JP2019066652A - 磁壁移動型空間光変調器 - Google Patents
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Abstract
【課題】より簡易なプロセスで設計の自由度を狭めることなく、強磁性層の保磁力制御を容易に実現可能な磁壁移動型空間光変調器を提供すること。【解決手段】入射した光の偏光の向きを変化させて出射する光変調部3と、光変調部3の両端に配置され、互いに異なる保磁力を有する第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2と、を有する磁壁移動型空間光変調素子10を備える磁壁移動型空間光変調器100であって、第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2はいずれも、強磁性材料からなる第1強磁性層11,21と、第1強磁性層11,21上に形成され、強磁性材料からなることで第1強磁性層11,21と強磁性交換結合する第2強磁性層30と、を有し、第2強磁性交換結合部2のみが、第2強磁性層30上に形成され第2強磁性層30の保磁力を低下又は増加させる保磁力制御層60をさらに有する磁壁移動型空間光変調器100である。【選択図】図4
Description
本発明は、視域の広い立体ホログラフィ用空間光変調器として有望な磁壁移動により光変調領域の磁区構造を制御することで光の明暗を表示する磁気光学式空間光変調器(以下、「磁壁移動型空間光変調器」と言う。)に関する。
従来、立体ホログラフィにおいて実用に足る30度以上の視域を確保するためには、表示装置である空間光変調器(SLM)の画素ピッチを1ミクロン以下にする必要がある。液晶やデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)等、既存のSLMは画素ピッチが5ミクロン程度であり、これ以上の微細化は困難である。一方で、画素の書き換えにスピン注入磁化反転や磁壁移動を用いた磁気光学式空間光変調器(MOSLM)は、光利用効率や動作電流等の観点から性能改善の必要はあるものの、1ミクロン程度の画素ピッチを実現することができる(例えば、特許文献1参照)。
MOSLMは、磁化の向きに応じた光の偏光面の回転を明暗に割り当てることにより光の変調を実現するデバイスである。ここで、出願人が提案済みである磁壁移動型SLMは、光変調層の両端に磁化固定層を配した構造により、光変調層に流す電流の向きによって磁区の拡大・縮小を制御することができる(例えば、特許文献2参照)。磁壁移動型SLMは、スピン注入磁化反転を用いたMOSLMに比べて、低消費電力が期待できる一方で、光変調層と両端の磁化固定層(第1磁化固定層及び第2磁化固定層)という3種類の強磁性層に十分な保磁力差を与えるとともに、複雑なデバイス構造を精密に作製する等、1ミクロン以下を前提とする1画素内で高度なデバイス設計を実現する必要がある。
そこで出願人は、上記特許文献2において、磁化固定層と光変調層が強磁性結合していることを特徴とする磁壁移動型SLMを提案している。この特許文献2のような構成とすることで、作製が困難な磁壁移動型SLMを比較的容易に作製することができる。
ところで、上記磁壁移動型SLMでは、第1磁化固定層と第2磁化固定層といった2つの強磁性層間に保磁力差を持たせるために、両者に保磁力の異なる材料・層構成の強磁性材料を適用するか、あるいは両者の形状を変えて形状磁気異方性による保磁力差を設計する必要がある。しかしながら、前者の方法では、2つの強磁性層を別々の微細加工プロセスによって形状加工する必要があり、高い表面平坦性が必要な光変調層を製膜・微細加工する直前のプロセスが複雑となる。また、後者の方法では、プロセスは単純だが、画素内の限られたスペースで電極や光変調部との位置合わせの設計マージンに加えて形状異方性を得るための形状設計が必要となり、自由なデバイス形状設計の妨げとなる。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡易なプロセスで設計の自由度を狭めることなく、強磁性層の保磁力制御を容易に実現可能な磁壁移動型空間光変調器を提供することにある。
(1) 上記目的を達成するため本発明は、入射した光の偏光の向きを変化させて出射する光変調部(例えば、後述の光変調部3)と、前記光変調部の両端に配置され、互いに異なる保磁力を有する第1強磁性交換結合部(例えば、後述の第1強磁性交換結合部1)及び第2強磁性交換結合部(例えば、後述の第2強磁性交換結合部2)と、を有する磁壁移動型空間光変調素子(例えば、後述の磁壁移動型空間光変調素子10)を備える磁壁移動型空間光変調器(例えば、後述の磁壁移動型空間光変調器100)であって、前記第1強磁性交換結合部及び前記第2強磁性交換結合部はいずれも、強磁性材料からなる第1強磁性層(例えば、後述の第1磁化固定層11及び後述の第2磁化固定層21)と、前記第1強磁性層上に形成され、強磁性材料からなることで前記第1強磁性層と強磁性交換結合する第2強磁性層(例えば、後述の光変調層30)と、を有し、前記第2強磁性交換結合部のみが、前記第2強磁性層上に形成され前記第2強磁性層の保磁力を低下又は増加させる保磁力制御層(例えば、後述の保磁力制御層60)をさらに有する磁壁移動型空間光変調器を提供する。
(2) (1)の磁壁移動型空間光変調器において、前記保磁力制御層は、Fe、Co、Ni、これらの合金、又はこれらの化合物で構成される磁性材料からなることで、前記第2強磁性層と強磁性交換結合して前記第2強磁性層の保磁力を低下させるものでもよい。
(3) (1)の磁壁移動型空間光変調器において、前記保磁力制御層は、Gd層、又はTb層からなることで、前記第2強磁性層の保磁力を増加させるものでもよい。
(4) (1)の磁壁移動型空間光変調器において、前記保磁力制御層は、希土類と遷移金属の合金であるRE−TM合金、又は強磁性金属膜と非磁性金属膜が交互に積層された人工格子多層膜からなることで、前記第2強磁性層と強磁性交換結合して前記第2強磁性層の保磁力を低下又は増加させるものでもよい。
(5) (4)の磁壁移動型空間光変調器において、前記RE−TM合金が、SmCo、TbCo、TbFeCo、GdFe、又はGdFeCoであってもよい。
