以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態による建設機械は、図1に示すようなクレーン1である。このクレーン1は、ホイール式の下部走行体2と、その下部走行体2上に縦軸回りに旋回自在となるように搭載された上部旋回体4とを備える。クレーン1は、エンジン6(図2参照)を備えており、下部走行体2は、このエンジン6から出力される動力により走行動作を行う。クレーン1は、公道を走行可能である。
また、クレーン1は、上部旋回体4に設けられた作業装置8を備える。作業装置8は、吊荷の吊作業(クレーン作業)を行うものである。作業装置8は、上部旋回体4に起伏自在となるように設けられた起伏部材であるブーム10と、そのブーム10の先端から吊り下げられて吊荷を吊るフック装置12と、ブーム10を起伏させる起伏装置14と、フック装置12の巻き上げ及び巻き下げを行う巻上ウインチ15とを備える。
起伏装置14は、起伏ウインチ16と、下部スプレッダ17と、上部スプレッダ18と、ガントリ19と、ガイロープ20とを有する。下部スプレッダ17は、上部旋回体4の後部に立設されたガントリ19の上端部に設けられており、上部スプレッダ18は、下部スプレッダ17から離間して設けられている。下部スプレッダ17のシーブと上部スプレッダ18のシーブには、起伏ウインチ16から引き出された起伏ロープ21が掛け回されている。ガイロープ20は、上部スプレッダ18とブーム10の先端部とを繋いでいる。起伏ウインチ16は、起伏ロープ21の巻き取り/繰り出しを行うことにより下部スプレッダ17に対する上部スプレッダ18の間隔を変化させ、それによって、ガイロープ20を介してブーム10を起伏させる。
巻上ウインチ15及び起伏ウインチ16は、油圧ウインチである。クレーン1は、エンジン6の動力によって駆動される図略の油圧ポンプを備えており、この油圧ポンプが供給する作動油の油圧により巻上ウインチ15及び起伏ウインチ16が駆動される。
そして、クレーン1は、下部走行体2による走行時及び作業装置8によるクレーン作業時にエンジン6の回転数を制御するための制御システム22(図2参照)を備える。
制御システム22は、第1操作装置24と、第2操作装置26と、モード切換装置28と、制御装置30とを有する。
第1操作装置24と第2操作装置26は、エンジン6の回転数の増減を指示するために用いられるアクセル操作装置である。クレーン1の走行時には、第1操作装置24が用いられる。作業装置8によるクレーン作業時には、第2操作装置26が主に用いられるが、第2操作装置26と第1操作装置24の両方を用いることもある。
第1操作装置24は、アクセルペダル32(以下、単にペダル32という)と、ペダル支持部34と、復帰装置36と、第1出力部38とを有する。
ペダル32は、オペレータの足踏みにより操作されるものである。ペダル32は、本発明による第1操作部の一例である。
ペダル支持部34は、ペダル32を第1基準位置から操作可能となるように支持する。具体的には、ペダル支持部34は、ペダル32が足踏みされていないときに最も浮き上がった位置である第1基準位置から下側へ変位可能となるようにそのペダル32を支持する。
復帰装置36は、ペダル32に加えられた操作力(踏込力)が解除された場合にペダル32を第1基準位置へ復帰させるものである。具体的に、復帰装置36は、ペダル32が第1基準位置から下側へ踏み込まれると、それに応じてペダル32を第1基準位置側へ戻す反力をペダル32に付与する。すなわち、オペレータは、復帰装置36によってペダル32に付与される反力に抗しながらペダル32を第1基準位置から下側へ踏み込む。このオペレータによる踏込力が解除されると、ペダル32は、復帰装置36から付与される反力により第1基準位置に復帰する。復帰装置36としては、走行車両のアクセル装置で一般的に採用される公知の復帰装置が用いられている。
第1出力部38は、制御装置30と第1信号線39を介して電気的に接続されている。第1出力部38は、ペダル32の第1基準位置からの操作量(踏込量)を検出し、その検出した操作量に応じたエンジン6の回転数の指令値である第1指令値を電気信号として制御装置30へ出力する。第1出力部38から出力される第1指令値は、ペダル32の操作範囲に対応して設定された所定の変動範囲を有する。すなわち、第1出力部38は、ペダル32の操作量が0(最低操作量)である第1基準位置にペダル32が配置されているときには第1指令値の変動範囲の最低値である第1指令最低値を出力し、ペダル32が第1基準位置から下側へ踏み込まれるに従って徐々に増加する第1指令値を出力し、ペダル32が下側へ最大に踏み込まれたときには第1指令値の変動範囲における最大値を出力する。第1指令最低値は、エンジン6がアイドリング状態になるエンジン回転数を指示する。第1出力部38としては、公知のポテンショメータ等が用いられる。
第2操作装置26は、アクセルグリップ42(以下、単にグリップ42という)と、グリップ支持部44と、第2出力部48とを有する。
