以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)炭酸カルシウムと、(C)飽和脂肪酸3質量部以下と、(D)非高分子反応性窒素化合物0.05質量部以上とを含む樹脂組成物であって、(D)非高分子反応性窒素化合物に対する(C)飽和脂肪酸の含有比が、質量基準で8〜30である樹脂組成物である。
本実施形態に係る(A)ポリアセタール樹脂としては、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーが挙げられ、公知のものを用いてもよい。
ポリアセタールホモポリマーは、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)及び4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られるものである。したがって、ポリアセタールホモポリマーは、実質的にオキシメチレン単位からなる。
ポリアセタールコポリマーは、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)及び4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマールなどのグリコール又はジグリコールの環状ホルマール等の、環状エーテル又は環状ホルマールとを共重合させて得られるものである。また、ポリアセタールコポリマーとして、ホルムアルデヒドの単量体及び/又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマー、並びに、多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーを用いることもできる。
さらには、(A)ポリアセタール樹脂は、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えばポリアルキレングリコール、の存在下、ホルムアルデヒドの単量体又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーを重合して得られるブロック成分を有するポリアセタールホモポリマーであってもよい。
同じく、(A)ポリアセタール樹脂は、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えば水素添加ポリブタジエングリコール、の存在下、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)及び4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと環状エーテル又は環状ホルマールとを共重合させて得られるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーであってもよい。
以上のように、本実施形態に係る(A)ポリアセタール樹脂として、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーのいずれも用いられ得る。また、これら(A)ポリアセタール樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。この場合、(A)ポリアセタール樹脂は、ポリアセタールコポリマーを過半以上含むものが好ましく、80質量%以上含むものがより好ましく、実質的にほぼすべて(95質量%以上)がポリアセタールコポリマーであることが最も好ましい。なお、ここでのパーセンテージは、(A)ポリアセタール樹脂の全体量を100質量%としたものに基づく。
ポリアセタールコポリマーを得る方法について、以下に詳細に述べる。
トリオキサンを用いてポリアセタールコポリマーを得る場合、上記1,3−ジオキソラン等のコモノマーは、一般的には、トリオキサン100mol%に対して0.1〜60mol%、好ましくは0.1〜20mol%、更に好ましくは0.13〜10mol%用いられる。本実施形態において、ポリアセタールコポリマーの好適な融点は162℃〜173℃であり、より好ましくは167℃〜173℃、更に好ましくは167℃〜171℃である。その融点が167℃〜171℃であるポリアセタールコポリマーは、トリオキサン100mol%に対して1.3〜3.5mol%程度のコモノマーを用いることにより得ることができる。
ポリアセタールコポリマーの重合に用いられる重合触媒としては、ルイス酸、プロトン酸及びそのエステル又は無水物等のカチオン活性触媒が好ましい。ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、より具体的には、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。また、プロトン酸、そのエステル又は無水物の具体例としては、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸−3級ブチルエステル、アセチルパークロラート及びトリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。これらの中でも、三フッ化ホウ素;三フッ化ホウ素水和物;及び、酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましく、具体的には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル及び三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテルが好適な例として挙げられる。
また、ポリアセタールコポリマーを得る際には、重合触媒に加えて、メチラール等の重合連鎖剤(連鎖移動剤)を適宜用いてもよい。さらにメチラールを用いる際、含有水分量量が100ppm以下で含有メタノール量が1質量%以下のもの、より好ましくは、含有水分量が50ppm以下で含有メタノール量が0.7質量%以下のメチラールが好ましい。
ポリアセタールコポリマーは、従来公知の方法、例えば、米国特許第3027352号明細書、同第3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、同第1495228号明細書、同第1720358号明細書、同第3018898号明細書、特開昭58−98322号公報及び特開平7−70267号公報に記載の方法によって重合することができる。上記の重合により得られたポリアセタールコポリマーには、熱的に不安定な末端部(−(OCH2)n−OH基;以下、「不安定末端部」という。)が存在するため、そのままでは実用に供することは困難である。そこで、不安定末端部の分解除去処理を実施することが好ましく、具体的には、以下に示す特定の不安定末端部の分解除去処理を行うことが好適である。すなわち、その特定の不安定末端部の分解除去処理では、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の第4級アンモニウム化合物の存在下に、ポリアセタールコポリマーの融点以上260℃以下の温度で、ポリアセタールコポリマーに対して、それを溶融させた状態で加熱処理を施す。
[R1R2R3R4N+]nXn- (1)
