JP5924214B2 - Ito粉末及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、低い圧力で圧粉体にしたときに高い導電性を示す表面改質したITO粉末及びその製造方法に関するものである。本明細書において、ITOとはインジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide)をいう。
ITOは、Inに錫(Sn)をドープした化合物であり、1020〜1021cm−3の高いキャリア濃度を有し、スパッタリング法等の気相法で成膜したITO膜では、1×10−4Ωcm程度の低い抵抗率が得られる。このITOから作られたITO膜は、可視光領域で高い透明性を有している(例えば、特許文献1参照。)。このためITO膜は、液晶ディスプレーの透明電極(例えば、特許文献2参照。)や、熱線遮断効果の高い熱線遮蔽材料(例えば、特許文献3参照。)などの優れた光学特性を求められる分野に多く用いられている。このITO膜の成膜方法として、コストが高い真空蒸着法やスパッタリング法などの物理的成膜法に代わって、簡便な塗布による成膜法が検討されている(例えば、特許文献4参照。)。
特開2009−032699号公報(段落[0009]) 特開2005−054273号公報(段落[0006]) 特開2011−116623号公報(段落[0002]) 特開2011−034708号公報(段落[0002])
ITO膜を成膜する方法として塗布型の成膜方法は、材料の利用効率及び生産性が高く、屈曲性に優れ、塗布する基板に制限が少ない利点を有する。しかしその反面、物理型成膜方法に比べて、粒子自体の導電性が低く、粒子同士の接触抵抗が高いために、導電性が低い欠点があった。
本発明の目的は、塗布型でITO膜を成膜したときの抵抗率を低くして高い導電性を得ることができるITO粉末及びその製造方法を提供することにある。
本発明の第1の観点は、表面改質したITO粉末であって、前記ITO粉末からなる圧粉体に0.196〜29.42MPa(2〜300kgf/cm2)の圧力を加えたときの前記圧粉体の体積抵抗率をYとし前記圧粉体の相対密度をXとする場合、前記体積抵抗率と前記相対密度の関係が、最小二乗法により、下記の式(1)で近似され、この式(1)においてaが5.0×10-3以下であり、かつnが−10以上であることを特徴とするITO粉末である。
Y=aXn (1)
また本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、3価インジウム化合物と4価錫化合物の混合水溶液にアルカリ水溶液を混合して、インジウムと錫の共沈水酸化物を生成する工程と、前記沈殿物を純水又はイオン交換水で洗浄する工程と、前記沈殿物の上澄み液を捨ててインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを調製する工程と、前記スラリーを乾燥する工程と、前記乾燥したインジウム水錫酸化物を焼成してインジウム錫酸化物を得る工程とを含むITO粉末を製造する方法の改良である。その特徴ある点は、前記洗浄工程で、前記上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、前記スラリーの調製工程で、前記水酸化物粒子の濃度が10〜30質量%の範囲になるように前記上澄み液を捨てたスラリーを水で希釈した後、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ポリビニルアルコール又はオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートである有機保護剤を前記スラリーに前記水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、前記有機保護剤が表面に吸着したインジウム錫水酸化物を乾燥した後、前記焼成工程で、大気中250〜800℃の範囲で0.5〜6時間焼成炉にて焼成し、前記焼成工程の後で、焼成したITO粉末の凝集体を粉砕し、この粉砕されたITO粉末を表面処理液に含浸した後、窒素ガス雰囲気下、200〜400℃の範囲で0.5〜5時間加熱することにある。
