JP5818724B2 - 電気電子部品用銅合金材、めっき付き電気電子部品用銅合金材 - Google Patents
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Description
Crは、固溶することにより耐応力緩和特性の向上に寄与し、析出することにより強度向上に寄与する。Cr単体、及び/又はSiと共にCr−Si析出物を形成し、析出硬化によって強度を向上させ、Cu母相中のCr及びSiの固溶量を減少させて導電率を高めるために有効な元素である。また、Crは、Tiと共にCr−Ti析出物を形成し、析出硬化によって強度を向上させ、Cu母相中のCr及びTiの固溶量を減少させて導電率を高める効果もある。Crの含有量が0.10質量%未満では、十分な析出硬化による強度の向上が得られず、導電率も向上しない。一方、Crの含有量が0.40質量%を超えると、導電率の低下を招くとともに、析出物が粗大化する原因となり銅合金材の耐応力緩和特性及び曲げ加工性が低下し、また、粗大な介在物が形成されることにより、曲げ加工性が低下する。更に、Crの含有量が多い場合、溶湯中の酸素濃度が低下して水素濃度が増加するため、鋳塊にブローホールが発生しやすくなる。従って、Crの含有量は0.10乃至0.40質量%の範囲とする。好ましくは、Crの含有量は0.25乃至0.35質量%であり、更に好ましくは0.28乃至0.32質量%である。
Tiは、固溶により耐応力緩和特性を向上させるために有効な元素である。また、Tiは、Crと共に析出物を形成して、析出硬化によって強度を向上させると共に、Cu母相中のCr及びTiの固溶量を減少させて導電率を高めるために有効な元素である。Tiの含有量が0.005質量%未満では、耐応力緩和特性を向上させることができない。また、0.15質量%を超えると、Cu母相中のTiの固溶量が増加して、導電率の低下を招く。また、Tiの含有量が多い場合、溶解炉の炉壁にTi酸化物であるノロが多く付着し、次の鋳造工程において、鋳塊の品質低下を招く虞があり、炉洗い増加などによる生産効率低下という問題も生じる。従って、Tiの含有量は0.005乃至0.15質量%の範囲とする。好ましくは、Tiの含有量は0.03乃至0.13質量%であり、更に好ましくは0.05乃至0.10質量%である。
Siは、Crと共にCr−Si析出物を形成して、析出硬化によって強度を増加させると共に、Cu母相中のCr及びSiの固溶量を減少させて導電率を高めるために有効な元素である。また、Siは、Cr及びTiと共にCr−Si−Ti析出物を形成して、析出硬化によって強度を向上させる。Siの含有量が0.01質量%未満では、Cr−Si析出物又はCr−Si−Ti析出物による強度の向上を十分に得ることができない。一方、Siの含有量が0.10質量%を超えると、Cu母相中のSiの固溶量が増加して、導電率が低下する。また、Cr−Si析出物が粗大化し、銅合金材の曲げ加工性が低下する。従って、Siの含有量は0.01乃至0.10質量%の範囲とする。好ましくは、Siの含有量は0.01乃至0.05質量%である。
Cu母相中に固溶したNiは、応力負荷時の転位の移動を抑制し、耐応力緩和特性を向上させる効果がある。Niの含有量が0.005質量%未満であると、銅合金材の耐応力緩和特性を向上させることができず、Niの含有量が0.05質量%を超えると、導電率が低下する。従って、Niの含有量は0.005乃至0.05質量%とする。
Feは、Cr−Ti−Si析出物と共にCr−Ti−Si―Fe析出物を形成し、析出硬化によって強度を増加させると共に、Cu母相中のCr、Ti及びSiの固溶量を減少させて導電率を高めるために有効な元素である。Feの含有量が0.005質量%未満であると、析出による強度向上の効果を十分に得ることができない。一方、Feの含有量が0.05質量%を超えると、Cu母相中の固溶量が増加して導電率の低下を引き起こすと共に、析出物を粗大化させ、析出硬化による強度の向上を妨げる。従って、Feの含有量は0.005乃至0.05質量%とする。
