JP5949706B2 - コークスの製造方法、コークス、改質石炭、改質配合炭および石炭もしくは配合炭の改質方法 - Google Patents

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Description

本発明は、製鉄原料などとして用いるコークスの製造方法およびその製造方法により製造されるコークス、原料として用いる改質石炭、改質配合炭および石炭もしくは配合炭の改質方法に関する。
高炉用コークスは、高炉内において、還元材、熱源、そして通気性を保つための支持材として用いられている。このような役割を担う高炉用コークスは、高炉内に装入された際に粉化すると高炉の通気性を悪化させるので、それを防止するために高い強度を有することが要求されている。そこで、コークス原料である石炭の事前処理方法を工夫することによって高い強度のコークスを製造する技術が各種検討されている。その一例として、コークス炉に装入する前の石炭の粒度分布の適正化、すなわち、粒径3mm以下の粒子の割合が70〜90質量%になるように粒度分布を調整することによってコークス強度を制御する方法などが知られている。
また、高炉用コークスを製造する際には、通常、複数の銘柄の石炭を混合した配合炭を用いており、そのため従来から、配合炭を原料として製造されるコークスの強度推定法が検討されてきた。そのなかで、特に、「基質強度と流動性を指標としたコークス強度推定法」による方法が一般的に行われている。この方法は、石炭の性状として、ビトリニット平均反射率(Roの平均値)とギーセラープラストメーターの最高流動度(Maximum Fluidity:MF)との2つの指標をパラメータとしてコークス強度を推定する方法である。
すなわち、石炭を乾留してコークスを製造する際の因子として、石炭の石炭化度を示すビトリニット平均反射率(Ro)と、石炭の粘結性を示す最高流動度との2つの特性を組み合わせ、この2つの特性の組み合わせに基づいて、製造されるコークスの強度を推定するという方法である。つまり、製造されるコークスの強度を確保するために、配合炭のビトリニット平均反射率および最高流動度が所定の範囲になるように原料炭を配合するという方法である。尚、石炭の流動性を示す最高流動度は、試験方法の特性から試験用攪拌棒の回転数(ddpm)またはその対数値(logMF=log[ddpm])で表されている。ここで、「ddpm」はDial Division per Minuteの略である。
配合炭の最高流動度の具体的な数値としては、配合炭の最高流動度の対数値(logMF)、つまり、混合する各原料炭の最高流動度の対数値(logMF)の加重平均値が1.2〜4.5の範囲内になるように、好ましくは2.0〜3.5の範囲内になるように、各種石炭が配合されているのが一般的である。但し、配合炭の最適な最高流動度(logMF)の範囲は、使用するコークス炉の特性や製造条件ごとに異なるので、上記の範囲を外れる場合も発生する。
例えば、非特許文献1には、高強度のコークスを製造するためには、流動性が非常に重要な要因であることが示されている。更には、高強度のコークスを製造するためには、数種の銘柄を組み合わせて、配合炭の最高流動度を適正化することが重要であり、配合炭の流動性が不足しているとコークス強度が低下することが記載されている。
高炉用コークスは、良質粘結炭(強粘結炭)と、この良質粘結炭に比べて安価であるが低品位な非微粘結炭(非粘結炭と微粘結炭を総称して非微粘結炭と称する)とを混合・配合して製造されているが、近年、高炉用コークス製造のために有利である良質粘結炭が世界的に不足している。非微粘結炭を良質粘結炭と同等或いは類似の特性に改質できれば、良質粘結炭の不足を補うことが可能となるのみならず、コークスの製造コストを低減することが可能となる。そこで、粘結性の低い石炭(非微粘結炭)を使用して、強度の高いコークスを製造する技術開発が進められている。
例えば、特許文献1には、粘結性の低い石炭の改質および利用方法として、非微粘結炭を良質粘結炭に比べてより細かく粉砕したのち、乾燥し、タール、重質油、ピッチ類などのバインダーを混練して擬似粒子化する原料炭の事前処理方法が提案されている。
特許文献2には、タール重質留分を原料炭に混合し、このタール重質留分が混合された原料炭を乾留し、高強度のコークスを製造する方法が提案されている。
特許文献3には、熱間強度の高いコークスの表面に、湿式担持法によりガス化反応性向上効果を有する酸化物微粉末を担持させ、コークスのガス化反応性を向上させるコークス改質法が提案されている。
特許文献4には、非粘結炭を非水素供与性溶剤と混合してスラリーとし、該スラリーを300〜420℃に加熱して溶剤抽出を行い、加熱後の前記スラリーを液部と非液部とに分離し、液部から溶剤を分離して抽出炭を得るとともに、前記非液部から非抽出炭を得て、軟化流動性に優れた前記抽出炭をコークス用原料とする非粘結炭の改質方法が提案されている。
また、特許文献5および特許文献6には、多量の酸素原子を含む低品位炭を重質油類とともに所定温度で加熱し、低品位炭の表面に重質油類の分解生成物を付着させ、処理過程で水を多量に発生させることなく、効率良く低品位炭を人造粘結炭に改質する方法が記載されている。
尚、コークス製造業界において、良質粘結炭と非微粘結炭との境界は明確には定義付けられていない。しかしながら、上述のように、高炉用コークスを製造する際には、最高流動度(logMF)が1.2〜4.5の範囲内になるように石炭を配合する場合が多いことを考慮すると、最高流動度(logMF)が1.2未満の範囲に該当する石炭は、それ単独では高炉用コークスに不向きな低品位な石炭であるといえる。
特開平10−183136号公報 特開平11−43675号公報 特開2003−89808号公報 特開2006−70182号公報 特開2009−13221号公報 特開2009−13222号公報
