JP5938419B2 - 芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及び光学成形品 - Google Patents
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Description
例えば、ビーズ状架橋アクリル樹脂及び蛍光増白剤を配合することにより輝度むらを少なくし、色調及び面発光性を優れさせる方法(例えば、特許文献1参照)、特定の分子量のアクリル系樹脂を配合することにより、あるいは、ポリアルキレングリコール又はその脂肪酸エステルを配合することによりポリカーボネート樹脂の特性を維持したまま全光線透過率を向上させる方法(例えば、特許文献2及び3参照)、特定の繰り返し単位を有するポリカーボネート共重合体を用い、共重合体中のスズ含有量を一定量以下としたり、光拡散剤あるいは特定のフォスファイト化合物を酸化防止剤として配合したりすることでポリカーボネート樹脂組成物の流動性を高めつつ高温成形時の変色を低減させる方法(例えば、特許文献4〜6参照)、シリコーン架橋粒子と特定のフォスファイト化合物を酸化防止剤として配合することにより大型射出成形品を成形できる程度に熱安定性を優れさせる方法(例えば、特許文献7参照)が開示されている。
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の流動性を上げるには、分子量を下げるか、特許文献4〜6に開示されるような、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールを共重合したポリカーボネート共重合体と組み合わせて流動性を上げる方法等が知られている。また、高温成形時の劣化や黄変に対応するため、特許文献6及び7に開示されるように、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物にフォスファイト(亜リン酸エステル)系の酸化防止剤を添加することが知られている。
すなわち、本発明は、下記の樹脂組成物及び光学成形品である。
2. 前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)が、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、下記一般式(a−1)及び(a−2)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート共重合体0〜150質量部を含有するものである、前記1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
3. 前記ジフォスファイト化合物(B)が、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトである、前記1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
4. 前記ジフォスファイト化合物(B)に含まれる残留ナトリウム分が3質量ppm以下である、前記1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
5. 前記脂環式エポキシ化合物(C)が、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート及び/又は2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物である、前記1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
6. 前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、さらに変性シリコーン化合物0.01〜1質量部を含有する、前記1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
7. 溶融混練した後のペレット100g当たり、1片50μm以上の異物数が5個以下であり、1片20μm以上50μm未満の異物数が20個以下であり、かつ1片5μm以上20μm未満の異物数が200個以下である、前記1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
8. 前記ペレットの粘度平均分子量が、芳香族ポリカーボネート樹脂換算で13,000以下である、前記7に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
9. 前記1〜8のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる光学成形品。
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、例えば、分子量が13,000以下の低分子量で、高温高湿環境下に長時間さらされたとしてもクッラクが発生しない導光板とすることができる。
本発明において、(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、芳香族PC樹脂と称すことがある)として、公知の製造方法、すなわち、二価フェノールとホスゲン又は炭酸エステル化合物等のカーボネート前駆体とを反応させることにより製造したものを用いることができる。
具体的には、例えば、ジクロロメタン等の不活性溶媒中において、公知の分子量調節剤の存在下、さらに、必要により分岐剤を添加し、二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応により、あるいは二価フェノールと炭酸エステル化合物のようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応等によって製造されたものである。
