ところで、車両の走行速度が0よりも高い所定速度(例えば20km/h)を下回るとの条件を停止条件に含むアイドルストップ制御が開発されている。この制御によれば、停車する以前にも内燃機関を自動停止させることで、内燃機関を自動停止させる運転領域を拡大することができ、ひいては内燃機関の燃費低減効果の更なる向上を図ることが可能となる。
ここで、車両の走行中に内燃機関が再始動されると、内燃機関の出力軸の回転力が駆動輪へと伝達されることで、駆動輪の回転速度が上昇し得る。この場合、駆動輪のスリップが生じることで車両の操縦安定性が低下し、ドライバビリティが低下するおそれがある。特に、路面摩擦係数が低い凍結路面等(いわゆる低μ路)においては、内燃機関の再始動に起因する駆動輪のスリップが生じやすいため、ドライバビリティの低下が顕著となるおそれがある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関の再始動に起因して駆動輪のスリップが生じる事態を回避することのできる内燃機関の自動停止始動制御装置を提供することにある。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
構成1は、内燃機関の出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させる車両に適用され、車両の走行速度が0よりも高い所定速度を下回るとの条件を含む所定の停止条件が成立した場合に同内燃機関の自動停止処理を行い、所定の再始動条件が成立した場合に同内燃機関の再始動処理を行う内燃機関の自動停止始動制御装置において、前記車両の操舵角についての情報を取得する操舵角取得手段と、前記車両の走行速度についての情報を取得する速度取得手段と、前記操舵角及び前記走行速度と関連付けられた前記駆動輪のスリップが生じる運転領域に関する情報を記憶する記憶手段と、前記操舵角取得手段及び前記速度取得手段の出力値を入力とし、前記運転領域におけるスリップを回避すべく、前記自動停止処理及び前記再始動処理のうち少なくとも1つの実行に制約を課す制約手段とを備えることを特徴とする。
車両の走行中に内燃機関が再始動され、同内燃機関の出力軸の回転力が駆動輪へと伝達されると、駆動輪の回転速度が上昇することに起因して駆動輪のスリップが生じるおそれがある。この場合、駆動輪に作用する路面摩擦力(グリップ力)が低下することで車両の操縦安定性が低下し、ひいてはドライバビリティが大きく低下するおそれがある。ただし、本発明者は、内燃機関の再始動に起因して駆動輪のスリップが生じる運転領域(スリップ領域)が、車両の操舵角及び走行速度と関連付けられることを見出した。つまり、車両の操舵角が大きいほど車両の旋回半径が小さくなるため、車両に作用する遠心力が大きくなる。また、同一操舵角に対して、車両の走行速度が高くなるほど車両に作用する遠心力が大きくなる。そして、遠心力が大きいほど、内燃機関の再始動に起因する駆動輪の回転速度の上昇により駆動輪のスリップが生じやすくなる。このため、スリップ領域を、車両の操舵角及び走行速度と関連付けることが可能となる。
上記発明では、この点に鑑み、スリップ領域における駆動輪のスリップを回避すべく、内燃機関の自動停止処理及び再始動処理のうち少なくとも1つの実行に制約を課す。つまり、再始動処理を直接制約したり、この処理の前段階の処理である自動停止処理を制約したりすることで、スリップ領域において内燃機関が再始動される事態を極力回避したり、スリップ領域における再始動処理による駆動輪のスリップを生じにくくする。これにより、内燃機関の再始動に起因して駆動輪のスリップが生じる事態を極力回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を抑制することができる。
構成2は、構成1において、前記操舵角取得手段及び前記速度取得手段の出力値に基づき、前記運転領域であるか否かを判断する判断手段を更に備え、前記制約手段は、前記運転領域であると判断された場合、前記制約を課すことを特徴とする。
上記発明では、車両の操舵角及び車両の走行速度に基づきスリップ領域であると判断された場合に上記制約を課すことで、内燃機関の再始動に起因して駆動輪のスリップが生じる事態を適切に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を抑制することができる。
構成3は、構成2において、前記制約手段は、前記内燃機関の運転中に前記運転領域であると判断された場合、前記自動停止処理の実行を禁止することを特徴とする。
上記発明では、内燃機関の運転中に上記スリップ領域であると判断された場合、内燃機関の自動停止処理の実行を禁止するとの制約を課すことで、その後スリップ領域において内燃機関が再始動される事態を回避することができる。これにより、駆動輪のスリップが生じる事態を好適に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を好適に抑制することができる。
