以下、本発明に係る磁気光学式空間光変調器および磁気光学式撮像装置(以下、適宜、空間光変調器および撮像装置という)を実現するための最良の形態について、図を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の構成を示す平面模式図である。なお、本明細書における平面(上面)は、空間光変調器の光の入射面である。また、平面視での縦、横は、図1における縦、横をそれぞれ示す。図2は本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の画素の、一部を切り欠いた拡大斜視図である。以下に、本発明に係る空間光変調器を構成する各要素について説明する。
空間光変調器1は、図1に示すように、基板71(図2参照)上に2次元アレイ状に配列された画素4からなる画素アレイ40と、画素アレイ40から1つ以上の画素4を選択して駆動する駆動制御部80と、を備える。なお、本明細書における画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段を指す。
図1に示すように、画素アレイ40は、平面視でストライプ状の複数の上部電極2,2,…と、同じくストライプ状で、平面視で上部電極2と直交する複数の下部電極3,3,…と、を備え、上部電極2と下部電極3との交点毎に1つの画素4を設ける。したがって、画素4は、空間光変調器1の光の入射面に、2次元アレイ状に配列されて画素アレイ40を構成する。本実施形態では、画素アレイ40は、5行×5列の25個の画素4からなる構成で例示される。なお、上部電極2と下部電極3は、適宜、両者をまとめて電極2,3と称する。そして、図1および図2に示すように、画素4は、当該画素4における一対の電極としての上部電極2および下部電極3と、これらの電極2,3に上下から挟まれた光変調素子50を備える。また、隣り合う上部電極2,2間、光変調素子50,50間、および下部電極3,3間、すなわち図2の空白部分は、絶縁部材72で埋められている。
図1に示すように、駆動制御部80は、上部電極2を選択する上部電極選択部82と、下部電極3を選択する下部電極選択部83と、これらの電極選択部82,83を制御する画素選択部(画素選択手段)84と、電極2,3に電流を供給する電源(電流供給手段)81と、を備える。これらはそれぞれ公知のものでよく、光変調素子50を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給するものとする。
上部電極選択部82は、上部電極2の1つ以上を選択し、下部電極選択部83は、下部電極3の1つ以上を選択し、それぞれに電源81から所定の電流を供給させる。画素選択部84は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて画素アレイ40の特定の1つ以上の画素4を選択し、選択した画素4に接続する電極2,3を電極選択部82,83に選択させる。電源81は、選択した画素4に備えられる光変調素子50を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給する。このような構成により、特定の画素4が選択され、この画素4の光変調素子50に、所定の電流が供給されて磁化反転させる。なお、図1において、電源81は、電極2,3のそれぞれ一端に電極選択部82,83を介して接続されているが、両端に接続されていてもよい。両端に接続されることにより、応答速度を上げ、画素間の動作ばらつきも低減できる。
次に、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の画素の構成の詳細を図1、図2、および図3を参照して説明する。図3は第1実施形態に係る画素の拡大断面図で、図1のB−B部分断面図である。
図1および図2に示すように、上部電極2は、光変調素子50の上に配され、横方向に帯状に延設される。1つの上部電極2は、横1行に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの光変調素子50に電流を供給する。一方、下部電極3は、光変調素子50の下に配され、縦方向に帯状に延設される。1つの下部電極3は、縦1列に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの光変調素子50に電流を供給する。上部電極2は、光変調素子50への入射光および出射光を遮らないように透明電極材料で構成される。一方、下部電極3は、上方(上部電極2側)から光変調素子50を透過して到達した光を再び上方へ出射させるため、反射率の高い金属電極材料で構成される。
上部電極2のように、電極(配線)を透明電極材料で構成する場合、電極とこの電極に接続する光変調素子50との間に金属膜を設けることが好ましい。したがって、本実施形態に係る画素4の上部電極2は、図2および図3に示すように、透明電極材料からなる透明電極2aと、この透明電極2aと光変調素子50との間に積層された金属膜である下地層2bと、からなる。透明電極2aと光変調素子50との間に金属膜である下地層2bを介在させることで、金属電極材料より抵抗が大きい透明電極材料においても、上部電極2−光変調素子50間の接触抵抗を低減させて応答速度を上げることができる。
透明電極2aは、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン−酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In2O3)等の公知の透明電極材料からなる。特に、比抵抗と成膜の容易さとの点からIZOが最も好ましい。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の公知の方法により成膜される。
下地層2bを構成する金属としては、例えば、Au,Ru,Ta、またはそれらの金属の2種以上からなる合金等を用いることができ、これらの金属はスパッタリング法等公知の方法により成膜される。そして、下地層2bとその上の層すなわち透明電極2aとの密着性をよくして接触抵抗をさらに低減するため、下地層2bとなる金属膜は、透明電極2aとなる透明電極材料と連続的に真空処理室にて成膜されることが好ましい。連続して成膜された膜は、一緒に加工されることが多いため、図2および図3に示すように、下地層2bは透明電極2aと同じ平面視形状となるが、例えば光変調素子50と同じ平面視形状であってもよい。詳細は、画素4の製造方法において説明する。下地層2bの厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると光の透過量を低下させる。したがって、下地層2bの好ましい厚さは1〜10nmである。
下部電極3は、例えば、Cu,Al,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなる。そして、スパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィ等により前記帯状に形成される。また、下部電極3の下に金属膜(図示せず)を設けてもよい。これは、基板71と下部電極3との密着性をよくするためであり、金属膜と下部電極3用の金属電極材料とは連続して成膜して、一緒に成形する。金属膜の材料および厚さは、上部電極2の下地層2bに倣う。
基板71は、例えば表面を熱酸化したSi基板等の公知の基板が適用できる。絶縁部材72は、隣り合う上部電極2,2間、光変調素子50,50間、および下部電極3,3間(図3不図示)に配され、例えば、SiO2やAl2O3等からなる。
光変調素子50は、図1および図2に示すように、平面視で上部電極2と下部電極3の重なる部分に配され、この電極2,3に上下から挟まれて接続されている。光変調素子50の平面視形状は、本実施形態においては正方形であるが、これに限定されるものではない。また、1個の画素4につき1個の光変調素子50が配されているが、例えば1つの画素4に面方向で(2×2)個等、複数の光変調素子50を備えてもよい。図3に示すように、光変調素子50は、下部電極3の上に、第2固定層61、第2中間層62、第2反転層63、接続層55、第1反転層53、第1中間層52、第1固定層51、保護層54の順に積層されてなる。そして、第1固定層51、第1中間層52、および第1反転層53は第1スピン注入光変調素子(スピン注入磁化反転素子)5を構成し、第2固定層61、第2中間層62、および第2反転層63は第2スピン注入光変調素子(スピン注入磁化反転素子)6を構成する。すなわち光変調素子50は、第1スピン注入光変調素子5と第2スピン注入光変調素子6とを接続層55を挟んで備え、さらにその微細加工におけるダメージからこれらの層を保護するために、最上層に保護層54を備える。光変調素子50の各層は、例えばスパッタリング法や分子線エピタキシー(MBE)法等の公知の方法によりそれぞれ成膜されて積層され、電子線リソグラフィ等により前記形状に加工される。