ここで、式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立して、炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基;炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基における少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜20のアリール基で置換されたアラルキル基;又は、炭素数6〜20のアリール基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜30の置換又は非置換のアルキル基で置換されたアルキルアリール基を示し、置換又は非置換のアルキル基は直鎖状、分岐状、若しくは環状である。上記置換アルキル基における置換基は、ハロゲン原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、又はアミド基であると好ましい。また、上記非置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基及びアルキルアリール基において、水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。nは1〜3の整数を示す。Xは水酸基、又は、炭素数1〜20のカルボン酸、ハロゲン化水素以外の水素酸、オキソ酸、無機チオ酸若しくは炭素数1〜20の有機チオ酸の酸残基を示す。
第4級アンモニウム化合物は、上記一般式(1)で表わされるものであれば特に制限はないが、本発明による上記効果をより有効かつ確実に奏する観点から、一般式(1)におけるR1、R2、R3、及びR4が、各々独立して、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、更に、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つが、ヒドロキシエチル基であるものが特に好ましい。具体的には、テトラメチルアンモニウム、テトエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、1,6−ヘキサメチレンビス(トリメチルアンモニウム)、デカメチレン−ビス−(トリメチルアンモニウム)、トリメチル−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム、トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム、トリプロピル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム、トリ−n−ブチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、トリプロピルベンジルアンモニウム、トリ−n−ブチルベンジルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム、トリメチル−2−オキシエチルアンモニウム、モノメチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、モノエチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、オクダデシルトリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、テトラキス(ヒドロキシエチル)アンモニウム等の水酸化物;それらのアンモニウムの塩酸、臭酸、フッ酸等の水素酸塩;それらのアンモニウムの硫酸、硝酸、燐酸、炭酸、ホウ酸、塩素酸、よう素酸、ケイ酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、クロロ硫酸、アミド硫酸、二硫酸、トリポリ燐酸等のオキソ酸塩;それらのアンモニウムのチオ硫酸などのチオ酸塩;それらのアンモニウムの蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸、シュウ酸などのカルボン酸塩が挙げられる。これらの中でも、アンモニウムの水酸化物(OH-)、並びに、硫酸(HSO4 -、SO4 2-)、炭酸(HCO3 -、CO3 2-)、ホウ酸(B(OH)4 -)、及びカルボン酸の塩が好ましい。カルボン酸の中では、蟻酸、酢酸、プロピオン酸が特に好ましい。第4級アンモニウム化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、上記第4級アンモニウム化合物に加えて、公知の不安定末端部の分解促進剤であるアンモニアやトリエチルアミン等のアミン類を併用してもよい。
第4級アンモニウム化合物の使用量は、ポリアセタールコポリマーと第4級アンモニウム化合物との合計質量に対する下記式(2)で表わされる第4級アンモニウム化合物由来の窒素量に換算して、好ましくは0.05〜50質量ppm、より好ましくは1〜30質量ppmである。
P×14/Q (2)
ここで、式(2)中、Pは第4級アンモニウム化合物のポリアセタールコポリマーに対する濃度(質量ppm)を示し、14は窒素の原子量であり、Qは第4級アンモニウム化合物の分子量を示す。
第4級アンモニウム化合物の使用量が0.05質量ppm以上であると不安定末端部の分解除去速度の低下を抑制しやすくなり、50質量ppm以下であると不安定末端部の分解除去後のポリアセタールコポリマーの色調の悪化を抑制しやすくなる。
本実施形態に係る(A)ポリアセタール樹脂の不安定末端部は、融点以上260℃以下の温度でポリアセタールコポリマーを溶融させた状態で熱処理すると、分解除去されるので好ましい。この分解除去処理に用いる装置としては特に制限はないが、押出機、ニーダー等が好適である。分解により発生したホルムアルデヒドは通常、減圧下で除去される。第4級アンモニウム化合物をポリアセタールコポリマー中に存在させる方法には特に制約はなく、例えば、重合触媒を失活する工程において水溶液として添加する方法、重合により生成したポリアセタールコポリマーパウダーに吹きかける方法が挙げられる。いずれの方法を用いても、ポリアセタールコポリマーを加熱処理する工程において、そのコポリマー中に第4級アンモニウム化合物が存在していればよい。例えば、ポリアセタールコポリマーが溶融混練され押し出される押出機の中に第4級アンモニウム化合物を注入してもよい。あるいは、その押出機等を用いて、ポリアセタールコポリマーに充填剤や顔料を配合する場合、ポリアセタールコポリマーを含む樹脂ペレットに第4級アンモニウム化合物をまず添着し、その後の充填剤や顔料の配合時に不安定末端部の分解除去処理を行ってもよい。
不安定末端部の分解除去処理は、重合により得られたポリアセタールコポリマーと共存する重合触媒を失活させた後に行うことも可能であり、重合触媒を失活させずに行うことも可能である。重合触媒の失活処理としては、アミン類(例えばトリエチルアミン)等の塩基性の水溶液中で重合触媒を中和失活する方法が挙げられる。重合触媒の失活を行わない場合、ポリアセタールコポリマーの融点以下の温度で不活性ガス雰囲気下にてそのコポリマーを加熱し、重合触媒を揮発により減少させた後、不安定末端部の分解除去操作を行うことも有効な方法である。
上述のような不安定末端部の分解除去処理により、不安定末端部がほとんど存在しない非常に熱安定性に優れたポリアセタールコポリマーを得ることができる。
本実施形態に係る(B)炭酸カルシウムとは、CaCO3の組成式で表される成分をいい、不純物を含んでもよく、天然のものをそのまま適宜の大きさに粉砕、分級したもの、軽質炭酸カルシウムと呼ばれるものなどの人工的に合成された炭酸カルシウム、すなわち沈降炭酸カルシウムも包含される。これらの中でも、人工的に合成された軽質炭酸カルシウムが、その粒子形状が一様であり、かつ粒子径分布が比較的シャープであるため、本実施形態には適する。
(B)炭酸カルシウムは粒子状であるが、その形状が特に限定されるものではない。その形状としては、具体的には、球形、立方形、紡鍾形、薄片形、不定形等が挙げられる。
