以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
[車両の全体構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態による車両の制御装置を搭載した車両の代表例として示されるハイブリッド車の概略構成を説明するブロック図である。
図1を参照して、ハイブリッド車5は、駆動輪12と、リダクションギヤ14と、エンジン20と、発電およびエンジン始動用の第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記載する)40と、車両駆動用の第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記載する)60と、ブレーキ液圧回路80と、動力分割機構100と、変速機200とを含む。
ハイブリッド車5は、電力制御ユニット(PCU:Power Control Unit)16と、リチウムイオン二次電池によって構成されるバッテリ18と、ブレーキペダル22と、ブレーキECU(Electronic Control Unit)300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とをさらに含む。代表的には、各ECUは、図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力ポートおよび通信ポートを含むマイクロコンピュータによって構成される。各ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
ブレーキECU300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とは、通信バス310を用いて相互に通信可能に接続される。なお、本実施の形態においては、ブレーキECU300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とは、別個のECUとして説明したが、これらのECUは、現状より数が少ないECUに統合されていても良く、また現状よりも数が多いECUに分割されていても良い。
電源ECU306には、IGスイッチ36が接続される。電源ECU306は、運転者がIGスイッチ36に対してハイブリッド車5のシステムを起動する操作をした場合に、ブレーキペダル22が踏み込まれていることを条件として、図示しないIGリレー(あるいは、IGリレーおよびACCリレー)をオンする。これに応じて、ハイブリッド車5を構成する電気機器群に電源が供給されることによって、ハイブリッド車5が走行可能な状態となる。
エンジン20は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。エンジン20からは、エンジン20の回転数Neを示す信号がエンジンECU304に送信される。
エンジンECU304は、エンジン20に設けられたエンジン回転数センサを始めとする各種センサからの信号に基づいて、エンジン20がHV−ECU302によって定められた目標回転数および目標トルクで動作するように、エンジン20の燃料噴射量、点火時期および吸入空気量等を制御する。
バッテリ18は、リチウムイオン二次電池を含んで構成される。リチウムイオン二次電池は、エネルギ密度が高く、他の二次電池に比べ初期回路電圧および平均動作電圧が高いので、大きな電池容量、高い電圧を必要とする車両の車載蓄電装置に好適である。また、リチウムイオン二次電池は、クーロン効率が100%に近いことから充放電効率が高く、したがって、他の二次電池に比べエネルギの有効利用が可能であるという利点も有する。
しかしながら、特許文献2にも示されるように、リチウムイオン二次電池は、充電条件によっては、負極表面にリチウム金属が析出するおそれがある。このため、本実施の形態では、特許文献2と同様に、リチウムイオン二次電池でのリチウム金属析出を抑制するためにバッテリ18への充電を制限する制御(以下、「Li析出抑制制御」とも称する)を実行するものとする。
バッテリ18には、バッテリ18の状態値を検出するためのバッテリセンサ19が設けられる。たとえば、バッテリセンサ19は、状態値として、バッテリ電流IB、バッテリ電圧VBおよびバッテリ温度TBを検出するように構成される。バッテリセンサ19によって検出された状態値は、HV−ECU302へ送信される。
以下では、バッテリ電流IBについて、バッテリ18の放電時には正値(IB>0)とする一方で、充電時には負値(IB<0)で示すものとする。HV−ECU302は、逐次送信されるバッテリ電流IBに基づいて、バッテリ18の充放電履歴を把握することができる。
第1MG40および第2MG60の各々は、たとえば、三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを有する。
第1MG40および第2MG60には、図示しないロータの回転位置(角度)を検出するための回転位置センサ41および42が、それぞれ設けられる。
第1MG40および第2MG60は、電力制御ユニット(PCU)16を介して、バッテリ18と接続される。PCU16は、図示しない複数の電力用半導体スイッチング素子を含んで構成されたインバータおよび/またはコンバータを有する。PCU16は、HV−ECU302からの制御指示に従って、第1MG40および第2MG60と、バッテリ18との間の双方向の電力変換を実行する。HV−ECU302は、第1MG40の出力トルクおよび第2MG60の出力トルクを、それぞれのトルク指令値に合致させるように、PCU16における電力変換を制御する。
動力分割機構100は、エンジン20と第1MG40との間に設けられるプラネタリギヤである。動力分割機構100は、エンジン20から入力された動力を、第1MG40への動力とドライブシャフト164を介在させて駆動輪12に連結されるリダクションギヤ14への動力とに分割する。ドライブシャフト164には、車速センサ161が設けられる。車速センサ161によって検出されたドライブシャフト164の回転数に基づいて、ハイブリッド車5の車速Vが検出される。
