JP6182030B2 - 光変調素子の製造方法および空間光変調器 - Google Patents

光変調素子の製造方法および空間光変調器 Download PDF

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Description

本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する空間光変調器、および空間光変調器に設けられる光変調素子の製造方法に関する。
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これをマトリクス状に2次元配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ホログラフィ装置等の露光装置、ディスプレイ技術、記録技術等の分野で広く利用されている。また、2次元で並列に光情報を処理することができることから光情報処理技術への応用も研究されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられ、表示装置として広く利用されているが、ホログラフィや光情報処理用としては、応答速度や画素の高精細性が不十分であるため、近年では、高速処理かつ画素の微細化の可能性が期待される磁気光学材料を用いた磁気光学式空間光変調器の開発が進められている。
磁気光学式空間光変調器(以下、空間光変調器)においては、磁気光学材料すなわち磁性体に入射した光が透過または反射する際にその偏光の向きを変化(旋光)させて出射する、ファラデー効果(反射の場合はカー効果)を利用している。すなわち、空間光変調器は、選択された画素(選択画素)における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素(非選択画素)における光変調素子の磁化方向を異なるものとして、選択画素から出射した光と非選択画素から出射した光で、その偏光の回転角(旋光角)に差を生じさせる。このような光変調素子の磁化方向を変化させる方法として、光変調素子に磁界を印加する磁界印加方式や、光変調素子に電流を供給することでスピンを注入するスピン注入方式(例えば、特許文献1)がある。
磁界印加方式の空間光変調器は、各光変調素子の外周に沿って磁界を発生させるための電極(配線)を備えるので、画素サイズが数μm以上になり、さらなる微細化が困難である。また、磁界印加方式の空間光変調器は、印加磁界により隣の画素の光変調素子が追随して磁化反転しないように、光変調素子同士の間隔を十分に空ける必要があり、画素の開口率にも限界がある。これに対してスピン注入方式の光変調素子は、具体的には、TMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子やCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子等の、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)にも適用されるスピン注入磁化反転素子を適用することができる。このようなスピン注入磁化反転素子は、膜面に垂直に電流を供給してスピンを注入するので、上下に接続された配線を狭ピッチ化して、1μm以下といういっそうの微細化を可能とする。
一方で、前記のスピン注入磁化反転素子は、一辺300nm程度以下としないと好適に動作(スピン注入磁化反転)し難いが、光変調素子(光変調部)は一辺500nm程度以上とすることが求められ、それよりも小さいと入射光の波長によっては適用が困難である。そこで、本願発明者らは、磁化自由層の両面にそれぞれ中間層を挟んで磁化固定層を積層して2つの磁化固定層が1つの磁化自由層を共有するデュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子(例えば、特許文献2参照)について、1つの磁化自由層の上下に配置していた磁化固定層を2つ共、磁化自由層の同じ側の面に、面方向に離間して積層した並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子からなる光変調素子(特許文献3参照)を開発した。図4(c)、(d)に示すように、並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子1は、一対の電極51,52を2つの磁化固定層11,12に接続して電流を供給すれば、磁化自由層3を底部とした断面視U字型の電流経路を形成し、スピン注入磁化反転動作をさせることができる。そのため、並設デュアルピン構造としたスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子は、2つの磁化固定層により安定した磁化反転動作を可能とすることに加え、光変調部である磁化自由層の平面視面積を従来のスピン注入磁化反転素子の2倍以上に拡張することができ、画素の有効領域を広くすることができる。さらに並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子は、一対の電極のいずれも磁化自由層の側に設けられないので、磁化自由層の側から光を入射して反射させることにより、電極が光を遮ることがなく、導電性に劣る透明電極材料を適用しなくてよい。
特許第4829850号公報 特許第4939502号公報 特開2012−78579号公報
特許文献3の光変調素子に適用された並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子は、2つの磁化固定層が互いに反対方向の磁化に固定されている必要がある。磁化固定層は、電流の供給では磁化方向が変化しないような保磁力の大きな磁性材料で形成されるので、外部からの磁界印加(初期設定)により磁化方向を所定の向きにする。そのために、空間光変調器において、それぞれの光変調素子の2つの磁化固定層を、磁性材料や膜厚等の構造の異なるものとする必要がある。具体的には、2つの磁化固定層を、互いの保磁力の大きさが異なる構造として、向きを変えて2段階の磁界印加を行ったり、一方の磁化固定層を交換結合した磁性膜を備えた多層構造として、1回の磁界印加で互いに反平行な磁化方向に固定する。
また、空間光変調器は、画素のそれぞれの光変調素子が所望の光変調をするか、すなわち書込み通りの磁化方向を示しているかを電気的に検知するエラー検出が可能であることが望ましい。通常の(シングルピン構造の)スピン注入磁化反転素子は、MRAMの磁気抵抗効果素子として適用されるように、当該スピン注入磁化反転素子を駆動するために接続した一対の電極間の抵抗が、磁化自由層の磁化反転に伴い変化するため、MRAMのデータ読出しと同様の方法でエラー検出が可能である。一方、図4(a)、(b)に示すように、デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子1は、磁化自由層3の磁化方向が常に2つの磁化固定層11,12の一方に平行で他方に反平行である。そのため、磁化自由層3を共有する2つのスピン注入磁化反転素子(スピン注入磁化反転素子構造)MR1,MR2の、磁化が平行、反平行な状態のそれぞれの抵抗が同一であると、これら2つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の合成抵抗であるスピン注入磁化反転素子1全体の抵抗が一定となり、書込みエラー検出が困難となる。そこで、2つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2が互いに異なる抵抗になるように、それぞれの磁化固定層11,12や中間層21,22を、互いに異なる構造とすることが望ましい。
このような構造の光変調素子とするためには、1つの磁化自由層上における領域を分けて、磁化固定層および中間層の1つずつを個別の工程で形成し、さらにそれらの間を絶縁する絶縁層を形成することになる。このとき、磁化固定層を構成する磁性膜等を不要な領域においてエッチングで除去した際に、その下の磁化自由層が加工ダメージを受けたり、エッチング面が粗くなってその上に成膜される中間層等に影響を受けて特性が変化する場合がある。また、エッチングの深さを緻密に制御しないと、磁化自由層の上面に段差が形成される。磁化自由層に段差等の局所的な変形部があると、この段差に磁壁(磁化方向の異なる領域を区切る境界)が係止され易いため、磁化反転に支障を生じることになる。
あるいは、特許文献3の光変調素子の並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子は、上下を逆に、すなわち下層に磁化固定層を設けた構造とすることで、磁化自由層上をエッチングせずに製造され得る。しかし、2つの磁化固定層と中間層を形成した上に、1つの磁化自由層を形成するためには、磁化自由層の下面となる2つの中間層およびその間を埋める絶縁層の上面を、段差のない同一面に形成する必要がある。したがって、磁化自由層を下層に設けた構造と同様に、エッチングの深さを緻密に制御し、かつエッチング面が粗くならないように、磁性膜等をエッチングする必要があり、製造が困難である。
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子からなる光変調素子について、複数の磁化固定層を互いに異なる磁化方向に固定することが容易で、また、エラー検出が容易となる光変調素子の製造方法を提供することが課題である。
本願発明者らは、半導体装置製造の分野において、微細加工のために設けられるエッチングストッパ膜に着目した。エッチングストッパ膜によれば、その上に積層した膜のみが除去されるので、容易にエッチング量を制御することができる。そこで、本願発明者らは、光変調素子における磁化固定層同士を絶縁する絶縁層を、エッチングストッパ膜とする第1の膜に第2の膜を積層した2層構造とすることで、絶縁層のエッチング量を緻密に制御することに想到した。
すなわち、本発明に係る光変調素子の製造方法は、磁化自由層および磁化固定層を中間層を挟んで積層したスピン注入磁化反転素子構造を備え、前記磁化自由層の一面側に当該面内方向に互いに分離した2以上の前記磁化固定層が前記中間層を挟んで設けられた光変調素子を製造する方法である。この光変調素子の製造方法においては、基板上に、第1の絶縁膜および前記第1の絶縁膜と異なる材料からなる第2の絶縁膜を順次成膜する絶縁膜成膜工程と、前記2以上の磁化固定層、および前記磁化固定層同士を絶縁する絶縁層を形成する磁化固定層形成工程と、を行い、前記絶縁膜成膜工程の前または前記磁化固定層形成工程の後に、前記磁化自由層を構成する材料を成膜する磁化自由層成膜工程をさらに行う。前記磁化固定層形成工程は、前記2以上の磁化固定層の少なくとも1つを配置する領域を空けたレジストマスクを形成するマスク工程と、前記レジストマスクを空けた領域において、前記第1の絶縁膜を残存させつつ前記第2の絶縁膜を除去する絶縁膜第1除去工程と、前記領域における前記第1の絶縁膜を除去する絶縁膜第2除去工程と、前記少なくとも1つの磁化固定層を構成する材料を成膜する磁化固定層成膜工程と、前記レジストマスクをその上に成膜した材料と共に除去するリフトオフ工程と、を2回以上繰り返し行い、前記磁化固定層成膜工程で成膜される膜構造が毎回異なる。そして、光変調素子の製造方法は、前記磁化固定層成膜工程または前記磁化自由層成膜工程が、前記中間層を構成する材料をさらに成膜して積層することを特徴とする。
かかる手順の光変調素子の製造方法では、磁化固定層、または磁化固定層と中間層が形成される面全体に2層構造の絶縁膜を積層して、この絶縁膜のエッチング跡に磁化固定層等の材料を成膜して埋め込むことにより磁化固定層またはさらに中間層を形成する。この絶縁膜のエッチングにおいて、下層の第1の絶縁膜を第2の絶縁膜のエッチングストッパ膜とすることで、エッチング面の深さ位置を制御し、かつ露出した表面を平滑に保持することができ、磁化固定層等の下地面が良好な状態となる。さらに、磁化自由層の上に磁化固定層を設ける構造では、当該磁化自由層への加工ダメージが抑えられ、磁化自由層の下に磁化固定層を設ける構造では、下地が平坦に形成され得て磁化自由層に段差が生じることなく、互いに異なる構造の磁化固定層や中間層を設けた並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を製造することができる。
本発明に係る空間光変調器は、前記の光変調素子の製造方法により、基板上に光変調素子を2次元配列して形成してなる。
かかる構成により、空間光変調器は、基板上に、互いに異なる構造の磁化固定層や中間層を設けた並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を光変調素子として備えることができる。
本発明に係る光変調素子の製造方法によれば、複数の磁化固定層を互いに異なる磁化方向に固定したり、書込みエラーを検出することの容易な並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を製造することができる。そして、本発明に係る空間光変調器によれば、前記のスピン注入磁化反転素子を光変調素子として、画素毎に磁化自由層の磁化方向を検出することが容易となる。
本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法にて製造される光変調素子を搭載した空間光変調器の底面図であり、空間光変調器の構成を説明する模式図である。 図1に示す空間光変調器を用いた表示装置の模式図であり、図1のA−A線矢視断面図に相当する。 本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法にて製造される光変調素子の断面構造を説明する模式図であり、図1のA−A線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明に係る光変調素子の製造方法にて製造される光変調素子の断面の模式図で、(a)、(b)は抵抗の変化を説明する模式図、(c)、(d)は磁化反転動作を説明する模式図である。 図1に示す空間光変調器の等価回路図である。 本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明するフローチャートである。 本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(e)は図1のA−A線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(e)は図1のA−A線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(e)は図1のA−A線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第2実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明するフローチャートである。 本発明の第2実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(e)は図1のA−A線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第2実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(e)は図1のA−A線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第3実施形態に係る光変調素子の製造方法にて製造される光変調素子を搭載した空間光変調器の平面図であり、空間光変調器の構成を説明する模式図である。 図13に示す空間光変調器の画素アレイの模式図であり、(a)は図13のB−B線矢視断面図、(b)はトランジスタの構成と光変調素子の配置を説明するための基板の平面図である。 本発明の第3実施形態に係る光変調素子の製造方法にて製造される光変調素子の断面構造を説明する模式図であり、図13のB−B線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 図13に示す空間光変調器の等価回路図である。 本発明の第3実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明するフローチャートである。 本発明の第3実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(e)は図13のB−B線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第3実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(d)は図13のB−B線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第3実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(d)は図13のB−B線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第4実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明するフローチャートである。 本発明の第4実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(d)は図13のB−B線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 本発明の第4実施形態に係る光変調素子の製造方法を説明する模式図であり、(a)〜(e)は図13のB−B線矢視断面図の部分拡大図に相当する。 実施例の素子構造間絶縁層のサンプルの原子間力顕微鏡による観察結果であり、(a)は原子間力顕微鏡像写真、(b)は原子間力顕微鏡で観察された断面プロファイルである。
以下、本発明に係る空間光変調器、およびその光変調素子の製造方法を実現するための形態について図面を参照して説明する。
〔空間光変調器の一実施形態〕
