一般に、アルカリ二次電池正極活物質用の被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法においては、水酸化ニッケル粉末を水に分散させた懸濁液にコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液を撹拌しながら添加供給して、中和晶析反応により水酸化ニッケル粉末の表面に水酸化コバルトを被覆している。この方法では、pH値が低い領域ではコバルトがイオン状態で存在しているが、pH値の上昇に伴って徐々に水酸化コバルトの析出が始まる。このとき、近くに水酸化ニッケル粒子が存在していれば、よりエネルギー的に安定な水酸化ニッケル粒子の表面に水酸化コバルトが析出する。
上記水酸化コバルトの析出過程について詳しく検討した結果、急激にコバルトイオン濃度が増大して、コバルトイオンが存在する懸濁液のpH領域における臨界過飽和度を超える場合には、近くに水酸化ニッケル粒子が存在していなくても、水中において単独で水酸化コバルトが析出することが分かった。ただし、上記懸濁液のpH値が低い場合、具体的にはpHが8未満の場合には、水酸化コバルトの析出速度が遅いために、コバルトイオン濃度が臨界過飽和度を超えていても単独で水酸化コバルトが析出することはない。
一方、上記コバルトイオンが存在する懸濁液のpH値が8以上の場合には、コバルトイオン濃度の臨界過飽和度が低下するため、コバルトイオン濃度が増加すると容易に臨界過飽和度を超えることになり、その結果水酸化コバルトが水酸化ニッケル粒子の表面に付着せずに単独で析出してしまう。このように単独で析出した水酸化コバルトは、水酸化ニッケルスラリーを濾過したときに水酸化ニッケル粒子の表面に付着するが、まばらに付着するため均一性が悪いうえ、単に濾過によって付着しただけであるため密着性も極めて悪いことが判明した。
このような水酸化コバルトの析出過程の検討結果から、本発明の被覆工程においては、水酸化ニッケル粉末の粒子表面に密着性の高い水酸化コバルトを均一に形成するため、水酸化ニッケル粒子の懸濁液のpH(25℃基準)を8以上に制御し、そのpH領域における液中のコバルトイオン濃度を水酸化コバルトの単独析出が発生しない濃度以下に維持することとした。この方法により水酸化ニッケル粒子表面に析出した水酸化コバルトは、水酸化ニッケルの表面構造に準じて析出するため、粒子表面上に均一に形成され且つ密着性が極めて高くなる。
このように均一性及び密着性の高い水酸化コバルトの析出を確実にするためには、高コバルトイオン濃度域の形成を避けることが重要である。そのためには、コバルト塩水溶液の供給速度と該供給部へ流入し混合される懸濁液量の比を小さくすればよい。即ち、コバルト塩水溶液の供給速度を低下させて、混合される懸濁液量が少ない場合でも十分にコバルト塩濃度を低くするか、あるいは混合される懸濁液量を多くし、懸濁液中に供給したコバルト塩水溶液をできるだけ速く懸濁液中に拡散させて希釈して、懸濁液中に極端にコバルトイオン濃度の高い領域が出現する状態を防止する必要がある。
上記混合される懸濁液量とは、供給されるコバルト塩水溶液と懸濁液面で接触して混合される部分に流入する懸濁液量と考えてよく、初期の混合は極短時間で行われるので、懸濁液の流速が十分である場合は単位時間にコバルト塩水溶液と接触する懸濁液面と考えることができる。即ち、上記混合される懸濁液量は、コバルト塩水溶液との接触部での懸濁液面の流れ方向に対し垂直な方向のコバルト塩水溶液の供給幅(d)と懸濁液面の流速(v)との積と考えることができる。尚、懸濁液面のコバルト塩水溶液接触部が円形の場合には、懸濁液面の流れ方向に対し垂直な方向のコバルト塩水溶液の供給幅(d)は懸濁液面との接触部の直径に等しくなる。また、懸濁液面の流速は、実測が困難な場合には、シミュレーションにより容易に求めることができる。
従って、本発明においては、コバルト塩水溶液接触部での懸濁液の流れ方向に対し垂直な方向のコバルト塩水溶液の供給幅(d)と懸濁液の流速(v)の積に対するコバルト塩水溶液の供給速度(ρ)の比、即ち、ρ/(d×v)を小さくする、具体的には3.5×10−4mol/cm2以下にすることが必要であり、2.0×10−4mol/cm2以下とすることが好ましい。上記コバルト塩水溶液の供給幅(d)と懸濁液の流速(v)の積に対するコバルト塩水溶液の供給速度(ρ)の比、即ち、ρ/(d×v)が3.5×10−4mol/cm2を超えると、コバルトイオンの高濃領域が出現して水酸化コバルトの単独析出が発生する。尚、上記ρ/(d×v)の下限は、特に限定されるものではないが、供給速度(ρ)を低下させると生産性が低下するため、0.01×10−4mol/cm2以上とすることが好ましい。
ここで、上記コバルト塩水溶液接触部、即ち、コバルト塩水溶液が懸濁液面と接触する部分の面積は、コバルト塩水溶液を供給口から液流として供給し且つ供給口が小さい場合には、供給口の懸濁液面への投影面積と一致する。よって、コバルト塩水溶液の供給口が小さい場合、上記コバルト塩水溶液接触部の面積は、その供給口の懸濁液面への投影面積としてよい。一方、コバルト塩水溶液の供給口が大きい場合には、一般的に供給口内でのコバルト塩水溶液の流速が遅くなるため、供給口から一様にコバルト塩水溶液を供給することができず、上記コバルト塩水溶液の懸濁液面との接触面積を制御することが困難となる。
従って、上記コバルト塩水溶液を供給口から液流として供給し、その供給口の懸濁液面への投影面積が小さいこと、具体的には供給口の断面積を0.01〜1.0cm2とすることが好ましい。コバルト塩水溶液の供給口の断面積が0.01cm2未満では、コバルト塩水溶液の供給速度が遅くなり、十分な生産性が得られないことがある。また、供給口の断面積が1.0cm2を超えると、供給口から一様にコバルト塩水溶液が供給され難くなり、供給口の懸濁液面への投影面積内であってもコバルト塩水溶液の供給量が変動してしまい、特定部分に集中して供給されやすくなるため、コバルト塩水溶液が十分に拡散されないことがある。
