以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のドライエッチング方法を実行可能な誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)型のドライエッチング装置1の一例を示す。
ドライエッチング装置1は、基板2(図2を併せて参照)を搬入出するための図示しない出入口を備えるチャンバ(真空チャンバ)3を備える。チャンバ3のガス導入口3aにはガス源4が接続され、排気口3bにはチャンバ3内を真空排気するための真空ポンプを含む減圧機構5が接続されている。チャンバ3の頂部は誘電体壁6で閉鎖され、その上方には上部電極としてのアンテナ(プラズマ源)7が配置されている。アンテナ7は第1の高周波電源8Aに電気的に接続されている。一方、チャンバ3内の下部側には、基板2が載置されて保持されるステージ11が配置されている。ステージ11は金属ブロック12上に配置され、金属ブロック12はベース部13内に収容されている。金属ブロック12は第2の高周波電源部8Bに電気的に接続されて下部電極として機能する。
ステージ11の冷却装置14は、金属ブロック12内に形成された冷媒流路12aと、温調された冷媒を冷媒流路12a中で循環させる冷媒循環装置15とを備える。ステージ11には、基板2を静電吸着するための静電吸着用電極16が備えられている。この静電吸着用電極16には、駆動電源17が電気的に接続されている。ステージ11において、基板2が載置される位置には、図示しない伝熱ガスの供給孔が設けられている。これらの供給孔は伝熱ガス源18に接続されている。
コントローラ19は、第1及び第2の高周波電源8A、8B、ガス源4、伝熱ガス源18、減圧機構5、冷却装置14、及び駆動電源17を含むドライエッチング装置1を構成する要素の動作を制御する。
図2を参照すると、基板2は炭化珪素(SiC)からなる(以下、SiC基板という)。SiC基板2の表面にはトレンチ(図3、4の122a、22a等参照)を形成するための開口を備えた二酸化珪素(SiO2)膜からなるマスク21を設けている。
このドライエッチング装置1を使用したSiC基板2に対するドライエッチング方法の概要は以下の通りである。
まず、SiC基板2をチャンバ3内に搬入してステージ11の上面に載置する。次に、静電吸着用電極16に対して駆動電源17から直流電圧を印加し、SiC基板2をステージ11に静電吸着させる。続いて、ステージ11の上面に載置されたSiC基板2の下面に伝熱ガスとしてヘリウム(He)を伝熱ガス源18から供給して充填する。その後、ガス源4からチャンバ3内にエッチングガスおよび希釈ガスが供給され、減圧機構5により減圧されたチャンバ3内を所定圧力に維持する。ここでの「エッチングガス」とは、SiC基板2の主に反応エッチングに寄与するガスのことであり、ArやHeなどの希釈ガスは含まれない。
続いて、高周波電源8Aから上部電極としてのアンテナ7に高周波電圧を印加してチャンバ3内にプラズマを発生させると共に、高周波電源8Bにより下部電極としての金属ブロック12に高周波電力(バイアス電力)を印加して、ステージ11上のSiC基板2にバイアスを印加する。チャンバ3内に発生するプラズマにより基板2がエッチングされる。
エッチング中は、冷媒循環装置15によって冷媒流路12a中で冷媒を循環させて金属ブロック12を冷却する。SiC基板2で発生する熱は、伝熱ガス(前述のように本実施の形態ではヘリウム)を介した熱伝導によりステージ11に伝わり、さらに金属ブロック12に伝わる。その結果、金属ブロック12を冷却することで、ステージ11上に保持されたSiC基板2は、ステージ11を介して冷却される。
以上、ドライエッチング方法の概要について説明したが、上述したドライエッチング装置1を用いたSiC基板のエッチング加工において、エッチング加工の最適化を実現すべく、本発明者らが見出した本実施の形態におけるエッチング方法について説明する。
本発明者らは、以下で説明する各種の実験を行った結果、第1エッチング工程として、少なくともSF6、O2、SiF4を含むエッチングガスを用いたエッチングを行い、さらに第1エッチング工程よりも低いバイアスをかけながら第2エッチング工程を行うステップエッチングにより、エッチング加工の最適化を図ることができることを見出した。本方法は、第1エッチング工程において選択比の向上と基板形状の加工精度の向上を実現し、第2エッチング工程においてトレンチ底部のラウンド化を実現することで、エッチング加工の最適化を図るというものである。以下にその実験内容について順に説明する。
