以下、本発明に係る磁気光学式空間光変調器(以下、適宜、空間光変調器という)を実現するための実施形態について、図を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す底面図である。なお、本明細書における底面(下面)は、空間光変調器の光の入射面である。また、底面視および平面視での縦、横は、図1における縦、横をそれぞれ示す。図2は本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の画素の拡大図で、図1のB−B部分断面図である。以下に、本発明に係る空間光変調器を構成する各要素について説明する。
空間光変調器1は、基板7上に、図1に示すように2次元アレイ状に配列された画素4からなる画素アレイ40を備える。さらに空間光変調器1は、画素アレイ40から1つ以上の画素4を選択して駆動する電流制御部10を備える。なお、基板7は図1において、画素アレイ40の手前に配置されている(図示省略)。また、本明細書における画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段を指す。
図1に示すように、画素アレイ40は、平面視でストライプ状の複数の上部電極2,2,…と、同じくストライプ状で、平面(底面)視で上部電極2と直交する複数の下部電極3,3,…と、を備え、上部電極2と下部電極3との交点毎に1つの画素4を設ける。したがって、画素4は、空間光変調器1の光の入射面に、2次元アレイ状に配列されて画素アレイ40を構成する。本実施形態では、画素アレイ40は、5行×5列の25個の画素4からなる構成で例示される。なお、上部電極2と下部電極3は、適宜、両者をまとめて電極2,3と称する。そして、図1および図2に示すように、画素4は、当該画素4における一対の電極としての上部電極2および下部電極3と、これらの電極2,3に上下から挟まれた光変調素子5を備える。また、隣り合う上部電極2,2間、光変調素子5,5間、および下部電極3,3間は、絶縁部材6で埋められている。
図1に示すように、電流制御部10は、上部電極2を選択する上部電極選択部12と、下部電極3を選択する下部電極選択部13と、これらの電極選択部12,13を制御する画素選択部(画素選択手段)14と、電極2,3に電流を供給する電源(電流供給手段)11と、を備える。これらはそれぞれ公知のものでよく、光変調素子5を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給するものとする。
上部電極選択部12は、上部電極2の1つ以上を選択し、下部電極選択部13は、下部電極3の1つ以上を選択し、それぞれに電源11から所定の電流を供給させる。画素選択部14は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて画素アレイ40の特定の1つ以上の画素4を選択し、選択した画素4に接続する電極2,3を電極選択部12,13に選択させる。電源11は、選択した画素4に備えられる光変調素子5を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給する。このような構成により、特定の画素4が選択され、この画素4の光変調素子5に、所定の電流が供給されて磁化反転させる。なお、図1において、電源11は、電極2,3のそれぞれ一端に電極選択部12,13を介して接続されているが、両端に接続されていてもよい。両端に接続されることにより、応答速度を上げ、画素間の動作ばらつきも低減できる。
次に、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の画素の構成の詳細を図1および図2を参照して説明する。
上部電極2は、図2に示すように光変調素子5の上に配され、図1に示すように横方向に帯状に延設される。1つの上部電極2は、横1行に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの光変調素子5に電流を供給する。一方、下部電極3は、光変調素子5の下に配され、縦方向に帯状に延設される。1つの下部電極3は、縦1列に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの光変調素子5に電流を供給する。下部電極3は、光変調素子5への入射光および出射光を遮らないように透明電極材料で構成される。一方、上部電極2は、下方(下部電極3側)から光変調素子5を透過して到達した光を反射して再び下方へ出射させるため、反射率の高い金属電極材料で構成される。
上部電極2は、例えば、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなる。そして、スパッタリング法等の公知の方法により成膜、フォトリソグラフィ、およびエッチングまたはリフトオフ法等によりストライプ状に加工される。
