JP2010145462A - 多素子空間光変調器 - Google Patents

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泰敬 宮本
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紀一 河村
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信彦 船橋
Kenichi Aoshima
賢一 青島
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淳 久我
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Abstract

【課題】画素の階調表示の可能な、磁気光学式の空間光変調器を提供する。
【解決手段】2次元配列された画素4に、平面視における面積が異なる複数の光変調素子5a,5b,5c,5dと、一対の電極2,3とを備える多素子空間光変調器であって、画素4に供給された電流が増大するにしたがい、面積の小さい光変調素子5aから面積の大きい光変調素子5dへと磁化反転する光変調素子が増えることにより、明暗の表示を切り換えたり明暗の中間表示を行う。
【選択図】図6

Description

本発明は、入射した光を透過あるいは反射させた際に、磁気光学効果により光の位相や振幅、偏光等を空間的に変調する多素子空間光変調器に関する。
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これを2次元アレイ状に配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ディスプレイ技術や記録技術等の分野で広く利用されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられているが、近年では、高速処理および画素の微細化の可能な磁気光学材料が用いられ、その磁気光学効果により光の偏光が変調する磁気光学式の空間光変調器が開発されている。特にスピン注入磁化反転素子を適用された画素によれば、数μm以下からさらに可視光波長サイズ(青色:400nm)の高精細と、論理的に数ps程度となる高速応答とを同時に可能とする空間光変調器となる。
磁気光学式の空間光変調器においては、選択された画素における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素の磁化方向の違いにより、選択された画素を透過(または反射)した光とそれ以外の画素を透過(または反射)した光で、その光の偏光の回転角(旋光角)に差が生じるファラデー効果(反射の場合はカー効果)を利用している。このような旋光角の差をディスプレイ技術等に利用するためには、例えば、入射された偏光に対して選択されていない画素における旋光角だけ旋光した偏光のみ透過する偏光フィルタを、2次元アレイ状に配列された画素の出射側に配する。偏光フィルタにより、選択された画素からの出射偏光は遮られて黒く、それ以外の画素からの出射偏光は透過して白く表示されて、白/黒(明/暗)を画素毎に切り分けることができる(後記図5参照)。
空間光変調器には、このような白/黒の2階調に限られず両者の間も表示する多階調表示の機能も求められている。しかしながら、前記の磁気光学式の空間光変調器における光変調素子は、明/暗の2パターンの切り換えのみを行うものである。したがって、このような光変調素子を用いる場合は、個々に電極が接続された複数の光変調素子を一画素として構成してそれぞれの光変調素子の明/暗を個別に切り換えることで、一画素における多階調表示が可能となる。しかし、このような構成においては、光変調素子毎に別々に電流を供給する電極(配線)が必要となるため、階調を増やすほど配線の数が多く必要となり微細化には適さない。
そこで、本発明者らによって、一対の電極を接続した画素に、平面視形状の面積が等しく縦横比が異なるスピン注入磁化反転素子を複数備える空間光変調器が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この空間光変調器は、スピン注入磁化反転素子の平面視形状のアスペクト比によって磁化反転に要する電流密度の大きさが異なることを利用したもので、画素に供給する電流の大きさを調節することで、画素内で磁化反転するスピン注入磁化反転素子の個数を変化させることができるため、多階調表示が可能となる。
特開2008−64825号公報(段落0047〜0049、図7)
しかしながら、特許文献1に開示された空間光変調器の画素の構成では、一画素におけるスピン注入磁化反転素子の個数+1の階調が表示可能であるが、より多階調の表示ができることが望ましく、さらに改良する余地がある。
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、高精細および高速応答の可能なスピン注入磁化反転素子を画素に適用すると共に、表示階調数をいっそう増やすことの可能な磁気光学式の空間光変調器を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、サイズの小さいスピン注入磁化反転素子ほど小さい電流で磁化反転する現象を利用することで、さらなる改良を行うことを見出した。すなわち、請求項1に係る多素子空間光変調器は、2次元配列された複数の画素を有する画素アレイと、この画素アレイから1つ以上の画素を選択して当該画素の階調を指定する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に当該画素選択手段が指定した階調に応じた大きさの電流を供給する電流供給手段とを備える多素子空間光変調器であって、前記画素は、平面視形状が相似かつ面積が異なる複数のスピン注入磁化反転素子と、これらのスピン注入磁化反転素子を電気的に並列に接続して前記電流供給手段からの電流を供給する一対の電極とを備え、前記スピン注入磁化反転素子は、所定の電流が供給されると当該スピン注入磁化反転素子における磁化可変層の磁化が一方向またはその逆方向を示すものであると共に、入射した光の偏光方向を前記磁化の方向に応じて変化させて出射するものであり、前記画素内における前記複数のスピン注入磁化反転素子は、前記電流供給手段から供給された電流の大きさに応じて、それぞれの磁化可変層の磁化が、そのすべてが前記一方向となる状態と、そのすべてが前記逆方向となる状態と、そのすべての一部が前記一方向となりそれ以外が前記逆方向となる状態とを示し、前記画素は、当該画素内において磁化可変層の磁化が前記一方向を示すスピン注入磁化反転素子の平面視形状の面積の和に応じて階調を変化させることを特徴とする。