グリップ42は、オペレータの手で操作されるものである。グリップ42は、本発明による第2操作部の一例である。
グリップ支持部44は、グリップ42を第2基準位置からその軸回りに回転操作可能となるように支持する。第2基準位置は、グリップ42の回転方向における一方側の最端の位置である。グリップ42は、第2基準位置から回転操作された後の位置で保持されるようにグリップ支持部44によって支持されている。すなわち、グリップ42には、その回転操作に対する抵抗力となる保持力が作用しており、オペレータがグリップ42を回転操作してグリップ42から手を離した場合に、前記保持力によりグリップ42がその回転操作後の位置で保持される。前記保持力はオペレータの手による操作力よりも小さいため、オペレータは、グリップ42を前記保持力に抗しながら回転操作することが可能である。
第2出力部48は、制御装置30と第2信号線40を介して電気的に接続されている。第2出力部48は、グリップ42の第2基準位置からの回転操作量を検出し、その検出した回転操作量に応じたエンジン6の回転数の指令値である第2指令値を電気信号として制御装置30へ出力する。第2出力部48から出力される第2指令値は、グリップ42の回転方向の操作範囲に対応して設定された所定の変動範囲を有する。すなわち、第2出力部48は、グリップ42の操作量が0(最低操作量)である第2基準位置にグリップ42が配置されているときには第2指令値の変動範囲の最低値である第2指令最低値を出力し、グリップ42が第2基準位置から回転操作されるに従って徐々に増加する第2指令値を出力し、グリップ42が第2基準位置から最大の操作位置まで回転操作されたときには第2指令値の変動範囲における最大値を出力する。第2指令最低値は、エンジン6がアイドリング状態になるエンジン回転数を指示する。第2出力部48としては、公知のポテンショメータ等が用いられる。
モード切換装置28は、クレーン1の運転モードを走行モードと作業モードとの間で切り換えるためのものである。走行モードは、作業装置8の作動を禁止し且つ下部走行体2の走行動作を許可する運転モードであり、クレーン1の走行時にはこの走行モードが選択される。クレーン1は、走行モードが選択された状態では公道を走行可能である。作業モードは、作業装置8の作動及び下部走行体2の走行動作を許可する運転モードであり、クレーン作業時にはこの作業モードが選択される。クレーン1は、作業モードが選択された状態では、下部走行体2が停止した状態で固定した位置において吊作業を行うだけではなく、作業装置8により吊荷を吊りながら下部走行体2により低速で走行する吊走行(ピックアンドキャリー)を行うことが可能となっている。この作業モードでは、クレーン1は、公道を走行できず、その走行は作業現場内等に限定される。
モード切換装置28は、モード切換スイッチ52と、切換装置本体54と、モード信号出力部56とを有する。
モード切換スイッチ52は、走行モードを指示する走行モード指示状態と作業モードを指示する作業モード指示状態とに切換可能となっている。具体的に、モード切換スイッチ52は、走行モード指示状態に対応する位置(以下、走行モード指示位置という)と作業モード指示状態に対応する位置(以下、作業モード指示位置という)との間で変位可能となるように切換装置本体54によって支持されている。モード切換スイッチ52は、オペレータによって操作されることにより、走行モード指示位置と作業モード指示位置との間で切り換えられる。
モード信号出力部56は、制御装置30と第3信号線57を介して電気的に接続されている。モード信号出力部56は、モード切換スイッチ52の状態に応じた電気信号であるモード指示信号を制御装置30へ出力する。具体的には、モード信号出力部56は、モード切換スイッチ52の位置を検出し、その検出した位置が走行モード指示位置である場合には走行モードを指示するモード指示信号を指定部59へ出力し、検出した位置が作業モード指示位置である場合には作業モードを指示するモード指示信号を指定部59へ出力する。
制御装置30は、クレーン1の各駆動部の制御を行うものである。制御装置30は、モード信号出力部56から入力されるモード指示信号が作業モードを指示するものである場合には、作業装置8の各駆動部へ作動を許可する指令信号を送るとともに下部走行体2の駆動装置へ作動を許可する指令信号を送る。このため、作業モードが選択されているときには、作業装置8は制御装置30から入力される指令信号に応じてクレーン作業のための動作が可能となり、下部走行体2は制御装置30から入力される指令信号に応じて走行が可能となる。また、制御装置30は、モード信号出力部56から入力されるモード指示信号が走行モードを指示するものである場合には、下部走行体2の駆動装置へ走行を許可する指令信号を送る一方、作業装置8の各駆動部へは作動を許可する指令信号を送らない。このため、走行モードが選択されているときには、下部走行体2は制御装置30から入力される指令信号に応じて走行が可能となる一方、作業装置8は制御装置30から作動許可の指令信号が入力されないことによりクレーン作業のための動作が禁止される。