第1、第2スピン注入光変調素子5,6は、それぞれがCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗)素子、TMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗)素子等の公知のスピン注入磁化反転素子である。ただし、第1スピン注入光変調素子5は第1反転層(磁化反転層)53の側が下に、第2スピン注入光変調素子6は第2反転層(磁化反転層)63の側が上になるように積層して、それぞれの磁化反転層同士を対向させた構成とする。第1、第2固定層(磁化固定層)51,61および第1、第2反転層53,63は強磁性体であり、これら4層のすべてが面内磁気異方性を有する材料で構成される。そして、第1、第2固定層51,61は磁化方向が固定されており、すべての画素4(画素アレイ40)において第1固定層51の磁化は面内方向における一方向に揃えられ、第2固定層61の磁化は第1固定層51の磁化と逆方向に揃えられている。一方、第1、第2反転層53,63の磁化方向はスピン注入によって容易に面内方向で回転(反転)させることができる。固定層51,61と反転層53,63の間に設けられる中間層52,62は、第1、第2スピン注入光変調素子5,6がCPP−GMR素子であれば非磁性の導体、TMR素子であれば絶縁体で形成される。以下に、光変調素子50を構成する各層の詳細を説明する。
第1固定層51(磁化固定層)は、強磁性金属(FM)や磁性半導体からなり、その厚さは数〜数10nmである。強磁性金属としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、FM/PtMn、FM/Ru/FM/PtMn(シンセティックピン層、積層フェリ構造)のような多層膜、さらにIrMn等の磁化固着層を上層に設けたFM/IrMn、FM/Ru/FM/IrMnが挙げられる。また、磁性半導体としては、ZnO:Mn、ZnO:Mn1−xFex、ZnO:Cr1−xMnx等のZnOを母体とするもの、III−V族化合物半導体を母体とするもの、TiOを母体とするもの、II−VI族化合物半導体を母体とするものが挙げられる。なお、第1固定層51は、特に厚さが10数nmを超える場合は透過率の高い材料で形成し、ZnO,TiOを母体とする磁性半導体が好ましい。
第1中間層52(中間層)は、第1固定層51と第1反転層53との間に積層される。第1スピン注入光変調素子5がTMR素子であれば、第1中間層52は、MgO、Al2O3、HfO2のような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなり、その厚さは0.5〜1.5nmである。また、第1スピン注入光変調素子5がCPP−GMR素子であれば、第1中間層52は、Cu,Au,Ptのような非磁性金属からなり、その厚さは6nm以下である。
第1反転層53(磁化反転層)は、強磁性金属や磁性半導体からなり、その厚さは6nm以下である。強磁性金属としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含むCoFe,CoFeB,NiFe等の合金、これらの材料の2種以上からなる積層膜、FM/Ru/FM(シンセティックフリー層、積層フェリ構造)が挙げられる。また、磁性半導体としては、ZnO:Mn、ZnO:Mn1−xFex、ZnO:Cr1−xMnx等のZnOを母体とするもの、III−V族化合物半導体を母体とするもの、II−VI族化合物半導体を母体とするものが挙げられる。
前記の通り、第2スピン注入光変調素子6は、構成する各層の積層される順序が逆である以外は、第1スピン注入光変調素子5と同じ構成である。したがって、その材料および膜厚等は、第2固定層61は第1固定層51に、第2中間層62は第1中間層52に、第2反転層63は第1反転層53にそれぞれ倣い、説明は省略する。ただし、第2固定層61において、その磁化方向を固定するための磁化固着層(IrMn等)は下層に設ける。なお、第2スピン注入光変調素子6のそれぞれの層は第1スピン注入光変調素子5の材料および膜厚と同じであってもよいし、異なるものであってもよい。特に、第2固定層61は、第1固定層51と異なり反射率の高くなるような材料および膜厚で構成してもよい。また、第1、第2スピン注入光変調素子5,6の一方がCPP−GMR素子で、他方がTMR素子であってもよい。ただし、異なる材料、膜厚とする場合、光変調素子50を駆動する(磁化反転させる)際に、第1反転層53と第2反転層63とが同時に磁化反転するような電流を供給する。
接続層55は、第1スピン注入光変調素子5と第2スピン注入光変調素子6、すなわち第1反転層53と第2反転層63を電気的に接続するための層であり、Cu,Al,Au,Pt,Ta,Ru等の非磁性金属からなる。接続層55の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると入射光の光量を減衰させる。したがって、接続層55の好ましい厚さは1〜10nmである。
保護層54は、光変調素子50の微細加工におけるダメージから第1固定層51を保護するために設けられ、Ta,Ru,Cuの単層、または、Cu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護層54の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると入射光の光量を減衰させる。したがって、保護層54の好ましい厚さは1〜10nmである。
次に、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の画素(画素アレイ)の製造方法について、その一例を説明する。
まず、下部電極3を形成する。基板71の表面に、金属電極材料をスパッタリング法等により成膜し、フォトリソグラフィ等によりストライプ状に形成して下部電極3とする。そして、下部電極3,3間にSiO2等の絶縁膜(絶縁部材72となる)を堆積させる。
次に、光変調素子50を形成する。下部電極3(および絶縁部材72)の上面に、連続して、第2固定層61、第2中間層62、第2反転層63、接続層55、第1反転層53、第1中間層52、第1固定層51、保護層54を、それぞれ成膜、積層する。これらの層を電子線リソグラフィ等により所望の形状に加工して光変調素子50とする。この上から絶縁膜を成膜して光変調素子50,50間に堆積させ、エッチングやCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)等により光変調素子50の上の絶縁膜を除去して絶縁部材72とする。または、電子線リソグラフィ等で形成した光変調素子50上に電子線レジストを残した状態で、絶縁膜を成膜して、その後レジストとその上の絶縁膜を同時に除去するリフトオフ法を用いてもよい。なお、下部電極3,3間の絶縁部材72は、光変調素子50の形成後に、光変調素子50,50の間への堆積と同時に堆積してもよい。また、第2固定層61から保護層54を成膜後、これらの8層を成形せず(光変調素子50,50間に絶縁部材72を堆積させず)、光変調素子50とする領域以外に窒素等のイオンを上から注入してこれら8層を絶縁化してもよい。
次に、上部電極2を形成する。光変調素子50および絶縁部材72の表面に、金属膜、透明電極材料を連続して成膜し、下部電極3と直交するストライプ状に加工して上部電極2(下地層2b、透明電極2a)とする。最後に、上部電極2,2間に絶縁部材72を堆積して、画素4(画素アレイ40)とする。