また本発明の第の観点は、第1の観点に基づく発明であって、3価インジウム化合物と4価錫化合物の混合水溶液にアルカリ水溶液を混合して、インジウムと錫の共沈水酸化物を生成する工程と、前記沈殿物を純水又はイオン交換水で洗浄する工程と、前記沈殿物の上澄み液を捨ててインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを調製する工程と、前記スラリーを乾燥する工程と、前記乾燥したインジウム水錫酸化物を焼成してインジウム錫酸化物を得る工程とを含むITO粉末を製造する方法の改良である。その特徴ある点は、前記洗浄工程で、前記上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、前記スラリーの調製工程で、前記水酸化物粒子の濃度が10〜30質量%の範囲になるように前記上澄み液を捨てたスラリーを水で希釈した後、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ポリビニルアルコール又はオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートである有機保護剤を前記スラリーに前記水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、前記乾燥工程で、前記有機保護剤を添加したインジウム錫水酸化物が分散したスラリーを乾燥し、前記焼成工程で、大気中で2.45GHz〜28GHzのマイクロ波で250〜800℃の範囲で、10分以内で目的温度に達する速度で昇温した後、前記目的温度で5〜120分の範囲保持することにより加熱焼成し、前記焼成工程の後で、焼成したITO粉末の凝集体を粉砕し、この粉砕されたITO粉末を表面処理液に含浸した後、窒素ガス雰囲気下、200〜400℃の範囲で0.5〜5時間加熱することにある。
また本発明の第の観点は、第1の観点に基づく発明であって、3価インジウム化合物と4価錫化合物の混合水溶液にアルカリ水溶液を混合して、インジウムと錫の共沈水酸化物を生成する工程と、前記沈殿物を純水又はイオン交換水で洗浄する工程と、前記沈殿物の上澄み液を捨ててインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを調製する工程と、前記スラリーを乾燥する工程と、前記乾燥したインジウム水錫酸化物を焼成してインジウム錫酸化物を得る工程とを含むITO粉末を製造する方法の改良である。その特徴ある点は、前記洗浄工程で、前記上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、前記スラリーの調製工程で、前記水酸化物粒子の濃度が1〜5質量%の範囲になるように前記上澄み液を捨てたスラリーをアルコールで希釈した後、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ポリビニルアルコール又はオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートである有機保護剤を前記スラリーに前記水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、前記前記焼成工程で、前記アルコールで希釈され前記有機保護剤を添加したインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを250〜800℃の範囲に加熱した管状炉の内部に、窒素ガスを線速度0.5〜5m/sの範囲で流通させている状態で、噴霧することによりインジウム錫水酸化物粒子を前記管状炉内で熱分解して焼成しインジウム錫酸化物粒子を得ることにある。
本発明の第の観点は、第の観点に基づく発明であって、前記アルコールがエタノール、メタノール又はプロパノールであるITO粉末の製造方法である。
また本発明の第の観点は、第1の観点のITO粉末又は第2ないし第のいずれか1つの方法により製造されたITO粉末を溶媒に分散させて分散液を製造する方法である。
更に本発明の第の観点は、第の観点の分散液からITO膜を製造する方法である。
本発明の第1の観点のITO粉末は、ITO粉末からなる圧粉体に0.196〜29.42MPa(2〜300kgf/cm)の圧力を加えたときの前記圧粉体の体積抵抗率をYとし前記圧粉体の相対密度をXとする場合に、上記式(1)に近似し、式(1)におけるaが5.0×10−3以下であり、かつnが−10以上であるため、このITO粉末を用いて塗布型でITO膜を成膜したときの抵抗率を低くして高い導電性を得ることができる。
また本発明の第2の観点のITO粉末の製造方法では、洗浄工程で、上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、スラリーの調製工程で、水酸化物粒子の濃度が10〜30質量%の範囲になるように上澄み液を捨てたスラリーを水で希釈した後、有機保護剤を前記スラリーに前記水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、焼成工程の後で、焼成したITO粉末の凝集体を粉砕し、この粉砕されたITO粉末を表面処理液に含浸した後、窒素ガス雰囲気下、200〜400℃の範囲で0.5〜5時間加熱する。水酸化物粒子が分解温度の比較的高い有機保護剤で被包されるため、焼成過程でITO粒子同士の接触が阻止され粒成長しにくくなる。この有機保護剤は焼成により最終的に熱分解する。これによりITO粉末の表面が改質され、このITO粉末を用いて塗布型でITO膜を成膜したときの抵抗率を低くして高い導電性を得ることができる。