宮津隆ら、日本鋼管技報、67(1975)、p.125 野村誠治ら、日本エネルギー学会誌、81(2002)、p.728
低品位炭を改質し、改質した低品位炭を原料炭の一部または全部として高炉用コークスを製造する場合、生産性向上の観点から、コークス製造工程の前に行われる改質のための低品位炭の事前処理工程は、簡便なものが望ましい。たとえば、石炭の改質剤として、石炭と同様な固体状物質、望ましくは粉体を石炭に混合(配合または投入など)する方法が簡便である。低品位炭の改質工程としてコークス炉とは別の熱処理工程を経ることや、石炭或いはコークスに酸化物や金属粉末などを付与する工程を経ることは、コスト的にも不利となる。
この観点から上記従来技術を検証すると、特許文献1、3、4、5、6は、コークスを製造する前段階で石炭に混合操作以外の複雑な事前処理を行う技術であり、特に特許文献3は、コークスの表面に酸化物微粉末を担持させる技術である。
特許文献2は、タールを原料炭に添加して原料炭と混合する必要があり、単純な工程ではあるものの、液体のタールを改質剤として使用することから、専用の混合容器を用いた混合工程という事前処理が必要である。
つまり、上記従来技術には、改善すべき点がある。
また、石炭への固体物質の混合のみによる簡便な改質としては、非特許文献2に、石炭に各種プラスチックを混合する方法が検討されているが、そのときの石炭の粘結性および流動性を調査した結果から、石炭にプラスチックを混合しても、プラスチック混合によって石炭の流動性が向上する効果は発現しないと報告されている。
すなわち、従来、簡便な石炭の改質方法、およびそれによるコークスの製造方法についての報告はなかった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、高強度のコークスを製造するためのコークスの製造方法、その製造方法により製造されるコークス、石炭の特性である流動性を向上させた改質石炭および改質配合炭、および改質剤として固体の粉体を使用し、且つ、コークス製造工程の前に行われる石炭の改質工程が簡単で効率的な石炭もしくは配合炭の改質方法を提供することである。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンを混合した石炭もしくは配合炭をコークス用原料として乾留してコークスを製造することを特徴とする、コークスの製造方法。
[2]前記[1]に記載のコークスの製造方法により製造されたコークス。
[3]N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンを混合し、コークス用原料として流動性を向上させたことを特徴とする、改質石炭。
[4]N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンを混合し、コークス用原料として流動性を向上させたことを特徴とする、改質配合炭。
[5]コークス用原料として用いる石炭もしくは配合炭に、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンを混合し、石炭もしくは配合炭の流動性を向上させることを特徴とする、石炭もしくは配合炭の改質方法。
本発明によれば、高強度のコークスを製造することができる。
また、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを添加物として石炭または配合炭に混合するという簡単な方法で、コークス用原料として用いる石炭または配合炭を、入手時とは異なる流動性つまり入手時に比べて最高流動度の高い特性を有する石炭または配合炭に改質することが実現でき、従来に比較して簡単且つ効率的に石炭または配合炭を改質することが実現される。この改質方法により、最高流動度の高い石炭を得ることができる。
これにより、高強度コークスの製造に必要な複数銘柄の石炭配合時の配合設計の自由度を高めることが実現される。また、流動性の乏しい低品位な石炭を用いても、石炭が改質されることで、従来、高品位の石炭を使用して製造されていたコークスと同等品質のコークスを製造することができ、コークスの製造コストを削減することが達成される。
実施例におけるA炭での温度と流動度との関係を、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合の有無で比較して示す図である。 実施例におけるB炭での温度と流動度との関係を、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合の有無で比較して示す図である。 N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合の有無によるドラム強度試験結果を示す図である。 N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合の有無によるドラム強度試験結果を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、高強度のコークスを得る上で必要となる、石炭の流動性を向上させること、つまりギーセラープラストメーターの最高流動度を高めることを目的として、種々の固体を石炭に混合して石炭を改質する方法を検討した。前述したように、ギーセラープラストメーターの最高流動度は、コークスの品質に影響を及ぼす石炭の重要特性の一つとして、一般的に採り上げられている。
石炭の流動性を向上させる研究は従来から行われてきたが、そのほとんどが、石炭に重質油、タール類、または、事前に石炭から各種溶媒などを用いて抽出した抽出液/抽出物を混練する方法であり、これらは、簡便な方法というにはほど遠く、且つ、専用の設備が必要であり、工程も複雑であった。更に、それに加えて、金属または金属酸化物などを石炭の表面に付与し、石炭を活性化させる方法を並行して行うことも検討されてきた。
