JP3832614B2 - 高強度ポリエチレン繊維およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種ロープ、釣り糸、土木・建築等のネット・シート材、化学フィルターやセパレータ用の布帛・不織布、防弾チョッキを始めとする防護衣料やスポーツ衣料、あるいはヘルメットや耐衝撃性コンポジット,スポーツ用コンポジット用補強材、特に極低温から室温雰囲気で使用される各種産業用材料として、広範囲の用途に使用可能な高強度ポリエチレン繊維であり、温度変化の大きい環境下で使用される条件下でその性能の温度に対する変化、特に強度や弾性率などの力学特性において温度変化の少ない高強度ポリエチレン繊維および、それを工業生産に十分な速度にて製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
超高分子量ポリエチレンを原料にして高強度・高弾性率繊維を得ようとする試みは近年活発であり、非常に高い強度・弾性率を有する繊維が報告されている。例えば、特開昭56−15408号公報には、超高分子量ポリエチレンを溶剤に溶解し得られたゲル状の繊維を高倍率に延伸する、いわゆる「ゲル紡糸法」の技術が開示されている。
【0003】
「ゲル紡糸法」により得られた高強度ポリエチレン繊維は有機繊維として非常に高い強度・弾性率を有し、さらには耐衝撃性が非常に優れる事が知られており、各種用途においてその応用が広がりつつある。かかる高強度繊維を得る目的において、前出の特開昭56−15408号公報によれば、極めて高い強度と弾性率を有する素材を提供する事が可能であると開示されている。しかしながら一方で、高強度ポリエチレン繊維は温度による性能の変化が非常に大きいことで知られている。例えば、−160℃付近から温度を変化させてその引っ張り強度を測定すると、低温から温度上昇と共に徐々にその低下が観察され、特に−120℃〜−100℃付近においてその性能の低下が著しい。このような温度による性能の変化は本素材の温度変化の大きい環境下での使用を困難なものにするともに、逆に言えば極低温での物性が室温まで保持できれば従来の高強度ポリエチレン繊維の性能を飛躍的に向上させることが期待される。
【0004】
従来、このような高強度ポリエチレン繊維の温度変化に因る力学特性の変化を制御するこころみとして、特開平7−166414号公報に開示されているごとく、特定の分子量を持つ超高分子量ポリエチレン原料とその得られる繊維の分子量とを適正な範囲にすることで、−100℃以下のいわゆる極低温領域での振動吸収性を向上させる試みが示唆されているが、基本的に当該技術においては極低温での力学分散を大きくする。つまり、むしろ弾性率の変化を大きくする試みであり、本発明の目指す、力学特性の低下を少なくする試みとは相反するものであった。
【0005】
又、特開平1−156508号公報や特開平1−162816号公報には上記のゲル紡糸法において過酸化物や紫外線照射などの手段により、高強度ポリエチレン繊維のクリープを低減する試みが開示されている。基本的に本手法によれば前述のγ分散の力学分散が低くなることが記され本発明の述べる好ましい方向ではあるが、両発明は高強度ポリエチレン繊維のクリープを改良するのが目的であり、力学特性の温度変化による変化を低減するものでは無かった。特に、通常γ分散における緩和強度が小さくなると、その緩和が起こる温度も高温にシフトするのが通例であり、従来の手法では本発明が目指すより温度の変化に対して力学特性の変化が少ないこと、すなわちγ分散温度はより低温に移行することが好ましいことからは逆の方向であった。
【0006】
特に、γ分散の温度を−100℃以下の温度域に属するγ分散の値をその温度域は極低温に維持しながら緩和強度として小さくすることは、その極低温での高い物性(特に強度)が長く室温近傍でも緩和せずに維持されることを示唆し、そのような繊維の出現は極めて産業上の利用価値の大きい繊維と言えよう。又、後述するようにこのような新規な特性を有する繊維は従来の高強度ポリエチレン繊維として有するべき基本的特長を損なうことなく代替可能であるばかりか、その製造工程中、特に延伸工程においても高強度繊維でありながら極めて高速度で延伸することが期待できる。