JP6329384B2 - スピン注入磁化反転素子 - Google Patents

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本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する空間光変調器に用いる光変調素子に好適なスピン注入磁化反転素子に関する。
スピン注入磁化反転素子は、2層以上の磁性体膜(磁性膜)を備え、上下に接続された電極(配線)から膜面に垂直に電流を供給されることで、スピン注入磁化反転により一部の磁性膜(磁化自由層)の磁化方向が180°回転(反転)し、磁化方向が変化しない別の磁性膜(磁化固定層)と同じ方向または反対方向になる。このスピン注入磁化反転素子は、磁性膜同士の磁化が同じ方向の状態と異なる方向の状態とで上下の電極間の抵抗が変化するため、磁気抵抗効果素子として1ビットのデータの書込み/読出しを行うことができる。すなわち、スピン注入磁化反転素子は、これを備えたメモリセルをマトリクス状に配列して磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)を構成することができる。スピン注入磁化反転素子は、その寸法が極めて小さい上、磁化反転の動作が高速であるため、大容量磁気メモリとしてMRAMおよびスピン注入磁化反転素子の研究・開発が進められている。
スピン注入磁化反転素子としては、CPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗)素子やTMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗)素子が知られている。さらに近年では、MRAMのさらなる大容量化および省電力化のために、膜面に垂直方向の磁化を示す(垂直磁気異方性を有する)磁性材料がスピン注入磁化反転素子に適用されている。垂直磁気異方性を有するスピン注入磁化反転素子は、いっそうの微細化が可能で、かつ磁化反転に要する電流(反転電流)を低減することができる。
磁気抵抗効果素子としては、CPP−GMR素子よりも磁気抵抗比(MR比)の高いTMR素子について特に研究されている。TMR素子は、2枚の磁性膜の間に、トンネル障壁または障壁層と呼ばれる極めて薄い絶縁体膜を挟んだ構造である。TMR素子は、障壁層の材料として、磁化反転に要する電流をいっそう低減できる酸化マグネシウム(MgO)が好適とされ、特に、2枚の磁性膜の少なくとも一方に、障壁層との界面にCo−FeやCo−Fe−B等の磁性金属の薄膜を設けることで、スピン注入効率が向上し、反転電流が低減することが知られている(非特許文献2〜5参照)。
また、スピン注入磁化反転素子の別の用途として、空間光変調器の画素に搭載される光変調素子が挙げられる。光変調素子としてのスピン注入磁化反転素子は、磁性膜で反射または透過した光の偏光の向きが変化する(旋光する)磁気光学効果により、磁性膜の磁化方向を反転させて光の偏光の向きを2値に変化させるものである。空間光変調器においても、高精細化および高速化のために、従来の液晶に代わる材料として、MRAMと同様にスピン注入磁化反転素子の研究・開発が進められている(例えば、特許文献1〜3参照)。光変調素子として使用するスピン注入磁化反転素子は、偏光の向きの変化が大きい(光変調度が大きい)ことが望ましい。そのため、光変調素子においても、垂直磁気異方性のスピン注入磁化反転素子を用いて、膜面にほぼ垂直に光を入射することにより、極カー効果で光変調度を大きくすることが望ましい(例えば、非特許文献1、特許文献2,3参照)。このような、垂直磁気異方性を有し、かつ磁気光学効果の大きい磁性材料として、Gd−Fe系合金が知られ、光変調素子としてのスピン注入磁化反転素子の磁化自由層に好適である(例えば、特許文献3参照)。
特開2008−83686号公報 特開2011−2522号公報 特開2012−103634号公報
K. Aoshima et. al, "Spin transfer switching in current-perpendicular-to-plane spin valve observed by magneto-optical Kerr effect using visible light", Appl. Phys. Lett. 91, 052507 (2007) S. S. P. Parkin, C. Kaiser, A. Panchula, P. M. Rice, B. Hughes, M. Samant, S. H. Yang, "Giant tunnelling magnetoresistance at room temperature with MgO (100) tunnel barriers", Nature Materials, vol.3, p.862, Dec. 2004 Shinji Yuasa, Taro Nagahama, Akio Fukushima, Yoshishige Suzuki, Koji Ando, "Giant room-temperature magnetoresistance in single-crystal Fe/MgO/Fe magnetic tunnel junctions", Nature Materials, vol.3, p.868, Dec. 2004. M. Nakayama, T. Kai, N. Shimomura, M. Amano, E. Kitagawa, T. Nagase, M. Yoshikawa, T. Kishi, S. Ikegawa, H. Yoda, "Spin transfer switching in TbCoFe/CoFeB/MgO/CoFeB/TbCoFe magnetic tunnel junctions with perpendicular magnetic anisotropy", J. Appl. Phys. 103, 07A710 (2008). 久保田均,他,"MgOバリアを用いたMTJにおけるスピン注入磁化反転",日本応用磁気学会研究会資料145巻, p.43-48, 2006.01.30 D. D. Djayaprawira, et. al, "230% room-temperature magnetoresistance in CoFeB/MgO/CoFeB magnetic tunnel junctions", Appl. Phys. Lett. 86, 092502 (2005)
