JP7334967B2 - 新規梅酒の製造方法 - Google Patents

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本発明は、新規な梅酒およびその製造方法に関するものであり、より詳細には、完熟ウメ特有の桃のようなフルーティな香りを有し、かつウメの種由来の香りと液色の褐色化を低減させた新規梅酒の製造に関するものである。
梅酒は代表的なウメの加工品であり、家庭では生果の青ウメを用いて、氷砂糖、ホワイトリカー等に常温で数カ月間漬けこむ手法がよく用いられている。また、完熟したウメを使用することでより風味が豊かな梅酒が得られることから、付加価値商材として完熟ウメを原料とした香りが豊かな梅酒の開発・製造が行われている。
フルーティな香りを含有した梅酒として、冷凍完熟ウメを用いてアルコールに浸漬、24時間~7日以内に上白糖を添加することで完熟ウメの香りを有する梅酒の製造方法が知られている。(特許文献1)また、青ウメの梅果汁を加えることでフレッシュ感のある梅酒を製造する方法がある。(特許文献2)また、南国果実様の香気成分を持つ品種である翠香を用いて、フルーティな香りを持つ梅酒を製造する方法が知られている。(特許文献3)
特開2011-115118号公報 特開2004-337039号公報 特開2016-202102号公報
ウメは生食には向かないため、梅酒や梅干しなどの加工品がこれまで親しまれてきた。傷みやすいその特性のため、市場には主に青梅が出荷され、収穫時期の産地であっても完熟ウメ果実そのものが市場に普及することはごく稀である。また、完熟ウメ果実を使用した加工品においても、加工工程中に香りは変化してしまうため、完熟ウメ果実は桃のようなフルーティな香りを有するということは一般的に知られていない。
通常の梅酒の漬け込み方法では、完熟ウメ特有の桃のようなフルーティな香り以外にも、種由来の香りが同時に抽出される。この種由来の香りとは、仁に含まれるアミグダリンが分解されたベンズアルデヒドが主な香気成分であると一般的に知られている。
また、従来の製造方法で得られた梅酒の液色は褐色を呈するが、これはフルフラール等によるものであり、430nmの吸光度を評価することが多い。褐色物質は香りの面において、カラメル臭を生じさせる。
このように、たとえ完熟ウメを使用した梅酒であっても、従来の製法では種由来の香りや、褐色物質由来の香りが大きく影響し、完熟ウメ特有のフルーティな桃様の香りを梅酒から感じることは困難であった。先行文献においては桃様のフルーティな香りを有し、かつ種由来の香り、褐色物質を同時に低減させる梅酒の製造方法については何ら記載されていない。
さらに、褐色は色素等の添加による着色の際にその鮮やかな色彩を阻害し、くすみを生じさせる。色鮮やかな梅酒の製造のためには、炭を用いた脱色工程や、梅酒の使用量を減少させて他の素材、酒類とブレンドするなどの梅酒の風味低減を伴う工程を踏まねばならず、完熟ウメ果実特有の豊かな桃様の香りを十分に感じることができ、かつ色鮮やかな梅酒の開発は困難であった。
そこで、本願発明は、完熟ウメ特有のフルーティな桃様の香りを有し、かつ種由来の香りと褐色化を抑えた新規な梅酒を得ることを目的としている。
本発明者らが鋭意検討した結果、冷凍した完熟ウメ果実を糖及び、アルコールに漬け込み抽出温度を低温に保持することで桃様の香りを含有し、かつ種由来の香りと褐色化を抑えた梅酒が得られることを見出し、本発明を完成させた。
なお、本発明における製造方法が適用されるウメ果実については特に限定されず、南高、翠香、露茜、古城、白加賀、豊後、養老などが挙げられる。また、ウメ果実に限らず、アンズ、スモモ、カリン、ラ・フランスに代表されるバラ科植物で食用できる果実であれば適用可能である。
本発明における製造方法は、完熟、又は追熟処理した完熟ウメの実を洗浄後、水分を拭き取り凍結処理を行う。凍結方法は限定されず、任意の凍結方法を採用できる。例えば、空気凍結法、エア・ブラスト凍結法、接触式凍結法、ブライン凍結法、液体窒素を用いる凍結法等食品製造に用いられている冷凍手段であればいずれの冷凍手段でも良い。好適には、-20℃の冷凍庫で24時間以上経過させることで凍結することができる冷凍手段が良い。
凍結した果実をアルコール浸漬液に漬け込む作業時間としては、果実中の氷結晶が融解してしまう前に処理することが好ましく、室温が30℃の場合、3時間以内の作業時間が好ましい。
