JP5944115B2 - ベーカリー用油脂組成物 - Google Patents
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Description
上記モノアシルグリセロールは、生地の泡(気泡)を安定化する作用があることが知られている。また、小麦粉の澱粉と複合体を形成することで生地の機械への付着を抑制してパン製造の効率化に寄与すると同時に、焼成後のパンにおいて澱粉の老化を防ぐことも知られている(特許文献1、2参照)。
また、コハク酸モノアシルグリセロールやジアセチル酒石酸モノアシルグリセロール等の有機酸モノアシルグリセロールは、小麦粉中のグルテンに作用してグルテンネットワークを緻密化し、生地の進展性が向上することが知られている(特許文献3、4参照)。
(a)ジアシルグリセロール 5〜60質量%、
(b)有機酸モノアシルグリセロール 5〜35質量%、及び
(c)モノアシルグリセロール 5〜60質量%
を含有するベーカリー用油脂組成物であって、
該モノアシルグリセロールはシス不飽和モノアシルグリセロールを含み、
ベーカリー用油脂組成物中の該シス不飽和モノアシルグリセロールの含有量が、該有機酸モノアシルグリセロールの含有量1に対して0.05〜0.5(質量比)である、ベーカリー用油脂組成物に関する。
また、本発明は、前記油脂組成物を油相中に含有するベーカリー用乳化組成物に関する。
また、本発明は、前記ベーカリー用乳化組成物を含有する生地から製造されるベーカリー製品に関する。
また、前記不飽和脂肪酸の好ましい炭素数は14〜24、より好ましくは16〜22であるが、風味及び酸化安定性等の観点から少なくともオレイン酸を含むことが好ましい。ジアシルグリセロールの構成脂肪酸に占めるオレイン酸の割合は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25〜90質量%、さらに好ましくは30〜80質量%、特に好ましくは35〜70質量%である。さらに、本発明の油脂組成物はジアシルグリセロールとして2分子のオレイン酸がエステル結合したオレイン−オレインジアシルグリセロールを含有することが好ましいが、その含有量は、ジアシルグリセロールの総量に対して98質量%未満であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましい。
また、本発明に用いられるジアシルグリセロールは、1,2−ジアシルグリセロール及び/又は2,3−ジアシルグリセロールを含んでもよいが、良好な風味を得る観点から、ジアシルグリセロールに占める1,2−ジアシルグリセロール及び/又は2,3−ジアシルグリセロールの割合は、30質量%以下であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることが特に好ましい。
本発明に用いる有機酸モノアシルグリセロールには、塩の形態のものも含まれる。
下記に、コハク酸モノアシルグリセロール(式(1))、クエン酸モノアシルグリセロール(式(2))及びジアセチル酒石酸モノアシルグリセロール(式(3))の一般的な構造を示す。
本発明におけるベーカリー用油脂組成物中の有機酸モノアシルグリセロール含有量は、5〜35質量%であり、5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜25質量%、さらに好ましくは6〜22質量%、特に好ましくは7〜20質量%である。
本発明のベーカリー用油脂組成物中のシス不飽和モノアシルグリセロールの含有量は、モノアシルグリセロールの総含有量を1としたときの質量比(シス不飽和モノアシルグリセロール/モノアシルグリセロール)で0.01〜0.5であることが好ましく、0.01〜0.4であることがより好ましく、0.01〜0.3であることがさらに好ましく、0.01〜0.2であることが特に好ましく、0.03〜0.15であることが殊更好ましい。
本発明のベーカリー用油脂組成物中のシス不飽和モノアシルグリセロールの含有量は、0.5〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8質量%、さらに好ましくは0.6〜5質量%、特に好ましくは0.7〜3質量%であり、0.9〜2.6質量%とすることが殊更に好ましい。
本発明に用いられるシス不飽和モノアシルグリセロールを構成するシス不飽和脂肪酸は、炭素数14〜22であることが好ましい。このような不飽和脂肪酸としては、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が挙げられる。
本発明のベーカリー用油脂組成物中のリン脂質含有量に特に制限はないが、0〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましく、0.2〜1質量%であることがさらに好ましい。なお、レシチンにはリン脂質以外の成分を含むものが多いが、このようなレシチンを用いる場合には、リン脂質としての含有量が上記濃度範囲内となるように前記油脂組成物中に含有させる。
上記原料油脂は、構成脂肪酸として炭素数16〜22の脂肪酸を有していることが好ましく、炭素数18の不飽和脂肪酸を有することがより好ましい。原料油脂の具体例として、ナタネ油、コーン油、大豆油、パーム油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、米油、ひまわり油、ごま油、ラード、牛脂、魚油、もしくはこれらの分別油、エステル交換油、硬化油、又はこれらの混合油脂が挙げられる。上記のように調製した油脂のアシルグリセロール組成は後述する方法で測定することができる。