また、制御装置30は、エンジン6の回転数の制御を行う。制御装置30には、第1出力部38から出力される第1指令値と、第2出力部48から出力される第2指令値と、モード信号出力部56から出力されるモード指示信号とが入力される。制御装置30は、図2に示すように、選択部58と、指定部59と、制御部60とを有する。
選択部58は、エンジン6の回転数の制御に用いる指令値である制御指令値を選択する。具体的に、選択部58には、第1出力部38から出力される第1指令値と第2出力部48から出力される第2指令値とが入力される。選択部58は、指定部59によって指定される選択方法で、入力される第1指令値及び第2指令値のうちのいずれかの指令値を制御指令値として選択する。なお、選択部58は、後述する第2選択方法が指定された場合において第1指令値と第2指令値が等しい場合には、その等しい値を制御指令値として選択する。
指定部59は、モード切換スイッチ52の状態に応じて選択部58に制御指令値の選択方法を指定する。
具体的に、指定部59には、選択部58に入力される第1指令値と同じ第1指令値が入力されるとともに、選択部58に入力される第2指令値と同じ第2指令値が入力される。指定部59は、モード信号出力部56から走行モードを指示するモード指示信号が入力される場合、すなわちモード切換スイッチ52が走行モード指示位置にある場合には、第1指令値を制御指令値として選択する第1選択方法を選択部58に指定する。また、指定部59は、モード信号出力部56から入力されるモード指示信号が走行モードを指示する信号から作業モードを指示する信号に切り換わったとき、すなわちモード切換スイッチ52が走行モード指示位置から作業モード指示位置に切り換えられたときに制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値である場合には、第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値を制御指令値として選択する第2選択方法を選択部58に指定する。一方、指定部59は、モード信号出力部56から入力されるモード指示信号が走行モードを指示する信号から作業モードを指示する信号に切り換わったときに制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値よりも大きい場合には、前記第1選択方法を選択部58に指定する。
制御部60は、エンジン6に付設された回転数調節部7と電気的に接続されている。制御部60は、エンジン6の回転数を選択部58によって選択された制御指令値が示す回転数に制御する。具体的に、制御部60は、選択部58によって選択された制御指令値が示す回転数にエンジン6の回転数が一致するようにエンジン6の回転数を調節することを指示するエンジン制御信号を回転数調節部7へ出力する。回転数調節部7は、入力されるエンジン制御信号に従って、そのエンジン制御信号が示す制御指令値の回転数にエンジン6の回転数が一致するようにエンジン6の回転数を調節する。
次に、本実施形態の制御システム22によるエンジン回転数の制御プロセスについて図3のフローチャートを参照して説明する。
まず、指定部59が、走行モード指示位置から作業モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作が行われたか否かを判断する(ステップS1)。具体的には、指定部59は、モード信号出力部56から入力されるモード指示信号を監視しており、そのモード指示信号が走行モードを指示する信号から作業モードを指示する信号へ変化したことを検知した場合に走行モード指示位置から作業モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作が行われたと判断し、その信号の変化を検知しない場合には切換操作は行われていないと判断する。
指定部59は、走行モード指示位置から作業モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作が行われたと判断した場合には、次に、第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値であるか否かを判断する(ステップS2)。
ここで、指定部59は、制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値であると判断した場合には、前記第2選択方法を選択部58に指定し、選択部58に、第1出力部38から入力される第1指令値と第2出力部48から入力される第2指令値とのうち高い方の指令値を制御指令値として選択させる(ステップS3)。なお、選択部58は、このような第2選択方法での制御指令値の選択において第1指令値と第2指令値とが等しい場合には、その等しい値を制御指令値として選択する。このことは、後述する各変形例でも同様である。
