JP5731308B2 - センサ付車輪用軸受 - Google Patents

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Description

この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の外輪に歪みゲージを貼り付け、外輪外径面の歪みから荷重を検出するようにした車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。しかし、特許文献1に開示の技術では、車輪用軸受に作用する荷重を検出する場合、荷重に対する固定輪変形量が小さいため歪み量も小さく、検出感度が低くなり、荷重を精度良く検出できない。
この課題を解決するものとして、以下の構成としたセンサ付車輪用軸受が提案されている(特許文献2)。同文献のセンサ付車輪用軸受における車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する。上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面には1つ以上のセンサユニットを設ける。各センサユニットは、前記固定側部材の外径面に接触して固定される2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材と、この歪み発生部材に取付けられて歪み発生部材の歪みを検出する1つ以上のセンサを有するものとする。
この構成において、車輪用軸受に作用する荷重を、センサ出力信号の平均値のみから演算・推定する第1の荷重推定手段と、センサ出力信号の平均値と振幅値とから演算・推定する第2の荷重推定手段と、これら両荷重推定手段のうちのいずれかの推定荷重値を車輪回転速度に応じて切り替え選択して出力する選択出力手段とを設ける。この場合の概略の構成を図14にブロック図で示す。
この構成では、荷重推定演算式として、変数としてセンサ出力信号の平均値Aのみを用いる式と、変数としてセンサ出力信号の平均値Aと振幅値Bとを用いる式とを用意し、車輪回転速度によって荷重演算処理を切り替えるようにしている。すなわち、通常走行状態では、センサ出力信号の平均値Aと振幅値Bを用いた演算式による荷重推定演算を行い、低速あるいは停止状態においては前記平均値Aだけを用いた演算式による荷重推定演算を行う。
特表2003−530565号公報 特開2010−181154号公報
しかし、特許文献2に開示の構成では、振幅Bを演算によって求める場合に、ある一定時間内のセンサ出力信号を用いることが必要になるため、信号処理による時間遅れが発生する。また、平均値Aのみを用いた荷重推定演算と、平均値Aと振幅値Bを用いた荷重推定演算を、車輪回転速度に応じて切り替えるときに、切り替えにより推定荷重出力の遅れ時間も変化するため、検出誤差となって観測される。また、2つの演算式による演算結果には違いが発生する場合もあり、その状態で出力の切り替えを行うと、推定荷重出力が不連続に変化することになる。検出した推定荷重値に基づいて各種の操作を実行する制御システムにとっては、上記のような推定荷重出力の不連続な変化や大きな検出誤差は好ましくない。
これらの不具合を防止するために、回転センサを搭載して車輪の回転速度を検出したり、車両側から別途、車輪の回転速度情報を入手したりすることで、2つの演算式による演算結果を回転速度に応じて連続的に切り替えることも可能だが、回転速度情報が得られない状況では対処できない。
これとは別に、回転センサ等の情報を用いずに、センサ出力信号から回転速度に準ずる評価値を算出し、この評価値に基づいて荷重演算処理を切り替えることも考えられる。この方法では、回転センサ信号を用いることができない状況、あるいは回転速度情報を連続的に安定して取得することができない状況においても、回転速度に準じた評価値を得ることができる。しかし、この評価値で、低速回転状態かどうかを判別することは可能だが、速度に正確に比例する評価値とはならないため、速度に応じて連続的に切り替える処理に適用するのは難しい。
この発明の目的は、回転センサの信号や、車両からの車輪回転速度情報を用いることなく、荷重推定演算処理を行うことができ、正確な推定荷重値を得ることができるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材1と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材2と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体5とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される3つ以上の接触固定部21aを有する歪み発生部材21、およびこの歪み発生部材21に取付けられてこの歪み発生部材21の歪みを検出する2つ以上のセンサ22A,22Bからなる荷重検出用センサユニット20A(20B)を複数設ける。
前記各センサ22A,22Bの出力信号の平均値Aのみを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第1の演算処理部35、および前記各センサ22A,22Bの出力信号の平均値Aと振幅値Bとを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第2の演算処理部36からなる荷重推定手段34と、前記各センサ22A,22Bの出力信号から車輪の回転速度を表す評価値Vを求める回転速度評価手段37と、前記評価値Vに基づき前記荷重推定手段34における2つの演算処理部35,36の演算処理結果を合成して推定荷重値を出力する推定荷重出力手段38とを設け、この推定荷重出力手段38は、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間に応じた比率rで前記演算処理結果の合成を行う。
