選択、付属情報の入力や編集、情報の検索など各種情報の入力を行うことができ、インクジェット記録装置100を操作することができる。オペレータは、表示部182の表示を通じて、入力内容その他の各種情報を確認することができ、システムの状態や動作状況などを把握することが可能である。
図8に示した画像データ入力部110、画像データ処理部120、ドット種振り分けテーブル記憶部130、テストチャート生成部140、駆動信号生成部150、画像解析部170、システム制御部180、表示部182、入力装置184の各部は、インクジェット記録装置100の制御装置として用いるコンピュータのハードウエア及びソフトウェアの組み合わせによって実現することができる。
なお、画像データ入力部110、画像データ処理部120、駆動信号生成部150の全部又は一部をプリンタ側の画像処理機能として搭載することも可能である。
画像データ処理部120、駆動信号生成部150及びシステム制御部180を含む駆動制御系の部分が「駆動制御部」に相当する。また、テストチャート生成部140とシステム制御部180の組み合わせにより、特定の1種類の滴種(例えば、中滴)のみで所望のドット記録率の濃度チャートを出力させる制御機能を達成する部分が「濃度チャート出力制御部」に相当する。
<電圧補正値の求め方について>
次に、電圧補正値の求め方の具体例について説明する。
インクジェットヘッド10を構成する複数個のヘッドモジュール12について濃度合わせの基準となる基準ヘッドモジュールの電圧補正値を決定する方法と、基準ヘッドモジュール以外の非基準ヘッドモジュールの電圧補正値を決定する方法とは、異なる手順となるため、以下、それぞれの方法を具体例とともに説明する。ここでは説明を簡単にするために、小滴と中滴の2種類の滴サイズを用いる場合を説明する。
[1]基準ヘッドモジュールの電圧補正値の決定方法について
インクジェット記録装置100の製造段階や、出荷後にインクジェットヘッド10のバー全体を交換した場合など、インクジェットヘッド10において濃度合わせの基準となる基準ヘッドモジュールが未だ確定していない場合(「基準グループが存在しない場合」に相当)には、まず、ヘッドモジュール間(「グループ間」に相当)の濃度合わせの基準となる基準ヘッドモジュールの電圧補正値を決定する処理を行う。
ライン型のインクジェットヘッド10を構成している複数個のヘッドモジュールのうち、ある1つのヘッドモジュールを基準ヘッドモジュールの対象として選択し、当該ヘッドモジュールについては、指定された滴サイズ(本例では、中滴)の液量が予め定めた規定の液量となるように電圧補正値を定める。ここでは、中滴の滴量が7pl(ピコリットル)となるように電圧補正値を定める場合を例に説明する。
図9は基準ヘッドモジュールの電圧補正値を決定する手順を示したフローチャートである。処理に先立ち、予め設計仕様上の標準とされる標準ヘッドモジュールについて滴量と印刷濃度の関係が特定された標準滴量データが用意され、図8で説明した標準滴量データ記憶部176(図8参照)に標準滴量データがセットされる(図9のステップS112)。
図10に標準滴量データの一例を示す。図10において、横軸は滴量(単位はピコリットル[pl])、縦軸は印刷濃度を表している。図10のような標準滴量データは、標準ヘッドモジュールを用い、1種類のドット種(本例では中滴)のみで一定のドット記録率(例えば、25%)による濃度チャートを印刷し、その印刷された濃度チャートの濃度を測定することで得ることができる。濃度チャートを印刷する際に、駆動電圧を振って中滴の滴量を変化させ、滴量毎に濃度チャートの印刷濃度を測定する。図10では、駆動電圧を振って1ドット当たりの滴量を6.5pl、7.0pl、7.5plと変化させた場合の各滴量によるドット記録率25%の濃度チャートの印刷濃度を測定して得られた検量線が示されている。
このような標準滴量データから、中滴の滴量が7.0plであるときのドット記録率25%の印刷濃度の値(DST)を把握することができる。
また、各ヘッドモジュール12には、予め設計仕様や出荷検査などに基づき、目安となる電圧補正値の初期値R0が与えられている(図9のステップS114)。初期値R0の情報は、ヘッドモジュール12毎に設けられたROM(read-only memory)に記憶されており、このROMから初期値R0の情報を呼び出して取得する。或いはまた、制御装置の記憶部に各ヘッドモジュール12の初期値の情報を保持しておいてもよい。
次に、初期値R0を0.95倍した値R1=0.95×R0を電圧補正値にセットする(ステップS116)。つまり、初期値R0の「−5%」に相当する電圧補正値R1を設定する。そして、この電圧補正値R1を適用して中滴のみで所定のドット記録率(ここでは、ドット記録率=25%)の濃度チャートを印刷する(ステップS118)。
