(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図8に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
本実施形態の車両は、燃費性能やエミッション性能を向上させるべく、所定の停止条件の成立に応じてエンジンを自動的に停止させ、その後、所定の再始動条件の成立に応じてエンジンを自動的に再始動させる所謂アイドルストップ機能を有している。そのため、この車両では、運転手によるブレーキ操作による減速中又は停車中に、エンジンが自動的に停止される。
次に、アイドルストップ機能を有する車両の一例について説明する。
図1に示すように、車両は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、前輪FR,FLが駆動輪として機能する所謂前輪駆動車である。こうした車両には、運転手によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動力を発生するエンジン12を有する駆動力発生装置10と、駆動力発生装置10で発生した駆動力を前輪FR,FLに伝達する駆動力伝達装置20とを備えている。また、車両には、運転手によるブレーキペダル31の操作量に応じた制動力を各車輪FR,FL,RR,RLに付与するための制動装置30が設けられている。
駆動力発生装置10は、エンジン12から外部に向けて延設された吸気管13を備えている。この吸気管13内には、運転手によるアクセルペダル11の操作によって、吸気管13の開口断面積を可変させるスロットル弁14が設けられている。また、駆動力発生装置10には、エンジン12を始動させる際に作動するスタータモータ15が設けられている。
こうした駆動力発生装置10は、CPU、ROM及びRAMなどを有するエンジン用ECU16(「エンジン用電子制御装置」ともいう。)によって制御される。このエンジン用ECU16には、運転手によるアクセルペダル11の操作量、即ちアクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が電気的に接続されている。そして、エンジン用ECU16は、アクセル開度センサSE1から出力された検出信号に基づきアクセル開度を演算し、該演算したアクセル開度などに基づき駆動力発生装置10を制御する。
駆動力伝達装置20は、自動変速機21と、該自動変速機21の出力軸から伝達された駆動力を適宜配分して前輪FR,FLに伝達するディファレンシャルギア22とを備えている。そして、自動変速機21は、図示しないAT用ECUによって制御される。
制動装置30は、ブレーキペダル31に連結される液圧発生装置32と、2系統の油圧回路を有するブレーキアクチュエータ33とを備えている。そして、ブレーキアクチュエータ33の第1の系統の液圧回路には、右前輪FR用のブレーキ機構34aのホイールシリンダと、左後輪RL用のブレーキ機構34dのホイールシリンダが接続されている。また、第2の系統の液圧回路には、左前輪FL用のブレーキ機構34bのホイールシリンダと、右後輪RR用のブレーキ機構34cのホイールシリンダとが接続されている。
液圧発生装置32は、マスタシリンダ40、ブースタ41及びリザーバ42を有している。本実施形態のブースタ41は、エンジン12の運転時に負圧が発生するインテークマニホールド17に接続されている。そして、ブースタ41は、インテークマニホールド17内に発生する負圧と大気圧との圧力差を利用し、運転手によるブレーキペダル31の操作力を助勢する。
マスタシリンダ40は、ブースタ41によって助勢された操作力に応じたブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を発生する。このとき、液圧発生装置32からは、ブレーキアクチュエータ33の液圧回路を介してホイールシリンダにブレーキ液が供給される。すると、ブレーキ機構34a〜34dは、そのホイールシリンダ内に発生したブレーキ液圧であるホイールシリンダ圧に応じた制動力を車輪FR,FL,RR,RLに付与する。
ブレーキアクチュエータ33は、運転手がブレーキ操作を行っていない場合であっても各車輪FR,FL,RR,RLに対して制動力を付与できるように構成されている。例えば、ブレーキアクチュエータ33は、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との間に差圧を発生させるための差圧調整弁と、ホイールシリンダ内にブレーキ液を供給するための電動ポンプとを備えている。また、ブレーキアクチュエータ33には、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を個別に調整するための各種弁が設けられている。すなわち、本実施形態のブレーキアクチュエータ33は、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を個別に調整可能である。
次に、ブレーキアクチュエータ33の駆動を制御するブレーキ用ECU35(「ブレーキ用電子制御装置」ともいう。)について説明する。
車両の制御装置としてのブレーキ用ECU35の入力側インターフェースには、ブレーキペダル31が操作されているか否かを検出するためのブレーキスイッチSW1、及び各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE2,SE3,SE4,SE5が電気的に接続されている。また、入力側インターフェースには、車両の前後方向加速度を検出するための前後方向加速度センサSE6、車両の横方向加速度を検出するための横方向加速度センサSE7、車両のヨーレートを検出するためのヨーレートセンサSE8、及びステアリング50の操舵角を検出するための操舵角センサSE9が電気的に接続されている。そして、ブレーキ用ECU35は、ブレーキスイッチSW1及び各センサSE2〜SE9から出力される検出信号に基づき、ブレーキアクチュエータ33を制御する。
こうしたブレーキ用ECU35は、CPU、ROM及びRAMなどから構成されるデジタルコンピュータと、ブレーキアクチュエータ33を構成する各種弁及び電動ポンプ用のモータを作動させるための各種ドライバ回路とを有している。デジタルコンピュータのROMには、各種制御処理及び各種閾値などが予め記憶されている。また、RAMには、車両の図示しないイグニッションスイッチがオンである間、適宜書き換えられる各種の情報などがそれぞれ記憶される。