光変調素子においても、空間光変調器を高精細化するべく画素数を増大しても好適に駆動し、かつ省電力化のために反転電流を低減できるTMR素子を適用することが望ましい。しかしながら、Gd−Fe合金はスピン偏極率が低く、TMR素子の磁性膜に適用されても、MR比がTMR素子本来の水準に至らず、磁気抵抗効果素子として不十分であり、また、反転電流が低減されない。さらに、Gd−Fe合金は、保磁力が小さく、また垂直磁気異方性が比較的弱いため、前記従来技術の非特許文献2〜5のように、MgOからなる障壁層との界面にCo−FeやCo−Fe−Bのような磁性金属膜が積層されていると、このCo−Fe等と同じ面内磁気異方性になって垂直磁気異方性を示さなくなる。
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、Gd−Fe合金を磁化自由層に適用した垂直磁気異方性のTMR素子を提供することを目的として、反転電流を低減し、MR比を十分に高くすることが課題である。
Gd−Fe合金がCo−Fe等の磁性金属膜が積層されていると垂直磁気異方性を示さなくなるのは、Co−Fe等のFeによって、Gd−Fe合金におけるFeの反磁界成分の影響が強くなることによると考えられる。そこで本発明者らは、Gd−Fe合金の層にCo−Fe等の膜を積層してスピン注入効率を向上させると共に、強くなった反磁界成分を相殺する磁界成分をGd膜で補うことに想到した。
すなわち、本発明に係るスピン注入磁化反転素子は、それぞれが垂直磁気異方性を有する磁化固定層と磁化自由層の間にMgOからなる障壁層を積層してなり、前記磁化自由層が、前記障壁層との界面に設けられたCo−FeまたはCo−Fe−Bからなる磁性金属膜と、Gd−Feからなる層と、前記Gd−Feからなる層と前記磁性金属膜の間に設けられたGd膜と、を備えることを特徴とする。さらに、本発明に係るスピン注入磁化反転素子は、前記磁化自由層が前記障壁層の上に積層されていることが好ましい。
かかる構成により、磁化自由層にGd−Fe合金を適用して、その垂直磁気異方性を維持しつつ、反転電流が小さくMR比の高いTMR素子となる。
また、本発明に係るスピン注入磁化反転素子は、入射した光の偏光の向きを変化させて出射する光変調素子に適用することができる。かかる構成により、Gd−Fe合金の高い磁気光学効果と極カー効果により光変調度が高く、かつ駆動電流を抑えた光変調素子とすることができる。
本発明に係るスピン注入磁化反転素子によれば、磁化自由層が、MgO膜からなる障壁層との界面にCo−Fe等の磁性金属膜を備えることにより、低電流で磁化反転可能で、かつMR比の高いトンネル磁気抵抗素子となり、さらにGd−Fe合金により垂直磁気異方性と高い光変調度を有するため、光変調素子として、磁気光学効果が高く、高精細化しても省電力化された空間光変調器とすることができる。
(a)は本発明の一実施形態に係るスピン注入磁化反転素子を備えた光変調素子の構成を示す断面図であり、(b)は前記実施形態の変形例に係るスピン注入磁化反転素子を備えた磁気抵抗効果素子の構成を示す断面図である。 スピン注入磁化反転素子の動作を説明する模式図であり、(a)、(b)はスピン注入磁化反転を、(c)、(d)は光変調素子および磁気抵抗効果素子としての動作を説明する断面図である。 実施例のスピン注入磁化反転素子のサンプルのMR比の磁場依存性で表した磁化曲線であり、(a)、(b)は本発明に係るスピン注入磁化反転素子、(c)、(d)は比較例のスピン注入磁化反転素子である。 実施例のスピン注入磁化反転素子のサンプルのカー回転角の磁場依存性で表した磁化曲線であり、(a)、(b)は本発明に係るスピン注入磁化反転素子、(c)は比較例のスピン注入磁化反転素子である。 実施例のスピン注入磁化反転素子のサンプルのカー回転角の磁場依存性で表した磁化曲線であり、(a)は本発明に係るスピン注入磁化反転素子、(b)は比較例のスピン注入磁化反転素子である。
以下、本発明に係るスピン注入磁化反転素子を実現するための形態について、図を参照して説明する。
〔実施形態:光変調素子〕
本発明の一実施形態に係るスピン注入磁化反転素子は、上下に一対の電極を接続されて、空間光変調器の画素(空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段)を構成する光変調素子に適用され、上方から入射した光を異なる2値の光(偏光成分)に変調し、下に接続した電極で反射させて上方へ出射する。以下、本発明の実施形態に係るスピン注入磁化反転素子、およびこれを備えた光変調素子について説明する。
本発明の実施形態に係るTMR素子(スピン注入磁化反転素子)5は、図1(a)に示すように、磁化固定層3、障壁層2、磁化自由層1の順に積層された構成であり、一対の電極である下部電極61と上部電極62(以下、適宜、電極61,62)に上下で接続されて、光変調素子10を構成する。TMR素子5は、磁化が一方向に固定された磁化固定層3および磁化の方向が回転可能な磁化自由層1を、絶縁体であるMgOからなる障壁層2を挟んで積層してなるトンネル磁気抵抗素子である。光変調素子10はさらに必要に応じて、TMR素子5(磁化自由層1)の上に、当該光変調素子10の製造工程におけるダメージからTMR素子5の各層を保護するために保護膜42を、TMR素子5(磁化固定層3)の下に、下部電極61への密着性を得るために、下地膜41を備える。