この濃度チャートは、1種類のドットと、そのドットによる記録率が予め指定されたものであるため、図8で説明したハーフトーン処理部124において実際の印刷画像に適用されるハーフトーン処理が適用されるものではない。ハーフトーン処理部124によるハーフトーン処理を省略して、濃度チャートの出力指令データを生成することができる。
そして、印刷された濃度チャートの濃度を測定する(ステップS120)。この濃度測定により、電圧補正値R1に対応した出力濃度D1のデータが得られる。
次に、初期値R0を1.05倍した値R2=1.05×R0を電圧補正値にセットする(ステップS122)。つまり、初期値R0の「+5%」に相当する電圧補正値R2を設定し、この電圧補正値R2を適用して中滴のみで所定のドット記録率(ここでは、ドット記録率=25%)の濃度チャートを印刷する(ステップS124)。
そして、印刷された濃度チャートの濃度を測定する(ステップS126)。この濃度測定により、電圧補正値R2に対応した出力濃度D2のデータが得られる。
ステップS120及びステップS126の測定結果を基に、電圧補正値と濃度の関係を示す検量線を作成する(ステップS128)。図11の右側に示したように、2点の測定点(R1,D1)、(R2,D2)から、これら2点を通る直線を表す検量線LAを作成する。
そして、標準滴量データを参照し、指定の滴量(本例では、7.0ピコリットルを例示)に対応する濃度となる電圧補正値Raを検量線LAから求める(図9のステップS130)。
図11の左側に示した標準滴量データは、図10で説明した標準滴量データと同等のものであり、図11に示したように、7.0ピコリットルの滴量に対応する印刷濃度DSTを実現するための電圧補正値Raは検量線LAから求めることができる。
こうして、基準ヘッドモジュールの電圧補正値Raが決定され、求めた電圧補正値Raが記憶部に記憶される(図9のステップS132)。
上述のように、基準ヘッドモジュールについては、標準滴量データに基づき、絶対値としての目標濃度に対して電圧補正値Raが定められる。
ステップS118、S124で説明した工程が「濃度チャートを出力する工程」に相当する。また、ステップS120、S126で説明した工程が「濃度チャートの濃度を測定する工程」に相当する。ステップS116〜ステップS126の工程の順番は図9の例に限らない。例えば、R2の電圧補正値による濃度チャートを先に印刷してもよいし、R1,R2のそれぞれの電圧補正値による濃度チャートを印刷した後に、これらの濃度チャートの測定をまとめて行うことも可能である。
なお、本例では初期値R0に対して±5%の電圧補正値を用い、電圧補正値を2段階に振って、それぞれの電圧補正値で濃度チャートを出力したが、電圧補正値を振る振り幅やステップ数については、この例に限らない。少なくとも2段階に電圧補正値を変えて濃度チャートを測定することで、2点を結ぶ検量線を得ることができるが、2段階以上の複数段階に電圧補正値を変化させてもよい。
基準ヘッドモジュールの印刷濃度が所定の目標濃度になるように調整する際に、濃度チャートを測定する手段としては、インクジェット記録装置100の画像読取部104を利用してもよいし、オフラインの濃度測定器を利用してもよい。
基準ヘッドモジュールの選定方法については、例えば、画像読取部104における濃度センサの読み取り精度が異なる部分でインクジェットヘッドをブロック分けして、それぞれのブロック内いで基準ヘッドモジュールを設定することができる。基準ヘッドモジュールが「基準グループ」に相当する。
[2]非基準ヘッドモジュールの電圧補正値の決定方法について
基準ヘッドモジュール以外の非基準ヘッドモジュールの電圧補正値は、基準ヘッドモジュールの濃度に合わせるように相対的に決定される。
図12は、非基準ヘッドモジュールの電圧補正値の決定手順を示したフローチャートである。基準ヘッドモジュールの電圧補正値Raについては、図9で説明した処理で決定された値を用いる(図12のステップS212)。基準ヘッドモジュール以外の補正対象のヘッドモジュールについては、まず、電圧補正値の初期値R0の情報を取得する(ステップS214)。そして、初期値R0を0.95倍した値R1=0.95×R0を電圧補正値にセットし(ステップS216)、印刷の際に実際に使用するハーフトーン処理(すなわち、印刷の際に実際に使用するドット種振り分けテーブルを用いたドット種振り分け処理を行うハーフトーン処理)を適用して補正用チャートのドットデータを生成する(ステップS218、「補正用チャート生成工程」)。なお、R1が「第1の電圧補正値」に相当する。ここで生成される補正用チャートのドットデータは、所定の濃度指令値(階調値)の一様な均一濃度画像データをハーフトーン処理部124(図8参照)にて、ドット種振り分け処理、量子化処理して生成される。