これらのうち、成形体、特に射出成形体の異方性低減、機械的強度向上の観点から、立方形のものが好ましく、粒子の平均長径(L)と平均短径(D)との比であるアスペクト比(L/D)が3以下であるものが更に好ましい。また、結晶形態としては、一般的に知られているカルサイト型、アラゴナイト型及びパテライト型のいずれであってもよく、これらのうち、ポリアセタール樹脂との界面密着性、組成物の機械的物性のバランスを向上させる観点から、カルサイト型のものが好ましい。
人工的に合成された(B)炭酸カルシウムは、コロイド状炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム又は活性炭酸カルシウムと呼ばれるものが好ましい。これらの中でも、スラリー状の水酸化カルシウムに二酸化炭素を反応させて製造されたものが特に好ましい。
樹脂組成物に配合する前の(B)炭酸カルシウムの数平均粒子径は、特に制限はないが、好ましい上限の数平均粒子径は、1μmである。より好ましくは、800nmであり、更に好ましくは700nmであり、最も好ましくは500nmである。無着色時の成形片の白度を下げずないためには、上限を1μm以下とすることが推奨される。下限は特にはないが、押出機への供給容易性の観点より、50nmとすることが好ましい。混合作業時の舞い上がりを抑制する観点からは、下限は100nmとすることがより好ましい。
また、樹脂組成物中の(B)炭酸カルシウムの数平均粒子径にも特に制限はないが、好ましい数平均粒子径の上限は、1μmであり、より好ましくは800nmであり、更に好ましくは700nmである。樹脂組成物の機械的特性(特に引張伸びや衝撃強度)の低下を抑制する観点から、上限を1μmとすることが好ましい。樹脂組成物中の(B)炭酸カルシウムの数平均粒子径の下限は、特に制限はないが、樹脂組成物の流動性低下を抑制するために、100nm以上であることが好ましい。
ここでいう数平均粒子径とは、(B)炭酸カルシウムを0.01〜0.2体積%の量で精製水中に分散させ、公知の界面活性剤を添加し、超音波振動をかけながらレーザー回折散乱式粒度計で測定した50%メジアン径である。この際、炭酸カルシウムの屈折率は、1.59〜1.60、分散媒(水)の屈折率は1.33として測定する。具体的に市販されているレーザー回折散乱式粒度計としては、島津製作所製のSALD−2000J、セイシン企業製のLMS−2000e等が挙げられる。
また、樹脂組成物中の(B)炭酸カルシウムの数平均粒子径は、そのままでは確認が容易ではないので、本実施形態においては、樹脂組成物又は成形体を電気炉等で焼却した残渣を用いて代用する。具体的な焼却の手法は、樹脂組成物(例えばペレット)又は成形体を酸素存在雰囲気で、450℃で2時間焼却する。残渣の数平均粒子径は、上述したレーザー回折散乱式粒度計を用いて同様に測定することで得られる。
本実施形態に係る(B)炭酸カルシウムは、表面処理されていないものが望ましい。ここでいう「表面処理」とは、炭酸カルシウムの製造工程において、粒子の凝集を防止する目的で、公知の表面処理剤、付着剤又は錯化剤、及び凝集防止剤の少なくとも1種が添加され、その結果、該物質によって炭酸カルシウムの表面が被覆されていることをいう。
ここで、表面処理剤、付着剤又は錯化剤、及び凝集防止剤とは、例えば「分散・凝集の解明と応用技術、1992年」(北原文雄監修・(株)テクノシステム発行)の232〜237ページに記載されているようなアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン系界面活性剤が挙げられる。また、アミノシラン、エポキシシラン等のシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸(飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸)、脂肪族カルボン酸、樹脂酸及び金属セッケンが例示される。
(B)炭酸カルシウムが上記表面処理を施されていないことにより、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物の特徴である寸法安定性をより高く維持することが可能となる。なお、表面処理を施されていないことは、上記表面処理剤、付着剤又は錯化剤、及び凝集防止剤が、炭酸カルシウムの粒子に含まれていないことにより確認することができる。
本実施形態においては、(B)炭酸カルシウムは、特定の粒子形状、粒子径、結晶形態のものを単独で用いることはもちろんのこと、粒子形状、粒子径及び結晶形態のうち少なくとも1つが異なる2種以上の炭酸カルシウムを組み合わせて用いてもよい。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において、(B)炭酸カルシウムの配合量の下限は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して10質量部であると好ましく、より好ましくは15質量部であり、更に好ましくは20質量部であり、特に好ましくは25質量部である。成形体の収縮率を、部材、例えば精密な歯車に適した収縮率とするためには、下限は10質量部とする必要がある。また、(B)炭酸カルシウムの配合量の上限は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して100質量部であると好ましく、より好ましくは80質量部であり、更に好ましくは60質量部であり、特に好ましくは50質量部である。得られる樹脂組成物の流動性の低下を防止し、歯こぼれ等の実用上の不具合をなくす観点から、上限は100質量部とする必要がある。
次に、本実施形態に係る飽和脂肪酸について詳述する。本実施形態で用いることができる飽和脂肪酸は、分子構造内に炭素−炭素不飽和結合を有しない直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基にカルボキシル基が結合した構造の脂肪酸をいう。好ましくは、分子内の合計炭素原子数(以下、単に「炭素数」と略記することがある。)が12〜30の飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸の具体例としては、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデシル酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ナノデカン酸(ツベルクロステアリン酸)、イコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラドコサン酸(リグノセリン酸)、ヘキサドコサン酸(セロチン酸)、オクタドコサン酸(モンタン酸)及びメリシン酸が挙げられる。これらの中でも好ましいのは、炭素数が14〜22の脂肪酸である。具体的には、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ナノデカン酸(ツベルクロステアリン酸)、イコサン酸(アラキジン酸)及びドコサン酸(ベヘン酸)が挙げられる。更には、これらの中でも、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)及びドコサン酸(ベヘン酸)がより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、本発明による課題の解決を阻害しない範囲で、分子構造内に炭素−炭素不飽和結合を有する直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基にカルボキシル基が結合した構造の脂肪酸(以下、単に「不飽和脂肪酸」という。)を含んでもよく、そのような脂肪酸を不純物として含んでもよい。不飽和脂肪酸の例としては、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸及びステアロール酸が挙げられる。本実施形態の樹脂組成物において、これら不飽和脂肪酸の含有量は、飽和脂肪酸100質量部に対して10質量部未満であることが望ましい。
