[ラテックス]
本発明のラテックスは、フルオレン骨格を有する樹脂粒子(疎水性樹脂粒子)が水性媒体中に分散している。換言すれば、本発明のラテックスは、分散粒子として、フルオレン骨格を有する樹脂で構成された樹脂粒子を含む水性ラテックスである。
(樹脂粒子)
樹脂粒子を構成するフルオレン骨格を有する樹脂(単に樹脂などということがある)は、ラジカル重合性樹脂であってもよいが、通常、縮合系樹脂(縮重合系樹脂)であってもよい。また、樹脂は、通常、熱可塑性樹脂であってもよい。
代表的な樹脂としては、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂、フルオレン骨格を有するポリカーボネート樹脂、フルオレン骨格を有するポリアミド樹脂、フルオレン骨格を有するポリウレタン樹脂などのフルオレン骨格を有する縮合系樹脂(縮合系熱可塑性樹脂)が挙げられる。
樹脂は、どのような態様でフルオレン骨格を含んでいてもよいが、通常、フルオレン骨格を有するモノマーを重合成分とする樹脂であってもよい。フルオレン骨格を有するモノマーとしては、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、フルオレン骨格を有するポリオール(例えば、ジオール)、フルオレン骨格を有するポリアミン(例えば、ジアミン)、フルオレン骨格を有するポリカルボン酸(例えば、ジカルボン酸)、フルオレン骨格を有するポリイソシアネート(例えば、ジイソシアネート)などが挙げられる。例えば、フルオレン骨格を有するジオールは、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などのジオール成分として、フルオレン骨格を有するジカルボン酸は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などのジカルボン酸成分として利用できる。
これらの中でも、フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂が代表的である。以下に、ポリエステル樹脂について詳述する。
[ポリエステル樹脂]
フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂は、フルオレンジカルボン酸(フルオレン−2,7−ジカルボン酸)などを重合成分とするポリエステル樹脂であってもよいが、通常、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂であってもよい。
このようなポリエステル樹脂は、代表的には、ジカルボン酸成分と、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するジオールを含むジオール成分とを重合成分とするポリエステル樹脂であってもよい。
(ジカルボン酸成分)
ジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸成分[例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、これらのエステル形成性誘導体(例えば、C1−2アルキルエステルなどの後述の誘導体など)などの飽和脂肪族ジカルボン酸成分(例えば、C2−12アルカンジカルボン酸成分などのアルカンジカルボン酸成分)など]、脂環族ジカルボン酸成分、芳香族ジカルボン酸成分などが挙げられる。
ジカルボン酸成分は、樹脂粒子における要求性能に応じて適宜選択でき、例えば、複屈折性の観点からは、脂環族ジカルボン酸成分を好適に使用でき、屈折率などの観点からは、芳香族ジカルボン酸成分を好適に使用できる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
脂環族ジカルボン酸成分としては、脂環族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体などが含まれる。脂環族ジカルボン酸としては、例えば、飽和脂環族ジカルボン酸[例えば、シクロアルカンジカルボン酸(例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸)、ジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸(例えば、デカリンジカルボン酸など)など]などが含まれる。エステル形成性誘導体としては、例えば、エステル{例えば、アルキルエステル[例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(例えば、C1−4アルキルエステル、特にC1−2アルキルエステル)など}、酸ハライド(酸クロライドなど)、酸無水物などが挙げられる。
脂環族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。また、脂環族ジカルボン酸成分は、他のジカルボン酸成分(脂肪族ジカルボン酸成分、後述の芳香族ジカルボン酸成分など)と組み合わせてもよい。なお、脂環族ジカルボン酸成分を主成分とする場合、ジカルボン酸成分全体に対する脂環族ジカルボン酸成分の割合は、例えば、50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に90モル%以上であってもよい。
芳香族ジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体(前記例示の誘導体など)などが含まれる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、アレーンジカルボン酸[例えば、ベンゼンジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸;メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸などのC1−4アルキルベンゼンジカルボン酸など)、ナフタレンジカルボン酸(例えば、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸などの同一又は異なる環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸)など]、アリールアレーンジカルボン酸(4,4’−ビフェニルジカルボン酸など)、ジアリールアルカンジカルボン酸(4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸など)、ジアリールケトンジカルボン酸(4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸など)、フルオレン骨格を有するジカルボン酸{例えば、9,9−ビス(カルボキシアルキル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(カルボキシメチル)フルオレンなど]、9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレンなど]、ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7−ジカルボキシフルオレン)、9,9−ジアルキル−ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7−ジカルボキシ−9,9−ジメチルフルオレンなど)など}などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、芳香族ジカルボン酸成分は、多環式芳香族ジカルボン酸成分(ナフタレンジカルボン酸成分など)を含んでいてもよい。