JP5742877B2 - 高強度ポリエチレン繊維およびその製造方法 - Google Patents

高強度ポリエチレン繊維およびその製造方法

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Description

本発明は、安価でかつ優れた強度・弾性率を有する高強度ポリエチレン繊維及びその製造方法に関し、更に詳細には、ゲル紡糸法における溶液調製時等に用いるポリエチレンの溶媒に特徴を有する延伸性の優れた高強度ポリエチレン繊維、及び、その製造方法に関するものである。
高強度ポリエチレン繊維に関しては、超高分子量のポリエチレンを原料にし、いわゆる“ゲル紡糸法”により従来にない高強度・高弾性率繊維が得られることが知られており、既に産業上広く利用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
近年高強度ポリエチレン繊維は、上記の用途のみならず幅広い分野でその使用が拡大しており、更なる高強度・高弾性率化だけではなく、生産性の向上が強く求められている。ポリエチレン繊維の生産性向上に必要な条件の一つは、延伸性が良いことである。該ポリエチレン繊維の製造に際し、延伸倍率の最大値が大きい程、延伸時の糸切れ率が小さく、且つ、延伸速度をより高速化することが可能となる。
特公昭60−47922号公報 特公昭64−8732号公報
従来のゲル紡糸法のような手法では、達成することが困難であった高生産性(延伸性)を実現し、安価なポリエチレン繊維及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。すなわち下記のような発明からなる。
(1)極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂からなり、良溶媒と貧溶媒の混合溶媒、又は良溶媒と非溶媒の混合溶媒を用いて製造され、貧溶媒又は非溶媒の繊維中の残留溶媒量が10ppm以上10000ppm以下であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維。
(2)前記貧溶媒の粘度指数が0.6以下であることを特徴とする(1)に記載の高強度ポリエチレン繊維。
(3)良溶媒である溶媒(A)と、貧溶媒である溶媒(B)との比が、溶媒(A):溶媒(B)=20:80〜99:1(重量比)である、(1)又は(2)に記載の高強度ポリエチレン繊維。
(4)良溶媒である溶媒(A)と、貧溶媒である溶媒(B)との比が、溶媒(A):溶媒(B)=30:70〜95:5(重量比)である、(1)〜(3)のいずれかに記載の高強度ポリエチレン繊維。
(5)良溶媒である溶媒(A)と、非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(A):溶媒(C)=50:50〜99:1(重量比)である、(1)又は(2)に記載の高強度ポリエチレン繊維。
(6)良溶媒である溶媒(A)と、非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(A):溶媒(C)=70:30〜90:10(重量比)である、(1)〜(3)のいずれかに記載の高強度ポリエチレン繊維。
(7)極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂からなり、良溶媒と貧溶媒及び非溶媒の混合溶媒を用い製造され、貧溶媒及び非溶媒の繊維中の残留溶媒量が10ppm以上10000ppm以下であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維。
(8)貧溶媒である溶媒(B)と、非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(B):溶媒(C)=99:1〜50:50(重量比)である(7)に記載の高強度ポリエチン繊維。
(9)貧溶媒である溶媒(B)と、非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(B):溶媒(C)=99:1〜70:30(重量比)である(8)に記載の高強度ポリエチン繊維。
(10)極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対して良溶媒である溶媒(A)と、貧溶媒である溶媒(B)との比が、溶媒(A):溶媒(B)=20:80〜99:1(重量比)である混合溶媒を用いて、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である混同ドープを作成し、該ポリエチレンドープをオリフィスから押し出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸することを特徴とする高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
