[第1実施形態]
以下、本発明に係る作業車両の油圧式制動装置の第1実施形態として、ホイールローダ1を例に挙げて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る作業車両の油圧式制動装置を示す概略構成図である。図2は、油圧式制動装置を備えたトランスミッションを示す斜視図である。図3は、油圧式制動装置を備えたホイールローダを示す側面図である。図4は、油圧式制動装置の切換部を示す図で、(a)は第1潤滑油路を開放した状態、(b)は第2潤滑油路を開放した状態を示す概略図である。図5は、油圧式制動装置の停止スイッチを示す斜視図である。図6は、本発明の作業車両の油圧式制動装置とは異なる形をとる制動装置を示す構成図である。
<構成>
図1ないし図3に示すように、本発明に係る油圧式制動装置としてのパーキングブレーキ1は、建設機械としてのホイールローダ2に搭載されている。そして、このホイールローダ1は、車体本体3を備えている。この車体本体3は、この車体本体3の前部を構成する前部車体4と、この車体本体3の後部を構成する後部車体5とで構成されている。
前部車体4は、後部車体5の前側にセンタヒンジ5gを介して左右方向に揺動可能に連結されている。この前部車体4の下側には、前側アクスル装置4aが取り付けられている。この前側アクスル装置4aは、左右方向に延出させて取り付けられている。また、この前側アクスル装置4aの左右方向の両端部には、前輪4bが回転可能にそれぞれ取り付けられている。さらに、前部車体4の前側には、上下方向に回動可能かつ俯仰動可能に作業装置4cが取り付けられている。
次いで、後部車体5の下側には、左右方向に延出させて後側アクスル装置5aが取り付けられている。そして、この後側アクスル装置5aの左右方向の両端部には、後輪5bが回転可能にそれぞれ取り付けられている。また、後部車体5の上側には、オペレータが搭乗するキャブ5cが設けられている。さらに、後部車体5には、駆動源となるエンジン5d、トルクコンバータ(図示せず)、トランスミッション5fおよび油圧ポンプ(図示せず)が搭載されている。そして、トランスミッション5fは、プロペラシャフト5h,5jを介して前側アクスル装置4aおよび後側アクスル装置5aに接続されている。
ここで、これら前側アクスル装置4aおよび後側アクスル装置5aは、ほぼ同様に構成されている。このため、前側アクスル装置4aの構成について詳細に説明し、後側アクスル装置5aの構成の説明については省略する。
前側アクスル装置4aは、プロペラシャフト5hに接続されて、左右の前輪4bを回転駆動させる構成とされ、図6に示すように、本体ケースとしてのデフボディ4aaを備えている。このデフボディ4aaの両側には、アクスルチューブ4akがそれぞれ取り付けられている。また、これらアクスルチューブ4ak内には、アクスルシャフト4abや減速機構4acが取り付けられている。これらアクスルシャフト4abは、基端側が減速機構4acにスプライン結合され、先端側に前輪4bが取り付けられている。さらに、デフボディ4aa内のアクスルシャフト4ab間にギアシャフト4amが取り付けられている。このギアシャフト4amの外周部には、プラネタリギア4anが取り付けられている。このプラネタリギア4anは、ギアシャフト4amに噛合され、このギアシャフト4amの回転に伴って回転する構造とされている。また、このプラネタリギア4anには、中心位置にプラネタリシャフト4apが嵌挿されて取り付けられている。さらに、このプラネタリギア4apには、インターナルリングギア4aqが噛合されており、このプラネタリギア4apの自転に伴いインターナルリングギア4aqに噛み合いながらギアシャフト4amを中心として各プラネタリギア4anが公転する構成とされている。さらに、このプラネタリギア4anの公転によって、プラネタリシャフト4apを固定している減速機構4acのキャリア部分がギアシャフト4amを中心に自転し、この減速機構4acのキャリア部分にスプライン結合されているアクスルシャフト4abが回転する構成とされている。