本実施形態の車両において、エンジン用ECU16及びブレーキ用ECU35を含むECU同士は、各種情報及び各種制御指令を送受信できるようにバス51を介してそれぞれ接続されている。例えば、エンジン用ECU16からは、アクセル開度に関する情報、エンジン12の再始動の成功・失敗に関する情報などがブレーキ用ECU35に適宜送信される。一方、ブレーキ用ECU35からは、エンジン12の自動停止を許可する旨の停止許可指令、エンジン12の自動再始動を許可する旨の再始動許可指令などがエンジン用ECU16に送信される。
なお、本実施形態の車両には、バッテリが一つのみ搭載されている。そして、各ECU、各種アクチュエータ及び各種センサには、このバッテリから電力が供給される。そのため、バッテリの電圧が低くなった場合、センサに供給される電力量が少なくなり、一部のセンサからは、その時点の車両状態に応じた適切な検出信号が出力されなくなるおそれがある。特にエンジン12を始動させる場合、即ちクランキング動作を行わせる場合、スタータモータ15に多くの電力を供給する必要が生じ、バッテリの電圧が一時的に極端に低くなることがある。
こうした場合、車載の各種センサに供給される電力量が少なくなる。各種センサのうち、車輪速度センサSE2〜SE5などのように作動電圧範囲の下限値が比較的低いセンサからは、その時点の状態値(車輪速度など)に応じた適切な検出信号が出力される。その一方で、前後方向加速度センサSE6、横方向加速度センサSE7、ヨーレートセンサSE8及び操舵角センサSE9などのように作動電圧範囲の下限値が比較的高いセンサからは、その時点の車両状態値に応じた適切な検出信号が出力されないことがあり得る。そのため、クランキング動作を、上記のようなセンサからの出力値を制御パラメータとして用いる車両安定制御と時間的に重複させないことが好ましい。
次に、ブレーキ用ECU35が実行する処理ルーチンについて、図2〜図7に示すフローチャートを参照して説明する。
始めに、本実施形態におけるメイン処理ルーチンについて図2に示すフローチャートを参照して説明する。
このメイン処理ルーチンは、予め設定された所定周期毎に実行される。そして、メイン処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU35は、車両の挙動の安定化を図るための車両安定制御の一例としての横滑り防止制御(ESC:Electronic Stability Control)を行うために必要な情報として、車両の状態を示す車両状態値を取得する状態値取得処理を行う(ステップS10)。続いて、ブレーキ用ECU35は、ステップS10で取得した各種車両状態値に基づき、ESCが実行される可能性があるか否かを判定するプレ制御判定処理を行う(ステップS15)。そして、ブレーキ用ECU35は、ステップS10で取得した各種車両状態値に基づきESCの実行の可否判断を行い、必要に応じてESCを実行する車両安定制御処理を行う(ステップS20)。
続いて、ブレーキ用ECU35は、所定の停止条件が成立した場合にはエンジン12の自動停止を許可する旨の停止許可指令をエンジン用ECU16に送信するエンジン自動停止処理を行う(ステップS30)。そして、ブレーキ用ECU35は、所定の再始動条件が成立した場合にはエンジン12の再始動を許可する旨の再始動許可指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS40)、その後、メイン処理ルーチンを一旦終了する。
次に、上記ステップS10の状態値取得処理(状態値取得処理ルーチン)について図3に示すフローチャートを参照して説明する。
状態値取得処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU35は、車輪速度センサSE2〜SE5から出力された検出信号に基づき、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを演算する(ステップS101)。続いて、ブレーキ用ECU35は、ステップS101で演算した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWのうち少なくとも一つの車輪速度VWに基づき車両の車体速度VSを演算する(ステップS102)。
そして、ブレーキ用ECU35は、前後方向加速度センサSE6から出力された検出信号に基づき車両の前後方向加速度Gxを演算し(ステップS103)、横方向加速度センサSE7から出力された検出信号に基づき車両の横方向加速度Gyを演算する(ステップS104)。続いて、ブレーキ用ECU35は、ヨーレートセンサSE8から出力された検出信号に基づき車両のヨーレートYrを演算し(ステップS105)、操舵角センサSE9から出力された検出信号に基づきステアリング50の操舵角Strを演算する(ステップS106)。
そして、ブレーキ用ECU35は、ステップS102,S106で演算した車体速度VS及び操舵角Strを以下に示す関係式(式1)に代入して舵角換算ヨーレートYrStrを求める(ステップS107)。この舵角換算ヨーレートYrStrは、運転手が要求する車両のヨーレートの推定値である。続いて、ブレーキ用ECU35は、ステップS102,S104で演算した車体速度VS及び横方向加速度Gyを以下に示す関係式(式2)に代入して横G換算ヨーレートYrGyを求め(ステップS108)、その後、状態値取得処理ルーチンを終了する。なお、関係式(式1)における「L」はホイールベース長であり、「N」はステアリング50のギア比であり、「A」はスタビリティファクタである。
次に、上記ステップS15のプレ制御判定処理(プレ制御判定処理ルーチン)について図4に示すフローチャートを参照して説明する。
プレ制御判定処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU35は、ステップS107で演算した舵角換算ヨーレートYrStrからステップS105で演算したヨーレートYrを減算してアンダーステア度合ΔYr1を求める(ステップS151)。アンダーステア度合ΔYr1は、車両のアンダーステア傾向を示す値(即ち、車両挙動の不安定度を示す値)であり、アンダーステア傾向が大きいほど大きな値となる。続いて、ブレーキ用ECU35は、ステップS108で演算した横G換算ヨーレートYrGyからステップS105で演算したヨーレートYrを減算してオーバーステア度合ΔYr2を求める(ステップS152)。オーバーステア度合ΔYr2は、車両のオーバーステア傾向を示す値(即ち、車両挙動の不安定度を示す値)であり、オーバーステア傾向が大きいほど大きな値となる。