(第1エッチング工程に関する実施例)
本発明者らはまず、第1エッチング工程において選択比の向上と基板形状の加工精度の向上の実現を図るべく、以下の表1に示すように、実験例No.1−12で示す種々のエッチング条件でSiC基板のドライエッチングを実行した。
実験No.1−12の具体的なエッチング条件は以下の通りである。
エッチングガスの組成は以下の通りである。実験No.1、2はSF6およびO2の混合ガスである。実験No.3−12はSF6、O2およびSiF4の混合ガスである。
エッチングガス中におけるSF6の添加量は、実験No.1−12で10sccmである。
エッチングガス中におけるO2の添加量は、実験No.2が5sccm、実験No.1、3、4、9が10sccm、実験No.6−8、10−12が20sccm、実験No.5が25sccmである。
エッチングガス中におけるSiF4の添加量は、実験No.1、2が0sccm、実験No.3が1sccm、実験No.4が2sccm、実験No.5、6が5sccm、実験No.7が7sccm、実験No.8、9が10sccm、実験No.10が15sccm、実験No.11が17sccm、実験No.12が20sccmである。
エッチングガスの総流量は、実験No.2が15sccm、実験No.1が20sccm、実験No.3が21sccm、実験No.4が22sccm、実験No.9が30sccm、実験No.6が35sccm、実験No.7が37sccm、実験No.5、8が40sccm、実験No.10が45sccm、実験No.11が47sccm、実験No.12が50sccmである。
希釈ガスであるArの添加量は、実験No.1−12で500sccmである。
エッチングガスの総流量に対するSiF4の添加割合(以降、SiF4の割合とする)は、実験No.1.2が0.0%、実験No.3が4.8%、実験No.4が9.1%、実験No.5が12.5%、実験No.6が14.3%、実験No.7が18.9%、実験No.8が25.0%、実験No.9.10が33.3%、実験No.11が36.2%、実験No.12が40.0%である。
チャンバ3内の圧力は実験No.1−12で4Paである。
チャンバ3内にプラズマを発生させるためのパワーであるICPパワーは、実験No.1−12で1200(W)である。なお、ここでのICPパワーとは、ドライエッチング装置1における第1の高周波電源8Aからアンテナ7に印加される電力(W)のことである。
チャンバ3内でバイアスを発生させるためのパワーであるバイアスパワーは、実験No.1−12で350Wである。ここでのバイアスパワーとは、ドライエッチング装置1における第2の高周波電源8Bから下部電極として機能する金属ブロック12に印加される電力(W)のことである。
バイアスパワーの電力密度(バイアスパワー/下部電極の電極面積)は、実験No.1−12で1.079W/cm2である。下部電極としての金属ブロック12は、基板2が載置される方向の平面視(すなわち上方視)で直径8インチの円形状を有し、その電極面積は実験No.1−12で324.293cm2である。
実験No.1−12について、SiC(基板)のエッチングレート、SiO2(のマスク)のエッチングレート、選択比、及び寸法シフト(CD shift;Critical Dimension shift)を測定した。
選択比は、SiO2のマスクのエッチングレートに対するSiC基板のエッチングレートの比である。選択比が大きいことは、精度の良好なエッチングが可能であることを示す。CD shiftについては後述する。
表1において、SiF4の割合と選択比との関係に着目すると、SiF4を添加してその割合を増加させるほど、選択比が向上していることがわかる。また、SiF4の割合を18.9%以上とした実験No.7−12では、例えば10以上という良好な選択比が得られている。
ここから、選択比が良好な実験No.7−12のグループと、それ以外の実験No.1−6のグループとの比較を行う。
図3は、実験No.1−6によるSiC基板122の加工形状の一例を示す断面図で、図4は、実験No.7−12によるSiC基板22の加工形状の一例を示す断面図である。
