JP3738873B2 - 高強度ポリエチレン繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種ロープ、釣り糸、土木・建築等のネット・シート材、化学フィルターやセパレータ用の布帛・不織布、防弾チョッキを始めとする防護衣料やスポーツ衣料、あるいはヘルメットや耐衝撃性コンポジット,スポーツ用コンポジット用の補強材料など、広く産業資材やテキスタイル用途に使用可能な高強度ポリエチレン繊維であり、温度変化の大きい環境下で使用される条件下でその性能の温度に対する変化、特に強度や弾性率などの力学特性において温度変化の少ない高強度ポリエチレン繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
超高分子量ポリエチレンを原料にして高強度・高弾性率繊維を得ようとする試みは、近年活発であり、非常に高い強度・弾性率を有する繊維が報告されている。例えば、特開昭56−15408号公報には、超高分子量ポリエチレンを溶剤に溶解し得られたゲル状の繊維を高倍率に延伸する、いわゆる「ゲル紡糸法」の技術が開示されている。
【0003】
「ゲル紡糸法」により得られた高強度ポリエチレン繊維は有機繊維としては非常に高い強度・弾性率を有し、さらには耐衝撃性が非常に優れる事が知られており、各種用途においてその応用が広がりつつある。この様な高強度繊維を得る目的において、前出の特開昭56−15408号公報によれば、極めて高い強度と弾性率を有する素材を提供する事が可能であると開示されている。しかしながら一方で、高強度ポリエチレン繊維は温度による性能の変化が非常に大きいことで知られている。例えば、−150℃付近から温度を変化させてその引っ張り強度を測定すると、低温から温度上昇と共に徐々にその低下が観察され、特に室温以上、なかでも結晶分散と呼ばれる緩和機構が観察される80℃付近からその性能の低下が著しい。このような温度による性能の変化は本素材の温度変化の大きい環境下での使用を困難なものにしていた。
【0004】
従来、このような高強度ポリエチレン繊維の温度変化に因る力学特性の変化を制御するこころみとして、特開平7−166414号公報に開示されているごとく、特定の分子量を持つ超高分子量ポリエチレン原料とその得られる繊維の分子量とを適正な範囲にすることで、−100℃以下でのいわゆる極低温領域での振動吸収性を向上させる試みが示唆されているが、基本的に当該技術においては極低温での力学分散を大きくする。つまり、むしろ弾性率の変化を大きくする試みであり、本発明の目指す、力学特性の低下を少なくする試みとは相反するものであった。
【0005】
又、特開平1−156508号公報や特開平1−162816号公報には上記のゲル紡糸法において過酸化物や紫外線照射などの手段により、高強度ポリエチレン繊維のクリープを低減する試みが開示されている。基本的に本手法によれば前述のγ分散の力学分散が低くなることが記され本発明の述べる好ましい方向ではあるが、両発明は高強度ポリエチレン繊維のクリープを改良するのが目的であり、力学特性の温度変化による変化を低減するものでは無かった。特に、通常γ分散における緩和強度が小さくなると、その緩和が起こる温度も高温にシフトするのが通例であり、従来の手法では本発明が目指すより温度の変化に対して力学特性の変化が少ないこと、すなわちγ分散温度はより低温へかつα分散は高温であることが好ましいことからは逆の方向であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上の観点に基づき、本発明は、常温で極めて優れた力学特性を有してかつ、温度変化による強度や弾性率などの力学特性において変化の少ない高強度ポリエチレン繊維を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、繊維状態での極限粘度[ηF ]が5以上のエチレン成分を主体とするポリエチレン繊維であり、その強度が25g/d以上、弾性率が800g/d以上であり、かつその繊維の動的粘弾性の温度分散測定におけるγ分散の損失弾性率のピーク温度が−110℃以下であり、さらにα分散の損失弾性率のピーク温度が100℃以上であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維である。