次に、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の画素選択の動作を、図4および図5を参照して説明する。図4は、第1実施形態に係る反射型空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。図5は第1実施形態に係る光変調素子の磁化反転と透過光の旋光を説明するための断面模式図である。電極2,3は、前記の通り、駆動制御部80に接続される。また、図4に示すように、第1実施形態に係る空間光変調器1の画素4(画素アレイ40)の上方には、画素アレイ40に向けて光を照射する光源93と、光源93から照射された光を画素アレイ40に入射する前に偏光とする入射偏光フィルタ91と、画素アレイ40から出射した光から特定の向きの偏光のみを透過する出射偏光フィルタ92と、出射偏光フィルタ92を透過した光を検出する検出器94とが配置される。なお、図4および図5において、光変調素子50の保護層54は図示を省略する。
まず、図4を参照して、空間光変調器1の動作を説明する。光源93から照射された光(レーザー光等)は様々な偏光成分を含んでいるので、これを画素アレイ40の上方の入射偏光フィルタ91を透過させて、1つの偏光成分の光とする。以下、1つの偏光成分の光を偏光と称する。この偏光(入射偏光)は、画素アレイ40のすべての画素4に所定の入射角で入射する。それぞれの画素4において、入射偏光は、上部電極2を透過して光変調素子50に入射し、当該光変調素子50またはその下の下部電極3で反射して、光変調素子50から出射偏光として出射し、再び上部電極2を透過して画素4から出射する。それぞれの画素4から出射したすべての出射偏光は、出射偏光フィルタ92に到達する。出射偏光フィルタ92は、特定の偏光、ここでは入射偏光に対して角度θLr1旋光した偏光のみを透過させ、この透過した出射偏光が検出器94に入射される。偏光フィルタ91,92はそれぞれ偏光板等であり、検出器94はスクリーン等の画像表示手段やカメラ等である。
ここで、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の画素における光変調素子の磁化方向とこの光変調素子に入射した光の旋光について、図5を参照して説明する。なお、図5では、光変調素子50を透過した偏光の旋光角について説明する。前記した通り、本実施形態の光変調素子50の第1固定層51と第2固定層61は、すべての画素4において磁化方向がそれぞれ同一に固定され、第1固定層51の磁化と第2固定層61の磁化とは互いに逆方向(反平行)である。そして、第1、第2固定層51,61は面内磁気異方性材料で構成されているので、図5では、第1固定層51の磁化を右方向、第2固定層61の磁化を左方向の矢印で示す。
スピン注入磁化反転素子は、電流供給によりスピン注入されることによって、磁化反転層の磁化方向を180°回転(スピン注入磁化反転)させて磁化固定層の磁化方向に対して平行(同方向)または反平行(逆方向)とする。以下、スピン注入磁化反転素子において、磁化固定層の磁化方向に対して、磁化反転層の磁化方向が同方向であることを、スピン注入磁化反転素子の磁化配置が平行である(P:Parallel)といい、磁化反転層の磁化方向が逆方向であることを、スピン注入磁化反転素子の磁化配置が反平行である(AP:Anti-Parallel)という。そして、本発明の光変調素子50に、図5(a)に示すように、電流を下向きに供給、すなわち上部電極2を「+」、下部電極3を「−」にすると、第1スピン注入光変調素子5においては、第1固定層51側から電流が流れる。このとき、第1スピン注入光変調素子5の磁化配置は反平行(AP)となって、第1反転層53の磁化は第1固定層51の磁化と逆の左方向になる。一方、第2スピン注入光変調素子6においては、第2反転層63側から電流が流れ、このとき、第2スピン注入光変調素子6の磁化配置は平行(P)となって、第2反転層63の磁化は第2固定層61の磁化と同じ左方向になる。反対に、図5(b)に示すように、電流を上向きに供給、すなわち上部電極2を「−」、下部電極3を「+」にすると、第1スピン注入光変調素子5の磁化配置は平行(P)となって、第1反転層53の磁化は第1固定層51の磁化と同じ右方向に、第2スピン注入光変調素子6の磁化配置は反平行(AP)となって、第2反転層63の磁化は第2固定層61の磁化と逆の右方向になる。
したがって、図5(a)、(b)いずれの電流方向においても、第1反転層53の磁化と第2反転層63の磁化は同じ方向となる。また、第1反転層53と第2反転層63を非磁性の接続層55で分離させたことにより、反転層53,63内に束縛された電子スピンの交換結合が切断されて、それぞれの反転層53,63を磁化反転し易くすることができる。したがって、反転層53,63の各層を従来のスピン注入光変調素子の磁化反転層と同程度の厚さとしても、従来のスピン注入光変調素子と同等の大きさの電流で磁化反転させることができる。なお、第1、第2スピン注入光変調素子5,6のそれぞれの磁化配置が平行、反平行いずれかの磁化を示していれば、その磁化を反転させる電流が供給されるまでは反転層53,63の磁化方向は変化(回転)しない。このように、スピン注入光変調素子において電流供給のないときは磁化が保持されるため、光変調素子50に供給する電流は、パルス電流のように、磁化方向を反転させる電流値に一時的に到達する電流を適用できる。
光変調素子50は磁性体を積層して構成されるので、光変調素子50を透過した光は、ファラデー効果により所定角度で旋光する。光変調素子50における磁性体である第1固定層51、第1反転層53、第2反転層63、第2固定層61の各層のファラデー旋光角(以下、適宜、旋光角)をそれぞれ、θFpin1,θFfree1,θFfree2,θFpin2とし、図5において右方向の磁化を示す層を透過した偏光が正方向に回転すると定義する。電流を下向きに供給された光変調素子50(図5(a))を透過した光の旋光角θLt1は、(θFpin1−θFfree1−θFfree2−θFpin2)となる。反対に、電流を上向きに供給された光変調素子50(図5(b))を透過した光の旋光角θDt1は、(θFpin1+θFfree1+θFfree2−θFpin2)となる。さらに、第1固定層51と第2固定層61の旋光角、第1反転層53と第2反転層63の旋光角が、それぞれ同等となるように光変調素子50を構成して(例えば、同じ材料で同じ膜厚)、θFpin1=θFpin2=θFpin、θFfree1=θFfree2=θFfreeとした場合、光変調素子50を透過した光の旋光角は、θLt1≒−2θFfree、θDt1≒2θFfreeと近似できる。このように、1つの画素が、磁化が回転する層を2層備え、かつ2層が互いに同じ磁化方向を示すので、旋光角θLt1,θDt1それ自体がいずれの向きの電流を供給されても大きく、さらに、磁化反転による旋光角の差|θDt1−θLt1|=2(θFfree1+θFfree2)≒4θFfreeも大きい。
図4の説明に戻る。左側の画素4における光変調素子50は、図5(a)に示すように下向きに電流が供給されて、反転層53,63は左方向の磁化を示している。一方、右側の画素4における光変調素子50は、図5(b)に示すように上向きに電流が供給されて、反転層53,63は右方向の磁化を示している。ここで、本実施形態に係る空間光変調器1は反射型の空間光変調器であり、画素4からの出射偏光は、光変調素子50内または下部電極3表面で反射して出射したものである。入射偏光が下部電極3で反射する場合、入射偏光は、光変調素子50の各層をすべて(保護層54〜第2固定層61)透過して、下部電極3の上面で反射して折り返し、再び光変調素子50の各層を透過して出射する。このとき、画素4からの出射偏光の旋光角は、θLr1=2θLt1=2(θFpin1−θFfree1−θFfree2−θFpin2)、θDr1=2θDt1=2(θFpin1+θFfree1+θFfree2−θFpin2)となる。一方、入射偏光が光変調素子50内で反射する場合、例えば第2固定層61が反射率の高い材料からなる場合は、入射偏光は、光変調素子50の第2中間層62まで透過し、第2中間層62と第2固定層61との界面で反射して折り返して出射する。このとき、光変調素子50の第2固定層61のカー旋光角をθKpin2とすると、画素4からの出射偏光の旋光角は、θLr1=2(θFpin1−θFfree1−θFfree2)−θKpin2、θDr1=2(θFpin1+θFfree1+θFfree2)−θKpin2となる。このように、光変調素子50の各層の透過率、反射率によって、画素4からの出射偏光の旋光角θLr1,θDr1の大きさは異なるが、いずれの場合も磁化が変化する反転層53,63をそれぞれ2回透過して出射しているので、磁化反転による旋光角の差|θDr1−θLr1|=4(θFfree1+θFfree2)は共通する。このように、本実施形態の画素4は、電流の向きによる出射偏光の差が、磁化反転層を1層のみ備える従来のスピン注入光変調素子で構成された画素における差より大きい。