光変調素子10は、空間光変調器の画素とするため、基板7上に、膜面方向において2次元アレイ状に配列されて(図示省略)、一対の電極61,62の一方を行方向に、他方を列方向に、図1(a)においては、下部電極61が手前−奥方向に、上部電極62が左右方向に、それぞれ延設して共有される。そのため、光変調素子10,10間に、具体的にはTMR素子5,5間、電極61,62間、下部電極61,61間および上部電極62,62間(配線間)のそれぞれに、絶縁層8が充填される。TMR素子5は、平面視が例えば矩形であり(図示省略)、好適に磁化反転するためには、300nm×400nm相当の面積以下とすることが好ましく、一方、光変調のために、一辺の長さを少なくとも入射光の回折限界(波長の1/2程度)以上とする。TMR素子5を構成する各層1,2,3、ならびに下地膜41、保護膜42は、例えばスパッタリング法や分子線エピタキシー(MBE)法等の公知の方法で連続的に成膜されて基板7に積層され、電子線リソグラフィおよびイオンビームミリング法等で所望の平面視形状に加工される。
〔スピン注入磁化反転素子〕
(磁化反転動作)
ここで、TMR素子5の磁化反転の動作を、図2(a)、(b)を参照して、光変調素子10にて説明する。なお、図2において、下地膜41および保護膜42は図示を省略する。スピン注入磁化反転素子であるTMR素子5は、磁化自由層1が逆方向のスピンを持つ電子を注入されることにより、その磁化方向が反転(スピン注入磁化反転、以下、適宜磁化反転という)する。具体的には、図2(a)に示すように、上部電極62を「+」、下部電極61を「−」にして、TMR素子5に、磁化自由層1側から磁化固定層3へ電流IWを供給して、磁化固定層3側から電子を注入する。すると、磁化を上向きに固定された磁化固定層3により当該磁化固定層3の磁化と逆方向の下向きのスピンを持つ電子dDが弁別されて、磁化自由層1は上向きのスピンを持つ電子dUが偏って注入されて、磁化が上向きに反転する。反対に、図2(b)に示すように、上部電極62を「−」、下部電極61を「+」にして、TMR素子5に、磁化固定層3側から磁化自由層1へ電流IWを供給して、磁化自由層1側から電子を注入する。すると、下向きのスピンを持つ電子dDが磁化固定層3により弁別されて磁化自由層1に留まるため、磁化自由層1の磁化は下向きに反転する。
このように、TMR素子5は、上下面に接続した一対の電極62,61で膜面垂直方向に電流を供給されることで、磁化自由層1の磁化方向が磁化固定層3と同じ方向(平行)または180°異なる方向(反平行)になる。そして、磁化自由層1は、特定の向きのスピンを持つ電子が偏って注入されることで磁化反転するため、この偏りの程度が大きいほど、すなわち磁化自由層1や磁化固定層3のスピン偏極率が高いほど、より小さい電流で磁化反転する。なお、TMR素子5の障壁層2は、絶縁体であるが、数nm以下と極めて薄いため、微小な電流(トンネル電流)が流れる。
また、TMR素子5において、磁化自由層1の磁化が平行、反平行いずれかの磁化を示していれば、その磁化を反転させる電流(IW)が供給されるまでは、当該磁化自由層1の保磁力により磁化が保持される(図2(c)、(d)参照)。そのため、TMR素子5に供給する電流としては、パルス電流のように、磁化方向を反転させる電流値に一時的に到達する電流(直流パルス電流)を用いることができる。
(抵抗変化)
TMR素子5の磁化反転に伴う抵抗の変化を、図2(c)、(d)を参照して説明する。TMR素子5は磁気抵抗効果素子であり、その積層方向における抵抗、すなわち上下に接続した電極61,62間の抵抗が、磁化自由層1の磁化方向により変化する。詳しくは、TMR素子5は、図2(c)に示す磁化が平行な状態よりも、図2(d)に示す磁化が反平行な状態の方が、抵抗が高く(RP<RAP)、磁化反転しない大きさの電流ITSTを供給されたときに電流が流れ難い。このTMR素子5の抵抗の変化量(RAP−RP)は磁化自由層1や磁化固定層3のスピン偏極率が高いほど大きく、具体的には、MR比(RAP−RP)/RPは磁化自由層1、磁化固定層3のスピン偏極率の積に比例する。
このように、TMR素子5は、磁化自由層1および磁化固定層3の少なくとも一方の、好ましくは両方のスピン偏極率を高くすることで、反転電流を低減し、かつMR比を高くすることができる。磁化自由層1および磁化固定層3のスピン偏極率は、当該磁化自由層1および磁化固定層3の層全体におけるものに限られず、障壁層2との界面において高いものとすれば、その効果が得られる。
以下、TMR素子5を構成する要素について詳しく説明する。
(磁化自由層)
本実施形態に係るTMR素子5において、磁化自由層1は、障壁層2上に設けられ、GdFe層(Gd−Feからなる層)11を備え、障壁層2との界面である最下層にCoFe膜(磁性金属膜)13を、CoFe膜13とGdFe層11の間にGd膜12を、さらに備える。すなわち磁化自由層1は、障壁層2の側(下)から、CoFe膜13/Gd膜12/GdFe層11の3層構造を有する。
GdFe層11は、磁化自由層1の主たる要素であり、垂直磁気異方性を有する磁性材料である遷移金属(TM)と希土類金属(RE)との合金(RE−TM合金)の一種で、特に磁気光学効果の高いGd−Fe合金で形成される。GdFe層11は、厚いほど磁気光学効果が高くなるが、一方で過剰に厚膜化されると垂直磁気異方性を示し難くなるため、一般的なTMR素子の磁化自由層と同様に、厚さを1〜20nmの範囲とすることが好ましく、10nm以下がより好ましい。
Gd−Fe合金においては、遷移金属であるFeが一方向(+z方向とする)の磁気モーメントを示すのに対し、希土類金属であるGdは、この一方向の逆方向(−z方向)の磁気モーメントを示す。RE−TM合金はフェリ磁性体の一種であり、スピン注入磁化反転素子の磁性層として適用する場合には、通常、例えばTb−Fe−Co合金については、TM,REのそれぞれの磁気モーメントが相殺される組成(補償組成)に対して僅かにREが多い組成として、当該RE−TM合金全体として飽和磁化の小さい−z方向の磁気モーメントとして、容易に垂直磁気異方性を示すようにし、かつ必要な保磁力を確保している。一方、Gd−Fe合金については、このような補償組成付近では、他のRE−TM合金と比較して保磁力が小さく、さらに保磁力に対して、磁化自由層に適用した場合の反転電流が小さくはないことから、Feの含有率を高くして、全体として+z方向の磁気モーメントを示すようにする。