さらに、デフボディ4abの左右方向の両端部には、ブレーキ室4adがそれぞれ設けられ、これら各ブレーキ室4ad内にブレーキ機構4aeが設けられている。そして、これらブレーキ機構4aeは、湿式多板ディスクブレーキ構造とされている。具体的に、これらブレーキ機構4aeは、ギアシャフト4amの外周側に嵌合された複数枚のブレーキディスク4agを備えている。そして、これらブレーキディスク4agに対面させてデフボディ4abにブレーキリング4ahが固定されている。さらに、ブレーキディスク4agが位置する側の反対側であるブレーキリング4ahの外側には、エンドプレート4arが取り付けられている。そして、ブレーキ機構4aeには、外部から供給される圧油による油圧力によってブレーキリング4ahおよびブレーキディスク4agをエンドプレート4arに押し付けて制動させる制動部としてのブレーキピストン4ajが設けられている。また、このブレーキピストン4ajには、このブレーキピストン4ajへの圧油の供給が解除された場合に、弾性力にてブレーキピストン4ajによるブレーキディスク4agの制動を解除させるリターンスプリング4asが取り付けられている。
そして、各ブレーキ機構4aeは、キャブ5c内の床面に取り付けられたブレーキペダル6aを足踏み操作した場合に、ブレーキバルブ(図示せず)から供給される圧油がブレーキピストン4ajに供給され、この圧油による油圧力にてブレーキピストン4ajが移動してブレーキリング4ahとブレーキディスク4agとが圧着されて、ブレーキディスク4agの回転が制動され、このブレーキディスク4agの制動に伴いギアシャフト4amの回転が制動されて前輪4bが制動される。さらに、これら各ブレーキ機構4aeは、ブレーキバルブからの圧油の供給が停止され油圧力が下がった場合に、リターンスプリング4asの弾性力にてブレーキピストン4ajの移動が戻され、各ブレーキディスク4agの圧着が解除されて自由状態とされ、走行可能な状態とされる。また、キャブ5c内の前方には、ホイールローダ2の走行方向を操作するためのハンドル6bが取り付けられている。また、このハンドル6bに近接する位置には、停止スイッチとしてのパーキングブレーキスイッチ6cが設けられている。
一方、パーキングブレーキ1は、図2に示すように、トランスミッション5fに取り付けられている。このトランスミッション5fは、ハウジングとしてのトランスミッションケース5faを備え、エンジン5dの出力軸(図示せず)にてトルクコンバータ5fgを介して回転される入力軸5fhと、前進軸5fiと、後進軸5fjと、回転軸5fkと、入力軸5fhに伝えられた動力を伝える第1の変速軸であるモータ軸5fcおよび第2の変速軸5fmと、クラッチ機構(図示せず)と、出力軸5fnと、パーキングブレーキ1とを備えている。ここで、これら入力軸5fh、前進軸5fi、後進軸5fj、回転軸5fk、モータ軸5fc、第2の変速軸5fmおよび出力軸5fnは、トランスミッションケース5fa内に回転可能に支持され、出力軸5fnは、モータ軸5fcまたは第2変速軸5fmに伝えられた動力を出力する。そして、このトランスミッションケース5faには、パーキングブレーキ1に潤滑油を供給するための油圧ポンプであるチャージングポンプ7が取り付けられている。さらに、トランスミッションケース5faには、軸挿通孔5fdが設けられている。そして、この軸挿通孔5fdには、走行時に回転するギヤ5fbが取り付けられたモータ軸5fcの端部が嵌挿されている。このギヤ5fbは、トランスミッションケース5fa内に収容され、このトランスミッションケース5fa内の他のギヤ(図示せず)に噛合されて連結されている。
さらに、軸挿通孔5fdの開口縁には、収容凹部5feが同心状に設けられている。この収容凹部5feには、モータ軸5fcの端部にスプライン結合されたアダプタとしてのハブギヤ1aと、このハブギヤ1aにスプライン結合されたブレーキディスク1bとが収容されている。また、軸挿通孔5fdの内縁には、モータ軸5fcを回転可能に支持するベアリング部としてのハブベアリング5ffが回転可能に介在させて取り付けられている。このハブベアリング5ffは、ギヤ5fb、すなわちモータ軸5fcの回転とともに回転する構成とされている。
また、パーキングブレーキ1は、図1に示すように、モータ軸5fcの回転に対して制動力を付与するネガティブ型のブレーキ装置であって、外殻をなすパーキングブレーキキャップ1cを備えている。このパーキングブレーキキャップ1cは、モータ軸5fcの端部を回転可能に嵌合するためのものであって、ハウジング部としてのパーキングハウジング1dと、カバー部材1eとで構成されている。そして、パーキングハウジング1dは、湿式クラッチ1fを備えている。この湿式クラッチ1fは、回転側ブレーキ板であるブレーキディスク1bと、非回転側ブレーキ板であるブレーキリング1gとを備えている。これらブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gは、第1ハウジング部1daに収容されている。また、ブレーキリング1gは、第1ハウジング部1da内にスプライン結合されて取り付けられている。