一方、上記ステップS2において、指定部59は、第2出力部48から出力される第2指令値が第2指令最低値ではない(第2指令最低値よりも大きい)と判断した場合には、前記第1選択方法を選択部58に指定し、選択部58に第1出力部38から入力される第1指令値を制御指令値として選択させる(ステップS4)。
また、上記ステップS1において、指定部59は、走行モード指示位置から作業モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作は行われていないと判断した場合には、次に、作業モード指示位置から走行モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作が行われたか否かを判断する(ステップS6)。具体的には、指定部59は、作業モードを指示する信号から走行モードを指示する信号へのモード指示信号の変化を検知した場合に作業モード指示位置から走行モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作が行われたと判断し、その信号の変化を検知しない場合には切換操作は行われていないと判断する。
指定部59は、作業モード指示位置から走行モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作が行われたと判断した場合には、前記第1選択方法を選択部58に指定し、選択部58に第1出力部38から入力される第1指令値を制御指令値として選択させる(ステップS7)。一方、指定部59は、作業モード指示位置から走行モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作は行われていないと判断した場合には、選択部58に現在選択している指令値を継続して制御指令値として選択することを指示する。選択部58は、この指示に従って、現在選択している指令値を継続して制御指令値として選択する(ステップS8)。具体的に、選択部58は、第1出力部38から入力される第1指令値を現在選択している場合には、継続して、第1出力部38から入力される第1指令値を制御指令値として選択し、第2出力部48から入力される第2指令値を現在選択している場合には、継続して、第2出力部48から入力される第2指令値を制御指令値として選択する。また、選択部58は、第1出力部38から入力される第1指令値と第2出力部48から入力される第2指令値が等しいことによりその等しい値を制御指令値として選択している場合には、継続して、その等しい値を制御指令値として選択する。
以上のような制御指令値の導出プロセスが繰り返し行われ、選択部58によって選択された制御指令値は、制御部60に逐次入力される。制御部60は、逐次入力される制御指令値が示す回転数を指示するエンジン制御信号をエンジン6の回転数調節部7へ逐次出力する。これにより、回転数調節部7は、入力されるエンジン制御信号が示す制御指令値の回転数にエンジン6の回転数が一致するようにエンジン6の回転数を逐次調節する。
以上のようにして本実施形態によるエンジン回転数の制御が行われる。
本実施形態では、モード切換スイッチ52が走行モード指示位置から作業モード指示位置に切り換えられた時点でグリップ42が第2基準位置に配置されて第2出力部48から制御装置30に第2指令最低値が入力される場合にのみ、エンジン回転数が第1指令値に応じた回転数に制御される状態から第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値に応じた回転数に制御される状態に切り換わる。グリップ42は回転操作後の位置で保持される操作部であるから、走行モードが選択されているときにグリップ42が誤操作された場合には、グリップ42はその誤操作された後の位置で保持される。このため、モード切換スイッチ52を走行モード指示位置から作業モード指示位置に切り換えたとしても、エンジン回転数は第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値に応じた回転数に制御されない。すなわち、エンジン回転数は、誤操作されて保持されたグリップ42の操作量に対応した高い回転数に制御されず、ペダル32の操作量に対応した第1指令値に応じた回転数に制御される。走行モードの終了時(クレーン1の走行の終了時)には、オペレータはペダル32に加えていた操作力(踏込力)を解除するから、ペダル32は第1基準位置に復帰して制御装置30に入力される第1指令値は第1指令最低値に低下する。このため、走行モードから作業モードへの切換時には、エンジン回転数は、低下した第1指令値に応じた低回転数に制御される。従って、本実施形態では、操作後の位置で保持されるグリップ42が走行モード中に誤操作されている場合であっても、走行モードから作業モードへの切換時に意図しないエンジン回転数の急上昇が発生するのを防止することができる。