(11)極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対して良溶媒である溶媒(A)と、貧溶媒である溶媒(B)との比が、溶媒(A):溶媒(B)=30:70〜99:5(重量比)である混合溶媒を用いて、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である混同ドープを作成し、該ポリエチレンドープをオリフィスから押し出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸することを特徴とする、(11)に記載の高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
(12)極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対して良溶媒である溶媒(A)と、非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(A):溶媒(C)=50:50〜99:1(重量比)である混合溶媒を用いて、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である混同ドープを作成し、該ポリエチレンドープをオリフィスから押し出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸することを特徴とする高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
(13)極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対して良溶媒である溶媒(A)と、非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(A):溶媒(C)=70:30〜90:10(重量比)である混合溶媒を用いて、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である混同ドープを作成し、該ポリエチレンドープをオリフィスから押し出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸することを特徴とする、(12)に記載の高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
本発明によると、生産性が大きく向上した高強度ポリエチレン繊維を提供することを可能となる。すなわち、大規模な設備投資を必要とせずに生産性(延伸性)が飛躍的に向上するため、従来極めて高価であった高強度ポリエチレン繊維を安価に提供することができるという利点を有する。
以下、本発明を詳細に記述する。
本発明における原料となる高分子量のポリエチレンは、測定温度として135℃、測定溶媒としてデカリンを用いた場合の極限粘度[η]が8dL/g以上であることが必要であり、より好ましくは10dL/g以上であることが望ましい。極限粘度が8dL/g未満であると、所望とする強度26cN/dTexを超えるような高強度繊維が得られないからである。一方、上限については、所望とする強度が得られる範囲であれば特に問題にならないが、32dL/gを超えると、延伸性が低下し、本願発明の効果が得られ難くなる。より好ましくは30dL/g以下、更に好ましくは25dL/g以下である。
本発明における超高分子量ポリエチレンとは、その繰り返し単位が実質的にエチレンであることを特徴とし、少量の他のモノマー例えばα−オレフィン,アクリル酸及びその誘導体,メタクリル酸及びその誘導体,ビニルシラン及びその誘導体などとの共重合体であっても良いし、これら共重合物どうし、あるいはエチレン単独ポリマーとの共重合体、さらには他のα−オレフィン等のホモポリマーとのブレンド体であってもよい。特にプロピレン,ブテンー1などのαオレフィンと共重合体を用いることで短鎖あるいは長鎖の分岐をある程度含有させることは本繊維を製造する上で、特に紡糸・延伸においての製糸上の安定を与えることとなり、より好ましい。しかしながらエチレン以外の含有量が増えすぎると反って延伸の阻害要因となるため、高強度・高弾性率繊維を得るという観点からはモノマー単位で0.2mol%以下、好ましくは0.1mol%以下であることが望ましい。もちろんエチレン単独のホモポリマーであっても良い。
本発明の生産性の高い高強度ポリエチレン繊維を製造する方法において重要な因子はポリエチレンを溶解(膨潤)させる成分、特に溶液調製時に用いる溶媒種である。
ゲル紡糸方法により高強度ポリエチレン繊維を得るための溶媒として、これまでデカリン・テトラリン、パラフィン等が知られており、これらの溶媒種はポリエチレンの溶解性が良いという特徴で選択されていた。
