JP5999345B2 - 硬質被覆層が高速断続切削加工ですぐれた耐剥離性、耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層(以下、Al2O3層で示す)、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具が知られている。
そこで、被覆層のチッピング、剥離の発生を抑制することを目的として、硬質被覆層の層構造については各種の提案がなされている。
少なくとも1層のTiCN層を含むTi化合物層からなる下部層と、Al2O3層からなる上部層とを被覆形成した被覆工具において、下部層のTiCN層の結晶粒の{110}面の法線の傾斜角度数分布形態を特定し、また、下部層の最表面層直上のAl2O3結晶粒の結晶組織と{1−100}面の法線の傾斜角度数分布形態を特定することにより、上部層と下部層の付着強度を向上させ得るとともに、さらに、上部層全体のAl2O3結晶粒について(0001)面の法線の傾斜角度数分布形態を特定することにより、上部層全体の高温硬さと高温強度を維持することができるため、切刃に高負荷・衝撃的負荷が作用する高速断続切削に用いた場合でも、上部層と下部層間での剥離、チッピング等の異常損傷の発生が抑え、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する被覆工具を得られることを見出したのである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、3〜20μmの合計平均層厚を有し、TiC、TiN、TiCN、TiCO、TiCNOのうちの2層以上からなり、その内の少なくとも1層をTiCN層で構成したTi化合物層、
(b)上部層として、2〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するAl2O3層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(c)下部層の上記TiCN層のTiCN結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占め、
(d)下部層の最表面層と上部層との界面における上部層のAl2O3結晶粒は、くさび形結晶組織を有し、該くさび形結晶組織の凹凸部の平均高低差が1.0〜2.5μm、凸部の平均間隔が0.5〜3μmであり、該くさび形結晶組織を有するAl2O3結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{1−100}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15〜35%の割合を占め、
(e)上部層全体のAl2O3結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、10〜20度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、10〜20度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 上記(d)のくさび形結晶組織は、平均粒径0.05〜1μmのAl2O3結晶粒の集合体によって構成されていることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
図1に示すように、この発明の硬質被覆層は、Ti化合物層からなる下部層とAl2O3層からなる上部層で構成されるが、下部層の最表面層と上部層との界面直上における上部層は、くさび形結晶組織を有するAl2O3結晶粒の集合体により構成されている。
この発明の下部層は、少なくとも1層のTiCN層を含むTi化合物層(即ち、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層の1層または2層以上からなり、しかも、TiCN層を、少なくとも1層含むTi化合物層)として構成され、基本的にはα型の結晶構造を有するAl2O3(以下、単に「Al2O3」で示す)層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体、Al2O3層のいずれにも密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性を維持する作用を有する。
ただ、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
ここで、上記傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在しない場合、あるいは、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%未満の割合である場合には、下部層中のTi化合物(TiC、TiN、TiCO、TiCNOのいずれか)層とTiCN層間での良好な密着性を得ることができず、所望の耐剥離性を得ることができなくなる。
したがって、下部層のTiCN層を構成するTiCN結晶粒については、上記傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める傾斜角度数分布を示すことが必要である。
上記の下部層方位傾斜角度数分布を有するTiCN層は、例えば、後記する化学蒸着条件によって形成することができる。
図2に、下部層のTiCN層について測定して求めた下部層方位傾斜角度数分布を有するTiCN結晶粒の傾斜角度数分布グラフの一例を示す。