また本発明の第4の観点のITO粉末の製造方法では、洗浄工程で、上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、スラリーの調製工程で、水酸化物粒子の濃度が10〜30質量%の範囲になるように上澄み液を捨てたスラリーを水で希釈した後、有機保護剤を前記スラリーに前記水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、乾燥工程で、有機保護剤を添加したインジウム錫水酸化物が分散したスラリーを乾燥し、焼成工程で、大気中で2.45GHz〜28GHzのマイクロ波で加熱焼成し、焼成工程の後で、焼成したITO粉末の凝集体を粉砕し、この粉砕されたITO粉末を表面処理液に含浸した後、窒素ガス雰囲気下、200〜400℃の範囲で0.5〜5時間加熱する。水酸化物粒子が分解温度の比較的高い有機保護剤で被包されるため、焼成過程でITO粒子同士の接触が阻止され粒成長しにくくなる。この有機保護剤は焼成により最終的に熱分解する。これによりITO粉末の表面が改質され、このITO粉末を用いて塗布型でITO膜を成膜したときの抵抗率を低くして高い導電性を得ることができる。
更に本発明の第6の観点のITO粉末の製造方法では、洗浄工程で、上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、スラリーの調製工程で、水酸化物粒子の濃度が1〜5質量%の範囲になるように上澄み液を捨てたスラリーをアルコールで希釈した後、有機保護剤を前記スラリーに水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、前記焼成工程で、アルコールで希釈され有機保護剤を添加したインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを250〜800℃の範囲に加熱した管状炉の内部に、窒素ガスを線速度0.5〜5m/sの範囲で流通させている状態で、噴霧することによりインジウム錫水酸化物粒子を管状炉内で熱分解して焼成しインジウム錫酸化物粒子を得る。水酸化物粒子が分解温度の比較的高い有機保護剤で被包されるため、焼成過程でITO粒子同士の接触が阻止され粒成長しにくくなる。この有機保護剤は焼成により最終的に熱分解する。これによりITO粉末の表面が改質され、このITO粉末を用いて塗布型でITO膜を成膜したときの抵抗率を低くして高い導電性を得ることができる。
ITO粉末の圧粉体の抵抗率を測定する装置の模式図である。 ITO粉末の圧粉体の相対密度とその抵抗率との関係を示す図である。
次に本発明を実施するための形態を説明する。
ITO粉末の抵抗率は、このITO粉末から作られるITO膜の特性を評価するうえで重要な指標である。特にITO膜を導電性シートや電極として使用する場合には、高い導電性、即ち低い抵抗率が求められる。このITO粉末の抵抗率は、ITO粉末を圧粉体の形態にしたうえで、その体積抵抗率を測定することにより求められる。一方、圧粉体の体積抵抗率は印加する圧力によって変化する。従って、ある決められた圧力における圧粉体の体積抵抗率は一応の目安にはなる。しかしながら、ITO粉末の粒径、形状、凝集状態によって同じ圧力でも充填密度が大きく変化し、それに従って抵抗率も変化してしまう。このため、低い圧力から高い圧力に変化させてITO粉末の圧粉体の相対密度を変化させた状態で、体積抵抗率を求めて、それをITO粉末の抵抗率とすれば、より精度良いITO粉末の抵抗率が求められる。本発明はこうした知見に基づいてなされたものである。
本発明のITO粉末は、表面改質したITO粉末であって、このITO粉末からなる圧粉体に0.196〜29.42MPa(2〜300kgf/cm2)の圧力を加えたときの前記圧粉体の体積抵抗率をYとし前記圧粉体の相対密度をXとする場合、前記体積抵抗率と前記相対密度の関係が、最小二乗法により、下記の式(1)で近似され、この式(1)においてaが5.0×10-3以下であり、かつnが−10以上である。
Y=aXn (1)
この式は、表面改質した体積抵抗率が低いITO粉末を圧粉体の状態で測定した結果に基づいて、導き出したものである。上記aが5.0×10−3を超えると、塗布膜の導電性が低下する不具合があり、nが−10未満になると、相対密度に対する抵抗の変化が大きくなり、粒子のスプリングバックによる膜の導電性が経時的に低下しやすい不具合がある。
