JP5452196B2 - p型半導体の性能を持つ酸化銅(I)膜の製造方法および該膜作成用の溶液の製造方法 - Google Patents

p型半導体の性能を持つ酸化銅(I)膜の製造方法および該膜作成用の溶液の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、銅のキレート錯体を含有する塗布液を基材表面に塗布した後、不活性ガス雰囲気の中で熱処理して製膜することにより、p型半導体の性能を持つ酸化銅(I)膜の製造方法と該膜作成用の溶液製造方法に関する。
酸化物半導体の1つである酸化銅(I)は立方晶の結晶構造を持ち、可視光の光を吸収しホールを発生するp型半導体としての性質を持っている。このため、製造に膨大なエネルギーとコストのかかるシリコン半導体の代替材料になりうる可能性をもっており、「酸化銅(I)系化合物(p型)/二酸化チタン系もしくは亜鉛系化合物(n型)」に代表される次世代型酸化物系乾式透明太陽電池に適用できる可能性を持っている。これは、現在主流のシリコン太陽電池と比べて、透明度が極めて高いので屋根以外に窓にも設置可能となり適用エリアが広がるだけでなく、製造コストも優れ、安価で汎用性が高い金属なので入手し易い特徴を持っている。
このp型酸化物半導体の酸化銅(I)の膜を作るには、乾式法ではスパッタ法(非特許文献1)、熱酸化法(非特許文献2)、分子ビームエピタキシャル法(非特許文献3)などの方法で製膜が検討され、湿式法では電着法(非特許文献4)、ゾルゲル法(非特許文献5)などの方法で検討されている。
このように様々な製膜法で研究が盛んに行われているが、製膜過程で半導体の性能を持たない酸化銅(II)が生成しやすいため、半導体性能を持つ酸化銅(I)の単層膜を製膜するのは一般的に困難といわれている。このため、シリコンの代替材料としての用途や太陽電池材料のような大面積基材の表面に簡便な方法でp型半導体の性質をもつ酸化銅(I)の単層膜を製膜する方法は現在のところ発明されていない。
H. Zhu, et al., Thin Solid Films, 2009, 517, 5700-5704 Y. S. Gong, et al., J. Appl. Phys.,1995, 77, 5422-5425 Z. Q. Yu, et al., Nanotechnology, 2007, 18, 115601 F. Oba, et al., J. Am. Ceram. Soc., 2005, 88, 253-270 L. Armelao, et al., / Thin Solid Films. 2003, 442, 48-52
前記の酸化銅(I)膜製造の先行技術の内、非特許文献1、非特許文献3に記載のスパッタ法、分子ビームエピタキシャル法にあっては、製膜工程において真空に近い系と高エネルギーを必要とするため製造コストが高くなる。
非特許文献2の熱酸化法は、シリコン単結晶の表面にスパッタ法で金属銅を製膜した後に、空気中で200〜400℃で1時間アニールを行い作成している。製膜工程にスパッタ法を用いているため前記と同様の問題を持っている。
一般に乾式法はその製膜原理により大面積化や形状が複雑なものに製膜するのが難しいなどの制約がある。また、均一で安定した膜が得られるものの装置が複雑で高価であるといった本質的に回避できない欠点も持っている。
湿式法に代表される非特許文献5のゾルゲル法は、酢酸銅のアルコール溶液を用いて、窒素雰囲気中900℃で5時間熱処理して酸化銅(I)膜を作成した報告がある。900℃の高温に耐えられる基材の種類は制限されるだけでなく、5時間も熱処理時間を必要とするため消費するエネルギー量は少なくない。また、その膜の半導体としての電気的性質についての報告は記載されていない。
これまでに特許、論文とも湿式法でp型半導体の性質をもつ酸化銅(I)の単層膜の製膜に成功した報告はない。以上述べたように、従来の製膜技術では、簡便かつ低コストの方法での製膜は不可能だった。
また、近年の低環境負荷の材料開発の流れから、化学的製膜法において低公害、低エネルギー(低い熱処理温度)で目的の材料が作れる製膜技術の開発が望まれている。