この構成によると、車輪のタイヤと路面間に荷重が作用するとき、車輪用軸受の固定側部材(例えば外方部材1)にも荷重が印加されて変形が生じる。ここではセンサユニット20A(20B)における歪み発生部材21の3つ以上の接触固定部21aが、外方部材に接触固定されているので、外方部材1の歪みが歪み発生部材21に拡大して伝達され易く、その歪みがセンサ22A,22Bで感度良く検出される。
特に、センサユニット20A(20B)のセンサ22A,22Bの出力信号の平均値Aのみを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第1の演算処理部35、およびセンサ22A,22Bの出力信号の振幅値Bと前記平均値Aとを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第2の演算処理部36からなる荷重推定手段34と、前記各センサ22A,22Bの出力信号から車輪の回転速度を表す評価値Vを求める回転速度評価手段37と、前記評価値Vに基づき前記荷重推定手段34における2つの演算処理部35,36の演算処理結果を合成して推定荷重値を出力する推定荷重出力手段38とを設け、この推定荷重出力手段38は、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間に応じた比率rで前記演算処理結果の合成を行うようにしているので、以下に列挙するような効果が得られる。
・ 回転センサの信号や、車両からの車輪回転速度情報を用いることなく、荷重推定演算処理を行うことができるため、信号配線本数の増加が必要なく、荷重センサの製造コストを抑えられるとともに、車両に搭載するときの自由度を高めることができる。
・ 通常の回転状態における荷重推定演算処理と、低速時の荷重推定演算処理とを切り替えることにより、荷重推定誤差が抑制されるため、より正確な推定荷重値を得ることができる。
・ 回転速度に応じて荷重推定演算処理を切り替えるときにも、連続的に合成比率が変化する方法により荷重信号の不連続変化がなくなり、各種の車両制御への荷重信号の利用が容易になる。
・ 走行中に急ブレーキを動作させた場合には、急激に回転速度が変化してスリップ状態となることもあるが、車輪の回転が静止状態あるいは極低速状態であっても推定荷重値が出力されるため、走行状態に依存することなく車両制御等に信号を利用することができる。
この発明において、前記荷重推定手段34における演算処理に用いる前記各センサ22A,22Bの出力信号の平均値Aと振幅値Bは、一定時間T内の各センサ22A,22Bの出力信号を用いても良い。この場合に、前記一定時間Tの値は、前記回転速度評価手段37が求める評価値Vに応じて変化させても良い。
車輪の回転速度が低い状態では前記一定時間Tを長めに設定し、回転速度が速くなると前記一定時間Tが短くなるように構成すると、荷重推定手段34での振幅値Bを用いた演算処理が低速領域で精度劣化するのを抑えつつ、より高速な応答が求められる速度領域では演算処理結果の応答時間を短くすることができる。
この発明において、前記センサユニット20A(20B)では、隣り合う第1および第2の接触固定部21aの間、および隣り合う第2および第3の接触固定部21aの間に各センサ22A,22Bをそれぞれ取付け、隣り合う接触固定部21aもしくは隣り合うセンサ22A,22Bの前記固定側部材の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの{1/2+n(n:整数)}倍とし、前記荷重推定手段34における第1および第2の演算処理部35,36の一方または両方で、前記2つのセンサ22A,22Bの出力信号の和を平均値Aとして用いるものとしても良い。
この構成の場合、2つのセンサ22A,22Bの出力信号は略180度の位相差を有することになり、その平均値Aは転動体通過による変動成分をキャンセルした値となる。また、振幅値Bは温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響を十分相殺した値となる。これにより、2つのセンサ22A,22Bの出力信号の平均値Aは転動体通過による変動成分をキャンセルした値となり、振幅値Bは、温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響をより確実に排除した正確なものとなる。
この発明において、前記推定荷重出力手段38で用いる合成比率rは、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間を変数とする一次関数で決定されるものとしても良い。
この発明において、前記推定荷重出力手段38で用いる合成比率rは、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間を変数とする二次以上の関数で決定されるものとしても良い。
この発明において、前記推定荷重出力手段38で用いる合成比率rの変化は、前記評価値Vが予め定めたしきい値thを横切ってからの経過時間のうち、予め設定された遷移時間aの経過で完了するものとしても良い。
この場合に、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってから再度しきい値Vthを横切るまでの経過時間が、前記遷移時間aに満たない場合、再度しきい値Vthを横切ったときの合成比率rを初期値として、以後の合成比率rが変化するものとしても良い。
この発明において、前記回転速度評価手段37は、各センサ22A,22Bの出力信号の振幅値Bを選択して合計した値を前記評価値Vとして求めるものとしても良い。
この発明において、前記回転速度評価手段37は、前記センサ22A,22Bの出力信号に含まれる転動体の公転運動による振幅成分の周波数から前記評価値Vを求めるものとしても良い。
この発明において、前記センサユニット20A(20B)を3つ以上設け、前記荷重推定手段34は、前記3つ以上のセンサユニット20A(20B)のセンサ22A,22Bの出力信号から車輪用軸受の径方向に作用する上下方向および左右方向の2つの径方向荷重Fx ,Fz と、車輪用軸受の軸方向に作用する1つの軸方向荷重Fy を演算・推定するものとしても良い。