かかる構成により、多素子空間光変調器は、画素が面積の異なる複数の光変調素子(スピン注入磁化反転素子)を備えることで、画素に供給される電流の大きさにより、磁化反転する光変調素子が異なる。したがって、電流の大きさを変化させて供給することで、画素内のすべての光変調素子を磁化反転させたり、一部の光変調素子のみ磁化反転させることができる。画素に入射した偏光は、このような複数の光変調素子でその偏光の向きを変化させて出射するので、磁化可変層の磁化が同じ方向である光変調素子の面積の和により特定の偏光方向の出射偏光の光量が変化し、一画素での出射偏光に明/暗とその間にある1つ以上の段階を表示させることができる。
さらに、請求項2に係る多素子空間光変調器は、請求項1に記載の多素子空間光変調器において、前記画素における前記複数のスピン注入磁化反転素子は、互いに隣り合う間隔が60nm以上となるように配置されていることを特徴とする。
かかる構成により、多素子空間光変調器は、画素内で複数の光変調素子を60nm以上の間隔で配置されて備えることで、隣り合う光変調素子同士で生じる磁気的な影響を抑制し、光変調素子の磁化反転動作をより正確に制御することができる。
さらに、請求項3に係る多素子空間光変調器は、請求項1または請求項2に記載の多素子空間光変調器において、前記一対の電極は、前記複数のスピン注入磁化反転素子の上部に接続される上部電極と、当該複数のスピン注入磁化反転素子の下部に接続される下部電極とからなり、前記上部電極はその上方から照射された光が前記複数のスピン注入磁化反転素子に入射するように前記光を透過する材料で形成され、前記下部電極はその下方へ前記複数のスピン注入磁化反転素子から出射された光が照射されるように前記光を透過する材料で形成されることを特徴とする。
このような一対の電極で複数のスピン注入磁化反転素子を上下から挟む構成により、画素のピッチを狭くでき、さらに上下の電極が光を透過することにより、入射光および出射光の光量の減衰が抑制された透過型の空間光変調器となる。
また、請求項4に係る多素子空間光変調器は、請求項1または請求項2に記載の多素子空間光変調器において、前記一対の電極は、前記複数のスピン注入磁化反転素子の上部に接続される上部電極と、当該複数のスピン注入磁化反転素子の下部に接続される下部電極とからなり、前記上部電極は、その上方から照射された光が前記複数のスピン注入磁化反転素子に入射するように前記光を透過し、かつ、その上方へ前記複数のスピン注入磁化反転素子から出射された光が照射されるように前記光を透過する材料で形成され、前記下部電極は光を反射する材料で形成され、前記上方から照射された光を前記下部電極または前記スピン注入磁化反転素子で反射させて前記上方へ出射することを特徴とする。
このような一対の電極で複数のスピン注入磁化反転素子を上下から挟む構成により、画素のピッチを狭くでき、さらに上の電極が光を透過して下の電極が光を反射することにより、入射光および出射光の光量の減衰が抑制された反射型の空間光変調器となる。
本発明に係る多素子空間光変調器によれば、スピン注入磁化反転素子を適用することで、画素の高精細化かつ高速応答が可能となり、一画素に複数の面積の異なるスピン注入磁化反転素子を備えることで、明/暗とその間にある1つ以上の段階の階調を一画素当たり一対の配線で制御して表示でき、さらに個々のスピン注入磁化反転素子によって表示される階調が異なるので、一画素におけるスピン注入磁化反転素子の個数に対して表示可能な階調数が多くなる。
以下、本発明に係る多素子空間光変調器(以下、適宜、空間光変調器)の最良の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る空間光変調器の構成を示す平面模式図である。なお、本明細書では、平面(上面)とは、空間光変調器の光の入射面を指すものとする。また、平面視での縦横とは、図1における縦横の方向を示す。図2は、図1に示す画素の拡大平面図であり、図3は、図1に示す画素の拡大断面図で、図2のB−B部分断面図である。以下に、本発明に係る空間光変調器を構成する各要素について説明する。
空間光変調器1は、図1に示すように、基板7(図3参照)上に2次元アレイ状に配列された複数の画素4からなる画素アレイ40と、画素アレイ40から1つ以上の画素4を選択して駆動する電流制御部10と、を備える。また、空間光変調器1は、反射型の空間光変調器である。なお、本明細書における画素とは、空間光変調器において、情報(明/暗およびその間)を表示する最小単位の手段を指す。
図1に示すように、画素アレイ40は、平面視で横(行)方向に延設された複数のストライプ状の上部電極2と、同じくストライプ状で、平面視で上部電極2と直交するように縦(列)方向に延設された複数の下部電極3と、を備え、上部電極2と下部電極3との交点毎に1つの画素4が構成される。したがって、画素アレイ40において、横方向に配列された画素4,4,…が1つの上部電極2を共有し、縦方向に配列された画素4,4,…が1つの下部電極3を共有する構造となっている。空間光変調器1では、画素アレイ40として、4行×4列の16個の画素4からなる構成で例示している。なお、上部電極2と下部電極3は、以下、適宜、両者をまとめて電極2,3と称する。
図2および図3に示すように、画素4は、一対の電極としての上部電極2と下部電極3と、これらの電極2,3に上下から挟まれた4個の光変調素子(スピン注入磁化反転素子)5a,5b,5c,5dを備えている。ここでは、画素4として4個の光変調素子5a,5b,5c,5dを備えた構成を例示しているが、本発明に係る空間光変調器における画素が備える光変調素子の個数は、2個以上であれば特に限定されない。一画素に備える光変調素子の個数が多くなるほど、後記するように表示できる階調数(明/暗の2階調とその間にある1つ以上の段階との合計)も多くなる。ただし、光変調素子の個数が多いと階調表示の制御が複雑化するため、一画素における光変調素子の個数は10個以下が好ましい。なお、本明細書では、光変調素子5とは、すべての光変調素子5a,5b,5c,5dのそれぞれを指す。画素アレイ40における隙間、すなわち隣り合う上部電極2,2間、光変調素子5,5間、および下部電極3,3間は絶縁部材6で埋められている。本発明においては、画素4のサイズ(ピッチ)は一画素における光変調素子5の個数および平面視形状等によって異なり、200nm〜2μm程度の範囲である。
