JP4629849B2 - 導電性錫系酸化物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性錫系酸化物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、様々な分野で導電性フィラーが使用されている。例えば、静電気による各種プラスチック製品への埃の付着やプラスチック製容器内に収容された可燃性粉体の粉塵爆発を防止するために、各種プラスチック製品の原料プラスチックに導電性フィラーを添加して導電性、延いては帯電防止性を付与することが行われている。また、カラープリンターやカラーコピー機に使用されるカラートナーにおいてもトナー粒子表面の摩擦帯電量を制御するために電荷制御剤として導電性フィラーを添加することが行われている。
【0003】
このように、導電性フィラーは各種工業分野で使用されているが、その用途の多様化によって、導電性以外にも様々な性能が要求されている。例えば、ICやLSI等の製造において使用する電子部品搬送用トレイや、小麦粉などの可燃性粉体用包装袋においては、内容物を識別するために透明性が要求されるため、このような用途に使用する導電性フィラーとしては薄色系のものが望まれている。また、前記のトナー用電荷制御剤としての用途においても、近年カラートナー用電荷制御剤の用途が急増しており、着色の自由度を高めるために薄色系のものが望まれている上、使用者が直接粉末と接触することがあるため、人体に悪影響を与えるクロム等の有害元素を含まないものが望まれている。
【0004】
従来汎用的に使用されている導電性フィラーとしては、カーボンブラックや金属粉末があるが、これらを添加した導電性プラスチック等は灰色又は黒色になり、自由な着色ができず、上記のような要求に応えることは困難である。特に金属粉末を用いた場合には、空気中の水分によって徐々に酸化されるためにその導電性が経時的に低下するという問題もある。また、これら以外の導電性フィラーとして、アンチモンを含有した二酸化錫粉末が知られているが、アンチモンは、その安全性が懸念されているばかりでなく、粉末自体が濃青色に着色しているため、該粉末も上記のような要求に応えるのは困難である。
【0005】
アンチモンを含有せずに導電性の高い二酸化錫粉末として、フッ素、リン、ひ素、ビスマス、セレン、テルル、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンなどの体積抵抗率を低下させる(導電性を向上させる)作用を有するドーパント(以下、導電性向上用ドーパントともいう。)を添加したものが知られているが、このような導電性向上用ドーパントを添加した場合には、添加したドーパントによりその用途が制限されたり、製造時、使用時、又は廃棄時に注意が必要となることがある。
【0006】
たとえば、フッ素をドーパントとして使用した二酸化錫粉末においては、水分と接触したときにフッ化水素酸が溶出することがある上、製造時にフッ化水素酸が発生するため、除害設備が必要となる。また、ひ素、ビスマス、セレン、テルル、バナジウム、クロムはアンチモンと同様に安全性が懸念されている。また、リン、ニオブ、タンタル、タングステンなどは安全性の点では特に問題はないが、二酸化錫粉末にこれらのドーパントを添加する際の原材として使用する塩素化合物、硝酸化合物などは毒性が高いため、製造時に設備を含めて特別な配慮が必要となる。また、リンをドーパントとして含有する二酸化錫粉末においては、体積抵抗率が水分によって変化しやすいため、導電性フィラーとして各種プラスチック等に配合する際に導電性の制御が困難となってしまう。
【0007】
更に、上記の様な導電性向上用ドーパントは一般に資源的に貴重であり、その原料は政情が不安定な国からの輸入に頼らざるを得ないものも多く、国際情勢によっては、その入手が困難になることも懸念される。
【0008】
この様な背景のもと、薄色系の導電性フィラーとなり得る二酸化錫系導電性フィラーにおいて導電性向上用ドーパントを含有せず高い導電性、即ち低い体積低効率を有するものの開発が望まれている。
【0009】
一般に、導電性向上用ドーパントを含有しない二酸化錫の体積抵抗率は104〜107Ωcmであり(特公昭62−1572号、特公昭62−1573号、特公昭62−1574号、及び特開平2−3221号)、その導電性は十分とは言えない。
【0010】
なお、特開平6−345429号公報には、第二錫塩を含有する溶液を中和処理して沈殿物を析出させた後に、沈殿物を不活性又は弱還元性雰囲気中で焼成することにより、2.0×108Paと非常に高いプレス圧で圧粉法により測定したときの体積抵抗率が10-1〜104Ωcmの二酸化錫粉末が得られる旨が記載されているが、このような方法では、該公報中にも説明されているように二酸化錫粉末の表面が局部的に金属錫に還元されるために、得られる二酸化錫は金属錫を含むものとなっている。導電性フィラー中に金属が存在する場合には、金属粉末からなる導電性フィラーと同様に導電性が経時的に低下したり着色したりするという問題がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このように、二酸化錫を主成分とする錫系酸化物は、安定性や安全性の観点から有用な導電性フィラーとなり得ると考えられるが、導電性向上用ドーパントや金属錫を含まない錫系酸化物であって、その導電性が高いものはこれまで知られていない。本発明は、このような錫系酸化物を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討を行なった。