以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施形態に係る制御装置10を備える自動二輪車1の側面図である。図2は自動二輪車1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、自動二輪車1は、その前部に、前輪2と、前輪2を左右に操舵するためのハンドル3とを有している。ハンドル3にはアクセルグリップ3aが設けられている(図2参照)。アクセルグリップ3aには、アクセルグリップ3aの操作量(アクセル操作量)を検知するためのアクセルセンサ24が設けられている。
図2に示すように、自動二輪車1はエンジン4を有している。また、自動二輪車1は、エンジン4から駆動輪である後輪8に至るトルク伝達経路に、無段変速機(以下、CVT)5と、クラッチ6と、最終減速機構7とを有している。この例では、エンジン4の下流にCVT5が配置され、CVT5の下流にクラッチ6が配置されている。また、クラッチ6と後輪8との間に最終減速機構7が配置されている。クラッチ6は、例えば遠心クラッチである。
エンジン4は、シリンダや、シリンダ内に配置されるピストン、ピストンに連結されるクランクシャフトなどを有している。自動二輪車1はエンジン回転数を検知するためのエンジン回転数センサ21を有している。また、エンジン4は、その燃焼室に繋がる吸気通路に、エンジン4に供給する空気量を制御するスロットルバルブ及び吸気通路に向けて燃料を噴射するインジェクタを有している。インジェクタは、エンジンに供給する空気量に応じた量、すなわち、スロットルバルブの開度(以下スロットル開度)に応じた量の燃料を噴射する。自動二輪車1は、スロットル開度を検知するためのスロットル開度センサ22、及び、スロットルバルブの開度を制御するスロットルアクチュエータ23を有している。
CVT5は、クランクシャフトに連動する入力軸と、入力軸上に配置される駆動プーリと、出力軸と、出力軸上に配置される被駆動プーリと、駆動プーリと被駆動プーリとに掛け渡され、駆動プーリの回転(トルク)を被駆動プーリに伝えるベルトとを有している。自動二輪車1は、CVT5の変速比を制御するためのCVTアクチュエータ25を有している。CVTアクチュエータ25は、例えば、駆動プーリを構成する2つのシーブのうち一方を動かして、変速比を制御する。また、CVTアクチュエータ25は被駆動プーリを構成する2つのシーブのうち一方を動かして、変速比を制御してもよい。
図2に示すように、自動二輪車1は制御装置10を含んでいる。上述したセンサ21,22,24,26,27の出力信号は制御装置10に入力される。上述したアクチュエータ23,25は制御装置10の出力信号に応じて駆動する。制御装置10はセンサ21,22,24,26,27の出力に基づいて、エンジン4及びCVT5を制御する。本実施形態では特に、制御装置10はCVTアクチュエータ25を通してCVT5の変速比を制御する。また、制御装置10はスロットルアクチュエータ23を通してスロットル開度を制御する。
制御装置10は、まず、アクセルセンサ24で検知するアクセル操作量に基づいて目標とするエンジン回転数を算出する。そして、制御装置10は、その目標エンジン回転数に基づいて目標とする変速比(目標変速比)及び目標とするスロットル開度(目標スロットル開度)を算出する。制御装置10は、CVT5の実際の変速比、及び、実際のスロットル開度が、それぞれ目標変速比と目標スロットル開度になるように、アクチュエータ23,25を駆動する。制御装置10が実行する処理については、後において詳説する。
なお、この例の制御装置10は、図2に示すように、エンジン制御装置10aとCVT制御装置10bとを含んでいる。制御装置10a,10bのそれぞれは、記憶装置10cと、記憶装置10cに格納されたプログラムを実行するマイクロプロセッサを含んでいる。また、記憶装置10cには、エンジン4及びCVT5の制御に利用されるマップが格納されている。2つの制御装置10a,10bは互いに接続され、予め規定されたプロトコルにしたがって通信している。一方の制御装置10a,10bは、センサ21,22,24,26,27によって検知した自動二輪車1の動作状態についてのデータや、当該一方の制御装置10a,10bによる処理の結果を他方の制御装置10b、10aに通知する。この例では、エンジン回転数センサ21とスロットル開度センサ22とアクセルセンサ24の出力はエンジン制御装置10aに入力される。エンジン制御装置10aは、これらのセンサ21,22,24で検知した回転数やスロットル開度を、CVT制御装置10bに通知する。一方、出力軸回転センサ26と車速センサ27の出力はCVT制御装置10bに入力されている。CVT制御装置10bは、これらのセンサ26,27で検知した回転数及び車速、並びにCVT制御装置10bの処理の結果(例えば、後述する処理によって得られた目標エンジン回転数や目標変速比)を、エンジン制御装置10aに通知する。
制御装置10が実行する制御について説明する。図3は制御の概要を説明するための図である。同図で横軸はエンジン回転数であり、縦軸はエンジントルクである。同図には、エンジントルクとエンジン回転数との関係を表す2つのトルクカーブが描かれている。2つのトルクカーブは、スロットル開度がTh1でのトルクカーブと、スロットル開度がTh2でのトルクカーブである。また、同図において線Aは燃費が最良になる運転ポイントを示す曲線(以下、最良燃費曲線)である。
この例の制御装置10は3つの制御モードを有している。第1のモードは燃費モードであり、第2のモードは通常モードであり、第3のモードは快適運転モードである。
まず、燃費モードの概要を説明する。制御装置10は、まず、アクセルセンサ24によって検知したアクセル操作量に対応するスロットル開度(以下、基準スロットル開度)に基づいて、基準となる目標エンジン回転数(以下、基準目標エンジン回転数)を算出する。図3ではスロットル開度Th1がアクセル操作量に対応する基準スロットル開度であり、エンジン回転数N1は基準目標エンジン回転数である。燃費モードでは、制御装置10は、基準目標エンジン回転数N1よりも低い回転数を、最終的な目標エンジン回転数(以下、最終目標エンジン回転数)とする。具体的には、制御装置10は、基準目標エンジン回転数N1から、図3で示すエンジン回転数N3に近づけられたエンジン回転数N2を、最終目標エンジン回転数として設定する。ここでエンジン回転数N3は、運転ポイントP1(エンジン回転数N1,基準スロットル開度Th1)と同じエンジン出力(エンジントルク×エンジン回転数)を得ることができ、且つ、最良燃費曲線A上の運転ポイントP3のエンジン回転数である。図3において線L3は、運転ポイントP1と同じエンジン出力を得ることができる運転ポイントを示す等出力曲線である。
また、制御装置10は、最終目標エンジン回転数を基準目標エンジン回転数N1に対して下げる一方で、運転ポイントP1で得られる駆動力(例えば、後輪8のトルク)は維持されるように、目標スロットル開度を設定する。すなわち、制御装置10は、運転ポイントP1と等しい駆動力を得ることができ、且つ、エンジン回転数が最終目標エンジン回転数N2となる運転ポイントP2でのスロットル開度Th2を目標スロットル開度として設定する。なお、後輪8のトルクはエンジン出力に比例する。そのため、運転ポイントP2は等出力曲線L3上の運転ポイントとなる。以上が燃費モードの概要である。
通常モードの概要を説明する。制御装置10は、基準スロットル開度Th1に基づいて基準となる目標エンジン回転数N1を算出する。通常モードでは、制御装置10は、この目標エンジン回転数N1を最終目標エンジン回転数とする。制御装置10は、目標エンジン回転数N1から目標変速比を算出する。また、制御装置10は基準スロットル開度Th1を目標スロットル開度とする。
快適運転モードの概要を説明する。制御装置10は基準スロットル開度Th1に基づいて基準となる目標エンジン回転数N1を算出する。快適運転モードでは、この目標エンジン回転数N1を最終目標エンジン回転数とし、目標エンジン回転数N1から目標変速比を算出する。制御装置10は、基準スロットル開度Th1と目標エンジン回転数N1とに基づいて、車両の駆動力(例えば、後輪8のトルク、以下後輪トルク)について目標値(以下では、基準駆動輪トルク目標値)を算出する。運転者の加速要求が予め設定した補正条件を満している状態では、制御装置10は基準駆動輪トルク目標値に対してフィルタを施し、その結果を最終的な駆動輪トルク目標値(以下において最終駆動輪トルク目標値)とする。このフィルタは、最終駆動輪トルク目標値が基準駆動輪トルク目標値に比して緩やかに変化するように設定されている。制御装置10は最終駆動輪トルク目標値から目標スロットル開度を算出する。
図4は最終駆動輪トルク目標値の時間的変化を説明するためのタイムチャートである。同図の時間t1はアクセル操作量が増大し、運転者の加速要求が予め設定した補正条件を満たした時点である。時間t3はアクセル操作量が低減し、加速要求が予め設定した補正条件を満たさなくなった時点である。同図に示すように、基準駆動輪トルク目標値は、アクセル操作量の増大に起因して時間t1で急激に上昇し、その後、緩やかに下がっている。これに対し、最終駆動輪トルク目標値は、基準駆動輪トルク目標値のピーク値Tp1よりも高い値Tp2まで緩やかに上昇している。その後、最終駆動輪トルク目標値は、基準駆動輪トルク目標値よりも緩やかに下降している。制御装置10は、快適運転モードでは、最終駆動輪トルク目標値がこのように変化するように、基準スロットル開度Th1から目標スロットル開度を算出する。以上が快適運転モードの概要である。
図5は制御装置10の機能を示すブロック図である。なお、各ブロックで示す処理は、エンジン制御装置10aとCVT制御装置10bのいずれで実行されてもよい。
制御装置10は制御モード選択部19を含んでいる。制御モード選択部19は、制御装置10が実行するべき制御モードを、上述の3つのモードから選択する。この選択は種々の方法により可能である。例えば、ハンドル3に、運転者によって操作されるモード選択用のスイッチを設ける。制御モード選択部19はスイッチから受ける信号に基づいて、制御モードを選択する。
また、制御モード選択部19は車両の運転状態に基づいて制御モードを選択してもよい。例えば、定速走行が所定時間以上継続する場合や、単位時間当りのアクセル操作量の変化の頻度が第1の閾値よりも少ない場合、制御モード選択部19は燃費モードを選択する。また、アクセル操作量の変化の頻度が第2の閾値よりも多い場合や、アクセル操作量が閾値よりも大きい場合に、制御モード選択部19は快適運転モードを選択する。また、制御モード選択部19は車両の運転状態が、燃費モードの選択条件と快適運転モードの選択条件のいずれにも該当しない場合に通常モードを選択する。
目標変速比を算出するための処理について説明する。制御装置10はその機能として、目標エンジン回転数算出部11と、目標変速比算出部13とを有している。目標エンジン回転数算出部11は、基準回転数算出部11Aと、回転数補正部11Bとを含んでいる。制御装置10は、これらの機能部11A,11B,13の一連の処理を、予め規定された周期で繰り返し実行する。
基準回転数算出部11Aはアクセルセンサ24によって検知したアクセル操作量に基づいて、上述した基準目標エンジン回転数(図3のN1)を算出する。具体的には、基準回転数算出部11Aは、次の処理により基準目標エンジン回転数を算出する。
ここで、基準目標エンジン回転数とは、アクセル操作量に関する情報及び車速に関する情報から一義的に換算されるエンジン4の回転数、すなわち、CVT5の入力軸の回転数の目標値であって、後述する回転数補正部11Bによる補正がなされていないものを指している。なお、アクセル操作量に関する情報とは、適当な換算によりアクセル操作量と一対一に対応する情報を指し、車速に関する情報とは、CVTの出力軸以降の部材(車軸や最終減速ギア等)の回転数の情報を指す。例えば、後輪8の回転数は、後輪8の周長を乗じることにより車速に換算されるため、車速に関する情報である。或いは、CVT5の出力軸の回転数(被駆動プーリの回転数に等しい)は、クラッチ6が接続された状態では、最終減速比と後輪8の周長を乗じることにより車速に換算されるため、車速に関する情報である。本実施形態では、アクセル操作量に関する情報及び車速に関する情報としてそれぞれアクセル操作量及び車速を用いているが、これ以外の情報を用いるようにしてもよい。