尚、コバルト塩水溶液を供給口からスプレーノズル等により懸濁液面に噴霧することによって供給する場合には、上記コバルト塩水溶液の懸濁液面との接触面積はコバルト塩水溶液が懸濁液面に噴霧される面積とすることができる。
また、上記のごとく供給口から懸濁液面に均一にコバルト塩水溶液を供給できる範囲内であれば、コバルト塩水溶液の全供給量を増大させて生産性を上げるために、供給口を複数設置してもよい。供給口の数については、特に制限されるものではなく、各供給口でのコバルト塩水溶液の供給速度や、コバルト塩水溶液の供給幅と懸濁液の流速の積を考慮して決めればよい。
更に、コバルト塩水溶液の供給部で急激にpH値が上昇したときも、その高pH域内において上記水酸化コバルトの単独析出が発生しない濃度が低下して水酸化コバルトの単独析出が容易になるため、近くに水酸化ニッケル粒子が存在していなくても水酸化コバルトの単独析出が始まり、密着性と均一性の悪い水酸化コバルトが水酸化ニッケル粒子の表面に付着しやすくなる。そのため、同時に供給するアルカリ水溶液も十分な速度で拡散させ、アルカリ水溶液の急激な濃度上昇による高pH域の形成を抑制することが好ましい。
例えば、懸濁液の流速が十分に速くても、特に懸濁液表面への単位面積あたりのコバルト塩供給速度が0.01mol/cm2・分を超える場合、添加するコバルト塩水溶液の供給位置とアルカリ水溶液の供給位置との距離が近いと、懸濁液中でアルカリ水溶液が十分に拡散される前に高pH域がコバルト塩水溶液と接して反応が起きてしまうため、密着性や均一性の悪い水酸化コバルトが析出する可能性が高くなる。
これを避けるためには、上記コバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比{ρ/(d×v)}に対する、コバルト塩水溶液の供給位置とアルカリ水溶液の供給位置との離間距離(D)の比、即ち、D/{ρ/(d×v)}が0.5×105cm3/mol以上であることが好ましく、1.0×105cm3/mol以上であることが更に好ましい。尚、上記D/{ρ/(d×v)}の上限は、特に限定されるものではないが、コバルト塩水溶液の供給速度(ρ)や反応槽の大きさから制限を受けるため、その上限としては100×105cm3/mol程度が好ましい。
ここで、水酸化コバルトで被覆される芯材としての水酸化ニッケルは、アルカリ二次電池正極活物質用として公知のものを使用できるが、その中でも特に一般式:Ni1−x−yCoxMy(OH)2(但し、xは0.005〜0.05、yは0.005〜0.05、MはCa、Mg、Znのうちの1種以上である)で表される水酸化ニッケルを用いることが好ましい。
上記一般式において、コバルトの含有量を表す式中のxが0.005未満ではコバルトの添加により達成される充電効率の向上効果が得られず、逆に0.05を超えると放電電圧の低下が発生して電池性能が低下する。また、添加元素を表すMの含有量については、式中のyが0.005未満では元素Mの添加効果である充放電時における水酸化ニッケルの体積変化の低減効果が発揮されず、逆に0.05を超えると体積変化の低減効果以上に電池容量の低下を招き、電池性能が悪化するため好ましくない。
次に、本発明の被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法における被覆工程ついて更に具体的に説明する。尚、本発明の製造方法は、連続方式にて実施することで生産性を向上できるが、水酸化ニッケル粒子への均一な被覆を実現するためにはバッチ方式で実施することが好ましい。従って、以下の説明はバッチ方式による製造方法を例にして説明する。
まず、水酸化ニッケル粉末の懸濁液、コバルト塩水溶液、及びアルカリ水溶液を準備する。芯材となる水酸化ニッケル粉末は、電池の正極材として用いられたとき良好な電池特性を得るため、平均粒径が6〜12μmのものが好ましい。また、懸濁液の水酸化ニッケル濃度は400〜1200g/lが好ましい。濃度が400g/l未満では、水酸化コバルトの析出場所となる水酸化ニッケル粒子表面の活性点が不足し、液中で水酸化コバルトが単独で析出することがある。一方、水酸化ニッケル濃度が1200g/lを超えると、懸濁液の粘度が上昇して撹拌が十分行えなくなり、水酸化コバルトの被覆が不均一になることがある。
上記コバルト塩は、特に限定されるものではなく、pH制御により水酸化コバルトが生成される水溶性のコバルト化合物であればよい。具体的には、硫酸コバルトや塩化コバルトが好ましく、ハロゲンによる汚染のない硫酸コバルトがより好ましい。また、上記アルカリとしては、特に限定されるものではないが、水溶性の水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが好ましく、コストの観点から水酸化ナトリウムが特に好ましい。
上記水酸化ニッケル粉末の懸濁液は、不純物の混入を防止するため、純水等に水酸化ニッケル粉末を分散させたものが好ましい。また、コバルト塩水溶液及びアルカリ水溶液についても、コバルト塩あるいはアルカリをそれぞれ純水に溶解したものが好ましい。尚、コバルト塩水溶液及びアルカリ水溶液の濃度は、装置の配管等に再析出せず、懸濁液の水酸化ニッケル濃度変化に支障のない程度に抑制できる範囲であればよく、懸濁液の濃度などに応じて所定の濃度のものを使用できる。
上記バッチ方式の製造方法においては、芯材となる水酸化ニッケル粉末の懸濁液の入った反応槽に、被覆を形成するためのコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液とを撹拌しながら連続的に供給して、中和晶析する水酸化コバルトで水酸化ニッケル粉末の粒子表面を被覆させることにより、水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を製造する。上記バッチ式での反応槽は、特に限定されないが、水酸化ニッケル粉末の粒子表面に均一な被覆を行うため、撹拌装置と液温調整機構を有するものが望ましい。