その結果、ゾルゲル法により二酸化錫を製造する際に、使用する酸化錫前駆体溶液または該前駆体溶液を中和処理して得られる懸濁液を特定温度まで急速に加熱して、次いで高温で短時間加熱処理することにより、非常に高い導電性(低い体積抵抗率)を有する新規な二酸化錫が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、第一の本発明は、酸素欠陥を有していてもよい二酸化錫結晶相を含み、且つX線回折分析により測定したときに金属錫の回折ピークが検出されず、二酸化錫の体積抵抗率を低下させる作用を有するドーパントの含有量が1000ppm以下である錫系酸化物であって、該錫系酸化物の粉末を5.6×107Paのプレス圧で圧粉法により測定したときの体積抵抗率が10−1〜103Ωcmである、金属錫又は錫化合物を水性溶液若しくは有機溶媒に溶解させた溶解性酸化錫前駆体溶液、又は該溶液から調製した不溶性酸化錫前駆体懸濁液を、酸素を含む雰囲気下で、20℃/秒以上の昇温速度で300℃迄加熱した後に300℃を越える温度で0.1秒以上5分以下加熱処理して製造されたことを特徴とする導電性錫系酸化物である。
【0014】
上記本発明の導電性錫系酸化物は、金属成分や導電性向上用ドーパントを含有していないにも拘わらず、従来の二酸化錫では達成し得なかった高い導電性(低い体積抵抗率)を有する。また、該導電性錫系酸化物は、導電性(体積抵抗率)の経時変化が少なく、薄色化も可能であり、導電性フィラーとして様々な用途に使用可能である。
【0015】
上記本発明の導電性錫系酸化物の中でも粉末状であって、粒度分布におけるD90の粒径が0.1〜30μmであるものは、粒子同士の凝集が少なく良好な流動性を有して取り扱い易いという特徴がある。また、同じく粉末状であって粉末を構成する粒子の形状が球状又は略球状であるものは、該粉末を各種プラスチックに添加してフィルム化したときに他のフィルム特性を低下させずに導電性又は帯電防止性を付与できるという特徴がある。
【0016】
また、第二の本発明は、金属錫又は錫化合物を水性溶液若しくは有機溶媒に溶解させた溶解性酸化錫前駆体溶液、又は該溶液から調製した不溶性酸化錫前駆体懸濁液を、酸素を含む雰囲気下で、20℃/秒以上の昇温速度で300℃迄加熱した後に300℃を越える温度で0.1秒以上5分以下加熱処理することを特徴とする前記本発明の導電性錫系酸化物の製造方法である。
【0017】
上記製造方法において、金属錫又は錫化合物を酸性又は塩基性の条件下で水性溶液に溶解させて酸性又は塩基性の溶解性酸化錫前駆体溶液を調製した後、該溶液を部分的又は完全に中和して不溶性酸化錫前駆体を析出させ、析出した不溶性酸化錫前駆体が懸濁した懸濁液を用いた場合には、懸濁液を調製するに際し、析出物を洗浄する等して不純物イオンを除去することにより、このような不純物イオンを含まない本発明の導電性錫系酸化物を得ることができる。なお、中和により析出した不溶性酸化錫前駆体中の不純物イオンが昇華性である場合には、洗浄せずにそのまま用いても不純物イオンの混入を避けることができる。
【0018】
上記本発明の製造方法によれば、本発明の導電性錫系酸化物を効率よく容易に製造できる。
【0019】
本発明は、理論に拘束されるものではないが、本発明の導電性錫系酸化物においては、X線回折測定の結果、該錫系酸化物に含まれる二酸化錫結晶相の結晶格子の収縮が確認されることから、二酸化錫結晶に多くの酸素欠陥が導入されており、自由電子的に作用する電子が発生することによりキャリア濃度が増加し、従来の二酸化錫には見られない高い導電性(低い体積抵抗率)が得られたものと考えられる。
【0020】
また、本発明の製造方法においては、急激な加熱を行うため二酸化錫結晶相中に酸素欠陥が発生しやすく、しかも高温での保持時間が短いため、十分な緩和が起こることなくこのような欠陥が多く残った二酸化錫結晶が形成されるため、本発明の導電性錫系酸化物を製造することができたものと考えられる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の導電性錫系酸化物は、酸素欠陥を有していてもよい二酸化錫結晶相を含む。該二酸化錫結晶相は、単結晶からなっていてもよいが、導電性の観点から、非晶質相を含む多結晶からなるのが好適である。本発明の導電性錫系酸化物が二酸化錫結晶相を含むことは、X線回折分析を行なったときに二酸化錫の結晶構造である正方晶二酸化錫の回折ピーク(JCPDSカード21−1250に記載されている)が現れることで確認することができる。
【0022】
なお、二酸化錫結晶においては酸素欠陥が存在することが多く、錫と酸素の組成は化学量論比(即ち、1:2)から若干ずれることが多い。このため、二酸化錫は、一般にSnO2-X(0≦X<1)として記述されることが多い。本発明の導電性錫系酸化物に含まれる二酸化錫結晶相においてもこのような酸素欠陥を有するものが含まれる。通常、二酸化錫結晶中に酸素欠陥が存在すると、X線回折分析の回折ピーク位置が上記JCPDSカード21−1250記載の正方晶二酸化錫の回折ピーク位置から若干ずれるが、一般的な二酸化錫結晶においては、このときの回折ピーク位置のずれは、2θの値で通常±2°以内である。
【0023】
なお、本発明の導電性錫系酸化物に含まれる上記二酸化錫結晶相の含有量は特に限定されないが、非晶質部を含めた全二酸化錫として80重量%以上、特に90重量%以上であるのが好適である。
【0024】
本発明の導電性錫系酸化物は、実質的に金属錫を含まない必要がある。金属錫が含まれている場合には、保存や使用環境によっては導電性が経時的に低下したり、着色したりすることがある。本発明の導電性錫系酸化物に金属錫が含まれてないことは、X線回折分析により測定したときに、金属錫の結晶構造であるJCPDSカード4−0673またはJCPDSカード5−0390またはJCPDSカード18−1380またはJCPDSカード19−1365に記載されているいずれの金属錫の回折ピークも検出されないことで確認することができる。