【0008】
本発明における超高分子量ポリエチレンとは、その繰り返し単位が実質的にエチレンであることを特徴とし、少量の他のモノマー例えばα−オレフィン,アクリル酸及びその誘導体,メタクリル酸及びその誘導体,ビニルシラン及びその誘導体などとの共重合体であっても良いし、これら共重合物どうし、あるいはエチレン単独ポリマーとの共重合体、さらには他のα−オレフィン等のホモポリマーとのブレンド体であってもよい。特にプロピレン,ブテンー1などのαオレフィンと共重合体を用いることで短鎖分岐をある程度含有させることは本繊維を製造する上で紡糸・延伸において安定性を与えることとなり、より好ましい。しかしながらエチレン以外の含有量が増えすぎると延伸の阻害要因となる。従って、高強度・高弾性率繊維を得るという観点からはモノマー単位で5mol%以下であることが好ましい。もちろんエチレン単独のホモポリマーであっても良い。
【0009】
本発明の骨子は、繊維状態で測定の動的粘弾性特性の温度分散におけるγ分散の損失弾性率のピーク温度が−110℃以下、好ましくは−115℃以下であり、さらにα分散の損失弾性率のピーク温度が100℃以上、好ましくは105℃以上であることを特徴とする。かかる特徴を有する高強度ポリエチレン繊維は常温での力学特性が極めて高くかつ、広い温度範囲においてその力学特性の変化が小さい。
【0010】
本繊維の温度による性能の変化が少ないことは、2種の力学分散すなわち、αおよびγ分散の温度で確実に定義することができる。すなわち、力学分散の起こる温度域では通常、弾性率の著しい低下が観察される。高強度ポリエチレン繊維の場合、通常−100℃付近にγ分散がまた、85℃付近にα分散が観察される。この両者の温度を挟んで繊維を使用した場合、通常温度がこの両付近を通過するたびに極めて大きな弾性率および強度の変化をもたらし、各種製品設計上好ましくない。従って、通常はγ分散温度以上およびα分散温度以下で、ある程度余裕を配慮して温度領域を設定し、その使用温度領域が決定される。したがって、γ分散温度はより低温へ、α分散温度はより高温であることは、上記の使用温度領域を広げる意味で非常に有意義である。
【0011】
本繊維のようにα分散の温度が高いにも関わらずγ分散のピーク温度が逆に非常に低温にあることは従来常識からは、極めて驚くべきことである。すなわち、γ分散にはもともと非晶と結晶との寄与があることが知られている。従来高強度ポリエチレン繊維においては、延伸倍率を高くしたり、結晶化を促進させたりすると、α分散を比較的容易に高温へ移行させることは可能である。このことは糸の微細構造がより結晶構造リッチになることを示唆している。この場合、γ分散を支配する構造も非晶から結晶に移ることになり、γ分散の温度も高温にシフトすることが通常であった。つまり、本発明で提供する繊維は微細構造的にも従来の常識とは反するものであると言える。さらに本繊維のα分散のピーク温度は上記の延伸等の手段で得られる従来の高強度ポリエチレン繊維のそれが高々95℃程度であったのと比べて少なくとも100℃以上、好ましくは105℃以上と非常に高温である。また、γ分散においても上記のような高いα分散温度を持つ繊維でなくても通常90℃以上を有する結晶性の高い繊維では、−110℃より低温であることは困難であった。一部、例えばα分散温度が85℃程度の繊維の場合、γ分散温度が−110℃以下を示す場合があるが、これは繊維の構造がより非晶的になったためであり、本発明の目指す高結晶性(α分散温度が高い)でありながらγ分散温度もなおかつ低いという新規な繊維とは明確に区別することができる。
【0012】
さて本発明に係る繊維を得る手法は当然ながら新規でかつ慎重な手法を必要とするが、もちろん以下に示す例に限定されるものでは無い。
すなわち本繊維を得る手法としては、前述の「ゲル紡糸法」が実際的手法とて有効であるが、超高分子量ポリエチレンを成形して従来知られている高強度ポリエチレン繊維を得る手法であれば特に基本となる製糸技術は問わない。本発明においてまず重要なのは原料となるポリマーである。
【0013】