この発明では、下部層の最表面層に、例えば、以下のような処理を施すことにより、下部層の最表面層と上部層との界面における上部層(即ち、下部層最表面直上に位置する上部層)のAl2O3結晶粒を、所定の結晶組織および傾斜角度数分布形態(後記参照)になるよう蒸着することができる。
即ち、まず、通常の化学蒸着装置を使用して、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなる種々のTi化合物層を蒸着形成した後、予備酸化処理条件として、
反応ガス組成(容量%):CO 2〜4%、CO2 2〜4%、残部H2、
雰囲気温度:970〜1020 ℃、
雰囲気圧力:3〜10 kPa、
時間:2〜5min、
という条件でCOとCO2混合ガスによる予備酸化処理を行うことによって、次のAl2O3層成膜工程におけるAl2O3核生成に際し、所定の結晶組織および所定方位のAl2O3核を分散形成せしめることができる。
次いで、上記予備酸化処理を行った下部層の表面に、例えば、初期成長条件として、
反応ガス組成(容量%):AlCl3 1〜3%、CO2 2〜4%、
HCl 0.5〜2.0%、残部H2、
反応雰囲気温度: 1000〜1040 ℃、
反応雰囲気圧力: 5〜15 kPa、
時間: 5〜30 min、
の条件でAl2O3を蒸着することにより、下部層の最表面層直上に、所定の結晶組織(平均粒径が0.05〜1μmのAl2O3結晶粒の集合体からなるくさび形結晶組織)および所定の傾斜角度数分布形態(工具基体の表面の法線に対して、{1−100}面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数の合計割合が15〜35%)を有するAl2O3核を分散形成することができる。
以下に、くさび型結晶組織について説明する。下部層の最表面層直上に成長した{1−100}面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にあるAl2O3結晶粒において、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における{1−100}面の法線同士の交わる角度を求め、角度差が20度未満の範囲にある場合は、互いがくさび型結晶構造をなしており、角度差が20度以上の場合、その結晶粒界がくさび型結晶組織と後述する上部層Al2O3結晶粒を分ける箇所となる。また、そのくさび型結晶組織がAl2O3皮膜の最表面に露出することはない。
このようなくさび形結晶組織が形成される理由は、下部層のTi化合物の最表面層(特にTiCNO層やTiCO層)上にAl2O3結晶粒が成長する際に、成長初期ではTi化合物の最表面層の格子面とエピタキシャル関係を保ちながら成長するが、Al2O3層の膜厚が厚くなるに従って、エピタキシャル関係を保つAl2O3粒子が減少するため、{1−100}面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にあるようなAl2O3結晶粒が減少する。その上に成長するAl2O3結晶粒に関しては、(0001)面の法線がなす傾斜角が10〜20度の範囲内となるAl2O3結晶粒が増加することで、最終的に凹凸を有したくさび型形状が形成されるためと推察される。
そして、平均粒径0.05〜1μmのAl2O3結晶粒の集合体によりくさび形結晶組織を構成するAl2O3結晶粒の平均粒径が0.05μm未満である場合には、下部層直上Ti化合物表面の凹凸に対する充填性が悪くなるため、下部層直上Ti化合物とAl2O3層間の付着強度が低下し、一方、Al2O3結晶粒の平均粒径が1μmを超える場合には、その上層に成長するAl2O3結晶の粒径が大きくなり、耐チッピング性が低下するとともに、くさび形結晶組織を構成するAl2O3結晶粒とその上部層のAl2O3層の界面にポアが形成されやすくなり、そのため上部層の硬さ、強度が低下するともに、上部層と中間層との付着強度が低下するため、くさび形結晶組織を構成するAl2O3結晶粒の平均粒径は、0.05〜1μmの範囲内であることが望ましい。
また、この発明でいうくさび形結晶組織とは、種々の粒径を持つAl2O3結晶粒の集合体により形成されるものであり、くさび形結晶組織全体としては膜厚方向に凹凸を有した構造と定義される。凹凸部の平均高低差は1.0〜2.5μmの範囲であることが必要であり、1.0μm未満である場合は、くさび形結晶組織を構成するAl2O3結晶粒とその上部層のAl2O3層の界面の接触する表面積の増大が見込めず、また平均高低差が2.5μmを超える場合には、その上層に成長するAl2O3層の方位形態が所望のものとならなくなるため、凹凸部の平均高低差は1.0〜2.5μmとした。
凸部の平均間隔は0.5〜3μmの範囲であることが必要であり、0.5μm未満である場合は、くさび形結晶組織の凹部とその上部に成長するAl2O3層の界面にポアが形成しやすくなり、また凸部の平均間隔が3μmを超える場合には、くさび形結晶組織を構成するAl2O3結晶粒とその上部層のAl2O3層の界面の接触する表面積の増大が見込めないため、凸部の平均間隔を0.5〜3μmとした。
本願発明では、下部層の最表面層直上(上部層と下部層の界面直上)に上記のくさび形結晶組織が形成されることによって、くさび形結晶組織を構成するAl2O3結晶粒とその上部層のAl2O3層の界面の接触する表面積が増大することから、上部層と下部層間の密着性向上が図られる。