入射偏光に対して角度θLr1旋光した図4の左側の画素4からの出射偏光は、出射偏光フィルタ92を透過して検出器94に到達するので、この画素4は明るく(白く)検出器94に表示される。一方、右側の画素4からの出射偏光は、出射偏光フィルタ92で遮られるので、この画素4は暗く(黒く)、検出器94に表示される。このように、画素毎に明/暗(白/黒)を切り分けられ、電流の向きを切り換えれば明/暗が切り換わる。なお、空間光変調器1の初期状態としては、すべての画素4からの出射偏光が出射偏光フィルタ92を透過せず「暗」状態となるように、すべての画素4の光変調素子50に上向きの電流を供給すればよい(図5(b))。
ここで、磁気光学効果は、光の入射角が磁気光学材料の磁化方向に対して平行に近いほど大きい。したがって、面内磁気異方性を有する光変調素子50においては、光(入射偏光)の入射角を、膜面に対して、すなわち画素アレイ40に対して平行(入射角0°)に近くするほど、旋光角θLr1,θDr1および両旋光角の差を大きくすることができる。しかし、画素アレイ40の構造上、光が光変調素子50の上面から入射するためには、入射角にある程度の傾斜が必要である。したがって、空間光変調器1における画素4への光の入射角は、動作時における光変調素子50の反転層53,63の磁化方向すなわち固定層51,61の磁化方向に対して10°〜60°の範囲が好ましく、図4に示すように、本実施形態の空間光変調器1は、画素アレイ40に対して斜めに光が入射される。また、入射偏光、出射偏光共に光路が画素アレイ40の上方にあるので、出射偏光フィルタ92および検出器94は入射偏光の光路を遮らない位置に、光源93および入射偏光フィルタ91は出射偏光の光路を遮らない位置に、それぞれ配置される。
以上のように、第1実施形態によれば、高精細かつ高速応答とすることが可能なスピン注入光変調素子を用いて、光変調度を向上させた反射型空間光変調器となる。そして、選択画素−非選択画素間で旋光角の差が従来の反射型空間光変調器よりも大きいため、画素の明/暗の切り分けおよび切り換えのための選択性に優れた反射型空間光変調器となる。
(第1実施形態の変形例)
本発明の第1実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素の構成を、図6および図7を参照して説明する。図6は第1実施形態の変形例に係る画素の拡大断面図で、図1のB−B部分断面図である。図7は第1実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。第1実施形態(図3、図4参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。図6に示すように、第1実施形態の変形例の画素4における光変調素子50Bは、下部電極3の上に、第2固定層61、第2中間層62、第2反転層63、第1反転層53、第1中間層52、第1固定層51、保護層54の順に積層されてなる。そして、第1実施形態と同様に、第1固定層51、第1中間層52、および第1反転層53は第1スピン注入光変調素子(スピン注入磁化反転素子)5を構成し、第2固定層61、第2中間層62、および第2反転層63は第2スピン注入光変調素子(スピン注入磁化反転素子)6を構成する。なお、図7では光変調素子50Bの保護層54は省略する。
第1実施形態の光変調素子50は、第1、第2スピン注入光変調素子5,6を、接続層55を介して積層した構造であるが、第1実施形態の変形例の光変調素子50Bは、この接続層55を備えず、第1スピン注入光変調素子5の反転層53と第2スピン注入光変調素子6の反転層63とが接続されるように積層したものである。
光変調素子50Bの各層の材料、膜厚等は第1実施形態の光変調素子50と同様であるので説明は省略する。また、本実施形態に係る空間光変調器の画素(画素アレイ)の製造方法についても、接続層55を積層しないこと以外は第1実施形態と同様であるので説明は省略する。そして、光変調素子50Bにおいても、固定層51,61および反転層53,63は面内磁気異方性材料で構成されており、第1固定層51と第2固定層61は、すべての画素4において磁化方向がそれぞれ同一に固定され、第1固定層51の磁化と第2固定層61の磁化とは互いに逆方向(反平行)である。したがって、電流の供給による第1、第2スピン注入光変調素子5,6の磁化反転は、第1実施形態の光変調素子50におけるものと同様であるので、説明は省略する(図5参照)。
また、図7に示すように、第1実施形態の変形例に係る空間光変調器1Aは、画素4に光変調素子50Bを備えること以外は第1実施形態に係る空間光変調器1と同じ構成であり、その画素選択の動作も第1実施形態と同様である。さらに、選択、非選択画素それぞれの光変調素子50Bによる出射偏光の旋光も第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
以上のように、第1実施形態の変形例によれば、第1実施形態と同様に、高精細かつ高速応答とすることが可能なスピン注入光変調素子を用いて、光変調度を向上させた反射型空間光変調器となる。また、第1実施形態と比べて、光変調素子に非磁性金属からなる接続層がないため、その分、光の減衰を抑えることができる。
[第2実施形態]
次に、図8を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図8は第2実施形態に係る空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図4と同様、図1のA−A断面図である。第1実施形態(図4参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。第2実施形態に係る空間光変調器1Bは、画素4に光変調素子50Aを備える。光変調素子50Aは、第1実施形態の光変調素子50と同様に、接続層55を挟んで、第1スピン注入光変調素子5A、第2スピン注入光変調素子6Aを備えるが、それぞれの固定層51A,61Aおよび反転層53A,63Aは、4層すべてが垂直磁気異方性を有する材料で構成される。また、光変調素子50Aにおいて、保護層54は、図4と同様に図示を省略するが、第1実施形態の光変調素子50と同じく最上層に積層される(図3参照)。
第1スピン注入光変調素子5Aにおいて、第1固定層51Aは強磁性金属からなり、その厚さは光を十分透過するように、数〜10数nmとする。また、第1反転層53Aも強磁性金属からなり、その厚さは15nm以下である。第1固定層51A、第1反転層53Aを構成する強磁性金属としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜、Sm,Eu,Gd,Tb等の希土類を含む合金がそれぞれに適用でき、第1反転層53AにはさらにMnBiが適用できる。また、第1固定層51Aの保磁力が、第1反転層53の保磁力より大きくなるような構成にする。第2スピン注入光変調素子6Aは、構成する各層の積層される順序が逆である以外は、第1スピン注入光変調素子5Aと同じ構成である。したがって、その材料および膜厚等は、第2固定層61Aは第1固定層51Aに、第2反転層63Aは第1反転層53Aにそれぞれ倣う。また、第1実施形態の光変調素子50と同様に、第2スピン注入光変調素子6Aのそれぞれの層は第1スピン注入光変調素子5Aの材料および膜厚と同じであってもよいし、異なるものであってもよい。特に、第2固定層61Aは、10数nmを超える厚さとして反射率の高い層にして、入射偏光がその表面(第2中間層62と第2固定層61Aとの界面)で反射する構成としてもよい。
