本発明は、以下の特徴を有するカーボンナノチューブ分散液の製造方法である。
カーボンナノチューブ集合体と分散媒の混合物を加圧して複数の細管流路に送り込み、上記混合物を衝突、合流させてカーボンナノチューブ分散液を製造する方法であって、カーボンナノチューブ集合体と分散媒の混合物に対してかける圧力をA(MPa)、分散処理の処理回数をB(回)とした場合に、A<100かつ50<A×B<1000という条件下で分散することを特徴とする方法である。
本発明において用いられるカーボンナノチューブ集合体とは、複数のカーボンナノチューブが存在している総体を意味し、その存在形態は特に限定されず、それぞれが独立で、あるいは束状、絡まり合うなどの形態あるいはこれらの混合形態で存在していてもよい。また、種々の層数、直径のものが含まれていてもよい。また、分散液や他の成分を配合した組成物中、あるいは他の成分と複合した複合体中に含まれる場合でも複数のカーボンナノチューブが含まれていればこれら複数のカーボンナノチューブについて、カーボンナノチューブ集合体が含まれていると解する。また、カーボンナノチューブ製造法由来の不純物(例えば触媒)を含み得るが、実質的には炭素で構成されたものを示す。
カーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、一層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ、その中で特に二層に巻いたものを二層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブの形態は、高分解能透過型電子顕微鏡で調べることができる。グラファイトの層は、透過型電子顕微鏡でまっすぐにはっきりと見えるほど好ましいが、グラファイト層は乱れていても構わない。
上記任意のカーボンナノチューブ集合体に含まれるカーボンナノチューブの層数と本数の数え方は、透過型電子顕微鏡で40万倍で観察し、75nm四方の視野の中で視野面積の10%以上がカーボンナノチューブである視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて層数を評価する。一つの視野中で100本の測定ができない場合は、100本になるまで複数の視野から測定する。このとき、カーボンナノチューブ1本とは視野中で一部カーボンナノチューブが見えていれば1本と計上し、必ずしも両端が見えている必要はない。また視野中で2本と認識されても視野外でつながって1本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上する。
本発明において用いられるカーボンナノチューブ集合体および得られるカーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブは、その外径の平均値が0.4から5nmであるものが好ましく、さらに1.0から3.0nmの範囲内であるものが好ましく用いられる。この外径の平均値は、上記透過型電子顕微鏡で40万倍で観察し、75nm四方の視野の中で視野面積の10%以上がカーボンナノチューブである視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて層数を評価するのと同様の方法でサンプルを観察し、カーボンナノチューブの外径を測定したときの算術平均値である。
通常カーボンナノチューブは層数が少ないほどグラファイト化度が高い、つまり導電性が高く、層数が増えるほどグラファイト化度が低下する傾向がある。二層カーボンナノチューブは層数が単層カーボンナノチューブよりも多いため、耐久性が高く、高いグラファイト化度も併せ持つため、耐久性が高く高導電性のカーボンナノチューブ集合体という点で二層カーボンナノチューブの割合は多いほど好ましい。本発明では上記方法で測定したときの二層カーボンナノチューブの割合は100本中70本以上であることが好ましく、100本中75本以上が二層カーボンナノチューブであることがより好ましく、さらに好ましくは100本中80本以上が二層カーボンナノチューブであることが好適である。
本発明において用いられるカーボンナノチューブ集合体は波長633nmのラマン分光分析によるGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)が30以上であることが好ましい。より好ましくは40以上、200以下であり、さらに好ましくは50以上、150以下である。G/D比とはカーボンナノチューブ集合体をラマン分光分析法により評価した時の値である。ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は633nmとする。ラマン分光分析法により得られるラマンスペクトルにおいて1590cm−1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm−1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このGバンド、Dバンドの高さ比、G/D比が高いカーボンナノチューブほど、グラファイト化度が高く、高品質であることを示している。またカーボンナノチューブ集合体のような固体のラマン分光分析法は、サンプリングによってばらつくことがある。そこで少なくとも3カ所、別の場所をラマン分光分析し、その相加平均をとるものとする。G/D比が30以上とは相当な高品質カーボンナノチューブ集合体であることを示している。
本発明において用いられるカーボンナノチューブ集合体は透明導電性基材として使用することが可能である。透明導電性基材として使用する際には、カーボンナノチューブ集合体を必要により界面活性剤や各種高分子材料などの添加剤とともに分散媒に分散させて分散液とする。得られたカーボンナノチューブ集合体を含有する分散液は基材に塗布することが可能であり、塗布後の基材の光透過率が85%以上、表面抵抗値1×105Ω/□以下である透明導電性基材を製造することが可能である。
本発明で用いるカーボンナノチューブ集合体は、上記のようにG/D比が高い高品質なカーボンナノチューブ集合体とするために酸化処理を施すことが好ましい。酸化処理については特に限定されないが、液相中または気相中での酸化処理が挙げられる。
気相中での酸化処理の温度は300〜1000℃が好ましく、さらに好ましくは400〜900℃である。カーボンナノチューブ集合体の気相での酸化温度は雰囲気ガスに影響されるため、特に好ましい温度は雰囲気により異なる。また、主として含まれるカーボンナノチューブが単層か、多層かによっても異なる。具体的には、例えば酸素と接触させる場合には400〜900℃で行うのが好ましい。特に二層以上の多層カーボンナノチューブを主体とするカーボンナノチューブ集合体の場合には大気下、カーボンナノチューブ集合体の燃焼ピーク温度±50℃の範囲内で焼成処理をすることが好ましい。燃焼ピーク温度±50℃の範囲で焼成処理することにより、製造したカーボンナノチューブ集合体中の不純物を除去することが可能である。これにより二層等の多層カーボンナノチューブの純度を向上させることが可能である。このとき燃焼ピーク温度−50℃未満で焼成処理を行っても、不純物や耐熱性の低い単層カーボンナノチューブは焼成されにくいために、除去されず耐熱性の高い二層等多層カーボンナノチューブの純度は向上しにくい。また燃焼ピーク温度+50℃超で焼成処理を行っても、今度は生成カーボンナノチューブ集合体全てが焼成されて消失してしまう。よってカーボンナノチューブ集合体の燃焼ピーク温度付近で焼成するのが好ましい。さらに好ましくは燃焼ピーク温度±30℃の範囲である。また気相として酸素と不活性ガスなどの混合気体を用いる場合、酸素濃度が高い場合には比較的低温で、酸素濃度が低い場合には比較的高温で酸化処理することが好ましい。
本発明で用いるカーボンナノチューブ集合体を液相酸化した場合にはその後、乾燥させることなく分散媒および添加剤と混合して分散させることで分散性が非常に良くなるため好ましい。液相酸化のみ、もしくは気相酸化の後、液相酸化を施す方法が好ましく挙げられるが、液相酸化は気相酸化と比較するとカーボンナノチューブ集合体のグラファイト構造の破壊や切断が少ないので、液相酸化がより好ましい。
ここで液相酸化に用いる酸性溶液は、硝酸、硫酸、過酸化水素もしくはこれらのひとつを含む混酸である。好ましくは硝酸である。カーボンナノチューブの表面を、硝酸などを用いて官能基化することにより、分散媒および添加剤との親和性が向上するため分散性が向上する。
また、カーボンナノチューブ集合体は一旦乾燥してしまうと、強固なバンドルを形成してしまい、分散させることが困難になる傾向がある。乾燥したカーボンナノチューブ集合体を添加剤および分散媒と混合して、例えば湿式ジェットミル等を利用してバンドルをほぐそうとしても多大なエネルギーと時間を要し、分散させている最中にカーボンナノチューブ自体も損傷を受けやすい。乾燥させることなく分散させる場合では、カーボンナノチューブは乾燥時ほど強固なバンドルを形成していないため、容易に分散可能であり、分散に要するエネルギー、時間も少なくてすむため、分散させている最中にカーボンナノチューブ自体が受ける損傷も少ない。したがって、高度な導電性を有する材料形成のための分散液製造には、液相酸化した、好ましくは硝酸処理したカーボンナノチューブを乾燥させることなく分散させると効果が大きい。
