JP5965571B2 - 凍結梅を用いた新規梅酒及びその製造方法 - Google Patents
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梅酒は、古くは、主として家庭で製造されてきたが、近年では、醸造メーカーから、非常に多様な種類が製造されており、各メーカーは個性あふれる梅酒の生産にしのぎを削っている。梅酒のテイスティングでは、甘み、酸味等の味に加え、香りが重要な要素となっている。そして、梅酒は現在、嗜好の多様化、高級化に伴い、香りの高い梅酒、梅の中でも完熟梅の持つフルーティーな香り、特に桃やトロピカルフルーツ様の甘い香りを放つ梅酒が求められるようになってきている。
2-1.概要
本願発明者等は、多岐にわたる種々の試行錯誤の結果、完熟梅又は追熟梅を凍結して、糖類及びアルコール水溶液又はアルコール水溶液に浸漬することにより、慣例法に比較し顕著に高いレベルで完熟香気成分を含む梅酒が製造できることを見出した。この成功後も、完熟香成分のより高い抽出条件を求めて研究を続け、梅の熟度/浸漬期間/浸漬するアルコール水溶液のアルコール度数/砂糖添加の有無/糖の添加タイミング等を検討することにより、梅酒としての香味を確保しつつ、完熟香を最も引き出す条件をついに見出し本願発明を完成させた。
本発明の梅酒製造に用いる梅としては、通常梅酒製造に用いられているいずれの品種であっても用いることができるが、例えば、南高、長束、藤五郎、白加賀等を挙げることができる。また外国産であってもよい。本発明で言う完熟梅とは、通常梅酒製造に用いる青梅とは異なり、実が黄変し、フルーティー様の香り(ラクトン類、エステル類)を放つ状態の梅のことであり、樹上のもの、完熟して落下したもの、それらを採取後に追熟した実を含む。また追熟梅とは、青梅を木から収穫後、15〜35℃で約2〜6日間保管熟成させたものが挙げられる。適当な保管熟成の期間は梅の実の熟度によって異なるが、約2〜6日で最適熟度に達する。またその際には、密閉条件下よりも開放系で適度に空気に触れさせる方がより良好に追熟できる。
この状態での梅の実の香りは、全体的に桃やトロピカルフルーツを思わせる、甘酸っぱいフルーティーな香りの芳香豊なものである。
(1) 完熟梅又は追熟梅の凍結
まず、通常は、完熟又は追熟した梅の実を水又は適宜洗浄用水溶液で洗浄後、水分をふき取るか、或いは、梅を洗浄することなく、砂や塵を除去或いは拭き清める等する。次に完熟又は追熟した梅の実を凍結させる。凍結方法は、特に限定されず任意の冷凍方法を採用できる。例えば、空気凍結法、エア・ブラスト凍結法、接触式凍結法、ブライン凍結法、液体窒素を用いる凍結法等、食品製造において通常用いられている冷凍手段であればいずれの冷凍手段でも良いが、好適には、-20℃の冷凍庫で24時間以上経過させることで凍結することができる。
凍結した完熟梅又は追熟梅は、凍結状態のままアルコール水溶液に浸漬するが、場合によっては、解凍中或いは解凍後に、アルコール水溶液に浸漬しても良い。凍結した完熟梅又は追熟梅は、粉砕することなくそのまま、言い換えれば、果皮及び/又は果肉からなる部分のみが直接アルコール水溶液に接触した状態で、アルコール水溶液に浸漬することが好ましい。
完熟の実を用いた梅酒の香気成分としてはラクトン類及びエステル類に分けられるが、完熟香の香気はγ−デカラクトンによるところが大きい。そこで、梅酒の完熟香の評価は、γ−デカラクトンの分析によることが好ましい。γ−デカラクトンは、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーや、ガスクロ・質量分析装置(GC/MS)、又は液クロ・質量分析装置(LC/MS)で測定することができる。
本願発明の方法で製造した新規梅酒は、桃やトロピカルフルーツを思わせる甘酸っぱいフルーティーな香りの芳香豊なものであり、更に梅酒としての酸味やアミノ酸味、梅酒としての味も充分備えたものである。即ち、本願発明の製造方法で製造された新規梅酒は、200μg/L以上γ−デカラクトンを含む「顕著な完熟香」を有するもの、好ましくは300μg/L以上、さらに好ましくは400μg/L以上のγ−デカラクトンを含むものである。更に、本願発明の新規な梅酒は、充分な有機酸、アミノ酸を含有し、官能評価においても優れた性質を示すもので、梅酒としての味も従来のものと同じか、それ以上に味わい深く、優れたものであり、例えば、えぐ味も少ない。これらの特徴を兼ね備えた梅酒は、従前の公知の製造方法では達成し得なかったものである。
γ-デカラクトンを、本発明の桃やトロピカルフルーツを思わせる甘酸っぱいフルーティーな香りの芳香豊な梅完熟香気成分の指標とし、以下のように測定した。