そして、ブレーキ用ECU35は、ステップS151で演算したアンダーステア度合ΔYr1が、予め設定された予備判定値としてのアンダーステアプレ判定値Yrth11以上であるか否かを判定する(ステップS153)。このアンダーステアプレ判定値Yrth11は、ESCを実際に開始させるか否かの判定基準であるアンダーステア判定値(開始判定値)よりも小さい値、即ち車両挙動の安定側の値に設定されている。
アンダーステア度合ΔYr1がアンダーステアプレ判定値Yrth11以上である場合(ステップS153:YES)、車両のアンダーステア傾向が徐々に大きくなっており、車両の走行状態がESCの実行され得る状態であるため、ブレーキ用ECU35は、その処理を後述するステップS156に移行する。一方、アンダーステア度合ΔYr1がアンダーステアプレ判定値Yrth11未満である場合(ステップS153:NO)、車両のアンダーステア傾向が小さいため、ブレーキ用ECU35は、ステップS152で演算したオーバーステア度合ΔYr2が、予め設定された予備判定値としてのオーバーステアプレ判定値Yrth21以上であるか否かを判定する(ステップS154)。このオーバーステアプレ判定値Yrth21は、ESCを実際に開始させるか否かの判定基準であるオーバーステア判定値(開始判定値)よりも小さい値、即ち車両挙動の安定側の値に設定されている。
オーバーステア度合ΔYr2がオーバーステアプレ判定値Yrth21以上である場合(ステップS154:YES)、車両のオーバーステア傾向が徐々に大きくなっており、車両の走行状態がESCの実行され得る状態であるため、ブレーキ用ECU35は、その処理を後述するステップS156に移行する。一方、オーバーステア度合ΔYr2がオーバーステアプレ判定値Yrth21未満である場合(ステップS154:NO)、車両のアンダーステア傾向及びオーバーステア傾向が共に小さくESCが開始される可能性が極めて低いため、ブレーキ用ECU35は、IS禁止フラグFLGをオフにセットする(ステップS155)。その後、ブレーキ用ECU35は、プレ制御判定処理ルーチンを終了する。
ステップS156において、ブレーキ用ECU35は、IS禁止フラグFLGをオンにセットし、その後、プレ制御判定処理ルーチンを終了する。
次に、上記ステップS20の車両安定制御処理(車両安定制御処理ルーチン)について図5に示すフローチャートを参照して説明する。
車両安定制御処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU35は、ステップS102で演算した車体速度VSが、ESCの実行を終了させるか否かの判断基準として設定された終了判定速度VSth以上であるか否かを判定する(ステップS201)。本実施形態では、終了判定速度VSthは、「10km/h」から「20km/h」までの間の値(例えば、15km/h)に設定されている。
車体速度VSが終了判定速度VSth未満である場合(ステップS201:NO)、ブレーキ用ECU35は、ESCの終了処理を行い(ステップS202)、車両安定制御処理ルーチンを終了する。すなわち、ESCが実行中であった場合、ブレーキ用ECU35は、制御対象車輪(例えば、右前輪FR)に対応するホイールシリンダ圧を徐々に減圧させるべくブレーキアクチュエータ33を制御する。そして、ブレーキ用ECU35は、制御対象車輪に対する制動力と制御対象車輪の反対側に位置する車輪(この場合、左前輪FL)に対する制動力との差がほぼ「0(零)」になった時点で終了処理を終了する。
一方、車体速度VSが終了判定速度VSth以上である場合(ステップS201:YES)、ブレーキ用ECU35は、ステップS151で演算したアンダーステア度合ΔYr1が開始判定値としてのアンダーステア判定値Yrth1以上であるか否かを判定する(ステップS203)。このアンダーステア判定値Yrth1は、車両にアンダーステアが発生しているか否かの判断基準として設定された値である。
アンダーステア度合ΔYr1がアンダーステア判定値Yrth1以上である場合(ステップS203:YES)、車両にアンダーステアが発生しているため、ブレーキ用ECU35は、その処理を後述するステップS205に移行する。一方、アンダーステア度合ΔYr1がアンダーステア判定値Yrth1未満である場合(ステップS203:NO)、車両にアンダーステアが発生していないため、ブレーキ用ECU35は、ステップS152で演算したオーバーステア度合ΔYr2が開始判定値としてのオーバーステア判定値Yrth2以上であるか否かを判定する(ステップS204)。このオーバーステア判定値Yrth2は、車両にオーバーステアが発生しているか否かの判断基準として設定された値である。
オーバーステア度合ΔYr2がオーバーステア判定値Yrth2未満である場合(ステップS204:NO)、車両にアンダーステア及びオーバーステアが発生していないため、ブレーキ用ECU35は、ステップS202の処理を行い、車両安定制御処理ルーチンを終了する。すなわち、本実施形態では、車体速度VSが終了判定速度VSth未満であること、アンダーステア度合ΔYr1がアンダーステア判定値Yrth1未満になったこと、及びオーバーステア度合ΔYr2がオーバーステア判定値Yrth2未満になったことの少なくとも1つが成立した場合に、終了条件が成立したと判断され、ESCが終了される。
一方、オーバーステア度合ΔYr2がオーバーステア判定値Yrth2以上である場合(ステップS204:YES)、車両にオーバーステアが発生しているため、ブレーキ用ECU35は、その処理を次のステップS205に移行する。
ステップS205において、ブレーキ用ECU35は、ESCの制御対象車輪(右前輪FR又は左前輪FL)を決定し、この制御対象車輪に対する制動力の増大量ΔBPを設定する(ステップS205)。例えば、ブレーキ用ECU35は、右旋回中の車両にアンダーステアが発生した場合には右前輪FRを制御対象車輪とし、右旋回中の車両にオーバーステアが発生した場合には左前輪FLを制御対象車輪とする。そして、ブレーキ用ECU35は、制御対象車輪に対する制動力の増大量ΔBPを、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステア度合ΔYr2)が「0(零)」に近づくように設定する。
続いて、ブレーキ用ECU35は、ステップS205で設定した設定内容に基づきESCを行う、即ちブレーキアクチュエータ33を制御する(ステップS206)。したがって、本実施形態では、ステップS205,S206により、車両に設けられるセンサから出力される信号に基づいてESCを実行させる安定制御ステップが構成される。そして、ブレーキ用ECU35は、車両安定制御処理ルーチンを終了する。