本実施形態における飽和脂肪酸は、天然のものであっても合成されたものであってもよい。天然の油脂や動植物油を原料とした脂肪酸を飽和脂肪酸として用いた場合、複数の炭素数の異なる飽和脂肪酸の混合物であってもよい。
また、飽和脂肪酸が、その一部に、ヒドロキシ基等の官能基で置換されているものを含んでいてもよい。本実施形態の樹脂組成物において、官能基で置換された飽和脂肪酸の含有量は、飽和脂肪酸の全体量100質量部に対して、10質量部未満であることが望ましい。
本実施形態において、飽和脂肪酸は、単独で用いても、炭素数の異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。通常、特に天然の油脂又は動植物油を原料とした飽和脂肪酸は少量の炭素数の異なる構造体を含んでいるので、そのような飽和脂肪酸を用いてもよい。
本実施形態の樹脂組成物における(C)飽和脂肪酸の含有量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対し、3質量部以下であり、0.5〜3質量部であると好ましい。そのより好ましい下限は、0.7質量部であり、更に好ましくは、0.8質量部であり、特に好ましくは1.0質量部である。また、そのより好ましい上限は2.5質量部であり、更に好ましくは2質量部であり、特に好ましくは1.8質量部である。成形時の熱安定性低下を更に抑制する観点から、その下限は0.5質量部とすると好ましく、寸法安定性の低下を抑制する観点から、その上限は3質量部である。
また、本実施形態の樹脂組成物において、(C)飽和脂肪酸の含有量は、上述の範囲内で、更に(B)炭酸カルシウム100質量部に対して、2〜6質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましい下限は2.5質量部であり、より好ましい上限は5.5質量部である。(B)炭酸カルシウム100質量部に対する(C)飽和脂肪酸の含有量は、金型汚染をより抑制するためには、2質量部以上とすることが好ましく、成形体表面へのブリード発生(ブリードアウト)を更に抑制し、寸法安定性の低下をより防止するためには、6質量部以下とすることが好ましい。
次に、本実施形態における(D)非高分子反応性窒素化合物について詳述する。(D)非高分子反応性窒素化合物とは、ポリアセタール樹脂の熱加工時に発生するホルムアルデヒドと反応し、ホルムアルデヒドを捕捉する性能を有するもののうち、高分子の反応性窒素化合物を除くものであり、従来、そのような性能を有する反応性窒素化合物として知られている化合物であってもよい。
本実施形態においては、反応性窒素化合物は、ホルムアルデヒド捕捉材としてよりも、樹脂組成物の成形時の寸法安定効果を発現する目的で用いられる。一般的に反応性窒素化合物は、高分子の反応性窒素化合物も包含するが、本実施形態において、目的である寸法安定性を有しないため、除外される。非高分子反応性窒素化合物は、繰り返し単位を有していないことが好ましいが、有していてもよく、その場合、その繰り返し数は3以下であることが好ましい。
高分子の反応性窒素化合物としては、分子構造中にアミド結合を有するポリアミド樹脂が挙げられる。その具体例としては、ポリアミド4,6、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド12、及びこれらの共重合体が挙げられる。
非高分子反応性窒素化合物としては、グアナミン化合物、メラミン、ヒドラジド化合物、及びこれらとホルムアルデヒドとの反応生成物からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
グアナミン化合物としては、脂肪族グアナミン系化合物、脂環族グアナミン系化合物、芳香族グアナミン系化合物及びヘテロ原子含有グアナミン系化合物が例示できる。
脂肪族グアナミン系化合物の例としては、バレログアナミン、カプログアナミン、ヘプタノグアナミン、カプリログアナミン及びステアログアナミンなどのモノグアナミン類;並びに、サクシノグアナミン、グルタログアナミン、アジポグアナミン、ピメログアナミン、スベログアナミン、アゼログアナミン及びセバコグアナミンなどのアルキレンビスグアナミン類が挙げられる。
脂環族グアナミン系化合物の例としては、シクロヘキサンカルボグアナミン、ノルボルネンカルボグアナミン、シクロヘキセンカルボグアナミン及びノルボルナンカルボグアナミンなどのモノグアナミン類;並びに、それらのシクロアルカン残基に官能基、例えば、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アセトアミノ基、ニトリル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルコキシ基、フェニル基、クミル基及びヒドロキシフェニル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基、が1〜3個置換した誘導体が挙げられる。
芳香族グアナミン系化合物の例としては、ベンゾグアナミン、ベンゾグアナミンのフェニル残基に官能基、例えば、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アセトアミノ基、ニトリル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルコキシ基、フェニル基、クミル基及びヒドロキシフェニル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基、が1〜5個置換した誘導体(例えば、トルグアナミン、キシログアナミン、フェニルベンゾグアナミン、ヒドロキシベンゾグアナミン、4−(4’−ヒドロキシフェニル)ベンゾグアナミン、ニトリルベンゾグアナミン、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンゾグアナミン及び3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾグアナミン)、ナフトグアナミン、及び、ナフトグアナミンのナフチル残基に官能基、例えば上述の官能基、が1〜7個置換した誘導体などのモノグアナミン類;フタログアナミン、イソフタログアナミン、テレフタログアナミン、ナフタレンジグアナミン及びビフェニレンジグアナミンなどのポリグアナミン類;並びに、フェニルアセトグアナミン、β−フェニルプロピオグアナミン及びキシリレンビスグアナミンなどのアラルキル又はアラルキレングアナミン類が挙げられる。
ヘテロ原子含有グアナミン系化合物の例としては、2,4−ジアミノ−6−(3,3−ジメトキシプロピル)−s−トリアジンなどのアセタール基含有グアナミン類;[2−(4’−6’−ジアミノ−s−トリアジン−2’−イル)エチル]−1,3−ジオキサン、及び[2−(4’−6’−ジアミノ−s−トリアジン−2’−イル)エチル]−4−エチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサンなどのジオキサン環含有グアナミン類;CTU−グアナミン及びCMTU−グアナミンなどのテトラオキソスピロ環含有グアナミン類;並びに、1,3,5−トリス[2−(4’,6’−ジアミノ−s−トリアジン−2’−イル)エチル]イソシアヌレート及び1,3,5−トリス[3−(4’,6’−ジアミノ−s−トリアジン−2’−イル)プロピル]イソシアヌレートなどのイソシアヌル環含有グアナミン類が挙げられる。
また、ヒドラジド化合物としては、脂肪族又は脂環族カルボン酸ヒドラジド及び芳香族カルボン酸ヒドラジドが例示できる。