下部電極3は、図2に示すように、透明電極材料からなる透明電極31と、この透明電極31と光変調素子5との間に積層された金属膜である下地層32と、からなる。このように、電極(配線)を透明電極材料で構成する場合、電極とこの電極に接続する光変調素子5との間に金属膜を設けることが好ましい。光変調素子5との間に金属膜である下地層32を介在させることで、金属電極材料より抵抗が大きい透明電極材料からなる透明電極31においても、下部電極3−光変調素子5間の接触抵抗を低減させて応答速度を上げることができる。
透明電極31は、例えば、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、ガリウム−酸化亜鉛(Gallium Zinc Oxide:GZO)、酸化アルミニウム−酸化亜鉛(Aluminum oxide - Zinc Oxide:AZO)等の公知の結晶性の透明電極材料からなる。結晶性材料を適用することで、加熱成膜または成膜後のポストアニールにより抵抗を低減することができる。これらの透明電極材料は、後記するように、高温にてスパッタリング法や真空蒸着法等の公知の方法により成膜される。あるいは、室温等の低温(無加熱)にて前記方法や塗布法等により成膜された後にポストアニールを施す。そして、フォトリソグラフィおよびエッチング等により下部電極3の形状すなわちストライプ状に加工される。
下地層32を構成する金属としては、例えば、Au,Ru,Ta、またはそれらの金属の2種以上からなる合金等を用いることができ、これらの金属はスパッタリング法等の公知の方法により成膜される。そして、下地層32とその上の層すなわち後記の光変調素子5の最下層である磁化自由層53との密着性をよくして接触抵抗をさらに低減するため、下地層32となる金属膜は、磁化自由層53となる磁性材料と連続的に真空処理室にて成膜されることが好ましい。連続して成膜された膜は、通常、一緒に加工されるため、図2に示すように、下地層32は光変調素子5と同じ平面視形状となるが、例えば透明電極31(下部電極3)と同じ平面視形状(帯状)であってもよい。詳細は、画素4の製造方法において説明する。下地層32の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると光の透過量を低下させる。したがって、下地層32の好ましい厚さは1〜10nmである。
本発明に係る空間光変調器1においては、下方すなわち基板7側から光を画素4に入射し、さらに画素4で反射した光を同じく基板7側へ出射するので、基板7は透明な材料からなる。また、基板7は、下部電極3の透明電極31の形成における高温処理に対応可能な耐熱性を有し、例えば、ガラス、SiO2、Al2O3、MgO等の材料が挙げられる。絶縁部材6は、隣り合う上部電極2,2間、光変調素子5,5間、および下部電極3,3間(図2不図示)に配され、例えば、SiO2やAl2O3等からなる。
光変調素子5は、図1に示すように、平面(底面)視で上部電極2と下部電極3の重なる部分に配され、この電極2,3に上下から挟まれて接続されている。光変調素子5の平面視形状は、本実施形態においては正方形であるが、これに限定されるものではない。また、1個の画素4につき1個の光変調素子5が配されているが、例えば1つの画素4に面方向で(1×3)個、(2×2)個等の複数の光変調素子5を備えてもよい。光変調素子5はスピン注入磁化反転素子であり、CPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗)素子、TMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗)素子等の公知の素子からなる。光変調素子5の構成は、図2に示すように、下部電極3の上に、磁化自由層53、中間層52、磁化固定層51、保護層54の順に積層されてなる。これらの各層は、例えばスパッタリング法や分子線エピタキシー(MBE)法等の公知の方法によりそれぞれ成膜されて、積層され、電子線リソグラフィ等により前記形状に加工される。
磁化固定層51および磁化自由層53は磁性体であり、共に面内磁気異方性を有するか、または共に垂直磁気異方性を有する。そして、磁化固定層51の磁化方向は固定されているのに対し、磁化自由層53の磁化方向は固定されておらず、スピン注入によって容易に回転(反転)させることができる。これら2層の間に設けられる中間層52は、光変調素子5がTMR素子であれば絶縁体、CPP−GMR素子であれば非磁性の導体で形成される。これら3層でスピン注入磁化反転素子として動作するが、製造工程におけるダメージからこれらの層(特に磁化固定層51)を保護するために、最上層に保護層54が設けられる。
磁化固定層51は、その厚さは数〜数十nmであり、面内磁気異方性を有する磁化固定層51とする場合は、強磁性金属(FM)や磁性半導体からなる。強磁性金属としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、FM/PtMn、FM/Ru/FM/PtMn(シンセティックピン層、積層フェリ構造)のような多層膜、さらにIrMn等の磁化固着層を上層に設けたFM/IrMn、FM/Ru/FM/IrMnが挙げられる。また、磁性半導体としては、ZnO:Mn、ZnO:Mn1-XFeX、ZnO:Cr1-XMnX等のZnOを母体とするもの、III-V族化合物半導体を母体とするもの、TiOを母体とするもの、II−VI族化合物半導体を母体とするものが挙げられる。一方、垂直磁気異方性を有する磁化固定層51とする場合は、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜、Sm,Eu,Gd,Tb等の希土類を含む合金のような強磁性金属が挙げられる。