記憶装置10cには、アクセル操作量とエンジン回転数とを関係付けるマップ(以下、エンジン回転数マップ)が格納されている。基準回転数算出部11Aはエンジン回転数マップを参照し、アクセルセンサ24によって検知したアクセル操作量に応じたエンジン回転数を算出し、当該エンジン回転数を基準目標エンジン回転数とする。
図6はエンジン回転数マップの例を示す図である。この例のエンジン回転数マップでは、車速と、アクセル操作量と、エンジン回転数とが対応付けられている。同図では横軸が車速であり、縦軸がエンジン回転数である。また、複数のアクセル操作量(図6(a)ではAc1〜Ac3、Ac1>Ac2>Ac3)について、車速とエンジン回転数との関係を示す線が示されている。任意の運転ポイントを通る直線(例えば、直線L6a)の傾きは、エンジン4から後輪8に至るトルク伝達経路のトータルの減速比となる。最も傾きの大きい直線Llowは変速比がLOW(最大減速比)に設定されている状態での車速とエンジン回転数との関係を示している。最も傾きの小さい直線Lhighは変速比がHIGH(最小減速比)に設定されている状態での車速とエンジン回転数との関係を示している。図6の例では、アクセル操作量を一定とした場合、エンジン回転数は、低速運転領域(線Llow上の運転ポイント)及び高速運転領域(線Lhigh上の運転ポイント)では、車速に比例して上昇する。また、中速運転領域(直線Llowと直線Lhighとの間の運転ポイント)では、低速運転領域及び高速運転領域に比して、車速に対するエンジン回転数の変化率は低くなっている。また、車速が一定の場合、中速運転領域においては、アクセル操作量が大きくなるに従ってエンジン回転数は高くなっている。
基準回転数算出部11Aはエンジン回転数マップを参照して、アクセルセンサ24によって検知されたアクセル操作量と車速センサ27によって検知された車速とに対応するエンジン回転数を算出し、このエンジン回転数を基準目標エンジン回転数とする。
なお、エンジン回転数マップは、スロットル開度と、車速と、エンジン回転数とを対応付けてもよい。この場合、記憶装置10cには、スロットル開度とアクセル操作量とを対応付けるマップや関係式が予め格納される。基準回転数算出部11Aは、このマップや関係式を利用して、アクセルセンサ24によって検知されたアクセル操作量に対応するスロットル開度を算出する。そして、基準回転数算出部11Aはエンジン回転数マップを参照し、算出したスロットル開度と車速とに対応するエンジン回転数を算出し、このエンジン回転数を基準目標エンジン回転数とする。
基準回転数算出部11Aはフィルタ処理を実行してもよい。例えば、基準回転数算出部11Aはローパスフィルタを含み、エンジン回転数マップから算出したエンジン回転数にフィルタ処理を施し、得られた値を基準目標エンジン回転数としてもよい。
基準回転数算出部11Aは、燃費効率が最良になるエンジン回転数よりも高いエンジン回転数を基準目標エンジン回転数として算出する。すなわち、基準目標エンジン回転数は、検知したアクセル操作量に対応する基準スロットル開度で燃費効率が最良になるエンジン回転数(最良燃費エンジン回転数)よりも高い。図3を参照すると、基準目標エンジン回転数N1は、基準スロットル開度Th1で燃費が最良になるエンジン回転数N4よりも高い(エンジン回転数N4は最良燃費曲線A上の運転ポイントでの回転数である)。エンジン回転数マップのエンジン回転数は、このような基準目標エンジン回転数が算出されるように、アクセル操作量に対応付けられている。基準エンジン回転数をこのように設定することで、スロットル開度を最大にしたときに得られるエンジン出力が高くなる。そのため、自動二輪車1の加速応答性を向上できる。
なお、最良燃費エンジン回転数よりも高い基準目標エンジン回転数は、必ずしも全ての運転ポイントで算出されなくてもよい。例えば、アクセル操作量が比較的に大きく(例えば、最大)、且つ車速が低い運転状態では、基準目標エンジン回転数は最良燃費エンジン回転数よりも低くてもよい。こうすることで、自動二輪車1の加速応答性を向上できる。つまり、エンジン回転数が上昇する過程では、エンジントルクの一部はエンジン回転数を上昇させる慣性トルクとして消費されている。エンジン回転数マップにおいて、最良燃費エンジン回転数よりも基準目標エンジン回転数を大きなアクセル操作量に対して対応付けておくことで、運転者が走行中にアクセル操作量を増大したときに、エンジントルクが慣性トルクとして消費されることを抑えることができる。その結果、自動二輪車1の加速応答性を向上できる。
なお、基準回転数算出部11Aは車両の運転状態によっては基準目標エンジン回転数を補正してもよい。例えば、基準回転数算出部11Aは、例えばアクセル操作量が急激に増大し、その変化速度が閾値を超えた場合に、基準目標エンジン回転数を上昇させてもよい。
回転数補正部11Bは、燃費モードが選択されている場合に、基準目標エンジン回転数を補正し、当該補正した回転数を上述の最終目標エンジン回転数として算出する。具体的には、回転数補正部11Bは、基準目標エンジン回転数よりも最良燃費エンジン回転数(図3のN3)に近いエンジン回転数(図3のN2)を最終目標エンジン回転数として算出する。換言すると、回転数補正部11Bは、目標エンジン回転数を基準目標エンジン回転数から最良燃費エンジン回転数に近づけ、その結果得られた目標エンジン回転数を最終目標エンジン回転数とする。なお、回転数補正部11Bは、燃費モードが選択されていない場合には、補正を行うことなく、基準目標エンジン回転数を最終目標エンジン回転数として出力する。
回転数補正部11Bの処理は、例えば次のように実行される。回転数補正部11Bはアクセル操作量、車速、アクセル操作量の微分値であるアクセル操作量変化速度及び加速度から選ばれる少なくとも1以上のパラメータに基づいて運転状態値を算出し、運転状態値に基づいて目標エンジン回転数についての補正量を算出する。そして、回転数補正部11Bは、基準目標エンジン回転数に対して補正量を加算或いは減算し、その演算結果を最終目標エンジン回転数とする。運転状態値は、運転状態の安定度合いを表す値である。例えば、安定度合いが高くなるほど、すなわち加速或いは減速が生じる可能性が小さいほど、運転状態値は高くなる。
図7は、運転状態値と補正量との関係の例を示す図である。記憶装置10cには、図7に示す関係を数値化したデータ(例えば、マップや演算式)が格納されている。同図に示すように、例えば運転状態値が小さい場合では、すなわち運転状態の安定度合いが小さい場合には、補正値は0とされ、基準目標エンジン回転数を最良燃費エンジン回転数に近づける補正は制限される。運転状態値が閾値であるDthを超えると、運転状態値に応じて補正値は徐々に増大する。図7に示す例では、補正量は運転状態値に比例している。運転状態値と補正量との関係は適宜変更されてよい。例えば補正量は運転状態値に応じて増大するように、補正量と運転状態値は任意の曲線で表されてもよい。また、補正量は運転状態値に応じて階段状に増加してもよい。また、補正量自体に上限が設定されてもよい。
回転数補正部11Bは、例えば次のようにして、運転状態値を算出する。回転数補正部11Bは、アクセル操作量と車速とに基づいて第1負荷状態値を算出する。また、回転数補正部11Bは、アクセル操作量の変化速度に基づいて第2負荷状態値を算出する。さらに回転数補正部11Bは、車速と車両の加速度とに基づいて第3負荷状態値を算出する。回転数補正部11Bは、これら負荷状態値の全て或いは一部を使用して、運転状態値を算出する。各負荷状態値は、エンジン4にかかっている負荷とそれが変化する可能性とを総合的に評価する値であり、運転状態値と同様に、運転状態の安定度合いを示す。例えば、負荷状態値が大きいほど車両の運転状態は安定しており、加速指示等による変化が生じにくい。また、負荷状態値が小さいほど車両の運転状態が変化する可能性が高く、加速又は減速が頻繁に起こると予期される。
図8(a)は、アクセル操作量と車速と第1負荷状態値とを対応付けるマップの例である。同図において、実線は第1負荷状態値の等高線を示している。このマップでは、運転状態が安定していると推測される運転領域(例えば、車速とアクセル操作量の双方が中程度の領域)では、第1負荷状態値は高く設定されている。回転数補正部11Bは、例えばこのマップを参照し、センサの出力に基づいて検知されたアクセル操作量と車速とから第1負荷状態値を算出する。
図8(b)は、アクセル操作量の変化速度と第2負荷状態値とを対応付けるマップの例である。このマップにおいても、運転状態が安定していると推測される運転領域、すなわちアクセル操作量の変化速度が小さい運転領域では、第2負荷状態値は高く設定されている。回転数補正部11Bはアクセル操作量の変化速度を算出し、その後、このマップを参照して、算出したアクセル操作量の変化速度に対応する第2負荷状態値を算出する。
図8(c)は、車速と車両の加速度と第3負荷状態値とを対応付けるマップの例である。この図において、実線は第3負荷状態値L3の等高線を示している。このマップにおいても、運転状態が安定していると推測される運転領域、具体的には、車速が中程度で加速度が小さい運転領域では、第3負荷状態値は高く設定されている。回転数補正部11Bは、このマップを参照し、センサの出力に基づいて検知された車速と、車速から算出された加速度とに対応する第3負荷状態値を算出する。
そして、回転数補正部11Bは、運転状態値の算出に使用する負荷状態値を選択する。例えば、回転数補正部11Bは、上述の全ての負荷状態値の符号が一致する場合には、全ての負荷状態値を使用して運転状態値を算出する。一方、全ての負荷状態値の符号が一致しない場合には、回転数補正部11Bはいずれの負荷状態値も使用せず、今回の処理では運転状態値を算出しない。すなわち、回転数補正部11Bは前回の処理で得られた運転状態値を更新しない。
また、回転数補正部11Bは、第1負荷状態値、第2負荷状態値及び第3負荷状態値のうち符号が一致する2つ又は3つを選択し、選択した負荷状態値を使用して運転状態値を算出してもよい。
その後、回転数補正部11Bは、選択した負荷状態値に基づいて運転状態値を算出する。具体的には、回転数補正部11Bは、選択した負荷状態値と前回の処理で得られた運転状態値とに基づいて、運転状態値を算出する。例えば、回転数補正部11Bは選択した負荷状態値の積を算出し、その積を前回の処理で得られた運転状態値に加算し、その加算の結果を新たな運転状態値とする。また、回転数補正部11Bは選択した負荷状態値の和を算出し、その和を前回の処理で得られた運転状態値に加算し、その加算の結果を新たな運転状態値としてもよい。また、回転数補正部11Bは選択した負荷状態値の平均値又は中央値を算出し、その平均値又は中央値を前回の処理で得られた運転状態値に加算し、その加算の結果を新たな運転状態値としてもよい。なお、運転状態値が過剰に大きくなる場合、例えば定常走行が長時間継続する場合には、回転数補正部11Bは運転状態値を更新することなく、予め設定した運転状態値を算出してもよい。
回転数補正部11Bは、このようにして算出した運転状態値に基づいて、基準目標エンジン回転数に対する補正量を算出する。例えば、回転数補正部11Bは図7において例示した上述のマップや演算式を使用して、運転状態値から補正量を算出する。そして、回転数補正部11Bは基準目標エンジン回転数から補正量を減算し、その結果を最終目標エンジン回転数とする。なお、補正量の急激な変動を抑えるために、運転状態値だけでなく、過去の処理で得られた補正量にさらに基づいて算出されてもよい。例えば、回転数補正部11Bは予め定めた期間内に算出された補正量の平均値を、今回の処理で得られる補正量としてもよい。回転数補正部11Bは、補正量についてフィルタ処理を実行して、その結果を今回の処理で得られた補正量としてもよい。
