[第1の実施形態]
本発明に係る圧電式液滴吐出ヘッドの構造及び製造方法の第1の実施形態を説明する。まず、図1、図2及び図6を用いて、その要点を説明する。図1は、第1の実施形態の液滴吐出ヘッドにおける吐出アクチュエータ部分を構成する圧電素子の製法を説明する図であり、図2は図1の吐出アクチュエータ部分を構成する圧電素子を含む液滴吐出ヘッドの組み立てを説明する図である。図6は、本発明に関連する圧電素子の一駆動方法を説明する図である。これらの図は、主に、基板状圧電材に垂直な方向に沿って切断した断面により、吐出のマルチアクチュエータ部を表している。
まず、図1(A)に示すように、圧電材料を基板状に形成した基板状圧電材である圧電材基板1の上側平面より第一溝10を形成する。圧電材料は、例えば、PZTを代表とする材料である。溝の形成方法は、ブレードダイシング法や超音波加工法などの機械加工法と、レーザ支援エッチングや反応性イオンエッチング(RIE: reactive ion etching)などの化学エッチング法がある。第一溝10の配列状態や寸法等は、液滴吐出ヘッドの仕様に合わせて設計される。例えば、複数の第一溝10を平行に整列させることで、1次元の溝列が構成されている。各溝10の形状は、同一でもよく、必要に応じて変化させてもよい。例えば、1次元溝列を成す複数の第一溝10は、同一形状で且つ同一間隔で形成されており、図1(A)に示す溝の深さd1が10μm〜10mm、溝の幅w1が10μm〜5mm、溝間の間隔p1が20μm〜10mmとなるのが好適である。
次に、第一溝10の内側面11上に、図1(B)に示すように、第一電極を構成する厚みt1の導電性材料の膜51を形成する。例えば、厚みt1は0.1〜10μmである。導電性材料は、金属であり、Au、Ni、Al、Cuなどの単層膜、複層膜または合金であることが好適である。導電性材料と圧電材料の密着性の向上や相互拡散の防止のために、下地膜を形成してもよい。下地膜の材料として、Cr、Ti、Pd、Ptなどの単層膜、複層膜または合金であることが好適である。導電性材料膜の形成方法は、スパッタ、めっき、化学気相堆積(CVD:chemical vapor deposition)、プラズマ蒸着などがある。
次に、図1(C)に示すように、圧電材基板1の上側平面より第二溝20を形成する。第二溝20の形成方法は、第一溝10を形成する方法と同様であってもよい。第二溝20は、第一溝10と対応するように形成される。すなわち、第二溝20は、1次元溝列を成す第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。例えば、第二溝20は、第一溝10と同じ溝間隔で配され、溝深さd2が第一溝の深さd1より大きく(d2>d1)、溝幅w2が第一溝10の幅w1よりも小さい(w2<w1)。ここで、d2―d1>t1、w1−w2>t1になるように第二溝20は形成されている。このように第二溝20を形成することによって、第一溝10の底部の導電性材料膜が少なくとも部分的に除去されるが、第一溝10の内側側面の導電性材料膜51が残ることになる。
次に、図1(D)に示すように、第一溝10と第二溝20の少なくとも内側面を絶縁性材料3で被覆する。本例では、第一溝10と第二溝20からなる凹部が絶縁性材料3で充填される。絶縁性材料3は、樹脂、パリレン(パラキシリレン系ポリマーの総称をいう)、レジストなどの有機材料や、Siの酸化物、Siの窒化物、DCL(diamond-like carbon)などの無機材料がある。被覆する絶縁性材料3は、必要に応じて、複数の材料から構成されてもよい。絶縁性材料3の被覆方法として、流し込み、スパッタ、CVD、めっき、プラズマ蒸着などが適用可能である。
次に、図1(E)に示すように、圧電材基板1の上側平面より第三溝30を形成する。第三溝30の形成方法は、第一溝10または第二溝20を形成する方法と同様であってもよい。第三溝30は、第一溝10と対応するように形成される。すなわち、第三溝30は、1次元溝列を成す第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。例えば、第三溝30は、第一溝10と同じ溝間隔で配され、溝深さd3が第二溝20の深さd2より大きく(d3>d2>d1)、溝幅w3が第二溝20の幅w2よりも小さい(w3<w2<w1)。このように第三溝30を形成することによって、第二溝20の底部の絶縁性材料3が少なくとも部分的に除去されるが、第一溝10および第二溝20の内側側面に被覆された絶縁性材料3が残ることになる。例えば、第二溝20の内側側面21に残る絶縁性材料3の膜厚が10nm以上である。
次に、第三溝30の壁の内側面31に、図1(F)に示すように、第二電極を構成する導電性材料膜52を形成する。導電性材料膜52の構成と形成方法として、導電性材料52が絶縁性材料3に付着されず、露出されている第三溝30の内側面31にのみ付着されるという、選択性のある方法が望ましい。例えば、めっき法が好適である。また、スパッタ、めっき、化学気相堆積、プラズマ蒸着などの方法で、第一溝、第二溝および第三溝を有してなる溝部の内側面の全面に導電性材料膜52を形成した後、リフトオフ方法で絶縁性材料3の表面に付着している導電性材料膜52のみを選択的に除去する方法もある。
次に、必要に応じて、図1(G)に示すように、導電性材料膜52による第二電極を分割するために、第四溝40を圧電材基板1の上側平面より形成する。第四溝40の形成方法は、第一溝10ないし第三溝30を形成する方法と同様であってもよい。第三溝40は、第一溝10と対応するように形成される。すなわち、第三溝40は、1次元溝列を成す第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。例えば、第四溝40は、第一溝10と同じ溝間隔で配され、溝深さd4が第三溝30の深さd3より大きく(d4>d3>d2>d1)、溝幅w4が第三溝20の幅w3よりも小さい(w4<w3<w2<w1)。このような第四溝40の形成によって、各溝30の両側面に形成された導電性材料膜52による第二電極が、それぞれ独立になる。以上の図1(A)〜図1(G)で示した工程により出来た構造の斜視図は図1(H)である。
次に、必要に応じて、分割した第二電極間の電気絶縁を取るために、導電性材料膜52を含めた各溝の第4溝40の内側面を絶縁性材料で更に被覆する(図示なし)。絶縁性材料は、樹脂、パリレン、レジストなどの有機材料や、Siの酸化膜、Siの窒化膜などの無機材料がある。この被覆する絶縁性材料は、単層膜でもよく、複数の材料からなる多層膜であってもよい。この絶縁性材料の被覆方法として、スパッタ、CVD、めっき、プラズマ蒸着などがある。
