JP5836856B2 - 光変調素子および空間光変調器 - Google Patents

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Description

本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する空間光変調器の光変調素子、およびこの光変調素子を用いた空間光変調器に関する。
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これをマトリクス状に2次元配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ホログラフィ装置等の露光装置、ディスプレイ技術、記録技術等の分野で広く利用されている。また、2次元で並列に光情報を処理することができることから光情報処理技術への応用も研究されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられ、表示装置として広く利用されているが、ホログラフィや光情報処理用としては、応答速度や画素の高精細性が不十分であるため、近年では、高速処理かつ画素の微細化の可能性が期待される磁気光学材料を用いた磁気光学式空間光変調器の開発が進められている。
磁気光学式空間光変調器(以下、空間光変調器)においては、磁気光学材料すなわち磁性体に入射した光が透過または反射する際にその偏光の向きを変化(旋光)させて出射する、ファラデー効果(反射の場合はカー効果)を利用している。すなわち、空間光変調器は、選択された画素(選択画素)における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素(非選択画素)における光変調素子の磁化方向を異なるものとして、選択画素から出射した光と非選択画素から出射した光で、その偏光の回転角(旋光角)に差を生じさせる。このような光変調素子の磁化方向を変化させる方法として、光変調素子に磁界を印加する磁界印加方式の他に、近年では光変調素子に電流を供給することでスピンを注入するスピン注入方式(例えば、特許文献1)がある。
スピン注入方式の光変調素子は、具体的には、TMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子やCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子等の、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)にも適用されるスピン注入磁化反転素子を適用することができる。一例として、このような従来の光変調素子の断面図を図15に示す。図15に示すように、光変調素子101は、上下に一対の電極151,152を接続して膜面に垂直に電流を供給される。この電流により、光変調素子101はスピンを注入されて、MRAMの書込み(write)と同様に磁化自由層103の磁化方向を反転させることができる。そして、光変調素子101は、少なくとも一方の電極(図15では上部電極152)を透明電極材料で形成することで、入射した光を変調して出射する画素として機能する。このようなスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子は、磁界を発生させるために各光変調素子の外周に沿って電極(配線)を備える磁界印加方式よりもいっそうの微細化を可能とする。
また、光変調素子の別の態様として、特許文献2に、細線加工された磁性体(磁性細線)を光変調素子とする空間光変調器が開示されている。これは、磁性細線においては、2以上の磁区が細線方向に区切られて形成され易く、これらの磁区を区切る磁壁が当該磁性細線に電流を細線方向に供給することにより移動するという磁壁移動を利用している。この空間光変調器は、詳しくは、画素毎に1本の磁性細線を面方向(画素の2次元配列面)に沿って設けて、その両端に接続した一対の電極にて細線方向に電流を供給すると、電流の向きとは反対方向へ磁壁が移動して、磁壁の移動前後の位置に挟まれた領域における磁化方向が反転するので、この領域を光の入射領域(有効領域)として反射光を取り出すことができる。
特許第4829850号公報 特開2010−20114号公報
特許文献1,2に記載された光変調素子には、それぞれ以下の点で改良の余地がある。特許文献1の光変調素子に適用されたスピン注入磁化反転素子は、電流を供給するための電極が上下に接続されるので、光変調素子として光を入出射するためには、光の入出射側に、光を透過する透明電極材料を適用しなくてはならない。透明電極材料は、金属電極材料と比べて導電性に大きく劣るため、特により多数の光変調素子をマトリクス状に配列した高精細の空間光変調器になるほど中央部で動作が遅れる虞がある。このような空間光変調器を動作させるために大電流を供給する必要があり、省電力化の点で改良の余地がある。さらにスピン注入磁化反転素子は一辺300nm程度以下としないと好適に動作(スピン注入磁化反転)し難いため、配線ピッチに対する光変調素子のサイズが小さくなり、その結果、画素において光変調される有効領域の割合(画素の開口率)が低くなる。
一方、特許文献2の光変調素子に適用された磁性細線は、接続する一対の電極の両方を金属電極材料で形成することができるが、磁壁を挟んで開口領域における磁化方向と異なる磁化方向の磁区が形成されている。したがって、磁性細線において画素情報として取り出せる光は、中央部の磁壁の移動前後の位置に挟まれた領域からの反射光に限定され、画素の開口率には限界がある。
さらに、空間光変調器は、画素のそれぞれの光変調素子が設定にしたがった光変調をするか、すなわち書込み通りの磁化方向を示しているかを電気的に検知するエラー検出が可能であることが望ましい。例えば、図15に示すスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子101は、磁化固定層111と磁化自由層103との磁化方向が同じ(平行:P、図15(a)参照)であるときの抵抗R101Pよりも、反対(反平行:AP、図15(b)参照)であるときの抵抗R101APの方が大きい。そこで、特許文献1に記載された空間光変調器は、MRAMにおける読出し(read)と同様に、光変調素子101にスピン注入磁化反転しない程度の電流を供給して、電極151,152間の電圧を測定することで磁化自由層103の磁化方向を検知することができる。これに対して、磁性細線は磁壁が移動しても抵抗がほとんど変化しないため、特許文献2に記載された空間光変調器では書込みエラー検出が困難である。
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、空間光変調器の画素としたときに、配線に透明電極材料を用いず、また画素の開口率を十分に保持しつつ微細化し、さらに書込みエラー検出が容易となる光変調素子、およびこれを用いた空間光変調器を提供することが課題である。
本願発明者らは、図16に断面図で示すデュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子101A(例えば特開2010−60748号公報参照)について、1つの磁化自由層103の上下に配置していた磁化固定層111,112を2つ共、磁化自由層103の同じ側の面に、面方向に離間して積層することにより、磁化自由層を底部として断面視U字型の電流経路を形成する並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子からなる光変調素子を開発した。デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子は、磁化自由層を共有するように2つのスピン注入磁化反転素子を接続した構造であり、一対の電極を前記U字の両端の2つの磁化固定層に接続すればスピン注入磁化反転動作をさせることができる。そのため、並設デュアルピン構造としたスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子は、電極を透過させずに前記U字の底部の磁化自由層に光を入射することができ、一対の電極の両方を金属電極材料で形成することができる。また、光変調素子の面積を従来のスピン注入磁化反転素子の2倍に拡張することができ、画素の有効領域を広くすることができる。
一方で、デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子は、磁化自由層の磁化方向が常に2つの磁化固定層の一方に平行で他方に反平行であるため、含まれる2つのスピン注入磁化反転素子の合成抵抗である全体の抵抗が一定となり、書込みエラー検出が困難となる。そこで、本願発明者らは、前記2つのスピン注入磁化反転素子の間に、一方と磁化が平行な磁化固定層を有するスピン注入磁化反転素子を付加することで、磁化反転により抵抗が変化するようにして、書込みエラー検出を可能とすることに想到した。
すなわち、本発明に係る光変調素子は、基板上に、磁化固定層、中間層、および磁化自由層の順に積層したスピン注入磁化反転素子構造を備え、前記磁化自由層が積層された側から入射した光をその偏光の向きを変化させて反射して出射するものである。そして、前記磁化固定層は、第1磁化固定層と、第2磁化固定層と、前記第1磁化固定層と前記第2磁化固定層との間に配置された第3磁化固定層と、を面方向に離間して、前記磁化自由層の下にそれぞれ前記中間層を挟んで有し、前記第1磁化固定層と前記第2磁化固定層とは互いに反平行な方向の磁化に固定され、前記第3磁化固定層は前記第1磁化固定層と同じ方向の磁化に固定され、前記第1磁化固定層と前記第2磁化固定層とに一対の電極を接続して電流を供給されることにより、前記磁化自由層の磁化方向が変化する構成とした。
かかる構成により、光変調素子は2つ分以上のスピン注入磁化反転素子構造の面積として大きくすることができ、さらに電極を接続する2つの磁化固定層がいずれも光の入射側に配置されないため、磁化反転動作させるための電流を供給する電極に透明電極材料を適用しなくてよい。また、光変調素子は、含まれる2つのスピン注入磁化反転素子構造の間に、一方と磁化方向が平行な磁化固定層を有するスピン注入磁化反転素子構造をさらに備えることにより、このスピン注入磁化反転素子構造と前記一方のスピン注入磁化反転素子構造との合成抵抗が、磁化自由層の磁化反転により変化する。したがって、光変調素子は、これら平行な磁化方向に固定された2つの磁化固定層に接続した電極間での抵抗を測定することにより、磁化自由層の磁化方向を検出することができる。
さらに、光変調素子は、第2磁化固定層が、第1磁化固定層および第3磁化固定層と保磁力が異なることが好ましい。あるいは、光変調素子は、第1磁化固定層および第3磁化固定層と、第2磁化固定層と、の少なくとも一方が、交換結合した磁性膜を備えた多層構造であることが好ましい。
かかる構成により、光変調素子における3つの磁化固定層の1つを他の2つと反平行な磁化方向に固定することが容易となる。
前記の光変調素子は、3つの磁化固定層のそれぞれに電極を接続して、空間光変調器の画素とすることができる。すなわち、本発明に係る空間光変調器は、基板とこの基板上に2次元配列された複数の画素とを備えて、上方から前記複数の画素に入射した光を反射させて出射し、前記画素が、前記の光変調素子、ならびに前記光変調素子の前記第1磁化固定層に接続された第1電極、前記第2磁化固定層に接続された第2電極、および前記第3磁化固定層に接続された第3電極を備える。そして、空間光変調器は、前記複数の画素から1つ以上の画素を選択し、この選択した画素の光変調素子の磁化自由層の磁化方向を異なる2方向のいずれにするかをさらに選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素の光変調素子に、前記第1電極と前記第2電極を一対の電極として電流を供給して、前記光変調素子の磁化自由層の磁化方向を前記画素選択手段が選択した方向にする電流供給手段と、この電流供給手段が電流を供給した前記光変調素子の磁化自由層の磁化方向が、前記画素選択手段により選択された方向であることを判定する画素判定を、前記光変調素子の抵抗の変化を検知することにより行う画素判定手段と、を備える構成とした。また、空間光変調器は、前記画素が光変調素子の2以上を、第1電極、第2電極、および第3電極に並列に接続して備えてもよい。
さらに、空間光変調器は、前記画素選択手段が選択した画素の前記光変調素子に所定の大きさの電流を供給する副電流供給手段を備える構成としてもよい。この空間光変調器においては、前記画素判定手段が、前記副電流供給手段に電流を供給されている前記光変調素子に接続された前記第1電極と前記第3電極との間の電圧の値を、前記磁化自由層の磁化方向が前記画素選択手段により選択された方向であるときの前記光変調素子の抵抗に基づいて予め設定された閾値と比較することにより前記画素判定を行う。