なお、回転数補正部11Bは基準目標エンジン回転数から補正量を減算し、その結果得られた値が最良燃費エンジン回転数(すなわち、図3のN3)を下回る場合には、この最良燃費エンジン回転数を最終目標エンジン回転数とする。また、回転数補正部11Bは、基準目標エンジン回転数から補正量を減算した値が、現在の車速により定まるエンジン回転数の下限値より小さい場合には、その下限値を最終目標エンジン回転数とする。エンジン回転数の下限値は、車速と、最小変速比(CVT5がHIGHに設定されている状態での変速比)とにより定まる値である。また、基準目標エンジン回転数が、最良燃費エンジン回転数より低い場合、例えば、基準目標エンジン回転数が図3に示すエンジン回転数N3より低い場合には、回転数補正部11Bはこれまで説明した補正を実行することなく、基準目標エンジン回転数を最終目標エンジン回転数としてもよい。
回転数補正部11Bによる補正は以上説明したものに限られない。例えば、回転数補正部11Bは予め定められた値に運転状態値を乗じ、その結果を補正量としてもよい。また、ライダーが燃費の良さの度合いを入力するための入力装置を車両に設置し、その入力装置から得られた情報(値)に基づいて最良燃費エンジン回転数と基準目標エンジン回転数とを案分し、その結果を最終目標エンジン回転数としてもよい。
目標変速比算出部13は、実際のエンジン回転数が最終目標エンジン回転数になるように目標変速比を算出する。すなわち、目標変速比算出部13は、最終目標エンジン回転数とCVT5より下流側の機構の回転数とに基づいて目標変速比を算出する。この例の目標変速比算出部13は、最終目標エンジン回転数と、車速センサ27によって検知した車速とに基づいて目標変速比を算出する。例えば、目標変速比算出部13は、最終目標エンジン回転数を車速で除した値と、最終減速機構7の減速比とに基づいて目標変速比を算出する。最終目標エンジン回転数を車速で除した値と、最終減速機構7の減速比とに基づいて得られる変速比が、CVT5の変速比の上限(LOW)又は下限(HIGH)を越える場合には、目標変速比算出部13はその上限または下限を目標変速比とする。
目標スロットル開度を算出するための処理について説明する。図5に示すように、制御装置10は、その機能として、角度換算部14と、駆動力目標算出部15と、目標スロットル開度算出部18とを含んでいる。駆動力目標算出部15は、基準エンジントルク目標算出部15Aと、換算部15Bと、駆動力目標補正部15Cと、逆換算部15Dとを含んでいる。制御装置10は、これらの機能部14,15A,15B,15C,18で実行される一連の処理を、予め設定された周期で繰り返し実行する。
記憶装置10cにはアクセル操作量をスロットル開度に変換するためのマップや関係式が格納されている。このマップや関係式で規定されるスロットル開度はアクセル操作量との間に一対一対応の関係を有している。例えば、スロットル開度はアクセル操作量に比例する。角度換算部14は、この関係式やマップを参照し、アクセルセンサ24で検知したアクセル操作量をスロットル開度に換算し、その結果得られたスロットル開度を基準スロットル開度とする。
駆動力目標算出部15は、基準目標エンジン回転数に基づいて、車両の駆動力に関する目標値を算出する。本実施形態で、車両の駆動力に関する目標値は、エンジントルクに関する目標値(以下、エンジントルク目標値)と、駆動輪(後輪8)のトルクに関する目標値(駆動輪トルク目標値)である。エンジントルク目標値は、具体的には、目標とするエンジントルクや、目標とするエンジン出力である。また、駆動輪トルク目標値は、具体的には、目標とする後輪トルクや、目標とする後輪仕事率(後輪トルク×後輪8の回転速度)である。目標スロットル開度算出部18は、これらの目標値に基づいて、目標スロットル開度を算出する。ここでは、目標とするエンジントルクがエンジントルク目標値であり、目標とする後輪トルクが駆動輪トルク目標値である例について説明する。
基準エンジントルク目標算出部15Aは、基準目標エンジン回転数に基づいて、エンジントルク目標値を算出する(以下では、この目標値を基準エンジントルク目標値と称する)。基準エンジントルク目標算出部15Aは、例えば次の処理により、基準エンジントルク目標値を算出する。
記憶装置10cには、エンジン4の出力特性により規定される第1出力特性情報が予め格納されている。第1出力特性情報は、例えば、スロットル開度とエンジン回転数とエンジントルクとの関係を表す情報である。ここで説明する例では、記憶装置10cには、スロットル開度とエンジン回転数とエンジントルクとを互いに対応付けるマップが格納されている(以下、このマップを第1エンジントルクマップと称する)。基準エンジントルク目標算出部15Aは第1エンジントルクマップを参照し、角度換算部14によって得られた基準スロットル開度と、基準目標エンジン回転数とに対応するエンジントルクを算出し、当該エンジントルクを基準エンジントルク目標値とする。
なお、エンジントルク目標値が目標とするエンジン出力である場合、第1出力特性情報は、スロットル開度とエンジン回転数とエンジン出力とを互いに対応付けるマップや関係式でもよい。また、記憶装置10cには、第1出力特性情報として、アクセル操作量とエンジン回転数とエンジントルクとの関係を表す関係式やマップが格納されてもよい。この場合、基準エンジントルク目標算出部15Aは第1出力特性情報を参照し、アクセルセンサ24によって検知されたアクセル操作量と、基準目標エンジン回転数とに対応するエンジントルクを算出し、当該エンジントルクを基準エンジントルク目標値とする。
図9は第1エンジントルクマップの例を示す図である。同図では、横軸はエンジン回転数であり、縦軸はエンジントルクである。また、この図では、スロットル開度Th1〜Th4について、エンジン回転数とエンジントルクとの関係を示すトルクカーブが例示されている。基準エンジントルク目標算出部15Aはこのような第1エンジントルクマップを参照し、基準スロットル開度と基準目標エンジン回転数とに対応する基準エンジントルク目標値を算出する。
なお、この例の第1エンジントルクマップに設定されるアクセル操作量とエンジン回転数とエンジントルクは、エンジン4の実際の出力特性による値である。第1エンジントルクマップに設定されるスロットル開度、エンジン回転数及びエンジントルクは、エンジン4の実際の出力特性から部分的に外れてもよい。具体的には、第1エンジントルクマップに設定されるスロットル開度、エンジン回転数及びエンジントルクには、自動二輪車1の乗車感或いは加速性能にとって好ましい値が設定されてもよい。この形態については、後において説明する。
換算部15Bは、基準目標エンジン回転数に基づいて、基準エンジントルク目標値を、後輪トルクに関する目標値である上述の駆動輪トルク目標値に換算する(以下において換算部15Bが算出する駆動輪トルク目標値を基準駆動輪トルク目標値とする)。換言すると、この例の換算部15Bは、目標とするエンジントルクを、目標とする後輪トルクに変換する。エンジン4から後輪8に伝達されるトルクには、エンジン4が出力するトルクの他に、エンジン回転数の変化により生じるエンジン4の慣性トルクが含まれる。また、エンジン4が出力するトルクは、CVT5のベルトとプーリとの摩擦やベルトの曲げに要するトルクにより減殺されて、後輪8に伝えられる。換算部15Bは、このようなトルクの加算や損失等を加味して、基準エンジントルク目標値から基準駆動輪トルク目標値を算出する。
図10は換算部15Bの機能を示すブロック図である。この図に示すように、換算部15Bは、その機能として、慣性トルク算出部15aと、CVT損失算出部15bと、変速比算出部15cと、を含んでいる。
慣性トルク算出部15aはエンジン回転数の変化により生じるエンジン4の慣性トルクを算出する。この例の慣性トルク算出部15aは、基準目標エンジン回転数に基づいて慣性トルクを算出する。具体的には、慣性トルク算出部15aは、基準目標エンジン回転数の変化速度と、CVT5よりも上流側の機構(エンジン4のクランクシャフトやピストン)の慣性モーメントとに基づいて、慣性トルクを算出する(慣性トルク=慣性モーメント×基準目標エンジン回転数の変化速度)。なお、慣性トルクの算出方法はこれに限られない。例えば、慣性トルク算出部15aは変速比の変化速度に基づいて慣性トルクを算出してもよい。変速比の変化速度を利用する例では、慣性トルク算出部15aは、例えば、基準目標エンジン回転数と車速とに基づいて変速比を算出し、その変速比の変化速度と、車両の加速度と上述の慣性モーメントとに基づいて、慣性トルクを算出する。
CVT損失算出部15bは、CVT5において失われるトルクを算出する(このトルクをCVT損失と称する)。CVT損失算出部15bは、例えば、基準目標エンジン回転数と、出力軸回転数センサ26によって検知される出力軸の回転数と、CVT5を通して伝達されるトルク(エンジン4が出力するトルク)とに基づいて、CVT損失を算出する。
変速比算出部15cはCVT5の変速比を算出する。この例の変速比算出部15cは基準目標エンジン回転数に基づいて、CVT5の変速比を算出する。例えば、変速比算出部15cは、車速センサ27によって検知した車速と、最終減速機構7の減速比(以下、最終減速比)と、基準目標エンジン回転数とに基づいて、変速比を算出する(例えば、変速比=後輪8の車軸の回転速度×最終減速比/基準目標エンジン回転数)。この演算により算出される値が、CVT5の変速比の上限(LOW)又は下限(HIGH)を越える場合には、換算部15Bは、この上限又は下限を、後述する処理において利用する。
図10に示すように、この例の換算部15Bは、まず、慣性トルク算出部15aが算出した慣性トルクと、CVT損失算出部15bが算出したCVT損失とを基準エンジントルク目標値から減算する(この減算により得られる値を実質伝達トルクと称する)。その後、換算部15Bは実質伝達トルクに、変速比算出部15cで得られた変速比と最終減速比とを乗じ、その乗算により得られた値を基準駆動輪トルク目標値とする。
上述したように、基準駆動輪トルク目標値は、目標とする後輪8の出力でもよい。この形態では、換算部15Bは例えば次のような処理を行うことで基準エンジントルク目標値から基準駆動輪トルク目標値を算出してもよい。すなわち、換算部15Bは、基準エンジントルク目標値から慣性トルクを減算する。そして、換算部15Bは、その減算より得られた値に基準目標エンジン回転数を乗じる。その後、換算部15Bは、その乗算により得られた値から、CVT損失(CVT5で失われる仕事率)を減算する。そして、換算部15Bは、CVT損失の減算により得られた値に、変速比算出部15cで得られた変速比と最終減速比とを乗じ、その結果を基準駆動輪トルク目標値とする。
上述したように、制御装置10は駆動力目標補正部15Cを含んでいる。駆動力目標補正部15Cは基準駆動輪トルク目標値を補正し、補正により得られた値を最終駆動輪トルク目標値として算出する。駆動力目標補正部15Cはフィルタ関数を利用して基準駆動輪トルク目標値から最終駆動輪トルク目標値を算出する。この例のフィルタ関数は、図4を参照して説明したように、最終駆動輪トルク目標値の上昇速度が基準駆動輪トルク目標値の上昇速度より小さくなるように、規定されている。例えばアクセル操作量が増大したときに、基準駆動輪トルク目標値は上昇する。このような場合に最終駆動輪トルク目標値の上昇速度が基準駆動輪トルク目標値の上昇速度より小さくなるように、フィルタ関数は規定されている。このフィルタ関数によれば、車両を滑らかに加速させることが可能となる。
最終駆動輪トルク目標値のこのような変化を実現するために、この例のフィルタ関数の伝達関数G(s)は、次の式により表される一次遅れ要素G1(s)を含む。
G1(s)=1/(T×s+1)
ここでTは時定数であり、sは演算子である。
また、図4を参照して説明したように、基準駆動輪トルク目標値が上昇したとき、最終駆動輪トルク目標値は基準駆動輪トルク目標値(図4でTp1)よりも高い値(図4でTp2)まで上昇し、その後に基準駆動輪トルク目標値に向けて下がる。フィルタ関数は、最終駆動輪トルク目標値が基準駆動輪トルク目標値に対してこのように変化するように、規定されている。このようなフィルタ関数によれば、加速感を持続させることが可能となる。
最終駆動輪トルク目標値のこのような変化を実現するために、この例のフィルタ関数の伝達関数G(s)は、次の式により表される一次遅れ要素G2(s)を含む。
G2(s)=(P×L×s+1)/(L×s+1)
ここでPは1より大きな値に設定された比例ゲインであり、Lは時定数である。なお、G2(s)は次のように変形され得る。