一方、石炭に各種プラスチックを混合して流動性への影響を検討した非特許文献2においては、プラスチック混合による石炭の流動性向上効果は発現しないと報告されていた。
一般に高炉用コークスの原料として供される石炭は加熱すると、350℃付近から軟化溶融を開始する。すなわち、一般に石炭の軟化溶融温度域は350℃以上であり、550℃以下の範囲で軟化溶融が進行する。軟化溶融時には、石炭の加熱分解反応が起こり、著しく質量が減少する。
そこで、検討するにあたって、まず、石炭乾留時における石炭の挙動を考えた。通常の製鉄用石炭は350℃付近から軟化溶融を開始する際、石炭の一部が熱分解され、多くの気体が発生するとともに、反応性の高いラジカルが多く発生する。このとき発生する反応性の高い物質に水素などを供与することで反応性を低下させて、さらなる高分子化などの反応を抑制することが重要であると考えた。上述のような石炭分解物の高分子化を抑制する、つまり、水素を供与する物質が石炭内に存在することで、石炭の重要特性である流動度を高めることができると推測した。ただし、一般的な有機物質は400℃までには分解するものが多い。石炭分解物の高分子化を抑制する反応を考えると、より気化温度、沸点等が高いなど、熱的に安定な物質が好ましいことが推定される。
そこで、本発明者らは種々の化合物を用いて石炭の流動性向上効果の確認試験を行い、その結果、重質油、タール類、石炭からの抽出物などに代表される様々な物質が混合した物質ではなく、過去の知見に反して、単一の化合物を添加物として石炭に混合することで、石炭の流動特性が改善することを見出した。具体的には、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを石炭に混合することで、石炭の流動特性が改善することを見出した。
また、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合した石炭を乾留し製造されるコークスはN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合せずに石炭を乾留したコークスに比べ、コークス強度が向上することを突き止めた。ここで、乾留とは、空気を遮断して固体有機物(石炭等)を強く加熱する操作である。
N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンとは、化学式をC2620とし、p−フェニレンジアミンの2つのアミノ基において、それぞれ1つの水素が2−ナフチル基で置換された構造をしており、常温では固体の物質である。
N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合により、石炭の流動性が向上するメカニズムについて詳細には判明していないが、以下のように推察される。つまり、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは水素供与能を有するため、乾留過程、特に石炭の軟化溶融温度領域で水素を石炭分子に供与し、石炭分子の高分子化を一時的に抑制し、低分子状態を維持させる効果がある。その結果、流動性を向上させると考えられる。更に、一般的な有機化合物は200〜400℃程度で分解もしくは揮発してしまうものが多い。しかし、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは熱的に比較的安定な構造であり、石炭の軟化溶融開始温度である350℃から450℃においても一部は石炭内に残存するため、上述の効果を発現することができると思われる。
配合炭についても、石炭と同様の上記検討を行ったところ、石炭と同様に、配合炭にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合することで、配合炭の流動特性が改善することを見出した。また、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合した配合炭を乾留し製造されるコークスはN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合せずに配合炭を乾留したコークスに比べ、コークス強度が向上することもわかった。
以上より、本発明において、石炭にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合し、石炭の流動性を向上させることとする。また、コークス用原料として用いる配合炭に、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合し、石炭の流動性を向上させることとする。コークス用原料として用いる配合炭を形成する一種以上の石炭に、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合し、石炭の流動性を向上させることとする。コークスを製造するに際しては、コークス用原料として用いる石炭もしくは配合炭にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合し、流動性を向上させた石炭もしくは配合炭を、コークス用原料もしくはコークス用原料の一部として用い、乾留して製造する。
以下、本発明に係るN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合による石炭もしくは配合炭の流動性の改善方法および高強度コークス製造方法の実施形態例を説明する。
流動性改善対象である石炭を、粒径5.0mm以下(目開き寸法5.0mmの篩いを通過した篩下)に粉砕し、好ましくは粒径5.0mm以下で且つそのうちの少なくとも70質量%以上が粒径3.0mm以下(目開き寸法3.0mmの篩いを通過した篩下)となるように粉砕し、この粉砕した石炭にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの粉末を混合する。