Gd−Fe合金は、前記した通り、スピン注入磁化反転素子の磁化自由層としての必要な保磁力、垂直磁気異方性、および高い磁気光学効果を有している。しかし一方で、Gd−Fe合金は、スピン偏極率が低いため、TMR素子の磁性層に適用されても、当該TMR素子が本来の高いMR比を実現できず、また、保磁力についても、特に微細化したスピン注入磁化反転素子において、磁化方向を安定して保持するためには十分な大きさであるとはいえない。そこで、本実施形態に係るTMR素子5は、磁化自由層1が障壁層2上に設けられ、すなわちGdFe層11がMgO膜上に設けられる。このように、Gd−Fe合金は、MgO膜上に成膜されることにより保磁力が大きくなる。さらに、磁化自由層1は、スピン偏極率を高くするために、障壁層2との界面に、Co−FeまたはCo−Fe−Bからなる磁性金属膜13(まとめてCoFe膜13と称する)を備える。ところが、Gd−Fe合金は、Co−FeやCo−Fe−Bと組み合わされると、垂直磁気異方性を示さず、Co−Fe等と同じ面内磁気異方性を示すようになる。これは、Co−Fe等のFeによって、Gd−Fe合金におけるFeの反磁界成分の影響が強くなることによると考えられる。そこで、磁化自由層1は、CoFe膜13とGdFe層11の間に、Gd膜12をさらに備えることで、CoFe膜13によるFeの影響を相殺し、GdFe層11(磁化自由層1)が垂直磁気異方性を示すようにする。
Co−FeやCo−Fe−Bはスピン偏極率が高いため、CoFe膜13が設けられることにより、磁化自由層1と障壁層2の界面でのスピン偏極率を高くして、障壁層2を介して磁化自由層1(GdFe層11)に注入されるスピンによるスピントルクが増大する。これにより、磁化自由層1の多くを占めるGdFe層11のスピン偏極率が低くても、TMR素子5は、反転電流が低減され、MR比がTMR素子本来の高いものとなる。このような効果を十分に得るために、CoFe膜13は、厚さを0.1nm以上とすることが好ましい。なお、Co−FeやCo−Fe−Bは、本来は面内磁気異方性を有するが、垂直磁気異方性を示す磁性体(GdFe層11)に影響を与えないように、相対的に厚さを抑えて、さらにGd膜12を介して積層されることで、この磁性体と一体に垂直磁気異方性を示す。Co−FeやCo−Fe−Bは一般的には厚さを2nm以下とするが(例えば、後記の磁化固定層3のCoFe膜33)、前記したように、Gd−Fe合金は本来、保磁力および垂直磁気異方性が比較的小さいため、CoFe膜13の厚さが0.3nmを超えると、磁化自由層1(GdFe層11)が面内磁気異方性を示すようになる場合がある。したがって、CoFe膜13は、厚さを0.1〜0.3nmの範囲とすることが好ましい。また、Co−Feは、特に(001)面配向のMgOとの格子整合がよく、障壁層2がかかる結晶構造のMgOであれば、TMR素子5は、コヒーレントなトンネル電流が流れることにより、いっそう反転電流を低減することができる。また、Co−Fe−Bは、成膜後に熱処理されるとMgOの層との界面から結晶化して(001)面配向を示すようになるため、Co−Feと同様の効果を有する。
Gd膜12は、CoFe膜13とGdFe層11の間に設けられ、CoFe膜13(Fe)のGdFe層11への影響を相殺して、GdFe層11が本来の垂直磁気異方性を示すようにする。Gd膜12は、GdFe層11やCoFe膜13の厚さに応じて、GdFe層11が垂直磁気異方性を示すように、厚さを設定される。具体的には、Gd膜12は、厚さを0.1nm以上とすることが好ましく、Gd原子1個分(0.18nm)相当の0.2nm以上とすることがより好ましく、また、2nm以下とすることが好ましい。言い換えると、磁化自由層1は、CoFe膜13との界面でGd−richとなるGd−Fe合金の層を備える。
(障壁層)
本実施形態に係るTMR素子5において、障壁層2はMgOで形成される。障壁層2は、一般的なTMR素子と同様に、厚さを0.1〜2nmの範囲とすることが好ましく、特に、この上に成膜される磁化自由層1(GdFe層11)の保磁力を大きくする効果が十分なものになるために、厚さを1nm以上とすることがより好ましい。また、障壁層2は、特に(001)面配向のMgOとすることが好ましく、このような結晶構造により、TMR素子5において電子が散乱せずに注入されるために、TMR素子5の反転電流をいっそう低減させることができる。障壁層2をこのような結晶構造のMgOに形成するためには、一例として、下地となる磁化固定層3を非晶質構造とすることが挙げられる。
(磁化固定層)
磁化固定層3は、主たる要素として磁性層31を備え、さらに、TMR素子5において、障壁層2との界面(最上層)にCo−FeまたはCo−Fe−Bからなる磁性金属膜33(まとめてCoFe膜33と称する)を備えてもよく、すなわち磁性層31とCoFe膜33からなる2層構造を有する。磁性層31は垂直磁気異方性を有するTMR素子の磁化固定層として公知の磁性材料にて形成することができる。具体的には、Fe,Co,Ni等の遷移金属とPt,Pd等の貴金属とを含む、例えば[Co/Pt]×n、[Co/Pd]×nの多層膜、あるいは前記遷移金属とNd,Gd,Tb,Dy,Ho等の希土類金属との合金(RE−TM合金)、L10系の規則合金としたFePt, FePd等が挙げられる。さらに、磁化固定層3は、磁化自由層1(GdFe層11)に対して保磁力が十分に大きく、具体的には0.5kOe以上の差となることが好ましく、磁化自由層1に応じて、厚さを3〜50nmの範囲で設定されることが好ましい。また、磁性層31は、障壁層2として磁化固定層3の上に形成されるMgOを(001)面配向とすることを妨げないように、非晶質であることが好ましいため、RE−TM合金が好適で、保磁力の大きいTb−Fe−Coが特に好ましい。
CoFe膜33は、磁化自由層1におけるCoFe膜13と同様に、磁化固定層3と障壁層2の界面でのスピン偏極率を高くするので、磁化自由層1だけでなく磁化固定層3にも設けられることで、障壁層2を介して磁化自由層1へ注入するスピンによるスピントルクが増大して、TMR素子5の反転電流がいっそう低減される。CoFe膜33は、その効果を十分に得るために、かつ、磁化固定層3全体を垂直磁気異方性にするために、厚さを0.1〜2nmの範囲とすることが好ましい。また、Co−FeやCo−Fe−Bは、前記した通り、(001)面配向の結晶のMgOとの格子整合がよく、特に成膜時において非晶質のCo−Fe−Bを適用することで、その上に成膜されるMgO(障壁層2)が(001)面配向の結晶構造になり易い。