かかる構成により、空間光変調器は、3つのスピン注入磁化反転素子構造で構成され、光の入射側に電極を接続しない光変調素子を画素に備えるため、開口率の高い画素に、光を電極で遮られることなく入射することができる。そして、空間光変調器は、画素選択手段が画素を選択して、電流供給手段から光変調素子に電流を供給させると、面方向における両端2つのスピン注入磁化反転素子構造のそれぞれの磁化固定層に接続された電極を介してスピン注入されるために、共有された磁化自由層をスピン注入磁化反転させて、画素毎に電流の向きに応じた所望の磁化方向にすることができる。さらに、空間光変調器は、画素判定手段が、光変調素子の磁化自由層が電流供給手段により所望の磁化方向に正常に磁化反転していたかを診断することができる。具体的には、空間光変調器は、画素選択手段が画素を選択して、平行な磁化方向に固定された2つの磁化固定層に接続したそれぞれの電極を介して副電流供給手段から光変調素子にスピン注入磁化反転動作をしない所定の大きさの電流を供給させると、光変調素子の抵抗によって電圧が特定の範囲で変化するので、画素判定手段がこの電圧の値を予め設定した閾値と比較することにより、磁化自由層がいずれの磁化方向であるかを判定することができる。
また、空間光変調器は、前記画素が、電気的接続を接続解除自在とする選択素子を、前記第1磁化固定層と前記第1電極との間または前記第3磁化固定層と前記第3電極との間に備えることが好ましく、さらに前記第2磁化固定層と前記第2電極との間にも備えることが好ましい。
かかる構成により、空間光変調器は、1個の選択素子により非選択の画素の光変調素子への電流の漏れが抑えられるので、画素判定手段による診断が容易になる。さらに、空間光変調器は、2個の選択素子により、非選択の画素において光変調素子が2以上の電極に接続しないので、かかる光変調素子を経由して電流が漏れることがなく、画素判定手段による診断がいっそう容易になり、また光変調素子の磁化反転動作のための電流が高効率化する。
本発明に係る光変調素子によれば、面積が拡張しても好適に磁化反転動作をし、また空間光変調器の画素に用いる際に、接続する電極に透明電極材料を使用しなくてよいので、空間光変調器の画素の開口率を高くしつつ、微細化することが容易となる。また、本発明に係る光変調素子によれば、磁化反転動作により抵抗が変化するので、空間光変調器の画素に用いて、磁化反転動作のための電極を利用しての書込みエラー検出が可能となる。
本発明に係る空間光変調器によれば、前記の光変調素子を画素に用いて、金属電極材料のみですべての配線を形成することができるので、高精細かつ省電力とすることができ、さらに画素の開口率を高くして、高コントラストとすることができる。さらに、本発明に係る空間光変調器によれば、駆動用の配線を利用して、MRAMと同様の読出し動作を行うことができ、すべての画素のそれぞれについて書込みエラー検出が可能となる。
本発明に係る光変調素子を用いた空間光変調器の平面図であり、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の構成を説明する模式図である。 本発明に係る光変調素子の断面構造を説明する模式図であり、図1のA−A部分断面図に相当する。 本発明に係る光変調素子の平面視形状を説明する模式図であり、(a)は図1の拡大図に相当し、(b)は変形例に係る光変調素子の底面図である。 本発明に係る光変調素子の断面図で、磁化反転動作を説明する模式図である。 本発明に係る光変調素子の断面図で、光変調の動作および抵抗の変化を説明する模式図である。 本発明に係る空間光変調器を用いた表示装置の模式図であり、図1のA−A断面図に相当する。 本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の等価回路図である。 本発明に係る空間光変調器の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(d)は図1のA−A部分断面図に相当する。 本発明に係る空間光変調器の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(e)は図1のA−A部分断面図に相当する。 本発明の第1実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素アレイの模式図であり、図1のA−A断面図に相当する。 本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の画素の構成を説明する平面図である。 本発明の第3実施形態に係る空間光変調器の等価回路図である。 本発明の第4実施形態に係る空間光変調器の等価回路図である。 本発明の第5実施形態に係る空間光変調器の画素アレイの模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。 スピン注入磁化反転素子を用いた従来の光変調素子の断面図で、磁化反転および光変調の動作を説明する模式図である。 デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を用いた従来の光変調素子の断面図で、磁化反転動作を説明する模式図である。
以下、本発明に係る光変調素子および空間光変調器を実現するための形態について図面を参照して説明する。
[光変調素子]
本発明に係る光変調素子は、図1に示す空間光変調器10の画素8(空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段を指す。)として用いられて、上方から入射した光を反射して異なる2値の光(偏光成分)に変調して上方へ出射する。
図2に示すように、光変調素子1は、3つの磁化固定層11,12,13(第1磁化固定層、第2磁化固定層、第3磁化固定層)と、3つの中間層21,22,23と、1つの磁化自由層3と、を積層して備える。この光変調素子1は、3つの磁化固定層11,13,12を互いに離間して面方向に並べて最下層に形成し、第1磁化固定層11上に中間層21を、第3磁化固定層13上に中間層23を、第2磁化固定層12上に中間層22を、それぞれ積層し、3つの中間層21,23,22およびその隙間も含めた全体に1つの磁化自由層3を積層して備える。詳しくは、面方向において、第1磁化固定層11および中間層21と、第2磁化固定層12および中間層22と、の間に、第3磁化固定層13および中間層23が配置される。光変調素子1は、さらに、磁化自由層3の上に、保護膜3aを積層して備える。図3(a)において、網掛けを付した領域が磁化固定層11,12,13の設けられた部位である。この光変調素子1は、ここでは断面視が右90°に回転したE字型である。図2に示す光変調素子1は、第1電極(電極)51、第2電極(電極)52、第3電極(電極)53上に積層するように、3つの磁化固定層11,12,13を接続して形成される。また、詳しくは後記するように、表層にMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)が形成された基板7上に、電極51,52,53および光変調素子1が形成されている。
平面視においては、図1および図3(a)に示すように、光変調素子1は正方形(矩形)である。したがって、磁化自由層3は光変調素子1と同じ正方形である。一方、中間層21,22,23および磁化固定層11,12,13は、光変調素子1を縦に3分割したように、長辺が光変調素子1(磁化自由層3)と同じ長さの長方形であり、それぞれ短辺方向(図1、図2における横方向)に3つの部位を離間して並べられている。以下、本明細書においては、別途記載のない限り、中間層21,22,23は、平面視における形状および配置が磁化固定層11,12,13と一致するものとして説明を省略する。平面視における大きさについては、光変調素子1が後記する磁化反転動作を好適に行うために、磁化固定層11,12のそれぞれが、300nm×400nm相当の面積以下であることが好ましく、一般的なスピン注入磁化反転素子の一個の大きさである300nm×100nm程度相当の面積であることがさらに好ましい。一方、光変調素子1の全体の、すなわち磁化自由層3の面積は特に規定されず、磁化固定層11,12および第3磁化固定層13の各面積の合計よりも膜面方向に拡張されても、後記するように磁化反転させることができる。具体的には、光変調素子1は、空間光変調器の画素アレイ(図1参照)として2次元配列されたときに、隣り合う光変調素子1,1同士が間隔を設けて絶縁されていればよい。また、第3磁化固定層13の面積は特に限定されず、磁化固定層11,12の1つあたりの面積および光変調素子1の全体の面積との関係から決定され、本実施形態においては磁化固定層11,12と同じ形状とする。
光変調素子1は、3つのスピン注入磁化反転素子を、磁化自由層を共有して接続した構造である。すなわち、光変調素子1は、第1磁化固定層11、中間層21、磁化自由層3からなるスピン注入磁化反転素子構造(以下、適宜、第1素子構造MR1と称する)と、第2磁化固定層12、中間層22、磁化自由層3からなるスピン注入磁化反転素子構造(以下、適宜、第2素子構造MR2と称する)と、第3磁化固定層13、中間層23、磁化自由層3からなるスピン注入磁化反転素子構造(以下、適宜、第3素子構造MR3と称する)を備えるといえる(図4(a)参照)。なお、磁化固定層11,12,13、素子構造MR1,MR2,MR3、および電極51,52,53に付される「第1」、「第2」、「第3」は、互いを識別し易くするためのものであり、位置関係や何らかの順位付けを規定するものではない。
素子構造MR1,MR2,MR3は、磁化が一方向に固定された磁化固定層11,12,13および磁化の方向が回転可能な磁化自由層3を、非磁性または絶縁体である中間層21,22,23を挟んで備えたCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant Magneto-Resistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子やTMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子等のスピン注入磁化反転素子構造である。特に、磁化固定層11,13の磁化方向が平行である素子構造MR1,MR3は、抵抗変化率の高いTMR素子であることが好ましい。さらに、光変調素子1は、光変調素子1の製造時におけるダメージからこれらの層を保護するために、最上層に保護膜3aが設けられている。以下、光変調素子を構成する各要素について、詳細に説明する。
(磁化固定層)
磁化固定層11,12,13は磁性体であり、後記するように、磁化方向がそれぞれ固定されている。このような磁化固定層11,12,13は、CPP−GMR素子やTMR素子に用いられる公知の磁性材料にて構成することができ、特に、磁化自由層3の極カー効果で旋光角θkが大きくなる垂直磁気異方性材料を適用することが好ましい。具体的には、Fe,Co,Ni等の遷移金属とPd,Ptのような貴金属とを繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、Tb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)、L10系の規則合金としたFePt, FePd等が挙げられる。
また、磁化自由層3の磁化方向が回転しても磁化固定層11,12,13の磁化が固定されているように、磁化固定層11,12,13は、その保磁力Hcp1,Hcp2,Hcp3が磁化自由層3の保磁力Hcfよりも十分に大きくなるように、それぞれの材料を選択したり、磁化自由層3よりも厚く形成される。具体的には、磁化固定層11,12,13の厚さは3〜50nmの範囲において設計されることが好ましい。
光変調素子1において、磁化固定層11,12は互いに反対(反平行)方向の磁化に固定され、磁化固定層11,13は同じ(平行)方向の磁化に固定される。このような磁化方向とする初期設定を容易にするために、磁化固定層11,12,13は、保磁力Hcp1,Hcp2,Hcp3が磁化自由層3の保磁力Hcfよりも大きいことに加えて、保磁力Hcp1と保磁力Hcp3が互いに略一致する大きさで、かつ保磁力Hcp2と異なる大きさになるように設計されることが好ましい。ここでは、第2磁化固定層12の保磁力Hcp2がより大きい、すなわちHcf<<Hcp1=Hcp3<Hcp2とする。したがって、磁化固定層11,12,13(磁化固定層11,13と磁化固定層12)は、互いに異なる材料や厚さとしてもよい。
(磁化自由層)
磁化自由層3は磁性体であり、磁化固定層11,12,13が磁化方向を固定されているのに対し、磁化自由層3はスピン注入によって磁化を容易に反転(180°回転)させることができ、磁化固定層11,13および磁化固定層12のいずれか一方と同じ磁化方向を示す。磁化自由層3は前記の公知の磁性材料にて構成することができ、磁化固定層11,12,13と同様に、垂直磁気異方性材料を適用することが好ましい。特に、磁化自由層3は、光変調素子1(空間光変調器の画素)への入射光の波長において磁気光学効果の大きい材料を選択することがより好ましい。例えば、短波長域(400nm近傍)はCo/Pt多層膜、長波長域(700nm近傍)はGd−Fe合金が好適である。
また、前記した通り、磁化自由層3は、保磁力Hcfが磁化固定層11,12,13の保磁力Hcp1,Hcp2,Hcp3よりも小さくなるように、材料を選択したり、磁化固定層11,12,13よりも薄く形成される。具体的には、磁化自由層3の厚さは1〜20nmの範囲において設計されることが好ましい。
(中間層)