また、本実施形態では、走行モードから作業モードへの切換時にグリップ42の誤操作や電気回路の天絡等のフェールにより第2出力部48から大きな値の第2指令値が制御装置30に入力されている場合でも、選択部58が第1指令値を制御指令値として選択することにより、エンジン回転数を走行モードのときと同様に第1指令値に応じた回転数に制御することができる。このため、走行モードから作業モードへの切換時にグリップ42の誤操作や電気回路の天絡等のフェールに起因して第2指令値が上昇していても、エンジン回転数が急変するのを確実に防ぐことができる。
図4には、上述した実施形態によるエンジン回転数の制御を行った場合の第1指令値の経時変化、第2指令値の経時変化及びエンジン制御信号が示す制御指令値の経時変化の一例と、比較例によるエンジン回転数の制御を行った場合のエンジン制御信号が示す制御指令値の経時変化とが示されている。なお、比較例によるエンジン回転数の制御では、モード切換スイッチ52が走行モード指示位置にあるときには第1指令値を制御指令値として選択し、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置にあるときには第1指令値及び第2指令値がどのような値であるかにかかわらず第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値を制御指令値として選択する。以下、図4を参照して本実施形態によるエンジン回転数の制御を行った場合の具体的な効果について説明する。
図4において最初のクレーン作業の期間には、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置に配置されて作業モードが選択されている。この期間中は、本実施形態及び比較例の両方で第1指令値と第2指令値との高位選択により第2指令値が制御指令値として選択されている。すなわち、グリップ42の回転操作量に応じてエンジン6の回転数が制御されている。
その後、モード切換スイッチ52が走行モード指示位置に切り換えられて走行モードが選択され、クレーン1の走行が行われる。この走行の期間中は、本実施形態及び比較例の両方で第1指令値が制御指令値として選択される。すなわち、ペダル32の操作量に応じてエンジン6の回転数が制御される。クレーン1の走行期間中は、通常、グリップ42は第2基準位置に戻される。すなわち、グリップ42の操作量は0であり、それに対応して第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値は第2指令最低値になる。しかし、グリップ42の誤操作や第2出力部48と制御装置30とを繋ぐ信号線の天絡等のフェールにより、図4に示すように走行期間の途中の時点Aで制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値から大きく上昇したとする。この場合、本実施形態及び比較例の両方において、第2指令値はエンジン回転数の制御に反映されず、走行期間中はペダル32の操作量に応じてエンジン6の回転数が制御される。
その後、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置に切り換えられて作業モードが選択され、クレーン作業が行われる。このモード切換スイッチ52の切換時点では、ペダル32の操作量が0になっていて第1出力部38から制御装置30に入力される第1指令値は第1指令最低値になっている一方、グリップ42の操作量に対応する第2指令値は走行期間に上昇した値のまま維持されているとする。
ここで、比較例のようにモード切換スイッチ52が作業モード指示位置にあるときには第1指令値及び第2指令値がどのような値であるかにかかわらず第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値が制御指令値として選択される場合には、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置に切り換えられた時点で制御指令値として第2指令値が選択されて制御指令値が意図しない高い値に急上昇する。その結果、エンジン回転数が意図しない高回転数に急上昇する。これに対し、本実施形態では、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置に切り換えられた時点で制御装置30に入力される第2指令値が第2最低指令値よりも大きいことから、走行期間の選択部58が第1指令値を制御指令値として選択する状態が維持され、第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値を制御指令値として選択する状態に切り換わらない。このため、走行モードから作業モードへの切換時に比較例のような意図しないエンジン回転数の急上昇が発生するのが防止される。切換後のクレーン作業の期間中は、本実施形態では、ペダル32の操作量に対応する第1指令値に応じてエンジン回転数が制御される。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含む。