ところが、従来高強度ポリエチレン繊維を製造するに最適とされてきた上記良溶媒に代わり(良溶媒に加え)、若干溶解性が低い溶媒を用いることにより、延伸性を飛躍的に向上させることができることを本願発明者らは見出し本願発明を完成した。このように若干溶解性が低い溶媒を用いることにより延伸性が向上する理由は以下のように考えられる。
従来のゲル紡糸の技術思想は、溶媒を用いて高分子量ポリエチレン樹脂を膨潤させ、延伸しやすい(分子を引き伸ばし易い)状態とするものであり、その溶媒としては膨潤し易い溶媒、つまり良溶媒が用いられてきた。しかし、生産性の観点から見るとこれらの溶媒を用いた場合、延伸性が十分とはいえず、該ポリエチレン繊維の製造工程の一つである延伸工程において糸切れが多発する、延伸速度を速くすることができない等の問題を発現し易いことを知見した。そこで本願発明者らは、溶媒種とポリエチレン分子の相互作用は溶解性だけではなく、選択した溶媒種によって溶液中でのポリエチレン分子の広がりが大きく異なることに着目した。
すなわち、溶液中のポリエチレンの分子量およびポリエチレン分子の濃度が同じ場合、ポリエチレン分子の広がりが小さい方が、1分子あたりの溶液中に占める空間が小さくなり、その結果、ポリエチレン分子同士の絡み合いがより少ないと考えられる。つまり、溶液中のポリエチレン分子の広がりが小さくなるような溶媒種を選択することにより、生産時の延伸性に大きく影響すると考えられている分子同士の絡み合いを少なくすることができると思われる。
溶媒種の違いによるポリエチレン分子の広がりに関しては、例えば、「新高分子実験学」に書かれているように、基本的な理論が確立されている。概要は次の通りである。ポリエチレン等の屈曲性高分子が溶解性の良い良溶媒に溶けている場合、同一の分子に沿って遠く離れたセグメント対がお互いに接近するとセグメント間の相互作用は斥力が引力よりも優勢になり、分子はより広がった状態になろうとする。他方、屈曲性高分子が溶解性の悪い貧溶媒に溶けている場合、分子と溶媒種との親和性が悪く、セグメント対の間に働く相互作用は引力が斥力よりも優勢になり、良溶媒を用いた場合よりも分子はより縮まった状態になろうとする。従って、良溶媒よりも貧溶媒を用いた方が、溶液中の分子の広がりが小さくなる。これらのことより、貧溶媒を用いた方がより分子同士の絡み合いが少なくなり、延伸性を向上させることが可能になると考えられる。溶液中における分子の広がりは極限粘度の測定量に反映されることはよく知られており、分子の広がりの分子量依存性は、分子量Mの十分高い領域で次のような指数則に従うことがこれまでの膨大な実験データによりわかっている。

[η]∝Mα

式中のαは粘度指数と呼ばれており、今回、鋭意検討した結果、粘度指数が特定の条件を満たす溶媒種を選択することにより、生産時の延伸性を著しく向上させることが可能となった。すなわち、粘度指数が0.6以下になる溶媒であれば、著しく延伸性が向上する。一方、粘度指数の下限は特に問題とはならないが、0.50未満であると、ポリエチレンの溶解性が低下し、紡糸・延伸性が逆に低下する傾向になる。より好ましい粘度指数は0.50〜0.59、更に好ましくは0.50〜0.57である。尚、粘度指数が0.6より大きいもしくは0.6以下になる溶媒は、例えば、「PolymerHandbook Fourth Edition」第4章(出版社(JOHN WILEY)出版年(1999年))に記載されているポリエチレン溶媒から選択することができる。
本発明でいう生産性が著しく向上する溶媒は、種々の方法によって調整することができる。例えば、1種又は2種以上の貧溶媒からなる溶媒、1種又は2種以上の良溶媒に1種又は2種以上の貧溶媒及び/又は非溶媒を混合したもの、1種又は2種以上の貧溶媒に、1種又は2種以上の非溶媒を混合したものが挙げられる。
本発明の高強度ポリエチレン繊維は、貧溶媒を10ppm以上含んでいることが好ましい。本発明のポリエチレン繊維は、冷却された該ドープフィラメントを溶媒除去後に延伸、もしくは溶媒除去及び延伸を同時に行い、場合によっては多段延伸することにより高強度ポリエチレン繊維を製造することが可能となるところ、この時、糸中の貧溶媒の残留溶媒量が重要なパラメータとして挙げられ、10ppm以上あることが好ましい。糸中の残留溶媒量が10ppm未満になると、延伸工程での糸切れが多発する。原理は良くわからないが、残留溶剤が可塑剤のとして作用すると考えている。上限は延伸性に対しては特に問題とならないが、10000ppmを超えると、可塑剤としての効果により、繊維の弾性率・強度が低下する傾向がある。より好ましい範囲は50ppm〜5000ppm更に好ましくは100ppm〜1000ppmである。