次いで、石炭とN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの粉末を、350℃以上の温度で乾留する。高炉コークス用石炭は350℃以上に加熱されると流動する現象が発現し、この流動性が、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合によって向上する。また、上記では、常温で石炭にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合しているが、昇温した石炭中にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合しても構わない。また、上記では、粉砕した石炭に粉末のN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合しているが、石炭を粉砕しなくてもよいし、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは粉末でなくてもよい。
配合炭を改質する場合、複数の銘柄の石炭を混合し配合した配合炭に、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合する、もしくは、配合炭を形成する複数の銘柄の石炭の一種以上に対してN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合し、次いで、複数の銘柄の石炭を混合、配合し配合炭とする。
混合方法は特に規定するものではなく、石炭および配合炭内にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンが存在していることが重要である。
N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンが混合された石炭もしくは配合炭は、コークス炉での乾留時、加熱され昇温する際にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンによって流動性が改善されコークスが製造される。
コークスを製造する際の乾留温度は、一般的に1000〜1300℃と高温であるが、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンによる流動性改善効果は350℃以上550℃以下の温度範囲で発現するものであり、コークス製造のための乾留時の昇温過程で流動性改善効果は十分に発揮される。また、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合することで改質された石炭もしくは配合炭は、一気にコークス製造まで昇温されなくともよい。つまり、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合した石炭もしくは配合炭を350℃以上550℃以下で乾留、冷却して、一旦、コークスとなる前の段階の物質を得ておき、それを再度、昇温してコークスの製造を行ってもよい。また、この場合の乾留時間は、石炭の種類などによっても左右されるので、流動性を改善しようとする石炭の少量を用いた予備実験を行うことで、適宜決定することができる。
また、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合による石炭もしくは配合炭の改質効果を阻害しない範囲で他の化合物が石炭もしくは配合炭に混合されてもよいが、他の化合物の混合質量比は、石炭もしくは配合炭とN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンと他の化合物との合計を100質量%とした際に、通常10質量%以下である。
本発明に係る石炭もしくは配合炭の改質方法において、改質の対象となる石炭は、限定されない。例えば、強粘結炭、非微粘結炭などの高炉用コークスの原料として供される石炭の全てを対象とすることができる。特に、低い最高流動度を有する非微粘結炭を単独で、または数種類の非微粘結炭が配合された配合炭を対象とすることが現実的である。また、本発明で改質剤として用いるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは、その粒度について、特に規定するものではないが、効率的に改質したい場合には、粒径は細かく、例えば3mm以下とすることが好ましい。N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの改質対象の石炭もしくは配合炭に対する混合質量比は、石炭もしくは配合炭とN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンとの合計を100質量%とした際に、0.1質量%未満では効果が充分ではなく、15質量%超えではコスト的に非常に高いものになってしまうため、混合質量比は、石炭もしくは配合炭とN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンとの合計を100質量%とした際に、0.1〜15質量%が好ましい。
上述したように、添加物としてのN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは粉末状にして混合してもよいが、混合する際の形態は特に制限されるものではない。例えば、タブレットに成形した状態で混合してもよく、溶剤などに溶解して溶液として混合してもよく、更に、スラリー状で混合してもよい。