本発明の一実施形態に係る空間光変調器10は、図1および図2に示すように、基板71と、基板71上に2次元アレイ状に配列された画素8からなる画素アレイ80と、画素アレイ80から1つ以上の画素8を選択して電流を供給することにより駆動する電流制御部90を備え、図5に示す回路構成(詳細は後記する)を有する。空間光変調器10の光の入射面は底面(下面)であり、空間光変調器10は、基板71を透過して画素8(画素アレイ80)に下方から入射した光を変調して下方へ出射する反射型の空間光変調器である。なお、図1に示す画素アレイ80は、基板71の側からの底面図であり、基板71については輪郭線のみを示し、また、絶縁層6(絶縁層63,64、図3参照)は透明で表す。以下、空間光変調器を構成する各要素について説明する。
(画素アレイ)
本実施形態では、画素アレイ80は、説明を簡潔にするために、4行×4列の16個の画素8からなる構成で例示される。なお、本明細書において、画素とは空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段を指す。画素アレイ80は、Y方向(図1における縦方向)に延設された(延伸して設けられた)4本の第1電極51と、X方向(図1における横方向)に延設された4本の第2電極52と、を備え、さらに画素8毎に光変調素子1を備える。画素アレイ80において、電極51,52は互いに直交して、列単位、行単位で画素8に共有されて設けられるため、適宜、第1電極51をX電極51、第2電極52をY電極52と称する。画素アレイ80においては、第2電極52よりも第1電極51が基板71側、すなわち下に配され、さらにその下の基板71上に光変調素子1が配される(図2参照)。さらに、画素アレイ80は、図1〜3において空白で表された領域、具体的には、隣り合う光変調素子1,1間に絶縁層63が、X電極51,51間、Y電極52,52間、およびX電極51とY電極52との層間に絶縁層64が形成されている。絶縁層63,64は、適宜、まとめて絶縁層6(図1参照)と称する。
(画素アレイ:光変調素子)
光変調素子1は、下方から入射した光を反射して異なる2値の光(偏光成分)に変調して下方へ出射する。光変調素子1は、並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子(特許文献3参照)であり、図2および図3に示すように、磁化自由層3上に、中間層21,22を挟んで第1磁化固定層11および第2磁化固定層12(適宜、まとめて磁化固定層11,12と称する)が同一面に離間して形成されている。そして、図1および図2に示すように、画素アレイ80において、光変調素子1は磁化固定層11,12の並び方向をX方向にして配置され、磁化固定層11,12のそれぞれに一対の電極51,52が接続されている。画素アレイ80に設けられたすべての光変調素子1は、第1磁化固定層11、第2磁化固定層12を、それぞれ同じ磁化方向に固定され、ここでは、第1磁化固定層11を上向きに、第2磁化固定層12を下向きに固定されている。光変調素子1は、磁化自由層3の磁化が上向きまたは下向きに変化(反転)し、これに伴い抵抗が変化すると共に、入射した光の偏光の向きを変化させ、ここでは、磁化が上向きの状態で+θkの角度に、磁化が下向きの状態で−θkの角度に、それぞれ回転させる(図2参照)。光変調素子1の構成および動作については後記にて詳細に説明する。
(画素アレイ:電極)
光変調素子1の第1磁化固定層11に接続する第1電極(X電極)51は、磁化固定層11,12の並び方向に直交したY方向に延設されるため、隣の(右側のまたは左隣の光変調素子1の)第2磁化固定層12に接触しない程度の幅の帯状の配線に形成され、図2および図3に示すように、光変調素子1上に直接に接続する高さ位置に設けられる。一方、第2磁化固定層12に接続する第2電極(Y電極)52は、X方向に延設された帯状の配線(他の部分と区別するために、適宜、配線層52lと称する)が、第1磁化固定層11と第1電極51との接続を妨げないように、かつ第1電極51と短絡しないように、第1電極51の上(光変調素子1から離れた側)に層間絶縁膜(絶縁層64)を挟んで設けられる。そして、配線層52lは、第2磁化固定層12の直上に、絶縁層64に形成されたコンタクトホールを経由して接続する。
第1電極51および第2電極52は、共に光変調素子1(磁化自由層3)に対して光の入出射側の反対側に配置されて光を遮らないので、低抵抗の金属材料で形成することができる。したがって、電極51,52は、例えば、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される。そして、スパッタリング法等の公知の方法により成膜、フォトリソグラフィ、およびエッチングまたはリフトオフ法等によりストライプ状等の所望の形状に加工される。
(画素アレイ:絶縁層)
画素アレイ80において、絶縁層63は隣り合う光変調素子1,1間を、絶縁層64はX電極51,51間、Y電極52,52間、およびX電極51とY電極52との層間を、それぞれ絶縁するために設けられる。絶縁層63,64は、例えばSiO2やAl23等の酸化膜やSi窒化物(Si34等)やMgF2の公知の絶縁材料を適用することができる。ただし、光変調素子1の磁化固定層11,12や磁化自由層3に極めて酸化し易いRE−TM合金からなる層を含む場合は、このような層の端面(側面)に接触する絶縁層63は、Si窒化物等のO(酸素)を含有しない非酸化物を適用されることが好ましい。特に、後記の第1実施形態に係る製造方法のように、光変調素子1が成形後にその側面を絶縁層63で被覆される場合には、絶縁層63にSiO2等を適用されると、成膜時の酸素雰囲気で酸化され易いので好ましくない。なお、光変調素子1,1間に、後記する光変調素子1の素子構造間絶縁層61/62の絶縁層61,62が設けられてもよい(後記の第1実施形態の変形例に係る製造方法参照)。
(基板)
基板71は、画素8を2次元配列するための土台であり、光変調素子1を製造するための広義の基板である。また、本実施形態に係る空間光変調器10は基板71側から光を入出射するので、基板71は光を透過させる材料からなる。このような基板71として、公知の透明基板材料が適用でき、具体的には、SiO2(酸化ケイ素、ガラス)、MgO(酸化マグネシウム)、サファイア、GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)、SiC(シリコンカーバイド)、Ge(ゲルマニウム)単結晶基板等を適用することができる。
(電流制御部)
電流制御部90は、画素アレイ80における所望の画素8の光変調素子1に磁化反転動作をさせ、また、この磁化反転動作が正常に実行されたかを検査する、画素の書込みエラー検出を行う。図1に示すように、電流制御部90は、X電極51の1つ以上を選択するX電極選択部91と、Y電極52の1つ以上を選択するY電極選択部92と、選択された電極51,52を経由して光変調素子1に電流を供給する電源95および副電源96と、画素の書込みエラー検出を行う判定部97と、これらすべてを制御する画素選択部94と、を備える。電流制御部90の各要素は、それぞれ後記にて説明する動作が可能な公知の装置を適用することができる。
〔第1実施形態:光変調素子〕
前記の一実施形態に係る空間光変調器に搭載される光変調素子として、本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法にて製造される光変調素子(以下、適宜、第1実施形態に係る光変調素子と称する)について説明する。なお、本明細書において、面方向とは、光変調素子の各層の膜面、すなわち図面におけるXY面の面内方向を指す。
図3に示すように、光変調素子1は、1つの磁化自由層3と、2つの中間層(第1中間層21、第2中間層22)と、2つの磁化固定層(第1磁化固定層11、第2磁化固定層12)と、を積層して備える。詳しくは、光変調素子1は、磁化自由層3の上に第1中間層21と第2中間層22(適宜、まとめて中間層21,22と称する)が互いに離間して面方向に並べて積層され、第1中間層21上に第1磁化固定層11が、第2中間層22上に第2磁化固定層12が、それぞれ積層され、磁化固定層11,12の並び方向(X方向)に沿った断面視が略凹字型となる。光変調素子1は、必要に応じてさらに、磁化自由層3の下に下地膜43を、磁化固定層11,12の上に導電性の材料からなる保護膜41,42を、それぞれ備える。さらに、光変調素子1は、磁化自由層3上の、第1中間層21/磁化固定層11と第2中間層22/磁化固定層12との間に、エッチングストッパ膜(第1の絶縁膜)61、絶縁層(第2の絶縁膜)62が積層される(適宜、素子構造間絶縁層61/62と称する)。前記した通り、空間光変調器10(画素アレイ80)において、光変調素子1は、光を透過する基板71上に形成され、上に、第1電極51、第2電極52が一対の電極として、保護膜41,42を介して2つの磁化固定層11,12に接続されている。
なお、図3において、磁化固定層11,12は同じ厚さで、中間層21,22は互いに異なる厚さで表されているが、それぞれ厚さを同じまたは異なるものとすることを規定するものではない。また、光変調素子1は、図2および後記の図4において簡略的に、磁化固定層11,12、中間層21,22、および磁化自由層3の3層のみで図示し(下地膜、保護膜は図示省略)、さらに2つの磁化固定層11,12、中間層21,22をそれぞれ同じ厚さおよび同じ高さ位置に示す。
光変調素子1は、2つのスピン注入磁化反転素子を、磁化自由層を共有して接続した構造である。すなわち、光変調素子1は、第1磁化固定層11、第1中間層21、磁化自由層3を積層してなるスピン注入磁化反転素子構造(以下、適宜、第1素子構造MR1と称する)と、第2磁化固定層12、第2中間層22、磁化自由層3を積層してなるスピン注入磁化反転素子構造(以下、適宜、第2素子構造MR2と称する)を備えるといえる(図4(a)参照)。
スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2は、磁化が一方向に固定された磁化固定層11,12および磁化の方向が回転可能な磁化自由層3を、非磁性または絶縁体である中間層21,22を挟んで備えたCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant Magneto-Resistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子やTMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子等のスピン注入磁化反転素子構造である。特に、本実施形態に係る光変調素子1における2つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2は、一方がTMR素子で他方がCPP−GMR素子であるか、両方がTMR素子であることが好ましく、ここでは、第1素子構造MR1がCPP−GMR素子、第2素子構造MR2がTMR素子である。
平面視においては、底面図である図1に示すように、光変調素子1は正方形(矩形)であり、磁化自由層3はその全体に設けられるので形状が一致する。一方、第1磁化固定層11と第2磁化固定層12は、X方向(図1、図2における横方向)に離間して並べられるため、Y方向が光変調素子1(磁化自由層3)と同じ長さの長辺となる長方形(図1において網掛けを付した領域)であり、第1中間層21と第2中間層22も同じ形状である。平面視における大きさについては、光変調素子1が後記する磁化反転動作を好適に行うために、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2、すなわち磁化固定層11,12のそれぞれが、300nm×400nm相当の面積以下であることが好ましく、一般的なスピン注入磁化反転素子の一個の大きさである300nm×100nm程度相当の面積であることがさらに好ましい。一方、磁化固定層11,12間が互いに絶縁されていればその距離は特に規定されないので、光変調素子1の全体すなわち磁化自由層3の面積は特に規定されず、磁化固定層11,12の各面積の合計よりも膜面方向(X方向)に拡張されても、後記するように磁化反転させることができる。具体的には、光変調素子1は、空間光変調器の画素アレイ(図1参照)として2次元配列されたときに、隣り合う光変調素子1,1同士、およびこれに接続する電極51,52が間隔を設けて絶縁されていればよい。以下、光変調素子を構成する各要素について、詳細に説明する。
(磁化自由層)
磁化自由層3は磁性体であり、光変調素子1への電流供給により磁化を反転(180°回転)させて(スピン注入磁化反転、図4(c)、(d)参照)、その磁化方向に対応して、入射した光の偏光を異なる向きに回転させる(図2参照)。磁化自由層3は、CPP−GMR素子やTMR素子に用いられる公知の磁性材料にて構成することができ、特に、極カー効果で旋光角θk(図2参照)が大きくなる垂直磁気異方性材料を適用することが好ましい。さらに、磁化自由層3は、光変調素子1(空間光変調器の画素)への入射光の波長において磁気光学効果の大きい材料を選択することがより好ましい。具体的には、Fe,Co,Ni等の遷移金属とPd,Ptのような貴金属とを繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、Gd−Fe,Tb−Fe−Co等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)、Mn−Bi合金、Mn/Bi多層膜、Pt−Mn−Sb合金、Pt/MnSb多層膜、あるいはL10系の規則合金としたFePt, FePd等が挙げられる。ただし、光変調素子1が後記する第1実施形態に係る製造方法において製造される場合に、磁化自由層3は、耐熱性の劣る希土類金属を含有するRE−TM合金を適用することは好ましくない。磁化自由層3は、電流供給により好適に磁化反転するように、厚さが1〜20nmの範囲において設計されることが好ましい。
(磁化固定層)
第1磁化固定層11および第2磁化固定層12は磁性体であり、磁化自由層3の磁化反転のために、磁化を互いに反対方向に固定されている。このような磁化固定層11,12は、磁化自由層3と同様に、CPP−GMR素子やTMR素子に用いられる公知の磁性材料にて構成することができ、磁化自由層3が垂直磁気異方性材料であれば、同様に垂直磁気異方性材料を適用する。ただし、磁化自由層3の磁化方向が回転しても磁化固定層11,12の磁化方向が固定されているように、磁化固定層11,12は、その保磁力Hcp1,Hcp2が磁化自由層3の保磁力Hcfよりも十分に大きくなるように、Tb−Fe−CoやMn−Bi合金のような保磁力の大きな材料を選択したり、磁化自由層3よりも厚く形成される。具体的には、磁化固定層11,12は、厚さが3〜50nmの範囲において設計されることが好ましい。
磁化固定層11,12は、外部からの磁界印加により磁化を固定され(初期設定)、さらに互いに反対方向の、すなわち異なる方向の磁化に固定されるので、初期設定を容易にするために、保磁力Hcp1,Hcp2が磁化自由層3の保磁力Hcfよりも大きいことに加えて、互いに異なる大きさになるように設計されることが好ましい。ここでは、第2磁化固定層12の保磁力Hcp2がよりも大きい、すなわちHcf<<Hcp1<Hcp2とする。したがって、磁化固定層11,12は、互いに、材料や厚さ、あるいは多層膜であれば1層の膜厚や層数の異なる構造に形成される。特に、材料について、例えばTb−Fe−Co合金であれば、組成や成膜時の雰囲気(キャリアガス圧)を調整することにより、保磁力を変化させることができる。
(中間層)
第1中間層21は、第1磁化固定層11と磁化自由層3との間に設けられ、第2中間層22は、第2磁化固定層12と磁化自由層3との間に設けられる。光変調素子1を搭載した空間光変調器10において後記の画素の書込みエラー検出を可能とするために、本実施形態に係る光変調素子1は、第1中間層21と第2中間層22とが、抵抗が互いに異なるように、材料や厚さを異なるものとして形成される。具体的には、第1中間層21と第2中間層22は、抵抗が2倍以上異なることが好ましいため、非磁性金属、絶縁体、半導体から互いに異なる1種ずつを選択する。
さらに、前記した通り、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の少なくとも一方がTMR素子であることが好ましいため、中間層21,22の少なくとも一方、ここでは第2中間層22がMgO,Al23,HfO2のような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなる。第2中間層22は、このような絶縁体を備えることでトンネル障壁層(障壁層)となり、第2磁化固定層12、第2中間層22、および磁化自由層3からなる第2素子構造MR2はTMR素子となる。このとき、第2中間層22の厚さは0.6〜2nm程度とすることが好ましく、1nm以下とすることがさらに好ましい。一方、第1中間層21はCu,Ag,Al,Auのような非磁性金属やZnO等の半導体からなる。したがって、第1磁化固定層11、第1中間層21、および磁化自由層3からなる第1素子構造MR1はCPP−GMR素子となる。このとき、第1中間層21の厚さは2〜6nmとすることが好ましい。
(保護膜)
保護膜41および保護膜42は、光変調素子1において、その製造時、あるいはさらにその後の電極51,52の形成時におけるダメージから磁化固定層11,12等の各層を保護するために、最上層に設けられ、製造時に磁化固定層11,12を構成する材料に連続して成膜されることが好ましい。製造時におけるダメージとは、例えばレジストマスクの形成時における現像液の含浸等、また、特に磁化固定層11,12が酸化し易いRE−TM合金で形成される場合には酸化が挙げられる。保護膜41,42は、磁化固定層11,12が電極51,52に接続されることから導電性材料で形成され、Ta,Ru,Cuの単層、またはCu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。前記の2層構造とする場合は、いずれもCuを磁化固定層11,12の側(下層)とする。保護膜41,42は、厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えて厚くしても、製造工程において磁化固定層11,12等を保護する効果がそれ以上には向上しないため、厚さ1〜10nmとすることが好ましい。なお、保護膜41,42は、材料および厚さが互いに同一でなくてもよく、例えば上面の高さ位置を合わせるように、厚さに差を設けてもよい。