図3を参照すると、実線はエッチング加工後のSiO2のマスク123を含むSiC基板122の外形を示し、点線はエッチング加工前のSiO2のマスク123を含むSiC基板122の外形を示す。図3において、CD shiftはエッチング加工により広がったマスク123の開口の幅方向の寸法差分である。すなわち、CD shiftはD2(エッチング後のマスク123の開口の幅)−D1(エッチング前のマスク123の開口の幅)で表される。CD shiftが小さいことは、マスク123の開口の幅方向のエッチング加工による後退が少なく、エッチング加工による基板形状の加工精度が良好であることを示す。
図3に示されるように、実験No.1−6の例によれば、SiC基板122が深さ方向(厚み方向)にエッチングされることによりSiC基板122の表面側にトレンチ122aが形成されるとともに、それと同時にSiC基板122の表面側に設けられたマスク123も深さ方向に大きくエッチングされる。エッチング前のマスク123の厚みH1は、エッチング後に厚みH2まで減少している。このように実験No.1−6の例では、マスク123の深さ方向のエッチングが大きく進行するため、選択比は低くなっている。
また、マスク123の深さ方向のエッチング量が大きいことによりマスク123の厚みが薄くなると、トレンチ122aの入口部分の近傍におけるエッチング作用が活発になるため、マスク123は開口の幅方向(SiC基板122の表面沿いの方向)にも削られやすくなる。図3に示す例では、エッチング前のマスク123の開口の幅D1がエッチング後には幅D2となっており、大きく広がっていることが分かる。このようにマスク123が深さ方向だけでなく幅方向にも大きく削られることにより、マスク123間の下方に形成されたトレンチ122aも幅方向に広がりやすい。図3に示すトレンチ122aは、トレンチ122aの底部の寸法と入口部分の寸法が略同じである所望のストレート形状ではなく、底部の寸法よりも入口部分の寸法の方が大幅に大きいラッパ形状となっている。このように実験No.1−6の例では、所望のSiC基板の加工形状(トレンチ)を得られない。
一方で、図4に示す例では、図3に示す例と比較すると、エッチング前において、同じ厚みH1のマスクを用いて略同じ深さのトレンチ22aをエッチングによって形成しているにもかかわらず、エッチング後において図4に示すマスク23の厚みH3の方が、図3に示すマスク123の厚みH2よりも大きくなっている。すなわち選択比が大きくなっている。さらに、図3の例では、マスク123が深さ方向だけでなく幅方向にも大きく削られCD shiftが大きくなっているのに対し、図4の例では、マスク23は幅方向にあまり削られておらず、CD shiftは小さくなっている(エッチング後のマスク23の開口の幅はD3(<D2))。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、このような選択比の差異に関して、SiC基板のエッチング反応によって生じるCOがマスクのエッチングを促進していることが関係しているということを見出した。これに関して、エッチングガスとして、SF6およびO2を含むエッチングガスを用いた場合のドライエッチング中における反応式を以下の化1、2に示す。
化1は、SiC基板にて生じるエッチングの反応式を示す。化2は、マスク(SiO2)にて生じるエッチングの反応式を示す。上記化1、2より、SiC基板のエッチングが進行する一方で、SiC基板のエッチング時に生じたCOによってマスクのエッチングが促進されていることが分かる。これにより選択比の低下につながっている。
これに対して、実験No.7−12のように、SF6およびO2を含むエッチングガス中に所定割合以上のSiF4を添加すると、チャンバ内におけるSiF4の分圧を増加させるとともに、COの分圧を相対的に低下させることができる。COの分圧の低下により、マスクに対するCOのエッチング作用が弱くなるため、マスク23のエッチングレートを低下させることができる。これにより、結果的に選択比を向上させることができる。
さらに、エッチングガス中に所定割合以上のSiF4ガスを添加した場合には以下に示す反応も促進される(化3)。
化3に示すように、エッチングガス中にSiF4ガスを添加することで新たにSiO2が生成される。このようにマスク23と同じ成分であるSiO2量の増加により、マスク23のエッチングを抑制することができる。このようにして同様に選択比を向上させることができる。