(6) (4)の磁壁移動型空間光変調器において、前記人工格子多層膜が、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜、又はCo/Ni多層膜であってもよい。
(7) (1)から(6)いずれかの磁壁移動型空間光変調器において、前記第2強磁性層は、TbCo層、TbFeCo層、GdFe層、又はGdFeCo層からなるものでもよい。
(8) (1)から(7)いずれかの磁壁移動型空間光変調器において、前記第1強磁性層は、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜、又はTbFeCoからなるものでもよい。
(9) (1)から(8)いずれかの磁壁移動型空間光変調器において、前記第1強磁性交換結合部及び前記第2強磁性交換結合部はいずれも、前記第1強磁性層上に形成され、非磁性金属からなる非磁性金属層(例えば、後述の非磁性金属層12,22)と、前記非磁性金属層上に形成され、酸化物又は窒化物からなるバッファ層(例えば、後述のバッファ層13,23)と、をさらに有するものでもよい。
(10) (1)から(9)いずれかの磁壁移動型空間光変調器において、前記第2強磁性交換結合部は、前記第2強磁性層上に形成され、非磁性金属からなる非磁性金属層と、前記非磁性金属層上に形成され、酸化物又は窒化物からなるバッファ層と、をさらに有するものでもよい。
(11) (9)又は(10)の磁壁移動型空間光変調器において、前記バッファ層は、MgO、Al2O3、MgAl2O4、TiO2、ZnO、又はRuO2からなるものでもよい。
(12) (9)から(11)いずれかの磁壁移動型空間光変調器において、前記非磁性金属層は、Pt層、Pd層、Ru層、W層、又はTa層からなるものでもよい。
本発明によれば、より簡易なプロセスで設計の自由度を狭めることなく、強磁性層の保磁力制御を容易に実現可能な磁壁移動型空間光変調器を提供できる。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、共通する構成については同一の符号を付している。また、説明の便宜上、図中の上下左右を磁壁移動型空間光変調素子の上下左右として説明する。
図1は、特許文献2に記載の磁壁移動型空間光変調器の構成を示す斜視図である。図2は、特許文献2に記載の磁壁移動型空間光変調器の構成を示す側面図である。図3は、特許文献2に記載の磁壁移動型空間光変調器の動作を示す図である。図1及び図3中の矢印は、磁化方向の向きを示している。
これら図1〜図3に示すように、特許文献2に記載の磁壁移動型空間光変調器90は、磁壁移動を利用した磁壁移動型空間光変調素子91を備える。本発明の一実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器は、その基本構成は図1〜図3に示す特許文献2に記載の磁壁移動型空間光変調器90の構成と同様であるため、以下、その基本構成について詳しく説明する。
図1に示すように、磁壁移動型空間光変調素子91は、図示しないSi等の基板上に形成され、第1強磁性交換結合部1と、第2強磁性交換結合部2と、光変調部3と、を有する。
第1強磁性交換結合部1と第2強磁性交換結合部2は、それぞれ図示しないCu、Al、Au、Ag、Ru、Ta、Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される下部電極を最下層に有し、この下部電極にパルス電流源9が接続されることでパルス電流を印加可能となっている。
第1強磁性交換結合部1と第2強磁性交換結合部2は、それぞれ図示しないCu、Al、Au、Ag、Ru、Ta、Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される下部電極を最下層に有し、この下部電極にパルス電流源9が接続されることでパルス電流を印加可能となっている。
磁壁移動型空間光変調素子91の形状については特に限定されないが、例えば図1に示すように、光変調部3が所定方向に延びる平板状に形成され、その両端に第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2が配置された形状が挙げられる。光変調部3と第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2の上面は連続して面一とされ、第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2の厚みは光変調部3の厚みよりも厚くなっている。
図2に示すように、第1強磁性交換結合部1は、第1磁化固定層11と、非磁性金属層12及びバッファ層13と、光変調層30と、がこの順に積層されて構成される。
第1磁化固定層11は、強磁性材料からなり、本発明の第1強磁性層に相当する。第1磁化固定層11は、磁化方向が一方向に固定された層であり、大きな保磁力を有する。第1磁化固定層11は、後述する光変調層30と同一方向の磁気異方性を有し、光変調層30に垂直磁気異方性を有する強磁性材料を用いた場合には、第1磁化固定層11も垂直磁気異方性を有する強磁性材料を用いる。好ましくは、第1磁化固定層11及び光変調層30ともに、垂直磁気異方性を有する強磁性材料で構成される。
第1磁化固定層11は、磁化が垂直方向に固定された磁化固定層と磁化の方向が反転可能な磁化自由層で非磁性層を挟持する構造の垂直磁気異方性を有するCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子やTMR素子等の磁化固定層として公知の強磁性材料で構成可能である。具体的には、Fe、Co、Niのような遷移金属及びそれらを含む合金、例えばTbFe系、TbFeCo系、CoCr系、CoPt系、CoPd系、FePt系の合金を用いることができる。これにより、第1磁化固定層11の保磁力を大きくすることができ、第1磁化固定層11の磁化方向が外部磁場によって容易に変化しないように固定することが可能となる。
また、第1磁化固定層11は、これらの遷移金属の層と非磁性金属の層とを交互に積層した多層の積層体で構成してもよく、Co/Pt、Fe/Pt、Co/Pd等の多層膜を用いることができる。これらの強磁性材料を用いることにより、強い垂直磁気異方性を有するとともに、大きな保磁力を有する第1磁化固定層11が得られる。