中間層52は、磁化固定層51と磁化自由層53との間に設けられる。光変調素子5がTMR素子であれば、中間層52は、MgO,Al2O3,HfO2のような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなり、その厚さは0.5〜3nm程度である。また、光変調素子5がCPP−GMR素子であれば、中間層52は、Cu,Au,Agのような非磁性金属からなり、その厚さは3〜20nm程度である。
磁化自由層53は、強磁性金属や磁性半導体からなり、その厚さは1〜20nm程度である。面内磁気異方性を有する磁化自由層53とする場合の材料としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含むCoFe,CoFeB,NiFe等の合金、これらの材料の2種以上からなる積層膜、FM/Ru/FM(シンセティックフリー層、積層フェリ構造)のような強磁性金属が挙げられる。または、ZnO:Mn、ZnO:Mn1-XFeX、ZnO:Cr1-XMnX等のZnOを母体とする磁性半導体、III-V族化合物半導体やII−VI族化合物半導体を母体とするものが挙げられる。一方、垂直磁気異方性を有する磁化自由層53とする場合の材料としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、CoPt,CoCr基合金(CoCr,CoCrPt,CoCrTa等)、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜、Sm,Eu,Gd,Tb等の希土類を含む合金、MnBiのような強磁性金属が挙げられる。
保護層54は、Ta,Ru,Cuの単層、または、Cu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護層54の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えて厚くしても効果が飽和する。したがって、保護層54の厚さは1〜10nmが好ましく、3〜5nmがより好ましい。
次に、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の画素選択の動作を、図3を参照して説明する。図3は、第1実施形態に係る空間光変調器を用いた表示装置の構成および画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図に対応する。電極2,3は、前記の通り、電流制御部10に接続される。また、図3に示すように、第1実施形態に係る空間光変調器1を表示装置に用いるため、画素4(画素アレイ40)の下方には、画素アレイ40に向けて光を照射する光源93と、光源93から照射された光を画素アレイ40に入射する前に偏光とする入射偏光フィルタ91と、画素アレイ40から出射した光から特定の向きの偏光のみを透過する出射偏光フィルタ92と、出射偏光フィルタ92を透過した光を検出する検出器94とが配置される。このように、空間光変調器1は、画素アレイ40の下方から入射した光を反射する反射型の空間光変調器である。
本実施形態において、光変調素子5は、面内磁気異方性すなわち膜面方向の磁化を有する磁化固定層51および磁化自由層53を備えるスピン注入磁化反転素子とする。図3においては、磁化固定層51および磁化自由層53のそれぞれの磁化方向を右向きまたは左向きの矢印で示す。また、図3において、光変調素子5の保護層54は図示を省略する。
光源93から照射された光(レーザー光等)は様々な偏光成分を含んでいるので、これを画素アレイ40の手前の入射偏光フィルタ91を透過させて、1つの偏光成分の光とする。以下、1つの偏光成分の光を偏光と称する。この偏光(入射偏光)は、基板7を透過し、画素アレイ40のすべての画素4に所定の入射角で入射する。それぞれの画素4において、入射偏光は、下部電極3を透過して光変調素子5に入射し、光変調素子5またはその上の上部電極2で反射して、光変調素子5から出射偏光として出射し、再び下部電極3を透過して画素4から出射する。それぞれの画素4から出射したすべての出射偏光は、再び基板7を透過して出射偏光フィルタ92に到達する。出射偏光フィルタ92は、特定の偏光、ここでは入射偏光に対して角度θap旋光した偏光のみを透過させ、この透過した出射偏光が検出器94に入射される。偏光フィルタ91,92はそれぞれ偏光板等であり、検出器94はスクリーン等の画像表示手段である。あるいは、検出器94はカメラ等の撮像手段としてもよい。
