以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両に本発明を適用した場合について説明する。
図1は本実施形態に係るハイブリッド車両1の概略構成を示す図である。この図1に示すように、ハイブリッド車両1は、前輪(駆動輪)6a,6bに駆動力を与えるための駆動系として、エンジン2と、エンジン2の出力軸としてのクランクシャフト2aにダンパ2bを介して接続された3軸式の動力分割機構3と、この動力分割機構3に接続された発電可能な第1モータジェネレータMG1と、動力分割機構3に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸3eにリダクション機構7を介して接続された第2モータジェネレータMG2とを備えている。これらクランクシャフト2a、動力分割機構3、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2、リダクション機構7およびリングギヤ軸3eによって本発明でいう動力伝達系が構成されている。
また、上記リングギヤ軸3eは、ギヤ機構4および前輪用のデファレンシャルギヤ5を介して前輪6a,6bに接続されている。
また、このハイブリッド車両1は、車両の駆動系全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(以下、ハイブリッドECU(Electronic Control Unit)という)10を備えている。
−エンジンおよびエンジンECU−
エンジン2は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン2の運転状態を検出する各種センサから信号が入力されるエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)11によって、燃料噴射制御、点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御が行われる。
エンジンECU11は、ハイブリッドECU10と通信を行っており、このハイブリッドECU10からの制御信号に基づいてエンジン2を運転制御するとともに、必要に応じてエンジン2の運転状態に関するデータをハイブリッドECU10に出力する。なお、エンジンECU11は、クランクポジションセンサ56や水温センサ57等が接続されている。クランクポジションセンサ56は、クランクシャフト2aが一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力する。このクランクポジションセンサ56からの出力信号に基づいてエンジンECU11はエンジン回転速度Neを算出する。また、水温センサ57はエンジン2の冷却水温度に応じた検出信号を出力する。
−動力分割機構−
動力分割機構3は、図1に示すように、外歯歯車のサンギヤ3aと、このサンギヤ3aと同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ3bと、サンギヤ3aに噛み合うとともにリングギヤ3bに噛み合う複数のピニオンギヤ3cと、これら複数のピニオンギヤ3cを自転かつ公転自在に保持するプラネタリキャリア3dとを備え、サンギヤ3aとリングギヤ3bとプラネタリキャリア3dとを回転要素とし差動作用を行う遊星歯車機構として構成されている。この動力分割機構3では、プラネタリキャリア3dにエンジン2のクランクシャフト2aが連結されている。また、サンギヤ3aに第1モータジェネレータMG1のロータ(回転子)が連結されている。さらに、リングギヤ3bに上記リングギヤ軸3eを介して上記リダクション機構7が連結されている。
そして、このような構成の動力分割機構3において、プラネタリキャリア3dに入力されるエンジン2の出力トルクに対して、第1モータジェネレータMG1による反力トルクがサンギヤ3aに入力されると、出力要素であるリングギヤ3bには、エンジン2から入力されたトルクより大きいトルクが現れる。この場合、第1モータジェネレータMG1は発電機として機能する。第1モータジェネレータMG1が発電機として機能するときには、プラネタリキャリア3dから入力されるエンジン2の動力が、サンギヤ3a側とリングギヤ3b側とにそのギヤ比に応じて分配される。
一方、エンジン2の始動要求時にあっては、第1モータジェネレータMG1が電動機(スタータモータ)として機能し、この第1モータジェネレータMG1の動力がサンギヤ3aおよびプラネタリキャリア3dを介してクランクシャフト2aに与えられてエンジン2がクランキングされる。
また、動力分割機構3において、リングギヤ3bの回転速度(出力軸回転速度)が一定であるときに、第1モータジェネレータMG1の回転速度を上下に変化させることにより、エンジン2の回転速度を連続的に(無段階に)変化させることができる。つまり、動力分割機構3が変速部として機能する。
−リダクション機構−
上記リダクション機構7は、図1に示すように、外歯歯車のサンギヤ7aと、このサンギヤ7aと同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ7bと、サンギヤ7aに噛み合うとともにリングギヤ7bに噛み合う複数のピニオンギヤ7cと、これら複数のピニオンギヤ7cを自転自在に保持するプラネタリキャリア7dとを備えている。このリダクション機構7では、プラネタリキャリア7dがトランスミッションケースに固定されている。また、サンギヤ7aが第2モータジェネレータMG2のロータ(回転子)に連結されている。さらに、リングギヤ7bが上記リングギヤ軸3eに連結されている。
−パワースイッチ−
ハイブリッド車両1には、ハイブリッドシステムの起動と停止とを切り換えるためのパワースイッチ51(図2参照)が設けられている。このパワースイッチ51は、例えば、跳ね返り式のプッシュスイッチあって、押圧操作される毎に、スイッチOnとスイッチOffとが交互に切り替わるようになっている。
ここで、ハイブリッドシステムとは、エンジン2およびモータジェネレータMG1,MG2を走行用の駆動力源とし、そのエンジン2の運転制御、モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御、エンジン2およびモータジェネレータMG1,MG2の協調制御などを含む各種制御を実行することによってハイブリッド車両1の走行を制御するシステムである。
パワースイッチ51は、運転者を含む搭乗者により操作された場合に、その操作に応じた信号(IG−On指令信号またはIG−Off指令信号)をハイブリッドECU10に出力する。ハイブリッドECU10は、パワースイッチ51から出力された信号などに基づいてハイブリッドシステムを起動または停止する。
具体的には、ハイブリッドECU10は、ハイブリッド車両1の停車中に、パワースイッチ51が操作された場合には、後述するPポジションで上記ハイブリッドシステムを起動する。これにより車両が走行可能な状態となる。なお、停車中のハイブリッドシステムの起動時には、Pポジションでハイブリッドシステムが起動されることから、アクセルオン状態であっても、駆動力が出力されることはない。車両が走行可能な状態とは、ハイブリッドECU10の指令信号により車両走行を制御できる状態であって、運転者がアクセルオンすれば、ハイブリッド車両1が発進・走行できる状態(Ready−On状態)のことである。なお、Ready−On状態には、エンジン2が停止状態で、第2モータジェネレータMG2でハイブリッド車両1の発進・走行が可能な状態(EV走行が可能な状態)も含まれる。
また、ハイブリッドECU10は、例えば、ハイブリッドシステムが起動中で、停車時にPポジションであるときに、パワースイッチ51が操作(例えば、短押し)された場合にはハイブリッドシステムを停止する。
−シフト操作装置および変速モード−
本実施形態のハイブリッド車両1には、図2に示すようなシフト操作装置9が設けられている。このシフト操作装置9は、運転席の近傍に配置され、変位操作可能なシフトレバー91が設けられている。また、シフト操作装置9には、パーキングポジション(Pポジション)、リバースポジション(Rポジション)、ニュートラルポジション(Nポジション)、ドライブポジション(Dポジション)、および、シーケンシャルポジション(Sポジション)を有するシフトゲート9aが形成されており、運転者が所望のポジションへシフトレバー91を変位させることが可能となっている。シフトレバー91が、これらPポジション、Rポジション、Nポジション、Dポジション、Sポジション(下記の「+」ポジションおよび「−」ポジションも含む)の各ポジションのうちのいずれに位置しているかは、シフトポジションセンサ50によって検出される。
上記シフトレバー91が「Dポジション」に操作されている状態では、ハイブリッドシステムは「自動変速モード」とされ、エンジン2の動作点が後述する最適燃費動作ライン上となるように変速比が制御される電気式無段変速制御が行われる。