動力分割機構100は、第1リングギヤ102と、第1ピニオンギヤ104と、第1キャリア106と、第1サンギヤ108とを含む。第1サンギヤ108は、第1MG40の出力軸に連結された外歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1サンギヤ108に対して同心円上に配置された内歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1リングギヤ102とともに回転するリングギヤ軸102aを介して、リダクションギヤ14に連結される。第1ピニオンギヤ104は、第1リングギヤ102および第1サンギヤ108のそれぞれに噛合う。第1キャリア106は、第1ピニオンギヤ104を自転かつ公転自在に保持し、エンジン20の出力軸に連結される。
すなわち、第1キャリア106が入力要素であって、第1サンギヤ108が反力要素であって、第1リングギヤ102が出力要素である。そして、リングギヤ軸102aに出力された駆動力(トルク)が、リダクションギヤ14およびドライブシャフト164を経由して、駆動輪12へ伝達される。
エンジン20の作動中においては、第1キャリア106に入力されるエンジン20の出力トルクに対して、第1MG40による反力トルクを第1サンギヤ108に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素である第1リングギヤ102に現れる。その場合、第1MG40のロータがそのトルクによって回転されるので、第1MG40は発電機として機能する。また、第1リングギヤ102の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1MG40の回転数を変化させることにより、エンジン20の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン回転数をたとえば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、第1MG40を制御することによって行なうことができる。その制御は、HV−ECU302によって行われる。
ハイブリッド車5の走行中にエンジン20を停止させている場合には、第2MG60が正回転する一方で第1MG40が逆回転している。その状態から第1MG40を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、第1キャリア106に連結されているエンジン20に正回転方向のトルクを作用させることができる。したがって、第1MG40によってエンジン20を始動(モータリングあるいはクランキング)することができ
る。その場合、リダクションギヤ14にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって、車両を走行させるための駆動力は、第2MG60の出力トルクを制御することにより維持できるとともに、同時にエンジン20の始動を円滑に行なうことができる。図1に示されるハイブリッド車5のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
ハイブリッド車5の回生制動時には、リダクションギヤ14および変速機200を経由して、駆動輪12により第2MG60が駆動されるので、第2MG60は発電機として作動する。これにより第2MG60は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして作用する。第2MG60により発電された電力は、PCU16を経由してバッテリ18に蓄えられる。第2MG60の発電電力は、第2MG60のトルクおよび回転数の積によって決まるので、第2MG60のトルクによって、回生制動による発電電力を調整することができる。
変速機200は、リダクションギヤ14と第2MG60との間に設けられるプラネタリギヤである。変速機200は、第2MG60の回転数を変速してリダクションギヤ14に伝達する。なお、変速機200を省略し、第2MG60の出力軸をリダクションギヤ14に直結する構成としてもよい。
変速機200は、第2リングギヤ202と、第2ピニオンギヤ204と、第2キャリア206と、第2サンギヤ208とを含む。第2サンギヤ208は、第2MG60の出力軸に連結された外歯歯車である。第2リングギヤ202は、第2サンギヤ208に対して同心円上に配置された内歯歯車である。第2リングギヤ202は、リダクションギヤ14に連結される。第2ピニオンギヤ204は、第2リングギヤ202および第2サンギヤ208のそれぞれに噛合う。第2キャリア206は、第2ピニオンギヤ204を自転かつ公転自在に保持する。第2キャリア206は、回転しないように、図示しないケース等に固定される。
変速機200は、摩擦係合要素を用いてHV−ECU302からの制御信号に基づいてプラネタリギヤの各要素の回転を制限したり、回転を同期させたりすることによって、第2MG60の回転速度を1段階あるいは複数の段階で変速してリダクションギヤ14に伝達するものであってもよい。
HV−ECU302は、車両状態に適した走行を行なうための走行制御を実行する。たとえば、車両発進時および低速走行時には、ハイブリッド車5は、第2MG60の出力によって、エンジン20を停止した状態で走行する。定常走行時には、ハイブリッド車5は、エンジン20を始動して、エンジン20および第2MG60の出力によって走行する。特に、エンジン20を高効率の動作点で動作させることによって、ハイブリッド車5の燃費が向上する。具体的には、HV−ECU302は、アクセルペダル操作量検出部34で検出されたアクセルペダルの操作量ACCを反映して、車両全体の要求駆動力を設定するとともに、上記走行制御が実現されるように、エンジン20、第1MG40および第2MG60の動作指令値(代表的には、回転数指令値および/またはトルク指令値)を設定する。
また、HV−ECU302は、バッテリ18に設けられたバッテリセンサによって検出された状態値(バッテリ電流IB,バッテリ電圧VB,バッテリ温度TB)に基づいて、バッテリ18のSOC(State of Charge)を推定する。SOCは、満充電量に対する現在の充電量を百分率で示した値で示される。SOCの推定手法については、公知の任意の手法を適用できるため、詳細な説明は繰返さない。
さらに、HV−ECU302は、少なくともSOCに基づいて、バッテリ18へ充電する電力の制限値を示す入力許可電力値(以下、Winとも称する)、およびバッテリ18から放電する電力の制限値を示す出力許可電力値(以下、Woutとも称する)を設定する。バッテリ18への入出力電力(以下、単にバッテリ電力とも称する)についても、バッテリ18の放電時には正値とする一方で、充電時には負値で示す。このため、Woutは零または正値であり(Wout≧0)、Winは零または負値である(Win≦0)。HV−ECU302は、バッテリ電力がWin〜Woutの電力範囲に収まるように制限して、第1MG40および第2MG60の動作指令値を設定する。