さらに、第1ハウジング部1daには、ブレーキピストン1hを収容するための第2ハウジング部1dbが同心状に連通して取り付けられている。ここで、このブレーキピストン1hは、ブレーキディスク1bとブレーキリング1gとを密着させて制動させるための非常停止用の制動装置である。さらに、第1ハウジング部1daは、トランスミッションケース5faの収容凹部5feに連通されて取り付けられており、この第1ハウジング部1daの外側に第2ハウジング部1dbが取り付けられている。さらに、この第2ハウジング部1dbの外側には、カバー部材1eが取り付けられ閉塞された形状とされている。
また、パーキングハウジング1の第2ハウジング部1dbの開口端側には、ブレーキピストン1hが摺動可能に嵌挿されるピストン嵌挿穴部1dcが設けられている。このピストン嵌挿穴部1dcには、開口端側に位置する大径穴部1ddと、この大径穴部1ddの内側に位置しこの大径穴部1ddより内径が小さな小径穴部1deとが設けられている。さらに、第1ハウジング部1daには、小径穴部1deの内側に位置しこの小径穴部1deより内径が大きな収容穴部1dfが設けられている。この収容穴部1dfには、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gが収容されている。そして、この収容穴部1dfの内周面には、軸方向に延びる複数の係合凹溝1dgが周方向に一定の間隔をもって等間隔に形成されている。これら係合凹溝1dbには、ブレーキリング1gの係合凸部1gaが係合して固定された構成とされている。このブレーキリング1gは、例えば鉄鋼材等の金属材料にて円環状の板体に形成されている。
一方、ブレーキディスク1bは、ハブギヤ1aの外周に嵌合され、ブレーキリング1gに対して軸方向に交互に重なり合うように配置されて、第1ハウジング部1daの収容穴部1dfに収容されている。具体的に、これらブレーキディスク1bは、例えば鉄鋼材等の金属材料にて円環状の板体に形成された基板部1baと、この基板部1baの軸方向である厚さ方向の両側面に設けられ、ブレーキリング1gとの間で制動力を発生する一対の摩擦材1bbとで構成されている。
さらに、ブレーキピストン1hとカバー部材1eの間には、このブレーキピストン1hをブレーキリング1g側に常時付勢するばね部材としての複数のブレーキスプリング1jが収容されている。これらブレーキスプリング1jは、例えば圧縮コイルばね等の弾性部材にて構成されており、ブレーキピストン1hおよびカバー部材1eに設けられたばね収容穴1ha,1eaに圧縮された状態で収容されて取り付けられている。そして、これらブレーキスプリング1jは、これらブレーキスプリング1jの伸び力にて、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gをギヤ5fb側に押し付けて密着させて、これらギヤ5fbおよびハブギヤ1aの回転力を減少させて制動させる構成とされている。
また、パーキングブレーキキャップ1cの第2ハウジング部1dbと、ブレーキピストン1hの外周面との間には、ブレーキ解除用油室としてのピストン作動油圧室1kが設けられている。このピストン作動油圧室1kは、ブレーキピストン1hを油圧操作するための制動油路であり、第2ハウジング部1dbの大径穴部1ddの内周面と小径穴部1deの一側面との間に周方向に亘って環状に形成されている。そして、この第2ハウジング部1dbには、ピストン作動油圧室1kに連通するブレーキ解除圧流入口1mが設けられている。このブレーキ解除圧流入口1mには、ブレーキ解除用油路1nが接続されている。そして、このブレーキ解除用油路1nは、油圧ポンプに接続されており、この油圧ポンプから吐出されてくる圧油が圧送される構成とされている。さらに、このブレーキ解除用油路1nは、キャブ5c内のパーキングブレーキスイッチ6cが押されてオンされた場合に、コントローラユニット(図示せず)による制御により、このブレーキ解除用油路1nへの圧油の供給が停止される構成とされている。
したがって、このブレーキ解除用油路1nからブレーキ解除圧流入口1mを介してピストン作動油圧室1k内に圧油(ブレーキ解除圧)が供給されない場合には、各ブレーキスプリング1jの伸び力によってブレーキピストン1hが各ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gを押圧する。そして、これらブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gを摩擦係合させて、これら各ブレーキディスク1bの回転を規制し、ハブギヤ1aを介してモータ軸5fcに制動力が付与される。一方、ブレーキ解除用油路1nからブレーキ解除圧流入口1mを介してピストン作動油圧室1kに圧油が供給された場合には、この圧油の圧力によって、ブレーキピストン1hがブレーキスプリング1jに抗してブレーキディスク1b等から離間され、モータ軸5fcに対する制動が解除される。