一方、上記シフトレバー91が「Sポジション」に操作されている状態では、ハイブリッドシステムは「手動変速モード(シーケンシャルシフトモード(Sモード))」とされる。このSポジションの前後には「+」ポジションおよび「−」ポジションが設けられている。「+」ポジションは、マニュアルシフトアップを行う際にシフトレバー91が操作されるポジションであり、「−」ポジションは、マニュアルシフトダウンを行う際にシフトレバー91が操作されるポジションである。そして、シフトレバー91がSポジションにあるときに、シフトレバー91がSポジションを中立位置として「+」ポジションまたは「−」ポジションに操作(手動による変速操作)されると、ハイブリッドシステムによって成立される擬似的な変速段(例えば第1モータジェネレータMG1の制御によってエンジン回転速度を調整することで成立される変速段)がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」ポジションへの1回操作毎に変速段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→3rd→4th→5th→6th)される。一方、「−」ポジションへの1回操作毎に変速段が1段ずつダウン(例えば6th→5th→4th→3rd→2nd→1st)される。なお、この手動変速モードにおいて選択可能な段数は「6段」に限定されることなく、他の段数(例えば「4段」や「8段」)であってもよい。
なお、上記手動変速モードの概念は、上述した如くシフトレバー91がSポジションにあるときに限らず、シフトゲート9a上のレンジ位置として「2(2nd)」や「3(3rd)」等を備えている場合に、これら「2(2nd)」や「3(3rd)」のレンジ位置にシフトレバー91が操作されている場合も含まれる。例えば、シフトレバー91がDポジションから「3(3rd)」レンジ位置に操作された場合には、自動変速モードから手動変速モードに切り換えられる。
また、運転席の前方に配設されているステアリングホイール9bには、パドルスイッチ9c,9dが設けられている。これらパドルスイッチ9c,9dはレバー形状とされ、手動変速モードにおいてシフトアップを要求する指令信号を出力するためのシフトアップ用パドルスイッチ9cと、シフトダウンを要求する指令信号を出力するためのシフトダウン用パドルスイッチ9dとを備えている。上記シフトアップ用パドルスイッチ9cには「+」の記号が、上記シフトダウン用パドルスイッチ9dには「−」の記号がそれぞれ付されている。そして、上記シフトレバー91が「Sポジション」に操作されて「手動変速モード」となっている場合には、シフトアップ用パドルスイッチ9cが操作(手前に引く操作)されると、1回操作毎に変速段が1段ずつアップされる。一方、シフトダウン用パドルスイッチ9dが操作(手前に引く操作)されると、1回操作毎に変速段が1段ずつダウンされる。
このように、本実施形態におけるハイブリッドシステムでは、シフトレバー91が「Dポジション」に操作されて「自動変速モード」になると、エンジン2が効率よく運転されるように駆動制御される。具体的には、エンジン2の運転動作点が、後述する最適燃費ライン上となるようにハイブリッドシステムが制御される。一方、シフトレバー91が「Sポジション」に操作されて「手動変速モード(Sモード)」になると、リングギヤ軸3eの回転速度に対するエンジン2の回転速度の比である変速比を、運転者の変速操作に応じて例えば6段階(1st〜6th)に変更することが可能となる。
−モータジェネレータおよびモータECU−
モータジェネレータMG1,MG2(図1参照)は、いずれも、発電機として駆動できるとともに電動機として駆動できる周知の同期発電電動機により構成されており、インバータ21,22および昇圧コンバータ23を介してバッテリ(蓄電装置)24との間で電力のやりとりを行う。各インバータ21,22、昇圧コンバータ23およびバッテリ24を互いに接続する電力ライン25は、各インバータ21,22が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ24は、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータジェネレータMG1,MG2により電力収支がバランスしている場合には、バッテリ24は充放電されない。
モータジェネレータMG1,MG2は、いずれも、モータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)13により駆動制御される。このモータECU13には、モータジェネレータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータジェネレータMG1,MG2のロータ(回転軸)の各回転位置を検出するMG1回転速度センサ(レゾルバ)26およびMG2回転速度センサ27からの信号や電流センサにより検出されるモータジェネレータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されている。また、モータECU13からは、インバータ21,22へのスイッチング制御信号が出力されている。例えば、モータジェネレータMG1,MG2のいずれかを発電機として駆動制御(例えば、第2モータジェネレータMG2を回生制御)したり、電動機として駆動制御(例えば、第2モータジェネレータMG2を力行制御)したりする。また、モータECU13は、ハイブリッドECU10と通信を行っており、このハイブリッドECU10からの制御信号にしたがって上述した如くモータジェネレータMG1,MG2を駆動制御するとともに、必要に応じてモータジェネレータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッドECU10に出力する。
−バッテリおよびバッテリECU−
バッテリ24は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)14によって管理されている。このバッテリECU14には、バッテリ24を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ24の端子間に設置された電圧センサ24aからの端子間電圧、バッテリ24の出力端子に接続された電力ライン25に取り付けられた電流センサ24bからの充放電電流、バッテリ24に取り付けられたバッテリ温度センサ24cからのバッテリ温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ24の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU10に出力する。
また、バッテリECU14は、バッテリ24を管理するために、電流センサ24bにて検出された充放電電流の積算値に基づいて電力の残容量SOC(State of Charge)を演算し、また、その演算した残容量SOCとバッテリ温度センサ24cにて検出されたバッテリ温度Tbとに基づいてバッテリ24を充放電してもよい最大許容電力である入力制限Win,出力制限Woutを演算する。なお、バッテリ24の入力制限Win,出力制限Woutは、バッテリ温度Tbに基づいて入力制限Win,出力制限Woutの基本値を設定し、バッテリ24の残容量SOCに基づいて入力制限用補正係数と出力制限用補正係数とを設定し、上記設定した入力制限Win,出力制限Woutの基本値に上記補正係数を乗じることにより設定することができる。
−ハイブリッドECUおよび制御系−
上記ハイブリッドECU10は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)40、ROM(Read Only Memory)41、RAM(Random Access Memory)42およびバックアップRAM43などを備えている。ROM41は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU40は、ROM41に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM42は、CPU40での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM43は、例えばIG−Off時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU40、ROM41、RAM42およびバックアップRAM43は、バス46を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース44および出力インターフェース45と接続されている。
入力インターフェース44には、上記シフトポジションセンサ50、上記パワースイッチ51、アクセルペダルの踏み込み量に応じた信号を出力するアクセル開度センサ52、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた信号を出力するブレーキペダルセンサ53、車体速度に応じた信号を出力する車速センサ54等が接続されている。
これにより、ハイブリッドECU10には、シフトポジションセンサ50からのシフトポジション信号、パワースイッチ51からのIG−On信号やIG−Off信号、アクセル開度センサ52からのアクセル開度信号、ブレーキペダルセンサ53からのブレーキペダルポジション信号、車速センサ54からの車速信号等が入力されるようになっている。
また、入力インターフェース44および出力インターフェース45には、上記エンジンECU11、モータECU13、バッテリECU14、後述するGSI(Gear Shift Indicator)−ECU16が接続されており、ハイブリッドECU10は、これらエンジンECU11、モータECU13、バッテリECU14およびGSI−ECU16との間で各種制御信号やデータの送受信を行っている。