ビスフェノールA以外のビスフェノールとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類、4,4'−ジヒドロキシジフェニル等のジヒドロキシジフェニル類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のジヒドロキシジアリールフルオレン類;1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等のジヒドロキシジアリールアダマンタン類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、10,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−9−アントロン、1,5−ビス(4−ヒドロキシフェニルチオ)−2,3−ジオキサペンタエン、α,ω−ビスヒドロキシフェニルポリジメチルシロキサン化合物等が挙げられる。これらの二価フェノールは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
分岐剤として、例えば、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α',α"−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、1−〔α−メチル−α−(4'−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α',α'−ビス(4"−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)等の官能基を3つ以上有する化合物を用いることもできる。これらの分岐剤は一種を単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。
また本発明においては、(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂として、ホモ芳香族ポリカーボネート樹脂を単独で用いることができるが、樹脂組成物の粘度平均分子量を下げずに流動性を上げる観点から、ホモ芳香族ポリカーボネート樹脂と、下記一般式(a−1)及び(a−2)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート共重合体(以下、PC共重合体と称すことがある)との混合物を用いることもできる。
また、上記(a−2)中、R15及びR16は、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Yは炭素数2〜15の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す。c及びdは、それぞれ独立に0〜4の整数を示し、nは、2〜200の整数を示す。
二価フェノールとしては、下記一般式(a−1a)で表される化合物を挙げることができる。
a及びbは、それぞれR13及びR14の置換数を示し、0〜4の整数である。なお、R13が複数ある場合、複数のR13は互いに同一でも異なっていてもよく、R14が複数ある場合、複数のR14は互いに同一でも異なっていてもよい。
炭素数1〜8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチリレン基、ヘキシレン基等が挙げられ、炭素数2〜8のアルキリデン基としては、例えば、エチリデン基、イソプロピリデン基等が挙げられ、炭素数5〜15のシクロアルキレン基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられ、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基等が挙げられる。
不活性有機溶剤、分子量調節剤及び分岐剤としては、通常PC樹脂の重合に用いられるものなら、各種のものを用いることができる。具体的には前述の芳香族PC樹脂の製造に用いられる不活性有機溶剤、分子量調節剤及び分岐剤において例示したものを使用できる。
フェノール変性ジオールは、下記一般式(a−2a)で表される化合物である。
Yは炭素数2〜15の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基及びイソペンチレン基等の直鎖のアルキレン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基及びイソペンチリデン基等のアルキリデン基が挙げられる。
c及びdは、それぞれR15及びR16の置換数を示し0〜4の整数である。なお、R15が複数ある場合、複数のR15は互いに同一でも異なっていてもよくR16が複数ある場合、複数のR16は互いに同一でも異なっていてもよい。nは、−Y−O−の繰り返し単位数を示し、2〜200の整数である。
酸塩化物としては、ヒドロキシ安息香酸とホスゲンから得られるものが代表例である。より具体的には特許2652707号公報等に記載の方法により得ることができる。ヒドロキシ安息香酸又はそのアルキルエステルはパラ体、メタ体、オルト体のいずれでも良いが、共重合反応の面からはパラ体が好ましい。オルト体は水酸基に対する立体障害のため共重合の反応性に劣るおそれがある。
PC共重合体において、フェノール変性ジオールの共重合量を増やせば流動性は改善されるが耐熱性が低下する。従って、フェノール変性ジオールの共重合量は所望の流動性と耐熱性のバランスにより選択することが好ましい。フェノール変性ジオール共重合量が多すぎると特開昭62−79222号公報に示されるように、エラストマー状となり、一般のPC樹脂と同様の用途への適用ができなくなるおそれがある。100℃以上の耐熱性を保持するには、PC共重合体中に含まれるフェノール変性ジオール残基の量は、本発明においては1〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