上記コバルト塩水溶液及びアルカリ水溶液は、それぞれ個別に供給する必要があるが、個別に供給する限り同時に供給してもよい。また、反応槽に懸濁液の一部を入れておき、この懸濁液にコバルト塩水溶液及びアルカリ水溶液と残りの懸濁液を個別に供給してもよい。ただし、これら全ての液を予め混合し、混合液として反応槽に供給すると、混合液中で反応を起こして水酸化コバルトが単独で析出することがある。また、懸濁液に対してコバルト塩水溶液及びアルカリ水溶液を個別に供給しない場合には、水酸化ニッケルの粒子表面に形成される水酸化コバルトの被覆量が粒子間で均一にならないことがある。
供給されたコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液が平衡状態まで混合されたときの懸濁液のpHは、25℃基準で8〜11.5の範囲、好ましくは9.5〜10.5の範囲に保持する。上記の懸濁液のpH値が8未満では水酸化コバルトの析出が遅すぎるため生産性が低下し、逆にpH値が11.5を超えると生成する水酸化コバルトがゲル状となりやすいため、水酸化コバルトによる良好な被覆が困難になることがある。
また、上記した懸濁液のpHは、25℃基準で8〜11.5の範囲内で一定値に保持し、変動幅±0.2の範囲内で制御されることが好ましい。pHの変動幅が上記範囲を超えると、水酸化コバルトによる被覆量が変動する恐れがある。尚、上記懸濁液のpHは、例えば、ガラス電極法を用いたpHコントローラーで連続測定され、pHが上記変動幅で一定となるようにアルカリ水溶液の流量をpHコントローラーにより連続的にフィードバック制御することが望ましい。
懸濁液の温度は、コバルト塩水溶液及びアルカリ水溶液の添加前後で、30〜60℃の範囲であることが好ましい。温度が30℃未満では反応速度が低下するため水酸化コバルトの析出が遅くなり、逆に60℃を超えると反応速度が速すぎるため、水酸化ニッケル粒子表面への水酸化コバルトの析出が不均一になりやすいからである。また、上記懸濁液の温度は、上記温度範囲内で一定値に保持し、変動幅±1℃に制御されることが好ましい。温度が上記変動幅を超えると、析出する水酸化コバルト中の不純物濃度に変動が生じるため、電池に用いられたときの特性が安定しない恐れがある。
上記被覆工程により均一性と密着性に優れた水酸化コバルトを主成分とする被覆を水酸化ニッケル粉末の粒子表面に形成することができるが、本発明の製造方法においては、その被覆を構成する水酸化コバルトを次の酸化工程によってオキシ水酸化コバルトに酸化することにより、被覆の密着性と被覆水酸化ニッケル粉末の導電性を更に向上させることができる。
即ち、本発明の被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法においては、酸化工程において、上記被覆工程で粒子表面に水酸化コバルトの被覆が形成された水酸化ニッケル粉末のスラリーを撹拌しながら酸素を供給することにより、下記化学式1に示す反応式に従って、被覆を構成している水酸化コバルトをオキシ水酸化コバルトに酸化させる。
[化学式1]
Co(OH)2+1/4O2 → CoOOH+1/2H2O
オキシ水酸化コバルトは、次亜塩素酸ソーダや過硫酸塩などの酸化剤を用いて水酸化コバルトを酸化することによっても得られるが、水酸化コバルトで被覆された水酸化ニッケル粉末をこれらの酸化剤で酸化した場合、芯材である水酸化ニッケル粉末の一部も酸化されて、比較的不安定なオキシ水酸化ニッケルが生成されるため、水酸化コバルト被覆の密着性が不安定になる。また、次亜塩素酸ソーダや過硫酸塩などの高価な酸化剤を使用することは、工業生産性を考慮するとコスト的にも不利である。
上記酸化工程においては、スラリー中に含まれるOHイオンの存在が酸化反応を促進するため、高価な酸化剤を用いることなく水酸化コバルトのオキシ水酸化コバルトへの酸化が可能となる。そのため、スラリー中に含まれるOHイオン濃度、具体的にはスラリーのpHを酸化工程の間、25℃基準で12.5以上に保持する必要がある。pHを12.5以上とすることで、酸化反応が促進され、スラリー中への酸素供給により水酸化コバルトをオキシ水酸化コバルトに酸化することができる。pHが12.5未満では酸化反応の促進が十分ではなく、長時間の反応が必要となって工業生産性を低下させ、短時間で反応を終了させた場合には上記水酸化コバルトのオキシ水酸化コバルトへの酸化が不十分となり、密着性が低下し、導電性も悪化する。
ただし、酸化工程におけるスラリーのpHが13.5を超えても、それ以下の場合に比べて酸化促進効果の向上が認められず、アルカリコストの上昇を招くのみである。従って、酸化工程におけるスラリーのpHは、25℃基準で12.5以上13.5以下に保持することが好ましく、12.5以上13.0以下に保持することがより好ましい。また、OH濃度が頻繁に変動すると、オキシ水酸化コバルトへの酸化にばらつきが生じ、電池の正極に用いた場合の電池特性に悪影響を及ぼす。そのため、酸化工程中のpHの変動は、好ましくは±0.2の範囲内に、より好ましくは±0.1の範囲内に保持する。
上記酸化工程においては、スラリーへの吹き込みによる酸素供給量の総量を被覆中のコバルトのモル量に対して30l/mol以上とする。上記化学式1から分るように反応を完結させるのに必要な酸素供給量は、酸化させるべき被覆の水酸化コバルトにおけるコバルトのモル量の1/4であるが、これを標準状態での酸素量に換算すると5.6lになる。酸化工程で供給される酸素ガスあるいは酸素含有ガスはスラリー中に気泡として分散し、一部はスラリー溶媒中に溶解するが、その全てが水酸化コバルトの酸化反応に寄与するわけではなく、大部分はそのまま反応系外に放出されてしまうため、上記化学式による反応に必要な酸素供給量の6〜20倍の酸素供給量が必要である。