ここで、上述の多層膜は、熱処理することにより保磁力が増大する特性を有する。そのため、上述の多層膜からなる第1磁化固定層11を熱処理してその保磁力を増大させると、光変調層30と結合した後の強磁性交換結合部の保磁力もより大きくなり、光変調部3との保磁力差をより大きくすることができる。
非磁性金属層12及びバッファ層13は、第1磁化固定層11と光変調層30との間に配置され、第1磁化固定層11と光変調層30の間の磁気的結合を保つようにすることができる。
非磁性金属層12は、上述の第1磁化固定層11上に積層されて形成される。この非磁性金属層12は、後述する製造工程において、第1磁化固定層11にエッチングのダメージが及ばないようにするために設けられる。非磁性金属層12は、非磁性金属からなり、非磁性の各種金属の薄膜層を用いることができる。例えば、非磁性金属層12として、Ta、Mo、Ruを用いることができ、中でも、Taからなるものが好ましく用いられる。
バッファ層13は、上述の非磁性金属層12上に積層されて形成される。バッファ層13は、磁壁移動を利用した空間光変調素子でもTMR素子でも電流を流せることが必要であるため、薄膜化したときに抵抗が大き過ぎず、高い導電性を有するものである。また、バッファ層13は、後述する製造工程におけるエッチングのレートが遅く、且つSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)の検出感度が高い元素を含み、SIMS式エンドポイントモニターで見える材料であることが必要である。これにより、エッチングをバッファ層13で確実に止めることが可能となり、第1磁化固定層11にダメージが及ぶのを回避できる。
バッファ層13は、酸化物又は窒化物からなるもので構成される。より具体的には、バッファ層13は、MgO、Al2O3、MgAl2O4、TiO2、ZnO又はRuO2から構成されることが好ましい。中でも、バッファ層13としては、MgOからなるものが好ましく用いられる。このMgOからなるMgO層によれば、高い導電性を有し、エッチングのレートが遅いうえSIMS感度が高いバッファ層13を形成できる。
光変調層30は、上述のバッファ層13上に積層されて形成される。この光変調層30は、強磁性材料からなり、本発明の第2強磁性層に相当する。光変調層30は、公知の強磁性材料を適用でき、好ましくは磁気光学効果(カー効果)の大きい材料を適用する。磁気光学効果を大きくするためには、垂直磁気異方性を有する磁性層を用いることが好ましく、具体的には、Co/Pd多層膜のような遷移金属とPd、Pt、Cuとを繰り返し積層した多層膜、又はTbFeCo、GdFe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。中でも、光変調層30としては、GdFeからなるGdFe層が好ましく用いられる。
なお、光変調層30は、後述する第2強磁性交換結合部2における第2強磁性層を構成するとともに、光変調部3自体を構成する。
上述の構成からなる第1強磁性交換結合部1では、第1磁化固定層11と光変調層30は、非磁性金属層12及びバッファ層13を介して強磁性交換結合されている。この強磁性交換結合により、第1磁化固定層11の磁化方向と第1強磁性交換結合部1における光変調層30の磁化方向は同時反転する。
第2強磁性交換結合部2は、第2磁化固定層21と、非磁性金属層22及びバッファ層23と、光変調層30と、がこの順に積層されて構成される。
また、第2強磁性交換結合部2では、第1強磁性交換結合部1と同様に、第2磁化固定層21と光変調層30は、非磁性金属層22及びバッファ層23を介して強磁性交換結合されている。この強磁性交換結合により、第2磁化固定層21の磁化方向と第2強磁性交換結合部2における光変調層30の磁化方向は同時反転する。
第2磁化固定層21は、第1磁化固定層11で使用可能な材料の中から選択され、同様に、非磁性金属層22及びバッファ層23も、それぞれ非磁性金属層12及びバッファ層13で使用可能な材料の中から選択される。
ここで、第1強磁性交換結合部1と第2強磁性交換結合部2は、後段で詳述するように磁壁33及び光変調領域300を形成するために、互いの保磁力が異なるように設計される。これにより、第1磁化固定層1と第2磁化固定層2の保磁力差により、光変調制御に必須となる光変調層30両端の互いに反平行な初期磁化方向を外部磁界により実現することが可能となっている。これについては、後段で詳述する。
上述したように、光変調層30は、光変調部3を構成する。この光変調層30からなる光変調部3には、磁壁33と、磁区31,32が形成されている。これについては、後段で詳述する。
なお、各磁化固定層(以下、第1磁化固定層11及び第2磁化固定層21を単に磁化固定層とも言う。)、各非磁性金属層、各バッファ層、及び光変調層30の各層間、又は下部電極との界面に、機能層を適宜設けてもよい。例えば、微細加工プロセス中に光変調層30が受けるダメージを防ぐために、光変調層30上に、Ta、Ru又はSiNを含む、あるいはTa、Ru又はSiNからなるキャップ層を設けてもよい。このキャップ層は、光変調層30の形成に用いられて酸化し易いGdFeやTbFeCoが、素子完成後に大気中で酸化するのを防止する機能を有する。
次に、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調素子10の磁気特性について、詳しく説明する。
上述した通り、第1強磁性交換結合部1は、光変調層30と強磁性交換結合する第1磁化固定層11を有し、第2強磁性交換結合部2は、同じく光変調層30と強磁性交換結合する第2磁化固定層21を有する。即ち、これら第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2は、それぞれ内部に強磁性交換結合を有し、それぞれの磁化方向は同時に反転する。そして、図1及び図3に示すように、第1強磁性交換結合部1の磁化方向は下向きに設計されている一方で、第2強磁性交換結合部2の磁化方向は上向きに設計されている。
上述した通り、第1強磁性交換結合部1は、光変調層30と強磁性交換結合する第1磁化固定層11を有し、第2強磁性交換結合部2は、同じく光変調層30と強磁性交換結合する第2磁化固定層21を有する。即ち、これら第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2は、それぞれ内部に強磁性交換結合を有し、それぞれの磁化方向は同時に反転する。そして、図1及び図3に示すように、第1強磁性交換結合部1の磁化方向は下向きに設計されている一方で、第2強磁性交換結合部2の磁化方向は上向きに設計されている。