以上のように、圧電材基板1に垂直な方向に沿って、溝加工と成膜を組み合わせることによって、圧電材料の壁2を形成しながら、壁2の側面上に2つの独立した電極(導電性材料膜51,52による第一電極と第二電極)を形成できる。このような溝加工と成膜を繰返すことによって、圧電材基板1に垂直な方向に沿って、一枚の圧電材料からなる壁2の側面上に複数の独立電極を形成できる。この電極付き圧電材料の壁2によって仕切られた空間4は、液滴吐出ヘッドの個別液室(例えば吐出圧を発生させる圧力室)として用いることができる。このため、以下の説明で、壁2を液室壁2とも呼ぶことにする。
次に、第一電極51と第二電極52にそれぞれ電極引き出し配線を形成する。上記第一溝ないし第四溝からなる溝が、図1(G)と図1(H)に示すような1次元の溝列を構成している場合、以下のようにして第一電極51および第二電極52が外部に引き出されている。
まず、図2(A)に示した配線基板5を形成する。配線基板5は、例えば、Si基板上に配線パッド54,55と配線56,57を形成したものである。配線パッド54と配線56は、導電性材料膜51による第一電極を外部へ引出すためのもので、配線パッド55と配線57は、導電性材料膜51による第二電極を引出すためのものである。これらの配線パッドと配線は、一般的な金属の成膜技術、フォトリソグラフィ及び金属のエッチング技術によって形成される。そして、図2(B)に示すように配線基板5を、図1(H)に示した壁2の、紙面に平行な一断面に接合することによって、上記の第一電極と第二電極をそれぞれ外部に引出す。この接合では、配線パッド54が第一電極の導電性材料膜51と電気的に接続され、配線パッド55が第二電極の導電性材料膜52と電気的に接続される。接合方法は、例えば、バンプ接合、半田接合、導電性接着剤を利用した圧着などの方法がある。また、配線基板5はフレキシブル回路基板であってもよい。良好な電気接続を得るために、配線基板5の接合の前に、配線基板5を接合する壁2の断面の平面出しをする。平面出しの方法として、切断や研磨、または切断と研磨を組み合わせた方法がある。また、第一電極の引出しは、圧電材基板1の上側平面すなわち液室壁2の上端面に配線基板5を接合することによっても実現できる。
次に、ノズル6A(液滴の吐出口)が形成されたノズルプレート6を、空間4を開口する圧電材基板1の上側平面すなわち液室壁2の上端面に接合する。まず、図2(C)に示すようなノズルプレート6を形成する。ノズルプレート6の材料としてはSi、Ni、ガラス、樹脂などが好適である。必要に応じて、ノズルプレート6の表面に疎液処理または親液処理を行う。
ノズルプレート6が接合される液室壁2の断面が、図2の紙面に平行する一断面、すなわち、空間4を成す溝の深さ方向の断面である場合、いわゆるエッジシューター(edge shooter)型の吐出ヘッドとなる。ノズルプレート6が接合される液室壁2の断面が、圧電材基板1の上側平面に平行する一断面、すなわち、空間4を形成した溝の延在方向の断面である場合、いわゆるサイドシューター(side shooter)型の吐出ヘッドとなる。例えば、図2(D)に示したように、ノズルプレート6を、圧電材基板1の上側平面すなわち液室壁2の上端面に接合する。良好な接合を得るために、ノズルプレート6の接合の前に、液室壁2の上端面の平面出しをする。平面出しの方法として、切断や研磨、または切断と研磨を組み合わせた方法がある。接合は、接着剤を使用する接着方法が好適である。
次に、図2(E)に示したように、液体の供給口と回収口(図示なし)を有するマニホールド7を圧電材基板1に接合する。マニホールドの材料として樹脂や金属などが好適である。接合方法に関しては、接着剤を使用する接着方法が好適である。
次に、液滴の吐出を制御する電気回路を配線基板5に接合する(図示なし)。接合方法に関しては、ワイヤボンディング、バンプ接合、半田接合、導電性接着剤を利用した圧着、またはフレキシブル配線基板を介した接続などの方法がある。
以上のように、圧電材基板1の主面に垂直な方向に対応する液室の長手方向に沿って、圧電材からなる各液室壁2の側面上に複数の電極が配設された液滴吐出ヘッドを簡易に実現することができる。このような液滴吐出ヘッドを用いて液滴吐出を行うと、単一アクチュエータの場合に比べて、液室内の液体の挙動を高い自由度で制御できる。よって、吐出時における駆動エネルギの効率化や空気混入の低減ができる。また、高速吐出に必要な液体の高速供給も可能となる。
また、せん断変形を利用したシェアモード(shear mode)型液滴吐出ヘッドの製造において、従来、反対方向に分極した2枚の圧電材を貼合わせる必要があった。本発明によれば、液室壁2の高さ方向に沿って分離した電極(51,52)を形成できるので、1枚の圧電材からなる液室壁2上で高さ方向に隣接する電極の極性を反対にするだけでシェアモード駆動が可能である。例えば、図6に示したように、1枚の圧電材からなる液室壁2に対して、その上半分の両側面(溝列の配列方向で対向する壁2の両側面の上半分)に形成された第一電極51A,51Bに第一の駆動信号V1の電圧を印加すると同時に、その下半分の両側面に形成された第二電極52A,52Bに第二の駆動信号V2の電圧を印加する。V1とV2の位相をずらす(例えば、V1とV2の極性をちょうど反対にする)ことによって、液室壁2をsシェアモードで変位させることが可能である。もちろん、V1とV2の振幅または周波数を独立に制御することも可能である。その結果、従来の技術より作製工程の単純化とアクチュエータの高性能化が可能となる。また、従来の、反対方向に分極した2枚の圧電材を貼合わせるものに比べて、接合面の接着剤劣化という問題がないので、アクチュエータの耐久性と長期安定性も改善できる。
[第2の実施形態]
次に、図3を用いて、第2の実施形態による圧電式液滴吐出ヘッドの構造及び製造方法を説明する。ここでは、第1の実施形態とは異なる手順で、第1の実施形態とほぼ同形状の液室構造を作製する場合を示す。但し、第2の実施形態と共通する部分についてはその説明を省略する。
図3は、第2の実施形態の液滴吐出ヘッドにおける吐出アクチュエータ部分を構成する圧電素子の製法を説明する図であり、この図では、主に、基板状圧電材に垂直な方向に沿って切断した断面により、吐出のマルチアクチュエータ部の製造工程を表している。
まず、図3(A)に示すように、圧電材料で構成された圧電材基板1の上側平面より第一溝10を形成する。本例の第一溝10は、溝の深さがd1、溝の幅がw1である。圧電材料は、例えば、PZTを代表とする材料である。溝の形成方法や配列状態と寸法等は、第1の実施形態と同様な要領で決定される。
次に、第一溝10の内側面11に、図3(B)に示すように、厚みt2の第二電極を構成する導電性材料膜52を形成する。第二電極の材料や形成方法は、第1の実施形態における第一電極と同様な要領で決定される。