漬け込む糖質としては、特に限定されないがショ糖型液糖、果糖液糖、ブドウ糖液糖、異性化糖液糖等の液状の糖を使用することが好ましい。固形状の糖を使用する場合は、0℃~-15℃での抽出のため、ウメ、糖、アルコール、水を同時に入れた場合は固形の糖では解け残りが発生し、ウメから抽出される成分がまばらになる可能性があるため、糖類を予め水もしくは、アルコール水溶液に溶解したものを使用することが好ましい。
抽出期間中の外気温、および浸漬液の液温としては、0℃~-15℃、好ましくは、-2℃~-10℃、より好ましくは、-4℃~-6℃とすることが望ましい。その理由として、0℃以上では、浸漬時に種からの香りも抽出されてしまい、-15℃以下では抽出の進行が遅く、作業効率が悪いためである。特に、-20℃以下では果実の凍結温度であり、-30℃以下では浸漬液の凍結温度であるため抽出効率が落ちる。
出来上がった梅酒原酒はそのまま飲用してもよいが、加水、または、アルコールを添加しても良い。また、糖類、ウメ果汁を加えることで、味わいのバランスを調節することができる。この際、添加する果汁は限定されないが、種由来の香りを含まないものが好ましい。
上記以外の果汁や添加素材としては、レモン、柚子、イチゴ、ブドウなどの果汁類や、蜂蜜、緑茶、ハーブ類なども挙げることができ、完熟ウメのフルーティな香りと各種素材との香味が調和した新たな梅酒を得ることができる。また、褐色化を低減させた透明な液色であるため、素材そのもの、もしくは添加した色素の色調が活かされたくすみの無い鮮やかな梅酒になる。
本発明で言う完熟ウメとは、果実が黄変した桃様の香りを持つ状態のことである。完熟させる方法は特に限定せず、樹上で完熟したもの、完熟して落下したもの、または青ウメや完熟ウメを収穫後、15~35℃で静置し追熟させたものでも良い。
浸漬期間はウメ果実と糖、アルコールの含有量、および抽出温度にもよるが、2日~2か月、好ましくは3日~1か月、より好ましくは4日~10日である。短すぎると、ウメ果実中の氷結晶が融解せず成分が十分量抽出されない。また、長すぎると種由来の香りが抽出され従来の梅酒と同様の香りになる。また酸度も上昇し、えぐみも発生する。
浸漬開始時のアルコール水溶液のアルコール含有量は、20~40V/V(%)が好ましい。これよりアルコール度数が高いと、アルコール由来の苦みが発生し風味を損なう。
完熟、追熟処理を行った冷凍完熟ウメ果実を原料とする梅酒を本発明の方法で製造した場合、種由来の香りおよび褐色物質由来のカラメル臭が低減され完熟ウメ特有の香りへの悪影響を抑制した完熟ウメ果実特有の桃のようなフルーティーな香りを保有するこれまでにない新規な梅酒が得られる。
また、本発明の方法で製造した梅酒の液色は従来の梅酒のような褐色を呈していないことから、着色した色彩がそのまま反映されるため、梅酒の風味を損なう加工工程を踏むことなく、色鮮やかな梅酒の開発が可能になる。また、アントシアニンの紅色、βカロテンの黄色等、色調に特徴を持つウメを選択的に使用することで、ウメ果実が持つ色素本来の色鮮やかな梅酒となる。このように、本発明はこれまでにない外観、風味を保有する新規な梅酒を提供できるという極めて優れた効果を奏する。
また、本発明で得られる梅酒は、飲料用としてだけでなく、洋菓子、和菓子などの菓子類、肉・魚・野菜等を用いて調理した惣菜類、ヨーグルトやチーズ、穀物飯類などの食品に適宜配合することができる。
各漬け込み条件で得られた梅酒中のベンズアルデヒド、およびγ―デカラクトンのGCピーク面積の比較 各漬け込み条件で得られた梅酒の吸光度(430nm)の比較 各漬け込み条件で得られた梅酒の糖酸バランスの比較 各漬け込み条件で得られた梅酒の官能評価(桃様の香り(γ-デカラクトン由来))の比較 各漬け込み条件で得られた梅酒の官能評価(種の香り(ベンズアルデヒド由来))の比較 各漬け込み条件で得られた梅酒の官能評価(えぐみ・収れん味)の比較 各漬け込み条件で得られた梅酒の色調評価(褐色)の比較 各漬け込み条件で得られた梅酒の官能評価(糖酸のバランス)の比較 各漬け込み条件で得られた梅酒の官能評価(総合評価)の比較
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
樹上完熟した南高ウメを洗浄後、水気を切り―20℃の冷凍庫で一晩凍結させた。
糖含有量23V/W(%)、アルコール含有量30V/V(%)のアルコール水溶液に200mlに対して130gの冷凍完熟ウメを浸漬し、-5℃の環境下で抽出を行った。尚、糖はショ糖型液等を用い、果実の浸漬前に-5℃になるよう冷やしたものを使用した。浸漬開始から2日に1度-5℃の環境下で攪拌を行い、9日目で果実を取り除き、残った液を梅酒とした。