【0025】
本発明の導電性錫系酸化物は、二酸化錫の体積抵抗率を低下させる作用を有するドーパント(導電性向上用ドーパント)の含有量が、該錫系酸化物全体の重量基準で1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下である必要がある。導電性向上用ドーパントの含有量が1000ppm以下であることにより、前記したドーパントの添加に起因する各種問題を回避することができる。導電性向上用ドーパントの含有量は、少ないほど好ましい。導電性向上用ドーパントは、本発明の製造時において使用する原料物質に不純物として含まれていることもあり、このような不可避的な混入量も考慮してその総量が1000ppm以下なるようにする必要がある。
【0026】
ここで、導電性向上用ドーパントとは、それを添加することにより二酸化錫の体積抵抗率が低下する元素であれば特に限定されない。このような代表的な元素を例示すれば、アンチモン、フッ素、リン、ひ素、ビスマス、セレン、テルル、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、及びタングステンが挙げられる。これら導電性向上用ドーパントの含有量は、誘導結合高周波プラズマ放電を利用する発光分光分析(ICP発光分光分析)装置などの測定機器を使用する化学分析法、或いは蛍光X線分析や電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)法などの物理分析法などにより測定することができる。
【0027】
本発明の導電性錫系酸化合物は、該錫系酸化物の粉末について5.6×107Paのプレス圧の圧粉法で測定したときの体積抵抗率(R)が、10-1〜103Ωcm、好ましくは10-1〜102Ωcmである点に大きな特徴がある。ここで、圧粉法とは粉末をプレスしてペレットを成型し、該ペレットにプレス圧を印加した状態でその抵抗値(r)を4端子法又は2端子法などで測定する方法である。このとき、体積抵抗率(R)は次の式によって求めることができる。
【0028】
R=(r×s)/t
但し、上記式においてrはペレットの抵抗(Ω)を、sはペレットの断面積(cm2)を、tはペレットの厚み(cm)を表す。
【0029】
一般に圧粉法により測定される体積抵抗率は、ペレット成形時及び抵抗測定時に加えるプレス圧の影響を受け、プレス圧が高いほど低い値になる傾向がある。本発明における体積抵抗率はプレス圧5.6×107Paで測定したときの値を意味する。
【0030】
金属成分や導電性向上用ドーパントを含まない二酸化錫でこのような低い体積抵抗率を有するものは知られていない。このような低い体積抵抗率が得られるのはその構造において体積抵抗率に反映される何らかの点で従来の二酸化錫と違う点があるものと思われるが、その違いは推定の域に留まり特定されるには至っていない。
【0031】
本発明の導電性錫系酸化物には、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、導電性向上用ドーパント以外の元素が含まれていてもよい。このような元素としては、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、炭素、塩素、窒素、水素などが挙げられる。これら元素のうち、ナトリウム、炭素、塩素、水素、窒素等は製造時に不純物として混入するものであるが、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム等は本発明の導電性錫系酸化物の機械的強度等を高めるため、あるいは該錫系酸化物の粉末特性や表面特性など(例えば、粉末の流動性、ゼータ電位、帯電性など)を制御するために積極的に添加するものである。これら元素の含有量には特に制限はないが、あまりにも含有量が増えると体積抵抗率が上昇するので、20wt%以下であるのが好適である。より好ましい含有量は10wt%以下であり、最も好ましい含有量は8wt%以下である。
【0032】
本発明の導電性錫系酸化物の形状は特に限定されないが、各種プラスチック製品の帯電防止剤或いはトナー用電荷制御剤として使用する場合の取り扱い易さの観点から、粉末状であるのが好適である。
【0033】
特に、フィルム用プラスチックに添加する場合には、粗大粒が存在すると該フィルム表面の凹凸が大きくなって光沢が損なわれたり、成形時に穴が空いたりすることがあり、また逆にあまりにも粒度が小さくなると取扱いが困難になったり、粒子同士が凝集して該フィルムへの分散性が低下したりするので、粒度分布におけるD90の粒径が0.1〜30μmである粉末であるのが好適である。ここで、D90の粒径とは、粒度分布測定結果に基づいて、横軸に粒子径、縦軸に体積換算の通過分積算をとって積算分布曲線を描いたときに、通過分積算の値が90%に相当する粒子径を意味する{例えば、化学と工業、73(12)、576〜587(1999)}。なお、粒度分布測定方法としては、粉末をイオン交換水やアルコールなどの分散溶媒に分散させて市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定計などを用いて測定することができる。D90の粒径は、1〜20μm、特に2〜10μmであるのがより好適である。
【0034】
また、粉末状の本発明の導電性錫系酸化物においては、粒子同士の凝集が少なく流動性が高く取り扱い易いという観点から、該粉末を構成する粒子の形状は球状又は略球状であるのが好適である。ここで略球状とは、走査型電子顕微鏡などの直接観察法により粉末の写真を撮り、その視野内に観察される粒子が丸みを帯びており、個々の粒子においてその最大粒子幅(長径)に直交する方向の粒子幅(短径)をその最大粒子幅で除した平均均斉度が0.6以上であることを意味する。該平均均斉度を算出するための写真を撮影する際には、粉末の粒子の内、一部でも隠れることなく全体の形状が認識できる粒子が20個以上となる倍率にて写真撮影を行い、該平均均斉度の算出は、写真中の任意の20個の粒子の平均値として算出すればよい。