次に、図3(C)に示すように、圧電材基板1の上側平面より第二溝20を形成する。第二溝20の形成方法は、第一溝10を形成する方法と同様であってもよい。第二溝20は、第一溝10と対応するように形成される。すなわち、第二溝20は、第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。例えば、第二溝20は、第一溝10と同じ溝間隔で配され、溝深さd2が第一溝の深さd1より小さく(d2<d1)、溝幅w2が第一溝10の幅w1よりも大きい(w2>w1)。ここで、w2−w1>t2になるように第二溝20は形成されている。このように第二溝20を形成することによって、第一溝10の内側面11の上部に被覆された導電性材料膜52は除去されるが、第一溝10の内側面11の下部及び底部に導電性材料膜52は残ることになる。
次に、図3(D)に示すように、第一溝10と第二溝20の内側面を絶縁性材料3で被覆する。絶縁性材料3の材質及び被覆方法は、第1の実施形態における絶縁性材料3の材質及び被覆方法と同じでもよい。特に、スパッタ、CVD、めっき、プラズマ蒸着などの方法で、溝の内側面だけを絶縁材で被覆するのが好適である。
次に、図3(E)に示すように、圧電材基板1の上側平面より第三溝30を形成する。第三溝30の形成方法は、第一溝10または第二溝20を形成する方法と同様であってもよい。第三溝30は、第一溝10と対応するように形成される。すなわち、第三溝30は、第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。例えば、第三溝30は、第一溝10と同じ溝間隔で配され、溝深さd3が第一溝の深さd1より小さく(d3<d2<d1)、溝幅w3が第一溝10の幅w1よりも大きい(w3>w2>w1)。このような第三溝30を形成することによって、第二溝20の内側面の上部に形成された絶縁性材料3が除去され、圧電材料からなる溝の側面31が露出される。
次に、第三溝30の内側面31に、図3(F)に示すように、第一電極を構成する導電性材料膜51を形成する。導電性材料膜51からなる第一電極の構成と形成方法は、第1の実施形態における第二電極の構成と形成方法と同様であってもよい。それに加えて、真空中における斜方蒸着方法もある。この場合、蒸着源に対して、基板の傾斜角度を調整して、第三溝30の内側面31にだけ導電性材料膜51が形成するようにするが、内側面31の下部及び底部まで被覆する必要がない。
次に、必要に応じて、図2(G)に示すように、導電性材料膜52による第二電極を分割するために、第四溝40を圧電材基板1の上側平面より形成する。第四溝40の形成方法は、第一溝10ないし第三溝30を形成する方法と同様であってもよい。第三溝40は、第一溝10と対応するように形成される。すなわち、第三溝40は、第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。例えば、第四溝40は、第一溝10と同じ溝間隔で配され、溝深さd4が第一溝10の深さd1より大きく(d4>d1>d2>d3)、溝幅w4が第一溝10の幅w1よりも小さい(w4<w1<w2<w3)。このような第四溝40の形成によって、各溝の両側面に形成された導電性材料膜52による第二電極が、それぞれ独立になる。
次に、必要に応じて、分割した第二電極間の電気絶縁を取るために、第1の実施形態と同様、導電性材料膜52を含めた各溝の第4溝40の内側面を絶縁性材料で更に被覆する(図示なし)。
以上のようにして、第1の実施形態とほぼ逆形状の液室構造を作製できる。
次に、図2(A)〜図2(E)に示したような工程を経て、一次元に配列される液室を有する液滴吐出ヘッドが作製される。すなわち、第1の実施形態と同様の要領で、第一電極と第二電極の引出しを行う(図2(A),図2(B))。次に、第1の実施形態と同様の要領で、ノズルプレートを液室に接合する(図2(C),図2(D))。次に、第1の実施形態と同様の要領で、吐出用液体の供給口と回収口を有するマニホールドを液室に接合する(図2(E))。次に、第1の実施形態と同様の要領で、吐出を制御する電気回路を連結する。
以上のように、本実施形態によれば、第1の実施形態とほぼ同様な性能を持つ液滴吐出ヘッドを作製できる。
[第3の実施形態]
次に、図4および図5を用いて、第3の実施形態による圧電式液滴吐出ヘッドの構造及び製造方法を説明する。ここでは、第1の実施形態とは異なり、2次元に配列される液室を有する液滴吐出ヘッドの構造及び製造方法を示す。但し、第1の実施形態および第2の実施形態と共通する部分についてはその説明を省略する。
図4は、第3の実施形態の液滴吐出ヘッドにおける吐出アクチュエータ部分を構成する圧電素子の製法を説明する図である。この図では、主に、液室を通って基板状圧電材に垂直な方向に沿って切断した断面により、吐出のマルチアクチュエータ部の製造工程を表している。また、図5は図4の吐出アクチュエータ部分を構成する圧電素子を含む液滴吐出ヘッドの組み立てを説明する斜視図である。
まず、図4(A)に示したように、圧電材料で構成された圧電材基板1の上側平面に溝60を形成する。圧電材料は、例えば、PZTを代表とする材料である。溝の形成方法は、第1の実施形態と同様でもよい。但し、溝60は、図4(K)に示すように基板1の上側平面上で平行に複数配列されており、このように複数の溝60を平行に整列させることで1次元の溝列が構成されている。各溝60の長手方向の長さは、最終的に製造される液室の長さより十分に長い。また各溝60の深さd5は、圧電材基板1の平面に垂直な方向における液室の一辺の幅の約半分であり、溝の幅w5が圧電材基板1の平面に平行な方向における液室の一辺の幅と同じであり、隣り合う溝60間の間隔がp2である。溝60は、例えば深さd5が10μm〜5mm、幅w5が10μm〜10mm、間隔p2が20μm〜10mmという範囲が好適である。
次に、溝60の内側表面61に、図4(B)に示すように、導電性材料膜53を形成する。導電性材料膜53は、最終的に作製される液室内の内部電極となる。内部電極となる導電性材料膜53の材料や形成方法は、第1の実施形態における第一電極と同様な要領で決定される。ここで、内部電極を構成するための導電性材料膜53が不要な部分に付かないように、導電性材料を成膜する前にフォトリソグラフィでレジストのパターンを基板1上に形成しておいて、導電性材料を成膜した後にレジストを除去すると同時に、レジスト上に堆積した導電性材料をリフトオフしてもよい。あるいは、導電性材料を基板1上に成膜した後、フォトリソグラフィでレジストのパターンを形成した後、レジストで保護されていない部分の導電性材料をエッチングで除去してもよい。また、前述何れの方法で薄いシード層を成膜してから、所望の厚さまでめっき法で更に導電性材料を形成することも可能である。