すなわち、実験No.7−12のようにエッチングガス中に所定割合以上のSiF4を添加することで、SiO2からなるマスク23のエッチングに寄与するCOの分圧を低下させる作用、およびマスク23と同じ成分であるSiO2量を増加させる作用を併せ持ち、選択比を相乗的に向上させている。これにより、例えば10以上の良好な選択比を得ることができる。
図5−7に、実験No.1−12の結果の主な項目についてデータを成立した分布図を示す。
図5および図6は、SiF4の割合に対する、選択比(図5)とCD shift(図6)を示す。図5より、良好な選択比、例えば10以上の選択比は、エッチングガス中のSiF4の割合が18.9%以上で実現することができる(実験No.7−12)。次に、図6より、例えば100nm以下のCD shift、つまり良好な基板形状の加工精度は、SiF4の割合が18.9%以上で実現することができる(実験No.7−12)。さらにSiF4の割合が25%以上であれば選択比がより大きくなるとともに、CD shiftはより小さくなる傾向がある。一方で、SiF4の割合が40%を超えると、SiC基板のエッチングに寄与するSF6及びO2の作用が弱くなって、SiC基板のエッチングレートが低下し、実用的ではない。以上より、選択比を向上させつつ、CD shiftを小さくして基板形状の加工精度を向上させるには、SiF4の割合は18.9%以上、40%以下が好ましく、より好ましくは25%以上、40%以下である。
図7は、上述した選択比とCD shiftとの関係を示す。図5−7の実験No.7−12からも分かるように、SiF4の割合を調整して選択比を向上させることによってCD shiftも小さくなっている。
このように、実験No.7−12では、少なくともSF6およびO2を含むエッチングガス中にSiF4を添加するとともに、SF6、O2、SiF4が含まれるエッチングガスの総量に対するSiF4の添加割合を18.9%−40%とすることで、良好な選択比および良好な基板の加工形状精度を両立して実現することができる。
このようなエッチング方法によれば、図4に示すように、エッチング時におけるマスク23の厚みの変化量も小さいので、厚みの薄いマスク23を用いたエッチングを実施することができる。これにより、マスク23を生成するための成膜にかかる時間を短縮し、生産性を向上させることができる。
(ステップエッチングに関する実施例)
本発明者らは、上述のエッチング(第1エッチング工程)に関する実験結果を考慮して、良好な選択比と良好な基板形状の加工精度との両立に加えて、さらにトレンチ底部のラウンド化も合わせて実現すべく、さらなる実験を行った。基板のドライエッチング加工において、トレンチ底部のラウンド化は、電界集中による耐圧低下を防止するという観点で好ましい。トレンチ底部をラウンド化することができれば、信頼性の高い基板を作成することができる。ここでのラウンド化とは、トレンチ底部の立ち上がり部分が丸みを帯びている状態などを意味する。
本発明者らは、以下の表2、3に示すように、各種条件を変えながら実験No.13−21をそれぞれ実施した。これらの実験No.13−21の概要としては、少なくともSF6、O2、SiF4を含むエッチングガスを用いた第1エッチング工程の後に、第1エッチング工程よりもバイアスパワーを下げた第2エッチング工程によるステップエッチングを行うというものである。表2に示す条件が第1エッチング工程に対応し、表3に示す条件が第2エッチング工程に対応する。
表2に示すように、全ての実験No.13−21において、第1エッチング工程の条件は全て同じであり、具体的には以下の通りである。
エッチングガスの組成: SF6、O2およびSiF4の混合ガス
SF6の添加量: 30sccm
O2の添加量: 60sccm
SiF4の添加量: 25sccm
エッチングガスの総流量: 115sccm
Ar(希釈ガス)の添加量: 300sccm
エッチングガスの総流量に対するSiF4の割合:21.7%
圧力: 2Pa
ICPパワー: 2200W
バイアスパワー: 570W
バイアスパワーの電力密度: 1.758W/cm2
処理時間: 180s
実験No.13−21について、SiC(基板)のエッチングレート、SiO2(マスク)のエッチングレート及び選択比を測定した。それぞれの結果は、910nm/min、67nm/min及び13.58であった。