Alは、炉中の脱硫に効果的な成分であり、さらにCu母相中に固溶することにより、強度及び耐応力緩和特性を向上させる。Alの含有量が0.003質量%未満であると、これらの効果が得られず、Alの含有量が0.05質量%を超えると、導電率の低下を引き起こす。従って、Alの含有量は0.003乃至0.05質量%の範囲とする。好ましくは、Alの含有量は0.003乃至0.03質量%であり、更に好ましくは0.005乃至0.01質量%である。
上記のような構成を有することにより、本願第1発明の電気電部品用銅合金材は、耐応力緩和特性が極めて高くなる。具体的には、本願第1発明の電気電子部品用銅合金材は、焼鈍処理において、180℃で24時間加熱した場合に、その応力緩和率が20%以下と、高い耐応力緩和特性を得ることができる。
本願第1発明に係る銅合金は、不可避的不純物としてAs、Sb、B、Pb、V、Zr、Mn、Mo、Hf、Ta、Bi、C、Ag、In及びCoの1種以上を総量で0.1質量%以下の含有を許容する。本願第1発明においては、これらの不可避的不純物元素は、用途により異なるが、60%IACS以上又は65%IACS以上の導電率を得られる範囲で添加されれば、他の特性が大きく阻害されることはない。また、Cr−Ti−Si系銅合金において、これらの成分は特に添加しない限り、通常、総量で0.1質量%以下の範囲内にある。As、Sb、B、Pb、V、Zr、Mn、Mo、Hf、Ta、Bi、Ag、In及びCoの1種以上は、銅に対する固溶量が著しく少なく、総量で0.1質量%を超えて含有されると、粒界に偏析したり、晶出物を形成して、強度特性や曲げ加工性を劣化させる。また、上記不可避的不純物元素のうち、Ag及びInは、銅に対して固溶することがよく知られており、導電率低下の要因となる。従って、上記不可避的不純物元素の含有量は総量で0.1質量%以下であることが好ましい。
熱処理工程において、組織の一部でも再結晶組織になると、過時効となり、銅合金材の導電率は増加するものの、Cr、Ti及びSiの固溶量が低下し、耐応力緩和特性が低下する。また、本願第1発明における合金系では、再結晶が生じると、その後、冷間圧延による加工硬化が望めなくなり、所望の強度を得られなくなる。よって、本願第1発明においては、熱処理後に再結晶組織を有しない銅合金材を本願第1発明の銅合金材とする。なお、再結晶組織の有無については、圧延方向に平行な断面をエッチングし、光学顕微鏡(倍率:1000倍)で観察することにより判断する。
Znは、電子部品の接合に用いるSnめっき又ははんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制するために有効な元素である。Znの含有量が0.005質量%未満であると、Snめっき及びはんだの耐熱剥離性を十分に向上させることができない。一方、Znの含有量が0.10質量%を超えると、導電率が低下する。従って、Znを添加する場合は、Znの含有量は0.005乃至0.10質量%とする。より好ましくは、Znの含有量は0.02乃至0.08質量%であり、更に好ましくは0.04乃至0.06質量%である。
上記の如く、Cu−Sn合金層は、銅合金母材の表面にSn又はSn合金めっき層を形成することによって、銅合金母材とSn又はSn合金めっき層との界面に形成される層である。Cu−Sn合金層は、母材のCuがSn又はSn合金層に拡散したり、酸化することによるめっき付き銅合金材の接触信頼性の低下を防止するバリアー効果を有する。この作用を得るためには、Cu−Sn合金層の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。一方、Cu−Sn合金層は脆く、Snめっき付き銅合金材の曲げ加工性を低下させるため、厚さは1.0μm以下とすることが好ましい。従って、Cu−Sn合金層の厚さは0.1乃至1.0μmであることが好ましい。より望ましくは、接触信頼性確保のために、Cu−Sn合金層の厚さは0.2μm以上であり、曲げ加工性を確保するためにCu−Sn合金層の厚さは0.8μm以下、更に0.5μm以下が望ましい。