本発明は、上記課題を一挙に解決するものであり、銅のキレート錯体を含有する塗布液を基材表面に塗布した後、不活性ガス雰囲気の中で熱処理するのみの極めて簡便な工程により、p型半導体の性能を持つ酸化銅(I)の単層膜および該膜を有する該部材の製造方法と該膜作成用の溶液の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、簡単な装置で、p型半導体の性能を持つ酸化銅(I)の単層膜を容易に製造する方法について研究を進めてきたところ、アンモニア、アミン化合物から選ばれる1種以上の化合物と銅アミノポリカルボン酸錯体、銅ポリカルボン酸錯体から選ばれる1種以上の銅のキレート錯体が極性溶媒に溶解している溶液を基材表面に塗布した後、希ガス族、窒素から選ばれる1種以上の不活性ガス雰囲気の中で300℃〜700℃で1分から3時間の熱処理する1段階の工程により容易にp型半導体の性能を持つ酸化銅(I)膜が製造できることを発見した。
本発明の酸化銅(I)膜作成用の溶液は、スピンコート法、ディップ法、バーコート法、フローコート法、スプレーコート法のいずれの方法でも均一かつ均質な製膜が可能である。この膜は熱処理前であれば、水またはアルコールなどで拭き取り、または洗浄により容易に除去でき、塗り直しが可能なことにより、生産時においては歩留まりが飛躍的に向上できる。
同じ湿式法のゾル−ゲル法は、安定的に均質な膜を得る条件の設定は容易でなく、また塗布後は重合してゲル化するため塗り直しはできないので歩留まり向上は困難であり、結果的に工程面からも高コストが進んでしまう。
この銅のキレート錯体を含有する溶液を基材表面に塗布した後,不活性ガス雰囲気の中で熱処理することで容易にp型半導体の性能を持つ酸化銅(I)の単層膜が製造することができる。
本発明は、アンモニア、アミン化合物から選ばれる1種以上の化合物と銅アミノポリカルボン酸錯体、銅ポリカルボン酸錯体から選ばれる1種以上の銅のキレート錯体が溶解している溶液を基材表面に塗布した後、不活性ガス雰囲気の中で300℃〜700℃で1分から3時間の熱処理する1段階の極めて簡単で作業性の良い工程で、p型半導体の性能を持つ酸化銅(I)膜および該膜を有する部材が基材の形状、形態に依らず得られることが分った。
その結果、従来の技術では、高い真空の制御が必要だったり、製膜に大量のエネルギーが必要だったり、製膜に高価な装置が必要であったが、本発明を用いることにより簡単なコート装置と雰囲気を変えられる熱処理装置があれば容易に製膜できるだけでなく、大面積化も比較的少ない設備変更で達成できる。
p型シリコンに変わる次世代半導体材料の研究が盛んに行われている中で、本発明は安価で汎用性が高く入手しやすい金属を用いて、製造的にも極めて簡単な工程で、酸化物型p型半導体の膜を製造できる。この為、現在主流であるp型シリコン半導体製品の代替としての使用はもちろん、シリコンを使用しない「酸化銅(I)系化合物(p型)/二酸化チタン系もしくは亜鉛系化合物(n型)」の次世代型酸化物系乾式透明太陽電池の極板材料などの大面積にコーティングが必要とされる製品の製造にも適用できる。ここに例を挙げたが、これらに限定されない。
実施例5と比較例1で作成した酸化銅膜のX線回折測定の結果を示す図
本発明では、アンモニア、アミン化合物から選ばれる1種以上の化合物と銅アミノポリカルボン酸錯体、銅ポリカルボン酸錯体から選ばれる1種以上の銅のキレート錯体が溶解している溶液からp型半導体の性能を持つ酸化銅(I)膜および該膜を有する部材が作成される。
本発明に用いる溶液は、以下の2つの方法(1)、(2)で調製している。
(1)アミノポリカルボン酸、ポリカルボン酸から選ばれる1種以上の配位子と銅塩から選ばれる1種以上の化合物を水溶液中で反応させて得たキレート化した銅アミノポリカルボン酸錯体および/または銅ポリカルボン酸錯体を作成する。次いでこれら錯体を極性溶媒中でアンモニア、アミンから選ばれる1種以上の化合物と反応させることにより得られる。得られる溶液は均一かつ透明であることが好ましい。
水溶液中で前駆体の銅錯体を作成するために用いられる銅塩として、ギ酸銅、酢酸銅、塩化銅、ヨウ化銅、硫酸銅、塩素酸銅、過塩素酸銅、硝酸銅、水酸化銅などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、用いられる配位子のアミノポリカルボン酸としては、イミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸またはそれらの塩などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。ポリカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸などのジカルボン酸またはそれらの塩、トリカルボン酸としてはクエン酸またはその塩などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