この補正用テストチャートのドットデータに基づいてインクジェットヘッド10による打滴が行われ、記録媒体に補正用チャートが印刷される(図12のステップS220、「第1の補正用チャート出力工程」に相当)。
図13は、印刷濃度に対する各滴量の出現比率を示したグラフである。横軸は印刷濃度の指令値(入力階調値)を表し、縦軸は滴量比率を表す。横軸の「100%」の位置は、インクジェットヘッド記録装置において出力可能な最大濃度に対応する指令値を表している。このようなドット種(滴量)別の出現比率は、ドット種振り分けテーブルで定められている。印刷に使用する記録媒体の種類毎にドット種振り分けテーブルが定められている。
補正用チャートの濃度指令値としては、ハーフトーン処理によって、小滴と中滴とが混在して記録される濃度が指定される。本例における補正用チャートの濃度指令値は、最大濃度に対して約50%の濃度となっている。この濃度指令値(階調値)の均一画像データに対してハーフトーン処理部124にて、実際の印刷画像に適用するハーフトーン処理と同じドット種振り分け処理と量子化処理が適用され、小滴が約63%、中滴が約15%の比率で記録される補正用チャートが得られる。
補正用チャートの印刷濃度が低すぎると、濃度の絶対値が小さくなり、測定精度が悪くなる。また、印刷濃度が高すぎると、滴量の変化に対して印刷濃度の変化が小さくなるため、濃度の測定値から電圧(電圧補正値)への変換精度が悪くなる。このため、補正用チャートの印刷濃度(濃度指令値)は、最大濃度の25%以上75%以下であることが補正精度の面から好ましく、より好ましくは、35%以上65%以下の範囲、特に好ましくは、40%以上60%以下の範囲である。
図12のステップS218で出力された補正用チャートの濃度を測定する(ステップS222)。この濃度測定工程(「第1の濃度測定工程」に相当)により、基準ヘッドモジュールによって記録された補正用チャートの濃度の測定値Daと、補正対象に係るヘッドモジュールによって記録された濃度チャートの濃度の測定値Db1が得られる(ステップS224)。
次に、補正対象に係るヘッドモジュールの電圧補正値を変更し、初期値R0を1.05倍した値R2=1.05×R0を電圧補正値にセットする(ステップS226)。そして、このR2の電圧補正値を適用した駆動電圧を用い、実際のハーフトーン処理(すなわち、印刷の際に実際に使用するドット種振り分けテーブルを用いたドット種振り分け処理を行うハーフトーン処理)を行った補正用チャートを印刷する(ステップS228、「第2の補正用チャート出力工程」に相当)。補正用チャートのデータとしては、ステップS218で説明した補正用チャートのデータと同等であり、補正用チャートのドット配置構造は同じものである。ただし、電圧補正値がR1からR2に修正されているため、小滴、中滴の各滴種の滴量がそれぞれ増大しており、ステップS228で印刷された補正用チャートは、ステップS220で印刷された補正用チャートに比べて、印刷濃度が濃いものとなる。なお、R2が「第2の電圧補正値」に相当する。
次いで、ステップS228で印刷した補正用チャートの濃度を測定する(ステップS230)。この濃度測定工程(「第2の濃度測定工程」に相当)により、補正対象に係るヘッドモジュールによって記録された濃度チャートの濃度の測定値Db2が得られる(ステップS232)。
こうして、2点の測定点(R1,Db1)、(R2,Db2)から、これら2点を結ぶ直線を表す検量線LBを作成する(ステップS234、「検量線作成工程」に相当)。
次いで、図14に示すように、基準ヘッドモジュールによる出力濃度の測定値Daを目標値(「目標濃度」)とし、この目標値と同等となる電圧補正値Rbを検量線LBから求める(図12のステップS236、「電圧補正値を決定する工程」に相当)。
図14は、補正対象のヘッドモジュールについて、測定された2点の測定点(R1,Db1)、(R2,Db2)を通る検量線LBから目標値(濃度Da)となる電圧補正値Rbを求める方法を示している。
図14中、「出力1」として示した測定点(R1,Db1)は、第1の濃度測定工程(図12のステップS222)から得られた第1の濃度測定結果を示している。「出力2」として示した測定点(R2,Db2)は、第2の濃度測定工程(図12のステップS230)から得られた第2の濃度測定結果を示している。
こうして、補正対象のヘッドモジュールの電圧補正値Rbが決定され、求めた電圧補正値Rbが記憶部に記憶される(図12のステップS238)。