(下地膜)
下地膜43は、光変調素子1(磁化自由層3)の基板71への密着性を得るために、最下層に設けられる。下地膜43は、Ta,Ru,Cu等の非磁性金属材料で形成され、光変調素子1の製造において、磁化自由層3を構成する材料と連続して成膜されることが好ましい。下地膜43は、厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えても密着膜としての効果がそれ以上には向上せず、また、厚くなるにしたがい入出射する光が吸収されるため、厚さ1〜10nmとすることが好ましい。
(素子構造間絶縁層)
絶縁層61およびその上に積層される絶縁層62は、光変調素子1における、第1中間層21/磁化固定層11と第2中間層22/磁化固定層12との間(スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2間)を絶縁するために設けられる。絶縁層61,62は、前記の絶縁層63,64と同様に、例えばSiO2等の公知の絶縁材料を適用することができる。ただし、磁化固定層11,12に極めて酸化し易いRE−TM合金からなる層を含む場合は、このような層の端面(側面)に接触する絶縁層62は、Si窒化物等のO(酸素)を含有しない非酸化物を適用されることがより好ましい。
ここで、絶縁層61は、光変調素子1の製造において、後記するように絶縁層62のエッチングにおけるエッチングストッパ膜とするために、絶縁層62とは異なる絶縁材料で形成される。詳しくは、絶縁層62は例えば反応性イオンエッチング(RIE)のようなエッチング選択性の高い方法でエッチングされ易い材料で形成され、絶縁層61は前記絶縁層62のエッチングにおいてエッチングされ難い(エッチングレートが低い)材料で形成される。例えば、絶縁層62がSiO2であれば、絶縁層61はSi窒化物、MgO、Al23が、絶縁層62がSi窒化物であれば、絶縁層61はMgOが適用され得る。特に、絶縁層61はMgOを適用されることが好ましい。
また、絶縁層61は、光変調素子1の製造において、後記するように、イオンミリングのような特にエッチング異方性の高い方法でエッチングされる。一般的にイオンミリング等の物理的エッチングは加工ダメージが大きいので、エッチング量が多いとエッチング面すなわち磁化自由層3上面が荒れて、光変調素子1の特性に影響する虞がある。そのため、絶縁層61(適宜、エッチングストッパ膜61と称する)は、絶縁層62のエッチングストッパ膜として機能するように厚さ1nm以上が好ましく、エッチング量を抑えるために厚さ5nm以下が好ましく、3nm以下がより好ましい。
〔第1実施形態:光変調素子の製造方法〕
本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法を、光変調素子が2次元配列された画素アレイ(図1参照)の製造にて、図6〜9を参照して説明する。なお、図7〜9においては、画素アレイ80を、画素8の2個分の部分を拡大して示す。画素アレイ80は、基板71上に光変調素子1を形成した後、光変調素子1に接続する電極51,52を形成して製造される。
本実施形態においては、光変調素子1は、基板71上に磁化自由層3を構成する材料を成膜する磁化自由層成膜工程S21(図6参照、以下同)、エッチングストッパ膜61(第1の絶縁膜)および絶縁層62(第2の絶縁膜)を順次成膜する絶縁膜成膜工程S30と、第1中間層21/磁化固定層11および第2中間層22/磁化固定層12、ならびにこれらの間を埋める素子構造間絶縁層61/62を形成する磁化固定層形成工程S40と、を行い、さらに磁化固定層11,12、中間層21,22、磁化自由層3を所望の形状に加工して形成される。以下、光変調素子1を形成するための各工程について説明する。
(磁化自由層成膜工程、絶縁膜成膜工程)
基板71上に、下地膜43、磁化自由層3をそれぞれ構成する材料(以下、明細書および図面において、適宜、成形前においても各要素を同一の名称および符号で表す。)、エッチングストッパ膜(絶縁層)61、および絶縁層62を順次成膜して積層する(S21,S31,S32)。下地膜43は磁化自由層3の基板71への密着性を付与し、エッチングストッパ膜61は磁化自由層3に対する光変調素子1の製造時における一時的な保護膜としての役割も有するため、下地膜43、磁化自由層3、エッチングストッパ膜61は連続して成膜することが好ましい。絶縁層61,62の成膜は、連続であっても、例えば成膜装置を替えての非連続な作業であってもよく、それぞれの材料および膜厚に応じてスパッタリング法や蒸着のような公知の成膜方法を適用することができる。特に、エッチングストッパ膜61は、膜厚が薄く、かつその厚さを高精度に制御されることが好ましいため、下地膜43、磁化自由層3と共に、スパッタリング法による成膜が好適である。
絶縁層61,62の合計の厚さ(素子構造間絶縁層61/62の厚さ)は、後続の磁化固定層形成工程S40(S44)にて成膜する第1中間層21/磁化固定層11/保護膜41、第2中間層22/磁化固定層12/保護膜42のそれぞれの成膜時の合計の厚さの厚い方以上とする。ただし、素子構造間絶縁層61/62(絶縁層62)が過剰に厚いと、磁化固定層11,12等の成膜(S44)において、カバレッジ不良を生じ易くなるため、好ましくない。
(磁化固定層形成工程)
磁化固定層形成工程S40は、磁化固定層11,12を1つずつ、その下の中間層21,22と共に形成する。本実施形態に係る製造方法において、磁化固定層11,12の形成順序は特に限定されず、ここでは、第1中間層21/磁化固定層11、第2中間層22/磁化固定層12の順に形成する。磁化固定層形成工程S40においては、絶縁層62上に第1磁化固定層11を配置する領域を空けたレジストマスクPR1を形成するマスク工程S41と、このレジストマスクPR1を空けた領域において、エッチングストッパ膜61を残存させつつ絶縁層62を除去する絶縁層エッチング工程(絶縁膜第1除去工程)S42と、同領域におけるエッチングストッパ膜61を除去するエッチングストッパ膜エッチング工程(絶縁膜第2除去工程)S43と、第1中間層21およびその上の第1磁化固定層11を成膜する磁化固定層成膜工程S44と、レジストマスクPR1を除去するレジスト除去工程(リフトオフ工程)S45と、を行う。そして、再び、工程S41〜S45を順に行う。この2回目の一連の工程においては、マスク工程S41にて、第2磁化固定層12を配置する領域を空けたレジストマスクPR2を、残存する絶縁層62上に形成し、磁化固定層成膜工程S44にて、第2中間層22および第2磁化固定層12を成膜する。これらの工程について、さらに詳細に説明する。
図7(a)に示すように、絶縁層62上に、光変調素子1の第1磁化固定層11を配置する領域を空けたレジストマスクPR1を形成する(S41)。ここで、図中に輪郭を太い二点鎖線で表された光変調素子1が示すように、レジストマスクPR1は、第1磁化固定層11を配置する領域を空けると共に、素子構造間絶縁層61/62および第2磁化固定層12が配置される領域を覆うパターンに形成されればよく、ここでは光変調素子1,1間の一部も空けて形成される。また、画素アレイ80において、光変調素子1は磁化固定層11,12がそれぞれY方向に連続して配置されるので、レジストマスクPR1および後続の工程で形成するレジストマスクPR2は、Y方向(図7〜9における手前−奥方向)に連続して領域を空けたパターンに形成されてもよい。
次に、エッチングにて絶縁層62およびエッチングストッパ膜61を除去して、第1中間層21/磁化固定層11を埋め込んで形成するための開口部を形成する。ここで、例えばイオンミリングで絶縁層62,61をエッチングすると、イオンミリング等の物理的エッチングはエッチング異方性が高い反面、一般的に加工ダメージが大きいので、被エッチング膜(絶縁層61/62)が厚い、すなわちエッチング量が多いために、その下の磁化自由層3への影響が生じる虞がある。具体的には、加工ダメージにより、また上面が荒れて表面粗さが大きくなることにより、磁化自由層3の磁気特性等が変化したり、さらには表面粗さの大きな磁化自由層3上に成膜して形成されることにより、第1中間層21や第1磁化固定層11への影響が生じる虞がある。また、イオンミリング等では、被エッチング膜がスパッタ粒子となって除去されるので、エッチング量が多いと、多量のスパッタ粒子がレジストマスクPR1の側壁に沿って再付着する場合があり、その結果、バリとなってレジストマスクPR1の除去後も残存する。
一方、比較的加工ダメージの小さい、例えばRIEで絶縁層62,61をエッチングすると、被エッチング膜(絶縁層62,61)の材料や条件等にもよるが、RIEはエッチング異方性が不完全であるため、エッチング面(底面、XY面)である磁化自由層3上面からの立ち上がり(エッジ)に丸みを帯びる場合がある。このような形状の絶縁層61/62の開口部に第1磁化固定層11等が埋め込まれて形成されると、磁気特性にばらつきが生じる虞がある。
そこで、まず、図7(b)に示すように、絶縁層62をエッチングにて除去する(S42)。このとき、エッチングで形成された絶縁層62の側面(エッチングストッパ膜61上面からの立ち上がり)が、垂直または垂直により近い順テーパ状であることが好ましい。そのために、RIEのような選択性を有するエッチング方法を適用して、絶縁層62がエッチング後の立ち上がりで残存して丸みを帯びること等のないように完全に除去しつつ、その下のエッチングストッパ膜61がほとんどエッチングされないような、最も好ましくはまったく加工されないような条件に設定する。
引き続いて、図7(c)に示すように、イオンミリングのような異方性の高い方法で、エッチングストッパ膜61を完全に除去して、磁化自由層3を露出させる(S43)。このとき、磁化自由層3の表面を粗くしたり、レジストマスクPR1のパターンで段差を形成しないように、エッチングストッパ膜61と磁化自由層3の界面でエッチングを停止することが好ましい。
図7(d)に示すように、第1中間層21、第1磁化固定層11、および保護膜41をそれぞれ構成する材料を連続して成膜する(S44)。このように複数の材料を順次成膜し、かつそれぞれの膜の組成および厚さを高精度に制御するためには、磁化自由層3と同様にスパッタリング法による成膜が好適である。このとき、露出している磁化自由層3への密着性を高くするために、スパッタ装置にて、第1中間層21を成膜する前に、Ar,Kr等のキャリアガスのイオンやプラズマによるクリーニングを、磁化自由層3表面に行うことが好ましく、あるいはエッチングストッパ膜61の除去(S43)から連続して成膜することが好ましい。そして、レジストマスクPR1をその上に成膜された材料と共に除去する(S45)。これにより、図7(e)に示すように、画素8(図示せず)毎に第1中間層21/磁化固定層11が形成され、その間を絶縁層61,62(絶縁層61/62)で埋められた状態となる。
第1中間層21および第1磁化固定層11の形成と同様に、第2中間層22および第2磁化固定層12を形成する。図8(a)に示すように、絶縁層62および保護膜41の上に、第2磁化固定層12を配置する領域を空けつつ素子構造間絶縁層61/62および第1磁化固定層11が配置される領域を覆うレジストマスクPR2を形成する(S41)。なお、図8(a)には、光変調素子1(輪郭線)を、左側の1個のみ示す。そして、絶縁層62、エッチングストッパ膜61を順次エッチングして(S42,S43)、図8(b)に示すように磁化自由層3を露出させる。図8(c)に示すように、第2中間層22、第2磁化固定層12、および保護膜42をそれぞれ形成する材料を連続して成膜し(S44)、レジストマスクPR2を除去する(S45)。これにより、図8(d)に示すように、全面に形成された磁化自由層3上に、画素8(図示せず)毎に、第1中間層21/磁化固定層11/保護膜41、第2中間層22/磁化固定層12/保護膜42が形成され、それらの間を絶縁層61/62で埋められた状態となる。
(磁化自由層形成工程)
図8(e)に示すように、保護膜41,42および絶縁層62の上に、光変調素子1が配置される領域を覆うレジストマスクPR3を形成する(S22)。次に、図9(a)に示すように、イオンミリング等のエッチングにて保護膜41,42から下地膜43までを加工して、1個ずつに完全に分離された光変調素子1が形成される(S23)。次に、図9(b)に示すように、光変調素子1の高さ(保護膜41,42の上面の高い方)まで絶縁材料を成膜し(S24)、レジストマスクPR3を除去する(S25)。これにより、隣り合う光変調素子1,1間を埋める絶縁層63が形成される。
(電極形成工程)
電極形成工程S12は、金属電極材料による2層の配線(X電極51、Y電極52)、およびこれらを互いに絶縁する層間絶縁膜(絶縁層64)を形成する公知の方法で行うことができる。一例として、光変調素子1および絶縁層63の上に、第1電極(X電極)51を配置する領域と、第2電極(Y電極)52の第2磁化固定層12に接続する領域、すなわち光変調素子1の保護膜41,42を含む領域を空けたレジストマスクPR4(図9(c)参照)を形成する。図9(c)に示すように、金属電極材料を成膜し、その後、レジストマスクPR4を除去する。これにより、第1電極51、および第2電極52の第2磁化固定層12との接続部分が形成される。次に、第1電極51等の金属電極材料間、およびその上を被覆する絶縁材料(絶縁層64)を成膜して、コンタクトホールを形成し、第2電極52の配線層52l(図3参照)を形成して、画素アレイ80が完成する。あるいは、絶縁材料(絶縁層64)を第1電極51等の厚さに成膜した上にレジストマスクPR4を形成して、絶縁層64をエッチングした跡に金属電極材料を埋め込んでもよい。
(変形例)
前記の光変調素子の製造方法では、磁化固定層11,12の形成(磁化固定層形成工程S40)後に、光変調素子1を構成するすべての膜(保護膜41,42〜下地膜43)を一括に加工して(S23)光変調素子1の平面視形状に成形したが、磁化固定層形成工程S40の前に、磁化自由層3を成形することもできる。具体的には、基板71上に、下地膜43、磁化自由層3、エッチングストッパ膜61を成膜、積層し(S21,S31)、次に、これらの積層膜をレジストマスクPR3で光変調素子1の形状に成形する。図9(d)に示すように、成形した磁化自由層3等の周囲にエッチングストッパ膜61の上面の高さまでエッチングストッパ膜61と同じ絶縁材料(61a)を成膜する(S24に相当)。レジストマスクPR3を除去する(S25に相当)と、上面全体にエッチングストッパ膜61が形成された状態となるので、図9(e)に示すようにその上に絶縁層62を成膜する(S32)。そして、前記と同様に第1中間層21/磁化固定層11、第2中間層22/磁化固定層12を形成する(磁化固定層形成工程S40)と、光変調素子1が完成する。
このような製造方法によると、光変調素子1,1間には、絶縁層61a/62の2層膜が形成される。なお、第1中間層21/磁化固定層11、第2中間層22/磁化固定層12は、磁化自由層3(光変調素子1)の外側へ張り出した平面視形状でよいが、光変調素子1の1個ずつで分離されるようにレジストマスクPR1,PR2のパターンを形成する。また、磁化自由層3の加工後に成膜する絶縁材料(61a)は、表層における少なくともエッチングストッパ膜61の厚さ分のみをエッチングストッパ膜61と同じ材料で形成した2層膜(多層膜)でもよい。また、第1中間層21/磁化固定層11、第2中間層22/磁化固定層12の形成と同様に、先に光変調素子1,1間(磁化自由層3,3間)の絶縁層61aを成形してから、磁化自由層3を成膜して埋め込んで形成してもよい(後記の第2実施形態参照)。
以上のように、第1実施形態に係る光変調素子の製造方法によれば、並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子であって、1つの磁化自由層3上に、互いに異なる膜構造の第1中間層21/磁化固定層11、第2中間層22/磁化固定層12を備える光変調素子1を形成することができる。
(空間光変調器の初期設定)
空間光変調器10の画素アレイ80においては、前記した通り、すべての画素8の光変調素子1は、第1磁化固定層11が上向きに、第2磁化固定層12が下向きに、それぞれ磁化が固定されている必要がある。磁化固定層11,12は電極51,52からの電流供給では磁化反転しないため、次の方法で空間光変調器10の初期設定を行う。
光変調素子1は、第1磁化固定層11の保磁力Hcp1よりも第2磁化固定層12の保磁力Hcp2が大きい(Hcp1<Hcp2)。そこで、まず、画素アレイ80に、Hcp2よりも大きい外部磁界を印加して、すべての磁化固定層11,12の磁化を下向きにする。次に、Hcp2よりも小さくかつHcp1よりも大きい外部磁界を印加して、第1磁化固定層11の磁化を上向きにする。なお、この2段階の磁界印加は、完成した(製造後の)画素アレイ80に限られず、画素アレイ80(光変調素子1)の製造工程途中において磁化固定層11,12用の磁性膜材料を成膜した後以降であれば、どの段階であっても実施することができる。
〔空間光変調器の画素の書込み方法〕
本発明の実施形態に係る空間光変調器の画素の書込み方法を説明する。まず、本発明に係る光変調素子の製造方法で製造される光変調素子の磁化反転の動作を、図4を参照して説明する。図4に示す光変調素子1において、第1磁化固定層11は上向きに、第2磁化固定層12は下向きに、それぞれ磁化が固定され、磁化自由層3は磁化が回転可能で上向きと下向きの両方を示し得る。
(光変調素子の磁化反転動作)
光変調素子1の磁化反転の動作は、特許文献3に記載されたものと同様である。磁化自由層3の磁化を、図4(a)に示す下向きから図4(b)に示す上向きに反転させるためには、図4(c)に示すように、電源95から電流−IWを供給して、第1磁化固定層11に接続した第1電極51を「−」に、第2磁化固定層12に接続した第2電極52を「+」にして、第1磁化固定層11の側から電子を注入する。すると、第1磁化固定層11で当該第1磁化固定層11の磁化と逆方向の下向きのスピンを持つ電子dDが弁別されて、第1電極51からは上向きのスピンを持つ電子dUが偏って第1磁化固定層11に注入され、さらに第1中間層21を介して磁化自由層3に注入される。磁化自由層3においては、電子dUの上向きスピンによるスピントルクが作用することによって当該磁化自由層3の内部電子のスピンが反転し、第1磁化固定層11の直下の領域から磁化が上向きへ反転する。さらに、磁化自由層3に注入された電子dUは、磁化が逆方向の第2磁化固定層12で弁別されるために磁化自由層3に留まり易く、その結果、図4(b)に示すように、磁化自由層3は、磁化固定層11,12が積層された領域だけでなく、これら2つの領域に挟まれた領域も含めて、すなわち全体が、第1磁化固定層11の磁化方向と同じ上向きの磁化を示す状態に変化(磁化反転)する。