以上説明したように、本発明によれば、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを添加物として石炭または配合炭に混合するという簡単な方法で、コークス用原料として用いる石炭または配合炭の流動性を、入手時とは異なる流動性、つまり入手時に比べて最高流動度の高い特性を有する石炭に改質することができる。しかも、コークス炉でコークスを製造する際に最高流動度の向上が十分に発揮される。このように、従来に比較して簡単且つ効率的に石炭または配合炭の流動性を向上させ、且つ、高強度のコークスを製造することが実現される。
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
なお、実施例において、石炭もしくは配合炭に混合されるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンなどの添加物の混合質量比は、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンなどの添加物と石炭もしくは配合炭との合計を100質量%とした際の添加物の質量比である。
N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合して、石炭の流動性を改質した例を説明する。改質試験に供した石炭(A炭、B炭)の主な特性値を表1に示す。表1に示すように、A炭は、最高流動度(logMF)が1.0、ビトリニット平均反射率(Roの平均値)が1.23である。B炭は、最高流動度(logMF)が0.85である低品位な石炭であり、かつRoがA炭に比べて低値(0.66)を示す石炭である。尚、表1のイナート量は不活性成分量を示す。A炭、B炭ともにこのままでは高強度コークスの製造に不利な低い流動度を有する低品位な石炭であるといえる。
Figure 0005949706
N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合による石炭の流動性向上は、以下の手順で確認した。先ず、粒径2.0mm以下に粉砕した石炭(A炭、B炭)各々に市販のN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン粉末を混合し、石炭とN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンとの混合試料を作製した。このとき、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン粉末の混合質量比は、10.0質量%、6.0質量%、4.0質量%、2.0質量%、0.2質量%のいずれかとなるように調製した。この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この混合粉末を装入した容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、300℃から550℃まで3℃/minで昇温することによって、この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の流動度の測定を行った。
また、併せてN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合しない石炭(複数の銘柄を混合しない単味炭)での流動度の測定も行った。また比較例としてN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの代わりに、添加物としてフェノチアジン、ジベンゾチオフェン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、ジベンジルジスルフィド、アントロン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミンをそれぞれ表2に示す混合質量比で石炭に混合し、これらの混合試料についても、JIS M8801に準拠して石炭の流動度の測定を行った。得られた結果を表2に示す。
また、流動性向上効果の評価として、添加物の混合質量比が10質量%以下の範囲において、添加物(例えばN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン)1質量%あたりの最高流動度(logMF)の変化を下式(1)によって算出し、その値が0.30以上となっている場合を流動性向上効果合格「○」とし、0.30未満となっている場合を流動性向上効果不合格「×」とし、算出値と合わせて表2に記載した。
((logMFa)−(logMFb))/混合質量比・・・式(1)
ここで、
logMFa:添加物を混合後の石炭の最高流動度(logMF)(log[ddpm])
logMFb:添加物混合前の元々の石炭の最高流動度(logMF)(log[ddpm])
混合質量比:添加物の混合質量比(単位:質量%)
Figure 0005949706
表2より、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを石炭に混合することで、A炭およびB炭の何れにおいても流動性が著しく向上し、流動性向上効果は合格であることがわかった。このことは、原料石炭のビトリニット平均反射率(Ro)の大小に拘らず、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの石炭への混合は最高流動度(logMF)の向上に有効であることを示している。更に、低品位なA炭におけるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン6.0質量%混合後の最高流動度(logMF)は3.3であり、また、低品位なB炭におけるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン6.0質量%混合後の最高流動度(logMF)は2.7となり、高強度コークス製造にとって適正な流動度であることがわかった。