光変調素子10を構成するTMR素子5以外の要素について、以下に説明する。
(下地膜)
下地膜41は、TMR素子5(磁化固定層3)の下に設けて下部電極61への密着性を付与するために設けられ、非磁性金属材料の中で、Ru,Taを適用することが好ましい。これらの金属膜であれば、磁化固定層3を挟んで設けられる障壁層2とするMgOについて、(001)面配向とすることを妨げない。下地膜41は、厚さが1nm未満であると連続した(ピンホールのない)膜を形成し難く、一方、10nmを超えて厚くしても、密着性がそれ以上には向上しないので、厚さ1〜10nmとすることが好ましい。
(保護膜)
保護膜42は、TMR素子5の各層、特に最上層の磁化自由層1を、光変調素子10の製造工程におけるダメージから保護するために、TMR素子5の上に設けられる。製造工程におけるダメージとは、例えばレジスト形成時の現像液の含浸等が挙げられ、また、最上層の磁化自由層1のGdFe層11の酸化も含まれる。保護膜42は、Ru,Ta,Cu,Pt,Au等の非磁性金属材料からなる単層膜、またはCu/Ta,Cu/Ru等の異なる金属材料からなる金属膜を2層以上積層した積層膜から構成される。保護膜42は、下地膜41と同様に、厚さが1nm未満であると連続した(ピンホールのない)膜を形成し難く、10nmを超えて厚くしても、GdFe層11等を保護する効果がそれ以上には向上せず、また、光変調素子10の上方からの入射光の透過光量を減衰させる。したがって、保護膜42は、厚さを1〜10nmとすることが好ましい。
(下部電極)
下部電極61は、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成され、また、前記金属や合金の2種類以上を積層してもよい。そして、スパッタリング法等の公知の方法により成膜、フォトリソグラフィ、およびエッチングまたはリフトオフ法等によりストライプ状等の所望の形状に加工される。
(上部電極)
上部電極62は、光が透過するように透明電極材料で構成される。透明電極材料は、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン−酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In23)等の公知の透明電極材料からなる。特に、比抵抗と成膜の容易さとの点からIZOが最も好ましい。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の公知の方法により成膜される。
電極(配線)を透明電極材料で構成する場合、電極とこの電極に接続するTMR素子5との間に金属膜を設けることが好ましい。すなわち透明電極材料で構成された上部電極62においては、TMR素子5との間の下地として金属膜を積層することが好ましい(図示せず)。TMR素子5との間に金属膜を介在させることで、電極用金属材料より抵抗が大きい透明電極材料からなる上部電極62においても、上部電極62−TMR素子5間の接触抵抗を低減させて応答速度を上げることができる。
透明電極の下地を構成する金属膜としては、例えば、Au,Ru,Ta、またはそれらの金属の2種以上からなる合金等を用いることができ、これらの金属はスパッタリング法等の公知の方法により成膜される。そして、金属膜とその上の層すなわち透明電極との密着性をよくして接触抵抗をさらに低減するため、金属膜は、透明電極材料と連続的に真空処理室にて成膜されることが好ましい。金属膜の厚さは、保護膜42と同様に、1nm未満であると連続した(ピンホールのない)膜を形成し難く、一方、10nmを超えると光の透過量を低下させるので、1〜10nmが好ましい。
基板7は、光変調素子10を2次元配列するための土台であり、光変調素子10を製造するための広義の基板である。基板7は、例えば表面を熱酸化したSi基板やガラス等の公知の基板が適用できる。
絶縁層8は、2次元アレイ状に配列された光変調素子10,10間に、すなわちTMR素子5,5間、電極61,62間(層間)、下部電極61,61間および上部電極62,62間(配線間)を、それぞれ絶縁するために設けられる。絶縁層8は、例えばSiO2やAl23等の酸化膜やSi窒化物(Si34)等の公知の絶縁材料を適用することができる。ただし、TMR素子5が、GdFe層11のような極めて酸化し易いRE−TM合金からなる層を含むため、TMR素子5に接触する部分(TMR素子5,5間)に設けられる絶縁層8は、Si窒化物やMgF2等のO(酸素)を含有しない非酸化物を適用することが好ましい。
(光変調素子の製造方法)
次に、TMR素子5を備える光変調素子10の製造方法について、その一例を説明する。光変調素子は、前記したように、基板上に2次元アレイ状に配列された空間光変調器として製造される。
まず、下部電極61を形成する。基板7の表面に、スパッタリング法等で金属電極材料を成膜して、ストライプ状の下部電極61を形成する。そして、下部電極61,61間にSiO2等の絶縁膜(絶縁層8となる)を堆積させる。
次に、TMR素子5を形成する。下部電極61(および絶縁層8)の上に、下地膜41、磁性層31、CoFe膜33、障壁層2、CoFe膜13、Gd膜12、GdFe層11、保護膜42の各材料を連続して成膜し、これらの層を電子線リソグラフィおよびイオンビームミリング法等により所望の平面視形状に成形加工して、TMR素子5とする。前記成形加工においてマスクとしたレジストを残した状態で、Si窒化物等の非酸化物の絶縁膜を成膜して、TMR素子5,5間に堆積させ、レジストをその上の絶縁膜ごと除去して(リフトオフ)、絶縁層8とする。
次に、上部電極62を形成する。TMR素子5および絶縁層8の上に、下地としての金属膜、透明電極材料を連続して成膜し、下部電極61と直交するストライプ状に形成して上部電極62とする。最後に、上部電極62,62間に絶縁膜を堆積して絶縁層8とし、光変調素子10が得られる。
