以下、本発明による車両の運動制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、この車両は、前2輪が駆動輪である前輪駆動方式の車両である。そして、車両の運動制御装置を含むブレーキ装置10は、駆動力を発生するとともに同駆動力を駆動輪FL,FRにそれぞれ伝達する駆動力伝達機構部20と、車輪FL,FR,RL,RRにブレーキ液圧による制動力を発生させるためのブレーキ液圧制御装置30と、各種センサ等から構成されるセンサ部40と、運動制御装置50(本発明の「駆動制御手段」、「自動加圧制御手段」、「モータ温度導出手段」、「昇圧制御手段」に相当する)等とを備えて構成される。
駆動力伝達機構部20は、駆動力を発生するエンジン21と、同エンジン21の吸気管21a内に配置されるとともに吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁THの開度を制御するDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ22と、エンジン21の図示しない吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを含む燃料噴射装置23等とを備えている。
また、駆動力伝達機構部20は、エンジン21の出力軸に入力軸が接続された変速機24と、変速機24の出力軸と連結されエンジン21の駆動力を適宜分配して前輪FL,FRにそれぞれ伝達する前輪側ディファレンシャル25等とを備えている。
図1および図2に示すように、ブレーキ液圧制御装置30は、高圧発生部31と、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36等とを備えている。
高圧発生部31は、電動モータMと、該電動モータMにより駆動されるとともにリザーバRS内のブレーキ液を吸い込んで吐出・昇圧する液圧ポンプHPと、液圧ポンプHPの吐出側にチェック弁CVHを介して接続されるとともに同液圧ポンプHPにより昇圧されたブレーキ液を貯留するアキュムレータAcc等とを備えている。
電動モータMは、運動制御装置50のCPU51(図1参照)からの指示により、アキュムレータAcc内のアキュムレータ液圧Paが所定の下限値Pon以下となったとき駆動され、該アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff(>Pon)以上となったとき停止されるようになっている。これにより、アキュムレータ液圧Paは、「下限値Ponと上限値Poffとの間の範囲内の圧力(高圧)」に原則的に調整されるようになっている。
また、アキュムレータAccとリザーバRSとの間にリリーフ弁RVが配設されていて、アキュムレータ液圧Paが上限値Poffよりも異常に高い圧力になったときにアキュムレータAcc内のブレーキ液がリザーバRSに戻されるようになっている。これにより、高圧発生部31の液圧回路が保護されるようになっている。
ブレーキ液圧発生部32は、ブレーキペダルBPの作動により応動するハイドロブースタHBと、該ハイドロブースタHBに連結されたマスタシリンダMC等とから構成されている。ハイドロブースタHBは、高圧発生部31から供給される上記高圧に調整されているアキュムレータ液圧Paを利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し、助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
マスタシリンダMCは、助勢された操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生するようになっている。また、ハイドロブースタHBは、マスタシリンダ液圧を入力することによりマスタシリンダ液圧と略同一の液圧である助勢された操作力に応じたレギュレータ液圧を発生するようになっている。これらマスタシリンダMCおよびハイドロブースタHBの構成および作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMCおよびハイドロブースタHBは、ブレーキペダルBPの操作力に応じたマスタシリンダ液圧およびレギュレータ液圧をそれぞれ発生するようになっている。
マスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部33の上流側およびFLブレーキ液圧調整部34の上流側の各々との間には、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である制御弁SA1が介装されている。同様に、ハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部35の上流側およびRLブレーキ液圧調整部36の上流側の各々との間には、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である制御弁SA2が介装されている。
FRブレーキ液圧調整部33の上流側およびFLブレーキ液圧調整部34の上流側の各々とRRブレーキ液圧調整部35の上流側およびRLブレーキ液圧調整部36の上流側の各々とを結ぶ管路には、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である制御弁SA3が介装されている。そして、高圧発生部31と上記管路との間には、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である切換弁STRが介装されている。