脂肪族又は脂環族カルボン酸ヒドラジドの例としては、ラウリン酸ヒドラジド、パルミチン酸ヒドラジド、ステアリン酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、エイコサン二酸ジヒドラジド、ソルビン酸ヒドラジドなどの飽和又は不飽和脂肪酸ヒドラジド;α−オキシ酪酸ヒドラジド、グリセリン酸ヒドラジドなどのオキシ脂肪酸ヒドラジド;7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン)、並びに、トリス(ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレートが挙げられる。
芳香族カルボン酸ヒドラジドの例としては、1−ナフトエ酸ヒドラジド、2−ナフトエ酸ヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド及び2,6−ナフトエ酸ジヒドラジドが挙げられる。
これら、非高分子反応性窒素化合物の中でも好ましいものは、メラミン、ベンゾグアナミン、ステアリン酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、及びこれらとホルムアルデヒドとの反応生成物からなる群より選ばれる1種以上であり、より好ましいものはメラミン、及びメラミンとホルムアルデヒドとの反応生成物である。
本実施形態の樹脂組成物において、(D)非高分子反応性窒素化合物の好ましい含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上であり、より好ましくは0.05〜0.20質量部である。より好ましい下限は、0.07質量部であり、更に好ましい下限は0.08質量部である。また、好ましい上限は0.18質量部であり、より好ましい上限は0.15質量部である。より高い寸法安定性を達成するためには、下限は0.05質量部であると好ましく、成形体表面へのブリードアウトを一層防止する観点から、上限は0.2質量部であると好ましい。
本実施形態の樹脂組成物において、(D)非高分子反応性窒素化合物に対する(C)飽和脂肪酸の含有比、すなわち、(C)飽和脂肪酸/(D)非高分子反応性窒素化合物比(以下、「(C)/(D)比」と表記する。)は、質量基準で8〜30である。その下限は、好ましくは10であり、より好ましくは12であり、更に好ましくは15である。また、その上限は、好ましくは28であり、より好ましくは25である。高い寸法安定性と共に、ブリードアウトを抑制し、かつ優れた機械的特性を有する樹脂組成物を得るためには、(C)/(D)比を8〜30の範囲内に調整する必要がある。
本実施形態の樹脂組成物において、上記各成分の他の成分として、従来、ポリアセタール樹脂組成物に添加してもよいとされている種々の樹脂及び添加剤等を含有させてもよい。具体的には、脂肪酸金属塩化合物、酸化防止剤、耐候(光)安定剤及び離型剤が挙げられ、これらは本発明の目的達成を損なわない範囲で、例えば、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、各々0.01〜3.0質量部の範囲で添加されてもよい。
脂肪酸金属塩化合物における脂肪酸としては本実施形態における(C)飽和脂肪酸で挙げた脂肪酸が好ましく用いられ、より好ましい脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸及びベヘン酸が挙げられる。また、脂肪酸金属塩化合物の塩を形成する金属元素としては、アルカリ金属元素又は周期律表第二族元素が好ましく、それらの中でもナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウムがより好ましく、カルシウムが特に好ましい。具体的な脂肪酸金属塩化合物としては、例えば、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム及びベヘン酸カルシウムが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
本実施形態において好ましい酸化防止剤としては、ヒンダートフェノール系酸化防止剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、1,4−ブタンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]及びペンタエリスリトールテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。これらの中では、より好ましくは、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]及びペンタエリスリトールテトラキス[メチレン‐3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
本実施形態において好ましい耐候(光)安定剤としては、ベンゾトリアゾール系及び蓚酸アニリド系紫外線吸収剤、並びにヒンダードアミン系光安定剤からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’、5’−ジ−t−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス−(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール及び2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。これらのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
蓚酸アリニド系紫外線吸収剤の具体例としては、2−エトキシ−2’−エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2−エトキシ−5−t−ブチル−2’−エチルオキザリックアシッドビスアニリド及び2−エトキシ−3’−ドデシルオキザリックアシッドビスアニリドが挙げられる。これらの蓚酸アリニド系紫外線吸収剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの縮合物、デカン2酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルと1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、メチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、及び、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物が挙げられる。ヒンダードアミン系光安定剤は、好ましくはビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物である。これらのヒンダードアミン系光安定剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
本実施形態において用いられ得る離型剤としては、例えば、アルコール、脂肪酸及びそれらの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、並びに、平均重合度が10〜500であるオレフィン化合物が挙げられる。これらの中では、ポリオキシアルキレングリコールが好ましい。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、本発明の目的の達成を損なわない範囲で、更に公知の添加剤を必要に応じて含有してもよい。そのような添加剤として、具体的には、無機充填剤、結晶核剤、導電剤、他の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー及び顔料が挙げられる。