本発明のベーカリー用乳化組成物は、水相成分として、(d)糖類、(e)水及び(f)乳化剤を含有する。上記糖類としては、グルコース、マルトース、フルクトース、シュークロース、ラクトース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類、六糖類や澱粉加水分解物、又はこれらを還元した糖アルコールが挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物であってもよい。良好な乳化安定性と保存性(防腐性)が得られ、しかもパンに適度の甘みを付与する観点から、水相成分中の糖類の含有量は30〜70質量%であり、30〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは35〜55質量%、さらに好ましくは40〜55質量%含有される。
HLB=20×(親水基部分の分子量)/(界面活性剤の分子量)
このような乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン誘導体(例えばリゾレシチン)等を挙げることができるが、水への分散性と乳化安定性の観点からショ糖脂肪酸エステルが好適に用いられる。ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸等が挙げられる。水相成分中の上記乳化剤の含有量は好ましくは1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%、さらに好ましくは2〜5質量%である。
本発明のベーカリー用乳化組成物は、例えば、上記油相成分と、上記水相成分とを通常の方法で乳化混合することで得ることができる。より具体的には、例えば80℃程度まで加熱した上記油脂組成物をホモミキサーを用いて攪拌し、ここに40℃程度まで加熱した上記水溶液を加えて攪拌乳化することで得られうる。本発明の乳化組成物を安定した水中油型の乳化組成物とするために、上記水相成分は、上記油相成分に対して質量比(水相質量/油相質量)で1.5以上であることが好ましく、1.5〜4であることがより好ましい。このようにして調製した乳化組成物では、モノアシルグリセロールのニート相が安定化し、油滴の界面にモノアシルグリセロールが液晶状態で存在しうる。モノアシルグリセロールが結晶化せずに液晶の状態で存在することで、乳化組成物がパン生地に馴染みやすくなってパン等のベーカリー製品の品質にムラが生じにくくなると同時に、優れた品質のベーカリー製品に仕上げることができる。油滴の界面に液晶の層が存在することは、X線回析により確認することができる。
上記ベーカリー製品に特に制限はなく、食パン、菓子パン、特殊パン、調理パン等が挙げられる。食パンとしては、白パン、黒パン、フランスパン、バラエティーブレッド、ロール類(テーブルロール、バンズ、バターロール等)が挙げられ、特殊パンとしてはマフィン等が挙げられる。調理パンとしては、ホットドック、ハンバーガー等が挙げられ、菓子パンとしてはジャムパン、あんパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スイートロール、リッチグッズ(クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュ、ペストリー等)が挙げられる。
また、本発明のベーカリー用乳化組成物は乳化安定性に優れるため、ベーカリー製品の品質にムラが生じにくく、製品のロット間差が抑えられて歩留まりが向上しうる。
また、本発明のベーカリー用乳化組成物を生地に練る込むことで生地の成形性(作業性)が向上し、ベーカリー製品の製造効率が向上する。
なお、下記実施例において、TAGはトリアシルグリセロールを、DAGはジアシルグリセロールを、MAGはモノアシルグリセロールを意味し、特に断わりのない限り、成分組成を示す数値は質量%を意味する。
アシルグリセロール組成:
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの01調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
ウインタリングにより飽和脂肪酸を低減させた大豆油脂肪酸455質量部と、菜種油脂肪酸195質量部と、グリセリン107質量部とを、リポザイムIM(ノボザイムス社)を使用して40℃、0.07hPaで5時間エステル化反応を行った。次いで酵素を濾別し、235℃で分子蒸留して未反応の脂肪酸とモノアシルグリセロールとを留去し、更に脱色、水洗した。こうして得られた油脂150質量部に10%クエン酸水溶液7.5質量部を加え、60℃で20分間攪拌した後、110℃で脱水した。これを235℃で2時間脱臭することで油脂Aを得た。なお、大豆油脂肪酸及び菜種油脂肪酸は、大豆白絞油(昭和産業社製)及び菜種白絞油(昭和産業社製)をそれぞれ酵素(商品名:リパーゼAYアマノ、天野エンザイム社製)で加水分解することで調製した。
菜種白絞油(日清オイリオ製)、ジアシルグリセロール高含有油脂(上記油脂A又は上記油脂B)、不飽和モノアシルグリセロール(商品名:エキセルO−95R、花王社製)、コハク酸モノアシルグリセロール(商品名:ステップSS−NA、花王社製)、ジアセチル酒石酸モノアシルグリセロール(商品名:サンソフトNo.641D、太陽化学社製)、クエン酸モノアシルグリセロール(商品名:サンソフトNo.621B、太陽化学社製)、飽和モノアシルグリセロール(商品名:エキセルT−95R、花王社製)、レシチン(商品名:レシチンデラックス、日清オイリオ製)及びポリグリセリンモノステアレート(花王社製)を下記表1及び2に示す割合で混合し、80℃に加熱して攪拌溶解することで調製した。