N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンと同様の、芳香環を有するアミン系化合物の一種であるフェノチアジンは流動性向上効果が不合格であった。N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの場合と同様の流動性を得るためには、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンに対して約2倍から10倍のフェノチアジンを混合する必要があることがわかった。
また、同じく芳香環を有するアミンであるN−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミンの流動性向上効果もやはり不合格であり、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンと同様の流動性を得るためには、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンに対して約5倍から10倍の量を混合する必要があることがわかった。
この点から、他の、芳香環を有するアミン系化合物と比べ、本発明のN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンでは、少ない混合量でも、十分な流動性向上効果が得られ、コスト、資源節約、簡便性の点からも優れているといえる。
一方、やはり分子内に芳香環を有するジベンゾチオフェンの混合では、流動性の変化はほとんどなく、流動性の向上効果は認められなかった。
酸化防止剤として一般的に有用されている4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、ジベンジルジスルフィド、およびアントロンの混合の場合は、流動性の向上効果は認められなかった。
以上の結果から、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは乾留時の石炭の流動性向上を顕著にもたらす効果のある物質であることがわかった。
N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合(0.2質量%および6.0質量%)した石炭のJIS M8801による試験結果の詳細な温度プロファイルを図1および図2に示す。図1は、A炭における温度と流動度との関係を示す図である。図2は、B炭における温度と流動度との関係を示す図である。図1および図2において、温度によって流動度が変化することがわかる。その中で、流動度の最高の値を最高流動度と定義する。
図1および図2によれば、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合しないときには最高流動度(logMF)が1.0であるA炭は、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの6.0質量%混合により、400℃付近から流動性を示し、440℃で最高流動度を示し、流動度(logMF)は3.3に達することが確認できた。また、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合しない場合、最高流動度(logMF)が0.85であるB炭は、6.0質量%のN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを石炭に混合することで、435℃で最高流動度を示し、最高流動度(logMF)が2.7にまで向上した。
このように、本発明を適用することで、ビトリニット平均反射率(Ro)の違いによらず、様々な低品位の石炭において流動特性を向上させる効果が発現することがわかった。つまり、石炭へのN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン混合によって石炭の流動特性を改善できることが確認できた。
実施例1と同様に、石炭もしくは配合炭に混合されるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンなどの添加物の混合質量比は、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンなどの添加物と石炭もしくは配合炭との合計を100質量%とした際の添加物の質量比である。
N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合し、コークスを製造した例を示す。
7種類の石炭(石炭銘柄C炭〜I炭)を用意し、これら7種類の石炭を混合し、配合炭(配合炭1)を製造した。製造した配合炭(配合炭1)について、その特性を測定したところ、石炭性状パラメータであるギーセラープラストメーターの最高流動度(logMF)が1.8、ビトリニット平均最大反射率(Roの平均値)が1.1、全イナート量(TI)が33%、揮発分(VM)が26%であった。
上記配合炭1に対し、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合しない水準1炭、および配合炭1に、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合質量比で1.5質量%混合した水準2炭の2検体について、実施例1と同様の方法で最高流動度を測定した。水準1炭の最高流動度(logMF)は上述のとおり1.8、水準2炭の最高流動度(logMF)はN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合により2.5に向上していた。