無機充填剤としては、例えば、繊維状、粉粒子状、板状及び中空状のものが用いられる。繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シリコーン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維、並びに、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅及び真鍮などの金属繊維に代表される無機質繊維が挙げられる。また、無機充填剤として、繊維長の短いチタン酸カリウムウイスカー及び酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカーを用いてもよい。なお、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂等の高融点有機繊維状物質を含有してもよい。
粉粒子状充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレー、ケイ藻土及びウォラストナイトのようなケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン及びアルミナのような金属酸化物、硫酸カルシウム及び硫酸バリウムのような金属硫酸塩、炭酸マグネシウム及びドロマイトのような炭酸塩、その他、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素及び各種金属粉末が挙げられる。板状充填剤としては、例えば、マイカ、ガラスフレーク及び各種金属箔が挙げられる。中空状充填剤としては、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン及び金属バルーンが挙げられる。
これらの充填剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの充填剤は、表面処理されたもの及び未表面処理のもののいずれであってもよいが、成形表面の平滑性、機械的特性の点から、表面処理されたものの方が好ましい場合がある。表面処理剤としては従来公知のものが使用可能である。表面処理剤として、例えば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、ジルコニウム系等の各種カップリング処理剤を用いることができる。具体的には、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリスステアロイルチタネート、ジイソプロポキシアンモニウムエチルアセテート及びn−ブチルジルコネートが挙げられる。
導電剤としては、例えば、導電性カーボンブラック、金属粉末及び金属繊維が挙げられる。炭素繊維も導電性目的で配合していれば包含される。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーネート樹脂、及び未硬化のエポキシ樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂の変性物を熱可塑性樹脂として用いてもよい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー及びポリアミド系エラストマーが挙げられる。
顔料としては、無機系顔料及び有機系顔料、メタリック系顔料及び蛍光顔料が挙げられる。ここで、無機系顔料としては、樹脂の着色用として一般的に用いられているものが挙げられ、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、りん酸塩、酢酸塩、カーボンブラック、アセチレンブラック及びランプブラックが例示される。また、有機系顔料としては、例えば、縮合ウゾ系、イノン系、フロタシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ベリレン系、ジオキサジン系及びフタロシアニン系の顔料が挙げられる。本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において、顔料の含有量は、求められる色調により大幅に変化するため明確に規定することは困難であるが、一般的には、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.005〜5質量部の範囲である。
次に本実施形態のポリアセタール樹脂組成物の好適な製造方法について説明する。樹脂組成物の製造に用いることのできる装置として、例えば、一般に使用されている混練機を適用してもよい。その装置としては、例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール及びバンバリーミキサーが挙げられる。加工容易性と生産性との観点から、一軸又は多軸混練押出機がより好ましく用いられる。それらの中でも、二軸押出機が特に好ましく用いられる。
二軸押出機としては、L/D(スクリュー長さ/スクリュー径)が40以上で、かつ、上流側供給口(トップフィード口)以外にも1箇所以上の供給口を有する二軸押出機がより好ましく用いられる。
また、二軸押出機のスクリュー径は、生産性を考慮した場合、量産性と供給安定性との観点から、二軸押出40mm以上であることが好ましい。
上流側以外にも供給口を有する二軸押出機を使用する際、原料は分けて押出機に供給することが可能となる。その組み合わせの一例としては、ポリアセタール樹脂を上流側供給口より供給し、残りの成分全てを上流側以外の供給口より供給する方法、ポリアセタール樹脂と所望の他の成分(例えば、炭酸カルシウムや、飽和脂肪酸)の一部又は全部を上流側供給口より供給し、残りを上流側供給口以外より供給する方法が挙げられる。もちろん原料の供給方法は、公知の供給方法であれば、特に制限されることなく採用され得る。
上流側供給口のみを有する押出機を用いる際でも、ポリアセタール樹脂以外の成分を予め混合した混合物を作製しておき、ポリアセタール樹脂を供給するのに用いる供給機とは異なる供給機で押出機に供給することが、樹脂組成物の組成の変動を抑制する観点から好ましい。
本実施形態の樹脂組成物を押出機等で加工する際、加工時にバレル内の一部分を減圧環境とし、不要な揮発成分を除去することが好ましい。その際の減圧度は特に制限はないが、0.07MPa以上とすることが望ましい。
本実施形態の樹脂ペレットは、上記樹脂組成物からなるペレットであり、本実施形態の成形体は、上記樹脂組成物からなる成形体である。
樹脂ペレットは、一般的には上述の押出機による加工で得られる。ペレットの形状としては、特に限定されないが、ストランド状に押し出してペレタイズした場合においては、円柱状のペレットが得られ、ホットカット法、アンダーウォーターカット法等で得られたペレットは球状のペレットが得られる。ペレットの寸法についても特に限定されないが、好ましいペレットの粒子径の上限は、3mmである。好ましい下限は1mmである。円柱状ペレットの寸法について好ましい上限は、直径が3mmで、長さが4mmであり、好ましい下限は、直径が1mm、長さが2mmである。後の成形加工時の噛み込み性の観点から、上限が上記寸法であることが好ましく、ペレットのニューマー輸送時の詰まり等を防止するため、下限は、上記寸法であることが好ましい。
本実施形態の成形体は、本実施形態の樹脂組成物の組成範囲内にある成形体であれば、いかなる形状のものも包含される。本実施形態の成形体としては、例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、及び金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)で得られた本実施形態の樹脂組成物からなる物品が挙げられる。