例えば、上記実施形態の指定部59は、図5の第1変形例のフローチャートに示すように、ステップS1において走行モード指示位置から作業モード指示位置へのモード切換スイッチ52の切換操作が行われたと判断した後、ステップS2において第1出力部38から制御装置30に入力される第1指令値が第1指令最低値であり且つ第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値であるか否かを判断してもよい。この場合、指定部59は、制御装置30に入力される第1指令値が第1指令最低値であり且つ制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値であると判断した場合には、ステップS3で選択部58に第2選択方法を指定して第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値を制御指令値として選択させる。また、指定部59は、第1指令値と第2指令値の少なくとも一方が最低値ではないと判断した場合にはステップS4で選択部58に第1選択方法を指定して第1指令値を制御指令値として選択させる。
この第1変形例によれば、走行モードから作業モードへの切換時に第1出力部38から制御装置30に入力される第1指令値及び第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値の両方がそれぞれの最低値になっている状態で、エンジン回転数の制御が第1指令値に応じた回転数への制御から第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値に応じた回転数への制御に切り換わる。このため、このエンジン回転数の制御の切換時に確実にエンジン回転数を低回転数にすることができ、その後のクレーン作業が高いエンジン回転数で開始されるのを防ぐことができる。
また、第1参考例として、指定部59は、図6のフローチャートに示すように、ステップS2において第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値は第2指令最低値よりも大きいと判断した場合には、ステップS4において選択部58に予め設定された設定値である最低指令値を制御指令値として選択させてもよい。最低指令値は、エンジン6がアイドリング状態になる最低回転数を指示する指令値であり、制御装置30の図略の記憶部に記憶されている。選択部58は、記憶部に記憶された最低指令値をステップS4において読み出し、その読み出した最低指令値を制御指令値として選択する。
この第1参考例によれば、走行モードから作業モードへの切換時にグリップ42の誤操作や第2信号線40の天絡等のフェールにより大きな値の第2指令値が制御装置30に入力されている場合でも、エンジン回転数を第2指令値に応じた高い回転数ではなくエンジン6がアイドリング状態になる最低回転数に制御することができる。このため、走行モードから作業モードへの切換時にグリップ42の誤操作や第2信号線40の天絡等のフェールに起因して制御装置30に入力される第2指令値が上昇していても、エンジン回転数を最低回転数に抑制することができる。
また、第2参考例として、指定部59は、図7のフローチャートに示すように、ステップS2の判断として図5の第1変形例のステップS2と同様の判断を採用し、ステップS4の処理として図6の第1参考例のステップS4と同様の処理を採用してもよい。
また、上記実施形態の制御システム22は、図8の第2変形例のフローチャートに示すような制御指令値の導出プロセスを採用してもよい。
この第2変形例による制御指令値の導出プロセスでは、まず、指定部59が、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置にあるか否かを判断する(ステップS11)。具体的には、指定部59は、モード信号出力部56から制御装置30に入力されるモード指示信号を監視しており、そのモード指示信号が作業モードを指示する信号である場合にはモード切換スイッチ52が作業モード指示位置にあると判断する。
指定部59は、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置にあると判断した場合には、次に、選択部58による制御指令値の選択方法が第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値を制御指令値として選択する第2選択方法であるか否かを判断する(ステップS12)。