中間層21,22,23は、それぞれ磁化固定層11,12,13上に、磁化自由層3との間に設けられる。中間層21,22,23は、素子構造MR1,MR2,MR3がTMR素子であれば、MgO,Al23,HfO2のような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなり、その厚さは0.6〜2nm程度とすることが好ましく、1nm以下とすることがさらに好ましい。また、中間層21,22,23は、素子構造MR1,MR2,MR3がCPP−GMR素子であれば、Cu,Ag,Al,Auのような非磁性金属やZnO等の半導体からなり、その厚さは1〜10nmとすることが好ましい。特に中間層21,22,23(以下、区別しない場合に、適宜、中間層2と称する)は、Agを適用して厚さ6nm以上とした場合、光変調素子1に入射した光を高反射率で反射するため、出射する光の量が多くなってコントラストが向上するので好ましい。
(保護膜)
保護膜3aは、光変調素子1の製造時におけるダメージから磁化自由層3等の各層を保護するために、最上層に設けられている。保護膜3aは、Ta,Ru,Cuの単層、またはCu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層構造とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護膜3aの厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えて厚くしても、製造工程において磁化自由層3等を保護する効果がそれ以上には向上しない上、光の透過が妨げられるので好ましくない。したがって、保護膜3aの厚さは1〜10nmとすることが好ましい。
(光変調素子の磁化反転動作)
次に、本実施形態における光変調素子の磁化反転の動作を、図4を参照して説明する。なお、図4において保護膜3aは図示を省略する。光変調素子1において、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13は上向きに、第2磁化固定層12は下向きに、それぞれ磁化が固定されている。また、第1電極51および第2電極52は一対の電極として電源95を接続され、第3電極53は開放(open)状態とする。
まず、磁化自由層3を図4(a)に示す下向きの磁化から、図4(c)に示す上向きの磁化に反転させる光変調素子1の動作を説明する。図4(b)に示すように、電源95から電流−IWを供給して、第1磁化固定層11に接続した第1電極51を「−」に、第2磁化固定層12に接続した第2電極52を「+」にして、第1磁化固定層11側から電子を注入する。すると、第1磁化固定層11により当該第1磁化固定層11の磁化と逆方向の下向きのスピンを持つ電子d2が弁別されて、上向きのスピンを持つ電子d1のみが第1電極51から第1磁化固定層11に注入され、さらに中間層21を介して磁化自由層3に注入される。磁化自由層3においては、電子d1の上向きスピンによるスピントルクが作用することによって当該磁化自由層3の内部電子のスピンが反転し、第1磁化固定層11の直上の領域から磁化が上向きへと反転する。さらに、磁化自由層3に注入された電子d1は、磁化が逆方向の第2磁化固定層12により弁別されるために磁化自由層3に留まり、その結果、図4(c)に示すように、磁化自由層3は、磁化固定層11,12に積層した領域だけでなく、これら2つの領域に挟まれた領域も含めて、すなわち全体が、第1磁化固定層11の磁化方向と同じ上向きの磁化を示す状態に変化(磁化反転)する。
次に、磁化自由層3を図4(c)に示す上向きの磁化から、図4(a)に示す下向きの磁化に反転させる光変調素子1の動作を説明する。前記の図4(b)に示す動作とは反対に、図4(d)に示すように、電源95から電流+IWを供給して、第1電極51を「+」に、第2電極52を「−」にして、第2磁化固定層12側から電子を注入する。すると、磁化自由層3には下向きのスピンを持つ電子d2のみが中間層22を介して注入され、電子d2の下向きスピンによるスピントルクが作用することによって当該磁化自由層3の内部電子のスピンが反転し、第2磁化固定層12の直上の領域から磁化が下向きへと反転する。さらに、磁化自由層3に注入された電子d2は、磁化が逆方向の第1磁化固定層11により弁別されるために磁化自由層3に留まり、その結果、磁化自由層3は、図4(a)に示すように、全体が第2磁化固定層12の磁化方向と同じ下向きの磁化を示す状態に変化(磁化反転)する。
このように、本実施形態における光変調素子1は、同じ側(上側)の面に中間層21,22を挟んで磁化自由層3を積層した2つの磁化固定層11,12のそれぞれに一対の電極51,52を接続して電流−IW(または+IW)を供給することで、断面視アーチ型の電流経路が形成されて磁化自由層3の磁化方向を変化させる(磁化反転させる)ことができる。したがって、本実施形態における光変調素子1は、2つのスピン注入磁化反転素子構造のそれぞれすなわち磁化固定層11,12を、スピン注入磁化反転に好適な小さな面積として、共有される磁化自由層3において電流が流れる膜面方向に磁壁が移動して磁化反転するので、この磁化自由層3を大きな面積に形成することができる。また、光変調素子1は、2つの磁化固定層11,12によるスピン注入駆動のため、磁化反転動作が安定したものとなる。なお、電流−IW,+IWの大きさ|IW|は、光変調素子1の磁化自由層3を磁化反転させる電流(磁化反転電流)ISTS以上であればよい。この磁化反転電流ISTSは、光変調素子1の2つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の磁化反転電流であり、素子構造MR1,MR2の面積、各層の材料や厚さ等によって決定される。
第3素子構造MR3については、第3磁化固定層13上の第3電極53がopen状態であるため、電極51,52から磁化自由層3に供給される電流(電子)が中間層23を介して第3磁化固定層13へ流れることはなく、第3素子構造MR3としてスピン注入磁化反転することはない。したがって、光変調素子1は、磁化自由層3の磁化反転動作については、第3素子構造MR3の面積、各層の材料や厚さ等、さらに第3磁化固定層13の磁化方向によって影響されることはない。
なお、図4(a)、(c)にそれぞれ示すように、光変調素子1は、磁化自由層3が下向きの磁化を示すときに電流+IWを供給されたり、反対に磁化自由層3が上向きの磁化を示すときに電流−IWを供給されても、磁化自由層3の磁化方向は変化しない。また、光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が上または下に一様であるときに電流供給を停止されても、磁化自由層3自体の保磁力Hcfにより磁化方向が変化することはない。したがって、光変調素子1の駆動電流として、パルス電流のように磁化方向を反転させる電流値(≧ISTS)に一時的に到達する電流を用いることができる。
(光変調素子の光変調動作)
次に、光変調素子1の光変調の動作を、図5を参照して説明する。光変調素子1に入射した光が磁性体である磁化自由層3で反射すると、磁気光学効果により、光はその偏光の向きが変化(旋光)して出射する。さらに、磁性体の磁化方向が180°異なると、当該磁性体の磁気光学効果による旋光の向きは反転する。したがって、図5(a)、(b)にそれぞれ示す、磁化自由層3の磁化方向が互いに180°異なる光変調素子1における旋光角は−θk,+θkで、互いに逆方向に偏光面が回転する。このように、光変調素子1は、その出射光の偏光の向きを、供給される電流IWの向き(正負)に応じて変化させることで後記の空間光変調器等の画素として機能する。なお、旋光角−θk,+θkは、光変調素子1での1回の反射による旋光(カー回転)に限られず、例えば多重反射により累積された角度も含める。
本発明に係る光変調素子は、前記した通り、空間光変調器の画素として2次元配列されて設けられる。ここで、多数の画素が2次元状に規則的に配列された構造を有する空間光変調器は、平行な波面を有して直進する光が各画素に入射すると、当該画素の端部でその光の進む方向が曲げられ(回折現象)、出射した光による干渉効果(波の強め合いと弱め合い)によって、光の強め合う方向が複数本に分離する。この回折現象により、入射光の直進方向に対して回折角φnの角度に曲げられた±1次、±2次、・・・、±n次の回折光が生じる(nは、0または自然数)。回折角φnは入射光の波長λおよび画素ピッチpに依存する。なお、空間光変調器をホログラフィ装置に応用する際には、一般的には1次回折光が用いられる。n=0における0次回折光は、反射型の空間光変調器においては、入射角と同一角度で反射する反射光と等価である(透過型の空間光変調器の場合は、入射光の直進方向と同一方向の透過光と等価である)。したがって、本明細書において、光変調素子(空間光変調器の画素)から出射した反射光(出射光)とは、前記のn次回折光も含まれるものとして説明する。この回折光においても、磁性体(磁化自由層)の磁化方向に応じて、ファラデー効果またはカー効果による偏光の向きの変化(旋光)が生じる。
本発明に係る光変調素子1は、磁化自由層3の側すなわち上方から光を入射され、反射させて上方へ出射する。したがって、磁化固定層11,12,13の下に設けられる電極51,52,53は、光を透過させる必要がないため、低抵抗の金属材料を適用することができる(後記の空間光変調器の実施形態において説明する)。さらに、光変調素子1は、当該光変調素子1を形成する前に、基板7に高温プロセスで形成されるMOSFET等からなる選択素子を接続して画素8とすることができる。
(光変調素子の抵抗変化)
次に、本実施形態における光変調素子の磁化反転による抵抗の変化を、図5を参照して説明する。図5(a)、(b)のそれぞれに示す光変調素子1は、図4(a)、(c)に示す光変調素子1と同じ磁化状態である。なお、詳しくは後記するが、図5において、光変調素子1に副電源96から供給されている電流ITSTは、磁化反転電流ISTSよりも小さく、光変調素子1の磁化状態を変化させるものではない。光変調素子1は、前記した通り3つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2,MR3を備えている(図4(a)参照)。
図5(a)に示す光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が下向きで第1磁化固定層11と磁化方向が反平行、すなわち第1素子構造MR1の磁化が反平行(AP)(図15(b)参照)である。このときの第1素子構造MR1の抵抗をR1APと表す。そして、このとき、磁化自由層3は第3磁化固定層13とも磁化方向が反平行、すなわち第3素子構造MR3の磁化が反平行(AP)であり、このときの第3素子構造MR3の抵抗をR3APと表す。同時に、図5(a)に示す光変調素子1は、磁化自由層3が第2磁化固定層12と磁化方向が平行、すなわち第2素子構造MR2の磁化が平行(P)(図15(a)参照)である。このときの第2素子構造MR2の抵抗をR2Pと表す。
一方、図5(b)に示す光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が上向きで第1磁化固定層11および第3磁化固定層13と磁化方向が平行であり、この磁化が平行(P)である第1素子構造MR1の抵抗をR1P、第3素子構造MR3の抵抗をR3Pと表す。同時に、図5(b)に示す光変調素子1は、磁化自由層3が第2磁化固定層12と磁化方向が反平行であり、この磁化が反平行(AP)である第2素子構造MR2の抵抗をR2APと表す。
図5(a)に示す光変調素子1について、電極51,52間で測定される抵抗R12Dは、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の各抵抗の和であるので、下式(1)で表される。同様に、図5(b)に示す光変調素子1について、電極51,52間で測定される抵抗R12Uは、下式(2)で表される。
R12D=R1AP+R2P ・・・(1)
R12U=R1P+R2AP ・・・(2)
磁化が平行、反平行のときのスピン注入磁化反転素子の抵抗は、面積、各層の材料や厚さ等によって決定されるので、素子構造MR1,MR2,MR3の材料や形状等が同一に形成されている、あるいはその差異が抵抗に与える影響が小さい場合、下式(3)、(4)で近似的に表すことができる。RP,RAPは、素子構造MR1,MR2,MR3の各抵抗を標準化して表したものである。したがって、式(1)および式(2)より、下式(5)が成立する。
P=R1P=R2P=R3P ・・・(3)
AP=R1AP=R2AP=R3AP ・・・(4)
R12D=R12U=RP+RAP ・・・(5)
このように、2つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2にて磁化自由層3の磁化反転動作をさせる光変調素子1は、磁化反転動作のための電流を供給する電極51,52間の抵抗が磁化反転で変化しない。これに対して、第1磁化固定層11に接続された電極51と、第1磁化固定層11と平行な磁化方向に固定された第3磁化固定層13に接続した電極53との間で測定される抵抗は次のようになる。なお、このとき、第2電極52はopen状態とする。
図5(a)に示す光変調素子1について、電極51,53間で測定される抵抗R13Dは、下式(6)で表される。同様に、図5(b)に示す光変調素子1について、電極51,53間で測定される抵抗R13Uは、下式(7)で表される。