上記の銅塩と配位子を水溶液中で懸濁あるいは溶解させて、銅のキレート錯体を作成する。配位子の添加量は、銅イオンに対して0.5〜10倍モル、より好適には0.8〜5倍モルに加えるのが適当である。これを超える量を添加した場合、不経済なだけでなく錯体の回収時に未反応の配位子が混ざり純度が低下する可能性がある。またこれより少ない場合、添加した銅に対して配位子が不足するため収率が低下する。反応を促進するため沸点以下の加温条件で作成することは有効である。得られた銅のキレート錯体を含む溶液は、放置による放冷もしくは減圧濃縮などの方法により銅のキレート錯体が結晶化するので容易に回収できる。
作成した、銅アミノポリカルボン酸錯体および/または銅ポリカルボン酸錯体を極性溶媒に溶解するためにアンモニア、アミンを用いる。アミンの種類としては、一般式(I)で示される化合物、n−プロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチル−n−プロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−ter−ブチルアミン、エチル−n−ブチルアミン、イソプロピル−n−ブチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、n−オクチルアミンなどのアルキル基の炭素数が10以下の脂肪族アミンが挙げられるがこれらに限定されるものではない。アルキル基の炭素数が10を超える場合は有機成分が多くなり緻密な膜を得ることが困難である。
(R)(R)(R)(R)N (I)
(式中、R、R、R、Rは水素または炭素数が1〜10のアルキル基であって、R〜R中少なくとも一つがアルキル基を示し、R〜Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい)
また、本発明に用いられるアミンとしては一般式(II)あるいは(III)で示される化合物、ピリジン、4−メチルピリジン、4−アミノピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどのピリジン誘導体、ベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミンなどのベンジルアミン誘導体、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジンなどのアニリン誘導体などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
(CH(R)(R) (II)
(式中、Rはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、水素または炭素数が1〜10のアルキル基、nは0または1の整数、R、Rは水素または炭素数が1〜10のアルキル基を示し、R、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい)
NH (III)
(式中、Rはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、水素または炭素数が1〜10のアルキル基を示す)
本発明に用いられるアミン化合物は、反応によって生成する塩あるいは付加化合物が水、アルコールに溶解し易いこと、および経時的に結晶が析出することが無いなど、安定な液を形成することを目安に選定される。2種以上のアミンを併用して結晶の析出を抑えることも有効である。アミンの添加量は銅のキレート錯体に対して0.5〜10倍モル量が適当である。より好適には1〜3倍量が適当である。これを超える量を添加した場合、コート時の濡れ性が下がり、これより少ない場合は反応が未完結となり、コート時の濡れ性が下がるだけでなく、不溶成分が残り均一な溶液が得られない。
本発明の溶液に用いられる極性溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールなどの低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル、水などが挙げられるが、これらに限定されない。またこれらの極性溶媒は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせても良い。