光変調部3には、光変調部3の延びる方向に対して直交する方向に延びる磁壁33が形成されている。即ち、磁壁33の両側に形成される磁区31,32の磁化方向は互いに逆方向となっている。例えば図1及び図3に示すように、磁壁33よりも第1強磁性交換結合部1側の磁区31の磁化方向は上向きであり、磁壁33よりも第2強磁性交換結合部2側の磁区32の磁化方向は下向きとなっている。
このように、磁壁33を介して磁化方向の向きが異なる磁区31,32を光変調部3に形成することにより、磁壁移動型空間光変調素子10を空間光変調素子として機能させることができる。より詳しくは、例えば磁壁移動型空間光変調素子10を反射型の空間光変調素子として構成した場合には、磁壁移動型空間光変調素子10の上方から光変調部3の上面に対して偏光の揃った光を入射すると、磁化方向の向きに応じて反射光の偏光面の回転角度が異なったものとなる。そのため、これら異なる偏光面の回転角度に応じた各反射光を、偏光フィルタを介してそれぞれ光の明暗に割り当てることにより、光の変調が可能となる。ただし、基板を、ガラスやサファイア等の透光性の材料で構成することにより、磁壁移動型空間光変調素子10を透過型の空間光変調素子として機能させることも可能である。
ここで、図2及び図3を参照して、磁壁33の生成メカニズムについて説明する。
先ず、光変調部3に磁壁33を形成するためには、光変調層30と強磁性交換結合する第1磁化固定層11の保磁力と、同じく光変調層30と強磁性交換結合する第2磁化固定層21の保磁力とを、互いに異なるものとすることが必要である。
先ず、光変調部3に磁壁33を形成するためには、光変調層30と強磁性交換結合する第1磁化固定層11の保磁力と、同じく光変調層30と強磁性交換結合する第2磁化固定層21の保磁力とを、互いに異なるものとすることが必要である。
特許文献2では、第1磁化固定層11の保磁力と第2磁化固定層21の保磁力を互いに異なるものとする手法として、第1磁化固定層11と第2磁化固定層21とで、互いに形状(例えば幅、厚み等)を異なるものとするか、一方のみ熱処理するか、あるいは互いの層構成を異なるものとするか、のいずれかが選択される。これにより、第1磁化固定層11の保磁力と第2磁化固定層21の保磁力を互いに異なるものとすることで、第1強磁性交換結合部1の保磁力と第2強磁性交換結合部2の保磁力を異なるものとすることができる。
これに対して本実施形態では、第2強磁性交換結合部2のみが第2強磁性層(光変調層30)上に保磁力制御層を有し、第1強磁性交換結合部1は第2強磁性層(光変調層30)上に保磁力制御層を有していない。これにより、第2強磁性交換結合部2における第2強磁性層の保磁力を低下又は増加させることができ、第1強磁性交換結合部1の保磁力と第2強磁性交換結合部2の保磁力を異なるものとしている。
図4は、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の構成を示す側面図である。図4において、上述した特許文献2に記載の磁壁移動型空間光変調器90と共通する構成については同一の符号を付している。
図4に示すように、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100は、上述したように第2強磁性交換結合部2のみが、第2強磁性層(光変調層30)上に保磁力制御層60を有している。即ち、第1強磁性交換結合部1には、第2強磁性層(光変調層30)上に保磁力制御層が形成されていない。
図4に示すように、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100は、上述したように第2強磁性交換結合部2のみが、第2強磁性層(光変調層30)上に保磁力制御層60を有している。即ち、第1強磁性交換結合部1には、第2強磁性層(光変調層30)上に保磁力制御層が形成されていない。
より具体的には、図4に示すように、光変調層30を微細加工した後の最終工程において、一方の磁化固定層(図4では第2磁化固定層21)上に保磁力制御層60として非常に薄い強磁性層を形成することで、保磁力制御層60と光変調層30が強磁性結合する。その結果、磁化固定層と強磁性結合している光変調層30の保磁力が低下又は増加し、Hc1とHc2の保磁力差を実現することができる。
本実施形態の保磁力制御層60は、最終工程での微細加工となるため、第1磁化固定層11と第2磁化固定層21を別の材料で実現するプロセスと比較して、光変調層30の平坦性に影響の少ない簡易なプロセスで実現できる。また、特許文献2のように例えば形状磁気異方性で保磁力差を与える構成よりも、設計の自由度が高い。即ち、第1強磁性交換結合部1の幅(光変調部3の延びる方向(左右方向)の幅。以下同じ。)と第2強磁性交換結合部2の幅とを同一幅とすることができ、設計における形状の制約がより少ない。
例えば、上記保磁力制御層60により、第1磁化固定層11の保磁力を第2磁化固定層21の保磁力よりも大きく設計することができる。この場合、図2に示すように第1強磁性交換結合部1の保磁力をHc1とし、第2強磁性交換結合部2の保磁力をHc2とし、光変調層の保磁力をHc_mとすると、Hc1>Hc2>Hc_mの関係が成立する。
そして、上述のような保磁力の関係が成立する構造の素子に対して、磁場の強さHが、H>Hc1である磁場を、素子に対して下向きに印加する。すると、第1強磁性交換結合部1、第2強磁性交換結合部2及び光変調部3のいずれにおいても、磁化方向の向きは下向きとなる。
次いで、磁場の強さH’が、Hc1>H’>Hc2である磁場を、素子に対して上向きに印加する。すると、第1強磁性交換結合部1の磁化方向の向きは下向きのままであるのに対して、第2強磁性交換結合部2及び光変調部3の磁化方向の向きは、いずれも上向きに変化する。
このとき、図3に示すように光変調部3の両端には、初期磁区31a,32aが生成する。より詳しくは、光変調部3の第1強磁性交換結合部1側の端部には、第1強磁性交換結合部1からの漏れ磁界(図3中の破線矢印参照)により、第1強磁性交換結合部1の下向きの磁化とは反平行な上向きの磁化方向の初期磁区31aが生成する。また、光変調部3の第2強磁性交換結合部2側の端部には、第2強磁性交換結合部2からの漏れ磁界(図3中の破線矢印参照)により、第2強磁性交換結合部2の上向きの磁化とは反平行な下向きの磁化方向の初期磁区32aが生成する。