次に、図4(C)に示すように、導電性材料膜53が形成された圧電材基板1(図4(B))を接合して所望の層数まで積層した。積層のとき、まず、導電性材料膜53が付いた2枚の圧電材基板1を溝60がほぼ対向するように接合して、1つのモジュールとした。図4(C)中の符号62が、一つのモジュールを構成する2枚の圧電材基板1間の接合界面を指し示している。2つの圧電材基板1の溝内の導電性材料膜53間に挟まれてできた空間4の一部分が、最終的に製造される液体吐出ヘッドの液室となる。このようなモジュール同士を所望の数まで接合した。図4(C)中の符号63が、モジュール間の接合界面である。モジュール間の接合において、溝60が所望の配列になるように位置合わせを行った。圧電材基板同士の接合は、絶縁性材料を介した接合が望ましい。例えば、絶縁性接着剤による接着が好適である。各層の厚み調整は、図4(A)に示した溝加工の前に行ってもよい。このとき、圧電材基板が薄くて、加工性が低下した場合、圧電材基板を他の支持基板に貼り付けてもよい。貼り付けは、後で支持基板を取り外しやすいように、例えば、加熱や光照射によって接着力が弱くなる材料で行うのがよい。各層の厚み調整の他の手法は、導電性材料膜53が付いた圧電材基板1(図4(B))を接合した後、その圧電材基板1を裏面から研磨する手法がある。
次に、図4(D)に示すように、圧電材基板1を積層して基板状にした基板状圧電材(以下、圧電材積層体と呼ぶ。)の、接合界面63と平行する方向における一端面より、第一溝10を形成する。第一溝10の形成方法は、第1の実施形態と同様であってもよい。第一溝10は、接合界面63に平行に複数配列され、かつ、接合界面63に交差(本例では直交)する面に平行に複数配列されており、このように直交する2方向でそれぞれ第一溝10を平行に整列させることにより2次元の溝列が構成されている。
そして、これらの第一溝10は、図4(L)に示すように、液室である空間4のそれぞれをほぼ中心に囲むように加工されている。例えば、ブレードダイシング法を用いる場合、まず、図4の紙面と略平行な方向に沿って平行に整列した第一の溝列を加工して、そして該第一の溝列と交差した方向に沿って第二の溝列を加工することによって、第一溝10を形成できる。交差する2方向それぞれの溝列の第一溝10は、同一形状且つ同一間隔で形成されており、溝の深さd1が10μm〜5mm、溝の幅w1が10μm〜5mm、隣り合う溝の間隔p1が溝60の間隔p2(図4(K))と同じ20μm〜10mmという範囲が好適である。
次に、第一溝10の内側面11に、図4(E)に示すように、厚みt1の導電性材料膜51からなる第一電極を形成する。第一電極の材料や形成方法は、第1の実施形態における第一電極と同様な要領で決定される。
次に、図4(F)に示すように、上記した圧電材積層体の、第一溝10が形成された側の一端面より、第二溝20を形成する。第二溝20は、二次元配列の各第一溝10と対応するように形成される。第二溝20の形成方法は、第一溝10を形成する方法と同様であってもよい。すなわち、第二溝20は、第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。例えば、第二溝20は、第一溝10の溝列と同じ溝間隔で配され、溝深さd2が第一溝の深さd1より大きく(d2>d1)、溝幅w2が第一溝10の幅w1よりも小さい(w2<w1)。ここで、d2―d1>t1、w1−w2>t1になるように第二溝20は形成されている。このように第二溝20を形成することによって、第一溝10の底部にある第一電極の導電性材料膜51は少なくとも部分的に除去されるが、第一溝10の内側側面にある第一電極の導電性材料膜51は残ることになる。
次に、図4(G)に示すように、第一溝10と第二溝20の少なくとも内側面を絶縁性材料3で被覆する。絶縁性材料3の材料と被覆方法は、第1の実施形態に示した要領で決定される。
次に、図4(H)に示すように、上記した圧電材積層体の、第一溝10が形成された側の一端面より、第三溝30を形成する。第三溝30は、二次元配列の各第一溝10と対応するように形成される。第三溝30の形成方法は、第一溝10または第二溝20の形成方法と同様であってもよい。すなわち、第三溝30は、第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。例えば、第三溝30は、第一溝10の溝列と同じ溝間隔で配され、溝深さd3が第二溝20の深さd2より大きく(d3>d2>d1)、溝幅w3が第二溝20の幅w2よりも小さい(w3<w2<w1)。このように第三溝30を形成することによって、第二溝20の底部の絶縁性材料3が少なくとも部分的に除去され、第一溝10および第二溝20の内側側面に被覆された絶縁性材料3は残ることになる。例えば、第二溝20の内側側面21に残る絶縁性材料3の膜厚が10nm以上である。
次に、第三溝30の内側面31に、図4(I)に示すように、第二電極を構成する導電性材料膜52を形成する。第二電極を構成する導電性材料膜の構成と形成方法は、第1の実施形態に示した第二電極と同様な要領で決定される。
次に、必要に応じて、第1の実施形態で示した要領で導電性材料膜52による第二電極を分割するための第四溝を形成する(図示なし)。
次に、必要に応じて、分割した第二電極間の電気絶縁を取るために、第1の実施形態で示した要領で、導電性材料膜52を含めた各溝の第四溝の内側面を絶縁性材料で更に被覆する(図示なし)。
次に、図4(J)に示すように、上記した圧電材積層体における第一溝10に垂直な両端面、即ち、空間4の長手方向に垂直な上側端面と下側端面より、空間4及び導電性材料膜53を露出させる。そのために、それらの端面に対して切断や研磨などの工程を施す。研磨によって、この両端面の平面出しも同時にできる。
以上の工程によって得られた構造体の斜視図が図4(L)である。すなわち、図4(L)に示したような複数の細長い空間4からなる液室が2次元に配列された構造体が形成される。この構造体は各液室の壁2の内側に内部電極(すなわち導電性材料膜53からなる電極)があり、各液室の壁2の外側に液室の高さ方向に分割された第一電極(すなわち導電性材料膜51からなる電極)と第二電極(すなわち導電性材料膜52からなる電極)が配設されている。以下、図4(L)の構造体を吐出アクチュエータと呼ぶ。また、上記の「内部電極(すなわち導電性材料膜53からなる電極)」、「第一電極(すなわち導電性材料膜51からなる電極)」、「第二電極(すなわち導電性材料膜52からなる電極)」という記述は、これ以降、「内部電極(53)」、「第一電極(51)」、「第二電極(52)」というように略記することにする。
次に、第一電極(51)と第二電極(52)と内部電極(53)をそれぞれ外部に引き出す。つまり、上記第一溝ないし第四溝からなる溝が、図4(L)に示すような2次元の溝列を構成している場合、以下のようにして各電極(51,52,53)が外部に引き出されている。
内部電極(53)と第一電極(51)の引出しについては、図5(A)に示すような接続用電極パッドのパターンが形成された配線基板5Aを図4(L)の吐出アクチュエータの上側平面に接合することによって電極の引出しが行える。なお、内部電極(53)の引出しについては、図4(L)の構造体の下側平面と配線基板5Bとの接合によって行うこともできる。