本発明で用いるカーボンナノチューブ集合体の体積抵抗率は1.0×10−2Ω・cm以下、1.0×10−4Ω・cm以上であることが好ましいが、カーボンナノチューブ集合体の体積抵抗値は、以下のようにカーボンナノチューブ膜を作製し、その膜の表面抵抗値を4端子法によって測定後、表面抵抗値とカーボンナノチューブ膜の膜厚を掛けることによって算出することができる。表面抵抗値はJISK7149準処の4端子4探針法を用い、例えばロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定することが可能である。高抵抗測定の際は、ハイレスターUPMCP-HT450((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いて測定することが可能である。
測定試料は、カーボンナノチューブ集合体20mgをN−メチルピロリドン(NMP)16mLと混合し、超音波ホモジナイザーにより出力20Wで超音波を20分照射した後、エタノール10mLと混合し、内径35mm直径のろ過器を使用することによってろ取物を得るが、この時点でろ取物を採取するのではなく、このろ取物をろ過器とろ取に用いたフィルターごと60℃で2時間乾燥することによって測定試料を作製することが出来る。作製したカーボンナノチューブ集合体の膜はピンセットなどでろ紙から剥離して測ることもできるし、剥離出来ないときはフィルターとカーボンナノチューブ集合体の膜を併せた全体の厚みを測定後、フィルターのみの厚みを全体から差し引いて算出しても良い。ろ過に使用するろ過用のフィルターはメンブレンフィルター(OMNIPORE MEMBRANE FILTERS, FILTER TYPE:1.0μm JA,47mmφ)を使用することができる。また、フィルターの孔径は、ろ液が通過するのであれば1.0μm以下であっても構わないが、NMPおよびエタノールに溶解しない材質である必要があり、好ましくはフッ素樹脂製のフィルターを使用するのが好適である。
また、本発明で用いるカーボンナノチューブ集合体の体積抵抗率は、1×10−4Ω・cmから1×10−2Ω・cmのカーボンナノチューブ集合体であることが好ましいが、この様なカーボンナノチューブ集合体は、特に導電性が良いため、例えば透明電極の様な透明性を必要とする導電層に利用する場合、カーボンナノチューブの使用量が少なくても十分に導電性を発揮し、使用量低減による透明性の向上効果も得られる。
本発明で好ましく用いられるカーボンナノチューブ集合体の製造方法は、例えば以下のように製造される。
縦型流動床反応器中、反応器の水平断面方向全面に、マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒よる流動床を形成し、該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、該メタンを500〜1200℃で、該触媒に接触させ、カーボンナノチューブ集合体を製造した後、得られたカーボンナノチューブ集合体を酸化処理することにより得られる。すなわち、上記カーボンナノチューブの合成法により得られた、カーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ集合体を、上記記載の気相あるいは液相酸化処理を行うことにより、本発明で特に好ましく用い得るカーボンナノチューブ集合体が得られる。
触媒である鉄を、担体であるマグネシアに担持させることにより、鉄の粒径をコントロールしやすく、また高密度で鉄が存在しても高温下でシンタリングが起こりにくい。そのため、高品質なカーボンチューブを効率よく多量に合成することができる。さらに、マグネシアは酸性水溶液に溶けるので、酸性水溶液で処理するだけでマグネシアおよび鉄の両者を取り除くこともできるため、精製工程を簡便化することができる。
マグネシアは、市販品を使用しても良いし、合成したものを使用しても良い。マグネシアの好ましい製法としては、金属マグネシウムを空気中で加熱する、水酸化マグネシウムを850℃以上に加熱する、炭酸水酸化マグネシウム3MgCO3・Mg(OH)2 ・3H2Oを950℃以上に加熱する等の方法がある。
マグネシアの中でも軽質マグネシアが好ましい。軽質マグネシアとは、かさ密度が小さいマグネシアであり、具体的には0.20g/mL以下であることが好ましく、0.05〜0.16g/mLであることが触媒の流動性の点から好ましい。かさ密度とは単位かさ体積あたりの粉体質量のことである。以下にかさ密度の測定方法を示す。粉体のかさ密度は、測定時の温度および湿度に影響されることがある。ここで言うかさ密度は、温度20±10℃、湿度60±10%で測定したときの値である。測定は、50mLメスシリンダーを測定容器として用い、メスシリンダーの底を軽く叩きながら、予め定めた容積を占めるように粉末を加える。かさ密度の測定に際しては10mLの粉末を加えるものとするが、測定可能な試料が不足している場合には、可能な限り10mLに近い量で行う。その後、メスシリンダーの底を床面1cmの高さから落とすことを20回繰り返した後、目視にて粉末が占める容積値の変化率が±0.2mL(試料が少ない場合は±2%)以内であることを確認し、詰める操作を終了する。もし容積値に目視にて±0.2mL(±2%)を越える変化があれば、メスシリンダーの底を軽く叩きながら粉末を追加し、再度メスシリンダーの底を床面1cmの高さから落とすことを20回繰り返し、目視にて粉末が占める容積値に±0.2mL(±2%)を越える変化がないことを確認して操作を終了する。上記の方法で詰めた一定量の粉末の重量を求めることを3回繰り返し、その平均重量を粉末が占める容積で割った値(=重量(g)/体積(mL))を粉末のかさ密度とする。
担体に担持する鉄は、0価の状態とは限らない。反応中は0価の金属状態になっていると推定できるが、広く鉄を含む化合物または鉄種でよい。例えば、ギ酸鉄、酢酸鉄、トリフルオロ酢酸鉄、クエン酸アンモニウム鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、ハロゲン化物鉄などの有機塩または無機塩、エチレンジアミン4酢酸錯体やアセチルアセトナート錯体のような錯塩などが用いられる。また鉄は微粒子であることが好ましい。微粒子の粒径は0.5〜10nmであることが好ましい。鉄が微粒子であると外径の細いカーボンナノチューブが生成しやすい。
マグネシアに鉄を担持させる方法は、特に限定されない。例えば、担持したい鉄の塩等の鉄を含む化合物または鉄種を溶解させた非水溶液(例えばエタノール溶液)中または水溶液中に、マグネシアを含浸し、撹拌や超音波照射などにより充分に分散混合した後、乾燥させる(含浸法)。さらに空気、酸素、窒素、水素、不活性ガスおよびそれらの混合ガスから選ばれたガス中または真空中で高温(300〜1000℃)で加熱することにより、マグネシアに鉄を担持させてもよい。
鉄担持量は、多いほどカーボンナノチューブの収量が上がるが、多すぎると鉄の粒子径が大きくなり、生成するカーボンナノチューブが太くなる。鉄担持量が少ないと、担持される鉄の粒子径が小さくなり、外径の細いカーボンナノチューブが得られるが、収率が低くなる傾向がある。最適な鉄担持量は、マグネシアの細孔容量や外表面積、担持方法によって異なるが、マグネシアに対して0.1〜20質量%の鉄を担持することが好ましく、特に0.2〜10質量%であることが好ましい。
縦型流動床反応器とは、メタンが、鉛直方向(以下「縦方向」と称する場合もある)に流通するように設置された反応器であることが好ましい。該反応器の一方の端部から他方の端部に向けた方向にメタンが流通し、触媒層を通過する。反応器は、例えば管形状を有する反応器を好ましく用いることができる。なお、上記において、鉛直方向とは、鉛直方向に対して若干傾斜角度を有する方向をも含む(例えば水平面に対し90°±15°、好ましくは90°±10°)。なお、好ましいのは鉛直方向である。なお、メタンの供給部および排出部は、必ずしも反応器の端部である必要はなく、メタンが前記方向に流通し、その流通過程で触媒層を通過すればよい。
触媒は、縦型流動床反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させた状態にあり、反応時には流動床を形成した状態とすることが好ましい。このようにすることにより、触媒とメタンを有効に接触させることができる。横型反応器の場合、触媒とメタンを有効に接触させるため、メタンの流れに対して垂直方向で反応器の断面全面に存在させた状態にするには、重力がかかる関係上、触媒を左右から挟み込む必要がある。しかし、カーボンナノチューブ集合体の生成反応の場合、反応するに従って触媒上にカーボンナノチューブ集合体が生成して、触媒の体積が増加するので、左右から触媒を挟みこむ方法は好ましくない。また、横型で流動床を形成させることは難しい。本発明では反応器を縦型にし、反応器内にガスが透過できる台を設置して、その上に触媒を置くことによって、触媒を両側から挟みこむことなく、反応器の断面方向に均一に触媒を存在させることができ、メタンを鉛直方向に流通させる際に流動床を形成させることもできる。触媒を縦型流動床反応器の水平断面方向全面に存在させた状態とは、水平断面方向に全体に触媒が広がっていて触媒底部の台が見えない状態を言う。このような状態の好ましい実施態様としては、例えば、次のような態様がある。