非基準ヘッドモジュールのそれぞれについて上記同様の処理が行われ、ヘッドモジュール毎に電圧補正値が定められる。
ステップS234及びS236の工程が「電圧補正値算出工程」に相当する。なお、ステップS216〜ステップS232の工程の順番は図12の例に限らない。例えば、R2の電圧補正値による補正用チャートを先に印刷してもよいし、R1,R2のそれぞれの電圧補正値による補正用チャートを印刷した後に、これらの補正用チャートの測定をまとめて行うことも可能である。
また、本例では初期値R0に対して±5%の電圧補正値を用い、電圧補正値を2段階に振って、それぞれの電圧補正値で補正用チャートを出力したが、電圧補正値を振る振り幅やステップ数については、この例に限らない。少なくとも2段階に電圧補正値を変えて補正用チャートを測定することで、2点を結ぶ検量線を得ることができるが、2段階以上の複数段階に電圧補正値を変化させてもよい。電圧補正値を振って複数回の補正用チャートの出力と測定を行い、その複数の測定結果から検量線が作成される。
非基準ヘッドモジュールの各ヘッドモジュールについて、図12で説明した手順で電圧補正値を定める。
図9及び図12で説明した手順により、インクジェットヘッド10における各ヘッドモジュールについてヘッドモジュール別の(すなわち、グループ別の)駆動電圧の電圧補正値が求められる。
図9及び図12で説明した処理を含むインクジェットヘッドの補正方法は、インクジェット記録装置100の製造段階で適用することができるため、同方法はインクジェット記録装置の製造方法の一部として把握することができる。
また、同補正方法は、出荷後にインクジェットヘッド10のバー全体を交換した場合のインクジェットヘッドの駆動電圧の調整方法として把握することができる。
<一部のヘッドモジュールを交換する場合>
例えば、インクジェットヘッド10を構成している複数個のヘッドモジュールのうち、一部のヘッドモジュールを交換した場合には、当該交換対象に係る交換後の新たなヘッドモジュールを補正対象のヘッドモジュールとし、交換されていないヘッドモジュールに対して濃度を合わせるように、補正対象のヘッドモジュールの電圧補正値が決定される。
一部のヘッドモジュールを交換した場合、交換した補正対象のヘッドモジュールが「非基準ヘッドモジュール」であり、交換されていないヘッドモジュールのうちの少なくとも1つが「基準ヘッドモジュール」となる。交換したヘッドモジュールのみを補正対象のヘッドモジュールとして、図12で説明した手順で電圧補正値を決定する。
<実施形態による補正の効果>
本実施形態によれば、実際に使用するドット種振り分け処理を適用し、複数種の滴量(滴サイズ)のドットを混ぜ合わせた補正用チャートを印刷して、滴サイズによらず、各滴量に共通の電圧補正値をヘッドモジュール毎に決め、この電圧補正値を用いてヘッドモジュールの単位で駆動電圧を補正するため、複数種の滴量毎に別々の補正値を定める方法と比較して、回路構成の簡易化、小型化が可能である。
本実施形態によれば、滴量毎に別々のチャートを出力して補正値を求める方法と比較して、チャートの出力及びその測定の作業回数を削減でき、補正工程の作業時間の短縮が可能である。
さらに、本実施形態によれば、実際の印刷に使用されるドット種振り分け処理を行った補正用チャートの濃度測定結果を基に各滴量に共通する電圧補正値を定めるため、滴量毎のチャートから滴量毎の補正値を求める補正方法に比べて、滴量のばらつきを低減することができる。
図15は、本実施形態によって電圧補正値を定めた補正後の滴量のばらつきの分布を示した図である。横軸は、中滴の滴量ばらつきを示し、縦軸は小滴の滴量ばらつきを示す。各点は1つのヘッドモジュールにおける中滴及び小滴のそれぞれの平均値を示している。
中央の「100%」の点が設計上の理想的な滴量であり、駆動電圧を補正した後のヘッドモジュールは、中滴と小滴のそれぞれの滴量について滴量ばらつきがないことが望ましいので、本来の理想は中心点になる。ただし、実際には、補正誤差もあり、図15のように理想の中心点の付近に同心円状に分布するものとなる。補正精度は、概ね±5%であり、小滴のばらつきを見ても±8%の範囲に収まっている。このように、本実施形態によれば、滴量の目標値から大きく外れていない結果となっている。
図16は、比較例による補正後の滴量のばらつきの分布であり、図17は図16の模式図である。図16及び図17に示す比較例は、中滴のみで所定のドット記録率による濃度チャートを出力し、その測定結果から電圧補正を行ったものである。比較例においては、中滴については補正精度が±5%の範囲に収まっているが、補正して滴の補正精度のばらつきに対して、補正していない小滴の滴量のばらつき(±5%程度)がプラスされるため、全体としては平行四辺形で示したように、広い範囲にばらつきが分布し、小滴について最大で±10%の滴量ばらつきが生じている。