酸素供給量の総量が30l/mol未満になると、水酸化コバルトの酸化反応が不十分となる部分が残存して、被覆の密着性が低下してしまう。一方、酸素供給量の総量が110l/molを超えて供給しても、被覆中の水酸化コバルトの酸化が完了した後も酸素供給を続けることとなり無駄であるうえ、芯材である水酸化ニッケルの酸化を引き起こすことがあるので、酸素供給量の総量は被覆の水酸化コバルト中におけるコバルトのモル量に対して30l/mol以上110l/mol以下とすることが好ましい。
上記酸素の供給は、単位時間当たりの供給量として0.2〜0.45l/分・molとすることが好ましい。単位時間当たりの酸素供給量が0.2l/分・mol未満になると、水酸化コバルトのオキシ水酸化コバルトへの酸化反応が必要以上に遅くなり、工業的な生産性が低下するため現実的でない。一方、単位時間当たりの酸素供給量が0.45l/分・molを超えると、酸素供給速度が水酸化コバルトの酸化速度に比して速くなりすぎるため、水酸化コバルトの酸化反応の効率が悪く、十分に酸化されないことがある。また、水酸化コバルトの酸化状態が不均一となり、高い密着性が得られないことがある。従って、単位時間当たりの酸素供給量を0.2〜0.45l/分・molとすることで、水酸化コバルトを適正に効率よく酸化することができる。
また、上記酸素の供給時間は2.5〜4.0時間とすることが好ましい。酸素供給時間が2.5時間未満では、上記単位時間当たりの酸素供給量にかかわらず、水酸化コバルトの十分な酸化が達成されるまで反応が進まない場合がある。一方、酸素供給時間が4.0時間を超えても、酸素が無駄になるだけであるうえ、酸化反応が進み過ぎて芯材の水酸化ニッケルまでもが酸化され、被覆の密着性が低下することがある。従って、酸素供給時間を2.5〜4.0時間とすることで、水酸化コバルトを効率よく且つ十分な酸化状態とすることができる。
上記酸化工程におけるスラリー温度は、酸化反応させている間、40〜60℃の範囲に保持することが好ましい。スラリー温度が40℃未満では、反応速度が低下するため、水酸化コバルトのオキシ水酸化コバルトへの酸化反応が効率よく進まないことがある。一方、スラリー温度が60℃を超えると、酸化反応が過剰に進み、芯材の水酸化ニッケルが酸化されて不安定なオキシ水酸化ニッケルが生成し、被覆の密着性が低下することがある。
上記スラリーへの酸素の供給は、特に純粋な酸素ガスによるものに限定されるものではなく、スラリーへの吹き込みにより供給されるガス中の酸素の供給量として上記の条件を満たせばよい。従って、酸素ガスだけでなく、例えば、空気若しくは任意の割合で混合された酸素と空気の混合ガス、あるいは酸素と不活性ガスの混合ガスを用いることができ、取り扱いの容易性やコスト面を考慮すると、空気を用いることが好ましい。このように酸素以外のガスを用いる場合、供給されるガス中に含まれる酸素量を基準として、上記酸素供給量の総量及び単位時間当たりの酸素供給量を使用するガスの供給量の総量及び単位時間当たりの供給量に変換することで、本方法を適用することができる。
上記酸化工程でのスラリーとしては、被覆工程が終了した懸濁液のpHを調整して得ることができるが、被覆工程が終了した懸濁液を固液分離した後、回収した粉末を水中へ再分散させてスラリーとしてもよい。再分散させる場合には、粉末を乾燥させると被覆工程で粒子表面に形成された被覆が過度に酸化して、被覆の密着性が低下することがあるため、湿潤状態のまま再分散させることが好ましい。尚、酸化工程でのスラリーの濃度は、被覆工程と同様の濃度とすることができる。
また、酸化工程で用いられる装置は、撹拌しながら温度調整とガス吹込みが可能なものであればよく、通常の反応槽に上記機構を備えたものを好適に用いることができる。また、酸素吹き込み量を安定させるためには、反応槽内が外気と遮断され、その雰囲気の制御が可能な反応槽が好ましい。
本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末は、上記被覆工程と酸化工程を有する本発明の被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法により得られ、水酸化ニッケル粉末の粒子表面に、オキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とするコバルト化合物の被覆を有する被覆水酸化ニッケル粉末である。
本発明の被覆水酸化ニッケル粉末においては、オキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とするコバルト化合物の被覆中におけるコバルトの価数が2.5以上であり、2.7以上であることが好ましい。被覆中のコバルトの価数が2.5以上となることによって、被覆中において必要量のオキシ水酸化コバルトが生成され、良好な密着性と導電性が得られる。尚、通常ではコバルト価数の上限は3となる。
また、上記被覆に含有されるコバルト量は、芯材である水酸化ニッケル粒子と被覆の合計、即ち被覆水酸化ニッケル粉末全体に対して、3〜7質量%の範囲が好ましい。上記被覆中のコバルト量が3質量%未満では、コバルト化合物としての被覆量が不足し、水酸化コバルト粒子表面の被覆効果が十分に発揮されない。一方、上記被覆中のコバルト量が7質量%を超えても、コバルト化合物の被覆量が増えるだけであり、被覆効果の更なる向上は認められない。また、上記被覆は芯材である水酸化ニッケ粒子を均一に被覆していることが好ましい。被覆が均一であれば細かい島状の被覆でもよいが、層状の被覆であることがより好ましく、全面を被覆しているものが更に好ましい。