−ハイブリッドシステムにおける駆動力の流れ−
このように構成されたハイブリッド車両1は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて、駆動輪6a,6bに出力すべきトルク(要求トルク)を計算し、この要求トルクに対応する要求駆動力により走行するように、エンジン2とモータジェネレータMG1,MG2とが運転制御される。具体的には、燃料消費量の削減を図るために、要求駆動力が比較的低い運転領域にあっては、第2モータジェネレータMG2を利用して上記要求駆動力が得られるようにする。一方、要求駆動力が比較的高い運転領域にあっては、第2モータジェネレータMG2を利用すると共に、エンジン2を駆動し、これら駆動力源(走行駆動力源)からの駆動力により、上記要求駆動力が得られるようにする。
より具体的には、車両の発進時や低速走行時等であってエンジン2の運転効率が低い場合には、第2モータジェネレータMG2のみにより走行(以下、「EV走行」ともいう)を行う。また、車室内に配置された走行モード選択スイッチによって運転者がEV走行モードを選択した場合にもEV走行を行う。
一方、通常走行(以下、HV走行ともいう)時には、例えば上記動力分割機構3によりエンジン2の動力を2経路に分け、その一方の動力で駆動輪6a,6bの直接駆動(直達トルクによる駆動)を行い、他方の動力で第1モータジェネレータMG1を駆動して発電を行う。このとき、第1モータジェネレータMG1の駆動により発生する電力で第2モータジェネレータMG2を駆動して駆動輪6a,6bの駆動補助を行う(電気パスによる駆動)。
このように、上記動力分割機構3が差動機構として機能し、その差動作用によりエンジン2からの動力の主部を駆動輪6a,6bに機械的に伝達し、そのエンジン2からの動力の残部を第1モータジェネレータMG1から第2モータジェネレータMG2への電気パスを用いて電気的に伝達することにより、電気的に変速比が変更される電気式無段変速機としての機能が発揮される。これにより、駆動輪6a,6b(リングギヤ軸3e)の回転速度およびトルクに依存することなく、エンジン回転速度およびエンジントルクを自由に操作することが可能となり、駆動輪6a,6bに要求される駆動力を得ながらも、燃料消費率が最適化されたエンジン2の運転状態を得ることが可能となる。
また、高速走行時には、さらにバッテリ24からの電力を第2モータジェネレータMG2に供給し、この第2モータジェネレータMG2の出力を増大させて駆動輪6a,6bに対して駆動力の追加(駆動力アシスト;力行)を行う。
さらに、減速時には、第2モータジェネレータMG2が発電機として機能して回生発電を行い、回収した電力をバッテリ24に蓄える。なお、バッテリ24の充電量(上記残容量;SOC)が低下し、充電が特に必要な場合には、エンジン2の出力を増加して第1モータジェネレータMG1による発電量を増やしてバッテリ24に対する充電量を増加する。また、低速走行時においても必要に応じてエンジン2の動力を増加する制御を行う場合もある。例えば、前述のようにバッテリ24の充電が必要な場合や、エアコン等の補機を駆動する場合や、エンジン2の冷却水の温度を所定温度まで上げる場合などである。
また、本実施形態のハイブリッド車両1においては、車両の運転状態やバッテリ24の状態によって、燃費を向上させるために、エンジン2を停止させる。そして、その後も、ハイブリッド車両1の運転状態やバッテリ24の状態を検知して、エンジン2を再始動させる。このように、ハイブリッド車両1においては、パワースイッチ51がON位置であってもエンジン2は間欠運転(エンジン停止と再始動とを繰り返す運転)される。
なお、本実施形態において、エンジン間欠運転は、例えば、Sモード時の変速段がエンジン間欠運転許可段以上である場合に許可(エンジン間欠許可)され、Sモード時の変速段が上記エンジン間欠運転許可段よりも低い場合に禁止(エンジン間欠禁止)される。
−ハイブリッド車両の基本制御−
次に、上述の如く構成されたハイブリッド車両1の基本制御について説明する。
図3は、ハイブリッド車両1の基本制御の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、ハイブリッドECU10において所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。
ステップST1において、アクセル開度センサ52からの出力信号により求められるアクセル開度Acc、車速センサ54からの出力信号により求められる車速V(リングギヤ軸3eの回転速度に相関がある)、前回ルーチンにおけるシーケンシャル変速段(前回ルーチンが手動変速モードであった場合に、その前回ルーチンにおいて認識されていた変速段)Ylastの取得を行う。
ステップST1における各種情報の取得後、ステップST2に進み、入力されたアクセル開度Accおよび車速Vに基づいて要求駆動力を設定する。本実施形態では、アクセル開度Accと車速Vと要求駆動力との関係が予め定められた要求駆動力設定マップがROM41に記憶されており、この要求駆動力設定マップが参照されて、アクセル開度Accおよび車速Vに対応した要求駆動力が抽出される。
図4に要求駆動力設定マップの一例を示す。この要求駆動力設定マップは、車速Vおよびアクセル開度Accをパラメータとして運転者が要求する駆動力を求めるためのマップであって、異なるアクセル開度Accに対応させて複数の特性ラインが規定されている。これら特性ラインのうち、最上段に示された特性ラインはアクセル開度Accが全開(Acc=100%)である場合に相当している。また、アクセル開度Accが全閉である場合に相当する特性ラインは、図中に「Acc=0%」で示されている。
この要求駆動力設定マップに基づいて要求駆動力を設定した後、ステップST3に進み、エンジン2に要求される要求パワーPeおよび目標エンジン回転速度Netrgを設定する。具体的には、上記ステップST2で設定された要求駆動力と、車速センサ54により検出された車速Vとに基づいて要求パワーPeを設定する。また、目標エンジン回転速度Netrgは、上記設定された要求パワーPeと、図5に示す目標エンジン回転速度設定マップ(目標エンジン回転速度Netrgを設定するためのマップ)とに基づいて設定される。具体体には、この目標エンジン回転速度設定マップ上に設定されているエンジン2の最適燃費動作ラインと要求パワーライン(等パワーライン;図中に二点鎖線で示す)とに基づいて目標エンジン回転速度Netrgを設定する。この最適燃費動作ラインは、通常走行用(HV走行用)運転動作点の設定制約として予め定められたエンジン2を効率よく動作させるための動作ラインである。このため、上記要求パワーPeを満たし且つエンジン2を効率よく動作させるためのエンジン2の運転動作点としては、この最適燃費動作ラインと、エンジン回転速度NeおよびトルクTeの相関曲線である上記要求パワーラインとの交点(図中における点A)として求められることになる。図5に示すものの場合、目標エンジン回転速度は図中のNetrg1として求められる。
このようにしてエンジン2の要求パワーPeおよび目標エンジン回転速度Netrgを設定した後、ステップST4に進み、目標変速段Xを設定する。具体的には、上記設定された要求駆動力(ステップST2)と、アクセル開度センサ52により検出されたアクセル開度Accと、車速センサ54により検出された車速Vと、図6に示す目標変速段設定マップとに基づいて目標変速段Xが設定される。この図6に示す目標変速段設定マップは、要求駆動力と車速Vとアクセル開度Accとをパラメータとし、これら要求駆動力、車速V、アクセル開度Accに応じて、適正な変速段(最適な燃費となる目標変速段(以下、「推奨変速段」という場合もある))を求めるための複数の領域(変速切替ラインにて区画された第1変速段(1st)から第6変速段(6th)までの領域)が設定されたマップであって、ハイブリッドECU10のROM41に記憶されている。
本実施形態における目標変速段設定マップにあっては、アクセルオン(Acc>0%)の状態では、要求駆動力が高いほど、また、車速が低いほど、Lowギヤ段(変速比が大きいギヤ段)が目標変速段Xとして設定される。
また、アクセルオフ(Acc=0%)の状態では、第1変速段(1st)から第4変速段(4th)の間では、要求駆動力が低いほど(負の要求駆動力が大きいほど)、また、車速が低いほど、Lowギヤ段(変速比が大きいギヤ段)が目標変速段Xとして設定される。また、第4変速段(4th)から第6変速段(6th)の間では、アクセルオフの状態での駆動力は互いに一致している。このため、アクセルオフの状態において、第1変速段(1st)から第4変速段(4th)の間では、選択される変速段が変化する度に駆動力が変化する。これに対し、第4変速段(4th)から第6変速段(6th)の間では、選択される変速段が変化しても駆動力は不変となる。
このため、アクセルオフ時に発生するエンジンブレーキトルク(駆動輪6a,6bに対して制動力として作用するトルク)の大きさとしては、図7に示すように、所定車速以上において、第1変速段(1st)から第4変速段(4th)の間ではLowギヤ段ほど大きくなるのに対し、第4変速段(4th)から第6変速段(6th)の間では略一定となる。