R13D=R1AP+R3AP=2RAP ・・・(6)
R13U=R1P+R3P=2RP ・・・(7)
スピン注入磁化反転素子は、磁化が反平行の方が平行よりも抵抗が大きい。光変調素子1の3つのスピン注入磁化反転素子構造の1つあたりの磁化反転による抵抗の変化量(RAP−RP)を、ΔR(>0)と表す。すると、式(6)、(7)より、電極51,53間で測定される光変調素子1の抵抗R13D,R13Uの変化量ΔR13は、下式(8)で表されることになる。
ΔR13=R13D−R13U=2RAP−2RP=2ΔR ・・・(8)
このように、光変調素子1は、磁化反転動作のための素子構造MR1,MR2とは別に、第3素子構造MR3を設けて電極53を接続することで、図15に示すような一般的なスピン注入磁化反転素子と同様に、磁化反転動作により抵抗が変化し、その変化量は、1つのスピン注入磁化反転素子構造の抵抗の変化量ΔRの2倍である。そして、この抵抗の変化量は、光変調素子1の3つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2,MR3のそれぞれの抵抗およびその変化量に差を設ける必要がないので、材料等を特に異なるものを選択することなく、設計や製造が複雑化しない。
光変調素子1は、電極51,53間で測定される抵抗であれば磁化反転動作により変化し、第2電極52をopen状態とせずに電極51,53の一方に接続してもよい。例えば、同極に接続した電極52,53と、第1電極51との間で測定される抵抗は、並列に接続された素子構造MR2,MR3の合成抵抗と第1素子構造MR1の抵抗との和である。素子構造MR2,MR3は、磁化の平行、反平行の状態が互いに異なるので(図5参照)、前記の式(3)、(4)が成立する場合、その合成抵抗は磁化反転により変化しない。したがって、電極52,53と第1電極51との間で測定される抵抗の変化量ΔR123は、第1素子構造MR1の1個の抵抗の変化量すなわちΔRである。
光変調素子1は、電極51,53を同極に、第2電極52を異極に接続して、抵抗を測定することもできる。この場合に測定される抵抗は、並列に接続された素子構造MR1,MR3の合成抵抗と第2素子構造MR2の抵抗との和であるから、前記の式(3)、(4)が成立する場合、磁化反転による変化量はΔR/2である。
光変調素子1の抵抗値の測定方法の詳細は、空間光変調器の書込みエラー検出(画素判定)方法の説明にて後記する。
光変調素子1の別の実施形態として、磁化固定層11,13と磁化固定層12とは、保磁力Hcp1(Hcp3),Hcp2に差を設けることに代えて、少なくとも一方を、交換結合した磁性膜を備えた多層構造としてもよい。具体的には、磁化固定層11,12,13は、Ru等の磁気交換結合膜を挟んで、Co−Fe膜、またはTb−Fe−Co/Co−Fe等の積層膜にさらに積層された3、4層程度の多層構造としてもよい。例えば、下(電極51,52,53の側)から、Tb−Fe−Co等の保磁力の大きな垂直磁化膜に、Co−Fe/Ru/Co−Feの3層構造を積層したTb−Fe−Co/Co−Fe/Ru/Co−Feの4層構造とすることができる。このような多層構造において、磁気交換結合膜を挟んだ磁性膜同士は、磁気交換結合膜の厚さによって、互いに反平行な、または平行な磁化方向を示す。
例えば、磁化固定層11,13はCo−Fe(5nm)の単層とし、磁化固定層12は下(第2電極52の側)から、Co−Fe(5nm)/Ru(0.7nm)/Co−Fe(2nm)の3層構造とする。なお、( )内は厚さを示す。このような光変調素子1に磁界を印加すると、磁化固定層11,12,13のそれぞれにおける5nm厚さのCo−Fe膜の磁化方向が印加磁界の向きに揃い、磁化固定層12の中間層22側の2nm厚さのCo−Fe膜の磁化方向が反平行な磁化方向となる。あるいは磁化固定層11,12,13のすべてに磁気交換結合膜を設けた場合、磁化固定層12は前記と同じ3層構造とし、磁化固定層11,13は下(電極51,53の側)から、Co−Fe(2nm)/Ru(0.7nm)/Co−Fe(5nm)の各層の厚さを変えた3層構造とする。このような光変調素子1に磁界を印加した場合も、磁界の向きに5nm厚さのCo−Fe膜の磁化方向が揃い、Ru膜を隔てた2nm厚さのCo−Fe膜の磁化方向が反平行な磁化方向となるため、磁化固定層11,13と磁化固定層12のそれぞれの中間層2の側のCo−Fe膜の磁化方向が互いに反平行となる。磁化固定層11,13および磁化固定層12の少なくとも一方がこのような多層構造であることにより、磁化固定層11,13と磁化固定層12(多層構造における中間層2の側の磁性膜)を互いに反対方向の磁化に容易に初期設定することができる。このような光変調素子1についても、前記に説明したように磁化自由層3が磁化反転して、光変調動作をし、また抵抗が変化するので、空間光変調器10の画素8に設けることができる。
さらに光変調素子1の別の実施形態として、磁化固定層11,12,13、および磁化自由層3は、面内磁気異方性材料で形成されてもよい。具体的には、Ni,Fe,Coのような遷移金属や、Ni−Fe,Ni−Fe−Mo,Co−Cr,Co−Fe,Co−Fe−B,Co−Fe−Si,Co−Fe−Ge等の遷移金属合金、あるいはCo−Pt等の遷移金属と貴金属との合金が挙げられる。あるいはMn−Bi合金、Mn/Bi多層膜、Pt−Mn−Sb合金、Pt/Mn−Sb多層膜等の磁気光学効果の大きなMn含有磁性合金を用いることができる。さらに磁化固定層11,13および磁化固定層12について、少なくとも一方を交換結合した磁性膜を備えた多層構造とする場合は、例えば、下(電極51,52,53の側)からIr−Mn/Co−Fe/Ru/Co−Feの4層構造とすることができる。最下層のIr−Mnに代えて、Fe−Mn,Pt−Mn等の反強磁性材料を適用することもできる。
このような面内磁気異方性とした磁化固定層11,13と磁化固定層12は、面内方向における一方向とその反対方向に磁化を固定され、例えば図1および図3(a)に示す平面視形状の光変調素子1においては、長方形の当該磁化固定層11,12,13の長辺方向(図1における縦方向)に固定されることが好ましい。このような光変調素子1は、垂直磁気異方性の場合と同様に、磁化反転により、磁化自由層3が磁化固定層11,12のいずれか一方と平行で他方と反平行の磁化方向を示し、また、磁化反転動作に伴い電極51,53間の抵抗が変化する(図示省略)。
図4を参照して説明した通り、光変調素子1の素子構造MR1,MR2はバイポーラ(双極性)駆動によりスピン注入磁化反転するが、ユニポーラ(単極性)駆動式のスピン注入磁化反転素子構造を適用してもよい。一例として、大塚雄太他、「ユニポーラ電流によるスピン注入磁化反転」、2012年春季第59回応用物理学関係連合講演会予稿集、17p−B4−8、2012年2月、に記載された、磁化自由層に特定のフェリ磁性体材料を適用したスピン注入磁化反転素子が挙げられる。かかるスピン注入磁化反転素子を素子構造MR1,MR2に適用することにより、光変調素子1(1D)は、2値の大きさの電流を一方向に供給することで、磁化自由層の磁化方向を下向きから上向き、上向きから下向きの両方向の磁化反転動作が可能である(図示省略)。
光変調素子1は、図1および図3(a)にて平面視形状を正方形としたが、これに限られない。さらに、磁化固定層11,12,13(素子構造MR1,MR2,MR3)の配置と形状も縦3分割の同一形状の長方形に限られない。例えば、図3(b)に示す変形例に係る光変調素子1Cは、平面(底面)視において、正方形の対角の2つの角を欠いた六角形であり、残りの2つの角のそれぞれを含む直角三角形に磁化固定層11,12が形成されている。そして、磁化固定層11,12間に磁化固定層13が長方形に形成されている。なお、図3(b)において、網掛けを付した領域が磁化固定層11,12,13の設けられた部位である。言い換えると、光変調素子1Cは、正方形を斜め45°の線に沿って3分割し、両端すなわち対角の2つの角に磁化固定層11,12を設け、これらの層から電子が注入されない磁化自由層3の領域(図中に破線で表す)を取り除くために、残りの2つの角を切り外して六角形にしたものである。光変調素子1Cは、このような平面視形状であっても、前記実施形態と同様に、電極51,52から電流を供給されて磁化反転動作をし、それに伴い電極51,53間の抵抗が変化する。このように、本発明に係る光変調素子は、第1素子構造MR1と第2素子構造MR2のスピン注入磁化反転により、当該光変調素子が入射光を光変調する領域(ここでは全体)において磁化自由層3の磁化方向を反転させることができ、さらに磁化自由層3の磁化方向が反転する領域に第3素子構造MR3(第3磁化固定層13、中間層23)が設けられればよい。
光変調素子1は、中間層21,22,23を、磁化固定層11,12,13と同一形状として互いに離間させて設けているがこれに限られず、離間させずに設けることもできる。詳しくは、隣り合う2つの中間層2,2、すなわち中間層21,23の両方、または中間層23,22の両方が絶縁体のみからなる場合は、このような隣り合う2つの中間層2,2同士が接触していてもよく、特に同じ絶縁体材料からなるのであれば、磁化自由層3と同様に一体に設けてもよい(図示省略)。
以上のように、本発明に係る光変調素子は、2つの磁化固定層により磁化反転動作が安定し、かつ全体の面積を大きくすることができるので、空間光変調器の画素に備えてその開口率を高くすることができる。さらに、本発明に係る光変調素子は、磁化反転により特定の電極間の抵抗が変化する磁気抵抗効果素子であるので、磁化自由層の磁化方向を検知することが容易で、空間光変調器等の画素としてのみならず、従来のスピン注入磁化反転素子と同様に、MRAM用のメモリ素子に適用することができる。
[空間光変調器]
(第1実施形態)
次に、前記の本発明に係る光変調素子を画素に備える空間光変調器について、図面を参照してその実施形態を説明する。
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器10は、基板7と、基板7上に2次元アレイ状に配列された画素8からなる画素アレイ80と、画素アレイ80から1つ以上の画素8を選択して駆動する電流制御部90を備える。画素8においては、基板7上に電極51,52,58および第3電極53(図2、図6参照)が配され、さらにその上に光変調素子1が配される。空間光変調器10の光の入射面は上面(平面)であり、空間光変調器10は、画素8(画素アレイ80)に上方から入射した光を変調して上方へ出射する反射型の空間光変調器である(図6参照)。
本実施形態では、画素アレイ80は、説明を簡潔にするために、4行×4列の16個の画素8からなる構成で例示される。画素アレイ80は、平面視でY方向(図1における縦方向)に延設された4本の第1電極51と、平面視で第1電極51と直交するX方向(図1における横方向)に延設された各4本の第2電極52および素子選択電極58と、を備える。さらに、本実施形態に係る空間光変調器10の画素8は、基板7の表層に形成されたトランジスタ4(図3(a)参照)を備え、素子選択電極58および第3電極53に接続される。詳しくは後記するように、画素アレイ80は選択トランジスタ型のMRAMに類似した構造を有する。
ここで、トランジスタ4は、図3(a)に示すように、平面視において上下左右対称に形成されたMOSFETからなる。このような構成とすることで、上下方向(Y方向)においてはソース4sが、左右方向(X方向)においてはゲート4gが、それぞれ対向する2つのトランジスタ4,4において共有され、画素8が微細化される。このようなトランジスタ4の配列に合わせて、画素アレイ80は、X,Y方向において、画素8を1つおきに左右上下反転させて配列する。したがって、画素アレイ80において、光変調素子1は、トランジスタ4と接続されるために、磁化固定層11,13,12の並び方向をX方向にして配置され、かつ、1つおきに左右反転させて配列されている。そして、左右に隣り合う光変調素子1,1において、第1磁化固定層11,11同士、第2磁化固定層12,12同士が対向する構成となる。画素アレイ80における光変調素子1およびトランジスタ4の配置は、それぞれの大きさや形状に応じて設計されればよく、例えば光変調素子1が平面視における向きを揃えて配列されてもよい(図14参照)。なお、図3(a)は、2行×2列の4個の画素8におけるトランジスタ4、および1個の光変調素子1のみを示し、また、電極51,52,53,58は、トランジスタ4に直接に接続される部分以外は二点鎖線で示す。
前記した通り、空間光変調器10の画素8に設けられた光変調素子1は、同一面に離間して形成された磁化固定層11,13,12のそれぞれに電極51,53,52が接続される。また、画素アレイ80において、光変調素子1は、磁化固定層11,13,12の並び方向をX方向にして配置されている。そのため、この並び方向に直交するY方向に延設されて第1磁化固定層11に接続する第1電極51は、隣の第3磁化固定層13または第1電極51同士で接触しない程度の幅の帯状の配線に形成され、図2に示すように、光変調素子1の底面に直接に接続する高さ位置に設けられる。