第二電極(52)の引出しに関しては、第二電極(52)が図4(L)に示すように液室毎に分割されていなく連結されている場合には、圧電材積層体の台座1Aの、縦断面または第二電極(52)がある面から容易に電極の引き出しが行える。
第二電極(52)が液室毎に分割され、それぞれ独立している場合の電極引出については、図5(A)〜(D)を用いて、その一例を説明する。まず、図5(A)に示すように、接続用電極パッド54,55と配線56,57のパターンが形成された配線基板5Aを作製する。配線基板5Aは、例えば、Si基板上に配線パッド54,55と配線56,57を形成したものである。配線パッド54は、各液室の第一電極(51)に対応する位置に形成される。配線パッド55は、各液室の内部電極(53)に対応する位置に形成される。配線パッド54,55と配線56,57は、第1の実施形態で示した要領で形成される。液室を露出させるために、図5(A)に示したように、配線基板5Aの、各液室の端部の開口に対応する位置に、貫通穴58を形成する。貫通穴58の形成方法としては、ドライエッチング、液体エッチング、または機械加工などが好適である。
そして、図5(B)に示すように、第一電極(51)と内部電極(53)を引出すための配線基板5Aを、液室壁の上側端面(図4(L)の吐出アクチュエータの上側平面)に接合する。このとき、配線パッド54は対応する第一電極(51)と電気的に接続され、配線パッド55は対応する内部電極(53)と電気的に接続される。この接合方法としては、例えば、バンプ接合、半田接合、導電性接着剤を利用した圧着などの方法がある。
続いて、図5(C)に示すように、配線基板5Aを接合した状態で、研磨などの手法で吐出アクチュエータの下側平面から圧電材積層体の台座1Aの部分を除去して、各液室の第二電極(52)をその下側平面より露出させる。
そして、図5(D)に示すように、配線基板5Aの接合と同様な要領で、液室の下側端面より第二電極(52)を引出すための配線基板5Bの配線を第二電極(52)に接合する。配線基板5Bは配線基板5Aと類似する形状で、内部電極(53)を引出すための配線パッドと配線がないものである。また、配線密度を分散させるため、内部電極(53)からの配線引出しを配線基板5Aと5Bに分割して行ってもよい。
次に、圧電材料からなる液室の壁2を、壁2の厚み方向に分極する(図示なし)。例えば、まず、内部電極(53)を接地し、第一電極(51)と第二電極(52)を電源の正極に連結して電界を加える。この状態で、温度を分極に適する値まで上昇させて、所望の時間で保持する。そして、温度を徐々に室温まで戻してから、電界をゼロに戻す。電界強度、分極温度、及び分極の保持時間は、圧電材料の性質によって適宜に設定される。このような液室構造は、いわゆるグールド型構造である。いままでの工程で使用した接着剤は、この分極時の温度を考慮して選択されている。
次に、上記した配線基板5A,5Bが接合された吐出アクチュエータに、ノズル6Aが形成されたノズルプレート6を接合する。この工程では、まず、図5(E)に示すようなノズルプレート6を用意する。ノズルプレート6の構成と製法は、第1の実施形態で示した要領で決定される。そして、図5(F)に示すように、吐出アクチュエータ上の配線基板5Aに、第1の実施形態で示した要領でノズルプレート6を接合する。このとき、ノズル6Aは、ほぼ配線基板5上の貫通穴58と中心が合うように位置合わせされる。また、ノズルプレート6は、配線基板5Aと一体化してもよい。この場合の配線基板5Aの貫通穴58は、おもて側の面でノズル6Aの形状に形成されていればよい。
次に、図5(G)に示すように、吐出用液体の供給口と回収口(図示なし)を有するマニホールド7を配線基板5Bに接合する。配線基板Bには、液室とマニホールド7とを連通する貫通口が形成されている。マニホールド7の材料として樹脂や金属などが好適であり、必要に応じて、表面改質のための表面処理を施す。接合については、接着剤を使用する接着方法が好適である。
次に、必要に応じて、図5(H)に示すように、吐出アクチュエータ部分の周囲を囲むように、今までの工程で得た構造体にジャケット8を接合する。接合としては、接着剤を使用する接着方法が好適である。ジャケット8は、吐出アクチュエータ部分を周囲から保護することができる。また、ジャケット8に貫通穴8Aを少なくとも2つ設けて、貫通穴8Aに接続する管より液体または気体をジャケット8の内部を通すことによって、ジャケット8に囲まれた吐出アクチュエータ部分の冷却が可能になる。
次に、吐出を制御する電気回路を配線基板5Aと5Bにそれぞれ接続する(図示なし)。接続方法としては、ワイヤボンディング、バンプ接合、半田接合、導電性接着剤を利用した圧着、フレキシブル配線基板を介した接続などの方法がある。
以上のように、2次元配列のグールド型液室を有する液滴吐出ヘッドを簡易な方法によって製造することができる。駆動の際、例えば、内部電極(53)を共通電極とし、かつ、各液室の外壁に液室壁2の高さ方向に沿って分割された第一電極(51)と第二電極(52)を個別電極として、それぞれ独立に駆動すれば、グールド型液室の上部と下部をそれぞれ独立に変位させることができる。
本発明の製造方法によれば、液室の長手方向を基板状圧電材(上記の圧電材積層体)の主面と垂直な方向にして複数の液室を基板状圧電材の主面に対して二次元配置した液滴吐出ヘッドにおいても、各液室壁2の高さ方向に沿って複数の電極を簡易に形成できる。従来技術では、液室壁の高さ方向に沿って単一の電極が形成された2次元液室を有する基板を2枚それぞれ独立に作製して、この2枚の基板を厚み方向に接合する必要があった。この場合、接合による液室の上下部分の位置ずれが不可避であり、製造誤差が大きい。本発明によれば、事前に形成した液室に対して、その外部で溝加工と成膜を順番に行うだけで外壁及び外部電極を形成でき、また、各液室の上部と下部の位置ずれの心配も無い。その結果、製造コストの低減と吐出ヘッド性能の向上が実現できる。
さらに、本発明の液滴吐出ヘッドによれば、単一アクチュエータの場合に比べて、液室内の液体の挙動を高い自由度で制御できる。よって、吐出時における駆動エネルギの効率化や空気混入の低減ができる。また、高速吐出に必要な液体の高速供給も可能となる。特に、グールド型液室は比較的に大きな駆動力を提供できるので、高粘度液体の吐出を比較的に容易にできる。
以下、上記の各実施形態について、より具体的な数値を挙げて説明する。
[第1の実施例]
第1の実施例は、上記第1の実施形態で説明した1次元に配列された液室を有する液滴吐出ヘッドの構造および製造方法に関わる。以下、図1〜2を用いて、その要点を説明する。
まず、キューリ温度が約200℃のPZT基板1を用意した。切断と機械研磨でPZT基板1を加工し、長さ3mm、幅25mm、厚み3mmの板状にした。そして、通常の方法でPZT基板1を厚み方向沿って分極した。