次に、ハイブリッド車5のブレーキシステムについて説明する。
制動装置10は、ブレーキキャリパ160と、円板形状のブレーキディスク162とを含む。ブレーキディスク162は、ドライブシャフト164に回転軸が一致するように固定される。ブレーキキャリパ160は、図示しないホイールシリンダとブレーキパッドとを含む。ブレーキ液圧回路80からブレーキキャリパ160に液圧が供給されることによって、ホイールシリンダが作動する。作動したホイールシリンダがブレーキパッドをブレーキディスク162に押し付けることによって、ブレーキディスク162の回転が制限される。これにより、制動装置10は、ブレーキ液圧回路80からの供給液圧Pwcに応じた液圧制動力を発生する。
ブレーキ液圧回路80は、制動装置10への供給液圧Pwcを検出するための液圧センサ82とブレーキペダル22の操作量を検出するブレーキペダル操作量検出部84とを含む。さらに、ブレーキ液圧回路80には、ブレーキECU300からの動作指令に応じて制御される、図示しない液圧制御アクチュエータ(代表的には制御弁)が含まれる。これらの制御弁の開/閉制御あるいは開度制御によって、制動装置10への供給液圧Pwcが、ブレーキECU300によって制御される。
ブレーキペダル操作量検出部84は、たとえば、図示しないマスタシリンダが出力するマスタシリンダ圧を検出する圧力センサによって構成される。マスタシリンダは、ブレーキペダル22に連結されて、ドライバのブレーキペダル22の操作量に応じた液圧を発生させる。あるいは、ブレーキペダル操作量検出部84は、ブレーキペダル22の操作量を直接検出するストロークセンサによって構成されてもよい。ブレーキECU300は、ブレーキペダル操作量検出部84からの信号に基づいて、ドライバによるブレーキペダル22の操作量を検知することができる。
ハイブリッド車5では、ドライバによるブレーキペダル22の操作に対応した車両全体での要求制動力(トータル制動力)を、第2MG60による回生制動力と、制動装置10による液圧制動力とで分担して出力するブレーキ協調制御が実行される。
図2は、図1のHV−ECUの機能ブロック図である。
図2を参照して、HV−ECU302は、要求トルク算出部410と、SOC推定部420と、Win/Wout標準値算出部430とを含む。要求トルク算出部410は、要求駆動トルク算出部414と、要求制動トルク算出部412とを含む。
HV−ECU302は、さらに、リチウム電池保護処理部450と、SOC調整パワー算出部460と、要求パワー算出部440と、加算部470と、配分処理部480とを含む。リチウム電池保護処理部450は、リチウム析出抑制をするための充電制限処理部452と、ハイレートでの放電を抑制するための放電制限処理部454とを含む。
配分処理部480は、制動トルク配分処理部482と、駆動トルク配分処理部483と、モータトルク加算部488とを含む。駆動トルク配分処理部483は、エンジン動作点決定部484と、トルク補正部486とを含む。
[回生制動によるブレーキ協調制御およびバッテリ保護処理の説明]
図3は、液圧制動および回生制動によるブレーキ協調制御の一例を説明するための図である。図3に示される制御は、図2の制動トルク配分処理部482において主として実行される。
図2、図3を参照して、ラインW10はドライバのブレーキペダル操作に基づくトータル制動力(制動トルクTrb*に対応)を示している。一方で、ラインW20は第2MG60によって発生される回生制動力(制動トルクTmb*に対応)を示している。回生制動力および液圧制動力(制動トルクTb*に対応)の和によって、トータル制動力が確保されることが理解される。なお、図示しないが、エンジンを搭載するハイブリッド車においては、上記の液圧制動力と回生制動力に加えて、いわゆるエンジンブレーキによる機関制動力も発生される。したがって、厳密には、必要に応じて機関制動力も考慮に入れた上で、回生制動力および液圧制動力が決められる。ただし、以下では、記載を簡単にするために、機関制動力=0として説明を進める。
ここで、回生制動力すなわち、第2MG60が出力する制動トルクは、バッテリ18への入力電力PbがWinを超えない範囲内(すなわち、Pb>Winとなる範囲内)に制限される。したがって、Winが制限されると、本来の回生制動力を発生せずに回生電力の回収量が低減する可能性がある。特に、特許文献2にも示されるLi析出抑制制御を適用した場合には、回生制動力の発生中に、Winが正方向に変化する可能性がある。この場合には、バッテリ18の保護のために、回生制動力を速やかに減少させる必要が生じる。
したがって、本実施の形態による車両では、Li析出抑制制御との両立を考慮したブレーキ協調制御における回生電力の制限を、以下のように設定する。
図4は、図1に示したハイブリッド車5におけるブレーキ協調制御の制御処理手順を示すフローチャートである。
図4に示すフローチャートによる制御処理は、一定の制御周期毎にHV−ECU302によって実行される。また、図4に示した各ステップは、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする。
図3を参照して、HV−ECU302は、ステップS100により、ハイブリッド車5の車両状態を入力する。車両状態は、ブレーキペダル22の操作量であるブレーキペダル操作量BPと、車速Vと、第1MG40の回転数Nm1と、第2MG60の回転数Nm2とを含む。
ブレーキペダル操作量BPは、図1のブレーキペダル操作量検出部84の出力に基づいて検知される。車速Vは、車速センサ161の出力に基づいて検知される。回転数Nm1,Nm2は、第1MG40および第2MG60に取付けられた回転位置センサ41,42の出力に基づいて演算される。
HV−ECU302は、ステップS110により、ハイブリッド車5の車両状態に基づいて、車両全体での要求制動トルクTrb*を設定する。要求制動トルクTrb*は、図3に示したトータル制動力に対応する。要求制動トルクTrb*は、図2では、要求制動トルク算出部412で算出される。