この発明において、前記センサユニット20A(20B)を、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に円周方向90度の位相差で4つ等配しても良い。このように4つのセンサユニット20A(20B)を配置することで、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz 、駆動力や制動力となる荷重Fx 、軸方向荷重Fy を、より精度良く推定することができる。
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される3つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上のセンサからなる荷重検出用センサユニットを複数設け、前記各センサの出力信号の平均値のみを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第1の演算処理部、および前記各センサの出力信号の平均値と振幅値とを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第2の演算処理部からなる荷重推定手段と、前記各センサの出力信号から車輪の回転速度を表す評価値を求める回転速度評価手段と、前記評価値に基づき前記荷重推定手段における2つの演算処理部の演算処理結果を合成して推定荷重値を出力する推定荷重出力手段とを設け、この推定荷重出力手段は、前記評価値が予め定めたしきい値を横切ってからの経過時間に応じた比率で前記演算処理結果の合成を行うようにしているので、回転センサの信号や、車両からの車輪回転速度情報を用いることなく、荷重推定演算処理を行うことができ、正確な推定荷重値を得ることができる。
この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図とその検出系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す図である。 同センサ付車輪用軸受の外方部材をアウトボード側から見た正面図である。 同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの拡大平面図である。 図3におけるIV−IV矢視断面図である。 センサユニットの他の設置例を示す断面図である。 センサユニットの出力信号に対する転動体位置の影響の説明図である。 センサ出力信号の平均値と振幅値を演算する演算処理部の回路例のブロック図である。 検出系の全体の構成を示すブロック図である。 評価値Vと回転速度領域RA,RBとの関係を示す図である。 推定荷重出力手段での推定荷重値Lout の算出例を示す図である。 (A)は外方部材外径面上部でのセンサ出力信号の振幅と軸方向荷重Fy の方向との関係を示すグラフ、(B)は同外径面下部でのセンサ出力信号の振幅と軸方向荷重との関係を示すグラフである。 軸方向荷重Fy の大きさと上下のセンサユニットのセンサ出力信号の差分との関係を示すグラフである。 この発明の他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の外方部材をアウトボード側から見た正面図である。 従来例における荷重推定手段の概略構成を示すブロック図である。
この発明の一実施形態を図1ないし図12と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
このセンサ付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには周方向複数箇所にナックル取付用のねじ孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト(図示せず)を前記ねじ孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
図2は、この車輪用軸受の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。なお、図1の車輪用軸受は、図2におけるI−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ねじ孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。
固定側部材である外方部材1の外径面には、2つのセンサユニット20A,20Bが設けられている。ここでは、これらのセンサユニット20A,20Bが、タイヤ接地面に対して上下位置となる外方部材1の外径面における上面部および下面部にそれぞれ設けられている。
これらのセンサユニット20A,20Bは、図3および図4に拡大平面図および拡大断面図で示すように、歪み発生部材21と、この歪み発生部材21に取付けられて歪み発生部材21の歪みを検出する2つ以上(ここでは2つ)の歪みセンサ22A,22Bとでなる。歪み発生部材21は、鋼材等の弾性変形可能な金属製で2mm以下の薄板材からなり、平面概形が全長にわたり均一幅の帯状で両側辺部に切欠き部21bを有する。切欠き部21bの隅部は断面円弧状とされている。また、歪み発生部材21は、外方部材1の外径面にスペーサ23を介して接触固定される3つ以上(ここでは3つ)の接触固定部21aを有する。3つの接触固定部21aは、歪み発生部材21の長手方向に向け1列に並べて配置される。2つの歪みセンサ22A,22Bは、歪み発生部材21における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。具体的には、歪み発生部材21の外面側で隣り合う接触固定部21aの間に配置される。つまり、図4において、左端の接触固定部21aと中央の接触固定部21aとの間に1つの歪みセンサ22Aが配置され、中央の接触固定部21aと右端の接触固定部21aとの間に他の1つの歪みセンサ22Bが配置される。切欠き部21bは、図3のように、歪み発生部材21の両側辺部における前記歪みセンサ22A,22Bの配置部に対応する2箇所の位置にそれぞれ形成されている。これにより、歪みセンサ22A,22Bは歪み発生部材21の切欠き部21b周辺における長手方向の歪みを検出する。なお、歪み発生部材21は、固定側部材である外方部材1に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。塑性変形が生じると、外方部材1の変形がセンサユニット20A,20Bに伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。
