JP2005313246A - 硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具を提供する。
【解決手段】表面被覆サーメット製切削工具が、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、(a)下部層が、いずれも蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、特定な測定方法にて、12〜22度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れるポールプロットグラフを示すAl2O3層、(c)表面層が、蒸着形成され、かつ0.5〜3μmの平均層厚を有するCrN層、以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる。
【選択図】図1
【解決手段】表面被覆サーメット製切削工具が、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、(a)下部層が、いずれも蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、特定な測定方法にて、12〜22度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れるポールプロットグラフを示すAl2O3層、(c)表面層が、蒸着形成され、かつ0.5〜3μmの平均層厚を有するCrN層、以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる。
【選択図】図1
Description
この発明は、特に各種の鋼や鋳鉄などの高速切削で、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具(以下、被覆サーメット工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、いずれも蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するAl2O3層(以下、α型Al2O3層で示す)、
(c)表面層が、蒸着形成され、かつ0.5〜3μmの平均層厚を有する窒化クロム(以下、CrNで示す)層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることは良く知られている。
(a)下部層が、いずれも蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有するAl2O3層(以下、α型Al2O3層で示す)、
(c)表面層が、蒸着形成され、かつ0.5〜3μmの平均層厚を有する窒化クロム(以下、CrNで示す)層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることは良く知られている。
また、一般に、上記の被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層やα型Al2 O3 層、さらにCrN層が粒状結晶組織を有し、さらに、前記Ti化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物、例えばCH3CNを含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている。
特開2003−266212号公報
特開平6−8010号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆サーメット工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを高速切削に用いた場合、硬質被覆層を構成するα型Al2O3層の摩耗が急速に進行するようになることから、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記のα型Al2O3層が硬質被覆層の上部層を構成する被覆サーメット工具に着目し、特に前記α型Al2O3層の耐摩耗性向上を図るべく研究を行った結果、
工具基体の表面に、硬質被覆層としてのα型Al2O3層を蒸着形成するに際して、例えばこれの蒸着形成に先だって、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:3〜10%、CO2:0.5〜3%、C2H4:0.01〜0.3%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:3〜13kPa、
の低温条件で、下部層であるTi化合物層の表面に核Al2O3を形成し、この場合前記核Al2O3は0.02〜0.2μmの平均層厚を有する核Al2O3薄膜であるのが望ましく(以下、核Al2O3薄膜という)、引き続いて、反応雰囲気を圧力:3〜13kPaのAr雰囲気に変え、反応雰囲気温度を930〜1050℃に昇温した条件で前記核Al2O3薄膜に加熱処理を施した状態で、硬質被覆層としてのα型Al2O3層を通常の条件で蒸着形成すると、この結果の前記加熱処理核Al2O3薄膜上に蒸着形成されたα型Al2O3層は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1に概略図で示される通り、工具基体表面と平行な表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の前記表面研磨面の法線に対する傾斜角を測定し、前記個々の結晶粒が示す0〜45度の範囲内の測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分し、各区分内に存在する測定傾斜角を区分毎に集計してなるポールプロットグラフを作成した場合、前記従来蒸着α型Al2O3層は、図3に例示される通り、25〜35度の広い範囲内に傾斜角区分のなだらかな最高ピークが現れるのに対して、前記加熱処理核Al2O3薄膜上に形成された蒸着α型Al2O3層は、図2に例示される通り、12〜22度の範囲内の狭い範囲に傾斜角区分の最高ピークが現れるポールプロットグラフを示し、この結果のポールプロットグラフで12〜22度の範囲内に傾斜角区分の最高ピークが現れる蒸着α型Al2O3層を硬質被覆層の上部層として、下部層のすぐれた高温強度を有するTi化合物層および表面層のすぐれた潤滑性を有するCrN層と共存した状態で蒸着形成してなる被覆サーメット工具は、上記の従来被覆サーメット工具に比して、特に高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する、という研究結果を得たのである。
工具基体の表面に、硬質被覆層としてのα型Al2O3層を蒸着形成するに際して、例えばこれの蒸着形成に先だって、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:3〜10%、CO2:0.5〜3%、C2H4:0.01〜0.3%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜900℃、