スピン注入磁化反転素子である光変調素子5は、逆方向のスピンを持つ電子を注入することにより、すなわち電流を反対向きに供給することにより、磁化自由層53の磁化方向を反転(スピン注入磁化反転)させて、磁化固定層51の磁化方向と同じ方向または180°異なる方向にする。具体的には、上部電極2を「−」、下部電極3を「+」にして、磁化自由層53側から磁化固定層51へ電流を供給すると、磁化自由層53の磁化は磁化固定層51の磁化方向と同じ方向になる。以下、この状態を光変調素子5の磁化が平行である(P:Parallel)という。反対に、上部電極2を「+」、下部電極3を「−」にして、磁化固定層51側から磁化自由層53へ電流を供給すると、磁化自由層53の磁化は磁化固定層51の磁化方向と逆方向になる。以下、この状態を光変調素子5の磁化が反平行である(AP:Anti-Parallel)という。図3に示すように、すべての画素4において磁化固定層51の磁化は一方向(右向き)に揃えられているので、電極2,3からの電流の向きに応じて、磁化自由層53の磁化は右向きまたは左向きのいずれかを示す。なお、光変調素子5の磁化が平行、反平行いずれかの磁化を示していれば、その磁化を反転させる電流が供給されるまでは磁化が保持される。このように、光変調素子5において磁化は保持されるため、光変調素子5に供給する電流としては、パルス電流のように、磁化方向を反転させる電流値に一時的に到達する電流を用いることができる。
光変調素子5に入射した偏光が、磁化自由層53、中間層52、磁化固定層51を透過し、上部電極2の下面で反射して、再び磁化固定層51、中間層52、磁化自由層53を透過して出射した場合、磁性体である磁化自由層53および磁化固定層51を透過することで、ファラデー効果により、偏光はその向きが、磁化自由層53および磁化固定層51のそれぞれの所定の角度(旋光角)に回転(旋光)する。さらに、磁化が平行、反平行な光変調素子5にそれぞれ入射した偏光は、磁化自由層53の磁化方向が180°異なるため、前記旋光角で互いに逆方向に回転して出射する。そこで、前記の、磁化が平行、反平行の光変調素子5における旋光角をそれぞれθp,θapと異なる角度で表せる。なお、磁化固定層51の磁化方向は一定であるので、旋光角θp,θapの差は磁化自由層53のみによって決定される。
あるいは、光変調素子5に入射した偏光が、磁化自由層53を透過し、中間層52との界面で反射して、再び磁化自由層53を透過して出射した場合も、磁化方向が変化する磁化自由層53を透過するので、同様に旋光角θp,θapの差が生じる。このように、光変調素子5が磁化反転すると、出射偏光は、同じ向きの入射偏光に対して旋光角θp,θap回転した異なる向きの偏光となる。
入射偏光に対して角度θap旋光した図3の左右両端の画素4,4からのそれぞれの出射偏光は、出射偏光フィルタ92を透過して検出器94に到達するので、この画素4は明るく(白く)検出器94に表示される。一方、中央の画素4からの出射偏光は、出射偏光フィルタ92で遮られるので、この画素4は暗く(黒く)、検出器94に表示される。このように、画素毎に明/暗(白/黒)を切り分けられ、電流の向きを切り換えれば明/暗が切り換わる。なお、空間光変調器1の初期状態としては、例えば全体が白く表示されるようにすべての画素4の光変調素子5に下向きの電流を供給するべく、上部電極2のすべてを「+」、下部電極3のすべてを「−」にすればよい。
ここで、磁気光学効果は、光の入射角が磁気光学材料の磁化方向に対して平行に近いほど大きい。したがって、面内磁気異方性を有する光変調素子5においては、光(入射偏光)の入射角を、膜面に対して、すなわち画素アレイ40の膜面方向に対して平行に近くするほど、旋光角θp,θapの差を大きくすることができる。しかし、画素アレイ40の構造上、光が光変調素子5の底面から入射するためには、入射角にある程度の傾斜が必要である。したがって、空間光変調器1における画素4への光の入射角は、動作時における光変調素子5の磁化自由層53の磁化方向すなわち磁化固定層51の磁化方向に対して10°〜60°、入射角で30°〜80°の範囲が好ましく、図3に示すように、本実施形態の空間光変調器1は、画素アレイ40に対して斜めに光が入射される。また、入射偏光、出射偏光共に光路が画素アレイ40の下方にあるので、出射偏光フィルタ92および検出器94は入射偏光の光路を遮らない位置に、光源93および入射偏光フィルタ91は、出射偏光の光路を遮らない位置に、それぞれ配置される。
なお、光変調素子5が垂直磁気異方性を有する磁化固定層51および磁化自由層53を備える場合、それぞれの磁化は垂直方向であり、磁化自由層53の磁化は上向き/下向きで反転するが、この場合も同様にファラデー効果を生じる。また、このような光変調素子5を備える画素4(画素アレイ40)への偏光の入射角は0°とすることが旋光角を大きくする上で望ましいが、この場合、出射偏光の光路が入射偏光の光路と一致する。そこで、入射角を5°〜30°程度傾けて、出射偏光フィルタ92および検出部94、光源93および入射偏光フィルタ91が、それぞれ入射偏光および出射偏光の光路を遮らない配置となるようにする。すなわち、偏光の入射角は5°〜30°とすることが好ましい。または、入射角0°として、入射偏光フィルタ91と画素アレイ40との間にハーフミラーを配置して、出射偏光のみを側方へ反射させてもよい。この場合、出射偏光フィルタ92および検出器94は画素アレイ40の側方に配置する。