次に、上記ステップS30のエンジン自動停止処理(エンジン自動停止処理ルーチン)について図6に示すフローチャートを参照して説明する。
エンジン自動停止処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU35は、IS禁止フラグFLGがオフにセットされているか否かを判定する(ステップS300)。IS禁止フラグFLGがオンである場合(ステップS300:NO)、ESCが開始される可能性があるため、ブレーキ用ECU35は、その処理を後述するステップS303に移行する。一方、IS禁止フラグがオフである場合(ステップS300:YES)、ブレーキ用ECU35は、エンジン12が運転中であるか否かを判定する(ステップS301)。
エンジン12が停止中である場合(ステップS301:NO)、ブレーキ用ECU35は、エンジン自動停止処理ルーチンを終了する。一方、エンジン12が運転中である場合(ステップS301:YES)、ブレーキ用ECU35は、停止条件が成立しているか否かを判定する(ステップS302)。本実施形態における「停止条件」は、「ブレーキスイッチSW1がオン状態であること」、及び「車両の車体速度VSが停止許可速度VSth1(図7参照)以下であること」を少なくとも含んでいる。なお、停止許可速度VSth1は、上記終了判定速度VSthよりも大きな値に設定されている。そのため、本実施形態では、エンジン12の自動停止後にESCが開始されることがあり得る。
停止条件が成立していない場合(ステップS302:NO)、ブレーキ用ECU35は、エンジン12の自動停止を禁止するための指令である停止禁止指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS303)、エンジン自動停止処理ルーチンを終了する。一方、停止条件が成立している場合(ステップS302:YES)、ブレーキ用ECU35は、エンジン12の自動停止を許可するための指令である停止許可指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS304)、エンジン自動停止処理ルーチンを終了する。したがって、本実施形態では、ステップS304が、エンジン12の停止条件が成立した場合に該エンジン12を自動停止させる停止ステップとして機能する。
なお、停止許可指令を受信したエンジン用ECU16は、そのタイミングでエンジン12を停止させることもあるが、そのタイミングでエンジン12を停止させないこともある。例えば、バッテリの電圧が低くなっている場合、エンジン12の自動停止後の再始動時に、エンジン12の再始動に要する時間が長くなったり、最悪の場合にはエンジン12の再始動に失敗したりするおそれがあるため、エンジン用ECU16はエンジン12を自動停止させないことがある。
次に、上記ステップS40のエンジン再始動処理(エンジン再始動処理ルーチン)について図7に示すフローチャートを参照して説明する。
エンジン再始動処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU35は、エンジン12が停止中であるか否かを判定する(ステップS401)。エンジン12が運転中である場合(ステップS401:NO)、ブレーキ用ECU35は、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。一方、エンジン12が停止中である場合(ステップS401:YES)、ブレーキ用ECU35は、ESCが実行中であるか否かを判定する(ステップS402)。ESCが実行されていない場合(ステップS402:NO)、ブレーキ用ECU35は、その処理を後述するステップS404に移行する。
一方、ESCが実行中である場合(ステップS402:YES)、ブレーキ用ECU35は、車両の加速を制限する加速制限制御を行う(ステップS403)。すなわち、ブレーキ用ECU35は、車両の車体速度VSを時間微分して車体速度微分値を求める。そして、ブレーキ用ECU35は、この車体速度微分値が「0(零)」以下である場合には、車両が減速中であるため、ステップS403の処理を終了する。一方、ブレーキ用ECU35は、この車体速度微分値が「0(零)」以上である場合には、車両が加速中であるため、車両に対する制動力を増大させる。このとき、ブレーキ用ECU35は、加速制限制御の開始前の右前輪FRと左前輪FLとの制動力差(=ΔBP)が維持されるように、車両全体に対する制動力を増大させるべくブレーキアクチュエータ33を制御する。その後、ブレーキ用ECU35は、その処理を次のステップS404に移行する。
ステップS404において、ブレーキ用ECU35は、再始動条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態では、「ブレーキスイッチSW1がオフ状態になったこと」、「車両の車体速度VSが停止許可速度VSth1よりも大きな再始動判定値としての再始動許可速度VSth2(図8参照)以上であること」のうち少なくとも一方が成立した場合に、再始動条件が成立したと判定される。なお、再始動許可速度VSth2は、上記停止許可速度VSth1、即ちエンジン12が自動停止された時点の車体速度以上の値に設定されている。
再始動条件が成立していない場合(ステップS404:NO)、ブレーキ用ECU35は、エンジン12の再始動を禁止する指令である再始動禁止指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS405)、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。一方、再始動条件が成立している場合(ステップS404:YES)、ブレーキ用ECU35は、エンジン12の再始動を許可する指令である再始動許可指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS406)、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。したがって、本実施形態では、ステップS406が、エンジン12の再始動条件が成立した場合に該エンジン12を再始動させる再始動ステップとして機能する。
次に、エンジン12が自動停止された後でもESCが実行されている場合における車両の動作について、図8に示すタイミングチャートを参照して説明する。