次に、図1(A)に示すように、PZT基板1の上側平面に対して、その基板長さ方向に沿ってブレードダイシング法を用いて第一溝10を形成した。複数の第一溝10を平行に整列させることで、1次元溝列の第一溝10が構成された。各溝は同一形状且つ同一間隔で配列され、深さd1を400μm、幅w1を150μm、間隔p1を250μmとした。
次に、第一溝10の内側面11に、図1(B)に示すように、第一電極を構成する導電性材料膜51として厚みt1の金属膜をスパッタ法で形成した。この金属膜はTiとAuの2層の膜で構成され、それぞれの厚みを0.02μm、1.5μmとした。つまり、金属膜の厚みt1を1.52μmとした。
次に、図1(C)に示すように、第一溝10が形成されたPZT基板1の上側面に対して、ブレードダイシング法を用いて第二溝20を形成した。第二溝20を第一溝10と対応するように形成した。すなわち、第二溝20を第一溝10と同一形状且つ同一間隔で形成し、中心が略重なるように配置した。第二溝20の寸法については、深さd2を420μm、幅w2を135μm、間隔p1を250μmとした。このような第二溝20の形成によって第一溝10の底部の金属膜をほとんど除去するが、第一溝10の内側側面には金属膜を残し、これを第一電極とした。
次に、図1(D)に示すように、第一溝10と第二溝20に、絶縁性材料膜3を構成するための感光性樹脂(SU−8)を流し込んだ。これを120℃で0.5時間加熱した後、溝の底部のSU−8が十分に感光されるまで紫外線を照射した。そして、150℃で1時間加熱して、SU−8を更に硬化させた。これによって、絶縁性材料であるSU−8を用いて溝の内側面を被覆した。
次に、図1(E)に示すように、溝10,20が形成されたPZT基板1の上側面に対して、ブレードダイシング法を用いて第三溝30を形成した。第三溝30を第一溝10と対応するように形成した。すなわち、第三溝30を第一溝10と同一形状且つ同一間隔で形成し、中心が略重なるように形成した。第三溝30の寸法については、深さd3を820μm、幅w3を120μm、間隔p1を250μmとした。このような第三溝30の形成によって第二溝20の底部のSU−8をほとんど除去するが、第一溝10と第二溝20の内側側面を約5μm厚以上の絶縁性膜SU−8で被覆したままとした。
次に、第三溝30の内側面31に、図1(F)に示すように、第二電極を構成する導電性材料膜52として金属膜を無電解めっき法で形成した。めっきのとき、まず表面処理して、第三溝30内の露出しているPZTの表面31に金属をめっきしやすい状態にした。そして、SU−8の絶縁性材料膜3にめっきをせず、露出しているPZTの表面31にだけめっきする条件でめっきを行った。めっきに関しては、まずPdをシード層としてめっきした。そして、無電解めっきで約2.0μm厚のNi膜を形成した。続いて、Ni膜の表面に置換めっき法で約0.2μm厚のAuの膜を形成した。このように第三溝30の内側面31に形成したAu/Ni膜を第二電極とした。
次に、第二電極を分割するために、図1(G)に示すように、溝10,20,30が形成されたPZT基板1の上側面に対して、ブレードダイシング法を用いて第四溝40を形成した。第四溝40を第一溝10と対応するように形成した。すなわち、第四溝40を第一溝10と同一形状且つ同一間隔で形成し、中心が略重なるように形成した。第四溝40の寸法については、深さd4を850μm、幅w4を50μm、間隔p1を250μmとした。この第四溝40の形成によって、各溝30内の両側面に形成された導電性材料膜52の第二電極がそれぞれ独立になった。図1(G)の構造に対応する斜視図は図1(H)である。
次に、第二電極(52)を含めた各溝40の内側面に厚さ約2μmのパリレンを蒸着し、分割した第二電極間の電気絶縁を取った。
以上のように、PZT基板1に垂直な方向に沿って、PZTの壁2を形成しながら、壁2の側面上に2つの独立した電極を簡易に形成できた。この電極付きPZTの壁2によって仕切られた空間4を、液滴吐出ヘッドの液室とした。
次に、図2(A)と図2(B)に示すように、第一電極(51)と第二電極(52)の夫々に対して電極の引出しを行った。まず、図1(H)に示した紙面に平行な液室壁2の断面に対して研磨によって平面出しを行った。そして、図2(A)に示すような配線基板5を形成した。配線基板5は、Si基板上に配線パッド54,55と配線56,57が形成されたものである。配線パッド54と配線56は、第一電極(51)を引出すためのもので、配線パッド55と配線57は、第二電極(52)を引出すためのものである。配線パッドと配線の形成については、TiとAuを順番にSi基板上にスパッタ法で成膜してから、フォトリソグラフィ及びイオンビームによるドライエッチングによって配線パッドと配線を形成した。そして、配線パッド54と配線パッド55の上に、低温半田を乗せ、加熱して、パッド表面のAuに半田を融着させた。そして、図2(B)に示すように、配線基板5を、図1(H)に示した液室壁2の、紙面に平行する一断面(つまり、液室壁2の高さ方向の断面)に貼合わせ、加熱して、配線パッド54,55上の半田と第一電極(51)及び第二電極(52)とを融着させた。この接合では、配線パッド54が第一電極(51)と電気的に接続され、配線パッド55が第二電極(52)と電気的に接続された。
次に、図2(D)に示すように、ノズル6Aが形成されたノズルプレート6を、圧電材基板1の液室壁2の上側端に接合した。この接合とき、まず、図2(C)に示すようなノズルプレート6を形成した。ノズルプレート6はNiで構成され、フォトリソグラフィとめっきによって作製されている。作製したノズルプレート6の板厚は50μm、ノズル6Aの内径は30μmである。そして、図2(D)に示したように、ノズルプレート6を絶縁性の熱硬化型接着剤で圧電材基板1の液室壁2の上側端に接合した。接合のために、まず研磨によって、液室壁2の上側端の平面出しを行った。ノズルプレート6を接着する前記の接着剤を硬化させるために、図2(D)の構造体を80℃で1時間加熱した。図中、ノズルと液室の位置関係を明示するため、ノズルプレート6を透明なように描いた。
次に、図2(E)に示すように、吐出用液体の供給口と回収口(図示なし)を有するマニホールド7を、液室壁2の、配線基板5を接合した断面と対向する他の断面に接合した。マニホールドの材料としてSUSを使用した。接合用接着剤として、ノズルプレート6の接合と同様の絶縁性熱硬化型接着剤を使用した。
次に、フレキシブル配線基板を介して吐出を制御する電気回路を配線基板5に接続した(図示なし)。
以上のようにして作製された液滴吐出ヘッドは、いわゆるサイドシューター(side shooter)型吐出ヘッドと呼ばれる構成である。
以上のような製造方法によれば、液室の壁2の側面上に、圧電材基板1に垂直な方向に対応する液室壁2の高さ方向に沿って2つの独立した電極を有する液滴吐出ヘッドを簡易に実現できた。このような液滴吐出ヘッドにおいて、各液室からの液体吐出を、独立した2つのアクチュエータで制御可能にした。
[第2の実施例]