これにより、FRブレーキ液圧調整部33の上流部およびFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々には、制御弁SA1および制御弁SA3(および切換弁STR)が非励磁状態にあるときマスタシリンダ液圧が供給されるようになっている。また、制御弁SA1、制御弁SA3および切換弁STRが励磁状態にあるとき高圧発生部31が発生するアキュムレータ液圧Paが供給されるようになっている。
同様に、RRブレーキ液圧調整部35の上流部およびRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々には、制御弁SA2、制御弁SA3および切換弁STRが非励磁状態にあるときレギュレータ液圧が供給されるようになっている。また、制御弁SA2、制御弁SA3、および切換弁STRが励磁状態にあるときアキュムレータ液圧Paが供給されるようになっている。
FRブレーキ液圧調整部33は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されている。増圧弁PUfrは、非励磁状態にあるときFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとを連通し、励磁状態にあるときFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断するようになっている。減圧弁PDfrは、非励磁状態にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSとの連通を遮断し、励磁状態にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSとを連通するようになっている。
これにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)は、増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrが共に非励磁状態にあるときホイールシリンダWfr内にFRブレーキ液圧調整部33の上流部の液圧が供給されることにより増圧(増圧制御)されるようになっている。また、増圧弁PUfrが励磁状態にあり且つ減圧弁PDfrが非励磁状態にあるときFRブレーキ液圧調整部33の上流部の液圧にかかわらずその時点の液圧に保持(保持制御)されるようになっている。また、増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrが共に励磁状態にあるときホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRSに戻されることにより減圧(減圧制御)されるようになっている。
また、増圧弁PUfrにはブレーキ液のホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部33の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されている。これにより、制御弁SA1が非励磁状態にあって操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダWfr内のホイールシリンダ液圧Paが迅速に減圧されるようになっている。
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35およびRLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUflおよび減圧弁PDfl,増圧弁PUrrおよび減圧弁PDrr,増圧弁PUrlおよび減圧弁PDrlから構成されていて、各増圧弁および各減圧弁がそれぞれ制御されることにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWrrおよびホイールシリンダWrl内のホイールシリンダ液圧Paをそれぞれ、増圧制御・保持制御・減圧制御できるようになっている。また、増圧弁PUfl,PUrrおよびPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3およびCV4がそれぞれ並列に配設されている。
また、制御弁SA2にはブレーキ液の上流側から下流側への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV5が並列に配設されており、制御弁SA2が励磁状態にあってハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部35およびRLブレーキ液圧調整部36の各々との連通が遮断されている状態にあるときに、ブレーキペダルBPを操作することによりホイールシリンダWrr,Wrl内のホイールシリンダ液圧Paが増圧されるようになっている。
ブレーキ液圧制御装置30は、全ての電磁弁SA1等が非励磁状態にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を各ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給できるようになっている。また、非励磁状態において、例えば、増圧弁PUrrおよび減圧弁PDrrをそれぞれ制御することにより、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧)以下の範囲内でホイールシリンダWrrのホイールシリンダ液圧Pwのみを増圧制御・保持制御・減圧制御できるようになっている。