本発明のITO膜の製造に用いられるITO粉末は、以下の3つの方法で製造された表面改質処理したITO粉末である。表面改質処理することによってこのITO粉末を用いて製造されたITO膜の導電性を上げることができる。
(1)第1の製造方法
ITO粉末は、3価インジウム化合物と4価錫化合物の混合水溶液にアルカリ水溶液を混合して、インジウムと錫の共沈水酸化物を生成し、この沈澱を乾燥し、焼成した後、得られたインジウム錫酸化物を粉砕することにより得られる。3価インジウム化合物としては3塩化インジウム(InCl)、硝酸インジウム(In(NO))、酢酸インジウム(In(CHCOO))などが挙げられ、4価錫化合物としては、4塩化錫(SnCl)水溶液、臭化スズ(SnBr)などが挙げられる。アルカリ水溶液としてはアンモニア(NH)水、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)水などが挙げられる。インジウムと錫の水酸化物を共沈させるときの反応液の最終pHを3.5〜9.3、好ましくはpH5.0〜8.0、液温を5℃以上、好ましくは液温10℃〜80℃に調整することによって、インジウム錫の共沈水酸化物を沈澱させることができる。アルカリ水溶液の混合は、上記混合水溶液にアルカリ水溶液を滴下し、上記pH範囲に調整しながら行われるか、或いは上記混合水溶液とアルカリ水溶液とを同時に水に滴下し、上記pH範囲に調整しながら行われる。
上記共沈インジウム錫水酸化物の生成後、この沈殿物を純水又はイオン交換水で洗浄し、上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cm、好ましくは少なくとも50000Ω・cmになるまで洗浄する。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cmより低いと塩素等の不純物が十分に除去されておらず、高純度のインジウム錫酸化物粉末を得ることができない。抵抗率が5000Ω・cm以上となった上記沈殿物の上澄み液を捨て、インジウム錫水酸化物粒子が分散した粘度の高いスラリーを得る。水酸化物粒子の濃度が10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%の範囲になるようにこのスラリーを純水又はイオン交換水で希釈した後、水酸化物粒子表面に吸着してこの粒子の分散性を向上させるための有機保護剤をスラリーに撹拌しながら添加する。上記希釈範囲が下限値未満ではスラリーの乾燥に時間がかかる不具合があり、上限値を超えるとスラリーの粘度が高い状態で有機保護剤を混合することになり有機保護剤の混合が不十分になる不具合がある。この有機保護剤の添加量は、水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲である。この有機保護剤は、熱分解後のITO粉末の焼結を抑制する観点から、有機保護剤の分解温度が250〜500℃の範囲にあることが好ましい。この有機保護剤としては、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ポリビニルアルコール又はオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートなどが挙げられる。有機保護剤の添加量が上記範囲の下限値未満では水酸化物粒子表面の保護が十分に行われず、粒子の分散性に劣る。また上限値を超えると、有機物の一部や有機物由来の炭素分が残留する不具合を生じる。
有機保護剤が表面に吸着したインジウム錫水酸化物を、大気中、好ましくは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、100〜200℃の範囲で2〜24時間乾燥した後、大気中250〜800℃の範囲で0.5〜6時間焼成炉にて焼成する。この焼成により形成された凝集体をハンマーミルやボールミルなどを用いて粉砕してほぐし、ITO粉末を得る。このITO粉末を50〜95質量%の無水エタノールと5〜50質量%の蒸留水を混合した表面処理液に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、200〜400℃の範囲で0.5〜5時間加熱すると、表面改質処理したITO粉末が得られる。
(2)第2の製造方法
第1の製造方法とはスラリーの固液分離方法と加熱焼成方法が異なる。先ず、第1の製造方法で得られた有機保護剤を添加したインジウム錫水酸化物が分散したスラリーを乾燥する。この乾燥方法の一例として、スラリーを加圧ポンプでフィルタープレス内に圧入して水酸化物のスラッジケーキを得、このケーキを乾燥する。次いで乾燥物を、大気中で2.45GHz〜28GHzのマイクロ波で加熱焼成する。このマイクロ波加熱処理は、例えば上記ケーキをシーエムシー技術開発株式会社製の電子レンジに充填し、四国計測工業製のμ−reactorの2.45GHzのマイクロ波加熱処理を用いて行う。