上記界面方位傾斜角度数分布を有するAl2O3結晶粒の傾斜角度数分布グラフにおける度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15%未満であると、上部層Al2O3結晶粒の縦長柱状組織が層厚方向に対して、傾斜した状態で形成され、微細な縦長柱状結晶粒でなくなり、上部層全体としての所望の傾斜角度数分布形態が得られなくなる。一方、上記界面方位傾斜角度数分布を有するAl2O3結晶粒の度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の35%を超えると、上部層のAl2O3結晶粒の(0001)面の法線がなす傾斜角が10〜20度の範囲内にあるAl2O3結晶粒の度数の合計割合を求めた場合、上部層全体のAl2O3結晶粒の傾斜角度数分布グラフにおける全度数に対して50%未満となり、上部層Al2O3の高温強度が低下する。
したがって、上部層と下部層との界面直上における上部層のAl2O3結晶粒について、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、上記界面方位傾斜角度数分布形態を有するAl2O3結晶粒の度数の合計割合を15〜35%と定めた。
図3に、下部層と上部層の界面直上のAl2O3結晶粒について測定した界面方位傾斜角度数分布を有するAl2O3結晶粒の傾斜角度数分布グラフの一例を示す。
下部層の最表面層直上に上記(b)のAl2O3核を蒸着形成した後、上部層のAl2O3結晶粒を以下の条件で形成する。
即ち、上記(b)でAl2O3核を蒸着形成した後、
反応ガス組成(容量%):AlCl3 1〜3%、CO2 5〜15%、HCl 1〜3%、H2S 0.5〜1.0%、残部H2、
反応雰囲気温度:1000〜1040 ℃、
反応雰囲気圧力:5〜15 kPa、
時間:(目標とする上部層層厚になるまで)
という条件で蒸着することにより、層厚方向とほぼ平行に成長した微細な縦長柱状Al2O3結晶粒で構成された上部層が成膜される。
上記上部層方位傾斜角度数分布を有するAl2O3結晶粒の度数は、上記蒸着条件のうちの、特に、反応雰囲気温度およびCO2、H2Sガス比によって影響され、例えば、反応雰囲気温度が低いと所望の上部層方位傾斜角度数分布を有するAl2O3結晶粒を得ることができず、一方、反応雰囲気温度が高いと得られるAl2O3層の粒径が粗粒になり、耐チッピング性が低下する。
また、CO2ガス容量の値が小さいと、Ti化合物上へのAl2O3層初期核形成が不十分となり、その結果上部層のAl2O3層が所望の上部層方位傾斜角度数分布を有することができなくなり、一方、CO2ガス容量の値が大きいとTi化合物上へのAl2O3層初期核サイトが粗大になり、その結果上部層のAl2O3層の粒径が粗粒になり、耐チッピング性が低下する。
そして、上部層方位傾斜角度数分布を有するAl2O3結晶粒の度数割合が50%以上を占める場合に、上部層Al2O3の高温硬さ、高温強度が維持されることから、本発明では、上部層の上部層方位傾斜角度数分布を有するAl2O3結晶粒の度数割合を、上記傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上と定めた。
図4に、上部層全体について測定した上部層方位傾斜角度数分布を有するAl2O3結晶粒の傾斜角度数分布グラフの一例を示す。
なお、上部層全体の層厚が、2μm未満であると長期の使用にわたってすぐれた高温強度および高温硬さを発揮することができず、一方、15μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、上部層の層厚は2〜15μmと定めた。
(a)まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件および表4に示される条件にて、表7に示される目標層厚のTi化合物層を蒸着形成し、
(b)ついで、表5に示される条件にて、下部層の最表面のTi化合物層にCOとCO2混合ガスによる予備酸化処理を行い、
(c)ついで、上記(b)の処理を施したTi化合物層の表面に、表6に示される二段階の条件にて、上部層のAl2O3層を表8に示される目標層厚で形成することにより、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
まず、表3に示される条件および表4に示される条件にて、表9に示される目標層厚のTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、表5に示される条件にて、下部層の最表面のTi化合物層にCOとCO2混合ガスによる予備酸化処理を行い、
ついで、上記(b)の処理を施したTi化合物層の表面に、表6に示される二段階の条件にて、上部層のAl2O3層を表10に示される目標層厚で形成することにより、
比較例被覆工具1〜13を製造した。
すなわち、上記の本発明被覆工具1〜13、比較被覆工具1〜13の下部層のTiCN層の深さ方向へ0.3μm、また、工具基体表面と平行方向に50μmの断面研磨面の測定範囲(0.3μm×50μm)を、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子線後方散乱回折像装置を用い、TiCN層の膜厚方向1μm以内のTiCN結晶粒について、0.3×50μmの測定領域を0.1μm/stepの間隔で、工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを求め、該傾斜角度数分布グラフにおいて、最高ピークが存在する傾斜角区分を求めるとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフの度数全体に占める割合を求めた。
表7、表9にこれらの値を示す。