芳香族ジカルボン酸成分を多環式芳香族ジカルボン酸成分で構成すると、ポリエステル樹脂の屈折率などを大きくでき、ポリエステル樹脂の光学的特性をより一層向上できる。また、芳香族ジカルボン酸成分を、非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分(例えば、イソフタル酸成分などの前記例示の成分)で構成してもよい。非対称単環式芳香族ジカルボン酸成分を用いると、芳香族ジカルボン酸由来の高屈折率や高耐熱性などの特性を維持しつつ、複屈折性を低下させることができ、さらに、ポリエステル樹脂の吸水性(又は吸湿性)を抑えることもできる。
また、芳香族ジカルボン酸成分は、他のジカルボン酸成分(脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分など)と組み合わせてもよい。なお、ジカルボン酸成分を芳香族ジカルボン酸成分を主成分として構成する場合、ジカルボン酸成分全体に対する芳香族ジカルボン酸成分の割合は、50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に90モル%以上であってもよい。
(ジオール成分)
ジオール成分は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するジオール化合物(単に、フルオレン骨格を有するジオールなどということがある)を少なくとも含んでいる。このようなフルオレン骨格を有するジオールは、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有している限り、フルオレンや、フルオレンの9位に置換したアリール基に、置換基(後述の置換基など)を有していてもよい。
このようなフルオレン骨格を有するジオールは、代表的には、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、R1は置換基を示し、R2はアルキレン基を示し、R3は置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは0以上の整数である。)
上記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環としては、縮合二環式炭化水素(例えば、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素)環などの縮合二乃至四環式炭化水素環などが挙げられる。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。好ましい環Zには、ベンゼン環およびナフタレン環が含まれる。
基R1としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基(後述のR3の項で例示のアルキル基、アリール基など)などの非反応性置換基が挙げられる。なお、kが複数(2以上)である場合、基R1は異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つのベンゼン環に置換する基R1は同一であってもよく、異なっていてもよい。基R1の結合位置は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1である。フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
前記式(1)において、基R2で表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基などのC2−6アルキレン基(特にC2−4アルキレン基)が挙げられる。なお、mが2以上であるとき、アルキレン基は同一又は異なるアルキレン基で構成されていてもよい。また、2つの芳香族炭化水素環Zにおいて、基R2は同一であっても、異なっていてもよく、通常同一であってもよい。オキシアルキレン基(OR2)の数(付加モル数)mは、0以上であればよく、特に1以上[例えば、1〜12(例えば、1〜8)、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2]であってもよい。なお、置換数mは、異なる環Zに対して、同一であっても、異なっていてもよい。
また、前記式(1)において、ヒドロキシル基含有基[すなわち、−O−(R2O)m−H]の置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な置換位置に置換していればよい。例えば、ヒドロキシル基含有基は、環Zがベンゼン環である場合、フェニル基の2〜6位(例えば、フェニル基の3位、4位など)に置換していればよく、好ましくは4位に置換していてもよい。ヒドロキシル基含有基は、環Zが縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位など)に少なくとも置換している場合が多い。
環Zに置換する置換基R3としては、通常、非反応性置換基、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基などのC6−14アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などのC1−8アルコキシ基)などの基−OR4[式中、R4は炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基などC1−8アルキルチオ基など)などの基−SR4(式中、R4は前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
これらのうち、代表的には、基R3は、炭化水素基、−OR4(式中、R4は前記と同じ)、−SR4(式中、R4は前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基であってもよい。
好ましい基R3としては、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。さらに好ましい基R3は、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などである。