さらに、パーキングブレーキキャップ1cのカバー部材1eの中心位置には、ハブベアリング5ffに潤滑油を供給するための通常時供給口8aが設けられている。この通常時供給口8aには、ベアリング潤滑油路となる第1潤滑油路8bが接続されている。また、この通常時供給口8aは、パーキングブレーキキャップ1c内に連通しており、第1潤滑油路8bから通常時供給口8aを介して潤滑油を流入させることによって、ハブベアリング5ffに潤滑油が供給される構成とされている。
また、パーキングブレーキキャップ1cの第1ハウジング部1daには、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに潤滑油を供給するための停止時供給口8cが設けられている。この停止時供給口8cは、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gの外径側部分に対向する位置に設けられている。そして、この停止時供給口8cには、パーキング部潤滑油路となる第2潤滑油路8dが接続されている。さらに、この停止時供給口8cは、第2潤滑油路8dから停止時供給口8cを介して潤滑油を流入させることによって、パーキングブレーキキャップ1c内のブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに潤滑油が供給される。よって、この停止時供給口8cは、ブレーキ油圧系統・回路等に不具合が発生等し前側アクスル装置4aや後側アクスル装置5bのブレーキ機構4aeが作動しなくなり、走行時にパーキングブレーキ1を用いて車両を緊急停止させた際のブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gからの発熱を放出させる構成とされている。
さらに、第1潤滑油路8bおよび第2潤滑油路8dは、パーキングブレーキ1へ潤滑油を供給するためのパーキングブレーキ潤滑回路8であり、これら第1潤滑油路8bへの潤滑油の供給と、第2潤滑油路8dへの潤滑油の供給とを切り換え可能な切換部としての比例弁9に接続されて分岐されている。この比例弁9は、チャージングポンプ7から供給されてくる潤滑油の供給を第1潤滑油路8bおよび第2潤滑油路8cのいずれかに切り換えるものであって、ブレーキ解除用油路1nへの圧油の供給に連動して動作する構成とされている。
具体的に、この比例弁9は、ブレーキ解除用油路1nへ圧油が供給された場合、すなわち通常時(パーキングブレーキ非作動時)には、チャージンポンプ7からの潤滑油を第1潤滑油路8bへ供給する。これに対し、この比例弁9は、ブレーキ解除用油路1nへの圧油の供給が停止された場合、すなわち停止時(パーキングブレーキ作動時)には、ブレーキ解除用油路1nに加わるパーキング解除圧にて分岐させた圧に基づいて制御部としての作動用指令回路9aにて比例弁9を動作させ、チャージングポンプ7からの潤滑油を第2潤滑油路8dへ供給する。
ここで、比例弁9には、図4に示すように、流路切換部9bが取り付けられている。この流路切換部9bは、略筒状のケース体9cと、このケース体9c内に収容されたスプール9dとを備えている。そして、この流路切換部9bは、ケース体9c内でのスプール9dの位置を比例弁9にて移動させることによって、ケース体9cに開口された油流入口9eから流入してくる潤滑油を、第1油流出口9fおよび第2油流出口9gのいずれかから流出させる。具体的に、第1油流出口9fには、第1潤滑油路8bの上流側が接続されている。また、第2油流出口9gには、第2潤滑油路8dの上流側が接続されている。さらに、油流入口9eは、チャージングポンプ7に接続されている。そして、スプール9dは、油流入口9eが第1油流出口9fに連通するようスプリング9hにて付勢されており、このスプリング9hの弾性力に抗して比例弁9にてスプール9dを移動させることにより、油流入口9eが第2油流出口9gに連通する構成とされている。
<作用効果>
次に、上記第1実施形態のパーキングブレーキ1の動作について、図7を参照して説明する。なお、図7は、油圧式制動装置の動作を示すフローチャートである。