指定部59は、選択部58による制御指令値の選択方法が第2選択方法であると判断した場合には、そのまま選択部58に第2選択方法で制御指令値を選択させる。すなわち、選択部58に、第1出力部38から入力される第1指令値と第2出力部48から入力される第2指令値とのうち高い方の指令値を制御指令値として選択させる(ステップS13)。一方、指定部59は、選択部58による制御指令値の選択方法が第2選択方法ではないと判断した場合には、次に、第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値であるか否かを判断する(ステップS14)。
ここで、指定部59は、制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値であると判断した場合には、上記ステップS13と同様、第2選択方法を選択部58に指定し、選択部58に第1出力部38から入力される第1指令値と第2出力部48から入力される第2指令値とのうち高い方の指令値を制御指令値として選択させる(ステップS15)。一方、指定部59は、制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値ではない(第2指令最低値よりも大きい)と判断した場合には、第1選択方法を選択部58に指定し、選択部58に第1出力部38から入力される第1指令値を制御指令値として選択させる(ステップS17)。
また、上記ステップS11において、指定部59は、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置にないと判断した場合には、次に、モード切換スイッチ52が走行モード指示位置にあるか否かを判断する(ステップS16)。指定部59は、モード信号出力部56から制御装置30に入力されるモード指示信号が走行モードを指示する信号である場合にはモード切換スイッチ52が走行モード指示位置にあると判断する。
指定部59は、モード切換スイッチ52が走行モード指示位置にあると判断した場合には、第1選択方法を選択部58に指定し、選択部58に第1出力部38から入力される第1指令値を制御指令値として選択させ(ステップS17)、モード切換スイッチ52が作業モード指示位置にないと判断した場合には、上記実施形態のステップS8と同様に選択部58に現在選択している指令値を継続して制御指令値として選択させる。
以上のような制御指令値の導出プロセスが繰り返し行われ、選択部58によって逐次選択された制御指令値に応じて制御部60及び回転数調節部7によりエンジン6の回転数が上記実施形態と同様のプロセスで調節される。
図9には、この第2変形例によるエンジン回転数の制御を行った場合の第1指令値の経時変化、第2指令値の経時変化及びエンジン制御信号が示す制御指令値の経時変化の一例が示されている。
この第2変形例では、図9に示す走行期間の後のクレーン作業の期間の途中で、グリップ42が誤操作された位置から第2基準位置へ戻されて第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値まで低下し、それに応じて、指定部59が上記ステップS14で制御装置30に入力される第2指令値は第2指令最低値であると判断する。その結果、指定部59は、選択部58に第2選択方法を指定して上記ステップS15の制御指令値の選択が選択部58によって行われる。その後、繰り返し行われる制御指令値の導出プロセスでは、指定部59は、ステップS12で選択部58による制御指令値の選択方法が第2選択方法であると判断し、ステップS13で選択部58に継続して第2選択方法で制御指令値を選択させる。このため、時点B以降にグリップ42が第2基準位置から操作されて第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値が第1出力部38から制御装置30に入力される第1指令値よりも高い値になると、その第2指令値が制御指令値として選択されてその第2指令値に応じた回転数にエンジン回転数が制御される。
また、制御指令値の導出プロセスとして、図10の第3変形例のフローチャートに示すように、上記第2変形例による導出プロセスのステップS14(図8参照)を上記第1変形例による導出プロセスのステップS2(図5参照)と同様の判断に置き換えた導出プロセスを採用してもよい。この第3変形例による制御指令値の導出プロセスにおいて、指定部59は、ステップS14で制御装置30に入力される第1指令値が第1指令最低値であり且つ制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値であると判断した場合には、ステップS15で選択部58に第2選択方法を指定して第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値を制御指令値として選択させる。また、指定部59は、第1指令値と第2指令値の少なくとも一方が最低値ではないと判断した場合にはステップS17で選択部58に第1選択方法を指定して第1指令値を制御指令値として選択させる。この第3変形例によれば、上記第1変形例で説明した効果と同様の効果が得られる。