また、上記コバルト化合物の被覆は、オキシ水酸化コバルト、若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とするものであり、該被覆中に含まれるコバルト量は、被覆中に含有される金属元素全体に対して90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。コバルト化合物の被覆には、電池の正極に用いられた場合の電池特性を改善するため、添加元素としてCa、Mg、Znなどを添加することが可能であるが、コバルトの含有量が90質量%未満になると、被覆による導電性の改善が十分に得られないことがある。
本発明の被覆水酸化ニッケル粉末は、水酸化ニッケル粒子表面に形成されたコバルト化合物の被覆が均一で且つ密着性に優れている。被覆の均一性及び密着性が優れている結果、被覆水酸化ニッケル粉末20gを密閉容器に入れ、1時間振盪したときの被覆の剥離量を、全被覆量の20質量%以下、好ましくは19質量%以下に抑えることができる。上記剥離量が20質量%を超えると、ペースト製造時にコバルト化合物の被覆が剥離してしまい、ペースト粘度が不安定になることがある。しかも、電池の正極中で導電性のコバルト化合物が不均一に存在する状態となり、水酸化ニッケル粒子間の導電ネットワークが十分に形成されず、正極の利用効率などの電池特性が低下してしまう。
上記被覆の剥離量を測定する方法は、まず、被覆水酸化ニッケル粉末が容器内で十分に振盪される容積を有するプラスチック製の円筒状密封容器に入れて密封し、容器の中心軸方向の往復運動、更に中心軸回りの回転と容器の中心点を軸とした揺動を組み合わせて振盪させる。ここで、密封容器は往復長50〜250mm、周期30〜60回/分で振盪させることが好ましい。具体的には、例えば、容積50mlのポリエチレン製広口瓶に粉末を密閉して、ターブラー・シェーカー・ミキサー装置(容器容量2L、例えばウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA Type T2C)で振盪させればよい。上記密封容器の振盪は、具体的に例示された装置のみでなく、同様に振盪させることが可能な装置を用いることができる。振盪終了後の被覆水酸化ニッケル粉末10gを純水200mlと撹拌混合した後、静置することにより、剥離した被覆を上澄みとして分離し、沈殿した被覆水酸化ニッケル粉末を回収して乾燥する。この回収した被覆水酸化ニッケル粉末と振盪前の被覆水酸化ニッケル粉末のコバルト含有量を比較することにより、被覆の剥離量を求めることができる。
このようにコバルト化合物の被覆の剥離量を全被覆量の20質量%以下に抑えることによって、被覆水酸化ニッケル粉末をアルカリ二次電池の正極用ペースト製造工程でバインダー等と混合したときに被覆が剥離せず、また被覆が剥離しても剥離の割合が極めて少ないので、正極において水酸化ニッケル粒子間の導電性が十分に確保される。従って、本発明の被覆水酸化ニッケル粉末は、アルカリ二次電池の正極活物質用として極めて優れている。
[実施例1]
直径25cmで深さ30cmの反応槽内に球状で平均粒径が8μmの水酸化ニッケル粉末6kgを入れ、総量10リットルとなるように水を加えた後、撹拌プロペラを用いて回転数500rpmで撹拌することにより分散させて、水酸化ニッケル粉末の懸濁液を作製した。
この懸濁液を撹拌しながら、懸濁液表面の流速が15.8cm/秒の平衡状態となったところで、ローラーポンプを用いて直径2mmの供給口1箇所から、濃度1.6mol/lの硫酸コバルト水溶液2.017リットルを16.8ml/秒の供給速度で2時間かけて添加した。同時に、硫酸コバルト水溶液の供給口から15cm離れた上記と同じ直径の供給口1箇所から、懸濁液の流速が上記と同じところに、懸濁液のpHが25℃基準で10.2±0.2となるようにpHコントローラーと連動したローラーポンプを用いて制御しながら、24質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
このとき、懸濁液に供給されるコバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比、即ちρ/(d×v)は1.42×10−4mol/cm2であった。また、上記コバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比に対する、コバルト塩水溶液の供給位置とアルカリ水溶液の供給位置との距離Dの比、即ちD/{ρ/(d×v)}は1.06×105cm3/molであった。尚、この反応中における懸濁液の温度は50℃に制御した。
上記の被覆工程により、懸濁液中に供給した硫酸コバルト全量が水酸化ニッケル粉末の粒子表面に水酸化コバルトとして析出し、粒子表面に水酸化コバルトの被覆を有する水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末が得られた。
上記被覆工程が終了した後、更に懸濁液を撹拌しながら水酸化ナトリウムを加えてpHを12.8に上昇させ、酸化工程に用いるスラリーとした。引き続き、このスラリーに空気を3.5l/分の流量で4時間を吹き込み、上記被覆工程で水酸化ニッケル粒子表面に析出した水酸化コバルトを酸化させて、オキシ水酸化コバルトとした。このとき、酸素供給量の総量は被覆中のコバルトのモル量に対して52.0l/molであり、被覆中のコバルトのモル量及び単位時間当たりの酸素供給量は0.22l/分・molとなる。
その後、フィルタープレスを用いて固液分離し、回収した粉末を水洗し、再び濾過した。引き続き、得られた粉末を真空乾燥機にて120℃で20時間乾燥して、6.3kgの被覆水酸化ニッケル粉末を得た。得られた被覆水酸化ニッケル粉末は、こげ茶色を呈し、被覆状態をSEMで観察すると、図1に示すように、均一な被覆層を有する粒子であることが確認できた。