【0035】
粉末状の本発明の導電性錫系酸化物においては、プラスチック等への分散性をより高めるなどの目的で、表面改質剤を用いて粒子の表面改質を行ってもよい。該表面改質剤としては、市販のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等の公知の表面改質剤を制限なく使用することができる。また、結着剤その他の添加物を加えて顆粒状にしてもよい。
【0036】
本発明の導電性錫系酸化物の製造方法は特に限定されないが、次のような方法により好適に製造することができる。
【0037】
即ち、金属錫又は錫化合物を水性溶液若しくは有機溶媒に溶解させた溶解性酸化錫前駆体溶液、又は該溶液から調製した不溶性酸化錫前駆体懸濁液を、酸素を含む雰囲気下で、20℃/秒以上の昇温速度で300℃迄加熱した後、同じく酸素を含む雰囲気下で300℃を越える温度で0.1秒以上5分以下加熱処理することにより好適に製造する事が出来る。なお、ここで、酸化錫前駆体とは、加熱処理によって酸化錫、特に二酸化錫に転化し得る化合物を意味する。
【0038】
上記本発明の製造方法において、溶解性酸化錫前駆体溶液の調製に用いる金属錫の形状は特に限定されず、板状、棒状、シート状、粒状、粉末状、砂状、塊状のものなどが挙げられ、溶解のしやすさの点から粒状、粉末状、砂状のものが好ましい。また、溶解性酸化錫前駆体溶液の調製に用いる錫化合物としては、水性溶液または有機溶媒に溶解するものであれば特に限定されず使用することができる。好適に使用できる錫化合物を、具体的に例示すれば、塩化第一錫、塩化第二錫、硝酸第一錫、硝酸第二錫、硫酸第一錫、硫酸第二錫、酢酸第一錫、酢酸第二錫、錫酸ナトリウム、錫酸カリウム或いはこれら錫化合物の水和物などを用いることができる。これらの中でも塩化第一錫や塩化第二錫或いはこれらの水和物などの塩化物は安価で入手しやすく、水性溶液や有機溶媒に溶解しやすいため好ましい。これら錫化合物は、単独で用いたり、数種類の錫化合物を組み合せて用いたり、あるいは金属錫と錫化合物を組み合せて用いてもよい。
【0039】
なお、金属錫、または塩化第一錫、硝酸第一錫、硫酸第一錫、酢酸第一錫或いはこれらの水和物などの二価の錫イオンを含有する錫化合物を用いて溶解性酸化錫前駆体溶液を調製する場合には、該溶液をそのまま用いて加熱処理して得られる錫系酸化物中には一酸化錫が混入して茶褐色、灰色又は黒色に着色することがあるので、酸素、空気、過酸化水素などの酸化剤を加えて系中で錫イオンの全て又は一部を四価に酸化させて使用することが好ましい。
【0040】
溶解性酸化錫前駆体溶液の調製に使用する水性溶液には、金属錫や錫化合物の溶解性を高めるために、塩酸、硝酸や酢酸などを溶解して酸性の水性溶液としたり、水酸化ナトリウムやアンモニアなどを溶解して塩基性の水性溶液として用いるのが好適である。
【0041】
溶解性酸化錫前駆体溶液の調製に使用する有機溶媒は、金属錫又は錫化合物を溶解するものであれば、何ら限定されない。このような有機溶媒として、アルコール、アセトン、アセトニトリルなど、あるいはこれらの混合物が挙げられるが、通常アルコールを用いることが好ましい。これらアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノールなどを挙げることができる。中でもメタノール、エタノールは、錫化合物の溶解度が高いため好ましく、特に、メタノールは安価で手に入りやすいという理由もあり、より好ましい。上記アルコールは通常単独で用いられるが、錫化合物の溶解性等を制御するために2種類以上のアルコールの混合物を用いたり、他の有機溶媒や水性溶液と混合して用いることもできる。
【0042】
溶解性酸化錫前駆体溶液中の溶解性酸化錫前駆体濃度は溶解する範囲内であれば特に制限されるものではないが、濃度が低すぎると導電性錫系酸化物の生産性が低下し、また高すぎると粘度が高くなって後述する加熱処理時の操作性が低下したり得られる粉末の性状が悪化したりするので、酸化錫前駆体溶液の濃度は、錫原子のモル数換算で溶液1リットル当たり0.01〜10モル、特に0.1〜3モルとするのが好適である。したがって、溶解性酸化錫前駆体溶液中を調製する際には、前駆体濃度が前記範囲になるように金属錫或いは錫化合物の使用量、又は水性溶液或いは有機溶媒の使用量を調整することが行われる。溶解時の溶解熱や可溶化させる際の酸化熱が発生する場合には、液温度を制御し易くするために多量の溶媒を用い、溶解後に濃縮すればよい。また、系によっては、逆に高濃度の溶液を調製しておき使用時に希釈して濃度調製を行うこともできる。
【0043】
なお、溶解性酸化錫前駆体溶液の調製時に、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム等の導電性向上用ドーパント以外の元素を含む溶解性の化合物を添加してもよい。
【0044】
このようにして調製された溶解性酸化錫前駆体の溶液は、そのまま加熱処理すしてもよいが、該溶液が酸性又は塩基性条件下で水性溶液(即ち、溶媒は水、又は水と水溶性有機溶媒の混合物である溶液)に金属錫等を溶解させて得た酸性又は塩基性の溶液であるときには、塩基又は酸と混合して中和反応を行い、前記溶解性酸化錫前駆体の加水分解物或いはその縮合体からなる不溶性の酸化錫前駆体を析出させ、これを懸濁させた懸濁液を得てから加熱処理してもよい。
【0045】