構成4は、構成2又は3において、前記車両は、前記内燃機関の出力軸から前記駆動輪までの前記回転力の伝達経路上の前記出力軸側の回転軸と前記駆動輪側の回転軸とを接続又は遮断することで、前記回転力の伝達経路を接続又は遮断するクラッチ手段を備えるものであり、前記制約手段は、前記内燃機関の自動停止中に前記運転領域であると判断された場合、前記内燃機関の再始動処理期間において前記回転軸同士の接続速度を低下させることを条件として、前記再始動処理の実行を許可することを特徴とする。
内燃機関の再始動処理が開始されると、内燃機関の出力軸の回転速度の上昇によって上記出力軸側の回転軸の回転速度が上昇する。ここで、上記出力軸側の回転軸の回転速度の上昇により、この回転速度が車両の走行速度に応じた駆動輪側の回転軸の回転速度を上回る状態で上記伝達経路が接続されると、ショック(始動時ショック)や駆動輪のスリップが生じ、ドライバビリティが大きく低下するおそれがある。こうした問題への対処法としては、上記再始動処理期間において、上記伝達経路を遮断する方法も考えられる。ただし、この場合、内燃機関の再始動が開始されてから、内燃機関の出力軸の回転力が駆動輪へと伝達されるまでの時間が長期化し、再始動直後の車両の加速応答性が低下する等、ドライバビリティが大きく低下するおそれがある。この点、上記発明では、内燃機関の再始動処理期間において上記出力軸側の回転軸と駆動輪側の回転軸との接続速度を低下させるとの制約を課すことで、始動時ショックや駆動輪のスリップの発生を回避しつつも、内燃機関の再始動が開始されてから極力速やかに内燃機関の出力軸の回転力を駆動輪へと伝達させることができる。これにより、ドライバビリティの低下を好適に抑制することができる。
構成5は、構成2又は3において、前記制約手段は、前記内燃機関の自動停止中に前記運転領域であると判断された場合、前記再始動処理の実行を禁止することを特徴とする。
上記発明では、内燃機関の自動停止中に上記スリップ領域であると判断された場合、内燃機関の再始動処理の実行を禁止するとの制約を課す。これにより、内燃機関の再始動に起因して駆動輪のスリップが生じる事態を好適に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を抑制することができる。
構成6は、構成1〜5のいずれかにおいて、前記操舵角取得手段及び前記速度取得手段の出力値に基づき、前記スリップが生じる運転領域に移行するか否かを予測する予測手段を更に備え、前記制約手段は、前記運転領域に移行すると予測された場合、前記制約を課すことを特徴とする。
上記発明では、予測手段を備えることで、上記スリップ領域に移行するか否かを予め把握することができる。そして、スリップ領域に移行すると予測された場合に上記制約を課すことで、スリップ領域において内燃機関が再始動される事態を回避する。これにより、内燃機関の再始動に起因する駆動輪のスリップの発生を好適に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を好適に抑制することができる。
構成7は、構成6において、前記制約手段は、前記内燃機関の自動停止中に前記運転領域に移行すると予測された場合、前記運転領域に移行するに先立ち前記再始動処理を実行することを特徴とする。
上記発明では、内燃機関の自動停止中に上記スリップ領域に移行すると予測された場合、この領域に移行する以前に内燃機関を再始動させるとの制約を課すことで、スリップ領域において内燃機関が再始動される事態を好適に回避することができる。これにより、駆動輪のスリップが生じる事態をより好適に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下をより好適に抑制することができる。
構成8は、構成6又は7において、前記制約手段は、前記内燃機関の運転中に前記運転領域に移行すると予測された場合、前記自動停止処理の実行を禁止することを特徴とする。
上記発明では、内燃機関の運転中に上記スリップ領域に移行すると予測された場合、この領域における自動停止処理の実行を禁止し、スリップ領域に移行する以前に再始動処理を実行するとの制約を課すことで、その後にスリップ領域において内燃機関が再始動される事態を好適に回避することができる。これにより、駆動輪のスリップが生じる事態をより好適に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下をより好適に抑制することができる。
構成9は、構成6〜8のいずれかにおいて、前記予測手段は、前記操舵角、同操舵角の変化速度、前記車両の走行速度及び同車両の加速度に基づき、前記運転領域に移行するか否かを予測することを特徴とする。
上記発明では、上記パラメータを用いることで、スリップ領域に移行するか否かを適切に予測することができる。
構成10は、構成1〜9のいずれかにおいて、路面摩擦係数についての情報を取得する摩擦係数取得手段を更に備え、前記摩擦係数取得手段の出力値に基づき前記路面摩擦係数が所定以下と判断された場合、前記制約手段により前記制約を課すことを特徴とする。
路面摩擦係数(μ)が低いと、グリップ力が低下する。このため、μが低い凍結路面等(いわゆる低μ路)においては、内燃機関の再始動に起因した駆動輪のスリップが生じやすい。ここで、上記発明では、駆動輪のスリップが生じやすい路面状態において、自動停止処理や再始動処理の実行に制約を課す。これにより、駆動輪のスリップが生じやすい状況におけるドライバビリティの低下を好適に抑制することができる。