運転手によるアクセル操作が解消され、運転手によるブレーキ操作が開始されると、エンジン12の出力軸の回転数であるエンジン回転数NEが低くなると共に、車両の車体速度VSが徐々に低くなる(図8(a)(e)参照)。そして、第1のタイミングt1では、エンジン回転数NEは、アイドリング時における回転数NEIで維持される。なお、この時点では、車体速度VSが停止許可速度VSth1を上回っているなど停止条件が成立していないため、エンジン12の自動停止が許可されない。
その後、第4のタイミングt4を経過すると、車体速度VSが停止許可速度VSth1未満となるなどし、停止条件が成立する(図8(e)参照)。しかも、この第4のタイミングt4では、図8(b)にて実線で示すように、運転手によるステアリング50の操作によって車両が旋回中であっても、車両の挙動の不安定度を示すアンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステア度合ΔYr2)がアンダーステアプレ判定値Yrth11未満(又はオーバーステアプレ判定値Yrth21未満)となっており、ESCが開始される可能性が極めて低い。すなわち、IS禁止フラグFLGはオフのままである(図8(c)参照)。そのため、停止条件の成立を契機にエンジン12が自動停止され、エンジン回転数NEが急激に低下されて「0(零)」となる(図8(a)参照)。また、このようにエンジン12の運転が停止されると、駆動輪である前輪FR,FLに伝達される駆動力が「0(零)」となるため、車両の減速度が大きくなる(図8(e)参照)。
また、エンジン12が自動停止された時点では、運転手によるステアリング50の操作によって車両が旋回しており、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステア度合ΔYr2)が次第に大きくなっている。そして、第5のタイミングt5で、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステア度合ΔYr2)がアンダーステアプレ判定値Yrth11以上(又はオーバーステアプレ判定値Yrth21以上)になる。すると、この第5のタイミングt5で、IS禁止フラグFLGがオフからオンにセットされる(図8(c)参照)。
そして、その後の第6のタイミングt6で、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステア度合ΔYr2)がアンダーステア判定値Yrth1以上(又はオーバーステア判定値Yrth2以上)になり、車両にアンダーステア(又はオーバーステア)が発生したと判定される。その結果、図8(d)にて実線で示すように、アンダーステアやオーバーステアなどのような車両の横滑りを解消させるべくESCが開始される。
また、エンジン12が自動停止された第4のタイミングt4から第7のタイミングt7までは、車両は減速しているため、車両の加速を制限させるような制動力は車両に付与されない。その一方で、第7のタイミングt7を経過すると、車両が加速し始める(図8(e)参照)。なお、エンジン12の停止中に車両が加速し始める原因としては、車両の走行する路面(降坂路)の勾配が急勾配になること、運転手によるブレーキペダル31の操作量が少なくなったこと、インテークマニホールド17内の負圧と大気圧との圧力差が急激に小さくなって車両に対する制動力が減少されたことなどが挙げられる。
そして、第7のタイミングt7からは、加速制限制御によって、車両に対する制動力が増大される。その結果、車両に対する制動力が増大されない場合の車両の加速度(図8(e)にて一点鎖線で示す。)と比較して、車両に対する制動力が増大される本実施形態の場合の車両の加速度(図8(e)にて実線で示す。)は小さな値になる。その結果、図8(e)に示すように、車両の車体速度VSは、ESCの実行中には再始動許可速度VSth2以上になりにくい。すなわち、ESCとクランキング動作とが時間的に重複する可能性が低くなる。
その後の第8のタイミングt8が経過すると、車両の横滑りが解消されるため、ESCが終了される。すると、加速制限制御も終了され、この加速制限制御によって車両に付与されていた制動力が次第に減少される。なお、この時点では、車体速度VSが再始動許可速度VSth2未満であるため、エンジン12の停止が継続される。
なお、ESCが解消された後においては、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステア度合ΔYr2)が次第に小さくなる。そして、第9のタイミングt9で、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステア度合ΔYr2)がアンダーステアプレ判定値Yrth11未満(又はオーバーステアプレ判定値Yrth21未満)になると、ESCが開始される可能性が低くなったため、IS禁止フラグFLGがオンからオフにされる(図8(c)参照)。
さらに時間が経過して第10のタイミングt10が経過すると、車体速度VSが再始動許可速度VSth2以上となるなどし、再始動条件が成立する。その結果、第10のタイミングt10でエンジン12が再始動される。この第10のタイミングt10ではESCが実行されていないため、バッテリからスタータモータ15には十分な電力が供給される。その結果、クランキング動作によって、エンジン12が速やかに再始動される。
なお、エンジン12が自動停止される前から車両が旋回している場合には、図8(b)にて破線で示すように、車体速度VSが停止許可速度VSth1になる第4のタイミングt4の前に、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステア度合ΔYr2)がアンダーステアプレ判定値Yrth11以上(又はオーバーステアプレ判定値Yrth21以上)になることがある(第2のタイミングt2)。この場合、図8(c)にて破線で示すように、この第2のタイミングt2で、IS禁止フラグFLGがオンにされる。そして、図8(d)にて破線で示すように、第3のタイミングt3で、ESCが開始されると、その後の第4のタイミングt4で停止条件が成立しても、エンジン12が自動停止されない。
また、エンジン12の自動停止前にIS禁止フラグFLGがオンになった場合、第3のタイミングt3で停止条件が成立する前にESCが開始されなかったとしても、エンジン12が自動停止されない。ただし、停止条件が成立したままでIS禁止フラグFLGがオフに切り替った場合には、そのタイミングでエンジン12が自動停止されることがある。