貧溶媒を繊維に付与する方法は特に限定されず、例えば紡糸中、延伸中に付与してもよいが、ドープ調整時に添加し、延伸時に貧溶媒濃度が10ppmを下回らないようにすることが好ましい。
なお、本発明でいう貧溶媒とは、ポリエチレンを溶解するものであって、粘度指数が0.6以下のものをいう。
本発明の高強度ポリエチレン繊維に含まれる貧溶媒の粘度指数は、上述のとおり、0.6以下であることが好ましい。かかる貧溶媒であれば適度な絡み合いの数となるからである。より好ましい範囲は上述のとおり、0.51〜0.59、更に好ましくは0.52〜0.57である。
また、この時、延伸時の繊維の変形速度が重要なパラメータとして上げられる。繊維の変形速度があまりにも速いと十分な延伸倍率へ到達する前に繊維の破断が生じてしまい好ましくない。また、繊維の変形速度があまりにも遅いと、延伸中に分子鎖が緩和してしまい延伸により繊維は細くなるものの高い物性の繊維が得られず好ましくない。好ましくは、変形速度で0.005秒−1以上0.5秒−1以下が好ましい。さらに好ましくは、0.01秒−1以上0.1秒−1以下である。変形速度は、繊維の延伸倍率、延伸速度及びオーブンの加熱区間長さより計算可能である。つまり、変形速度(秒−1)=(1―1/延伸倍率)延伸速度/加熱区間の長さである。
本発明の超高分子量ポリエチレン繊維は、極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対する粘度指数が0.6以下である溶媒により、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満であるポリエチレンドープとし、該ポリエチレンドープをオリフィスから押出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸して製造されたものであることが好ましい。かかる方法であれば、紡糸・延伸時に分子間の絡み合いが適度なものとなり、生産性が著しく向上するからである。
また、本発明の超高分子量ポリエチレン繊維は、粘度指数が0.6以上になる溶媒(A)を20重量%以上99重量%未満、粘度指数が0.6以下になる溶媒(B)を1重量%以上80重量%未満含有する混合溶媒を用いたものであることも好ましい形態の一つである。溶媒(A)を99重量%以上、溶媒(B)を1重量%未満含有する混合溶媒を用いた場合、延伸性に与える効果は小さい為、好ましくない。溶媒(A)を20重量部以下、溶媒(B)を80重量部以上含有する混合溶媒を用いた場合、ポリエチレンの溶解性が著しく低下する為、好ましくない。
より好ましくは、溶媒(A):溶媒(B)=30:70〜99:(重量比)である。
本発明の超高分子量ポリエチレン繊維は、非溶媒を10ppm以上含んでいることも好ましい形態の一つである。かかる繊維は、優れた延伸性を有し、生産性が著しく向上するからである。一方、上限は特に問題にならないが、10000ppm以上含むと強度、弾性率が低下する傾向にある。より好ましい非溶媒含有量の範囲は50ppm〜5000ppm、更に好ましくは100ppm〜1000ppmである。なお、本発明で言う非溶媒とは、超高分子量ポリエチレンに対しては不溶であって、良溶媒又は貧溶媒に相溶なものをいう。
また、本発明の超高分子量ポリエチレン繊維は、粘度指数が0.6以上になる溶媒(A)を50重量%以上99重量%未満、溶媒(A)と相溶で且つポリエチレンが不溶な溶媒(C)を1重量%以上50重量%未満含有する混合溶媒を用いたものであってもよい。溶媒(A)を99重量%以上、非溶媒(C)を1重量%未満含有する混合溶媒を用いた場合、延伸性に与える効果はほとんど生じない為、好ましくない。溶媒(A)を50重量%未満、非溶媒(C)を50重量%以上含有する混合溶媒を用いた場合、ポリエチレンの溶解性が著しく低下する為、好ましくない。より好ましくは、溶媒(A):溶媒(C)=70:30〜90:10(重量比)である。
本発明の高強度ポリエチレン繊維は、前記溶媒(B)及び前記(C)を10ppm以上含んでいることが好ましい。かかるポリエチレン繊維は極めて生産性が高いからである。上限は延伸性に対しては特に問題とならないが、10000ppmを超えると、可塑剤としての効果により、繊維の弾性率・強度が低下する傾向がある。より好ましい範囲は50ppm〜5000ppm更に好ましくは100ppm〜1000ppmである。
また、本発明の超高分子量ポリエチレン繊維は、前記溶媒(B)を50重量%以上99重量%未満、溶媒(B)と相溶で且つポリエチレンが不溶な非溶媒(C)を1重量%以上5
0重量%未満含有する混合溶媒を用いたものであってもよい。溶媒(B)を99重量%以上、該非溶媒(C)を1重量%未満含有する混合溶媒を用いた場合、延伸性に与える効果はほとんど生じない為、好ましくない。該溶媒(B)を50重量%未満、該非溶媒(C)を50重量%以上含有する混合溶媒を用いた場合、ポリエチレンの溶解性が著しく低下する為、好ましくない。より好ましくは、溶媒(B):溶媒(C)(重量比)=99:1〜70:30である。
