JP5988941B2 - 有機銅錯体、有機銅錯体溶液、銅酸化物薄膜、銅酸化物薄膜の製造方法、および、化合物 - Google Patents

有機銅錯体、有機銅錯体溶液、銅酸化物薄膜、銅酸化物薄膜の製造方法、および、化合物 Download PDF

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Description

本発明は、有機銅錯体、有機銅錯体溶液、銅酸化物薄膜、銅酸化物薄膜の製造方法、および、化合物に関する。
薄膜半導体デバイスには、種々の酸化物薄膜が用いられている。例えば、銅酸化物薄膜の1つである亜酸化銅(CuO)薄膜は、p型伝導性を示す直接遷移型半導体であることから、p型半導体として用いられている。
また、これらの薄膜半導体デバイスは、種々の用途に適用されており、例えば、CuO薄膜を用いた用途としては、p型半導体であるCuO薄膜と、n型半導体であるZnOやIGZO薄膜などとをpn接合した太陽電池(例えば、特許文献1および2参照)、発光ダイオード(例えば、特許文献3参照)、電界効果トランジスタ(例えば、特許文献4参照)、銅電極と接合した熱電変換素子(例えば、特許文献5参照)等が知られている。
特に、CuO薄膜は、バンドギャップが2.1eV程度で、可視光領域の光を吸収しキャリアを生成することから、太陽電池の光電変換材料として期待されている。また、CuOは毒性が低く、環境への影響が小さい。
ところで、銅酸化物薄膜を形成する手法としては、スパッタ法、MBE(Molecular Beam Epitaxy;分子線エピタキシー)法等の真空成膜法、及び、溶液塗布法、ゾル−ゲル法等の湿式法等が挙げられる。
例えば、非特許文献1では、ゾル−ゲル法を用いて、酸化銅薄膜を形成することが開示されている。また、溶液塗布による薄膜形成としては、例えば、銅アミノポリカルボン酸錯体および/または銅ポリカルボン酸錯体が溶解した溶液を基材表面にスピンコート法、ディップ法、バーコート法、フローコート法、スプレーコート法の内のいずれかの方法により塗布する工程、基板表面に溶液を塗布した後、溶媒を揮発させて所定の厚さに溶液組成物を乾燥する工程、および第18族の希ガス族、窒素から選ばれる単独かまたは2種以上を組み合わせた不活性ガス雰囲気の中で300℃〜700℃で1分から3時間の熱処理する工程を含む製造方法により、p型半導体の性能を持つ酸化銅(I)膜を形成することが開示されている(例えば、特許文献6参照)。
また、非特許文献2には銅錯体の例が開示されている。
特開2006−9083号公報 特開2007−13098号公報 特開2001−210864号公報 特開2008−10861号公報 特開2000−230867号公報 特開2011−119454号公報
Thin Solid Films, 442 (2003) 48 Monatschefte fur Chemie, 98, (1967), 564
真空成膜法による薄膜形成は、一般に、大型の真空装置が必要となるため、薄膜形成の製造コストが高くなる。そのため、非特許文献1や特許文献6に示すような湿式法により、薄膜を形成することが求められてきた。湿式法であれば簡便な装置で大面積に成膜が可能なため低コストで成膜を行うことができる。
しかしながら湿式法での銅酸化物薄膜の形成には、これまで高温でのアニール処理(加熱処理)が必要であった。既述のように、例えば、特許文献6に示す方法では、300℃以上の高温であることが必要である。このような高温でのアニール処理は、エネルギーコスト的に不利であり、基材や周辺部材の選択性が低くなる等の課題があった。
特に、近年は、より軽量で、柔軟性に富む薄膜半導体デバイスが要求されているため、基材として、可撓性の基材、具体的には、例えば、樹脂基材を用いることが求められている。しかしながら、300℃以上の加熱処理では、基材の耐熱性を考慮する必要があるため、基材や周辺部材の選択性が低くなる。
特許文献6に示される方法では、酸化銅(I)膜を形成する際、銅化合物を熱により分解させることで酸化銅(I)等を発生させているが、低温化、特に樹脂基板上に銅薄膜が形成可能になる300℃未満の温度領域で分解可能な銅化合物は知られていなかった。また、非特許文献2に開示されている銅錯体についても、熱分解特性は不明であった。
本発明は、低温でのアニール処理にて銅酸化物薄膜を形成可能な有機銅錯体、およびその配位子となる化合物、並びに、低温でのアニール処理にて銅酸化物薄膜を形成可能な有機銅錯体を含有する有機銅錯体溶液を提供することを課題とし、かかる課題を解決することを目的とする。
また、基材の選択性に富む銅酸化物薄膜の製造方法、および、基材の選択性に富む銅酸化物薄膜の製造方法により製造された銅酸化物薄膜を提供することを課題とし、かかる課題を解決することを目的とする。
上記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 下記一般式1で表される構造を有する有機銅錯体である。

〔一般式1中、R11、R12、R21、及び、R22は、それぞれ互いに同じでも異なっていてもよく、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、または、炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。R11とR21は、互いに連結して環を形成していてもよく、R12とR22は、互いに連結して環を形成していてもよい。
31、及び、R32は、それぞれ互いに同じでも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20のヘテロアリール基、または、ヒドロキシ基を表す。尚、R11、R12、R21、R22、R31、及び、R32で表される上記各基のC−H結合におけるHは、一価の置換基で置換されていてもよい。ただし、R11、R12、R21、及び、R22がいずれもメチル基を表すとき、R31およびR32は、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、または、ヒドロキシ基を表す。〕
<2> 一般式1中のR11、R12、R21、及び、R22が、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、または、炭素数6〜20のアリール基を表し、R11とR21は、互いに連結して環を形成していてもよく、R12とR22は、互いに連結して環を形成していてもよく、R31、及び、R32が、各々独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、または、ヒドロキシ基を表す<1>に記載の有機銅錯体である。
<3> 一般式1中のR11およびR12が同一であり、R21およびR22が同一である<1>または<2>に記載の有機銅錯体である。
<4> 一般式1中のR31およびR32が同一である<1>〜<3>のいずれか1つに記載の有機銅錯体である。
<5> 一般式1中のR11およびR12が異なり、R21およびR22が異なる<1>、<2>または<4>に記載の有機銅錯体である。
<6> 一般式1中のR11、R12、R21、および、R22が、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基である<3>〜<5>のいずれか1つに記載の有機銅錯体である。
<7> 一般式1中のR31およびR32が、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基、または、炭素数1〜4のアルコキシ基である<4>〜<6>のいずれか1つに記載の有機銅錯体である。
<8> 酸化銅薄膜の形成に用いられる<1>〜<7>のいずれか1つに記載の有機銅錯体である。
<9> <1>〜<8>のいずれか1つに記載の有機銅錯体と、溶媒とを含む有機銅錯体溶液である。
<10> 有機銅錯体を、少なくとも2種含む<9>に記載の有機銅錯体溶液である。
<11> 有機銅錯体の濃度が、0.01mol/L〜0.3mol/Lである<9>または<10>に記載の有機銅錯体溶液である。
<12> 溶媒が、非プロトン性極性溶媒である<9>〜<11>のいずれか1つに記載の有機銅錯体溶液である。
<13> <9>〜<12>のいずれか1つに記載の有機銅錯体溶液の塗布膜を乾燥および加熱処理することを含む、銅酸化物薄膜の製造方法である。
<14> 銅酸化物薄膜が、少なくとも1価の銅を含む<13>に記載の銅酸化物薄膜の製造方法である。
<15> <9>〜<12>のいずれか1つに記載の有機銅錯体溶液を、基材上に塗布して、有機銅錯体溶液塗布膜を形成する有機銅錯体溶液塗布膜形成工程と、
有機銅錯体溶液塗布膜を乾燥して有機銅錯体膜を得る乾燥工程と、
有機銅錯体膜を、230℃以上300℃未満で加熱して、銅酸化物薄膜を形成する加熱処理工程と、
を含む銅酸化物薄膜の製造方法である。
<16> 加熱処理工程は、酸素濃度が0.5体積%〜50体積%である雰囲気下で、有機銅錯体膜を加熱する<15>に記載の銅酸化物薄膜の製造方法である。
本発明によれば、低温でのアニール処理にて銅酸化物薄膜を形成可能な有機銅錯体、および有機銅錯体の配位子となる化合物、並びに、低温でのアニール処理にて銅酸化物薄膜を形成可能な有機銅錯体を含有する有機銅錯体溶液が提供される。
また、本発明によれば、基材の選択性に富む銅酸化物薄膜の製造方法、および、基材の選択性に富む銅酸化物薄膜の製造方法により製造された銅酸化物薄膜が提供される。
実施形態に係るpn接合型太陽電池の構成の一例を示すpn接合型太陽電池の模式断面図である。 実施例1−1により得られた銅錯体1−1の構造である。 実施例1−5により得られた銅錯体2−1の構造である。 実施例1−7により得られた銅錯体5−1の構造である。 実施例1−9により得られた銅錯体107−1の構造である。 実施例1−11により得られた銅錯体108−1の構造である。 実施例1−13により得られた銅錯体109−1の構造である。 実施例1−15により得られた銅錯体110−1の構造である。 実施例1−21により得られた銅錯体29−1の構造である。 実施例1−1により得られた銅錯体1−1のTG(Thermogravimetry)−DTA(Differential Thermal Analysis)曲線である。 実施例1−1により得られた銅錯体1−1のMS(Mass Spectrometry)曲線である。 銅錯体1−1を加熱して得た粉体の粉末X線回折曲線である。 実施例1−5により得られた銅錯体2−1および実施例1−7により得られた銅錯体5−1のTG(Thermogravimetry)曲線である。 実施例3−1により得られたCuO薄膜のXRD(X-ray Diffraction)パターンである。 実施例3−1により得られたCuO薄膜のXRD(X-ray Diffraction)パターンである。
以下、本発明の有機銅錯体および有機銅錯体溶液について、詳細に説明する。
<有機銅錯体>
本発明の有機銅錯体は、下記一般式1で表される構造を有する有機銅錯体(以下、「特定銅錯体」とも称する)である。
銅酸化物薄膜を形成するに当たり、原料として特定銅錯体を用いることで、低温度(例えば、300℃未満)で特定銅錯体を加熱処理したときに、銅酸化物を得ることができる。後述するように、特定銅錯体と溶媒とを用いて特定銅錯体溶液を得た上で、基材に塗布し、加熱することにより、基材上に容易に銅酸化物薄膜を形成することができる。