このとき使用する酸及び塩基は特に限定されず、酸としては、塩化水素、硝酸、酢酸などが、また、塩基としてはアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを使用することができる。これらの酸および塩基は、酸化錫前駆体溶液にそのまま加えたり、水や有機溶媒に溶解させた後に加えることができる。また、中和処理の方法としては、酸または塩基を酸化錫前駆体溶液に加えても、酸化錫前駆体溶液を酸または塩基に加えてもよい。
【0046】
酸化錫前駆体溶液を中和処理して得られる不溶性酸化錫前駆体を含む溶液(中和液ともいう)は、そのまま懸濁液として加熱処理に供してもよいが、加熱処理時に昇華しにくい反応生成物が中和反応時に副生する場合には、より体積抵抗率の低い導電性錫系酸化物を得るため、あるいは粉末特性や表面特性を制御するため、該中和液に存在する、原料の錫化合物などに由来する塩素イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオン、ナトリウムイオンやこれらの反応生成物などを除去してから懸濁液とし、これを加熱処理するのが好適である。塩素イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、アンモニア、ナトリウムイオンやこれらの反応生成物などを除去する方法には特に制限されない。具体例を挙げると、中和液をろ過し、ろ過されずに残ったケーキ状の沈殿物を水性溶液や有機溶媒で洗浄した後に、水性溶液又は有機溶媒を加えて懸濁液とする方法や、中和液をデカンテーションし、さらに新たな水性溶液又は有機溶媒を加えて懸濁液とする方法などがある。
【0047】
懸濁液中の不溶性の酸化錫前駆体濃度は特に制限されるものではないが、導電性錫系酸化物の生産性や加熱処理時の操作性、得られる粉末の性状等の観点から、錫原子のモル数換算で懸濁液1リットル当たり0.01〜10モル、特に0.1〜3モルとするのが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法においては、溶解性酸化錫前駆体の溶液或いは不溶性酸化錫前駆体の懸濁液(以下、前駆体溶液等ともいう)を20℃/秒以上の昇温速度で300℃迄加熱した後、300℃を超える温度で0.1秒以上5分以下加熱処理する。このような加熱条件で加熱処理することにより本発明の導電性錫系酸化物を効率的に得ることが可能となる。
【0049】
本発明の製造方法に於いては、加熱処理時に前駆体溶液等の溶媒や分散媒が気化しするとともに、酸化錫前駆体が分解して酸化反応が進行し、錫系酸化物が生成する。300℃までの加熱処理では、生成した錫系酸化物は局所的には二酸化錫の結晶構造をとり得るが大部分は非晶質であり、加熱処理温度が300℃を超えると該錫系酸化物中の非晶質であった部分が二酸化錫の結晶構造へと変化すると考えられる。300℃までの昇温速度が遅い場合には、恐らく酸素欠陥の生成量が少なくなるためと思われるが、体積抵抗率の低い導電性錫系酸化物が得られない。また、300℃を越える温度での処理時間が5分を越える場合には、結晶化の際に錫イオンと酸素イオンとのが再配列が起こり酸素欠陥が消滅するためと思われるが、やはり体積抵抗率の低い導電性錫系酸化物が得られない。
【0050】
加熱条件は、上記の条件を満足すれば特に限定されないが、体積抵抗率のより低い本発明の導電性錫系酸化物を得るには、300℃迄の昇温速度が速いことが好ましく、100℃/秒以上、特に200℃/秒以上とするのが好適である。また、体積抵抗率のより低い本発明の導電性錫系酸化物を得るためには、300℃を超える温度での加熱処理時間は短いことが好ましく、1分以下、特に30秒以下にするのが好適である。なお、本発明の製造方法に於いては、本発明の導電性錫系酸化物を得る上で300℃を超える温度での加熱処理は必須であり、0.1秒以上この様な温度で処理する必要がある。
【0051】
本発明の製造方法において、前駆体溶液等を加熱処理する方法は特に限定されず、例えば前駆体溶液等を市販の焼成炉などの炉内に導入することによって好適に行なうことができる。導入の方法については特に制限はなく、例えば前駆体溶液等をアルミナ製あるいは石英ガラス製などの高温での二酸化錫との反応性の低い容器などに入れて、加熱した炉内に直接投入したり、赤外線ランプ加熱方式の昇温速度の速い焼成炉の中に低温の状態から投入することもできるが、高圧の空気と共に前駆体溶液等を噴霧して液滴状にして加熱した炉内に導入する噴霧熱分解法を用いた方が、昇温速度及び300℃を超える温度での加熱処理時間を制御しやすいため非常に好ましい。
【0052】
噴霧熱分解法により前駆体溶液等を加熱処理する場合に使用される焼成炉の構造には特に限定されず、円筒形の炉心管を有し、炉心管の一方から原料を噴霧して、他方から生成した粉末を回収する構造の一般に市販されている噴霧熱分解用の焼成炉が制限なく使用できる。
【0053】
本発明の製造方法において加熱処理する際の雰囲気は、前駆体溶液等中に二酸化錫が生成するために十分な酸素が含まれていれば特に限定されないが、空気中或いは酸素中で加熱処理することが好ましい。中でも加熱処理を空気中で行うと、真空ポンプや、不活性ガス供給装置あるいは酸素ガス供給装置などを装備した大規模な焼成炉を使う必要がなく、特に好ましい。加熱処理をアルゴンや窒素などの不活性雰囲気又は一酸化炭素や水素を含む還元性雰囲気で行うと二酸化錫粉末の表面などに金属錫が生成しやすく、また、茶褐色、灰色や黒色などに着色することがあるので好ましくない。
【0054】