また、X方向に延設されて第2磁化固定層12に接続する第2電極52は、第1磁化固定層11と第1電極51との接続を妨げないように、かつ第3電極53と短絡しないように、図2に示すように、帯状の配線部分(配線部52a)が第1電極51の下(光変調素子1から離れた側)に層間絶縁層(絶縁部材6)を挟んで設けられる。そして、図3(a)に示すように、磁化固定層12の直下に当該磁化固定層12(光変調素子1)の底面に接続する接続部52cが形成され、層間接続部52b(コンタクト)で配線部52aに接続する。なお、図1において、第2電極52は配線部52aのみを示し、また第3電極53は図示を省略する。
一方、第3磁化固定層13に接続する第3電極53は、トランジスタ4のドレイン4dに接続するために、第1磁化固定層11と第1電極51、第2磁化固定層12と第2電極52のそれぞれの接続を妨げないように、かつ電極51,52と短絡しないように、接続部53c2が、第3磁化固定層13と同じまたはそれよりも少し大きい平面視形状に形成されて、第1電極51および第2電極52の接続部52cと同じ高さ位置に設けられて磁化固定層12(光変調素子1)の底面に接続される。第3電極53は、この接続部53c2から基板7へ向けて、層間接続部53bおよび中継接続部53dを経由して、接続部53c1でドレイン4dに接続する。
トランジスタ4のゲート4gに接続される素子選択電極58は、第2電極52と平行にX方向に延設されるため、配線部58aが第2電極52の配線部52aと同じ高さ位置に設けられ、接続部58cでゲート4gに接続する。また、トランジスタ4のソース4sに接続されるソース電極54は、グラウンド(GND、図示省略)に接続(接地)する。なお、図2に示す基板7の断面には、トランジスタ4のドレイン4dのみが示されるので、トランジスタ4の図示を省略する。同様に、図6において、トランジスタ4は図示を省略する。さらに図2および図6において、素子選択電極58は、Y電極52の配線部52aの奥に隠れる位置であるので、図示を省略する。
このように、画素アレイ80において、電極51と電極52,58とは互いに直交して、列単位、行単位で画素8に共有されて設けられる。そして、光変調素子1の磁化反転動作(書込み)においては、第1電極51と第2電極52が電源95に接続される。そのため、適宜、第1電極51をX電極51、第2電極52をY電極52と称する。一方、磁化反転動作に伴う抵抗の変化の読出し(書込みエラー検出)においては、第1電極51が副電源96に接続され、また、素子選択電極58からの電流の供給でON状態となったトランジスタ4により、第3電極53がグラウンドに接続する。なお、本実施形態においては、X電極51、Y電極52(配線部52a)、素子選択電極58(配線部58a)はすべて同じ幅で形成されているが、これに限られず、例えば、光変調素子1の磁化反転動作のための電流−IW,+IWを流さない素子選択電極58は、電極51,52よりも細く形成されてもよい。さらに、画素アレイ80は、隣り合う光変調素子1,1間、X電極51,51間、電極52,58間、およびX電極51と電極52,58との層間に、すなわち図2において空白で表された領域に、絶縁部材6が形成されている。
(光変調素子)
光変調素子1は、既に説明した構成であり、説明を省略する。なお、画素アレイ80に設けられたすべての光変調素子1は、ここでは、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13を上向きに、第2磁化固定層12を下向きに固定されている(図6参照)。また、磁化自由層3は、磁化方向が上向きのときには+θk、磁化方向が下向きのときには−θkの角度で、入射した光の偏光の向きを回転させる(図5参照)。なお、光変調素子1は、電極51,52,53への密着性を得るために、また、中間層21,22,23および磁化固定層11,12,13の厚さが同じでない場合にその上に形成される磁化自由層3の段差を解消するために、電極51,52,53との間(磁化固定層11,12,13の下)に金属薄膜からなる下地膜を備えてもよい(図示省略)。このような下地膜は、Ta,Ru,Cu等の非磁性金属材料で、厚さ1〜10nmとすることが好ましい。下地膜は、厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えても効果がそれ以上には向上しない。
(トランジスタ)
トランジスタ4は、光変調素子1の第3磁化固定層13(第3電極53)を個別にグラウンドに接続可能とするための選択素子(スイッチ素子)である。画素8にトランジスタ4を備えることで、空間光変調器10は、後記する書込みエラー検出において、非選択の画素8の光変調素子1の一端(第3電極53)がopen状態となって、第3電極53に漏れ電流が流れないので、選択した画素8に限定して光変調素子1の抵抗の変化量を検出することができる。選択素子はトランジスタに限られず、後記第3、第4実施形態(図12および図13参照)に記載するように、例えばダイオードを適用してもよい。
(電極)
第1電極(X電極)51、第2電極(Y電極)52、第3電極53、素子選択電極58、およびソース電極54は、いずれも光変調素子1(磁化自由層3)に対して光の入出射側の反対側に配置されるので、光を遮ることがなく、低抵抗の金属材料で形成することができる。したがって、電極51,52,53,58,54は、例えば、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される。そして、スパッタリング法等の公知の方法により成膜、フォトリソグラフィ、およびエッチングまたはリフトオフ法等によりストライプ状等の所望の形状に加工される。
(基板)
基板7は、画素8を2次元配列するための土台であり、光変調素子1を製造するための広義の基板である。さらに、本実施形態に係る空間光変調器10は画素8にトランジスタ4を備えるために、基板7はMOSFETの材料に用いられるSi(シリコン)基板が好適である。あるいは、ガラス等のその他の公知の基板を用い、結晶Si膜を成膜して、MOSFETを形成してもよい。
(絶縁部材)
絶縁部材6は、光変調素子1における磁化固定層11,13間および中間層21,23間(素子構造MR1,MR3間)、磁化固定層13,12間および中間層23,22間(素子構造MR3,MR2間)、ならびに隣り合う光変調素子1,1間、X電極51,51間、電極52,58間、さらにX電極51と電極52,58との層間を、それぞれ絶縁するために設けられる。絶縁部材6は、例えばSiO2やAl23等の酸化膜やSi34等の公知の絶縁材料を適用することができる。
画素アレイ80は、光変調素子1上に、Si−N(シリコン窒化物)、ZnO(酸化亜鉛)、HfO2(酸化ハフニウム)、ZrO(酸化ジルコニウム)等の高屈折率の誘電体(絶縁体)層を設けて、さらにその上にSiO2等の低屈折率の誘電体層を積層してもよい。あるいは、光変調素子1上にSiO2,Si−N等の誘電体(絶縁体)層を成膜し、その上にITO(酸化インジウムスズ)、IZO(インジウム酸化亜鉛)等の高屈折率の透明酸化物半導体(透明導電体)層を形成してもよい。あるいは、前記透明酸化物半導体(導電体)層と前記誘電体(絶縁体)層とを、交互に積層した多層膜等を形成してもよい(図示省略)。光変調素子1(磁化自由層3)で反射した光が高屈折率の誘電体層(または透明導電体)と低屈折率の誘電体層との界面で反射して、再び光変調素子1に入射するという動作を繰り返すため、光が画素アレイ80から出射するまでに、光変調素子1で何回も旋光を繰り返して旋光角が累積されて大きくなり、明暗のコントラストが向上する。
(電流制御部)
図1に示すように、電流制御部90は、X電極51を選択するX電極選択部91と、Y電極52を選択するY電極選択部92と、素子選択電極58を選択する素子選択部93と、電極51,52に電流を供給する電源(電流供給手段)95と、この電源95、前記の電極選択部91,92、および素子選択部93を制御する画素選択部(画素選択手段)94と、を備える。これらはそれぞれ以下に説明する動作が可能な公知の装置を適用することができる。さらに、電流制御部90は、X電極51に電流を供給する副電源(副電流供給手段)96と、画素の書込みエラー検出を行う判定部(画素判定手段)97と、を備える。副電源96は、後記するように、供給する電流の大きさが異なる以外は電源95と同様の装置を適用することができる。判定部97は、電圧比較器97aおよび検査部97bで構成され、後記するように、電圧比較器97aはMRAMにおける公知の読出し回路を、検査部97bは演算処理を行ういわゆるCPUを、それぞれ適用することができる。
画素選択部94は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて、画素アレイ80の特定の1つ以上の画素8を選択し、選択した画素8の画素アレイ80におけるX,Y座標に基づいて電極選択部91,92に電極51,52を選択させ、さらに電源95が供給する電流の向きを選択する。そして図7に示すように、画素選択部94からの命令(図中、94の丸数字で表す)により、X電極選択部91はX電極51の1つ以上を選択し、Y電極選択部92はY電極52の1つ以上を選択し、選択した電極51,52に電源95を接続する。電源95は、選択した画素8に備えられる光変調素子1を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給する公知の電源で、直流パルス電流を正負反転可能に供給することができる。そして、電源95は、画素選択部94が選択した正または負の電流(+IW/−IW)を、接続された電極51,52を介して光変調素子1に供給する。空間光変調器10は、このような構成により、画素アレイ80から所望の画素8が選択され、この画素8の光変調素子1に、所定の大きさのパルス電流が選択された向きに供給されて、磁化自由層3を所望の磁化方向にする。光変調素子1の磁化反転動作は、図4を参照して説明した通りである。選択された画素8の光変調素子1の磁化反転動作により当該光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が変化することで、この選択された画素8に入射した光を選択的に所望の偏光の向きに変調して出射することができる(後記の空間光変調器の光変調動作(図6参照)にて、詳細に説明する)。
さらに画素選択部94は、素子選択部93に素子選択電極58を選択させて、当該素子選択部93の内蔵するトランジスタ4の駆動用電源(図7参照)から電流を供給させることにより、第3電極53をグラウンドに接続し、同時に、電源95に代えて副電源96をX電極51に接続させて、光変調素子1の磁化反転電流ISTSよりも小さい所定の電流ITSTを供給させることができる。判定部97において、電圧比較器97aは、副電源96と並列に接続され、X電極51とグラウンド間の電圧、すなわち光変調素子1に電流ITSTが供給されているときの電極51,53間の電圧を参照電位(閾値)Vrefと比較して、結果を検査部97b(図7では図示省略)に出力する。この比較結果は、光変調素子1の磁化自由層3の現実の磁化方向を示すものであり、検査部97bは、比較結果が示す磁化方向が画素選択部94が選択した磁化方向であるかを照合する書込みエラー検出を行う。電圧比較器97aは、電極51,53間の電圧(X電極51のグラウンドに対する電位)を入力されて、参照電位Vrefと比較して高いか低いかを1か0で出力する差動センスアンプSA(図7参照)や、参照電位Vrefの出力回路(図示省略)を備え、MRAMにおける公知の読出し回路を適用することができる。また、電圧比較器97aは、精度を向上させるために、電極51,53からの電圧を増幅する増幅器を経由して接続されたり、差動センスアンプSAに閾値Vrefとの差分を増幅させる回路を備えたりしてもよい(図示省略)。空間光変調器10の書込みエラー検出方法は、後記にて詳細に説明する。
[空間光変調器の製造方法]
本実施形態に係る空間光変調器10の画素アレイ80は、選択トランジスタ型のMRAMに類似した構造を有することから、かかるMRAMと同様に公知の方法で製造することができる。すなわち、はじめに基板7にMOSFETでトランジスタ4を形成し、トランジスタ4および光変調素子1と接続する電極を形成し、電極51,52,53に接続するように光変調素子1を形成して製造される。
(トランジスタの形成)
MOSFETの形成は、基板7としてp型シリコン(Si)基板を適用し、公知の方法で行うことができる。基板7(Si)に、隣り合うソース4s,4s間、ドレイン4d,4d間を絶縁するSiO2の埋込みを行い、表面に薄い酸化膜(SiO2膜)を形成し、その上にpoly−Si膜を成膜してゲート4gを形成する。n型不純物イオンを注入して、ソース4sおよびドレイン4dとする(図3(a)参照)。
(電極の形成)
フォトリソグラフィやエッチング、リフトオフ法等を用いて、トランジスタ4を形成した基板7上に、トランジスタ4のソース4s、ドレイン4d、ゲート4gにそれぞれ接続する電極54,53,58、ならびにX電極51およびY電極52を形成し、これらの電極同士の間を絶縁部材6で埋め、さらにその表面と電極51,52,53の表面すなわち光変調素子1との接続面を面一にする(図8(a)参照)。
以下、図8(a)に示す基板7上に設けられた電極および絶縁部材6上に、光変調素子1を形成して画素アレイ80を製造する方法の一例を、図8および図9を参照して説明する。なお、図8(b)〜(d)および図9の各断面図においては、電極52,53における各接続部52c,53c2(図2参照)以外、素子選択電極58、および基板7(トランジスタ4)は図示を省略する。
(光変調素子の形成)