G2(s)=P−(P−1)/(Ls+1)
ここでPの項は伝達関数G(s)の比例要素となる。したがって、フィルタ関数の伝達関数G(s)は次の式により表される。
G(s)=G1(s)×G2(s)
図11は伝達関数G(s)による基準駆動輪トルク目標値と最終駆動輪トルク目標値の変化の例を説明するためのブロック図である。同図では、伝達関数G(s)のステップ応答が例として示されている。すなわち、同図において、入力(基準駆動輪トルク目標値)はステップ関数である。波形Y2は上述の要素G2(s)による出力波形である。また、波形Y1は最終駆動輪トルク目標値の波形である。
波形Y2で示されるように、時間t0で基準駆動輪トルク目標値がT1まで上昇すると、要素G2(s)の出力は、時間t0でT1×Pまで上昇する。時間t0以降、要素G2(s)の出力は基準駆動輪トルク目標値T1に向けて緩やかに下がる。
波形Y1で示されるように、最終駆動輪トルク目標値は、時間t0以降、要素G2(s)の出力に比して、緩やかに上昇する。すなわち、最終駆動輪トルク目標値の上昇速度は基準駆動輪トルク目標値の上昇速度よりも小さい。波形Y1で示すように、最終駆動輪トルク目標値は、時間t0からtg1だけ遅れて、基準駆動輪トルク目標値よりも高いピーク値(T1×P)に達する。その後、基準駆動輪トルク目標値は基準駆動輪トルク目標値T1に向けて緩やかに下がる。
なお、要素G2(s)の出力波形Y2で示される値が基準駆動輪トルク目標値T1に一致するまでの時間tg2は、伝達関数G(s)の時定数Lによって制御できる。すなわち、時定数Lを調整することで、加速感が持続する時間を調整できる。また、基準駆動輪トルク目標値に対する最終駆動輪トルク目標値のピークに対する割合は、伝達関数G(s)の比例ゲインPによって制御できる。したがって、比例ゲインPを調整することで、加速性能を調整できる。さらに、最終駆動輪トルク目標値がピーク値(T1×P)に到達するのに要する遅延時間tg1は、要素G1(s)の時定数Tによって制御できる。
フィルタ関数はこのような波形を実現する伝達関数G(s)を元に設定されている。すなわち、フィルタ関数は上述のP,T,Lを係数として含む関数である。なお、T,L,Pは車両の運転状態に基づいて変更されてもよい。例えば、変速時に時定数Tは基準値よりも小さな値に変更されてもよい。例えば、時定数Tは変速時に小さくなるように、最終目標エンジン回転数と現在のエンジン回転数との差に基づいて設定されてもよい。また、比例ゲインPは、当該ゲインPが加速時に増大するように、アクセル操作量や基準エンジントルク目標値に基づいて設定されてもよい。
図5に示すように、この例の駆動力目標補正部15Cは補正条件判定部15dを含んでいる。補正条件判定部15dは、ユーザによる加速要求が駆動力目標補正部15Cの補正(上述のフィルタ関数を利用した演算)を行うべき条件(以下、補正条件)を充足するか否かを判定する。例えば、補正条件判定部15dは、アクセルセンサ24によって検知するアクセル操作量に基づいて、加速要求が予め設定した度合いよりも高いか否かを判定する。具体的には、補正条件判定部15dは、アクセル操作量が予め規定された閾値(以下、第1操作量閾値)より高いか否かを判定する。また、補正条件判定部15dは、アクセル操作量の変化速度が予め規定された閾値(以下、変化速度閾値)より高いか否かを判定する。補正条件判定部15dは、アクセル操作量が第1操作量閾値より高く、且つ、アクセル操作量の変化速度が変化速度閾値より高い場合に、加速要求が補正条件を充足したと判断する。
補正条件判定部15dは加速要求が予め設定した度合いよりも低くなったときに、加速要求が補正条件を充足しなくなったと判断する。例えば、補正条件判定部15dは、アクセル操作量が予め規定された閾値(以下、第2操作量閾値)より低いか否かを判定する。そして、補正条件判定部15dは、アクセル操作量が第2操作量閾値より低くなった時に、加速要求が加速補正条件を充足しなくなったと判断する。
駆動力目標補正部15Cは、快適運転モードが選択され、且つ、補正条件判定部15dにより運転者の加速要求が補正条件を満たしている場合に、上述のフィルタ関数を利用して、最終駆動輪トルク目標値を算出する。駆動力目標補正部15Cは、快適運転モードが選択されていない場合には、フィルタ関数を利用することなく、基準駆動輪トルク目標値を最終駆動輪トルク目標値として算出する。また、駆動力目標補正部15Cは、運転者の加速要求が補正条件を満たしていない場合にも、フィルタ関数を利用することなく、基準駆動輪トルク目標値を最終駆動輪トルク目標値として算出する。
駆動力目標補正部15Cのこのような処理によれば、基準駆動輪トルク目標値は、例えば、上述した図4に示すように変化する。すなわち、図4の時間t1はアクセル操作量が増大し、且つ補正条件が満たされたタイミングである。また、同図の時間t3はアクセル操作量が低減し、補正条件が満たされなくなったタイミングである。時間t1よりも前及び時間t3以降においては、フィルタ関数を利用した補正がなされないので、基準駆動輪トルク目標値と最終駆動輪トルク目標値は一致している。時間t1と時間t3との間では、最終駆動輪トルク目標値は基準駆動輪トルク目標値に比して緩やかに上昇し、ピーク値Tp2に達した後は基準駆動輪トルク目標値に徐々に近づく。また、最終駆動輪トルク目標値のピーク値Tp2は基準駆動輪トルク目標値のピーク値Tp1に比して比例ゲインPに応じた割合だけ高くなる。
なお、フィルタ関数を利用する時期は、以上説明したものに限定されない。例えば、フィルタ関数を利用した演算は、通常モードや燃費モードにおいても実行されてよい。この場合、そのモードに応じて、時定数T,Lや比例ゲインPが設定されてもよい。また、減速時においても、フィルタ関数を利用した補正がなされてもよい。この場合、比例ゲインPは1より小さくてもよい。また、市街地で走行する場合など、低速走行が続く場合には、比例ゲインPは1よりも小さくてもよい。
目標スロットル開度算出部18は最終駆動輪トルク目標値に基づいて目標スロットル開度を算出する。この例の駆動力目標算出部15は、上述したように、逆換算部15Dを含んでいる。逆換算部15Dは、最終駆動輪トルク目標値を、目標スロットル開度算出部18で利用されるエンジントルク目標値(最終エンジントルク目標値)に変換する。この例では、最終エンジントルク目標値は、目標とするエンジントルクである。目標スロットル開度算出部18は最終エンジントルク目標値に基づいて目標スロットル開度を算出する。
逆換算部15Dは、最終駆動輪トルク目標値を、最終目標エンジン回転数に基づいて最終エンジントルク目標値に変換する。図12は逆換算部15Dの機能を示すブロック図である。同図に示すように、逆換算部15Dは、換算部15Bと同様に、変速比算出部15eと、慣性トルク算出部15fと、CVT損失算出部15gとを含んでいる。
逆換算部15Dは、換算部15とは逆の演算を行うことで、最終駆動輪トルク目標値から最終エンジントルク目標値を算出する。詳細には、逆換算部15Dは、まず、CVT5の変速比と最終減速比とに基づいて、最終駆動輪トルク目標値からCVT5の上流のトルクの目標値を算出する。例えば、逆換算部15Dは、最終駆動輪トルク目標値をCVT5の変速比と最終減速比とで割り、その結果を、CVT5の上流のトルクの目標値とする。逆換算部15Dの除算で利用される変速比は、例えば、最終目標エンジン回転数と車速とに基づいて算出される変速比である。すなわち、変速比は例えば目標変速比算出部13が算出する変速比と等しい変速比である。
慣性トルク算出部15fは、慣性トルク算出部15aと同様に、エンジン回転数の変化により生じるエンジン4の慣性トルクを算出する。この例の慣性トルク算出部15fは、最終目標エンジン回転数に基づいて慣性トルクを算出する。具体的には、慣性トルク算出部15fは、最終目標エンジン回転数の変化速度と、CVT5よりも上流側の機構(クランクシャフトやピストン)の慣性モーメントとに基づいて、慣性トルクを算出する(慣性トルク=慣性モーメント×最終目標エンジン回転数の変化速度)。慣性トルクの算出方法はこれに限られない。例えば、慣性トルク算出部15fは、慣性トルク算出部15aと同様に、変速比の変化速度に基づいて慣性トルクを算出してもよい。
CVT損失算出部15gは、CVT損失算出部15bと同様に、例えば、最終目標エンジン回転数と、出力軸回転数センサ26によって検知される出力軸の回転数と、CVT5を通して伝達されるトルク(エンジン4が出力するトルク)とに基づいて、CVT損失を算出する。
逆換算部15Dは、先に説明した除算により得られたCVT5よりも上流側の機構のトルクの目標値と、慣性トルク算出部15fにより算出される慣性トルクと、CVT損失算出部15gにより算出されるCVT損失とに基づいて、最終エンジントルク目標値を算出する。具体的には、逆換算部15Dは、CVT5よりも上流側の機構のトルクの目標値に、慣性トルク算出部15fにより算出される慣性トルクと、CVT損失算出部15gにより算出されるCVT損失とを加算し、その結果を最終エンジントルク目標値とする。
目標スロットル開度算出部18は、最終エンジントルク目標値と最終目標エンジン回転数とに基づいて、目標スロットル開度を算出する。目標スロットル開度算出部18の処理は、例えば、次のように実行される。
記憶装置10cには、エンジン4の出力特性により規定される第2出力特性情報が予め格納されている。第2出力特性情報は、第1出力特性情報と同様に、例えば、スロットル開度とエンジン回転数とエンジントルクとの関係を表す情報である。ここで説明する例では、記憶装置10cには、スロットル開度とエンジン回転数とエンジントルクとを互いに対応付けるマップが格納されている(以下、このマップを第2エンジントルクマップと称する)。目標スロットル開度算出部18は第2エンジントルクマップを参照し、最終エンジントルク目標値と最終目標エンジン回転数とに対応するスロットル開度を算出し、当該スロットル開度を目標スロットル開度とする。なお、この例の最終エンジントルク目標値はエンジントルクについての最終的な目標値である。最終エンジントルク目標値がエンジン出力についての目標値である場合、第2出力特性情報は、スロットル開度とエンジン回転数とエンジン出力とを互いに対応付けるマップや関係式でもよい。
制御装置10の上述した各機能部は、3つの制御モードのそれぞれにおいて、次のように動作する。
まず、通常モードについて説明する。上述したように、通常モードでは、回転数補正部11Bによる補正は実行されない。そのため、基準回転数算出部11Aが算出する基準目標エンジン回転数が最終目標エンジン回転数として設定される。図3を参照すると、基準回転数算出部11Aは、アクセル操作量に応じたエンジン回転数N1を基準目標エンジン回転数として算出する。このエンジン回転数N1が最終目標エンジン回転数として設定される。目標変速比算出部13は最終目標エンジン回転数に基づいて目標変速比を算出する。また、ここで説明した例では、通常モードにおいては、駆動力目標補正部15Cによるフィルタ関数を利用した補正も実行されない。したがって、基準エンジントルク目標算出部15Aが算出する基準エンジントルク目標値と、逆換算部15Dが算出する最終エンジントルク目標値は同じになる。その結果、目標スロットル開度算出部18が算出する目標スロットル開度は、角度換算部14によって算出される基準スロットル開度に一致する。図3を参照すると、スロットル開度Th1が目標スロットル開度として設定される。
次に、図3を参照して、燃費モードについて説明する。基準回転数算出部11Aは、通常モードと同様に、アクセル操作量に基づいて基準目標エンジン回転数N1を算出する。回転数補正部11Bは、目標エンジン回転数を、基準目標エンジン回転数N1から最良燃費曲線A上の運転ポイントのエンジン回転数N3に近づける補正を行い、その結果得られたエンジン回転数(図3においてN2)を最終目標エンジン回転数とする。目標変速比算出部13は最終目標エンジン回転数N2に基づいて目標変速比を算出する。一方、駆動力目標算出部15は、基準エンジントルク目標算出部15Aと換算部15Bの処理によって、基準目標エンジン回転数N1の運転ポイントP1での後輪トルク(基準駆動輪トルク目標値)を算出する。燃費モードにおいては、駆動力目標補正部15Cによる駆動輪トルク目標値についての補正は実行されない。したがって、目標スロットル開度算出部18は、基準駆動輪トルク目標値と等しい最終駆動輪トルク目標値(より詳細には、逆換算部15Dにより算出された最終エンジントルク目標値)と、最終目標エンジン回転数とに基づいて、目標スロットル開度を算出する。つまり、目標スロットル開度算出部18は、運転ポイントP1での後輪トルクと同じ後輪トルクを得ることができ、且つ、エンジン回転数が最終目標エンジン回転数となる運転ポイントP2でのスロットル開度(図3ではTh2)を、目標スロットル開度として設定する。