構成11は、構成1〜10のいずれかにおいて、前記車両は、前記内燃機関の出力軸と前記駆動輪との間に介在して且つ前記出力軸の回転速度を複数通りの変速比に調節可能な変速手段を更に備えるものであり、前記変速比に基づき、前記運転領域を可変設定することを特徴とする。
内燃機関の再始動処理が開始されると、内燃機関の出力軸の回転速度が上昇する。ここで、この回転速度の上昇によって、内燃機関の出力軸の回転速度を上記変速比で除算した回転速度が車両の走行速度に応じた駆動輪の回転速度を上回ると、駆動輪の回転速度が上昇することに起因して駆動輪のスリップが生じるおそれがある。詳しくは、変速比が小さいほど上記除算した回転速度が高くなるため、再始動に起因する駆動輪のスリップが生じやすくなる。上記発明では、この点に鑑み、変速比に基づき、スリップ領域を高精度に設定することができる。
構成12は、構成1〜11のいずれかにおいて、前記駆動輪に作用する路面摩擦力と相関を有する前記車両についてのパラメータに基づき、前記運転領域を可変設定することを特徴とする。
駆動輪に作用する路面摩擦力(グリップ力)が小さくなると、内燃機関の再始動に起因する駆動輪のスリップが生じやすくなることで、スリップ領域が変化する。上記発明では、この点に鑑み、グリップ力と相関を有する車両についてのパラメータに基づきスリップ領域をより高精度に設定することができる。
以下、本発明にかかる内燃機関の自動停止始動制御装置を内燃機関(エンジン)を搭載した車両(自動車)に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に本実施形態にかかるシステム構成を示す。
図示されるエンジン10は、火花点火式内燃機関である。エンジン10の各気筒には、エンジン10の燃焼室に燃料を噴射供給するための燃料噴射弁12と、噴射供給された燃料と吸気との混合気を燃焼させるための放電火花を発生させる点火プラグ14とが備えられている。燃料の燃焼によって発生するエネルギは、エンジン10の出力軸(クランク軸16)の回転力として取り出される。なお、クランク軸16近傍には、クランク軸16の回転角度を検出するクランク角度センサ18が設けられている。
クランク軸16には、スタータ20が接続されている。スタータ20は、図示しないイグニッションスイッチのオンにより始動し、エンジン10を始動させるべくクランク軸16に初期回転を付与する(クランキングを行う)。
クランク軸16の回転力は、自動変速装置(AT22)へと伝達される。AT22は、トルクコンバータ24と、変速機構26とを有して構成される有段変速装置である。
ここで、変速機構26は、トルクコンバータ24を介してクランク軸16の回転力が伝達される入力回転軸28や、遊星歯車機構、複数の締結要素(多板クラッチや多板ブレーキ等)、中間回転軸29、出力回転軸30等を備えて構成されている。変速機構26では、これら締結要素に供給される作動油の圧力(油圧)が図示しない複数のソレノイドバルブにより調節されることで、締結要素の係合状態が変更され、遊星歯車機構の組み合わせに応じた複数通りの変速比が形成される。また、上記締結要素のうちクラッチ部32(フォワードクラッチ等)では、オイルコントロールバルブ(OCV34)によりクラッチ部32に供給される油圧が連続的に調節可能となっている。ここでは、油圧を上昇させることによって入力回転軸28と中間回転軸29とが接続されることで、中間回転軸29や、上記遊星歯車機構、複数の締結要素を介して、入力回転軸28から出力回転軸30までのクランク軸16の回転力の伝達経路が接続される。一方、油圧を低下させることによって入力回転軸28と中間回転軸29とが遮断されることで、上記伝達経路が遮断される。なお、AT22には、エンジン10の自動停止中において変速機構26の油圧系統の油圧を確保するための電動ポンプ35が設けられている。これにより、エンジン10が再始動される時点から速やかにクラッチ部32に供給される油圧を調節することが可能となる。また、AT22の出力回転軸30近傍には、車両の走行速度を検出する車速センサ36が設けられている。
このように構成されるAT22では、シフト位置が非駆動状態(P及びNレンジ)に操作されると、クラッチ部32により上記伝達経路が遮断される。一方、シフト位置が駆動状態(D、1速及び2速レンジ等)に操作されると、上記伝達経路が接続されるとともに、入力回転軸28の回転速度が変速比に従った出力回転軸30の回転速度に変換される。
上記出力回転軸30の回転力は、デファレンシャルギア38介して駆動輪40(左右の後輪)へと伝達される。ここで、出力回転軸30の回転速度は、デファレンシャルギア38の変速比(デフ比)に従った駆動輪40の回転速度に変換される。
車室内には、操舵輪42(操舵可能な左右の前輪)の操舵角(車両操舵角)を操作するハンドル44が設けられており、ハンドル44の操舵角に応じて車両操舵角が定まる。なお、駆動輪40及び操舵輪42近傍には、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて駆動輪40及び操舵輪42に対して制動力を付与する図示しないブレーキアクチュエータが設けられている。
ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ46や、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ48、AT22のシフト位置を検出するシフト位置センサ50、ハンドル44の操舵角を検出する操舵角センサ52、外気温度を検出する外気温センサ54、クランク角度センサ18、車速センサ36等の出力信号は、電子制御装置(以下、ECU56)に入力される。
ECU56は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU56は、上記各センサからの入力信号に基づき、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁12による燃料噴射制御や、点火プラグ14による点火制御、スタータ20による始動制御、更にはAT22の油圧系統の油圧制御等を行う。
特にECU56は、エンジン10のアイドルストップ制御を行う。アイドルストップ制御は、エンジン10の運転中に所定の停止条件が成立する場合にエンジン10を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立する場合にエンジン10を再始動させるものである。これにより、エンジン10の燃費低減効果を得ることが可能となる。ここで、上記停止条件や再始動条件は、ドライバの停車意思や車両を発進させる意思を把握可能なように設定される。本実施形態では、エンジン10の停止条件を、ブレーキ操作がなされているとの条件及び車両の走行速度が0よりも高い所定速度(20km/h)を下回るとの条件の論理積条件とする。ここで、車両の走行速度についての条件は、アイドルストップ制御による燃費低減効果の更なる向上を図るために設定される条件である。つまり、上記所定速度を0よりも高い速度とすることで停車する以前にもエンジン10を自動停止させ、上記所定速度を0(又は略0)とする場合と比較して、エンジン10を自動停止させる運転領域を拡大させることが可能となる。これにより、燃費低減効果を向上させることが可能となる。なお、ブレーキ操作がなされているか否かは、ブレーキセンサ46の出力値に基づき判断すればよい。また、車両の走行速度が所定速度を下回るか否かは、車速センサ36の出力値に基づき判断すればよい。
一方、エンジン10の再始動条件を、車両の走行速度が所定の閾値以下である場合はアクセル操作がなされているとの条件とし、車両の走行速度が上記所定の閾値よりも大きい場合にはブレーキ操作がなされていないとの条件とする。これは、ドライバが車両を発進させる意思や加速させる意思を有するか否かを適切に把握するための設定である。つまり、再始動条件をブレーキ操作がなされていないとの条件のみとする場合、ドライバが車両を減速又は停車させるべくポンピングブレーキ操作を行うと、ドライバに車両を加速させる意思が無いにもかかわらずエンジン10が再始動されるおそれがある。このため、車両が減速されて走行速度が所定の閾値以下となる場合には、再始動条件をアクセル操作についての条件とすることで、ドライバが車両を発進させる意思や加速させる意思を有するか否かを適切に把握することが可能となる。
ところで、上記アイドルストップ制御が行われる車両においては、車両の走行中にエンジン10が再始動されることがある。エンジン10の再始動処理が開始されると、クランク軸16の回転速度が所定時間(略1秒間)目標値を超えて上昇し(エンジン10の噴き上がりが生じ)、その後目標値に下降する。ここで、路面摩擦係数(μ)が低い凍結路面等(いわゆる低μ路)においてエンジン10が再始動されると、エンジン10の噴き上がりによって、クランク軸16の回転速度をAT22の変速比及びデフ比で除算した回転速度が車両の走行速度に応じた駆動輪40の回転速度を上回り、駆動輪40の回転速度が上昇することに起因して駆動輪40のスリップが生じるおそれがある。この場合、駆動輪40に作用する路面摩擦力(グリップ力)が低下することで、アンダーステアが生じる等、車両の操縦安定性が低下し、ひいてはドライバビリティが大きく低下するおそれがある。こうした問題への対処法としては、再始動処理期間において、クラッチ部32により入力回転軸28と中間回転軸29とを遮断させることで、駆動輪40のスリップの発生を回避する方法も考えられる。ただし、この場合、エンジン10の再始動処理が開始されてからクランク軸16の回転力が駆動輪40へと伝達されるまでの時間が長期化し、再始動直後の車両の加速応答性が低下したりクリープ力が得られなかったりする等、ドライバビリティが低下するおそれがある。
こうした問題を解消すべく、本発明者は、まず駆動輪40のスリップの発生メカニズムについて詳細に分析し、駆動輪40のスリップが生じる運転領域(スリップ領域)が車両操舵角及び車両の走行速度と関連付けられることに着目した。そして、この領域においてエンジン10が再始動されると、駆動輪40のスリップが生じることを見出した。以下、スリップ領域について説明する。