ここで、光変調素子5をスピン注入磁化反転させる電流を供給するために電極2,3を介して印加する必要最低電圧(駆動電圧)は、画素4の抵抗に比例する。したがって、画素4の抵抗である上部電極2、光変調素子5、下部電極3のそれぞれの抵抗の和が小さいほど印加電圧を低くすることができる。光変調素子5の抵抗は当該光変調素子5の構成で決まり、また上部電極2は金属電極材料からなるので、その抵抗は、光変調素子5、透明電極材料からなる下部電極3と比較すると無視できるほどに小さな値(例えば、Cuの比抵抗:1.68×10-6Ω・cm)であるため、駆動電圧は下部電極3の抵抗に大きく依存することになる。
一般的な透明電極材料として、結晶性であるITO,GZO,AZO、非晶質であるIZO等が挙げられる。上部電極として透明電極材料を適用する場合、下層の光変調素子にダメージを与えないような条件で成膜、加工等をする必要があり、温度は200℃程度以下に制限される。このような場合、無加熱(室温等)成膜で比較的良好な導電性が得られるIZO(比抵抗450μΩ・cm)が好適に用いられる。特に、無加熱成膜であれば、レジストマスク上への成膜が可能なので、リフトオフ法による加工も可能となる。一方、ITO等の結晶性導電材料は、加熱成膜や成膜後のポストアニール等の熱処理により、結晶粒径を大きくして、抵抗を低減することができる。例えば、無加熱(室温)で成膜されたITOの比抵抗は700〜800μΩ・cmであるが、350℃(基板温度)でスパッタリング法にて成膜したITOは比抵抗100μΩ・cmとなり、無加熱成膜のITOの約1/8、IZOに対しても1/4以下である。
第1実施形態に係る空間光変調器1においては、透明電極材料を下部電極3の透明電極31として基板7上に直接成膜することで、基板7の材料の耐久性の範囲内での処理が可能となり、前記加熱成膜やポストアニール等の高温処理が可能となる。具体的には、透明電極材料としてITOを適用する場合において、成膜温度200〜600℃が好ましく、あるいは無加熱での成膜後に、真空中にて200℃で10min以上(大気中であれば30〜60min程度)のポストアニールを施すことが好ましい。また、焼成の必要な塗布法による成膜も可能であり、ITO原料の溶液(例えば金属塩InI3とSnO2を質量比95:5として有機溶剤へ溶解した溶液)を基板7上にスピンコート法等で塗布し、通常の焼成条件、例えば大気中で400〜600℃の熱処理により有機物を分解してITOのみの膜とする。さらにポストアニールとして、焼成温度を保持して、H2を0.05〜0.1%含有させたN2雰囲気に変えて、引き続き熱処理を施すことで、ITO膜中に酸素欠陥を付与して導電性を向上させる。その他の透明電極材料においても、導電性や透過率等の特性が特に優れた状態となるような処理を施すことができる。
このように、低抵抗化された透明電極31すなわち低抵抗の下部電極3とすることで、印加電圧を光変調素子5の反転電流密度に対して過剰に高くする必要がなく、空間光変調器1の省電力化が可能となる。また、下部電極3の低抵抗化のために配線の断面積を拡張する必要がないので、配線幅を狭くして画素4のいっそうの微細化が可能となり、また、配線(透明電極31)の薄膜化が可能となり入射光に対する出射光の光量の減衰が抑制される。
以上のように、第1実施形態によれば、高精細かつ高速応答とすることが可能なスピン注入光変調素子を用いて、省電力化の可能な空間光変調器となる。あるいは、画素のいっそうの微細化や、出射光の光量の減衰の抑制が可能な空間光変調器となる。
[第2実施形態]
図4、図5、および図6を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図4は第2実施形態に係る空間光変調器の画素アレイの構成を模式的に示す底面図で、第1実施形態と同様に5行×5列のアレイ状に25個の画素を配列したものである。図5は第2実施形態に係る空間光変調器の画素の、一部を切り欠いた下方からの拡大斜視図(仰瞰図)である。また、図6は第2実施形態に係る画素の拡大断面図で、図4のD−D部分断面図である。なお、図4は基板を、図5は基板および絶縁部材を、それぞれ図示を省略して示す。第1実施形態(図1〜3参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。図5および図6に示すように、第2実施形態の画素4Aは、下部電極3Aを備えること以外は第1実施形態の画素4と同様の構成である。すなわち、第2実施形態に係る画素アレイ40Aを備える空間光変調器も、第1実施形態と同様に光変調素子5のスピン注入磁化反転により、下方からの入射偏光の旋光の向きを変化させて下方へ出射する反射型の空間光変調器であるため、その動作については説明を省略する(図3参照)。