図1に示すように、電流制御部10は、上部電極2を選択する上部電極選択部12と、下部電極3を選択する下部電極選択部13と、これらの電極選択部12,13を制御する画素選択部(画素選択手段)14と、電極2,3に電流を供給する電源(電流供給手段)11と、を備える。これらはそれぞれ公知のものでよく、光変調素子5a,5b,5c,5dを動作させる適正な電流を供給するためのものである。
上部電極選択部12は、特定の1つ以上の上部電極2を選択し、選択した上部電極2に対して電源11から所定の電流を供給させる。下部電極選択部13は、特定の1つ以上の下部電極3を選択し、選択した下部電極3に対して電源11から所定の電流を供給させる。画素選択部14は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて、画素アレイ40の特定の1つ以上の画素4を選択し、かつその階調を指定し、選択に基づいて上部電極選択部12および下部電極選択部13を制御し、さらに指定した階調に応じた所定の電流を供給するように電源11を制御する。電源11は、画素選択部14が選択した画素4に備えられる光変調素子5a,5b,5c,5dの特定の1個以上を動作させるために、画素選択部14が指定した階調に基づいた適正な電流を供給する。このような構成により、特定の画素4が選択され、この画素4の光変調素子5に所定の電流が供給されて後記の動作を行う。
次に、本発明の一実施形態に係る空間光変調器の画素の構成を、図1、図2、および図3を参照して、詳細に説明する。
図2および図3に示すように、上部電極2は、光変調素子5a,5b,5c,5dの上方に配され、横方向に帯状に延設される。図1に示すように、1つの上部電極2は、横一行に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの光変調素子5(5a,5b,5c,5d)に電流を供給する。一方、下部電極3は、光変調素子5a,5b,5c,5dの下方に配され、縦方向に帯状に延設される。1つの下部電極3は、縦一列に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの光変調素子5(5a,5b,5c,5d)に電流を供給する。上部電極2は、光変調素子5への入射光および出射光を遮らないように透明電極材料で構成される。一方、下部電極3は、上方(上部電極2側)から光変調素子5を透過して到達した光を再び上方へ出射させるため、反射率の高い金属電極材料で構成される。
上部電極2のように、電極(配線)を透明電極材料で構成する場合、電極とこの電極に接続する光変調素子との間に金属膜を設けることが好ましい。したがって、本実施形態に係る画素4の上部電極2は、図3に示すように、透明電極材料からなる透明電極2aと、この透明電極2aと光変調素子5(5a,5b,5c,5d)との間に積層された金属膜である下地層2bと、からなる。透明電極材料は一般的に金属電極材料より抵抗が大きいため、透明電極2aと光変調素子5との間に金属膜である下地層2bを介在させることで、上部電極2−光変調素子5間の接触抵抗を低減させて応答速度を上げることができる。
透明電極2aは、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン−酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In23)等の公知の透明電極材料からなる。特に、比抵抗と成膜の容易さとの点からIZOが最も好ましい。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の公知の方法により成膜される。
下地層2bを構成する金属としては、例えば、Au,Ru,Ta,Ag,Cu、またはそれらの金属の2種以上からなる合金等を用いることができ、これらの金属または合金からなる膜は、スパッタリング法等公知の方法により成膜される。そして、下地層2bとその上の透明電極2aとの密着性をよくして接触抵抗をさらに低減するため、下地層2bとなる金属膜は、透明電極2aとなる透明電極材料と連続的に真空処理室にて成膜されることが好ましい。連続して成膜された膜は一緒に加工されることが多いため、図3に示すように、下地層2bは透明電極2aと同じ平面視形状となるが、例えば4つに分割されてそれぞれが光変調素子5a,5b,5c,5dと同じ平面視形状であってもよい。詳細は、画素4の製造方法において説明する。下地層2bの厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると光の透過量を低下させる。したがって、下地層2bの好ましい厚さは1〜10nmである。
下部電極3は、例えば、Cu,Al,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなり、スパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィ等により前記したように帯状に形成される。
基板7には、例えば表面を熱酸化したSi基板等の公知の基板を適用できる。絶縁部材6は、隣り合う上部電極2,2間、光変調素子5,5間(隣り合う画素4,4間におけるものを含む)、および下部電極3,3間(図3不図示)に配され、例えば、SiO2やAl23等からなる。
光変調素子5(5a,5b,5c,5d)は、図1および図2に示すように、平面視で上部電極2と下部電極3の直交する各部分すなわち画素4毎に、所定の個数(本実施形態では4個)ずつが前記電極2,3に上下から挟まれて配置される。したがって、1つの画素4に備えられた4個の光変調素子5a,5b,5c,5dは、その上下の電極2,3を共通する一対の電極として電気的に並列に接続されている。光変調素子5a,5b,5c,5dのそれぞれの平面視形状は、本実施形態においては横方向に長い長方形であるが、これに限定されるものではなく、例えば正方形でもよく、アスペクト比が1:1〜1:10程度であることが好ましい。また、光変調素子5a,5b,5c,5dは、同じ積層構造(図3参照、詳細は後記する)からなるが、図2に示すように、それぞれの平面視形状は互いに面積が異なる相似形とし、さらに互いの面積の差が20%以上であることが好ましい。本実施形態においては、平面視形状の面積が小さい方から順に、光変調素子5a,5b,5c,5dとし、それぞれの面積は、1:2:3:4の比とする。