目標変速段Xを設定した後、ステップST5に進み、現在の走行モードが手動変速モード(Sモード)であるか否か、すなわち手動変速モードの実行中であるか否かを判定する。具体的には、シフトレバー91の位置をシフトポジションセンサ50によって検出し、その検出されたシフトレバー91の位置がSポジションであるか否かを判定するようにしている。
そして、手動変速モードではなくステップST5でNO判定された場合には、ステップST14に進み、前回ルーチンにおけるシーケンシャル変速段Ylastをクリアする。つまり、運転者の操作によりシフトレバー91がSポジション(「+」ポジションおよび「−」ポジションを含む)以外のポジションに操作された、または、Sポジション以外のポジションに操作されているとしてシーケンシャル変速段Ylastをクリアする。
その後、ステップST13に進み、目標エンジントルクTetrg、目標MG1回転速度(第1モータジェネレータMG1の目標回転速度;指令回転速度)Nm1trg、目標MG1トルク(第1モータジェネレータMG1の目標トルク;指令トルク)Tm1trg、目標MG2トルク(第2モータジェネレータMG2の目標トルク;指令トルク)Tm2trgを設定する。
ここでは、上記ステップST2において設定された要求駆動力と、上記ステップST3において設定された要求パワーPeおよび目標エンジン回転速度Netrgとに基づいて、目標エンジントルクTetrg、目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trg、目標MG2トルクTm2trgを設定する。
具体的には、上記ステップST3で設定された要求パワーPeを目標エンジン回転速度Netrgで除することにより目標エンジントルクTetrgを設定する。また、上記設定した目標エンジン回転速度Netrgとリングギヤ軸3eの回転速度Nrと動力分割機構3のギヤ比ρ(サンギヤ3aの歯数/リングギヤ3bの歯数)とを用いて第1モータジェネレータMG1の目標回転速度である上記目標MG1回転速度Nm1trgを計算した上で、この計算した目標MG1回転速度Nm1trgと現在のMG1回転速度Nm1とに基づいて第1モータジェネレータMG1の目標トルクである上記目標MG1トルク(指令トルク)Tm1trgを設定する。さらに、バッテリ24の入出力制限Win,Woutと、上記目標MG1トルクTm1trgおよび現在の第1モータジェネレータMG1の回転速度Nm1の積として得られる第1モータジェネレータMG1の消費電力(発電電力)との偏差を第2モータジェネレータMG2の回転速度Nm2で除することにより第2モータジェネレータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを計算する。そして、上記目標エンジントルクTetrgと目標MG1トルクTm1trgと動力分割機構3のギヤ比ρとリダクション機構7のギヤ比Grとに基づいて第2モータジェネレータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを計算し、第2モータジェネレータMG2の指令トルクである目標MG2トルクTm2trgを、上記計算したトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値として設定する。このようにして目標MG2トルクTm2trgを設定することにより、リングギヤ軸3eに出力するトルクが、バッテリ24の入出力制限Win,Woutの範囲内で制限したトルクとして設定される。
以上の如く設定された目標エンジン回転速度Netrgおよび目標エンジントルクTetrgをエンジンECU11に出力し、また、上記設定された目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trg、目標MG2トルクTm2trgをモータECU13に出力する。そして、エンジンECU11は、設定された目標エンジン回転速度Netrgおよび目標エンジントルクTetrgに基づいてエンジン2の運転制御を行う。また、モータECU13は、設定された目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trgに基づいて第1モータジェネレータMG1を駆動制御し、設定された目標MG2トルクTm2trgに基づいて第2モータジェネレータMG2を駆動制御することになる。
一方、上記ステップST5の判定において、手動変速モードの実行中であってYES判定された場合には、ステップST6に進み、前回のシーケンシャル変速段Ylastが存在しているか否かを判定する。ここでは、前回のシーケンシャル変速段Ylastが存在しているか否かを判定することで、手動変速モードの開始時であるか、あるいは手動変速モードが継続中であるかを判定する。
前回のシーケンシャル変速段Ylastが存在しており、ステップST6でYES判定されると、ステップST7に進み、そのシーケンシャル変速段Ylastを現在のシーケンシャル変速段Yとして設定する。つまり、手動変速モードが継続中であると判定されたことで、前回ルーチンで設定されたシーケンシャル変速段Ylastを現在のシーケンシャル変速段Yとして設定する。
一方、前回のシーケンシャル変速段Ylastが存在しておらず、ステップST6でNO判定された場合には、ステップST8に進み、上記ステップST4で設定された目標変速段Xをシーケンシャル変速段Yとして設定する。つまり、手動変速モードが開始された直後である(例えばシフトレバー91がDポジションからSポジションへ操作された直後である)と判定されたことで、要求駆動力等に基づいて設定された目標変速段X(ステップST4で設定された目標変速段X)を手動変速モード開始時のシーケンシャル変速段Yとして設定する。
このようにしてシーケンシャル変速段Yが設定された後、ステップST9に進み、運転者による変速操作が行われたか否かを判定する。ここでは、運転者の操作によりSポジションに位置するシフトレバー91が「+」ポジションまたは「−」ポジションに向けて操作されたことや、シフトアップ用パドルスイッチ9cまたはシフトダウン用パドルスイッチ9dが操作されたことがシフトポジションセンサ50によって検出された場合にYES判定されることになる。
運転者による変速操作が行われ、ステップST9でYES判定されると、ステップST10に進んで、変速操作に基づいてシーケンシャル変速段Yを変更する。ここでは、運転者の操作によりSポジションに位置するシフトレバー91が「+」ポジションに操作された(またはシフトアップ用パドルスイッチ9cが操作された)とシフトポジションセンサ50が検出した場合には、シーケンシャル変速段Yを、現在設定されているシーケンシャル変速段Yに1段(1速)増加して設定する(Y←Y+1)。また、運転者の操作によりSポジションに位置するシフトレバー91が「−」ポジションに操作された(またはシフトダウン用パドルスイッチ9dが操作された)とシフトポジションセンサ50が検出した場合には、シーケンシャル変速段Yを、現在設定されているシーケンシャル変速段Yに1段(1速)減少して設定する(Y←Y−1)。このようにシーケンシャル変速段Yを変更した後、ステップST11に進む。なお、運転者による変速操作が行われず、ステップST9でNO判定された場合には、シーケンシャル変速段Yを変更することなくステップST11に進む。
ステップST11では、上記設定されたシーケンシャル変速段Yと、上記取得された車速Vとに基づいて目標エンジン回転速度Netrgを再設定する。ここでは、手動変速モードであると判定されたことにともなって、設定されたシーケンシャル変速段Y(変速が行われていない場合は前回のシーケンシャル変速段Y(=Ylast)、変速が行われている場合は変速後のシーケンシャル変速段Y(=Y±1))と、車速センサ54により取得された車速Vとに基づいて目標エンジン回転速度Netrgが設定される。例えば、上記変速段毎に変速比を予め設定しておき、シーケンシャル変速段Yと一致する変速段に対応する変速比と、取得された車速Vとに基づいて目標エンジン回転速度Netrgを設定するようにしている。
次に、ステップST12に進み、上記設定された目標エンジン回転速度Netrgに基づいて要求駆動力を再設定する。ここでは、手動変速モードであると判定されたことにともなって、上記設定されたシーケンシャル変速段Yに基づいて設定された目標エンジン回転速度Netrgに応じて要求駆動力を設定する。
その後、ステップST13に進み、上述と同様にして、目標エンジントルクTetrg、目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trg、目標MG2トルクTm2trgを設定する。ここでは、手動変速モード実行中であると判定されたことにともなって、上記ステップST11においてシーケンシャル変速段Yに基づいて設定された目標エンジン回転速度Netrgと、ステップST12において設定された要求駆動力とに基づいて、目標エンジントルクTetrg、目標MG1回転速度Nm1trg、目標MG1トルクTm1trg、目標MG2トルクTm2trgが設定されることになる。