〔一般式1中、R11、R12、R21、及び、R22は、それぞれ互いに同じでも異なっていてもよく、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、または、炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。R11とR21は、互いに連結して環を形成していてもよく、R12とR22は、互いに連結して環を形成していてもよい。
31、及び、R32は、それぞれ互いに同じでも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20のヘテロアリール基、または、ヒドロキシ基を表す。尚、R11、R12、R21、R22、R31、及び、R32で表される上記各基のC−H結合におけるHは、一価の置換基で置換されていてもよい。ただし、R11、R12、R21、及び、R22がいずれもメチル基を表すとき、R31およびR32は、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、または、ヒドロキシ基を表す。〕
一般式1においては、R11、R12、R21、及び、R22が、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、または、炭素数6〜20のアリール基を表すか、R11とR21、およびR12とR22が、互いに連結して環を形成していることがより好ましく、また、R31、及び、R32が、各々独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、または、ヒドロキシ基を表すことがより好ましい。
一般式1において、R11およびR12が同一であり、R21およびR22が同一であると、特定銅錯体が左右対称の構造をとることとなり、単一生成物が得られ易く、精製が容易となる。また、特定銅錯体の合成が容易であるため、特定銅錯体の生産コストを低下することができる。
一般式1において、R31およびR32が同一であると、特定銅錯体の分解温度が均一になり易く、特定銅錯体が後述する有機銅錯体溶液とされ、有機銅錯体溶液の塗布膜が乾燥および加熱された場合にも、均一な膜密度の銅酸化物薄膜が得られ易くなる。
一方、一般式1において、R11およびR12が異なり、R21およびR22が異なると、特定銅錯体が後述する有機銅錯体溶液とされるとき、特定銅錯体の溶媒への溶解性を高めることができる。また、特定銅錯体が結晶化しにくくなるため、有機銅錯体溶液の塗布膜が乾燥および加熱されることにより得られる銅酸化物薄膜の膜密度が均一になり易い。
一般式1において、R11、R12、R21、またはR22がアルキル基を表す場合、そのアルキル基は、炭素数が1〜20であり、さらに、置換基を有していてもよい。R11、R12、R21、またはR22として表されるアルキル基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、2−エチルヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−メチルブチル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、シクロへキシル基、ベンジル基等が挙げられる。
11、R12、R21、またはR22がアルキル基を表す場合、R11、R12、R21、およびR22は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
11、R12、R21、またはR22として表されるアルキル基の炭素数は、1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1〜4がさらに好ましい。また、直鎖状または分岐状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
11とR21とが連結して得られる環およびR12とR22とが連結して得られる環の炭素数は、それぞれ、3〜10であることが好ましく、4〜8であることがより好ましく、5〜7がさらに好ましい。
一般式1において、R11、R12、R21、またはR22が不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基を表す場合、その不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基は、炭素数が2〜20であり、さらに、置換基を有していてもよい。R11、R12、R21、またはR22として表される不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、ビニル基、アリル基、クロチル基、プロパルギル基、5−ヘキセニル基、4−メチル−1−ペンテニル基、メタリル基、1−シクロへキセニル基、1−シクロペンテニル基等が挙げられる。
11、R12、R21、またはR22が不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基を表す場合、R11、R12、R21、およびR22は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
11、R12、R21、またはR22として表される不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基の炭素数は、2〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また、直鎖状または分岐状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
一般式1において、R11、R12、R21、またはR22がアリール基を表す場合、そのアリール基は、炭素数が6〜20の単環または縮合環のアリール基であり、さらに置換基を有していてもよく、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、m−トリル基、p−トリル基、m−アニシル基、p−アニシル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、キシリル基等が挙げられる。以上の中でも、R11、R12、R21、またはR22として表されるアリール基は、フェニル基、m−トリル基、p−トリル基、m−アニシル基、p−アニシル基が好ましい。R11、R12、R21、またはR22がアリール基を表す場合、R11、R12、R21、およびR22は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
11、R12、R21、またはR22として表されるアリール基の炭素数は、6〜10であることが好ましい。また、アリール基上の置換基については、ないことが好ましい。
一般式1において、R11、R12、R21、またはR22がヘテロアリール基を表す場合、そのヘテロアリール基は、炭素数が3〜20の単環または縮合環のヘテロアリール基であり、さらに置換基を有していてもよく、例えばチオフェン環、フラン環、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、およびこれらのベンゾ縮環体(例えばベンゾチオフェン)およびジベンゾジ縮環体(例えばジベンゾチオフェン、カルバゾール)、3−メチルチオフェン環、3,4−ジエチルチオフェン環が挙げられる。以上の中でも、R11、R12、R21、またはR22として表されるヘテロアリール基は、チオフェン環、フラン環、オキサゾール基が好ましい。
11、R12、R21、またはR22がヘテロアリール基を表す場合、R11、R12、R21、およびR22は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
11、R12、R21、またはR22として表されるヘテロアリール基の炭素数は、3〜10であることが好ましい。また、ヘテロアリール基上の置換基については、ないことが好ましい。
尚、本発明において「アリール基」とは、ベンゼン環系および非ベンゼン環系の芳香環から選ばれる少なくとも1種を有する芳香族化合物から芳香環上の水素原子1個を除いた基を表し、また「ヘテロアリール基」とは、アリール基における芳香環上の炭素原子の少なくとも1個がヘテロ原子で置き換わった基を表す。
一般式1におけるR11、R12、R21、及びR22は、以上の中でも、アルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。R11、R12、R21、及びR22が、炭素数1〜4アルキル基であると、特定銅錯体の分子量が小さくなり、加熱により分解し易い。さらに、特定銅錯体が後述する有機銅錯体溶液とされ、有機銅錯体溶液の塗布膜が乾燥および加熱された場合にも、特定銅錯体が分解し易く、膜中に有機成分が残存し難くなる。
一般式1において、R31またはR32がアルキル基を表す場合、そのアルキル基は、炭素数1〜20であり、さらに置換基を有していてもよい。R31またはR32として表されるアルキル基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、t-ブチル基、n−ヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、2−エチルヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−メチルブチル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、ベンジル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
31またはR32がアルキル基を表す場合、R31およびR32は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
31またはR32として表されるアルキル基の炭素数は、1〜12であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜6がさらに好ましい。
一般式1において、R31またはR32がアルコキシ基を表す場合、そのアルコキシ基は、炭素数1〜20であり、さらに置換基を有していてもよい。R31またはR32として表されるアルコキシ基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、1−メチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
31またはR32がアルコキシ基を表す場合、R31およびR32は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
31またはR32として表されるアルコキシ基の炭素数は、1〜12であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜6がさらに好ましい。また、直鎖状または分岐状であることが好ましい。
一般式1において、R31またはR32が不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基を表す場合、その不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基は、炭素数が2〜20であり、さらに、置換基を有していてもよい。R31またはR32として表される不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、ビニル基、アリル基、クロチル基、プロパルギル基、5−ヘキセニル基、4−メチル−1−ペンテニル基、メタリル基、1−シクロへキセニ1−シクロペンテニル基等が挙げられる。
31またはR32が不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基を表す場合、R31およびR32は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
31またはR32として表される不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基の炭素数は、2〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また、直鎖状または分岐状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
一般式1において、R31またはR32がアリール基を表す場合、そのアリール基は、炭素数が6〜20の単環または縮合環のアリール基であり、さらに置換基を有していてもよく、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、m−トリル基、p−トリル基、m−アニシル基、p−アニシル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、キシリル基等が挙げられる。以上の中でも、R31またはR32として表されるアリール基は、フェニル基、m−トリル基、p−トリル基、m−アニシル基、p−アニシル基が好ましい。R31またはR32がアリール基を表す場合、R31およびR32は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
31またはR32として表されるアリール基の炭素数は、6〜10であることが好ましい。また、アリール基上の置換基については、ないことが好ましい。
一般式1において、R31またはR32がヘテロアリール基を表す場合、そのヘテロアリール基は、炭素数が3〜20の単環または縮合環のヘテロアリール基であり、さらに置換基を有していてもよく、例えばチオフェン環、フラン環、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、およびこれらのベンゾ縮環体(例えばベンゾチオフェン)およびジベンゾジ縮環体(例えばジベンゾチオフェン、カルバゾール)、3−メチルチオフェン環、3,4−ジエチルチオフェン環が挙げられる。以上の中でも、R31またはR32として表されるヘテロアリール基は、チオフェン環、フラン環、オキサゾール基が好ましい。
31またはR32がヘテロアリール基を表す場合、R31およびR32は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
31またはR32として表されるヘテロアリール基の炭素数は、3〜10であることが好ましい。また、ヘテロアリール基上の置換基については、ないことが好ましい。
一般式1におけるR11、R12、R21、及び、R22がいずれもメチル基を表すとき、R31およびR32は、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、またはヒドロキシ基を表す。すなわち、R11、R12、R21、及び、R22がいずれもメチル基を表すとき、R31およびR32は共に水素原子で表されない。
一般式1におけるR31及びR32は、以上の中でも、アルキル基、アルコキシ基、不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基、アリール基、またはヘテロアリール基が好ましい。R31及びR32がアルキル基、不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、またはアルコキシ基であると、R31及びR32が共に水素原子を表す場合に比べ、特定銅錯体が完全に分解するのに要する温度を小さくすることができる。これは、アルキル基、不飽和結合を有する非芳香族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、またはアルコキシ基が、水素原子に比べ立体的に大きいため、熱分解の中間生成物同士が結合しにくくなるためと考えられる。銅錯体を加熱すると、銅錯体の熱分解により生じる中間生成物が互いに結合し、熱分解しにくい高分子量の化合物が生成してしまうことがある。このような高分子量の化合物が生成してしまうと、高分子量の化合物を分解するためさらに加熱を要する場合がある。特定銅錯体が、立体的に大きな基を有することで、熱分解時に、高分子量の化合物の生成を妨げる効果が大きいと考えられる。
一般式1におけるR31及びR32は、アルキル基またはアルコキシ基がより好ましい。
31及び/又はR32がアルキル基であることで、特定銅錯体の熱分解温度をより低くすることができる。また、R31及び/又はR32がアルコキシ基であることで、特定銅錯体が分子構造内に酸素を含むこととなるため、銅酸化物が得られ易くなる。
一般式1におけるR11、R12、R21、R22、R31、及び、R32で表される上記各基のC−H結合におけるHは、一価の置換基で置換されていてもよい。
一般式1におけるR11、R12、R21、R22、R31、またはR32がさらに有し得る置換基は、特に制限されず、水酸基、アルキル基(メチル基、エチル基、ヘキシル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等)、アリール基(フェニル基、m−トリル基、p−トリル基、m−アニシル基、p−アニシル基等)、アシル基(アセチル基、プロパノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、2−エチルヘキサノイル基、ベンゾイル基等)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、1−メチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェニルオキシ基、4−メチルフェニルオキシ基、3−メチルフェニルオキシ基、2−メチルフェニルオキシ基、4−クロロフェニルオキシ基、2−クロロフェニルオキシ基等)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、フェニルオキシエチルオキシカルボニル基、2,4−ジ−t−アミルフェニルオキシエチルカルボニル基等)、アシルオキシ基(アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、2−エチルヘキサノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、4−メトキシベンゾイルオキシ基、2−クロロベンゾイルオキシ基等)、アシルアミノ基(アセチルアミノ基、プロパノイルアミノ基、ヘキサノイルアミノ基、2−エチルヘキサノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、4−メトシキベンゾイルアミノ基、N−メチルアセチルアミノ基、N−メチルベンゾイルアミノ基、2−オキソピロリジノ基等)、カルバモイル基(カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、N,N−ジブチルカルバモイル基、モルホリノカルボニル基、ピペリジノカルボニル基等)、シアノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヘテロ環基(2−チエニル基、4−ピリジル基、2−フリル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基、1−イミダゾリル基、1−ピラゾリル基、ベンゾトリアゾール−1−イル基等)等が挙げられる。置換基はさらに別の置換基で置換されていてもよい。
置換基としては、アルキル基またはアリール基が好ましく、メチル基、エチル基またはフェニル基がより好ましい。また、置換基がアルキル基の場合は、置換基の炭素数は、1〜20であることが好ましい。
本発明の特定銅錯体は、化学構造が、一般式1で表されるものであれば、特に制限されず、種々の構造をとることができる。例えば、R11、R12、R21、R22、R31、及びR32がいずれも同じ基(例えば、アルキル基)である場合、各々の炭素数は同じであっても異なっていてもよい。また、R11が炭素数の多いアルキル基、R12がアリール基、R21がアルコキシ基等の異なる基の組み合わせでもよい。
特定銅錯体の一例として、例示化合物1〜例示化合物135を下記表1〜8に示すが、本発明の特定銅錯体は、これらに限られるものではない。
表1〜2および表4〜7中、Phはフェニル基を示す。また、表2に示す例示化合物20〜39において、R11とR21、及び、R12とR22は、互いに連結して環を形成しており、表2の「R11−R21」には、R11−R21で表される2価の連結基を示し、「R12−R22」には、R12−R22で表される2価の連結基を示した。従って、例えば、「R11−R21」が(CHであるとき、R11とR21とが互いに連結して形成する環は、5員環となる。