A.反応器内にガスが透過できる触媒を置く台(セラミックスフィルターなど)を置き、そこに所定の厚みで触媒を充填する。この触媒層の上下が多少凸凹してもかまわない(図1(a))。図1(a)は、反応器1の中に触媒を置く台2が設置され、その上に触媒3が反応器の水平断面方向全体に存在している状態を示す概念図である。
B.Aと同様の触媒を置く台上に、触媒以外の物体(充填材)と触媒を混ぜて充填する。この触媒層は均一であることが好ましいが、上下が多少凸凹してもかまわない(図1(b))。図1(b)は反応器1の中に触媒を置く台2が設置され、その上に触媒以外の物体と触媒の混合物4が反応器の断面方向全体に存在している状態を示す概念図である。
C.反応器上部から触媒を噴霧などで落とし、触媒粉末がガスを介して反応器水平断面方向に均一に存在している状態(図1(c))。図1(c)は反応器1上部から噴霧した触媒5が反応器水平断面方向全体に広がった触媒状態を示す概念図である。縦型流動床反応器の一例としては上述Cのような触媒を反応器上部から噴霧などによって落とす態様や、一般に沸騰床型と言われる触媒が流動する態様(上述AやBに準ずる方法)が挙げられる。
流動床型は、触媒を連続的に供給し、反応後の触媒とカーボンナノチューブ集合体を含む集合体を連続的に取り出すことにより、連続的な合成が可能であり、カーボンナノチューブ集合体を効率よく得ることができ好ましい。また本発明では触媒の担体としてマグネシアを用いるが、マグネシアはその粒子特性(比重、かさ密度、表面電荷等)から、非常に流動性が良く、特に流動床型反応器でカーボンナノチューブ集合体を合成することに適している。マグネシア担体を触媒とした場合、流動床型でカーボンナノチューブ集合体を合成すると、流動化状態が良好なことから長いカーボンナノチューブが生成しやすい。ここで定義する長いカーボンナノチューブとは平均の長さが2μm以上のカーボンナノチューブのことである。流動床型反応において流動性が良好なことから原料のメタンと触媒が均一に効率よく接触するためにカーボンナノチューブ合成反応が均一に行われ、アモルファスカーボンなどの不純物による触媒被覆が抑制され、触媒活性が長くなる。
縦型反応器とは対照的に、横型反応器は横方向(水平方向)に設置された反応器内に、石英板上に置かれた触媒が設置され、該触媒上をメタンが通過して接触、反応する態様の反応装置を指す。この場合、触媒表面ではカーボンナノチューブが生成するが、触媒内部にはメタンが到達しないためにほとんど反応しない。これに対して、縦型反応器では触媒全体に原料のメタンが接触することが可能となるため、効率的に、多量のカーボンナノチューブ集合体を合成することが可能である。
反応器は耐熱性であることが好ましく、石英製、アルミナ製等の耐熱材質からなることが好ましい。
反応器内に設置された触媒層の下部、もしくは上部からメタンを通過させて、触媒と接触させ、反応させることによりカーボンナノチューブ集合体を生成する。
触媒とメタンとを接触させる温度は、600〜950℃が好ましく、さらに好ましくは700℃〜900℃の範囲である。温度が600℃よりも低いと、カーボンナノチューブ集合体の収率が悪くなる。また温度が950℃よりも高いと、使用する反応器の材質に制約があると共に、カーボンナノチューブ同士の接合が始まり、カーボンナノチューブの形状のコントロールが困難になる。メタンを触媒に接触させながら反応器を反応温度にしてもよいし、熱による前処理終了後、反応器を反応温度にしてから、メタンの供給を開始しても良い。
カーボンナノチューブ集合体を生成させる反応の前に、触媒に対して熱による前処理を行ってもよい。熱による前処理の時間は、特に限定しないが、長すぎるとマグネシア上で金属の凝集が起こり、それに伴い外径の太いカーボンナノチューブが生成することがあるので、120分以内が好ましい。前処理の温度は、触媒活性が発揮されれば反応温度以下でも構わないし、反応温度と同じでも、反応温度以上でも構わない。熱による前処理を行うことにより、触媒をより活性な状態にすることもある。
熱による前処理、およびカーボンナノチューブ集合体を生成させる反応は、減圧もしくは大気圧で行うことが好ましい。
触媒とメタンの接触を減圧で行う場合は、真空ポンプなどで反応系を減圧にすることができる。また大気圧で反応を行う場合はメタンと希釈ガスを混合した、混合ガスとして触媒と接触させてもよい。
希釈ガスとしては、特に限定されないが、酸素ガス以外のものが好ましく使用される。酸素は爆発の可能性があるので通常使用しないが、爆発範囲外であれば使用しても構わない。希釈ガスとしては、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム等が好ましく使用される。これらのガスは、メタンの線速や濃度のコントロールおよびキャリヤガスとして効果がある。水素は、触媒金属の活性化に効果があるので好ましい。特に窒素およびアルゴンが好ましい。
合成されたカーボンナノチューブ集合体は、通常触媒を除去し、必要に応じ、精製や前述の酸化処理等を経て分散液の製造に供される。
本発明で用いられる分散剤としては、界面活性剤、各種高分子材料(水溶性高分子材料等)等を用いることができる。分散剤は、カーボンナノチューブ集合体または微粒子の分散能や分散安定化能等を向上させるのに役立つ。界面活性剤は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤に分けられるが、本発明ではいずれの界面活性剤を用いることも可能であるが、分散能が高い点からイオン性界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤があげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤にわけられる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤およびカルボン酸系界面活性剤などがあげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。上記において、アルキルとは炭素数C1−20から選択されるアルキルであって良い。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、非イオン性界面活性剤が好ましく、特に芳香族系非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
各種高分子材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、キトサン等の糖類ポリマー等がある。またポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体も使用できる。本発明においては水溶性高分子が好ましく、なかでも、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマーを使用することによりカーボンナノチューブ集合体の導電特性を効率的に発揮することができ好ましい。さらにカルボキシメチルセルロースナトリウム塩等の水溶性アニオン性界面活性剤を水系溶液として使用する場合は、分散液のpHを7以上、特に好ましくはpH8以上11以下のアルカリ性にすることで界面活性剤間の静電反発増大により分散能が向上するため好ましい。pHの調整はアルカリ性溶液を添加することにより行うことができる。アルカリ性溶液はアンモニアや有機アミンの溶液を用いる。有機アミンはエタノールアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ピリジン、ピペリジン、ヒドロキシピペリジンなどの窒素を含む有機化合物が好ましい。これらアンモニア、有機アミンの中で最も好ましいのはアンモニアである。これら有機アミンやアンモニアを溶解する溶媒としては、水を用いることが好ましい。pHはpHメーター(東亜電波工業社製、HM−30S)により測定される。
本発明で用いられる分散媒は、水系溶媒でも良いし非水系溶媒でも良い。非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。これらのなかでも分散媒としては、水、アルコール、トルエン、アセトン、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有する分散媒であることが好ましい。水系溶媒が必要である場合、および後述するようにバインダーを用いる場合であって、そのバインダーが無機ポリマー系バインダーの場合には、水、アルコール類、アミン類などの極性溶媒が使用される。また、後述するようにバインダーとして常温で液状のものを用いる場合には、それ自体を分散媒として用いることもできる。