以上説明したように、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、エンジン12が自動停止された後においてESCが実行中である場合には、エンジン12の再始動が制限される。そのため、ESCとクランキング動作とが時間的に重複する可能性が低くなる。その結果、ESCの実行に用いられるセンサには十分な電力が車載のバッテリから継続して供給されるため、ESCが精度良く行われる。したがって、エンジン12の自動停止や自動再始動が実行され得る車体速度VSでの走行中にESCが実行される場合であっても、このESCによって車両の挙動の安定性を維持することができる。
(2)具体的には、エンジン12の停止中においてESCが実行されている場合には、加速制限制御によって車両の加速が制限される。そのため、停車していない状態でエンジン12が自動停止された場合には、ESCの実行中に車体速度VSが再始動許可速度VSth2以上になる可能性が低くなる。すなわち、ESCの実行中にクランキング動作が開始される可能性が低くなる。その結果、ESCの実行中においては各センサへの十分な電力の供給が継続されるため、ESCを精度良く行うことができ、ひいては車両の挙動の安定性を維持することができる。
(3)また、加速制限制御によって車両の加速が制限される場合であっても、ESCによって発生させている右前輪FRと左前輪FLとの制動力差が保持される。そのため、速度制限制御が実行されても車両の挙動の安定性を維持することができる。
(4)本実施形態では、エンジン12の停止中にESCが実行されていた場合、当該ESCの終了後にクランキング動作が開始される可能性が高くなる。そのため、クランキング動作に必要な電力を確保しやすくなる分、エンジン12を速やかに再始動させることができる。
(5)また、本実施形態では、エンジン12の運転中において、ESCが開始される可能性がある場合には、エンジン12の自動停止が禁止される。そのため、その後にESCが開始された場合、このESCとクランキング動作とが時間的に重複することを回避できる。その結果、ESCの実行中においては各センサへの十分な電力の供給が継続されるため、ESCを精度良く行うことができ、ひいては車両の挙動の安定性を維持することができる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図9に従って説明する。なお、第2の実施形態は、エンジン再始動処理ルーチンの内容の一部が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
本実施形態のエンジン再始動処理ルーチンについて、図9に示すフローチャートを参照して説明する。
エンジン再始動処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU35は、エンジン12が運転中である場合(ステップS401:NO)には、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。また、エンジン12が停止中である場合(ステップS401:YES)において、ESCが実行されていないとき(ステップS402:NO)には、ブレーキ用ECU35は、終了判定速度VSthを通常時値VSthBaseに設定し(ステップS4031)、その処理を後述するステップS4041に移行する。なお、「通常時値VSthBase」は、上記第1の実施形態の場合での終了判定速度と同程度の値(10km/hから20km/hの間の任意の値)に設定されている。
一方、エンジン12が停止中である場合(ステップS401:YES)において、ESCが実行されているとき(ステップS402:YES)には、ブレーキ用ECU35は、終了判定速度VSthを通常時値VSthBaseよりも小さい非通常時値VSthEscに設定し(ステップS4032)、その処理を次のステップS4041に移行する。なお、本実施形態では、非通常時値VSthEscは「0(零)」に設定されている。
ステップS4041において、ブレーキ用ECU35は、再始動条件が成立したか否かを判定する。本実施形態における再始動条件は、「ESCが実行されていないこと」を必須の条件として含んでいる。そのため、例えばブレーキ操作が解消されたとしても、ESCが実行中である場合には、エンジン12が再始動されない。
なお、上述したように、エンジン12の停止中にESCが実行されている場合、ESCを終了させるために設定される終了判定速度VSthは、エンジン12の運転中にESCが実行される場合よりも十分に小さい値に設定される。より具体的には、エンジン12の停止中に実行されるESCは、車体速度VSが「0(零)」になるまで継続されることもあり得る。すなわち、本実施形態では、ESCを終了させるための終了条件は、エンジン12の運転中よりもエンジン12の停止中の方が厳しくなるように設定されている。
そして、ブレーキ用ECU35は、再始動条件が成立していない場合(ステップS4041:NO)には、再始動禁止指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS405)、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。一方、ブレーキ用ECU35は、再始動条件が成立している場合(ステップS4041:YES)には、再始動許可指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS406)、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。
次に、エンジン12の停止中にESCが実行されている場合の車両の動作について説明する。
例えば、エンジン12の自動停止後における運転手のステアリング50の操作によって、車両に横滑り(アンダーステア又はオーバーステア)が発生すると、この横滑りを解消させるためにESCが開始される。このESCは、車両の横滑りが解消されるまで行われる。
例えば、アンダーステア傾向の大きさを示すアンダーステア度合ΔYr1がアンダーステア判定値Yrth1以上になったためにESCが開始された場合には、アンダーステア度合ΔYr1がアンダーステア判定値Yrth1未満になると、車両が停止していなくてもESCが終了される。また、車体速度VSが「0(零)」ではない段階ではアンダーステア度合ΔYr1がアンダーステア判定値Yrth1未満にならないことがあり得る。この場合、車体速度VSが「0(零)」になると、ESCが終了される。なお、算出された車体速度VSが「0(零)」になったとしても、車両は実際には未だ移動していることもある。
そして、このようにESCが終了された後において、運転手によるブレーキ操作が解消されると、エンジン12の再始動が許可され、クランキング動作が開始される。