光変調素子50Aの固定層51A,61Aの各磁化方向は面内方向に対して垂直であり、第1実施形態と同様に、第1固定層51Aの磁化と第2固定層61Aの磁化は互いに逆方向に固定されるので、第2実施形態では図8に示すように、第1固定層51Aの磁化は下方向に、第2固定層61Aの磁化は上方向に、それぞれ固定されている。一方、反転層53A,63Aの磁化は、上方向または下方向を示すように、スピン注入によって反転させることができる。したがって、電流を下向きに供給したときは、第1実施形態と同様に第1スピン注入光変調素子5Aは磁化配置が反平行(AP)に、第2スピン注入光変調素子6Aは磁化配置が平行(P)になるように、反転層53A,63Aの磁化は共に上方向を示す。反対に、電流を上向きに供給したときは、第1スピン注入光変調素子5Aは磁化配置が平行(P)に、第2スピン注入光変調素子6Aは磁化配置が反平行(AP)になるように、反転層53A,63Aの磁化は共に下方向を示す。また、第1実施形態の光変調素子50と同様に、第1反転層53Aと第2反転層63Aを非磁性の接続層55で分離させたことにより、反転層53A,63Aの各層を従来の垂直磁気異方性を有するスピン注入光変調素子の磁化反転層と同程度の厚さとしても、従来のスピン注入光変調素子と同等の大きさの電流で磁化反転させることができる。
各層の磁化方向が面内方向に垂直である光変調素子50Aにおいても、第1実施形態の光変調素子50と同様に、光変調素子50Aの各層(固定層51A,61A、反転層53A,63A)を透過した光はファラデー効果により旋光し、第1、第2スピン注入光変調素子5A,6Aの磁化反転により、光変調素子50Aから出射した偏光の旋光角は変化する。
第2実施形態の空間光変調器1Bにおいては、光変調素子50Aの各層の磁化方向に平行に光が入射するように、図8に示すように画素4への入射角を90°として、画素4からの出射光の旋光角θLr3,θDr3を最大とすることができる。したがって、光源93、入射偏光フィルタ91を画素アレイ40の直上に配することが好ましい。この場合、出射偏光(反射光)の光路も入射偏光の光路と同じ画素4の直上である。そこで、空間光変調器1Bの画素アレイ40と入射偏光フィルタ91の間にハーフミラー95を配置して、出射偏光のみ側方へ反射させて光路を変え、その先に出射偏光フィルタ92および検出器94を配置する。このような構成とすることで、垂直磁気異方性材料で構成されたスピン注入光変調素子によっても反射型の空間光変調器とすることが可能となる。
以上のように、第2実施形態によれば、高精細かつ高速応答とすることが可能なスピン注入光変調素子を用いて、光変調度を向上させた反射型空間光変調器となる。さらに、スピン注入光変調素子に垂直磁気異方性材料を適用することで、磁化方向と平行に光を画素に入射することが容易にできるので、選択画素−非選択画素間で旋光角の差がいっそう大きくなって、画素の明/暗の切り分けおよび切り換えのための選択性に優れた反射型空間光変調器となる。
(第2実施形態の変形例)
さらに、図9を参照して、本発明の第2実施形態の変形例について説明する。図9は第2実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。第2実施形態(図8参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。図9に示すように、第2実施形態の変形例に係る空間光変調器1Cは、画素4に光変調素子50Cを備えること以外は第2実施形態に係る空間光変調器1Bと同じ構成である。光変調素子50Cは、第2実施形態の光変調素子50Aを構成する第1スピン注入光変調素子5A、第2スピン注入光変調素子6Aを、第1実施形態の変形例の光変調素子50Bと同様に、間に接続層55を備えずに積層したものである。また、光変調素子50Cにおいて、保護層54は図示を省略するが、光変調素子50Bと同じく最上層に積層される(図6参照)。
光変調素子50Cの各層の材料、膜厚等は第2実施形態の光変調素子50Aと同様であるので説明は省略する。また、固定層51A,61Aの磁化方向および電流の供給による反転層53A,63Aの磁化反転も光変調素子50Aと同様であり、したがって、選択、非選択画素それぞれの光変調素子50Cによる出射偏光の旋光も第2実施形態と同様である。
以上のように、第2実施形態の変形例によれば、第2実施形態と同様に垂直磁気異方性材料で構成されたスピン注入光変調素子を用いることで、光変調度をさらに向上させた反射型空間光変調器となる。また、第2実施形態と比べて、光変調素子に非磁性金属からなる接続層がないため、その分、光の減衰を抑えることができる。
[第3実施形態]
次に、図10を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。図10は第3実施形態に係る空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。第1実施形態(図4参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。第1実施形態の空間光変調器1は反射型であるのに対し、第3実施形態の空間光変調器1Dは透過型である。
空間光変調器1Dは、画素4Aに、上部電極2と同様に透明電極材料で構成された下部電極3Aを備える。上部電極2から入射して光変調素子50を透過した光は、下部電極3A、さらに透明な基板71Aを透過して画素4Aから出射する。したがって、図10に示すように、出射偏光フィルタ92および検出器94は、空間光変調器1Dの画素アレイ40の下方に配置される。
下部電極3Aは、第1実施形態の下部電極3と同様に帯状であるが、光変調素子50を透過した出射偏光をさらに透過するように、上部電極2の透明電極2aと同様に、公知の透明電極材料からなる。そして、上部電極2と同様に、光変調素子50との間に金属膜からなる下地層を備えて接触抵抗を小さくすることが好ましい(図示せず)。これらの構成は、それぞれ上部電極2の透明電極2aおよび下地層2bと同様であるため、説明は省略する。ただし、画素4Aの製造において、下部電極3Aの下地層となる金属膜と、その上の光変調素子50となる各層は、連続して成膜されることが好ましいため、下部電極3Aの透明電極部分を形成して、その間に絶縁部材72を堆積させてから、下部電極3Aの下地層と光変調素子50を形成する。また、第3実施形態の基板71Aは、画素4A(上部電極2、光変調素子50、下部電極3A)を透過した光がさらに下方へ照射されるように、透明な材料からなり、例えば、SiO2、Al2O3、MgO等からなる。
画素4Aに備えられた光変調素子50は、第1実施形態に係る空間光変調器1の画素4に備えられたものであり、光変調素子50における固定層51,61の磁化方向および電流の供給による反転層53,63の磁化反転も、第1実施形態と同様である(図5参照)ため、説明を省略する。ただし、第2固定層61は、第1固定層51と同様に、特に厚さが10数nmを超える場合は透過率の高い材料で形成して、光を透過するようにする。第3実施形態に係る透過型空間光変調器1Dにおける画素4Aからの出射光は、画素4A(光変調素子50)を透過して旋光するので、選択−非選択画素の出射偏光の旋光角θDt1,θLt1は、図5を参照して説明した通りである。そして、第1実施形態において説明したように、第1反転層53と第2反転層63を非磁性の接続層55で分離させたことにより、反転層53,63の各層を従来のスピン注入光変調素子の磁化反転層と同程度の厚さとしても、従来のスピン注入光変調素子と同等の大きさの電流で磁化反転させることができる。したがって、従来のスピン注入光変調素子による透過型の空間光変調器に比べて出射偏光の旋光角を大きくすることができる。
また、空間光変調器1Dにおける画素4Aへの光の入射角も、第1実施形態の反射型空間光変調器1と同様に、光変調素子50の固定層51,61の磁化方向に対して10°〜60°の範囲が好ましい。したがって、図10に示すように、第3実施形態の空間光変調器1Dは、画素アレイ40に対して斜めに光が入射される。
以上のように、第3実施形態によれば、高精細かつ高速応答とすることが可能なスピン注入光変調素子を用いて、光変調度を向上させた透過型空間光変調器となる。そして、選択画素−非選択画素間で旋光角の差が従来の透過型空間光変調器よりも大きいため、画素の明/暗の切り分けおよび切り換えのための選択性に優れた透過型空間光変調器となる。