図18は、本実施形態の補正方法による滴量ばらつきの分布範囲と、比較例による滴量ばらつきの分布範囲とを対比した模式図である。比較例の補正方法による滴量ばらつきの範囲は、理想の目標値を中心とする一定幅の平行四辺形の形状となり、図18の右上部分に示した濃度が濃い領域(中滴、小滴ともに滴量が大きくなる領域)や、左下部分に示した濃度が薄い領域(中滴、小滴ともに滴量が小さくなる領域)も含んでいる。
これに対し、本実施形態の補正方法によれば、理想の目標値を中心とする円内或いは楕円内に滴量ばらつきが分布するため(図18参照)、中滴と小滴のそれぞれのばらつきが大きい領域(濃度が濃い領域、濃度が薄い領域)に入るものは無い。
このように、本実施形態によれば、比較例に比べて、滴量ばらつきを低減できる。
<インクジェット記録装置の構成例>
次に、インクジェット記録装置の構成例について説明する。図19は、インクジェット記録装置100の構成例を示す図である。このインクジェット記録装置100は、描画ドラム370に保持された記録媒体324(以下、「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成するインクジェット記録装置である。
図示のように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部312、処理液付与部314、描画部316、乾燥部318、定着部320、及び排紙部322を備えて構成される。描画部316のインクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yのそれぞれ図1で説明した「インクジェットヘッド10」に相当し、描画ドラム370を含む用紙搬送系が「媒体搬送部102」に相当する。
(給紙部)
給紙部312には、枚葉紙である記録媒体324が積層されている。給紙部312の給紙トレイ350から記録媒体324が一枚ずつ処理液付与部314に給紙される。記録媒体324として、枚葉紙(カット紙)を用いているが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
(処理液付与部)
処理液付与部314は、記録媒体324の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部316で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
処理液付与部314は、給紙胴352、処理液ドラム354、及び処理液塗布装置356を備えている。処理液ドラム354は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)355を備え、この保持手段355の爪と処理液ドラム354の周面の間に記録媒体324を挟み込むことによって記録媒体324の先端を保持できるようになっている。処理液塗布装置356は、ローラによる塗布方式の他、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
処理液が付与された記録媒体324は、処理液ドラム354から中間搬送部326を介して描画部316の描画ドラム370へ受け渡される。
(描画部)
描画部316は、描画ドラム370、用紙抑えローラ374、及びインクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yを備えている。描画ドラム370は、処理液ドラム354と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)371を備える。描画ドラム370の外周面に吸引孔が設けられ、負圧吸引によって記録媒体324はドラム外周面に吸着保持される。描画ドラム370を含む用紙搬送系が媒体搬送部102(図8参照)に相当する。
インクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yはそれぞれ、記録媒体324における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッドであり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yは、記録媒体324の搬送方向(描画ドラム370の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