実験No.13−21による第1エッチング工程では、SF6、O2、SiF4を含むエッチングガスを用いるとともに、SiF4の割合を18.9%以上40%以下である21.7%としている。すなわち、前述の実験No.7−12と同じ原理を適用することができる。よって、実験No.13−21による第1エッチング工程後のSiC基板の加工形状は、図4に示される実験No.7−12のSiC基板22の例と実質的に同様であり、良好な選択比および良好な加工形状精度を両立している。一方で、図4に示すように、SiC基板22のトレンチ22aの底部ではラウンド化されていない(トレンチ22aの底部の立ち上がり部分が丸みを帯びていない)。
この第1エッチング工程後のSiC基板をそれぞれ用いて、表3に示す条件にてそれぞれ、さらに第2エッチング工程を行った。具体的な第2エッチング工程の条件は以下の通りである。
表3に示す第2エッチング工程におけるエッチングガスの組成は以下の通りである。実験No.13−15はSF6のみ、実験No.16、17はSF6およびSiF4の混合ガス、実験No.18−21はSF6、O2およびSiF4を含む混合ガスである。
エッチングガス中におけるSF6の添加量は、実験No.13−21で30sccmである。
エッチングガス中におけるO2の添加量は、実験No.13−17が0sccm、実験No.18が7sccm、実験No.19が15sccm、実験No.20が30sccm、実験No.21が60sccmである。
エッチングガス中におけるSiF4の添加量は、実験No.13−15が0sccm、実験No.17−21が25sccm、実験No.16が40sccmである。
エッチングガスの総流量は、実験No.13−15が30sccm、実験No.17が55sccm、実験No.18が62sccm、実験No.16、19が70sccm、実験No.20が85sccm、実験No.21が115sccmである。
希釈ガスであるArの添加量は、実験No.13−21で300sccmである。
希釈ガスを含まないエッチングガスの総流量に対するO2の添加割合(以降、O2の割合とする)は、実験No.13−17が0.0%、実験No.18が11.3%、実験No.19が21.4%、実験No.20が35.3%、実験No.21が52.2%である。
チャンバ3内の圧力は、実験No.15−21で2Pa、実験No.14で5Pa、実験No.13で7Paである。
ICPパワーは、実験No.13−21で1800(W)である。
バイアスパワーは、実験No.13−21で50Wである。
バイアスパワーの電力密度は、実験No.13−21で0.154W/cm2である(電極面積は約324.293cm2)。
エッチングを行う処理時間は180sである。
実験No.13−21について、SiC(基板)のエッチングレート、SiO2(マスク)のエッチングレート、選択比、及びデポ減少度(SiC基板のエッチングレートに対するSiO2のマスクのエッチングレートの比)を測定した。デポ減少度の詳細については後述する。
実験No.13−21による第2エッチング工程後におけるSiC基板の加工形状の一例を図8、図9B−9Dに示す。トレンチの幅や高さなどの寸法は異なるものの、図8に示すような例を含めて、全ての実験No.13−21において、トレンチ底部のラウンド化を行うことができた。すなわち、トレンチ底部の立ち上がり部分が丸みを帯びている状態を実現することができた。
第1エッチング工程ではバイアスパワーを高くする(570W)ことで、異方性の強いエッチングを行ってトレンチ22aを縦方向に深く掘るのに対して(図4参照)、第2エッチング工程では第1エッチング工程より低いバイアスパワーとする(50W)ことで、異方性よりも等方性の強いエッチングを行っている。このように、第2エッチング工程において、第1エッチング工程に比べて縦方向だけでなく横方向にも強くトレンチ32aをエッチングしているため、トレンチ底部のラウンド化を実現きるものと考えられる。なお、トレンチ底部のラウンド化という観点では、第2エッチング工程におけるバイアスパワーの好ましい範囲は10W以上100W以下とすることができる(下部電極の電極面積が約325cm2の場合)。これをバイアスパワーの電力密度に換算すると、好ましい範囲は0.031W/cm2以上0.308W/cm2以下である。また、第1エッチング工程においてトレンチ22aを深く掘るという観点では、第1エッチング工程におけるバイアスパワーの好ましい範囲は300W以上とすることができる。これをバイアスパワーの電力密度に換算すると好ましい範囲は0.925W/cm2以上である。