代表的には、要求制動トルクTrb*は、ステップS100で入力されたブレーキペダル操作量BPおよび車速Vに基づいて、リングギヤ軸102aに出力すべき制動トルクとして算出される。たとえば、ブレーキペダル操作量BPおよび車速Vと要求制動トルクTrb*との関係を予め定めたマップを予め作成して、HV−ECU302内の図示しないメモリに記憶しておくことができる。そして、ステップS110では、ステップS100で入力されたブレーキペダル操作量BPおよび車速Vに基づいて当該マップを参照することによって、要求制動トルクTrb*を設定することができる。
続いて、HV−ECU302は、ステップS120により、バッテリ18のWinを読込む。Winを設定するための制御処理については、後ほど詳細に説明する。|Win|(Win≦0)は、現在(当該制御周期)における、バッテリ18の充電電力の大きさの最大値、すなわち「充電電力上限値」を示す。また、充電時(IB<0)におけるバッテリ電流IBの大きさ(|IB|)について、以下では「充電電流」とも表記する。
HV−ECU302は、ステップS130では、図3に示したブレーキ協調制御に従って、要求制動トルクTrb*のうちの回生制動トルクTmb*の分担量を決定する。この分担量に基づいて、回生制動力を発生する第2MG60のトルク指令値(第2MGトルクTm2*)が設定される。
回生制動の際に、第2MG60は、トルクおよび回転数の積に従った電力を発電する。したがって、バッテリ電力(Pb=VB・IB)が、ステップS120で読込まれたWinを超えないようにする必要がある。すなわち、|Pb|<|Win|とする必要がある。したがって、ステップS130では、|Pb|<|Win|となる範囲内に限定した上で、ブレーキ協調制御のための第2MGトルクTm2*が設定される。したがって、Winによって制限された分だけ、車両の運動エネルギを回生電力として回収するエネルギ量が減ることになる。
さらに、HV−ECU302は、ステップS140では、下記式(1)に従って液圧ブレーキトルクTb*を設定する。なお、式(1)中のGrは、変速機200の減速比である。
Tb*=Trb*−Tmb*・Gr …(1)
このようにして、要求制動トルクTrb*を、回生制動トルク(Tmb*)および液圧ブレーキトルク(Tb*)によって分担するブレーキ協調制御が実現される。
さらにHV−ECU302は、ステップS150により、ステップS140で設定された液圧ブレーキトルクTb*をブレーキECU300(図1、図2)に出力する。以上の制動トルク配分処理は、図2では制動トルク配分処理部482で実行される。
ブレーキECU300は、液圧ブレーキトルクTb*に基づいて、制動装置10に供給する目標液圧を算出する。そして、液圧センサ82によって検出された供給液圧Pwcがこの目標液圧に一致するように、ブレーキ液圧回路80中を制御する。
次に、リチウムイオン二次電池によって構成されるバッテリ18に対するLi析出抑制制御について説明する。
図5は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車5で実行されるLi析出抑制制御を説明する波形図である。
図5を参照して、時刻t0からバッテリ電流IBが負方向に変化して、バッテリ18の充電が開始される。
バッテリ18の充放電履歴に応じて、バッテリ18の許容入力電流値Ilimが設定される。特許文献2に記載されるように、許容入力電流値Ilimは、単位時間内に、バッテリ負極電位がリチウム基準電位まで低下することによってリチウム金属が析出しない最大電流値として求められる。許容入力電流値Ilimは、特許文献2と同様に設定することができる。すなわち、充放電履歴がない状態における許容入力電流値の初期値Ilim[0]から、充電継続による減少量、放電継続による回復量、または放置による回復量を制御周期毎に加減算することによって、時刻tにおけるIlim[t]が逐次求められる。
さらに、許容入力電流値Ilimに対するマージン電流ΔImrを設定して、リチウム金属の析出を防止するための入力電流制限目標値Itagが設定される。特許文献2に記載されるように、許容入力電流値Ilimを正方向にオフセットさせることによって、入力電流制限目標値Itagを設定することができる。この場合には、オフセットさせた電流値が、マージン電流ΔImrとなる。
図5に示されるように、継続的な充電によって、許容入力電流値Ilimおよび入力電流制限目標値Itagは、正方向に徐々に変化する。これによって、許容される充電電流(|IB|)は減少することが理解される。そして、時刻t1において、IBがItag
よりも低くなると(IB<Itag)と、リチウム金属の析出を抑制するために充電電流を制限することが必要となる。
このため、図6に示されるように、時刻t1からバッテリ18のWinを正方向に変化させることによって、充電電力(すなわち、回生電力)が制限される。たとえば、Winは、一定レート(時間変化率)によって正方向に変化される。これにより、|Win|、すなわち、「充電電力上限値」は減少する。この際のWinの変化レートを、以下では「回生制限レート」とも称する。回生制限レートは、Li析出抑制制御による充電電力制限(以下、「回生制限」とも称する)における制限度合の一例に相当する。
再び図5を参照して、時刻t1からのWinの制限によって充電電流が減少して(すなわち、IBが正方向に変化)、時刻t2では、再び、IB>Itagとなる。これにより、図5に示されるように、時刻t2からは、回生制限が解除される。これにより、バッテリ18のWinは、通常値まで徐々に復帰することになる。
このように、大きな充電電流が発生する回生制動時においては、リチウム金属の析出抑制のために、充電電流が入力電流制限目標値Itagに達すると、Winを一定の回生制限レートで変化させる回生制限が開始される。図5から理解されるように、マージン電流ΔImrが大きくなるほど、回生制限の開始条件が厳しくなる。一方で、マージン電流ΔImrを小さくすると、回生制限の開始条件を緩和することによって、回生発電によって回収されるエネルギを増やすことができる。
回生制動中に、回生制限によってWinが変化すると、図4のステップS120,S130の処理(図2では制動トルク配分処理部482)によって、回生制動トルクの分担(MG2トルクの絶対値)が減少するとともに、その減少分に対応して、液圧ブレーキトルクTb*の分担が増加する。これに応じて、ブレーキECU300は、制動装置10への供給液圧Pwcを上昇させるようにブレーキ液圧回路80を制御する。
このようなLi析出抑制制御の介入による回生電力分担分の低下は、燃費の悪化につながるので、出来る限り発生しないほうが望ましい。本実施の形態では、後に図9で説明するように、充放電パワーPchg*を制限することによって、Li析出抑制制御の介入をなるべく避けるようにしている。