描画ドラム370によって記録媒体324を一定の速度で搬送し、この搬送方向について、記録媒体324と各インクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yを相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち1回の副走査で)、記録媒体324の画像形成領域に画像を記録することができる。
ここでは、CMYKの4色のインクを用いるインクジェット記録装置100を例示しているが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
描画部316で画像が形成された記録媒体324は、描画ドラム370から中間搬送部328を介して乾燥部318の乾燥ドラム376へ受け渡される。
(乾燥部)
乾燥部318は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、乾燥ドラム376、及び溶媒乾燥装置378を備えている。乾燥ドラム376は、処理液ドラム354と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)377を備える。溶媒乾燥装置378は、複数のハロゲンヒータ380と、温風噴出しノズル382とで構成される。乾燥部318で乾燥処理が行われた記録媒体324は、乾燥ドラム376から中間搬送部330を介して定着部320の定着ドラム384へ受け渡される。
(定着部)
定着部320は、定着ドラム384、ハロゲンヒータ386、定着ローラ388、及びインラインセンサ390で構成される。定着ドラム384は、処理液ドラム354と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)385を備える。
インラインセンサ390は、記録媒体324に形成された画像(濃度測定用テストチャートや不良ノズル検出用テストチャート、不吐補正パラメータ取得用テストチャートなどを含む)を読み取り、画像の濃度、画像の欠陥などを検出するための手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。インラインセンサ390は図25で説明した画像読取部104に相当する。
(排紙部)
排紙部322は、排出トレイ392を備えており、この排出トレイ392と定着部320の定着ドラム384との間に、これらに対接するように渡し胴394、搬送ベルト396、張架ローラ398が設けられている。記録媒体324は、渡し胴394により搬送ベルト396に送られ、排出トレイ392に排出される。搬送ベルト396による用紙搬送機構の詳細は図示しないが、印刷後の記録媒体324は無端状の搬送ベルト396間に渡されたバー(不図示)のグリッパーによって用紙先端部が保持され、搬送ベルト396の回転によって排出トレイ392の上方に運ばれてくる。
また、図19には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100には、各インクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部314に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体324の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
<制御系の説明>
図20は、インクジェット記録装置100のシステム構成を示すブロック図である。インクジェット記録装置100は、通信インターフェース470、システムコントローラ472、プリント制御部474、画像バッファメモリ476、ヘッドドライバ478、モータドライバ480、ヒータドライバ482、処理液付与制御部484、乾燥制御部486、定着制御部488、メモリ490、ROM492、エンコーダ494等を備えている。
通信インターフェース470は、上位制御装置であるホストコンピュータ550から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース470にはシリアルインターフェースやパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。なお、通信インターフェース470は図8で説明した画像データ入力部110の役割を果たす。
ホストコンピュータ550から送出された画像データは通信インターフェース470を介してインクジェット記録装置100に取り込まれ、一旦メモリ490に記憶される。