前駆体溶液等を300℃を超える温度で加熱処理する時間は、例えば噴霧熱分解方式で加熱処理する場合には、炉内の温度分布と酸化錫前駆体溶液もしくは懸濁液の単位時間当たりの処理量とこれらの原料を炉内に運搬する際に使用する空気などの雰囲気ガス(キャリアガスともいう)の流量と炉の内部の寸法から計算により求めることができる。酸化錫前駆体溶液もしくは懸濁液が炉の内部で気化したときの体積は、加熱処理した時間を計算する上で必要であるが、これは、前駆体溶液等の単位時間当たりの処理量から計算することができ、前駆体溶液等中の溶媒(又は分散媒)のみが気化した体積と等しいとして計算することができる。尚、加熱処理する時間の算出に使用する炉内の温度分布は熱電対などを使用して測定することができる。
【0055】
また、酸化錫前駆体溶液もしくは懸濁液を容器に入れて箱型の焼成炉に直接投入する場合においては、投入後、炉内の温度が300℃を超える温度に到達してから取出しまでの時間を加熱処理する時間とすることができる。
【0056】
加熱処理の最高温度は特に制限されるものではないが、省エネルギーの観点、及び300℃以上で加熱処理する時間を5分以内にする必要があることから、1500℃以下が好ましく、1200℃以下が更に好ましく、900℃以下が特に好ましい。
【0057】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0058】
また、以下の実施例、比較例で得られた錫系酸化物(具体的には二酸化錫)粉末について、その結晶相の同定、金属錫の含有の有無の確認、導電性向上用ドーパント含有量の測定、体積抵抗率の測定、体積抵抗率の経時変化の測定、粒度分布の測定、粒子形状および色調の観察、及び試料粉末の流動性の評価は以下の方法に従った。
【0059】
(1)結晶相の同定
理学電機(株)製X線回折装置RINT 1200を用いてθ−2θ法にて試料のX線回折分析を行い、結晶相を同定した。
【0060】
(2)金属錫の含有の有無の確認
上記(1)と同様の測定を行い、JCPDSカード4−0673、JCPDSカード5−0390、JCPDSカード18−1380、及びJCPDSカード19−1365に記載されたCuKα線使用時の5強ピークの2θ値、具体的には2θ=30.6°、32.0°、44.9°、43.9°、62.5°(JCPDSカード4−0673)、2θ=23.7°、39.2°、46.4°、71.1°、62.3°(JCPDSカード5−0390)、2θ=34.9°、33.2°、47.7°、60.4°、52.5°(JCPDSカード18−1380)、2θ=36.0°、34.3°、62.5°、49.2°、65.9°(JCPDSカード19−1365)のいずれかに金属錫由来の回折ピークが観測されるか否かによって金属錫の含有の有無を確認した。
【0061】
(3)導電性向上用ドーパント含有量の測定
導電性錫系酸化物中のフッ素の含有量については、EPMAによって測定した。またその他の導電性向上用ドーパント(アンチモン、リン、ひ素、ビスマス、セレン、テルル、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン)の含有量は、テフロン製容器を内部に付属したステンレス容器を用いて導電性錫系酸化物を酸あるいはアルカリ水溶液中で加圧分解し、得られた水溶液を用いてICP発光分光分析装置によって測定した。これらEPMAとICP発光分光分析装置によって検出が可能であった導電性向上ドーパントのみの合計量を算出した。
【0062】
(4)体積抵抗率の測定
体積抵抗率は、ダイスとポンチからなる治具を用いて粉体を圧粉成型して測定した。即ち、銅製の下ポンチ(φ15mm×高さ10mm)を付属した中空(穴直径φ15mm)の円筒形のダイス(絶縁体、φ50mm×高さ50mm)の中に試料を入れて、その上端に銅製の上ポンチ(φ15mm×高さ50mm)を入れて5.6×107Paの圧力(1トンの荷重)で試料を加圧成型し、ペレット状の試験片を作製した。次いで試験片を加圧した状態で、上ポンチと下ポンチ間の抵抗値をヒューレット・パッカード(HEWLETT PACKARD)社製3478Aマルチメーターを用いて4端子法で測定し、試験片の断面積と高さから体積抵抗率を算出した。
【0063】
(5)体積抵抗率の経時変化の測定
試料を空気中120℃で500時間放置した後に室温に冷却し、上記の方法で体積抵抗率を測定した。高温放置後の体積抵抗率を高温放置前の体積抵抗率で除した値を、体積抵抗率の経時変化の指標とした。
【0064】
(6)粒度分布の測定
試料をイオン交換水に分散して超音波を5分間かけた後、マルバーン(MALVERN)社製のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置マスターサイザーにより粒度分布を測定し、D90の粒径を求めた。
【0065】
(7)粒子形状の観察
ジェオール(JEOL)社製走査型電子顕微鏡JSM−6400Fを用いて倍率5000倍で試料の写真を撮り、発明の実施の形態に記載した方法により平均均斉度を求めた。写真にて観察された粒子が丸みを帯びており、平均均斉度が0.6以上である場合、その試料の粒子は球状又は略球状であるとし、写真にて観察された粒子に試料の製造工程において粉砕された時に形成されたと思われる角張った部分がある場合には多角形状であるとした。
【0066】
(8)色調の観察
試料の色調を目視にて観察した。
【0067】
(9)流動性の測定
試料を穴径φ5mmの漏斗(口径φ50mm)に入れ、6cmの高さから水平な台の上に試料を落として堆積させた。堆積させた試料の自由表面と水平面がなす角度φr(安息角という)を分度器を用いて測定した。安息角φrが小さいほど流動性の高い試料であるとして評価した(粉体工学の基礎、日刊工業新聞社)。
【0068】
実施例1