前記センサユニット20A,20Bは、その歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが、外方部材1の軸方向に同寸法の位置で、かつ各接触固定部21aが互いに円周方向に離れた位置に来るように配置され、これら接触固定部21aがそれぞれスペーサ23を介してボルト24により外方部材1の外径面に固定される。前記各ボルト24は、それぞれ接触固定部21aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔25からスペーサ23のボルト挿通孔26に挿通し、外方部材1の外周部に設けられたねじ孔27に螺合させる。このように、スペーサ23を介して外方部材1の外径面に接触固定部21aを固定することにより、薄板状である歪み発生部材21における切欠き部21bを有する各部位が外方部材1の外径面から離れた状態となり、切欠き部21bの周辺の歪み変形が容易となる。接触固定部21aが配置される軸方向位置として、ここでは外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置が選ばれる。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。外方部材1の外径面へセンサユニット20A,20Bを安定良く固定する上で、外方部材1の外径面における前記スペーサ23が接触固定される箇所には平坦部1bが形成される。
このほか、図5に断面図で示すように、外方部材1の外径面における前記歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが固定される3箇所の各中間部に溝1cを設けることで、前記スペーサ23を省略し、歪み発生部材21における切欠き部21bが位置する各部位を外方部材1の外径面から離すようにしても良い。
歪みセンサ22A,22Bとしては、種々のものを使用することができる。例えば、歪みセンサ22A,22Bを金属箔ストレインゲージで構成することができる。その場合、通常、歪み発生部材21に対しては接着による固定が行なわれる。また、歪みセンサ22A,22Bを歪み発生部材21上に厚膜抵抗体にて形成することもできる。
センサユニット20A(20B)の2つの歪みセンサ22A,22Bは、図1に示すように、平均値演算部32と振幅値演算部33とを有する信号前処理手段31に接続される。図7に示すように、平均値演算部32は加算器からなり、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号の和を演算して、その和を平均値Aとして取り出す。振幅値演算部33は減算器からなり、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号の差分を演算して、その差分値を振幅値Bとして取り出す。なお、平均値Aとしては、センサ出力信号の和を演算するほか、センサ出力信号の時間平均値を取り出すようにしても良い。
前記信号前処理手段31は荷重推定手段34に接続される。荷重推定手段34は、各センサユニット20A,20Bのセンサ出力信号から演算される前記平均値Aおよび振幅値Bから、車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(例えば垂直方向荷重Fz )を演算・推定する手段である。この荷重推定手段34は、前記歪みセンサ22A,22Bの出力信号の平均値Aのみを用いて車輪用軸受に作用する荷重LAを演算・推定する第1の演算処理部35と、前記歪みセンサ22A,22Bの出力信号の平均値Aと振幅値Bとを用いて車輪用軸受に作用する荷重LBを演算・推定する第2の演算処理部36とを有する。
車輪用軸受に作用する荷重Lと歪みセンサ22A,22Bの出力信号Sとの関係は、線形な範囲内でオフセット分を除外すれば、
L=M1×S ……(1)
という関係で表すことができ、この関係式(1)から車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する荷重Lを推定することができる。ここで、M1は所定の補正係数である。
前記第1の演算処理部35では、歪みセンサ22A,22Bの出力信号からオフセット分を除いた変数として前記平均値Aを用い、この変数に所定の補正係数M1を乗算した一次式、つまり
LA=M1×A ……(2)
から荷重Lを演算・推定する。このようにオフセット分を除外した変数を用いることにより、荷重推定精度を向上させることができる。
なお、この例では、2つのセンサユニット20A,20Bが用いられているので、式(2)による演算では各センサユニット20A(20B)から求められる平均値Aが用いられる。すなわち、センサユニット20Aから求められる平均値をAA、センサユニット20Bから求められる平均値をABとすると、式(2)は
LA=M1A×AA+M1B×AB ……(2’)
として表される。ただし、M1Aは平均値AAに乗算する所定の補正係数、M1Bは平均値ABに乗算する所定の補正係数である。
前記第2の演算処理部36では、前記平均値Aおよび振幅値Bを変数として用い、これらの変数に所定の補正係数M2,M3を乗算した一次式、つまり
LB=M2×A+M3×B ……(3)
から荷重Lを演算・推定する。このように2種類の変数を用いることで、荷重推定精度をさらに向上させることができる。