本発明の溶液は、先に作成した銅アミノポリカルボン酸錯体および/または銅ポリカルボン酸錯体を低級アルコールに懸濁あるいは溶解させ、アンモニア、アミンを加えて全体が均一に溶解するまで撹拌して得られる。溶解を促進するため加温することは有効である。還流温度まで昇温すれば短時間で透明液を得ることが出来る。
(2)アミノポリカルボン酸、ポリカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物とアンモニア、アミンから選ばれる1種以上の化合物とを極性溶媒中で反応させ、次いで銅アルコキシドを加えることにより得られる。好ましくは、得られる溶液は均一かつ透明である。
本発明の前駆体溶液を作成するために用いられる銅アルコキシドとしては、銅ジメトキシド、銅ジエトキシド、銅ジプロポキシド、銅ジイソプロポキシド、銅ジn−ブトキシド、銅ジt−ブトキシド、銅ジメトキシエトキシドなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。他の成分のアミノポリカルボン酸、ポリカルボン酸、アミン化合物、極性溶媒は(1)と同じである。
配位子の添加量は、銅イオンに対して0.5〜10倍モル、より好適には0.8〜3倍モルに加えるのが適当である。これを超える量を添加した場合、銅イオンと未反応の配位子が残ってしまいコート時の濡れ性が下がり不溶成分が残る場合もある。またこれより少ない場合は反応が未完結となり、コート時の濡れ性が下がるだけでなく、液の安定性が著しく低下する。
添加するアミン化合物は、(1)と同じく反応によって生成する塩あるいは付加化合物が水、アルコールに溶解し易いこと、および経時的に結晶が析出することが無いなど、安定な液を形成することを目安に選定される。2種以上のアミンを併用して結晶の析出を抑えることも有効である。アミンの添加量は銅のキレート錯体に対して0.5〜10倍モル量が適当である。より好適には1〜3倍量が適当である。これを超える量を添加した場合、コート時の濡れ性が下がり、これより少ない場合は反応が未完結となり、コート時の濡れ性が下がるだけでなく、不溶成分が残り均一な溶液が得られない。
本発明の溶液は、アミノポリカルボン酸またはその塩、ポリカルボン酸またはその塩を低級アルコールに懸濁あるいは溶解させ、アミン、銅アルコキシドを加えて全体が均一に溶解するまで撹拌して得られる。溶解を促進するため加温することは有効である。還流温度まで昇温すれば短時間で透明液を得ることができる。
(1)の作成法は銅のキレート錯体作成と溶液作成の2段階の工程になるが、使用する銅塩は入手しやすいだけでなく銅アルコキシドに比べて安価なため原料コストに優れた方法である。また、水溶液中で作成した錯体を結晶化して回収する再結晶の操作があるため、銅のキレート錯体の純度をより高くできる利点もある。(2)の作成法はワンポットで溶液を作成できるため製造コストに優れた方法である。これらの方法は使用目的に応じて適宜選択することができる。
塗布する基板は、シリコン、サファイヤ、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ガリウムヒ素、ヒ化ガリウム、リン化インジウムなどの半導体基板、石英ガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラスなどのガラス基板、SUSやチタンなどの金属板、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、ジルコニアなどのセラミックス基板から当業者が溶液をコートでき、熱処理温度以上の融点を持っている基材を任意に選択できる。また、基材の形状、形態、表面状態は問わず、表面が平滑でも粗でも良い。半導体材料、太陽電池極板材料、触媒材、触媒用担持材、吸着材などここに例を挙げたが、これらに限定されない。
半導体基板、ガラス基板、セラミックス基板などの表面に膜を形成させるには、前記塗布液をスピンコート法、ディップコート法、フローコート法などによって基板上にコートし、溶媒を揮発させ、不活性ガスの雰囲気中で300℃〜700℃の温度の熱処理を行う。より好ましくは400℃〜600℃の温度で焼成する。これより高い温度では、消費するエネルギーが多くなるばかりではなく、酸化銅(I)以外に酸化銅(II)が生成して酸化銅(I)単層膜が作成できない。また、これより低い温度では、溶液組成物中の有機物由来の未燃焼物が残り緻密な膜が作成できない。必要があれば比較的低温で予備焼成を行うことも均質な膜を得る上で有効であり、また、焼成温度を何段階かに分けることも出来る。焼成は室温から塗布された基板を徐々に高温にまで高めていっても良いし、すでに一定温度に設定されている炉に基板を投入しても良い。