また、図2に、本発明被覆工具1の下部層のTiCN層のTiCN結晶粒について測定した下部層方位傾斜角度数分布を示す傾斜角度数分布グラフを示す。
すなわち、上記の本発明被覆工具1〜13、比較被覆工具1〜13の下部層と上部層との界面から上部層の深さ方向へ0.3μm、また、工具基体表面と平行方向に50μmの断面研磨面の測定範囲(0.3μm×50μm)を、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子線後方散乱回折像装置を用い、下部層の最表面層から膜厚方向1μm以内のAl2O3結晶粒について、0.3×50μmの測定領域を0.1μm/stepの間隔で、工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{1−100}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを求め、該傾斜角度数分布グラフにおいて、最高ピークが存在する傾斜角区分を求めるとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフの度数全体に占める割合を求めた。
表8、表10にこれらの値を示す。
また、図3に、本発明被覆工具1について測定した界面方位傾斜角度数分布を示すAl2O3結晶粒の傾斜角度数分布グラフを示す。
なお、ここでいう「上部層全体」とは、下部層と上部層との界面から上部層最表面までの測定範囲をいい、界面直上の界面方位傾斜角度数分布を示すAl2O3結晶粒も測定対象範囲となる。
表8、表10にこれらの値を示す。
また、図4に、本発明被覆工具1について測定した上部層方位傾斜角度数分布を示すAl2O3結晶粒の傾斜角度数分布グラフを示す。
くさび形結晶組織の凸部の平均間隔は図1のa部に示すように、本発明で述べた、くさび型結晶組織の隣り合う凸部間の距離を測定し、5点測定の平均値を凸部の平均間隔とした。くさび形結晶組織の凹凸部の平均高低差は図1のb部に示すように、本発明で述べた、結晶群の凹部と一つ隣の凸部の距離を測定し、5点測定の平均値を凹凸部の平均高低差とした。くさび形結晶組織を構成するAl2O3結晶粒の平均粒径は、下部層Ti化合物層直上の界面方位形態を有するAl2O3結晶粒における横方向の線分測定点10箇所の測定値の平均から、くさび形結晶組織を構成するAl2O3結晶粒の横方向平均粒径を求めた。
表8、表10にこれらの値を示す。
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度:380m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、200m/min)、
被削材:JIS・FC450の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.4mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Cという)でのダグタイル鋳鉄の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、250m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
表11にこの測定結果を示した。
これに対して、比較被覆工具1〜13では、高速断続切削加工においては、硬質被覆層の剥離発生、チッピング発生により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、3〜20μmの合計平均層厚を有し、TiC、TiN、TiCN、TiCO、TiCNOのうちの2層以上からなり、その内の少なくとも1層はTiCN層で構成したTi化合物層、
(b)上部層として、2〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するAl2O3層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(c)下部層の上記TiCN層のTiCN結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占め、
(d)下部層の最表面層と上部層との界面における上部層のAl2O3結晶粒は、くさび形結晶組織を有し、該くさび形結晶組織の凹凸部の平均高低差が1.0〜2.5μm、凸部の平均間隔が0.5〜3μmであり、該くさび形結晶組織を有するAl2O3結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{1−100}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の15〜35%の割合を占め、
(e)上部層全体のAl2O3結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表わした場合、10〜20度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、10〜20度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 上記(d)のくさび形結晶組織は、平均粒径0.05〜1μmのAl2O3結晶粒の集合体によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
Priority Applications (1)
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