次に、本発明者らは、トレンチ底部のラウンド化に加えて、表3の条件に示すようにO2の割合などを変えることで、いわゆるSiC基板32のダイシングライン部(アイソレーション部)におけるデポ堆積の抑制を追求した。ダイシングライン部(図示せず)とは、エッチング加工後に基板32を個片化するためのダイシング工程でダイシングソー等を侵入させるために、SiC基板32表面に予め掘られる凹部のことである。ダイシングライン部は、SiC基板32上においてトレンチ32aとは別の場所に設けられる。本実施の形態では、SiC基板32上にエッチングによって微細なトレンチ32aを形成するとともに、同じエッチングガスによりダイシングライン部を同時にエッチングすることにより、ダイシングライン部の掘り下げもあわせて行っている。
このような加工方法においては、基板32上のトレンチ32aとダイシングライン部のエッチングを並行して進める必要があるが、本実施の形態の第2エッチング工程のような低バイアスのエッチングによれば、第1エッチング工程の高バイアスのエッチングと比較して加工速度が遅いため、デポ(堆積物)が発生しやすくなる。ダイシングライン部はトレンチ32aと比べてエッチングによる加工の幅が非常に大きいため、デポが堆積しやすい。よって、第2エッチング工程によりデポが発生すると、場合によってはダイシングライン部にデポが堆積することでエッチングが阻害され、エッチングがストップしてしまうことがある。よって、トレンチ32aの加工とダイシングライン部の掘り下げとを同時に行うためには、低バイアスのエッチングによりトレンチ底部のラウンド化を図りながらも、併せて特にダイシングライン部におけるデポの発生を抑制することが好ましい。
そこで、本発明者らは、実験No.13−21で新たに算出したデポ減少度に着目する。このデポ減少度は、本明細書でSiC基板のエッチングレートに対するSiO2のマスクのエッチングレートの比(SiO2のエッチングレート/SiCのエッチングレート)として定義される。デポ減少度の値が正であると、SiO2のエッチングが進んでいることを意味する。反対に、デポ減少度の値が負であると、SiO2のエッチングが進まず逆に後退している、すなわち、SiO2上にデポが堆積していることを意味する。また、デポ減少度が正の値である場合においては、その値が大きいほどSiO2のエッチングが早く進み、その値が小さいほどSiO2のエッチングが遅く進んでいるということを意味する。ダイシングライン部とトレンチ32aの周囲のマスクとでは基板上での場所が異なるものの、それぞれのエッチング工程において、同じエッチングガスにより同時にエッチングされるため、デポ堆積の進行には相関性がある。これより、ダイシングライン部でデポを堆積させない一方で、マスク33のエッチングを遅らせることで、SiC基板32のエッチングをより効率的に行うためには、デポ減少度の値が正でありかつその値が0に近い方がより好ましいといえる。なお、デポ減少度に変えて選択比の逆数として表すものでも良い。
これらを踏まえて、表3に示すデポ減少度の値を見ると、実験No.13−18ではデポ減少度の値が正であり、実験No.19−21ではデポ減少度の値が負であることが分かる。これをO2の割合との関係で見ると、O2の割合が11.3%以下であれば、デポ減少度の値が正となることが分かる。すなわち、O2の割合を11.3%以下とすることで、デポ減少度の値を正とすることができ、これにより、エッチングによるトレンチ底部のラウンド化とともにダイシングライン部の掘り下げも同時に進めることができる。
O2の割合を11.3%以下とすることでデポ減少度を正の値とできる原理としては、O2の割合を制限することで、SiF4とO2の反応により生じるマスクの成分であるSiO2の発生量が少なくなるためと考えられる。
次に、実験No.13−21による各エッチング工程後のSiC基板の実際の寸法の例を図9A−9Dに示す。ここで、第1、第2エッチング工程の処理時間はそれぞれ180secである(表2、3参照)。図9Aは、実験No.13−21における第1エッチング工程後のSiC基板42の寸法を示し、図9Bは、実験No.20における第2エッチング工程後のSiC基板52の寸法を示し、図9Cは、実験No.17における第2エッチング工程後のSiC基板62の寸法を示し、図9Dは、実験No.14における第2エッチング工程後のSiC基板72の寸法を示す。