最後に、快適運転モードについて説明する。快適運転モードでは、回転数補正部11Bによる補正は実行されない。そのため、基準回転数算出部11Aが算出する基準目標エンジン回転数N1が最終目標エンジン回転数として設定される。目標変速比算出部13はその最終目標エンジン回転数に基づいて目標変速比を算出する。一方、駆動力目標算出部15は、基準エンジントルク目標算出部15Aと換算部15Bの処理によって、基準スロットル開度(図3においてTh1)と、基準目標エンジン回転数N1の運転ポイントP1での後輪トルク(基準駆動輪トルク目標値)を算出する。駆動力目標補正部15Cはフィルタ関数を利用して、基準駆動輪トルク目標値から最終駆動輪トルク目標値を算出する。目標スロットル開度算出部18は、逆換算部15Dの処理により最終駆動輪トルク目標値から得られた最終エンジントルク目標値と、最終目標エンジン回転数とに基づいて、目標スロットル開度を算出する。
上述したように、制御装置10が実行する処理は予め設定した周期で繰り返し実行されている。そのため、基準駆動輪トルク目標値は時間の経過により漸次変化し、それに伴って最終駆動輪トルク目標値も変化する。図4に示すように、運転者の加速要求が補正条件を満たした場合、最終駆動輪トルク目標値は基準駆動輪トルク目標値よりも緩やかに変化する。最終駆動輪トルク目標値が時間の経過により変化する場合、目標スロットル開度算出部18は、各時点で得られた最終駆動輪トルク目標値と最終目標エンジン回転数とに基づいて、目標スロットル開度を算出する。これにより、目標スロットル開度は最終駆動輪トルク目標値に合わせて、変化する。
上述したように、記憶装置10cには、出力特性情報として、第1エンジントルクマップと第2エンジントルクマップとが格納されている。第1エンジントルクマップに設定されたスロットル開度とエンジン回転数とエンジントルクは、エンジン4の実際の出力特性により規定される値ではなく、快適な乗車感を得るのに好適な値が格納されてもよい。一方、第2エンジントルクマップに設定されたスロットル開度とエンジン回転数とエンジントルクは、第1エンジントルクマップに比して、エンジン4の実際の出力特性に近くてもよい。
図13はこのような形態の第1エンジントルクマップの例を示す図である。同図に示すように、例えばエンジン4の実際の出力特性(破線L5,L6)では、エンジン回転数N5とN6との間にエンジントルクの谷がある。第1エンジントルクマップで規定されるエンジントルクは、この谷から外れ、エンジン回転数N5とN6の間で緩やかに上昇している。一方、第2エンジントルクマップに設定されるスロットル開度とエンジン回転数とエンジントルクは、エンジン4の実際の出力特性で規定される値である。すなわち、第2エンジントルクマップで規定されるエンジントルクは、エンジン回転数N5とN6との間に谷を有する。
2つのエンジントルクマップのこのような相違により、エンジン4の実際の出力特性に依拠することなく、快適な乗車感を実現することが可能となる。例えば、エンジントルクの谷に該当するエンジン回転数でエンジン4が駆動しているとき、第1エンジントルクマップを参照して算出される基準エンジントルク目標値は、エンジン4の実際の出力特性で規定されるエンジントルクよりも高い値となる。最終エンジントルク目標値はこの高い基準エンジントルク目標値に基づいて算出される。そして、目標スロットル開度は最終エンジントルク目標値のトルクが得られるように設定される。したがって、2つのエンジントルクマップのこのような相違により、エンジン4の実際の出力特性で規定されるトルクカーブよりも、望ましいトルクカーブを有する出力特性が実現され得る。
上述したように、換算部15Bは、慣性トルク算出部15aが算出する慣性トルクを利用して基準エンジントルク目標値から基準駆動輪トルク目標値を算出している。また、逆換算部15Dは、慣性トルク算出部15fが算出する慣性トルクを利用して最終駆動輪トルク目標値から最終エンジントルク目標値を算出している。しかしながら、換算部15Bは、慣性トルクを利用することなく、基準エンジントルク目標値から基準駆動輪トルク目標値を算出してもよい。そして、逆換算部15Dは、図12の例と同様に、最終駆動輪トルク目標値と慣性トルクとに基づいて最終エンジントルク目標値を算出してもよい。
図14はこの形態に係る換算部15Bの処理を示すブロック図である。同図に示すように、この形態の換算部15Bは、CVT損失算出部15b及び変速比算出部15cを含んでいるものの、慣性トルク算出部15aを備えていない。したがって、基準エンジントルク目標値から基準駆動輪トルク目標値を算出するにあたり、慣性トルクは減算されない。一方、逆換算部15Dの処理においては、図12で示したように、最終エンジントルク目標値を算出するにあたり、慣性トルクが加算される。こうすることで、車両の加速時に、エンジン回転数の変動により損なわれるトルクを補償するエンジントルクを得ることができ、車両の加速性能を向上できる。
図15は、このように逆換算部15Dにおいてのみ慣性トルクを利用する形態の効果を説明するためのタイムチャートである。同図(a)は換算部15Bと逆換算部15Dの双方が慣性トルクを利用する形態のタイムチャートであり、同図(b)は逆換算部15Dのみが慣性トルクを利用する形態のタイムチャートである。同図(a)及び(b)では、アクセル操作量、スロットル開度、エンジン回転数、及び後輪トルクの変化が示されている。
同図(a)では、時間t1でアクセル操作量が増大している。それにともなってスロットル開度も増大する。この例では、スロットル開度はアクセル操作量と同様に変化している。エンジン回転数は、スロットル開度の増大に起因して、時間t1で上昇を開始している。後輪トルクは、スロットル開度が増大に起因して、時間t1で上昇を開始している。しかしながら、エンジン4のトルクの一部はエンジン回転数の上昇に消費されるため、後輪トルクの上昇は期間Tにおいて妨げられている。
同図(b)においても、同図(a)と同様に、時間t1でアクセル操作量が増大し、それにともなって、スロットル開度も増大している。エンジン回転数は、スロットル開度の増大に起因して、時間t1で上昇を開始している。逆換算部15Dの処理においてのみ慣性トルクを利用する形態では、目標スロットル開度は、エンジン回転数の上昇に消費されるトルク(慣性トルク)を補うように設定される。そのため、同図(b)に示すように、エンジン回転数が上昇している期間においてスロットル開度はアクセル操作量に比して大きく上昇する。その結果、後輪トルクの上昇は、エンジン回転数が上昇している期間においても妨げられない。その結果、車両の加速性能が向上されている。
制御装置10は、車両の走行時に、車両に作用する走行負荷に基づいて駆動力目標値を補正してもよい。
図16は、この形態に係る制御装置10の機能を示すブロック図である。同図に示すように、この形態では、駆動力目標算出部15は走行負荷補正部15Eを含んでいる。走行負荷補正部15Eは、車両に作用する走行負荷に基づいて、駆動力目標値を補正する。この例では、走行負荷補正部15Eは、駆動力目標補正部15Cが算出する最終駆動力目標値をさらに補正し、逆換算部15Dは走行負荷補正部15Eによって補正された最終駆動力目標値に基づいて、最終エンジントルク目標値を算出する。走行負荷は、例えば、ライダーや、車両に載せられる物、車両が走行する道路の勾配により車両にかかる負荷である。走行負荷補正部15Eは、例えば、次の処理により、車両に作用する走行負荷を推定する。
記憶装置10cには、基準となる走行負荷が車両に作用している状態での駆動力目標値(例えば、後輪トルク)と車両の加速度との関係を示す情報(以下、第1基準加速情報)が予め格納される。基準となる走行負荷は、例えば、標準的な体重のライダーが車両に乗っており、且つ、車両が平坦な道路を走行しているときに車両にかかっている負荷である。つまり、第1基準加速情報は、標準的な体重のライダーが車両に乗っており、且つ、車両が平坦な道路を走行しているときの駆動力目標値と車両の加速度との関係を示す情報である。第1基準加速情報は、例えば、駆動力目標値と車両の加速度とを対応付けるマップや関係式である。走行負荷補正部15Eは、車両の走行時に、車速センサ27の出力に基づいて車両の実加速度を算出する。また、走行負荷補正部15Eは第1基準加速情報を参照し、駆動力目標補正部15Cが算出した最終駆動力目標値に対応する加速度を算出する(以下、この処理で算出される加速度を第1基準加速度とする)。走行負荷補正部15Eは実加速度と第1基準加速度との差(以下において第1加速度差)を、標準的な走行時に作用する走行負荷と現走行において作用している走行負荷との差分として算出する。そして、走行負荷補正部15Eは第1加速度差に基づいて、駆動力目標補正部15Cが算出した最終駆動力目標値を補正する。例えば、走行負荷補正部15Eは、駆動力目標補正部15Cが算出した最終駆動力目標値に第1加速度差に応じた補正量を加算又は減算する。また、走行負荷補正部15Eは、駆動力目標補正部15Cが算出した最終駆動力目標値に、第1加速度差に応じた係数を乗じてもよい。このような処理がなされる形態では、記憶装置10cには、第1加速度差と補正量とを対応付けるマップや関係式、或いは、第1加速度差と係数とを対応付けるマップや関係式が予め格納される。
図16に示す形態では、目標エンジン回転数算出部11は走行負荷補正部11Cを含んでいる。走行負荷補正部11Cは、車両に作用する走行負荷に基づいて、目標エンジン回転数を補正する。この例では、走行負荷補正部11Cは、基準回転数算出部11Aが算出した基準エンジン回転数を補正する。上述の回転数補正部11Bは走行負荷補正部11Cにより補正された基準エンジン回転数に基づいて最終エンジン回転数を算出する。なお、この例では、基準エンジントルク目標算出部15A及び換算部15Bは、走行負荷補正部11Cにより補正される前の基準エンジン回転数に基づいて、上述の処理を実行する。
走行負荷補正部11Cは、例えば上述の走行負荷補正部15Eと同様にして、走行負荷を推定する。すなわち、記憶装置10cには、基準となる負荷が車両に作用している状態での目標エンジン回転数と車両の加速度との関係を示す情報(以下、第2基準加速情報)が予め格納される。基準となる負荷は上述と同様であり、第2基準加速情報は、標準的な体重のライダーが車両に乗っており、且つ、車両が平坦な道路を走行しているときのエンジン回転数と車両の加速度との関係を規定している。第2基準加速情報は、例えば、エンジン回転数と車両の加速度とを対応付けるマップや関係式である。走行負荷補正部11Cは、車両の走行時に、車速センサ27の出力に基づいて車両の実加速度を算出する。なお、実加速度の算出は、走行負荷補正部11Cと上述の走行負荷補正部15Eのいずれか一方でのみ実行され、当該一方で得られた実加速度が他方で利用されてもよい。走行負荷補正部11Cは第2基準加速情報を参照し、基準回転数算出部11Aが算出した基準目標エンジン回転数に対応する加速度を算出する(以下、この処理で算出される加速度を第2基準加速度とする)。走行負荷補正部11Cは実加速度と第2基準加速度との差(以下において第2加速度差)を、車両に作用している走行負荷として算出する。そして、走行負荷補正部11Cは第2加速度差に基づいて、基準回転数算出部11Aが算出した基準目標エンジン回転数を補正する。例えば、走行負荷補正部11Cは、基準回転数算出部11Aが算出した基準目標エンジン回転数に第2加速度差に応じた補正量を加算又は減算する。また、走行負荷補正部11Cは、基準回転数算出部11Aが算出した基準目標エンジン回転数に、第2加速度差に応じた係数を乗じてもよい。このような処理がなされる形態では、記憶装置10cには、第2加速度差と補正量とを対応付けるマップや関係式、或いは、第2加速度差と係数とを対応付けるマップや関係式が予め格納される。