本発明の方法においては溶液中のポリエチレン濃度は、溶媒の性質及びポリエチレンの分子量、分子量分布に依存して変えてもよい。特に非常に高い分子量、例えば測定温度135℃、溶媒としてデカリンを用いた場合の極限粘度[η]が14dL/g以上のポリエチレンを用いた場合、50wt%以上の濃度の混合ドープは、高粘度となるため紡糸時に脆性破断を生じやすくなり紡糸が非常に困難になる。他方、例えば0.5wt%未満の濃度の混合ドープを用いた場合の欠点は、収率が低下し溶媒の分離及び回収の費用が増大することである。
用いられる該混合ドープは、種々の方法、例えば、固体ポリエチレンを溶媒中に懸濁させ、ついで高温にて撹拌するか、または該懸濁液を混合及び搬送部を備えた2軸スクリュー押出し機を用いることにより製造できる。
本発明の方法において該混合ドープを複数のオリフィスが配列してなる紡糸口金を通してドープフィラメントとする。ドープフィラメントへの変換の際の温度は、溶解点以上で選択しなければならない。この溶解点は、もちろん選択した溶媒、濃度に依存しており、少なくとも140℃以上、好ましくは少なくとも150℃以上であることが望ましい。もちろん、この温度は該ポリエチレンの分解温度以下にて選択する。
本発明の方法においては、該ドープフィラメントは予め整流された気体、もしくは液体を用いて冷却される。本発明に用いる気体として空気、もしくは窒素やアルゴン等の不活性ガスを用いる。また、本発明に用いる液体として水等を用いる。
以下実施例により本願発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本発明における特性値に関する測定法および測定条件は下記のとおりである。
(極限粘度)
135℃のデカリンにてウベローデ型毛細粘度管により、種々の希薄溶液の比粘度を測定し、その比粘度を濃度で除した値の濃度に対するプロットの最小2乗近似で得られる直線の原点への外挿点より極限粘度を決定した。測定に際し、サンプルをポリマーに対して1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を添加し、135℃で24時間攪拌溶解して測定溶液を調整した。
(粘度指数)
例えば「PolymerHandbook Fourth Edition」(Brandrup,J.et al.,2005)等の文献に記載のないポリエチレン溶媒に関しては以下の方法で粘度指数を求める。
重量平均分子量が既知でその値が5万以上、且つ、分子量分布が単峰性でその値が8以下のポリエチレンを溶媒に溶かして溶液を作成する。このとき、ポリマーに対して1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を溶液に添加する。次いで上記と同様に極限粘度を求める。重量平均分子量の異なる少なくとも3つ以上のポリエチレンに対して同様の測定を行い、極限粘度を決定し、重量平均分子量に対する極限粘度の両対数プロットを行う。該両対数プロットの最小2乗近似で得られる直線の傾きより粘度指数を決定した。
(繊維の強度、弾性率)
本発明における強度は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長100mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/dTex)を計算して求めた。また曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から弾性率(cN/dTex)を計算して求めた。尚、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
繊度測定は、単糸約2mを各々取り出し、該単糸1mの重さを測定し10000mに換算して繊度(dTex)とした。
(糸中の残留溶媒濃度)
本発明における糸中の残留溶媒濃度は、島津製作所製「ガスクロマトグラフィー」を用いる。まず、試料の糸10mgをガスクロマトグラフィー注入口のガラスインサートにセットする。続いて注入口を溶媒の沸点以上に加熱し、加熱により発生した溶剤を窒素パージでカラムに導入する。次にカラム温度を40℃に設定し、溶媒を5分間トラップさせる。次にカラム温度を80℃まで昇温させた後に測定を開始した。得られたピークより残留溶剤濃度を求めた。
(参考例1)