この被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子表面にオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とする被覆を有し、被覆中のコバルトの価数は2.8であった。尚、被覆のコバルトの価数は、まず、3価のコバルトを分析し、全体のコバルト量から2価のコバルト量を求めた後、価数を平均して算出した。3価のコバルトの分析は、塩化第二鉄溶液を使用し、ジフェニルアミンスルホン酸ナトリウムを指示薬として、二クロム酸カリウム溶液で滴定する方法、例えば「コバルト酸化物中の金属コバルト、コバルト(II)及びコバルト(III)の分別定量」(並木美智子、広川吉之助共著、「分析化学」、30〜143頁、1981年)に記載の方法に従って行った。
次に、この被覆水酸化ニッケル粉末20gを、容積50mlのポリエチレン製広口瓶(容量50ml、(株)サンプラスチック製)に入れて密封し、ターブラー・シェーカー・ミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA Type T2C)を用いて1時間振盪させた。1時間の振盪後、オキシ水酸化コバルト被覆の剥離状態を確認したところ、広口瓶内に細かい剥離物などの付着は認められず、被覆の剥離は確認できなかった。
上記振盪終了後のオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末10gを、純水200mlと撹拌混合した後、静置してオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を沈殿させ、剥離したオキシ水酸化コバルトの被覆を上澄みとして分離した。分離後のオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末と振盪前のオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末のコバルト含有量を比較することにより被覆の剥離量を求めたところ、全被覆量に対して14質量%であった。
尚、被覆中にオキシ水酸化コバルトや水酸化コバルト等のコバルト化合物以外のものが含まれる場合においても、被覆中にコバルトが均一に分散していると考えられるため、上記測定方法によって被覆の剥離量を測定することができる。
[実施例2]
直径84cmで深さ100cmの反応槽を用い、上記実施例1と同じ球状で平均粒径が8μmの水酸化ニッケル粉末240kgを入れ、総量350リットルとなるように水を加えた後、撹拌プロペラを用いて回転数350rpmで撹拌することにより分散させて、水酸化ニッケル粉末の懸濁液を作製した。
この懸濁液の表面の流速が49.7cm/秒のところに、1.6mol/lの濃度に調整した硫酸コバルト水溶液80.7リットルを、ローラーポンプを用いて直径2mmの供給口10箇所から1箇所あたり67.2ml/分の添加速度で2時間かけて添加した。同時に、これより20cm離れた懸濁液の流速が同じところに、懸濁液のpHが25℃基準で10.2±0.2の範囲内となるようにpHコントローラーと連動したローラーポンプを用いて制御しながら、24質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、水酸化ニッケルの粒子表面に水酸化コバルトを析出させた。
このとき、懸濁液に供給されるコバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比、即ちρ/(d×v)は1.80×10−4mol/cm2であった。また、上記コバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比に対する、コバルト塩水溶液の供給位置とアルカリ水溶液の供給位置との距離Dの比、即ちD/{ρ/(d×v)}は1.11×105cm3/molであった。尚、この反応中における懸濁液の温度は50℃に制御した。
上記の被覆工程により、水酸化ニッケル粉末の粒子表面に供給した硫酸コバルト全量が水酸化コバルトとして析出し、粒子表面に水酸化コバルトの被覆を有する水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末が得られた。
上記被覆工程が終了した後、更に懸濁液を撹拌しながら水酸化ナトリウムを加えてpHを12.8に上昇させ、酸化工程に用いるスラリーとした。引き続き、このスラリーに空気を140l/分の流量で4時間吹き込み、上記被覆工程で水酸化ニッケル粒子表面に析出した水酸化コバルトを酸化させて、オキシ水酸化コバルトとした。このとき、酸素供給量の総量は被覆中のコバルトのモル量に対して52.0l/molであり、被覆中のコバルトのモル量及び単位時間当たりの酸素供給量は0.22l/分・molとなる。
その後、フィルタープレスを用いて固液分離し、回収した粉末を水洗し、再び濾過した。引き続き、得られた粉末を真空乾燥機にて120℃で20時間乾燥して、252kgの被覆水酸化ニッケル粉末を得た。得られた被覆水酸化ニッケル粉末は、こげ茶色を呈していた。また、被覆状態をSEMで観察評価したところ、上記実施例1と同様に均一な被覆状態の粒子であることが確認できた。
この被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子表面にオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とする被覆を有し、上記実施例1と同様に評価したところ被覆中のコバルトの価数は2.8であった。更に、上記実施例1と同様に振盪したところ、広口瓶内に細かい剥離物などの付着は認められず、被覆の剥離量は全被覆量に対して15質量%であった。