水500mlに濃塩酸20gと塩化第二錫(SnCl4・5H2O)150gを加えて塩酸酸性の溶解性酸化錫前駆体の溶液を調製した。該前駆体溶液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度400℃で空気中で熱分解した。この時、前駆体溶液が噴霧された後に300℃迄加熱される際の昇温速度は300℃/秒であり、300℃を超える温度で加熱されていた時間は10秒であった。該前駆体溶液を噴霧熱分解後、フィルタで補集して二酸化錫粉末(試料A)を得た。評価結果を表1に示す。なお、表1中の「結晶相と金属錫有無」の欄には、二酸化錫結晶が確認された場合には「SnO2」と記し、金属錫が確認された場合のみ合わせて「+Sn」と記した。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例2
水500mlに濃塩酸20gと塩化第二錫(SnCl4・5H2O)150gを加えて塩酸酸性の溶解性酸化錫前駆体の溶液を調製した。該前駆体溶液に28wt%アンモニア水120gを加えて不溶性沈酸化錫前駆体である殿物を生成させて、該沈殿物を含む懸濁液を得た。該懸濁液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度400℃で空気中で熱分解した。この時、該懸濁液が噴霧された後に300℃迄加熱される際の昇温速度は300℃/秒であり、300℃を超える温度で加熱されていた時間は10秒であった。該懸濁液を噴霧熱分解後、フィルタで補集して二酸化錫粉末(試料B)を得た。評価結果を表1に示す。
【0071】
実施例3
水500mlに濃塩酸20gと塩化第二錫(SnCl4・5H2O)150gを加えて塩酸酸性の溶解性酸化錫前駆体の溶液を調製した。該前駆体溶液に28wt%アンモニア水120gを加えて不溶性沈酸化錫前駆体である沈殿物を生成させた。該沈殿物をろ過し、得られたケーキ状の沈殿物をイオン交換水500mlに分散、攪拌し、再びろ過した。この沈殿物の洗浄の操作を3回繰り返し、洗浄後の該沈殿物にイオン交換水を500ml加えて攪拌し、懸濁液を得た。該懸濁液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度400℃で空気中で熱分解した。この時、該懸濁液が噴霧された後に300℃迄加熱される際の昇温速度は300℃/秒であり、300℃を超える温度で加熱されていた時間は10秒であった。該懸濁液を噴霧熱分解後、フィルタで補集して二酸化錫粉末(試料C)を得た。評価結果を表1に示す。
【0072】
実施例4
実施例3と同様にして懸濁液を得た。該懸濁液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度600℃で空気中で熱分解した。この時、該懸濁液が噴霧された後に300℃迄加熱される際の昇温速度は390℃/秒であり、300℃を超える温度で加熱されていた時間は8秒であった。該懸濁液を噴霧熱分解後、フィルタで補集して二酸化錫粉末(試料D)を得た。評価結果を表1に示す。
【0073】
実施例5
実施例3と同様にして懸濁液を得た。該懸濁液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度850℃で空気中で熱分解した。この時、該懸濁液が噴霧された後に300℃迄加熱される際の昇温速度は500℃/秒であり、300℃を超える温度で加熱されていた時間は6秒であった。該懸濁液を噴霧熱分解後、フィルタで補集して二酸化錫粉末(試料E)を得た。評価結果を表1に示す。
【0074】
実施例6
実施例3と同様にして懸濁液を得た。該懸濁液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度400℃で空気中で熱分解した。この時、該懸濁液が噴霧された後に300℃迄加熱される際の昇温速度は25℃/秒であり、300℃を超える温度で加熱されていた時間は2分であった。該懸濁液を噴霧熱分解後、フィルタで補集して二酸化錫粉末(試料F)を得た。評価結果を表1に示す。
【0075】
実施例7
塩酸酸性の溶解性酸化錫前駆体の溶液を調製する際に、塩化カルシウム2.0gを溶液中に添加した以外は、実施例1と同様にして溶解性酸化錫前駆体の溶液の調製及び噴霧熱分解を行い、二酸化錫粉末(試料G)を得た。評価結果を表1に示す。
【0076】
比較例1
実施例1と同様にして塩酸酸性の酸化錫前駆体溶液を調製した。該前駆体溶液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度200℃で空気中で熱分解した。該前駆体溶液を噴霧熱分解後、フィルタで補集して粉末(試料H)を得た。評価結果を表1に示す。
【0077】
比較例2
実施例2と同様にして懸濁液を得た。該懸濁液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度200℃で空気中で熱分解した。該懸濁液を噴霧熱分解後、フィルタで補集して粉末(試料I)を得た。評価結果を表1に示す。
【0078】
比較例3
実施例1と同様にして塩酸酸性の酸化錫前駆体溶液を調製した。該前駆体溶液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度400℃で空気中で噴霧熱分解した。該前駆体溶液が噴霧された後に300℃迄加熱される際の昇温速度は300℃/秒である。この時、炉心管内の最高温度到達位置に熱分解された二酸化錫粉末が捕集される様に石英ガラス製容器を設置し、そこに捕集された二酸化錫粉末を噴霧終了後10分後、即ち400℃で10分間保持した後に取出し、二酸化錫粉末(試料J)を得た。評価結果を表1に示す。
【0079】
比較例4