まず、パーキングブレーキスイッチ6cを押すことにより、パーキングブレーキ1の解除信号がコントローラユニットへ入力される。すると、このコントローラユニットにて、油圧ポンプから吐出される圧油がブレーキ解除用油路1nからブレーキ解除圧流入口1mを介してパーキングブレーキキャップ1cのピストン作動油圧室1kへ供給される。この結果、このピストン作動油圧室1kに供給された圧油の油圧力にて、各ブレーキスプリング1jの伸び力に抗したブレーキピストン1hによるブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gへの押し付けを解除させ、ギヤ5fbおよびハブギヤ1aを回転可能とさせる。
この後、ホイールローダ1のアクセルペダル(図示せず)を踏込み操作して各プロペラシャフト5h,5jを回転駆動させ、前側アクスル装置4aおよび後側アクスル装置5aにて前輪4bおよび後輪5bを回転駆動させて走行させる。このとき、走行時においては、トランスミッション5fのギヤ5fbの回転に伴い、ハブベアリング5ff、ハブギヤ1aおよびブレーキディスク1bがそれぞれ回転している(ステップS1)。このとき、ブレーキピストン1hを非動作状態に指示する解除圧が指令された状態であって、パーキングブレーキ1の緊急使用信号の入力が無い場合(ステップS2)には、図4(a)に示すように、スプリング9hの伸び力にて流路切換部9bの油流入口9eが第1油流出口9fに連通する第1切換位置に流路切換される。このため、チャージングポンプ7から吐出される潤滑油が第1潤滑油路8bから通常時給油口8aを介してハブベアリング5ffに供給される(ステップS5)。
そして、例えばブレーキ油圧系統・回路等に不具合が発生等し前側アクスル装置4aや後側アクスル装置5bのアクスルブレーキ4aeが作動しなくなり、走行時にパーキングブレーキ1を使用して緊急停止させたい場合には、走行中にパーキングブレーキスイッチ6cをオンする。すると、パーキングブレーキ緊急使用信号がコントローラユニットに入力され(ステップS2)、このコントローラユニットにて、油圧ポンプからのブレーキ解除用油路1nへの圧油の供給が停止され、ブレーキピストン1hを作動状態に指示するように解除圧を遮断させる。この結果、各ブレーキスプリング1jの伸び力にてブレーキピストン1hがブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gへ押し付けられて密着され、ギヤ5fbおよびハブギヤ1aの回転力を減少させて制動される。
このとき、ブレーキ解除用油路1nに加わるパーキング解除圧が減少することにより、図4(b)に示すように、作動用指令回路9aにて比例弁9を動作させて流路切換部9bのスプリング9hの伸び力に抗してスプール9dを移動させ、この流路切換部9bの油流入口9eが第2油流出口9gに連通する第2切換位置に流路切換される(ステップS3)。すると、チャージングポンプ7から吐出される潤滑油が第2潤滑油路8dから停止時給油口8cを介してパーキングブレーキキャップ1c内のブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに供給され、これらブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gからの緊急停止時の大きな発熱が効率良く放出され低減される。
このとき、これらブレーキディスク1bにブレーキリング1gを押し付けて密着させて、モータ軸5fcの回転を制動させる際に必要な熱エネルギが解消される所定時間に亘って、これらブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gへの潤滑油の供給が継続される。ここで、この潤滑油の供給を継続させる所定時間としては、この潤滑油の供給量(油量)や、この潤滑油のブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gへの接触面積、潤滑油の圧力、ホイールローダ2の車体重量等に基づいて算出される。
さらに、ホイールローダ2の走行状態がコントローラユニットにて認識され(ステップS4)、ホイールローダ2が走行停止していない場合には、ステップS3へ戻り、パーキングブレーキキャップ1c内のブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gへの潤滑油の供給が継続される。一方、ステップS4での認識により、ホイールローダ1が走行停止していると判断された場合には、ステップS5へ進む。この結果、作動用指令回路9aによる比例弁9の動作が解除され、スプリング9hの伸び力にて流路切換部9bの油流入口9eが第1油流出口9fに連通するよう流路切換され、チャージングポンプ7からの潤滑油をハブベアリング5ffに供給させてから、パーキングブレーキ1による緊急停止時の潤滑油の供給処理を終了させる(ステップS6)。