第2の実施例は、上記第2の実施形態で説明した1次元に配列された液室を有する液滴吐出ヘッドの構造および製造方法に関わる。以下、図3を用いて、その要点を説明するが、第1の実施例と共通する部分についてはその説明を省略する。
まず、図3(A)に示すように、PZT基板1の上側平面に対して、ブレードダイシング法を用いて第一溝10を形成した。複数の第一溝10を平行に整列させることで、1次元溝列の第一溝10が構成された。各溝は、同一形状且つ同一間隔で配列され、深さd1を820μm、幅w1を120μm、間隔p1を250μmとした。
次に、第一溝10の内側面11に、図3(B)に示すように、第二電極を構成する導電性材料膜52として厚みt1の金属膜をめっき法で形成した。この金属膜として、約2.0μm厚のNiの膜の表面に約0.2μm厚のAuの膜を形成した。つまり、金属膜t1を2.2μmとした。
次に、図3(C)に示すように、第一溝10が形成されたPZT基板1の上側面に対して、ブレードダイシング法を用いて第二溝20を形成した。第二溝20を第一溝10と対応するように形成した。すなわち、第二溝20を第一溝10と同一形状且つ同一間隔で形成し、中心が略重なるように配置した。第二溝20の寸法については、深さd2を420μm、幅w2を130μm、間隔p1を250μmとした。このような第二溝20の形成によって第一溝10の内側面の上部の金属膜をほとんど除去したが、第一溝10の内側面の下部および底部には金属膜を残し、これを第二電極とした。
次に、図3(D)に示すように、CVD法を用いて、第一溝10および第二溝20の内側面に、絶縁性材料膜3であるDLC(diamond-like carbon)の薄膜を形成した。このDLC薄膜の厚みを0.5μmとした。
次に、図3(E)に示すように、溝10,20が形成されたPZT基板1の上側面に対して、ブレードダイシング法を用いて第三溝30を形成した。第三溝30を第一溝10と対応するように形成した。つまり、第三溝30を第一溝10と同一形状且つ同一間隔で形成し、その寸法については深さd3を400μm、幅w3を150μm、間隔p1を250μmとした。このような第三溝30の形成によって第二溝20の内側面の上部において絶縁性材料膜3が除去され、PZTからなる溝の内側面31が露出された。
次に、第三溝30の内側面31に、図3(F)に示すように、第一電極を構成する導電性材料膜51として金属膜をめっき法で形成した。第一電極となる導電性材料膜51として、約2.0μm厚のNiの膜の表面に約0.2μm厚のAuの膜を形成した。
次に、第二電極を分割するために、図3(G)に示すように、溝10,20,30が形成されたPZT基板1の上側面に対して、ブレードダイシング法を用いて第四溝40を形成した。第四溝40を第一溝10と対応するように形成した。すなわち、第四溝40を第一溝10と同一形状且つ同一間隔で形成し、中心が略重なるように形成した。第四溝40の寸法については、深さd4を850μm、幅w4を50μm、間隔p1を250μmとした。この第四溝40の形成によって、各溝30内の両側面に形成された導電性材料膜52の第二電極がそれぞれ独立になった。
次に、CVD法によって、第二電極(52)を含めた各溝40の内側面に約0.5μm厚のDLC膜を形成し、分割した第二電極間の電気絶縁を取った。
以上のように、PZT基板1に垂直な方向に沿って、PZTの壁2を形成しながら、壁2の側面上に2つの独立した電極を簡易に形成できた。この電極付きPZTの壁2によって仕切られた空間4を、液滴吐出ヘッドの液室とした。この実施例では、第1の実施例と異なる加工の手順で、第1の実施例とほぼ同様な液室構造を得ることができた。
[第3の実施例]
第3の実施例は、上記第3の実施形態で説明した2次元に配列された液室を有する液滴吐出ヘッドの構造および製造方法に関わる。以下、図4と図5を用いて、その要点を説明するが、第1の実施例と共通する部分についてはその説明を省略する。
まず、厚さ0.5mm、長さ15mm、幅30mmのPZTからなる圧電材基板1を用意した。そして、図4(A)に示すように、圧電材基板1の上側表面に対して、圧電材基板1の長さ方向に沿って液室を構成するための溝60を形成した。溝60の形成方法として、ブレードダイシング法を用いた。溝60の配置に関しては、図4(K)に示すように、基板の面内に複数の溝60を平行に整列させることで、1次元溝列の溝60とした。溝60の寸法については、長さを12mm、深さd5を60μm、幅w5を120μm、間隔p2を1.0mmとした。
次に、溝60の内側面61に、図4(B)に示すように、内部電極となる導電性材料膜53を形成した。導電性材料膜53については、スパッタ法で成膜した0.02μm厚のTiと1.0μm厚のAuからなる2層膜とした。内部電極を形成しない部分にTiとAuの薄膜が形成されないために、スパッタの前に、溝60の内側面61以外の部分を、フォトリソグラフィで形成したレジストのパターンで保護しておいた。TiとAuの薄膜をスパッタした後、レジスト剥離剤を用いて、レジストのパターン及びその表面に堆積されたTiとAuの薄膜を除去した。
次に、図4(C)に示すように、導電性材料膜53が形成された圧電材基板1(図4(B))を接合して所望の層数まで積層した。積層のとき、まず、導電性材料膜53が付いた2枚の圧電材基板1を溝60がほぼ対向するように接合して、1つのモジュールとした。モジュールの厚みは約1.0mmであった。図4(C)中の符号62が、2枚の圧電材基板1間の接合界面を指し示している。2つの圧電材基板1の溝内の導電性材料膜53間に挟まれてできた空間4の一部分が、最終的に製造される液滴吐出ヘッドの液室となる。そして、上記したモジュール同士を20個接合した。図4(C)中の符号63が、モジュール間の接合界面である。モジュール間の接合において、溝の長さ方向から見て溝60の配列がほぼ正方格子状の配列になるように位置合わせを行った。接合は、熱硬化型絶縁性接着剤を用いた。
次に、図4(D)に示すように、積層された圧電材料基板1(以下、圧電材積層体と呼ぶ。)の、接合界面63と平行する方向(空間4と平行する方向)における一端面より、ブレードダイシング法を用いて第一溝10を形成した。第一溝10は、2つの平行に整列した溝列をほぼ垂直に交差するように順次にダイシングすることによって形成されており、これらの第一溝10は、図4(L)に示すように、液室である空間4のそれぞれをほぼ中心に囲むように形成されている。直交する2方向それぞれの溝列の第一溝10は、同一形状且つ同一間隔で形成されており、溝10の寸法については深さd1を7.0mm、幅w1を640μm、間隔p1を1.0mm(溝60の間隔p2と同じ)とした。
次に、第一溝10の内側面11に、図4(E)に示すように、厚みt1(=1.52μm)の第一電極として導電性材料膜51をスパッタ法で形成した。第一電極は、約0.02μm厚のTiの膜上に1.5μm厚のAuの膜が堆積された2層膜で構成された。