なお、同一の環Zにおいて、nが複数(2以上)である場合、基R3は互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、基R3は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、好ましい置換数nは、0〜8、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2であってもよい。なお、異なる環Zにおいて、置換数nは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
具体的なフルオレン骨格を有するジオール(又は前記式(1)で表される化合物)には、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類[又は9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン骨格を有する化合物]、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類[又は9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン骨格を有する化合物]などの前記式(1)においてmが1以上である化合物、これらに対応し、mが0である化合物などが含まれる。
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(1)において、mが1である化合物);9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(1)において、mが2以上である化合物)などが含まれる。
また、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類}などの9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
フルオレン骨格を有するジオールは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
前記ジオール成分は、前記フルオレン骨格を有するジオール(ジオール成分(A1)ということがある)のみで構成してもよく、フルオレン骨格を有するジオールと、脂肪族ジオール成分などの他のジオール成分(非フルオレン系ジオール成分)とを含んでいてもよい。
このような脂肪族ジオール成分(ジオール成分(A2)ということがある)としては、例えば、鎖状脂肪族ジオール[例えば、アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのC2−10アルカンジオール、好ましくはC2−6アルカンジオール、さらに好ましくはC2−4アルカンジオール)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコールなどのジ乃至テトラC2−4アルカンジオールなど)など]、脂環族ジオール[例えば、シクロアルカンジオール(シクロヘキサンジオールなど)、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン(シクロヘキサンジメタノールなど)など]などが挙げられる。これらの脂肪族ジオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
これらのうち、耐熱性や屈折率の点から、脂肪族ジオール成分として、特に、アルカンジオール(例えば、エチレングリコールなどのC2−4アルカンジオール)などの低分子量の脂肪族ジオール成分を好適に使用してもよい。
ジオール成分(A1)と、ジオール成分(A2)(脂肪族ジオール成分)との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=99/1〜50/50、好ましくは95/5〜60/40(例えば、93/7〜65/35)、さらに好ましくは90/10〜70/30(例えば、88/12〜75/25)程度であってもよい。
なお、ジオール成分は、非脂肪族ジオール成分と組み合わせてもよい。このようなジオール成分としては、例えば、芳香族ジオール{例えば、1,4−ベンゼンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C6−10アレーン、ビフェノール、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカンなど]又はそのアルキレンオキシド付加体など}などが挙げられる。他のジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
ジオール成分において、フルオレン骨格を有するジオール(ジオール成分(A1))の割合は、ジオール成分全体に対して、30モル%以上(例えば、40〜100モル%)の範囲から選択できる。特に、ポリエステル樹脂中に高濃度でフルオレン骨格を導入しつつ、効率よく高分子量化するという観点からは、例えば、50モル%以上(例えば、55〜100モル%程度)、好ましくは60モル%以上(例えば、65〜99モル%程度)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば、75〜95モル%程度)であってもよい。
なお、ポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを反応(重合又は縮合)させることにより製造できる。重合方法(製造方法)としては、使用するジカルボン酸成分の種類などに応じて適宜選択でき、慣用の方法、例えば、溶融重合法(ジカルボン酸成分とジオール成分とを溶融混合下で重合させる方法)、溶液重合法、界面重合法などが例示できる。好ましい方法は、溶融重合法である。
フルオレン骨格を有する樹脂(例えば、ポリエステル樹脂などの縮合系樹脂)の数平均分子量は、樹脂の種類にもよるが、熱可塑性樹脂において、例えば、5000〜500000(例えば、7000〜300000)、好ましくは8000〜200000、さらに好ましくは9000〜150000程度であってもよく、通常10000〜100000(例えば、11000〜70000)程度であってもよい。
フルオレン骨格を有する樹脂(例えば、ポリエステル樹脂)又は樹脂粒子の屈折率は、例えば、波長589nmにおいて、1.55以上(例えば、1.56〜1.8程度)、好ましくは1.58以上(例えば、1.59〜1.75程度)、さらに好ましくは1.6以上(例えば、1.61〜1.7程度)であってもよく、通常1.62〜1.75(例えば、1.63〜1.7程度)であってもよい。
また、フルオレン骨格を有する樹脂(例えば、ポリエステル樹脂)又は樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、例えば、100℃以上(例えば、110〜300℃)、好ましくは115℃以上(例えば、115〜250℃)、さらに好ましくは120℃以上(例えば、120〜230℃)程度であってもよい。