反対に、磁化自由層3の磁化を、図4(b)に示す上向きから図4(a)に示す下向きに反転させるためには、前記の図4(c)に示す動作とは反対に、図4(d)に示すように、電源95から電流+IWを供給して、第1電極51を「+」に、第2電極52を「−」にして、第2磁化固定層12の側から電子を注入する。すると、磁化自由層3には下向きのスピンを持つ電子dDが偏って注入され、電子dDの下向きスピンによるスピントルクが作用することによって当該磁化自由層3の内部電子のスピンが反転し、第2磁化固定層12の直下の領域から全体に磁化が下向きへと反転(磁化反転)する。
このように、デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子である光変調素子1は、2つの磁化固定層11,12が互いに反対方向の磁化に固定されていることで、磁化固定層11,12のそれぞれに一対の電極51,52を接続して電流−IWまたは+IWを供給して、磁化自由層3の全体の磁化方向を変化させる(磁化反転させる)ことができる。すなわち光変調素子1は、通常の(シングルピン構造の)スピン注入磁化反転素子と同様に、一対の電極で磁化反転させることができる。
磁化反転動作のために光変調素子1に供給する電流−IW,+IWは、大きさ(絶対値)が、磁化自由層3を磁化反転させる電流(磁化反転電流ISTSと称する)以上であればよい。この磁化反転電流ISTSは、電流密度が、光変調素子1の2つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2のそれぞれの磁化反転電流密度J1STS,J2STSの高い方であり、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の面積、各層11,12,21,22,3の構造(材料や厚さ等)によって決定される。なお、磁化反転電流密度J1STS,J2STSの差が大き過ぎると、例えばJ2STS<<J1STSの場合、電流密度J1STS以上の電流が少なくとも+IWとして光変調素子1に供給されたときに、第2素子構造MR2に過剰な電流が流れることになり、第2中間層22が破壊される虞がある。したがって、光変調素子1は、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2のそれぞれの磁化反転電流密度J1STS,J2STSの差が100倍以内になるように設計されることが好ましい。
光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が上または下に一様であるときに電流の供給が停止されても、磁化自由層3の保磁力Hcfにより磁化方向が維持される。したがって、光変調素子1の駆動電流として、パルス電流のように磁化方向を反転させる電流値(≧ISTS)に一時的に到達する電流を用いることができる。なお、詳しくは後記するが、図4(a)、(b)において光変調素子1に副電源96から供給されている電流ITSTは、電流密度が十分に小さく、磁化自由層3の磁化方向を変化させるものではない。
(空間光変調器の動作)
空間光変調器10において、所望の画素8への書込みすなわち光変調素子1の磁化反転の方法は、従来のスピン注入磁化反転素子を光変調素子とした空間光変調器(特許文献1参照)と同様である。詳しくは、図1および図5に示す画素選択部94(図5において、94の丸数字で表す)が、例えば図示しない外部からの信号に基づいて、画素アレイ80の特定の1つ以上の画素8を選択し、さらにこの画素8の表示(明/暗)を選択する。画素選択部94は、選択した画素8の画素アレイ80におけるX,Y座標に基づいて電極選択部91,92に電極51,52を選択させ、X電極選択部91は選択されたX電極51に、Y電極選択部92は選択されたY電極52に、電源95を接続する。電源95は、画素選択部94が選択した表示(明/暗)に基づく正または負の電流(+IW/−IW)を、接続された電極51,52を経由して光変調素子1に供給する。電源95は、光変調素子1を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給する電源で、直流パルス電流を正負反転可能に供給することができる。この光変調素子1に所定の大きさのパルス電流が選択された向きに供給されて、磁化自由層3の磁化を所望の方向とし、この光変調素子1(画素8)に入射した光を選択的に所望の偏光の向きに変調して出射することができる(後記の空間光変調器の光変調動作(図2参照)にて、詳細に説明する)。
〔空間光変調器の画素の書込みエラー検出方法〕
本発明の実施形態に係る空間光変調器の、画素の書込みエラー検出方法を説明する。まず、本発明に係る光変調素子の製造方法で製造される光変調素子の磁化反転動作に伴う抵抗の変化を、図4を参照して説明する。
(光変調素子の抵抗変化)
図4(a)に示す光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が下向きで、第1磁化固定層11の磁化方向と反平行であり、この状態を第1素子構造MR1の磁化が反平行(AP)であると称する。第1素子構造MR1の、この磁化が反平行な状態における抵抗をR1APと表す。図4(a)に示す光変調素子1は同時に、磁化自由層3が第2磁化固定層12と磁化方向が平行であり、この状態を第2素子構造MR2の磁化が平行(P)であると称する。第2素子構造MR2の、この磁化が平行な状態における抵抗をR2Pと表す。そして、光変調素子1に接続された電極51,52間で測定される抵抗、すなわち光変調素子1の全体の抵抗RDは、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の各抵抗の和であるので、下式(1)で表される。
D=R1AP+R2P ・・・(1)
一方、図4(b)に示す光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が上向きで、第1磁化固定層11の磁化方向と平行であり、この磁化が平行(P)な状態における第1素子構造MR1の抵抗をR1Pと表す。同時に、光変調素子1は、磁化自由層3が第2磁化固定層12と磁化方向が反平行であり、この磁化が反平行(AP)な状態における第2素子構造MR2の抵抗をR2APと表す。そして、この光変調素子1の全体の抵抗RUは、下式(2)で表される。
U=R1P+R2AP ・・・(2)
スピン注入磁化反転素子は、磁化が反平行の方が平行よりも抵抗が大きい。磁化反転に伴うスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2のそれぞれの抵抗の変化量を、ΔR1,ΔR2(>0)と表すと、下式(3)、(4)より、光変調素子1の抵抗RD,RUは、下式(5)、(6)に変換される。これにより、光変調素子1の磁化反転による抵抗の変化量ΔR(=|RD−RU|)は、下式(7)で表されるように、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の各抵抗の変化量ΔR1,ΔR2の差となる。
ΔR1=R1AP−R1P ・・・(3)
ΔR2=R2AP−R2P ・・・(4)
D=R1P+ΔR1+R2P ・・・(5)
U=R1P+R2P+ΔR2 ・・・(6)
ΔR=|ΔR1−ΔR2| ・・・(7)
本実施形態に係る光変調素子1において、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2は、それぞれの磁化固定層11,12や中間層21,22の構造が異なり、特に中間層21,22の各抵抗に差があるために、抵抗の変化量ΔR1,ΔR2に差が生じる。さらに、スピン注入磁化反転素子は、一般的に、CPP−GMR素子よりもTMR素子の方が、磁気抵抗比(MR比、抵抗変化率)が数倍〜数十倍と大きい。すなわち、第1中間層21が非磁性金属または半導体、第2中間層22が絶縁体からなるので、CPP−GMR素子である第1素子構造MR1の磁気抵抗比(ΔR1/R1P)よりも、TMR素子である第2素子構造MR2の磁気抵抗比(ΔR2/R2P)が著しく大きくなる。したがって、光変調素子1は、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2が同じ平面視形状であっても各抵抗の変化量に十分な差がある(ΔR1<<ΔR2)ので、ΔR=ΔR2−ΔR1>>0(RU>>RD)となり、磁化反転に伴い抵抗が大きく変化する。
(空間光変調器の画素の書込みエラーの検出方法)
このように、光変調素子1は磁化反転に伴い抵抗が変化することから、本発明の実施形態に係る空間光変調器10を等価回路図で表すと、図5に示すように(画素アレイは2行×2列の画素のみを示す)、光変調素子1が1個の磁気抵抗効果素子として表され、第1電極(X電極)51がビット線、第2電極(Y電極)52がワード線となり、画素アレイ80はクロスポイント型のMRAMと同じ回路構造であるといえる。したがって、本発明に係る空間光変調器は、所望の画素についてMRAMと同様の読出し動作を行って、光変調素子の磁化反転動作(図4(c)、(d)参照)が正常になされたかを検査することができる。
図4(a)に示すように、磁化自由層3が下向きの磁化を示している光変調素子1は、抵抗の値が前記式(1)に示すRDであるので、副電源96から電極51,52を経由して電流ITSTを供給されているとき、副電源96と並列に電極51,52に接続された電圧計で計測される電圧の値VD=ITST・RDとなる。反対に、図4(b)に示すように、磁化自由層3が上向きの磁化を示している光変調素子1は、抵抗の値が前記式(2)に示すRUであるので、電圧の値VU=ITST・RUとなる。前記した通り、光変調素子1は、磁化自由層3が上向きの磁化を示しているときの方が抵抗が高く、RD<RUであり、したがってVD<VUとなる。すなわち、一定の電流を供給する副電源96と並列に接続された電圧計で計測した電圧の値から、光変調素子1の磁化自由層3の磁化が上向きか下向きかを検知することができる。例えば、電圧VD,VUのそれぞれの許容範囲における限界値として、閾値VrefL,VrefH(VD≦VrefL<VrefH≦VU)を設定する。計測した電圧の値がVrefH以上であれば磁化自由層3の磁化は上向きであり、VrefL以下であれば磁化自由層3の磁化は下向きであると検知することができる。特に、光変調素子1は、前記した通り、第2中間層22が絶縁体からなるため、磁化反転による抵抗の変化量ΔRが大きい(RD<<RU)。したがって、光変調素子1は、磁化反転により変化する電圧VD,VUの差が大きく、閾値VrefL,VrefHによる磁化自由層3の磁化方向の検知が容易かつ正確となる。
なお、副電源96が光変調素子1へ供給する電流(抵抗測定用電流)ITSTは、磁化自由層3の磁化方向を変化させない、すなわち光変調素子1の磁化反転電流ISTSよりも小さく、詳しくは、電流密度が、光変調素子1の2つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の磁化反転電流密度J1STS,J2STSの低い方よりも低い。また、図4(a)、(b)においては、抵抗測定用電流ITSTを、第2電極52を「+」にして供給しているが、電流の向きは問わず、また、光変調素子1の磁化反転動作のための電流−IW,+IWと異なり電流の向きは一方向でよい。
空間光変調器10は、選択した画素8について、光変調素子1へ副電源96から電流ITSTを供給し、電圧を閾値VrefL,VrefHと比較して、当該光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を検知し、光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を上向き、下向きのいずれにするかという画素選択部94による磁化反転動作の選択方向と照合することにより、磁化反転動作(書込み)が正常に行われたかを検査することができる。ここでは、選択された画素8の光変調素子1に対して磁化反転動作を行った直後に、当該画素8に対して書込みエラーの検出を行うものとして説明する。
光変調素子1は、電源95が画素選択部94からの命令により電流+IWを供給することで、磁化自由層3が下向きの磁化を示している(図4(d)→図4(a))。ここで、画素選択部94は、光変調素子1の磁化反転動作のための電源95への電流供給指示の際に、磁化自由層3の磁化を下向きにすることを判定部97に通知している(図1参照)。そして、電源95からの電流+IWの供給後(供給停止後)に、画素選択部94からの命令により、この光変調素子1の電極51,52への電流の供給源を電源95から副電源96に切り替えて接続し、図4(a)に示すように、副電源96から抵抗測定用電流ITSTを供給する。
判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向:下向きに基づき、予め、電圧比較器97aが比較の基準とする参照電位(閾値)をVrefLに設定し、さらに、検査部97bがこの閾値VrefL以下であれば合格(PASS)であると判定するように設定する。そして、副電源96による抵抗測定用電流ITSTの供給開始に合わせて、判定部97において、電圧比較器97aが電極51,52間の電圧を閾値VrefLと比較して、VrefL以下であるか否かの結果を検査部97bへ出力する。電極51,52間の電圧の値がVrefL以下であれば、図4(a)に示す通り、磁化自由層3の磁化は下向きであり、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたことがわかる。一方、電圧の値がVrefL超である場合、光変調素子1の磁化反転動作が適切になされていない(FAIL)、すなわち書込みエラーであることがわかる。
反対に、図4(c)→図4(b)に示すように電源95から電流−IWを供給して磁化自由層3の磁化を上向きにした場合も、同様に接続を切り替えて、図4(b)に示すように副電源96から抵抗測定用電流ITSTを供給する。このとき、判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向:上向きに基づき、予め、参照電位(閾値)をVrefHに設定し、検査部97bがこの閾値VrefH以上であれば合格(PASS)であると判定するように設定する。電圧比較器97aが電極51,52間の電圧の値を閾値VrefHと比較した結果、電圧の値がVrefH以上であれば、図4(b)に示す通り、磁化自由層3の磁化は上向きであり、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたことがわかる。一方、電圧の値がVrefH未満である場合、光変調素子1の磁化反転動作が適切になされていない(FAIL)、すなわち書込みエラーであることがわかる。
そして、判定部97の検査部97bは、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたと判定した場合は、画素選択部94に次の動作、すなわち別の画素8の選択および書込み、または同じ画素8への次の書込みに移行するように命令する。反対に、検査部97bは、書込みエラーを検出した場合は、画素選択部94に同じ画素8に対する先の磁化反転動作を再び実行するように命令する(図1参照)。このように、判定部97による判定を行いながら、画素選択部94による磁化反転動作(書込み)を行うことで、空間光変調器10は、画素アレイ80のすべての画素8で正確に表示することができる。電圧比較器97aはMRAMにおける公知の読出し回路を、検査部97bは演算処理を行ういわゆるCPUを、それぞれ適用することができる。なお、閾値VrefL,VrefHの設定、および判定部97の検査部97bによる判定方法や画素選択部94への命令等を行うためのプログラムは、例えば電流制御部90に内蔵された記憶装置(図示省略)に予め記憶すればよい。
(書込みエラー検出方法の別の実施形態)
光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を検知するための電圧の閾値は、VrefL=VrefHとして1値(Vref)のみを設定してもよい(VD<Vref<VU)。すなわち、判定部97は、電極51,52間の電圧の値が閾値Vrefよりも大きいか小さいかにより、磁化自由層3の磁化が下向きか上向きかを検知する。詳しくは、電圧比較器97aが比較の基準とする参照電位(閾値)はVrefに固定され、判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向に基づき、検査部97bがこの閾値Vrefよりも大きい場合と小さい場合とのいずれを合格(PASS)とするかを設定すればよい。また、電圧の閾値として、電圧VD,VUのそれぞれの限界値の一方のみ、すなわち電圧VDの上限値VrefLと電圧VUの下限値VrefHではなく、電圧VD,VUのそれぞれの許容範囲の下限値および上限値の計4値を設定して、より厳密に判定を行ってもよい。
また、前記した方法では、画素選択部94が画素8を選択して書込み(光変調素子1の磁化反転動作)を行う度に、判定部97が当該画素8に対して書込みエラー検出を行うという動作を繰り返すが、これに限られない。例えば、画素アレイ80のすべての画素8への書込みを完了したら、これらすべての画素8に対して順番に書込みエラー検出をすることもできる。
また、2以上の画素8を同時に選択して、それぞれの光変調素子1に対して同一の磁化反転動作を行った場合に、これらの画素8について一括して書込みエラー検出を行ってもよい。同時に選択された2以上の画素8の光変調素子1は副電源96に並列に接続されているので、合成抵抗に基づいた電圧の閾値を予め設定または判定部97が算出することができ、1個の光変調素子1の場合と同様の方法で書込みエラー検出を行うことができる。この場合、判定部97は、選択された画素8のすべての光変調素子1について磁化反転動作が正常に行われたか、1以上のいずれかの光変調素子1について書込みエラーであるか、のどちらかであることを判定することができる。