本発明では、カーボンナノチューブ集合体と分散媒を含む混合物を加圧して複数の細管流路に送り込み、上記混合物を衝突、合流させることで分散する方法を用いる。本発明の方法は、非粉砕媒体型のミル処理であり、ボールミルのような粉砕媒体を使用することなく流体の衝突エネルギーなどを利用してカーボンナノチューブ集合体を溶媒中に均一に分散する方式である。このような非粉砕媒体型のミル処理としては、例えば湿式ジェットミル処理があげられる。この湿式ジェットミル処理では、例えば、耐圧容器内に密封状態で配置されたノズルへカーボンナノチューブ集合体と分散媒の混合物を高圧で圧送し、当該混合物の対向流を相互に衝突、合流させる工程を採用し、処理液同士の衝突及び/または処理液と流路壁などの固定壁との衝突で、混合物中のカーボンナノチューブ集合体を分散させるものである。
この様な非粉砕媒体型のミル処理を行う装置としては、例えば、湿式ジェットミルとして市販されている、バルププレートによる高速噴射を利用したタイプ、スリット状に形成した流路内で高速衝突させるタイプ、90°位相させて連通せしめたそれぞれ一文字の流路内で高速衝突を起こさせるタイプ、同一ノズル内で流体同士の衝突回数を複数回発生させるタイプ、対抗するオリフィスから非球面構造の部屋へ噴出させて衝突させるタイプ、あるいは液相ジェット流を高速で衝突させるタイプなどがあげられる。これらの装置は、それぞれ装置タイプの特性により、分散効果に多少の差を生じる可能性はあるが、前述したボールミルのような従来の粉砕メディアを用いる媒体型分散機をはじめとする分散装置を用いた場合と比べると、飛躍的に高い効率で安定な分散液を得ることができる。従って、本発明で使用する湿式ジェットミルのタイプは、特に限定されないが、好ましくは高速・高圧の被処理物混合体同士を正面から衝突させる方式が最も好ましい。本発明で好ましく使用される市販の湿式ジェットミルとしては、例えば、(株)常光社製ナノジェットパル(JN5、JN10、JN20、JN100、JN1000)があげられる。
本発明における分散処理は、その処理液に作用する処理圧力A<100MPaであることが好ましく、より好ましくはA<80MPa、特に好ましくはA<60MPaである。また分散処理回数をBとした場合、50<A×B<1000であることが好ましく、より好ましくは50<A×B<900、特に好ましくは50<A×B<800である。A≧100MPaやA×B≧1000である場合は、カーボンナノチューブ集合体の分散と同時にグラファイト構造の破壊や切断も著しく生じる。また、50≧A×Bである場合はグラファイト構造の破壊や切断を抑制可能であるが、カーボンナノチューブ集合体の分散が不十分である。これらの理由から本発明における分散処理条件は上記範囲内が好ましい。
本発明における分散装置内の細管流路の直径は50μmから500μmであることが好ましく、より好ましくは50μmから300μm、特に好ましくは50μmから200μmである。細管流路の直径が50μm未満である場合は、カーボンナノチューブ集合体と分散媒の混合物が流路内で根詰まりするため、分散が困難である。また、細管流路が500μmを超える場合では、細管流路が太過ぎるため、所望の圧力条件とするには多大なエネルギーを混合物に与える必要が生じ、分散が困難である。これらの理由から本発明における分散装置内の細管流路の直径は上記範囲内が好ましい。
本発明における分散装置を用いた分散処理時はカーボンナノチューブ集合体と分散媒の混合物に圧力がかかり、温度上昇が生じるため、分散中に液温が上昇しないように、冷却しながら分散を行うことが好ましい。分散処理中の液温は好ましくは、0℃〜50℃であり、より好ましくは、0℃〜30℃であり、さらに好ましくは、0℃〜20℃である。この範囲にあることで、カーボンナノチューブ集合体と分散剤が安定に相互作用し、高度に分散させることができる。
本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において添加される分散剤量については、カーボンナノチューブ集合体に対する分散剤の質量比率が10以下が好ましく、より好ましくは6以下、特に好ましくは3以下である。分散剤の質量比率が10を越える場合はカーボンナノチューブが有する導電性などの優れた特性を損なう傾向にあることから分散剤の質量比率は10以下が好ましく、より好ましくは0.8〜6、特に好ましくは0.8〜2.5である。また、カーボンナノチューブ集合体を高度に分散させるためのより好ましい分散剤量は分散剤の重量平均分子量によって異なり、分散剤が低分子量である場合には比較的多目に、高分子量である場合には少な目にすることが好ましい。たとえば、分散剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いた場合、重量平均分子量が30万超の分散剤では好ましい質量比率は0.8〜2、より好ましくは1〜1.5、特に好ましくは1〜1.3であるが、重量平均分子量が30万以下では2〜6が好ましく、より好ましくは2〜3、特に好ましくは2.2〜2.8である。
本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法においてカーボンナノチューブ集合体の濃度は0.01質量%から1質量%が好ましく、0.01質量%から0.8質量%がより好ましい。カーボンナノチューブ集合体の濃度が1質量%よりも大きい場合ではカーボンナノチューブ集合体と分散媒の混合物の粘度が非常に高くなるため、混合物にかかる圧力も大きくなり、処理圧力A<100MPaでの分散が困難であることや細管流路内で根詰まりを起こす原因となる。一方、カーボンナノチューブ集合体の濃度が0.01質量%未満ではカーボンナノチューブ集合体と分散媒の混合物の粘度が非常に低くなるため、混合物にかかる圧力が小さくなり、所望の圧力条件とするには多大なエネルギーを混合物に与える必要が生じ、分散が困難である。これらの理由から本発明におけるカーボンナノチューブ集合体の濃度は上記範囲内が好ましい。なお、上記濃度は、使用した各成分の使用量から求めることができるが、カーボンナノチューブ分散液を用いてカーボンナノチューブ集合体の濃度を測定しようとする場合は、分散液の吸光度から求めることもできる。
本発明のカーボンナノチューブ分散液において、原子間力顕微鏡(AFM)により測定したときのカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの平均直径が、透過型電子顕微鏡を用いた上記方法で求められたカーボンナノチューブの平均直径の1.4倍以下であることが好ましい。より好ましい態様においては、より高度に孤立分散させることも可能であり、AFMで測定したときのカーボンナノチューブ分散液中に分散するカーボンナノチューブ分散体の平均直径が、透過型電子顕微鏡を用いた上記方法で求められたカーボンナノチューブの平均直径の1.2倍以下、特に好ましくは1.05倍以下とすることも可能である。
AFMによるカーボンナノチューブの平均直径の測定法を以下に示す。カーボンナノチューブを分散した被測定液のカーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に調整し、マイカ基板上にスピンコートする。その後、AFM((株)島津製作所社製、SPM9600M)により、ランダムに約100本のカーボンナノチューブの直径を求め、その平均として求める。カーボンナノチューブが複数本のカーボンナノチューブが凝集したバンドルとなっている場合、AFMの測定においては、その直径は、バンドルの直径として観測され、カーボンナノチューブが孤立している場合、カーボンナノチューブ本来の直径が観測される。これら観測されるバンドル状のカーボンナノチューブおよび孤立したカーボンナノチューブの直径を平均して算出される平均直径を評価し、透過型電子顕微鏡を用いて観測されるカーボンナノチューブの平均直径と比較することにより、分散液中でカーボンナノチューブがどの程度孤立に分散しているかが評価できるのである。
なお、本発明において得られるカーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの平均直径の測定は、透過型電子顕微鏡を用いることで次のように行うことができる。すなわち、得られるカーボンナノチューブ分散液のカーボンナノチューブの濃度を0.1質量%に調整し、これをグリッド上に数滴滴下し、乾燥させる。このグリッドを40万倍の透過型電子顕微鏡にてカーボンナノチューブの外径を測定する。加速電圧は120kVとする。任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて外径を測定し、算術平均値を平均直径とする。なお、本発明で用いるカーボンナノチューブ集合体の平均直径に関しても次のように行うことで測定可能であり、その平均直径は本発明で得られるカーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの平均直径と同一である。すなわち、カーボンナノチューブ集合体1mgをエタノール1mLに入れて、約15分間超音波バスを用いて分散処理を行なう。分散した試料をグリッド上に数滴滴下し、乾燥させる。このように試料の塗布されたグリッドを40万倍の透過型電子顕微鏡にてカーボンナノチューブの外径を測定する。加速電圧は120kVとする。任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて外径を測定し、算術平均値を平均直径とする。