なお、樹脂粒子は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、可塑剤、軟化剤、着色剤、分散剤、離型剤、安定化剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤など)、帯電防止剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、結晶核成長剤、充填剤(ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填剤など)、難燃剤、導電剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
フルオレン骨格を有する樹脂は、添加剤との相溶性(又は添加剤の分散性)に優れているためか、添加剤を含む樹脂粒子を効率よく得ることができる。本発明では、このような添加剤を、通常、樹脂粒子に含有させる(特に均一に含有させる)ことができる。そのため、分散液における添加剤の沈殿(又は沈降)や、樹脂粒子表面における付着などを伴うことがなく、後述のように、ナノサイズで均一、さらには、安定な添加剤を含む樹脂粒子(ラテックス粒子)を効率よく得ることができる。なお、フルオレン骨格を有する樹脂は、芳香環(芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環)を有する添加剤であっても、効率よく樹脂粒子中に分散又は含有させることができる。そのため、添加剤は、特に、芳香環(芳香族骨格)を有する添加剤(化合物)であってもよい。また、添加剤は、後述の良溶媒及び/又は貧溶媒に溶解可能であってもよく、特に、良溶媒に溶解可能(良溶媒にのみ溶解可能)であってもよい。さらに、添加剤は、通常、水性媒体に対して不溶性(又は難溶性)であってもよい。
添加剤の割合は、種類に応じて選択すればよく、特に限定されないが、フルオレン骨格を有する樹脂100重量部に対し、0.01〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部程度であってもよい。
特に、樹脂粒子は、添加剤として着色剤(染料、顔料、染顔料、色素)を含んでいてもよい。着色剤は、機能性色素、例えば、近紫外吸収色素、蛍光色素(蛍光染料)、フォトクロミック色素、有機光導電材料(キャリアー生成材料、キャリアー移動材料など)、液晶表示用色素、太陽エネルギー貯蔵材料、レーザー用色素、写真用色素、ジアゾ感光紙用色素、熱変色性色素(示温性色素)、感圧・感熱色素(カラーフォーマー)、昇華転写用色素、トナー用電荷移動剤などであってもよい。着色剤(顔料、染料、色素など)は、水溶性又は疎水性(又は油溶性)であってもよく、通常疎水性であってもよい。
着色剤としては、無機顔料や有機染料などが含まれるが、特に、有機染料(有機顔料)を好適に使用できる。有機染料(有機染顔料)としては、アゾ系染顔料(ピグメントイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、パーマネントレッド、ブリリアントカーミン6Bなど)、フタロシアニン系染顔料(フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなど)、レーキ系染顔料(レーキレッド、ウォッチャンレッドなど)、シアニン系染顔料、カルバゾール系染顔料、ピロメテン系染顔料、アントラキノン系染顔料、ナフトキノン系染顔料、キナクリドン系染顔料、ペリレン系染顔料、ペリノン系染顔料、イソインドリン系染顔料、ジオキサジン系染顔料、スレン系染顔料、有機蛍光染料[例えば、オキサゾール系化合物、スチルベン系化合物、ナフタルイミド系化合物、ベンズイミダゾール系化合物、ローダミン系化合物、チオフェン系化合物、フタル酸系化合物、チアジン系化合物、クマリン系化合物、オキサジン系化合物、スチレンビフェニル系化合物、ピラゾロン系化合物、ジスチリルビフェニル系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾロン系化合物、トリアゾール系化合物、ピリジン系化合物、ピリダジン系化合物、キナクリドン系化合物、オキサシアニン系化合物、カルボスチリル系化合物、メチン系化合物、アゾメチン系化合物、キサンテン系化合物など]などが含まれる。
着色剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
好ましい着色剤には、有機染料(有機系着色剤)が含まれる。有機染料は、フルオレン骨格を有する樹脂に対する分散性又は相溶性に優れており、好適に使用できる。有機染料は、芳香環(芳香族骨格)を有している場合が多いため、このような観点からも好適である。そのため、有機染料は、特に、芳香環(芳香族骨格)を有する着色剤(化合物、有機染料)であってもよい。また、着色剤(特に、有機染料)は、後述の良溶媒及び/又は貧溶媒に溶解可能であってもよく、特に、良溶媒に溶解可能(良溶媒にのみ溶解可能)であってもよい。さらに、着色剤(特に、有機染料)は、通常、水性媒体に対して不溶性(又は難溶性)であってもよい。
着色剤の割合は、フルオレン骨格を有する樹脂100重量部に対し、0.01〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.05〜50重量部、好ましくは0.1〜30重量部程度であってもよい。特に、本発明では、着色剤を樹脂粒子中に均一に分散又は含有できるため、少量であっても、十分な着色効果が得られる。そのため、着色剤の割合は、フルオレン骨格を有する樹脂100重量部に対して、0.01〜40重量部、好ましくは0.05〜30重量部、さらに好ましくは0.1〜20重量部、特に0.5〜15重量部(例えば、1〜12重量部)程度であってもよい。
本発明のラテックスにおいて、フルオレン骨格を有する樹脂粒子は、通常、ナノメータサイズで分散している。樹脂粒子(分散粒子)の個数平均粒子径(個数換算粒度分布から求めた粒子径)は、1000nm以下(例えば、1〜900nm)の範囲から選択でき、例えば、800nm以下(例えば、3〜700nm)、好ましくは600nm以下(例えば、5〜500nm)、さらに好ましくは500nm以下(例えば、10〜400nm)、特に400nm以下(例えば、15〜350nm)程度であってもよく、通常3〜500nm(例えば、5〜450nm、好ましくは10〜400nm、さらに好ましくは20〜350nm、特に30〜300nm)であってもよい。
なお、本発明のラテックスにおいて、粒径のサイズは、樹脂粒子の濃度に応じて変化する場合があるが、上記のようなナノメータサイズである樹脂濃度は、例えば、30重量%以下(例えば、0.1〜30重量%)、好ましくは20重量%以下(例えば、0.2〜20重量%)、さらに好ましくは10重量%以下(例えば、0.3〜10重量%)程度であってもよく、5重量%以下(例えば、0.2〜4重量%、好ましくは0.3〜3重量%)程度であってもよい。なお、ラテックスにおける樹脂粒子濃度が高濃度の場合であっても、上記のような濃度にまで水性媒体で希釈すると、樹脂粒子がナノメータサイズで分散した分散液が得られる。