図2に、車両が低μ路(凍結路面)を一定速度で走行する場合において、駆動輪40のスリップが生じた時の車両操舵角に対応するハンドル44操舵角の計測値(「●」にて表記)を示す。図示されるように、これら計測値に基づき算出された境界線(すべり限界)によって、スリップ領域とこの領域以外の領域(非スリップ領域)とを区別することが可能となる。つまり、車両操舵角が大きいほど車両の旋回半径が小さくなるため、車両に作用する遠心力が大きくなる。また、同一車両操舵角に対して、車両の走行速度が高くなるほど車両に作用する遠心力が大きくなる。そして、遠心力が大きくなることに起因して駆動輪40のスリップが生じる。このことから、スリップ領域を車両操舵角及び車両の走行速度と関連付けることが可能となる。このスリップ領域は、すべり限界を規定する車両操舵角が、車両の走行速度が高いほど小さくなる領域である。このスリップ領域においてエンジン10が再始動されることで駆動輪40のスリップが生じると考えられる。
ここで、図2に、上記すべり限界付近でエンジン10を再始動させた場合における駆動輪40のスリップ発生の有無を調べた結果を併記した。詳しくは、ハンドル44の操舵角を一定とする場合において、ブレーキ操作により車両の走行速度が所定速度まで減速された後、ブレーキ操作の解除によりエンジン10を再始動させた時のスリップ発生の有無の官能試験結果を示す。なお、図中、官能試験結果としての「◇」、「◆」、「□」は、駆動輪40のスリップが生じていないことを示し、点数が小さいほどドライバビリティの低下が小さいことを示す。一方、「■」、は駆動輪40のスリップが生じ、ドライバビリティの低下が顕著なことを示す。図示されるように、非スリップ領域でエンジン10が再始動される場合、駆動輪40のスリップが生じないため、車両の操縦安定性は低下しない。これに対し、スリップ領域で再始動される場合、駆動輪40のスリップによりプッシュアンダが生じる等、車両の操縦安定性が低下することがある。したがって、非スリップ領域でエンジン10が再始動される場合は、駆動輪40のスリップの発生によるドライバビリティの低下は生じない。
そこで本実施形態では、スリップ領域においてエンジン10が再始動される事態を極力回避することが可能なアイドルストップ制御を行う。一方、この領域においてエンジン10の再始動要求がある場合は、クラッチ緩係合処理を行うことを条件として再始動処理を行うことで、駆動輪40のスリップの発生を極力回避しつつも、再始動直後のドライバビリティの低下を極力抑制する。
次に、クラッチ緩係合処理について説明する。この処理は、通常の再始動時(非スリップ領域におけるAT22の変速比の切替処理時)と比較して、入力回転軸28と中間回転軸29との接続速度を低下させる処理である。つまり、エンジン10の再始動直後は、エンジン10の噴き上がりによって入力回転軸28の回転速度が上昇する。そして、この回転速度が中間回転軸29の回転速度(車両の走行速度に応じた駆動輪40の回転速度にデフ比及びAT22の変速比を乗算した回転速度)を上回る状態で入力回転軸28と中間回転軸29とが接続されると、ショック(始動時ショック)や駆動輪40のスリップが生じ、ドライバビリティが大きく低下するおそれがある。このため、OCV34の操作によって再始動処理の開始時(又は開始直後)からAT22のクラッチ部32に供給される油圧の上昇速度を通常の再始動時と比較して低下させることで、入力回転軸28と中間回転軸29とをスリップさせながら接続させる。これにより、これら回転軸同士の回転速度差に起因する始動時ショックや駆動輪40のスリップの発生を極力回避しつつも、再始動直後の車両の加速応答性等の低下を極力回避することが可能となる。ここで、図3に、クラッチ緩係合処理によるドライバビリティの低下抑制効果を示す。なお、図中、官能試験結果としての「□」、「■」は、クラッチ緩係合処理による計測結果を示し、「◆」は、入力回転軸28と中間回転軸29との接続速度がクラッチ緩係合処理よりも早い速度となる処理(クラッチ早係合処理)による計測結果を示す。また、図中、1点は、駆動輪40のスリップが生じていないことを示し、2点は、始動時ショックや駆動輪40のスリップが生じたりする等、ドライバビリティの低下が1点の場合よりも大きいことを示す。図示されるように、クラッチ緩係合処理によれば、駆動輪40のスリップの発生を極力抑制することができ、ひいてはドライバビリティの低下を抑制することが可能となる。これに対し、クラッチ早係合処理によれば、駆動輪40のスリップや始動時ショックが生じることで、ドライバビリティが大きく低下する。
なお、上記スリップ領域は、グリップ力と相関を有する車両についてのパラメータ(車両パラメータ)に基づき可変設定されることが望ましい。これは、グリップ力が小さくなると、再始動に起因する駆動輪40のスリップが生じやすくなることで、スリップ領域が拡大する(所定の走行速度に対してすべり限界を規定する車両操舵角が小さくなる)ことに基づくものである。本実施形態では、上記車両パラメータとして、車両のトレッドやホイールベース、車両の重心位置、車両重量、更には駆動輪40の接地面積等を想定している。例えば、車両重量が小さくなると、グリップ力が低下する。また、車両のトレッドやホイールベース、重心位置が変化すると、車両の姿勢変化(旋回時のローリングやピッチング等)による荷重移動が生じ、車両重量に対する駆動輪40に作用する荷重が変化するため、グリップ力が変化する。このため、上記車両パラメータに基づき車両毎にスリップ領域を適合することで、この領域を高精度に設定することが可能となる。