一般式1で表される本発明の特定銅錯体は、R11、R12、R21、R22、R31、または、R32が連結手となることにより、より分子量の大きい化合物となってもよい。例えば、水分子等を介して隣接する特定銅錯体と連結していてもよい。水分子等による水素結合は結合が弱く、特定銅錯体の分解温度以下で十分脱離するため、本発明の特徴を損ないにくい。
〔有機銅錯体の他の形態〕
本発明の有機銅錯体は、既述の特定銅錯体であるが、銅酸化物薄膜の形成には、次に示す一般式1から誘導される単量体を繰り返し単位とする多量体や、一般式1に示される骨格を一部に有するポリマーを用いることも考えられる。
具体的には、一般式1におけるR11、R12等が連結した参考化合物1、参考化合物2等が挙げられる。


参考化合物1は、R11〜R31がいずれもメチル基である特定銅錯体の三量体のごとき構造をしている。つまり、参考化合物1は、特定銅錯体のR11が、他の特定銅錯体のR12と連結基で結ばれ、R21が、他の特定銅錯体のR22と連結基で結ばれた構造をしている。参考化合物2では、参考化合物1とは少し異なる形態の三量体を繰り返し単位としたオリゴマーまたはポリマーとして表される。参考化合物2においてnは繰り返し単位数であり、1以上の整数を表す。
参考化合物1および参考化合物2では、一般式1のR11、R12、R21、およびR22を介して多量化しているが、R31またはR32を介して多量化してもよい。参考化合物1および参考化合物2において、連結基は、単結合であるが、単結合に限られず、2価以上の炭化水素基、アミド基、エステル基、カルボニル基、酸素原子、窒素原子等であってもよい。
次に、銅イオンに配位することで特定銅錯体を構成する化合物(配位子)について説明する。
本発明の前記一般式1で表される特定銅錯体は、配位子として下記一般式2で表される1,3−ジカルボニル化合物を用いてなる。

〔一般式2中、R13、及び、R23は、それぞれ互いに同じでも異なっていてもよく、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、または、炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。R13とR23は、互いに連結して環を形成していてもよい。
33は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20のヘテロアリール基、または、ヒドロキシ基を表す。尚、R13、R23、R33で表される上記各基のC−H結合におけるHは、一価の置換基で置換されていてもよい。ただし、R13、及び、R23がメチル基を表すとき、R33は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、または、ヒドロキシ基を表す。〕
一般式2におけるR13、R23、R33において、R13は一般式1のR11およびR12と、R23は一般式1のR21およびR22と、R33は一般式1のR31およびR32と同様に定義される。
一般式2におけるR13、R23がいずれもメチル基を表すとき、R33は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、またはヒドロキシ基を表す。すなわち、R13、R23がいずれもメチル基を表すとき、R33は水素原子、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数3〜20のヘテロアリール基を表さない。
本発明の特定銅錯体における配位子として用いられる化合物は、化学構造が、一般式2で表されるものであれば、特に制限されず、種々の構造をとることができる。例えば、R13、R23、又はR33がいずれも同じ基(例えば、アルキル基)である場合、各々の炭素数は同じであっても異なっていてもよい。また、R13が炭素数の多いアルキル基、R23がアリール基、R33がアルコキシ基等の異なる基の組み合わせでもよい。
一般式2で表される化合物の一例として、例示化合物L−1〜L−56を下記表9〜表12に示すが、本発明における上記化合物は、これらに限られるものではない。