1−デカノールを溶媒として、極限粘度が21.0dL/gの超高分子量ポリエチレンを重量比3:97で混合しスラリー状液体を形成させた。該物質を分散させながら、160℃の温度に設定した2本の撹拌翼を備えたミキサー型の混練り機で溶解しゲル状物質を形成させた。該ゲル状物質を冷却することなく、185℃に設定した円筒型のシリンダーに充填し、170℃に設定した直径0.8mmを1ホール有する口金より0.8g/分の吐出量で押し出した。吐出したドープフィラメントを7cmのエアギャップを介した後に水浴中に投入させ、冷却し、溶媒を除去することなしに紡糸速度20m/分でドープフィラメントを巻き取った。ついで、該ドープフィラメントを40℃、24時間の条件で真空乾燥させ、溶媒を除去した。このとき該ドープフィラメント中の残留溶剤濃度が10ppm未満になっていないことを確認した。得られた繊維を130℃に設定した金属ヒータに接触させ、6倍の延伸比で延伸し延伸糸を巻き取った。ついで、該延伸糸を149℃で更に延伸し糸が切れる直前の延伸倍率を測定し、その値を最大延伸倍率とした。最大の延伸倍率は17.5倍であった。得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示した。
最大の延伸倍率が大きく高い強度、弾性率を有していることが判明した。
(実施例2)
重量比50:50であらかじめ混合したデカヒドロナフタレンと1-オクタノールの混合溶媒に極限粘度が21.0dL/gの超高分子量ポリエチレンを重量比3:97で混合しスラリー状液体を形成させたこと以外を実施例1と同様にして延伸すると、最大の延伸倍率は18.0倍であった。得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示した。
最大の延伸倍率が大きく高い強度、弾性率を有していることが判明した。
(実施例3)
重量比50:50であらかじめ混合したデカヒドロナフタレンと1−ドデカノールの混合溶媒に極限粘度が21.0dL/gの超高分子量ポリエチレンを重量比3:97で混合しスラリー状液体を形成させたこと以外を実施例1と同様にして延伸すると、最大の延伸倍率は18.5倍であった。得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示した。
最大の延伸倍率が大きく高い強度、弾性率を有していることが判明した。
(実施例4)
重量比95:5であらかじめ混合したデカヒドロナフタレンと1−ヘキサノールの混合溶媒に極限粘度が21.0dL/gの超高分子量ポリエチレンを重量比3:97で混合しスラリー状液体を形成させた。該物質を分散させながら、170℃の温度に設定した2本の撹拌翼を備えたミキサー型の混練り機で溶解しゲル状物質を形成させたこと以外を実施例1と同様にして延伸すると、最大の延伸倍率は18.0倍であった。得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示した。
最大の延伸倍率が大きく高い強度、弾性率を有していることが判明した。
(参考例5)
重量比98:2であらかじめ混合した1−デカノールと1−ヘキサノールの混合溶媒に極限粘度が21.0dL/gの超高分子量ポリエチレンを重量比3:97で混合しスラリー状液体を形成させた。該物質を分散させながら、170℃の温度に設定した2本の撹拌翼を備えたミキサー型の混練り機で溶解しゲル状物質を形成させたこと以外を実施例1と同様にして延伸すると、最大の延伸倍率は18.0倍であった。得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示した。
最大の延伸倍率が大きく高い強度、弾性率を有していることが判明した。
(比較例1)
ポリエチレンの溶媒としてデカヒドロナフタレンを用いてドープフィラメントを得た以外を実施例1と同様にして、延伸すると最大の延伸倍率は14.0倍であった。
(比較例2)
ポリエチレンの溶媒としてテトラリンを用いてドープフィラメントを得た以外を実施例1と同様にして、延伸すると最大の延伸倍率は8.0倍であった。
(比較例3)
WO00/24952の用法を用い、ポリエチレンの溶媒としてデカリンとパラフィンを用いること以外を実施例1と同様にして、延伸すると最大の延伸倍率は15.0倍であった。
本発明に係る高強度ポリエチレン繊維の製造方法により得られた繊維は、各種スポーツ衣料や防弾・防護衣料・防護手袋や各種安全用品などの高性能テキスタイル、タグロープ・係留ロープ、ヨットロープ、建築用ロープなどの各種ロープ製品、釣り糸、ブラインドケーブルなどの各種組み紐製品、漁網・防球ネットなどの網製品さらには化学フィルター・電池セパレーターなどの補強材あるいは各種不織布、またテントなどの幕材、又はヘルメットやスキー板などのスポーツ用やスピーカーコーン用やプリプレグ、コンクリート補強などのコンポジット用の補強繊維など、産業上広範囲に応用可能である。

Claims (9)

  1. 極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂からなり、良溶媒である溶媒(A)と、貧溶媒である溶媒(B)との比が、溶媒(A):溶媒(B)=20:80〜99:1(重量比)の混合溶媒を用いて製造され、貧溶媒の繊維中の残留溶媒量が10ppm以上10000ppm以下であり、貧溶媒は粘度指数が0.50以上0.60以下であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維。