図4に、本実施形態にかかるアイドルストップ制御処理の手順を示す。この処理は、ECU56によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、路面摩擦係数μが所定の閾値μ0(例えば、凍結路面に相当する路面摩擦係数)以下であるか否かを判断する。この処理は、エンジン10の再始動に起因して駆動輪40のスリップが生じるおそれがある路面状態(路面が凍結している状態)であるか否かを把握するためのものである。ここで、路面摩擦係数μが所定の閾値μ0以下であるか否かは、外気温センサ54の出力値から算出される外気温が所定温度(例えば、路面が凍結すると想定される温度)以下であることに基づき判断すればよい。
ステップS10において路面摩擦係数μが所定の閾値μ0よりも大きいと判断された場合には、上記スリップが生じるおそれがない路面状態であると判断し、ステップS12に進む。ステップS12では、自動停止フラグFが「1」に設定されているか否かを判断する。この処理は、エンジン10が自動停止中であるか否かを判断するためのものである。ここで、自動停止フラグFは、「0」によってエンジン10が自動停止していない(運転中である)ことを示し、「1」によって自動停止していることを示す。
ステップS12においてエンジン10が運転中であると判断された場合には、ステップS14に進み、エンジン10の停止条件が成立しているか否かを判断する。
ステップS14においてエンジン10の停止条件が成立していると判断された場合には、ステップS16に進み、エンジン10の自動停止処理を行う。ここで、自動停止処理は、燃料噴射弁12からの燃料噴射を停止することで、エンジン10を停止させる処理である。そして、エンジン10が停止したことを確認の後、自動停止フラグFを「1」に設定する。
一方、上記ステップS12においてエンジン10が自動停止中であると判断された場合には、ステップS18に進み、エンジン10の再始動条件が成立しているか否かを判断する。
ステップS18においてエンジン10の再始動条件が成立していると判断された場合には、ステップS20に進み、エンジン10の自動始動処理を行う。ここで、自動始動処理は、スタータ20を始動させることでクランキングを行うとともに、燃料噴射弁12及び点火プラグ14を操作することで、自動停止しているエンジン10を再始動させる処理である。そして、エンジン10が始動したことを確認の後、自動停止フラグFを「0」に設定する。
一方、上記ステップS10において路面摩擦係数μが所定の閾値μ0以上であると判断された場合には、エンジン10の再始動に起因して駆動輪40のスリップが生じるおそれのある路面状態であると判断し、ステップS22に進む。ステップS22では、スリップ領域の設定処理を行う。本実施形態では、スリップ領域を、AT22の変速比に基づき可変設定する。つまり、AT22の変速比が小さいほど、クランク軸16の回転速度を上記変速比及びデフ比で除算した回転速度が高くなることで、再始動に起して駆動輪40の回転速度が上昇しやすくなり、駆動輪40のスリップが生じやすくなる。このため、AT22の変速比が小さいほど、スリップ領域を拡大する(所定の走行速度に対してすべり限界を規定する車両操舵角を小さく設定する)ことで、現在の走行状態に応じてこの領域を高精度に設定することが可能となる。ここで、AT22の変速比に基づくスリップ領域の設定手法としては、例えば、ECU56の不揮発性メモリ(EEPROM等)内に予め記憶された上記変速比をパラメータとするスリップ領域から、現在の変速比に対応するものを選択すればよい。なお、AT22の変速比は、シフト位置センサ50の出力値に基づき算出すればよい。
ステップS22の処理の完了後、ステップS24に進み、スリップ領域であるか否かを判断する(スリップ領域判断処理)。ここで、スリップ領域であるか否かは、上記ステップS22の処理で設定されたスリップ領域と、車速センサ36及び操舵角センサ52の出力値とに基づき判断すればよい。
ステップS24においてスリップ領域であると判断された場合には、ステップS26に進み、エンジン10が自動停止中であるか否かを判断する。
ステップS26においてエンジン10が運転中であると判断された場合には、ステップS28に進み、エンジン10の自動停止禁止処理を行う。この処理は、その後スリップ領域においてエンジン10が再始動される事態を回避することで、駆動輪40のスリップが生じる事態を回避するためのものである。
一方、上記ステップS26においてエンジン10が自動停止中であると判断された場合には、ステップS30に進み、上記ステップS18の処理と同様のエンジン10の再始動条件が成立しているか否かを判断する。