反応雰囲気圧力:3〜13kPa、
の低温条件で、下部層であるTi化合物層の表面に核Al2O3を形成し、この場合前記核Al2O3は0.02〜0.2μmの平均層厚を有する核Al2O3薄膜であるのが望ましく(以下、核Al2O3薄膜という)、引き続いて、反応雰囲気を圧力:3〜13kPaのAr雰囲気に変え、反応雰囲気温度を930〜1050℃に昇温した条件で前記核Al2O3薄膜に加熱処理を施した状態で、硬質被覆層としてのα型Al2O3層を通常の条件で蒸着形成すると、この結果の前記加熱処理核Al2O3薄膜上に蒸着形成されたα型Al2O3層は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1に概略図で示される通り、工具基体表面と平行な表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の前記表面研磨面の法線に対する傾斜角を測定し、前記個々の結晶粒が示す0〜45度の範囲内の測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分し、各区分内に存在する測定傾斜角を区分毎に集計してなるポールプロットグラフを作成した場合、前記従来蒸着α型Al2O3層は、図3に例示される通り、25〜35度の広い範囲内に傾斜角区分のなだらかな最高ピークが現れるのに対して、前記加熱処理核Al2O3薄膜上に形成された蒸着α型Al2O3層は、図2に例示される通り、12〜22度の範囲内の狭い範囲に傾斜角区分の最高ピークが現れるポールプロットグラフを示し、この結果のポールプロットグラフで12〜22度の範囲内に傾斜角区分の最高ピークが現れる蒸着α型Al2O3層を硬質被覆層の上部層として、下部層のすぐれた高温強度を有するTi化合物層および表面層のすぐれた潤滑性を有するCrN層と共存した状態で蒸着形成してなる被覆サーメット工具は、上記の従来被覆サーメット工具に比して、特に高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する、という研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面と平行な表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の前記表面研磨面の法線に対する傾斜角を測定し、前記個々の結晶粒が示す0〜45度の範囲内の測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分し、各区分内に存在する測定傾斜角を区分毎に集計してなるポールプロットグラフで、12〜22度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れるポールプロットグラフを示すα型Al2O3層、
(c)表面層が、蒸着形成され、かつ0.5〜3μmの平均層厚を有するCrN層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる、硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)下部層が、いずれも蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面と平行な表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の前記表面研磨面の法線に対する傾斜角を測定し、前記個々の結晶粒が示す0〜45度の範囲内の測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分し、各区分内に存在する測定傾斜角を区分毎に集計してなるポールプロットグラフで、12〜22度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れるポールプロットグラフを示すα型Al2O3層、
(c)表面層が、蒸着形成され、かつ0.5〜3μmの平均層厚を有するCrN層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる、硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
なお、上記のこの発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層である下部層のTi化合物層は、化学蒸着形成しても、あるいは、上記の縦長成長結晶組織を有するTiCN層(以下、l−TiCN層で示す)を除いて、例えば物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置にて、カソード電極(蒸発源)として金属Tiを用い、反応雰囲気を、例えばメタン分解ガス、窒素ガス、あるいはメタン分解ガスと窒素ガスの混合ガス、さらにメタン分解ガスと酸素ガスの混合ガスや、メタン分解ガスと窒素ガスと酸素ガスの混合ガスの雰囲気として蒸着形成してもよく、また、同じく表面層CrN層についても、その形成を化学蒸着によっても、あるいは、例えば上記のアークイオンプレーティング装置にて、カソード電極(蒸発源)として金属Crを用い、反応雰囲気を窒素ガス雰囲気とすることにより形成してもよい。
以下に、この発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層の平均層厚を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)下部層のTi化合物層
Ti化合物層は、α型Al2O3層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層が高温強度をもつようになるほか、工具基体とα型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有するが、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その平均層厚を3〜20μmと定めた。
(a)下部層のTi化合物層
Ti化合物層は、α型Al2O3層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層が高温強度をもつようになるほか、工具基体とα型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有するが、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その平均層厚を3〜20μmと定めた。
(b)上部層のα型Al2O3層
上記のポールプロットグラフで、12〜22度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークを示すα型Al2O3層は、Al2O3自体のもつ高硬度とすぐれた耐熱性に加えて、さらに高熱発生を伴なう高速切削で、上記の従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するα型Al2O3層に比して、一段とすぐれた耐摩耗性を発揮するが、その平均層厚が1μm未満では、所望のすぐれた耐摩耗性を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