上述のように、本実施形態にかかるハイブリッド車両1においては、手動変速モードでない場合には、アクセル開度Accと車速Vに基づいて要求駆動力が設定され、要求駆動力に基づいて目標エンジン回転速度Netrgが設定され、設定された要求駆動力および目標エンジン回転速度Netrgに基づいてエンジン2の運転制御、各モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御が行われる。一方、手動変速モードである場合、運転者がシフトレバー91を操作することにより設定されたシーケンシャル変速段Yと車速Vとに基づいて目標エンジン回転速度Netrgが設定され、設定された目標エンジン回転速度Netrgに基づいて要求駆動力が設定され、この設定された目標エンジン回転速度Netrgおよび要求駆動力に基づいてエンジン2の運転制御、各モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御が行われる。
−変速指示装置−
本実施形態に係るハイブリッド車両1には、手動変速モード(Sモード)において、運転者に対して変速を促す変速指示(変速案内)を行う変速指示装置が搭載されている。以下、この変速指示装置について説明する。
図8に示すように、車室内の運転席前方に配置されたコンビネーションメータ6には、スピードメータ61、タコメータ62、ウォータテンパラチャゲージ63、フューエルゲージ64、オドメータ65、トリップメータ66、および、各種のウォーニングインジケータランプなどが配置されている。
そして、このコンビネーションメータ6には、ハイブリッド車両1の走行状態に応じて燃費向上等を図る上で適した変速段(ギヤポジション)の選択を指示する表示部として、変速段をアップ指示する際に点灯するシフトアップランプ67(変速指示部)、変速段をダウン指示する際に点灯するシフトダウンランプ68(変速指示部)が配置されている。これらシフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68は、例えばLED等で構成されており、GSI−ECU16(図1参照)によって点灯および消灯が制御される。これらシフトアップランプ67、シフトダウンランプ68、GSI−ECU16およびハイブリッドECU10によって、本発明でいう変速指示装置が構成されている。なお、GSI−ECU16を備えさせず、上記エンジンECU11または図示しないパワーマネージメントECUがシフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68の点灯および消灯を制御する構成としてもよい。
この変速指示装置の基本制御としては、車速センサ54の出力信号から現在の車速Vを求めるとともに、アクセル開度センサ52の出力信号から現在のアクセル開度Accを求め、それら車速Vおよびアクセル開度Accを用いて、図4に示す要求駆動力設定マップを参照して要求駆動力を求める。また、この要求駆動力と上記車速VとアクセルAccとに基づいて図6に示す目標変速段設定マップを参照して推奨変速段(目標変速段)を求める。そして、その推奨変速段と現変速段(例えば上記図3のフローチャートにおける現在のシーケンシャル変速段Y)とを比較し、推奨変速段と現変速段とが同じであるか否かを判定する。そして、推奨変速段と現変速段とが同じである場合には、変速指示を非実施とする。つまり、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68をともに非点灯とする。一方、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段である場合には、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトアップ指示を実施するための制御信号を送信してシフトアップランプ67を点灯する(図9(a)参照)。また、現変速段が推奨変速段よりも高い変速段である場合には、ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対してシフトダウン指示を実施するための制御信号を送信してシフトダウンランプ68を点灯する(図9(b)参照)。なお、本実施形態にあっては、後述する変速指示タイミング制御の如く、シフトアップ指示やシフトダウン指示を実施するタイミングが調整されるようになっている。詳しくは後述する。
また、本実施形態における変速指示装置は、上記第2モータジェネレータMG2のみで駆動輪6a,6bを駆動するEV走行時にも、上記と同様にして変速段の変更を運転者に促す動作を実行する構成となっている。
−変速指示タイミング制御−
次に、本実施形態において特徴とする動作である変速指示タイミング制御について説明する。この変速指示タイミング制御は、変速指示条件が成立した場合、つまり、上記推奨変速段と現変速段とが異なっており変速指示の必要が生じた場合に、上記シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68を点灯させることによる変速指示を実行するタイミング(上記変速指示条件が成立してから実際に変速指示を実行するまでの時間;遅延時間)を調整するものである。
以下、この変速指示タイミング制御の概略について説明する。上記変速指示装置によって変速指示を行う場合、その変速指示の実行タイミングを適正化し、運転者に煩わしさ(変速指示が頻繁に行われることによる煩わしさ)を感じさせることなく、しかも燃料消費率の改善が図れるようにする(変速指示が遅れてしまうことによる燃料消費率の悪化を招かないようにする)ことが望まれている。
例えば、上述した従来技術の如く、変速指示条件が成立した後に運転者に対して変速指示を行うまでの遅延時間を設ける場合において、アクセル開度が大きい程、その遅延時間を短く設定するようにしたものでは、アクセル開度が比較的小さい場合に、上記遅延時間を長くすることになる。ところが、この場合、遅延時間中に車速が高くなっても変速指示が行われない状況になると、推奨変速段への変速指示が遅れてしまうことになり、燃料消費率が十分に図れない状況での走行が継続されてしまう可能性がある。
本実施形態では、この点に鑑み、上記推奨変速段と現変速段との乖離量(乖離の度合い;本発明でいう「現在の駆動力源の運転状態と、駆動力源の推奨運転状態との乖離」に相当し、推奨変速段と現変速段との乖離が大きい時には、燃料消費率を最適化できるエンジン2の運転状態(推奨運転状態)と、実際のエンジン2の運転状態との乖離が大きくなっている)に応じて上記遅延時間を変更するようにしている。より具体的には、推奨変速段と現変速段との乖離が大きい場合には、その乖離が小さい場合に比べて、上記遅延時間を短くするようにしている。
以下、具体的に説明する。本実施形態に係る変速指示装置にあっては、上記変速指示条件が成立してから(上記推奨変速段と現変速段とが異なる状況となってから)、実際に運転者に対して変速指示を実行する(上記シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68を点灯させる)までの間に所定時間(遅延時間)を設ける。具体的には、上記変速指示を実行する(変速指示を許可する)までの時間をカウントするカウンタ(遅延タイマ)を備えさせ、このカウンタのカウント値が所定値に達してカウントアップするまで変速指示を非実施(禁止)とし、このカウンタがカウントアップすると変速指示を許可するようにしている。そして、上記推奨変速段と現変速段との乖離が大きいときには、その乖離が小さいときに比べて、上記カウンタがカウントアップするまでの時間が短く設定され、これにより、変速指示を許可するタイミングが早く訪れるようにしている。
以下、図10のフローチャートに沿って本実施形態における変速指示タイミング制御の動作手順について説明する。このフローチャートは上記パワースイッチ51がON操作された後、所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。
先ず、ステップST21において、現在の走行モードが手動変速モードであり、且つ変速指示装置による変速指示の実行中であるか否かを判定する。つまり、上記シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68の点灯中であるか否かを判定する。
この判定は、上述した推奨変速段と現変速段との比較結果に基づいて行われる。つまり、推奨変速段と現変速段とが異なっている場合には、変速指示の実行中であると判定するものである。また、上記ハイブリッドECU10からGSI−ECU16に対して、シフトアップ指示の制御信号またはシフトダウン指示の制御信号が送信されているか否かを認識し、この制御信号が送信されている場合に、変速指示の実行中であると判定するようにしてもよい。
変速指示装置による変速指示の実行中ではなく、ステップST21でNO判定された場合には、ステップST28に移り、変速指示の実行を許可する。つまり、上記推奨変速段と現変速段とが一致している場合には、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68をともに消灯として変速指示を非実施とする。一方、上記推奨変速段と現変速段とが異なる状況となった場合には、それに応じて上記シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68が点灯されて変速指示が行われることになる。つまり、このステップST28では、上述した変速指示装置の通常動作が行われる。