また、第3参考例として、指定部59は、図11のフローチャートに示すように、ステップS14において第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値であると判断した場合にはステップS13で選択部58に第2選択方法を指定して第1指令値と第2指令値のうちの高い方の指令値を制御指令値として選択させ、ステップS14において第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値が第2指令最低値ではないと判断した場合にはステップS15において選択部58に最低指令値を選択させてもよい。この第3参考例における最低指令値は、上記第1参考例における最低指令値と同じものである。また、この第3参考例による制御指令値の導出プロセスの上記以外の処理は、上記第2変形例の場合と同様である。この第3参考例によれば、上記第1参考例で説明した効果と同様の効果が得られる。
また、第4参考例として図12のフローチャートに示すように、制御指令値の導出プロセスとして、上記第3参考例による導出プロセスのステップS14(図11参照)を上記第3変形例による導出プロセスのステップS14(図10参照)と同様の判断に置き換えた導出プロセスを採用してもよい。
また、制御指令値として第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値を制御指令値として選択する選択方法を第2選択方法としてもよい。具体的には、図13の第4変形例のフローチャートに示すように、制御指令値の導出プロセスのステップS3で、指定部59が選択部58に第2指令値を制御指令値として選択する選択方法を第2選択方法として指定し、それに応じて選択部58が第2出力部48から制御装置30に入力される第2指令値を制御指令値として選択すればよい。なお、同様に、上記各変形例のステップS3及びステップS13で行われる第2選択方法での制御指令値の選択を、制御装置30に入力される第2指令値を制御指令値として選択する選択方法で行ってもよい。また、図14の第5変形例のフローチャートに示すように、制御指令値の導出プロセスのステップS15でも同様に、制御装置30に入力される第2指令値を制御指令値として選択する第2選択方法を採用してもよい。これは、他の各変形例においても同様である。このような第2選択方法を採用する変形例でも、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、上記実施形態の制御システム22において、第1信号線39を互いに独立した2系統にするとともに、第2信号線40を互いに独立した2系統にしてもよい。この場合には、第1信号線39の独立した各系統から制御装置30にそれぞれ第1指令値が入力されるとともに、第2信号線40の独立した各系統から制御装置30にそれぞれ第2指令値が入力される。指定部59は、第1信号線39の各系統から制御装置30に入力される第1指令値が等しい場合にはその等しい第1指令値を用いて上述の制御プロセスを行う。一方、指定部59は、第1信号線39の一方の系統から制御装置30に入力される第1指令値が第1信号線39の他方の系統から制御装置30に入力される第1指令値と異なる場合には、それら各系統から入力される第1指令値のうちの低い方の指令値を選択し、その選択した値を第1指令値として用いて上述の制御プロセスを行う。また、指定部59は、第2信号線40の2系統から制御装置30に入力される第2指令値についても第1信号線39の2系統から制御装置30に入力される第1指令値の場合と同様に扱う。
この変形例によれば、第1信号線39の2系統のうちのいずれかで天絡等のフェールが生じてその系統から制御装置30に入力される第1指令値が上昇した場合でも、もう一方の系統から制御装置30に入力される低い方の第1指令値がエンジン6の回転数の制御に用いられるため、単一の系統の第1信号線を通じて第1出力部38から制御装置30に第1指令値が入力される構成に比べて、第1信号線39の天絡等のフェールに起因した意図しないエンジン回転数の上昇の発生の確率を低減することができる。同様に、単一の系統の第2信号線40を通じて第2出力部48から制御装置30に第2指令値が入力される構成に比べて、第2信号線40の天絡等のフェールに起因した意図しないエンジン回転数の上昇の発生の確率を低減することができる。
なお、第1信号線39と第2信号線40のいずれか一方のみを2系統にし、他方は単一の系統のままにしてもよい。
また、本発明の第1操作部は、必ずしもアクセルペダル32に限定されるものではなく、本発明の第2操作部は、必ずしもアクセルグリップ42に限定されるものではない。すなわち、本発明の第1操作部としてアクセルペダル32以外の操作部を適用可能であり、本発明の第2操作部としてアクセルグリップ42以外の操作部を適用可能である。
また、本発明は、クレーン以外の建設機械、例えばホイール式のショベル等にも適用可能である。