JP5970227B2 - 同期電動機の駆動システム - Google Patents
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Description
永久磁石モータ(以下、PMモータと略)を駆動するには、PMモータの回転子位置の情報が必要であり、そのための位置センサが必須となる。近年では、この位置センサを取り除き、PMモータの回転数やトルク制御を行う「センサレス制御」が広く普及している。
一方、特許文献2の発明では、原理的には回転子の初期位置を推定するものであるが、その推定精度に問題が生じる場合がある。初期位置推定に用いる開放相誘起電圧は、モータの磁気回路特性に依存しているため、モータによっては極めて感度の低い特性を示す場合がある。具体的には、三相巻線の線間へ正パルス、ならびに負パルスを印加した際に発生したそれぞれの開放相誘起電圧を合成(和)し、それら三相分の値の大小関係を比較して、回転子の初期位置を推定する。モータの特性によっては、この開放相誘起電圧を合成(和)した値が小さく、回転子位置の十分な推定精度(分解能)が得られず、初期位置推定に失敗する場合が生じる。この結果、条件によってはモータを起動することができない、あるいは逆転方向に回転してしまうなどの問題が生じる。
(2)上記課題を解決するための請求項3に記載の発明は、同期電動機と、前記同期電動機と接続し複数のスイッチング素子により構成される電力変換器と、前記電力変換器に対し電圧指令を出力して前記同期電動機を制御する制御器と、前記同期電動機の三相巻線のうち、それぞれの二相間に正および負のパルス電圧をそれぞれ印加したときの、開放相の誘起電圧を検出する電圧検出部と、前記二相間に正の電圧パルスを印加した際に前記電圧検出部で検出される開放相の電圧と、負の電圧パルスを印加した際に前記電圧検出部で検出される開放相の誘起電圧との差である誘起電圧差を算出する誘起電圧差算出部と、前記電力変換器に供給される直流電力の電流値を検出する電流検出部と、前記誘起電圧差に基づき回転子の位置の範囲を推定し、前記直流電力の電流値に基づき前記回転子の極性判別を行うことにより、前記回転子の位置を判定する回転子位置判定部とを備えることを特徴とする同期電動機の駆動システムである。
なお、ここでは制御対象となる同期電動機を、PMモータとして説明するが、他の同期電動機(例えば、回転子に界磁巻線を使用したもの、あるいはリラクタンストルクによって駆動される電動機など)でもほぼ同様の効果を得ることができる。
まず、低速域における制御装置の構成、ならびに制御方式について説明する。位置センサレス制御による回転子位置推定の技術としては、特許文献1に開示されているように、120度通電制御をベースにした制御方式に基づくものである。
図1に示すように、本実施形態の同期電動機の駆動システム100は、制御対象となるPMモータ4と、このPMモータ4の印加電圧指令V*を発生するV*発生器1と、PMモータ4と接続され、複数のスイッチング素子により構成される電力変換器(インバータ)3と、このインバータ3に対し、電圧指令を出力してPMモータ4を制御する制御器2を有する。この制御器2は、PMモータ4の三相巻線のうち、通電する二相を選択して正および負パルス電圧をそれぞれ印加し、正および負パルス印加時の開放相(非通電相)の各誘起電圧に基づいて位相(回転子の磁極位置)、ならびに回転速度を推定する。
モード切替トリガ発生器8は、回転電機の通常動作時に、三相巻線の各々の相の電圧と基準レベルを比較することにより、回転子の位相(磁極位置)や回転速度を推定し、適切なタイミングで通電モードを切換えるトリガー信号を発生する。
以下に、従来技術と共通な部分であり、PMモータ4における120度通電制御でのセンサレス制御の動作について簡単に説明する。
V*発生器1は、PMモータ4への印加電圧指令V*を発生する。この指令V*に相当する電圧を、パルス幅変調(PWM)を行って、PMモータ4へ印加するように動作する。制御器2では、V*発生器1の出力に基づき、PWM発生器5にて、パルス幅変調された120度通電波を作成する。通電モード決定器6では、インバータ主回路部32の6通りのスイッチングモードを決定するモード指令を順次出力する。
ここで、この誘起電圧は、速度起電圧ではなく、V相とW相の電機子巻線に鎖交する磁束の変化率の差異が、U相にて観測されたものである。よって、停止・低速域であっても、回転子位置に応じた誘起電圧が観測できる。また、図2(a)、(b)に示した電圧パルスは、120度通電の通常の動作中に印加される。