この例では、2つのセンサユニット20A,20Bが用いられているので、センサユニット20Aから求められる平均値をAA、振幅値をBA、センサユニット20Bから求められる平均値をAB、振幅値をBBとすると、式(3)は
LB=M2A×AA+M2B×AB+M3A×BA+M3B×BB ……(3’)として表される。ただし、M2Aは平均値AAに乗算する所定の補正係数、M2Bは平均値ABに乗算する所定の補正係数、M3Aは振幅値BAに乗算する所定の補正係数、M3Bは振幅値BBに乗算する所定の補正係数である。上記各演算式における各補正係数の値は、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。前記第1の演算処理部35および第2の演算処理部36による演算は並行して行なわれる。
センサユニット20A(20B)は、外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に設けられるので、歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bは、図6のようにセンサユニット20A(20B)の設置部の近傍を通過する転動体5の影響を受ける。つまり、この転動体5の影響が上記したオフセット分として作用する。また、軸受の停止時においても、歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bは、転動体5の位置の影響を受ける。すなわち、転動体5がセンサユニット20A(20B)における歪みセンサ22A,22Bに最も近い位置を通過するとき(または、その位置に転動体5があるとき)、歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bは最大値となり、図6(A),(B)のように転動体5がその位置から遠ざかるにつれて(または、その位置から離れた位置に転動体5があるとき)低下する。軸受回転時には、転動体5は所定の配列ピッチPで前記センサユニット20A(20B)の設置部の近傍を順次通過するので、歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bは、転動体5の配列ピッチPを周期として図6(C)に実線で示すように周期的に変化する正弦波に近い波形となる。また、歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bは、温度の影響やナックル16と車体取付用フランジ1a(図1)の面間などの滑りによるヒステリシスの影響を受ける。この実施形態では、前記2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bの和を上記した平均値Aとし、出力信号a,bの差分から絶対値|a−b|を求めて時間平均したもの、または出力信号a,bの差分からRMS値( 二乗平均値) を求めたものを、上記した振幅値Bとする。これにより、平均値Aは転動体5の通過による変動成分をキャンセルした値となる。また、振幅値Bは、2つの歪みセンサ22A,22Bの各出力信号a,bに現れる温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響を相殺した値となる。したがって、この平均値Aと振幅値Bを用いることにより、車輪用軸受やタイヤ接地面に作用する荷重を正確に検出することができる。
センサユニット20A(20B)として、図5の構成例のものを示す図6においては、固定側部材である外方部材1の外径面の円周方向に並ぶ3つの接触固定部21aのうち、その配列の両端に位置する2つの接触固定部21aの間隔を、転動体5の配列ピッチPと同一に設定している。この場合、隣り合う接触固定部21aの中間位置にそれぞれ配置される2つの歪みセンサ22A,22Bの間での前記円周方向の間隔は、転動体5の配列ピッチPの略1/2となる。その結果、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bは略180度の位相差を有することになり、その和として求められる平均値Aは転動体5の通過による変動成分をキャンセルしたものとなる。また、その差分として求められる振幅値Bは温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響を相殺した値となる。
なお、図6では、接触固定部21aの間隔を、転動体5の配列ピッチPと同一に設定し、隣り合う接触固定部21aの中間位置に各1つの歪みセンサ22A,22Bをそれぞれ配置することで、2つの歪みセンサ22A,22Bの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの略1/2となるようにした。これとは別に、直接、2つの歪みセンサ22A,22Bの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの1/2に設定しても良い。
この場合に、2つの歪みセンサ22A,22Bの前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの{1/2+n(n:整数)}倍、またはこれらの値に近似した値としても良い。この場合にも、両歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bの和として求められる平均値Aは転動体5の通過による変動成分をキャンセルした値となり、差分として求められる振幅値Bは温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響を相殺した値となる。
前記信号前処理手段31は、図1のように回転速度評価手段37にも接続される。回転速度評価手段37は、前記信号前処理手段31において各歪みセンサ22A,22Bの出力信号a,bから求められた平均値Aおよび振幅値Bを利用することで、車輪の回転速度を判別する指標となる評価値Vを求める手段である。