空間光変調器におけるすべての画素の光変調素子10は、磁化固定層3の磁化が同じ向きに固定されている必要がある。磁化固定層3は保磁力が大きく電流供給では磁化反転しないので、外部から磁化固定層3の保磁力よりも大きな磁界を印加して、磁化固定層3の磁化方向を、例えば上向きに(図2参照)揃える初期設定を行う。この初期設定は、完成した、すなわち製造後の光変調素子10(空間光変調器)に限られず、製造工程途中において磁化固定層3(磁性層31、CoFe膜33)用の磁性材料を成膜した後以降であれば、どの段階であっても実施することができる。
(光変調素子の動作)
本実施形態に係るTMR素子を備える光変調素子の動作を、図2(c)、(d)を参照して説明する。上方から光変調素子10に入射した光は、上部電極62を透過してTMR素子5に到達し、下部電極61により反射し、再び上部電極62を透過して上方へ出射する。その際、磁性体である磁化自由層1(GdFe層11)の磁気光学効果により、光はその偏光面が回転(旋光)して出射する。さらに、磁性体の磁化方向が180°異なると、当該磁性体の磁気光学効果による旋光の向きは反転する。したがって、図2(c)、(d)にそれぞれ示す、磁化自由層1の磁化方向が互いに180°異なるTMR素子5における旋光角は−θk,+θkで、互いに逆方向に偏光面が回転する。TMR素子5の磁化反転動作は、図2(a)、(b)を参照して説明した通りである。したがって、光変調素子10は、その出射光の偏光の向きを、電極61,62から電流IWの向き(正負)を入れ替えて供給することで変化させる。なお、旋光角−θk,+θkは、磁化自由層1での1回の反射による旋光(カー回転)に限られず、例えばTMR素子5における多重反射により累積された角度も含める。
光変調素子10は、画素として2次元配列して、公知の反射型の空間光変調器(例えば、特許文献2参照)と同様に動作させることができる。このような空間光変調器は、所望の画素(光変調素子10)について、そのTMR素子5を磁化反転動作させるために、電流供給源(電源)と、電極61,62のそれぞれから選択的に特定のTMR素子5に接続する一対以上を前記電源に接続するスイッチを備える(図示省略)。光変調素子10への入射光は、例えばレーザー光源から偏光子を透過させた特定の1つの偏光成分の光であり、出射光は別の偏光子で、前記入射光に対して−θk,+θkの一方に旋光した光を遮光して、他方に旋光した光を取り出すことができる(図示省略)。
図2(c)、(d)においては、入射光と出射光の経路を識別し易くするために、入射光の入射角を傾斜させて示しているが、磁化自由層1の極カー効果でカー回転角を大きくするために、膜面により垂直に入射、すなわち入射角を0°に近付けることが好ましく、具体的には入射角を30°以内にすることが好ましい。最も好ましくは、膜面に垂直に入射、すなわち入射角を0°とすることであり、この場合は入射光と出射光の経路が一致するため、光変調素子10の上(入射光用の偏光子との間)にハーフミラーを配置して、出射光のみを側方へ反射させてもよく、反射させた先に出射光用の偏光子を配置する。
(書込みエラー検出方法)
TMR素子5は、前記した通り磁気抵抗効果素子であるので、光変調素子10を2次元配列した空間光変調器は、電極61,62をワード線、ビット線としたクロスポイント型のMRAMと同じ回路構造である。このような空間光変調器は、MRAMのメモリセルの読出しと同様に、所望の画素(光変調素子10)の磁化自由層1の磁化方向を電気的に検出して、磁化反転動作(書込み)が正常になされたかを検査することができる。具体的には図2(c)、(d)に示すように、TMR素子5が磁化反転しない所定の大きさの電流ITSTを供給したときの電極61,62間の電圧から、TMR素子5の抵抗がRP,RAPのいずれであるかを判定する。なお、図2(c)、(d)に示すTMR素子5は、磁化自由層1側から磁化固定層3へ電流ITSTを供給されているが、電流ITSTの向きは逆でもよい。
クロスポイント型のMRAMの回路構造である空間光変調器においては、抵抗を測定していない、すなわち電流ITSTを供給していない(非選択の)光変調素子10のTMR素子5に漏れ電流が流れるため、光変調素子10の搭載個数(画素数)が多いほど検出される1個の光変調素子10の抵抗変化量が実際の値よりも小さくなる。本実施形態におけるTMR素子5は、MR比(RAP−RP)/RPが高いため、このような回路構造の空間光変調器の光変調素子10に適用されても、磁化反転動作(書込み)と同じ電極61,62による書込みエラー検出を可能とし得る。あるいは、光変調素子10は、後記の変形例に係るTMR素子5Aを備える磁気抵抗効果素子10A(図1(b)参照)と同様に、TMR素子5を下部電極61でトランジスタに接続した選択トランジスタ型のMRAMのメモリセルの構造として、漏れ電流のない構造としてもよい。このようなトランジスタを備えた光変調素子を2次元配列した空間光変調器とすることで、書込みエラー検出が容易になり、磁化反転動作においても、電流IWを供給する光変調素子以外に電流が流れないので、漏れ電流による損失が抑えられる。
以上のように、本発明の実施形態に係るTMR素子は、スピン注入効率に優れて、低い電流密度で磁化反転させることできるため、光変調素子に適用されて高精細な空間光変調器としても省電力化され、さらに、MR比が高いので書込みエラー検出が容易であり、また、垂直磁気異方性を有し、かつ磁気光学効果の高いGd−Fe合金が適用されているので、極カー効果により光変調度が大きく、コントラストのよい空間光変調器となる。
〔実施形態の変形例:磁気抵抗効果素子〕
本発明に係るスピン注入磁化反転素子は、MRAMのメモリセルの磁気抵抗効果素子に適用されてもよい。以下、本発明の実施形態の変形例に係るスピン注入磁化反転素子、およびこれを備えた磁気抵抗効果素子について説明する。前記実施形態(図1(a)参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
図1(b)に示すように、本発明の実施形態の変形例に係るTMR素子(スピン注入磁化反転素子)5Aは、前記実施形態に係るTMR素子5と積層順を逆にした構造であり、磁化自由層1、障壁層2、磁化固定層3の各要素はTMR素子5と同一である。TMR素子5Aにおいては、障壁層2は、磁化自由層1の上、すなわち非晶質のGdFe層11の上に形成され、さらにCoFe層13を下地とするので、(001)面配向のMgOとなり易い。
