JP5728580B2 - アルミニウム合金板及びアルミニウム合金板の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金板及びアルミニウム合金板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、アルミニウム合金板及びアルミニウム合金板の製造方法に関し、特に化成処理性及び成形性に優れたアルミニウム合金板及びアルミニウム合金板の製造方法に関する。
自動車の車体用の鋼板やアルミニウム合金板は、プレス金型成形等により所定の形状に加工された後、組み立て工程を経て、化成処理が施されるのが一般的である。ちなみに、化成処理とは、塗装前の鋼板やアルミニウム合金板の表面にリン酸亜鉛を析出させる処理のことである。そして、化成処理は塗装の前処理でもある。そのため、塗装後の材料の耐食性や塗膜の鮮映性を改善するために、アルミニウム合金板の表面に十分な量のリン酸亜鉛を均一に析出させる必要がある。
そして、この化成処理によってアルミニウム合金板にリン酸亜鉛処理を施す際、リン酸亜鉛がアルミニウム合金板の表面に均一に析出しない場合には、糸錆や塗膜膨れ等の耐食性の低下、及び塗膜の鮮映性の低下が懸念される。
ところで、化成処理において、脱脂、水洗、表面調整、リン酸亜鉛処理、水洗等のような一連の表面処理が施され、この一連の処理工程を化成処理工程と呼んでいる。そして、リン酸亜鉛処理において、アルミニウム合金板の表面では、リン酸亜鉛溶液中で以下のようなアノード反応とカソード反応が同時に起こっている。
アノード反応:Al → Al3+ + 3e (酸化反応、電子供与反応)・・・(1)
カソード反応:2H+ + 2e→ H (還元反応、電子受容反応)・・・(2)
上記のようなカソード反応が進行すると、リン酸亜鉛溶液中の水素イオンが消費されてpHが上昇するはずであるが、水のイオン積[H][OH]=10−14はほぼ一定である。つまり、いわゆる化学平衡の法則により以下のような反応が進行して、プロトン(H)がリン酸亜鉛溶液中に供給されると同時に、リン酸亜鉛がアルミニウム合金板の表面に析出する。
3Zn(HPO → Zn(PO↓ + 4HPO ・・・(3)
ここで、アルミニウム合金板の表面にリン酸亜鉛を均一に析出させるためには、アノード反応(1)及びカソード反応(2)を均一に起こすことが必要である。アノード反応(1)及びカソード反応(2)を同時に促進させ、リン酸亜鉛を均一に析出させる代表的な方法として、例えば、合金組成の調整が挙げられる。そして、5000系アルミニウム合金の場合には銅量による影響が特に大きく、銅含有量が少ないほどリン酸亜鉛処理性が低下することが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1には、銅含有量が0.10%以下のAl−Mg系合金では、リン酸亜鉛皮膜の生成量が不足しやすいことが記載されている。
また、リン酸亜鉛を均一に析出させる方法として、リン酸亜鉛処理のための前処理(脱脂、水洗、表面調整)を強化する方法が挙げられる。具体的には、Al−Mg−Si系合金からなるアルミニウム材を、フッ素イオンを含有する酸で処理することにより、リン酸塩処理性が向上することが知られている(例えば、特許文献2参照)。このアルミニウム材は、自動車用のボディ材料として好適で、耐食性に富むものである。
さらに、リン酸亜鉛を均一に析出させる方法として、アルミニウム合金板の製造工程を見直して、化成処理のために表面状態を予め改善しておく方法が挙げられる。具体的には、特許文献3の製造方法では、まず、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金またはAl−Cu−Mg系合金の板材を、加熱帯、冷却帯を通して連続的に熱処理する。そして、熱処理に引き続いて、アルカリ溶液または酸溶液により表面酸化皮膜を除去する処理を行った後、連続して40〜120℃の温度に加熱し、直ちにコイルに巻き取っている。これにより、成形性、リン酸亜鉛処理性に優れ、塗装焼付硬化性を有する合金系については塗装焼付硬化性にも優れたアルミニウム合金板が得られている。そして、このアルミニウム合金板は、特に自動車外板など輸送機器部材として好適に使用できることが記載されている。
また、アルミニウム合金板の元スラブに上記アノード反応(1)またはカソード反応(2)を促進させる元素を添加することで、材料そのものの合金組成を改良して、リン酸亜鉛を均一に析出させる方法も考えられる。特許文献4では、重量%で、2〜6%のマグネシウム、0.3〜2.0%の亜鉛を含有し、且つ、不純物としての銅を0.03%未満、鉄を0.4%未満、ケイ素を0.4%未満に制限し、残部はアルミニウム及び不可避的不純物からなり、選択成分としてMn、Cr、Zr、V、Ti及びBを添加したアルミニウム合金が示されている。このアルミニウム合金は、自動車の車体パネル用として、成形性、リン酸亜鉛処理性に優れることが示されている。