ソルビトール(商品名:ソルビトール70W、花王社製)、マルトース(商品名:ハイマルトースMC−45、日本食品化工社製)、ショ糖脂肪酸エステル(商品名:S−1170、三菱化学社製)及び水を下記表1及び2に示す割合で混合し、40℃に加熱して攪拌溶解することで水相を得た。
なお、表1及び2の上欄に記載の各成分の数値は油相成分と水相成分の合計を100質量%としたときの質量%を示す。
調製例2で調製した乳化組成物について乳化安定性を試験した。具体的には、本発明品2、3及び7並びに比較品9の乳化組成物について、その80mLを硬質ガラス容器(胴径40mm、高さ120mm)に採取し、50℃で1時間経過した後の離水量を比較した。乳化安定性の評価基準を下記に示す。
4:離水量が0mLである。
3:離水量が5mL未満である。
2:離水量が5mL以上20mL未満である。
1:離水量が20mL以上である。
上記各乳化組成物を用いて下記方法によりパンを製造した。
続いて上記中種発酵生地に、強力小麦粉(日清製粉社製)30.0質量部、砂糖22.0質量部、食塩1.0質量部、脱脂粉乳2.0質量部、水15.0質量部を加えて、上記竪型ミキサーを用いて低速で3分間、続いて高速3分間混捏後、ショートニング6.0質量部を添加し、さらに低速で3分間続いて高速で5分間混捏して本捏生地を得た(捏上生地温度28.0±0.5℃)。
本捏生地を28.0℃(湿度80%)で30分間静置(フロアータイム)することで混捏時の生地のダメージを回復させてから、約80gの生地に分割した。分割生地を28.0℃(湿度80%)で20分間静置(ベンチタイム)して分割による生地ダメージを回復させてから、モルダーで成形した。成形物を天板に載せて38.0℃(湿度80%)で60分間発酵(ホイロ)させた後、210℃のオーブンで10分間焼成した。焼成後、室温(約20.0℃)で30分間静置して冷却し、ビニール袋に入れて密閉した上で20.0℃にて24時間保存し、試験用のパンとした。
上記調製例3で製造したパンについて、専門パネル10名にて、ソフト感、しっとり感、口解け感、風味及び歯切れの各要素を指標にして品質を評価した。また、熟練した生地調製作業者1名にて、パン生地成形時の作業性を評価した。パンのソフト感、しっとり感、口解け感、風味及び歯切れの各要素の評価基準を下記表4に、パン生地成形時の作業性に関する評価基準を下記表5に示す。
<総合評価基準>
4:評価点数の合計点が28以上30以下である。
3:評価点数の合計点が20以上28未満である。
2:評価点数の合計点が10以上20未満である。
1:評価点数の合計点が10未満である。
一方、本発明品1〜13を用いてパンを製造すると、ソフト感、しっとり感、口解け感、風味及び歯切れ並びに作業性のいずれにおいてもバランスよく良好な評価結果が得られ、その総合得点においても20点以上と比較品に比べて顕著に高い点数であった。ここで、各評価項目は官能試験の特質上やむを得ず点数で評価しているが、各評価項目における1点の差は実際の感覚で比較すると歴然とした差が認められるものであった。
5〜10℃の低温において、強力小麦粉(日清製粉社製)70.0質量部、イースト(オリエンタル酵母社製)3.0質量部、イーストフード(オリエンタル酵母社製)0.1質量部、全卵5.0質量部、ブドウ糖3.0質量部、本発明品2、3又は比較品4の乳化組成物2.0質量部及び水35.0質量部をボール(10コート)に入れ、以降は調製例3と同様の方法により試験用のパンを調製した。
本発明品2、3及び比較品4の乳化組成物を用いて上記調製例4で製造したパンについて、試験例2と同様の方法でパンの品質及びパン成形時の作業性の評価を行った。結果を表7に示す。
Claims (7)
- (a)ジアシルグリセロール 5〜60質量%、
(b)有機酸モノアシルグリセロール 5〜35質量%、及び
(c)モノアシルグリセロール 5〜60質量%
を含有するベーカリー用油脂組成物であって、
該モノアシルグリセロールはシス不飽和モノアシルグリセロールを含み、
ベーカリー用油脂組成物中の該シス不飽和モノアシルグリセロールの含有量が、該有機酸モノアシルグリセロールの含有量1に対して0.05〜0.15(質量比)である、ベーカリー用油脂組成物。 - 有機酸モノアシルグリセロールを構成する有機酸がポリカルボン酸である、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
- リン脂質を含有する、請求項1又は2に記載のベーカリー用油脂組成物。
- トリアシルグリセロールを1〜60質量%含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物を油相中に含有するベーカリー用乳化組成物。
- (a)ジアシルグリセロール 5〜60質量%、
(b)有機酸モノアシルグリセロール 5〜35質量%、及び
(c)モノアシルグリセロール 5〜60質量%
を含有する油相成分であって、
該モノアシルグリセロールはシス不飽和モノアシルグリセロールを含み、
油相成分中の該シス不飽和モノアシルグリセロールの含有量が、該有機酸モノアシルグリセロールの含有量1に対して0.05〜0.15(質量比)である油相成分と、
(d)糖類 30〜70質量%、
(e)水 20〜60質量%、及び
(f)HLB値が10以上の乳化剤 1〜10質量%
を含有する水相成分とを有し、
前記油相成分に対する前記水相成分の質量比(水相/油相)が1.5〜4であるベーカリー用乳化組成物。 - 前記油相成分がトリアシルグリセロールを1〜60質量%含有する、請求項6に記載のベーカリー用乳化組成物。
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