ステップS30においてエンジン10の再始動条件が成立していると判断された場合には、ステップS32に進み、スリップ領域自動始動処理を行う。ここで、スリップ領域自動始動処理とは、上記クラッチ緩係合処理を行うことを条件として上記自動始動処理を行う処理である。そして、エンジン10が始動したことを確認の後、自動停止フラグFを「0」に設定する。
一方、上記ステップS24においてスリップ領域でないと判断された場合には、ステップS34に進み、スリップ領域に移行するか否かを予測判断する(スリップ領域移行予測処理)。この処理は、操舵角センサ52の出力値から算出される車両操舵角及び車両操舵角の変化速度、車速センサ36の出力値から算出される車両の走行速度及び車両の加速度に基づき、現在の時点からスリップ領域へと移行すると想定される時点までの時間(移行時間)を把握することで行われる。具体的には、上記移行時間が所定時間(例えばエンジン10の自動始動処理に要する時間よりもやや長い時間)以下となることに基づき、スリップ領域に移行すると予測すればよい。これにより、エンジン10の自動始動処理を適切なタイミングで行うことが可能となる。
ステップS34においてスリップ領域に移行しないと判断された場合には、上記ステップS12に進む。一方、上記ステップS34において、車両の走行速度の上昇や車両操舵角の増大等に伴いスリップ領域に移行すると判断された場合には、ステップS36に進み、エンジン10が自動停止中であるか否かを判断する。
ステップS36においてエンジン10が自動停止中であると判断された場合には、上記ステップS20に進み、エンジン10の自動始動処理を行う。これにより、スリップ領域に移行する以前に予めエンジン10を再始動させることで、その後スリップ領域においてエンジン10が再始動される事態を回避することが可能となる。
一方、ステップS36においてエンジン10が運転中であると判断された場合には、上記ステップS28に進み、エンジン10の自動停止禁止処理を行う。これにより、その後にスリップ領域においてエンジン10が再始動される事態を回避することが可能となる。
なお、上記ステップS14、S18、S30で否定判断された場合や、ステップS16、S20、S28、S32の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)車両操舵角及び車両の走行速度に基づきスリップ領域であると判断されて、且つエンジン10が運転中であると判断された場合、エンジン10の自動停止処理を禁止した。これにより、その後スリップ領域においてエンジン10が再始動される事態を回避することで、駆動輪40のスリップが生じる事態を好適に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を好適に抑制することができる。更に、スリップ領域を車両操舵角、車両の走行速度と関連付けたため、例えばスリップ領域を車両操舵角のみと関連付ける場合と比較して、スリップ領域を高精度に設定することができ、ひいては自動停止処理が禁止されることによる燃費低減効果の低下を好適に抑制することもできる。
(2)スリップ領域であると判断されて且つエンジン10が自動停止中であると判断された場合、スリップ領域自動始動処理を行った。これにより、始動時ショックや駆動輪40のスリップの発生を回避しつつも、自動始動処理が開始されてから極力速やかにクランク軸16の回転力を駆動輪40へと伝達させることができ、ひいてはドライバビリティの低下を好適に抑制することができる。また、AT22に電動ポンプ35を設けたため、スリップ領域自動始動処理の開始時からクラッチ部32に供給される油圧の調節精度を向上させることができ、ひいてはクラッチ緩係合処理を適切に行うこともできる。
(3)車両操舵角、車両操舵角の変化速度、車両の走行速度及び車両の加速度に基づきスリップ領域に移行すると判断されて、且つエンジン10が自動停止中であると判断された場合、エンジン10の自動始動処理を行った。また、スリップ領域に移行すると予測されて且つエンジン10が運転中であると判断された場合、エンジン10の自動停止処理を禁止した。これにより、スリップ領域に移行する以前にエンジン10を運転させることができるため、その後スリップ領域において再始動に起因する駆動輪40のスリップが生じる事態を好適に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を好適に抑制することができる。
(4)路面摩擦係数μが所定の閾値μ0以上であると判断された場合、スリップ領域設定処理、スリップ領域判断処理、スリップ領域移行予測処理、自動停止禁止処理及びスリップ領域自動始動処理を行った。これにより、エンジン10の再始動に起因して駆動輪40のスリップが生じやすい路面状況におけるドライバビリティの低下を好適に抑制することができる。更に、上記所定の閾値μ0以上であると判断された場合にのみスリップ領域設定処理等を行うため、アイドルストップ制御処理におけるECU56の演算負荷を低減させることもできる。
(5)スリップ領域をAT22の変速比及び車両パラメータに基づき可変設定した。これにより、スリップ領域をより高精度に設定することができ、ひいてはスリップ領域判断処理やスリップ領域移行予測処理を高精度に行うことができる。