次に、特定銅錯体の合成方法について説明する。
本発明の一般式1で表される特定銅錯体の合成は、一般式2で表される1,3−ジカルボニル化合物と第二銅塩とを混合することにより行う。
第二銅塩の種類は制限されない。
第二銅塩としては、銅と、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ酸、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、過マンガン酸などのオキソ酸との塩(すなわち、オキソ酸第二銅塩)、および塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅等のハロゲン化第二銅塩等が挙げられる。
以上の中でも、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、硝酸第二銅、硫酸第二銅、酢酸第二銅、安息香酸第二銅が、入手の容易性、溶媒への溶解性、および、副生成物ができにくい点で好ましい。
1,3−ジカルボニル化合物と第二銅塩は、それぞれ溶媒に溶解して溶液とした後、混合することが好ましい。溶媒としては、1,3−ジカルボニル化合物および第二銅塩それぞれを溶解するものであれば制限されず、水、アルコール、水混和性の非プロトン性有機溶剤等、任意の溶媒を用いることができるが、一般式2で表される化合物の分解を抑制する観点から、中でも、水、または水混和性の非プロトン性有機溶剤であることが好ましい。
溶媒としてアルコールを用いるときは、一般式2で表される化合物の分解を抑制する観点から、50℃を越えない比較的低温条件下で用いることが好ましい。
また、溶媒は、一般式2で表される1,3−ジカルボニル化合物と第二銅塩との混合により生じる油溶性の不純物を除去するために、トルエンやキシレンなどの水非混和性の有機溶剤を共存させてもよい。
また、一般式2で表される化合物と第二銅塩との反応で生じる酸を捕捉するために、混合反応系内に、塩基を共存させるか、または、第二銅塩との混合の前に予め、一般式2で表される化合物を塩にしておくことが好ましい。
混合反応系内に共存させる塩基としては、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アルカリ土類金属水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等)、塩基性酸化物(酸化マグネシウム、酸化カルシウム等)、求核性の乏しい有機塩基(トリエチルアミン、1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene等)等が挙げられる。
一般式2で表される1,3−ジカルボニル化合物と第二銅塩との混合形態としては、水混和性の有機溶剤中で反応を行なった後に水を加え、または、一般式2で表される配位子を水混和性の有機溶剤に溶かした溶液に、第二銅塩の水溶液を加える混合方法が、水に溶けにくい銅錯体を析出させることができるので好ましい。混合反応温度に特に制限は無いが、0℃〜50℃が好ましく、10℃〜40℃であることが好ましい。
一般式1中、R11およびR12、R21およびR22、並びに、R31およびR32の各組み合わせにおいて、少なくとも一組が異なる基の組み合わせである特定銅錯体を合成する場合は、次のようにして合成すればよい。
一般式2におけるR11、R21、及び、R31の少なくとも1つが異なる2種の化合物を混合して、第二銅塩と反応させることにより、R11およびR12、R21およびR22、並びに、R31およびR32のうちの少なくとも一組が異なる基の組み合わせとなる特定銅錯体が得られる。
本発明の特定銅錯体は、そのまま用いてもよいし、溶媒中に分散して、または溶解して用いてもよいし、他の固体物質と混合して用いてもよい。
中でも、特定銅錯体は、溶媒に溶解して、銅酸化物薄膜を形成する用途に用いるのが好ましい。
<有機銅錯体溶液>
本発明の有機銅錯体溶液は、既述の一般式1で表される有機銅錯体(特定銅錯体)と、溶媒とを含む。以下、本発明の有機銅錯体溶液を、特定溶液ともいう。
特定銅錯体を溶媒に溶解して溶液とすることで、溶液を基材等に塗布して形成した塗布膜から、低温で容易に銅酸化物薄膜を形成することができる。また、特定銅錯体を溶媒に溶解して溶液とすることで、銅濃度に偏りがない銅酸化物薄膜を得ることができる。
特定溶液は、特定銅錯体および溶媒のほかに、本発明の効果を損なわない限度において、さらに、特定銅錯体以外の有機銅錯体等の金属化合物のほか、界面活性剤、酸化剤等の添加剤を含んでいてもよい。
(特定銅錯体)
特定銅錯体の詳細については、既述のとおりである。
特定溶液は、特定銅錯体を1種のみを含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
特定溶液が2種以上の特定銅錯体を含有すると、特定溶液を用いて形成される塗布膜の結晶性を低くすることができる。
特定溶液中の特定銅錯体の濃度は、特に制限はないが、特定溶液を基材等に塗布して塗布膜を形成した際の膜厚を高め、特定溶液中での特定銅錯体の析出を抑えると共に、塗布膜の平坦性を向上する観点から、0.01mol/L〜0.3mol/Lであることが好ましい。
(溶媒)
特定溶液は、溶媒の少なくとも1種を含む。
溶媒は特定銅錯体を溶解可能な溶媒であれば、特に限定されず、無機溶媒であっても、有機溶媒であってもよい。
無機溶媒としては、酢酸、塩酸、リン酸等の酸、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液等の無機塩の水溶液、水等が挙げられる。
有機溶媒としては、アミド溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、アルコール溶媒(tert−ブチルアルコール、イソプロパノール、エタノール、メタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、2−ジエチルアミノエタノール等)、ケトン溶媒(アセトン、N−メチルピロリドン、スルホラン、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなど)、エーテル溶媒(テトラヒドロフランなど)、ニトリル溶媒(アセトニトリルなど)、その他上記以外のヘテロ原子含有溶媒
等が挙げられる。
特定溶液の溶媒は、以上の中でも、特定銅錯体の溶解度を高める観点から、有機溶媒であることが好ましく、非プロトン性極性溶媒であることがより好ましい。
非プロトン性極性溶媒は、既述の有機溶媒のうち、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ピリジン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、スルホラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。
特定溶液の溶媒は、特定銅錯体の溶解度をより高める観点から、これらの非プロトン性極性溶媒の中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ピリジン、及びテトラヒドロフランを好適に用いることができる。
また、特定溶液を塗布して銅酸化物薄膜を形成する際の乾燥工程時の負荷軽減の観点から、溶媒の沸点は80℃〜200℃であることが好ましい。
溶媒の沸点が、80℃以上であることで、特定溶液から得た塗布膜の乾燥速度が速くなりすぎず、膜とした際の平滑性を良好にすることができる。溶媒の沸点が、200℃以下であることで、塗布膜から溶媒が揮発しやすく、塗布膜中から除去し易くなる。
例えば、アミド溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミドは、特定銅錯体を、常温で0.2mol/L、沸点以下の加温条件で0.3mol/L、それぞれ溶解させることができ、且つ、沸点が165℃であるため、特定溶液の溶媒として好適に用いることができる。
なお、溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
(金属化合物)
特定溶液には、本発明の効果を損なわない限度において、特定銅錯体以外の金属化合物(「他の金属化合物」ともいう)を含んでいてもよい。
他の金属化合物は、特に制限されず、ストロンチウム化合物等が挙げられる。
特定銅錯体と共に、例えば、ストロンチウム化合物を溶媒に溶解して特定溶液を得ることで、SrCuを含む銅酸化物薄膜を形成することができる。
<銅酸化物薄膜>
本発明の銅酸化物薄膜は、本発明の有機銅錯体溶液(特定溶液)の塗布膜を乾燥および加熱処理してなる。
つまり、本発明の銅酸化物薄膜は、特定溶液を、例えば、基材に塗布し、乾燥することで形成される特定溶液の塗布膜を、加熱処理(アニール処理)することで、基材上に形成される薄膜である。
本発明の銅酸化物薄膜は、1価の銅酸化物薄膜であっても2価の銅酸化物薄膜であってもよい。また、本発明の銅酸化物薄膜は、1価の銅酸化物と2価の銅酸化物とを含む複合銅酸化物からなる薄膜であってもよい。
本発明の銅酸化物薄膜を半導体として機能させる観点からは、銅酸化物薄膜は、少なくとも1価の銅を含むことが好ましい。
p型半導体層である銅酸化物薄膜を低温で基板上に形成する観点においては、本発明の銅酸化物薄膜は、1価の銅酸化物からなる薄膜であることが好ましい。1価の銅酸化物としては、CuO、SrCu等が挙げられる。
また、銅酸化物薄膜は、銅酸化物薄膜を構成する全銅中の1価の銅の含有量が、70原子%以上であることが好ましい。全銅中の1価の銅の含有量が、70原子%以上であることで、銅酸化物薄膜を半導体として用いた際の移動度を向上することができる。
銅酸化物薄膜を構成する全銅中の1価の銅の含有量は、90原子%以上であることがより好ましく、95原子%以上であることがさらに好ましい。
銅酸化物薄膜の厚みは、特に制限されず、銅酸化物薄膜の目的の用途に適した厚みを選択することができる。例えば、銅酸化物薄膜をpn接合型太陽電池のp型半導体層として用いる場合には、銅酸化物薄膜の厚みは、0.01μm〜20μmの範囲とすればよい。
銅酸化物薄膜の厚みは、特定溶液の塗布膜を乾燥し、さらに特定溶液を塗布する等して、特定溶液の上塗りを重ねることで調整してもよい。
本発明の銅酸化物薄膜は、次の製造方法により製造することができる。
<銅酸化物薄膜の製造方法>
本発明の銅酸化物薄膜の製造方法は、既述の一般式1で表される構造を有する有機銅錯体および溶媒を含む有機銅錯体溶液を、基材上に塗布して、有機銅錯体溶液塗布膜を形成する有機銅錯体溶液塗布膜形成工程と、有機銅錯体溶液塗布膜を乾燥して有機銅錯体膜を得る乾燥工程と、有機銅錯体膜を、230℃以上300℃未満で加熱して、銅酸化物薄膜を形成する加熱処理工程と、を含む。
銅酸化物薄膜の製造方法が上記構成であることで、低温で銅酸化物薄膜を製造することができ、基材の選択可能性を高くすることができる。
本発明の銅酸化物薄膜の製造方法は、本発明の効果を損なわない限度において、上記の各工程に加え、さらに、他の工程を含んで構成されていてもよい。他の工程としては、加熱処理工程により得られた銅酸化物薄膜を冷却する冷却工程、乾燥工程後に得られた有機銅錯体膜にエネルギー線(電子線、赤外線、紫外線、真空紫外線、原子線、X線、γ線、可視光線等)を照射するエネルギー線照射工程等が挙げられる。
以下、本発明の銅酸化物薄膜の製造方法を構成する各工程について詳細に説明しながら、本発明の銅酸化物薄膜について説明する。
(有機銅錯体溶液塗布膜形成工程)
有機銅錯体溶液塗布膜形成工程では、特定銅錯体および溶媒を含む有機銅錯体溶液(特定溶液)を、基材上に塗布して、有機銅錯体溶液塗布膜を形成する。
特定溶液は、基材表面に塗布してもよいし、基材上に設けられた他の層に塗布してもよい。
基材上に設けられた他の層としては、基材と有機銅錯体溶液塗布膜との密着を向上させるための接着層、透明導電層等が挙げられる。
−基材−
基材の種類は、特に制限されず、目的の用途に適した形で用いることができ、ガラス、シリコン、金属等の無機材料、樹脂、ならびに、無機材料および樹脂の複合材料等が挙げられる。
樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンズアゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アイオノマー樹脂、シアネート樹脂、架橋フマル酸ジエステル、環状ポリオレフィン、芳香族エーテル、マレイミドーオレフィン、セルロース、エピスルフィド化合物等の合成樹脂が挙げられる。
無機材料および樹脂の複合材料としては、樹脂と、次の無機材料との複合プラスチック材料が挙げられる。すなわち、樹脂と酸化珪素粒子との複合プラスチック材料、樹脂と金属ナノ粒子との複合プラスチック材料、樹脂と無機酸化物ナノ粒子との複合プラスチック材料、樹脂と無機窒化物ナノ粒子との複合プラスチック材料、樹脂とカーボン繊維との複合プラスチック材料、樹脂とカーボンナノチューブとの複合プラスチック材料、樹脂とガラスフレークとの複合プラスチック材料、樹脂とガラスファイバーとの複合プラスチック材料、樹脂とガラスビーズとの複合プラスチック材料、樹脂と粘土鉱物との複合プラスチック材料、樹脂と雲母派生結晶構造を有する粒子との複合プラスチック材料、樹脂と薄いガラスとの間に少なくとも1回の接合界面を有する積層プラスチック材料、無機層と有機層を交互に積層することで、少なくとも1回以上の接合界面を有するバリア性能を有する複合材料等が挙げられる。
以上の中でも、基材は、可撓性を有する材質であることが好ましい。可撓性を有する基材を用いて銅酸化物薄膜を成膜することで、曲げられる銅酸化物薄膜を製造したり、落としても割れ難い銅酸化物薄膜を製造することができる。
中でも、軽量である点、可撓性を有する点から、基材は、樹脂または樹脂と樹脂以外の材料とを用いて得られる複合基材が好ましい。複合基材としては、例えば、金属板に樹脂板を張り合わせた積層基材が挙げられる。
基材の厚みに特に制限はないが、50μm〜1000μmが好ましく、50μm〜500μmであることがより好ましい。基材の厚みが50μm以上であると、基材自体の平坦性が向上し、基材の厚みが1000μm以下であると、基材自体の可撓性が向上し、後述する薄膜半導体デバイスをフレキシブル半導体デバイスとして使用することがより容易となる。さらに500μm以下であるとさらに可撓性が向上するためより好ましい。
特定溶液を基材上に塗布する手法は、特に限定はなく、スピンコート法、ディップ法、インクジェット法、ディスペンサー法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、スプレーコート法等を用いることができる。
特に、インクジェット法、ディスペンサー法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、及び、凹版印刷法は、基材上の任意の位置に塗布膜を形成することができ、且つ、成膜後のパターンニング工程が不要なことから、プロセスコストを低減することができる。また、塗布膜を除去することなくパターン形成をすることができるため、環境負荷も低減することできる。
有機銅錯体溶液塗布膜の厚みは、特定溶液中の特定銅錯体の濃度や、特定溶液の塗布条件によって任意に変更することができる。
より薄い有機銅錯体溶液塗布膜を形成する場合には、例えば、特定溶液中の特定銅錯体の濃度を薄くすればよい。また、特定溶液をスピンコート法で塗布する場合には、特定溶液を基材上に塗布する際の基材回転数を高くすることによって、薄い有機銅錯体溶液塗布膜を得ることができる。
より厚い有機銅錯体溶液塗布膜を形成する場合には、例えば、特定溶液中の特定銅錯体の濃度を濃くすればよい。また、特定溶液をスピンコート法で塗布する場合には、特定溶液を基材上に塗布する際の基材回転数を低くすることによって、厚い有機銅錯体溶液塗布膜を得ることができる。
(乾燥工程)
乾燥工程では、有機銅錯体溶液塗布膜を乾燥して有機銅錯体膜を得る。
すなわち、有機銅錯体溶液塗布膜中に含まれる溶媒を揮発させる工程である。
なお、乾燥工程後に得られる有機銅錯体膜は、加熱により銅酸化物薄膜が得られる前駆体であるため、乾燥工程後に得られる有機銅錯体膜を前駆体膜ともいう。
有機銅錯体溶液塗布膜中に含まれる溶媒を揮発させるための手法や乾燥条件は、特定溶液を構成する溶媒が塗布膜から除去可能な手法または条件であれば、特に制限されない。塗布膜を加熱したり、塗布膜を減圧環境下に置いたり、塗布膜を減圧環境下に置きつつ加熱すること等が挙げられる。
基材として、熱に弱い樹脂基材を用いる場合は、塗布膜の加熱温度は、樹脂のガラス転移温度よりも低い温度であることが好ましい。
また、乾燥工程後の有機銅錯体膜中の溶媒残存量は、特に制限はないが、加熱処理工程後の膜密度を高くする観点から、乾燥工程後に得られる有機銅錯体膜の全質量に対して、溶媒の全質量が50質量%以下となることが好ましい。
(加熱処理工程)
加熱処理工程では、有機銅錯体膜を、230℃以上300℃未満で加熱して(アニール処理)、銅酸化物薄膜を形成する。
有機銅錯体膜の加熱処理(アニール処理)は、有機銅錯体膜を230℃以上300℃未満で加熱することにより行う。加熱処理の温度が230℃以上であることで、特定銅錯体の熱分解が十分に進み、緻密な銅酸化物薄膜を得ることができる。また、加熱処理の温度が300℃未満であることで、有機銅錯体膜の加熱により銅酸化物薄膜を得る際に用いる基材を含めた銅酸化物薄膜の周辺部材の選択性が向上する。
加熱処理時間は、用いた基材の種類や、有機銅錯体膜の膜厚等により異なるが、例えば、1分〜3時間とすればよい。
加熱処理の方法は、特に限定はなく、電気炉による加熱や、赤外線ランプ加熱、ホットプレートによる加熱等が挙げられる。また、ランプ加熱を用いた高速熱処理装置(RTA装置;Rapid Thermal Annealing装置)等を用いることで、短時間で加熱処理を完了することができる。
また、加熱処理工程は、酸素を含む雰囲気であることが好ましい。有機銅錯体膜を、酸素を含む雰囲気下で加熱処理することで、銅酸化物薄膜が得られ易くなる。
特に、1価の銅酸化物薄膜を得るという観点から、酸素を含む雰囲気の酸素濃度は、0.5体積%〜50体積%であることがより好ましい。「酸素を含む雰囲気の酸素濃度」は、加熱処理を加熱装置で行う場合、加熱装置の加熱容器(炉)内の酸素濃度である。
例えば、有機銅錯体膜が形成された基材を含む加熱容器内が、酸素(O)と不活性ガスであるアルゴン(Ar)との混合ガスで満たされている場合、「酸素を含む雰囲気の酸素濃度」は、100×O/(Ar+O)〔体積%〕として算出される。
酸素を含む雰囲気の酸素濃度が高いとCuOが得られ易くなる。酸素濃度は、0.5体積%〜10体積%であることがより好ましい。
上記より好ましい酸素濃度の範囲(0.5体積%〜50体積%)で、有機銅錯体膜を加熱処理することによって、基材上に、CuO等の1価の銅を含む銅酸化物薄膜を得ることができる。
なお、既述の各工程は、繰り返し行ってもよい。
例えば、特定溶液を基材に塗布する有機銅錯体溶液塗布膜形成工程と、塗布膜を乾燥する乾燥工程と、を繰り返す(乾燥した塗布膜上に再び特定溶液を塗布し、乾燥する)ことにより、有機銅錯体膜の厚みを調整することができる。
(他の工程)
本発明の銅酸化物薄膜の製造方法は、有機銅錯体溶液塗布膜形成工程、乾燥工程、及び、加熱処理工程のほかに、更に、冷却工程、エネルギー線照射工程等の他の工程を有していてもよい。
−冷却工程−
冷却工程では、加熱処理工程により得られた銅酸化物薄膜を冷却する。
銅酸化物薄膜を冷却することで、スループットが高まり、生産性が向上することができる。
銅酸化物薄膜の冷却方法は特に制限されない。例えば、銅酸化物薄膜を空冷する方法、銅酸化物薄膜が形成された基材を室温(例えば、25℃)の金属板上に接触させる方法等が挙げられる。
−エネルギー線照射工程−
エネルギー線照射工程では、乾燥工程後に得られた有機銅錯体膜にエネルギー線(電子線、赤外線、紫外線、真空紫外線、原子線、X線、γ線、可視光線等)を照射する。
有機銅錯体膜にエネルギー線を照射することで、膜密度が高い緻密な膜を得ることができる。
以上説明した各工程を経ることによって、基材上に銅酸化物薄膜が製造される。
特に1価の銅を含む銅酸化物薄膜、例えば、CuO薄膜は、p型半導体として機能するため、基材上に成膜されたCuO薄膜は、種々の薄膜半導体デバイスに好適に用いることができる。
また、還元的雰囲気下において銅酸化物薄膜を形成した場合は、銅酸化物薄膜を構成する全原子に対する銅原子の含有量が、70原子%以上であることが好ましい。銅原子の含有量が、70原子%以上であることで、銅酸化物薄膜を導体として用いた際の移動度を向上することができる。
銅酸化物薄膜を構成する銅原子の含有量は、90原子%以上であることがより好ましく、95原子%以上であることがさらに好ましい。
<薄膜半導体デバイス>
本発明の薄膜半導体は、基材と、基材上に位置し、銅酸化物薄膜からなるp型半導体層とを有することで、半導体デバイスとすることが出来る。
本発明の薄膜半導体デバイスは、基材と、本発明の銅酸化物薄膜または本発明の銅酸化物薄膜の製造方法により製造された銅酸化物薄膜とを備える。
本発明の薄膜半導体は、さらに可撓性を有する基材を備え、p型半導体層は、基材上に位置する構成とすることができる。可撓性を有する基材上にp型半導体層を有することで、曲げられ、落としても壊れ難い薄膜半導体デバイスとすることができる。また、可撓性の基材を用いることで、薄膜半導体デバイスが軽量となり、且つ、薄膜半導体デバイスを巻いた形態で持ち運びが出来るため、モバイル用の電源として好適に利用することができる。さらには、軽量であるため、建物の屋根に設置する際の、建物への負担が軽減される。
なお、薄膜半導体デバイスが備え得る基材は、本発明の銅酸化物薄膜の製造方法で用いる基材と同じであり、好ましい態様も同様である。
また、薄膜半導体デバイスが基材を備える場合、p型半導体層は、基材上に位置すればよく、p型半導体層と基材との間に、他の層を有していてもよい。他の層としては、p型半導体層と基材との密着性を高める接着層等、種々の機能性層が挙げられる。
銅酸化物薄膜を用いた薄膜半導体デバイスは、種々の用途に適用することができ、太陽電池、発光ダイオード、電界効果トランジスタ、熱電変換素子等に適用が可能である。特に、CuO薄膜を用いた薄膜半導体デバイスは、バンドギャップが2.1eV程度で、可視光領域の光を吸収し、キャリアを生成することから、太陽電池の光電変換材料として好適に用いることができる。
<太陽電池>
本発明の銅酸化物薄膜、または、本発明の銅酸化物薄膜の製造方法により製造された銅酸化物薄膜を備えた薄膜半導体デバイスは、太陽電池として好適に用いることができる。例えば、本発明の銅酸化物薄膜を含むp型半導体層と、n型半導体層とを備えるpn接合を有する薄膜半導体デバイスを用いて、pn接合型太陽電池としてもよい。
pn接合型太陽電池のより具体的な実施形態としては、例えば、透明基板上に形成された透明導電膜上にp型半導体層およびn型半導体層が隣接して設けられ、p型半導体層およびn型半導体層の上に金属電極を形成する形が考えられる。
pn接合型太陽電池の一例を、図1を用いて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係るpn接合型太陽電池100の模式断面図を示す。pn接合型太陽電池100は、透明基板10と、透明基板10上に設けられた透明導電膜12と、透明導電膜12上に本発明の銅酸化物薄膜を含むp型半導体層14と、p型半導体層14上に、n型半導体層16と、n型半導体層16上に設けられた金属電極18とを含む。
p型半導体層14とn型半導体層16とが隣接して積層されることで、pn接合型の太陽電池とすることができる。
透明基板10としては、透明であれば、本発明の銅酸化物薄膜の製造方法で用いる基材と同じ材料を用いることができる。ガラス基板、樹脂基板等が挙げられる。本発明では、特定銅錯体を含む特定溶液を用いることで、低温(230℃以上、300℃未満)での銅酸化物薄膜形成が可能なことから、耐熱性の低い樹脂基板を、透明基板として用いることができる。
耐熱性の低い樹脂基板としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。
透明導電膜12としては、In:Sn(ITO)、SnO:Sb、SnO:F、ZnO:Al、ZnO:F、CdSnO等により構成される膜が挙げられる。
p型半導体層14は、既述のように、本発明の銅酸化物薄膜(例えば、CuO薄膜)を用いる。
n型半導体層16としては金属酸化物が好ましい。具体的には、Ti、Zn、Sn、Inの少なくとも一つを含む金属の酸化物が挙げられ、より具体的には、TiO、ZnO、SnO、IGZO等が挙げられる。n型半導体層は、製造コストの観点から、p型半導体層と同様に、湿式法(液相法ともいう)で形成されることが好ましい。
金属電極18としては、Pt、Al、Cu、Ti、Ni等を使用することができる。
以下に実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>(特定銅錯体の合成)
例示化合物1は、合成例A〜合成例Dに基づいて各々合成した(合成した例示化合物1をそれぞれ銅錯体1−1〜銅錯体1−4とする)。
例示化合物2は、合成例Eおよび合成例Fに基づいて各々合成した(合成した例示化合物2をそれぞれ銅錯体2−1〜銅錯体2−2とする)。
例示化合物5は、合成例Gおよび合成例Hに基づいて各々合成した(合成した例示化合物5をそれぞれ銅錯体5−1〜銅錯体5−2とする)。
例示化合物107は、合成例Kおよび合成例Lに基づいて各々合成した(合成した例示化合物107をそれぞれ銅錯体107−1〜銅錯体107−2とする)。
例示化合物108は、合成例Mおよび合成例Nに基づいて各々合成した(合成した例示化合物108をそれぞれ銅錯体108−1〜銅錯体108−2とする)。
例示化合物109は、合成例Oおよび合成例Pに基づいて各々合成した(合成した例示化合物109をそれぞれ銅錯体109−1〜銅錯体109−2とする)。
例示化合物110は、合成例Qおよび合成例Rに基づいて各々合成した(合成した例示化合物110をそれぞれ銅錯体110−1〜銅錯体110−2とする)。
例示化合物111は、合成例Sおよび合成例Tに基づいて各々合成した(合成した例示化合物111をそれぞれ銅錯体111−1〜銅錯体111−2とする)。
例示化合物58は、合成例Uに基づいて各々合成した(合成した例示化合物58を銅錯体58−1とする)。
例示化合物126は、合成例Vに基づいて各々合成した(合成した例示化合物126を銅錯体126−1とする)。
例示化合物29は、合成例Wに基づいて各々合成した(合成した例示化合物29を銅錯体29−1とする)。
例示化合物131は、合成例Xに基づいて各々合成した(合成した例示化合物131を銅錯体131−1とする)。
例示化合物132は、合成例Yに基づいて各々合成した(合成した例示化合物132を銅錯体132−1とする)。
例示化合物133は、合成例Zに基づいて各々合成した(合成した例示化合物133を銅錯体133−1とする)。
〔実施例1−1〕−例示化合物1(特定銅錯体)の合成例A−
N,N−ジメチルアセトアミド50mlに、1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene 9.5gを加えた後、水冷しつつメルドラム酸を5分間にわたり断続的に合計9g添加して、混合液を得た。この間、混合液の液温は18℃〜28℃であった。
混合液に、さらに、無水酢酸7mlを5分間にわたり滴下した後、室温に一晩放置した。塩化第二銅4.2gを25mlのN,N−ジメチルアセトアミドに溶かし、混合液に加えた後、室温で1時間放置した。得られた混合液を激しく攪拌しつつ、混合液にトルエン200mlを加えた後、さらに水400mlを加えて激しく攪拌した。1時間放置した後、混合液を吸引濾過し、濾過物を、水200mlをかけて洗い、水色の結晶13g〔銅錯体1−1(例示化合物1)〕を得た。
得られた結晶の5.5gに、N,N−ジメチルアセトアミド48mlを加えて加熱溶解した。得られた液体を濾過した後、濾液を室温まで冷却し、激しく攪拌しつつトルエン20mlを加え、次いで水200mlを加えた後30分間放置した。生じた結晶を吸引濾過して集め、結晶にトルエン30mlを少しずつかけて洗った。結晶を風乾した後、減圧乾燥し、4.55gの水色結晶を得た。この結晶をテトラヒドロフランに溶かし、得られた溶液にトルエンを加えた後、すぐに析出が起きない程度の水を加えた。得られた液体を室温で一晩放置したところ、長さ約0.3mmの柱状単結晶が得られた。得られた柱状単結晶について、X線結晶構造解析を行った。詳細は後述する。
〔実施例1−2〕−例示化合物1(特定銅錯体)の合成例B−
まず、メルドラム酸ナトリウム塩を、P. Houghton and D. J. Lapham, Synthsis, 1982年, 451ページに記載された化合物1の合成法に従って合成した。
次いで、得られたメルドラム酸ナトリウム塩8g(48mmol)を、N,N−ジメチルアセトアミド40mlに分散し攪拌しつつ、無水酢酸5.2mlを10mlのN,N−ジメチルアセトアミドに溶かして10分間にわたり滴下した後、室温で一晩放置した。不溶物を濾過して除き、濾液を攪拌しつつ、無水塩化銅3.23g(24mmol)を20mlのN,N−ジメチルアセトアミドに溶かした溶液を5分間にわたって濾液に滴下した。得られた混合液を激しく攪拌しつつ、水150mlを3分割して添加し、生じた結晶を濾取し、水50mlを2回かけて洗い、風乾して7.25gの水色結晶を得た。この結晶7.25gをN,N−ジメチルアセトアミド50mlに溶解し、濾過した。その後、濾液を激しく攪拌しつつ、水25mlを加え、更に175mlの水を加えて攪拌した。得られた混合物を、氷水浴に浸けて15℃まで冷却した後、生じた結晶を濾取した。得られた結晶を50mlの水をかけて洗った後、減圧下で乾燥し、水色の結晶として4.75gの銅錯体1−2(例示化合物1)を得た。
〔実施例1−3〕−例示化合物1(特定銅錯体)の合成例C−
メルドラム酸(7.2g,0.05M)を、ジクロロメタン(60ml)に溶解し、内温を−5℃としてピリジン(7.9g,0.1M)を徐々に加え、約10分間撹拌して混合液を得た。次いで、得られた混合液に、塩化アセチル(4.3g,0.055M)のジクロロメタン(20ml)溶液を20分間で滴下した。その後、室温にて1時間反応後、1N−HClにて反応液を酸性とし、水洗し、MgSOでの乾燥を行ってから、溶媒留去し、赤褐色の油状物を得た。油状物をシリカゲルクロマトグラフィーにて2回精製を繰り返し(Hexane:AcOEt=10:1〜5:1)、化合物Aを7.44g得た。
なお、得られた化合物AをH−NMR(CDCl)で分析したところ、次の結果が得られ、一般式2で表される下記構造であった。δ1.74(s,6H),2.68(s,3H),15.13(s,1H)。