Sn又はSn合金層は、はんだ付け性の向上、耐食性等の向上を目的として、銅合金母材の表面に形成される。このSn層又はSn合金層の厚さは、0.3乃至1.0μmであることが好ましい。Sn層又はSn合金層の厚さが0.3μm未満であると、はんだ付け時のはんだ濡れ性が低下し、はんだ接合強度が低下しやすくなる。一方、Sn層又はSn合金層の厚さが1.0μmより厚いと、めっき付き銅合金材を例えば端子に成形して使用する場合において、端子挿入時に、端子の表面にSn又はSn合金の削りカスが堆積し、この削りカスが酸化して、めっきの最表面の応力分布が不均一となり、ウィスカーの発生を促進しやすくなる。さらに、堆積する削りカスが多いと、振動等が生じた場合に、削りカスが回路中に落下して短絡を引き起こす可能性がある。よって、Sn層又はSn合金層の厚さは、0.3乃至1.0μmであることが好ましい。より望ましくは、Sn層又はSn合金層の厚さは0.8μm以下、更に望ましくは0.7μm以下である。なお、Sn合金層のSn以外の合金成分としては、例えばCu、Ag及びBi等が挙げられ、これらの合金成分の含有量は、夫々10質量%未満であることが望ましい。
Crは、固溶することにより、耐応力緩和特性を向上させ、析出することにより、強度向上に寄与する。Cr単体析出に加え、Siと共にCr−Si析出物を形成し、及びTiと共にCr−Ti析出物を形成し、析出硬化によって強度を向上させ、Cu母相中のCr、Si及びTiの固溶量を減少させて導電率を高める。Crの含有量が0.1質量%未満では、析出硬化による強度の向上が得られず、導電率も向上しない。一方、Crの含有量が0.50質量%を超えると、析出物が粗大化する原因となり、銅合金材の耐応力緩和特性及び曲げ加工性が低下する。また、溶湯中の酸素濃度が低下して水素濃度が増加し、鋳塊にブローホールが発生する可能性があるので、Crの含有量過多は好ましくない。従って、Crの含有量は0.10乃至0.50質量%の範囲とする。好ましくは、Crの含有量は0.13乃至0.45質量%であり、更に好ましくは0.15乃至0.40質量%である。
Tiは、Crと共にCr−Ti析出物を形成し、析出硬化によって強度を向上させると共に、Cu母相中のCr及びTiの固溶量を減少させて導電率を高める効果がある。その上、固溶により耐応力緩和特性を向上させる効果もある。Tiの含有量が0.005質量%未満では、耐応力緩和特性を向上させる効果が得られない。また、Tiの含有量が0.50質量%を超えると、Cu母相中のTiの固溶量が増加して導電率が低下すると共に、鋳造工程において鋳塊の品質低下を招き、溶解炉の炉壁にノロ(Ti酸化物)を付着させてしまうため、炉洗い増加等により生産効率が低下してしまう。従って、Tiの含有量は0.005乃至0.50質量%の範囲とする。好ましくは、Tiの含有量は0.008乃至0.45質量%であり、更に好ましくは0.010乃至0.40質量%である。
Siは、Crと共にCr−Si析出物を形成し、並びにCr及びTiと共にCr−Si−Ti析出物を形成し、析出硬化によって強度を向上させ、Cu母相中のCr及びSiの固溶量を減少させて導電率を高める効果がある。Siの含有量が0.005質量%未満では、Cr−Si析出物又はCr−Si−Ti析出物による強度の向上が得られない。また、Siの含有量が0.20質量%を超えると、Cu母相中のSiの固溶量が増加して導電率の低下を招くと共に、析出物が粗大化して強度の低下を引き起こす。更に、この粗大化した析出物によって銅合金材の曲げ加工性が低下する。従って、Siの含有量は0.005乃至0.20質量%の範囲とする。好ましくは、Siの含有量は0.01乃至0.1質量%であり、更に好ましくは0.020乃至0.07質量%である。
Cr、Ti及びSi酸化物が形成されると曲げ加工時に割れの原因となる可能性があり、Oの含有量が150ppmを超えると、酸化物が粗大化する原因となる。従って、Oの含有量は150ppm以下とする。好ましくは、Oの含有量は100ppm以下であり、更に好ましくは80ppm以下である。
Hの含有量が5ppmを超えると、鋳造時にブローホールの原因となり、鋳塊健全性が低下する。従って、Hの含有量は5ppm以下とする。好ましくは、Hの含有量は3ppm以下であり、更に好ましくは2ppm以下である。
本願の銅合金材は、圧延方向に平行な断面を光学顕微鏡レベル(例えば倍率1000倍)で観察すると、明確な再結晶組織でなく、圧延による繊維状の加工組織を呈する。通常の銅合金においては、強度と曲げ加工性を確保するため、微細な再結晶組織とするのが通常であるが、本発明者等は、本発明の銅合金材においては、その組織を再結晶組織としないことにより、強度、耐応力緩和特性及び曲げ加工性を満足できることを見出した。本発明の銅合金材の組織を走査電子顕微鏡により高倍率(10000倍以上)で観察すると、圧延方向に伸長した結晶粒が観察される。本発明の銅合金材は、加工熱処理工程において、加工歪が完全には解放されない条件で焼鈍され、焼鈍後においても再結晶組織を呈さない条件で製造される。