第2実施形態の画素アレイ40Aにおいて、下部電極3A,3A,…は、第1実施形態の下部電極3,3,…と同様に縦方向に延設されたストライプ状である。下部電極3Aは、帯状の形状に複数の孔(貫通孔)を形成された金属電極33と、この孔に充填された形状の透明電極31Aとを備える。金属電極33の孔および透明電極31Aは、平面視で光変調素子5に重なる領域、すなわち光変調素子5の直下に備えられる。したがって、1つの金属電極33は、画素4Aの縦方向(行)の数である5個の孔を有する。そして、この金属電極33の孔に、透明電極31Aが光変調素子5の下面に電気的に接続されて設けられている。
金属電極33は、第1、第2実施形態の上部電極2と同様の一般的な電極用金属材料で構成され、透明電極31Aは、第1実施形態の下部電極3の透明電極31と同様の結晶性の透明電極材料で構成されるので、それぞれ説明は省略する。本実施形態において透明電極31Aは、光が光変調素子5に入射、出射するための窓であり、その形状(金属電極33の孔の形状)および大きさは特に限定されないが、平面視形状が光変調素子5の平面視形状に対して小さいと金属電極33が光を遮って出射光の光量が低下し、大きすぎると孔の周縁部で金属電極33が幅狭となって金属電極33の抵抗が大きくなり、下部電極3Aの抵抗が大きくなる。したがって、透明電極31Aの平面視形状は、光変調素子5の平面視形状の相似形で、孔の周縁で金属電極33が幅狭にならない範囲で大きくすることが好ましい。このように、下部電極3Aにおいて、光変調素子5の直下すなわち光路部分のみを透明電極として、抵抗の小さい金属電極を主要材料とすることで、駆動電圧をさらに低くすることができる。また、画素アレイ40Aにおける画素4A同士の位置によるばらつきを低減することができる。
なお、図5および図6では透明電極31Aの形状は側面が垂直な四角柱だが、これに限らず、例えば側面の傾斜したメサ形状(四角錐台)としてもよい。このような光変調素子5の側が狭く、基板7の側へ広がる形状にすると、透明電極31Aと金属電極33との接触面積が大きくなって、下部電極3Aにおける接触抵抗を低減させることができる。さらに、第1実施形態に係る空間光変調器1(図3参照)のように、光の入射/出射角が斜め(画素アレイ40Aに非垂直)である場合、入射/出射光の金属電極33に遮られる部分が少なくなるので、出射光の光量が向上する。
また、下部電極3Aは、第1実施形態と同様に、透明電極31Aと光変調素子5との間に金属膜からなる下地層32を設けて接触抵抗を低減させることが好ましい。下地層32は、第1実施形態と同様に透明電極31Aと光変調素子5との間に設けられていればよく、図5および図6に示すように光変調素子5と同じ平面視形状に形成されてもよいし、透明電極31Aと同じ、すなわち金属電極33のそれぞれの孔に充填するように形成されてもよいし、下部電極3Aと同じ平面視形状(帯状)でもよい。下地層32の材料および厚さは第1実施形態の下部電極3の下地層32と同じであるので説明は省略する。
以上のように、第2実施形態によれば、光を遮らない透明電極材料と低抵抗の金属材料の双方の利点を兼ね備えた電極により、駆動電圧の低電圧化および応答速度の高速化がさらに望め、また画素間の動作のばらつきが低減された空間光変調器となる。
[空間光変調器の製造方法]
次に、本発明に係る空間光変調器の画素(画素アレイ)の製造方法として、第2実施形態に係る画素アレイの製造方法の一例を図7〜10を参照して説明する。図7〜10は、第2実施形態に係る画素アレイの製造方法を説明する模式図で、それぞれ図4のC−C部分断面図(以下、断面図)または平面図である。図7は下部電極形成工程における模式図で、(a)〜(c)、(e)〜(g)は断面図、(d)、(h)は平面図である。図8は光変調素子形成工程および上部電極形成工程における模式図で、(a)〜(c)、(e)は断面図、(d)、(f)は平面図である。図9および図10はそれぞれ下部電極形成工程における別の方法を説明する模式図で、図9の(a)、(c)、(d)は断面図、(b)は平面図であり、図10の(a)、(c)〜(e)は断面図、(b)、(f)は平面図である。また、図7〜10において、各要素の成形(加工)前の膜には( )付きの符号を付して示す。
(下部電極形成工程S10)
下部電極形成工程S10として、下部電極3Aを形成する。
まず、透明電極31Aを形成する(透明電極形成工程S11e0)。基板7上に透明電極材料を高温下でスパッタリング法等により成膜する。この透明電極膜上の、透明電極31Aの窓とする領域にレジスト(PR1)マスクをフォトリソグラフィ等により形成して、イオンミリング法等のエッチングにより透明電極膜を透明電極31Aの形状に加工する(図7(a))。また、透明電極材料を低温(無加熱)で成膜した後にポストアニールを施してもよい。
次に、金属電極33を形成する(金属電極形成工程S12m)。透明電極31A上のレジストを残した状態で金属電極材料を成膜し(図7(b))、レジスト剥離液等により、前記レジストPR1をその上の金属電極膜(33)ごと除去する(リフトオフ、図7(c)、(d))。そして、金属電極膜(33)+透明電極31A上の、下部電極3Aすなわち配線領域にレジスト(PR2)マスクを形成し(図7(e))、エッチングにより金属電極膜(33)を金属電極33の形状に加工する(図7(f))。