画素4において、4個の光変調素子5a,5b,5c,5dは(2×2)個のマトリクス状に配置されているが、これに限定されるものではなく、光変調素子5の個数および平面視形状に応じて、画素面積を有効に利用できるように配置することが好ましい。例えば、1列に並べたり、1個と3個の2列に並べてもよい。ただし、光変調素子5a,5b,5c,5dは、平面視における向きを揃えて配置する。これは、後記するように、光変調素子5a,5b,5c,5dのそれぞれの磁化固定層51(図3参照)の磁化が同一方向に固定され易いようにするためである。また、隣り合う光変調素子5,5同士の間隔d(図2参照)を60nm以上とすることが好ましい。これは、1つの画素4内に限られず、隣り合う画素4,4のそれぞれの光変調素子5,5同士についても同様である。間隔が60nm未満で近接して配置されると、隣り合う光変調素子の磁化が互いに作用し合い、磁化反転に要する電流が増大する等、磁化反転動作に影響する虞があるからである。
光変調素子5(5a,5b,5c,5d)は、スピン注入磁化反転素子であり、CPP−GMR素子、TMR素子等の公知の素子からなる。光変調素子5の構成は、図3に示すように、下部電極3の上に、磁化固定層51、中間層52、磁化可変層53、保護層54の順に積層されてなり、すべて同じ構成である。これらの各層は、例えばスパッタリング法や分子線エピタキシー(MBE)法等の公知の方法によりそれぞれ成膜されて、積層され、電子線リソグラフィ等により前記形状に加工される。
磁化固定層51および磁化可変層53は磁性体であり、共に面内磁気異方性を有するか、または共に垂直磁気異方性を有する。そして、磁化固定層51の磁化方向は固定されているのに対し、磁化可変層53の磁化方向は固定されておらず、スピン注入によって容易に回転(反転)させることができる。これら2層の間に設けられる中間層52は、光変調素子5がTMR素子であれば絶縁体、CPP−GMR素子であれば非磁性の導体で形成される。これら3層でスピン注入磁化反転素子として動作するが、製造工程におけるダメージからこれらの層(特に磁化可変層53)を保護するために、最上層に保護層54が設けられる。
磁化固定層51は、その厚さは数〜数十nmであり、面内磁気異方性を有する磁化固定層51とする場合は、強磁性金属(FM)や磁性半導体からなる。強磁性金属としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、FM/PtMn、FM/Ru/FM/PtMn(シンセティックピン層、積層フェリ構造)のような多層膜、さらにIrMn等の磁化固着層を下層に設けたFM/IrMn、FM/Ru/FM/IrMnが挙げられる。また、磁性半導体としては、ZnO:Mn、ZnO:Mn1-XFeX、ZnO:Cr1-XMnX等のZnOを母体とするもの、III-V族化合物半導体を母体とするもの、TiOを母体とするもの、II−VI族化合物半導体を母体とするものが挙げられる。一方、垂直磁気異方性を有する磁化固定層51とする場合は、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜、Sm,Eu,Gd,Tb等の希土類を含む合金のような強磁性金属が挙げられる。
中間層52は、磁化固定層51と磁化可変層53との間に設けられる。光変調素子5がTMR素子であれば、中間層52は、MgO,Al23,HfO2のような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなり、その厚さは0.5〜3nmである。また、光変調素子5がCPP−GMR素子であれば、中間層52は、Cu,Au,Ptのような非磁性金属からなり、その厚さは6nm以下である。
磁化可変層53は、面内磁気異方性を有する場合は、強磁性金属や磁性半導体からなり、その厚さは10nm以下である。強磁性金属としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含むCoFe,CoFeB,NiFe等の合金、これらの材料の2種以上からなる積層膜、FM/Ru/FM(シンセティックフリー層、積層フェリ構造)が挙げられる。また、磁性半導体としては、ZnO:Mn、ZnO:Mn1-XFeX、ZnO:Cr1-XMnX等のZnOを母体とするもの、III-V族化合物半導体を母体とするもの、II−VI族化合物半導体を母体とするものが挙げられる。一方、垂直磁気異方性を有する磁化可変層53とする場合は、材料として、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜、Sm,Eu,Gd,Tb等の希土類を含む合金、MnBiのような強磁性金属が挙げられ、その厚さは50nm以下である。
保護層54は、Ta,Ru,Cuの単層、または、Cu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護層54の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると入射偏光の透過光量を減衰させる。したがって、保護層54の好ましい厚さは1〜10nmである。
次に、本発明の一実施形態に係る空間光変調器の画素(画素アレイ)の製造方法について、その一例を説明する。
まず、下部電極3を形成する。基板7の表面に、金属電極材料をスパッタリング法等により成膜し、フォトリソグラフィ等によりストライプ状に形成して下部電極3とする。そして、下部電極3,3間にSiO等の絶縁膜(絶縁部材6となる)を堆積させる。
次に、光変調素子5(5a,5b,5c,5d)を形成する。下部電極3(および絶縁部材6)の上面に、連続して、磁化固定層51、中間層52、磁化可変層53、保護層54を、それぞれ成膜、積層する。これらの層を電子線リソグラフィ等により前記平面視形状に成形加工して、光変調素子5a,5b,5c,5dとする。光変調素子5の成形にマスクとして使用したレジストを残した状態で、絶縁膜を成膜して、光変調素子5,5間(隣り合う画素4,4間におけるものを含む)に堆積させ、レジストをその上の絶縁膜ごと除去して(リフトオフ)絶縁部材6とする。
次に、上部電極2を形成する。光変調素子5および絶縁部材6の上面に、金属膜、透明電極材料を連続して成膜し、下部電極3と直交するストライプ状に形成して上部電極2とする。最後に、上部電極2,2間に絶縁部材6を堆積して、画素4(画素アレイ40)とする。