[実施例3]
直径190cmで深さ220cmの反応槽を用い、上記実施例1と同じ球状で平均粒径が8μmの水酸化ニッケル粉末2880kgを入れ、総量3000リットルとなるように水を加えた後、撹拌プロペラを用いて回転数150rpmで撹拌することにより分散させて、水酸化ニッケル粉末の懸濁液を作製した。
この懸濁液の表面の流速が126.5cm/秒のところに、1.6mol/lの濃度に調整した硫酸コバルト水溶液968.3リットルを、ローラーポンプを用いて1箇所あたり4035ml/分の添加速度で、懸濁液面上での噴霧面積が直径500mmとなるノズル2箇所から2時間かけて添加した。同時に、これより20cm離れた懸濁液の流速が同じところに、懸濁液のpHが25℃基準で10.2±0.2の範囲内となるようにpHコントローラーと連動したローラーポンプを用いて制御しながら、24質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、水酸化ニッケル粒子表面に水酸化コバルトを析出させた。
このとき、懸濁液に供給されるコバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比、即ちρ/(d×v)は1.70×10−5mol/cm2であった。また、上記コバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比に対する、コバルト塩水溶液の供給位置とアルカリ水溶液の供給位置との距離Dの比、即ちD/{ρ/(d×v)}は11.8×105cm3/molであった。尚、この反応中における懸濁液の温度は50℃に制御した。
上記の被覆工程により、水酸化ニッケル粉末の粒子表面に供給した硫酸コバルト全量が水酸化コバルトとして析出し、粒子表面に水酸化コバルトの被覆を有する水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末が得られた。
上記被覆工程が終了した後、更に懸濁液を撹拌しながら水酸化ナトリウムを加えてpHを12.8に上昇させ、酸化工程に用いるスラリーとした。引き続き、このスラリーに空気を1680l/分の流量で4時間吹き込み、上記被覆工程で水酸化ニッケル粒子表面に析出した水酸化コバルトを酸化させて、オキシ水酸化コバルトとした。このとき、酸素供給量の総量は被覆中のコバルトのモル量に対して52.0l/molであり、被覆中のコバルトのモル量及び単位時間当たりの酸素供給量は0.22l/分・molである。
その後、フィルタープレスを用いて固液分離し、回収した粉末を水洗し、再び濾過した。引き続き、得られた粉末を真空乾燥機にて120℃で20時間乾燥して、3165kgの被覆水酸化ニッケル粉末を得た。得られた被覆水酸化ニッケル粉末は、こげ茶色を呈していた。また、被覆状態をSEMで観察評価したところ、上記実施例1と同様に均一な被覆状態の粒子であることが確認できた。
この被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子表面にオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とする被覆を有し、上記実施例1と同様に評価したところ被覆中のコバルトの価数は2.9であった。更に、上記実施例1と同様に振盪したところ、広口瓶内に細かい剥離物などの付着は認められず、被覆の剥離量は全被覆量に対して12質量%であった。
[実施例4]
酸化工程において、pHを12.8に上昇させたスラリーに空気を8.0l/分の流量で2時間吹き込み、被覆工程で水酸化ニッケル粒子表面に析出した水酸化コバルトを酸化させてオキシ水酸化コバルトとした以外は上記実施例1と同様にして、水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を得た。このとき、酸素供給量の総量は被覆中のコバルトのモル量に対して59.5l/molであり、被覆中のコバルトのモル量及び単位時間当たりの酸素供給量は0.50l/分・molである。
得られた被覆水酸化ニッケル粉末は、こげ茶色を呈していた。被覆状態をSEMで観察評価したところ、上記実施例1と同様に均一な被覆状態の粒子であることが確認できた。
この被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子表面にオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とする被覆を有し、上記実施例1と同様に評価したところ被覆中のコバルトの価数は2.6であった。更に、上記実施例1と同様に振盪したところ、広口瓶内に細かいこげ茶色の付着物が極わずかに認められ、被覆の剥離量は全被覆量に対して20質量%であった。
[比較例1]
撹拌プロペラの回転数を300rpmとし、懸濁液表面の流速が5cm/秒となったところで硫酸コバルト水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を添加した以外は上記実施例1と同様にして、水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を得た。
このとき、懸濁液に供給されるコバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比、即ちρ/(d×v)は4.48×10−4mol/cm2であった。また、上記コバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比に対する、コバルト塩水溶液の供給位置とアルカリ水溶液の供給位置との距離Dとの比、即ち、D/{ρ/(d×v)}は0.335×105cm3/molであった。尚、この反応中における懸濁液の温度は50℃に制御した。