熱処理時に用いられる不活性ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンの第18族元素、窒素など例に挙げたが、これらに限定されない。これらの気体は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせても良い。
熱処理時間は当業者がコート材の種類やコート方法により適宜選択して設定することができる。例えば、1分〜3時間、好ましくは5分〜1.5時間で行うことができる。また、加熱した状態の基材に溶液をコートする場合、基材が前記の温度範囲を保ったまま溶液をコートできる場合は熱処理とコート工程を同時に行うことができる。なお、上記熱処理時間は例示であり、これらに限定されない。本発明において、溶液の濃度を調整することにより、約10nm〜約5μmの膜を作製することができる。当業者が溶液の濃度、塗布方法、塗布条件を選択することにより、任意の膜厚の酸化銅(I)膜および該膜を有する部材が得られる。上記のコート、熱処理工程は例示であり、これらに限定されない。
こうして湿式法で作成した酸化銅(I)膜は、p型半導体としての性質を有する。本発明の方法で製膜した酸化銅(I)膜と酸化スズや酸化亜鉛膜などのn型半導体を組み合わせることで透明酸化物半導体デバイス開発への適用や、酸化銅(I)膜の上にn型半導体の可視光応答二酸化チタン膜などを積層化することにより次世代型酸化物系乾式透明太陽電池の開発にも適用できる。
本発明により得た酸化銅(I)の膜および該膜を有する部材は、この場合の膜の種類、工法は問わない。また、上記使用方法については例示であり、これらに限定されない。
本発明の酸化銅膜作成用の溶液の作成法および、p型半導体としての性質を持つ酸化銅(I)膜の製造方法を次の実施例でより具体的に明らかにする。本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例1〜実施例4は酸化銅膜形成用前駆体溶液の製造方法(塗布液の合成)に関するものである。
500mlビーカー中で、エチレンジアミン四酢酸(以後、EDTAと表記)11.7g(40.0mmol)を80℃に加熱した約300mlの水に撹拌しながら加えた懸濁液に、酢酸銅(II)一水和物7.98g(40.0mmol)を加えて1時間加熱撹拌したところ青色の均一溶液を得た。この液を放冷後100mlまで減圧濃縮して析出した青色の結晶を吸引ろ過して回収した。収量13.7g。この青色の結晶は、元素分析、熱分析、IRよりEDTAが銅に配位した錯体であることが分かった。
100ml三角フラスコ中に作成した錯体5.26g(14.5mmol)、エタノール20g、ジブチルアミン3.75g(29.0mmol)を加えて、1時間加熱還流を行ったところ濃青色透明溶液が得られ、これを塗布液として用いて製膜した。
500mlビーカー中で、ニトリロ三酢酸(以後、NTAと表記)7.65g(40.0mmol)を75℃に加熱した約300mlの水に撹拌しながら加えた懸濁液に、酢酸銅(II)一水和物7.99g(40.0mmol)のを加えて3時間加熱撹拌したところ青色の均一溶液を得た。この液を放冷後、1晩放置して析出した青色の結晶を吸引ろ過して回収した。収量2.90g。この青色の結晶は、実施例1と同じく分析したところNTAが銅に配位した錯体であることが分かった。
100ml三角フラスコ中に、作成した錯体1.19g(4.71mmol)、エタノール10g、ジブチルアミン1.23g(9.52mmol)を加えて、1時間加熱還流を行ったところ実施例1と同様の塗布液として使用できる濃青色透明溶液を得た。これを塗布液として用いて製膜した。
300mlビーカー中で、シュウ酸二水和物(以後、OXと表記)15.1g(120mmol)を95℃に加熱した約130mlの水に撹拌しながら加えた懸濁液に、酢酸銅(II)一水和物9.98g(50.0mmol)を加えて1時間加熱撹拌したところ青色の均一溶液を得た。この液を室温まで放冷後、析出した水色の結晶を吸引ろ過してシュウ酸銅錯体を回収した。収量7.14g。