次に、本発明の一実施形態に係る空間光変調器の動作を、図4および図5を参照して説明する。図4は、空間光変調器の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。図5は、光変調素子における磁化方向と入射光の旋光を説明するための画素の断面模式図である。なお、図5は、わかり易くするため、一画素内の光変調素子を1個として示す。
まず、図4を参照して、磁気光学式の空間光変調器の動作を説明する。空間光変調器1の画素アレイ40の上方には、画素アレイ40に向けて光を照射する光源93と、光源93から照射された光を画素アレイ40に入射する前に偏光とする入射偏光フィルタ91と、画素アレイ40から出射した光から特定の向きの偏光のみを透過する出射偏光フィルタ92と、出射偏光フィルタ92を透過した光を検出する検出器94とが配置される。
光源93から照射された光(レーザー光等)は様々な偏光成分を含んでいるので、これを画素アレイ40の上方の入射偏光フィルタ91を透過させて、1つの偏光成分の光とする。以下、1つの偏光成分の光を偏光と称する。この偏光(入射偏光)は、画素アレイ40のすべての画素4に所定の入射角で入射する。それぞれの画素4において、入射偏光は、上部電極2を透過して光変調素子5(5a,5b,5c,5d)に入射し、当該光変調素子5またはその下の下部電極3で反射して光変調素子5から出射し、再び上部電極2を透過して画素4から出射偏光として出射する。そして、それぞれの画素4から出射したすべての出射偏光は、出射偏光フィルタ92に到達する。出射偏光フィルタ92は、特定の偏光、ここでは入射偏光に対して角度θP旋光した偏光のみを透過させ、この透過した出射偏光が検出器94に入射される。偏光フィルタ91,92はそれぞれ偏光板等であり、検出器94はスクリーン等の画像表示手段やカメラ等である。
ここで、光変調素子における磁化方向と入射光の旋光について、図5を参照して説明する。光変調素子5は、面内磁気異方性すなわち膜面方向の磁化を有するスピン注入磁化反転素子である。磁化固定層51は、画素4における光変調素子5a,5b,5c,5dのすべて、さらに画素アレイ40のすべての画素4において磁化方向が同一に固定され、図5では、磁化固定層51の磁化を右方向で示す。一方、磁化可変層53の磁化は膜面方向において回転可能である。なお、図5において、保護層54は図示を省略する。
光変調素子5は、逆方向のスピンを持つ電子を注入することにより、すなわち電流を反対向きに供給することにより、磁化可変層53の磁化方向を反転(スピン注入磁化反転)させて、磁化固定層51の磁化方向と同じ方向または180°異なる方向にする。図5(a)に示すように、上部電極2を「+」、下部電極3を「−」にして、磁化可変層53側から磁化固定層51へ電流を供給する(以下、負の電流を供給する、という)と、磁化可変層53の磁化は磁化固定層51の磁化方向と同じ方向になる。以下、この状態を光変調素子5の磁化が平行である(P:Parallel)という。この磁化が平行な光変調素子5に、図5(b)に示すように、上部電極2を「−」、下部電極3を「+」にして、磁化固定層51側から磁化可変層53へ電流を供給する(以下、正の電流を供給する、という)と、磁化可変層53の磁化が180°回転(反転)して磁化固定層51の磁化方向と逆方向になる。以下、この状態を光変調素子5の磁化が反平行である(AP:Anti-Parallel)という。さらに、この磁化が反平行な光変調素子5に、再び負の電流を供給すれば、図5(a)に示す磁化が平行な状態に戻る。このように、電流を供給する向きを切り換えることで、磁化可変層53の磁化方向を反転させることができる。
光変調素子5に供給される電流は、パルス幅1ps〜10msのパルス方式が好ましく、電源11から電極2,3を介して供給される。光変調素子5は、前記の平行、反平行いずれかの磁化を示していればその磁化を反転させる電流が供給されるまでは磁化方向が保持されるため、パルス電流として磁化を反転させる電流値(反転電流)に一時的に到達する電流で動作させることができる。また、連続電流を供給されると、光変調素子5がジュール熱で加熱されて磁化反転動作に影響する虞がある。
光変調素子5に入射した偏光が、磁化可変層53を透過し、中間層52との界面で反射して、再び磁化可変層53を透過して出射した場合、磁性体である磁化可変層53を透過することで、ファラデー効果により、偏光はその向きが所定の角度(旋光角)に回転(旋光)する。さらに、磁化が平行な光変調素子5(図5(a))、反平行な光変調素子5(図5(b))にそれぞれ入射した偏光は、磁化可変層53の磁化方向が180°異なるため、前記旋光角で互いに逆方向に回転して出射する。そこで、前記の、磁化が平行、反平行の光変調素子5における旋光角をそれぞれθP,θAPと異なる角度で表せる。
なお、光変調素子5に入射した偏光が、磁化可変層53、中間層52、磁化固定層51を透過し、下部電極3の上面で反射して、再び磁化固定層51、中間層52、磁化可変層53を透過して出射した場合、同じく磁性体である磁化固定層51によっても旋光するが、磁化固定層51の磁化は一定であるので、旋光角θP,θAPの差は磁化可変層53のみによって決定される。このように、光変調素子5が磁化反転すると、出射偏光は、同じ向きの入射偏光に対して旋光角θP,θAP回転した異なる向きの偏光となる。
この出射偏光の差を検出部94への表示に利用するためには、例えば入射偏光に対してθP旋光した偏光のみ透過する偏光フィルタを、出射偏光フィルタ92として画素アレイ40の出射側に配すればよい。磁化が平行な光変調素子5を備える画素4からの出射偏光は、出射偏光フィルタ92を透過するので、この画素4は検出部94に明るく表示される。反対に、磁化が反平行な光変調素子5を備える画素4からの出射偏光は、出射偏光フィルタ92で遮られるので、この画素4は検出部94に暗く表示される。なお、光変調素子5が垂直磁気異方性を有する磁化固定層51および磁化可変層53を備える場合、磁化は垂直方向であり、磁化可変層53の磁化は上向き/下向きで反転するが、この場合も同様にファラデー効果を生じる。
磁性体への光の入射角が、当該磁性体の磁化方向に平行または反平行に近いほど、磁気光学効果は大きく、磁性体からの出射光の旋光角を大きくすることができる。したがって、面内磁気異方性を有する光変調素子5においては、光(入射偏光)の入射角を、膜面すなわち画素アレイ40の平面に対して平行(入射角0°)に近くするほど、旋光角θP,θAPおよび両旋光角の差を大きくすることができる。しかし、画素アレイ40の構造上、光が光変調素子5に上面から入射するためには、入射角にある程度の傾斜が必要である。したがって、空間光変調器1における画素4への光の入射角は、動作時における光変調素子5の磁化可変層53の磁化方向すなわち磁化固定層51の磁化方向に対して10°〜60°の範囲が好ましく、図4に示すように、本実施形態の空間光変調器1は、画素アレイ40に対して斜めに光が入射される。また、入射偏光、出射偏光共に光路が画素アレイ40の上方にあるので、出射偏光フィルタ92および検出器94は入射偏光の光路を遮らない位置に、光源93および入射偏光フィルタ91は、出射偏光の光路を遮らない位置に、それぞれ配置される。