本発明のラテックスでは、全体的に樹脂粒子が微細化されており、実質的に粗大粒子を含まない場合が多い。例えば、フルオレン骨格を有する樹脂粒子の最大粒子径は、ラテックスにおける樹脂濃度などにもよるが、3000nm以下の範囲から選択でき、2000nm以下(例えば、1800nm以下)、好ましくは1500nm以下(例えば、1300nm以下)、さらに好ましくは1000nm以下(例えば、900nm以下)、特に800nm以下(例えば、700nm以下)、特に好ましくは500nm以下(例えば、400nm以下)であってもよい。
さらに、樹脂粒子は、水性媒体中であるにもかかわらず、微細化されているとともに、粒子径のバラツキが小さく、比較的均一な粒子径を有している。例えば、ラテックスにおいて、樹脂粒子の粒径の変動係数(CV値)は、例えば、50%以下(例えば、1〜45%程度)、好ましくは40%以下(例えば、2〜40%程度)、さらに好ましくは35%以下(例えば、3〜35%程度)、特に30%以下(例えば、5〜29%程度)であってもよく、通常10〜40%(例えば、15〜35%)程度であってもよい。
なお、前記変動係数(CV値)は、下記式
変動係数(%)=(粒子径の標準偏差/数平均粒子径)×100
を用いて算出できる。
本発明のラテックスでは、水性媒体中においても、樹脂粒子の凝集が抑えられており、一次粒子の形態を保持している場合が多い。このような樹脂粒子の形態は、異形状(棒状、扁平状、不定形状など)などであってもよいが、通常、球状(又はほぼ球状)であってもよい。
ラテックスにおいて、樹脂粒子を分散させる水性媒体としては、水、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのC1−4アルカノール)などが挙げられる。これらの水性媒体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。通常、水性媒体は、水を主成分とする水性媒体であってもよく、特に、水(実質的に水のみ)であってもよい。なお、水を主成分とする水性媒体において、水の割合は、水性媒体全体に対して、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であってもよい。
ラテックスにおいて、フルオレン骨格を有する樹脂粒子の割合は、用途などに応じて選択でき、例えば、0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%、さらに好ましくは0.2〜20重量%、特に0.3〜10重量%程度であってもよく、通常0.1〜10重量%(例えば、0.2〜7重量%、好ましくは0.3〜5重量%)程度であってもよい。
なお、ラテックスは、後述するように、通常、フルオレン骨格を有する樹脂粒子を含む分散液(非水性分散液)を経て得られるが、このような分散液由来の溶媒成分(非水性溶媒)の一部がラテックスに残存していてもよい。このような溶媒成分は、樹脂粒子を被覆し、水性媒体中おける樹脂粒子を安定化させる機能を有する(又は分散剤ないし界面活性剤(乳化剤)的な役割を果たす)場合がある。非水性溶媒(又は非水性媒体)としては、後述のフルオレン骨格を有する樹脂に対する良溶媒(環状エーテル類など)及び/又は貧溶媒(ニトリル類などの非水性の貧溶媒)などが挙げられる。
非水性溶媒の割合は、ガスクロマトグラフィー分析におけるガスクロマトグラム面積比で、水性媒体100に対して10以下(例えば、0.01〜7)、好ましくは5以下(例えば、0.05〜4)、さらに好ましくは3以下(例えば、0.1〜2.5)、特に2以下(例えば、0.2〜1.5程度)であってもよい。
また、非水性溶媒の割合は、フルオレン骨格を有する樹脂粒子100重量部に対して、例えば、5重量部以下(例えば、0.01〜4重量部)、好ましくは3重量部以下(例えば、0.05〜2重量部)、さらに好ましくは1重量部以下(例えば、0.1〜0.8重量部)であってもよい。
本発明のラテックスは、樹脂粒子を効率よく水性媒体中に分散させるため、必要に応じて、分散剤又は界面活性剤(乳化剤)を含んでいてもよい。本発明では、前記のように、少量の非水性溶媒がラテックスに残存しているためか、このような分散剤又は界面活性剤を含んでいなくても、安定なラテックスが得られる。そのため、本発明のラテックスは、長期に亘って(例えば、1ヶ月以上)放置(静置)しても、樹脂粒子が沈降(及び/又は凝集)しない。
[樹脂粒子の製造方法]
本発明のラテックスの製造方法は、特に限定されないが、フルオレン骨格を有する樹脂粒子(添加剤を含んでいてもよい樹脂粒子、他においても同じ)が、フルオレン骨格を有する樹脂(又は粒子)に対する良溶媒および貧溶媒で構成された溶媒(溶媒成分)中に分散した分散液において、前記溶媒(溶媒成分)と水性媒体とを置換する溶媒置換工程を経て製造できる。
なお、前記のように、単離した樹脂粒子を、分散剤を用いて水性媒体に分散させる一般的な方法では、本発明のラテックスを製造することは困難である。
前記分散液には、フルオレン骨格を有する樹脂粒子に対する良溶媒および貧溶媒が含まれている。すなわち、貧溶媒を含むことで、フルオレン骨格を有する樹脂は、良溶媒に溶解することなく、分散液において、粒子の形態を保持している。なお、分散液におけるフルオレン骨格を有する樹脂粒子の形態(形状、粒径、粒径分布など)が、前記ラテックスにおける樹脂粒子の形態に反映される場合が多い。そのため、分散液におけるフルオレン骨格を有する樹脂粒子の形状や粒径は前記と同様の範囲から選択できる。例えば、分散液における樹脂粒子は、球状(又はほぼ球状)のナノメータサイズの粒子である場合が多い。
分散液は、通常、フルオレン骨格を有する樹脂を良溶媒に溶解させた溶液と、貧溶媒とを混合することにより得られる。このような溶液と貧溶媒との混合により、良溶媒に溶解していたフルオレン骨格を有する樹脂が、粒子化され(粒子状に析出し)、良溶媒および貧溶媒を含む溶媒中に分散する。
そのため、前記方法は、フルオレン骨格を有する樹脂が良溶媒に溶解した溶液と、貧溶媒と混合し、フルオレン骨格を有する樹脂粒子を良溶媒および貧溶媒で構成された溶媒中に分散(又は生成)させる(フルオレン骨格を有する樹脂粒子が良溶媒および貧溶媒で構成された溶媒中に分散した分散液を得る)粒子生成工程を含んでいてもよい。ここで、溶液と貧溶媒との混合は、溶液に貧溶媒を混合(添加)することによって行ってもよく、貧溶媒に溶液を混合(添加)することにより行ってもよい。特に、ラテックスを効率よく得るためには、分散液は、前者の方法、すなわち、溶液に貧溶媒を添加(混合)することにより、調製することが好ましい。
前記方法において、添加剤を含む樹脂粒子を得る場合、添加剤は、分散液中に存在させることができればよく、通常、良溶媒及び/又は貧溶媒に対して溶解又は分散させることで分散液中に存在させてもよい。通常、添加剤は、少なくとも良溶媒に対して溶解可能である場合が多く、特に、良溶媒(又は良溶媒のみ)に対して溶解可能であってもよい。