マイクロ波加熱は250〜800℃、好ましくは350〜600℃の範囲で、10分以内で目的温度に達する速度で昇温して行われ、焼成は目的温度で5〜120分、好ましくは10〜60分の範囲保持することにより行われる。加熱温度が下限値未満では水酸化物が酸化物に分解し切らない不具合があり、上限値を超えるとITO粒子が粗大化する不具合がある。目的温度までの昇温時間が10分を超えると急速昇温の効果が消える不具合がある。目的温度での保持時間が下限値未満では水酸化物が酸化物に分解し切らない不具合があり、上限値を超えるとITO粒子が粗大化する不具合がある。焼成物をハンマーミルやボールミルなどを用いて粉砕してほぐし、ITO粉末を得る。以下、第1の製造方法と同様にして、表面改質処理したITO粉末を得る。
(3)第3の製造方法
第1及び第2の製造方法とはインジウム錫水酸化物を焼成した後にインジウム錫酸化物の粉砕を要しない点で異なる。
第1の製造方法で得られたインジウム錫水酸化物粒子が分散した粘度の高いスラリーを水酸化物粒子の濃度が1〜5質量%、好ましくは1〜3質量%の範囲になるようにアルコールで希釈し、水酸化物粒子表面に吸着してこの粒子の分散性を向上させるための有機保護剤をスラリーに撹拌しながら添加する。この有機保護剤の添加量は、水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲である。上記希釈範囲及び上記有機保護剤の添加量範囲の各下限値及び各上限値を規定した理由は、第1の製造方法と同じである。この有機保護剤は、熱分解後のITO粉末の焼成を抑制する観点から、有機保護剤の分解温度が250〜500℃の範囲にあることが好ましい。このアルコールとしては、エタノール、プロパノール又はメタノールなどが挙げられ、有機保護剤としては、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ポリビニルアルコール又はオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートなどが挙げられる。
アルコールで希釈され有機保護剤を添加したインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを、管の長手方向を鉛直にして配置した、250〜800℃の範囲に加熱した管状炉の内部に、キャリアガスである窒素ガスを線速度0.5〜5m/sの範囲で流通させている状態で、二流体ノズルを用いて、噴霧し、窒素ガスとともに管状路内に導入する。線速度が下限値未満ではITO粉末の収量が少なくなり、上限値を超えると噴霧されたスラリーが十分に加熱されない。これによりインジウム錫水酸化物粒子が管状炉内で熱分解して焼成され管状炉の排出口より表面改質処理したITO粉末が得られる。
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
〔表面改質処理したITO粉末の製法〕
In金属濃度が24質量%の塩化インジウム(InCl)水溶液230.7gに、濃度55質量%の四塩化錫(SnCl)水溶液25.4gを添加し、攪拌して原料液を調製した。60℃に加温した1000mlの純水中に、上記原料液と25質量%のアンモニア(NH)水溶液とをpHを調整しながら同時に滴下した。このとき反応温度を60℃、最終の反応液のpHを5.0に調整した。生成したインジウム錫共沈水酸化物である沈殿物をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cm以上になったところで、上記沈殿物の上澄み液を捨て、インジウム錫水酸化物粒子が分散した粘度の高いスラリーを得た。
このスラリーを撹拌しながら、水酸化物粒子の濃度が20質量%になるようにこのスラリーをイオン交換水で希釈した後、有機保護剤であるポリビニルアルコール3.0gを添加した。この有機保護剤の添加量は、インジウム錫水酸化物に対して2.5質量%であった。このスラリーを、大気中、110℃で10時間乾燥した後、大気中800℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、ITO粉末約70gを得た。このITO粉末70gを無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95質量%に対して蒸留水5質量%)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、400℃にて2時間加熱して表面改質処理したITO粉末を得た。
〔ITO膜の製造〕