  2. 良溶媒である溶媒(A)と、貧溶媒である溶媒(B)との比が、溶媒(A):溶媒(B)=30:70〜95:5(重量比)である、請求項1に記載の高強度ポリエチレン繊維。
  3. 極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂からなり、良溶媒と貧溶媒及び非溶媒の混合溶媒を用い製造され、貧溶媒及び非溶媒の繊維中の残留溶媒量が10ppm以上10000ppm以下であり、貧溶媒は粘度指数が0.50以上0.60以下であり、非溶媒は超高分子量ポリエチレンに対して不溶であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維。
  4. 貧溶媒である溶媒(B)と、非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(B):溶媒(C)=99:1〜50:50(重量比)である請求項3に記載の高強度ポリエチン繊維。
  5. 貧溶媒である溶媒(B)と、非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(B):溶媒(C)=99:1〜70:30(重量比)である請求項4に記載の高強度ポリエチン繊維。
  6. 極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対して良溶媒である溶媒(A)と、粘度指数が0.50以上0.60以下である貧溶媒である溶媒(B)との比が、溶媒(A):溶媒(B)=20:80〜99:1(重量比)である混合溶媒を用いて、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である混同ドープを作成し、該ポリエチレンドープをオリフィスから押し出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸することを特徴とする高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
  7. 極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対して良溶媒である溶媒(A)と、粘度指数が0.50以上0.60以下である貧溶媒である溶媒(B)との比が、溶媒(A):溶媒(B)=30:70〜99:1(重量比)である混合溶媒を用いて、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である混同ドープを作成し、該ポリエチレンドープをオリフィスから押し出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸することを特徴とする、請求項6に記載の高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
  8. 極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対して良溶媒である溶媒(A)と、超高分子量ポリエチレンに対して不溶である非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(A):溶媒(C)=50:50〜99:1(重量比)である混合溶媒を用いて、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である混同ドープを作成し、該ポリエチレンドープをオリフィスから押し出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸することを特徴とする高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
  9. 極限粘度8dL/g以上の超高分子量ポリエチレン樹脂を、当該樹脂に対して良溶媒である溶媒(A)と、超高分子量ポリエチレンに対して不溶である非溶媒である溶媒(C)との比が、溶媒(A):溶媒(C)=70:30〜90:10(重量比)である混合溶媒を用いて、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である混同ドープを作成し、該ポリエチレンドープをオリフィスから押し出し、冷却させた後、フィラメント糸状を延伸することを特徴とする、請求項8に記載の高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
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