すなわち、本発明においては、2種の超高分子量ポリエチレンを用いることが推奨される。この際、主となるポリマーは極限粘度が5以上、好ましくは10以上でありかつ、40未満であり、かつポリマーを常温固体でかつ融点が100℃未満の固形パラフィンに均一に溶解して10%溶液とした時の0.001sec−1および0.01sec−1のせん断速度で測定されたせん断粘度の比(すなわち前者を後者で割った値を以下本発明においては粘度指数と称する)が5以下、好ましくは3.5以下のポリマー(A)を90重量部以上99.9重量部未満、極限粘度が20以上、好ましくは25以上、さらにこのましくは30以上を有するより高分子量のポリエチレン(B)を0.1重量部以上10重量部未満含有してなる混合物を100重量部に対して、該ポリマー混合物を実質可溶な溶剤を100重量部以上添加して加熱して機械的混合を加えて溶解し、紡糸したのち延伸する手法により、最も効率的に上記目的に促した繊維を得ることができる。
【0014】
本発明による新規な高強度ポリエチレン繊維は、前述のごとく温度による性能の変化が少ないことが特徴であり、この特徴は2種の力学分散すなわち、αおよびγ分散の温度で確実に定義することができる。通常γ分散は分子末端や側鎖などの局所的な分子鎖構造の欠陥に由来すると考えられてきた。通常、その分子鎖構造としてほとんど側鎖を有しない超高分子量ポリエチレンの場合、この寄与は主に分子鎖末端により影響されると考えられる。分子鎖末端が結晶構造の中あるいは周辺においてどのような分布を有するのかは学術的にも良く判明していない。当該発明者の検討によると、2種の超高分子量ポリエチレンを用いることが上記目的の達成のために推奨される。即ち、まずその極限粘度が5以上、好ましくは10以上でありかつ、40未満であり、そのポリマーを想定される溶解条件に準じて固形パラフィンに溶解して10%溶液とした時の粘度指数が5以下、好ましくは3.5以下のポリマー(A)を少なくとも90重量部以上99.9重量部未満含有し、これと極限粘度が20以上、好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上を有する、より高分子量のポリエチレン(B)を0.1重量部以上、10重量部未満含有してなる混合物を100重量部に対して、該ポリマー混合物を実質可溶な溶剤を100重量部以上添加して加熱して機械的混合を加えて溶解し、紡糸したのち延伸する事により、上記γ分散温度を低温に維持したままで、α分散温度を高くできることを見出し本発明に到達した。
【0015】
その理由は推定でしかないが、粘度指数が5以下、好ましくは3.5以下であることは、せん断変形下での粘度のせん断速度の依存性が極めて小さいことを示唆する。このことは逆に言えば、緩和時間の非常に均一な分子が溶液流れ中に存在するする(緩和時間分布が狭い)ことを示唆し結局、糸に成形される際に分子鎖がより均一に配列し分子末端構造が結晶中あるいはその近傍に均一に整列するのが原因ではないかと考えられる。通常のポリエチレンにおいては結晶化度が大きくなるほど、あるいは延伸倍率が大きくなるほどγ分散温度は高くなることが一般的に知られている。これは分子鎖末端等が結晶内部に取り込まれ、その運動が抑制されることを示唆すると考えれば、本繊維のγ分散温度が比較的低温に維持されることは上記の機構を考えるに示唆的である。すなわち、何らかの分子の特異な整列機構によりポリエチレンの局所欠陥、主に分子鎖末端は結晶化や延伸とともに結晶内部に取り込まれること無く、むしろその周辺に偏在するのではないかと考えられる。このことは、結晶分散を表わすα分散の温度が非常に高温になることもそれを指示するものであり、結晶内部に分子末端のような欠陥部が非常に少なく、結晶構造がより完全なものに近づいたことを示唆する。
【0016】
本発明により粘度指数が5以下好ましくは3.5以下の超高分子量のポリマーを準備することは複数の手段により達成することができる。先ず第一は分子量分布の非常に少ないポリマーを用いることであり、例えば分子量分布Mw/Mnが5以下のポリマーのなかから最適なポリマーを選択することができる。さらに好ましくはMw/Mnは3以下であり、この場合は、例えばメタロセン触媒を用いて一段と分子量分布の狭いポリマーを用いても良い。さらに言えば分子量分布のMw/Mnが5を超えるような、いわゆる通常のチグラー・ナッタ系触媒を用いたポリマーであっても、該ポリマーの溶解時において、そのポリマーのもともとの極限粘度[ηA]、および繊維状態になった後の極限粘度[ηF]が次の式を満足するときほぼ本発明の要請する流動指数を満足することができる。