粒径が5μmを超える化合物は、銅合金材の曲げ加工時に割れの原因となり、また銅合金材の表面にめっきを形成する際ピンホールの原因となって、めっき性能を低下させる。従って、Cr及びSiその他の元素を含む化合物は粒径5μm以下であることが必要である。また、この粒径が5μm以下の化合物であっても、数が多すぎると同様の問題点が生じる。よって、この粒径が5μm以下の化合物は、500μm2内に30個以下とする。好ましくは、Cr及びSiその他の元素を含む化合物が粒径2μm以下である。
Feは、Cr−Ti−Si析出物と共にCr−Ti−Si―Fe析出物を形成し、析出硬化によって強度を向上させるのに有効な元素である。また、Feは銅合金材の耐応力緩和特性も向上させる。Feの含有量が0.10質量%を超えると、Cu母相中の固溶量が増加して導電率が低下すると共に、析出物を粗大化させ析出硬化による強度の向上を妨げる。従って、Feを添加する場合は、Feの含有量は0.10質量%以下とする。より好ましくは、Feの含有量は0.08質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以下である。
Alは、溶湯を脱硫するのに加えて、固溶によって強度及び耐応力緩和特性を向上させる効果がある。Alの含有量が0.10質量%を超えると、導電率が低下する。従って、Alを添加する場合は、Alの含有量は0.10質量%以下とする。より好ましくは、Alの含有量は0.05質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以下である。
Niは、Cu母相中に固溶して応力負荷時の転位の移動を抑制し、耐応力緩和特性を向上させる。Niを固溶させないと、NiがCr、Ti、Si及び/又はFeと共に析出物を形成した場合、導電率は増加するが、固溶量が減少して耐応力緩和特性が低下してしまう。Niの含有量が0.10質量%を超えると、耐応力緩和特性は増加するが導電率が低下する。また、銅合金材上にめっきを施す場合にめっきの耐熱剥離性が悪化するので、Niの含有量過多は好ましくない。従って、Niを添加する場合は、Niの含有量は0.10質量%以下とする。より好ましくは、Niの含有量は0.08質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以下である。
Snは、銅合金母材中に固溶することにより、加工により増殖した転位を蓄積し、時効析出焼鈍による析出物の核形成サイトを増加させ、強度を向上させる。そして、Snの含有量が多いほど強度向上効果は顕著となるが、導電率は低下する。従って、Snを添加する場合は、Snの含有量は0.10質量%以下とする。より好ましくは、Snの含有量は0.08質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以下である。
Znは、溶解中における溶湯の水素吸収を抑制すると共に、電子部品の接合に用いるSnめっき又ははんだの耐熱剥離性を改善する効果がある。Znの含有量が2.0質量%を超えると、導電率が低下する。従って、Znを添加する場合は、Znの含有量は2.0質量%以下とする。より好ましくは、Znの含有量は1.0質量%以下であり、更に好ましくは0.50質量%以下である。
上記構成により、本願第2発明の電気電子部品用銅合金材は、焼鈍処理において、180℃で24時間加熱した場合に、その応力緩和率が20%以下と、高い耐応力緩和特性を得ることができる。
本願第2発明の電気電子部品用銅合金材の不可避的不純物として、B、Pb、V、Zr、Mn、Ag、In、P及びCoの1種以上があるが、これらの総量が0.1質量%以下であれば、60%IACS以上の導電率を得られ、他の特性も大きく阻害されることはない。また、これら不可避的不純物は、Cr−Ti−Si系銅合金においては、総量で0.1質量%以下の範囲内にあるのが通常である。B、Pb、V、Zr、Mn、Ag、In、P及びCoの1種以上は、総量で0.1質量%を超えると、銅に対する固溶量が減少するので、粒界に偏析したり、晶出物を形成して、強度特性及び曲げ加工性を劣化させる。また、銅に対して固溶するAg及びInの含有量が多い場合、導電率が低下する原因となる。従って、上記不可避的不純物元素の含有量は、総量で0.1質量%以下であることが好ましい。