図8のように、前記荷重推定手段34は次段の推定荷重出力手段38に接続される。この推定荷重出力手段38は、前記荷重推定手段34の2つの演算処理部35,36での演算処理結果LA,LBを合成して最終の推定荷重値Lout を出力するものである。この場合の2つの演算処理結果LA,LBの合成は、前記回転速度評価手段37で求められる評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間tに応じた比率r(t) で行われる。しきい値Vthはメモリ39から読み出される。
次に、このセンサ付車輪用軸受における前記検出系での作用を説明する。
まず、信号前処理手段31において、各歪みセンサ22A,22Bの出力信号Sから平均値Aおよび振幅値Bを求め、それらを利用して回転速度を判別するための評価値Vを回転速度評価手段37で算出する。回転速度評価手段37では、算出した評価値Vをさらに別途定めたしきい値Vthと比較することにより、現在の状態が荷重推理手段34での第1の演算処理結果LAを用いる回転速度領域RAにあるか、または第2の演算処理結果LBを用いる回転速度領域RBにあるか、を判断する。
ここで、回転速度を判別するための評価値Vとしては、例えば、一定時間内に入力された各歪みセンサ22A,22Bの出力信号の振幅値Bを選択して合計した値を用いるものとする。この場合、全ての出力信号の振幅値Bを合計しても良いし、一部のセンサ出力信号の振幅値Bを選択して合計したものでも良い。また、別の方法としては、各歪みセンサ22A,22Bの出力信号から基本周波数成分を抽出して、回転速度を推定するものとしても良い。この評価値Vは、回転速度に正確に比例する関係になくても良く、回転速度の判別に必要な低速の回転速度領域において、ある一定速度を超えているかどうかを判断できれば良い。これにより、評価値Vに必要な精度が低くて済むため、正確な回転速度を出力する回転センサを設けたり、外部のセンサ情報を入力するための手段を設けたりする必要がなく、構成を単純化することができる。
荷重推定手段34では、歪みセンサ22A,22Bの出力信号の平均値A(転動体5の配列ピッチPの1/2だけずれた位置に配置した2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号の和Sum)のみを用いた第1の演算処理部35での演算処理結果LAと、平均値A(平均値はSumでも良いし、時間平均値Avでも良い)と振幅値Bを用いた第2の演算処理部36での演算処理結果LBとを、並列して算出する。そして、上記の回転速度を判別するための評価値Vに応じて、推定荷重値Lout としてどちらの演算処理結果を用いるかを選択して出力する。走行中に評価値Vが変化し、回転速度領域RAと回転速度領域RBの境界を越えた場合、通過後の時間に応じて重み付けした2つの計算結果を合成して出力する。すなわち、比率r(t) により演算処理結果LAと演算処理結果LBを合成し、最終の推定荷重値Lout を出力する。なお、領域RAは低速の回転速度領域、領域RBは通常の速度の回転速度領域であり、図9は評価値Vと回転速度領域RA,RBとの関係を示す。
図10は、推定荷重出力手段38での推定荷重値Lout の算出例を示す。例えば、回転速度が領域RAから領域RBに入った場合、境界通過後の時間をtとして、推定荷重出力手段38では前記合成を以下のように計算する。
Lout =(1−r(t) )×LA+r(t) ×LB;(r(t) は0〜1の値)……(4)
ここで、比率r(t) は、例えば、線形関数を用いて
r(t) = t / a ( 0 < t < a)……(5)
としても良いし、三角関数を用いて
r(t) =sin(πt / 2a) ^2 ( 0 < t < a)……(6)
などとしても良い。2 次以上の関数を用いた場合、切り替え部分を滑らかに接続することができる。いずれも、t=0からt=aにかけて0から1に変化する関数とする。この演算の結果、境界通過後の経過時間t=aまでは演算処理結果LAと演算処理結果LBを合成した推定荷重値Lout が出力され、それ以降は回転速度領域RBの計算結果が出力されることになる。なお、境界通過後の経過時間のうち、予め設定された時間a(以下、遷移時間と呼ぶ)は、前記しきい値Vthとともに、図8におけるメモリ39に予め書き込まれている。また、境界通過後の経過時間tは、回転速度評価手段37に設けられるタイマ40で計測される。
逆に、回転速度が領域RBから領域RAに入った場合、境界通過後の時間をtとして、推定荷重出力手段38では前記合成を以下のように計算する。
Lout =(1−r(a−t))×LA+r(a−t)×LB……(7)
また、回転速度が領域RAから領域RBに入った後、時間tがaに到達しない状態(t=t1)で再び領域RBに戻った場合には、
t= a−t1
での合成比率r(t) を初期値として演算処理を継続する。
なお、荷重推定手段34の演算処理に用いる平均値Aおよび振幅値Bの信号前処理手段31での算出において、処理対象時間Tの大きさを、評価値Vの値に応じて変化させる構成としても良い。車輪の回転速度が低い状態では処理対象時間Tを長めに設定し、回転速度が速くなると処理対象時間Tが短くなるように構成すると、荷重推定手段34での振幅値Bを用いた演算処理が低速領域で精度劣化するのを抑えつつ、より高速な応答が求められる速度領域では演算処理結果の応答時間を短くすることができる。評価値Vと回転速度との相関が低い場合でも、評価値Vの値に応じたマップを作成しておくことで、処理対象時間Tを回転速度領域に応じて最適に選択することが可能となる。
この実施形態では、固定側部材である外方部材1の外径面の上下位置に2つのセンサユニット20A,20Bを配置しているので、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz を精度良く推定できる。配置するセンサユニット20A,20Bの個数を増やせば、さらに駆動力や制動力となる荷重Fx 、軸方向荷重Fy も推定することができる。