上記のようにして得られたITO粉末100質量部にエタノール300質量部を加え、ホモジェナイザーにて分散した。得られた塗液を幅100mm、厚さ50μmのPETフィルム上に、バーコート法により塗布し、50℃の温風を送って乾燥した。得られたフィルムのITO塗膜の厚みは0.2μmであった。 次に、一対の直径140mmの金属ロールを備えるロールプレス機を用いて、フィルム幅方向の単位長さ当たりの圧力1000N/mm、ロール回転速度5m/分で前記ITOフィルムを圧縮してITO膜を作製した。
<実施例2>
In金属濃度が24質量%の塩化インジウム(InCl)水溶液237.6gに、濃度55質量%の四塩化錫(SnCl)水溶液19.1gを添加し、攪拌した後、全量を1000mlの純水に加え、原料液とした。この原料液に25質量%のアンモニア(NH)水溶液を60分かけて滴下した。このとき反応温度を80℃、最終の反応液のpHを8.0に調整した。生成したインジウム錫共沈水酸化物である沈殿物をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cm以上になったところで、上記沈殿物の上澄み液を捨て、インジウム錫水酸化物粒子が分散した粘度の高いスラリーを得た。このスラリーに、100gの純水にパルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(70質量%)4.5gを溶解した水溶液を添加し良く攪拌した。この有機保護剤の添加量は、インジウム錫水酸化物に対して3.0質量%であった。
このスラリーを、大気中、110℃で10時間乾燥した後、大気中700℃で2時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、ITO粉末約75gを得た。このITO粉末75gを無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95質量%に対して蒸留水5質量%)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、400℃にて2時間加熱して表面改質処理したITO粉末を得た。またこのITO粉末を用いて、実施例1と同様にしてITO膜を作製した。
<実施例3>
In金属濃度が24質量%の塩化インジウム(InCl)水溶液244.5gに、濃度55質量%の四塩化錫(SnCl)水溶液12.7gを添加し、攪拌して原料液を調製した。60℃に加温した1000mlの純水中に、上記原料液と25質量%のアンモニア(NH)水溶液とをpHを調整しながら同時に滴下した。このとき反応温度を20℃、最終の反応液のpHを7.0に調整した。生成したインジウム錫共沈水酸化物である沈殿物をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cm以上になったところで、上記沈殿物の上澄み液を捨て、インジウム錫水酸化物粒子が分散した粘度の高いスラリーを得た。このスラリーを撹拌しながら、水酸化物粒子の濃度が1.0質量%になるようにこのスラリーをエタノールで希釈した後、有機保護剤であるオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(50質量%)6.0gを上記スラリーに添加し良く攪拌し、スラリーを得た。この有機保護剤の添加量は、インジウム錫水酸化物に対して3.0質量%であった。
このスラリーを管の長手方向を鉛直にして配置した、500℃に加熱した管状炉の内部に、キャリアガスである窒素ガスを線速度1m/sの範囲で流通させている状態で、二流体ノズルを用いて、噴霧し、窒素ガスとともに管状路内に導入した。これによりインジウム錫水酸化物粒子が管状炉内で熱分解して焼成され管状炉の排出口より表面改質処理したITO粉末を得た。またこのITO粉末を用いて、実施例1と同様にしてITO膜を作製した。
<比較例1>
In金属濃度が24質量%の塩化インジウム(InCl)水溶液245gに、濃度55質量%の四塩化錫(SnCl)水溶液11.5gを添加混合し、InCl−SnCl混合溶液を調製した。次に、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)水500gをイオン交換水に溶解し、全量1000mlで温度70℃に調製した。この水溶液に上記InCl−SnCl混合溶液の全量を約20分間攪拌しながら滴下してインジウム錫共沈水酸化物を生成した。更にそのまま30分間攪拌した。このときの反応液の最終pHは4.5であった。沈澱物であるインジウム錫水酸化物を回収し、遠心分離機で脱水した後、イオン交換水を加えて洗浄しながら遠心濾過を行い、濾液の抵抗率が5000Ωcm以上に達したところで遠心濾過を終了した。次いでこの沈殿物を100℃で一晩乾燥した後、600℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、ITO粉末75gを得た。