配合炭(水準1炭、水準2炭)それぞれから以下の方法にてコークスを製造した。まず、粒度が3mm以下(3mmの篩目を通る状態)に調整した。この配合炭18kgを容器内に嵩密度850kg/mで充填し、これを1050℃の電気炉内に入れ、6時間乾留した。6時間乾留後、窒素冷却し、コークスを製造した。得られたコークスについて、JIS K2151の回転強度試験法に基づき、15rpm、150回転でドラム強度試験を実施した。15rpm、150回転後の粒径15mm以上のコークスの全体に対する質量割合を測定し、ドラム強度DI(150/15)とした。この値が高いほど強度が高いことになる。添加物を混合しなかった水準1炭から製造されたコークス(水準1)およびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合した水準2炭から製造されたコークス(水準2)のドラム強度試験結果を図3に示す。図3によれば、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン混合によりコークスのドラム強度(DI)が高くなることがわかる。本発明方法であるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを配合炭に混合することで、コークス強度を向上させる効果があることが明らかとなった。
実施例1と同様に、石炭もしくは配合炭に混合されるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンなどの添加物の混合質量比は、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンなどの添加物と石炭もしくは配合炭との合計を100質量%とした際の添加物の質量比である。
さらに異なる配合炭において、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合し、コークスを製造した例を示す。
7種類の石炭(石炭銘柄J炭〜P炭)を混合し配合炭(配合炭2)を製造した。この配合炭(配合炭2)に対して実施例2と同様の性状試験を実施したところ、石炭性状パラメータであるギーセラープラストメーターの最高流動度(logMF)が1.8、ビトリニット平均最大反射率(Roの平均値)が1.0、全イナート量(TI)が31%、揮発分(VM)が28%であった。
配合炭2に対し、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合しない水準3炭、および、配合炭2にN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合質量比で1.0質量%となるように添加混合した水準4炭を製造した。ただし、水準4炭は、あらかじめN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンをJ炭にのみ添加混合し、次に、これをK炭〜P炭と混合し製造した。つまり、水準3炭と水準4炭はN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合の有無のみが異なるものとした。上記、水準3炭、水準4炭の2つの配合炭について、実施例2と同様に最高流動度を測定した。水準3炭の最高流動度(logMF)は1.8、水準4炭の最高流動度(logMF)はN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの混合により2.2に向上していることを確認した。
配合炭(水準3炭、水準4炭)それぞれから以下の方法にてコークスを製造した。まず、粒度3mm以下(3mmの篩目を通る状態)に調整した。この配合炭18kgを容器内に嵩密度850kg/mで充填し、これを1050℃の電気炉内に入れ、6時間乾留した。6時間乾留後、窒素冷却し、コークスを製造した。得られたコークスについて、JIS K2151の回転強度試験法に基づき、15rpm、150回転でドラム強度試験を実施した。15rpm、150回転後の粒径15mm以上のコークスの全体に対する質量割合を測定し、ドラム強度DI(150/15)とした。添加物を混合しなかった水準3炭から製造されたコークス(水準3)およびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを混合した水準4炭から製造されたコークス(水準4)のドラム強度試験結果を図4に示す。図4によれば、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン混合によりコークスのドラム強度(DI)が高くなることがわかる。
以上の結果より、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンを配合炭に混合することでコークス強度を向上させる効果があることが明らかとなった。石炭銘柄の異なる配合炭を用いた実施例2および3双方でドラム強度が向上していることから、様々な石炭で効果が見込めることが明らかになった。

Claims (4)

  1. N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンを混合した石炭もしくは配合炭をコークス用原料として乾留してコークスを製造することを特徴とする、コークスの製造方法。
  2. N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンを含有し、コークス用原料であることを特徴とする、改質石炭。
  3. N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンを含有し、コークス用原料であることを特徴とする、改質配合炭。
  4. コークス用原料として用いる石炭もしくは配合炭に、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンを混合し、石炭もしくは配合炭の流動性を向上させることを特徴とする、石炭もしくは配合炭の改質方法。
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