(第3実施形態の変形例)
さらに、図11を参照して、本発明の第3実施形態の変形例について説明する。図11は第3実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。第3実施形態(図10参照)および第1実施形態の変形例(図6、図7参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。図11に示すように、第3実施形態の変形例に係る空間光変調器1Eは、画素4Aに光変調素子50Bを備えること以外は第3実施形態に係る空間光変調器1Dと同じ構成である。光変調素子50Bは、第1実施形態の変形例に適用されたものであり、固定層51,61の磁化方向および電流の供給による反転層53,63の磁化反転も、第1実施形態の変形例および第3実施形態におけるものと同様である。したがって、選択、非選択画素それぞれの光変調素子50Bによる出射偏光の旋光は第3実施形態と同様であるので説明は省略する。
以上のように、第3実施形態の変形例によれば、第3実施形態と同様に、高精細かつ高速応答とすることが可能なスピン注入光変調素子を用いて、光変調度を向上させた透過型空間光変調器となる。また、第3実施形態と比べて、光変調素子に非磁性金属からなる接続層がないため、その分、光の減衰を抑えることができる。
[第4実施形態]
次に、図12を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。図12は第4実施形態に係る空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。第2実施形態(図8参照)および第3実施形態(図10参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。第4実施形態の空間光変調器1Fは、第3実施形態の空間光変調器1Dと同様に、画素4Aに透明電極材料で構成された下部電極3Aを備える透過型の空間光変調器であり、また、第2実施形態と同じ垂直磁気異方性材料で構成された光変調素子50Aを備える。
画素4Aに備えられた光変調素子50Aは、第2実施形態に係る空間光変調器1Bの画素4に備えられたものであり、光変調素子50Aにおける固定層51A,61Aの磁化方向および電流の供給による反転層53A,63Aの磁化反転も、第2実施形態と同様であるため、説明を省略する。ただし、第2固定層61Aは、第1固定層51Aと同様に、その厚さを数〜10数nmとして、光を透過するようにする。そして、空間光変調器1Fにおいては、光変調素子50Aの各層の磁化方向に平行に光が入射するように、図12に示すように画素4Aへの入射角を90°として、画素4Aからの出射光の旋光角θLt3,θDt3を最大とすることができる。したがって、第2実施形態と同様に、光源93、入射偏光フィルタ91は、空間光変調器1Fの画素アレイ40の直上に配置されることが好ましい。また、このとき出射角は画素アレイ40の下面側で90°となるので、出射偏光フィルタ92および検出器94は画素アレイ40の直下に配置される。
以上のように、第4実施形態によれば、高精細かつ高速応答とすることが可能なスピン注入光変調素子を用いて、光変調度を向上させた透過型空間光変調器となる。さらに、スピン注入光変調素子に垂直磁気異方性材料を適用することで、磁化方向と平行に光を画素に入射することが容易にできるので、選択画素−非選択画素間で旋光角の差がいっそう大きくなって、画素の明/暗の切り分けおよび切り換えのための選択性に優れた透過型空間光変調器となる。また、光源や偏光フィルタ等が画素アレイに対して垂直に配置されるので、空間光変調器を備えた装置を小型化できる。
(第4実施形態の変形例)
さらに、図13を参照して、本発明の第4実施形態の変形例について説明する。図13は第4実施形態の変形例に係る空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。第4実施形態(図12参照)および第2実施形態の変形例(図9参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。第4実施形態の変形例に係る空間光変調器1Gは、画素4Aに光変調素子50Cを備えること以外は第4実施形態に係る空間光変調器1Fと同じ構成である。光変調素子50Cは、第2実施形態の変形例に適用されたものであり、固定層51A,61Aの磁化方向および電流の供給による反転層53A,63Aの磁化反転も、第2実施形態の変形例および第4実施形態におけるものと同様である。したがって、選択、非選択画素それぞれの光変調素子50Cによる出射偏光の旋光は第4実施形態と同様であるので説明は省略する。
以上のように、第4実施形態の変形例によれば、第4実施形態と同様に垂直磁気異方性材料で構成されたスピン注入光変調素子を用いることで、光変調度をさらに向上させた透過型空間光変調器となる。また、第4実施形態と比べて、光変調素子に非磁性金属からなる接続層がないため、その分、光の減衰を抑えることができる。
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態に係る空間光変調器の画素の構成およびこの画素における光変調素子の動作を、図14および図15を参照して説明する。図14は第5実施形態に係る画素の拡大断面図で、図1のB−B部分断面図である。図15は第5実施形態に係る光変調素子の磁化反転と透過光の旋光を説明するための断面模式図である。第1,3実施形態(図5、図10参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。第5実施形態の画素は、透過型空間光変調器におけるものとして示す。図14に示すように、第5実施形態の画素における光変調素子50Dは、下部電極3Aの上に、第2固定層(第2の磁化固定層)61、第2中間層(第2の中間層)62、反転層(磁化反転層)56、第1中間層(第1の中間層)52、第1固定層(第1の磁化固定層)51、保護層54の順に積層されてなる。なお、図15では保護層54は省略する。
第1実施形態の変形例の光変調素子50Bは、第1、第2スピン注入光変調素子5,6を積層した構造であるが、第5実施形態の光変調素子50Dは、連続した第1、第2スピン注入光変調素子5,6の各反転層53,63を1層の反転層56としたものである。したがって、第1固定層51、第1中間層52、および反転層56で第1スピン注入光変調素子5Dを構成し、第2固定層61、第2中間層62、および反転層56で第2スピン注入光変調素子6Dを構成すると見なすことができる。
光変調素子50Dの各層の材料、膜厚等は第1実施形態の光変調素子50と同様であるので説明は省略する。また、第5実施形態に係る空間光変調器の画素(画素アレイ)の製造方法についても、層の数が2層少ないこと以外は第1実施形態と同様であるので説明は省略する。なお、反転層56は、第1反転層53、第2反転層63と同じ材料を適用できるが、層の厚さは各層の1層分より厚くしても同等の電流値で磁化反転させることができる。そして、第1実施形態およびその変形例と同様に、第1、第2固定層51,61および反転層56は、これら3層のすべてが面内磁気異方性材料で構成される。そして、第1固定層51と第2固定層61は、すべての画素4において磁化方向がそれぞれ同一に固定され、第1固定層51の磁化と第2固定層61の磁化とは互いに逆方向(反平行)である。第5実施形態においては、図5に示す第1実施形態と同様に、図15に、第1固定層51の磁化を右方向、第2固定層61の磁化を左方向の矢印で示す。
第5実施形態に係る空間光変調器の画素(光変調素子)における磁化方向と透過光の旋光について、図15を参照して説明する。第5実施形態の光変調素子50Dは、前記したように、2つのスピン注入光変調素子5D,6Dを備えると見なすことができる。そして、これらのスピン注入光変調素子5D,6Dは、第1実施形態の光変調素子50の第1、第2スピン注入光変調素子5,6にそれぞれ相当する。したがって、光変調素子50Dについても、図15(a)に示すように電流を下向きに供給すると、第1スピン注入光変調素子5Dにおいては、第1固定層51側から電流が流れるので磁化配置が反平行(AP)となり、第2スピン注入光変調素子6Dにおいては、反転層56側から電流が流れるので磁化配置が平行(P)となる。すなわち、反転層56の磁化は、第1固定層51の磁化に反平行であり、かつ第2固定層61の磁化に平行である左方向になる。反対に、図15(b)に示すように電流を上向きに供給すると、反転層56の磁化は、第1固定層51の磁化に平行であり、かつ第2固定層61の磁化に反平行である右方向になる。この反転層56の磁化の反転動作は、第1、第3実施形態の第1反転層53および第2反転層63の磁化と同じである(図5(a)、(b)参照)。