このITO粉末75gを無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95質量%に対して蒸留水5質量%)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、400℃にて2時間加熱して表面改質処理したITO粉末を得た。またこのITO粉末を用いて、実施例1と同様にしてITO膜を作製した。
<比較例2>
比較例1と同様に作製したインジウム錫水酸化物を1000℃で5時間焼成し、比較例1と同様の表面処理を行い、70gのITO粉末を得た。また比較例1と同様にこのITO粉末の表面処理を行い、ITO粉末を得た。このITO粉末を用いて、実施例1と同様にしてITO膜を作製した。
<比較試験>
〔ITO粉末の評価〕
実施例1〜3及び比較例1で得られた各ITO粉末の体積抵抗率を図1に示す測定装置(三菱化学アナリティック製 MCP-PD51)を用いて測定した。具体的には、各ITO粉末の体積抵抗率の測定は、図1に示す、内径φが25mmのシリンダー1にITO粉末2.00gを充填し、0.196〜29.42MPa(2〜300kgf/cm)の範囲で圧力を変えて、実施例1〜3及び比較例1で得られたITO粉末10点以上の抵抗率と試料厚を同時にそれぞれ測定した。圧力は図示しない圧力センサにより、抵抗率は直流4端子法で測定した。図1において、2はITO粉末の圧粉体である。
試料であるITO粉末の充填質量を試料厚とシリンダーの内径φから求めた体積で除算して実密度を求め、この実密度を理論密度で除算して相対密度とした。図2にこの相対密度(よこ軸)とITO粉末の圧粉体の体積抵抗率(たて軸)との関係を示す。この関係は、最小二乗法により、次の累乗の式(1)に近似する。なお、粉末の体積抵抗率は測定された値に、測定システム付属の補正係数を掛けることで算出される。表1に実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた近似式(1)のa及びnの値を示す。Yは圧粉体の体積抵抗率であり、Xは相対密度である。
Y=aX (1)
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた各ITO膜の表面抵抗率(Ω/□)を抵抗率測定装置(三菱油化社製 MCP-T400)により測定した。また、成膜1日(24時間)後に、同様の測定を行い、成膜後の測定値との比を算出した。その結果を表1に示す。
Figure 0005924214
<評価>
表1から明らかなように、式(1)のaが5.0×10−3以下であり、しかもnが−10以上である実施例1〜3のITO粉末から作られたITO膜の表面抵抗率は1.0×10Ω/□以下であった。これに対して式(1)のaが5.0×10−3を超える比較例1のITO粉末から作られたITO膜の表面抵抗率は1.0×10Ω/□を超えていた。更に、比較例2のnが−10未満であるITO粉末から作られたITO膜の表面抵抗率は1.0×10Ω/□を超えており、成膜1日後の表面抵抗率は1.7倍と、1.5倍を超えていた。このことから、式(1)に近似した関係を有する実施例1〜3は塗布型でITO膜を成膜したときの抵抗率を低くして高い導電性を得ることが立証された。

Claims (7)

  1. 表面改質したITO粉末であって、前記ITO粉末からなる圧粉体に0.196〜29.42MPaの圧力を加えたときの前記圧粉体の体積抵抗率をYとし前記圧粉体の相対密度をXとする場合、前記体積抵抗率と前記相対密度の関係が、最小二乗法により、下記の式(1)で近似され、この式(1)においてaが5.0×10-3以下であり、かつnが−10以上であることを特徴とするITO粉末。
    Y=aXn (1)
  2. 3価インジウム化合物と4価錫化合物の混合水溶液にアルカリ水溶液を混合して、インジウムと錫の共沈水酸化物を生成する工程と、前記沈殿物を純水又はイオン交換水で洗浄する工程と、前記沈殿物の上澄み液を捨ててインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを調製する工程と、前記スラリーを乾燥する工程と、前記乾燥したインジウム水錫酸化物を焼成してインジウム錫酸化物を得る工程とを含むITO粉末を製造する方法において、
    前記洗浄工程で、前記上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、
    前記スラリーの調製工程で、前記水酸化物粒子の濃度が10〜30質量%の範囲になるように前記上澄み液を捨てたスラリーを水で希釈した後、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ポリビニルアルコール又はオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートである有機保護剤を前記スラリーに前記水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、