メモリ490は、通信インターフェース470を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ472を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ490は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ472は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置100の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。
ROM492にはシステムコントローラ472のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。ROM492は、書換不能な記憶手段であってもよいし、書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ490は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ480は、システムコントローラ472からの指示に従ってモータ496を駆動するドライバである。図20では、装置内の各部に配置される様々なモータを代表して符号496で図示している。モータ496には、図19の給紙胴352、処理液ドラム354、描画ドラム370、乾燥ドラム376、定着ドラム384、渡し胴394などの回転を駆動するモータ、描画ドラム370の吸引孔から負圧吸引するためのポンプの駆動モータ、インクジェットヘッド372M,372K,372C,372Yのヘッドユニットを、描画ドラム370外のメンテナンスエリアに移動させる退避機構のモータ、などが含まれている。なお、図20では、符号450によってインクジェットヘッドを示した。
ヒータドライバ482は、システムコントローラ472からの指示に従って、ヒータ498を駆動するドライバである。図20では、装置内の各部に配置される様々なヒータを代表して符号498で図示している。
プリント制御部474は、システムコントローラ472の制御にしたがい、メモリ490内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ478に供給する制御部である。プリント制御部474は図8で説明した画像データ処理部120を含むブロックである。
プリント制御部474において所要の信号処理が施され、得られたドットデータに基づいて、ヘッドドライバ478を介してインクジェットヘッド450のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。
プリント制御部474には画像バッファメモリ(不図示)が備えられており、プリント制御部474における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリに一時的に格納される。また、プリント制御部474とシステムコントローラ472とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ478は、プリント制御部474から与えられる印字データに基づき、インクジェットヘッド450の各ノズルに対応する吐出エネルギー発生素子を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ478にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
ヘッドドライバ478から出力された駆動信号がインクジェットヘッド450に加えられることによって、該当するノズルからインクが吐出される。記録媒体324を所定の速度で搬送しながらインクジェットヘッド450からのインク吐出を制御することにより、記録媒体324上に画像が形成される。
図8で説明したとおり、本例に示すインクジェット記録装置100は、インクジェットヘッド450(ヘッドモジュール12)の各圧電素子44に対して、ヘッドモジュール単位で共通の駆動波形を印加し、各ノズルの吐出タイミングに応じて各圧電素子44の個別電極に接続されたスイッチ素子(不図示)のオンオフを切り換えることで、ノズルからインクを吐出させる。
このヘッドドライバ478及びプリント制御部474の部分が図8で説明した駆動信号生成部150に相当する。また、図20のシステムコントローラ472が図8で説明したシステム制御部180に相当する。
処理液付与制御部484は、システムコントローラ472からの指示にしたがい、処理液塗布装置356(図19参照)の動作を制御する。乾燥制御部486は、システムコントローラ472からの指示にしたがい、溶媒乾燥装置378(図19参照)の動作を制御する。