また、核Al2O3薄膜に関し、上記の通り、従来被覆サーメット工具のα型Al2O3層がポールプロットグラフで示す傾斜角区分の最高ピークが25〜35度であるものを、加熱処理核Al2O3薄膜の作用で、α型Al2O3層のポールプロットグラフで現れる傾斜角区分の最高ピークを12〜22度とするものであり、この結果すぐれた耐摩耗性を発揮するようになるが、その平均層厚が0.02μm未満では前記加熱処理核Al2O3薄膜の作用を十分に発揮させることができず、一方前記加熱処理核Al2O3薄膜の作用は平均層厚で0.2μmまでで十分であることから、前記α型Al2O3層の蒸着形成に先だって、同じく硬質被覆層を構成するTi化合物層上に形成される核Al2O3薄膜の望ましい平均層厚を0.02〜0.2μmとしたものである。
上記のポールプロットグラフで、12〜22度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークを示すα型Al2O3層は、Al2O3自体のもつ高硬度とすぐれた耐熱性に加えて、さらに高熱発生を伴なう高速切削で、上記の従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するα型Al2O3層に比して、一段とすぐれた耐摩耗性を発揮するが、その平均層厚が1μm未満では、所望のすぐれた耐摩耗性を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
また、核Al2O3薄膜に関し、上記の通り、従来被覆サーメット工具のα型Al2O3層がポールプロットグラフで示す傾斜角区分の最高ピークが25〜35度であるものを、加熱処理核Al2O3薄膜の作用で、α型Al2O3層のポールプロットグラフで現れる傾斜角区分の最高ピークを12〜22度とするものであり、この結果すぐれた耐摩耗性を発揮するようになるが、その平均層厚が0.02μm未満では前記加熱処理核Al2O3薄膜の作用を十分に発揮させることができず、一方前記加熱処理核Al2O3薄膜の作用は平均層厚で0.2μmまでで十分であることから、前記α型Al2O3層の蒸着形成に先だって、同じく硬質被覆層を構成するTi化合物層上に形成される核Al2O3薄膜の望ましい平均層厚を0.02〜0.2μmとしたものである。
(c)CrN層
CrN層には、被削材と切刃面との間に介在して、これら両者間の潤滑性を向上させ、もって耐チッピング性向上に寄与する作用を有するが、その平均層厚が0.5μm未満では、前記作用に所望の向上効果が得られず、一方前記作用は3μmまでの平均層厚で十分であることから、その平均層厚を0.5〜3μmと定めた。
CrN層には、被削材と切刃面との間に介在して、これら両者間の潤滑性を向上させ、もって耐チッピング性向上に寄与する作用を有するが、その平均層厚が0.5μm未満では、前記作用に所望の向上効果が得られず、一方前記作用は3μmまでの平均層厚で十分であることから、その平均層厚を0.5〜3μmと定めた。
さらに、切削工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、必要に応じて硬質被覆層の最表面層として蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよく、これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由からである。
この発明被覆サーメット工具は、高い発熱を伴なう各種の鋼や鋳鉄などの高速切削でも、硬質被覆層の上部層を構成するα型Al2O3層が、Al2O3自身のもつすぐれた高温硬さと耐熱性による耐摩耗性に加えて、さらに一段と向上したすぐれた耐摩耗性を発揮することから、使用寿命の一層の延命化を可能とするものである。
つぎに、この発明の被覆サーメット工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 C2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
ついで、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fのそれぞれを、核Al2O3薄膜層厚測定用試験片と共に、通常の化学蒸着装置に装入し、まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、ついで、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6.5%、CO2:1.6%、C2H4:0.13%、H2:残り、
反応雰囲気温度:820℃、
反応雰囲気圧力:8kPa、
の低温条件で表4に示される目標層厚の核Al2O3薄膜を形成した後、反応雰囲気を圧力:8kPaのAr雰囲気に変え、反応雰囲気温度を1000℃に昇温した条件で前記核Al2O3薄膜に加熱処理を施して加熱処理核Al2O3薄膜とし、この時点で前記試験片を装置から取り出し、引続いて、同じく表3に示される条件で、同じく表4に示される目標層厚のα型Al2O3層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成し、さらに同じく表3に示される条件にて、同表面層として、CrN層を表5に示される目標層厚で蒸着形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6.5%、CO2:1.6%、C2H4:0.13%、H2:残り、
反応雰囲気温度:820℃、
反応雰囲気圧力:8kPa、
の低温条件で表4に示される目標層厚の核Al2O3薄膜を形成した後、反応雰囲気を圧力:8kPaのAr雰囲気に変え、反応雰囲気温度を1000℃に昇温した条件で前記核Al2O3薄膜に加熱処理を施して加熱処理核Al2O3薄膜とし、この時点で前記試験片を装置から取り出し、引続いて、同じく表3に示される条件で、同じく表4に示される目標層厚のα型Al2O3層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成し、さらに同じく表3に示される条件にて、同表面層として、CrN層を表5に示される目標層厚で蒸着形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、表5に示される通り、硬質被覆層のα型Al2O3層を形成するに先だって、上記の加熱処理核Al2O3薄膜の形成を行なわない以外は同一の条件で従来被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上記の本発明被覆サーメット工具と従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するα型Al2O3層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、ポールプロットグラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記ポールプロットグラフは、上記のα型Al2O3層の表面を上記工具基体の表面と平行な研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の前記表面研磨面の法線に対する傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記個々の結晶粒が示す0〜45度の範囲内の測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分し、各区分内に存在する測定傾斜角を区分毎に集計することにより作成した。