また、ESCの終了後に、ブレーキスイッチSW1がオン状態のままであっても、ブレーキ操作力が弱められたときに、車両の移動が開始されることもある。特に、車両が降坂路を走行している場合、ブレーキ操作によって車両に付与されている制動力が減少されると、ブレーキスイッチSW1がオン状態であっても車両が前進することがある。こうした場合、車体速度VSが再始動許可速度VSth2を超えると、ブレーキ操作が解消されていなくても、エンジン12の再始動が許可され、クランキング動作が開始されることもある。
以上説明したように、本実施形態では、上記第1の実施形態における効果(1)(5)に加え、さらに以下に示す効果を得ることができる。
(6)本実施形態では、エンジン12が自動停止された後においては、ESCが終了されるまでエンジン12の再始動が禁止される。そのため、ESCとクランキング動作とが時間的に重複する可能性が低くなる。その結果、ESCの実行に用いられるセンサには十分な電力が車載のバッテリから継続して供給されるため、ESCが精度良く行われる。したがって、車両の挙動の安定性を確保することができる。
(7)また、ESCの実行を終了させるための終了条件は、エンジン12の運転中よりもエンジン12の停止中の方が厳しくなっている。そのため、エンジン12の停止中においては、終了条件の成立によってESCが終了されてから直ぐにESCの開始条件が成立する可能性が低い。すなわち、ESCの終了直後にクランキング動作が開始された場合、このクランキング動作の終了前にESCが開始される可能性は低い。したがって、クランキング動作とESCとの時間的な重複が回避されやすくなる分、クランキング動作に必要な電力量を確保しやすくなり、エンジン12を速やかに再始動させることができる。
(8)車両の横滑りは、車体速度VSが低いほど発生しにくい。そこで、本実施形態では、エンジン12の停止中での終了判定速度VSthは、エンジン12の運転中での終了判定速度VSthよりも低い値に設定される。そのため、エンジン12の停止中においてESCが終了した直後にクランキング動作が開始されたとしても、該クランキング動作中にESCが再び開始される可能性は低い。したがって、クランキング動作とESCとの時間的な重複が回避されやすくなる分、クランキング動作に必要な電力量を確保しやすくなり、エンジン12を速やかに再始動させることができる。
(9)車両の停止中においては、車両の挙動が不安定にならないことが確実であるため、ESCが行われない。又は車両の停止直前までESCが実行されていたとしても、車両が停止したことでESCが終了される。そこで、本実施形態では、エンジン12の停止中にESCが実行されている場合には、車両が停止したと判定されてからクランキング動作が開始されるようになる。その結果、車両の走行中においては、ESCの実行によって、車両の挙動の安定性を確保することができる。また、ESCが終了してからクランキング動作が開始されるようになるため、クランキング動作に必要な電力量を確保することができ、エンジン12を速やかに再始動させることができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を図10に従って説明する。なお、第3の実施形態は、エンジン再始動処理ルーチンの内容の一部が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
本実施形態のエンジン再始動処理ルーチンについて、図10に示すフローチャートを参照して説明する。
エンジン再始動処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU35は、IS禁止フラグFLGがオフであるか否かを判定する(ステップS410)。IS禁止フラグFLGがオンである場合(ステップS410:NO)、車両の走行状態がESCの実行され得る状態であるため、ブレーキ用ECU35は、再始動禁止指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS405)、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。
一方、IS禁止フラグFLGがオフである場合(ステップS410:YES)、ESCが開始される可能性が低いため、ブレーキ用ECU35は、エンジン12が停止中であるか否かを判定する(ステップS401)。そして、エンジン12が運転中である場合(ステップS401:NO)、ブレーキ用ECU35は、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。
一方、エンジン12が停止中である場合(ステップS401:YES)において、再始動条件が成立していないとき(ステップS404:NO)、ブレーキ用ECU35は、再始動禁止指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS405)、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。また、エンジン12が停止中である場合(ステップS401:YES)において、再始動条件が成立しているとき(ステップS404:YES)、ブレーキ用ECU35は、再始動許可指令をエンジン用ECU16に送信し(ステップS406)、エンジン再始動処理ルーチンを終了する。
次に、エンジン12が自動停止されてからの動作について説明する。
停止条件の成立を契機にエンジン12が自動停止されても、アンダーステア度合ΔYr1及びオーバーステア度合ΔYr2は定期的に演算される。そして、アンダーステア度合ΔYr1がアンダーステアプレ判定値Yrth11以上になったり、オーバーステア度合ΔYr2がオーバーステアプレ判定値Yrth21以上になったりすると、エンジン12の再始動が禁止される。すなわち、ESCが開始される可能性がある場合、及びESCが実行されている場合には、クランキング動作が行われない。
その後、アンダーステア度合ΔYr1がアンダーステアプレ判定値Yrth11未満になったり、オーバーステア度合ΔYr2がオーバーステアプレ判定値Yrth21未満になったりすると、ESCが開始される可能性が低いと判断される。そのため、その後に停止条件が成立すると、エンジン12が再始動される。
なお、IS禁止フラグFLGがオンになっても、その後にESCが開始されるとは限らない。例えば、アンダーステアプレ判定値Yrth11以上になったアンダーステア度合ΔYr1が、アンダーステア判定値Yrth1以上となる前に小さくなる場合には、IS禁止フラグFLGは、ECSが開始されなくてもオンからオフに変更される。この場合、その後に停止条件の成立を契機に、エンジン12が再始動される、即ちクランキング動作が行われる。