光変調素子50Dの第1固定層51、第2固定層61、反転層56の各層のファラデー旋光角をそれぞれ、θFpin1,θFpin2,θFfree3とし、第1実施形態(図5参照)と同様に、図10において右方向の磁化を有する層を透過した光が正方向に回転すると定義する。電流を下向きに供給された光変調素子50D(図15(a))を透過した光の旋光角θLt5は、(θFpin1−θFfree3−θFpin2)となる。反対に、電流を上向きに供給された光変調素子50D(図15(b))を透過した光の旋光角θDt5は、(θFpin1+θFfree3−θFpin2)となる。さらに、第1固定層51と第2固定層61の旋光角が同じとなる(θFpin1=θFpin2=θFpin)ように光変調素子50Dを構成した場合、光変調素子50Dの旋光角は、θLt5≒−θFfree3、θDt5≒θFfree3と近似できる。前記したように、反転層56を、磁化固定層を1層のみ備える従来のスピン注入光変調素子の磁化反転層より厚くしても、同等の大きさの電流で磁化反転させることができるので、反転層56内の光路長が長くなって旋光角θFfree3を大きくすることができる。すなわち、光変調素子50Dの旋光角(θLt5,θDt5)自体が大きく、さらに、磁化反転による旋光角の差|θDt5−θLt5|=2θFfree3が、従来のスピン注入光変調素子で構成された画素における差より大きい。
また、第5実施形態において、光変調素子50Dは、透過型の空間光変調器におけるものとして示したが、第1実施形態およびその変形例の光変調素子50,50Bと同様に、反射型の空間光変調器(図4、図7参照)にも適用することができる。この場合、第2固定層61、さらに反転層56を、反射率の高くなるような材料および膜厚で構成してもよい。また、光変調素子50Dは、第1、第2固定層51,61および反転層56の3層のすべてが、第2実施形態の第1、第2固定層51A,61Aおよび第1、第2反転層53A,63Aと同様に垂直磁気異方性材料で構成されてもよい。この場合は、第2、第4実施形態およびその変形例の光変調素子50A,50Cと同様に、入射角90°で光を入射される反射型、透過型の空間光変調器(図8、図9、図12、図13参照)となる。
以上のように、第5実施形態によれば、高精細かつ高速応答とすることが可能なスピン注入光変調素子を用いて、光変調度を向上させた空間光変調器となる。そして、第1実施形態と同様、画素の明/暗の切り分けおよび切り換えのための選択性に優れた空間光変調器となる。また、第1、第3実施形態と比べて、光変調素子に非磁性金属からなる接続層がないため、その分、光の減衰を抑えることができる。
[第6実施形態]
図16、図17、および図18を参照して、本発明の第6実施形態について説明する。図16は第6実施形態に係る空間光変調器の画素アレイの平面模式図で、第1実施形態と同様に5行×5列のアレイ状に25個の画素を配列したものである。図17は第6実施形態に係る空間光変調器の画素の、一部を切り欠いた拡大斜視図である。また、図18は第6実施形態に係る画素の拡大断面図で、図16のC−C部分断面図である。また、光路も合わせて示す。第1実施形態(図1〜3参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。図16および図17に示すように、第6実施形態の画素4Bは、上部電極2Bおよび下部電極3Bを備えること以外は第3実施形態の画素4Aと同様の構成で、透過型の空間光変調器に備えるものである。なお、第6実施形態の画素4Bにおける光変調素子50は、第1〜5実施形態およびその変形例の光変調素子50,50A,50B,50C,50Dのいずれも適用できる。
第6実施形態の上部電極2Bは、その形状が第1実施形態の上部電極2と同様に帯状であり、画素アレイ40Bにおいて横方向に延設される。上部電極2Bは、前記帯状の形状に複数の孔(貫通孔)を形成された金属電極2cと、この孔に充填された形状の透明電極2aとからなる。金属電極2cの孔および透明電極2aは、平面視で光変調素子50に重なる領域、すなわち光変調素子50の直上に備えられる。したがって、1つの金属電極2cは、画素4Bの横方向(列)の数である5個の孔を有する。そして、この金属電極2cの孔に、透明電極2aが光変調素子50の上面に電気的に接続されて設けられている。
第6実施形態の下部電極3Bは、その形状が第1、第3実施形態の下部電極3,3Aと同様に帯状であり、画素アレイ40Bにおいて縦方向に延設される。下部電極3Bは、前記帯状の形状に複数の孔(貫通孔)を形成された金属電極3cと、この孔に充填された形状の透明電極3aとからなる。金属電極3cの孔および透明電極3aは、平面視で光変調素子50に重なる領域、すなわち光変調素子50の直下に備えられる。したがって、1つの金属電極3cは、画素4Bの縦方向(行)の数である5個の孔を有する。そして、この金属電極3cの孔に、透明電極3aが光変調素子50の下面に電気的に接続されて設けられている。
金属電極2c,3cは、第1実施形態の下部電極3と同様の一般的な電極用金属材料で構成され、透明電極2a,3aは、第1実施形態の上部電極2におけるものと同様の公知の透明電極材料で構成されるので、それぞれ説明は省略する。透明電極2a,3aは、光が光変調素子50に入射、出射するための窓であり、その形状(金属電極2c,3cの孔の形状)および大きさは特に限定されないが、平面視形状が光変調素子50の平面視形状に対して小さいと金属電極2c,3cが光を遮って集光率が低下し、大きすぎると孔の周縁部で金属電極2c,3cが幅狭となって金属電極2c,3cの抵抗が大きくなり、電極2B,3Bの抵抗が大きくなる。したがって、透明電極2a,3aの平面視形状は、光変調素子50の平面視形状の相似形とし、孔の周縁で金属電極2c,3cが幅狭にならない範囲で大きくすることが好ましい。このように、電極2B,3Bにおいて、抵抗の小さい金属電極を主要材料とし、光変調素子50の上下すなわち光路部分のみを透明電極とすることで、応答速度を上げることができる。
また、第1、第3実施形態と同様に、上部電極2Bおよび下部電極3Bは、透明電極2a,3aと光変調素子50との間にそれぞれ金属膜からなる下地層2b,3bを設けることが好ましい。このように、透明電極2a,3aと光変調素子50との間にそれぞれ金属膜である下地層2b,3bを介在させることで、上部電極2B−光変調素子50間および下部電極3B−光変調素子50間の接触抵抗を低減させて応答速度をさらに上げ、かつ画素4B間のばらつきを低減することができる。下地層2b,3bの平面視形状については、第6実施形態では、図17、図18に示すように、上部電極2Bの下地層2bは金属電極2cの孔に充填するように形成され、下部電極3Bの下地層3bは光変調素子50と同じ形状に形成されている。ただし、下地層2b,3bは、透明電極2a,3aと光変調素子50との間に設けられていればよく、透明電極2a,3aと同じ、すなわち金属電極2c,3cのそれぞれの孔に充填するように形成されてもよいし、電極2B,3B、または光変調素子50と同じ平面視形状でもよい。下地層2b,3bの材料および厚さは第1実施形態の上部電極2の下地層2bと同じであるので説明は省略する。
次に、本発明の第6実施形態に係る空間光変調器の画素(画素アレイ)の製造方法について、その一例を説明する。
まず、下部電極3Bを形成する。基板71Aの表面に、金属電極3cをスパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィ等により、前記5個の孔を有する帯状に形成する。そして、透明電極材料を金属電極3cと同じ厚さに成膜し、フォトリソグラフィ等により金属電極3cの孔に充填された部分以外の透明電極材料を除去して透明電極3aとする。そして、金属電極3c,3c間に絶縁部材72を堆積させる。
次に、下地層3bと光変調素子50を、第3実施形態と同様に連続して形成する。さらに第1、第3実施形態と同様に、光変調素子50,50間に絶縁部材72を形成する。