得られた化合物A〔1.86g(10mmol)〕に、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを加えて溶解し、化合物A溶液を得た。その後、無水塩化銅650mg(5mmol)を5mlのN,N−ジメチルアセトアミドに溶かして化合物A溶液に加え、次いでトリエチルアミン1.4ml(10mmol)を加え、室温にて30分攪拌した。得られた混合物を激しく攪拌しつつ90mlの水を加えた後、30分間放置し、生じた結晶を濾取し、水をかけて洗い、乾燥して1.9gの水色粉末として銅錯体1−3(例示化合物1)を得た。
〔実施例1−4〕−例示化合物1(特定銅錯体)の合成例D−
水80mL中に、化合物A〔1.86g(10mmol)〕を加え、更に1mol/L水酸化ナトリウム溶液を10mL加え、約10分間攪拌し、化合物Aを溶解し、化合物A溶液2を得た。その後、硫酸銅五水和物 1.24g(5mmol)を20mLの水に溶かして化合物A溶液2に加え、室温にて30分攪拌した。生じた結晶を濾取し、水をかけて洗い、乾燥して1.6gの水色粉末として銅錯体1−4(例示化合物1)を得た。
〔実施例1−5〕−例示化合物2(特定銅錯体)の合成例E−
まず、Y.Oikawa,K.Sugano,O.Yonemitsu,J.Org.Chem.,Vol.43,2087(1978)に記載の化合物3aの合成法に従って、一般式2で表される下記構造の化合物Bを得た。