上述したように本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)として、ホモ芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、ポリカーボネート共重合体を0〜150質量部で混合して用いることができる。
ホモ芳香族ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート共重合体とを併用する場合、ホモの芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、ポリカーボネート共重合体が10〜150質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがより好ましく、25〜60質量部であることがさらに好ましい。
ホモ芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、ポリカーボネート共重合体を10質量部以上混合することで、樹脂組成物の粘度平均分子量(芳香族PC樹脂換算、以下、単に分子量と称すことがある)を大きく落とすことなく流動性を上げることができ、混合する量が150質量部以下であることで耐熱性の低下を防ぐことができる。
また例えば、分子量が15,000の芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に、コモノマー量を4質量%共重合した分子量14,000のポリカーボネート共重合体を50質量部混合した場合、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量13,000相当以下の流動性が得られる。このようにポリカーボネート共重合体の混合量を任意に変えることで、流動性の調整は容易にできる。さらには、任意のコモノマー量、分子量のポリカーボネート共重合体が重合できるので、一般的には重合が困難な、分子量10,000以下の芳香族ポリカーボネート樹脂に相当するような流動性を持った樹脂組成物を得ることもできる。
本発明において、樹脂組成物の耐熱性及び耐湿熱性の観点から、(B)成分のジフォスファイト化合物として、下記一般式(I)で表される酸化防止剤を用いる。
R3、R6、R9及びR12は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれる基を示す。
mは、R3、R6、R9及びR12の置換数を示し、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。
また、一般式(I)で表されるジフォスファイト化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
例えば、分子量が13,000を下回るような低分子量のポリカーボネート樹脂組成物は、一般的に高温成形で黄変し易くなる。一方で、導光板は薄肉化が進んでいるため、高流動の樹脂組成物であっても、340℃以上、場合によっては360℃を超える温度で成形する場合がある。このため、低分子量のポリカーボネート樹脂組成物の高温成形時の黄変防止対策が必要となっていた。
ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形する場合、黄変原因となる酸化作用の防止には、フォスファイト系の酸化防止剤が最も有効である。ポリカーボネート樹脂組成物内に練りこまれた酸化防止剤は、射出シリンダー内で、樹脂の酸化防止作用を発揮するのであるが、射出シリンダー温度に対して、酸化防止剤の耐熱性が不足するようであれば、酸化防止作用を発揮するまでもなく、射出シリンダー内で分解、ガス化して、シルバーの発生原因となってしまう。このような高温成形用には、高い耐熱性を持ったフォスファイト系の酸化防止剤、具体的には、下記式で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト構造の酸化防止剤を用いることで対処される。
一方で、フォスファイト系酸化防止剤は加水分解し易すいものが多く、導光板の耐湿熱試験において、導光板内の酸化防止剤が加水分解して、その分解物の影響で導光板が変色したり、白濁で導光性能を低下させたりする問題が発生し易い。フォスファイト系の酸化防止剤で加水分解し難いものとして、下記式で示すトリス・2,4−ジ−tert−ブチルフェニルフォスファイト(市販品としては、例えば、BASFジャパン株式会社製の商品名Irgafos168)が知られているが、これは耐熱性が低いため、導光板の高温成形では分解してしまい、酸化防止機能が発揮されないため、導光板の高温成形には適さない。
上記一般式(I)で表されるジフォスファイト化合物のなかでも、耐熱性及び耐加水分解性を芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に対し良好に付与することができ、また入手容易であることから、下記式(I−1)で表されるビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(市販品としては、例えば、Dover Chemical社製の商品名Doverphos S−9228PC)が特に好適である。
また酸化防止剤に残留するナトリウム分は活性が高く、ポリカーボネート樹脂と作用して加水分解を促進し、変色や劣化の原因となる。
上記より、ジフォスファイト化合物(B)に含まれる残留ナトリウム分は、3質量ppm以下であることが好ましく、1質量ppm以下であることがより好ましい。残留ナトリウム分が3質量ppm以下であれば、残留ナトリウムが(B)成分の加水分解に影響を及ぼすおそれがない。