また、本実施の形態では、以下に説明するように、車速およびバッテリ状態に基づいて、Li析出抑制制御における回生制限レートを可変に設定する。
図6は、本発明の実施の形態による車両におけるLi析出抑制制御によるWinの設定処理を説明するフローチャートである。
図6に示すフローチャートによる制御処理は、一定の制御周期毎にHV−ECU302によって実行される。また、図6に示した各ステップは、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする。
図6を参照して、HV−ECU302は、ステップS200により、ハイブリッド車5の車速Vを入力する。車速Vは、図1に示した車速センサ161の出力に基づいて検出することができる。
さらに、HV−ECU302は、ステップS210により、バッテリセンサ19の出力に基づいて、バッテリ18の状態値を入力する。上述のように、ステップS210で入力される状態値は、たとえば、バッテリ18の電圧VB、電流IBおよび温度TBを含む。
HV−ECU302は、ステップS220では、バッテリ18のSOCを算出する。以上のステップS210、S220の処理は、図2ではSOC推定部420で実行される。
さらに、HV−ECU302は、ステップS230により、バッテリ18のWin0を設定する。Win0は、回生制限レート処理を実行する前のWinであり、Li析出抑制制御を考慮することなく、現在のバッテリ状態(SOC、状態値等)に基づいて設定される。すなわち、このWin0が、公知の手法に基づいて通常設定されるバッテリ18のWinに相当する。たとえば、Win0は、SOCおよびバッテリ温度TBに基づいて設定される。以上のステップS230の処理は、図2ではWin/Wout標準値算出部430で実行される。
HV−ECU302は、ステップS240により、車速およびバッテリ状態に基づいて、Li析出抑制制御による回生制限レートおよびマージン電流を設定する。回生制限レートは、図5の時刻t1〜t2に示された、Winの正方向への変化レート(時間変化率)に相当する。
なお、回生制限レートおよびマージン電流は、車速V、充電状態SOCおよびバッテリ温度TBに応じて可変値にすると好ましい。
続いてHV−ECU302は、ステップS250により、Li析出抑制制御のための電流制御演算を実行する。すなわち、図5に説明したように、特許文献2に示す手法に基づいて、バッテリ18の充放電履歴に基づいて、今回の制御周期における許容入力電流値Ilim[t]が演算される。そして、許容入力電流値Ilimに対して、ステップS240により設定されたマージン電流ΔImrを設けることによって、入力電流制限目標値Itagが算出される。
さらに、HV−ECU302は、ステップS260により、ステップS210に入力されたバッテリ電流IBと、ステップS250で算出された入力電流制限目標値Itagとを比較する。
そして、HV−ECU302は、IB>Itagのとき(S260でNO判定時)には、充電電流がItagに達していないため、ステップS270によって、回生制限をオフする。この場合には、ステップS275により、ステップS230で設定されたWin0が、そのままバッテリ18のWinとなる(Win=Win0)。
一方で、HV−ECU302は、IB<Itagのとき(S260のYES判定時)には、充電電流がItagに達しているため、ステップS280により、回生制限をオンする。充電電流を現状よりも減少させなければ、IBが許容入力電流値Ilimに達するおそれがあるからである。
回生制限がオンされると、HV−ECU302は、ステップS285により、ステップS240で設定された回生制限レートに従ってWinを設定する。具体的には、前回の制御周期におけるWinから、当該回生制限レートに従って正方向に変化させるように、Winが設定される。回生制限レートに従ってバッテリ18の充電電力上限値(|Win|)が減少することによって、バッテリ18の充電電流が減少する。この結果、負極電位の低下が抑制されて、リチウム金属の析出が防止される。
以上のステップS240〜S285の処理は、図2では充電制限処理部452において実行される。
なお、図5と同様な制限が、図2の放電制限処理部454によって、放電電流およびWoutについても実行される。この場合には電流IBが(+)方向に大きくなりItagに対応するしきい値を超えるとWoutが制限される。このときは、図5のIBを示したグラフを横軸を対称軸として上下反転させた波形となる。また図5のWinを示したグラフの縦軸をWoutと読み変えて、縦軸の正負を上向が(+)下向きが(−)に置き換えればよい。
[要求パワー配分と充放電パワーPchg*の切替の説明]
エンジンが作動する走行モードにおいて蓄電装置のSOCを所定の制御範囲に制御するハイブリッド車両では、蓄電装置の充放電のためのパワーと、車両走行に必要なパワーとの和をエンジンによって出力することになる。このため、通常は、蓄電装置のSOCを目標SOCに制御するように、目標SOCよりも高SOC領域では蓄電装置の放電を促進する一方で、目標SOCよりも低SOC領域では蓄電装置の充電を促進するように、エンジンの出力が制御される。
図7は、本実施の形態のハイブリッド車両の走行制御のための制御処理を説明するためのフローチャートである。図7を始めとする各フローチャートの各ステップの処理は、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする。
HV−ECU302は、ステップS310により、車両状態から要求駆動トルクTr*を算出する。たとえば、アクセル開度(ACC)および車速(V)と要求駆動トルクTr*との関係を予め定めたマップ(図示せず)が予めHV−ECU302の内部に記憶されている。そして、HV−ECU302は、現在のアクセル開度および車速に基づいて、当該マップを参照することによって要求駆動トルクTr*を算出することができる。なお、この処理は、図2では要求駆動トルク算出部414で実行される。
続いて、HV−ECU302は、ステップS320により、バッテリ18の充放電パワーPchg*を求める。充放電パワーPchg*は、充電要求時には正値(Pchg*>0)に設定され、放電要求時には負値(Pchg*<0)に設定される。なお、充放電パワーPchg*の設定手法については、後ほど詳細に説明する。充放電パワーPchg*を決定することによって、バッテリ18の充放電電力が設定される。図2ではステップS320の処理は、SOC調整パワー算出部460によって実行される。