このように、目標エンジン回転数算出部11と駆動力目標値算出部15が走行負荷補正部11Cと走行負荷補正部15Eをそれぞれ含むことにより、車両に作用する走行負荷に基づく補正量や補正方法の自由度を増すことができる。
また、以上説明した制御装置10は、基準エンジントルク目標算出部15Aと換算部15Bとを含んでいた。すなわち、制御装置10は、第1エンジントルクマップを利用して基準エンジントルク目標値を算出し、その後に、基準目標エンジン回転数を利用して基準駆動力目標値に換算していた。しかしながら、制御装置10はアクセル操作量と車速とに基づいて基準駆動力目標値を直接算出してもよい。図17は、この形態に係る制御装置10の機能を示すブロック図である。
この図の制御装置10は、基準エンジントルク目標算出部15Aと換算部15Bとに替えて、基準駆動力目標算出部15Fを含んでいる。記憶装置10cには、アクセル操作量と車速と駆動力目標値(例えば、後輪トルクについての目標値)とを対応付けるマップや関係式が格納されている。基準駆動力目標算出部15Fは、これらマップや関係式を使用して、センサで検知したアクセル操作量と車速とに対応する駆動力目標値を基準駆動力目標値として算出する。
以上説明したように、記憶装置10cには、アクセル操作量とエンジン回転数とを関係付けるエンジン回転数マップが格納されている。目標エンジン回転数算出部11は、エンジン回転数マップを参照して、アクセルセンサ24によって検知されたアクセル操作量に対応するエンジン回転数を目標エンジン回転数として算出し、目標変速比算出部13は、目標エンジン回転数に基づいて、目標変速比を算出している。また、駆動力目標算出部15は、目標エンジン回転数に基づいて、車両の駆動力に関する目標値である駆動力目標値(エンジントルク目標値及び駆動輪トルク目標値)を算出し、目標スロットル開度算出部18は、駆動力目標値に基づいて目標スロットル開度を算出している。これによれば、アクセル操作量に応じた目標エンジン回転数をベースとして目標変速比及び目標スロットル開度が算出されるので、運転者のアクセル操作に適合した快適な乗車感を実現できる回転数にエンジン回転数を設定することが容易となる。
目標エンジン回転数算出部11は、燃費効率が最良になるエンジン回転数よりも高いエンジン回転数を目標エンジン回転数として算出する。これによれば、車両の加速応答性を向上できる。
駆動力目標算出部15は、目標エンジン回転数に基づいて基準駆動力目標値を算出し、基準駆動力目標値を補正し、当該補正により得られた値を最終駆動力目標値として算出している。目標スロットル開度算出部18は、最終駆動力目標値に基づいて、目標スロットル開度を算出している。これによれば、必要に応じて駆動力目標値を補正することが可能となり、車両の加速性を向上できる。
駆動力目標算出部15はフィルタ関数を利用して、基準駆動力目標値から最終駆動力目標値を算出している。これによれば、基準駆動力目標値に対する最終駆動力目標値の相対変化を望ましいものにできる。
フィルタ関数は、最終駆動力目標値の上昇速度が基準駆動力目標値の上昇速度より小さくなるように、規定されている。これによれば、滑らかな加速及び/又は減速を実現することが可能となる。
基準駆動力目標値が上昇したときに最終駆動力目標値が基準駆動力目標値よりも高い値まで上昇した後に基準駆動力目標値に向けて下がるように、フィルタ関数は規定されている。これによれば、加速性能を向上するとともに、加速感を持続することが可能となる。
フィルタ関数の伝達関数は、一次遅れ要素を含んでいる。これによれば、これによれば、滑らかな加速及び/又は減速を実現することが可能となる。
フィルタ関数の伝達関数は、比例要素を含んでいる。これによれば、加速性能を向上できる。
駆動力目標算出部15は、目標エンジン回転数に基づいてエンジントルク目標値を算出し、エンジントルク目標値と、エンジン回転数の変化により生じる慣性トルクとに基づいて駆動輪トルク目標値を算出している。そして、目標スロットル開度算出部18は、駆動輪トルク目標値に基づいて、目標スロットル開度を算出している。これによれば、慣性トルクの発生による駆動力の減損を補償する目標スロットル開度を設定することが可能となる。
目標エンジン回転数算出部11は、アクセルセンサ24で検知したアクセル操作量に応じたエンジン回転数を基準目標エンジン回転数として算出し、回転数補正部11Bは、基準目標エンジン回転数を補正し、補正により得られた回転数を最終目標エンジン回転数として算出し、目標変速比算出部13は、実際のエンジン回転数が最終目標エンジン回転数になるように目標変速比を算出している。また、駆動力目標算出部15は、基準目標エンジン回転数に基づいて、車両の駆動力に関する目標値である駆動力目標値(エンジントルク目標値及び後輪トルク目標値)を算出し、目標スロットル開度算出部18は、基準目標エンジン回転数に基づく駆動力目標値に基づいて、目標スロットル開度を算出している。
このような制御によれば、アクセル操作量に応じた基準目標エンジン回転数をベースとして、駆動力目標値及び目標スロットル開度が算出される。そのため、運転者のアクセル操作に適合した快適な乗車感を実現する回転数に、エンジン回転数を設定することが容易となる。また、駆動力目標値は基準目標エンジン回転数に基づいて算出され、目標スロットル開度は最終目標エンジン回転数と、基準目標エンジン回転数に基づく駆動力目標値とに基づいて算出される。そのため、最終目標エンジン回転数が基準目標エンジン回転数を補正した値である場合であっても、車両の駆動力が維持されるように、目標スロットル開度を設定することが可能となる。
駆動力目標算出部15は、出力特性情報である第1エンジントルクマップを参照し、検知したアクセル操作値から換算された基準スロットル開度と基準目標エンジン回転数とに基づいて駆動力目標値を算出している。目標スロットル開度算出部18は、出力特性情報である第2エンジントルクマップを参照し、駆動力目標値と最終目標エンジン回転数とに基づいて目標スロットル開度を算出している。これによれば、適切な目標スロットル開度を算出し易くなる。
記憶装置10cには、出力特性情報として、第1エンジントルクマップと、第1エンジントルクマップとは異なる第2エンジントルクマップとが格納されている。特に、第2エンジントルクマップにおいて規定されるスロットル開度とエンジン回転数とエンジントルクとの関係は、第1エンジントルクマップに比して、エンジンの実際の出力特性に近い。これによれば、第1エンジントルクマップと第2エンジントルクマップとの相違を利用して、エンジン4の実際の出力特性よりも望ましい出力特性を実現できる。
目標スロットル開度算出部18は、駆動力目標値と、エンジン回転数の変化によるエンジン4の慣性トルクとに基づいて、目標スロットル開度を算出している。これによれば、慣性トルクの発生による駆動力の減損を補償する目標スロットル開度を設定することが可能となる。
駆動力目標算出部15は、駆動力目標値として、エンジントルクに関する目標値であるエンジントルク目標値と、後輪8のトルクに関する目標値である駆動輪トルク目標値とを算出している。駆動力目標補正部15Cは、基準駆動輪トルク目標値を補正し、当該補正により得られた目標値を最終駆動輪トルク目標値として算出している。目標スロットル開度算出部18は、最終駆動輪トルク目標値に基づく最終エンジントルク目標値に基づいて、目標スロットル開度を算出している。これによれば、エンジントルクについての目標値を補正する場合に比べて、乗車感にとって望ましい補正が可能となる。
本発明の1つの形態では、換算部15Bは、慣性トルクを利用することなく、基準エンジントルク目標値から基準駆動輪トルク目標値を算出し、逆換算部15Dは、最終駆動輪トルク目標値と慣性トルクとに基づいて最終エンジントルク目標値を算出している。これによれば、慣性トルクの発生による駆動力の減損を補償する目標スロットル開度を設定することが可能となる。
なお、本発明は以上説明した制御装置10による制御に限られず、種々の変更が可能である。
例えば、第1エンジントルクマップ及び第2エンジントルクマップにかえて、スロットル開度とエンジン回転数とエンジン出力とが対応付けられたマップが出力特性情報として利用されてもよい。
また、最終エンジントルク目標値を算出するにあたり、CVT損失は必ずしも使用されなくてもよい。
また、以上説明した実施形態では、基準エンジントルク目標値から基準駆動輪トルク目標値を算出し、当該基準駆動輪トルク目標値を算出していた。しかしながら、基準エンジントルク目標値を補正して、補正により得られた値を最終エンジントルク目標値としてもよい。
図18は、駆動力目標値算出部15が実行する処理の変形例を示すブロック図である。この例の駆動力目標値算出部15は、基準走行抵抗算出部15Gaと、走行負荷推定部15Gbと、走行負荷補正量算出部15Gとを含んでいる。また、駆動力目標値算出部15は駆動力目標補正部15Hを含んでいる。
基準走行抵抗算出部15Gaは、車両が一定車速で走行している場合に受ける走行抵抗である基準走行抵抗を算出する。基準走行抵抗は、主に走行時に車両が受ける空気抵抗に起因するものであり、車速に応じて変化する。そのため、基準走行抵抗算出部15Gaは、車速センサ27によって検知した車速に基づいて、基準走行抵抗を算出する。例えば、記憶装置10cに、基準走行抵抗と車速とを関係づける基礎情報が予め格納される(基礎情報は例えばマップである。以下では走行抵抗マップと称する)。図19は基準走行抵抗と車速との関係の例を示す図である。同図において横軸は車速であり、縦軸は基準走行抵抗である。同図に示すように、基準走行抵抗は一般的に車速が増すに従って大きくなる。基準走行抵抗算出部15Gaは基準走行抵抗と車速とのこのような関係を規定するマップや関係式を利用し、車速センサ27によって検知した車速に応じた基準走行抵抗を算出する。この説明の例では、基準走行抵抗は、後において詳説するように、駆動輪トルク目標値の補正に利用される。そのため、基準走行抵抗は、駆動輪トルク目標値と同じ次元の値である。すなわち、駆動輪トルク目標値が後輪トルクについての目標値である場合、基準走行抵抗はトルクの次元である。駆動輪トルク目標値が後輪8の出力(仕事率)についての目標値である場合、基準走行抵抗は出力の次元である。
車両が坂道を走行している場合には、基準走行抵抗を超える走行負荷が車両に作用する。走行負荷推定部15Gbは、そのような基準走行負荷を超える走行負荷を推定する。走行負荷推定部15Gbの処理は、例えば次のように実行される。
車両の加速度をaとし、車両の重量をMとし、エンジントルクをTegとし、エンジン4の慣性トルクをTiとし、上述したCVT損失をTlossとし、車両に作用している全走行負荷(基準走行抵抗を含む)をLvとした場合、これらは次の関係を有している。
Teg−Ti−Tloss−Lv=M×a
エンジントルクTegはエンジントルクマップ(例えば、図9に示すエンジントルクマップ)を参照し、エンジン回転数とスロットル開度とに基づいて算出することができる。慣性トルクTiは、上述したように、エンジン回転数の変化速度と、CVT5よりも上流側の機構(エンジン4のクランクシャフトやピストン)の慣性モーメントとを乗じた値である。また、CVT損失Tlossは、エンジン回転数とCVT5の出力軸の回転数と、CVT5を通して伝達されるトルク(エンジントルク)とに基づく損失である。そこで、走行負荷推定部15Gbは、例えば、エンジントルクTegと、エンジン回転数と、CVT5の出力軸の回転数と、車速とに基づいて、上述の関係式から全走行負荷Lvを算出する。なお、この演算で利用されるエンジン回転数は、エンジン回転数センサ21によって検知された実エンジン回転数でもよいし、基準目標エンジン回転数でもよい。また、エンジントルクTegの算出に利用されるスロットル開度は、スロットル開度センサ22によって検知される実スロットル開度でもよいし、前回の処理で算出された目標スロットル開度でもよい。車両の加速度aの算出に利用される車速は、車速センサ27によって検知される車速であり、CVT5の出力軸の回転数は出力軸回転数センサ26によって検知される回転数である。走行負荷推定部15Gbは、基準走行抵抗算出部15Gaによって算出された基準走行抵抗を全走行負荷Lvから差し引いた値を走行負荷として算出する。走行負荷は、一般的に、車両が上り坂を走行している場合には正の値となり、車両が下り坂を走行している場合には負の値となる。なお、全走行負荷を算出する処理は以上説明したものに限定されない。例えば、CVT損失Tlossは必ずしも考慮されなくてもよい。