実施例2と同様にして懸濁液を得た。該懸濁液を加熱した炉心管の中に噴霧し、最高温度400℃で空気中で熱分解した。該懸濁液が噴霧された後に300℃迄加熱される際の昇温速度は300℃/秒である。この時、炉心管内の最高温度到達位置に熱分解された二酸化錫粉末が捕集される様に石英ガラス製容器を設置し、そこに捕集された二酸化錫粉末を噴霧終了後10分後、即ち400℃で10分間保持した後に取出し、二酸化錫粉末(試料K)を得た。評価結果を表1に示す。
【0080】
比較例5
実施例3と同様にして沈殿物を生成させて、沈殿物を洗浄した。該沈殿物を50℃で24時間乾燥した後、該沈殿物の乾燥品を乳鉢で粉砕した。該乾燥品を焼成炉を使って空気中で昇温速度0.2℃/秒で300℃迄加熱し、300℃到達後10秒間保持した後に取出して急冷し、二酸化錫粉末(試料L)を得た。評価結果を表1に示す。
【0081】
比較例6
実施例3と同様にして沈殿物を生成させて、沈殿物を洗浄した。該沈殿物を50℃で24時間乾燥した後、該沈殿物の乾燥品を乳鉢で粉砕した。該乾燥品を赤外線ランプ加熱方式の高速昇温の可能な焼成炉を使って空気中で850℃まで20℃/秒の昇温速度で昇温し、次いで850℃で10時間焼成し、二酸化錫粉末(試料M)を得た。評価結果を表1に示す。
【0082】
比較例7
実施例3と同様にして沈殿物を生成させて、沈殿物を洗浄した。該沈殿物を50℃で24時間乾燥した後、該沈殿物の乾燥品を乳鉢で粉砕した。該乾燥品を焼成炉を使って窒素雰囲気中で850℃で10時間焼成し、二酸化錫粉末(試料N)を得た。評価結果を表1に示す。
【0083】
表1に示したデータから明らかなように、実施例1〜6に示す本発明の製造方法で製造した二酸化錫粉末は、金属錫及び導電性向上用ドーパントがほとんど含まれておらず、その体積抵抗率が10-1〜103Ωcmの範囲内にあることから本発明の導電性錫系酸化物であることが分かる。
【0084】
これに対し、比較例1及び比較例2では、300℃を越える温度で加熱処理する時間がゼロであるという点において、本発明の製造方法で規定する「300℃を越える温度で0.1秒〜5分以下加熱処理する」という条件の範囲外で製造した例であり、また比較例3、比較例4及び比較例6では300℃を越える温度で加熱処理する時間が5分を越えているという点において、やはり本発明の上記条件の範囲外で製造した例であり、更には比較例5では300℃までの昇温速度が0.2℃/秒であり、本発明の「20℃/秒以上の昇温速度」という条件の範囲外で製造した例であり、いずれもその体積抵抗率が10-3Ωcmを大幅に越える値となっており、本発明の導電性錫系酸化物は得られていない。また比較例7においては、比較例6と同様に本発明の上記条件の範囲外で製造し、かつ窒素雰囲気下で焼成した例であり、金属錫が析出しているため、茶褐色に着色し、また体積抵抗率の経時変化が非常に大きく、本発明の導電性錫系酸化物は得られていない。
【0085】
【発明の効果】
本発明の導電性錫系酸化物は、導電性向上用ドーパントや金属成分を含んでいないにも係わらず体積抵抗率が低く高い導電性を有する。しかも、これら成分を含んでいないのでこれら成分の存在に安全性等の問題が無く、体積抵抗率の経時変化、や着色といった問題も少ない。従って、本発明の高い導電性を有する錫系酸化物は、導電性フィラーとして様々な用途に使用可能である。
【0086】
また、本発明の製造方法によれば、上記のような優れた特徴を有する本発明の導電性錫系酸化物を容易に効率よく製造することが出来、さらに加熱処理方法として噴霧熱分解法を採用した場合には、粉末性状が良好な粉末状の本発明の導電性錫系酸化物を容易に製造することが出来る。
Claims (5)
- 酸素欠陥を有していてもよい二酸化錫結晶相を含み、且つX線回折分析により測定したときに金属錫の回折ピークが検出されず、二酸化錫の体積抵抗率を低下させる作用を有するドーパントの含有量が1000ppm以下である錫系酸化物であって、該錫系酸化物の粉末を5.6×107Paのプレス圧で圧粉法により測定したときの体積抵抗率が10−1〜103Ωcmである、金属錫又は錫化合物を水性溶液若しくは有機溶媒に溶解させた溶解性酸化錫前駆体溶液、又は該溶液から調製した不溶性酸化錫前駆体懸濁液を、酸素を含む雰囲気下で、20℃/秒以上の昇温速度で300℃迄加熱した後に300℃を越える温度で0.1秒以上5分以下加熱処理して製造されたことを特徴とする導電性錫系酸化物。
- 粉末状であり、且つ該粉末の粒度分布におけるD90の粒径が0.1〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載の導電性錫系酸化物。
- 粉末状であり、且つ該粉末を構成する粒子の形状が球状又は略球状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性錫系酸化物。
- 金属錫又は錫化合物を水性溶液若しくは有機溶媒に溶解させた溶解性酸化錫前駆体溶液、又は該溶液から調製した不溶性酸化錫前駆体懸濁液を、酸素を含む雰囲気下で、20℃/秒以上の昇温速度で300℃迄加熱した後に300℃を越える温度で0.1秒以上5分以下加熱処理することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の導電性錫系酸化物の製造方法。
- 金属錫又は錫化合物を酸性又は塩基性の条件下で水性溶液に溶解させて酸性又は塩基性の溶解性酸化錫前駆体溶液を調製した後、該溶液を部分的又は完全に中和して不溶性酸化錫前駆体を析出させ、析出した不溶性酸化錫前駆体が懸濁した懸濁液を、酸素を含む雰囲気下で、20℃/秒以上の昇温速度で300℃迄加熱した後に300℃を越える温度で0.1秒以上5分以下加熱処理することを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
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