次に、図4(F)に示すように、第一溝10と対応するように、上記したPZTの圧電材積層体の第一溝10が形成された側の一端面に対して、ブレードダイシング法を用いて第二溝20を形成した。つまり、形成された第二溝20は、第一溝10と間隔が略同一で、溝幅中心が概ね重なるように配されている。第二溝20は、第一溝10の溝列と同じ溝間隔で配されており、その溝寸法に関して深さd1を7.05mm、幅w1を625μm、間隔p1を1.0mmとした。第二溝20の形成によって、第一溝10の底部の金属膜(導電性材料膜51)をほとんど除去したが、第一溝10の内側側面の金属膜(導電性材料膜51)を残し、これを第一電極とした。
次に、第一溝10および第二溝20の内側面に、CVD法を用いて、図4(G)に示すように、絶縁性材料膜3であるDLCの薄膜を形成した。DLC膜の厚みを0.4μmとした。
次に、図4(H)に示すように、第二溝20の形成と同様、第一溝10と対応するように、上記した圧電材積層体の第一溝10が形成された側の一端面に対して、ブレードダイシング法を用いて第三溝30を形成した。第三溝30の寸法に関しては、深さd1を12.05mm、幅w1を610μm、間隔p1を1.0mmとした。この第三溝30の形成によって、第二溝20の底部にあるDLCの絶縁性材料膜3を部分的に除去したが、溝10,20の内側側面に被覆されたDLCの絶縁性材料膜3は残してある。
次に、第三溝30の内側面31に、めっき法を用いて、図4(I)に示すように、約2.0μm厚のNiの膜と約0.2μm厚のAuの膜を含む導電性材料膜52を第二電極として形成した。
次に、必要に応じて、導電性材料膜52による第二電極を分割するための第四溝を形成する(図示なし)。続いて、CVD法を用いて、導電性材料膜52を含めた各溝の第四溝の内側面を0.4μm厚のDLCの薄膜で更に被覆して、分割した第二電極間の電気絶縁を取る(図示しない)。
次に、図4(J)に示すように、上記した圧電材積層体における第一溝10に垂直な両端面、即ち、空間4の長手方向に垂直な上側端面と下側端面に対して、それぞれ約2.0mm厚の研磨を施した。この研磨によって、空間4及び導電性材料膜53が露出された。また研磨によって、その両端面の平面出しも同時にできた。
以上の工程によって、図4(L)の斜視図で示したような2次元に配列された液室(空間4)が形成された。液室の壁2の内側に導電性材料膜53の内部電極ができ、液室の壁2の外側に液室の高さ方向に沿って分割された導電性材料膜51の第一電極と導電性材料膜52の第二電極ができた。以降の説明において、図4(L)の構造体を吐出アクチュエータと呼ぶことにする。
次に、図5(A)〜図5(D)に示すように、第一電極(51)と第二電極(52)と内部電極(53)をそれぞれ外部に引き出した。なお、「内部電極(53)」、「第一電極(51)」、「第二電極(52)」という表記は、それぞれ、「内部電極(すなわち導電性材料膜53からなる電極)」、「第一電極(すなわち導電性材料膜51からなる電極)」、「第二電極(すなわち導電性材料膜52からなる電極)」を意味する。
これらの電極引き出しに際して、まず、図5(A)に示すように、Si基板からなる配線基板5A上にTiとAuの薄膜パターンを加工して、接続用電極パッド54,55と配線56,57を形成した。電極パッド54と配線56は第一電極(51)を引き出すためのもので、各液室壁の第一電極(51)に対応する位置に形成した。電極パッド55と配線57は内部電極(53)を引き出すためのもので、各液室壁の内部電極(53)に対応する位置に形成した。図5(A)に示したように、配線基板5Aの各液室に対応する位置に、液室端部の開口が露出できるように貫通穴58を形成した。貫通穴58を形成するために、SiのRIE技術を用いた。
そして、図5(B)に示すように、第一電極(51)と内部電極(53)を引出すための配線基板5Aを吐出アクチュエータの上側面すなわち液室壁の上端面に接合した。このとき、配線パッド54を、対応する第一電極51と電気的に接続し、配線パッド55を、対応する内部電極53と電気的に接続した。接合方法として、半田を介した接合が用いられた。
続いて、図5(C)に示すように、配線基板5Aを接合した状態で、研磨で吐出アクチュエータの下側面から圧電材積層体の台座1Aの部分を除去して、各液室の第二電極(52)をその下側面より露出させた。
そして、図5(D)に示すように、配線基板5Aの接合と同様な要領で、液室の下側端面より第二電極(52)を引出すための配線基板5Bの配線を第二電極(52)に接合した。配線基板5Bは配線基板5Aと類似する形状で、内部電極(53)を引出すための配線パッドと配線がないものである。配線基板5Bには、各液室の下端面が露出できるように、配線基板5Aと同様な貫通穴58を形成した。
次に、PZTからなる液室壁2を、壁の厚み方向に分極した(図示なし)。このとき、内部電極(53)を接地し、第一電極(51)と第二電極(52)を電源の正極に連結して電界を加えた。このように分極によって、グールド型の液室構造を得た。
次に、図5(F)に示すように、配線基板5A,5Bが接合された吐出アクチュエータに、ノズルプレート6を接合した。この工程では、まず、フォトリソグラフィとめっきによってNiからなるノズルプレート6を作製した(図6(E))。このとき、ノズルプレート6の板厚を30μm、ノズル6Aの内径を15μmとした。そして、図5(F)に示したように、第1の実施例で示した要領でノズルプレート6を配線基板5Aに接合した。接合のとき、ノズル6Aは、ほぼ配線基板5上の貫通穴58と中心が合うように位置合わせされた。
次に、図5(G)に示すように、吐出用液体の供給口と回収口(図示なし)を有するマニホールド7を配線基板5Bに接着剤で接合した。マニホールド7の主材料としてSUSを使用した。
次に、図5(H)に示すように、吐出アクチュエータ部分の周囲を密閉するようにジャケット8Aを、図5(G)に示した構造体に接合した。接合では、絶縁性接着剤を使用して、ジャケット8を配線基板5Aと5Bに接着した。ジャケット8には2つの貫通穴8Aを設け、それぞれの貫通穴8Aに導管をつなぎ、液体の入口と出口とした(図示なし)。液体を入口となる貫通穴8Aからジャケット8の内部へ流入し、出口となる貫通穴8Aから流出できるようにした。この流動する液体によって、ジャケット8によって囲まれた吐出アクチュエータ部分の冷却を可能にした。
次に、吐出を制御する電気回路を配線基板5Aと5Bにそれぞれ接続した(図示なし)。このとき、上記の電気回路と配線基板5Aおよび5Bとをフレキシブル配線基板を介して接続した。
以上のように、2次元配列のグールド型液室を有する液滴吐出ヘッドを簡易な方法によって製造することができた。駆動の際、内部電極(53)を共通電極とし、かつ、各液室の外側にて液室壁2の高さ方向に沿って分割配置された第一電極(51)と第二電極(52)を個別電極として、それぞれ独立に駆動させた。これにより、2次元配列のグールド型液室の上部と下部をそれぞれ独立に変位させることができた。