さらに、HV−ECU302は、ステップS330により、合計要求パワーPt*を算出する。合計要求パワーPt*は、下記式(2)によって算出される。なお、式(2)において、Nrは出力軸252の回転数を示し、Lossは損失項を示す。
Pt*=Tr*・Nr+Pchg*+Loss …(2)
ステップS330の処理は、図2では、要求パワー算出部440と加算部470とによって実行される。
HV−ECU302は、ステップS340では、ステップS330によって算出された合計要求パワーPt*に応じて、エンジン20の動作点を決定する。このとき、合計要求パワーPt*=エンジン要求パワーPe*として動作点を仮に決定する。
図8は、エンジン動作点の設定を説明するための概念図である。
図8を参照して、エンジン動作点は、エンジン回転数NeおよびエンジントルクTeの組合せで定義される。エンジン回転数NeおよびエンジントルクTeの積は、エンジン出力パワーPeに相当する。
動作ライン110は、エンジン20を高効率で動作することができるエンジン動作点の集合として予め決定される。動作ライン110は、同一パワー出力時の燃料消費量を抑制するための最適燃費ラインに相当する。
HV−ECU302は、ステップS340では、予め定められた動作ライン110と、ステップS330で算出された合計要求パワーPt*がエンジン要求パワーPe*であるとして、エンジン要求パワーPe*に対応する等パワー線120との交点をエンジン動作点(目標回転数Ne*および目標トルクTe*)に決定する。ステップS340の処理は、図2ではエンジン動作点決定部484によって実行される。
再び図7を参照して、HV−ECU302は、ステップS350により、エンジン20およびモータジェネレータ40,60の動作指令値を生成する。
この際に、第1MG40の出力トルクは、動力分割機構250によってエンジン20と機械的に連結される第1MG40の出力トルクによってエンジン回転数を目標回転数Ne*に制御するように決められる。
さらに、HV−ECU302は、上述のように決定されたエンジン動作点に従ってエンジン20を動作させたときに出力軸252に機械的に伝達される駆動トルク(直達トルク)Tepを算出する。たとえば、直達トルクTepは、動力分割機構250のギヤ比を考慮して設定される。
そして、HV−ECU302は、要求駆動トルクTr*に対する直達トルクTepの過不足分(Tr*−Tep)を補償するように、第2MG60の要求駆動トルクTmp*を算出する。すなわち、第2MG60への要求駆動トルクをTmp*とすると、下記式(3)が成立する。なお、Tmp*は、第2MG60の出力によって出力軸252に作用するトルクのうちの要求駆動トルク分である。
Tr*=Tep+Tmp* …(3)
このようにして算出されたTmp*に基づいて第1MG40および第2MG60が作動したときにバッテリ18に充放電される電力がWinおよびWoutの範囲内であればそのまま指令が出力されるが、バッテリ18に充放電される電力がWinおよびWoutの範囲からはみ出るようであれば、WinおよびWoutに基づいて指令値が制限される。またこのときには制限した分だけエンジン20に要求するパワーを増減させても良い。この処理は、図2ではトルク補正部486で実行される。
ステップS500では、上述のように決定された、エンジン20の動作点および第1MG40、第2MG60の出力トルクに基づいて、エンジン20および第1MG40、第2MG60の動作指令値を設定する。そして、エンジン20および第1MG40、第2MG60は、これらの動作指令値に従って制御される。このときには、制動トルクTmb*も考慮される。
このような走行制御により、エンジン作動を伴う走行モード(HVモード)では、エンジン20を高効率の動作ライン上で動作させながら、要求駆動トルクTr*が駆動軸に作用するように、エンジン20、第1MG40、第2MG60の間のトータル要求パワーに対するパワー配分を決定することができる。さらに、充放電パワーPchg*に従ってバッテリ18を充放電することによって、SOCを制御することができる。
次に、充放電パワーPchg*の設定について詳細に説明する。
図9は、充放電パワーPchg*を設定するための制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は図7のS320の詳細を示すものであり図7のステップS310の処理が完了すると呼び出されて実行される。図9のフローチャートによって、3つのマップのうちのいずれかが選択されて適用され充放電パワーPchg*が設定される。
図10は、充放電パワーPchg*を決定するための標準マップである。図11は、充放電パワーPchg*を決定するための充電上限値制限マップである。図12は、充放電パワーPchg*を決定するための放電上限値制限マップである。
図10で示す標準マップは、SOCが目標値SOCtであるときにPchg*=0に設定されている。SOCがSOCtからSOCUに増加するに従って充放電パワーPchg*はゼロからP1(放電上限値)まで増加している。そしてSOCがSOCUより大きい場合にはPchg*=P1に設定される。これにより、SOCが目標値SOCtより高いときには、バッテリからの放電が実行される。
また、SOCがSOCtからSOCLに減少するに従って充放電パワーPchg*はゼロからP2(充電上限値)まで減少している。そしてSOCがSOCLより小さい場合にはPchg*=P2に設定される。これにより、SOCが目標値SOCtより低いときには、バッテリへの充電が実行される。
図10の標準マップに対して、図11の充電上限値制限マップでは、充電上限値がP2からP2Xに制限され、図12の放電上限値制限マップでは、放電上限値がP1からP1Xに制限されている。
図9を参照して、まずステップS321においては、リチウム電池保護処理として充電制限処理中であるか否かが判断される。HV−ECU302は、図6に示されたステップS260において、バッテリ電流IBと入力電流制限目標値Itagとを比較して回生制限を実行するか否かを判断しているが、回生制限オン時には、制限介入信号SIWinをオン状態とし、回生制限オフ時には、制限介入信号SIWinをオフ状態とする。
そして、充電制限処理中であれば(SIWin=ON)、ステップS322に処理が進み、充電制限処理中でなければ(SIWin=OFF)であれば、ステップS323に処理が進む。