また、ブレーキ液圧制御装置30は、ブレーキペダルBPが操作されていない状態(開放されている状態)において、例えば、制御弁SA1,切換弁STRおよび増圧弁PUflを共に励磁状態に切換えるとともに増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrをそれぞれ制御することにより、ホイールシリンダWflのホイールシリンダ液圧Pwを「0」に保持した状態で高圧発生部31が発生するアキュムレータ液圧Paを利用してホイールシリンダWfrのホイールシリンダ液圧Pwのみをアキュムレータ液圧Pa以下の範囲内で増圧制御・保持・減圧制御できるようになっている。
このようにして、ブレーキ液圧制御装置30は、ブレーキペダルBPの操作に拘わらず、各車輪FR,FL,RR,RLのホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlのホイールシリンダ液圧Pwをそれぞれ独立して制御し、車輪毎に独立して所定のブレーキ力を付与することができるようになっている。この結果、ブレーキ液圧制御装置30は、運動制御装置50からの指示により、後述する自動加圧制御や周知のABS制御等を達成できるようになっている。なお、各ブレーキ液圧調整部33,34,35,36、制御弁SA1,SA2および切替弁STRが、本発明の調圧手段に相当する。
図1に示すように、センサ部40は、車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力する電磁ピックアップ式の車輪速度センサ41fr,41fl,41rr,41rlと、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出し、同アクセルペダルAPの操作量を示す信号を出力するアクセル開度センサ42と、ブレーキペダルBPの操作・非操作に応じてオン・オフ信号をそれぞれ出力するブレーキスイッチ43と、車両のヨーレイトを検出し、ヨーレイトを示す信号を出力するヨーレイトセンサ44と、車両の横加速度を検出し、横加速度を示す信号を出力する横加速度センサ45と、アキュムレータ液圧Paを検出し、アキュムレータ液圧Paを示す信号を出力するアキュムレータ液圧センサ46(図2参照、本発明の「検出手段」に相当する)と、ホイールシリンダ液圧を検出し、ホイールシリンダ液圧を示す信号をそれぞれ出力するホイールシリンダ液圧センサ47fr,47fl,47rr,47rl(図2参照)等とを備えている。
運動制御装置50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、およびADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース55は、センサ部40等と接続され、センサ部40等からの信号をCPU51に供給するとともに、CPU51の指示に応じてブレーキ液圧制御装置30の各電磁弁SA1等、電動モータM、スロットル弁アクチュエータ22および燃料噴射装置23等に駆動信号を送出するようになっている。
次に、運動制御装置50が、例えば、車両が坂道を下るときに所定の車速に減速するHDC(ヒルディセントコントロール)を実行するときの動作を図3のフローチャートおよび図4のタイムチャートを参照して説明する。運動制御装置50は、アキュムレータAcc内のアキュムレータ液圧Paが所定の下限値Pon以下となったか否かを判断する(図3のステップS1)。そして、アキュムレータ液圧Paが所定の下限値Pon以下となったと判断したとき(図3のステップS1のYes、図4(a)の時点t1)、電動モータMの駆動をオフからオンに切り替えて液圧ポンプHPを駆動する(図3のステップS2、図4(b)の時点t1)。これにより、電動モータMのモータ温度Tは、直線的に上昇する(図4(c)の時点t1〜)。
そして、電動モータMの駆動時間を計測するタイマをオンにし(図3のステップS3)、計測した電動モータMの駆動時間に基づいて電動モータMのモータ温度Tを推定する(図3のステップS4)。このモータ温度Tを推定方法としては、例えば、電動モータMの駆動時間に所定の係数を乗算して推定する方法がある。また、モータ温度Tと駆動時間との関係を予め計測してテーブル化し、該テーブルデータをROM52に記憶して読み出すように構成してもよい。また、サーミスタ等の温度センサを電動モータMに貼着して実測するように構成してもよい。
電動モータMのモータ温度Tが、予め設定した基準温度Tb以上になったか否かを判断する(図3のステップS5)。そして、電動モータMのモータ温度Tが基準温度Tb以上になっていないと判断したときは(図3のステップS5のNo)、ステップS4に戻って上述の電動モータMのモータ温度Tの推定処理を実行する。一方、電動モータMのモータ温度Tが基準温度Tb以上になったと判断したときは(図3のステップS5のYes、図4(c)の時点t2)、ホイールシリンダ液圧の昇圧勾配を低下させる昇圧制御を実行する(図3のステップS6、図4(d)の時点t2〜)。