図4において、モード3、ならびにモード6がそれぞれ図2(a)、(b)の状態と等価である。このときのU相の誘起電圧は、図3と併せて記入すると、Eou上の太い矢印のようになる。すなわち、モード3では、マイナス方向に減少し、モード6ではプラス方向に増加するような誘起電圧が観測される。
以下で、本発明の特徴である「起動失敗を防止して短時間で起動を実現できる初期位置推定方式」について説明する。
本発明の特徴は、同期電動機を120度通電方式で起動するにあたり、正パルスないし負パルス印加時に発生した各開放相の誘起電圧値の和、ならびに差に基づいて、同期電動機の磁極位置を推定し、同期電動機を起動することにある。
なお、図5では、例としてV相とW相の線間に正パルスが印加される通電モード3の場合について説明する。
このようにして、回転子位置に応じて適切な通電モードを選択することで、回転子が逆転することなく、また最大トルクによってPMモータを起動することができる。しかし、最初の通電モードを誤って設定してしまうと、起動失敗や逆転の恐れがあるため、初期位置推定は重要な技術である。
しかし、この図6(b)のような特性が、必ずしも高感度に得られるとは限らない。感度が低下する要因として、モータそのものの磁気回路特性が関係している。すなわち、PMモータによっては、十分な推定精度(分解能)が得られない場合がある。
この問題を解決するため、本発明では、図6(c)に示すように、各相の誘起電圧値の「差」の特性も利用して初期位置推定を行うものとする。図に示すように、誘起電圧値の差を取ると、誘起電圧値の和を取った場合と比べて検出感度が高くなるので、ノイズによる影響を抑制できるようになる。ただし、電気角一周期の成分がキャンセルされ、1/2周期の成分のみが拡大されるため、回転子位置の推定範囲としては±90°となる。そこで、第一段階として一旦は「差」の情報に基づいて位置推定を行い、第二段階として、「和」の情報に基づいて、極性の判別(N極またはS極の選択)を実施する。
図7は、各通電モードにおいて検出した6つの誘起電圧値の各相の差(Udif、Vdif、Wdif)、ならびに和(Usum、Vsum、Wsum)の値に基づき、それらの大小比較から、初期位置を求めて、通電すべきモードを判別するための表である。
ただし、図8(b)から分かるように、「和」の値を用いた場合、この値の振幅が小さい場合には、領域がA−3かA−4かの判定は可能であるが、これらの領域内での境界判定が精度よく行われない可能性がある。このような場合は「差」の値による判定あるいは検証を行う。
以上より、本発明の駆動システムを各種同期電動機に適用すれば、停止時の回転子初期位置を精度よく推定することが可能であり、起動失敗や逆転を防止して短時間に電動機を起動することができる。
図9を参照して、本発明に係る同期電動機の駆動システムの第2の実施形態について説明する。
第1の実施形態では、初期位置推定のために6つのモード1〜6での開放相の誘起電圧値が必要であり、これらの誘起電圧値を測定するために、それぞれのモードで電圧パルスを順番にPMモータに印加する必要がある。しかし、6個の誘起電圧値を得るには、過渡現象まで含めて考えると多くの時間を要するため、効率的とは言えない。本実施形態での初期位置推定方法によって、さらに短時間で回転子の初期位置を推定することができる。
図10、図11を用いて、本発明に係る同期電動機の駆動システムの第3の実施形態について説明する。
図10は、通電する二相の線間電圧波形と、その時の相電流波形およびインバータの保護抵抗(シャント抵抗)35に流れる電流を模式的に示した図である。同図(a)はVuv(P側はSup、N側はSvnがオン状態)時におけるインバータ電流、同図(b)はVuvの線間電圧波形、同図(c)はIuの相電流波形、同図(d)はIDCの直流電流、同図(e)はd軸電流に対するd軸鎖交磁束の変化を示したものである。なお、IDCは、通電モード推定部(起動時)24に入力されたシャント抵抗35に発生する電圧から算出される(図1参照)。
そこで、本実施形態では、図11に示す通り、第1の実施形態で説明した誘起電圧値の和および差に基づいて位置推定を実施し、その後、推定された通電モードにおいて、さらに電流によって極性判別(N極またはS極の選択)を行い、起動の失敗をさらに低減することができる。