〔空間光変調器の光変調動作〕
本発明に係る空間光変調器の光変調動作を、図2を参照して、この空間光変調器を用いた表示装置にて説明する。表示装置は、前記した従来のスピン注入磁化反転素子を光変調素子としたもの(特許文献1参照)と同様の構成とすればよい。本実施形態に係る空間光変調器10は反射型であり、また、その光変調部となる光変調素子1の磁化自由層3は、透明な基板71上に設けられ、また垂直磁気異方性材料からなり磁化方向が上向きまたは下向きを示すため、表示装置は以下の構成とすることが好ましい。空間光変調器10の画素アレイ80の下方には、画素アレイ80に向けて光(レーザー光)を照射する光源等を備える光学系OPSと、光学系OPSから照射された光を画素アレイ80に入射する前に1つの偏光成分の光(以下、入射光)にする偏光子(偏光フィルタ)PFiと、この下方から画素アレイ80に入射した入射光が画素アレイ80で反射して出射した出射光から特定の偏光成分の光を遮光する偏光子(偏光フィルタ)PFoと、偏光子PFoを透過した光を検出する検出器PDとが配置される。
光学系OPSは、例えばレーザー光源、およびこれに光学的に接続されてレーザー光を画素アレイ80の全面に照射する大きさに拡大するビーム拡大器、さらに拡大されたレーザー光を平行光にするレンズで構成される(図示省略)。光学系OPSから照射された光(レーザー光)は様々な偏光成分を含んでいるため、この光を画素アレイ80の手前の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光にする。偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段である。
光学系OPSは、平行光としたレーザー光を、画素アレイ80へ照射する。ここで、光変調素子1の磁化自由層3の磁気光学効果は、光の入射角が磁化自由層3の磁化方向に平行に近いほど大きい。したがって、入射角は膜面に垂直すなわち0°とすることが光変調度を最大とする上で望ましいが、このようにすると、出射光の光路が入射光の光路と一致する。そこで、入射角を少し傾斜させて、偏光子PFoおよび検出器PD、光学系OPSおよび偏光子PFiが、それぞれ入射光および出射光の光路を遮らない配置となるようにする。具体的には、入射光の入射角は30°以下とすることが好ましい。レーザー光は偏光子PFiを透過して1つの偏光成分の入射光となり、画素アレイ80の下方からすべての画素8に向けて入射する。入射光は、基板71を透過してそれぞれの画素8の光変調素子1で反射して、当該画素8から出射光として出射し、再び基板71を透過する。
出射光は偏光子PFoによって特定の1つの偏光成分の光、ここでは入射光に対して+θk旋光した光が遮光され、偏光子PFoを透過した光が検出器PDに入射する。したがって、光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が上向きである画素8からの出射光は偏光子PFoで遮光されるため、この画素8は暗く(黒く)、検出器PDに表示される。一方、入射光に対して−θk旋光した光すなわち光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が下向きである画素8からの出射光は、偏光子PFoを透過して検出器PDに到達するため、この画素8は明るく(白く)検出器PDに表示される。
このように、本実施形態に係る空間光変調器10は、画素8毎に明/暗(白/黒)を切り分けられ、各画素8に供給する電流の向き(+IW/−IW)を切り換えれば明/暗が切り換わる。なお、空間光変調器10の初期状態としては、例えば全体が白く表示されるように、すべての画素8の光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が下向きにするべく、電源95からすべての画素8に電流+IWを供給すればよい(図4(d)、(a)参照)。
以上のように、本発明の一実施形態に係る空間光変調器によれば、画素に並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を備えて、従来のスピン注入磁化反転素子を光変調素子とした空間光変調器と同様に、駆動用配線を用いて画素の書込みエラー検出が可能となる。
(光変調素子の変形例)
光変調素子1は、中間層21,22が同一の構造(材料、厚さ)であってもよい。空間光変調器において画素の書込みエラー検出を行わない場合は、光変調素子1(電極51,52間)の抵抗が磁化反転により変化しなくてもよい。また、例えば中間層21,22が共に障壁層、特にMgOで形成される場合に、磁化固定層11,12の一方のみ、ここでは第2磁化固定層12が、最下層すなわち中間層22との界面に、遷移金属またはその合金からなる薄膜を積層して備えることで、第2素子構造MR2のMR比を向上させて、第1素子構造MR1との差を設けることができる。この遷移金属膜は、Co−Fe,Co−Fe−B,Ni−Fe,Co−Fe−Siが適用され、厚さが0.1〜1nmの範囲とすることが好ましい。
光変調素子1は、磁化固定層11,12が、互いに反対方向の磁化に固定されるために、一方に交換結合膜を備えた異なる積層構造に形成されてもよい。磁化固定層11,12の共通の磁性材料として、例えば垂直磁気異方性が強く、かつ保磁力の大きいTb−Fe−Coを備え、いずれか一方、ここでは第1磁化固定層11が、Tb−Fe−Co層の下(第1中間層21の側)に、Co−Fe/Ru/Co−Feを積層した4層構造とする。原子数個分に相当する1nm未満の膜厚のRu膜は、交換結合膜として、その上下のCo−Fe,Co等の磁性膜を互いに反対方向の磁化とする。Tb−Fe−Co層を直接に積層される上側のCo−Fe膜は、Tb−Fe−Co層と一体の磁性体として動作するため、印加された外部磁界の磁化方向に固定され、Ru膜を挟んだ下側の、すなわち第1中間層21の側に設けられたCo−Fe膜は、印加磁界とは反対方向の磁化となって固定される。他方の第2磁化固定層12は、Tb−Fe−Co単層でもよいし、その下(第2中間層22の側)にCo−Fe膜を積層した2層構造としてもよい。Co−Fe膜またはCo膜は、1層あたりで1〜数nmの厚さが好ましく、Ru膜を挟んで下側(中間層の側)の膜を上側の膜の厚さ以下とする。また、Co−Fe,Co等は、本来が面内磁気異方性であるため、Tb−Fe−Co層に追随して垂直磁気異方性を示す厚さに抑える。
このように磁化固定層11,12の一方が交換結合した磁性膜を備えた多層構造である光変調素子1を画素8に備える空間光変調器は、磁化固定層11,12のすべての保磁力(Hcp1,Hcp2)を超える外部磁界を印加しながら、真空中で200℃程度の熱処理をすることにより、前記磁界印加の1回(1段階)で光変調素子1の初期設定を行うことができる。
〔第2実施形態:光変調素子〕
イオンミリングのような物理的エッチングによる加工では、被エッチング膜やその下地が200℃程度あるいはさらにそれよりも高温になる場合があるため、本発明の第1実施形態に係る光変調素子の製造方法では、エッチングストッパ膜を直に積層される磁化自由層にはGd−Fe等の耐熱性に劣る材料は不適である。ここで、第1実施形態で説明したエッチングストッパ膜には、MgO,Al23のようなTMR素子の中間層(障壁層)の材料が適用され得る。また、光変調素子は、2つのスピン注入磁化反転素子構造が共にTMR素子であってもよく、さらにそれぞれの障壁層が同一の構造であってもよい。そして、絶縁体からなる同一構造の2つの障壁層は、分離せずに一体に形成されてもよく、すなわち、磁化自由層上の全体に障壁層が形成されてよい。このような障壁層をエッチングストッパ膜とすることができ、これにより、磁化自由層上に直接に積層された絶縁膜(障壁層)を除去する必要がないので、磁化自由層の材料の耐熱性による制約がない。
以下、図10〜12を参照して、第2実施形態に係る光変調素子の製造方法、およびこの製造方法にて製造される光変調素子(以下、適宜、第2実施形態に係る光変調素子と称する)について説明する。本実施形態に係る製造方法および光変調素子については、第1実施形態(図1〜9参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
光変調素子1A(図12(e)参照)は、磁化自由層3の上面全体に1つの中間層(障壁層)2Aが積層されて、磁化固定層11,12のみが分離していること以外は、図3に示す光変調素子1と同様の積層構造である。すなわち、光変調素子1Aは、2つのスピン注入磁化反転素子(TMR素子)を、磁化自由層および障壁層を共有して接続した構造であり、第1磁化固定層11、障壁層2A、磁化自由層3からなる第1素子構造MR1と、第2磁化固定層12、障壁層2A、磁化自由層3からなる第2素子構造MR2を備えるといえる。そして、光変調素子1Aは、このような構成であるので、光変調素子1と同様に、図4(c)、(d)に示すように、電極51,52から電流を供給されて磁化自由層3の磁化が反転する。したがって、光変調素子1Aは、その平面視形状および面積が、第1実施形態にて光変調素子1について説明した通りである。ここでは、光変調素子1Aは、磁化自由層3/障壁層2Aの平面視形状が当該光変調素子1Aよりも大きく、詳しくは磁化固定層11,12およびその間の領域の外側に拡張して形成されている。
また、光変調素子1Aは、障壁層2A上の磁化固定層11,12間に絶縁層62が形成され、言い換えると、磁化自由層3の上の、障壁層2A/第1磁化固定層11と障壁層2A/第2磁化固定層12との間に、素子構造間絶縁層2A/62が形成されている。以下、光変調素子を構成する各要素について説明する。
磁化固定層11,12、磁化自由層3、保護膜41,42、下地膜43は、それぞれ第1実施形態に係る光変調素子1と同様の構造とする。ただし、本実施形態では、磁化自由層3にRE−TM合金を適用することができる。また、第1実施形態と同様に磁化固定層11,12を同じ厚さで示しているため、上面(保護膜41,42の上面)の高さ位置が揃っているが、磁化固定層11,12を互いに異なる厚さとして、第1実施形態に係る光変調素子1のように上面の高さ位置が異なる構造としてもよい。
障壁層2Aは、第1実施形態におけるエッチングストッパ膜61としても作用させるため、光変調素子1の第2中間層22に挙げた絶縁体のうち、MgO,Al23が適用され、また、厚さを1nm以上とすることが好ましい。また、絶縁層62は、障壁層2Aに対して当該絶縁層62のエッチング選択性が高い材料が好ましい。
障壁層2AがMgOからなる場合には、磁化自由層3、磁化固定層11,12は、それぞれ障壁層2Aとの界面にCo−Fe等の遷移金属膜を積層してもよい。このような構成とすることで、光変調素子1は、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の反転電流密度J1STS,J2STSを低くして、磁化反転電流ISTSを小さくすることができる。さらに、光変調素子1Aは、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12のいずれか一方にのみ遷移金属膜を設けることにより、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2のMR比に差を設けて磁化反転に伴い抵抗が変化する。このような光変調素子1Aは、第1実施形態に係る光変調素子1と同様に、書込みエラー検出を行う空間光変調器の画素に適用され得る(図1、図5参照)。
磁化自由層3は、光変調素子1Aよりも大きな平面視形状に形成されているが、これは、後記の製造方法にて説明するように、当該磁化自由層3に積層された障壁層2Aがエッチングストッパ膜として、磁化固定層11,12とその間の領域よりも広く設けられる必要があるためである。このような磁化自由層3は、スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2の磁化自由層として有効な、すなわち障壁層2Aを挟んで磁化固定層11,12が積層された2つの領域とこれらの領域に挟まれた領域が磁化反転する。言い換えると、磁化自由層3は、光変調素子1Aに対して外側へ拡張して形成されても、光変調素子1Aの動作に影響はなく、画素アレイ80(図1参照)において隣り合う光変調素子1A,1A同士が短絡しなければよい。
本実施形態に係る光変調素子1Aは、図1および図2に示す空間光変調器10の画素8に用いられる。このような空間光変調器10は、第1実施形態に係る光変調素子1を用いたものと同様に、画素の書込みおよび光変調動作をすることができ、さらに、前記したように磁化固定層11,12の一方に遷移金属膜を積層することで、画素の書込みのエラー検出をすることができる。
〔第2実施形態:光変調素子の製造方法〕
本発明の第2実施形態に係る光変調素子の製造方法を、第1実施形態と同様に、光変調素子が2次元配列された画素アレイ(図1参照)の製造にて説明する。図10に示すように、本実施形態では、エッチングストッパ膜61に代えて障壁層2Aを磁化自由層3に連続して成膜し(S21,S31A)、磁化固定層形成工程S40Aにおいては、エッチングストッパ膜エッチング工程S43(図6参照)を行わず、また磁化固定層11,12およびその上の保護膜41,42のみを成膜する(S44A)。さらに、磁化固定層形成工程S40Aの前に、磁化自由層3およびその上の障壁層2Aを光変調素子1Aの完成時の形状に成形する(磁化自由層形成工程S20A)。以下、光変調素子1Aを形成するための各工程について詳細に説明する。
(磁化自由層形成工程、絶縁膜成膜工程)
まず、基板71上に、絶縁層63を成膜する(S24A)。絶縁層63の厚さは、完成した光変調素子1Aの高さ(保護膜41,42の上面の高い方)に合わせることが好ましい。また、絶縁層63は、基板71に対してエッチング選択性の高い絶縁材料を適用する。あるいは、基板71表面に、絶縁層63に対するエッチングストッパ膜となるような絶縁膜を設けて、その上に絶縁層63を積層してもよい(図示せず)。図11(a)に示すように、絶縁層63上に、光変調素子1A(輪郭を太い二点鎖線で表す)の磁化自由層3を配置する領域を空けたレジストマスクPR3Aを形成する(S22A)。次に、図11(b)に示すように、エッチングにて絶縁層63を除去する(S23A)。このとき、絶縁層62のエッチング(絶縁膜エッチング工程S42)と同様に、RIEのような選択性を有する方法により、磁化自由層3の下地となる基板71表面が粗くならないようにする。
図11(c)に示すように、下地膜43、磁化自由層3、障壁層2A、および絶縁層62をそれぞれ構成する材料を順次成膜して積層する(S21,S31A,S32)。この一連の成膜は、エッチングストッパ膜61が障壁層2Aに代わること以外は、第1実施形態と同様に行うことができる。なお、絶縁層62の厚さは、後続の磁化固定層形成工程S40A(S44A)にて成膜する第1磁化固定層11/保護膜41、第2磁化固定層12/保護膜42のそれぞれの成膜時の合計の厚さの厚い方以上とする。次に、レジストマスクPR3Aをその上に成膜された材料と共に除去する(S25A)。これにより、図11(d)に示すように、光変調素子1A(図11(a)参照)毎に磁化自由層3/障壁層2Aが形成され、その上に絶縁層62が積層され、また、磁化自由層3/障壁層2A同士の間を絶縁層63で埋められた状態となる。
(磁化固定層形成工程)
図11(e)に示すように、絶縁層62,63の上に、光変調素子1Aの第1磁化固定層11を配置する領域のみを空けたレジストマスクPR1Aを形成する(S41)。なお、図11(e)には、光変調素子1A(輪郭線)を、左側の1個のみ示す。本実施形態では、磁化固定層形成工程S40Aの後にエッチングによる加工を行わずに光変調素子1Aを完成させるため、レジストマスクPR1A、および第2磁化固定層12を形成するためのレジストマスクPR2Aは、磁化固定層11,12の平面視形状に対応したパターンとする。次に、第1実施形態と同様、図12(a)に示すように絶縁層62を除去する(S42)。このエッチングにおいて、本実施形態では障壁層2Aがエッチングストッパ膜となるため、エッチング過多等によりエッチング面(障壁層2A表面)を粗くしないように、時間や出力等を制御することが好ましい。
図12(b)に示すように、第1磁化固定層11および保護膜41をそれぞれ構成する材料を連続して成膜する(S44A)。このとき、障壁層2A表面に、第1実施形態と同様にクリーニングを行ってから、第1磁化固定層11を成膜することが好ましい。そして、レジストマスクPR1Aをその上に成膜された材料と共に除去する(S45)。これにより、図12(c)に示すように、第1磁化固定層11が、光変調素子1Aの完成時の形状で形成される。
第1磁化固定層11の形成と同様に、第2磁化固定層12を形成する。絶縁層62,63の上に、第2磁化固定層12を配置する領域のみを空けたレジストマスクPR2Aを形成し(S41)、図12(d)に示すように、絶縁層62をエッチングして(S42)障壁層2Aを露出させる。そして、図12(e)に示すように、第2磁化固定層12および保護膜42をそれぞれ形成する材料を連続して成膜し(S44A)、レジストマスクPR2Aを除去する(S45)。これにより、光変調素子1Aの平面視形状よりも一回り大きな磁化自由層3/障壁層2A上に、第1磁化固定層11/保護膜41、第2磁化固定層12/保護膜42が形成され、それらの間を絶縁層62で埋められた光変調素子1Aが完成する。さらに、電極形成工程S12を行って、画素アレイ80が完成する。
(変形例)
磁化自由層3/障壁層2Aは、第1実施形態と同様に、磁化固定層11,12の形成(磁化固定層形成工程S40A)後に、加工して(図6のS23)成形してもよい。この場合は、磁化固定層形成工程S40Aにおいても第1実施形態と同様に、磁化固定層11,12を光変調素子1Aの外側に拡張して形成することができる。