すなわち、走行時には、トランスミッション5f内のギヤ5fbの回転に伴い、ハブベアリング5ff、ハブギヤ1aおよびブレーキディスク1bがそれぞれ回転しているが、これらのうち高速に回転するハブベアリング5ffに潤滑油の供給が必要である。一方、走行時にパーキングブレーキ1を用いて緊急停止させる場合には、ハブギヤ1aの回転に伴うブレーキディスク1bの高速回転を、これら各ブレーキディスク1bとブレーキリング1gとを押し付けて制動させる構造とされている。このため、高速回転中の各ブレーキディスク1bにブレーキリング1gを押し付けて密着させる際に生じる熱を、潤滑油の供給にて取り除いて冷却しなければならない。そして、この冷却が不十分な場合には、パーキングブレーキ1にて緊急停止させる度にブレーキディスク1bとブレーキプレート1hとが焼き付いてしまい走行できない状態になってしまう。
よって、走行時には、ハブベアリング5ffにのみ潤滑油を供給する必要がある一方、パーキングブレーキ1にて緊急停止させる場合には、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに潤滑油を供給する必要がある。そこで、本発明の第1実施形態においては、ハブベアリング5ffへ潤滑油を供給するための第1潤滑油路8bと、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gへ潤滑油を供給するための第2潤滑油路8dとの間に比例弁9を取り付けた。そして、この比例弁9による流路切換により、第1潤滑油路8bへの潤滑油の供給と、第2潤滑油路9dへの潤滑油の供給を切り換える構成とした。
この結果、比例弁9による流路切換により、走行時に第1潤滑油路8bへ潤滑油を供給し、この潤滑油の供給が必要なハブベアリング5ffのみに潤滑油を供給でき、パーキングブレーキ1を用いた緊急停止時に第2潤滑油路8dへ潤滑油を供給できる。よって、潤滑油の供給が必要な発熱箇所であるブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gのみに潤滑油を供給して冷却することができる。すなわち、第1潤滑油路8bへ潤滑油を供給する際に、第2潤滑油路8dへの潤滑油の供給を停止でき、この第2潤滑油路8dへ潤滑油を供給する際に、第1潤滑油路8bへの潤滑油の供給を停止できる。したがって、比例弁9を用いた流路切換により、これら第1潤滑油路8bおよび第2潤滑油路8dのそれぞれに潤滑油が供給される場合を無くすことができる。
よって、これら第1潤滑油路8bおよび第2潤滑油路8dのそれぞれへ潤滑油を供給する必要がないため、これら第1潤滑油路8bおよび第2潤滑油路8dへの潤滑油の合計流量(必要流量)を同時に満たす必要はない。このため、これら第1潤滑油路8bおよび第2潤滑油路8dのうちのより大きい側の必要流量の潤滑油を圧送できる吐出容量のチャージングポンプ7を用いることができ、これら第1潤滑油路8bおよび第2潤滑油路8dに最適な量の潤滑油を供給できる。この結果、複数の流路に潤滑油を供給する既存のチャージングポンプに比べ、このチャージングポンプ7のより小型化が可能となる。さらに、このチャージングポンプ7の小型化により、このチャージングポンプ7のレイアウトや配管の自由度を向上でき、製造コストの削減が可能となる。
さらに、ブレーキペダル6aの踏込み操作にて前輪4bおよび後輪5bの回転を制動させるアクスルブレーキ4aeではなく、トランスミッション5fに取り付けられたパーキングブレーキ1を用いて走行を緊急停止させる構成とした。この結果、このパーキングブレーキ1を用いて走行停止時の前輪4bおよび後輪5bの回転を停止させる場合のほか、アクスルブレーキ4aeの緊急用のブレーキ装置としてパーキングブレーキ1を用いることができる。よって、走行時にアクスルブレーキ4aeが故障等した場合の安全性をより各自に向上できる。
また、走行時にキャブ5c内のパーキングブレーキスイッチ6cを押すことによって、パーキングブレーキ1を動作でき、このパーキングブレーキ1にてモータ軸5fcの回転を制動できる。よって、このパーキングブレーキ1による緊急時の走行停止を簡単な操作で確実に行うことができる。