ステップS322では、図11に示した充電上限値制限マップが適用されて、充放電パワーPchg*が決定される。図11に示した充電上限値制限マップは、図10の標準マップとくらべて充電の上限値がP2からP2Xに制限されている。したがって、このマップを適用して充放電パワーPchg*を決定することによって、SOCが目標値よりも低下している低下幅が大きいときの要求充電パワーが小さくなるので、図6のステップS280,S285に示したLi析出抑制制御によるWinの制限処理が実行される頻度が少なくなる。したがってステップS285の前回値に対して累積的に制限が行なわれることも減る。
一方、ステップS323では、リチウム電池保護処理として放電制限処理中であるか否かが判断される。HV−ECU302は、図6に示されたステップS260と同様な放電制限判断処理において、バッテリ電流IBと出力電流制限目標値(Itagに対応するしきい値)とを比較して放電制限を実行するか否かを判断しているが、放電制限オン時には、制限介入信号SDWoutをオン状態とし、放電制限オフ時には、制限介入信号SDWoutをオフ状態とする。
そして、放電制限処理中であれば(SDWout=ON)、ステップS324に処理が進み、放電制限処理中でなければ(SDWout=OFF)であれば、ステップS325に処理が進む。
ステップS324では、図12に示した放電上限値制限マップが適用されて、充放電パワーPchg*が決定される。図12に示した放電上限値制限マップは、図10の標準マップとくらべて放電の上限値がP1からP1Xに制限されている。したがって、このマップを適用して充放電パワーPchg*を決定することによって、SOCが目標値よりも増加している増加幅が大きいときの要求放電パワーが小さくなるので、図6のステップS280,S285に示したLi析出抑制制御と同様な処理がWoutに適用される頻度が減り、Woutが累積的に制限が行なわれることも減る。
一方、ステップS325では、図10に示した標準マップが適用されて、充放電パワーPchg*が決定される。ステップS322,S324,S325のいずれかの処理によって充放電パワーPchg*が決定されたら、ステップS326に処理が進み、制御は図7のフローチャートに戻される。
図13は、制限介入信号SIWinについて説明するための波形図である。
図13には、バッテリ18の充放電電流IBが上段に、制限介入信号SIWinが下段に示されている。時刻t11までは、充放電履歴に基づいてLi析出抑制しきい値Itagが徐々に絞られて(ゼロに近づいて)いる。しきい値Itagに対してゼロに近い方向にΔImr2だけオフセットされた予告しきい値Itag2が設定されている。そして予告しきい値Itagに充電電流が到達すると、制限介入信号SIWinがオフ状態からオン状態に変化する。この制限介入信号SIWinは、一旦オン状態に変化するとしばらくはオン状態を保持し続けるようになっている。したがって、時刻t11において充放電電流IBが一旦予告しきい値Itag2に到達した後に、すぐ充放電電流IBがゼロに近づいて予告しきい値Itag2から遠ざかってしまっても時刻t11〜t12の間は制限介入信号SIWinがオン状態を保持する。たとえば、HV−ECU302は、制限介入信号SIWinが一度オン状態に変化すると一定時間経過しないとオフ状態に戻らないように内部で信号の発生を制御している。図2では、充電制限処理部452の内部で制限介入信号SIWinが図13に示したように生成される。
もし、制限介入信号SIWinがオン状態である間に、SOCが目標値よりも大きく低下しておりバッテリに充電中であるときには、図11の充電上限値がP2からP2Xに制限されることによって、バッテリへの充電電流も減少する。したがって、バッテリ18の充放電履歴も充電量が減少する方向に変化し、これによって、しきい値Itagおよび予告しきい値Itag2は、ゼロから離れる方向に変化する。
このような処理が行なわれるので、図13の波形図では、時刻t11〜t12,t13〜t14において、制限介入信号SIWinがオン状態となり、充電制限処理部452によってWinが制限されるまえに充電電流が減少する。
このようにリチウム電池保護処理を実行することが抑制されるので、動力性能が向上し、また燃費も向上する。
図14は、本実施の形態における充放電パワーPchg*の制限を行なわない場合(比較例)の動作を説明するための動作波形図である。
図15は、本実施の形態における充放電パワーPchg*の制限を行なった場合の動作を説明するための動作波形図である。
図14では、時刻t21においてバッテリ18の充放電履歴に基づいてゼロに近づきつつあったしきい値Itagにバッテリ電流IBが到達し、リチウム析出抑制のための電池保護処理が実行され入力許可電力値Winがゼロに向かって制限開始される。
時刻t21ではバッテリ18のSOCは下限側に近いので、充放電パワーPchg*は充電を要求する負の固定値に設定される。この充放電パワーPchg*が負の固定値に設定され続けることによって、結局Winの制限によって充電電流も制限される。この場合は、Winが制限された状態が連続するので、充放電の自由度が損なわれる。
これに対し図15では、時刻t31においてバッテリ18の充放電履歴に基づいてしきい値Itagがゼロに近づきつつあった点は同じである。しかし、予告しきい値Itag2が設定されているので予告しきい値Itag2にバッテリ電流IBが到達し、リチウム析出抑制のための電池保護処理が実行される前に、充放電パワーPchg*がゼロに向かって制限開始される。
すなわち、充電電流がLi析出抑制制御(図2の充電制限処理部452で実行)のしきい値Itagに到達しそうになったらSOC調整用の充放電パワーPchg*を小さくする。このため、SOCの増加は図14に示すよりも緩やか上昇する部分ができるが、Winは図14に比べて制限されない。したがって、車両動力性能の向上および燃費の向上という効果が得られる。
図14、図15で説明したような関係は、放電電流と図2の放電制限処理部454で実行される放電制限処理とWoutとの関係についても成立する。したがって、Woutが通常値よりも制限される頻度も少なくなるので、この点においても、車両動力性能の向上および燃費の向上という効果が得られる。
[変形例]
上記の実施の形態では、図11、図12に示したように、標準マップに対して制限したマップを充放電パワーPchg*の算出に適用するか否かを、充電制限処理または放電制限処理の予告しきい値と充放電電流との関係に基づいて切替えていた。