すなわち、優れた性能を有する高強度ポリエチレン繊維をより高い生産性で得る事ができる新規な製造方法としてもその産業上の意義がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上の観点に基づき、本発明は、常温で極めて優れた力学特性を有してかつ、広範囲での温度変化、特に液体窒素温度域によける強度や弾性率などの力学特性が室温でも高いレベルで維持されたことを特徴とする高強度ポリエチレン繊維およびその新規な製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、繊維状態での極限粘度[η]が5以上のエチレン成分を主体とするポリエチレン繊維であり、その強度が20g/d以上、弾性率が500g/d以上であり、かつその繊維の動的粘弾性の温度分散測定におけるγ分散の損失弾性率のピーク温度が−110℃以下であり、さらにその損失正接(tanδ)が0.03以下であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維に関する。さらに本発明は、極限粘度[η]が5以上でありかつ、その重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が4以下である、エチレン成分を主体とする高分子量重合体(A)を99重量部乃至50重量部、高分子量重合体(A)に対して少なくとも1.2倍の極限粘度を有する超高分子量重合体(B)を1重量部乃至50重量部含有してなる重合混合物を、濃度が全量の5重量%以上80重量%未満となるように溶剤に溶解して後、紡糸、延伸されることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維の製造方法を提供し、さらにはその重合体混合物の平均極限粘度[η]Mが10以上でありかつ、得られた繊維の極限粘度[η]Fが次式で与えられることを特徴とする超高強度ポリエチレン繊維の製造方法に関するものである。
0.7×[η]M≦ [η]F≦0.9×[η]M
【0009】
以下、本発明を詳述する。
本発明における高分子量ポリエチレンとは、その繰り返し単位が実質的にエチレンであることを特徴とし、少量の他のモノマー例えばα−オレフィン,アクリル酸及びその誘導体,メタクリル酸及びその誘導体,ビニルシラン及びその誘導体などとの共重合体であっても良いし、これら共重合物どうし、あるいはエチレン単独ポリマーとの共重合体、さらには他のα−オレフィン等のホモポリマーとのブレンド体であってもよい。特にプロピレン,ブテンー1などのαオレフィンと共重合体を用いることで短鎖あるいは長鎖の分岐をある程度含有させることは本繊維を製造する上で、特に紡糸・延伸においての製糸上の安定を与えることとなり、より好ましい。しかしながらエチレン以外の含有量が増えすぎると反って延伸の阻害要因となるため、高強度・高弾性率繊維を得るという観点からはモノマー単位で5mol%以下、好ましくは1mol%以下であることが望ましい。もちろんエチレン単独のホモポリマーであっても良い。
【0010】
本発明の骨子は、繊維状態で測定の動的粘弾性特性の温度分散におけるγ分散の損失弾性率のピーク温度が−110℃以下、好ましくは−115℃以下であり、さらにその損失正接(tanδ)の値が0.03以下好ましくは0.02以下であることを特徴とする繊維を得ることにあり、また該特性を得た繊維を得てなお、従来と同種の繊維の製造方法よりも極めて優れた高い生産性、具体的には高速度で延伸可能な高強度ポリエチレンの製造方法を提供する。
【0011】
本発明の繊維の温度による性能の変化が少ないこと、特に室温での力学物性、特に強度に優れていることは。繊維の動的粘弾性のγ分散ピーク温度で定義することができる。すなわち、力学分散の起こる温度域では通常、弾性率の著しい低下が観察される。高強度ポリエチレン繊維の場合、通常−100℃付近にγ分散が観察される。ポリエチレンはこのγ分散を境にして以後、室温へ向かって温度上昇とともに急激にその物性値が低下する。例えば、液体窒素等使った極低温雰囲気下(約−160℃)で4GPaもの高強度を有するポリエチレン繊維を、室温で測定すると約3GPa程度まで強度が低下するという現象が見られた。このような性質は、広範囲の温度域で該繊維を使用しようする場合、各種製品設計上好ましくないことはもちろんであるが、逆にこの現象を改善できれば室温での強度を飛躍的に向上せしめることが可能となると考えられる。従って、繊維の使用温度域を広げる目的でγ分散の温度をより低温に維持してかつ、強度の温度による低下をふせぐべく、その値を低くすることは上記の目的に対して非常に有効である。
【0012】