本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法に従えば、カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの平均長さが分散処理前の平均長さの60%以上保持したカーボンナノチューブ分散液を効率的に製造することができる。
本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において分散処理前のカーボンナノチューブの平均長さとは下記測定法によって求められた長さである。100%硫酸よりも強酸であり、酸度関数が−12以下である超酸、例えばクロロスルホン酸中にカーボンナノチューブの濃度が0.003質量%となるようにカーボンナノチューブを添加し、マグネティックスターラーで一昼夜攪拌した分散液をマイカ基板上にスピンコートする。その後、AFM((株)島津製作所社製、SPM9600M)により、カーボンナノチューブの直径が前記透過型電子顕微鏡で測定した平均直径以下の場合を孤立状態のカーボンナノチューブとみなし、それに該当する約100本のカーボンナノチューブ長さを測定し、その算術平均値を分散処理前のカーボンナノチューブの長さとした。
本発明において得られるカーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの平均長さは、2μm以上が好ましく、さらに好ましくは2μm〜6μmであり、特に好ましくは2.5μm〜5μmである。この範囲にあるカーボンナノチューブ分散液を利用した用途では、カーボンナノチューブが本来有する導電性や熱伝導性を良好に発揮するため好ましい。
本発明において得られるカーボンナノチューブ分散液を基材上に塗布することで導電性フィルムを形成することができる。カーボンナノチューブ分散液を塗布する方法は特に限定されない。公知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、ロールコーティングである。
分散液の塗布厚み(ウェット厚)は、塗布液の濃度にも依存するため、望む光透過率および表面抵抗値が得られれば特に規定する必要はないが、0.1μmから50μmであることが好ましい。さらに好ましくは1μmから20μmである。
水系のカーボンナノチューブ分散液を基材上に塗布するとき、分散液中にぬれ剤を添加しても良い。非親水性の基材に塗布する場合は、特に界面活性剤やアルコール等のぬれ剤を分散液中に添加することで、基材に分散液がはじかれることなく塗布することができる。ぬれ剤としてはアルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノールまたはエタノールが好ましい。メタノール、エタノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために、塗布後の基材乾燥時に容易に除去可能である。場合によってはアルコールと水の混合液を用いても良い。
このようにしてカーボンナノチューブ分散液を塗布した導電性フィルムは、分散液を基材に塗布した後、風乾、加熱、減圧などの方法により不要な分散媒を除去することができる。それによりカーボンナノチューブ集合体は、3次元編目構造を形成し、基材に固定化される。その後、液中の成分である分散剤を適当な溶媒を用いて除去する。この操作により、電荷の分散が容易になり、透明導電性フィルムの導電性が向上する。
上記分散剤を除去するための溶媒としては、分散剤を溶解するものであれば特に制限はなく、水性溶媒でも非水性溶媒でもよい。具体的には水性溶媒であれば、水やアルコール類、アセトニトリルが挙げられ、非水性溶媒であれば、クロロホルム、トルエンなどがあげられる。
上記のようにカーボンナノチューブ分散液を基材に塗布して透明導電性フィルムを形成後、このフィルムを有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料でオーバーコーティングすることも好ましい。オーバーコーティングすることにより、さらなる電荷の分散や、移動に効果的である。
また、透明導電性フィルムは、カーボンナノチューブ分散液中に有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料を含有させ、基材に塗布後、必要により加熱して塗膜の乾燥ないし焼付(硬化)を行っても得ることができる。その際の加熱条件は、バインダー種に応じて適当に設定する。バインダーが光硬化性または放射線硬化性の場合には、加熱硬化ではなく、塗布後直ちに塗膜に光または放射線を照射することにより塗膜を硬化させる。放射線としては電子線、紫外線、X線、ガンマー線等のイオン化性放射線が使用でき、照射線量はバインダー種に応じて決定する。
上記バインダー材料としては、導電性塗料に使用されるものであれば特に制限はなく、各種の有機および無機バインダー、すなわち透明な有機ポリマーまたはその前駆体(以下「有機ポリマー系バインダー」と称する場合もある)または無機ポリマーまたはその前駆体(以下「無機ポリマー系バインダー」と称する場合もある)が使用できる。有機ポリマー系バインダーは熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線、電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。適当な有機バインダーの例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6,10等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコーン樹脂、ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなどの有機ポリマー、ならびにこれらのポリマーの前駆体(モノマーまたはオリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により、あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により、透明被膜もしくはマトリックスを形成することができる。
有機ポリマー系バインダーとして好ましいのは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしては、スチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは、高硬度で耐擦過性に優れ、透明度の高い被膜もしくはマトリックスを形成することができる。
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機金属化合物(有機リン化合物、有機ボロン化合物、有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物など)がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
これらの無機ポリマー系バインダーを焼成すると、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜もしくはマトリックスを形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、透明性も高い。
バインダーの使用量は、オーバーコートをするのに十分な量、もしくは、液中に配合する場合には塗布に適した粘性を得るのに十分な量であればよい。少なすぎると塗布がうまくいかず、多すぎても導電性を阻害し良くない。
本発明で用いる分散媒としては、一般に前述したような溶媒を使用するが、光硬化性または放射線硬化性の有機ポリマー系バインダーの場合には、常温で液状のバインダーを選択することにより、無溶剤の分散体とすることができる。それにより、被膜の硬化乾燥時に溶媒の蒸発が起こらず、硬化時間が大幅に短縮され、かつ溶媒回収操作が不要となる。
本発明において得られるカーボンナノチューブ分散液には、必要に応じて、カップリング剤、架橋剤、安定化剤、沈降防止剤、着色剤、電荷調整剤、滑剤等の添加剤を配合することができる。
また、本発明において得られるカーボンナノチューブ分散液には、カーボンナノチューブ以外の導電性有機材料、導電性無機材料、あるいはこれらの材料の組合せをさらに含むことができる。
導電性有機材料としては、バッキーボール、カーボンブラック、フラーレン、多種カーボンナノチューブ、ならびにそれらを含む粒子や、スルホン酸等の有機酸、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、トリニトロフルオレノン(TNF)、クロラニル等のアクセプタ構造を分子内に有する有機化合物を用いることができる。
導電性無機材料としては、アルミニウム、アンチモン、ベリリウム、カドミウム、クロム、コバルト、銅、ドープ金属酸化物、鉄、金、鉛、マンガン、マグネシウム、水銀、金属酸化物、ニッケル、白金、銀、鋼、チタン、亜鉛、ならびにそれらを含む粒子があげられる。好ましくは、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、およびそれらの混合物があげられる。