ここで、従来のように昇圧制御を実行しない場合を考えると、ホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配を低下させないので(図4(e)の時点t2〜t4の点線)、アキュムレータAccのブレーキ液の消費量は多く、アキュムレータ液圧Paの昇圧勾配は小さいままとなる(図4(a)の時点t2〜t4の点線)。そして、車両が所定の車速に減速してホイールシリンダ液圧Pwの昇圧が停止して降圧を開始すると(図4(e)の時点t4〜)、アキュムレータ液圧Paの昇圧勾配は上昇し(図4(a)の時点t4〜t6の点線)、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff以上になったときに電動モータMが停止する(図4(a),(b)の時点t6)。よって、電動モータMのモータ温度Tは上昇し続け、所定の危険温度Teを超えてしまうおそれがある(図4(c)の時点t3〜の点線)。
しかし、本実施形態のように、昇圧制御を実行してホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配を低下させると(図4(e)の時点t2〜t4の実線)、アキュムレータAccのブレーキ液の消費量は少なく、アキュムレータ液圧Paの昇圧勾配は大きくなる(図4(a)の時点t2〜の実線)。そして、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff以上になったか否かを判断し(図3のステップS7)、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff以上になっていないと判断したときは(図3のステップS7のNo)、ステップS6に戻って昇圧制御の実行を継続する。
一方、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff以上になったと判断したときは(図3のステップS7のYes、図4(a)の時点t3)、電動モータMの駆動をオンからオフに切り替える(図3のステップS8、図4(b)の時点t3)。これにより、電動モータMのモータ温度Tは所定の危険温度Teに達する前に低下し始める(図4(c)の時点t3〜)。そして、車両が所定の車速に減速したら、ホイールシリンダ液圧Pwの昇圧が停止して降圧を開始する(図4(e)の時点t5)。そして、電動モータMのモータ温度Tが基準温度Tb以下になったか否かを判断し(図3のステップS9)、電動モータMのモータ温度Tが基準温度Tb以下になったと判断したときは(図3のステップS9のYes、図4(c)の時点t7)、昇圧制御を停止し(図3のステップS10、図4(d)の時点t7)、全ての処理を終了する。
以上のように、本実施形態の運動制御装置50によれば、電動モータMのモータ温度Tが基準温度Tb以上になった場合、自動加圧制御により発生するホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配を低下させている。これにより、アキュムレータ液圧Paの消費を抑制し、当該抑制分だけ液圧ポンプHP、すなわち電動モータMの駆動量(負荷や駆動時間)を減少させることができる。よって、電動モータMの過熱を防止することができ、電動モータMの耐久性を向上させることができる。そして、自動加圧制御の連続実行時間を長く保つことができ、ブレーキングの信頼性を向上させることができる。
上述の運動制御装置50による自動加圧制御は、電動モータMのモータ温度Tが基準温度Tb以上になったときに実行されるように構成したが、アキュムレータ液圧が所定液圧未満であるとき実行されるように構成してもよく、そのときの動作を図5のフローチャートおよび図6のタイムチャートを参照して説明する。運動制御装置50は、アキュムレータAcc内のアキュムレータ液圧Paが所定の下限値Pon以下となったか否かを判断する(図5のステップS11)。そして、アキュムレータ液圧Paが所定の下限値Pon以下となったと判断したとき(図5のステップS11のYes、図6(a)の時点t1)、電動モータMの駆動をオフからオンに切り替えて液圧ポンプHPを駆動する(図5のステップS12、図6(b)の時点t1)。これにより、電動モータMのモータ温度Tは、時点t1から直線的に上昇する(図6(c)の時点t1〜)。
そして、電動モータMの駆動時間を計測するタイマをオンにし(図5のステップS13)、計測した電動モータMの駆動時間に基づいて電動モータMのモータ温度Tを推定する(図5のステップS14)。そして、電動モータMのモータ温度Tが、予め設定した基準温度Tb以上になったか否かを判断し(図5のステップS15)、電動モータMのモータ温度Tが基準温度Tb以上になっていないと判断したときは(図5のステップS15のNo)、ステップS14に戻って上述の電動モータMのモータ温度Tの推定処理を実行する。一方、電動モータMのモータ温度Tが基準温度Tb以上になったと判断したときは(図5のステップS15のYes、図6(c)の時点t2)、ホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配を低下させる昇圧制御を実行する(図5のステップS16、図6(d)の時点t2〜)。
昇圧制御を実行してホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配を低下させると(図6(e)の時点t2〜t4の実線)、アキュムレータAccのブレーキ液の消費量は少なく、アキュムレータ液圧Paの昇圧勾配は大きくなる(図6(a)の時点t2〜の実線)。そして、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff以上になったか否かを判断し(図5のステップS17)、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff以上になっていないと判断したときは(図5のステップS17のNo)、ステップS16に戻って昇圧制御の実行を継続する。