かかる、材料の設計思想に基づき、新しい繊維の開発を目指す際にまず着目されるγ分散とは、繊維を構成している分子の側鎖や末端などの局所的な欠陥に由来するものであることが知られている。このような欠陥を低減すれば、γ分散の緩和強度すなわち損失正接(tanδ)を低下させることができるが、そうすると繊維の微細構造としてその完全度がより高くなり、γ分散の発生する温度はより高温へ自動的に移行するのが常であった。すなわち、γ分散のピーク温度を低温に維持したまま、その緩和強度を低減することは、従来技術においては相反する方向であり、到底到達することが出来ない領域であった。而して、本発明の提供する繊維のようにγ分散のピーク温度が逆に非常に低温に維持されてかつその値が非常に小さいことは従来常識からは、極めて驚くべきことである。
【0013】
さて本発明に係る繊維を得る手法は当然ながら新規でかつ慎重な製法で得ることができる。また、以下に述べる手法は本発明で提供する高強度ポリエチレン繊維が従来の高強度ポリエチレンの一般的な特徴を兼ね備えていることから、その非常に高い生産性を提供する新規な製法としても産業的な価値がある。
【0014】
すなわち本繊維は、前述の「ゲル紡糸法」が実際的手法とて有効であるが、超高分子量ポリエチレンを成形して従来知られている高強度ポリエチレン繊維を得る手法であれば特に基本となる製糸技術は問わない。本発明においてまず重要なのは原料となるポリマーである。
【0015】
すなわち、本発明においては、極限粘度[η]が5以上でありかつ、その重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が4以下である、エチレン成分を主体とする高分子量重合体(A)を99重量部乃至50重量部、高分子量重合体(A)に対して少なくとも1.2倍の極限粘度を有する超高分子量重合体(B)を1重量部乃至50重量部含有する少なくとも2種類の超高分子量ポリエチレンの重合混合物を用いることが推奨される。この際、主となる重合体(A)は極限粘度が5以上、好ましくは10以上でありかつ、40未満であり、かつポリマーをGPC(ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー法)で測定したMw/Mnが4以下好ましくは3以下、さらにこのましくは2.5以下であることが望ましい。
【0016】
本発明のようなγ分散の温度が先ず低い値であるためには、分岐や末端などの欠陥部ができるだけ小さいものを選択することが肝要であり、その意味で主体となる重合体(A)の重合度は重要であり、極限粘度が5未満では分子の末端が非常に大きくなりγ分散のtanδ値が大きくなってしまう。また40を超えると逆に、製糸上溶液の粘度が上昇しすぎて製糸が困難となる。ここで、極限粘度で代替して表せられる平均的重合度と共にその分布、いわゆる分子量分布は非常に重要であり、GPCで測定したMw/Mnは4以下であることが望ましい。このような超高分子量でかつ分子量分布が比較的揃った原料を用いるとγ分散を低温に維持したまま、そのtanδの値を低くすることが容易となる。
【0017】
この理由は良く分からないが、分子鎖が引き揃えられた場合、伸びきり鎖で形成されていると推定される結晶は分子が整列して配向することで、結晶内部には分子末端が非常に少なくなり、分子の末端はいわゆる非晶部にまとまって留置されるのではないかと推定している。すなわち、本繊維の構造の大部分を占める結晶部はより完成度の高い欠陥の少ない結晶構造となり、非晶部に分子末端などの成分が集中するのではないか。そうであると、γ分散を支配する局所欠陥が、結晶内部に多く存在すると、そのピーク温度が高温へシフトすることが学術的には知られており、本発明にかかる繊維の結晶部に分子末端などの局所部が少ないという事実と符合するとみることが出来る。もともと、本発明にかかる繊維の主要構造は伸び切り鎖からなる結晶構造であるために非晶部分に分子末端が集中してもさほど物性に影響を与えないと推定されるが、以上は本発明の効果を説明するために考えられうる仮説であり、定かでは無い。
【0018】
このように、極く狭い分子量分布を持つ超高分子量ポリエチレン重合体は通常の紡糸手法に供するだけでは、原料重合体の分子量分布が非常に狭いことに由来して紡糸で安定して吐出できなかったり、吐出された溶液はほとんど延伸性が無くその成形は事実上不可能である。上述のポリマーを従来のゲル紡糸法に供与せしめるためには少なくもとも分子量分布Mw/Mnが4より大きいことが望ましい。かかる低分子量分布の重合体を利用する試みとして特開平9−291415号公報のごとく、粘度平均分子量30万以上でMw/Mnが3以下の特殊な触媒により調整された超高分子量ポリエチレン系重合体を用いて高強度高弾性率繊維を得られた技術が開示されている。該公報に記載されているごとく、高強度ポリエチレン繊維を製造する一般的な製造法であるゲル紡糸法よりも、該開示技術はむしろポリマーを濃度0.2wt%以下の希薄溶液に溶解して得られる単結晶物集合体の乾燥試料から固相押出し法あるいはゲル延伸法を組み合せて製造されるのが一般的であると述べられ、実施例にも単結晶集合物を利用した技術が開示されている。この例のように、従来のゲル紡糸法にかかる低Mw/Mnのポリマーを供して紡糸・延伸工程を経ることは非常に困難であった。また、該公報に開示の非常に希薄な溶液から作成されたゲル延伸フィルムの物性が、本発明の提供する新規な繊維とは性状および物性上も異なることは改めて述べるまでも無い。