光変調素子5が垂直磁気異方性を有する場合は、磁化方向は垂直であるので偏光の入射角を90°とすることが旋光角を大きくする上で望ましいが、このとき、出射偏光の光路が入射偏光の光路と一致する。そこで、入射角90°から5°〜30°程度傾けて、出射偏光フィルタ92および検出部94、光源93および入射偏光フィルタ91が、それぞれ入射偏光および出射偏光の光路を遮らない配置となるようにする。すなわち、偏光の入射角は、画素アレイ40に対して60°〜85°とすることが好ましい。または、入射角90°として、入射偏光フィルタ91と画素アレイ40との間にハーフミラーを配置して、出射偏光のみを側方へ反射させてもよい。この場合、出射偏光フィルタ92および検出器94は画素アレイ40の側方に配置する。
次に、一画素における複数の光変調素子の磁化反転について、図6および図7を参照して説明する。図6および図7は、本発明の一実施形態に係る空間光変調器の画素における光変調素子それぞれの磁化反転および画素の階調の変化を説明するための画素の平面図であり、それぞれの光変調素子に、当該光変調素子の磁化可変層の磁化方向を矢印で示すものである。なお、図示しない磁化固定層の磁化は、すべての光変調素子において右方向に固定されている。また、後記するようにその出射偏光が出射偏光フィルタを透過しない光変調素子は、黒く塗り潰して表す。
図6(a)は、画素4のすべての光変調素子5a,5b,5c,5dが、磁化が反平行な状態であり、すなわちそれぞれの磁化可変層53の磁化は左方向である。このとき、図5(b)を参照して説明したように、光変調素子5a,5b,5c,5dそれぞれから出射した偏光はいずれも出射偏光フィルタ92で遮られるので、画素4からの出射偏光の光量は0であり、検出器94に黒く表示される(階調0%)。この状態の画素4に、電極2,3(図6,7では図示省略)から所定の大きさの負の電流を供給して、すべての光変調素子5a,5b,5c,5dを磁化反転させる。このとき供給された電流(パルス電流)の大きさを|I4|と定義する。この磁化反転で、図6(b)に示すように、画素4のすべての光変調素子5a,5b,5c,5dが、磁化が平行な状態になり、すなわちそれぞれの磁化可変層53の磁化は右方向となる。このとき、図5(a)を参照して説明したように、光変調素子5a,5b,5c,5dそれぞれから出射した偏光はいずれも出射偏光フィルタ92を透過するので、画素4からの出射偏光の光量は最大であり、検出器94に白く表示される(階調100%)。また、この状態の画素4に、同じ大きさで逆向きすなわち+I4の正の電流を供給すると、光変調素子5a,5b,5c,5dは再び磁化反転して図6(a)に示す状態となり、画素4の表示は暗転する。
ここで、スピン注入磁化反転素子の磁化反転に要する電流(反転電流)の大きさは、各層の材料や、そのスピン注入磁化反転素子の体積および平面視形状のアスペクト比等の形状に影響されることが知られている。そこで、積層構造が同じで平面視形状の面積(以下、適宜、面積という)の異なる2個の光変調素子(スピン注入磁化反転素子)について、I−R特性を比較した。図8は、磁化の平行な光変調素子にパルス電流の大きさ(絶対値)を漸増させながら電流を供給したときの、光変調素子の抵抗変化を示すI−R特性のグラフであり、(a)、(b)は面積の異なる光変調素子のそれぞれにおけるI−R特性を示す。2個の光変調素子5e,5f(図示せず)の構成は共通であり、下層から、磁化固定層:IrMn(10)/CoFe(5)/Ru(0.75)/CoFe(5.5)、中間層:Cu(6)、磁化可変層:CoFeB(3)、保護層:Cu(5) /Ru(5)である。なお、( )内数値は膜厚(単位nm)を示す。また、抵抗の変化を観測することにより反転電流を測定したため、電極は上下共にCuで形成されている。平面視形状は、図8(a)のI−R特性を示す光変調素子5eが240nm×80nmの長方形、図8(b)のI−R特性を示す光変調素子5fが300nm×100nmの長方形である。すなわち光変調素子5fの平面視形状は、光変調素子5eの1.25倍の相似形で、面積では約1.56倍である。光変調素子5e,5fのそれぞれの磁化を反平行(抵抗大)から平行(抵抗小)に反転させる反転電流−ISTSは、図8(a)より光変調素子5eが約−7.2mA、図8(b)より光変調素子5fが約−11.6mAであり、面積が大きいほど磁化反転に要する電流も大きくなることがわかる。さらに、この反転電流−ISTSを光変調素子5e,5fの面積当たりに換算した反転電流密度Jcは、3.75×107A/cm、3.87×107A/cmでほぼ一致する。
このように、膜厚も含めて同じ積層構造からなり、かつ平面視形状が相似な光変調素子同士では、反転電流密度Jcは一定であるので、それぞれの面積に比例する大きさの電流で磁化反転する。したがって、光変調素子5a,5b,5c,5dの個々の反転電流の大きさを|Ia|,|Ib|,|Ic|,|Id|と定義すると、前記の面積比より、|Ia|:|Ib|:|Ic|:|Id|=1:2:3:4となる。例えば、光変調素子5aの磁化を平行から反平行へ移行させるときは、+Ia、反対に、反平行から平行へ移行させるときは、−Iaの電流を供給する。さらに、画素4において、光変調素子5a,5b,5c,5dは一対の電極2,3に電気的に並列に接続されているので、これら4個すべてを磁化反転させるための電流の大きさ|I4|は、|I4|≧|Ia|+|Ib|+|Ic|+|Id|で表せる。
電流の大きさを漸増させながら画素に供給したときの、光変調素子の磁化反転および画素の階調の変化を説明する。図6(a)に示す画素4に、大きさを漸増させて負の電流を供給していくと、電流が−I1に到達した時点で、面積が最小の光変調素子5aが磁化反転する(図6(c))。このとき、残りの光変調素子5b,5c,5dは磁化が反平行のままである。したがって、光変調素子5aからの出射偏光のみが出射偏光フィルタ92を透過するので、画素4の表示は、光変調素子5a,5b,5c,5dの面積比から(1/(1+2+3+4))であり、階調10%となる。