また、第1実施形態の変形例と同様に、磁化自由層3/障壁層2Aを加工して成形してから、絶縁層63を成膜してもよい。なお、障壁層2Aの成膜(S31A)の次に絶縁層62の成膜(S32)を行って、絶縁層62の上にレジストマスクPR3を形成して(S22)加工することが好ましい。さらにこの場合に、磁化自由層3/障壁層2Aを光変調素子1Aと一致する平面視形状に形成してもよい。そのために、磁化自由層3/障壁層2Aの加工後に、障壁層2Aの高さまで、障壁層2Aと同じ絶縁材料からなるエッチングストッパ膜61aを成膜し、その上に絶縁層62と同じ絶縁材料を成膜する(図9(e)参照)。あるいは、前記第2実施形態の最初の絶縁層63の成膜(S24A)において、障壁層2Aが設けられる高さ位置に合わせて、障壁層2Aと同じ絶縁材料からなるエッチングストッパ膜61aを挟んだ3層構造の絶縁膜を積層する(図示せず)。そして、磁化自由層3(光変調素子1A)を配置する領域のみを空けたレジストマスクPR3Aを形成し(S22A)、3層の絶縁膜をエッチングする(S23A)。このとき、エッチングストッパ膜61を除去するまではイオンミリング等でエッチングし、その後、エッチング面(基板71表面)を粗くしないために、RIE等でエッチングする。
以上のように、第2実施形態に係る光変調素子の製造方法によれば、2つのTMR素子を備える並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子であって、1つの磁化自由層3、障壁層2Aの上に、互いに異なる構造の第1磁化固定層11、第2磁化固定層12を備える光変調素子1Aを形成することができ、さらに、磁化自由層3に磁気光学効果の大きいGd−FeのようなRE−TM合金を適用することができる。
本発明に係る光変調素子の製造方法は、磁化固定層、または磁化固定層と中間層を、下層にエッチングストッパ膜を設けた2層構造の絶縁層への埋込みにより形成する。この絶縁層のエッチングにおいては、エッチングストッパ膜の界面(上面、下面)を基準として、エッチング量(深さ)を正確に把握することができる。そこで、磁化固定層等の材料を成膜する際にその下地膜の膜厚を調整することで、別工程で成膜される2つの磁化固定層(またはその上の中間層)とその間の絶縁層の上面の高さ位置を平坦に揃えて、上に1つの磁化自由層を設けた並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を形成することもできる。このような構造のスピン注入磁化反転素子からなる光変調素子は、基板上に電極を設けたさらにその上に配列されて、上から光を入射する空間光変調器とすることができる。
以下、本発明の別の実施形態に係る空間光変調器、およびこの空間光変調器に搭載される光変調素子を製造する本発明の第3実施形態に係る製造方法について、図面を参照してその構成を説明する。本実施形態に係る空間光変調器および光変調素子については、前記の実施形態(図1〜9参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
〔空間光変調器の別の実施形態〕
本発明の別の実施形態に係る空間光変調器10Aは、図13および図14(a)に示すように、Si基板70と、Si基板70上に2次元アレイ状に配列された画素8Aからなる画素アレイ80Aと、画素アレイ80Aから1つ以上の画素8Aを選択して電流を供給することにより駆動する電流制御部90Aを備え、図16に示す回路構成(詳細は後記する)を有する。空間光変調器10Aは、図14(a)に示す画素アレイ80Aに、上方から入射した光を変調して上方へ出射する反射型の空間光変調器であり、図2に示す空間光変調器10とは上下反転させて表示装置等に使用される。以下、空間光変調器を構成する各要素について説明する。
(画素アレイ)
本実施形態では、画素アレイ80Aは、説明を簡潔にするために、4行×4列の16個の画素8Aからなる構成で例示される。画素アレイ80Aは、Y方向(図13における縦方向)に延設された4本ずつの第1電極(X電極)51Bおよびゲート電極53、ならびにX方向(図13における横方向)に延設された4本のY電極54を備え、さらに画素8A毎に第2電極52B、光変調素子1B、およびトランジスタ7(図16参照)を備える。画素アレイ80Aにおいては、トランジスタ7が、図14(b)に示すようにSi基板70の表層に形成されたソース7s、ドレイン7d、ゲート7gからなり、その上にY電極54、ゲート電極53、第2電極52B、X電極51Bが設けられ、さらにその上に光変調素子1Bが配列される。したがって、画素アレイ80Aは、図16に等価回路図で示すように、選択トランジスタ型のMRAMに類似した構造を有する。さらに、画素アレイ80Aは、Si基板70上において、電極51B,52B,53間、Y電極54,54間、および電極51B,52B,53とY電極54との層間に、絶縁層65が設けられる。また、隣り合う光変調素子1B,1B間においては、図15に示すように、前記の絶縁層61,62、およびさらにその上に絶縁層63(適宜、まとめて絶縁層6A(図13参照)と称する)が積層されて設けられている。
(画素アレイ:光変調素子)
光変調素子1Bは、第1実施形態に係る光変調素子1(図2および図3参照)を、積層順を入れ替えてほぼ上下反転した並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子であり(詳細は後記する)、上方から入射した光を反射して異なる2値の光(偏光成分)に変調して上方へ出射する。光変調素子1Bは、このような構成であるので、光変調素子1と同様に、図4(c)、(d)に示すように、磁化固定層11,12に接続した電極51B,52Bから電流を供給されて、磁化自由層3の磁化が反転し、これに伴い抵抗が変化する。そして、画素アレイ80に設けられた光変調素子1(図2参照)と同様に、画素アレイ80Aに設けられたすべての光変調素子1Bは、第1磁化固定層11、第2磁化固定層12を、それぞれ同じ磁化方向に固定されている(図示省略)。また、光変調素子1Bは、磁化固定層11,12のそれぞれに電極51B,52Bを一対の電極として接続されるために、図14(a)に示すように、Si基板70上に形成された電極51B,52Bのさらに上に形成される。言い換えると、画素アレイ80Aにおいて、光変調素子1Bは、トランジスタ7(7s,7d,7g)が形成されたSi基板70、電極51B,52B,53,54、および絶縁層65からなる基板71Aの上に、形成されているといえる。
図14(a)に示すように、画素アレイ80Aにおいて、光変調素子1Bは、磁化固定層11,12の並び方向をX方向にして配置され、かつ、1つおきに左右反転させて配列されている。これは、後記するように、画素アレイ80Aが、X方向において画素8Aを1つおきに左右反転させて配列していることによる。したがって、左右に(X方向に)隣り合う光変調素子1B,1Bにおいて、第1磁化固定層11,11同士、第2磁化固定層12,12同士が対向する構成となる。なお、画素アレイ80Aにおいては、後記するように、第1電極(X電極)51Bが配線のみで直接に第1磁化固定層11に接続されないので、第1磁化固定層11を第1電極51Bの配線(配線層51l)に沿ってその直上に配置しなくてよい。したがって、光変調素子1Bは、磁化固定層11,12の並び方向をY方向にして配置されてもよい(図示せず)。
(画素アレイ:トランジスタ)
トランジスタ7(図16参照)は、画素アレイ80AにおいてX方向に延設されたすなわち行単位で画素8Aに共有されたY電極54と、光変調素子1Bの第2磁化固定層12(第2電極52B)とを画素8A毎に接続可能とするための選択素子(スイッチ素子)である。画素8Aにトランジスタ7を備えることで、空間光変調器10Aは、画素の書込みエラー検出において、Y電極54から非選択の画素8Aの光変調素子1Bに漏れ電流が流れないので、選択した画素8Aに限定して光変調素子1Bの抵抗の変化量を検出することができる。トランジスタ7は、例えばMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)で形成され、空間光変調器10Aにおいては、図14(a)に示すように、Si基板70の表層に形成される。
画素アレイ80Aにおいて、トランジスタ7(ソース7s、ドレイン7d、ゲート7g)は、図14(b)に示すように、平面視において上下左右対称に配列される。このような構成とすることにより、X方向においてはソース7sが、Y方向においてはゲート7gが、それぞれ対向して隣り合う2つのトランジスタ7,7において共有されるので、トランジスタ7の面積に対して画素8Aが微細化される。このようなトランジスタ7の配列に合わせて、画素アレイ80Aは、X,Y方向において、画素8Aを1つおきに左右上下反転させて配列する。
(画素アレイ:電極)
第1磁化固定層11に接続した第1電極51Bは、列単位で画素8Aに共有されるY方向に延設した帯状の配線、すなわち空間光変調器10のX電極51に相当する配線層51l(図15参照)を有する。したがって、適宜、第1電極51BをX電極51Bと称する。図15に示すように、第1電極51Bはさらに、第1磁化固定層11に直接に接続する電極接続層51aが、配線層51lの上方に絶縁層65を介して設けられ、配線層51lと電極接続層51aが接続部(コンタクト、プラグ)51cで接続されてなる。一方、第2磁化固定層12に接続した第2電極52Bは、画素8A毎に設けられたトランジスタ7のドレイン7dに接続するために、光変調素子1Bと同様に画素8A毎に設けられ、ドレイン7d(Si基板70)に接続する端子52e(図14(b)参照)を有する。第2電極52Bはさらに、第2磁化固定層12に直接に接続する電極接続層52aを有し、電極接続層52aと端子52eとが、上から、接続部(コンタクト、プラグ)52c、第1電極51Bの配線層51lと同じ高さ位置に設けられた中継層52d、さらにその下のコンタクト、およびY電極54の配線層と同じ高さ位置に設けられた中継層(図15においては図示省略)を経由して接続されてなる。
電極51B,52Bの接続部51c,52cは、光変調素子1Bの磁化固定層11,12を、電極接続層51a,52aで電極51B(配線層51l),52B(中継層52d)に接続するために、基板71Aの表面の光変調素子1Bが配置される領域の外側に露出させて設けられる。このように、基板71Aは、接続部51c,52cが平面視で光変調素子1Bが配置される領域の外側に設けられることで、表面の、少なくとも光変調素子1Bが配置される領域が絶縁層65のみで形成され、平滑に加工され易い。
電極51B,52Bの接続層(電極接続層)51a,52aは、基板71Aの上に、光変調素子1Bと共に形成される。詳しくは、後記の製造方法にて説明するように、接続層51aは第1磁化固定層11と、接続層52aは第2磁化固定層12と、それぞれ連続して形成される。接続層51a,52aの詳細な構成は、後記にて光変調素子1Bと共に説明する。
Y電極54は、トランジスタ7のソース7sに接続し、トランジスタ7(ソース7s、ドレイン7d)および第2電極52Bを経由して、光変調素子1の第2磁化固定層12へ電気的に接続する。すなわちY電極54は、第1電極(X電極)51Bと共に、光変調素子1に駆動電流(磁化反転電流)を供給するための配線であり、画素アレイ80Aにおいて、X電極51Bに直交してX方向に延設された配線層を有し、行単位で画素8A(トランジスタ7)に共有される。そのため、Y電極54は、配線層がX電極51Bと短絡しないようにX電極51Bの下方に層間絶縁膜(絶縁層65)を挟んで設けられ、図14(b)に示すように端子54eでソース7sに接続する。
ゲート電極53は、トランジスタ7のゲート7gに接続して、選択素子であるトランジスタ7をON/OFFさせる電流を供給するための配線である。ゲート電極53は、画素アレイ80Aにおいて、ソース7sに接続したY電極54と直交して、すなわちX電極51B(配線層51l)と平行にY方向に延設されるため、図14(a)に示すように、配線部分(配線層、図13に表された部分)がX電極51Bの配線層51lと同じ高さ位置に設けられる。そして、ゲート電極53は、配線層からSi基板70へ向けて、第2電極52Bと同様にコンタクト等を経由して、図14(b)に示すように端子53eでゲート7gに接続する。なお、ゲート電極53は、図14(a)においてY電極54の配線層の奥に、配線層と端子53eとの間の中継層が設けられる。あるいは、ゲート電極53は、配線層が、Y電極54の配線層よりも下層に(Si基板70側に)設けられてもよい(図示せず)。
第1電極(X電極)51B、第2電極52B、ゲート電極53、およびY電極54は、いずれも光変調素子1B(磁化自由層3)に対して光の入出射側の反対側に配置されるので、光を遮ることがなく、低抵抗の金属材料で形成することができる。したがって、電極51B,52B,53,54は、空間光変調器10の電極51,52と同様に一般的な金属電極材料で形成される。
(画素アレイ:絶縁層)
絶縁層65は、画素アレイ80Aにおいて、電極51B,52B,53間、Y電極54,54間、さらにX電極51B(配線層51l)等とY電極54との層間を、それぞれ絶縁するために設けられる。さらに、本実施形態においては、絶縁層65は、上面を光変調素子1Bを製造するための基準面とするために、平坦、平滑に形成される。絶縁層65は、空間光変調器10の絶縁層64(図3参照)と同様に、SiO2等の公知の絶縁材料を適用することができる。また、絶縁層65は、光変調素子1Bを形成する前に設けられるので、半導体装置の層間絶縁膜に適用されるBPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass)やPSG(Phosphorus Silicon Glass)を適用されてもよい。絶縁層65は、その全体を同一の絶縁材料で形成されなくてもよく、層により異なる材料で形成されてもよい。
(Si基板)
Si基板70は、画素8Aを2次元配列するための土台であり、光変調素子1Bを製造するための広義の基板である。さらに、空間光変調器10Aは画素8Aにトランジスタ7を備えるために、Si基板70はMOSFETの材料に用いられるSi(シリコン)基板が適用される。あるいは、ガラス等のその他の公知の基板を用い、結晶Si膜を成膜して、MOSFETを形成してもよい。
(電流制御部)
図13および図16に示すように、電流制御部90Aは、電流制御部90(図1、図5参照)に、ゲート電極53を選択する素子選択部93をさらに備える。素子選択部93は、選択したゲート電極53に、内蔵したトランジスタ7の駆動用の電源(図16参照)から電流を供給する。素子選択部93は、画素選択部94により、画素選択部94が選択した画素8Aにおけるゲート電極53を選択する。
(空間光変調器の動作)
空間光変調器10Aの画素の書込みおよびそのエラー検出の方法は、空間光変調器10における動作と同様である。ただし、空間光変調器10Aにおいては、選択した画素8Aにおけるトランジスタ7により、光変調素子1BがY電極54に選択的に接続される。空間光変調器10Aは、ゲート電極53がY電極54と直交して設けられているので、X電極51BとY電極54を経由して供給される電流が、選択された画素8AとY電極54を共有する非選択の画素8Aの光変調素子1Bへ漏れない。したがって、空間光変調器10Aは、光変調素子1Bの抵抗の変化量が小さくても画素の書込みエラー検出が可能となって、応答速度を高速化することができ、画素の書込みにおいても、漏れ電流による損失が抑えられるので省電力化することができる。
〔第3実施形態:光変調素子〕
前記の別の実施形態に係る空間光変調器に搭載される光変調素子として、本発明の第3実施形態に係る光変調素子の製造方法にて製造される光変調素子(以下、適宜、第3実施形態に係る光変調素子と称する)について説明する。
図15に示すように、光変調素子1Bは、2つの磁化固定層11,12(第1磁化固定層、第2磁化固定層)と、2つの中間層21,22(第1中間層21、第2中間層22)と、1つの磁化自由層3と、を積層して備える。この光変調素子1Bは、2つの磁化固定層11,12を互いに離間して面方向に並べて形成し、第1磁化固定層11上に第1中間層21を、第2磁化固定層12上に第2中間層22を、それぞれ積層し、2つの中間層21,22およびその隙間も含めた全体に1つの磁化自由層3を積層して備える。光変調素子1Bは、必要に応じてさらに、磁化自由層3の上に保護膜43Aを備える。さらに、光変調素子1Bは、磁化自由層3下の、第1磁化固定層11/中間層21と第2磁化固定層12/中間層22との間に、エッチングストッパ膜(第1の絶縁膜)61、絶縁層(第2の絶縁膜)62が積層される(適宜、素子構造間絶縁層61/62と称する)。すなわち、光変調素子1Bは、第1実施形態に係る光変調素子1(図3参照)を、積層順を入れ替えて上下反転した構造であり(素子構造間絶縁層61/62における絶縁層61,62を除く)、素子構造間絶縁層61/62を除いた断面視が上下反転した略凹字型である。
また、光変調素子1Bは、下側に設けた2つの磁化固定層11,12を一対の電極51B,52Bに接続するために、電極51B,52Bの一部(接続部51c,52c)が上面に露出して設けられた基板71A上に、電極接続層(導電膜)51a,52aを形成したさらにその上に形成される。なお、図15は、図13のB−B線矢視断面図に相当するが、光変調素子1B、および基板71Aの上面近傍のみを示し、さらに光変調素子1Bに直接に接続しない電極53,54は省略する。また、図14(a)、(b)に示すように、画素8Aにおいて接続部51c,52cは同一断面に表れないが、図15では両方の断面を示すために、磁化固定層11,12間で断面の位置をY方向にシフトして示す。
光変調素子1Bは、光変調素子1と同様に、2つのスピン注入磁化反転素子を、磁化自由層を共有して接続した構造であり、光変調素子1と同様に、第1磁化固定層11、第1中間層21、磁化自由層3からなる第1素子構造MR1と、第2磁化固定層12、第2中間層22、磁化自由層3からなる第2素子構造MR2を備えるといえる(図4(a)参照)。そして、光変調素子1Bは、光変調素子1と同様に、磁化反転動作(図4(c)、(d)参照)し、それに伴い抵抗および光変調の向きが変化する。したがって、光変調素子1Bは、その平面視形状および面積は、第1実施形態にて光変調素子1について説明した通りである。ここでは、図13に示すように平面視において、光変調素子1Bは、光変調素子1(図1参照)と同様に正方形(矩形)である。以下、光変調素子を構成する各要素について説明する。
磁化固定層11,12、中間層21,22、磁化自由層3は、それぞれ第1実施形態に係る光変調素子1と同様の構造とする。ただし、本実施形態に係る光変調素子1Bでは、第2実施形態に係る光変調素子1Aと同様に、磁化自由層3にRE−TM合金を適用することができる。