TMR素子5Aは、磁気抵抗効果素子10Aに適用されるので、前記光変調素子10に適用されるTMR素子5とは異なり、光変調のための平面視の大きさの下限(最小面積)がなく、磁化自由層1の磁化が保持されればよい。具体的には、TMR素子5Aは、より好適に磁化反転するために、平面視が一般的なスピン注入磁化反転素子の大きさである300nm×100nm程度相当の面積であることが好ましい。また、TMR素子5Aを備える磁気抵抗効果素子10Aは、光を透過する必要がないので、上下電極62A,61A共に、前記実施形態の下部電極61と同様の金属電極材料で形成される。
磁気抵抗効果素子10Aは、選択トランジスタ型のMRAMのメモリセルとして、下部電極61Aを介してトランジスタ(図示省略)に接続され、光変調素子10と同様に2次元配列され、上部電極62Aが面内における一方向(図1(b)における左右方向)に延設されてビット線として共有される。なお、メモリセルのトランジスタは、例えばMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)であり、下部電極61Aはドレインに接続され、ソースおよびゲートは、上部電極62A(ビット線)と直交するソース線、ワード線(図示省略)にそれぞれ接続される。
本変形例に係るTMR素子5Aを備える磁気抵抗効果素子10Aは、積層順を入れ替えて、前記実施形態に係るTMR素子5を備える光変調素子10(空間光変調器)と同様に製造することができる。ただし、磁気抵抗効果素子10Aは、TMR素子5Aがトランジスタに接続されるために、表層にMOSFETを形成されたp型シリコン(Si)基板上に、ソース線およびワード線を金属電極材料で形成された上に、絶縁層8を介して形成される。
(磁気抵抗効果素子の動作)
メモリセルの書込みとして、磁気抵抗効果素子10AにおけるTMR素子5Aの磁化反転が行われる。TMR素子5Aの磁化反転動作は、図2(a)、(b)に示すTMR素子5とは、上下電極62A,61A(62,61)から供給される電流IWの向きと磁化自由層1の磁化方向との関係が逆になる以外は同様である。一方、メモリセルの読出しは、図2(c)、(d)に示す光変調素子10(TMR素子5)の書込みエラー検出と同様である。なお、磁気抵抗効果素子10Aにおいて、下部電極61Aは、トランジスタを経由して、上部電極62A(ビット線)と直交して延設するソース線に接続し、この接続はワード線からの電流ITSTとは別の電流の供給によりON/OFFする。したがって、書込み、読出しの電流IW,ITSTは、上部電極62A(ビット線)とソース線を一対の電極としてTMR素子5Aに供給される。
本変形例に係るTMR素子5Aは光変調素子に適用されてもよい。TMR素子5Aは、下側に磁化自由層1を備えるため、下方から光を入出射する光変調素子として、前記実施形態に係るTMR素子5を備える光変調素子10と同様に、旋光角−θk,+θkで光変調動作をする(図2(c)、(d)参照)。具体的には、光を透過する基板を適用し、下部電極を透明電極材料で、上部電極を金属電極材料で形成する。基板は、公知の透明基板材料が適用でき、具体的には、SiO2(酸化ケイ素、ガラス)、MgO、サファイア、GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)、SiC(シリコンカーバイド)、Ge(ゲルマニウム)単結晶基板等を適用することができる。
磁気抵抗効果素子10Aは、磁化自由層1を障壁層2の上に積層した前記実施形態に係るTMR素子5(図1(a)参照)を備えてもよい。また、磁気抵抗効果素子10Aは、MOSFETに代えて、ダイオードを接続してメモリセルとしてもよい(図示せず)。ダイオードについても、MOSFETと同様に、Si基板の表層に形成することができる。あるいは、磁気抵抗効果素子10Aは、前記実施形態における光変調素子10と同様にトランジスタを接続せず、下部電極をワード線とするクロスポイント型のMRAMのメモリセルとしてもよい。
以上のように、本発明の実施形態の変形例に係るTMR素子は、前記実施形態と同様に、スピン注入効率に優れて、MR比が高く、低い電流密度で磁化反転させることできるため、微細化しても読出しが容易で、省電力化した大容量のMRAMを実現することができる。
本発明の実施形態およびその変形例においては、磁化自由層、障壁層、磁化固定層を1層ずつ備えるスピン注入磁化反転素子(TMR素子)について説明したが、これに限られず、例えば、1つの磁化自由層の両面に障壁層(または中間層)を介して2つの磁化固定層を設けたデュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子においても適用し得て、同様の効果を有する。
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。
本発明に係るスピン注入磁化反転素子について、Gd−Fe合金を適用した磁化自由層の構造によるMR比への効果を確認するために、スピン注入磁化反転素子を模擬したサンプルを作製して、磁気特性および磁気光学効果を観察した。詳しくは、抵抗測定用として、熱酸化Si基板に、表1のNo.1〜3,5に示す下部電極(Cu膜またはCu/Ta多層膜)を形成した上に、下地膜から保護膜までの材料を下から順にイオンビームスパッタリング法にて連続して成膜して積層し、さらにその上に厚さ100nmのCu膜で上部電極を形成し、フォトリソグラフィで一辺が十数μmの矩形に加工してサンプルとした。また、カー回転角測定用として、同様に、熱酸化Si基板に、表1のNo.1,2,4に示す下部電極を形成した上に、下地膜から保護膜までの材料を下から順に成膜して積層し、成形加工せず、上部電極のないサンプルとした。
No.1,2は、本発明の実施形態に係るスピン注入磁化反転素子(図1(a)参照)の、CoFe膜にそれぞれCo−Fe,Co−Fe−Bを適用したサンプル、No.3はGd膜およびCoFe膜を積層しないGd−Fe合金単層の比較例、No.4はGd膜を積層しない比較例のサンプルであり、No.5は中間層(表1では障壁層)にAgを適用したCPP−GMR素子を模擬したサンプルである。なお、表1に「Cu/Ta」と示した下部電極は、下から、Ta:5nm/[Cu:15nm/Ta:3nm]×n(No.1〜3はn=2、No.4はn=10)の多層膜で、さらに最上層のTa膜の保護膜としてRu:3nmを設けた。