走行負荷補正量算出部15Gは、走行負荷推定部15Gbによって算出された走行負荷に基づいて、車両の駆動力に関する目標値についての補正量を算出する。ここで説明する例の走行負荷補正量算出部15Gは、駆動輪トルク目標値についての補正量を算出する。駆動輪トルク目標値は、上述したように、目標とする後輪トルクや、目標とする後輪仕事率(後輪トルク×後輪8の回転速度)である。後において詳説するように、走行負荷補正量算出部15Gが算出した補正量は、駆動輪トルク目標値に加算される。
走行負荷は、上述したように、車速や、エンジン回転数に基づいて推定される。しかしながら、その推定を精度良く行うことは難しい。すなわち、走行負荷推定部15Gbによって算出された走行負荷は、車両が実際に走行している坂道の勾配からずれいている場合がある。そこで、ここで説明する例では、走行負荷の絶対値が閾値よりも小さい場合には走行負荷に基づく補正は制限され、走行負荷の絶対値が閾値よりも大きい場合に、走行負荷に応じた補正が実行される。
図20は、走行負荷補正量算出部15Gが算出する補正量と走行負荷との関係の例を示す図である。同図において横軸は走行負荷であり、縦軸は補正量である。この図に示すように、走行負荷が閾値+Th1と閾値−Th1との間にある場合には補正量は0である。走行負荷が閾値+Th1よりも大きい領域では、走行負荷の増大に応じて補正量も増大する。また、走行負荷が閾値−Th1よりも小さい領域では、走行負荷の負方向の増大に応じて補正量は負方向に増大する。すなわち、走行負荷の絶対値が閾値よりも小さい場合に算出される補正量は、走行負荷の絶対値が閾値よりも大きい場合に算出される補正量に比して小さく、且つ、走行負荷の増大に応じた増大率が抑えられている。
走行負荷補正量算出部15Gは、補正量と走行負荷との間のこのような関係を定める基礎情報(マップや関係式)を参照し、補正量を算出する。この様な基礎情報を利用することにより、走行負荷の絶対値が閾値よりも小さい場合には、走行負荷に基づく補正は制限される。なお、走行負荷補正量算出部15Gの処理は以上説明したものに限られない。例えば、走行負荷補正量算出部15Gは走行負荷の絶対値が閾値よりも小さいか否かを判定し、閾値よりも小さい場合には、補正量の算出自体を行わなくてもよい。
さらに、走行負荷補正量算出部15Gは、車速が所定値以下の場合に駆動輪トルク目標値を増す補正が制限されるように、車速に基づいて補正量を算出する。例えば、走行負荷補正量算出部15Gは、車速が下がるに従って小さくなる係数(以下、車速係数)を、走行負荷に応じて算出された補正量に乗じる。これにより、車速が低くなっている状態で車両の駆動力が補正により増すことを抑えることができる。また、走行負荷補正量算出部15Gは、アクセル操作量が所定値以下の場合に駆動輪トルク目標値を増す補正が制限されるように、補正量を算出する。例えば、走行負荷補正量算出部15Gは、アクセル操作量が小さくなるに従って小さくなる係数(以下、アクセル係数)を、走行負荷に応じて算出された補正量に乗じる。これにより、ライダーが減速を意図し、アクセル操作量を小さくしている場合に、車両の駆動力が補正により増すことを抑えることができる。
図21において(a)は、車速と車速係数との関係の例を示す図である。同図(a)において横軸は車速であり、縦軸は車速係数である。(a)に示す例では、車速係数は車速が0からVa1の範囲では0%である。また、車速係数は、車速がVa1からVa2の範囲では、車速に応じて徐々に増大し、車速がVa2より高い範囲では100%である。走行負荷補正量算出部15Gは、車速係数と車速との間のこのような関係を定める基礎情報(マップや関係式)を参照し、車速係数を算出する。
図21において(b)は、アクセル操作量とアクセル係数との関係の例を示す図である。同図(b)において、横軸はアクセル操作量であり、縦軸はアクセル係数である。(b)に示す例では、アクセル係数はアクセル操作量が0%からAc1の範囲では0%である。また、アクセル係数は、アクセル操作量がAc1からAc2の範囲では、アクセル操作量に応じて徐々に増大し、アクセル操作量がAc2より高い範囲では100%である。走行負荷補正量算出部15Gは、アクセル係数とアクセル操作量との間のこのような関係を定める基礎情報(マップや関係式)を参照し、アクセル係数を算出する。
走行負荷補正量算出部15Gは、走行負荷推定部15Gbによって算出された走行負荷に応じた補正量(図20で例示される補正量)が正の値であるか否か、すなわち車両が上り坂を走行しているか否かを判定する。そして、走行負荷に応じた補正量が正の値である場合に、走行負荷補正量算出部15Gは、当該走行負荷に応じた補正量に車速係数とアクセル係数とを乗じ、それにより得られた補正量を駆動輪トルク目標値に加算する。図18に示す例では、補正量は、駆動力目標補正部15Hの後述する第1補正処理部15Ha及び第2補正処理部15Hbによって補正された駆動輪トルク目標値に加算される。また、補正量は、換算部15Bが算出した駆動輪トルク目標値、換言すると、第1補正処理部15Ha及び第2補正処理部15Hbの処理に供される前の駆動輪トルク目標値に加算されてもよい。走行負荷補正量算出部15Gのこのような処理により、車速が所定値(図21(a)の例ではVa1)以下の場合に駆動輪トルク目標値を増す補正が制限される。また、アクセル操作量が所定値(図21(b)の例ではAc1)以下の場合に駆動輪トルク目標値を増す補正が制限される。なお、車速係数は、車速が0の場合に0%に設定され、車速が0より高い場合には車速に応じて上昇してもよい。同様に、アクセル係数は、アクセル操作量が0%の場合に0%に設定され、アクセル操作量が0%より高い場合にはアクセル操作量に応じて上昇してもよい。この場合においても、車速が0又はアクセル操作量が0%の場合は、駆動輪トルク目標値を増す補正が制限される。
車速及びアクセル操作量に基づく補正量の算出は以上説明したものに限定されない。例えば、走行負荷補正量算出部15Gは車速が閾値よりも小さいか否かを判定し、車速が閾値よりも小さい場合には、補正量の算出自体を行わなくてもよい。また、走行負荷補正量算出部15Gはアクセル操作量が閾値よりも小さいか否かを判定し、アクセル操作量が閾値よりも小さい場合には、補正量の算出自体を行わなくてもよい。また、車速係数とアクセル係数のうちいずれか一方のみが算出されてもよい。
駆動力目標補正部15Hは、駆動輪トルク目標値に補正係数を乗じ、駆動輪トルク目標値を増す補正処理を行う。一例では、この補正係数を利用する補正処理は、図11を参照して説明したフィルタ関数を利用した補正とともに行われる。また、この補正係数を利用する補正処理は、当該フィルタ関数を利用した補正に替えて行われてもよい。図18に示すように、駆動力目標補正部15Hは、上述した補正係数を利用する補正を行う第1補正処理部15Haと、図11を参照して説明したフィルタ関数を利用した補正を行う第2補正処理部15Hbとを有している。図18では、第1補正処理部15Haの処理が第2補正処理部15Hbの処理よりも先に実行されることとなっているが、その処理の順序は逆でもよい。第2補正処理部15Hbの処理は、図11を参照して説明した駆動力目標補正部15Cの処理と同じであるため、ここでの説明を省略する。
第1補正処理部15Haは、車両が一定車速で走行している場合に受ける走行抵抗である基準走行抵抗よりも駆動輪トルク目標値(図18に示す例では、換算部15Bが算出した基準駆動輪トルク目標値)が大きい場合に、補正係数を利用した補正を行う(補正係数は1以上の値)。こうすることにより、車両が加速開始から一定車速での走行(以下、定常走行)に至るまで補正係数を利用した補正が行われ、より快適な加速性能が得られる。また、車両が定常走行に至った後は、補正係数を利用した補正が行われなくなるので、車両の挙動がアクセル操作に合致したものとなり、定常走行をより快適化できる。このような駆動輪トルク目標値の補正は、例えば次のように実行される。
一例では、第1補正処理部15Haは、駆動輪トルク目標値が基準走行抵抗算出部15Gaが算出した基準走行抵抗よりも大きいか否かを判定する。第1補正処理部15Haは、駆動輪トルク目標値が基準走行抵抗よりも大きい場合に、駆動輪トルク目標値に補正係数を乗じる。
他の例では、基準走行抵抗よりも駆動輪トルク目標値が大きい場合に、第1補正処理部15Haは、基準走行抵抗と駆動輪トルク目標値との差に補正係数を乗じ、その結果を基準走行抵抗に加算する((駆動輪トルク目標値−基準走行抵抗)×補正係数+基準走行抵抗)。こうすることにより、基準走行抵抗と駆動輪トルク目標値との差が小さくなるに従って、すなわち車両が定常走行に近づくに従って、補正による駆動輪トルク目標値の割り増し量が減少する。その結果、基準走行抵抗と駆動輪トルク目標値との差が解消された瞬間に車両の駆動力が急減することを防ぐことができる。
クラッチが完全に係合していない運転状態、すなわち車速が低い状態で、駆動力が補正により増大されることは望ましくない。そこで、車速が所定値以下の場合には、第1補正処理部15Haによる駆動輪トルク目標値を増す補正は制限されてもよい。このような補正の制限を実現するために、第1補正処理部15Haは、例えば車速に応じて変化する補正係数を駆動輪トルク目標値に乗じる。
図22は、補正係数と車速との関係の例を示す図である。同図において横軸は車速であり、縦軸は補正係数である。同図に示す例では、車速がVb1よりも低い領域では補正係数は1である。車速がVb1からVb2の領域では補正係数は徐々に増大し、車速がVb2からVb3の領域では補正係数は一定値である。また、車速が高い状態においても、補正により駆動力が大きく増大されることは好ましくない場合がある。そこで、図22の例では、車速がVb3よりも高い領域では補正係数は徐々に小さくなっている。このような補正係数を利用することにより、車速がVb1以下の場合には、第1補正処理部15Haによる駆動輪トルク目標値を増す補正は制限される。また、車速がVb3以上の場合には、第1補正処理部15Haによる駆動輪トルク目標値を増す補正は車速が増すにしたがって徐々に制限される。なお、補正係数はこれに限られず、車速によらず一定値でもよい。
図23は、第1補正処理部15Haによる補正処理の結果の例を示す図である。同図において横軸は車速であり、縦軸は駆動輪トルク目標値である。実線Rは基準走行抵抗を示し、実線Ptg1及びPtg2はアクセル操作量が一定の場合における車速と補正前の駆動輪トルク目標値(ここでは、後輪トルク)との関係の例を示す線である。破線Qtg1及びQtg2は実線Ptg1及びPtg2で示される駆動輪トルク目標値にそれぞれ対応する補正後の駆動輪トルク目標値である。
一般的にエンジン回転数が上昇すると、すなわち車速が高くなると、エンジントルクは減少する。そのため、図23に示されるように、実線Ptg1,Ptg2で示される駆動輪トルク目標値は、そのピークを越えた後は、車速の上昇に応じて小さくなる。上述したように、車速がV1より低い領域では補正係数は1に設定されている。そのため、車速がVb1に達するまでは、破線Qtg1,Qtg2で示される補正後の駆動輪トルク目標値は、実線Ptg1,Ptg2で示される補正前の駆動輪トルク目標値に一致している。車速がVb1よりも高い領域では、補正係数は1よりも高い値であるため、破線Qtg1,Qtg2で示される補正後の駆動輪トルク目標値は、実線Ptg1,Ptg2で示される補正前の駆動輪トルク目標値よりも高くなっている。車速が高くなるに従って、補正前の駆動輪トルク目標値は徐々に小さくなり、また、基準走行抵抗は徐々に大きくなる。そのため、車速が高くなるに従って、それらの差は徐々に小さくなる。その結果、補正前の駆動輪トルク目標値(実線Ptg1,Ptg2)に対する補正後の駆動輪トルク目標値(破線Qtg1,Qtg2)の割り増し量は車速が高くなるに従って徐々に小さくなる。そして、補正前の駆動輪トルク目標値が基準走行抵抗に一致する車速で、補正後の駆動輪トルク目標値は補正前の駆動輪トルク目標値に一致する。