[比較例1]
次に、抽出条件を25℃の環境下に置くこと以外は実施例1と全く同じ条件で梅酒を調製した。
[比較例2]
次に、生の青梅を用いて常温で6か月間抽出する一般的に行われている従来法の梅酒を調整した。糖含有量58V/W(%)、アルコール含有量33V/V(%)のアルコール水溶液200mlに対して114gのウメを使用した。浸漬開始から1月に1度攪拌を行い、6か月目で果実を取り除き、残った液を梅酒とした
[比較例3]
特許文献1記載の、冷凍完熟ウメを用い、24時間後に糖を加える常温での漬け込み法(以下、常温凍結ウメ漬け込み法)との比較を行った。
常温凍結ウメ漬け込み法は完熟ウメの香気成分を引き出した香味バランスのよい梅酒の製造方法を提供することを目的にした技術である。
特開2011-115118号公報
常温凍結梅漬け込み法は、完熟ウメ(kg):35%アルコール(L)=1:1.8の浸漬比率になるように、30%アルコールに浸漬した。ウメを浸漬させた24時間後に上白糖をウメ(kg):35%アルコール(L):上白糖(kg)=1:1.8:0.5の比となるように添加し、常温(25℃)で30日浸漬した。
[比較例4]
特許文献1において最も短い抽出期間における比較のため、抽出期間を6日とすること以外は比較例4の方法に則り、梅酒を調整した。
[比較例5]
次に、完熟生ウメを使用すること以外は実施例1と全く同じ条件で梅酒を調製した。
[比較例6]
次に、抽出期間を1日とすること以外は実施例1と全く同じ条件で梅酒を調製した。
[実施例2]
次に、抽出期間を3日とすること以外は実施例1と全く同じ条件で梅酒を調製した。
[実施例3]
次に、抽出期間を30日とすること以外は実施例1と全く同じ条件で梅酒を調製した。
〈芳香性成分の分析〉
上記の実施例および比較例にて作成された梅酒を用いて、種由来の芳香性成分として知られるベンズアルデヒド、および完熟ウメの芳香性成分として知られ、桃様の香りを呈するγ―デカラクトンをガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した。各成分のピークの面積を、内部標準であるシクロヘキサノールの面積で割って求めた面積比および、その面積比より求めたγ―デカラクトンに対するベンズアルデヒドの比を表1、図1に示す。
分析の手法は以下の通りである。
[GC測定方法]
試料10 mLを20 mL容バイアルに分取し、内部標準としてシクロヘキサノールを終濃度100 mg/Lになるように添加した。バイアルの気相にGerstel社製Twisterを設置し密栓した。50℃に4時間静置し、揮発成分をTwisterに捕集した。その後、Twisterを取出しGC/MS(ガスクロクロマトグラフィー―質量分析法)にて分析した。加熱脱着条件及びGC/MS分析条件は以下のとおりとした。
[使用機器]
加熱脱着試料導入装置 :Gerstel社製 MPS2/TDU/CIS4
GC :Agilent社製 7890A
MS :Agilent社製 5975C
[加熱脱着条件]
TDU温度:70℃→720℃/分→250℃(3分)
CIS4温度:–120℃→720℃/分→250℃(15分)
[GC/MS分析条件]
カラム :DB-WAX 0.25 mmφ×30 m 膜厚0.25 µm
注入方法 :スプリット(10:1)
注入口温度 :250℃
カラム温度 :40℃(2分)→6℃/分→220℃(13分)(計45分)
イオン源温度:230℃
マスレンジ :35~500 m/z
イオン化法 :EI
イオン化電圧:70 eV
Figure 0007334967000001
GC分析の結果から、実施例1~3で得られた梅酒はγ―デカラクトンが比較例3,4と同程度であるにもかかわらず、ベンズアルデヒドがほとんど検出されていないことがわかる。γ―デカラクトン/ベンズアルデヒドの比で表すとその差は顕著である。比較例6は実施例と比べるとγ―デカラクトン/ベンズアルデヒド比の値がやや小さいが、浸漬1日ではまだ果実が融解していなかったことから、抽出が不十分であったことによるものであると予想される。比較例5のγ―デカラクトン/ベンズアルデヒド比の値が最も高いが、生のウメ果実を使用しているため、製造の時期が限られ、通年の大量生産は不可能である。
〈色調〉