【0017】
[ηA]×0.60≦[ηF]≦[ηA]×0.85
【0018】
即ち、通常のチグラー・ナッタ系触媒によりほぼ限度まで分子量分布を狭く調整した超高分子量のポリエチレンをさらに溶解・押出しの工程で分子量を故意に低下させることにより、実質分子量分布を非常に狭くすることができる。この際、溶解工程で酸化防止剤を用いないことは当然ながら、過酸化化合物などの分解促進剤を添加したり、活性酸素を溶液に溶解するなどの処方は効率的である。このように、工程において分子を故意に劣化させると高分子量側がより切断される確率が高く、統計的に分子量分布が狭くなることが期待できる。一方、本発明での要請はその流動指数にあり、流動改質剤や極少量のポリマーを添加して所望の流動指数を得てもよく、イオン性の凝集剤やステアリン酸金属塩などの流動改質剤は、それらの一例である。
【0019】
さらに、本発明では上記主ポリマー(A)に対して少量部の極限粘度が20以上、好ましくは25以上、さらにこのましくは30以上を有する、より高分子量のポリエチレンを添加する処方を推奨する。この主旨は上記主ポリマーAだけでは温度に対する変化が少ない繊維を得ることができても、高強度繊維を得ることが困難であり、特に紡糸や延伸の過程において著しく分子の延伸性が悪くなる。鋭意検討の結果、極限粘度が20以上、好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上を有する、より高分子量のポリエチレンを0.1重量部以上、10重量部未満のごく少量添加すると、著しく紡糸や延伸での変形が良好になるばかりか、よりα分散の温度も高くなり、力学特性、特に弾性率が大きく向上することが判明し本発明に到達した。
【0020】
その原因は定かではないが、ごく少量の高分子量成分Bが紡糸や延伸の過程において必要最低限の応力伝播の役割を果たし、紡糸や延伸での分子の変形をスムーズにしたからではないかと推定しているが定かではない。Bの成分は極少量で良く10重量部を超えると逆に延伸等が極めて実施しにくくなるばかりか、溶解等での不均一の原因となる。一方、0.1重量部未満では、その成形性を向上させたり、熱的に安定化させる効果が十分でなくなる。
【0021】
上記製法等により得られた繊維は、繊維状態での極限粘度[ηF ]が5以上、好ましくは10以上、40未満であり、その強度が25g/d以上、好ましくは30g/d 以上、更に好ましくは35g/d 以上、また弾性率が800g/d以上、好ましくは1000g/d 以上、更に好ましくは1200g/d 以上であり、上述の力学分散特性との相乗効果により、実用面で従来にない極めて優れた特性を有するポリエチレン繊維を提供することを可能とした。
【0022】
【実施例】
以下に本発明における特性値に関する測定法および測定条件を説明する。
(動的粘弾弾性測定)
本発明における動的粘度測定は、オリエンテック社製「レオバイブロンDDV−01FP型」を用いて行った。繊維は全体として100デニール±10デニールとなるように分繊あるいは合糸し、各単繊維ができる限り均一に配列するように配慮して、測定長(鋏金具間距離)が20mmとなるように繊維の両末端をアルミ箔で包みセルロース系接着剤で接着する。その際の糊代ろ長さは、鋏金具との固定を考慮して5mm程度とする。各試験片は、20mmの初期幅に設定された鋏金具(チャック)に糸が弛んだり捩じれたりしないように慎重に設置され、予め60℃の温度、110Hzの周波数にて数秒、予備変形を与えてから本実験を実施した。本実験では−150℃から150℃の温度範囲で約1℃/分の昇温速度において110Hzの周波数での温度分散を低温側より求めた。測定においては静的な荷重を5gfに設定し、繊維が弛まない様に試料長を自動調整させた。動的な変形の振幅は15μmに設定した。
【0023】
(強度・弾性率)
本発明における強度,弾性率は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長200mm、伸長速度100%/分の条件で歪ー応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、曲線の破断点での応力を強度(g/d)、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線より弾性率(g/d)を計算して求めた。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0024】