次に、金属電極33,33間(下部電極3A,3A間)に、絶縁部材6をリフトオフ法にて形成する(絶縁部材形成工程S13b)。すなわち、レジストPR2を残した状態で絶縁材料を成膜し、前記レジストPR2をその上の絶縁膜ごと除去することにより、下部電極3A,3A間に絶縁部材6を堆積させる(図7(g)、(h))。あるいは、金属電極33の加工後にレジストPR2を除去してから、絶縁材料を成膜して金属電極33,33間に埋め込み、エッチングやCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)等により透明電極31Aの上面が露出するまで絶縁膜を除去して絶縁部材6としてもよい。
(光変調素子形成工程S20)
前記したように、下部電極3Aにおける下地層32とその上の光変調素子5となる各層は、連続して成膜されることが好ましいため、基板7上に形成した透明電極31A、金属電極33、および金属電極33,33間の絶縁部材6の上に、下地層32、磁化自由層53、中間層52、磁化固定層51、保護層54、のそれぞれの材料を順に連続して成膜、積層する(図8(a))。保護層膜(54)上の、光変調素子5とする領域にレジスト(PR3)マスクを形成し、保護層膜(54)〜金属膜(32)の積層膜を電子線リソグラフィ等により加工して、光変調素子5および下地層32とする(図8(b))。レジストPR3を残した状態で絶縁材料を成膜し、前記レジストPR3をその上の絶縁膜ごと除去することにより、光変調素子5,5間に絶縁部材6を堆積させる(図8(c)、(d))。あるいは、光変調素子5および下地層32の加工後にレジストPR3を除去してから、絶縁材料を成膜して光変調素子5,5間に埋め込み、エッチングやCMP等により光変調素子5の上面(保護層54)が露出するまで絶縁膜を除去して絶縁部材6としてもよい。
(上部電極形成工程S30)
次に、上部電極2を形成する。光変調素子5,5間の絶縁部材6の上の、下部電極3Aと直交するストライプ状の配線間(上部電極2,2間)領域にレジストマスクを形成し、その上から金属電極材料を成膜し、前記レジストをその上の金属電極材料ごと除去する(リフトオフ)ことにより、上部電極2とする。最後に、上部電極2,2間(および上)に絶縁部材6を堆積して、画素4A(画素アレイ40A)とする(図8(e)、(f))。
なお、第1実施形態に係る画素アレイ40を形成する場合は、下部電極形成工程S10において、基板7上に成膜した透明電極材料を下部電極3の形状のストライプ状に加工して透明電極31とした後、透明電極31,31間(下部電極3,3間)に絶縁部材6を堆積させる。以降は、前記工程S20、S30にて製造できる。
下部電極3A(透明電極31A、金属電極33)は、図7および図9を参照して説明する以下の方法で形成することもできる(下部電極形成工程S10A)。
最初に、前記と同様に基板7上に透明電極31Aを形成する(透明電極形成工程S11e)が、ここでは透明電極31Aを形成した(図7(a))後、さらにレジストPR1を除去する。なお、リフトオフ法により透明電極31Aを形成することもできるが、この場合は、透明電極材料を無加熱で成膜して、レジストを除去して以降にポストアニールを行う。
次に、下部電極3A,3A間となる領域(配線間領域)に、絶縁部材6をリフトオフ法にて形成する(絶縁部材形成工程S12b)。基板7+透明電極31A上の、下部電極3Aとする領域すなわち配線領域にレジスト(PR4)マスクを形成し(図9(a)、(b))、その上から絶縁材料を成膜して、レジストPR4をその上の絶縁膜ごと除去する(図9(c))。
次に、金属電極33を形成する(金属電極形成工程S13m)。金属電極材料を成膜して透明電極31A,31A間および絶縁部材6,6間に埋め込み(図9(d))、CMP等により透明電極31Aおよび絶縁部材6の上面が露出するまで金属電極膜(33)を除去して金属電極33とする(図7(g)、(h))。このように、金属電極33を透明電極31Aおよび絶縁部材6の後に形成することにより、ドライエッチングの困難なCuを適用することができる。なお、最初に下部電極3A,3A間領域の絶縁部材6を形成し、その上(基板7+絶縁部材6上)に窓(透明電極31Aとする領域)を空けたレジストマスクを形成して、リフトオフ法とポストアニールにより透明電極31Aを形成して、図9(c)に示す状態とすることもできる。
さらに、下部電極3Aは、金属電極33を先に形成してから、その孔に透明電極材料を埋め込んで透明電極31Aとすることで形成することもできる。図10を参照してその一例を説明する(下部電極形成工程S10B)。
最初に、基板7上に、リフトオフ法等により金属電極33を形成する(金属電極形成工程S11m)。次に、金属電極33,33間(下部電極3A,3A間、配線間領域)に絶縁部材6をリフトオフ法にて形成する(絶縁部材形成工程S12b1)。金属電極33およびその孔上の、下部電極3Aとする領域より少し狭い(細い)領域にレジスト(PR5)マスクを形成し(図10(a)、(b))、その上から絶縁材料を成膜し、レジストPR5をその上の絶縁膜ごと除去する(図10(c))。