一方、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff以上になったと判断したときは(図5のステップS17のYes、図6(a)の時点t3)、電動モータMの駆動をオンからオフに切り替えると共に、昇圧制御を停止する(図5のステップS18、図6(b),(d)の時点t3)。これにより、電動モータMのモータ温度Tは所定の危険温度Teに達する前に低下し始める(図6(c)の時点t3〜)。そして、ホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配を昇圧制御前の昇圧勾配に戻して車両が所定の車速に減速するまでホイールシリンダ液圧Pwを上昇させる(図6(e)の時点t3〜t50)。車両が所定の車速に減速したら、ホイールシリンダ液圧Pwの昇圧が停止して降圧を開始するので(図6(e)の時点t50〜)、全ての処理を終了する。
以上のように、本実施形態の運動制御装置50によれば、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff未満であるときホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配を低下させている。これにより、アキュムレータ液圧Paが所定の上限値Poff以上であるときは通常の昇圧勾配に戻しているので、ホイールシリンダ液圧Pwの昇圧時間を短縮、すなわち図6(e)の時点t5からt50に短縮させることができ、ブレーキングの応答性を向上させることができる。
また、上述の各実施形態において、電動モータMのモータ温度の上昇速度に応じてホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配の低下度合を変更するように構成してもよい。これにより、モータ温度の上昇速度が速くても、ホイールシリンダ液圧Pwの昇圧勾配の低下度合を大きく、すなわち昇圧勾配を低下させてアキュムレータ液圧Paの消費を抑制することができる。よって、電動モータMの駆動量(負荷や運転時間)を減少させることができ、電動モータMの過熱を確実に防止することができる。また、電動モータMのモータ温度の上昇速度の低下に伴いホイールシリンダ液圧の昇圧勾配の低下度合を小さくする。これにより、ホイールシリンダ液圧の昇圧時間を短縮させることができる。
上述の実施形態のブレーキ液圧制御装置30は、アキュムレータ液圧Paを利用して運転者によるブレーキ操作を助勢するハイドロブースタHBを使用する装置であったが、アキュムレータ液圧Paを利用してブレーキ・バイ・ワイヤ制御を行う装置であっても本発明を同様に適用することができる。ここで、ブレーキ・バイ・ワイヤ制御とは、運転者によるブレーキ操作に応じた信号(電気的な信号)を出力するブレーキ操作信号出力手段が出力する信号に基づいて、運転者によるブレーキ操作に応じたホイールシリンダ液圧Pwを発生する制御である。以下に、ブレーキ・バイ・ワイヤ制御を行うブレーキ液圧制御装置30の構成を図面を参照しつつ説明する。なお、ハイドロブースタHBを使用するブレーキ液圧制御装置30と同一箇所は同一番号を付して詳細な説明を省略する。
図7に示すように、ブレーキ・バイ・ワイヤ制御を行うブレーキ液圧制御装置30は、図2に示すハイドロブースタHBを使用するブレーキ液圧制御装置30と比較して、ブレーキペダルBPがハイドロブースタHBを介さずにマスタシリンダMCに直接連結されている点、制御弁SA3が省略されている点、マスタシリンダMCと制御弁SA1とを結ぶ管路の途中から分岐した分岐管路に2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である制御弁SA4を介して周知のストロークシミュレータSSが配設されている点、および、ブレーキペダルBPの操作ストロークを検出して操作ストロークを示す信号を出力するストロークセンサ48を備えた点において異なる構成となっている。このようにストロークシミュレータSSを配設したことにより、制御弁SA1および制御弁SA2(および切換弁STR)が励磁状態にある場合に、制御弁SA4をも励磁状態にすることで、ブレーキペダルBPの作動が確保され得るようになっている。
このブレーキ・バイ・ワイヤ制御を行うブレーキ液圧制御装置30は、正常状態では、制御弁SA1,SA2,SA4および切換弁STRを常時、励磁状態に維持するようになっている。そして、ストロークセンサ48から得られるブレーキペダルBPの操作ストロークに応じた目標ホイールシリンダ液圧を決定するようになっている。そして、アキュムレータ液圧Paを利用して増圧弁PUfr等および減圧弁PDfr等を制御することで、ホイールシリンダ液圧を上記決定された目標ホイールシリンダ液圧Pwに一致させる制御を行うようになっている。加えて、ブレーキペダルBPの操作ストロークに拘わらず、ホイールシリンダ液圧をそれぞれ独立して自由に制御できるようになっており、自動加圧制御を達成できるようになっている。一方、何らかの異常が発生した場合、全ての電磁弁SA1等を非励磁状態とするようになっている。これにより、ブレーキペダルBPの操作力そのものに応じたホイールシリンダ液圧Pwを発生できるようになっており、ブレーキ操作に対するフェールセーフ機能が達成できるようになっている。
以上のような構成のブレーキ・バイ・ワイヤ制御を行うブレーキ液圧制御装置30においても、ハイドロブースタHBを使用するブレーキ液圧制御装置30と同様の昇圧制御を実行することが可能であり、同様の効果を奏する。