また、光変調素子1Bは、第1実施形態に係る光変調素子1と同様に中間層21,22が同一の構造であってもよく、特にMgOで形成される場合に、磁化固定層11,12の一方のみ、ここでは第2磁化固定層12が、最上層すなわち中間層22との界面に、遷移金属膜を積層して備えることで、磁化反転に伴い抵抗が変化する。
(保護膜)
保護膜43Aは、光変調素子1の保護膜41,42と同様に最上層に設けられ、その下の磁化自由層3を光変調素子1Bの製造時におけるダメージから保護する。保護膜43Aは、保護膜41,42と同様に、Ta,Ru,Cuの単層、またはCu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成され、2層構造とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護膜43Aの厚さは、保護膜41,42と同様に1〜10nmとすることが好ましく、特に10nmを超えると光の透過が妨げられるので、より薄いことが好ましい。あるいは、光変調素子1Bにおいて磁化自由層3が電極に直接に接続されないことから、保護膜43Aは、絶縁層63等の材料のような光を透過する絶縁膜を適用してもよい。
(電極接続層)
電極接続層(導電膜)51a、電極接続層(導電膜)52aは、それぞれ第1電極51B、第2電極52Bの部品(接続層)であり、上に第1磁化固定層11、第2磁化固定層12が接続されるように、光変調素子1Bと共に形成される。前記したように、基板71Aの表面においては、光変調素子1Bが配置される領域の外に、第1電極51Bの接続部51c、および第2電極52Bの接続部52cが、露出して設けられる。そのため、図14(b)に二点鎖線で示すように、電極接続層51a,52aは、接続部51c,52cに接続するように光変調素子1Bの外側へ拡張して形成される。
さらに、電極接続層51a,52aは、第1中間層21と第1磁化固定層11、第2中間層22と第2磁化固定層12の、それぞれの合計の厚さが一致しない場合に、これらの上に形成される磁化自由層3に段差を生じさせないために、厚さを調整して設けられる。したがって、電極接続層51a,52aは、電極51B,52Bと同様に一般的な金属電極材料で形成される。また、電極接続層51a,52aは、光変調素子1B(磁化固定層11,12)を密着性よく設けるために、最上層(磁化固定層11,12との界面)に別の導電性材料からなる層(密着層)を積層した2層以上の構造(図示せず)としてもよい。電極接続層51a,52aにおける密着層は、Ta,Ru,Cu等の非磁性金属材料で形成することが好ましく、厚さ1〜10nmとすることが好ましい。厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えても密着層としての効果がそれ以上には向上しない。電極接続層51a,52aの全体の厚さは、第1電極51B、第2電極52Bの部品として流れる電流に対応した膜厚とし、一方で、磁化固定層11,12等と比較して極端に厚いと、成膜において膜厚の高精度な制御が困難となるため、適切な範囲で設計される。
(素子構造間絶縁層)
絶縁層61およびその上に積層される絶縁層62は、第1実施形態と同様に、光変調素子1Bにおける、第1磁化固定層11/中間層21と第2磁化固定層12/中間層22との間(スピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2間)を絶縁するために設けられる。さらに本実施形態においては、中間層21,22上面およびその間の領域を、磁化自由層3の下地面として、段差のない平坦な面に形成するために設けられる。絶縁層61,62は、それぞれ第1実施形態に係る光変調素子1と同様の構造とすることができる。絶縁層61は、本実施形態に係る光変調素子1Bでは、その下が磁化自由層3等の磁性膜ではないので、当該絶縁層61のエッチングによる熱等のダメージを考慮した薄膜としなくてよいが、エッチング面(基板71A上面)の平滑性やエッチング量(深さ)を制御するために、第1実施形態と同様に厚さ1〜5nmとすることが好ましい。なお、絶縁層61,62の合計の厚さ(素子構造間絶縁層61/62の厚さ)は、後記の製造方法にて説明するように、緻密に制御されることが好ましい。
〔第3実施形態:光変調素子の製造方法〕
本発明の第3実施形態に係る光変調素子の製造方法を、光変調素子が2次元配列された画素アレイ(図13、図14(a)参照)の製造にて、図17〜20を参照して説明する。本実施形態に係る光変調素子は、上面に当該光変調素子に接続する電極を露出させて、それらの間を埋める絶縁材料と共に平坦化された基板上に形成される。画素アレイは、まず、前記の基板を製造する基板製造工程S10(図17参照、以下同)を行ってから、基板表面に露出した電極に接続するように光変調素子を形成して製造される。
(基板製造工程)
基板製造工程S10は、半導体装置およびその多層配線の形成と同様に行うことができる。はじめに、Si基板70の表層にMOSFETでトランジスタ7を形成する(S11)。一例としては、p型シリコン(Si)基板に、隣り合うソース7s,7s間、ドレイン7d,7d間を絶縁するSiO2の埋込みを行い、表面に薄い酸化膜(SiO2膜)を形成し、その上にpoly−Si膜を成膜してゲート7gを形成する。n型不純物イオンを注入して、ソース7sおよびドレイン7dとする。
次に、電極51B,52B,53,54、およびこれらの間を埋める絶縁層65を形成し(S12)、上面を平坦化する(S13)。Si基板70上に層間絶縁膜(絶縁層65)を成膜して、フォトリソグラフィやエッチング、リフトオフ法等を用いて、トランジスタ7に接続する端子54e,52e,53e、ならびにY電極54の配線層、第2電極52Bおよびゲート電極53の各中継層(図示省略)を金属電極材料で形成する。同様に、層間絶縁膜および金属電極材料の成膜、加工を行って、ゲート電極53の配線層、X電極51Bの配線層51l、第2電極52Bの中継層52d(図15参照)まで形成する。
さらに絶縁膜(絶縁層65)を成膜し、配線層51l、中継層52d上の、光変調素子1Bを形成する領域の外に、フォトリソグラフィやエッチングにて開口部を形成する。その上に金属電極材料を成膜して絶縁層65の開口部に埋め込み、化学的機械研磨(CMP)等で上面を研削、研磨して、開口部の外の金属電極材料を除去し、さらに上面を平坦化、平滑化する。これにより、配線層51l、中継層52dに接続した接続部51c,52cが上面に露出して形成され、上面のそれ以外の領域が絶縁層65で平滑に形成された基板71Aが完成する。基板71Aの平坦化された上面は、光変調素子1Bの形成のための基準面(図15に一点鎖線で示す)となり、その表面粗さがより平滑であることが好ましく、具体的には算術平均粗さRaで0.5nm以下であることが好ましい。特にTMR素子を有する光変調素子1Bにおいて、その下地である基板71Aの上面を平坦に調整することで、TMR素子である第2素子構造MR2の第2中間層22(障壁層)の、磁化固定層12、磁化自由層3とのそれぞれの界面の平坦性が良好となり、磁気トンネル接合に好ましい。
以下、図18(a)に示す基板71Aの上面を基準面(図15の一点鎖線)として、その上に光変調素子1Bを形成して画素アレイ80Aを製造する方法を説明する。なお、図18〜20においては、第1、第2実施形態と同様に、画素アレイを、画素の2個分の部分を拡大して示す。また、図18〜20において、基板71Aは、上面近傍における第1電極51B(接続部51c)、第2電極52B(接続部52c)、および絶縁層65のみを示し、図15と同様に、接続部51c,52cの両方の断面を示す。
(光変調素子の形成)
本実施形態においては、光変調素子1Bは、基板71A上に、エッチングストッパ膜61(第1の絶縁膜)および絶縁層62(第2の絶縁膜)を順次成膜する絶縁膜成膜工程S30と、第1磁化固定層11/中間層21および第2磁化固定層12/中間層22、ならびにこれらの間を埋める素子構造間絶縁層61/62を形成する磁化固定層形成工程S40Bと、磁化自由層3を構成する材料を成膜する磁化自由層成膜工程S21Bを含んで磁化自由層3を形成する磁化自由層形成工程S20Bと、を行って形成される。以下、光変調素子1Bを形成するための各工程について詳細に説明する。
(絶縁膜成膜工程)
基板71A上に、エッチングストッパ膜(絶縁層)61、および絶縁層62を順次成膜して積層する(S31,S32)。各工程S31,S32は、第1実施形態に係る製造方法と同様である。ただし、絶縁層61,62の合計の厚さ(素子構造間絶縁層61/62の厚さ)が、第1磁化固定層11/中間層21、第2磁化固定層12/中間層22のそれぞれの合計の厚さの厚い方に、さらにその下の電極接続層51aまたは電極接続層52aの厚さを加算した値となるように、絶縁層62の厚さを調整する。
(磁化固定層形成工程)
磁化固定層形成工程S40Bは、磁化固定層11,12と中間層21,22の積層順を入れ替えて形成すること以外は、第1実施形態に係る製造方法における磁化固定層形成工程S40と同様に行うことができる。ただし、中間層21,22の上面の高さ位置を絶縁層62(素子構造間絶縁層61/62)の上面に合わせるために、電極接続層51a,52aのそれぞれの厚さを調整する。以下、手順を説明する。
図18(b)に示すように、絶縁層62上に、光変調素子1B(輪郭を太い二点鎖線で表す)の第1磁化固定層11を配置する領域と接続部51cとを包括して空けたレジストマスクPR1Bを形成する(S41)。レジストマスクPR1Bが、第1磁化固定層11を配置する領域を空けると共に、素子構造間絶縁層61/62および第2磁化固定層12が配置される領域を覆うパターンとする点は、第1実施形態に係る製造方法と同様である。本実施形態では、磁化固定層11等と同時に電極接続層51aを形成し、さらに電極接続層51aを後続の工程で加工せず、レジストマスクPR1Bのパターンでその形状が決定される。したがって、隣り合う電極接続層51a,51a同士等が短絡しないように、レジストマスクPR1Bは、図14(b)に二点鎖線で示す電極接続層51aの形状を空けたパターンに形成する。
次に、図18(c)に示すように、エッチングにて絶縁層62を除去する(S42)。さらに、図18(d)に示すように、エッチングストッパ膜61を完全に除去して、基板71A(絶縁層65、第1電極51B(51c))を露出させる(S43)。
図18(e)に示すように、電極接続層(導電膜)51a、第1磁化固定層11、および第1中間層21をそれぞれ構成する材料を連続して成膜する(S44B)。このとき、電極接続層51aの膜厚を調整して、絶縁層61,62のエッチング跡(基板71A上)に埋め込まれる第1中間層21の上面を絶縁層62の上面に揃える。そして、レジストマスクPR1Bをその上に成膜された材料と共に除去する(S45)。これにより、図19(a)に示すように、画素8A(図示せず)毎に第1磁化固定層11/中間層21が形成され、その間を絶縁層61/62で埋められた状態となり、さらに第1磁化固定層11の下に形成された電極接続層51aが接続部51cに接続して電極51Bが形成される。
第1磁化固定層11および第1中間層21の形成と同様に、第2磁化固定層12および第2中間層22を形成する。図19(b)に示すように、絶縁層62および第1中間層21の上に、光変調素子1B(図中に左側の1個のみ輪郭を太い二点鎖線で表す)の第2磁化固定層12を配置する領域と接続部52cとを包括して空けたレジストマスクPR2Bを形成する(S41)。レジストマスクPR2Bは、レジストマスクPR1Bと同様に、図14(b)に二点鎖線で示す電極接続層52aの形状を空けたパターンに形成する。そして、絶縁層62、エッチングストッパ膜61を順次エッチングして(S42,S43)、図19(c)に示すように、基板71A(絶縁層65、第2電極52B(52c))を露出させる。
図19(d)に示すように、電極接続層(導電膜)52a、第2磁化固定層12、および第2中間層22をそれぞれ形成する材料を連続して成膜する(S44B)。第1磁化固定層11等の形成時と同様に、電極接続層52aの膜厚を調整して、絶縁層61,62のエッチング跡(基板71A上)に埋め込まれる第2中間層22の上面を絶縁層62の上面に揃える。そして、レジストマスクPR2Bを除去する(S45)。これにより、図20(a)に示すように、画素8A(図示せず)毎に第2磁化固定層12/中間層22が形成され、第2磁化固定層12の下に形成された電極接続層52aが接続部52cに接続して電極52Bが形成される。さらに、第2磁化固定層12/中間層22および先に形成された第1磁化固定層11/中間層21の互いの間が絶縁層61/62で埋められ、さらに上面全体が中間層21,22および絶縁層62により段差のない平坦な面に形成される。
(磁化自由層形成工程)
中間層21,22および絶縁層62上に、磁化自由層3および保護膜43Aをそれぞれ形成する材料を連続して成膜する(S21B)。このとき、中間層21,22への密着性を高くするために、表面に、第1実施形態と同様にクリーニングを行ってから、磁化自由層3を成膜することが好ましい。そして、図20(b)に示すように、保護膜43A上の、磁化自由層3を配置する領域に、レジストマスクPR3を形成する(S22)。次に、図20(c)に示すように、イオンミリング等のエッチングにて保護膜43A、磁化自由層3、中間層21,22、および磁化固定層11,12を加工して(S23B)、光変調素子1Bが形成される。本実施形態においては磁化固定層11,12まで加工しているが、少なくとも磁化自由層3が光変調素子1B毎に完全に分離されればよく、その下の中間層21,22、さらには磁化固定層11,12の上層の一部または全部が、電極接続層51a,52aと同じ平面視形状で残存してもよい(後記第4実施形態参照)。一方、電極接続層51a,52aも一部エッチングされてもよいが、電極51B,52Bとして十分な厚さで残存させる。
光変調素子1Bの高さ(保護膜43Aの上面)まで絶縁材料を成膜し(S24)、レジストマスクPR3を除去する(S25)。これにより、図20(d)に示すように、隣り合う光変調素子1B,1B間を埋める絶縁層63(図中、輪郭(上面)のみを示す)が形成され、画素アレイ80A(図14(a)参照)が完成する。また、電極接続層51a,52a同士の間は、絶縁層61/62で埋められている。あるいは、レジストマスクPR3を除去してから、絶縁材料を成膜して絶縁層63を形成してもよく、この場合は、光変調素子1B(磁化自由層3)の上にも絶縁層63が被覆される(図示せず)。
光変調素子1Bは、画素アレイ80Aにおいて列単位で1本のX電極51Bに接続されるので、Y方向に隣り合う光変調素子1B,1B,…,1Bのそれぞれの第1磁化固定層11に接続する電極接続層51a、あるいはさらに当該第1磁化固定層11および第1中間層21は、Y方向に連続して形成されてもよい。したがって、レジストマスクPR1Bは、Y方向に連続して領域を空けたパターンに形成されてもよい(図示せず)。
第1磁化固定層11/中間層21、第2磁化固定層12/中間層22の形成の順序は、第1、第2実施形態に係る製造方法と同様に、特に限定されない。ただし、先に形成された第1中間層21は、その表面に、第2磁化固定層12/中間層22を形成するためのレジストマスクPR2Bが形成される(図19(b)参照)。そのため、CPP−GMR素子の中間層としてある程度の厚さを有する第1中間層21を、例えば保護膜43A等の材料としても適用されるCuで形成することで、第2磁化固定層12/中間層22の形成時(2回目の磁化固定層形成工程S40B)において、第1中間層21自身およびその下の第1磁化固定層11に対する保護膜とすることができる。また、第2中間層22の厚さや絶縁材料の種類によっては、具体的には厚さが1nm以上であれば、第2磁化固定層12/中間層22を先に形成してもよい。
以上のように、第3実施形態に係る光変調素子の製造方法によれば、並設デュアルピン構造としたスピン注入磁化反転素子であって、第1磁化固定層11/中間層21、第2磁化固定層12/中間層22を互いに異なる膜構造として、上に1つの磁化自由層を備える光変調素子1Bを形成することができる。さらに、磁化固定層11,12等の形成後に磁化自由層3の磁性材料を成膜するので、磁化自由層3にRE−TM合金を適用することができる。
〔第4実施形態:光変調素子〕
第2実施形態に係る光変調素子の製造方法にて製造される光変調素子(図12(e)参照)のように、障壁層を分離せずに一体に形成した構造についても、積層順を上下反転して磁化固定層を下側に設けた構造に製造することができる。以下、図21〜23を参照して、第4実施形態に係る光変調素子の製造方法、およびこの製造方法にて製造される光変調素子(以下、適宜、第4実施形態に係る光変調素子と称する)について説明する。本実施形態に係る製造方法および光変調素子については、第1〜第3実施形態(図1〜20参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
光変調素子1C(図23(d)、(e)参照)は、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12の上にその隙間も含めて1つの中間層(障壁層)2Aが設けられている以外は、図14および図15に示す光変調素子1Bと同様の構造であり、また、第2実施形態に係る光変調素子1A(図12(e)参照)を、積層順を入れ替えて上下反転した構造である(素子構造間絶縁層61/62を除く)。そして、光変調素子1Cは、このような構成であるので、光変調素子1,1A,1Bと同様に、図4(c)、(d)に示すように、電極51,52Bから電流を供給されて磁化自由層3の磁化が反転する。
磁化固定層11,12、障壁層2A、磁化自由層3は、それぞれ第2実施形態に係る光変調素子1Aと同様の構造とし、保護膜43A、絶縁層61,62、および電極接続層51a,52aは、それぞれ第3実施形態に係る光変調素子1Bと同様の構造とする。ただし、第4実施形態に係る製造方法で製造される光変調素子1Cでは、磁化固定層11,12にRE−TM合金を適用することは好ましくない。