さらに、大きさを漸増させて電流を供給していくと、電流が−I2(|I2|>|I1|)に到達した時点で、光変調素子5aの次に面積が小さい光変調素子5bが磁化反転する(図6(d))。このとき、残りの光変調素子5c,5dは磁化が反平行のままなので、光変調素子5a,5bからの出射偏光が出射偏光フィルタ92を透過して、画素4の表示は((1+2)/(1+2+3+4))より階調30%である。そして、さらに大きさを漸増させて電流を供給していくと、電流が−I3(|I2|<|I3|<|I4|)に到達した時点で、光変調素子5bの次に面積が小さい光変調素子5cが磁化反転する(図6(e))。このとき、光変調素子5a,5b,5cからの出射偏光が出射偏光フィルタ92を透過するので、画素4の表示は((1+2+3)/(1+2+3+4))より階調60%である。そして、電流が−I4に到達すると、残る1個で面積が最大の光変調素子5dが磁化反転し、すべての光変調素子5a,5b,5c,5dが、磁化が平行な状態になる(図6(b))。
このように、画素4に供給する電流の大きさにより、磁化反転する光変調素子5の種類および同じ磁化の状態を示す光変調素子5の個数が異なる。そのため、図4に示すように、画素4からの出射偏光の全部あるいは一部が出射偏光フィルタを透過して、またはまったく透過せず、画素4の多階調表示が可能となる。ここで、電流を段階的に増大させて画素4に供給する場合の電流の大きさ|I1|,|I2|,|I3|,|I4|について説明する。図6(a)→図6(c)のように、光変調素子5aのみを磁化反転させる電流の大きさ|I1|は、光変調素子5aが磁化反転し、かつ光変調素子5bが磁化反転しない大きさの電流であるので、|Ia|≦|I1|<|Ib|の範囲である。そして、図6(c)→図6(d)のように、光変調素子5bを磁化反転させて光変調素子5aと同じ磁化の状態とする電流の大きさ|I2|は、光変調素子5a,5bが共に磁化反転し、かつ光変調素子5cが磁化反転しない大きさの電流であるので、|Ia|+|Ib|≦|I2|<|Ia|+|Ic|の範囲である。さらに、図6(d)→図6(e)のように、光変調素子5cを磁化反転させて光変調素子5a,5bと同じ磁化の状態とする電流の大きさ|I3|は、光変調素子5a,5b,5cが共に磁化反転し、かつ光変調素子5dが磁化反転しない大きさの電流であるので、|Ia|+|Ib|+|Ic|≦|I3|<|Ia|+|Ib|+|Id|の範囲である。
また、図6(c)、(d)、(e)のように、磁化が平行な光変調素子5と反平行な光変調素子5とが混在する画素4に、−I4または+I4の電流を供給することにより、同時にすべての光変調素子5a,5b,5c,5dを、磁化が平行(図6(b))または反平行(図6(a))にすることができる。なお、図6(d)、(e)のように、図6(a)から2個以上であって4個すべてではない光変調素子5(5a,5b、または5a,5b,5c)を磁化反転させた状態とする場合には、前記したように、図6(a)→図6(c)→図6(d)、さらに図6(d)→図6(e)と段階を経て、画素4の階調表示を変化させることが好ましい。したがって、−I1→−I2の2段階、図6(e)とする場合は−I1→−I2→−I3の3段階で電流の大きさを変化させて供給することが好ましい。このように、光変調素子5a,5b,5cを、面積の小さいものから1個ずつ順に磁化反転させることにより、意図しない光変調素子5が磁化反転して誤った階調表示となるような誤動作を防止できる。
ここで、スピン注入磁化反転素子の反転電流の大きさは、一定の分布幅を有することが知られている。したがって、各段階で画素4に供給する電流の大きさ|I1|,|I2|,|I3|,|I4|は、互いにある程度以上の差を有していることが、画素4の階調表示を正確に制御する上で望ましい。そのために、光変調素子5a,5b,5c,5dの個々の反転電流の大きさ|Ia|,|Ib|,|Ic|,|Id|が、互いの差が20%以上となるように、光変調素子5a,5b,5c,5dのそれぞれの面積を、前記したように互いの差が20%以上とすることが好ましい。このように設計すれば、画素4に供給する電流の大きさ|I1|,|I2|,|I3|,|I4|も、互いの差が20%以上となるので、画素4の階調表示の制御がより正確なものとなる。
次に、すべての光変調素子の磁化が平行な状態の画素、すなわち階調100%を表示する画素に、正の電流を段階的に増大させて(または大きさを漸増させながら)供給する場合の階調の変化を説明する。図7(a)は、画素4のすべての光変調素子5a,5b,5c,5dが、磁化が平行な状態であり、図6(b)と同じ図である。なお、図7(b)は、画素4のすべての光変調素子5a,5b,5c,5dが、磁化が反平行な状態で、図6(a)と同じ図である。したがって、図7(a)、(b)間の磁化反転については、図6(a)、(b)を参照して説明した通りであるので省略する。
図7(a)に示す画素4に+I1の電流を供給すると、面積が最小の光変調素子5aが磁化反転する(図7(c))。このとき、残りの光変調素子5b,5c,5dは磁化が平行のままである。したがって、光変調素子5aからの出射偏光のみが出射偏光フィルタ92に遮られ、光変調素子5b,5c,5dからの出射偏光が出射偏光フィルタ92を透過するので、画素4の表示は((2+3+4)/(1+2+3+4))であり、階調90%となる。さらに、大きさを増大させて+I2の電流を供給すると、光変調素子5aの次に面積が小さい光変調素子5bが磁化反転する(図7(d))。このとき、残りの光変調素子5c,5dは磁化が平行のままなので、これら光変調素子5c,5dからの出射偏光が出射偏光フィルタ92を透過して、画素4の表示は((3+4)/(1+2+3+4))より階調70%となる。そして、さらに大きさを増大させて+I3の電流を供給すると、光変調素子5bの次に面積が小さい光変調素子5cが磁化反転する(図7(e))。このとき、光変調素子5dからの出射偏光のみが出射偏光フィルタ92を透過するので、画素4の表示は(4/(1+2+3+4))より階調40%である。そして、電流が+I4に到達すると、残る1個で面積が最大の光変調素子5dが磁化反転し、すべての光変調素子5a,5b,5c,5dが、磁化が反平行な状態になる(図7(b))。