(極限粘度)
135℃のデカリンにてウベローデ型毛細粘度管により、種々の希薄溶液の比粘度を測定し、その粘度の濃度にたいするプロットの最小2乗近似で得られる直線の原点への外挿点より極限粘度を決定した。測定に際し、原料ポリマーのがパウダー状の場合はその形状のまま、パウダーが塊状であったり糸状サンプルの場合は約5mm長の長さにサンプルを分割または切断し、ポリマーに対して1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を添加し、135℃で4時間撹はん溶解して測定溶液を調整した。
【0025】
(せん弾粘度測定および粘度指数の計算)
本特許におけるせん弾粘度測定方法について以下に詳しくその方法を記述する。まず超高分子量固形ポリマーを10重量部、および数平均分子量約500程度(融点が常温より高くその数平均分子量が1000を超えなければ良い)の固形パラフィン(本特許では粉末状固形パラフィン:商標名「LUVAX1266」:日本製蝋(株)製を使用した)を90重量部および、ポリマーに対して実際に紡糸される条件の必要により1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を添加したものを、実際の紡糸における溶解条件にできるだけ準じて例えば2軸型混練り機等の装置を用いて、高温で混合・溶解し、押し出したものをペレット状にカットした。このようにして得られたペレットを2mmのスペーサーを有する2対の平面金型内に充填し、予め160℃に設定した加熱型プレス機にて1時間放置後、さらに200kgf/cm2 の圧力を加えた状態で1時間放置した後、氷水にて急冷しテスト片を作成した。このテスト片をコーンプレート型の粘弾弾性測定装置(レオメトリックス社ARES)に充填可能なサイズに切断し、160℃で動的モードにてせん断速度0.001sec−1および0.01sec−1での複素動的粘度をそれぞれ求め、前者を後者で割った価をその粘度指数として採用した。測定はそのプレスした試験辺より10個所がランダムに選ばれ測定した結果の平均値である。
【0026】
以下、実施例をもって本発明を説明する。
(実施例1)
極限粘度が18.5でかつその分子量分布Mw/Mn=5.5の超高分子量ポリマーの主成分ポリマー(C)を98重量部と極限粘度が30でかつその分子量分布が約Mw/Mn=12.0のポリマー(D)を2重量部加えたパウダー状の混合物が全量の15重量%となるようにデカヒドロナフタレン85重量%を常温で添加した。このポリマーを2軸型の混合押し出し機にて200℃の温度条件および100rpmで溶解・押し出しを実施した。尚この際、酸化防止剤は使用しなかった。この操作を行う予備的な実験において前述のポリマー(C)単体を10重量%および90重量%の固形パラフィンを2軸型混練り機で200℃で混合し同様のスクリュー条件(温度および酸化防止剤を添加しないことを準拠)にて押した後、冷却して造粒したペレットを前述の評価法により粘度指数を計算したところ、その価は3.2であった。
【0027】
かかるポリマーを上記の条件にて溶解後、0.8mm直径を有するオリフィスが48ホール設置された口金を用いて各ホールの吐出量が1.6g/min となるように押し出して後、直ちに約90℃の不活性ガスにて溶剤を一部除去しつつ、90m/min の速度で引き取りを実施した。引き取られた糸は直ちに120℃のオーブンにて5倍延伸されて後、一旦巻き取り、さらに149℃に調整されたオーブンにて4.5倍に延伸されて高強度繊維を得た。得られた繊維の動的粘弾性特性を含む諸物性を表1に示す。
【0028】
(実施例2)
実施例1における主成分ポリマーとして極限粘度が22のポリマー(E)を用いた他は、同様の操作で延伸糸を得また、流動指数を評価した。実施例1に比べ、延伸が非常にスムーズであり、高強度繊維が得ることができた。ポリマーEの粘度指数も2.9と更に良好な値が得られた。
【0029】
(実施例3)