さらに、駆動力目標補正部15Hは、第1補正処理部15Haと第2補正処理部15Hbによる駆動輪トルク目標値の補正が車速が所定値以下の場合に制限されるように、車速に基づいて駆動輪トルク目標値を補正する。また、駆動力目標補正部15Hは、第1補正処理部15Haと第2補正処理部15Hbによる駆動輪トルク目標値の補正がアクセル操作量が所定値以下の場合に制限されるように、アクセル操作量に基づいて駆動輪トルク目標値を補正する。こうすることにより、車速が低い場合や、アクセル操作量が小さい場合に、補正により車両の駆動力が増すことを抑えることができ、車両の減速時の乗車感を向上できる。
図18に示す例の駆動力目標補正部15Hは、このような制限を実現するために、補正量制限処理部15Hcを含んでいる。補正量制限処理部15Hcは、第1補正処理部15Haと第2補正処理部15Hbとによって補正された駆動輪トルク目標値を、車速とアクセル操作量とに基づいてさらに補正する。換言すると、補正量制限処理部15Hcは、第1補正処理部15Haと第2補正処理部15Hbとによって補正された駆動輪トルク目標値が有する、基準駆動輪トルク目標値に対する割り増し量を、車速とアクセル操作量とに基づいて制御する。
図18に例示す補正量制限処理部15Hcは、第1補正処理部15Haと第2補正処理部15Hbによって補正された駆動輪トルク目標値と、換算部15Bが算出した基準駆動輪トルク目標値との差(割り増し量)を算出する。そして、補正量制限処理部15Hcは、その差に、車速に応じて決まる上述の車速係数(図21(a)参照)と、アクセル操作量に応じて決まるアクセル係数(図21(b)参照)とを乗じる。そして、駆動力目標補正部15Hは、その乗算の結果を基準駆動輪トルク目標値に加算し、得られた結果を補正後の駆動輪トルク目標値、すなわち最終駆動輪トルク目標値とする。こうすることにより、車速がVa1より低い領域、及び、アクセル操作量がAc1より小さい領域では、結果的に、第1補正処理部15Haと第2補正処理部15Hbとによる補正は制限されることとなる。
なお、図18に示される例では、駆動力目標補正部15Hは、上述の走行負荷補正量算出部15Gによって算出された補正量と、補正量制限処理部15Hcによる乗算の結果とを、基準駆動輪トルク目標値に加算し、得られた結果を最終駆動輪トルク目標値としている。そして、この最終駆動輪トルク目標値に基づいて上述の逆換算部15D及び目標スロットル開度算出部18の処理が実行される。以上が図18に示す形態の制御装置が実行する処理の説明である。
ところで、以上に説明した実施形態では、目標スロットル開度算出部18が最終エンジントルク目標値に応じた目標スロットル開度を算出することで車両の駆動力を制御している。しかしながら、駆動力目標補正部15Hが基準駆動輪目標トルクを補正すると、最終エンジントルク目標値が実際にスロットル開度を設定することができない値になる場合がある。そこで、以下に説明する変形例では、そのような場合等に、回転数補正部11Hが車両の駆動力に関する情報に基づいて基準目標エンジン回転数を補正してCVT5の変速比を変化させることで、所望の駆動力を得ている。
図24は、制御装置10の変形例を示すブロック図である。上記実施形態と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。本変形例では、駆動力目標算出部15の逆換算部15Dから出力される最終エンジントルク目標値が、目標エンジン回転数算出部11の回転数補正部11Hに入力される。回転数補正部11Hは、基準回転数算出部11Aからの基準目標エンジン回転数と、逆換算部15Dからの最終エンジントルク目標値と、に基づいて最終目標エンジン回転数を算出する。
図25は、変形例に係る回転数補正部11Hを示すブロック図である。回転数補正部11Hは、換算部11Haと、マップ参照部11Hb(保持部の一例)と、最大値出力部11Hc(比較部の一例)と、を備えている。
換算部11Haは、逆換算部15Dからの最終エンジントルク目標値を最終エンジン出力目標値に換算し、換算された最終エンジン出力目標値をマップ参照部11Hbに出力する。最終エンジン出力目標値は、例えば、最終エンジントルク目標値に基準回転数算出部11Aからの基準目標エンジン回転数を乗じることによって算出される。
マップ参照部11Hbは、エンジン出力とエンジン回転数とを対応付けるマップを保持しており、換算部11Haからの最終エンジン出力目標値に対応するエンジン回転数をマップから読み出して、最大値出力部11Hcに出力する。マップ参照部11Hbが保持するマップの内容については、後に詳しく述べる。
最大値出力部11Hcは、基準回転数算出部11Aからの基準目標エンジン回転数と、マップ参照部11Hbから読み出されたエンジン回転数と、を比較して、大きい方を最終目標エンジン回転数として目標変速比算出部13に出力する。
すなわち、マップ参照部11Hbがマップから読み出すエンジン回転数は、最終目標エンジン回転数の下限値と言うことができる。以下、マップ参照部11Hbがマップから読み出すエンジン回転数を「下限エンジン回転数」といい、当該マップを「下限エンジン回転数マップ」という。
下限エンジン回転数マップの内容について説明する前に、エンジン回転数とエンジントルクとの関係について説明する。図26は、エンジン回転数とエンジントルクとの関係例を示すグラフである。横軸はエンジン回転数を表し、縦軸はエンジントルクを表している。また、図26中の各々の細線Eは、エンジン出力が等しい点を結んだ等出力線を表している。
図26中の4本の太線(a)〜(d)のうち、太線(a)は、スロットル開度が全開状態のときの点を結んだ線である(以下、全開曲線(a)という。)。太線(b)は、スロットル開度が全閉状態のときの点を結んだ線である(以下、全閉曲線(b)という。)。運転ポイントは、スロットル開度を設定することができる領域内、すなわち全開曲線(a)と全閉曲線(b)の間の領域内に位置する。
また、太線(c)は、等出力線上で最も燃料消費率が小さい点を結んだ線である(以下、最適効率運転線(c)という。)。太線(d)は、エンジンがアイドリング状態となる点を結んだ線である(以下、アイドリング線(d)という。)。
下限エンジン回転数マップの内容について説明する。図27は、下限エンジン回転数マップの内容を表す、エンジン出力とエンジン回転数との関係例を示すグラフである。横軸はエンジン出力を表し、縦軸はエンジン回転数を表している。図27のグラフ(エンジン出力−エンジン回転数)は、図26のグラフ(エンジン回転数−エンジントルク)におけるエンジントルクをエンジン出力に変換したものである。図26中の等出力線Eは、図27中の縦軸と平行な線に対応する。
図27中の4本の太線(a)〜(d)は、図26中の4本の太線(a)〜(d)に対応する。上述したように、運転ポイントは、全開曲線(a)と全閉曲線(b)の間の領域内に位置する。
ところで、駆動力目標算出部15の基準エンジントルク目標算出部15Aが算出する基準エンジントルク目標値は、基本的に全開曲線(a)と全閉曲線(b)の間の領域内に位置するように算出される。しかしながら、駆動力目標補正部15Hによる補正が行われると、最終エンジントルク目標値は全開曲線(a)と全閉曲線(b)の間の領域外に位置する場合がある。
図27では、駆動力補正の結果、最終エンジン出力目標値Otが全開曲線(a)を横軸方向に上回る例を図示している。具体的には、最終エンジン出力目標値Otと基準目標エンジン回転数Rbとで定められる目標運転ポイントPtは、全開曲線(a)と全閉曲線(b)の間の領域外に位置しており、このため、この目標運転ポイントPtを実現することはできない。
上記実施形態では、車両の駆動力の補正とエンジン回転数の補正とが互いに独立しており、目標スロットル開度の調整のみによって所望の駆動力を得ている。このため、目標運転ポイントPtが全開曲線(a)を横軸方向に上回ると、実際の運転ポイントPbは、全開曲線(a)を横軸方向に越えずに全開曲線(a)上に留まることになる。このため、最終エンジン出力目標値Otを実現する駆動力を得ることはできない。
これに対し、本変形例の回転数補正部11Hでは、マップ参照部11Hbが、最終エンジン出力目標値Otに対応する全開曲線(a)上のエンジン回転数(下限エンジン回転数)Rmを読み出し、最大値出力部11Hcが、下限エンジン回転数Rmと基準目標エンジン回転数Rbとを比較して大きい方を最終目標エンジン回転数とする。すなわち、基準目標エンジン回転数Rbが下限エンジン回転数Rmより小さい場合には、基準目標エンジン回転数Rbから下限エンジン回転数Rmへエンジン回転数が補正される。こうした回転数補正の結果、運転ポイントPmは、最終エンジン出力目標値Otと下限エンジン回転数Rmとで定められる全開曲線(a)上の位置に変化し、最終エンジン出力目標値Otを実現する駆動力が得られる。
また、最終エンジン出力目標値Otが全閉曲線(b)を横軸方向に下回る場合も同様の回転数補正が行われる。すなわち、最終エンジン出力目標値Otに対応する全閉曲線(b)上の下限エンジン回転数よりも基準目標エンジン回転数が小さい場合には、下限エンジン回転数が最終目標エンジン回転数として出力される。
また、以上には全開曲線(a)や全閉曲線(b)上のエンジン回転数が下限エンジン回転数となる例を説明したが、これに限られず、最適効率運転線(c)やアイドリング線(d)上のエンジン回転数が下限エンジン回転数となってもよい。また、全開曲線(a)とアイドリング線(d)が組み合わされてもよいし、全閉曲線(b)と最適効率運転線(c)が組み合わされてもよいし、各々の曲線(a)〜(d)が単独で用いられてもよい。
なお、以上に説明した変形例では、マップ参照部11Hb及び最大値出力部11Hcの動作によって、図27中の全開曲線(a)などの太線よりも縦軸方向の上側(エンジン回転数が高い側)の領域に運転ポイントが位置するように制御されたが、この態様に限られない。
例えば、最適効率運転線(c)などの任意の線よりも縦軸方向の下側(エンジン回転数が低い側)の領域に運転ポイントが位置するように制御されてもよい。この場合、最終エンジン出力目標値Otに対応する任意の線上のエンジン回転数(上限エンジン回転数)よりも基準目標エンジン回転数が大きい場合に、上限エンジン回転数が最終目標エンジン回転数として出力される。これによって、エンジン回転数の上昇が抑制される。また、振動が顕著となる特定の領域などを避けるように運転ポイントを制御することも可能である。
さらには、例えばある走行モードにおいては、最適効率運転線(c)などの任意の線上に運転ポイントが拘束されるように制御されてもよい。この場合、最終エンジン出力目標値Otに対応する任意の線上のエンジン回転数が常に最終目標エンジン回転数として出力される。
なお、以上に説明した変形例では、回転数補正部11Hは、車両の駆動力に関する値としての最終エンジン出力目標値と、基準目標エンジン回転数とに基づいて、最終目標エンジン回転数を算出していたが、この態様に限られない。
例えば、車両の駆動力に関する値としては、駆動力目標算出部15の逆換算部15Dから出力される最終エンジントルク目標値がそのまま用いられてもよいし、駆動力目標補正部15Hから出力される最終駆動輪トルク目標値が用いられてもよいし、これを出力に換算した最終駆動輪出力目標値が用いられてもよい。また、こうした補正後の目標値に限られず、補正前の目標値が車両の駆動力に関する値として用いられてもよい。さらには、後輪8の駆動力や車両加速度などの検出値が車両の駆動力に関する値として用いられてもよい。
なお、以上に説明した変形例における回転数補正は、上記実施形態における回転数補正と組み合わされてもよい。例えば、図24及び図25に示される回転数補正部11Hにおけるエンジン回転数の補正量が、図5等に示される回転数補正部11Bにおけるエンジン回転数の補正量に足し合わされてもよい。
以上の説明では基準目標エンジン回転数を補正した目標エンジン回転数を最終目標エンジン回転数と称していた。しかしながら、「最終」との用語は必ずしも基準目標エンジン回転数を補正した目標エンジン回転数がさらに補正されることを排除するものではない。