変速指示装置による変速指示の実行中であって、ステップST21でYES判定された場合には、ステップST22に移り、現在の変速指示に従った手動変速操作が行われたか否かを判定する(本発明でいう「変速指示解除条件」の成立の有無の判定)。つまり、運転者によるシフトレバー91の操作、または、パドルスイッチ9c,9dの操作により、変速指示に従った手動変速操作が行われたか否かを判定する。
未だ手動変速操作が行われていない場合には、ステップST22でNO判定され、ステップST28に移って、変速指示の実行を許可する状態を継続する。これにより、推奨変速段への変速指示が継続されることになる。
一方、変速指示に従った手動変速操作が行われ、ステップST22でYES判定された場合には、ステップST23に移り、上記推奨変速段と現変速段とを比較し、その乖離が所定値以内となっているか否かを判定する。この乖離の所定値としては、例えば変速段の1段分などが挙げられる。
例えば、上記ステップST22での手動変速操作によって変速段が第2変速段(2nd)から第3変速段(3rd)に変更された場合(現変速段が第3変速段(3rd)となった場合)に、推奨変速段が第4変速段(4th)である状況にあっては、上記乖離が所定値以内である(乖離している段数が1段分以内である)として、ステップST23ではYES判定されることになる。
これに対し、上述の如く現変速段が第3変速段(3rd)となった場合に、推奨変速段が第5変速段(5th)や第6変速段(6th)である状況にあっては、上記乖離が所定値を超えている(乖離している段数が1段分を超えている)として、ステップST23ではNO判定されることになる。
上記推奨変速段と現変速段との乖離が所定値以内であり、ステップST23でYES判定された場合には、ステップST24に移り、上記ハイブリッドECU10のRAM42に予め備えられているカウンタのカウント値をリセットする。
その後、ステップST25に移り、上記カウンタのカウント値が所定値α以下であるか否かを判定する。この所定値αとしては任意の値が設定可能である。例えば、カウンタのカウント値がリセットされた後、3sec経過時に、このカウント値が所定値αに達するような値に設定される。この値はこれに限定されるものではない。
上述した如く、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値以内であって(ステップST23でYES判定)、カウンタのカウント値がリセット(ステップST24)された直後にあっては、カウンタのカウント値は所定値α以下であるためステップST25でYES判定されることになり、ステップST26に移って、変速指示を非実施(禁止)とする。つまり、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68を共に消灯する。つまり、上記手動変速操作が行われた際に、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値以内であった場合には、手動変速操作前の段階で点灯していたランプ(シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68)一旦消灯することになる。
その後、ステップST27に移り、上記カウンタがインクリメントされて、ステップST25に戻り、再び、上記カウンタのカウント値が所定値α以下であるか否かを判定する。
この動作が繰り返されることにより、カウンタのカウント値が所定値αを超えるまで、変速指示が非実施(禁止)とされる。つまり、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68は消灯状態が維持される。この消灯状態が維持されている期間が上記遅延時間となる。このように、上記手動変速操作が行われた際に、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値以内であった場合には、上記カウンタのカウント値がリセットされることから、カウンタのカウント値が所定値αを超えるまでの時間が比較的長くなり、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68が消灯されている状態も比較的長く維持されることになる。
そして、上記カウンタのカウント値が所定値αを超えた場合には、ステップST25でNO判定されてステップST28に移る。このステップST28では、変速指示の実行が許可される。つまり、上記推奨変速段と現変速段とが異なる状況であった場合には、それに応じて上記シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68が点灯されて変速指示が行われる状態となり、リターンされる。
このようにして、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値以内である状況では、リセットされたカウンタのカウント値が所定値αに達するまで変速指示が遅延され、このカウント値が所定値αに達した時点から変速指示が行われることになる(カウント値が所定値αに達した時点において推奨変速段と現変速段とが異なっている場合)。
一方、上記ステップST23において、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値を超えており(乖離している段数が2段分以上であり)NO判定された場合には、カウンタのカウント値をリセットすることなく、ステップST25に移り、上記カウンタのカウント値が所定値α以下であるか否かの判定が行われる。このようにカウンタのカウント値はリセットされないため、比較的短い時間のうちにカウンタのカウント値が所定値αに達し、または、直ちにカウント値が所定値αに達し(カウンタのカウント値はステップST23でYES判定されない限りリセットされないので、過去のカウント動作によってカウント値が所定値αに近い値になっているか、または、既に所定値αに達していることで、短時間のうちに所定値αに達し)、ステップST25でNO判定されてステップST28に移って、変速指示の実行が許可されることになる。
このようにして、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値を超えている状況では、早期にカウンタのカウント値が所定値αに達するすることで、遅延時間が短くされ、このカウント値が所定値αに達した時点から変速指示が行われることになる。
以上の如く、本実施形態では、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値以内である状況では、カウンタのカウント値が所定値αに達するまでの期間が長く、それにともなって上記変速指示の遅延時間も長くなることになる。このため、運転者に煩わしさ(変速指示が頻繁に行われることによる煩わしさ)を感じさせることがない。つまり、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値以内である場合には、変速指示(例えばシフトアップ指示)を行っても、それによる効果(例えば燃料消費率の改善効果)が比較的小さいので、上記運転者に煩わしさを感じさせない制御を優先的に行うことになる。一方、推奨変速段と現変速段との乖離が所定値を超えている状況では、カウンタのカウント値が所定値αに達するまでの期間が短く、それにともなって上記変速指示の遅延時間も短くなることになる。このため、変速指示が遅れてしまうことによる燃料消費率の悪化を招くことがなくなり、燃料消費率の改善を図ることができる。
(参考例)
以下、変速指示装置において実行される変速指示制御の複数の参考例について説明する。以下の各参考例は上述した実施形態と組み合わせてもよいし、上述した実施形態での制御(変速指示タイミング制御)を実施することなしに行われるようにしてもよい。
−参考例1−
まず、参考例1について説明する。
運転者が変速指示に従った手動変速操作を行った場合に、その変速指示が継続されると、運転者は違和感を感じてしまう可能性がある。例えば、現変速段が第2変速段(2nd)であって、推奨変速段が第4変速段(4th)であった場合に、シフトアップ指示にしたがって運転者が第3変速段(3rd)への手動変速操作を行っても、未だ現変速段と推奨変速段とは一致していないため、シフトアップ指示が必要となる。この場合に、第3変速段(3rd)への手動変速操作を行ってもシフトアップランプ67が消灯せず点灯状態が継続すると、運転者は第3変速段(3rd)への手動変速操作が正しく行われなかったのではないかとの違和感を感じてしまう可能性がある。
本参考例では、この点に鑑み、運転者が変速指示に従った手動変速操作を行った際に、未だ現変速段と推奨変速段とが一致していない状況であっても、変速指示を一旦解除する(ランプを消灯する)ことで上記違和感を招かないようにするものである。
図11は、本参考例における変速指示タイミング制御の動作手順を示すフローチャート図である。このフローチャートは上記パワースイッチ51がON操作された後、所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。また、ここでは、上述した実施形態において図10で示したフローチャートとの相違点を主に説明する。また、以下では、図11において、図10で示したフローチャートと同一のステップについては同ステップ番号を付し、その説明を省略する。