(i)分液ロートに塩化ナトリウム11g、サンプル40mL、100mg/L内部標準溶液(シクロヘキサノール)0.2mL、n-ペンタン2mLを加え、振とう機で10分間振とうした。
(ii)上層を採取し、無水硫酸ナトリウムを用いて脱水する。
(iii)フィルター(0.45μm)濾過した試験液をGC/MS(内部標準法)にて測定した。
1.サンプルの前処理
試料を、超純水で200倍に希釈する。希釈した試料を限外濾過フィルターに入れ10℃前後、9,000rpmで12分間遠心分離を行った。
総アミノ酸の分析は、日立製作所製L-8800アミノ酸分析計を用いて行った。メインカラムは#2622〔日立ハイテクノロジーズ〕、ガードカラムは#2619〔日立ハイテクノロジーズ〕を用い、プロリンは440nm、プロリン以外のアミノ酸はニンヒドリンで発色させ570nmで検出し、予め作成した検量線より濃度を算出した。
官能評価は、専門パネル4名により、香り(フルーティー)、味(梅酒としての調和感、えぐ味−収斂味)において比較に必要な項目の評価を行い、以下のように定義付けした。なお、「梅酒としての調和感」は、梅酒として遜色がない香味の調和が図られているかを評価した。
まず、完熟香を特徴として一般的に市販されている無香料および香料を含む商品(市販品)と本発明の方法による梅酒中の香気分析を行った。
0〜20μg/L 「完熟香なし」
20〜50μg/L 「完熟香あり」
50〜200μg/L 「良好な完熟香」
200μg/L以上 「顕著な完熟香」
以下の実施例では、「顕著な完熟香」の実現を目標として、各浸漬条件を検討した。
実の熟度(青梅・完熟梅)、凍結処理の有無の比較(凍結処理あり;凍結梅、凍結処理なし;生梅)により、製造された梅酒の完熟香の顕著度合いを比較し、更に梅酒としての香味成分が確保できているかを確認するため、完熟香気成分、有機酸、アミノ酸の含有量を分析した。
結果を以下の表3,4及び5、並びに図2,3及び4に示す。
浸漬期間の違いによる完熟香への影響を確認するため、6日〜6ヶ月まで浸漬期間を変えて設定し、生成した完熟香を分析比較した。
結果を以下表7及び8並びに図5に示す。
アルコール度数の違いによる完熟香気への影響を確認するため、20〜50%までのアルコール濃度を設定し、完熟香を比較した。
結果を表9及び10並びに図6に示す。
糖の有無の違いによる完熟香気への影響を確認するため以下の試験をした。
結果を表11及び図7に示す。
糖の添加時期による完熟香気への影響を確認するため、同時添加(0時間)、24時間後、7日後、14日後、30日後に添加時期を設定し、完熟香を比較した。
結果を表12及び図8に示す。
本発明の方法と類似する先行技術である凍結粉砕した梅の実を用いる方法(以下、凍結粉砕法)との比較を行った。
結果を表13及び図9に示す。
比較例1に準じて本発明の方法と凍結粉砕法との比較を行った。
(1)本願発明の梅酒は、浸漬期間を6日間又は14日間とした点以外は上記比較例1と同じ条件で調製した。
(2)凍結粉砕梅を用いた梅酒は、浸漬期間を6日間又は14日間とした点以外は上記比較例1と同じ条件で調製した。
(3)生梅を用いた梅酒は上記比較例1と同じ条件で調製した。
結果を以下に示す。
凍結粉砕梅は後味の完熟感が全くないが、凍結梅(本法)は完熟の余韻が残り非常に良い印象を受けた。また、凍結粉砕梅は生梅同様のえぐ味が感じられるものの、凍結梅は収斂味・えぐ味が非常に少なかった。
Claims (4)
- 梅酒の製造方法において、黄変した完熟梅及び/又は追熟梅を凍結処理し、凍結した完熟梅及び/又は追熟梅を粉砕することなく果皮及び/又は果肉からなる部分のみが直接アルコール水溶液に接触した状態でアルコール水溶液に浸漬することを特徴とする、桃やトロピカルフルーツ様の甘い香りの顕著な完熟香を有する梅酒の製造方法であって、浸漬期間が6日〜2ヶ月で、かつ浸漬開始から24時間〜7日以内に上白糖を添加することを特徴とし、いずれの工程においても前記浸漬された梅以外の梅を添加しない、前記製造方法。
- 浸漬するアルコール水溶液のアルコール度数が20〜50V/V%であることを特徴とする、請求項1記載の桃やトロピカルフルーツ様の甘い香りの顕著な完熟香を有する梅酒の製造方法。
- アルコール水溶液中のγ−デカラクトンが200μg/L以上であることを特徴とする、請求項1または2記載の桃やトロピカルフルーツ様の甘い香りの顕著な完熟香を有する梅酒の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載の方法で製造された桃やトロピカルフルーツ様の甘い香りの顕著な完熟香を有する梅酒。
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