これに対して、Li析出抑制制御が介入したら強制充電電力を小さくし、介入がなくなるようにフィードバック制御しても構わない。
図16は、変形例における充放電パワーPchg*を決定するマップを説明するための図である。図16に示すように充電上限値P2をさらに制限する制限量ΔPをP2X1、P2X2、P2X3とすこしずつ変化させてもよい。
図17は、変形例におけるWinおよびPchg*の変化を説明するための波形図である。
図16、図17に示すように充電上限値P2をさらに制限する制限量ΔPをLi析出抑制制御の介入度合い(時間など)に応じてP2X1、P2X2、P2X3とすこしずつ変化させ、Li析出抑制制御の介入がなくなるようにフィードバック制御してもよい。
図17の時刻t41において、充放電電流の履歴に基づいてLi析出抑制制御の介入が開始され、Winが制限され始めている。SOC調整用の充放電パワーPchg*の制限量は、Winの制限度合いや制限継続時間に基づいてフィードバック制御される。これによって、Winの制限量が大きくなる前にWinが通常値に戻る可能性が高まる。
最後に、本実施の形態について、再び図を参照して総括する。 図1、図2を参照して、本実施の形態に示されるハイブリッド車両は、エンジン20と、リチウムイオン二次電池を含むバッテリ18と、駆動輪12との間で回転力を相互に伝達可能に構成されたモータジェネレータ40,60とを搭載するものである。ハイブリッド車両の制御装置は、バッテリ18の充電状態に基づいてバッテリ18の充電状態を目標値(図10のSOCt)に近づけるための第1要求パワー(充放電パワーPchg*)を要求可能範囲(図10のP1〜P2)内で算出する調整パワー算出部460と、車両の走行に必要な第2要求パワー(Tr*×Nr)と第1要求パワー(充放電パワーPchg*)との合計パワーPt*とバッテリ18への入出力許可電力値(Win、Wout)とに基づいてエンジン20とモータジェネレータ40,60との間でのパワー配分を行なう配分処理部480と、バッテリ18を保護するための保護処理を行なうリチウム電池保護処理部450とを備える。リチウム電池保護処理部450は、バッテリ18への充放電電流IBの履歴に基づいて入出力許可電力値(WinまたはWout)を変更し、かつ、バッテリ18への充放電電流IBの履歴に基づいて調整パワー算出部460に対して第1要求パワー(充放電パワーPchg*)の変更を指示する。
好ましくは、リチウム電池保護処理部450は、バッテリ18への充放電電流IBの大きさがしきい値|Itag|より小さい場合には、入出力許可電力値(WinまたはWout)を第1標準値(Win0またはWout0)に設定し、バッテリ18への充放電電流IBの大きさがしきい値|Itag|より大きい場合には、保護処理として入出力許可電力値を第1標準値(Win0またはWout0)よりも制限する。リチウム電池保護処理部450は、バッテリ18への充放電電流IBの大きさとしきい値|Itag|との差が所定値(図13のΔImr2)よりも小さくなった場合には、調整パワー算出部460に要求可能範囲(図10のP2〜P1)をさらに(図11のP2X〜P1または図12のP2〜P1Xに)制限するように指示を行なう。
より好ましくは、入出力許可電力値は、バッテリ18への充電電力の上限値を示す入力許可電力値Winを含む。リチウム電池保護処理部450は、バッテリ18への充電電流IBの大きさが充電しきい値Itagより小さい場合には、入力許可電力値Winを第1標準値Win0に設定し、バッテリ18への充電電流IBの大きさが充電しきい値Itagより大きい場合には、保護処理としてバッテリ18への入力許可電力値Winを第1標準値よりも制限する充電制限処理部452を含む。充電制限処理部452は、バッテリ18への充電電流IBの大きさと充電しきい値Itagとの差が所定値(図13のΔImr2)よりも小さくなった場合には、調整パワー算出部460に要求可能範囲(図10のP2〜P1)の充電上限値P2をさらに図11に示すようにP2Xに制限するように指示を行なう。
より好ましくは、入出力許可電力値は、バッテリ18の放電電力の上限値を示す出力許可電力値Woutを含む。リチウム電池保護処理部450は、バッテリ18の放電電流の大きさが放電しきい値(図5のItagに相当するしきい値)より小さい場合には、出力許可電力値Woutを第1標準値Wout0に設定し、バッテリ18の放電電流の大きさが放電しきい値(図5のItagに相当する放電側のしきい値)より大きい場合には、保護処理として出力許可電力値Woutを第1標準値Wout0よりも制限する放電制限処理部454を含む。放電制限処理部454は、バッテリ18の放電電流の大きさと放電しきい値(図5のItagに相当する放電側のしきい値)との差が所定値(図13のΔImr2に相当する放電側の差分値)よりも小さくなった場合には、調整パワー算出部460に要求可能範囲(図10のP2〜P1)の放電上限値P1を図12に示すようにさらにP1Xに制限するように指示を行なう。
より好ましくは、車両は、摩擦制動力を駆動輪12に作用させるように構成された制動装置10をさらに搭載する。入出力許可電力値は、バッテリ18への充電電力の上限値を示す入力許可電力値Winと、バッテリ18の放電電力の上限値を示す出力許可電力値Woutとを含む。配分処理部480は、合計パワーPt*と入力許可電力値Winおよび出力許可電力値Woutとに基づいて、エンジン20とモータジェネレータ40,60との間での駆動トルクの配分を行なう駆動トルク配分処理部483と、要求制動トルクTrb*と入力許可電力値Winとに基づいて、モータジェネレータ40,60と制動装置10との間で制動トルクの配分を行なう制動トルク配分処理部482とを含む。
なお、本発明の実施の形態による電池保護処理とSOC調整パワー算出処理とが協調して実行される車両は、図1に例示したハイブリッド車5に限定されるものではない。本発明は、バッテリと、バッテリを充電するための発電装置とを搭載し、電池保護処理と電池のSOCを目標値に収束させるための充放電パワー算出処理とを関連させて行なうものであれば、搭載される電動機(モータジェネレータ)の個数や駆動系の構成に関らず、ハイブリッド車の他に、エンジンを搭載しない燃料電池自動車等を含む電動車両全般に共通に適用できる。特に、ハイブリッド車の構成についても、図1の例示に限定されることはなく、パラレル式のハイブリッド車を始めとして、任意の構成のものに、本願発明を適用可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。