変速指示に従った手動変速操作が行われ、ステップST22でYES判定された場合には、ステップST24に移り、上記カウンタのカウント値をリセットする。
一方、変速指示に従った手動変速操作が行われていない場合には、ステップST22でNO判定され、ステップST28に移り、変速指示の実行を許可し、変速指示を継続する。
つまり、変速指示に従った手動変速操作が行われた場合には、カウンタのカウント値をリセットすることで、ステップST25ではYES判定されることになり、変速指示を非実施(禁止)とする。これにより、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68は共に一旦消灯することになる。この動作は、仮に運転者が手動変速操作を行った際に、未だ現変速段と推奨変速段とが一致していない状況であっても実施されることになる。このため、運転者は変速指示が一旦解除されたこと(シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68が共に消灯したこと)で、変速指示に従った手動変速操作が正しく行われたことを確認でき、上述した違和感を感じてしまうといったことがなくなる。
そして、このようにして変速指示を一旦解除した後に、上記カウンタのカウント値が所定値αを超えると、ステップST25でNO判定されてステップST28に移り、変速指示の実行が許可される。つまり、上記推奨変速段と現変速段とが異なる状況であった場合には、それに応じて上記シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68が点灯されて変速指示が行われる状態となる。
このように本参考例では、変速指示に従った手動変速操作が行われた際には、シフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68を共に消灯することにより、運転者は、手動変速操作が正しく行われたことを確認でき、上述した違和感を感じてしまうといったことを回避できる。
−参考例2−
次に、参考例2について説明する。
運転者が変速指示の方向とは逆方向に手動変速操作を行った場合に、その変速指示が解除されると、運転者は違和感を感じてしまう可能性がある。例えば、現変速段が第4変速段(4th)であって、推奨変速段が第5変速段(5th)であった場合に、シフトアップ指示がされているにも拘わらず運転者が第3変速段(3rd)への手動変速操作を行った際に、シフトアップランプ67が消灯すると、運転者は違和感を感じてしまう可能性がある。
本参考例では、この点に鑑み、運転者が手動変速操作とは逆方向に手動変速操作を行った場合には、変速指示を継続する(ランプの点灯を継続する)ことで上記違和感を招かないようにするものである。
図12は、本参考例における変速指示タイミング制御の動作手順を示すフローチャート図である。このフローチャートは上記パワースイッチ51がON操作された後、所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。また、ここでも、上述した実施形態において、図10で示したフローチャートとの相違点を主に説明する。また、図12において、図10で示したフローチャートと同一のステップについては同ステップ番号を付し、その説明を省略する。
変速指示の実行中に手動変速操作が行われ、ステップST31でYES判定された場合には、ステップST32に移り、変速指示方向と、運転者による変速操作方向とが同じであるか否かを判定する。この判定は、手動変速操作前後の変速段(上記図3のフローチャートにおいて認識されているシーケンシャル変速段Y)と推奨変速段とを比較することにより行われる。
そして、これら方向が同じである場合には、ステップST32でYES判定され、ステップST24に移ってカウンタのカウント値をリセットする。
一方、運転者による変速操作方向が変速指示方向とは逆方向、つまり変速指示方向と運転者による変速操作方向とが異なっている場合には、ステップST32ではNO判定され、カウンタのカウント値をリセットすることなくステップST25に移る。以下の動作は、上述した実施形態の場合と同様である。
以上の如く、本参考例では、変速指示方向と運転者による変速操作方向とが同じ方向である場合にはカウンタのカウント値がリセットされることでシフトアップランプ67およびシフトダウンランプ68が共に消灯される一方、変速指示方向と運転者による変速操作方向とが逆方向である場合にはカウンタのカウント値がリセットされないことで変速指示(シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68の点灯)継続されることになる(カウント値が既に所定値αに達している場合)。このため、運転者が、上述した違和感(変速指示とは逆方向に手動変速操作を行った場合に変速指示が解除されることによる違和感)を感じてしまうといったことを回避できる。
−参考例3−
次に、参考例3について説明する。
上述した如く、変速指示が頻繁に行われる状況では運転者が煩わしさを感じてしまうことになる。本参考例では、この変速指示が頻繁に行われるといった状況を回避するための変速指示制御に関する。
具体的に、本参考例は、シーケンシャルシフトモードで設定される各変速段毎にエンジン2の下限回転速度が設定された場合における変速指示の改良である。このようにシーケンシャルシフトモードで設定される各変速段毎にエンジン2の下限回転速度を設定する理由は、アクセル開度が小さい場合やアクセルOFF時において、エンジン2のフリクションを利用し、その抵抗分をエンジンブレーキ(駆動輪6a,6bに対する制動力)として機能させる場合に、エンジン回転速度の低下を制限することで、十分な制動力が発生されるようにするためである。これにより、ハイブリッド車両1において、手動変速機を備えた車両と同等のエンジンブレーキが模擬できることになる。また、降坂路走行時等にエンジンブレーキを有効に利用し、車両の走行操作性を、手動変速機を備えた車両での操作性に模擬できることになる。このように手動変速機を備えた車両と同等のエンジンブレーキを模擬するために、上記エンジン2の下限回転速度は、変速比が大きい変速段ほど(Lowギヤ段ほど)高く設定されている。
図14は、各変速段と、その変速段毎に設定されたエンジンの下限回転速度との関係を示している。この図14に示すように、第1速段(1st)でのエンジン下限回転速度が図中のNe1として、第2速段(2nd)でのエンジン下限回転速度が図中のNe2として、第3速段(3rd)でのエンジン下限回転速度が図中のNe3として、第4速段(4th)〜第6速段(6th)でのエンジン下限回転速度が図中のNe4としてそれぞれ設定されている(車速が一定の場合)。
そして、本参考例では、現エンジン回転速度が、現変速段において設定されているエンジン2の下限回転速度に近づくまで(所定マージン以下になるまで)シフトアップ指示を非実施(禁止)とすることで、変速指示が頻繁に行われるといった状況を回避するようにしている。
図13は、本参考例における変速指示タイミング制御の動作手順を示すフローチャート図である。このフローチャートは上記パワースイッチ51がON操作された後、所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。
先ず、ステップST41において、現在、上記シフト操作装置9において手動で選択されている変速段(現変速段)と、現在の車速およびアクセル開度等から求められる推奨変速段とを対比し、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段(現変速段<推奨変速段)、つまり、変速比が大きいLowギヤ側の変速段となっているか否かを判定する。なお、現変速段については、上述した如く、動力分割機構3の入力軸(プラネタリキャリア3d)の回転速度(エンジン回転速度)と、リングギヤ軸3eの回転速度(車速センサ54または出力軸回転速度の出力信号から認識)との比(変速比)を算出し、その算出した変速比から認識することができる。また、シフトポジションセンサ50の出力信号に基づいて、シフトレバー91をSポジションに操作したときに設定される変速段(上記図3のフローチャートにおいてステップST7またはST8で設定された変速段)、または、Sポジションでの「+」ポジションや「−」ポジションへの操作によって設定された変速段(上記図3のフローチャートにおいてステップST10で設定された変速段)によって認識することも可能である。
そして、現変速段が推奨変速段よりも低い変速段であって、ステップST41でYES判定された場合には、ステップST42に移り、現在のエンジン回転速度から、現変速段において設定されているエンジン下限回転速度(以下、「現エンジン下限回転速度」という)を減算した値が所定値(マージン)を超えているか否か、つまり、現在のエンジン回転速度が上記現エンジン下限回転速度に対して十分に高い状態となっているか否かを判定する。このマージンとしては任意の値が設定可能であるが、上記変速指示が頻繁に行われる状況を招かないような値が実験やシミュレーションによって設定される。
そして、現エンジン回転速度から現エンジン下限回転速度を減算した値が所定値(マージン)以下であって、ステップST42でNO判定された場合にはステップST44に移り、シフトアップ指示がされる。つまり、シフトアップランプ67が点灯されて変速指示が行われた状態となり、リターンされる。