添加剤を分散液中に存在させる方法としては、特に限定されないが、例えば、添加剤は、少なくとも良溶媒に溶解させて貧溶媒と混合してもよい。このような場合、予め添加剤をフルオレン骨格を有する樹脂とともに良溶媒に溶解させて貧溶媒と混合してもよく、添加剤が良溶媒に溶解した溶液を別途調製し、フルオレン骨格を有する樹脂が良溶媒に溶解した溶液とともに、貧溶媒と混合してもよい。
なお、溶液に対する貧溶媒の混合は、所定量の貧溶媒が溶液と接触するよう、比較的短時間のうちに行ってもよい。
分散液において、良溶媒としては、樹脂(および添加剤)が溶解する溶媒であれば限定されず、樹脂の種類に応じて選択でき、例えば、環状エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソランなど)、鎖状ケトン類(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどのアルカノン)、ハロゲン系溶媒(例えば、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロアルカン)などの非水性溶媒(水性媒体でない溶媒)が挙げられる。良溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
良溶媒は、比較的低沸点であるのが好ましく、例えば、沸点120℃以下(例えば、35〜110℃)、好ましくは100℃以下(例えば、40〜95℃)、さらに好ましくは90℃以下(例えば、45〜85℃)、特に80℃以下(例えば、50〜75℃)程度であってもよい。特に、良溶媒の沸点は、水性媒体の沸点以下(例えば、水の沸点である100℃以下)であってもよい。このように比較的低沸点の良溶媒を用いることで、蒸留により水性媒体との置換が容易となる。なお、良溶媒は、水と共沸可能であってもよい。
良溶媒の比誘電率(25℃)は、例えば、20以下(例えば、1.5〜18)、好ましくは15以下(例えば、2〜12)、さらに好ましくは10以下(例えば、3〜9)であってもよい。適度な比誘電率を有する良溶媒を用いることで、樹脂の溶解性と水性媒体との親和性を適度に保持できる。なお、良溶媒は、水性媒体(特に水)に対して混和可能であってもよい。
また、良溶媒の粘度(20℃)は、1.8mPa・s以下(例えば、0.1〜1.6mPa・s)、好ましくは1.5mPa・s以下(例えば、0.2〜1.3mPa・s)、さらに好ましくは1.2mPa・s以下(例えば、0.3〜1.1mPa・s)、特に1mPa・s以下(例えば、0.4〜0.8mPa・s)程度であってもよい。このような粘度の良溶媒を用いると、短時間に混合状態が形成され、粒子径のバラツキの小さい粒子を効率よく得やすい。
貧溶媒もまた、樹脂の種類に応じて選択できる。具体的な貧溶媒としては、例えば、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなど)などの他、前記例示の水性媒体(水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)などが含まれる。貧溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、前記のように、貧溶媒は、添加剤を溶解可能であってもよく、特に、添加剤を溶解しない溶媒であってもよい。
貧溶媒は、比較的低沸点であるのが好ましく、例えば、非水性の貧溶媒の沸点は120℃以下(例えば、40〜110℃)、好ましくは100℃以下(例えば、45〜98℃)、さらに好ましくは95℃以下(例えば、50〜95℃)、特に90℃以下(例えば、55〜85℃)程度であってもよい。特に、貧溶媒の沸点は、水性媒体の沸点以下(例えば、水の沸点である100℃以下)であってもよい。このように比較的低沸点の貧溶媒を用いることで、蒸留により水性媒体との置換が容易となる。なお、貧溶媒(非水性の貧溶媒)は、水と共沸可能であってもよい。
水を除く貧溶媒の比誘電率(25℃)は、例えば、15〜60(例えば、22〜55)、好ましくは25〜50(例えば、27〜47)、さらに好ましくは30〜45(例えば、35〜40)程度であってもよい。なお、貧溶媒は、水性媒体(特に水)に対して混和可能であってもよい。
また、貧溶媒の粘度(20℃)は、2.5mPa・s以下(例えば、0.1〜2.5mPa・s)、好ましくは2mPa・s以下(例えば、0.2〜2.2mPa・s)、さらに好ましくは1.8mPa・s以下(例えば、0.25〜1.5mPa・s)、特に1.3mPa・s以下(例えば、0.3〜1.2mPa・s)程度であってもよい。
フルオレン骨格を有する樹脂(又は樹脂粒子)の割合は、良溶媒100重量部に対して、0.1〜30重量部(例えば、0.5〜20重量部)、好ましくは1〜15重量部(例えば、1.5〜12重量部)、さらに好ましくは2〜10重量部(例えば、3〜8重量部)程度であってもよい。
貧溶媒の割合は、フルオレン骨格を有する樹脂(又は樹脂粒子、添加剤を含む場合にはフルオレン骨格を有する樹脂および添加剤の総量、他においても同じ)および良溶媒の総量(又は溶液)1重量部に対して、0.5重量部以上(例えば、0.7〜30重量部)の範囲から選択でき、例えば、1重量部以上(例えば、1.2〜20重量部)、好ましくは1.5重量部以上(例えば、1.7〜15重量部)、さらに好ましくは2重量部以上(例えば、2.5〜10重量部)程度であってもよく、通常1.5〜10重量部(例えば、2〜8重量部、好ましくは2.5〜5重量部)程度であってもよい。なお、貧溶媒の量が少なすぎると、樹脂粒子の一部が良溶媒に溶解(再溶解)して樹脂粒子の生成効率を低下させる場合があり、多すぎると水性媒体への溶媒置換に長時間を要し、作業性を低下させる場合がある。
また、貧溶媒の割合は、フルオレン骨格を有する樹脂(又は樹脂粒子)1重量部に対して、例えば、3重量部以上(例えば、5〜500重量部)、好ましくは10重量部以上(例えば、15〜400重量部)、さらに好ましくは20重量部以上(例えば、25〜300重量部)程度であってもよく、通常20〜200重量部(例えば、30〜150重量部、好ましくは40〜120重量部)程度であってもよい。
溶液と貧溶媒との混合は、通常、撹拌下(撹拌力又は撹拌剪断力の存在下)で行ってもよい。撹拌において、攪拌手段の回転数(回転速度)は、例えば、30rpm以上(例えば、40〜10000rpm)、好ましくは50rpm以上(例えば、70〜7000rpm)、さらに好ましくは100rpm以上(例えば、150〜5000rpm)程度であってもよい。
溶媒置換工程では、上記のようにして得られた分散液における溶媒成分と、水性媒体とを置換する。溶媒成分と水性媒体との置換方法は、特に限定されないが、通常、分散液における樹脂粒子の形態を効率よく保持させるため、分散液から前記溶媒成分(少なくとも良溶媒を含む溶媒成分)を除去(分離)しつつ分散液に水性媒体を添加し、分散液中の溶媒成分を水性媒体に置換する方法であってもよい。