得られた化合物B〔2.00g(10mmol)〕に、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを加えて溶解し、化合物B溶液を得た。その後、無水塩化銅650mg(5mmol)を5mlのN,N−ジメチルアセトアミドに溶かして化合物B溶液に加え、次いでトリエチルアミン1.4ml(10mmol)を加えて、室温にて30分攪拌した。得られた混合物を激しく攪拌しつつ90mlの水を加えた後、30分間放置し、生じた結晶を濾取し、水をかけて洗い、乾燥して2gの水色粉末として銅錯体2−1(例示化合物2)を得た。
得られた結晶に、N,N−ジメチルアセトアミド48mlを加えて加熱溶解した。得られた液体を濾過した後、濾液を室温まで冷却し、激しく攪拌しつつトルエン20mlを加え、次いで水200mlを加えた後30分間放置した。生じた結晶を吸引濾過して集め、結晶にトルエン30mlを少しずつかけて洗った。結晶を風乾した後、減圧乾燥し、水色結晶を得た。この錯体をテトラヒドロフランに溶かし、得られた溶液にトルエンを加えた後、すぐに析出が起きない程度の水を加えた。得られた液体を室温で一晩放置したところ、長さ約0.3mmの柱状単結晶が得られた。得られた柱状単結晶について、X線結晶構造解析を行った。詳細は後述する。
〔実施例1−6〕−例示化合物2(特定銅錯体)の合成例F−
水80mL中に、化合物B〔2.00g(10mmol)〕を加え、更に1mol/L水酸化ナトリウム溶液を10mL加え、約10分間攪拌し、化合物Bを溶解し、化合物B溶液2を得た。その後、硫酸銅五水和物〔1.24g(5mmol)〕を20mLの水に溶かして化合物B溶液2に加え、室温にて30分攪拌した。生じた結晶を濾取し、水をかけて洗い、乾燥して2.0gの水色粉末として銅錯体2−2(例示化合物2)を得た。
〔実施例1−7〕−例示化合物5(特定銅錯体)の合成例G−
まず、Y.Oikawa,K.Sugano,O.Yonemitsu,J.Org.Chem.,Vol.43,2087(1978)に記載の化合物3iの合成法に従って一般式2で表される下記構造の化合物Cを合成した。

得られた化合物C〔2.6g(10mmol)〕に、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを加えて溶解し、化合物C溶液を得た。その後、無水塩化銅650mg(5mmol)を5mlのN,N−ジメチルアセトアミドに溶かして化合物C溶液に加え、次いでトリエチルアミン1.4ml(10mmol)を加え、室温にて30分攪拌した。得られた混合物を激しく攪拌しつつ90mlの水を加えた後、30分間放置し、生じた結晶を濾取し、水をかけて洗い、次いでキシレン50mlに分散して洗い、濾取、乾燥して2gの水色粉末として銅錯体5−1(例示化合物5)を得た。
得られた結晶に、N,N−ジメチルアセトアミド48mlを加えて加熱溶解した。得られた液体を濾過した後、濾液を室温まで冷却し、激しく攪拌しつつトルエン20mlを加え、次いで水200mlを加えた後30分間放置した。生じた結晶を吸引濾過して集め、結晶にトルエン30mlを少しずつかけて洗った。結晶を風乾した後、減圧乾燥し、水色結晶を得た。この錯体をテトラヒドロフランに溶かし、得られた溶液にトルエンを加えた後、すぐに析出が起きない程度の水を加えた。得られた液体を室温で一晩放置したところ、長さ約0.3mmの柱状単結晶が得られた。得られた柱状単結晶について、X線結晶構造解析を行った。詳細は後述する。
〔実施例1−8〕−例示化合物5(特定銅錯体)の合成例H−
水80mL中に、化合物C〔2.62g(10mmol)〕を加え、更に1mol/L水酸化ナトリウム溶液を10mL加え、約10分間攪拌し、化合物Cを溶解し、化合物C溶液2を得た。その後、硫酸銅五水和物〔1.24g(5mmol)〕を20mLの水に溶かして化合物C溶液2に加え、室温にて30分攪拌した。生じた結晶を濾取し、水をかけて洗い、乾燥して1.9gの水色粉末として銅錯体5−2(例示化合物5)を得た。
〔実施例1−9〕−例示化合物107(特定銅錯体)の合成例K−
まず、実施例1−5において、化合物Bの合成の際に用いたプロピオニルクロリドの代わりに、シクロプロパンカルボン酸クロリドを用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物Eを合成した。

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物E〔2.1g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、2.1gの水色粉末として銅錯体107−1(例示化合物107)を得た。
銅錯体107−1についても実施例1−5と同様に再結晶を行い、単結晶を作製し、X線結晶構造解析を行った。
〔実施例1−10〕−例示化合物107(特定銅錯体)の合成例L−
実施例1−6において、合成例Fの化合物Bの代わりに化合物E〔1.7g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、1.9gの水色粉末として銅錯体107−2(例示化合物107)を得た。
〔実施例1−11〕−例示化合物108(特定銅錯体)の合成例M−
まず、Canadian Journal of Chemistry,1992,vol.70、p.1427〜1445に記載の合成法に従って、下記構造の化合物Fを合成した。

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物F〔2.2g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、1.6gの水色粉末として銅錯体108−1(例示化合物108)を得た。
銅錯体108−1についても、実施例1−5と同様に再結晶を行い、単結晶を作製し、X線結晶構造解析を行った。
〔実施例1−12〕−例示化合物108(特定銅錯体)の合成例N−
実施例1−6において、合成例Fの化合物Bの代わりに化合物F〔1.7g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、1.4gの水色粉末として銅錯体108−2(例示化合物108)を得た。
〔実施例1−13〕−例示化合物109(特定銅錯体)の合成例O−
まず実施例1−5において、化合物Bの合成の際に用いたプロピオニルクロリドの代わりに、ブロモ酢酸クロリドを用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物Gを合成した。

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物G〔2.7g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、2.2gの水色粉末として銅錯体109−1(例示化合物109)を得た。
銅錯体109−1についても実施例1−5と同様に再結晶を行い、単結晶を作製し、X線結晶構造解析を行った
〔実施例1−14〕−例示化合物109(特定銅錯体)の合成例P−
実施例1−6において、合成例Fの化合物Bの代わりに化合物G〔2.7g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、2.4gの水色粉末として銅錯体109−2(例示化合物109)を得た。
〔実施例1−15〕−例示化合物110(特定銅錯体)の合成例Q−
まず、Canadian Journal of Chemistry,1992,vol.70、p.1427〜1445に記載の合成法に従って、下記構造の化合物Hを合成した。

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物H〔3.1g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、2.7gの水色粉末として銅錯体110−1(例示化合物110)を得た。
銅錯体110−1についても実施例1−5と同様に再結晶を行い、単結晶を作製し、X線結晶構造解析を行った
〔実施例1−16〕−例示化合物110(特定銅錯体)の合成例R−
実施例1−6において、合成例Fの化合物Bの代わりに化合物H〔3.1g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、2.2gの水色粉末として銅錯体110−2(例示化合物110)を得た。
〔実施例1−17〕−例示化合物111(特定銅錯体)の合成例S−
まず実施例1−5において、化合物Bの合成の際に用いたプロピオニルクロリドの代わりに、メトキシ酢酸クロリドを用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物Iを合成した。

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物I〔2.2g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、2.0gの水色粉末として銅錯体111−1(例示化合物111)を得た。得られた銅錯体のマススペクトルより、構造を確認した。
マススペクトル測定には、Applied Biosystems Voyager Syetem 6306を用い、マトリックスにα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸を用い、溶媒にクロロホルムを用いた。以下、マススペクトルを測定した化合物は、同じ条件を用いた。
〔実施例1−18〕−例示化合物111(特定銅錯体)の合成例T−
実施例1−6において、合成例Fの化合物Bの代わりに化合物I〔2.2g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、1.7gの水色粉末として銅錯体111−2(例示化合物111)を得た。
〔実施例1−19〕−例示化合物58(特定銅錯体)の合成例U−
まず、メルドラム酸〔14g(100mmol)〕とアセトフェノン〔13g(100mmol)〕をトルエン(200mL)中で、30分加熱還流させた後、n−ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルムを展開溶媒に用いたシリカゲルカラム精製を行い、中間体J’を4.2g得た。その後、実施例1−5において化合物Bの合成の際用いたメルドラム酸の代わりに、中間体J’〔4g(20mmol)〕を用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物L−19を4.4g、合成した。
H−NMR(400MHz,DMSO−d)δ1.9(s,3H)、2.4(s、3H)、7.4−7.5(m,2H)、7.5−7.6(m,3H)