この原理に基づいて、図11(a)のフローチャートに示す通り、第1の実施形態での誘起電圧値の和、ならびに差の少なくとも一方に基づいて位置推定を実施し(ステップS12)、その後、推定された通電モードにおいて、電流による極性判別を実施し(ステップS13)、起動の失敗をさらに低減することが可能となる。
なお、第3の実施形態では、図10、11を参照して説明しており、図11では図9に示すような第2の実施形態での電圧パルス印加方法を想定している。この第3の実施形態は、図4に示すような第1の実施形態での電圧パルス印加方法にも追加して適用することができる。すなわち、第1の実施形態においても、PMモータの誘起電圧の検出感度が非常に小さいために、図8(b)に示すSTEP2での、UsumとVsumの大小比較による極性判別の精度が充分でない場合に精度よく回転子磁極位置を推定することができる。
あるいは、第1の実施形態で説明した誘起電圧の差と第3の実施形態の直流電流測定の結果とから、誘起電圧の和を用いずに、回転子磁極位置を推定することが可能である。
次に、図12を用いて、本発明に係る同期電動機の駆動システムの第3の実施形態の変形例について説明する。
第3の実施形態では、第1の実施形態と同様に誘起電圧による位置推定を実施した後、推定された通電モードにおいて、さらに直流電流IDCによって極性判別(N極またはS極の選択)を行うようにした。
ステップS21で処理が開始される。ステップS22において、たとえば図11(b)と同様に、第2の実施形態で説明した正負パルスを交互に通電するモード11〜13で三相コイルに通電する。各通電モードにおける開放相の誘起電圧を6つ、直流電流をそれぞれ6つ検出して記憶する。ステップS23において、記憶した6つの誘起電圧の和および差の少なくとも1つにより磁極位置を推定し、推定した磁極位置に基づいて、通電モード1〜6のいずれで三相コイルに通電するかを決定する。そして、決定された通電モードにおいて検出されて記憶されている直流電流と、そのモードとは逆特性の通電モードにおいて検出されて記憶されている直流電流との大小比較により極性判別を行う。以上の手順により回転電機の正しい起動を短時間で行うことができる。
誘起電圧と直流電流を検出した後、各開放相の誘起電圧値に基づいて、同期電動機の磁極位置を推定し、さらに、電流検出値に基づいて、極性判別を行い、同期電動機が正転するように起動を実施する。
回転子位置の極性判別には、上記の、従来技術で用いられている、三相巻線の二相間に正パルスおよび負パルスを印加した際の開放相の誘起電圧の和から判定してもよいし(第1の実施形態)、誘起電圧の差を用いてさらに精度よく判定してもよい(第1の実施形態)。あるいは正パルスあるいは負パルスを印加した際に流れる直流電流の大小により判定してもよい(第3の実施形態および変形例)。
三相巻線の二相間に電気パルスを印加する際の条件は、二相の選択と正・負により6通り(上記説明でのモード1〜6)ある。本発明による同期電動機の駆動システムは、上記の三相巻線の二相間への正パルスおよび負パルスの印加を、正パルスおよび負パルスを交互に印加することにより三相巻線に通電するモードの数を半分(たとえば、モード1〜3)にすることができ、開放相の誘起電圧の測定ならびに第3の実施形態および変形例での直流電源の電流測定をさらに短縮することができる。
次に、図13を用いて、本発明に係る同期電動機の駆動システムの第4の実施形態について説明する。
図13は、本発明による同期電動機の駆動システムの第4の実施形態の構成の概略図である。本実施形態では、上記で説明した実施形態の同期電動機の駆動システムPMモータの筐体内部に実装したものであり、いわゆる機電一体構造となっている。図13における筐体40の内部には、これまでの部品がすべて収められており、直流電源31と、PMモータへの指令や、動作状態をやり取りする通信線のみを外部へ引き出している。
このように、PMモータの駆動システムを一体化することで小形化が実現できるとともに、配線の引き回しが不要になる。また、本発明によるPMモータ駆動システムは、回転子の位置センサ、速度センサを不要としているため、よりコンパクトに全体をまとめることが可能である。
図14、ならびに図15を参照して、本発明に係る第5の実施形態である、上述の同期電動機の駆動システムを備えた電動油圧ポンプシステムについて説明する。
4…同期電動機(PMモータ)、5…PWM発生器、6…通電モード決定器、
7…ゲート信号切替器、8…モード切替トリガー発生器、9…基準レベル切替器、
10…非通電相電位選択器、11…比較器、
20…回転子位置推定部、21…誘起電圧検出部(起動時)、22…誘起電圧合成部(差)、23…誘起電圧合成部(和)、24…通電モード推定部(起動時)