この結果得られた各種のα型Al2O3層のポールプロットグラフにおいて、(0001)面が最高ピークを示す傾斜角区分をそれぞれ表4,5に示した。
なお、図2は、本発明被覆サーメット工具10のα型Al2O3層のポールプロットグラフ、図3は、従来被覆サーメット工具10のα型Al2O3層のポールプロットグラフをそれぞれ示すものである。
すなわち、上記ポールプロットグラフは、上記のα型Al2O3層の表面を上記工具基体の表面と平行な研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の前記表面研磨面の法線に対する傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記個々の結晶粒が示す0〜45度の範囲内の測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分し、各区分内に存在する測定傾斜角を区分毎に集計することにより作成した。
この結果得られた各種のα型Al2O3層のポールプロットグラフにおいて、(0001)面が最高ピークを示す傾斜角区分をそれぞれ表4,5に示した。
なお、図2は、本発明被覆サーメット工具10のα型Al2O3層のポールプロットグラフ、図3は、従来被覆サーメット工具10のα型Al2O3層のポールプロットグラフをそれぞれ示すものである。
また、この結果得られた本発明被覆サーメット工具1〜13および従来被覆サーメット工具1〜13の硬質被覆層の構成層の厚さ、並びに上記の試験片の加熱処理核Al2O3薄膜の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の本発明被覆サーメット工具1〜13および従来被覆サーメット工具1〜13各種の被覆サーメット工具について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼の乾式高速連続切削試験(通常の切削速度は250m/min)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は250m/min)、さらに、
被削材:JIS・FC300の丸棒、
切削速度:550m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:4分、
の条件(切削条件Cという)での普通鋳鉄の乾式高速連続切削試験(通常の切削速度は250m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼の乾式高速連続切削試験(通常の切削速度は250m/min)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は250m/min)、さらに、
被削材:JIS・FC300の丸棒、
切削速度:550m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:4分、
の条件(切削条件Cという)での普通鋳鉄の乾式高速連続切削試験(通常の切削速度は250m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
表4〜6に示される結果から、本発明被覆サーメット工具1〜13は、いずれも硬質被覆層の上部層であるα型Al2O3層の(0001)面がポールプロットグラフで12〜22度の範囲内の傾斜角区分で最高ピークを示し、高い発熱を伴なう鋼や鋳鉄の高速切削で、前記α型Al2O3層がすぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、同α型Al2O3層が、前記ポールプロットグラフで25〜35度の範囲内の傾斜角区分で最高ピークを示す従来被覆サーメット工具1〜13においては、高速切削では前記α型Al2O3層の摩耗進行が速く、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に高速切削でもすぐれた耐摩耗性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも蒸着形成されたTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の表面と平行な表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の前記表面研磨面の法線に対する傾斜角を測定し、前記個々の結晶粒が示す0〜45度の範囲内の測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分し、各区分内に存在する測定傾斜角を区分毎に集計してなるポールプロットグラフで、12〜22度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れるポールプロットグラフを示す酸化アルミニウム層、
(c)表面層が、蒸着形成され、かつ0.5〜3μmの平均層厚を有する窒化クロム層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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---|---|---|---|
JP2004130671A JP2005313246A (ja) | 2004-04-27 | 2004-04-27 | 硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 |
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JP (1) | JP2005313246A (ja) |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2014087862A (ja) * | 2012-10-29 | 2014-05-15 | Mitsubishi Materials Corp | 硬質被覆層が高速断続切削加工ですぐれた耐剥離性、耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 |
WO2018092791A1 (ja) * | 2016-11-16 | 2018-05-24 | 京セラ株式会社 | 切削インサート及び切削工具 |
-
2004
- 2004-04-27 JP JP2004130671A patent/JP2005313246A/ja not_active Withdrawn
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