ここで残留するナトリウム分(残留ナトリウム分)とは、酸化防止剤の製造において、ナトリウム原子を含む化合物を用いる工程を経たことで残留したナトリム分のことである。
残留ナトリウム分が3質量ppm以下である(B)成分は、例えば水酸化ナトリウム水溶液で洗浄する工程を持たないプロセスにより製造することができる。
また、上記導光板を一般的耐湿熱条件である60℃、90%RHの恒温恒湿槽に1000時間入れた状態から取り出しても、変色のない導光板とすることができ、さらに過酷な条件(60℃、95%RHの恒温恒湿槽に1000時間;85℃、85%RHの恒温恒湿槽に500時間;85℃、95%RHの恒温恒湿槽に500時間)であっても、若干の変色はあるものの導光板として使用するうえで問題が生じないものとすることができる。
本発明において、樹脂組成物のさらなる耐湿熱性向上の観点から、脂環式エポキシ化合物(C)を用いる。
例えば、(A)成分として分子量13,000以下の低分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂、あるいは芳香族ポリカーボネート樹脂に前述した一般式(A−1)及び(A−2)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート共重合体を混合した、分子量13,000以下の(A)成分100質量部に、(B)のジフォスファイト化合物を0.05〜0.1質量部添加した場合、一般的耐湿熱条件である60℃、90%RH耐湿熱試験では、変色の問題は起きないが、60℃、90%RHを超える耐湿熱試験では若干の変色が出てしまう。導光板の耐湿熱試験条件には統一した基準はなく、標準条件より厳しい条件で評価されることも多いため、上記のような厳しい耐湿熱条件においても対応できるよう、本発明では樹脂組成物に脂環式エポキシ化合物(C)を含有させる。これにより、分子量13,000以下である低分子量の(A)成分に(B)成分を配合しただけでは得られない、優れた耐湿熱性を樹脂組成物に付与することができる。
例えば、(C)成分は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.02質量部配合するだけで、最も厳しい85℃、95%RH、500時間の耐湿熱条件であっても、変色が全くない導光板とすることができる。
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて変性シリコーン化合物を含有させることができる。
上記変性シリコーン化合物としては、アルコキシ基、ビニル基及びフェニル基の中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有し、例えば、シリコーン化合物にメトキシ基、ビニル基、フェニル基の少なくとも一種の基を導入した官能基含有変性シリコーン化合物(オルガノシロキサン等)等であることが好ましい。
上記変性シリコーン化合物は、成形時の熱劣化による黄変、シルバー(銀条)等の外観不良、気泡混入を防止する等、成形時の熱安定性をより向上させる効果がある。
変性シリコーン化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.01〜1質量部の範囲から適宜選択することができる。
含有量が、0.01質量部以上であると、熱安定化効果が十分に発揮され、1質量部以下であれば、成形品に曇り等が生ずることがない。
また、本発明の樹脂組成物には、上記各成分の他に必要に応じて各種添加剤を配合することができる。例えば、ヒンダードアミン系等の光安定剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
(異物の除去)
本発明の樹脂組成物は、光学成形品、特に導光板に好適なものである。導光板は、先に述べたような条件で耐湿熱試験が行われる。耐湿熱試験で恒温恒湿槽内に長時間入れられた導光板を取り出すと、導光板内部に多数のクラックが発生することがある。発生したクラックは、発生後に時間経過と共に閉じて見えなくなる場合があるが、痕跡が残る場合も多々ある。痕跡が残ると、導光板としては機能し無くなる。
発明者らは、耐湿熱試験後に、導光板内部にクラックが発生する原因について鋭意研究した結果、耐湿熱試験よって、導光板内に吸水される水分量と、導光板内部にある異物の影響で発生することを突き止めた。
すなわち、吸水性の高いポリカーボネート製の導光板を、一定の温度、湿度条件の恒温恒湿槽内に長時間入れると、吸水によって膨潤し、内部圧力が増大し、導光板内部にクリープひずみが発生する。ポリカーボネート樹脂は、吸水すると、静的な弾性率、及びクリープ弾性率が低下する性質を持つため、恒温恒湿槽内ではクリープひずみが進行しやすい。しかし、クリープひずみが進行するだけでは、クラックにまで発展することは少ないが、そこに異物があると、そこを起点にクラックが発生することが判った。
ここに、クラックの起点となる異物があるとクラックが発生するが、異物の大きさや量によって、クラックの発生量が異なる。
異物は大きい場合、混練機のメッシュやフィルターで濾過され、取り除くことができるが、一般のメッシュやフィルターでは抜ける微小の異物も多く、その大きさがおおよそ1片100μmを超えると、分子量15,000を超える導光板用の樹脂組成物でもクラックの起点となる。
本発明の樹脂組成物が、例えば分子量13,000〜15,000程度の一般導光板用の樹脂組成物であれば、1片が100μm以下の異物であればクラックの発生原因とはならないが、分子量13,000以下である低分子量の樹脂組成物では、より微小な異物でもクラックが発生する。
異物の大きさが50μm以上であっても、ペレット100g当たりに含まれる異物数が5個以下であれば、導光板内部に入る確率は非常に低いため、クラックが発生する危険率は低い。また、分子量13000以下でも、異物の大きさが50μm未満であるものの個数が、ペレット100g中において上記範囲であれば、異物凝集は起きないので、厳しい耐湿熱条件であってもクラックの発生はない。