なお、溶媒成分における貧溶媒が水性媒体(水など)で構成されている場合、分散液から良溶媒のみを分離除去することにより、水性媒体で置換してもよく、貧溶媒としての水性媒体を良溶媒とともに除去してもよい。また、溶媒成分は、ラテックスとしての特性を害しない範囲であれば、一部を分離することなく残存させてもよい。例えば、前記のように、一部残存した溶媒成分は、分散剤的に作用し、ラテックスにおける樹脂粒子を安定化させる場合がある。また、前記のように、貧溶媒が水性媒体である場合には、良溶媒を添加する水性媒体で置換するような形態で分離し、貧溶媒自体はその一部又は全部を分散液から分離することなく残存させてもよい。
溶媒成分(少なくとも良溶媒)は、特に限定されないが、例えば、蒸発又は揮発により除去してもよい。代表的な溶媒置換工程では、分散液を蒸留しつつ、分散液に水性媒体を添加してもよい。このような蒸発により溶媒成分を分離する場合、溶媒成分の沸点を水性媒体の沸点以下とすると、効率よく溶媒成分を分離しやすい。
溶媒置換工程では、前記分散液における樹脂粒子の形態を効率よく保持させるため、溶媒置換工程において(工程全体に亘って)、樹脂粒子の濃度を大きく変動させたり、良溶媒の割合が大きくなりすぎないように調整しつつ、溶媒置換してもよい。例えば、分散液中のフルオレン骨格を有する樹脂(又は樹脂粒子)の割合は、溶媒置換工程において(又は溶媒置換工程全体に亘って)、0.05〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%、さらに好ましくは0.2〜20重量%、特に0.3〜10重量%程度に保持してもよい。また、溶媒置換工程において、分散液中のフルオレン骨格を有する樹脂(又は樹脂粒子)の割合を、良溶媒100重量部に対して、50重量部以下(例えば、30重量部以下)、好ましくは20重量部以下(例えば、15重量部以下)、さらに好ましくは10重量部以下(例えば、8重量部以下)に保持してもよい。
蒸発(蒸留)は、溶媒成分(特に、良溶媒)の沸点に応じて適宜選択でき、加熱下で行ってもよく、減圧下で行ってもよく、加熱および減圧下で行ってもよい。例えば、常圧下で蒸発させる場合には、分散液の加熱温度(蒸留温度)は、溶媒成分(特に、良溶媒)の沸点以上の温度(および水性媒体の沸点以下の温度)であってもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、「OKP4」)を5重量%の割合で含むテトラヒドロフラン(THF)溶液50gに、アセトニトリル150gを室温にて混合攪拌(モータの回転速度200rpm)して樹脂粒子を含む分散液を作製した。
そして、得られた樹脂粒子分散THF・アセトニトリル混合液を3つ口フラスコに入れてマントルヒータで加熱することにより、THF及びアセトニトリルを蒸発させた。この際、同時に水を添加し、樹脂粒子分散濃度がほぼ一定になるように、樹脂粒子を溶媒から取り出すことなく、水性溶媒分散処理をした。
液温度及び蒸気温度が100℃付近で安定したところで加熱を停止して水置換を完了させた。そのまま室温まで放冷して樹脂粒子が分散した水性分散液を得た。残留有機溶剤量を確認したところ、水に対するTHF量およびアセトニトリル量は、いずれもガスクロマトグラム面積比(ガスクロマトグラフィーで確認)で1%であり、樹脂粒子100重量部に対して0.5重量部であった。
図1にラテックスにおける樹脂粒子のSEM写真を示す。SEM写真から明らかなように、ナノメータサイズでかつ球状(又はほぼ球状)の粒子が水に分散した分散液が得られていることがわかる。粒度分布を動的光散乱法(日機装株式会社製ナノトラック粒度分布測定装置 UPA−EX150)により測定したところ、個数換算粒度分布から求めた平均粒子径は樹脂濃度1重量%で41nm、同10重量%では173nmであった。なお、粒度分布などの測定においては、分散液中の樹脂濃度を適宜水により希釈して測定した。図2に樹脂濃度0.1重量%における粒度分布データ図を示す。
なお、水性分散液(樹脂粒子濃度0.58重量%)を1ヶ月静置した後においても、樹脂粒子の沈降は認められず、安定なラテックスを形成していた。
また、水性分散液(樹脂粒子濃度0.58重量%)を、そのまま、市販のインクジェットプリンタ(エプソン製、EP−302)のインクカートリッジに白インクとして充填し、印刷試験を行ったところ、目詰まり等の不具合は生じず良好な印刷パターンを得た。印刷パターンでは、樹脂粒子の屈折率が大きいため、光散乱が大きく、下地が透けることなく白で覆うことができた。
(実施例2)
実施例1において、アセトニトリルを150gにかえて100g用いたこと以外は、実施例1と同様にして、分散液およびラテックスを得た。得られた水性分散液において、樹脂粒子の粒径および安定性は実施例1と同様であり、印刷パターンも良好であった。
(実施例3)
実施例1において、アセトニトリルを150gにかえて200g用いたこと以外は、実施例1と同様にして、分散液およびラテックスを得た。得られた水性分散液において、樹脂粒子の粒径および安定性は実施例1と同様であり、印刷パターンも良好であった。
(参考例1)
アセトニトリル150gの代わりに蒸留水150gを用いたこと以外は実施例1と同様にして水性分散液を得た。残留有機溶剤量を確認したところ、水に対するTHF量はガスクロマトグラム面積比(ガスクロマトグラフィーで確認)で1%であり、樹脂粒子100重量部に対して0.5重量部であった。そして、実施例1と同じ要領でSEM観察及び粒度分布測定を行った。SEM写真を図3に、樹脂濃度0.1重量%における粒度分布を図4に示す。SEM写真から明らかなように、ナノメータサイズでかつ球状(又はほぼ球状)の粒子が水に分散した分散液が得られていることがわかる。粒子径は樹脂濃度0.1重量%で100〜500nm(個数換算粒度分布から求めた平均粒子径190nm)、1重量%で100〜800nm(個数換算粒度分布から求めた平均粒子径380nm)であった。
なお、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.58重量%)を1ヶ月静置した後においても、樹脂粒子の沈降は認められなかった。
また、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.58重量%)について、実施例1と同様の印刷試験を行ったところ、目詰まり等の不具合は生じず良好な印刷パターンを得た。
(参考例2)
特開2009−256669号公報の実施例5と同様の方法にて、樹脂粒子を得た。すなわち、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、「OKP4」)を10重量%の割合で含むTHF/アセトン混合溶液[THF/アセトン(重量比)=10/7]を作製した。そして、樹脂溶液の20倍体積量のメタノール中に、シリンジを用いてこの混合用液を滴下注入し、乳濁液を得た。得られた乳濁液を濾過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄、その後乾燥させて樹脂粒子粉末を得た。図5に得られた粉末のSEM写真を示す。
そして、得られた粉末を分散剤(花王(株)製、アミート105)とともに水に加えて超音波ホモジナイザーで分散処理して、粒子分散処理を行ったが、直ちに沈降物が見られた。得られた水分散液の上澄みの粒度分布を図6に示す。