次いでこの状態で、パルス電流源9からパルス電流を印加し、第1強磁性交換結合部1から第2強磁性交換結合部2、又は第2強磁性交換結合部2から第1強磁性交換結合部1に向けてパルス電流を流す。すると、初期磁区31a,32aの生成により形成される磁壁33を、パルス電流の向きと逆向き(電子の流れと同じ向き)に移動させることができる。これにより、図3に示すように、光変調部3の両端を除く光変調領域300の磁化の向きを反転(図3の例では、光変調領域300の磁化の向きを上向きに反転)させることが可能となっている。
次に、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の詳細な構成について、図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の一例の構成を示す断面図である。図5中、各層の括弧内の数値は、各層の好ましい厚み(nm)の一例を示している。
図5は、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の一例の構成を示す断面図である。図5中、各層の括弧内の数値は、各層の好ましい厚み(nm)の一例を示している。
図5に示す例では、磁壁移動型空間光変調素子10は、Siバックプレーン41上に形成されている。
第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2はいずれも、Siバックプレーン41側から順に、Ta層44、Ag層45、Co/Pd層11,21、Ta層12,22、MgO層13,23、GdFe層3が積層されて構成されている。図5から明らかであるように、第1強磁性交換結合部1の幅と第2強磁性交換結合部2の幅は同一に設定されている。
第1強磁性交換結合部1及び第2強磁性交換結合部2はいずれも、Siバックプレーン41側から順に、Ta層44、Ag層45、Co/Pd層11,21、Ta層12,22、MgO層13,23、GdFe層3が積層されて構成されている。図5から明らかであるように、第1強磁性交換結合部1の幅と第2強磁性交換結合部2の幅は同一に設定されている。
Siバックプレーン41には、図示しない下部電極が含まれている。下部電極は、Cu、Al、Au、Ag、Ru、Ta、Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される。
ただし、本実施形態では電流を流すことができればよく、例えばSiバックプレーン41と同様に、アクティブマトリックス駆動する構成としてTFTバックプレーンを用いてもよい。また、例えばSiバックプレーンの代わりに、単純マトリックス駆動する構成としてもよい。
ただし、本実施形態では電流を流すことができればよく、例えばSiバックプレーン41と同様に、アクティブマトリックス駆動する構成としてTFTバックプレーンを用いてもよい。また、例えばSiバックプレーンの代わりに、単純マトリックス駆動する構成としてもよい。
Ta層44及びAg層45は、上述の下部電極への密着性を向上させるために設けられる下地層である。これらTa及びAgであれば、Co/Pd多層膜11,21の磁気特性に悪影響を与えることがないため好ましい。なお、Taの代わりにRuを用いてもよい。
Co/Pd層11,21はそれぞれ上述の第1,第2磁化固定層を構成し、Ta層12,22は上述の非磁性金属層を構成し、MgO層13,23は上述のバッファ層を構成する。
なお、本実施形態では、第1強磁性交換結合部1と第2強磁性交換結合部2とでは、前者は光変調層30上に第1保護層61を有する一方で、後者は光変調層30上に上述の保磁力制御層60及びその上に第2保護層62を有する点において構成が相違している。これら相違点を除いて、両者の各層の構成材料は全て同一である。
光変調部、即ち光変調層は、GdFe層3で構成されている。また、GdFe層3上には、キャップ層としてのRu層4が形成されている。このRu層4が、上述の第1保護層61を構成する。上述の第2保護層62も、第1保護層61と同様の材料を用いることができ、例えばRu層とすることができる。これら第1保護層61及び第2保護層62は、下層の光変調層30や保磁力制御層60の酸化を防止して保護する機能を有し、上述のキャップ層と同様の材料を用いることができる。なお、Ru層の代わりに、Ta層、W層、Si3N4層を用いてもよい。
なお、第1強磁性交換結合部1の左右両側、及び第2強磁性交換結合部2の左右両側は、絶縁部材としてのSiO2層42が隣接して配置されている。
なお、第1強磁性交換結合部1の左右両側、及び第2強磁性交換結合部2の左右両側は、絶縁部材としてのSiO2層42が隣接して配置されている。
本実施形態の保磁力制御層60は、例えば、Fe、Co、Ni、これらの合金、又はこれらの化合物で構成される(強)磁性材料からなることが好ましい。これら(強)磁性材料からなる保磁力制御層60は、一般的に薄膜で面内磁気異方性を有するとともに、飽和磁化が大きい特性を有する。そのため、この保磁力制御層60は、第2強磁性層(光変調層30、例えばGdFe層3)と強磁性交換結合し、第2強磁性層の保磁力を低下させる。即ち、これら(強)磁性材料からなる保磁力制御層60は、磁気光学的な影響の無い非常に薄い膜厚において、第2強磁性交換結合部2の保磁力Hc2を低下させることができる。これにより、Hc1>Hc2>Hc_mという保磁力差が実現可能である。
保磁力制御層60は、その下方に位置する第1強磁性層(例えば第2磁化固定層21)や第2強磁性層(光変調層30)の保磁力や飽和磁化の大きさに応じて、その構成材料や膜厚が適宜調整されることで、所望の保磁力差を容易に実現可能となっている。保磁力制御層60の膜厚としては、磁壁移動型空間光変調素子10の表面平滑性の観点から、第1保護層61としてのRu層4の膜厚よりも小さい膜厚である必要があり、具体的には3nm以下であることが好ましい。より好ましくは、2nm以下である。