電極51,52,53および絶縁部材6上に、磁化固定層11,12,13および中間層2をそれぞれ形成する材料(図中、各層と同じ符号で示す。以下同。)、ならびに仮保護膜C1を連続して成膜する。ここで、仮保護膜とは、保護膜3aと同様に、製造時におけるダメージから中間層2等の層を保護するために一時的に設けられる膜であり、Ru等の前記保護膜3aの材料として挙げたものが適用できる。仮保護膜C1は、厚さは特に規定されず、例えばレジスト形成時の現像液の中間層2への含浸等によるダメージを防止できればよく、Ruを適用する場合は厚さを3nm程度とすることが好ましい。また、仮保護膜C1の材料として中間層2を形成する材料を適用することができ、すなわち仮保護膜C1に代えて中間層2を形成する材料を、光変調素子1完成時よりも厚く成膜すればよく、具体的には10nm程度厚く成膜することが好ましい。
仮保護膜C1の上に、図8(b)に示すように、光変調素子1のそれぞれの素子構造MR1,MR3間および素子構造MR2,MR3間の領域を空けたレジストパターンを形成する。そして、イオンビームミリング法によるエッチングで、図8(c)に示すように、仮保護膜C1から中間層2、磁化固定層11,12,13までを除去して、絶縁部材6を露出させる。次に、図8(d)に示すように絶縁膜(絶縁部材6)および仮保護膜C2を成膜して、図9(a)に示すようにレジストを絶縁膜等ごと除去する(リフトオフ)。そして、仮保護膜C1,C2をエッチングにて除去して、中間層2(21,22,23)および絶縁部材6を露出させる。仮保護膜C2は、仮保護膜C1と同じ材料を適用し、また、当該仮保護膜C2の成膜時における仮保護膜C1の残厚に合わせた厚さとすることが好ましい。このような仮保護膜C2を設けたことにより、中間層2上の仮保護膜C1とエッチングレートが均等になり、その結果、図9(b)に示すように、光変調素子1における2つのスピン注入磁化反転素子構造同士の間が分離し、絶縁部材6で面一に埋められる。
次に、磁化自由層3、保護膜3aをそれぞれ形成する材料を連続して成膜する。その上に、図9(c)に示すように、光変調素子1の平面視形状のレジストパターンを形成する。エッチングで、図9(d)に示すように、保護膜3aから磁化自由層3、中間層2、磁化固定層11,12,13までを除去してその下の絶縁部材6を露出させる。次に、図9(e)に示すように絶縁膜(絶縁部材6)を成膜して、レジストを絶縁膜ごと除去する(リフトオフ)。これにより、電極51,52,53上に接続された3つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2,MR3を備えた光変調素子1が形成され、上面(保護膜3a表面)までが面一に絶縁部材6で埋められる。さらにその上に絶縁膜を形成してもよい(図示省略)。
このような製造方法によれば、トランジスタ4、3つのスピン注入磁化反転素子構造を備えた光変調素子1、光変調素子1に接続する電極51,52,53、およびトランジスタ4に接続する電極54,58を備えた画素8が2次元配列された画素アレイ80を、基板7上に形成することができる。
(光変調素子の初期設定)
前記した通り、画素アレイ80のすべての画素8の光変調素子1は、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13が上向きに、第2磁化固定層12が下向きに、それぞれ磁化が固定されている必要がある。磁化固定層11,12,13は電源95からの電流供給では磁化反転しないため、次の方法で光変調素子1の初期設定を行う。
本実施形態に係る光変調素子1は、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13の保磁力Hcp1,Hcp3よりも第2磁化固定層12の保磁力Hcp2が大きい(Hcp1≒Hcp3<Hcp2)。そこで、まず、画素アレイ80に、Hcp2よりも大きい下向きの外部磁界を印加して、すべての磁化固定層11,12,13の磁化を下向きにする。次に、Hcp2よりも小さくかつHcp1,Hcp3よりも大きい上向きの外部磁界を印加して、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13の磁化を上向きにする。なお、この2段階の磁界印加は、完成した(製造後の)画素アレイ80に限られず、画素アレイ80の製造工程途中において磁化固定層11,12,13用の磁性膜材料を成膜した後以降であれば、どの段階であっても実施することができる。
また、磁化固定層11,13および磁化固定層12の少なくとも一方が、交換結合した磁性膜を備えた多層構造である光変調素子1の場合は、磁化固定層11,12,13のすべての保磁力(Hcp1,Hcp2,Hcp3)を超える外部磁界を印加しながら、真空中で200℃程度の熱処理をすることにより、前記磁界印加の1回(1段階)で光変調素子1の初期設定を行うことができる。
[空間光変調器の光変調動作]
本発明に係る空間光変調器の光変調動作を、図6を参照して、この空間光変調器を用いた表示装置にて説明する。表示装置は、前記した従来のスピン注入磁化反転素子を光変調素子としたもの(特許文献1参照)と同様の構成とすればよい。本実施形態に係る空間光変調器10は反射型であり、また、光変調素子1は金属電極であるX電極51やY電極52等の上に設けられ、その光変調部となる磁化自由層3は垂直磁気異方性材料からなり磁化方向が上向きまたは下向きを示すため、表示装置は以下の構成とすることが好ましい。空間光変調器10の画素アレイ80の上方には、画素アレイ80に向けて光(レーザー光)を照射する光源等を備える光学系OPSと、光学系OPSから照射された光を画素アレイ80に入射する前に1つの偏光成分の光(以下、入射光)にする偏光子(偏光フィルタ)PFiと、この上方から画素アレイ80に入射した入射光が画素アレイ80で反射して出射した出射光から特定の偏光成分の光を遮光する偏光子(偏光フィルタ)PFoと、偏光子PFoを透過した光を検出する検出器PDとが配置される。なお、図6において、空間光変調器10は、電流制御部90を省略して、画素アレイ80のみを示す。
光学系OPSは、例えばレーザー光源、およびこれに光学的に接続されてレーザー光を画素アレイ80の全面に照射する大きさに拡大するビーム拡大器、さらに拡大されたレーザー光を平行光にするレンズで構成される(図示省略)。光学系OPSから照射された光(レーザー光)は様々な偏光成分を含んでいるため、この光を画素アレイ80の手前の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光にする。偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段である。
光学系OPSは、平行光としたレーザー光を、画素アレイ80へ照射する。ここで、光変調素子1の磁化自由層3の磁気光学効果は、光の入射角が磁化自由層3の磁化方向に平行に近いほど大きい。したがって、入射角は膜面に垂直すなわち0°とすることが光変調度を最大とする上で望ましいが、このようにすると、出射光の光路が入射光の光路と一致する。そこで、入射角を少し傾斜させて、偏光子PFoおよび検出器PD、光学系OPSおよび偏光子PFiが、それぞれ入射光および出射光の光路を遮らない配置となるようにする。具体的には、入射光の入射角は30°以下とすることが好ましい。レーザー光は偏光子PFiを透過して1つの偏光成分の入射光となり、画素アレイ80の上方からすべての画素8に向けて入射する。入射光は、それぞれの画素8の光変調素子1で反射して、当該画素8から出射光として出射する。
出射光は偏光子PFoによって特定の1つの偏光成分の光、ここでは入射光に対して+θk旋光した光が遮光され、偏光子PFoを透過した光が検出器PDに入射する。したがって、光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が上向きである画素8からの出射光は偏光子PFoで遮光されるため、この画素8は暗く(黒く)、検出器PDに表示される。一方、入射光に対して−θk旋光した光すなわち光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が下向きである画素8からの出射光は、偏光子PFoを透過して検出器PDに到達するため、この画素8は明るく(白く)検出器PDに表示される。
このように、本発明に係る空間光変調器10は、画素8毎に明/暗(白/黒)を切り分けられ、各画素8に供給する電流の向き(+IW/−IW)を切り換えれば明/暗が切り換わる。なお、空間光変調器10の初期状態としては、例えば全体が白く表示されるように、すべての画素8の光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が下向きにするべく、電源95からすべての画素8に電流+IWを供給すればよい(図4(d)、(a)参照)。
[空間光変調器の画素の書込みエラー検出方法]
図7に示すように、本発明に係る空間光変調器を等価回路図で表す(画素アレイは2行×2列の画素のみを示す)と、光変調素子1の第1素子構造MR1と第3素子構造MR3との合成抵抗が1つの磁気抵抗効果素子として表されるので、第1電極(X電極)51がビット線、素子選択電極58がワード線となり、画素アレイ80は選択トランジスタ型のMRAMと同じ回路構造であるといえる。したがって、本発明に係る空間光変調器は、MRAMと同様の読出し動作を行って、選択した画素について光変調素子の磁化反転動作(書込み)が正常になされたかを検査することができる。空間光変調器の画素の書込みエラー検出方法を、図1、図5、および適宜図4を参照して説明する。
まず、光変調素子1に接続した電極51,53間の電圧と磁化自由層3の磁化方向との関係について説明する。
(光変調素子における磁化自由層の磁化方向と電圧との関係)
図5(a)、(b)に示すように、光変調素子1に副電源96から所定の大きさの電流ITSTを供給しているとき、副電源96と並列に接続された電圧計で計測される電圧は、光変調素子1の抵抗に比例する。このとき光変調素子1に供給する電流(抵抗測定用電流)ITSTは、磁化自由層3の磁化方向を変化させない、すなわち光変調素子1の磁化反転電流ISTSよりも小さい。また、図5においては、抵抗測定用電流ITSTを、第1電極51を「+」にして供給しているが、電流の向きは問わず、また、光変調素子1の磁化反転動作のための電流−IW,+IWと異なり電流の向きは一方向でよい。このように、光変調素子1は、磁化反転電流ISTSよりも小さい電流を供給されても、磁化自由層3の磁化方向は変化しない。そして、このような一定の電流ITSTを光変調素子1に供給して計測される電圧は、光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向により変化する。
図5(a)に示すように、磁化自由層3が下向きの磁化を示している光変調素子1は、電極51,53間の抵抗の値がR13Dであるので、電圧の値VDがITST・R13Dとなる。反対に、図5(b)に示すように、磁化自由層3が上向きの磁化を示している光変調素子1は、電極51,53間の抵抗の値がR13Uであるので、電圧の値VUがITST・R13Uとなる。前記した通り、光変調素子1は、磁化自由層3が下向きの磁化を示しているときの方が電極51,53間の抵抗が高く、前記の式(6)〜(8)よりR13D>R13Uであり、したがってVD>VUとなる。すなわち、副電源96と並列に接続された、言い換えると電極51,53に接続された電圧計で計測した電圧の値から、光変調素子1の磁化自由層3の磁化が上向きか下向きかを検知することができる。例えば、電圧VD,VUのそれぞれの許容範囲における限界値として、閾値VrefL,VrefH(VU<VrefL<VrefH<VD)を設定する。計測した電圧の値がVrefH以上であれば磁化自由層3の磁化は下向きであり、VrefL以下であれば磁化自由層3の磁化は上向きであると検知することができる。したがって、光変調素子1は、電極51,53間の抵抗の変化量ΔR13が大きいほど、磁化反転により変化する電圧VD,VUの差が大きく、閾値VrefL,VrefHによる磁化自由層3の磁化方向の検知が容易かつ正確となる。
(画素の書込みエラーの検出方法)
また、光変調素子1の第3電極53は、選択した画素8においてグラウンドに接続される。これらのことから、空間光変調器10は、選択した画素8について、X電極51とグラウンド間の電圧(X電極51のグラウンドに対する電位)を閾値VrefL,VrefHと比較して、当該光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を検知し、光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を上向き、下向きのいずれにするかという画素選択部94による磁化反転動作の選択方向と照合することにより、磁化反転動作(書込み)が正常に行われたかを検査することができる。ここでは、書込みエラーの検出は、選択された画素8の光変調素子1に対して磁化反転動作を行った直後に、当該画素8に対して行うものとして説明する。