実施例1における主成分ポリマー(C)と超高分子量成分ポリマー(D)の比率を99.5重量部および0.5重量部に変更した他はほぼ同等の操作で延伸糸を得た。ポリマーの流動指数は3.1であり、実験誤差の範囲で実施例1と同等であった。表1に示すように、若干、延伸性不良による強度の低下が見られ、又γ分散温度も若干高めの値が得られたが相対的には満足のいく結果が得られた。
【0030】
(実施例4)
実施例1の主成分ポリマーとしてジルコニウムメタロセンからなるエチレン重合体で、その極限粘度が18.5、およびMw/Mn=2.7のポリマー(F)を用いる他は実施例1と同様の操作で延伸糸を得る実験を実施した。ポリマー(F)の流動指数は1.9と極めて優れた特性を示し、かつ延伸糸の物性は表1に示すごとく極めて優れたものが得られた。その理由は良く分からないが実施例1に比べた場合、弾性率が特に高い値を示した。動的粘弾性特性においても極めて優れた結果となった。
【0031】
(実施例5)
実施例4において、ポリマーを溶解する際にブレンドポリマーの総量に対して1wt%のBHTを添加した他は同様の操作で延伸糸を得る実験を実施した。本添加剤を処方した溶解方法に準拠して実施した流動指数は2.1と若干増加したが優れたものであった。得られた繊維の特性は実施例4に比較して低下したものの、実施例4で見られた強度に対する弾性率が高くなる傾向が見られた。又、動的粘弾弾性特性も優れた結果が得られた。
【0032】
(比較例1)
実施例1の主成分ポリマー(C)を用いた以外、高分子量物は添加しなかった。ポリマーCポリマーそのものの流動指数は当然実施例1と同等良好であり、強度・弾性率等は優れた値が得られたものの、相対的にγ分散温度が高く、又α分散温度が低く、本特許が目指す広範囲の温度での物性変化の少ない繊維を得ることができなかった。
【0033】
(比較例2)
実施例4において主成分ポリマー(F)を用いた以外、高分子量物は添加しなかった。ポリマーFそのものの流動指数は当然実施例4と同等で極めて良好ではあるが、延伸や紡糸の過程で著しい糸切れが発生し、満足のできる十分な長さ(仮に1000m以上連続で巻き取れたことで判断する。)の延伸糸が得られなかった。極く短時間巻き取ることが可能であった繊維の物性を表1に示す。強度・弾性率等はそこそこの値が得られたものの、比較例1と同様にγ分散温度が高く、又α分散温度が低く、本特許が目指す広範囲の温度での物性変化の少ない繊維を得ることができなかった。
【0034】
(比較例3)
実施例1において、ポリマーを溶解する際にブレンドポリマーの総量に対して1wt%のBHTを添加した他は同様の操作で延伸糸を得る実験を実施した。本添加剤を処方した溶解方法に準拠して実施した流動指数は5.2と高い値が得られた。この流動指数が示す通り、紡糸・延伸では非常に高い頻度で糸切れが発生し、十分な長さの連続的な繊維を得ることができないばかりか短時間での採取も不可能であった。2段延伸倍率を2.5倍に低減して、短時間で得られた繊維の物性を表1に示す。強度・弾性率および動的粘弾性特性共に、低いレベルの延伸糸しか得ることができなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
【発明の効果】
温度変化に対する繊維特性の変化が極めて少ない各種用途に好適な高強度ポリエチレン繊維を提供することを可能とした。
Claims (1)
- 極限粘度が5以上40未満であり、かつポリマーを常温固体でかつ融点が100℃未満の固形パラフィンに均一に溶解して10%溶液とした時の、0.001sec−1および0.01sec−1のせん断速度で測定された、せん断粘度の比が5以下のポリエチレンポリマー(A)90重量部以上99.9重量部未満と、
極限粘度が20以上であり(A)より高分子量であるポリエチレンポリマー(B)0.1重量部以上10重量部未満含有してなる混合物を用い紡糸した繊維であり、
繊維状態での極限粘度[ηF ]が5以上のエチレン成分を主体とするポリエチレン繊維であり、その強度が25g/d以上、弾性率が800g/d以上であり、かつその繊維の動的粘弾性の温度分散測定におけるγ分散の損失弾性率のピーク温度が−110℃以下であり、さらにα分散の損失弾性率のピーク温度が100℃以上であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維。
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