以上説明したように、本実施形態では、上記第1の実施形態における効果(1)(5)に加え、さらに以下に示す効果を得ることができる。
(10)本実施形態では、エンジン12の停止中においてESCが開始される可能性がある場合には、エンジン12の再始動が禁止される。そのため、ESCとクランキング動作とが時間的に重複することを回避できる。したがって、ESCの実行に用いられるセンサには十分な電力が車載のバッテリから継続して供給されるため、ESCが精度良く行われる。したがって、車両の挙動の安定性を確保することができる。
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・各実施形態において、エンジン12の自動停止を、IS禁止フラグFLGのオン・オフとは無関係に行うようにしてもよい。このような制御構成を採用すると、ESCの実行中やESCが開始される可能性のある走行状態であっても停止条件が成立した場合には、停車していない状態でエンジン12を自動停止させることが可能となる。そのため、ESCなどのようなブレーキ制御が実行されている状態での車両走行時にはエンジン12の自動停止が制限される場合と比較して、停車していない状態でエンジン12を自動停止させる機会が増えたり、車体速度VSが速いタイミングでエンジン12を自動停止させたりすることが可能となる分、車両の燃費を向上させることができる。
・第2の実施形態において、エンジン12の停止中にESCが実行されている場合、車両の車体速度VSが「0(零)」になってから所定時間経過後に、エンジン12の再始動を許可するようにしてもよい。
・第2の実施形態において、エンジン12の停止中にESCが実行されていた場合、車体速度VSが「0(零)」になったことを起因にESCが終了された際には、ブレーキアクチュエータ33によって車両の停止を維持させた上で、クランキング動作を行わせるようにしてもよい。このような制御構成を採用すると、ESCとクランキング動作との時間的な重複を確実に回避することができる。
・第2の実施形態において、非通常時値VSthEscを、通常時値VSthBaseよりも小さい値であれば「0(零)」以外の任意の値(例えば、5)であってもよい。好ましくは、非通常時値VSthEscは、通常時値VSthBaseの半分の値未満の値としてもよい。
・第2の実施形態において、エンジン12の運転中では、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステアΔYr2)がアンダーステア判定値Yrth1(又はオーバーステア判定値Yrth2)未満になった場合にESCを終了させるのに対し、エンジン12の停止中では、アンダーステア度合ΔYr1(又はオーバーステアΔYr2)がアンダーステアプレ判定値Yrth11(又はオーバーステアプレ判定値Yrth21)未満になった場合にESCを終了させるようにしてもよい。このような制御構成を採用しても、エンジン12の停止中でのESCの終了条件を、エンジン12の運転中でのESCの終了条件よりも厳しくすることができる。
・第2の実施形態において、ESCの終了条件を、エンジン12の運転時であっても停止時であって同一条件としてもよい。ただし、この場合、ESCの実行中においては、エンジン12の再始動を禁止させることが好ましい。
・第1の実施形態において、車両が停止していない状態でエンジン12が自動停止された場合、ESCの実行中にブレーキスイッチSW1がオフ状態になったときには、ESCが終了するまでエンジン12の再始動を禁止させてもよい。
・第1の実施形態において、加速制限制御では、車両の車体速度VSが再始動許可速度VSth2未満で維持されるように車両に対する制動力を調整するようにしてもよい。このような制御構成を採用すると、ESCの実行中にクランキング動作が開始される可能性がさらに低くなる。この場合、ESCに必要な各センサに対して十分な電力を継続して供給できるため、ECSを行うことにより車両の挙動の安定性を維持することができる。
・第1の実施形態において、エンジン12の停止中に実行されるESCの終了時期が推定できる場合、推定された終了時期までの時間が長いほど、車両に対する制動力を大きくするようにしてもよい。
・第1の実施形態において、車両に電動パーキングブレーキが設けられている場合、加速制限制御では、ブレーキアクチュエータ33の代わりに、電動パーキングブレーキを作動させてもよい。
・各実施形態において、再始動許可速度VSth2を、エンジン12が自動停止された時点の車体速度が高速であるほど大きな値とするようにしてもよい。
・各実施形態において、停止条件に、車両が減速中であることが必須条件として含まれている場合、再始動許可速度VSth2を、停止許可速度VSth1と同一速度としてもよい。
・各実施形態において、車両安定制御は、前後方向加速度センサSE6、横方向加速度センサSE7、ヨーレートセンサSE8及び操舵角センサSE9などのように作動電圧範囲の下限値が比較的高いセンサを用いる制御であれば、ESC以外の他の制御であってもよい。こうした車両安定制御としては、例えば、車両の車線からの逸脱を抑制するレーンキープ制御、車両の横転を抑制するための横転抑制制御が挙げられる。
横転抑制制御は、車両状態値としての車両の横方向加速度Gyが開始判定値以上になった場合に、横方向加速度Gyを小さくさせるブレーキ制御である。この場合におけるプレ制御判定処理では、横方向加速度Gyが、その時点の開始判定値よりも小さい予備判定値以上になった場合に、横転抑制制御の実行を禁止させるための禁止フラグがオンにセットされる。なお、横転抑制制御の開始判定値を、車両の車体速度VSが高速であるほど小さな値に設定するようにしてもよい。この場合、予備判定値も、その時点の車体速度VSに応じた値に設定するようにしてもよい。
・また、作動電圧範囲の下限値が比較的高いセンサを用いない制御中においては、当該制御がエンジン12の停止中に実行されている場合、エンジン12の再始動を制限しなくてもよい。この場合、クランキング動作が実行されても、作動電圧範囲の下限値が比較的低いセンサには十分な電力が供給されるため、当該センサを用いた制御は精度良く実行される。
・車両の制御装置は、車両に搭載されるESCであればブレーキ用ECU35以外の他のESC(例えば、エンジン用ECU16)であってもよいし、アイドルストップ機能を統括的に制御する専用の制御装置であってもよい。