    前記有機保護剤が表面に吸着したインジウム錫水酸化物を乾燥した後、前記焼成工程で、大気中250〜800℃の範囲で0.5〜6時間焼成し、
    前記焼成工程の後で、焼成したITO粉末の凝集体を粉砕し、この粉砕されたITO粉末を表面処理液に含浸した後、窒素ガス雰囲気下、200〜400℃の範囲で0.5〜5時間加熱する
    ことを特徴とする請求項1記載のITO粉末の製造方法。
  3. 3価インジウム化合物と4価錫化合物の混合水溶液にアルカリ水溶液を混合して、インジウムと錫の共沈水酸化物を生成する工程と、前記沈殿物を純水又はイオン交換水で洗浄する工程と、前記沈殿物の上澄み液を捨ててインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを調製する工程と、前記スラリーを乾燥する工程と、前記乾燥したインジウム水錫酸化物を焼成してインジウム錫酸化物を得る工程とを含むITO粉末を製造する方法において、
    前記洗浄工程で、前記上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、
    前記スラリーの調製工程で、前記水酸化物粒子の濃度が10〜30質量%の範囲になるように前記上澄み液を捨てたスラリーを水で希釈した後、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ポリビニルアルコール又はオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートである有機保護剤を前記スラリーに前記水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、
    前記乾燥工程で、前記有機保護剤を添加したインジウム錫水酸化物が分散したスラリーを乾燥し、
    前記焼成工程で、大気中で2.45GHz〜28GHzのマイクロ波で250〜800℃の範囲で、10分以内で目的温度に達する速度で昇温した後、前記目的温度で5〜120分の範囲保持することにより加熱焼成し、
    前記焼成工程の後で、焼成したITO粉末の凝集体を粉砕し、この粉砕されたITO粉末を表面処理液に含浸した後、窒素ガス雰囲気下、200〜400℃の範囲で0.5〜5時間加熱する
    ことを特徴とする請求項1記載のITO粉末の製造方法。
  4. 3価インジウム化合物と4価錫化合物の混合水溶液にアルカリ水溶液を混合して、インジウムと錫の共沈水酸化物を生成する工程と、前記沈殿物を純水又はイオン交換水で洗浄する工程と、前記沈殿物の上澄み液を捨ててインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを調製する工程と、前記スラリーを乾燥する工程と、前記乾燥したインジウム水錫酸化物を焼成してインジウム錫酸化物を得る工程とを含むITO粉末を製造する方法において、
    前記洗浄工程で、前記上澄み液の抵抗率が少なくとも5000Ω・cmになるまで洗浄し、
    前記スラリーの調製工程で、前記水酸化物粒子の濃度が1〜5質量%の範囲になるように前記上澄み液を捨てたスラリーをアルコールで希釈した後、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ポリビニルアルコール又はオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェートである有機保護剤を前記スラリーに前記水酸化物粒子100質量%に対して0.1〜5質量%の範囲で撹拌しながら添加し、
    前記焼成工程で、前記アルコールで希釈され前記有機保護剤を添加したインジウム錫水酸化物粒子が分散したスラリーを250〜800℃の範囲に加熱した管状炉の内部に、窒素ガスを線速度0.5〜5m/sの範囲で流通させている状態で、噴霧することによりインジウム錫水酸化物粒子を前記管状炉内で熱分解して焼成しインジウム錫酸化物粒子を得る
    ことを特徴とする請求項1記載のITO粉末の製造方法。
  5. 前記アルコールがエタノール、メタノール又はプロパノールである請求項4記載の製造方法。
  6. 請求項1記載のITO粉末又は請求項2ないしいずれか1項に記載の方法により製造されたITO粉末を溶媒に分散させて分散液を製造する方法。
  7. 請求項記載の分散液からITO膜を製造する方法。
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