Figure 0006329384
作製したサンプルについて、抵抗の変化を観察してMR比を求めた。詳しくは、サンプルに、初期化磁界−5kOeを印加して、全体(磁化固定層および磁化自由層)の磁化方向を下向きに揃えた。そして、初期化磁界と反対方向の磁界H(>0)をその大きさ(絶対値)を0.5kOeまで漸増させながら印加して、上下電極間の抵抗の変化を観察した。さらに反対方向の磁界H(<0)を印加して、同様に抵抗の変化を観察した。No.1,2,3,5について、抵抗をMR比に換算し、磁場(印加磁界)依存性を磁化曲線として図3(a)、(b)、(c)、(d)に示す。
作製したサンプルについて、レーザー光を用いた偏光変調法にてカー回転角を測定し、印加磁界による磁化反転を観察した。詳しくは、前記の抵抗の観察と同様に、サンプルに初期化磁界を印加して全体の磁化方向を揃え、波長780nmのレーザー光を入射角30°で入射して、サンプルからの反射光の偏光の向き(カー回転角)を、垂直磁界Kerr効果測定装置で測定しながら、印加磁界をその大きさ(絶対値)を1kOeまで漸増させながら印加して、偏光の向きの変化を観察した。No.1,2,4について、カー回転角の磁場(印加磁界)依存性を、磁化曲線として図4(a)、(b)、(c)に示す。
磁化自由層をGd−Fe合金のみで形成した比較例のNo.3は、図3(c)に示すように、MR比の平均値0.24%で、図3(d)に示すCPP−GMR素子のNo.5(MR比の平均値0.14%)と大差なく、TMR素子本来の値には及ばなかった。これに対して、磁化自由層にCo−FeやCo−Fe−Bの磁性金属膜を積層したNo.1,2は、図3(a)、(b)に示すように、MR比が平均値6.7%、4.4%と、TMR素子として十分に高い値を示し、また、図4(a)、(b)に示すように、それぞれ図3(a)、(b)の抵抗が変化した磁場と同程度の磁場で、急激にカー回転角が変化したことから、磁化自由層が垂直磁気異方性を有することが確認された。
一方、Gd膜を間に設けずにGdFe層にCoFeB膜を積層したNo.4は、図4(c)に示すように、カー回転角が最大でNo.1,2の約1/10であり、また磁場の増加に伴って急激に変化することがなかった。これは、入射角30°で入射した光に対して、磁化自由層の磁化方向が垂直に近く(60°)、極カー効果が得られなかったためであり、磁化自由層が垂直磁気異方性を有していないことを示す。
また、図3に示した磁化曲線から、抵抗が変化したときの正負それぞれの印加磁界Hの絶対値を得て、その平均を磁化自由層の保磁力Hcとした。Agからなる中間層の上に磁化自由層(GdFe層)が形成されたNo.5は、図3(d)より保磁力Hcが34Oeであるのに対し、MgOからなる障壁層の上に直接にGdFe層が形成されたNo.3は、図3(c)より保磁力Hcが73Oeに増大した。一方、No.1,2は、障壁層とGdFe層との間にCoFe膜またはCoFeB膜とGd膜とが設けられているが、それぞれ図3(a)、(b)より保磁力Hcが69Oe、63Oeであり、No.3と比較してほとんど減少せず、十分な保磁力を有することが確認された。
本発明に係るスピン注入磁化反転素子について、Gd−Fe合金を適用した磁化自由層へのCo−FeやCo−Fe−Bの磁性金属膜による影響を確認するために、実施例1と同様にスピン注入磁化反転素子を模擬したサンプルを作製して、磁気特性および磁気光学効果を観察した。詳しくは、熱酸化Si基板に、表2のNo.6,7に示す下部電極(Cu膜)を形成した上に、下地膜から保護膜までの材料を下から順にイオンビームスパッタリング法にて連続して成膜して積層し、成形加工せず、上部電極のないカー回転角測定用のサンプルとした。
Figure 0006329384
作製したサンプルについて、実施例1と同様の方法で、レーザー光を用いた偏光変調法にてカー回転角を測定し、印加磁界による磁化反転を観察した。No.6,7について、カー回転角の磁場(印加磁界)依存性を、磁化曲線として図5(a)、(b)に示す。
No.6は、実施例1のNo.1と同様の構造のTMR素子であり、図5(a)に示すように、磁化自由層が垂直磁気異方性を有する。これに対して、磁化自由層のCoFe膜を厚さ0.4nmに形成したNo.7は、GdFe層との間にGd膜を設けても、図5(b)に示すように、カー回転角が最大でNo.6の約80%に変化したものの、No.4と同様に磁場の増加に伴って急激に変化することがなく、磁化自由層が垂直磁気異方性を有していないことを示した。これは、厚さ0.4nmものCoFe膜に対してGdFe層の保磁力や垂直磁気異方性が不十分であったためと推測される。
10 光変調素子
10A 磁気抵抗効果素子
1 磁化自由層
11 GdFe層(Gd−Feからなる層)
12 Gd膜
13 CoFe膜(磁性金属膜)
2 障壁層
3 磁化固定層
31 磁性層
33 CoFe膜(磁性金属膜)
5,5A TMR素子(スピン注入磁化反転素子)
61,61A 下部電極
62,62A 上部電極
7 基板
8 絶縁層

Claims (3)

  1. それぞれが垂直磁気異方性を有する磁化固定層と磁化自由層の間に、MgOからなる障壁層を積層してなるスピン注入磁化反転素子であって、
    前記磁化自由層は、前記障壁層との界面に設けられたCo−FeまたはCo−Fe−Bからなる磁性金属膜と、Gd−Feからなる層と、前記Gd−Feからなる層と前記磁性金属膜の間に設けられたGd膜と、を備えることを特徴とするスピン注入磁化反転素子。
  2. 前記磁化自由層が前記障壁層の上に積層されていることを特徴とする請求項1に記載のスピン注入磁化反転素子。
  3. 入射した光の偏光の向きを変化させて出射する光変調素子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスピン注入磁化反転素子。
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