図8に示す荷重推定手段34には、軸方向荷重Fy を演算するときに、軸方向荷重Fy の方向を判別するFy 方向判別部41が設けられる。上記したように、車輪用軸受の回転中には、センサユニット20A,20Bのセンサ出力信号の振幅には、正弦波に近い周期的な変化が生じるが、その振幅値は軸方向荷重(モーメント力)Fy の大きさによって変化する。図11(A)は外方部材1の外径面の上面部に配置されたセンサユニット20Aのセンサ出力を示し、図11(B)は外方部材1の外径面の下面部に配置されたセンサユニット20Bのセンサ出力を示している。これらの図において、横軸は軸方向荷重Fy を表し、縦軸は外方部材1の歪み量つまりセンサ出力信号を表し、最大値および最小値は振動する信号の最大値および最小値を表す。これらの図から、軸方向荷重Fy が+方向の場合、個々の転動体5の荷重は外方部材1の外径面上面部で小さくなり(つまり出力信号の最大値と最小値の差が小さくなる)、外方部材1の外径面下面部で大きくなる(つまり出力信号の最大値と最小値の差が大きくなる)ことが分かる。これに対して、軸方向荷重Fy が−方向の場合には逆に、個々の転動体5の荷重は外方部材1の外径面上面部で大きくなり、外方部材1の外径面下面部で小さくなることが分かる。図12は、これら上下のセンサユニット20A,20Bのセンサ出力信号の振幅の差分と軸方向荷重Fy の方向の関係をグラフで示している。
そこで、Fy 方向判別部41では、外方部材1の外径面上面部および外径面下面部に配置されたセンサユニット20A,20Bのセンサ出力信号の振幅の上記差分を求め、これらの値を比較することで、軸方向荷重Fy の方向を判別する。すなわち、外方部材1の外径面上面部のセンサユニット20Aのセンサ出力信号の振幅の差分が小さく、外方部材の外径面下面部のセンサユニット20Bのセンサ出力信号の振幅の差分が大きいとき、Fy 方向判別部41では、軸方向荷重Fy の方向が+方向であると判別する。逆に、外方部材1の外径面上面部のセンサユニット20Aのセンサ出力信号の振幅の差分が大きく、外方部材1の外径面下面部のセンサユニット20Bのセンサ出力信号の振幅の差分が小さいとき、Fy 方向判別部41では、軸方向荷重Fy の方向が−方向であると判別する。これに対応して、荷重推定手段34では、第1および第2の演算処理部35,36で軸方向荷重Fy の演算が行われるときに、前記Fy 方向判別部41の判別結果を反映させて演算推定式のパラメータの正負を反転させるなどの処理を施す。
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。ここではセンサユニット20A(20B)における歪み発生部材21の3つ以上の接触固定部21aが、外方部材1に接触固定されているので、外方部材1の歪みが歪み発生部材21に拡大して伝達され易く、その歪みが歪みセンサ22A,22Bで感度良く検出される。
特に、センサユニット20A(20B)の歪みセンサ22A,22Bの出力信号の平均値Aのみを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第1の演算処理部35、およびセンサ出力信号の振幅値Bと前記平均値Aとを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第2の演算処理部36からなる荷重推定手段34と、前記各歪みセンサ22A,22Bの出力信号から車輪の回転速度を表す評価値Vを求める回転速度評価手段37と、前記評価値Vに基づき前記荷重推定手段34における2つの演算処理部35,36の演算処理結果を合成して推定荷重値を出力する推定荷重出力手段38とを設け、この推定荷重出力手段38は、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間に応じた比率rで前記演算処理結果の合成を行うようにしているので、以下に列挙するような効果が得られる。
・ 回転センサの信号や、車両からの車輪回転速度情報を用いることなく、荷重推定演算処理を行うことができるため、信号配線本数の増加が必要なく、荷重センサの製造コストを抑えられるとともに、車両に搭載するときの自由度を高めることができる。
・ 通常の回転状態における荷重推定演算処理と、低速時の荷重推定演算処理とを切り替えることにより、荷重推定誤差が抑制されるため、より正確な推定荷重を得ることができる。
・ 回転速度に応じて荷重推定演算処理を切り替えるときにも、連続的に合成比率が変化する方法により荷重信号の不連続変化がなくなり、各種の車両制御への荷重信号の利用が容易になる。
・ 走行中に急ブレーキを動作させた場合には、急激に回転速度が変化してスリップ状態となることもあるが、車輪の回転が静止状態あるいは極低速状態であっても推定荷重値が出力されるため、走行状態に依存することなく車両制御等に信号を利用することができる。
図13は、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる、前記固定側部材である外方部材1の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に、円周方向90度の位相差で4つのセンサユニット20A,20B,20C,20Dを等配した他の実施形態のアウトボード側から見た正面図を示す。センサユニット20A〜20Dの配置構成を除くその他の構成は、先の実施形態の場合と同様である。
このように4つのセンサユニット20A〜20Dを配置することで、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz 、駆動力や制動力となる荷重Fx 、軸方向荷重Fy を推定することができる。
なお、上記した各実施形態では、外方部材1が固定側部材である場合につき説明したが、この発明は、内方部材が固定側部材である車輪用軸受にも適用することができ、その場合、センサユニット20は内方部材の内周となる周面に設ける。