このように、正の電流を供給する場合についても、その大きさにより、画素4において磁化反転する光変調素子5の種類および同じ磁化の状態を示す光変調素子5の個数が異なる。また、図6を参照して説明したように、図7(c)、(d)、(e)に示す、磁化が平行な光変調素子5と反平行な光変調素子5とが混在する画素4に、−I4または+I4の電流を供給することにより、同時にすべての光変調素子5a,5b,5c,5dを、磁化が平行(図7(a))または反平行(図7(b))とすることができる。すなわち、図7(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、それぞれ図6(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に対して、電流を逆向きに供給して光変調素子5の磁化の状態を平行・反平行で入れ替えたものである。すなわち、すべての光変調素子5a,5b,5c,5dについて磁化を平行として(図7(a))から正の電流を供給することで、同じ光変調素子5の組合せで白黒の表示が入れ替わり、負の電流を段階的に増大させて供給する場合とは異なる階調で表示される。したがって、本実施形態に係る空間光変調器の画素は、4個の光変調素子を備えることで、電流の向きおよび大きさ、そして供給する段階を変化させることにより、0%、10%、30%、40%、60%、70%、90%、100%の全8階調の表示が可能となる。
以上、本発明を実施するための最良の形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、別の実施形態として、下部電極を透明電極材料で構成して、透過型の空間光変調器としてもよい(図示せず)。この場合、下部電極は上部電極と同様に、光変調素子との間に、金属膜である下地層を設けて接触抵抗を低減させることが好ましい。さらに、基板は、画素(上部電極、光変調素子、下部電極)を透過した光がさらに下方へ照射されるように、透明な材料、例えば、SiO2、Al23、MgO等からなる。その他の構成は、反射型の空間光変調器1と同様であるが、光変調素子5を構成する各層は、特に厚さが10nmを超える場合は透過率の高い材料で形成して、光を透過するようにする。また、この場合は磁化固定層51と磁化可変層53の位置を入れ替えて積層してもよい。出射偏光フィルタ92および検出器94は、空間光変調器の画素アレイ40の下方に配置される。
本発明の一実施形態に係る空間光変調器の構成を示す平面模式図である。 図1に示す画素の拡大平面図である。 図1に示す画素の拡大断面図で、図2のB−B部分断面図である。 本発明の一実施形態に係る空間光変調器の動作を説明する模式図で、図1のA−A断面図である。 光変調素子における磁化方向と入射光の旋光を説明するための画素の断面模式図である。 (a)〜(e)は、図1に示す画素における光変調素子それぞれの磁化反転および画素の階調の変化を説明するための画素の平面図である。 (a)〜(e)は、図1に示す画素における光変調素子それぞれの磁化反転および画素の階調の変化を説明するための画素の平面図である。 (a)、(b)は、それぞれ面積の異なる光変調素子のI−R特性を示すグラフである。
符号の説明
1 空間光変調器(多素子空間光変調器)
10 電流制御部
11 電源(電流供給手段)
14 画素選択部(画素選択手段)
40 画素アレイ
4 画素
2 上部電極(電極)
3 下部電極(電極)
5,5a,5b,5c,5d 光変調素子(スピン注入磁化反転素子)
51 磁化固定層
52 中間層
53 磁化可変層
6 絶縁部材
7 基板

Claims (4)

  1. 2次元配列された複数の画素を有する画素アレイと、この画素アレイから1つ以上の画素を選択して当該画素の階調を指定する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に当該画素選択手段が指定した階調に応じた大きさの電流を供給する電流供給手段と、を備える多素子空間光変調器であって、
    前記画素は、平面視形状が相似かつ面積が異なる複数のスピン注入磁化反転素子と、これらのスピン注入磁化反転素子を電気的に並列に接続して前記電流供給手段からの電流を供給する一対の電極と、を備え、
    前記スピン注入磁化反転素子は、所定の電流が供給されると当該スピン注入磁化反転素子における磁化可変層の磁化が一方向またはその逆方向を示すものであると共に、入射した光の偏光方向を前記磁化の方向に応じて変化させて出射するものであり、
    前記画素内における前記複数のスピン注入磁化反転素子は、前記電流供給手段から供給された電流の大きさに応じて、それぞれの磁化可変層の磁化が、そのすべてが前記一方向となる状態と、そのすべてが前記逆方向となる状態と、そのすべての一部が前記一方向となりそれ以外が前記逆方向となる状態と、を示し、
    前記画素は、当該画素内において、磁化可変層の磁化が前記一方向を示すスピン注入磁化反転素子の平面視形状の面積の和に応じて、階調を変化させることを特徴とする多素子空間光変調器。
  2. 前記画素において、前記複数のスピン注入磁化反転素子は、互いに隣り合う間隔が60nm以上となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多素子空間光変調器。
  3. 前記一対の電極は、前記複数のスピン注入磁化反転素子の上部に接続される上部電極と、当該複数のスピン注入磁化反転素子の下部に接続される下部電極と、からなり、
    前記上部電極は、その上方から照射された光が前記複数のスピン注入磁化反転素子に入射するように、前記光を透過する材料で形成され、
    前記下部電極は、その下方へ前記複数のスピン注入磁化反転素子から出射された光が照射されるように、前記光を透過する材料で形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多素子空間光変調器。
  4. 前記一対の電極は、前記複数のスピン注入磁化反転素子の上部に接続される上部電極と、当該複数のスピン注入磁化反転素子の下部に接続される下部電極と、からなり、
    前記上部電極は、その上方から照射された光が前記複数のスピン注入磁化反転素子に入射するように前記光を透過し、かつ、その上方へ前記複数のスピン注入磁化反転素子から出射された光が照射されるように前記光を透過する材料で形成され、
    前記下部電極は、光を反射する材料で形成され、
    前記上方から照射された光を前記下部電極または前記スピン注入磁化反転素子で反射させて前記上方へ出射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多素子空間光変調器。
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