100ml三角フラスコ中に、エタノール10g、無水シュウ酸0.20g(2.22mmol)、ブチルアミン0.66g(9.02mmol)を加えて、1時間加熱還流を行った後、作成した錯体0.32g(2.11mmol)を加えて更に1時間加熱還流を行った後、室温まで放冷してからメタノール10gを加えて2時間撹拌して実施例1と同様の塗布液として使用できる青色透明溶液を得た。
これを塗布液として用いて製膜した。
100ml三角フラスコ中にエタノール20g、EDTA4.70g(16.1mmol)、ブチルアミン2.36g(32.3mmol)を加え2時間加熱還流して反応させた後、放冷した後に銅(II)エトキシド2.47g(16.1mmol)を加え5時間加熱還流したところ実施例1と同様の塗布液として使用できる濃青色透明溶液をワンポット合成で得た。これを塗布液として用いて製膜した。
実施例1で作成した塗布液を無アルカリガラス基板にスピンコート法で塗布し、乾燥後、管状炉を用いてアルゴン雰囲気中にて500℃(ガス流量:1000ml/min)で30分間熱処理して黄色の膜を得た。X線回折測定にて得られた膜の結晶構造を調べたところ図1の下に示すように酸化銅(I)に帰属されるピーク以外は観察されなかった。このことから、酸化銅(I)の単層膜が製膜できたことを確認した。また、半導体の性質を調べるためにホール効果測定を行ったところ、キャリア濃度は4.385×1014cm−3でp型を示した。
実施例2で作成した塗布液を、実施例5と同様の方法で無アルカリガラス基板に塗布し、乾燥後、アルゴン雰囲気中にて熱処理を行い製膜した。得られた膜の結晶構造を分析したところ、酸化銅(I)の単層膜が製膜できたことを確認した。
実施例3で作成した塗布液を、実施例5と同様の方法で無アルカリガラス基板に塗布し、乾燥後、アルゴン雰囲気中にて熱処理を行い製膜した。得られた膜の結晶構造を分析したところ、酸化銅(I)の単層膜が製膜できたことを確認した。
実施例4で作成した塗布液を、実施例5と同様の方法で無アルカリガラス基板に塗布し、乾燥後、アルゴン雰囲気中にて熱処理を行い製膜した。得られた膜の結晶構造を分析したところ、酸化銅(I)の単層膜が製膜できたことを確認した。
[比較例1]
実施例1で作成した塗布液を実施例5と同様に無アルカリガラス基板にスピンコート法で塗布し、乾燥後、空気雰囲気中にて500℃で30分間熱処理して黒褐色の膜を得た。X線回折測定にて得られた膜の結晶構造を調べたところ図1の上に示すように酸化銅(II)に帰属されるピーク以外は観察されないことから、酸化銅(II)が製膜できていることが分かった。また、半導体の性質を調べるためにホール効果測定を行ったところ、抵抗が高く導電性を示さなかったため測定できなかった。

Claims (3)

  1. 銅アミノポリカルボン酸錯体および/または銅ポリカルボン酸錯体が溶解した溶液を基材表面にスピンコート法、ディップ法、バーコート法、フローコート法、スプレーコート法の内のいずれかの方法により塗布する工程、基板表面に溶液を塗布した後、溶媒を揮発させて所定の厚さに溶液組成物を乾燥する工程、および第18族の希ガス族、窒素から選ばれる単独かまたは2種以上を組み合わせた不活性ガス雰囲気の中で300℃〜700℃で1分から3時間の熱処理する工程を含むp型半導体の性能を持つ酸化銅(I)膜の製造方法。
  2. 水溶液中でアミノポリカルボン酸、ポリカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物と銅塩を反応させて得た銅アミノポリカルボン酸錯体および/または銅ポリカルボン酸錯体を低級アルコール、グリコール、グリコールエーテル、水に代表される極性溶媒の中でアンモニア、アミン化合物から選ばれる1種以上の化合物と反応させて得た銅を0.1〜30wt%含む請求項1記載の溶液の製造方法。
  3. 低級アルコール、グリコール、グリコールエーテルに代表される極性溶媒の中でアンモニア、アミン化合物から選ばれる1種以上の化合物とアミノポリカルボン酸、ポリカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物を反応させた後、次いで銅アルコキシドを加え反応させて得た銅を0.1〜30wt%含む請求項1記載の溶液の製造方法。
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