また、本実施形態の保磁力制御層60としては、例えば、光変調層30に対して十分に保磁力とカー回転角が小さく、保磁力が第1強磁性交換結合部1の保磁力Hc1よりも小さい垂直磁気異方性を有する強磁性材料を用いることもできる。具体的には、本実施形態の保磁力制御層60は、希土類と遷移金属の合金であるRE−TM合金、又は強磁性金属膜と非磁性金属膜が交互に積層された人工格子多層膜からなることが好ましい。これにより、第2強磁性層(光変調層30、例えばGdFe層3)と強磁性交換結合して第2強磁性層の保磁力を低下又は増加させることができる。これにより、第1強磁性交換結合部1と第2強磁性交換結合部2との間の保磁力差が実現可能である。
ここで、RE−TM合金としては、SmCo、TbCo、TbFeCo、GdFe、又はGdFeCoを用いることができる。また、人工格子多層膜としては、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜、又はCo/Ni多層膜を用いることができる。これらは、例えば光変調層30がGdFe層で構成される場合、室温で製膜可能であるため好ましい。なお、第2強磁性層(光変調層30)の保磁力を低下させるか増加させるかは、磁化固定層(第1磁化固定層21)の材料に応じて決定される。
また、本実施形態の保磁力制御層60としては、Gd層、又はTb層からなるものを用いることもできる。特に、光変調層30が、GdFe、GdFeCo、TbFeCo、TbCo等の希土類と遷移金属の合金(RE−TM合金)で構成される場合には、適正な保磁力を得るために0.1〜0.5nmのGd層又はTb層等の希土類のバッファ層を光変調層30上に形成することで、第2強磁性層(光変調層30)の垂直保磁力を若干増加させることができる。この場合、保磁力制御層60により、Hc1<Hc2の保磁力差を設計可能である。
なお、本実施形態の保磁力制御層60を構成する上述の材料としては、製膜によって光変調層30の極端な性能劣化を招かないものであれば、金属でも酸化物でも使用可能である。
また、光変調層30と第2保護層62の間に、第1,第2磁化固定層11,21と光変調層30の間と同様の非磁性金属層及びバッファ層(上述のキャップ層を構成)を挿入配置してもよい。これにより、光変調層30がエッチングにより極端な特性劣化を招く材料であっても、保磁力制御層60を適用できる。
また、光変調層30と第2保護層62の間に、第1,第2磁化固定層11,21と光変調層30の間と同様の非磁性金属層及びバッファ層(上述のキャップ層を構成)を挿入配置してもよい。これにより、光変調層30がエッチングにより極端な特性劣化を招く材料であっても、保磁力制御層60を適用できる。
次に、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の製造方法の一例について、図6A〜図6Kを参照して詳しく説明する。
ここで、図6A〜図6Kは、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の製造方法を示す図である。
ここで、図6A〜図6Kは、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の製造方法を示す図である。
本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の製造方法は、第1強磁性層形成工程と、非磁性金属層形成工程と、バッファ層形成工程と、キャップ層形成工程と、処理工程と、除去工程と、第2強磁性層形成工程と、保磁力制御層形成工程と、を有する。
以下、これらの各工程について説明する。
以下、これらの各工程について説明する。
先ず、図6Aに示すように、Siバックプレーン41上に形成された絶縁部材のSiO2層42に対して、従来公知の電子線リソグラフィ等を用いて、第1磁化固定層及び第2磁化固定層の各形状に対応したレジストパターニングを実施する。即ち、第1磁化固定層及び第2磁化固定層の各形状に対応したレジスト層40を、SiO2層42上に形成する。そして、レジストパターニング後、高密度プラズマエッチングを実施する。この高密度プラズマエッチングは、イオンミリングより異方性エッチング特性が優れているため、本工程に特に好適に利用される。
すると、図6Bに示すように、レジスト層40が形成されていない領域のSiO2層42がエッチングにより除去される。このSiO2層42が除去された領域が、第1磁化固定層及び第2磁化固定層の形状にそれぞれ対応する。
次いで、図6Cに示すように、第1強磁性層を構成する磁化固定層、非磁性金属層、バッファ層、及びバッファ層の酸化を抑制するキャップ層をこの順に形成する(第1強磁性層形成工程、非磁性金属層形成工程、バッファ層形成工程、及びキャップ層形成工程)。具体的には、Ta層44、Ag層45、Co/Pd層11,21,51、Ta層12,22,52、MgO層13,23,53、及びSiO2層14,24,54を、この順に連続して製膜する。製膜は、全てイオンビームスパッタ装置により実施可能である。ナノメートルオーダーと開口サイズが小さく、それに対して深さが深い領域の中に材料を製膜する必要があるため、スパッタ粒子の直進性が高いイオンビームスパッタ法が特に好ましいからである。ただし、これに限定されず、例えば分子線エピタキシー(MBE)法等の従来公知の方法を利用できる。
次いで、図6Dに示すように、リフトオフを実施し、残存しているレジスト層40を除去する(処理工程)。具体的には、素子を真空中から大気中に取り出した後、リフトオフを実施する。これにより、レジスト層40上に形成されていた層の全てが除去される。レジスト層40の除去には、従来公知のレジスト剥離剤を用いることができる。
そして、リフトオフ後、必要に応じて、アニール炉にて350℃の熱処理を実施する(処理工程)。この熱処理により、各磁化固定層を構成するCo/Pd層11,21の保磁力が増大する。処理工程における熱処理温度は、例えば300℃以上であることが好ましい。
次いで、図6Eに示すように、イオンビームミリング(又は高密度プラズマエッチング)を実施する(除去工程)。これにより、最表面のSiO2層14,24を全て除去するとともに、MgO層13,23の一部を除去する。即ち、エッチングを、MgO層13,23の途中まで実施する。このとき、MgO層13,23は、エッチングレートが遅いうえ、MgはSIMS感度が高い特性を有するため、SIMS式エンドポイントモニターでの検出に最適である。これにより、エッチングをMgO層13,23の途中で確実に止めることができるようになっている。