【0019】
このような分子量分布が非常に狭い重合体が成形困難である理由は推定でしかないが、分子量分布が狭くなることで分子鎖の絡み合いが激減し、それにより紡糸や延伸の際に分子鎖を変形させるのに必要な応力を均一に伝播できなくなるからでは無いかと推定している。かかる観点に基づき、旧来の技術を改善するべく鋭意検討をした結果、主成分である重合体(A)99乃至50重量部に対してその極限粘度の少なくとも1.2倍の超高分子量重合体(B)を1重量部乃至50重量部混合することで、著しく紡糸での曳糸性(紡糸口金を出た溶液を引き伸ばす場合の引き取りやすさ)や延伸のしやすさ、その速度が著しく向上することが判明し、得られた繊維もより前述に求めるごとき特性、すなわちγ分散温度が低くかつtanδが低くなることを見出し、本発明に到達した。さらに本発明においてこれら混合物のポリマーの平均極限粘度[η]Mが10以上でかつ、その重合体が全量の5重量%以上80重量%未満となるように溶剤に溶解して紡糸・延伸する際に得られた繊維の極限粘度[η]Fが次式となるように製造条件を工夫すると、さらに繊維を所望の物性に劇的に近づけることが可能となる。
【0020】
0.7×[η]M≦ [η]F≦0.9×[η]M
【0021】
このような、原料となるポリマー分子量と得られる繊維の関係がかかる繊維の物性とどのように係わるかは定かでは無いが、繊維の極限粘度[η]Fが[η]Mの90%の値を超えると、2つの分子量の異なるポリマーが均一に混合せず、延伸性が極めて不調となる、一方、[η]Fが[η]Mの70%の値未満であると、2種のポリマーを混合した効果がほとんど無くなり、結果としては分子量分布の通常通り広い高強度ポリエチレン繊維と同程度の物性しか得ることができない。このように原料のポリマーと得られ繊維の重合度の差が大きいことは、工程中で分子鎖が切断されていることを意味し、何らかの分子量分布の再調整が行われていることは必至である。その際、混合物の高分子量側のポリマーがより劣化される機会が多いと推定され、それゆえこの高分子量物がより低分子量物の分子量分布域を包括するように全体の分子量分布が調整ことにより、よりスムーズな分子配列を伴いながら、一方で依然残留する高分子量成分が成形時の張力を伝播する役目を担うことで、成形性と紡糸・延伸での加工性を両立したのではないかと推定しているが定かでは無い。
【0022】
上記製法等により得られた繊維は、繊維状態での極限粘度[η]Fが5以上、好ましくは10以上、40未満であり、その強度が20g/d以上、好ましくは25g/d以上,更に好ましくは35g/d以上、また弾性率が500g/d以上、好ましくは800g/d以上,更に好ましくは1200g/d以上であり、上述の力学分散特性との相乗効果により、実用面で従来にない極めて優れた特性を有するポリエチレン繊維を提供することを可能とした。
【0023】
【実施例】
以下に本発明における特性値に関する測定法および測定条件を説明する。
(動的粘弾弾性測定)
本発明における動的粘度測定は、オリエンテック社製「レオバイブロンDDV−01FP型」を用いて行った。繊維は全体として100デニール±10デニールとなるように分繊あるいは合糸し、各単繊維ができる限り均一に配列するように配慮して、測定長(鋏金具間距離)が20mmとなるように繊維の両末端をアルミ箔で包みセルロース系接着剤で接着する。その際の糊代ろ長さは、鋏金具との固定を考慮して5mm程度とする。各試験片は、20mmの初期幅に設定された鋏金具(チャック)に糸が弛んだり捩じれたりしないように慎重に設置され、予め60℃の温度、110Hzの周波数にて数秒、予備変形を与えてから本実験を実施した。本実験では−150℃から150℃の温度範囲で約1℃/分の昇温速度において110Hzの周波数での温度分散を低温側より求めた。測定においては静的な荷重を5gfに設定し、繊維が弛まない様に試料長を自動調整させた。動的な変形の振幅は15μmに設定した。
【0024】
(強度・弾性率)