定着制御部488は、システムコントローラ472からの指示にしたがい、定着部320のハロゲンヒータ386や定着ローラ388(図19参照)から成る定着加圧部499の動作を制御する。
インラインセンサ390は、図19で説明したように、イメージセンサを含むブロックであり、記録媒体324に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつき、光学濃度など)を検出し、その検出結果をシステムコントローラ472及びプリント制御部474に提供する。インラインセンサ390は、図8で説明した画像読取部104に相当する。
エンコーダ494は、描画ドラム370(図19参照)に設けられている。エンコーダ494の検出信号に基づいて吐出トリガー信号(画素トリガー)が発せされる。インクジェットヘッド450の打滴タイミングは、エンコーダ494の検出信号に同期させる。これにより、高精度に着弾位置を決定することができる。
プリント制御部474は、インラインセンサ390から得られる情報に基づいてインクジェットヘッド450に対する各種補正(不吐補正や濃度補正など)を行うとともに、必要に応じて予備吐出や吸引、ワイピング等のクリーニング動作(ノズル回復動作)を実施する制御を行う。
<吐出方式について>
インクジェットヘッドにおける各ノズルから液滴を吐出させるための吐出用の圧力(吐出エネルギー)を発生させる手段は、圧電素子に限らない。圧電素子の他、静電アクチュエータ、サーマル方式(ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させる方式)におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による各種アクチュエータなど様々な圧力発生素子(吐出エネルギー発生素子)を適用し得る。ヘッドの吐出方式に応じて、相応のエネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
<記録媒体について>
「記録媒体」には、印字媒体、被記録媒体、被画像形成媒体、受像媒体、被吐出媒体など様々な用語で呼ばれるものが含まれる。本発明の実施に際して、記録媒体の材質や形状等は、特に限定されず、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フィルム、布、不織布、配線パターン等が形成されるプリント基板、ゴムシート、その他材質や形状を問わず、様々なシート体を用いることができる。
<インクジェットヘッドにおけるノズルのグループ分けについて>
上述の実施形態では交換可能なヘッドモジュールの単位でノズルがグループ分けされている例を述べたが、グループ分けの単位は必ずしも交換可能な単位と一致していなくてもよい。例えば、交換可能なヘッドモジュールの内部が、さらに複数のノズルグループに分けられており、そのノズルグループの単位で駆動電圧を補正する態様も可能である。
一例として、図3に示した二次元ノズル配列において、Y方向について上下に二分割した構成とし、上側の第1グループと下側の第2グループのそれぞれについて、グループの単位で駆動電圧を補正する態様も可能である。
また、1つのグループ内に複数のヘッドモジュールを含むようなグループ分けも可能であり、インクジェットヘッドを構成するヘッドモジュールの個数よりも、少ないグループ数のノズルグループにグループ分けしてもよい。
<コンピュータをインクジェット記録装置の制御装置として機能させるプログラム>
上述の実施形態で説明した補正機能を実現するためのチャート出力機能や、電圧補正値を求める演算処理機能をコンピュータによって実現させるためのプログラムをCD−ROMや磁気ディスクその他のコンピュータ可読媒体(有体物たる非一時的な情報記憶媒体)に記録し、該情報記憶媒体を通じて当該プログラムを提供することが可能である。このような情報記憶媒体にプログラムを記憶させて提供する態様に代えて、インターネットなどの通信ネットワークを利用してプログラム信号をダウンロードサービスとして提供することも可能である。
また、本実施形態で説明した補正機能を実現するプログラムの一部又は全部をホストコンピュータなどの上位制御装置に組み込む態様や、画像出力装置としてのプリンタ(インクジェット記録装置)側の中央演算処理装置(CPU)の動作プログラムとして適用することも可能である。
以上説明した本発明の実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜構成要件を変更、追加、削除することが可能である。本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有するものにより、多くの変形が可能である。