本願第1発明における各実施例及び比較例の銅合金板の成分組成を表1に示す。なお、表1において、残部はCu及び不可避的不純物であり、表1に含有量が記載されていない元素は検出限界以下である。即ち、第1試験例においては、不可避的不純物成分としてAs、Sb、B、Pb、V、Zr、Mn、Mo、Hf、Ta、Bi、Ag、In及びCoの1種以上を含有しても、その総量は検出限界値以下であり、極めて微量である。この第1試験例においては、各実施例及び比較例について、以下の試験方法により、導電率、ビッカース硬さ、機械的特性(0.2%耐力)、及び応力緩和率を測定し、また、曲げ加工性の評価を行った。
導電率の測定は、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジを用いた四端子法で体積抵抗率を測定することにより行った。また、測定された体積抵抗率を、万国標準軟銅(International Annealed Copper Standard)の体積抵抗率1.7241×10−8Ωmで除し、百分率で表すことにより、導電率を求めた。そして、導電率が65%IACS以上であったものを合格とした。
ビッカース硬さHvの測定は、JIS−Z2248に規定されている微小硬さ試験方法に準拠し、試験加重49.0N(=5kgf)で測定した。そして、測定したビッカース硬さHvが150以上であったものを合格とした。
0.2%耐力は、上記板厚が0.64mmの薄板を、各実施例及び比較例の銅合金板について、夫々JIS Z2201に規定された5号試験片に加工し、各実施例及び比較例の試験片に対してJIS Z2241に規定された引張試験を行い、永久伸び0.2%に相当する引張強さを各試験片の0.2%耐力として測定した。なお、5号試験片については、各実施例及び比較例において、圧延方向に平行方向(L.D.:Longitudinal Direction)が長手方向となるように加工した第1試験片、及び圧延方向に垂直方向(T.D.:Transverse Direction)が長手方向となるように加工した第2試験片に加工し、夫々2方向における0.2%耐力を測定した。各方向における0.2%耐力の双方が460N/mm2以上であったものを合格とした。
応力緩和率は、片持ち梁方式によって測定した。即ち、長手方向が板材の圧延方向に平行方向(L.D.)及び垂直方向(T.D.)となるように、各実施例及び比較例の板材を幅10mm、長さ60mmの短冊状試験片に切り出し、その一端を剛体試験台に固定し、固定端から一定距離(スパン長さ)の位置で試験片に10mmのたわみを与えると共に、試験片の各長手方向に合わせて、固定端に0.2%耐力の80%に相当する表面応力を負荷した。スパン長さは、日本伸銅協会技術標準(JCBA−T309:2004)に規定されている「銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験方法」により算出した。一端部が剛体試験台に固定され、固定端からスパン長さ離隔した位置にたわみを与えられた状態で、各試験片を一定温度に加熱したオーブン中に保持した後に取り出し、たわみ量d(10mm)を取り去ったときの永久歪みδを測定し、下記数式1により応力緩和率RSを測定した。加熱条件は、例えば(社)自動車技術会のJASOにおいて、150℃で1000時間の加熱条件が規定されているが、本試験では加速試験を行うため、温度と時間により換算可能なラーソンミラー換算法を採用した。即ち、150℃の加熱温度で1000時間加熱した場合の応力緩和率は、下記数式2で算出されるように、180℃の加熱温度で24時間加熱した場合の応力緩和率に相当する。数式2において、L.M.P.は、ラーソンミラーパラメータを意味し、Tは加熱温度(単位:K)、tは加熱時間である。そして、L.M.P.が等しい場合、温度及び加熱時間が異なる試験を等価に評価することができる。なお、第1試験例においては、表1のNo.1及び4の試験片について、180℃の加熱温度で24時間加熱した場合の応力緩和率が、150℃の加熱温度で1000時間加熱した場合の応力緩和率と同等になるかを検証し、数式2の妥当性は確認済みである。そして、測定した応力緩和率が20%以下であったものを合格とした。