31…直流電源、32…インバータ主回路部、33…出力プリ・ドライバ
35…シャント抵抗、40…筐体、
50…切替スイッチ
100…同期電動機駆動システム、
101…ポンプ、102…電動ポンプ、
200…油圧回路、201…エンジン、202…メカポンプ、203…タンク、204…逆止弁、205…リリーフバルブ
Claims (8)
- 同期電動機と、
前記同期電動機と接続し複数のスイッチング素子により構成される電力変換器と、
前記電力変換器に対し電圧指令を出力して前記同期電動機を制御する制御器と、
前記同期電動機の三相巻線のうち、それぞれの二相間に正および負のパルス電圧をそれぞれ印加したときの、開放相の誘起電圧を検出する電圧検出部と、
前記二相間に正の電圧パルスを印加した際に前記電圧検出部で検出される開放相の電圧と、負の電圧パルスを印加した際に前記電圧検出部で検出される開放相の誘起電圧との差である誘起電圧差を算出する誘起電圧差算出部と、
前記二相間に正の電圧パルスを印加した際に前記電圧検出部で検出される開放相の電圧と、負の電圧パルスを印加した際に前記電圧検出部で検出される開放相の誘起電圧との和である誘起電圧和を算出する誘起電圧和算出部と、
前記誘起電圧差に基づき回転子の位置の範囲を推定し、前記誘起電圧和に基づき前記回転子の極性判別を行うことにより、前記回転子の位置を判定する回転子位置判定部とを備えることを特徴とする同期電動機の駆動システム。 - 請求項1に記載の同期電動機の駆動システムにおいて、
前記回転子位置判定部は、前記誘起電圧和に加えて更に前記誘起電圧差に基づき前記回転子の極性判別を行うことを特徴とする同期電動機の駆動システム。 - 同期電動機と、
前記同期電動機と接続し複数のスイッチング素子により構成される電力変換器と、
前記電力変換器に対し電圧指令を出力して前記同期電動機を制御する制御器と、
前記同期電動機の三相巻線のうち、それぞれの二相間に正および負のパルス電圧をそれぞれ印加したときの、開放相の誘起電圧を検出する電圧検出部と、
前記二相間に正の電圧パルスを印加した際に前記電圧検出部で検出される開放相の電圧と、負の電圧パルスを印加した際に前記電圧検出部で検出される開放相の誘起電圧との差である誘起電圧差を算出する誘起電圧差算出部と、
前記電力変換器に供給される直流電力の電流値を検出する電流検出部と、
前記誘起電圧差に基づき回転子の位置の範囲を推定し、前記直流電力の電流値に基づき前記回転子の極性判別を行うことにより、前記回転子の位置を判定する回転子位置判定部とを備えることを特徴とする同期電動機の駆動システム。 - 請求項3に記載の同期電動機の駆動システムにおいて、
前記正および負の電圧パルスをそれぞれ印加したときに発生した開放相の誘起電圧をそれぞれ検出すると同時に、前記電力変換器に供給される前記直流電力の電流値を検出することを特徴とする同期電動機の駆動システム。 - 請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の同期電動機の駆動システムにおいて、
前記正および負の電圧パルスをそれぞれ印加して開放相の誘起電圧を検出する際に、正の電圧パルスと負の電圧パルスが交互に繰り返される電圧パルスを前記同期電動機の三相巻線の二相間に印加して、開放相の誘起電圧を検出することを特徴とする同期電動機の駆動システム。 - 請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の同期電動機の駆動システムにおいて、
前記正または負のパルス電圧のパルスの幅は、少なくとも2μsから20μsの幅であることを特徴とする同期電動機の駆動システム。 - 請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の同期電動機の駆動システムにおいて、
前記同期電動機と、前記電力変換器と、前記制御器とが一体化され、前記電力変換器と前記制御器の電源線、ならびに制御器への信号線を外部に引き出す構成とすることを特徴とする同期電動機の駆動システム。 - 請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の同期電動機の駆動システムを含み、前記同期電動機の負荷として、水ポンプ、もしくは油圧ポンプを駆動することを特徴とする同期電動機を用いたポンプ駆動システム。
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