また、これらの実施形態では第3世代型の車輪用軸受に適用した場合につき説明したが、この発明は、軸受部分とハブとが互いに独立した部品となる第1または第2世代型の車輪用軸受や、内方部材の一部が等速ジョイントの外輪で構成される第4世代型の車輪用軸受にも適用することができる。また、このセンサ付車輪用軸受は、従動輪用の車輪用軸受にも適用でき、さらに各世代形式のテーパころタイプの車輪用軸受にも適用することができる。
1…外方部材
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
20A〜20D…センサユニット
21…歪み発生部材
21a…接触固定部
22A,22B…歪みセンサ
31…信号前処理手段
32…平均値演算部
33…振幅値演算部
34…荷重推定手段
35…第1の演算処理部
36…第2の演算処理部
37…回転速度評価手段
38…推定荷重出力手段

Claims (12)

  1. 複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
    上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される3つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上のセンサからなる荷重検出用センサユニットを複数設け、
    前記各センサの出力信号の平均値のみを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第1の演算処理部、および前記各センサの出力信号の平均値と振幅値とを用いて車輪用軸受に作用する荷重を演算・推定する第2の演算処理部からなる荷重推定手段と、前記各センサの出力信号から車輪の回転速度を表す評価値Vを求める回転速度評価手段と、前記評価値Vに基づき前記荷重推定手段における2つの演算処理部の演算処理結果を合成して推定荷重値を出力する推定荷重出力手段とを設け、この推定荷重出力手段は、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間に応じた比率rで前記演算処理結果の合成を行うことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
  2. 請求項1において、前記荷重推定手段における演算処理に用いる前記各センサの出力信号の平均値と振幅値は、一定時間T内の各センサの出力信号を用いて算出するセンサ付車輪用軸受。
  3. 請求項2において、前記一定時間Tの値は、前記回転速度評価手段が求める評価値Vに応じて変化させるセンサ付車輪用軸受。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記センサユニットでは、隣り合う第1および第2の接触固定部の間、および隣り合う第2および第3の接触固定部の間に各センサをそれぞれ取付け、隣り合う接触固定部もしくは隣り合うセンサの前記固定側部材の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの{1/2+n(n:整数)}倍とし、前記荷重推定手段における第1および第2の演算処理部の一方または両方で、前記2つのセンサの出力信号の和を平均値として用いるものとしたセンサ付車輪用軸受。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記推定荷重出力手段で用いる合成比率rは、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間を変数とする一次関数で決定されるセンサ付車輪用軸受。
  6. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記推定荷重出力手段で用いる合成比率rは、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってからの経過時間を変数とする二次以上の関数で決定されるセンサ付車輪用軸受。
  7. 請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記推定荷重出力手段で用いる合成比率rの変化は、前記評価値Vが予め定めたしきい値thを横切ってからの経過時間のうち、予め設定された遷移時間aの経過で完了するものとしたセンサ付車輪用軸受。
  8. 請求項7において、前記評価値Vが予め定めたしきい値Vthを横切ってから再度しきい値Vthを横切るまでの経過時間が、前記遷移時間aに満たない場合、再度しきい値Vthを横切ったときの合成比率rを初期値として、以後の合成比率rが変化するものとしたセンサ付車輪用軸受。
  9. 請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記回転速度評価手段は、各センサの出力信号の振幅値を選択して合計した値を前記評価値Vとして求めるものとしたセンサ付車輪用軸受。
  10. 請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記回転速度評価手段は、前記センサの出力信号に含まれる転動体の公転運動による振幅成分の周波数から前記評価値Vを求めるものとしたセンサ付車輪用軸受。
  11. 請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記センサユニットを3つ以上設け、前記荷重推定手段は、前記3つ以上のセンサユニットのセンサの出力信号から車輪用軸受の径方向に作用する上下方向および左右方向の2つの径方向荷重Fx ,Fz と、車輪用軸受の軸方向に作用する1つの軸方向荷重Fy を演算・推定するものとしたセンサ付車輪用軸受。
  12. 請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記センサユニットを、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に円周方向90度の位相差で4つ等配したセンサ付車輪用軸受。
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