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物L−19〔2.2g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、0.8gの水色粉末として銅錯体58−1(例示化合物58)を得た。得られた銅錯体のマススペクトルより、構造を確認した。
〔実施例1−20〕−例示化合物126(特定銅錯体)の合成例V−
実施例1−19のアセトフェノンの代わり2−アセチルチオフェンを用いて反応を行い、中間体K’を4.2g得た。その後、実施例1−5において化合物Bの合成の際用いたメルドラム酸の代わりに、中間体K’〔4.2g(20mmol)〕を用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物L−29を3.6g、合成した。
H−NMR(400MHz,DMSO−d)δ1.8(s,3H)、2.4(s、3H)、6.9−7.2(m,4H)

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物L−29〔2.5g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、0.6gの水色粉末として銅錯体126−1(例示化合物126)を得た。得られた銅錯体のマススペクトルより、構造を確認した。
〔実施例1−21〕−例示化合物29(特定銅錯体)の合成例W−
実施例1−19のアセトフェノンの代わりシクロヘキサノンを用いて反応を行い、中間体L’を9.2g得た。その後、実施例1−5において化合物Bの合成の際用いたメルドラム酸の代わりに、中間体L’〔3.7g(20mmol)〕を用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物L−39を4.1g、合成した。
H−NMR(400MHz,CDCl)1.5−1.8(m,6H)、1.9−2.4(m,7H)

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物L−39〔2.3g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、2.1gの水色粉末として銅錯体29−1(例示化合物29)を得た。
銅錯体29−1についても実施例1−5と同様に再結晶を行い、単結晶を作製し、X線結晶構造解析を行った。
〔実施例1−22〕−例示化合物131(特定銅錯体)の合成例X−
実施例1−19のアセトフェノンの代わり7−オクテン−2−オンを用いて反応を行い、中間体L’を2.2g得た。その後、実施例1−5において化合物Bの合成の際、用いたメルドラム酸の代わりに、中間体M’〔3.7g(20mmol)〕を用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物L−48を2.4g、合成した。
H−NMR(400MHz,CDCl)1.2−1.3(m,11H)、2.7(s、3H)、4.9〜6.1(m,3H)

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物L−48〔2.4g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、0.6gの水色粉末として銅錯体131−1(例示化合物131)を得た。得られた銅錯体のマススペクトルより、構造を確認した。
〔実施例1−23〕−例示化合物132(特定銅錯体)の合成例Y−
まず実施例1−5において、化合物Bの合成の際に用いたプロピオニルクロリドの代わりに、2−フランカルボン酸クロリドを用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物L−7を合成した。
H−NMR(400MHz,DMSO−d)δ1.8(s,6H)、6.8−7.3(m,4H)

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物L−7〔2.4g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、0.7gの水色粉末として銅錯体132−1(例示化合物132)を得た。得られた銅錯体のマススペクトルより、構造を確認した。
〔実施例1−24〕−例示化合物133(特定銅錯体)の合成例Z−
まず実施例1−5において、化合物Bの合成の際に用いたプロピオニルクロリドの代わりに、6−ヘプテンカルボン酸クロリドを用いて同様の反応を行い、下記構造の化合物Oを合成した。

実施例1−5において、合成例Eの化合物Bの代わりに化合物O〔2.5g(10mmol)〕を用いて同様の反応を行い、0.8gの水色粉末として銅錯体133−1(例示化合物133)を得た。得られた銅錯体のマススペクトルより、構造を確認した。
<X線構造解析>
以上のようにして合成された特定銅錯体のうち、銅錯体1−1、銅錯体2−1、銅錯体5−1、銅錯体107−1、銅錯体108−1、銅錯体109−1、銅錯体110−1、銅錯体29−1に関して、X線結晶構造解析を行った。解析にはリガク社製のデスクトップ単結晶X線構造解析装置XtaLAB miniを用い、測定は23℃の条件下で測定した。解析の結果得られた各種パラメータを以下に示す。なお、1Åは、0.1nmである。
〜銅錯体1−1〜
分子式:C1618CuO10
分子量:433.86
晶系 :trigonal
空間群:R−3
単位セルパラメーター:a=25.176(4)Å、c=8.955(2)Å、V=4916(2)Å
Calculated density:1.32g/cm
R値:0.07
Rw値:0.13
GOF:1.21
ここで、R−3は空間群の記号を表し、R値は最小二乗法の「相対残渣」を表し、Rw値は最小二乗法の「重み付き相対残渣」を表し、GOFは相関係数(Goodness of fitness)を表す。以下の銅錯体2−1、銅錯体5−1、銅錯体107−1、銅錯体108−1、銅錯体109−1、銅錯体110−1、および銅錯体29−1のR値、Rw値およびGOFの定義についても同様である。また、銅錯体5−1、銅錯体107−1、銅錯体108−1、109−1、銅錯体110−1、および銅錯体29−1におけるP−1、P21/c、およびC2/cは、空間群の記号を表す。
〜銅錯体2−1〜
分子式:C1822CuO10
分子量:461.91
晶系 :trigonal
空間群:R−3
単位セルパラメーター:a=25.053(8)Å、c=9.171(3)Å、V=4985(3)Å
Calculated density:1.39g/cm
R値:0.06
Rw値:0.12
GOF:1.24
〜銅錯体5−1〜
分子式:C2826CuO10
分子量:586.05
晶系 :triclinic
空間群:P−1
単位セルパラメーター:a=9.360(2)Å、b=14.777(3)Å、c=20.751(4)Å、V=2631(1)Å
Calculated density:1.48g/cm
R値:0.04
Rw値:0.10
GOF:1.06
〜銅錯体107−1〜
(分子式:)C2022CuO10
(分子量:)485.92
晶系 :三斜
空間群:P−1
単位セルパラメーター:a=9.299(6)Å、b=10.743(7)Å、c=10.937(7)Å、a=72.377(6)°、b=76.686(6)°、c=79.268(6)°、V=1005(1)Å
Calculated density:1.61g/cm
R値:0.05
Rw値:0.14
GOF:1.11
〜銅錯体108−1〜
(分子式:)C182212Cu
(分子量:)493.9
晶系 :単斜
空間群:P21/c
単位セルパラメーター:a=10.718(5)Å、b=8.662(4)Å、c=11.479(5)Å、b=109.187(4)°、V=1006.6Å
Calculated density:1.63g/cm
R値:0.03
Rw値:0.08
GOF:1.01
〜銅錯体109−1〜
(分子式:)C1616BRCuO10
(分子量:)591.65
晶系 :単斜
空間群:C2/c
単位セルパラメーター:a=15.96(1)Å、b=7.449(6)Å、c=17.88(1)Å、a=90°、b=95.184(7)°、c=90°、V=2118(3)Å
Calculated density:2.012g/cm
R値:0.17
Rw値:0.52
GOF:2.29
〜銅錯体110−1〜
(分子式:)C3236CuO13
(分子量:)692.16
晶系 :単斜
空間群:C2/c
単位セルパラメーター:a=23.007(9)Å、b=15.779(9)Å、c=17.007(8)Å、beta=92.111(6)°、V=6195(5)Å
Calculated density:1.48g/cm
R値:0.06
Rw値:0.11
GOF:0.99
〜銅錯体29−1〜
(分子式:)C2226CuO10
(分子量:)513.98
晶系 :単斜
空間群:P21/c
単位セルパラメーター:a=10.630(3)Å、b=12.571(3)Å、c=9.197(2)Å、beta=114.173(2)°、V=1121.3(5)Å
Calculated density:1.523g/cm
R値:0.04
Rw値:0.08
GOF:1.07
また、X線構造解析で得られた銅錯体1−1、銅錯体2−1、銅錯体5−1、銅錯体107−1、銅錯体108−1、銅錯体109−1、銅錯体110−1、銅錯体29−1に関しての構造式を、それぞれ図2〜図9に示した。
以上の結果から、銅錯体1−1、銅錯体2−1、銅錯体5−1、銅錯体107−1、銅錯体108−1、銅錯体109−1、銅錯体110−1、銅錯体29−1に関しては、いずれも既述の一般式1で示される錯体として得られていることが確認された。
<熱分解解析>
次に、得られた銅錯体1−1を加熱することによって生じる銅錯体1−1の質量変化(TG;Thermogravimetry)、示差熱(DTA;Differential Thermal Analysis)、および揮発成分の質量(MS;Mass Spectrometry)を測定する示差熱重量−質量分析(TG−DTA−MS)を行った。
測定条件は、Ar(80体積%)、O(20体積%)の雰囲気下で、2.0℃/minで室温から300℃まで昇温した。図10にTG−DTAの結果、図11にMS分析結果を、それぞれ示した。
図10中、曲線(A)が銅錯体1−1のTG曲線であり、曲線(B)が銅錯体1−1のDTA曲線である。また、破線(C)は、銅錯体1−1からCOとアセトンが脱離した際の銅錯体1−1からの減少量;−47.1質量%を表し、破線(D)は、全ての銅錯体がCuOになったとした際の銅錯体1−1からの減少量;−83.7質量%を表す。
銅錯体1−1の質量減少は150℃〜180℃と、180℃〜230℃の2段階で起こり、一段階目の質量減少の際には、アセトンに起因するm/z=43(CHCO)、m/z=58(CHCOCH)のピーク、CO(m/z=44)のピーク、HO(m/z=18)のピークが確認された。メルドラム酸は、熱分解時にアセトンとCOとケテンに分解することが知られており、一段階目にメルドラム酸の熱分解が起こっていると考えられる。なお、m/zは、質量電荷比を意味する。
また、銅錯体1−1を大気中、230℃で1時間加熱した粉体の粉末X線回折測定を行った。測定にはリガク社製RINT−UltimaIIIを用いた。得られた回折パターンを図12に示す。得られたピークは全てCuO(JCPDS#05−0667)と一致した。すなわち、実施例1−1で得られた銅錯体1−1は、230℃という低温で熱分解し、CuOを形成することが確認された。
銅錯体2−1、及び、銅錯体5−1に関しても同様に熱重量分析(TG)を行った。結果を図13に示す。なお、曲線(A)が銅錯体2−1のTG曲線であり、曲線(B)が銅錯体5−1のTG曲線である。銅錯体1−1同様に2段階での質量減少が見られ、いずれも300℃未満で質量減少が収束していることが確認された。
熱分解の完了については、銅錯体が分解しCuOが生じる計算値以上に質量減少が生じていること、質量減少が収束していること、DTAデータ等から昇華が起きていないことから判断した。
そのほかに、銅錯体のTGの結果を表13にまとめる。300℃未満で熱分解が完了したものをAで、300℃以上のものはBで示す。
銅錯体107−1〜133−1については、いずれも300℃未満で熱分解が完了した。一方、前述の特許文献6で行った手法(具体的には特許文献6の段落0046〜0056に記載の化合物)では、熱分解温度が500℃以上であった。
<実施例2>(銅錯体溶液の作製)
〔実施例2−1〕
銅錯体1−1を用いて、特定溶液である銅錯体溶液1を調製した。銅錯体1−1を1.95g秤量し、常温(25℃、以下同じ)のN,N−ジメチルアセトアミド30mL中に攪拌しながら加え、30分攪拌することで、0.15mol/Lの濃青色透明溶液(銅錯体溶液1)を得た。
〔実施例2−2〕
銅錯体1−1を0.65g秤量し、90℃に加熱した2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール30mL中に攪拌しながら加え、30分攪拌することで、0.05mol/Lの濃青色透明溶液(銅錯体溶液2)を得た。
〔実施例2−3〕
銅錯体1−1を0.33g秤量し、常温の2−ジエチルアミノエタノール30mL中に攪拌しながら加え、30分攪拌することで、0.025mol/Lの透明溶液(銅錯体溶液3)を得た。
〔実施例2−4〕
銅錯体1−1を0.65g秤量し、常温のピリジン30mL中に攪拌しながら加え、30分攪拌することで、0.05mol/Lの透明溶液(銅錯体溶液4)を得た。
〔実施例2−5〕
銅錯体1−1を0.65g秤量し、常温のテトラヒドロフラン30mL中に攪拌しながら加え、30分攪拌することで、0.05mol/Lの透明溶液(銅錯体溶液5)を得た。
〔実施例2−6〕
銅錯体1−1と銅錯体2−1を用いて、特定溶液である銅錯体溶液6を調製した。銅錯体1−1を1.3g、銅錯体2−1を1.4g、秤量し、常温のN,N−ジメチルアセトアミド30mL中に攪拌しながら加え、30分攪拌することで、銅錯体濃度が0.2mol/Lの濃青色透明溶液(銅錯体溶液6)を得た。
同様にして、下記表14にまとめた銅錯体溶液を調製した。
<実施例3>(CuO薄膜の作製)
〔実施例3−1〕−基材表面がシリコン基板−
実施例2−1で作製した銅錯体溶液(銅錯体溶液1)を用いて、CuO薄膜を作製した。
−有機銅錯体溶液塗布膜形成工程と乾燥工程−
銅錯体溶液1を、25mm四方のシリコン基板上に、3000rpmの回転速度で60秒スピンコートした後、200℃に加熱したホットプレート上で5分間乾燥させる工程を5回繰り返すことで、膜厚40nm程度の前駆体膜1(有機銅錯体膜)を得た。
−加熱処理工程−
得られた前駆体薄膜1を、下記アニール温度、および下記アニール雰囲気下で加熱した。
アニールは、200℃、230℃、250℃、280℃、300℃、または350℃の各アニール温度で行い、また、アニール雰囲気は、O/(Ar+O)流量比(体積基準)で、0(つまり、加熱処理時の炉内の酸素濃度0体積%)、0.1(酸素濃度10体積%)、0.2(酸素濃度20体積%)、0.5(酸素濃度50体積%)、0.8(酸素濃度80体積%)、1.0(酸素濃度100体積%)と変えて、加熱処理を施した。
なお、加熱処理は、高速熱処理装置(Allwin21社製AW−410)を用いて、50℃/secで所望の温度まで昇温し、3分間保持した後、炉内で冷却した。加熱処理時のガス総流量は2L/minとした。
得られた各CuO薄膜について薄膜X線回折測定を行った。測定にはリガク社製RINT−UltimaIIIを用い、入射角を0.35°に固定した2θ測定にて評価を行った。
図14に、アニール雰囲気をO/(Ar+O)=0.2(加熱処理時の炉内の酸素濃度20体積%)に固定し、200℃、230℃、250℃、280℃、300℃、または350℃の各アニール温度で加熱処理を行った薄膜のXRD(X-ray Diffraction;X線回折)パターンを示す。曲線Fで示される200℃ではピークが確認できなかった。曲線E〜Cで示される230℃、250℃、及び280℃ではCuO(JDPDS#05−0667)のピークが主として確認された。
図14中の(c)で示されるピークはCuO(111)の存在を表し、(d)で示されるピークはCuO(200)の存在を表す。
また、曲線Bで示される300℃、および曲線Aで示される350℃では、CuOのピークに加えてCuO(JCPDS#48−1548)のピークが確認された。図14中の(a)で示されるピークはCuO(11−1)の存在を表し、(b)で示されるピークはCuO(111)の存在を表す。
図15にアニール温度を250℃に固定し、O/(Ar+O)=0(酸素濃度0体積%)、0.005(酸素濃度0.5体積%)、0.015(酸素濃度1.5体積%)、0.05(酸素濃度5体積%)、0.1(酸素濃度10体積%)、0.2(酸素濃度20体積%)、0.5(酸素濃度50体積%)、0.6(酸素濃度60体積%)、0.8(酸素濃度80体積%)、または1.0(酸素濃度100体積%)の各アニール雰囲気化で加熱処理を行った薄膜のXRDパターンを示す。
/(Ar+O)=0.005〜0.05〔曲線(B)〜曲線(D)〕に関してはCuOのピークのみが確認できた。
/(Ar+O)が0.1〜0.5〔曲線(E)〜曲線(G)〕の範囲ではCuOのピークのみが確認された。一方、O/(Ar+O)=0.8以上〔曲線(I)〜曲線(J)〕のサンプルからは明瞭なピークが確認できなかった。また、O/(Ar+O)=0〔曲線(A)〕では、Cu(JCPDS#04−0836)のピークが確認された。
なお、図15中の(a)で示されるピークはCu(111)の存在を表し、(b)で示されるピークはCu(200)の存在を表す。また、図15中の(c)で示されるピークはCuO(111)の存在を表し、(d)で示されるピークはCuO(200)の存在を表し、(e)で示されるピークはCuO(220)の存在を表す。
/(Ar+O)=0.6のXRDパターン〔曲線(H)〕では明瞭なピークが確認されなかったため、CuOが得られる範囲は0.005(酸素濃度0.5体積%)≦O/(Ar+O)≦0.5(酸素濃度50体積%)であることがわかった。
〔実施例3−2〕
実施例2−6で作製した銅錯体溶液(銅錯体溶液6)を用いて、CuO薄膜を作製した。
−有機銅錯体溶液塗布膜形成工程と乾燥工程−
銅錯体溶液6を、25mm四方のシリコン基板上に、3000rpmの回転速度で60秒スピンコートした後、200℃に加熱したホットプレート上で5分間乾燥させる工程を5回繰り返すことで、膜厚40nm程度の前駆体薄膜6(有機銅錯体膜)を得た。
−加熱処理工程−
前駆体薄膜6を、アニール温度が250℃、アニール雰囲気がO/(Ar+O)流量比(体積基準)で、0.2(酸素濃度20体積%)の条件にて、加熱処理を施しCuO薄膜6を得た。
CuO薄膜6について、同様に薄膜X線回折測定を行ったところ、CuOのピークが主として確認された。
以下同様に、前駆体薄膜を作製し、前駆体薄膜6と同じ条件でCuO薄膜を作製した。結果を表15にまとめる。また、薄膜X線回折測定を行った際、CuOのピークが主として確認されたものをA、主として確認できなかったものをBで表す。CuO薄膜7〜15においても、薄膜X線回折測定を行った際、主なピークがCuO由来であることが確認された。
〔実施例3−3〕−基材表面が樹脂基板−
実施例2−1で調製した銅錯体溶液1−1を用いて、CuO薄膜を作製した。
まず、基材として、25mm四方のシリコン基板上にアクリル系粘着剤を介して剥離可能に貼り付けられたポリイミド樹脂基板を有する積層基材を用意した。
次に、銅錯体溶液1−1を、積層基材のポリイミド樹脂基板表面に、3000rpmの回転速度で60秒スピンコートした後、200℃に加熱したホットプレート上で5分間乾燥させる工程を5回繰り返すことで、膜厚40nm程度の前駆体膜2(基材つきの有機銅錯体膜)を得た。
得られた前駆体薄膜2について、アニール温度250℃、アニール雰囲気をO/(Ar+O)=0.15とし、3分の加熱処理を施したところ、薄膜X線回折測定において、実施例3−1の結果と同様にCuOのピークのみが確認された。
以上のようにして得られたCuO薄膜は、p型半導体として機能するため、薄膜半導体デバイスに適用することができる。また、n型半導体となる部材と隣接する構成で薄膜半導体デバイスを製造することで、pn接合を有する薄膜半導体デバイスとすることができると共に、pn接合型太陽電池への適用にも適している。
さらに、実施例3−2からわかるように、加熱温度250℃でアニールを行っても、銅酸化物薄膜であるCuO薄膜を作成することができるため、熱に弱い可撓性の樹脂基板も基材として用いることができ、フレキシブルな薄膜半導体デバイスの製造も可能であることがわかる。
14 p型半導体層
16 n型半導体層
100 pn接合型太陽電池