次に、透明電極31Aを形成する(透明電極形成工程S13e)。透明電極材料を金属電極33より少し厚く成膜して金属電極33の孔に埋め込む(図10(d))。透明電極膜(31A)上の、金属電極33の孔の平面視形状より一回り大きい領域にレジスト(PR6)マスクを形成し、エッチングにより透明電極膜(31A)を加工し(図10(e))、レジストPR6を除去する(図10(f))。この方法で形成された下部電極3Aにおいては、透明電極31Aは、その厚さが金属電極33より厚く、孔の周縁で金属電極33の上面に積層された形状となる。
このように金属電極33の孔より大きい領域に透明電極31Aを残すように加工することにより、金属電極33の孔の側面に隙間が生じることなく、金属電極33と透明電極31Aとの接続が確実に保持できる。なお、透明電極形成工程S13eにおいては、透明電極材料を成膜する前に前記レジストPR6の反転パターンのマスクを形成して、リフトオフ、そしてポストアニールを行って透明電極31Aを形成してもよい。さらに、透明電極形成工程S13eを、絶縁部材形成工程S12b1の前に、前記リフトオフ法にて行うこともできる。
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
本発明の効果を確認するために、計算機を用いたシミュレーションによって、本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の画素について、その駆動電圧と透明電極の抵抗との関係を求めた。
モデルとする画素4Aの仕様として、配線幅1μmとし、下部電極3Aの透明電極31Aは平面視0.5μm角の正方形とした。下部電極3Aは透明電極31A上に下地層32:Ru(3)を備え、光変調素子5は、下層(下部電極3Aの下地層32上)から、磁化自由層53:GdFe(10)、中間層52:Cu(6)、磁化固定層51:CoFe(1)/TbFeCo(20)、保護層54:Ru(3)からなる構成のCPP−GMR素子とした。( )内数値は膜厚(単位nm)を示す。このような構成のCPP−GMR素子のスピン注入磁化反転に要する電流密度は|2|×107A/cm2である。そして、平面視サイズ0.15μm×0.4μmに形成した光変調素子5を、1つの画素4Aに短辺方向に2個並べて備えた。具体的には、平面視において、透明電極31Aの中央上に2個の光変調素子5,5を間隔0.1μmで並べて配置して、それぞれの光変調素子5の3辺(もう1個の光変調素子5と対向する側の辺以外)における透明電極31Aの端部からの距離は0.05μmとした。なお、光変調素子5,5は、互いに電気的・磁気的影響を受けることなく磁化反転するものとみなした。
下部電極3Aの金属電極33および上部電極2はCu(比抵抗:1.68×10-6Ω・cm)を適用したものとして、計算上、その抵抗は0とした。また、透明電極31Aには、350℃で成膜したITO(比抵抗ρ=100μΩ・cm)を適用し、さらに無加熱で成膜される透明電極材料の比較例としてIZO(比抵抗ρ=450μΩ・cm)を適用した。また、光変調素子5,5とその下の下地層32,32を合わせた抵抗Rdを1Ωとした。
1つの画素4Aにおいて、光変調素子5,5をスピン注入磁化反転させるために必要な電流|ISTS|は、計算上24mAとなる。電流|ISTS|が、平面視0.5μm角の透明電極31Aの平面視中心で光変調素子5に供給される、透明電極31Aの端部(金属電極33との界面)から印加する電圧(駆動電圧)Vを、V=|ISTS|×(Re+Rd)より計算した(Re:透明電極の抵抗)。
透明電極31Aの抵抗Reは、Re=ρ×(距離)/(断面積)から求めた。透明電極31Aの距離(最大)は平面視の端部から中心までの長さ(0.25μm)であり、断面積は平面視の一辺の長さ(0.5μm)と膜厚の積である。ITO,IZOそれぞれの透明電極31Aについて、膜厚を変化させて駆動電圧を計算した結果を、図11に、横軸を透明電極31Aの膜厚、縦軸を駆動電圧とするグラフで示す。
前記より、駆動電圧は、透明電極31Aの比抵抗、および膜厚の逆数にそれぞれ比例するので、図11に示すように、比抵抗の低い加熱成膜によるITOからなる透明電極31Aがより低い駆動電圧で画素4Aを動作させることができ、さらに透明電極31Aの膜厚を厚くするほど駆動電圧を低くすることができた。膜厚0.5μmの透明電極31Aにおいて、IZOを用いた場合の駆動電圧は132mVであり、光変調素子5の端部(距離0.05μm)において|ISTS|に到達する電圧45.6mVに対して約3倍を要する。一方、本発明に係る実施例のITOを用いた場合の駆動電圧は48mVと低電圧で動作可能であり、光変調素子5の端部において28.8mVであるので、画素内における差も小さかった。また、例えば駆動電圧を100mVとする場合、IZOを用いた場合は膜厚0.71μm以上とする必要があるのに対して、加熱成膜によるITOを用いた透明電極31Aでは、膜厚0.158μm以上であればよい。このように、低抵抗化された透明電極を適用できることで、低い駆動電圧で動作させることができ、あるいは透明電極31Aの膜厚を薄くして光の透過量を向上させることができる。