上記被覆工程が終了した後、懸濁液のpHを上昇させることなく10.2±0.2に維持して、酸化工程に用いるスラリーとした。このスラリーに、上記実施例1と同様に空気を4時間吹き込み、被覆工程で水酸化ニッケル粒子表面に析出した水酸化コバルトを酸化させてオキシ水酸化コバルトとした。
得られた粉末を、上記実施例1と同様に洗浄、濾過及び乾燥して、被覆水酸化ニッケル粉末を得た。得られた被覆水酸化ニッケル粉末は、こげ茶色を呈していた。この粉末の被覆状態をSEMで観察評価したところ、図2に示すように表面のところどころに燐片状のオキシ水酸化コバルトが観察され、被覆状態が不均一な粒子であることが確認された。
この被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子表面にオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とする被覆を有し、上記実施例1と同様に評価したところ被覆中のコバルトの価数は2.3であった。更に、上記実施例1と同様に振盪したところ、広口瓶内に細かい焦げ茶色の付着粒子が認められ、この付着粒子をEDXで分析したところコバルトが検出され被覆が剥離していることが確認された。また、被覆の剥離量は全被覆量に対して29質量%であった。
[比較例2]
硫酸コバルト水溶液を、ローラーポンプを用いて直径8mmの供給口1箇所から672.4ml/分の添加速度で2時間かけて添加した以外は上記実施例2と同様にして、オキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を得た。
このとき、懸濁液に供給されるコバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比、即ちρ/(d×v)は4.51×10−4mol/cm2であった。また、上記コバルト塩水溶液の供給幅dと懸濁液の流速vの積に対するコバルト塩水溶液の供給速度ρの比に対する、コバルト塩水溶液の供給位置とアルカリ水溶液の供給位置との距離Dの比、即ちD/{ρ/(d×v)}は0.443×105cm3/molであった。尚、この反応中における懸濁液の温度は50℃に制御した。
得られた被覆水酸化ニッケル粉末は、こげ茶色を呈していた。この粉末の被覆状態をSEMで観察評価したところ、上記比較例1と同様に表面のところどころに燐片状のオキシ水酸化コバルトが観察され、被覆状態が不均一な粒子であることが確認された。
このオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子表面にオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とする被覆を有し、上記実施例1と同様に評価したところ被覆中のコバルトの価数は2.7であった。更に、上記実施例1と同様に振盪したところ、広口瓶内に細かい焦げ茶色の付着粒子が認められ、この付着粒子をEDXで分析したところコバルトが検出され被覆が剥離していることが確認された。また、被覆の剥離量は全被覆量に対して26質量%であった。
[比較例3]
被覆工程で水酸化ニッケル表面を被覆した水酸化コバルトをオキシ水酸化コバルトとする酸化工程において、被覆工程終了後の懸濁液を撹拌しながら水酸化ナトリウムを加えてpHを12.0に上昇させ、酸化工程に用いるスラリーとした。このスラリーに空気を3.5l/分の流量で4時間吹き込み、水酸化ニッケル粒子表面の水酸化コバルトを酸化させてオキシ水酸化コバルトとした以外は上記実施例1と同様にして、被覆水酸化ニッケル粉末を得た。このときの酸素供給量の総量は被覆中のコバルトのモル量に対して52.0l/molであり、被覆中のコバルトのモル量及び単位時間当たり0.22l/分・molとなる。
得られた被覆水酸化ニッケル粉末は、やや緑がかった焦げ茶色を呈していた。この粉末の被覆状態をSEMで観察評価したところ、上記実施例1と同様に均一な被覆状態の粒子であることが確認された。
この被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子表面にオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とする被覆を有し、上記実施例1と同様に評価したところ被覆中のコバルトの価数は2.4であった。更に、上記実施例1と同様に振盪したところ、広口瓶に細かい焦げ茶色の付着粒子が認められ、この付着粒子をEDXで分析したところコバルトが検出され被覆が剥離していることが確認された。また、被覆の剥離量は全被覆量に対して22質量%であった。
上記した実施例及び比較例から分るように、本発明による各実施例の被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子表面の被覆が均一で密着性が高く、オキシ水酸化コバルトまで適正に酸化されている。しかしながら、酸素供給量の総量が同じでも単位時間当たりの酸素供給量が多い実施例4では、コバルトの価数がやや低く、被覆の密着性も若干低下する傾向が認められた。
一方、被覆工程におけるコバルト塩水溶液の供給幅(d)と懸濁液の流速(v)の積に対するコバルト塩水溶液の供給速度(ρ)の比、即ちρ/(d×v)が大きい比較例1及び2では、実施例に比べて被覆の剥離量が多く、被覆の密着性に劣っている。また、酸化工程でのpHが低い比較例3では、実施例に比べてコバルトの価数が低く、被覆の密着性大幅に低下していることが分る。
更に、上記実施例及び比較例の各被覆水酸化ニッケル粉末の圧粉抵抗を測定した結果、実施例の各被覆水酸化ニッケル粉末は、比較例の各被覆水酸化ニッケル粉末よりも高い導電性を有していることが確認された。このことから、本発明の被覆水酸化ニッケル粉末は、アルカリ二次電池正極活物質用として好適であることが分った。