上記フィルターを、混練機と押出ダイス間に設置した混練設備を使って、クリーン設備内にストランドを押し出しし、ペレタイズすることで、異物の極めて少ないペレットを得ることができる。さらに、クリーン環境下で充填、包装することにより、外部からの新規な異物が入ること無く、ペレット100g当たりで、50μm以上の異物数が5個以下で、20μm以上50μm未満の異物数が20個以下で、かつ5μm以上20μm未満の異物数が200個以下であるペレットを梱包することができる。
本発明において用いられる各成分は、例えば上述した方法のように、単軸あるいは2軸の混練機で混練し、ペレタイザーで射出成形に適したペレット状に造粒され、例えば射出成形法等の成形方法で導光板等の光学成形品に加工することができる。
本発明において、造粒されたポリカーボネート樹脂組成物の分子量は、粘度数VNを用いて求める芳香族PC樹脂換算の粘度平均分子量で10,000〜20,000程度であり、導光製品の用途によって適宜調製される。例えば、高い剛性や耐衝撃性、耐光性、耐疲労性、耐湿熱等を要求する場合は17,000〜20,000程度であり、一般的な剛性を要求する場合には15,000〜17,000程度である。
分子量を15,000以下にする場合は、薄肉で、画面サイズの大きい導光板等の成形が挙げられる。一般の携帯電話の画面サイズであれば、分子量が13,000〜15,000程度で、流動性の指標であるQ値(280℃、160Kg)が20〜60×10-2ml/秒の範囲である。さらに、薄肉で画面サイズが広いスマートフォンやタブレットPC向けの導光板等には、分子量が10,000〜13,000程度で、Q値(280℃、160Kg)が60×10-2ml/秒以上で、好ましくは75×10-2ml/秒以上に仕上げる。
なお、分子量が10,000未満になると、材料の剛性が不足し、衝撃性も低下するので、射出成形時に取り出しが困難となるため、流動性を上げるために平均粘度分子量を下げるにも限界がある。
〈芳香族ポリカーボネート樹脂(A)〉
・ホモ芳香族PC樹脂[ビスフェノールAを用いて製造されたホモ芳香族PC樹脂、出光興産株式会社製、商品名タフロンFN1500、分子量14,500]
・ホモ芳香族PC樹脂[ビスフェノールAを用いて製造されたホモ芳香族PC樹脂、出光興産株式会社製、商品名タフロンFN1200、分子量12,000]
・PC−PTMG共重合体[ポリカーボネートオリゴマーとポリテトラメチレングリコール−ビス(4−ヒドロキシベンゾエート)との共重合体、ポリテトラメチレングリコール−ビス(4−ヒドロキシベンゾエート)残基量4.0質量%、出光興産株式会社製、商品名タフロンFD1400]
〈ジフォスファイト化合物(B)〉
・ビス・(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト[Dover Chemical社製、商品名Doverphos S−9228PC、残留ナトリウム分1質量ppm以下]
〈脂環式エポキシ化合物(C)〉
・3、4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’、4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート[ダイセル化学工業株式会社製、商品名セロキサイド2021P]
〈酸化防止剤〉
・ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト[株式会社ADEKA製、商品名アデカスタブPEP36]
・トリス・2,4−ジ−tert−ブチルフェニルフォスファイト[BASFジャパン株式会社製、商品名Irgafos168]
〈変性シリコーン〉
・フェニル基、メトキシ基及びビニル基を有するオルガノポリシロキサン[信越化学工業株式会社製、商品名KR511]
上記の各成分について表1及び2に示す配合割合とし、日本ポール株式会社製の、孔径が10μmのプリーツタイプのフィルターエレメントを12本セットした、プリーツキャンドルタイプの溶融フィルターを、株式会社日本製綱所製、機種名TEX65αの2軸混練機と押出ダイス間に設置した混練設備を用い、クリーン設備内にストランドを押し出しし、ストランドカッターを使って、ペレタイズした。ペレタイズしたペレットを、クリーンルーム内で空送により25Kg袋に包装した。
[比較例2,4,5,8,9]
上記の各成分について表2に示す配合割合とし、排気タイプの簡易クリーンルーム内で、押し出しダイスに、50メッシュ×3枚、100メッシュ2枚、150メッシュ×1枚を組み合わせて設置した、株式会社石中鉄工所製、機種名HS70の単軸押出機を用いて混練、押出したストランドを、ストランドカッターを使って、ペレタイズした。ペレタイズしたペレットは空送により25Kg袋に包装した。
(1)粘度平均分子量(Mv)
粘度平均分子量は、ISO 1628−4(1999)に準拠して粘度数(VN)を測定し、(式)Mv=430.4VN−2001.8、より算出した。
(2)Q値:流動性
高架式フローテスターを用い、JIS K7210に準拠し、280℃、160kgの圧力下にて、直径1mm、長さ10mmのノズルより流出する溶融樹脂量(10-2mL/秒)を測定した。
(3)異物数
成形前のペレット100gを採取し、ジクロロメタン溶液にて溶かした後に濾過して異物を抽出し、個数とサイズを光学顕微鏡にて測定した。
(4)イエローインデックス(YI):着色性
(4−1)通常成形の試験片
実施例又は比較例で得られたペレットを40トン射出成形機(機種名:EC40N、東芝機械社製)を用い、成形温度350℃で20秒、金型温度80℃で、平板状試験片(40mm×80mm×3.0mm)を成形した。
上記得られた試験片について、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製のU−4100分光光度計)を用い、C光源、2度視野の条件でYI値を測定した。