曲げ加工性は、日本伸銅協会標準JBMA−T307に規定されているW曲げ試験方法に従って評価した。即ち、各実施例及び比較例の銅合金板から幅10mm、長さ30mmの2種類の試験片を切り出した。このとき、長手方向が圧延方向に平行となるように切り出した第3試験片と、長手方向が圧延方向に垂直となるように切り出した第4試験片とを用意した。そして、曲げ半径をR、板厚をtとして、板厚tに対する曲げ半径Rの比をR/t=0.5となるように、圧延方向に平行方向の曲げ軸を中心とした曲げ(B.W.曲げ)を第4試験片に施し、圧延方向に垂直な方向の曲げ軸を中心とした曲げ(G.W.曲げ)を第3試験片に施し、曲げ部における割れの有無を100倍の光学顕微鏡により目視観察し、下記の基準で評価した。そして、しわ及び割れのいずれも発生しなかった場合をA、小さなしわが発生した場合をB、若干大きなしわが発生した場合をC、小さな割れが発生した場合をD、大きな割れが発生した場合をEと評価し、割れが発生しなかった評価A乃至Cを合格とした。そして、B.W.曲げ及びG.W.曲げの双方の評価がA乃至Cであったものを最終合格とした。
次に、表1のNo.1,12及び16の銅合金を母材とし、母材表面に以下の条件で光沢Snめっき又は通常のSnめっき処理を行って、めっき付き電気電子部品用銅合金材の試料を得た。また、各実施例及び比較例のめっき付き銅合金材の試料に対して、選択的にリフロー処理を施した。光沢Snめっきは、硫酸第1錫:40g/L、硫酸:100g/L、クレゾールスルフォン酸:30g/L、分散剤:20g/L、光沢剤:10ml/L及びホルマリン:5ml/Lを含有するものを使用し、対極としてSn板を用い、電流密度:2.5A/dm2、浴温度:20℃のめっき浴中に、各実施例及び比較例の銅合金材を浸漬することにより、光沢Snめっきを形成した。通常のSnめっきは、硫酸第1錫を50g/L、硫酸を80g/L、クレゾールスルフォン酸を30g/L及び光沢剤を10g/Lを含有するものを使用し、対極としてSn板を用い、電流密度:3A/dm2、浴温度:30℃のめっき浴中に、各実施例及び比較例の銅合金材を浸漬することにより、めっきを施した。そして、この光沢Snめっき又は通常のSnめっきを形成した各銅合金材に対し、380℃の温度で13秒間加熱するリフロー処理を行った。各実施例及び比較例について、めっきの種類及びリフロー処理の有無を表3に示す。
次に、本願第2発明に係る銅合金材の効果を説明するために、本願第2発明の範囲を満たす実施例を本願第2発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。第3試験例における各実施例及び比較例の銅合金板の成分組成を下記表4に示す。なお、表4において、残部はCu及び不可避的不純物であり、表4に含有量が記載されていない元素は検出限界以下である。即ち、第3試験例においては、不可避的不純物成分としてB、Pb、V、Zr、Mn、Ag、In、P及びCoの1種以上を含有しても、その総量は検出限界値以下であり、極めて微量である。この第3試験例においては、各実施例及び比較例について、以下の試験方法により、導電率、ビッカース硬さ、機械的特性(0.2%耐力)、及び応力緩和率を測定し、また、曲げ加工性の評価を行った。
導電率の測定は、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジを用いた四端子法で体積抵抗率を測定することにより行った。また、測定された体積抵抗率を、万国標準軟銅(International Annealed Copper Standard)の体積抵抗率1.7241×10−8Ωmで除し、百分率で表すことにより、導電率を求めた。そして、第1試験例とは異なり、導電率が60%IACS以上であったものを合格とした。
ビッカース硬さHvの測定は、JIS−Z2248に規定されている微小硬さ試験方法に準拠し、試験加重49.0N(=5kgf)で測定した。そして、測定したビッカース硬さHvが150以上であったものを合格とした。これは、第1試験例と同様である。