光変調素子1は、電極51,52に接続した電源95が画素選択部94からの命令により電流+IWを供給することで、図4(a)に示すように磁化自由層3が下向きの磁化を示している。ここで、画素選択部94は、光変調素子1の磁化反転動作のための電源95への電流供給指示の際に、磁化自由層3の磁化を下向きにすることを判定部97に通知している(図1参照)。そして、電源95からの電流+IWの供給後(供給停止後)に、画素選択部94からの命令により、この画素8の電極51,52と電源95との接続をX電極51と副電源96との接続に切り替え、図5(a)に示すように、副電源96から抵抗測定用電流ITSTを供給する。
判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向:下向きに基づき、予め、電圧比較器97aが比較の基準とする参照電位(閾値)をVrefHに設定し、さらに、検査部97bがこの閾値VrefH以上であれば合格(PASS)であると判定するように設定する。そして、副電源96による抵抗測定用電流ITSTの供給開始に合わせて、判定部97において、電圧比較器97aがX電極51からの電圧を閾値VrefHと比較して、VrefH以上であるか否かの結果を検査部97bへ出力する。X電極51からの電圧の値がVrefH以上であれば、図5(a)に示す通り、磁化自由層3の磁化は下向きであり、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたことがわかる。一方、電圧の値がVrefH未満である場合、光変調素子1の磁化反転動作が適切になされていない(FAIL)、すなわち書込みエラーであることがわかる。
反対に、図4(c)に示すように電源95から電流−IWを供給されて磁化自由層3の磁化を上向きにした場合も、同様に接続を切り替えて、図5(b)に示すように副電源96から抵抗測定用電流ITSTを供給する。このとき、判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向:上向きに基づき、予め、参照電位(閾値)をVrefLに設定し、検査部97bがこの閾値VrefL以下であれば合格(PASS)であると判定するように設定する。電圧比較器97aがX電極51からの電圧の値を閾値VrefLと比較した結果、電圧の値がVrefL以下であれば、図5(b)に示す通り、磁化自由層3の磁化は上向きであり、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたことがわかる。一方、電圧の値がVrefL超である場合、光変調素子1の磁化反転動作が適切になされていない(FAIL)、すなわち書込みエラーであることがわかる。
そして、判定部97の検査部97bは、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたと判定した場合は、画素選択部94に次の動作、すなわち別の画素8の選択および書込み、または同じ画素8への次の書込みに移行するように命令する。反対に、検査部97bは、書込みエラーを検出した場合は、画素選択部94に同じ画素8に対する先の磁化反転動作を再び実行するように命令する(図1参照)。このように、判定部97による判定を行いながら、画素選択部94による磁化反転動作(書込み)を行うことで、空間光変調器10は、画素アレイ80のすべての画素8で正確に表示することができる。なお、閾値VrefL,VrefHの設定、および判定部97の検査部97bによる判定方法や画素選択部94への命令等を行うためのプログラムは、例えば電流制御部90に内蔵された記憶装置(図示省略)に予め記憶すればよい。
本実施形態に係る空間光変調器10は、書込みエラー検出におけるX,Y一組の電極51,58の一方である素子選択電極58に、選択、非選択にかかわらず光変調素子1(第3磁化固定層13)が接続されるものではないので、同じ行のすなわち素子選択電極58を共有する非選択の画素8の光変調素子1に素子選択電極58を経由して漏れ電流が流れない。また、非選択の画素8の光変調素子1は、第3電極53がopen状態であるので、第3電極53との間(第3素子構造MR3)には漏れ電流が流れない。これらにより、選択された画素8の光変調素子1の抵抗は、非選択状態にある他の画素8の光変調素子1による抵抗成分の影響が抑えられ、磁化反転による抵抗の変化量が大きくなくても高低の判別が可能となる。
(書込みエラー検出方法の別の実施形態)
光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を検知するための電圧の閾値は、VrefL=VrefHとして1値(Vref)のみを設定してもよい(VU<Vref<VD)。すなわち、判定部97は、電極51,53間(X電極51とグラウンド間)の電圧の値が閾値Vrefよりも大きいか小さいかにより、磁化自由層3の磁化が下向きか上向きかを検知する。詳しくは、電圧比較器97aが比較の基準とする参照電位(閾値)はVrefに固定され、判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向に基づき、検査部97bがこの閾値Vrefよりも大きい場合と小さい場合とのいずれを合格(PASS)とするかを設定すればよい。また、電圧の閾値として、電圧VD,VUのそれぞれの限界値の一方のみ、すなわち電圧VDの下限値VrefHと電圧VUの上限値VrefLではなく、電圧VD,VUのそれぞれの許容範囲の下限値および上限値の計4値を設定して、より厳密に判定を行ってもよい。
また、前記した方法では、画素選択部94が画素8を選択して書込み(光変調素子1の磁化反転動作)を行う度に、判定部97が当該画素8に対して書込みエラー検出を行うという動作を繰り返すが、これに限られない。例えば、画素アレイ80のすべての画素8への書込みを完了したら、これらすべての画素8に対して順番に書込みエラー検出をすることもできる。
また、X電極51を共有する2以上の画素8を同時に選択して、それぞれの光変調素子1に対して同一の磁化反転動作を行った場合に、これらの画素8について一括して書込みエラー検出を行ってもよい。同時に選択された2以上の画素8の光変調素子1は、1本のX電極51に接続し、さらにそれぞれの第3電極53がグラウンドに接続しているので、副電源96に並列に接続されていることになる。したがって、これらの光変調素子1の合成抵抗に基づいた電圧の閾値を予め設定または判定部97が算出することができ、1個の光変調素子1の場合と同様の方法で書込みエラー検出を行うことができる。この場合、判定部97は、選択された画素8のすべての光変調素子1について磁化反転動作が正常に行われたか、1以上のいずれかの光変調素子1について書込みエラーであるか、のどちらかであることを判定することができる。
空間光変調器10は、X電極51への電流ITSTの供給時に、すべてのY電極52をグラウンドに接続(接地)してもよい(図示省略)。書込みエラー検出において、選択されたX電極51を経由して副電源96から光変調素子1に供給された電流ITSTは、第2磁化固定層12からY電極52へも流れ、このY電極52を共有する非選択の画素8の光変調素子1に流入する。そして、選択された画素8とX電極51または素子選択電極58を共有する非選択の画素8の光変調素子1を経由して、選択されたX電極51やグラウンドに合流する。このように、第3磁化固定層13(第3素子構造MR3)にトランジスタ4を接続していても、Y電極52により、非選択の画素8の光変調素子1を流れる漏れ電流の回路が形成され、選択された画素8の光変調素子1の抵抗にある程度影響を与える。
これに対して、Y電極52を接地すると、漏れ電流は、非選択の画素8の光変調素子1の抵抗に影響されずにグラウンドに流れる。なお、このとき、選択された画素8の光変調素子1は、電極52,53が共に接地されて同極に接続された状態になるので、前記したように、第1素子構造MR1の抵抗の1個の変化が測定される。したがって、第2電極(Y電極)52がopen状態での測定と比較して抵抗の変化量が1/2になるが、それ以上に漏れ電流による影響が大きい場合には、書込みエラー検出の精度が向上する。
空間光変調器10は、トランジスタ4のソース4sを副電源96に接続してもよく、この場合、ソース電極54を素子選択電極58と直交する配線とする。また、空間光変調器10は、トランジスタ4を、光変調素子1の第3磁化固定層13(第3素子構造MR3)に代えて第1磁化固定層11(第1素子構造MR1)の方に接続しても、同様の効果が得られる。この場合、トランジスタは、ドレインが光変調素子1の第1磁化固定層11に、ソースがX電極51に、ゲートがX電極51と平面視で直交する素子選択電極58に、それぞれ接続される。一方、第3磁化固定層13に接続する第3電極53は、書込みエラー検出時において、X電極51と一対の電極として副電源96に接続される(以上、図示省略)。なお、第1磁化固定層11に接続されるトランジスタは、磁化反転動作のための電流−IW,+IWも流れるので、かかる電流に耐えられるように設計される。
本実施形態に係る空間光変調器10の画素アレイ80は、図1および図6に示すように、X方向に隣り合う光変調素子1,1の第2磁化固定層12,12同士が対向し、かつ同じ第2電極(Y電極)52に接続している。そこで、第1実施形態の変形例として、図10に示すように、対向する第2磁化固定層12,12、および中間層22,22を、それぞれ一体に結合してもよい。磁化自由層3に積層されたスピン注入磁化反転素子構造MR2の面積は第1実施形態における光変調素子1と同一であるため、このように変形した光変調素子1Bであっても、第1実施形態と同様に磁化反転動作させることができる。さらに、第2磁化固定層12の面積が第1磁化固定層11、第3磁化固定層13よりも2倍を超えて大きくなるため、材料や厚さの違いに拠らず、第2磁化固定層12の保磁力Hcp2を磁化固定層11,13の保磁力Hcp1,Hcp3よりも大きく設計することができる。
以上のように、第1実施形態に係る空間光変調器によれば、面積の大きな光変調素子により画素の有効領域を広くして開口率を高くしつつ、従来のスピン注入磁化反転素子を光変調素子とした空間光変調器と同様に、駆動用配線を用いて書込みエラー検出が可能であり、さらに画素に選択素子を備えたことにより、非選択画素の光変調素子への漏れ電流が低減するので、光変調素子の抵抗変化量が小さくても書込みエラー検出が可能となり、応答速度を高速化することができる。
(第2実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第2実施形態に係る空間光変調器について説明する。なお、本実施形態および後記第3実施形態においては、第1実施形態(図1〜6参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
第1実施形態に係る空間光変調器10は、1つの画素8に1個の光変調素子1を備える構成であったがこれに限られず、1画素に2個以上の光変調素子を備えてもよい。すなわち、図11に示すように、第2実施形態に係る空間光変調器の画素8Aは、3個の光変調素子1Aを備える。図11において、網掛けを付した領域が磁化固定層11,12,13の設けられた部位である。光変調素子1Aは、X方向(図11における横方向)に拡張した平面視横長の長方形であること以外は、第1実施形態に係る空間光変調器10の光変調素子1と同一の構造である。そして、画素8Aにおいて、3個の光変調素子1Aは、当該光変調素子1Aの短辺方向(Y方向)に並べられて、同一の組の電極51,52(52c),53(53c2)に並列に接続される。なお、図11においては、素子選択電極58は図示を省略するが、第1実施形態(図1、図3(a)参照)と同様に、トランジスタ4に接続するように設ければよい。このような画素8Aは、第1実施形態と同様に基板7上に2次元配列されて画素アレイとなり、電流制御部90で動作させることができる。画素アレイおよび電流制御部90は、第1実施形態と同様の構成であるので、図示および説明を省略する。
以上のように、第2実施形態に係る空間光変調器によれば、画素サイズを大きくしても、光変調素子の1個のサイズが十分に小さいので好適に磁化反転し、開口率の高い画素とすることができる。
(第3実施形態)
第1実施形態に係る空間光変調器の画素アレイは、図7を参照して説明した通り、選択トランジスタ型のMRAMと同じ回路構造である。ここで、空間光変調器10において、第3磁化固定層13(第3電極53)に接続するトランジスタ4は、抵抗測定用電流ITSTのみが流れればよいので、選択素子としてダイオードを接続することができる。以下、図12を参照して、本発明の第3実施形態に係る空間光変調器について説明する。本実施形態においては、第1実施形態(図1〜7参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
第3実施形態に係る空間光変調器10Bの画素アレイ80Bは、図12に等価回路図で示すように、第3電極53をダイオード4Aのアノードに接続し、カソードに読出しY電極54Aを接続する。読出しY電極54Aは、X電極51と非平行にすなわちX方向に延設され、読出しY電極選択部93Aにより選択されて、X電極51と共に副電源96に接続される。したがって、書込みエラー検出においては、電極51,54A間の電圧を参照電位(閾値)Vrefと比較する。