上記の実施例および比較例にて作成された梅酒の吸光度(430nm)を測定した。結果を表2、および図2に示す。
Figure 0007334967000002
吸光度(430nm)を測定したところ、実施例、比較例6~8は吸光度が0.05以下であり、完熟冷凍ウメを使用し―5℃で調整した梅酒は褐色化が抑制されていることが示された。
〈浸漬期間別糖度、酸度の分析〉
浸漬期間別の糖度、酸度の分析を行った。糖度の分析は、ATAGO社製7000α屈折計を用いてBrix.を測定した。酸度は滴定法を用いた。すなわち、梅酒を10ml三角フラスコにホールピペットで測り取り、1NのNaOHで終点までの滴定量を酸度とした。尚、指示薬はフェノールフタレイン溶液とした。また、Brix./TAを糖酸比とし、結果を表3、および図3に示す。
Figure 0007334967000003
実施例と比較例5より、冷凍ウメ果実を使用することで、短期的に酸度を上昇させることができることが示された。これは、凍結ウメ果実中に生成された氷結晶により組織損傷が発生し有機酸をはじめとする果汁の抽出効率が上昇したためであると考えられる。また、比較例6に示されるように、1日だけの浸漬では果実中の氷結晶が融解しておらず、酸度の抽出が不十分であった。実施例1~3より、浸漬期間が長いほど酸度が高く、また表2から浸漬期間が30日でも褐色化は抑えられている。よって、浸漬期間を調節することで、目的の糖酸のバランスをコントロールでき、かつ褐色化を抑えた梅酒を得ることができることがわかる。
〈外観・官能検査〉
訓練を受けたパネラー5名による官能、および外観の評価を行った。香りについては「種由来の香り」、「桃様の香り」の二種類を評価項目とし(1:非常に弱い 2:弱い 3:普通 4:強い 5:非常に強い)と区分し、採点した。
味については「えぐみ、収れん味」「糖酸のバランス」「総合評価」の三種類を評価項目とし「えぐみ、収れん味」については、(1:非常に弱い 2:弱い 3:普通 4:強い 5:非常に強い)と区分した。また、「糖酸のバランス」「総合評価」については、(1:非常に悪い 2:悪い 3:普通 4:良い 5:非常に良い)と区分し、採点した。
また、色調については「褐色の度合い」を評価項目とし、(1:非常に弱い 2:弱い 3:普通 4:強い 5:非常に強い)と区分し、採点した。結果を表4、または図4~9に示す。
Figure 0007334967000004
上記に示すように、当該発明の方法で得られた梅酒、特に実施例1で得られた梅酒は、桃様の香りが最も強く、種の香りが抑制されていた。また、色調についても褐色化しておらず、総合評価も高いことから、非常に優れた梅酒であることがわかる。比較例1、比較例5、6については、桃様の香りは高く、種の香りは抑制され、色調の褐色化は全く認められなかった結果となったが、浸漬期間が1日のものや生果では抽出が不十分なことから甘さやアルコール感が際立ち、糖酸のバランスが悪くなる。比較例1~4については、桃様の香りは当該発明で得られた梅酒よりは低かった。また種由来の香り、褐色化が見られ、いずれも従来の梅酒の域を脱するものではなかった。比較例1、および3~4においては、GC分析の結果からγ―デカラクトンの量は実施例と同程度、またはそれ以上の値であったが、官能では桃様の香りの評価が実施例よりも低くなった。これは、種の香り成分であるベンズアルデヒドが桃様の香りを阻害し、官能面では桃様の香りを感じられにくくなったことが示唆されておりγ―デカラクトン/ベンズアルデヒドの比が17以上のものが桃様の香りを十分に感じることができる梅酒であることがわかる。
本発明により、これまでにない完熟ウメ特有の桃のようなフルーティな香りを有する褐色化が低減された新規な梅酒が得られる。




Claims (3)

  1. 冷凍、完熟させたウメ果実を液状の糖及び、日本酒を除くアルコールに漬け込み抽出温度を-15℃以上0℃以下に保持し、抽出期間を2日~2か月とすることを特徴とする桃様の香りを含有し、かつ種由来の香りと褐色化を抑えた梅酒の製造方法
  2. γ―デカラクトン/ベンズアルデヒドの比が17以上であることを特徴とする請求項1に記載の梅酒の製造方法
  3. 褐色度を示す吸光度430nmが0.05以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の梅酒の製造方法
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