本実施形態に係る光変調素子1Cは、第3実施形態に係る光変調素子1Bと同様に、トランジスタ7および電極51B,52B,53,54を形成された基板71A上に形成されて、図13および図14に示す空間光変調器10Aの画素8Aに用いられる。このような空間光変調器10Aは、光変調素子1Bを用いたものと同様に、画素の書込みおよび光変調動作をすることができ、さらに、第2実施形態に係る光変調素子1Aと同様に、磁化固定層11,12の一方に遷移金属膜を積層することで、画素の書込みのエラー検出をすることができる。
〔第4実施形態:光変調素子の製造方法〕
本発明の第4実施形態に係る光変調素子の製造方法を、第3実施形態と同様に、光変調素子が2次元配列された画素アレイ(図13、図14参照)の製造にて説明する。本実施形態において、画素アレイは、第3実施形態と同様に、上面に電極の一部を露出させた基板を製造する基板製造工程S10(図21参照、以下同)を行ってから、光変調素子を形成して製造される。基板製造工程S10は、第3実施形態に係る製造方法と同様であるので説明を省略する。
第4実施形態に係る光変調素子の製造方法においては、図21に示すように、光変調素子1Cは、基板71A上に、エッチングストッパ膜61(第1の絶縁膜)および絶縁層62(第2の絶縁膜)を順次成膜する絶縁膜成膜工程S30と、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12、ならびにこれらの間を埋める素子構造間絶縁層61/62を形成する磁化固定層形成工程S40Cと、磁化自由層3を構成する材料を障壁層2Aと共に成膜する磁化自由層成膜工程S21Cを含んで磁化自由層3を形成する磁化自由層形成工程S20Cと、を行って形成される。さらに磁化固定層形成工程S40Cにおいて、磁化固定層11,12上に一時的な保護膜(仮保護膜)C1,C2を形成して、磁化自由層成膜工程S21Cの前に仮保護膜C1,C2を除去する仮保護膜除去工程S50を行う。以下、光変調素子1Cを形成するための各工程について詳細に説明する。
(絶縁膜成膜工程)
第3実施形態に係る製造方法と同様に、基板71A上に、エッチングストッパ膜(絶縁層)61、および絶縁層62を順次成膜して積層する(S31,S32)。ただし、絶縁層61,62の合計の厚さ(素子構造間絶縁層61/62の厚さ)が、第1磁化固定層11、第2磁化固定層12の厚さの厚い方に、その下の電極接続層51aまたは電極接続層52aの厚さ、および後記の仮保護膜C1,C2の膜厚を加算した値となるように、絶縁層62の厚さを調整する。
(磁化固定層形成工程)
磁化固定層形成工程S40Cは、中間層21,22に代えて仮保護膜C1,C2を形成すること以外は、レジストマスクPR1B,PR2Bのパターン形状も含めて第3実施形態に係る製造方法における磁化固定層形成工程S40Bと同様に行うことができる。磁化固定層形成工程S40Cにおいては磁化固定層11,12が障壁層2Aで被覆されず、磁化固定層11,12を製造時におけるダメージから保護するために、特に、先に形成される第1磁化固定層11の上に第2磁化固定層12を形成するためのレジストマスクPR2Bが形成されることになるため、仮保護膜C1,C2を形成する。
仮保護膜C1,C2は、Ru等の、保護膜43Aの材料として挙げたものが適用できる。仮保護膜C1,C2は、磁化固定層11,12の保護膜として機能するように厚さ1nm以上が好ましく、一方、厚くすると、除去(仮保護膜除去工程S50)の際のエッチング量が多くなって、その下の磁化固定層11,12にダメージを与える虞があるので、エッチング量を抑えるために厚さ5nm以下が好ましく、3nm以下がより好ましい。
第3実施形態に係る製造方法と同様に、絶縁層62上に、光変調素子1Cの第1磁化固定層11を配置する領域と接続部51cとを包括して空けたレジストマスクPR1Bを形成する(S41)。そして、絶縁層62、エッチングストッパ膜61をそれぞれエッチングにて除去して(S42,S43)、図22(a)に示すように、基板71A(絶縁層65、第1電極51B(51c))を露出させる。
図22(b)に示すように、電極接続層(導電膜)51a、第1磁化固定層11、および仮保護膜C1をそれぞれ構成する材料を連続して成膜する(S44C)。このとき、第3実施形態に係る製造方法における磁化固定層形成工程S40B(S44B)と同様に、電極接続層51aの膜厚を調整して、絶縁層61,62のエッチング跡(基板71A上)に埋め込まれる仮保護膜C1の上面を絶縁層62の上面に揃える。そして、レジストマスクPR1Bをその上に成膜された材料と共に除去する(S45)。これにより、画素8A(図示せず)毎に第1磁化固定層11/仮保護膜C1が形成され、その間を絶縁層61/62で埋められた状態となり、さらに第1磁化固定層11の下に形成された電極接続層51aが接続部51cに接続して電極51Bが形成される。
第1磁化固定層11および仮保護膜C1の形成と同様に、第2磁化固定層12および仮保護膜C2を形成する。図22(c)に示すように、絶縁層62および仮保護膜C1の上に、光変調素子1Cの第2磁化固定層12を配置する領域と接続部52cとを包括して空けたレジストマスクPR2Bを形成する(S41)。そして、絶縁層62、エッチングストッパ膜61を順次エッチングして(S42,S43)、基板71A(絶縁層65、第2電極52B(52c))を露出させる。
図22(d)に示すように、電極接続層(導電膜)52a、第2磁化固定層12、および仮保護膜C2をそれぞれ形成する材料を連続して成膜する(S44C)。このとき、第1磁化固定層11等の形成時と同様に、電極接続層52aの膜厚を調整して、絶縁層61,62のエッチング跡(基板71A上)に埋め込まれる仮保護膜C2の上面を絶縁層62の上面に揃える。そして、レジストマスクPR2Bを除去する(S45)。これにより、図23(a)に示すように、画素8A(図示せず)毎に第2磁化固定層12/仮保護膜C2が形成され、第2磁化固定層12の下に形成された電極接続層52aが接続部52cに接続して電極52Bが形成される。さらに、第2磁化固定層12/仮保護膜C2および先に形成された第1磁化固定層11/仮保護膜C1の互いの間が絶縁層61/62で埋められ、さらに上面全体が仮保護膜C1,C2および絶縁層62により段差のない平坦な面に形成される。
(仮保護膜除去工程)
図23(b)に示すように、全面エッチングにより、仮保護膜C1,C2を完全に除去して、磁化固定層11,12を露出させる。このとき、絶縁層62を含めて表層を一様な厚さでエッチングして、エッチング面を平坦に形成する。
(磁化自由層形成工程)
磁化固定層11,12および絶縁層62上に、障壁層2A、磁化自由層3、および保護膜43Aをそれぞれ形成する材料を連続して成膜する(S21C)。このとき、磁化固定層11,12への密着性を高くするために、表面に、第1実施形態と同様にクリーニングを行ってから障壁層2Aを成膜することが好ましく、あるいは仮保護膜C1,C2の除去(S50)から連続して成膜することが好ましい。そして、図23(c)に示すように、保護膜43A上の、磁化自由層3を配置する領域に、レジストマスクPR3を形成する(S22)。次に、図23(d)に示すように、エッチングにて保護膜43Aおよび磁化自由層3を加工して、1個ずつに分離された光変調素子1Cが形成される(S23C)。
光変調素子1Cの高さ(保護膜43Aの上面)まで絶縁材料を成膜し(S24)、レジストマスクPR3を除去する(S25)。これにより、図23(e)に示すように、隣り合う光変調素子1C,1Cのそれぞれの磁化自由層3同士の間を埋める絶縁層63が形成され、画素アレイ80A(図14(a)参照)が完成する。ここでは、磁化自由層3と共に成膜された障壁層2Aが光変調素子1C,1C間に残存しているが、障壁層2Aは絶縁膜であるので、絶縁層63および絶縁層61/62と共に、光変調素子1C,1C間(第1磁化固定層11,11間、第2磁化固定層12,12間)を絶縁する。
磁化自由層3の成形においては、当該磁化自由層3のみをエッチングしたが(S23C)、障壁層2A、さらに第3実施形態と同様に磁化固定層11,12までエッチングしてもよい。また、本実施形態のように磁化固定層11,12を光変調素子1C(磁化自由層3)の外側でエッチングしないまたは十分な厚さで残存させることによって、電極接続層51a,52aの一方または両方を設けない構造とすることもできる。特に、第1磁化固定層11と第2磁化固定層12(または第1磁化固定層11/中間層21と第2磁化固定層12/中間層22)の厚さの差がない場合には、電極接続層51a,52aを設けずに、磁化固定層11,12を直接にまたは下地膜を介して電極51B,52Bの接続部51c,52cに接続することができる。また、例えば図15に示す光変調素子1Bのように第1磁化固定層11/中間層21の方が厚い場合には、その下の電極接続層51aは設けずに、電極接続層52aのみで厚さの差を埋めてもよい(図示せず)。
絶縁層62と仮保護膜C1,C2のエッチングレートが異なり、全面エッチング(仮保護膜除去工程S50)により上面に段差が生じる場合は、仮保護膜C1,C2のエッチング後の絶縁層62と磁化固定層11,12との上面の高さ位置が揃うように、絶縁層62の膜厚を調整する。あるいは、絶縁層62の成膜(S32)において、上面の高さ位置を磁化固定層11,12に合わせ、絶縁層62上に仮保護膜C1,C2と同じ膜を積層してもよい(図示せず)。この場合は、絶縁層62のエッチング(S42)の前に絶縁層62上の仮保護膜をエッチングにて除去する。
第3実施形態に係る製造方法のように、磁化固定層形成工程S40B(図17参照)にて中間層21,22を磁化固定層11,12と共に形成する場合も、中間層21,22上に仮保護膜C1,C2を成膜して、磁化自由層形成工程S20Bの前に除去(S50)してもよい。
以上のように、第4実施形態に係る光変調素子の製造方法によれば、2つのTMR素子を備える並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子であって、互いに異なる構造の第1磁化固定層11、第2磁化固定層12の上に、1つの障壁層2A、磁化自由層3を備える光変調素子1Aを形成することができ、さらに、磁化自由層3に磁気光学効果の大きいGd−FeのようなRE−TM合金を適用することができる。
〔空間光変調器の変形例〕
なお、空間光変調器10Aの画素8Aにおいて、選択素子はトランジスタに限られず、例えばダイオードが適用されてもよく、カソードを第2電極52Bに、アノードをY電極54に、それぞれ接続する(図示せず)。この場合に、ゲート電極53および素子選択部93は不要である。ダイオードは、シリコン(Si)ダイオード等の一般的なものが挙げられる。
また、第3、第4実施形態に係る製造方法で製造された光変調素子1B,1Cは、空間光変調器の画素において選択素子(トランジスタ7)に接続せず、第1、第2実施形態に係る製造方法で製造された光変調素子1,1Aと同様に、クロスポイント型のMRAMと同じ回路構造の画素アレイの空間光変調器(図5参照)に備えることができる。この場合には、第2電極52Bは、トランジスタ7を経由せずにY電極54に接続して形成され、すなわち空間光変調器10のY電極52と同様の構造とする(図2、図3参照)。
一方、第1、第2実施形態に係る製造方法で製造された光変調素子1,1Aは、空間光変調器の画素においてトランジスタやダイオードに接続されてもよい(図示せず)。この場合は、光変調素子1を基板71上に形成後に、さらにその上にトランジスタ等を形成することになる。ただし、トランジスタやダイオードの一般的な材料である結晶Siの形成には高温の熱処理が行われ、光変調素子1にダメージを与えるため、150℃程度で成膜の可能な多結晶シリコン(poly−Si)を適用する。
〔光変調素子のその他の構成〕
光変調素子1,1A,1B,1Cは、2つのスピン注入磁化反転素子構造、すなわち2つの磁化固定層11,12(および中間層21,22)を備える構成としたが、3つ以上備える構成の光変調素子であっても、本発明に係る製造方法を適用することができる。このような光変調素子において、膜構造が同一の磁化固定層、または磁化固定層と中間層を備える場合は、これらを同時に形成することができる。
以上、本発明の光変調素子の製造方法を実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
本発明の効果を確認するために、素子構造間絶縁層61/62(エッチングストッパ膜61および絶縁層62)を模擬したサンプルに、絶縁層62のエッチング(絶縁膜第1除去工程)を行い、その断面形状を観察した。サンプルとして、表面の算術平均粗さRa:0.3nmのSi基板上に、エッチングストッパ膜:MgO(膜厚5nm)、絶縁層:SiO2(膜厚48nm)を積層した。その上にネガレジストで幅1.1μmの領域を空けたパターンのマスクを形成し、RIEにより、SiO2をエッチングレートによる換算で厚さ53nmエッチングする条件のオーバーエッチング処理をして、レジストマスクを除去した。
前記のエッチングを行ったサンプルについて、原子間力顕微鏡(AFM)で、表面形状を観察し、断面プロファイルをAFM像写真と共に図24に示す。
図24に示すように、エッチング後のサンプルは、底面(エッチング面)が平坦かつ平滑に形成され、立ち上がりも垂直に近い順テーパ状であり、また、底面までのエッチング深さがほぼ48nmであった。これは、SiO2膜へのオーバーエッチングによりSiO2膜(絶縁層)が完全に除去され、かつMgO膜(エッチングストッパ膜)により、エッチングがSiO2膜の膜厚分の48nmの深さで、すなわちMgO/SiO2の界面で停止されたことを示すといえる。このことから、このSiO2膜(絶縁層)のエッチング後に、MgO膜(エッチングストッパ膜)を、成膜時の膜厚に基づいてイオンミリング等で浅くエッチングして、下地まで加工することなく完全に除去することができ、さらにその後に、埋込みにて磁化固定層(または磁化固定層と中間層)を好適な形状に形成することができることが確認された。
10,10A 空間光変調器
1,1A,1B,1C 光変調素子
11 第1磁化固定層(磁化固定層)
12 第2磁化固定層(磁化固定層)
21 第1中間層(中間層)
22 第2中間層(中間層)
2A 障壁層
3 磁化自由層
41,42,43A 保護膜
43 下地膜
51 第1電極、X電極
51B 第1電極、X電極
51a 電極接続層(導電膜)
52 第2電極、Y電極
52B 第2電極
52a 電極接続層(導電膜)
61 絶縁層、エッチングストッパ膜(第1の絶縁膜)
62 絶縁層(第2の絶縁膜)
63,64,65 絶縁層
71,71A 基板
80,80A 画素アレイ
8,8A 画素
S20,S20A,S20B,S20C 磁化自由層形成工程
S21,S21B,S21C 磁化自由層成膜工程
S30,S30A 絶縁膜成膜工程
S40,S40A,S40B,S40C 磁化固定層形成工程
S41 マスク工程
S42 絶縁層エッチング工程(絶縁膜第1除去工程)
S43 エッチングストッパ膜エッチング工程(絶縁膜第2除去工程)
S44,S44A,S44B,S44C 磁化固定層成膜工程
S45 レジスト除去工程(リフトオフ工程)
S50 仮保護膜除去工程

Claims (7)

  1. 磁化自由層および磁化固定層を中間層を挟んで積層したスピン注入磁化反転素子構造を備え、前記磁化自由層の一面側に当該面内方向に互いに分離した2以上の前記磁化固定層が前記中間層を挟んで設けられた光変調素子の製造方法であって、
    基板上に、第1の絶縁膜、および前記第1の絶縁膜と異なる材料からなる第2の絶縁膜を順次成膜する絶縁膜成膜工程と、
    前記2以上の磁化固定層、および前記磁化固定層同士を絶縁する絶縁層を形成する磁化固定層形成工程と、を行い、
    前記絶縁膜成膜工程の前または前記磁化固定層形成工程の後に、前記磁化自由層を構成する材料を成膜する磁化自由層成膜工程をさらに行い、
    前記磁化固定層形成工程は、前記2以上の磁化固定層の少なくとも1つを配置する領域を空けたレジストマスクを形成するマスク工程と、
    前記レジストマスクを空けた領域において、前記第1の絶縁膜を残存させつつ前記第2の絶縁膜を除去する絶縁膜第1除去工程と、
    前記領域における前記第1の絶縁膜を除去する絶縁膜第2除去工程と、
    前記少なくとも1つの磁化固定層を構成する材料を成膜する磁化固定層成膜工程と、
    前記レジストマスクをその上に成膜した材料と共に除去するリフトオフ工程と、を2回以上繰り返し行い、前記磁化固定層成膜工程で成膜される膜構造が毎回異なり、
    前記磁化固定層成膜工程または前記磁化自由層成膜工程は、前記中間層を構成する材料をさらに成膜して積層することを特徴とする光変調素子の製造方法。
  2. 前記磁化自由層成膜工程を前記磁化固定層形成工程の後に行い、
    前記磁化固定層形成工程は、前記磁化固定層成膜工程において、最上層に仮保護膜をさらに成膜し、
    前記磁化自由層成膜工程の前に、前記仮保護膜を除去する仮保護膜除去工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の光変調素子の製造方法。
  3. 前記磁化自由層成膜工程を前記磁化固定層形成工程の後に行い、
    前記磁化固定層成膜工程において、導電膜を成膜して、その上に前記磁化固定層を構成する材料を成膜することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光変調素子の製造方法。
  4. 前記磁化自由層成膜工程は、前記中間層を構成する材料をさらに成膜し、かつ前記絶縁膜成膜工程の前に行い、
    前記絶縁膜成膜工程において、前記中間層を前記第1の絶縁膜とすることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子の製造方法。
  5. 前記絶縁膜成膜工程において、前記第1の絶縁膜の厚さが1〜5nmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の光変調素子の製造方法。
  6. 前記絶縁膜成膜工程において、前記第1の絶縁膜をMgOで形成することを特徴とする請求項5に記載の光変調素子の製造方法。
  7. 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の光変調素子の製造方法により、基板上に、光変調素子を2次元配列して形成した空間光変調器。
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