本発明における強度,弾性率は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長200mm、伸長速度100%/分の条件で歪ー応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、曲線の破断点での応力を強度(g/d)、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線より弾性率(g/d)を計算して求めた。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0025】
(極限粘度)
135℃のデカリンにてウベローデ型毛細粘度管により、種々の希薄溶液の比粘度を測定し、その粘度の濃度にたいするプロットの最小2乗近似で得られる直線の原点への外挿点より極限粘度を決定した。測定に際し、原料ポリマーのがパウダー状の場合はその形状のまま、パウダーが塊状であったり糸状サンプルの場合は約5mm長の長さにサンプルを分割または切断し、ポリマーに対して1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を添加し、135℃で4時間撹はん溶解して測定溶液を調整した。
【0026】
(分子量分布測定)
本特許におけるMw/Mnはゲル・パーミエーションクロマトグラフィー法にて測定した。用いた装置はWaters社製(150C ALC/GPC)とカラムとして東ソ(株)製(GMHXLシリーズ)を用い145℃の温度で測定した。分子量の検量線はPolymer Laboratoies社製(Polystyren-High Molecular Weight Calibration Kit)を用いて作成した。試料溶液は、トリクロルベンゼンに0.02wt%となるようにポリマーの0.2wt%にあたる酸化防止剤(チバガイギー(社)製Irgafos168)を添加して140℃で約8時間溶解したものを用いた。
【0027】
以下、実施例をもって本発明を説明する。
(実施例1)
極限粘度が18.5でかつその分子量分布指数Mw/Mn=2.5の超高分子量ポリエチレンのホモポリマー(A)を99重量部と極限粘度が28.0でかつその分子量分布が約Mw/Mn=5.5のポリマー(D)を2重量部加えたパウダー状の混合物が全量の30重量%となるようにデカヒドロナフタレン70重量%を常温で添加した。この際、重合物混合物の極限粘度[η]Mは18.8であった。この混合重合体のデカリン分散体を2軸型の混合押し出し機に供給し、200℃の温度条件および100rpmで溶解・押し出しを実施した。尚この際、酸化防止剤は使用しなかった。
【0028】
このようにして調整された溶液は0.6mm直径を有するオリフィスが48ホール設置された口金を用いて各ホールの吐出量が1.2g/minとなるように押し出して後、直ちに室温に調整した不活性ガスにて溶剤を一部除去しつつ冷却し、90m/minの速度で引き取りを実施した。引き取り直後のゲル状の繊維のポリマー含有量は55重量%であった。この引き取られた糸は直ちに120℃のオーブンにて4倍延伸されて後、一旦巻き取り、さらに149℃に調整されたオーブンにて4.5倍に延伸されて高強度繊維を得た。得られた繊維の動的粘弾性特性を含む諸物性を表1に示す。
【0029】
(実施例2)
実施例1における主成分ポリマーとして極限粘度が12.0のポリマーを用いた他は、同様の操作で延伸糸を得た。この際、重合物混合物の極限粘度[η]Mは10.6であった。実施例1に比べ、延伸が非常にスムーズであったが、得られた繊維の強度は若干低下した。
【0030】
(実施例3)
実施例1の主成分ポリマーと添加ポリマーを混合割合で90重量部:10重量部に変更した後は同様の操作にて延伸糸を作成した。この際、重合物混合物の極限粘度[η]Mは19.5であった。2段目の延伸が若干不調で延伸倍率を4倍に落さなければならなず、結果として強度・弾性率等が低下したが、全般的には満足の行く物性を有する繊維を得ることができた。
【0031】
(実施例4)
実施例1において、ポリマーを溶解する際にブレンドポリマーの総量に対して1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を添加した他は同様の操作で延伸糸を得る実験を実施した。紡糸速度が30m/minまでが上限であったが、その後の延伸は比較的安定に実施可能であった。得られた繊維の特性は実施例1に比較して、特に粘弾性特性において低下したものの、全般的には満足の行く結果が得られた。
【0032】
(実施例5)