これらの導電性材料を含有させ、あるいはオーバーコーティングして得たフィルムは、電荷の分散、または移動に非常に有利である。また、これらカーボンナノチューブ以外の導電性材料を含む層とカーボンナノチューブを含む層を積層させてもよい。
本発明に用いられる導電性フィルムの基材の素材は特に限定されず、樹脂、ガラスなどを挙げることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどを挙げることができる。ガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができる。また、これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。例えば、樹脂とガラスを組み合わせた基材、2種以上の樹脂を積層した基材などの複合基材であってもよい。樹脂フィルムにハードコートを設けたようなものであっても良い。また、これらフィルムをコロナ処理などの親水性化処理したフィルムでも良い。さらにこれらフィルム上にアンダーコート層を設けたフィルムでも良い。アンダーコート層の素材としては親水性の高い素材であることが好ましい。具体的には無機酸化物を用いることが好ましい。より好ましくは、チタニア、アルミナ、シリカである。これらの物質は、表面に親水基であるヒドロキシル基を有しており、高い親水性が得られるため好ましい。さらにアンダーコート層はこれらの無機酸化物と樹脂複合体でも良く、例えばシリカ微粒子とポリシリケートの複合物があげられる。
本発明において得られる導電性フィルムは、基材と接着させたまま使用することもできるし、基材から剥離させ自立フィルムとして用いることもできる。自立フィルムを作製するには、例えば、透明導電性フィルム上にさらに有機ポリマー系バインダーを塗布した後、基材を剥離すればよい。また、作製時の基材を熱分解により焼失あるいは溶融させ、別の基材に透明導電性フィルムを転写して用いることもできる。その際は、作製時の基材の熱分解温度が転写基材の熱分解温度より低いことが好ましい。
本発明において得られる導電性フィルムの厚さは、種々の範囲をとることができる。例えば、本発明の導電性フィルムは約0.5nm〜約1000μmの間の厚さとしうる。導電性フィルムの厚さは好ましくは約0.005〜約1000μm、より好ましくは約0.05〜約500μm、さらに好ましくは約1.0〜約200μm、さらに好ましくは約1.0〜約50μmである。
本発明において得られる導電性フィルムは、基材上にカーボンナノチューブが積層され、光透過率が85%以上、表面抵抗値が1×105Ω/□未満である導電性フィルムとすることも可能である。
導電性フィルムの透過率は、導電性フィルムの透過率/透明基材の光透過率>0.85であることが好ましく、0.99>導電性フィルムの透過率/透明基材の光透過率>0.90であることがより好ましい。また導電性フィルムの表面抵抗は、1×104Ω/□未満であることがより好ましく、5×103 Ω/□未満であることがさらに好ましい。
より好ましくは、透明導電体の550nmの光線透過率/透明基材の550nm光線透過率の比率が80%以上、表面抵抗値が100〜104Ω/□であることが好ましい。本発明において好ましい態様を採用することでこのような導電性フィルムを得ることが可能となる。この範囲にあることで、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどの透明導電膜付き基材として好ましく用いることができる。すなわち、1×100Ω/□以上であれば、上記の基材として透過率を高くかつ消費電力を少なくすることができ、1×104Ω/□以下であれば、タッチパネルの上記の座標読みとりにおける誤差の影響が小さくすることができる。
[用途]
本発明の透明導電性フィルムは、主に表面の平滑性が要求されるタッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の透明電極として用いられる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
(分散剤の重量平均分子量の測定)
分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリエチレングリコールによる校正曲線と対比させて分子量を算出した。
装置:株式会社島津製作所製 LC−10Aシリーズ
カラム:昭和電工株式会社製 GF−7M HQ
移動相:10mmol/L 臭化リチウム水溶液
流速:1.0ml/min
検出:示差屈折率計
カラム温度:25℃
(カーボンナノチューブ集合体評価)
[熱分析]
約1mgの試料を示差熱分析装置(島津製作所製 DTG−60)に設置し、50ml/分の空気供給量、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温した。そのときのDTA曲線から発熱による燃焼ピーク温度を読みとった。
[ラマン分光分析]
共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製 INF−300)に粉末試料を設置し、633nmのレーザー波長を用いて測定を行った。G/D比の測定に際しては、サンプルの異なる3ヶ所について分析を行い、その相加平均を求めた。
[透過型電子顕微鏡によるカーボンナノチューブ集合体の平均直径測定]
カーボンナノチューブ集合体1mgをエタノール1mLに入れて、約15分間超音波バスを用いて分散処理を行った。分散した試料をグリッド上に数滴滴下し、乾燥した。このように試料の塗布されたグリッドを透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM−2100)に設置し、測定を行った。測定倍率は5万倍から50万倍で行い、カーボンナノチューブの外径分布および層数分布の観察は40万倍で行った。加速電圧は120kVである。
[分散処理前のカーボンナノチューブ長さ測定]
クロロスルホン酸中にカーボンナノチューブの濃度が0.003質量%となるようにカーボンナノチューブ集合体を添加し、マグネティックスターラーで一昼夜攪拌した混合液を調製した。この混合液30μLをマイカ基板上に置き、回転数3000rpmで60秒間スピンコートした後、AFM((株)島津製作所社製、SPM9600M)により、カーボンナノチューブ分散体の直径が前記透過型電子顕微鏡で測定した平均直径以下の場合を孤立状態のカーボンナノチューブとみなし、それに該当する約100本のカーボンナノチューブ長さを測定し、算術平均をして平均長さを算出した。
(カーボンナノチューブ分散液評価)
[透過型電子顕微鏡によるカーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの平均直径測定]
カーボンナノチューブ分散液のカーボンナノチューブの濃度を0.1質量%に調整し、これをグリッド上に数滴滴下し、乾燥した。このグリッドを透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM−2100)に設置し、測定を行った。測定倍率は5万倍から50万倍で行い、カーボンナノチューブの外径分布および層数分布の観察は40万倍で行った。加速電圧は120kVである。
[AFMによるカーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの平均直径測定]
カーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に調整したカーボンナノチューブ分散液30μLをマイカ基板上に置き、回転数3000rpmで60秒間スピンコートしたのち、AFM((株)島津製作所社製、SPM9600M)により、ランダムに100本のバンドル状あるいは孤立したカーボンナノチューブの直径を測定し、算術平均して平均直径を算出した。
[AFMによるカーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの平均長さ測定]
カーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に調整したカーボンナノチューブ分散液30μLをマイカ基板上に置き、回転数3000rpmで60秒間スピンコートしたのち、AFM((株)島津製作所社製、SPM9600M)により、カーボンナノチューブの直径が前記透過型電子顕微鏡で測定した平均直径以下の場合を孤立状態のカーボンナノチューブとみなし、それに該当する約100本のカーボンナノチューブ長さを測定し、算術平均をして平均長さを算出した。
(カーボンナノチューブ分散液を塗布した透明導電性フィルム評価)
[光透過率測定]
光透過率はカーボンナノチューブ分散液塗布フィルムを分光光度計(日立製作所 U−2100)に装填し、波長550nmでの光透過率を測定した。
[表面抵抗測定]