ダイオード4Aは、抵抗測定用電流ITSTに対応した構成であればよく、例えばシリコン(Si)ダイオード等の一般的なものを適用することができる。読出しY電極54Aを形成した上に、n層、p層の順に積層し、その上に第3電極53を接続することで、電流が第3電極53から読出しY電極54Aへの一方向にのみ流れる。したがって、空間光変調器10Bは、書込みエラー検出において、副電源96の「+」を接続したX電極51と「−」を接続した読出しY電極54Aとの間に設けられた、すなわち選択された画素8Bにおけるダイオード4Aおよび光変調素子1(素子構造MR1,MR3)のみに電流ITSTが流れる。一方、第1実施形態と同様に、書込みエラー検出時の非選択の画素8Bにおいて、あるいは磁化反転動作時に、読出しY電極54Aがopen状態であることで、ダイオード4Aに電流が流れないので、光変調素子1は第3電極53との間(第3素子構造MR3)に漏れ電流が流れない。このように、ダイオード4Aは、特定の向きに電流を供給されたときのみに電流を流すので、トランジスタ4と同様に選択素子とすることができる。
空間光変調器10Bは、第1実施形態に係る空間光変調器10(図7参照)と同様に、書込みエラー検出において、すべてのY電極52を第3磁化固定層13(第3電極53)の接続先である副電源96の「−」側すなわちグラウンドに接続(接地)してもよい(図示省略)。あるいは、空間光変調器10Bは、書込みエラー検出において、非選択の画素8Bについて、読出しY電極54Aを、X電極51に供給される電流ITSTに対して電位を高くして、第3電極53(第3素子構造MR3)に漏れ電流が流れないようにしてもよい。同様に、磁化反転動作においては、すべての読出しY電極54Aを、電流+IWに対して電位を高くしてもよい。また、ダイオード4Aは、アノードとカソードを入れ替えて第3磁化固定層13(第3電極53)に接続してもよく、この場合は、副電源96の正負を入れ替えればよい(図示省略)。
以上のように、第3実施形態に係る空間光変調器によれば、第1実施形態に係る空間光変調器と同様に、非選択画素の光変調素子への漏れ電流が低減されるので、光変調素子の抵抗変化量が小さくても書込みエラー検出が可能であるので、応答速度を高速化することができる。さらに、一般にトランジスタよりも構造が簡易かつ平面視サイズの小さいダイオードを適用することで、画素を、有効領域を広くしつつ、いっそう微細化することができる。
(第4実施形態)
本発明に係る空間光変調器の画素は、光変調素子1の磁化固定層11,13の一方に加えて、第2磁化固定層12にも選択素子を接続してもよい。図13に示すように、第4実施形態に係る空間光変調器10Cは、画素8Cについて、第3磁化固定層13にダイオード41(4A)を接続した第3実施形態の画素8Bに、さらにダイオード42を第2磁化固定層12に接続して備える。
本実施形態に係る空間光変調器10Cは、画素8Cにユニポーラ駆動式の光変調素子1D(素子構造MR1,MR2)を備え、電源95Aにより第1電極51から第2電極52への一方向にのみ電流を供給して、磁化反転させる(図示省略)。あるいは、空間光変調器10Cは、電源95Aからの電流供給による磁化反転動作では、光変調素子1に、第1電極51から第2電極52への一方向にのみ電流を供給して、磁化自由層3の磁化方向を下向きにする(図4(a)、(d)参照)。磁化自由層3の磁化方向を上向きにする場合は、例えば画素8C(画素アレイ80C)への磁界印加により反転させることができる。
空間光変調器10Cは、このような構成とすることで、非選択の画素8Cの光変調素子1Dを経由して電流が流れることを防止する。詳しくは、光変調素子1Dにおいて書込みエラー検出のための(光変調素子1Dの抵抗測定に必要な)電流経路外となる第2磁化固定層12(第2素子構造MR2)にダイオード42を接続することにより、図13における最も左上の画素8Cに太破線で示す磁化反転動作のための電流を供給したとき、破線で示すような漏れ電流が流れる回路の形成を防止することができる。なお、図13に示すように、ダイオード41,42は共にアノードを光変調素子1D(磁化固定層12,13)の側に接続されているが、互いに逆向きに接続されてもよい(図示省略)。空間光変調器10Cは、特に、選択素子に平面視サイズの小さいダイオードを適用することで、1画素に2以上備えても画素が大型化せず、またトランジスタのように、ゲートへの電流供給のための配線を設ける必要がない。
空間光変調器10Cは、ダイオード41,42に代えて、トランジスタ4を光変調素子1の磁化固定層12,13(または磁化固定層11,12)のそれぞれに接続しても、前記効果が得られる。あるいは、第3磁化固定層13(第3電極53)にダイオード41(4A)を接続し、第2磁化固定層12にトランジスタを接続してもよい。第1磁化固定層11または第2磁化固定層12にトランジスタを接続することで、電流の向きに関係なく、ゲートへの電流供給により接続解除自在となり、バイポーラ駆動式の光変調素子1(図4参照)を適用することができる。そして、光変調素子1において書込みエラー検出のための電流経路外となる第2磁化固定層12(第2素子構造MR2)にトランジスタを接続することにより、磁化反転動作および書込みエラー検出において、漏れ電流がより確実に抑えられる(以上、図示省略)。
以上のように、第4実施形態に係る空間光変調器によれば、書込みエラー検出、磁化反転動作の両方において、非選択画素の光変調素子へ電流が漏れないので、書込みエラー検出においては、抵抗変化量の小さい光変調素子を適用して応答速度をいっそう高速化することができ、磁化反転動作においては、漏れ電流による損失が抑えられるので省電力化することができる。
(第5実施形態)
第5実施形態に係る空間光変調器は、図12に示す第3実施形態の画素8Bからダイオード4Aを除いて、第3電極53を直接に読出しY電極54Aに接続して、X電極51と共に副電源96に接続する。すなわち、本実施形態に係る空間光変調器は、MRAMの一形態であるクロスポイント型のMRAMと同じ回路構造である。以下、図14を参照して、本発明の第4実施形態に係る空間光変調器について説明する。本実施形態においては、第1、第3実施形態(図1〜7,10,12参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。また、図14(b)において、保護膜3aは図示を省略する。
このような空間光変調器においては、画素アレイ80Dは、画素8Dに面積を要するトランジスタを設ける必要がないので、画素のいっそうの微細化が可能であり、図14に示すように、基板7Aと電極51,52,53Aの3種類の配線と、光変調素子1と、絶縁部材6のみからなる簡易な構造となる。本実施形態に係る空間光変調器は、磁化反転動作においては第1実施形態と同様に、X電極51およびY電極52にて電源95から電流+IW,−IWを光変調素子1に供給する(図4参照)。一方、空間光変調器は、書込みエラー検出においては、副電源96から電流ITSTをX電極51および読出しY電極53Aにて直接に光変調素子1に供給する(図5参照)。なお、空間光変調器は、このような構成とすることで、書込みエラー検出において、非選択の画素8Dの光変調素子1に漏れ電流が流れ、画素アレイ80Dにおける光変調素子1の搭載個数(画素数)が多いほど検出される1個の光変調素子1の抵抗変化量が実際の値よりも小さくなることから、抵抗変化量が大きくなるように光変調素子1が設計されていることが好ましい。
本実施形態に係る空間光変調器の画素アレイ80Dは、画素8Dにトランジスタを備えないため、平面視において上下左右対称な構造としなくてよい。したがって、図14に示すように、画素アレイ80Dに設けられたすべての光変調素子1は、平面視における向きを揃え、図14において左側に第1磁化固定層11が、右側に第2磁化固定層12がそれぞれ配置されている。なお、前記第3、第4実施形態に係る空間光変調器10B,10Cの画素アレイ80B,80Cも同様の配置としてもよい。画素アレイ80Dは、このように画素にトランジスタを備えない構成であっても左右対称な構造としてもよく(図示省略)、さらに図10に示す第1実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素アレイ80Aと同様に、隣り合う第2磁化固定層12,12、および中間層22,22を、それぞれ一体に結合してもよい。
本実施形態に係る空間光変調器は、書込みエラー検出において、すべてのY電極52および非選択の画素8Dにおける読出しY電極53Aを、を第3磁化固定層13(読出しY電極53A)の接続先である副電源96の「−」側に接続してもよい。これにより、漏れ電流が低減される。
以上のように、第5実施形態に係る空間光変調器によれば、トランジスタのような面積の大きい選択素子を備えることなく書込みエラー検出が可能であるので、画素を、有効領域を広くしつつ、いっそう微細化することができ、さらに簡易な構造となる。
以上、本発明の光変調素子および空間光変調器を実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
10,10B,10C 空間光変調器
1,1A,1B,1C,1D 光変調素子
11 第1磁化固定層
12 第2磁化固定層
13 第3磁化固定層
21,22,23,2 中間層
3 磁化自由層
51 第1電極、X電極(電極)
52 第2電極、Y電極(電極)
53,53A 第3電極(電極)
7,7A 基板
80,80A,80B,80C,80D 画素アレイ
8,8A,8C,8D 画素
90 電流制御部
94 画素選択部(画素選択手段)
95,95A 電源(電流供給手段)
96 副電源(副電流供給手段)
97 判定部(画素判定手段)

Claims (8)

  1. 基板上に、磁化固定層、中間層、および磁化自由層の順に積層したスピン注入磁化反転素子構造を備え、前記磁化自由層が積層された側から入射した光をその偏光の向きを変化させて反射して出射する光変調素子であって、
    前記磁化固定層は、第1磁化固定層と、第2磁化固定層と、前記第1磁化固定層と前記第2磁化固定層との間に配置された第3磁化固定層と、を面方向に離間して、前記磁化自由層の下にそれぞれ前記中間層を挟んで有し、
    前記第1磁化固定層と前記第2磁化固定層とは互いに反平行な方向の磁化に固定され、前記第3磁化固定層は前記第1磁化固定層と同じ方向の磁化に固定され、
    前記第1磁化固定層と前記第2磁化固定層とに一対の電極を接続して電流を供給されることにより、前記磁化自由層の磁化方向が変化することを特徴とする光変調素子。
  2. 前記第2磁化固定層は、前記第1磁化固定層および前記第3磁化固定層と保磁力が異なることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子
  3. 前記第1磁化固定層および前記第3磁化固定層と、前記第2磁化固定層と、の少なくとも一方は、交換結合した磁性膜を備えた多層構造であることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
  4. 基板と前記基板上に2次元配列された複数の画素とを備えて、上方から前記複数の画素に入射した光を反射させて出射する空間光変調器において、前記画素が、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の光変調素子、ならびに前記光変調素子の前記第1磁化固定層に接続された第1電極、前記第2磁化固定層に接続された第2電極、および前記第3磁化固定層に接続された第3電極を備え、
    前記複数の画素から1つ以上の画素を選択し、前記選択した画素について、前記光変調素子の磁化自由層の磁化方向を異なる2方向のいずれにするかをさらに選択する画素選択手段と、
    前記画素選択手段が選択した画素の前記光変調素子に、前記第1電極と前記第2電極を一対の電極として電流を供給して、前記光変調素子の磁化自由層の磁化方向を前記画素選択手段が選択した方向にする電流供給手段と、
    前記電流供給手段が電流を供給した前記光変調素子の磁化自由層の磁化方向が、前記画素選択手段により選択された方向であることを判定する画素判定を、前記光変調素子の抵抗の変化を検知することにより行う画素判定手段と、を備えることを特徴とする空間光変調器。
  5. 前記画素選択手段が選択した画素の前記光変調素子に所定の大きさの電流を供給する副電流供給手段をさらに備え、
    前記画素判定手段は、前記副電流供給手段に電流を供給されている前記光変調素子に接続された前記第1電極と前記第3電極との間の電圧の値を、前記磁化自由層の磁化方向が前記画素選択手段により選択された方向であるときの前記光変調素子の抵抗に基づいて予め設定された閾値と比較することにより前記画素判定を行うことを特徴とする請求項4に記載の空間光変調器。
  6. 前記画素は、前記第1磁化固定層と前記第1電極との間、または前記第3磁化固定層と前記第3電極との間に、電気的接続を接続解除自在とする選択素子を備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の空間光変調器。
  7. 前記画素は、前記第2磁化固定層と前記第2電極との間に、電気的接続を接続解除自在とする選択素子を備えることを特徴とする請求項6に記載の空間光変調器。
  8. 前記画素は、前記光変調素子の2以上を、前記第1電極、前記第2電極、および前記第3電極に並列に接続して備えることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか一項に記載の空間光変調器。
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