一方、現エンジン回転速度から現エンジン下限回転速度を減算した値が所定値(マージン)を超えており、ステップST42でYES判定された場合にはステップST43に移り、シフトアップ指示を非実施(禁止)とする。、シフトアップランプ67の消灯状態を維持する。
具体的に、図14を用いて説明すると、現在、第2速段(2nd)が選択され、エンジン2の運転動作点が図中のXとなっている状況から、エンジン回転速度が低下し(要求パワーラインに沿って低下し)、エンジン回転速度が図中のNe2に近づいていき、このNe2とのマージンが所定値未満となった時点(例えば図中の運転動作点Yとなった時点)でシフトアップランプ67を点灯させ、運転者にシフトアップの指示を行う。そして、運転者がシフトレバーを「+」位置へ操作するなどして第3速段(3rd)が選択されると、ハイブリッドシステムがシフトアップ動作を行うと共に、エンジン下限回転速度としては第3速段(3rd)の下限回転速度Ne3まで低下され、エンジン回転速度を低下させることが可能となって、エンジン2の運転動作点を最適燃費動作ラインに近付けることが可能となる(図中に破線で示す矢印を参照)。
このように本参考例では、現エンジン回転速度が、現エンジン下限回転速度に近づくまで(所定マージン以下になるまで)シフトアップ指示を非実施(禁止)とすることで、変速指示が頻繁に行われるといった状況を回避することが可能である。
−参考例4−
次に、参考例4について説明する。
本参考例も変速指示の実施によって運転者に違和感を招くことがないようにするための改良である。具体的には、車両の旋回中(例えばカーブ走行中)にあっては、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除する、また、アクセルペダルの踏み込み量を少なくする場合があるが、その後、車両が直進走行に移る場合(カーブ走行から直進走行に移る際)における運転者の加速要求タイミング、または、この加速要求タイミングの直前にシフトアップ指示(シフトアップランプ67の点灯)が行われてしまうと、違和感を招くことになってしまう。このため、本参考例では、車両の旋回中にあっては、シフトアップ指示を非実施とするようにしている。
図15は、本参考例における変速指示タイミング制御の動作手順を示すフローチャート図である。このフローチャートは上記パワースイッチ51がON操作された後、所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。
先ず、ステップST51において、現在、車両は旋回中(カーブ走行中)であるか否かを判定する。この車両が旋回中であるか否かの判定は、周知の舵角センサからの操舵角度検出信号や、ヨーレートセンサからのヨーレート信号等に基づいて行われる。つまり、ステアリングホイール9bの操舵角度が所定角度以上である場合や、ヨーレートが所定値以上である場合には車両が旋回中であると判断し、ステップST51でYES判定されることになる。なお、これら操舵角度検出信号やヨーレート信号と車速信号とを組み合わせることで車両が旋回中であるか否かを判断するようにしてもよい。
そして、車両が旋回中ではなく、ステップST51でNO判定された場合にはステップST52に移り、変速指示の実行が許可される。つまり、上記推奨変速段と現変速段とが異なる状況であった場合には、それに応じて上記シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68が点灯されて変速指示が行われた状態となり、リターンされる。このため、現変速段を推奨変速段に一致させるための変速指示が行われることになる。
一方、車両が旋回中であって、ステップST51でYES判定された場合にはステップST53に移り、シフトアップ指示を非実施(禁止)とする。つまり、現変速段が推奨変速段に対して低い変速段であったとしても、シフトアップ指示を非実施とする。
これにより、上述した違和感(車両の旋回中にシフトアップ指示(シフトアップランプ67の点灯)が行われることによる違和感)を回避することができる。
−参考例5−
次に、参考例5について説明する。
本参考例も変速指示の実施によって運転者に違和感を招くことがないようにするための改良である。具体的には、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が大きくなり、キックダウンスイッチ(アクセルペダルの踏み込み量が所定量に達した場合に変速段をLowギヤ側に自動変更するためのスイッチ)がONされた場合にシフトアップ指示(シフトアップランプ67の点灯)が行われてしまうと、高い駆動力を要求している運転者に違和感を招くことになってしまう。このため、本参考例では、キックダウン操作時には、シフトアップ指示を非実施とするようにしている。
図16は、本参考例における変速指示タイミング制御の動作手順を示すフローチャート図である。このフローチャートは上記パワースイッチ51がON操作された後、所定時間(例えば数msec)毎に繰り返し実行される。
先ず、ステップST61において、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が大きくなってキックダウンスイッチがONされたか否かを判定する。この判定は、キックダウンスイッチからのON信号が上記ハイブリッドECU10に送信されているか否かにより行われる。
そして、キックダウンスイッチがONされておらず、ステップST61でNO判定された場合にはステップST62に移り、変速指示の実行が許可される。つまり、上記推奨変速段と現変速段とが異なる状況であった場合には、それに応じて上記シフトアップランプ67またはシフトダウンランプ68が点灯されて変速指示が行われた状態となり、リターンされる。このため、現変速段を推奨変速段に一致させるための変速指示が行われることになる。
一方、キックダウンスイッチがONされており、ステップST61でYES判定された場合にはステップST63に移り、シフトアップ指示を非実施(禁止)とする。つまり、現変速段が推奨変速段に対して低い変速段であったとしても、シフトアップ指示を非実施とする。
これにより、上述した違和感(アクセルペダルの踏み込み量が大きいにも拘わらずシフトアップ指示(シフトアップランプ67の点灯)が行われることによる違和感)を回避することができる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態および参考例では、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式のハイブリッド車両や、4輪駆動方式のハイブリッド車両の制御にも適用できる。
また、上記実施形態および各参考例では、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の2つの発電電動機が搭載されたハイブリッド車両1の制御に本発明を適用した例を示したが、1つの発電電動機が搭載されたハイブリッド車両や3つ以上の発電電動機が搭載されたハイブリッド車両の制御にも本発明は適用可能である。また、モータを駆動力源とする電気自動車に対しても本発明は適用可能である。
また、本発明は、シーケンシャルシフトモードを有する自動変速機を搭載した車両、シリーズハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両に対しても適用可能である。さらには、変速システムとしては、レンジホールドタイプのもの(選択された変速段に対し、Lowギヤ段側への自動変速が可能なもの)やギヤホールドタイプ(選択された変速段が維持されるもの)に対しても本発明は適用可能である。ここでいうレンジホールドタイプとは、シフトレバーがシーケンシャル(S)位置にある場合に、ハイブリッドECU10が、現在の変速段を上限変速段とし、その上限変速段を最も高い側の変速段(最も低い側の変速比)とする制限変速段範囲内で自動変速を行う制御である。例えば、手動変速モードにおける変速段が、第3速段(3rd)である場合、その第3速段を上限変速段とし、第3速段(3rd)〜第1速段(1st)の間において自動変速が可能な状態である。
また、上記実施形態では、推奨変速段と現変速段との乖離量としては、変速段数の乖離(推奨変速段に対する現変速段の乖離段数)を対象としていた。本発明はこれに限らず、最適エンジン回転速度に対する現在のエンジン回転速度の乖離量を対象とするようにしてもよい。具体的には、上記最適燃費動作ラインと要求パワーラインとの交点(図5における点A)におけるエンジン回転速度を最適エンジン回転速度とし、この最適エンジン回転速度に対する現在のエンジン回転速度の乖離量に基づいて変速指示タイミング制御を行うようにしてもよい。この場合、現在のエンジン回転速度と最適エンジン回転速度との乖離が大きいときには、その乖離が小さいときに比べて変速指示タイミングが短く設定されることになる。
更に、上記実施形態では、変速指示解除条件として、変速指示に従った運転者の変速操作が行われたことを挙げたが、変速指示の実行後に所定時間(変速指示解除時間)が経過したことを変速指示解除条件としてもよい。
また、変速段の乖離が同じであっても、駆動力源(エンジン2)の理想状態(推奨運転状態)と現在の駆動力源の運転状態との乖離度に応じて上記所定時間(遅延時間)を変更するものも本願発明の技術的思想の範疇である。