図9Aに示す第1エッチング工程後のSiC基板42の寸法について説明する。初期(エッチング前)のマスク43の厚みは1500nmである。第1エッチング工程後のマスク43の厚みは1300nmである。第1エッチング工程後のトレンチ42aの深さは2730nmである。このデータより、SiCのエッチングレートは、2730nm÷3min=910nm/minである(表2参照)。また、SiO2のエッチングレートは、(1500nm−1300nm)÷3min(処理時間)=67nm/minである(表2参照)。
図9Bに示す第2エッチング工程後のSiC基板52の寸法について説明する(実験No.20)。初期(ここでは第1エッチング工程後)のマスク53の厚みは1300nmである。初期のトレンチ52aの深さは2730nmである。第2エッチング工程後のマスク53の厚みは1760nmである。第2エッチング工程後のトレンチ52aの深さは3190nmである。このデータより、SiCのエッチングレートは、(3190nm−2730nm)÷3min=153nm/minである(表3参照)。また、SiO2のエッチングレートは、(1300nm−1760nm)÷3min=−153nm/minである(表3参照)。
図9Cに示す第2エッチング工程後のSiC基板62の寸法について説明する(実験No.17)。初期(第1エッチング工程後)のマスク63の厚みは1300nmである。初期のトレンチ62aの深さは2730nmである。第2エッチング工程後のマスク63の厚みは1150nmである。第2エッチング工程後のトレンチ62aの深さは3260nmである。このデータより、SiCのエッチングレートは、(3260nm−2730nm)÷3min=177nm/minである(表3参照)。また、SiO2のエッチングレートは、(1300nm−1150nm)÷3min=50nm/minである(表3参照)。
図9Dに示す第2エッチング工程後のSiC基板72の寸法について説明する(実験No.14)。初期(第1エッチング工程後)のマスク73の厚みは1300nmである。初期のトレンチ72aの深さは2730nmである。第2エッチング工程後のマスク73の厚みは1200nmである。第2エッチング工程後のトレンチ72aの深さは3390nmである。このデータより、SiCのエッチングレートは、(3390nm−2730nm)÷3min=220nm/minである(表3参照)。また、SiO2のエッチングレートは、(1300nm−1200nm)÷3min=33nm/minである(表3参照)。
上述の通り、本実施の形態におけるドライエッチング方法は、まず、エッチングガスとして、少なくともSF6、O2、SiF4を含むエッチングガスを用いて、エッチングガスの総流量に対するSiF4の添加割合を18.9%以上、40%以下として、チャンバ内に第1のバイアスパワーを付与してエッチングを行う第1エッチング工程を行う。次に、第1エッチング工程後に、チャンバ内に第1のバイアスパワーよりも低い第2のバイアスパワーを付与してエッチングを行う第2エッチング工程を行う。このように、第1エッチング工程において、エッチングガスの総流量に対するSiF4の添加割合を18.9%以上、40%以下としてエッチングを行うことにより、選択比を向上させつつ、SiC基板の加工形状精度を向上させることができる。さらに、第1エッチング工程よりもバイアスパワーを下げた第2エッチング工程を行うことにより、第1エッチング工程時に形成されたSiC基板のトレンチ底部のラウンド化を図ることができる。このようにして、エッチング加工の最適化を図ることができる。
さらに、第1のバイアスパワー(W)の電力密度を0.925(W/cm2)以上とし、第2のバイアスパワー(W)の電力密度を0.031(W/cm2)以上0.308(W/cm2)以下としても良い。このように、第1のバイアスパワーの電力密度を所定以上に設定することで、選択比を向上させつつ、SiC基板に深いトレンチ部を形成することができる。また、第2のバイアスパワーの電力密度を所定以下に設定することで、トレンチ底部のラウンド化を促進することができる。
さらに、第2エッチング工程において、エッチングガスは少なくともSF6およびO2を含み、エッチングガスの総流量に対するO2の添加割合を11.3%以下としても良い。このように、第2エッチング工程においてエッチングガスの総流量に対するO2の添加割合を所定以下とすることにより、O2に起因して生じるデポの量を少なくすることができ、特にダイシングライン部でのエッチングも並行して効率的に進めることができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。