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記実施形態では、スリップ領域に移行するか否かを、車両操舵角、車両操舵角の変化速度、車両の走行速度及び車両の加速度に基づき予測したがこれに限らない。例えば、車両操舵角及び車両の走行速度に基づき予測してもよい。ここで、車両操舵角及び車両の走行速度に基づく予測手法としては、具体的には、すべり限界よりも車両操舵角が小さい側であって且つ車両の走行速度が低速側に境界線を設定し、車両操舵角や車両の走行速度が上記境界線をスリップ領域側に超えると判断された場合、スリップ領域に移行すると予測すればよい。この場合であっても、上記実施形態の上記(3)の効果に準じた効果を得ることはできる。
・上記実施形態では、路面摩擦係数μが所定の閾値μ0以下であるか否かを外気温センサ54の出力値に基づき判断したがこれに限らない。例えば、ナビゲーションシステムにより取得される天候情報に基づき判断してもよい。また例えば、各車輪(駆動輪40や操舵輪42)の回転速度を検出すべく各車輪の近傍に設けられる車輪速センサの検出値から車輪のスリップが生じていると判断されることに基づき判断してもよい。ここで、車輪速センサの検出値に基づくスリップ発生の有無の判断手法としては、例えば、各車輪速センサの検出値から算出される車輪回転速度のうちいずれかが他の車輪回転速度よりも大きく上昇することに基づきスリップが生じていると判断するものが考えられる。
・上記実施形態では、路面摩擦係数μが所定の閾値μ0以下であると判断された場合、スリップ領域の設定処理や、スリップ領域判断処理、スリップ領域移行予測処理、自動停止禁止処理及びスリップ領域自動始動処理を行ったがこれに限らない。例えば、路面摩擦係数μの値にかかわらず(ステップS10の処理を設けず)、常に上記処理を行うようにしてもよい。
・上記実施形態では、AT22の変速比に基づき、スリップ領域を可変設定したがこれに限らない。例えば、AT22の変速比に加えて、路面摩擦係数μについての情報を取得する手段の取得値(例えば、外気温センサ54の検出値やナビゲーションシステムにより取得される天候情報)に基づき設定してもよい。これは、路面摩擦係数μが小さくなると、グリップ力が小さくなることで、スリップ領域が拡大することに基づくものである。これにより、路面状況に応じて適切にスリップ領域を設定することができる。
・上記実施形態では、車両操舵角を操舵角センサ52の出力値(ハンドル44の操舵角)に基づき算出したがこれに限らない。例えば、車両操舵角を直接検出する手段を有し、この手段の出力値に基づき算出してもよい。
・上記実施形態では、車両の走行速度を車速センサ36の出力値に基づき算出したがこれに限らない。例えば、車輪速センサの出力値及び車輪の直径に基づき車両の走行速度を算出してもよい。また例えば、クラッチ部32によりAT22の入力回転軸28と中間回転軸29とが接続されていることを条件として、クランク角度センサ18の出力値から算出されるエンジン回転速度、AT22の変速比、デフ比及び車輪の直径に基づき車両の走行速度を算出してもよい。
・上記実施形態では、スリップ領域判断処理及びスリップ領域移行予測処理の双方を行ったがこれに限らない。例えば、スリップ領域判断処理のみを行ってもよい。また例えば、スリップ領域移行予測処理のみを行ってもよい。ただしこの場合、例えば、エンジン10の運転中(停止中)にスリップ領域に移行すると予測されることで強制的にエンジン10の自動停止を禁止(エンジン10を再始動)させる処理が間に合わず、スリップ領域に入ってしまう場合に、強制的な処理を停止すること等の対処ができない。このため、こうした事態を確実に回避すべく、上記実施形態と比較して、先の図4のステップS34における所定時間を上記自動始動処理に要する時間よりも長めに設定することが望ましい。
・上記実施形態において、先の図4のステップS32におけるスリップ領域自動始動処理は、クラッチ緩係合処理を行うことを条件としてエンジン10の自動始動処理を行う処理に限らない。例えば、エンジン10の再始動を禁止する処理を行ってもよい。この場合であっても、駆動輪40のスリップが生じる事態を好適に回避することができ、ひいてはドライバビリティの低下を抑制することができる。
・クラッチ緩係合処理の適用対象(クラッチ手段)としては、自動変速装置(AT22)のクラッチ部32に限らず、手動変速装置(MT)の入力回転軸と接続されるクラッチ装置であってもよい。クラッチ装置は、クランク軸16に接続された円板(フライホイール等)と、MTの入力回転軸に接続された円板(クラッチディスク等)とを備えて構成される。これら円板同士は、ドライバによるクラッチペダルの操作に応じて接触及び離間のいずれかの状態に切り替えられる。この場合、クラッチ緩係合処理は、ドライバによるクラッチペダルの操作が解除されても上記円板同士の接続速度を低下させるよう電子操作することで行えばよい。
・内燃機関としては、ガソリンエンジンのような火花点火式内燃機関に限らない。例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式内燃機関であってもよい。