ここで、パーキングブレーキ1にて緊急停止させる場合に第2潤滑油路8dに供給する潤滑油の油量については、まず、ブレーキディスク1bの摩擦材1bb(ディスクフェージング面)の外径および内径に基づく摩擦材1bbの表面積に、ブレーキリング1gの両面(×2)と、これらブレーキリング1gの枚数を掛けて、各摩擦材1bbの総面積A[cm2]を算出する。次いで、この総面積Aに、供給される潤滑油の必要油量基準値L[cc/cm2・min]を掛け、摩擦材1bbに必要な総油量Q[cc/min]を算出する。そして、この総油量Q以上の潤滑油を第2潤滑油路8dに供給することにより、この第2潤滑油路8dに供給した潤滑油にてブレーキリング1gの焼き付きを確実に防止することができる。
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態に係る作業車両の油圧式制動装置を示す概略構成図である。図9は、油圧式制動装置の一部を示す側面図である。
本発明の第2実施形態が前述した第1実施形態と異なるのは、第1実施形態は、第2潤滑油路8dからブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに潤滑油を供給する構成であるのに対し、第2実施形態は、これらブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに供給された潤滑油を積極的に排出する構成とされている。
すなわち、第2実施形態においては、図8および図9に示すように、トランスミッションケース5faの収容凹部5feの底部に、複数、例えば4個の油排出口11が設けられている。なお、その他の構成は第1実施形態と同じであり、第1実施形態と同一又は対応する部分には同一符号を付している。
具体的に、これら油排出口11は、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gへ供給された潤滑油を逃すための油路であって、収容凹部5feの周方向に沿って等間隔に離間された位置に設けられている。さらに、これら油排出口11は、収容凹部5feの軸方向に沿った直線状の断面円形状に形成されており、この収容凹部5feの外側の空間をトランスミッションケース5fa内に連通させている。また、これら油排出口11は、図9に示すように、トランスミッション5fを設置させた状態で、収容凹部5feの上部側と下部側と左右側とのそれぞれに設けられている。
<作用効果>
このように構成した本発明の第2実施形態においては、比例弁9による流路切換により、第1潤滑油路8bへの潤滑油の供給と、第2潤滑油路9dへの潤滑油の供給を切り換えることができるため、上述した第1実施形態と同様の効果が得られる。
さらに、第2潤滑油路8dを介してブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに供給された潤滑油を、より円滑かつ積極的に各油排出口11から排出することができる。したがって、これらブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに対し、より多量の潤滑油を供給することができる。よって、走行時にパーキングブレーキ1を用いて緊急停止させた場合に、高速回転中の各ブレーキディスク1bにブレーキリング1gを押し付けて密着させる際に生じる熱を、より効率良く確実に取り除いて冷却できる。
<その他>
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形態様が含まれる。例えば、前述した実施形態は、本発明を分りやすく説明するために説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
さらに、上記各実施形態においては、走行時に第1潤滑油路8bを介してハブベアリング5ffのみに潤滑油を供給していたが、走行時に潤滑油を供給する箇所としては、このハブベアリング5ggに加え、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに潤滑油を供給する構成とすることもできる。
また、ホイールローダ2の他、湿式クラッチ1fを備えたトランスミッション5fが搭載されたロータリ除雪車等の作業車両等においても、本発明に係るパーキングブレーキ1を用いることができる。
さらに、上記第2実施形態においては、油排出口11を円形としたが、これら各油排出口11を、ブレーキディスク1bとブレーキリング1gとのスプライン嵌合位置に合わせた長穴状にすることもできる。この場合には、ハブギヤ1aの回転によって、ブレーキディスク1bおよびブレーキリング1gに供給された潤滑油が円周状に放出されるため、各油排出口11を長穴状にして開口面積を大きくしたことにより、これら各油排出口11からより円滑に潤滑油を排出することができる。