Claims (16)

  1. 下記一般式1で表される構造を有する有機銅錯体。

    〔一般式1中、R11、R12、R21、及び、R22は、それぞれ互いに同じでも異なっていてもよく、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、または、炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。R11とR21は、互いに連結して環を形成していてもよく、R12とR22は、互いに連結して環を形成していてもよい。
    31、及び、R32は、それぞれ互いに同じでも異なっていてもよく、各々独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、不飽和結合を有する炭素数2〜20の非芳香族炭化水素基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20のヘテロアリール基、または、ヒドロキシ基を表す。尚、R11、R12、R21、R22、R31、及び、R32で表される上記各基のC−H結合におけるHは、一価の置換基で置換されていてもよい。ただし、R11、R12、R21、及び、R22がいずれもメチル基を表すとき、R31およびR32は、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、または、ヒドロキシ基を表す。〕
  2. 前記一般式1中のR11、R12、R21、及び、R22が、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、または、炭素数6〜20のアリール基を表し、R11とR21は、互いに連結して環を形成していてもよく、R12とR22は、互いに連結して環を形成していてもよく、R31、及び、R32が、各々独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、または、ヒドロキシ基を表す請求項1に記載の有機銅錯体。
  3. 前記一般式1中のR11およびR12が同一であり、R21およびR22が同一である請求項1または請求項2に記載の有機銅錯体。
  4. 前記一般式1中のR31およびR32が同一である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機銅錯体。
  5. 前記一般式1中のR11およびR12が異なり、R21およびR22が異なる請求項1、請求項2または請求項4に記載の有機銅錯体。
  6. 前記一般式1中のR11、R12、R21、および、R22が、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基である請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の有機銅錯体。
  7. 前記一般式1中のR31およびR32が、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基、または、炭素数1〜4のアルコキシ基である請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の有機銅錯体。
  8. 酸化銅薄膜の形成に用いられる請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の有機銅錯体。
  9. 請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の有機銅錯体と、溶媒とを含む有機銅錯体溶液。
  10. 前記有機銅錯体を、少なくとも2種含む請求項9に記載の有機銅錯体溶液。
  11. 前記有機銅錯体の濃度が、0.01mol/L〜0.3mol/Lである請求項9または請求項10に記載の有機銅錯体溶液。
  12. 前記溶媒が、非プロトン性極性溶媒である請求項9〜請求項11のいずれか1項に記載の有機銅錯体溶液。
  13. 請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載の有機銅錯体溶液の塗布膜を乾燥および加熱処理することを含む、銅酸化物薄膜の製造方法
  14. 前記銅酸化物薄膜が、少なくとも1価の銅を含む請求項13に記載の銅酸化物薄膜の製造方法
  15. 請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載の有機銅錯体溶液を、基材上に塗布して、有機銅錯体溶液塗布膜を形成する有機銅錯体溶液塗布膜形成工程と、
    前記有機銅錯体溶液塗布膜を乾燥して有機銅錯体膜を得る乾燥工程と、
    前記有機銅錯体膜を、230℃以上300℃未満で加熱して、銅酸化物薄膜を形成する加熱処理工程と、
    を含む銅酸化物薄膜の製造方法。
  16. 前記加熱処理工程は、酸素濃度が0.5体積%〜50体積%である雰囲気下で、前記有機銅錯体膜を加熱する請求項15に記載の銅酸化物薄膜の製造方法。
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