また、得られた分散液の沈降物をステンレスメッシュでろ別した分散液部分を用い、実施例1と同様の印刷試験を試みた。しかし、沈降物を除去しても、印刷試験開始直後から、目詰まりして、印刷パターンを得ることはできなかった。
(実施例5)
実施例1において、THF溶液に代えて、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を5重量%および青色染料(日本化薬(株)製、「Kayaset Blue A−2R」、アントラキノン系染料、THFに可溶)を0.1重量%の割合で含むTHF溶液50gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂粒子が分散した水性分散液を得た。なお、水性分散液において、樹脂粒子は均一に着色しており、付着物や沈降物は存在しなかった。
そして、実施例1と同じ要領でSEM観察及び粒度分布測定を行った。図7に樹脂粒子のSEM写真を示す。SEM写真からも明らかなように、染料を含むナノメータサイズでかつ球状(又はほぼ球状)の粒子が水に分散した分散液が得られていることがわかる。また、粒度分布測定から、実施例1と粒径及び粒度分布にほとんど変化がなく、ナノメータサイズを保持していることを確認した。なお、SEM写真から測定した粒径は60〜240nm(個数換算粒度分布から求めた平均粒子径は130nm、変動係数は28.2%)であった(実施例1において、SEM写真から測定した樹脂粒子の粒径は80〜360nm、平均粒子径は150nm、変動係数は31.3%であった)。
なお、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.68重量%)を1ヶ月静置した後においても、樹脂粒子の沈降は認められなかった。
また、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.68重量%)について、実施例1と同様の印刷試験を行ったところ、目詰まり等の不具合は生じず良好な印刷パターンを得た。
(実施例6)
実施例1において、THF溶液に代えて、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を5重量%および青色染料(日本化薬(株)製、「Kayaset Blue A−2R」、アントラキノン系染料、THFに可溶)を0.25重量%の割合で含むTHF溶液50gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂粒子が分散した水性分散液を得た。なお、水性分散液において、樹脂粒子は均一に着色しており、付着物や沈降物は存在しなかった。
そして、実施例1と同じ要領でSEM観察及び粒度分布測定を行った。図8に樹脂粒子のSEM写真を示す。SEM写真からも明らかなように、染料を含むナノメータサイズでかつ球状(又はほぼ球状)の粒子が水に分散した分散液が得られていることがわかる。また、粒度分布測定から、実施例1と粒径及び粒度分布にほとんど変化がなく、ナノメータサイズを保持していることを確認した。なお、SEM写真から測定した粒径は80〜360nm(個数換算粒度分布から求めた平均粒子径は150nm、変動係数は32.2%)であった。
なお、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.68重量%)を1ヶ月静置した後においても、樹脂粒子の沈降は認められなかった。
また、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.68重量%)について、実施例1と同様の印刷試験を行ったところ、目詰まり等の不具合は生じず良好な印刷パターンを得た。
(実施例7)
実施例1において、THF溶液に代えて、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を5重量%および青色染料(日本化薬(株)製、「Kayaset Blue A−2R」、アントラキノン系染料、THFに可溶)を0.5重量%の割合で含むTHF溶液50gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂粒子が分散した水性分散液を得た。なお、水性分散液において、樹脂粒子は均一に着色しており、付着物や沈降物は存在しなかった。
そして、実施例1と同じ要領でSEM観察及び粒度分布測定を行った。図9に樹脂粒子のSEM写真を示す。SEM写真からも明らかなように、染料を含むナノメータサイズでかつ球状(又はほぼ球状)の粒子が水に分散した分散液が得られていることがわかる。また、粒度分布測定から、実施例1と粒径及び粒度分布にほとんど変化がなく、ナノメータサイズを保持していることを確認した。なお、SEM写真から測定した粒径は70〜310nm(個数換算粒度分布から求めた平均粒子径は153nm、変動係数は27.3%)であった。
なお、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.68重量%)を1ヶ月静置した後においても、樹脂粒子の沈降は認められなかった。
また、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.68重量%)について、実施例1と同様の印刷試験を行ったところ、目詰まり等の不具合は生じず良好な印刷パターンを得た。
(実施例8)
実施例1において、THF溶液に代えて、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル樹脂を5重量%および黒色染料(日本化薬(株)製、「Kayaset Black A−N」、アントラキノン系染料、THFに可溶)を0.1重量%の割合で含むTHF溶液50gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂粒子が分散した水性分散液を得た。なお、水性分散液において、樹脂粒子は均一に着色しており、付着物や沈降物は存在しなかった。
そして、実施例1と同じ要領でSEM観察及び粒度分布測定を行った。図10に樹脂粒子のSEM写真を示す。SEM写真からも明らかなように、染料を含むナノメータサイズでかつ球状(又はほぼ球状)の粒子が水に分散した分散液が得られていることがわかる。また、粒度分布測定から、実施例1と粒径及び粒度分布にほとんど変化がなく、ナノメータサイズを保持していることを確認した。なお、SEM写真から測定した粒径は60〜360nm(個数換算粒度分布から求めた平均粒子径は152nm、変動係数は32.3%)であった。
なお、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.68重量%)を1ヶ月静置した後においても、樹脂粒子の沈降は認められなかった。
また、得られた水性分散液(樹脂粒子濃度0.68重量%)について、実施例1と同様の印刷試験を行ったところ、目詰まり等の不具合は生じず良好な印刷パターンを得た。