表面抵抗値はJIS K7149(1994年12月制定)準処の4端子4探針法を用い、ロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いて行った。高抵抗測定の際は、ハイレスターUP MCP−HT450(ダイアインスツルメンツ製、10V、10秒)を用いて測定した。
(製造例)カーボンナノチューブ集合体の調製
(触媒調製例:マグネシアへの触媒金属塩の担持)
クエン酸アンモニウム鉄(和光純薬工業社製)2.46gをメタノール(関東化学社製)500mLに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷化学工業社製 MJ−30)を100.0g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理し、懸濁液を減圧下、40℃で濃縮堅固した。得られた粉末を120℃で加熱乾燥してメタノールを除去し、酸化マグネシウム粉末に金属塩が担持された触媒体を得た。得られた固形分は篩い上で、乳鉢で細粒化しながら、20〜32メッシュ(0.5〜0.85mm)の範囲の粒径を回収した。得られた触媒体に含まれる鉄含有量は0.38質量%であった。またかさ密度は、0.61g/mLであった。上記の操作を繰り返し、以下の実験に供した。
(カーボンナノチューブ集合体製造例:カーボンナノチューブ集合体の合成)
図2に示した装置を用いてカーボンナノチューブ集合体の合成を行った。反応器403は内径75mm、長さは1100mmの円筒形石英管である。中央部に石英焼結板402を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガス供給ラインである混合ガス導入管408、上部には廃ガス管406を具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器として3台の電気炉401を具備する。また反応管内の温度を検知するために熱電対405を具備する。
触媒調製例で調製した固体触媒体132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入することで触媒層404を形成した。反応管内温度が約860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けてマスフローコントローラー407を用いて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにマスフローコントローラー407を用いてメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように通気し、反応させた。この際の固体触媒体の重量をメタンの流量で割った接触時間(W/F)は、169min・g/L、メタンを含むガスの線速が6.55cm/secであった。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却した。
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒体とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ集合体を取り出した。
(カーボンナノチューブ集合体の精製および酸化処理)
カーボンナノチューブ集合体製造例で得られた触媒体とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ集合体を130g用いて4.8Nの塩酸水溶液2000mL中で1時間撹拌することで触媒金属である鉄とその担体であるMgOを溶解した。得られた黒色懸濁液は濾過した後、濾取物は再度4.8Nの塩酸水溶液400mLに投入し脱MgO処理をし、濾取した。この操作を3回繰り返した(脱MgO処理)。その後、イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ集合体を保存した。このとき水を含んだウェット状態のカーボンナノチューブ集合体全体の重量は102.7gであった(カーボンナノチューブ濃度:3.12質量%)。
得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体の乾燥重量分に対して、約300倍の重量の濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)を添加した。その後、約140℃のオイルバスで25時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ集合体を含む硝酸溶液をイオン交換水で3倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のカーボンナノチューブ集合体を得た。このとき水を含んだウェット状態のカーボンナノチューブ集合体全体の重量は3.351gあった(カーボンナノチューブ濃度:5.29wt%)。
(カーボンナノチューブ集合体の熱分析)
得られたカーボンナノチューブ集合体の熱分析を行った。燃焼ピーク温度は751℃であった。
(カーボンナノチューブ集合体の共鳴ラマン分光分析)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体を、ラマン分光測定した。その結果、波長633nmのラマン分光分析において、G/D比は43と、グラファイト化度の高い高品質二層カーボンナノチューブであることがわかった。
(カーボンナノチューブ集合体の高分解能透過型電子顕微鏡分析)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブはきれいなグラファイト層で構成されており、層数が二層のカーボンナノチューブが観察された。またカーボンナノチューブ100本中の80%以上(91本)を二層のカーボンナノチューブが占めていた。また3層以上のカーボンナノチューブは10%以下(5本)であった。任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについてカーボンナノチューブの外径を測定したときの算術平均値は1.7nmであった。
(分散処理前のカーボンナノチューブ長さ測定)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体をクロロスルホン酸中にカーボンナノチューブ集合体の濃度が0.003質量%となるようにカーボンナノチューブを添加し、マグネティックスターラーで一昼夜攪拌した混合液をマイカ基板上にスピンコートした。その後、AFM((株)島津製作所社製、SPM9600M)により、カーボンナノチューブの直径が前記透過型電子顕微鏡で測定した平均直径以下の場合を孤立状態のカーボンナノチューブとみなし、それに該当する約100本のカーボンナノチューブ長さを測定したときの算術平均値は4.3μmであった。
(カーボンナノチューブ集合体の体積抵抗率測定)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体(20mg)をN−メチルピロリドン16mLと混合し、超音波ホモジナイザーを用いて20Wで20分超音波照射した後、エタノール10mLと混合し、内径35mmφのろ過器を用いて吸引ろ過し、このろ取物をろ過器とろ取に用いたフィルターごと60℃で2時間乾燥機中で乾燥した。得られたカーボンナノチューブ膜をJISK7149準処の4端子4探針法を用いてロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定し、体積抵抗率を算出した結果、体積抵抗率は3.9×10―4Ω・cmであった。
[透明導電性フィルム作製]
(アンダーコート層作製例)
以下の操作によりポリシリケートをバインダーとし、直径30nmのシリカ微粒子が表出する親水シリカアンダーコート層を作製した。
約30nmの親水シリカ微粒子とポリシリケートを固形分濃度で1質量%含むメガアクア親水DMコート((株)菱和社製、DM―30―26G―N1)をシリカ膜作製用塗液として用いた。
ワイヤーバー#8を用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46)上に前記シリカ膜作製用塗液を塗布した。塗布後、140℃乾燥機内で1分間乾燥させた。
(カーボンナノチューブ層作製例)
カーボンナノチューブの濃度が0.035質量%のカーボンナノチューブ分散液を調製し、アンダーコート層を設けたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46、光透過率91.3%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いてこの塗布液を塗布して風乾した後、140℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。
(オーバーコート層作製例)
100mLポリ容器中に、エタノール20gを入れ、n−ブチルシリケート40gを添加し30分間撹拌した。その後、0.1N塩酸水溶液を10g添加した後2時間撹拌を行い4℃で12時間静置した。この溶液をトルエンとイソプロピルアルコールとメチルエチルケトンの混合液で固形分濃度が1質量%となるように希釈した。