次に、上部電極2Bを形成する。光変調素子50および絶縁部材72の表面に、下部電極3Bの金属電極3cと同様に、金属電極2cを前記5個の孔を有する帯状に形成する。そして、金属電極2cの孔に、金属膜、透明電極材料を連続して成膜し、フォトリソグラフィ等により金属電極2cの孔に充填された部分以外の透明電極材料および金属膜を除去して下地層2bおよび透明電極2aとする。最後に、このようにして形成された上部電極2B,2B間および上部電極2B表面の金属電極2c部分に絶縁部材72を形成して、画素4B(画素アレイ40B)とする。
なお、透明電極2aは、金属電極2cと上面が図18に示すような面一である必要はなく、例えば、透明電極2aが金属電極2cの厚さより厚く、さらに孔の周縁で金属電極2cの表面に積層されていてもよい。このような形状にすると、透明電極2aと金属電極2cとの接触面積が大きくなって、上部電極2Bにおける接触抵抗を低減させることができる。また、図17および図18では、透明電極2a,3aの形状は側面が垂直な四角柱だがこれに限らず、例えば、上部電極2Bにおいては、金属電極2cの孔を、その側壁を傾斜させて、光変調素子50の側が狭くすなわち入射面へ広がるように形成し、透明電極2aが逆メサ形状(逆四角錐台)となってもよい。このような形状にすると、透明電極2aと金属電極2cとの接触面積が大きくなって、上部電極2Bにおける接触抵抗を低減させることができる。さらに、第1実施形態に係る空間光変調器1(図4参照)のように、面内磁気異方性材料で構成された光変調素子50を備え、光の入射角が斜め(画素アレイ40Bに非垂直)である場合、入射光の金属電極2cに遮られる部分が少なくなるので、集光率が向上する。
また、図示しないが、第6実施形態の上部電極2Bと、第1実施形態の金属電極からなる下部電極3(図3参照)とを備えて、反射型の空間光変調器の画素を構成することもできる。
以上のように、第6実施形態によれば、光を遮らない透明電極材料と低抵抗の金属材料の双方の利点を兼ね備えた電極により、応答速度が向上し、画素間の動作のばらつきが低減された空間光変調器となる。
[撮像装置]
次に、図19を参照して、本発明の実施形態に係る撮像装置について説明する。本発明の実施形態に係る撮像装置は、本発明の実施形態に係る空間光変調器を撮像装置に適用したものである。図19は、本発明の一実施形態に係る撮像装置の構成を示すブロック図である。本発明の第1実施形態に係る空間光変調器(図1、図4参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。
本発明の一実施形態に係る撮像装置10は、図19に示すように、複数の画素4からなる画素アレイ40と、画素アレイ40から1つ以上の画素4を選択して駆動する駆動制御部80と、特定の方向の偏光を透過する出射偏光フィルタ(偏光子)92と、光を電荷に変換する光電変換部(光電変換手段)96と、電荷を蓄積する電荷蓄積部(電荷蓄積手段)97と、電荷を信号に変換する電荷/映像信号変換部98と、を備える。すなわち、撮像装置10は、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器1を構成する画素アレイ40と駆動制御部80を備え、これらの構成は、図1に示す空間光変調器1の平面模式図を参照できる。
画素アレイ40(画素4)および駆動制御部80は、それぞれ図1に示す第1実施形態に係る空間光変調器1におけるものと同じ構成であるので説明は省略する。出射偏光フィルタ92は、画素アレイ40から出射した光を受けて、選択された画素4から出射した光のみを透過させる濾光手段であり、空間光変調器1で使用されるものと同様に、偏光板等からなる。光電変換部96は、出射偏光フィルタ92を透過した光を電荷に変換するもので、フォトダイオード等からなる。電荷蓄積部97は、光電変換部96で変換された電荷を蓄積するもので、コンデンサ等を備える。また、電荷蓄積部97は、駆動制御部80の画素選択部84と接続し、蓄積した電荷に対応する画素4を特定する情報を記憶する。電荷/映像信号変換部98は、電荷蓄積部97が放出した電荷を前記の画素4を特定する情報と対応付けて電気信号(映像信号)に変換する。出射偏光フィルタ92、光電変換部96、電荷蓄積部97、電荷/映像信号変換部98は、それぞれ公知の手段によるものでよい。このように、本発明の一実施形態に係る磁気光学式撮像装置10における画素4は、受光手段のみを備え、CMOS等からなる従来の画素(撮像素子)のように、それぞれに光電変換手段および電荷蓄積手段をさらに備える必要がない。また、撮像装置10における画素選択は、撮像すなわち出射光の光電変換を行う画素4を走査するもので、例えば、画素アレイ40において画素4をシフトさせて選択、選択解除を繰り返す。駆動制御部80による画素選択の方法については、第1実施形態に係る空間光変調器1におけるものと同様であるので説明は省略する。
次に、本発明の一実施形態に係る撮像装置の画素選択の動作を、図20を参照して説明する。図20は、本発明の一実施形態に係る撮像装置の画素選択の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図に対応する図である。図20に示す撮像装置10は、反射型の撮像装置であり、本発明の第1実施形態に係る反射型空間光変調器1(図4参照)と同一の要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。図20に示すように、撮像装置10は、光(自然光)を画素4に入射する前に偏光する入射偏光フィルタ91と、出射偏光フィルタ92を透過した光が光電変換部96に入射するように集光する集光レンズ99と、をさらに備える。また、撮像装置10においては、光の入射面に、空間光変調器1の光源93に代えて被写体(撮像対象)が配される。また、図20において、光変調素子50の保護層54(図3参照)は図示を省略する。
撮像装置10の動作を、図20を参照して説明する。被写体からの反射光、すなわち被写体光は自然光であり、様々な偏光成分を含んでいるので、これを入射偏光フィルタ91に透過させて、1つの偏光成分の入射偏光とする。入射偏光は所定の入射角で画素4に入射する。画素4に入射した偏光は、上部電極2を透過して、光変調素子50内または下部電極3表面で反射して、再び上部電極2を透過して、出射偏光フィルタ92に到達する。出射偏光フィルタ92は、図20において左側に示す選択された画素4からの出射偏光、すなわち入射偏光に対して角度θLr1旋光した偏光のみを透過させ、透過した出射偏光は集光レンズ99で集光されて光電変換部96に入射し、電荷に変換される。画素4(光変調素子50)から出射した偏光の旋光については、第1実施形態において説明した通りである。このように、光電変換部96に入射する光はその時点で選択されている画素4のみから出射した光であるので、光電変換部96は撮像装置10に1つ備えればよく、画素4毎に備える必要はない。なお、入射偏光フィルタ91は、出射偏光フィルタ92と同様に偏光板等からなる。また、集光レンズ99は、画素アレイ40のいずれの画素4から出射した光でも光電変換部96に入射するように集光できるものであればよく、複数枚のレンズで構成されてもよい。
本実施形態に係る撮像装置10は反射型撮像装置として示したが、第3実施形態に係る空間光変調器1D(図10参照)を備えた、透過型撮像装置とすることもできる。透過型撮像装置とする場合は、透過型空間光変調器と同様に、画素アレイ40の下方に出射偏光フィルタ92を配置し、さらに下方にその集光レンズ99、光電変換部96を配置する(図示せず)。また、撮像装置10は、撮像素子として第1実施形態に係る光変調素子50を備えるが、第1〜5実施形態およびその変形例の光変調素子50,50A,50B,50C,50Dのいずれも適用できる。さらに、第6実施形態に係る空間光変調器の画素4Bのように、金属電極と透明電極とを組み合わせた電極2B,3Bを適用してもよい。
以上のように、本発明の実施形態に係る撮像装置によれば、画素の選択−非選択で旋光角の差が大きいため、画素の走査性に優れた撮像装置となる。
以上、本発明を実施するための最良の形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。