(4−2)滞留成形の試験片
実施例又は比較例で得られたペレットを40トン射出成形機(機種名:EC40N、東芝機械社製)を用い、シリンダー温度350℃、金型温度80℃にて、平板状試験片(40mm×80mm×3.0mm)を20秒サイクルで20ショット成形した後、150秒サイクルに変更して、最初のショットを0ショット目として、3ショット目(5分後)をサンプリングして上記(4−1)と同様にYI値を測定した。
(4−3)耐湿熱試験後の試験片
上記(4−1)と同様に成形して得られた平板状試験片について、60℃で湿度90%RHの環境下に1000時間放置する、あるいは、85℃で湿度95%RHの環境下に500時間放置する耐湿熱試験を行なった後、それぞれの試験片について上記(4−1)と同様にYI値を測定した。
(5)耐湿熱試験後のクラックの有無
上記(4−1)と同様に成形して得られた平板状試験片について、60℃で湿度90%RHの環境下に1000時間放置する、あるいは、85℃で湿度95%RHの環境下に500時間放置する耐湿熱試験を行なった後、それぞれの試験片について内部クラックの有無を目視で観察し、クラックが無いものを○、クラックがあるものを×とした。
比較例2,4,5,8のビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトを用いた場合では、上記のような過酷な耐湿熱条件では導光板として使用できない程変色してしまい、また比較例9のトリス・2,4−ジ−tert−ブチルフェニルフォスファイトを用いた場合では、340℃程度の高温成形で導光板として使用できない程変色してしまった。また、異物の大きさ及び量によってクラック発生に影響が及ぶことが分かる。
Claims (9)
- 芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、下記一般式(I)で表されるジフォスファイト化合物(B)0.005〜0.5質量部、及び脂環式エポキシ化合物(C)0.001〜0.5質量部を含有し、芳香族ポリカーボネート樹脂換算の粘度平均分子量が10,000〜15,000である、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
(式(I)中、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示し、R3、R6、R9及びR12は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれる基を示し、mは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。) - 前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)が、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、下記一般式(a−1)及び(a−2)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート共重合体0〜150質量部を含有するものである、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
(上記式(a−1)中、R13及びR14は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−S−、−SO−、−SO2−、−O−、−CO−から選ばれる結合を示す。a及びbは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。また、上記(a−2)中、R15及びR16は、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Yは炭素数2〜15の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す。c及びdは、それぞれ独立に0〜4の整数を示し、nは、2〜200の整数を示す。) - 前記ジフォスファイト化合物(B)が、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトである、請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記ジフォスファイト化合物(B)に含まれる残留ナトリウム分が3質量ppm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記脂環式エポキシ化合物(C)が、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート及び/又は2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物である、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、さらに変性シリコーン化合物0.01〜1質量部を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 溶融混練した後のペレット100g当たり、1片50μm以上の異物数が5個以下であり、1片20μm以上50μm未満の異物数が20個以下であり、かつ1片5μm以上20μm未満の異物数が200個以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記ペレットの粘度平均分子量が、芳香族ポリカーボネート樹脂換算で13,000以下である、請求項7に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる光学成形品。
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