この塗液をワイヤーバー#8を用いてカーボンナノチューブ層上に塗布後、175℃乾燥機内で1分間乾燥させた。
(実施例1)
得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体(乾燥重量換算37.5mg)、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)社製、セロゲン7A(重量平均分子量:19万))水溶液9.4gを容器に加え、その後、カーボンナノチューブの濃度が0.15質量%となるようにイオン交換水で希釈し、28%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を用いてpH10に調整した。この容器内の混合物を湿式ジェットミル((株)常光社製、ナノジェットパル(JN20))に供給し、処理圧力A=50MPa、処理回数B=10回(A×B=500)という条件で分散した結果、カーボンナノチューブ分散液22gを得た。上記のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブはきれいなグラファイト層で構成されており、層数が二層のカーボンナノチューブが観察された。またカーボンナノチューブ100本中の80%以上(91本)を二層のカーボンナノチューブが占めていた。また3層以上のカーボンナノチューブは10%以下(5本)であった。任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについてカーボンナノチューブの外径を測定したときの算術平均値は1.7nmであった。この分散液についてAFM測定を行ったところ、カーボンナノチューブの平均直径は1.7nmであり、孤立分散していた。また、カーボンナノチューブの平均長さは2.9μmであり、分散処理前の長さの67%保持していた。
その後、水を添加して終濃度でカーボンナノチューブ集合体の濃度が0.035質量%となるように調製してフィルム塗布液とした。アンダーコート層作製例に従って、アンダーコート層を設けたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46、光透過率91.3%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いてこの塗布液を塗布して風乾した後、140℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブ組成物を固定化した。その後、カーボンナノチューブ層上にオーバーコート層作製例に従って、オーバーコート層を設けた。得られた導電性フィルムの表面抵抗値は550Ω/□、光透過率は90%であった。
(実施例2)
実施例1において、処理圧力A=20MPa(A×B=200)とした以外は、実施例1と同様に分散した結果、カーボンナノチューブ分散液22gを得た。
次に、上記のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同等の割合で二層カーボンナノチューブを含み、外径を測定したときの算術平均値も同等であった。この分散液についてAFM測定を行ったところ、カーボンナノチューブの平均直径は1.9nmであり、孤立分散していた。また、カーボンナノチューブの平均長さは3.1μmであり、分散処理前の長さの72%保持していた。
その後、実施例1と同様に導電性フィルムを調製したところ、表面抵抗値は550Ω/□、光透過率は90%であった。
(実施例3)
実施例1において、処理回数B=3回(A×B=150)とした以外は、実施例1と同様に分散した結果、カーボンナノチューブ分散液22gを得た。
次に、上記のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同等の割合で二層カーボンナノチューブを含み、外径を測定したときの算術平均値も同等であった。この分散液についてAFM測定を行ったところ、カーボンナノチューブの平均直径は2.0nmであり、孤立分散していた。また、カーボンナノチューブの平均長さは3.0μmであり、分散処理前の長さの70%保持していた。
その後、実施例1と同様に導電性フィルムを調製したところ、表面抵抗値は450Ω/□、光透過率は90%であった。
(実施例4)
実施例3において、処理圧力A=20MPa(A×B=60)とした以外は、実施例1と同様に分散した結果、カーボンナノチューブ分散液22gを得た。
次に、上記のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同等の割合で二層カーボンナノチューブを含み、外径を測定したときの算術平均値も同等であった。この分散液についてAFM測定を行ったところ、カーボンナノチューブの平均直径は1.8nmであり、孤立分散していた。また、カーボンナノチューブの平均長さは3.7μmであり、分散処理前の長さの86%保持していた。
その後、実施例1と同様に導電性フィルムを調製したところ、表面抵抗値は450Ω/□、光透過率は90%であった。
(実施例5)
実施例4において、処理回数B=6回(A×B=120)とした以外は、実施例1と同様に分散した結果、カーボンナノチューブ分散液22gを得た。
次に、上記のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同等の割合で二層カーボンナノチューブを含み、外径を測定したときの算術平均値も同等であった。この分散液についてAFM測定を行ったところ、カーボンナノチューブの平均直径は2.2nmであり、孤立分散していた。また、カーボンナノチューブの平均長さは3.1μmであり、分散処理前の長さの72%保持していた。
その後、実施例1と同様に導電性フィルムを調製したところ、表面抵抗値は500Ω/□、光透過率は90%であった。
(比較例1)
実施例1において、処理圧力A=100MPa(A×B=1000)とした以外は、実施例1と同様に分散した結果、カーボンナノチューブ分散液22gを得た。
次に、上記のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同等の割合で二層カーボンナノチューブを含み、外径を測定したときの算術平均値も同等であった。この分散液についてAFM測定を行ったところ、カーボンナノチューブの平均直径は1.4nmであり、孤立分散していた。しかし、カーボンナノチューブの平均長さは2.2μmであり、分散処理前の平均長さの51%と60%に満たない結果であった。
その後、実施例1と同様に導電性フィルムを調製したところ、表面抵抗値は700Ω/□、光透過率は90%であった。実施例1の場合と比較するとカーボンナノチューブ分散体の直径は共に1.7nmプラス0.1nm以下であるため、孤立分散はしているが、カーボンナノチューブの平均長さが分散処理前の長さの51%と短いことから、処理圧力が100MPaと非常に高く、グラファイト構造の破壊が生じたために実施例1の場合よりも特性が劣ると考えられる。
(比較例2)
実施例1において、処理回数B=1回(A×B=50)とした以外は、実施例1と同様に分散した結果、カーボンナノチューブ分散液22gを得た。
次に、上記のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同等の割合で二層カーボンナノチューブを含み、外径を測定したときの算術平均値も同等であった。この分散液についてAFM測定を行ったところ、カーボンナノチューブの平均直径は2.7nmであり、十分に分散していなかった。また、カーボンナノチューブの平均長さは3.2μmであり、分散処理前の平均長さの74%保持していた。
その後、実施例1と同様に導電性フィルムを調製したところ、表面抵抗値は650Ω/□、光透過率は90%であった。実施例1の場合と比較するとカーボンナノチューブの平均長さは両者ともに分散処理前の60%以上保持しているが、カーボンナノチューブの平均直径が大きいことから十分に分散していないために実施例1の場合よりも特性が劣ると考えられる。
(比較例3)
実施例1において、分散装置を超音波ホモジナイザー(家田貿易(株)社製、VCX−130)に、分散条件を出力20W、7.5分間に変更した以外は、実施例1と同様にカーボンナノチューブ分散液を調製した。上記のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同等の割合で二層カーボンナノチューブを含み、外径を測定したときの算術平均値も同等であった。この分散液についてAFM測定を行ったところ、カーボンナノチューブの平均直径は1.4nmであり、孤立分散していた。しかし、カーボンナノチューブの平均長さは1.8μmであり、分散処理前の平均長さの42%と60%に満たない結果であった。
その後、実施例1と同様に導電性フィルムを調製したところ、表面抵抗値は750Ω/□、光透過率は90%であった。実施例1の場合と比較するとカーボンナノチューブの直径は共に1.7nmプラス0.1nm以下であるため、孤立分散はしているが、カーボンナノチューブの平均長さが分散処理前の平均長さの42%と短いことから、長時間の超音波処理によりグラファイト構造の破壊が生じたために実施例1の場合よりも特性が劣ると考えられる。