実施例1において、主成分のポリマーをエチレンに対して1−オクテンを0.1mol%共重合させた極限粘度18.2のポリマーを用いた他は同様の操作せ繊維を得た。尚、混合物の極限粘度は18.5であった。実施例1に比べると繊維の弾性率が若干低下する傾向にあるが、紡糸での曳糸性および延伸での操業性等はむしろ優れる結果となった。動的粘弾性特性も非常に優れた結果となった。
【0033】
(比較例1)
実施例1の主成分ポリマーのみを用い高分子量物は添加しなかった。紡糸直下での糸切れが甚だしく、満足の行く繊維を曳き取ることができなかった。
【0034】
(比較例2)
実施例1に用いた主成分ポリマー(A)を0.2重量%と、ポリマーに対して1wt%となるように酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を添加してデカリンに均一溶解した後、平面状のガラス板にキャスティングして1昼夜自然に放置した後、80℃の温度で真空下でさらに2昼夜かけて完全に溶剤を蒸発させて厚さ約15ミクロンのキャストフィルムを作成した。これを、加熱温度を設置した引張り試験機で約10mm/minの歪み速度にて50℃で40倍、120℃で3倍さらに140℃で2倍の合計240倍延伸し、高度に配向したフィルムを作成した。得られたフィルムの強度を(g/d)表示に換算したものを表1にまとめる。フィルムの動的粘弾性測定は繊維の測定法にその試料寸法および厚みが準拠するように測定し実厚みで最終補正した。得られたフィルムの特性は、高強度・高弾性率で満足の行くものであった。特に、延伸倍率の高さにみられるように弾性率において特に優れた結果となった。一方、動的粘弾性特性ではγ分散の値は低いものの、そのピーク温度が非常に高温にシフトし、所望とする物性を得る事ができなかった。
【0035】
(比較例3)
実施例1に用いた主成分ポリマーの替わりに極限粘度18.8で分子量分布指数Mw/Mn=8.5のポリマーを使用した他は同様の操作で延伸糸を得た。尚、ブレンド体の平均の極限粘度は18.9であった。実施例1に比較して糸の延伸性が低下し若干延伸倍率を低下させる必要が生じその分、強度が低下した。動的粘弾性特性のγ分散の損失弾性率のピーク位置の温度は−116℃と良好であったが、その損失正接は0.040と大きな値となった。
【0036】
【表1】
【0037】
【発明の効果】
温度変化に対する繊維特性の変化が極めて少なく、常温での力学特性に優れる高強度ポリエチレン繊維を提供することを可能とした。
Claims (3)
- 極限粘度[η ] が5以上でありかつ、その重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が4以下であるエチレン成分を主体とする高分子量重合体(A)を99重量部乃至50重量部、高分子量重合体(A)に対して少なくとも1.2倍の極限粘度を有する超高分子量重合体(B)を1重量部乃至50重量部含有する重合混合物を、濃度が5重量%以上80重量%未満となるように溶剤に溶解して後、紡糸、延伸することを特徴とし、繊維状態での極限粘度[η]が5以上のエチレン成分を主体とするポリエチレン繊維であり、その強度が20g/d以上、弾性率が500g/d以上であり、かつその繊維の動的粘弾性の温度分散測定におけるγ分散の損失弾性率のピーク温度が−111℃以下であり、さらに損失正接(tanδ)が0.03以下であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維。
- 極限粘度[η]が5以上でありかつ、その重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が4以下であるエチレン成分を主体とする高分子量重合体(A)を99重量部乃至50重量部、高分子量重合体(A)に対して少なくとも1.2倍の極限粘度を有する超高分子量重合体(B)を1重量部乃至50重量部含有する重合混合物を、濃度が5重量%以上80重量%未満となるように溶剤に溶解して後、紡糸、延伸することを特徴とする高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
- 重合混合物の平均極限粘度[η]Mが10以上でありかつ、得られた繊維の極限粘度[η]Fが次式で与えられることを特徴とする、請求項2記載の高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
0.7×[η]M≦ [η]F≦0.9×[η]M
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