上記製法により得られる物品としては、通常の射出成形品以外に、繊維、シート・フィルム、及び異型押出品も含む。物品は部品であってもよく、具体的な部品としては、歯車(ギア)、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け及びガイド等に代表される機構部品、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー、側板、プリンター及び複写機に代表されるオフィスオートメーション機器用部品、VTR(Video Tape Recorder)、ビデオムービー、デジタルビデオカメラ、カメラ及びデジタルカメラに代表されるカメラ又はビデオ機器用部品、カセットプレイヤー、DAT、LD(Laser Disk)、MD(Mini Disk)、CD(Compact Disk)〔CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R(Recordable)、CD−RW(Rewritable)を含む〕、DVD(Digital Video Disk)〔DVD−ROM、DVD−R、DVD+R、DVD−RW、DVD+RW、DVD−R DL、DVD+R DL、DVD−RAM(Random Access Memory)、DVD−Audioを含む〕、Blu−ray Disc、HD−DVD、その他光デイスクドライブ、MFD、MO、ナビゲーションシステム及びモバイルパーソナルコンピュータに代表される音楽、映像又は情報機器、携帯電話及びファクシミリに代表される通信機器用部品、電気機器用部品、電子機器用部品が挙げられる。
また、その成形体は、自動車用の部品などとしても用いることも可能であり、例えば、ガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される燃料廻り部品、ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリル等に代表されるドア廻り部品、シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシートベルト周辺部品、コンビスイッチ部品、スイッチ類が挙げられる。その他、クリップ類の部品、さらにシャープペンシルのペン先及び、シャープペンシルの芯を出し入れする機構部品、洗面台並びに排水口及び排水栓開閉機構部品、衣料用のコードストッパー、アジャスター及びボタン、散水用のノズル及び散水ホース接続ジョイント、階段手すり部及び床材の支持具である建築用品、使い捨てカメラ、玩具、ファスナー、チェーン、コンベア、バックル、スポーツ用品、自動販売機(例えば自動販売機の開閉部ロック機構及び商品排出機構部品)、家具、楽器及び住宅設備機器に代表される機器の工業部品としても好適に用いられる。
これらの部品の中でも、特に、本実施形態の成形体は、その優れた寸法安定性を活かす観点から、高精度の歯車として用いられると極めて有用である。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物、並びに、それから得られる樹脂ペレット、及び、歯車に代表される成形体は、炭酸カルシウムの配合量を増やさなくても、より一層高い寸法精度を達成し、かつ、高い機械的特性及びブリードアウトの抑制も可能にするものである。また、本実施形態のポリアセタール樹脂組成物等は、高い熱安定性を維持することができ、しかも金型の汚染を防止するものである。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
以下、実施例及び比較例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
実施例、比較例には以下の原料を用いた。
[(A)ポリアセタール樹脂]
熱媒を通すことができるジャッケット付きの二軸セルフクリーニングタイプの重合機(L/D=8)を80℃に調整し、そこにトリオキサンを4kg/時間、コモノマーとして1,3−ジオキソランを42.8g/時間(トリオキサン100mol%に対して、1.3mol%)、連鎖移動剤としてメチラールを重合後のポリアセタール樹脂のJIS K7210に基づく190℃でのメルトフローレート(以下同様。)が13g/10分となるような量、それぞれ添加した。さらに重合触媒として三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテルをトリオキサン1molに対して1.5×10-5molとなる量で、連続的に重合機に添加し重合を行った。重合機より排出されたポリアセタールコポリマーをトリエチルアミン0.1%水溶液中に投入し重合触媒の失活を行った。重合触媒の失活したポリアセタールコポリマーを遠心分離機でろ過した後、ポリアセタールコポリマー100質量部に対して、第4級アンモニウム化合物として水酸化コリン蟻酸塩(トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート)を含有する水溶液1質量部を添加して、均一に混合した後、120℃で乾燥した。水酸化コリン蟻酸塩の添加量は、添加する水酸化コリン蟻酸塩を含有する水溶液中の水酸化コリン蟻酸塩の濃度を調整することにより行い、上記式(2)で表される窒素量に換算して20質量ppmとなる量とした。乾燥後のポリアセタールコポリマーをベント付き二軸スクリュー式押出機に供給し、押出機中の溶融しているポリアセタールコポリマー100質量部に対して水を0.5質量部添加し、押出機の設定温度200℃、押出機における滞留時間7分間の条件で、その不安定末端部の分解除去処理を行った。不安定末端部の分解されたポリアセタールコポリマーは、ベント真空度20Torrの条件下で脱揮され、押出機のダイス部よりストランドとして押し出され、ペレット化された。ペレット化したポリアセタールコポリマー(ポリアセタール樹脂)100質量部に対し、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]0.35質量部を添加し、ベント付二軸押出機で溶融混練することにより、ポリアセタール樹脂(I−i)の樹脂ペレットを得た。このようにして得られたポリアセタール樹脂(I−i)の融点は169.5℃であった。なお、表中、ポリアセタール樹脂を「POM」と表記する。
[(B)炭酸カルシウム]
炭酸カルシウムとして、下記のものを用いた。
Brilliant 1500 (白石工業株式会社製商品名、50%メジアン径:150nm、表面処理なし。以下、単に「炭カルA」と略記する。)
ホワイトンP−10(白石工業株式会社製商品名、50%メジアン径:2μm、表面処理なし。以下、単に「炭カルB」と略記する。)
[(C)飽和脂肪酸]
飽和脂肪酸として、下記のものを用いた。
ステアリン酸(川研ファインケミカル株式会社製、商品名「F−3」)
モンタン酸(クラリアントコーポレーション社製、商品名「リコワックスS」)
[(D)非高分子反応性窒素化合物]
非高分子反応性窒素化合物として、メラミン又はベンゾグアナミンを用いた。
[その他成分]
上記以外の成分として、ポリアミド6,6(蟻酸相対粘度(RV):22。以下、単に「PA66」と略記する。)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、チバ・ジャパン社製、商品名「イルガノックス245」。以下、単に「熱安定剤」と略記する。)、及びステアリン酸カルシウム(日東化成株式会社製)を用いた。
[ポリアセタール樹脂組成物の製造方法]