イオンビームミリング(又は高密度プラズマエッチング)終了後、光変調層製膜装置まで素子を真空(例えば、1×10−6[Pa])搬送する。そして、図6Fに示すように、光変調層製膜装置内で、光変調層としてのGdFe層3を例えばイオンビームスパッタ装置により製膜する。加えて、GdFe層3上に、さらにキャップ層としてのRu層4を例えばイオンビームスパッタ装置により製膜する。
次いで、図6Gに示すように、電子線リソグラフィ等にて光変調層のレジストパターニングを実施する。即ち、Ru層4上に所望のパターンに対応したレジスト層40を形成する。そして、レジストパターニング後、イオンビームミリング(又は高密度プラズマエッチング)を実施する。
すると、図6Hに示すように、レジスト層40が形成されていない領域のGdFe層3及びRu層4がエッチングにより除去される。これにより、光変調層を構成するGdFe層3が所望のパターン形状に形成される(第2強磁性層形成工程)。
次いで、レジスト層40を除去する前に、空隙を埋めるためのSiO2層42を製膜する。具体的には、上述したようにレジスト層40が形成されていない領域のGdFe層3及びRu層4を除去した後に真空中を搬送し、レジスト層40が残存した状態で、直進性の高いイオンビームスパッタ等でSiO2層42を製膜し、レジスト層40ごと空隙以外のSiO2層42を除去する。
次いで、図6Iに示すように、Ru層4上に第2磁化固定層21の直上に対応する部分のみ除いたパターン(即ち、第2磁化固定層21の直上以外の部分を被覆するパターン)を有するレジスト層40を形成する。
次いで、図6Jに示すように、イオンビームミリング(又は高密度プラズマエッチング)を実施し、GdFe層3(光変調層30)までエッチングする。
次いで、図6Kに示すように、保磁力制御層60及び第2保護層62をこの順に製膜する(保磁力制御層形成工程)。製膜は、イオンビームスパッタ装置により実施可能であり、分子線エピタキシー(MBE)法等の従来公知の方法も利用できる。
最後に、残存しているレジスト層40を、従来公知のレジスト剥離剤で除去する。以上により、図5に示す磁壁移動型空間光変調器100が得られる。
最後に、残存しているレジスト層40を、従来公知のレジスト剥離剤で除去する。以上により、図5に示す磁壁移動型空間光変調器100が得られる。
以上説明した本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100によれば、第1強磁性層上に、非磁性金属層、バッファ層、及びバッファ層の酸化を抑制するキャップ層をこの順に形成し、この状態で、リフトオフ処理と必要に応じて熱処理を実施する。そして、キャップ層の全部及びバッファ層の一部を除去した後に、第2強磁性層を形成する。
ここで、本実施形態のように磁壁移動を利用した光変調素子を製造するためには、光変調層30の製膜前に、一旦素子を大気中に取り出してリフトオフする必要がある。そのため、従来の微細加工プロセスでは、その工程上、2つの強磁性薄膜を真空中一貫で連続して製膜できず、強磁性交換結合させることができなかったところ、本実施形態の製造方法によれば、処理工程と製膜工程とを分けることができるため、第1強磁性層と第2強磁性層を強磁性交換結合させることができる。従って、本実施形態によれば、各種微細加工プロセスに適用可能である。
また、本実施形態によれば、バッファ層13上にバッファ層13以下の層の酸化を抑制するキャップ層を形成するため、素子を真空一貫装置から取り出した際に、別装置にて300℃〜400℃程度で熱処理することもできる。そして、熱処理後、イオンビームミリング等でキャップ層全てとバッファ層13の途中までを除去し、もう一方の熱耐性の無いGdFe、Gd等の第2強磁性層を製膜することで、強磁性交換結合させることができる。
また、本実施形態によれば、第2強磁性交換結合部2における第2強磁性層(光変調層30、第2磁化固定層21)の直上にのみ、保磁力制御層60を形成するため、第2強磁性交換結合部2においてのみ、保磁力制御層60と光変調層30が強磁性結合する。その結果、第2強磁性交換結合部2における第2磁化固定層21と強磁性結合している光変調層30の保磁力が低下又は増加し、第1強磁性交換結合部1の保磁力2Hc1と第2強磁性交換結合部2の保磁力Hc2との間に保磁力差を設けることができる。
次に、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の模擬サンプル1を用いた評価結果について説明する。
ここで、図7Aは、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の模擬サンプル1を示す断面図である。図7Bは、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の模擬サンプル1の磁気光学特性を示す図である。より詳しくは、図7Bは、極カー効果測定装置を用いたカー回転角測定結果を示している。なお、図7B中、横軸は外部磁界の強さ(kOe)を表しており、縦軸は、カー回転角(°)、即ち強磁性材料の磁化方向により入射光の偏光面が回転するときの回転角度を表している。
ここで、図7Aは、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の模擬サンプル1を示す断面図である。図7Bは、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の模擬サンプル1の磁気光学特性を示す図である。より詳しくは、図7Bは、極カー効果測定装置を用いたカー回転角測定結果を示している。なお、図7B中、横軸は外部磁界の強さ(kOe)を表しており、縦軸は、カー回転角(°)、即ち強磁性材料の磁化方向により入射光の偏光面が回転するときの回転角度を表している。
図7Aに示すように、模擬サンプル1は、第2強磁性交換結合部の層構造を想定した10mm角のサンプルであり、比較として保磁力制御層が無い点だけが異なる従来品と対比させて示している。模擬サンプル1は、第2磁化固定層をTbFeCoとし、保磁力制御層をCoFeとしたものである。