0.2%耐力は、上記板厚が0.64mmの薄板を、各実施例及び比較例の銅合金板について、夫々JIS Z2201に規定された5号試験片に加工し、各実施例及び比較例の試験片に対してJIS Z2241に規定された引張試験を行い、永久伸び0.2%に相当する引張強さを各試験片の0.2%耐力として測定した。そして、測定した0.2%耐力が460N/mm2以上であったものを合格とした。第1試験例においては、試験片の切り出し方向が圧延方向に平行方向(L.D.)及び垂直方向(T.D.)の双方向について評価したが、第2試験例においては、試験片の切り出し方向を区別していない。
応力緩和率は、片持ち梁方式によって測定した。測定方法は、試験片の切り出し方向を圧延方向に平行であるか垂直であるかを区別していないこと以外は、前述した第1試験例と同様である。また、第2試験例においては、表4のNo.46及び49の試験片について、L.M.P(ラーソンミラーパラメータ)が妥当であることを確認している。なお、判定基準は、第1試験例と同じく、測定した応力緩和率が20%以下であったものを合格とした。
曲げ加工性は、日本伸銅協会標準JBMA−T307に規定されているW曲げ試験方法に従って評価した。評価方法は、前述した第1試験例と同様であるが、試験片の切り出し方向を区別していないことのみ異なる。判定基準は、しわ及び割れのいずれも発生しなかった場合をA、小さなしわが発生した場合をB、若干大きなしわが発生した場合をC、小さな割れが発生した場合をD、大きな割れが発生した場合をEと評価し、割れが発生しなかった評価A乃至Cを合格とした。
結晶粒の測定は、圧延方向に対し平行断面が観察できるように加工し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10,000乃至50,000倍の倍率で金属組織を観察及び撮影し、その写真からJIS0501に規定されている切断法により圧延方向及び板厚方向について夫々3箇所測定し、その平均値を平均結晶粒径とした。また、上記写真を用いて500μm2内の化合物の個数を測定した。
2a,2b:圧接部
3:メス端子部
4:オス端子
5:下部
Claims (7)
- Cr:0.10乃至0.40質量%、Ti:0.005乃至0.15質量%、Si:0.01乃至0.10質量%、Ni:0.005乃至0.05質量%、Fe:0.005乃至0.05質量%及びAl:0.003乃至0.05質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、再結晶組織を有しないと共に、導電率が65%IACS以上、耐力が460N/mm 2 以上、ビッカース硬さが150Hv以上、180℃で24時間加熱した後の応力緩和率が20%以下であることを特徴とする電気電子部品用銅合金材。
- Fe及び/又はNiを含有するCr−Ti系又はCr−Ti−Si系の析出物がCu母相中に析出した組織を有することを特徴とする請求項1に記載の電気電子部品用銅合金材。
- 更に、前記不可避的不純物として、As、Sb、B、Pb、V、Zr、Mn、Mo、Hf、Ta、Bi、Ag、In及びCoの1種以上を総量で0.1質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気電子部品用銅合金材。
- 更に、Zn:0.005乃至0.100質量%を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気電子部品用銅合金材。
- 前記請求項4に記載された電気電子部品用銅合金材の表面にSnめっきが形成されて製造されたものであることを特徴とするめっき付き電気電子部品用銅合金材。
- 前記Snめっきは、前記電気電子部品用銅合金材の表面に形成されたCu−Sn合金層と、このCu−Sn合金層上に形成されたSn層又はSn合金層と、を有することを特徴とする請求項5に記載のめっき付き電気電子部品用銅合金材。
- 前記Cu−Sn合金層の厚さは0.1乃至1.0μmであり、前記Sn層又はSn合金層の厚さは0.3乃至1.0μmであることを特徴とする請求項6に記載のめっき付き電気電子部品用銅合金材。
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