上流側に1箇所の供給口を有する同方向回転二軸押出機(商品名「TEM26SS」、東芝機械株式会社製)のシリンダー温度を210℃に設定し、吐出量が14kg/時間となるよう、フィーダーを調整し、原料を、スクリュー回転数150rpmの条件でストランド状に押し出し、冷却し、ペレタイズすることにより、ポリアセタール樹脂組成物からなる樹脂ペレットを得た。この際、ポリアセタール樹脂以外の成分は、予め均一に混合した後、ポリアセタール樹脂を供給するフィーダーとは異なるフィーダーで押出機に供給した。また、下流側に取り付けた真空吸引ポートより、揮発分及び水分の除去を行った。
なお、全ての実施例及び比較例で、熱安定剤が、(A)成分100質量部に対し0.1質量部、ステアリン酸カルシウムが(A)成分100質量部に対して0.1質量部、ポリアセタール樹脂を供給するフィーダーとは異なる上記フィーダーから供給された。
[各種評価方法]
各種評価方法の詳細について以下に述べる。
(成形収縮率)
寸法安定性の評価として、歯車を成形し、結晶化促進させた後の歯車の成形収縮率を測定した。
まず、射出成形機(商品名「FANUC 50iA」、ファナック株式会社製)に、直径60mmの歯車(モジュール:0.6、歯数:100個、歯幅:8mm)が成形可能な金型を取り付け、成形機シリンダー温度を200℃に、金型温度を80℃にそれぞれ設定し、射出圧力及び保圧力とも100MPaに固定し、成形を実施した。このときの射出時間は10秒、保圧時間は15秒、冷却時間は15秒であった。得られた歯車を事前サンプル調製として、23℃、50%RHの環境下で96時間静置した後、70℃で4時間加熱し、更に23℃、50%RH環境下で、8時間静置した。その後、マイクロメーターで歯先円直径を精測し、下式により、成形収縮率を測定した。
成形収縮率=100−(得られた歯車の歯先円直径)/(金型における歯先円直径に対応する径の寸法実測値)×100
得られた歯車の歯先円直径は、三つの成形品(歯車)について、互いに120°異なる方向で3箇所測定し、合計9点の測定結果を平均して求めた。なお、本測定で得られる値は収縮率であるので、値が小さい方がより高精度歯車に適しているといえる。より大きな直径の歯車の場合は、収縮率はより小さい方が良好である。なお、本実施例においては、収縮率の合格の指標を2%に設定した。
(成形時の熱安定性)
射出成形機(商品名「EC−5P」、東芝機械株式会社製)に、長さ70mm、幅40mm、厚さ2mmの板状試験片が成形可能な金型を取り付け、シリンダー温度を195℃、金型温度を90℃に設定し、射出圧力及び保圧力とも、100MPaに固定し、成形を実施した。10ショットを連続で成形し、10ショット目を、後述の変色確認のベースサンプルとし、色差計を用いてL値を測定した。
次に、同じ成形機のシリンダー温度のみを215℃に設定し、50ショットの連続成形を実施し、50枚の試験片を得て、これらのL値を色差計を用いて測定した。ベースサンプルのL値と、連続成形サンプルのL値を比較し、差が初めて0.7を超えた時点のショット数を確認し、このショット数(単位:本目)で熱安定性を比較した。この評価においては、ショット数が多い方が、熱安定性が高いということを意味する。なお、50ショット後でも変色が確認されなかった場合は、表中、「なし」と表記した。
(ブリード性)
射出成形機(商品名「EC−75NII」、東芝機械株式会社製)に、長さ70mm、幅40mm、厚さ2mmの板状試験片が成形可能な金型を取り付け、シリンダー温度を200℃、金型温度を70℃に設定し、射出圧力を、樹脂を金型のキャビティーに充填できる下限の射出圧力の90%に設定し、試験片を得た。この際の射出時間は15秒、冷却時間は20秒とした。得られた試験片を、80℃、85%RHに設定した恒温恒湿槽中に168時間静置し、静置後の試験片表面を下記の評価方法により評価した。
なし:表面にブリードアウト物が一切見られない。
一部:部分的に薄くブリードアウト物が認められる。
全面:成形片全面に濃くブリードアウト物が認められる。
(金型汚染)
射出成形機(商品名「EC−5P」、東芝機械株式会社製)に、直径30mmの歯車(モジュール:0.6、歯数:60個、歯幅:3mm、ゲート数:3点、ゲート形状:0.2mm径ピンポイントゲート)が成形可能な金型を取り付け、成形機のシリンダー温度を200℃、金型温度を30℃に設定し、射出圧力及び保圧力とも、100MPaに固定し、成形を実施した。300ショットを連続で成形した後に、金型キャビティー内部及び周辺を観察し、下記の指標でモールドデポジットによる金型汚染の状況を評価した。
AAA:金型表面にまったく析出物が確認されず、金型汚染は認められない。
AA:ガス抜き部分に、若干の析出物が確認される。
A:ガス抜き部分及びウェルド部分に若干の析出物が確認される。
B:ガス抜き部分、ウェルド部分及び金型のパーテーション部分に、析出物が明瞭に確認される。
C:ガス抜き部分、ウェルド部分及び金型のパーテーション部分に、上記指標Bよりも多い、かなりの量の析出物が確認される。
(衝撃強度)
射出成形機(商品名「EC−75NII」、東芝機械株式会社製)を用いて、ISO294−1に準拠して成形した多目的試験片を用いて、ISO179−1に準拠し、エッジワイズモードでのシャルピー衝撃強度を測定した。これを衝撃強度と称する。
(引張伸び)
衝撃強度の測定におけるものと同様にして成形した多目的試験片を用いて、ISO527−1に準拠し、引張破壊時呼びひずみを測定した。これを引張伸びと称する。
(実施例1〜4及び比較例1)
各成分が表1に示す組成となるよう、ポリアセタール樹脂組成物を上述のようにして製造し、上記各種評価方法により評価した。結果を表1に示す。なお、表中、「POM」はポリアセタール樹脂を意味する(以下同様。)。
実施例1と実施例2との対比より、炭酸カルシウムの粒子径の違いにより、機械的特性(衝撃強度及び引張伸び)が異なることが分かった。また、実施例1と実施例3との対比より、飽和脂肪酸の種類の違いにより、成形時の熱安定性と金型汚染の抑制性とが若干異なることが分かった。実施例1と実施例4との対比より、非高分子反応性窒素化合物の種類の違いにより、成形収縮率、成形時の熱安定性及び金型汚染の抑制性が少し異なることが分かった。実施例1と比較例1との対比より、ポリアセタール樹脂組成物が非高分子反応性窒素化合物を含まないと、成形収縮性が悪化し、成形時の熱安定性及び機械的特性が大幅に低下することが分かった。
(実施例5〜8及び比較例2、3)
各成分が表2に示す組成となるよう、ポリアセタール樹脂組成物を上述のようにして製造し、上記各種評価方法により評価した。結果を表2に示す。
非高分子反応性窒素化合物であるメラミンの含有量及び(C)/(D)比が、本発明の範囲外である比較例2では、実施例5〜8に比較して成形収縮率が高く、実施例5〜8と比較して成形時の熱安定性が良好でないことが分かった。また、この比較例2では、機械的特性も良好ではないことが分かった。メラミンの含有量は本発明の範囲内であるが、(C)/(D)比が本発明の範囲外である比較例3は、実施例5〜8に比較して、成形片の全体に亘ってブリードアウト物が観察された。また、その影響からか、金型汚染の状況も非常に劣った結果であった。
(実施例7、10及び11、比較例4、5)
各成分が表3に示す組成となるよう、ポリアセタール樹脂組成物を上述のようにして製造し、上記各種評価方法により評価した。なお、実施例7は上記で作製したものと同じである。結果を表3に示す。
比較例4において、飽和脂肪酸であるステアリン酸及び非高分子反応性窒素化合物であるメラミンの含有量は、本発明の範囲内であるが、(C)/(D)比が本発明の範囲外になっており、これを実施例7、10及び11と比較すると、成形時の熱安定性が非常に低く、しかも衝撃強度に劣ることが分かった。また、比較例5を、実施例7、10及び11と比較すると、成形収縮率が高く、高精度の歯車には適さないことが分かった。更に比較例5では、実施例7、10と比較すると成形時の熱安定性が良好ではなく、実施例7、10及び11と比較するとブリード性も良好ではなく、金型汚染の状況も非常に劣った結果であった。