図7Bの結果から、保磁力制御層を有することにより、保磁力制御層を有さない場合と比べて保磁力が低下しており、両者の保磁力に差があることが分かった。より詳しくは、第2磁化固定層TbFeCoと強磁性交換結合した光変調層GdFeは、保磁力制御層が無い場合には5kOeの保磁力を示すのに対し、保磁力制御層として厚さ0.5nmのCoFe層を挿入することで、保磁力が4.3kOeに減少することが分かった。これらは第1強磁性交換結合部の保磁力Hc1と第2強磁性交換結合部の保磁力Hc2と考えられるため、保磁力制御層の有無により、外部磁界により磁化反平行状態を制御するのに十分な保磁力差0.7kOeを設計でき、磁壁移動型の光変調器として機能し得ることが確認された。
図8Aは、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の模擬サンプル2を示す断面図である。図8Bは、本実施形態に係る磁壁移動型空間光変調器100の模擬サンプル2の磁気光学特性を示す図である。図8Cは、図8Bの部分拡大図である。図8Bは、上述の図7Bと同様に、極カー効果測定装置を用いたカー回転角測定結果を示している。
図8Aに示すように模擬サンプル2は、模擬サンプル1と同様に、第2強磁性交換結合部の層構造を想定した10mm角のサンプルであり、比較として保磁力制御層が無い点だけが異なる従来品と対比させて示している。模擬サンプル2は、保磁力制御層を厚さ0.5nmのGd層とした以外は模擬サンプル2と同様の層構造である。
図8B及び図8Cの結果から、保磁力制御層の有無により、両者の保磁力に差があることが分かった。より詳しくは、第2磁化固定層TbFeCoと強磁性交換結合した光変調層GdFeは、保磁力制御層が無い場合には5.00kOeの保磁力を示すのに対し、保磁力制御層として厚さ0.5nmのGd層を挿入することで、保磁力が5.14kOeに増加することが分かった。これらは第1強磁性交換結合部の保磁力Hc1と第2強磁性交換結合部の保磁力Hc2と考えられるため、保磁力制御層の有無により、外部磁界により磁化反平行状態を制御するのに十分な保磁力差0.14kOeを設計でき、磁壁移動型の光変調器として機能し得ることが確認された。なお、模擬サンプル1と比べて、保磁力制御層の有無による保磁力の大小関係が逆転しているが、特に磁壁移動型空間光変調器の動作に問題は無いと言える。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
1 第1強磁性交換結合部
2 第2強磁性交換結合部
3 光変調部
9 パルス電流源
10,20 磁壁移動型空間光変調素子
11 第1磁化固定層(第1強磁性層)
12,22 非磁性金属層
13,23 バッファ層
21 第2磁化固定層(第1強磁性層)
30 光変調層(第2強磁性層)
31,32 磁区
31a,32a 初期磁区
33 磁壁
100 磁壁移動型空間光変調器
300 光変調領域
2 第2強磁性交換結合部
3 光変調部
9 パルス電流源
10,20 磁壁移動型空間光変調素子
11 第1磁化固定層(第1強磁性層)
12,22 非磁性金属層
13,23 バッファ層
21 第2磁化固定層(第1強磁性層)
30 光変調層(第2強磁性層)
31,32 磁区
31a,32a 初期磁区
33 磁壁
100 磁壁移動型空間光変調器
300 光変調領域
Claims (12)
- 入射した光の偏光の向きを変化させて出射する光変調部と、
前記光変調部の両端に配置され、互いに異なる保磁力を有する第1強磁性交換結合部及び第2強磁性交換結合部と、
を有する磁壁移動型空間光変調素子を備える磁壁移動型空間光変調器であって、
前記第1強磁性交換結合部及び前記第2強磁性交換結合部はいずれも、
強磁性材料からなる第1強磁性層と、
前記第1強磁性層上に形成され、強磁性材料からなることで前記第1強磁性層と強磁性交換結合する第2強磁性層と、を有し、
前記第2強磁性交換結合部のみが、前記第2強磁性層上に形成され前記第2強磁性層の保磁力を低下又は増加させる保磁力制御層をさらに有する磁壁移動型空間光変調器。 - 前記保磁力制御層は、Fe、Co、Ni、これらの合金、又はこれらの化合物で構成される磁性材料からなることで、前記第2強磁性層と強磁性交換結合して前記第2強磁性層の保磁力を低下させる請求項1に記載の磁壁移動型空間光変調器。
- 前記保磁力制御層は、Gd層、又はTb層からなることで、前記第2強磁性層の保磁力を増加させる請求項1に記載の磁壁移動型空間光変調器。
- 前記保磁力制御層は、希土類と遷移金属の合金であるRE−TM合金、又は強磁性金属膜と非磁性金属膜が交互に積層された人工格子多層膜からなることで、前記第2強磁性層と強磁性交換結合して前記第2強磁性層の保磁力を低下又は増加させる請求項1に記載の磁壁移動型空間光変調器。
- 前記RE−TM合金が、SmCo、TbCo、TbFeCo、GdFe、又はGdFeCoである請求項4に記載の磁壁移動型空間光変調器。
- 前記人工格子多層膜が、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜、又はCo/Ni多層膜である請求項4に記載の磁壁移動型空間光変調器。
- 前記第2強磁性層は、TbCo層、TbFeCo層、GdFe層、又はGdFeCo層からなる請求項1から6いずれかに記載の磁壁移動型空間光変調器。
- 前記第1強磁性層は、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜、又はTbFeCoからなる請求項1から7いずれかに記載の磁壁移動型空間光変調器。
- 前記第1強磁性交換結合部及び前記第2強磁性交換結合部はいずれも、
前記第1強磁性層上に形成され、非磁性金属からなる非磁性金属層と、
前記非磁性金属層上に形成され、酸化物又は窒化物からなるバッファ層と、をさらに有する請求項1から8いずれかに記載の磁壁移動型空間光変調器。 - 前記第2強磁性交換結合部は、
前記第2強磁性層上に形成され、非磁性金属からなる非磁性金属層と、
前記非磁性金属層上に形成され、酸化物又は窒化物からなるバッファ層と、をさらに有する請求項1から9いずれかに記載の磁壁移動型空間光変調器。 - 前記バッファ層は、MgO、Al2O3、MgAl2O4、TiO2、ZnO、又はRuO2からなる請求項9又は10に記載の磁壁移動型空間光変調器。
- 前記非磁性金属層は、Ta層からなる請求項9から11いずれかに記載の磁壁移動型空間光変調器。
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