さらに、特許文献5では、質量%で、0.05%以上0.3%未満の亜鉛を含有し、銅を0.05%未満に制限したAl−Mg−Si系合金板が示されている。そして、このAl−Mg−Si系合金板の表面には、0.1〜1.5g/mのジンケート皮膜が形成されている。このジンケート処理されたAl−Mg−Si系合金板は、1回の処理により形成され、密着性に優れたジンケート皮膜を有している。そして、この合金板は、優れたリン酸亜鉛処理性及び耐食性が付与され、特に自動車用外板として好適に使用できることが記載されている。
そして、これまで本発明の発明者は、薄スラブ連続鋳造機により連続鋳造されたスラブから製造した自動車用5000系アルミニウム合金板について種々検討を行ってきた。そして、特許文献6では、連続抵抗スポット溶接性に優れたAl−Mg合金板を開示している。このAl−Mg合金板は、重量%で、2〜6%のマグネシウム、0.15〜1.0%の鉄、0.03〜2.0%のマンガンを含有している。そして、前記合金板における抵抗スポット溶接の電極に押圧される側の表層は、粒径が0.5μm以上の金属間化合物粒子を4000個/mm以上含むことを特徴としている。
また、本発明の発明者は、特許文献7において、耐焼付軟化性に優れたAl−Mg合金板を開示している。このAl−Mg合金板は、質量%で、2〜5%のマグネシウム、0.05%を超え1.5%以下の鉄、0.05〜1.5%のマンガンを含有し、FeとMnの合計が0.3%を超えている。そして、前記合金板において、鉄の固溶量が50ppm以上で、円相当径で1〜6μmの金属間化合物が5000個/mm以上存在し、さらに再結晶粒径の平均値が20μm以下であることを特徴としている。
さらに、本発明の発明者は、特許文献8において、深絞り性、耐焼付軟化性に優れたAl−Mg合金板を提供している。このAl−Mg合金板は、質量%で、1〜5%のマグネシウム、0.1〜1.0%の鉄、0.005〜0.1%のチタン、0.0005〜0.01%のホウ素を含み、不可避的不純物であるケイ素を0.20%未満としている。そして、マトリックス中の鉄固溶量が50ppm以上であり、再結晶粒径が12μm以下であり、限界絞り比が2.13以上であることを特徴としている。
ただし、特許文献6乃至8のいずれも、化成処理性については言及していない。
特開平8−99256号公報 特開平7−145488号公報 特開平9−195019号公報 特開平8−277434号公報 特開2001−348670号公報 特開平11−80873号公報 特開2004−76155号公報 特開2008−223054号公報
しかしながら、アルミニウム合金板を自動車の車体に用いる場合には、成形性及び化成処理性の更なる向上が求められている。
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、その目的は、成形性及び化成処理性に優れたアルミニウム合金板及びアルミニウム合金板の製造方法を提供することにある。
本発明の第一の態様に係るアルミニウム合金板は、質量%で、3.0〜4.0%のマグネシウムと、0.2〜0.4%のマンガンと、0.1〜0.5%の鉄と、0.03%以上0.10%未満の銅と、0.20%未満のケイ素とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる組成のアルミニウム合金板である。そして、アルミニウム合金板の表面からの深さ15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅濃度分布のピーク濃度が0.15%以上である。さらに、アルミニウム合金板は、平均結晶粒径が15μm以下の再結晶組織を有する。
本発明の第二の態様に係る上記アルミニウム合金板の製造方法は、質量%で、3.0〜4.0%のマグネシウムと、0.2〜0.4%のマンガンと、0.1〜0.5%の鉄と、0.03%以上0.10%未満の銅と、0.20%未満のケイ素とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる組成のアルミニウム合金溶湯を、薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚さ2〜15mmのスラブに連続的に鋳造する工程と、スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取る工程と、スラブを巻き取った後、最終冷延率が70〜95%の冷間圧延を施す工程と、スラブに冷間圧延を施した後、最終焼鈍を施す工程と、を有する。
本発明の5000系アルミニウム合金板は、薄スラブ連続鋳造機により連続鋳造されたスラブから製造される。そして、当該アルミニウム合金板では、材料の合金組成、特に銅(Cu)の含有量を規定しているため、上記カソード反応(2)を促進させ、リン酸亜鉛を均一に析出させることができる。さらに、この5000系アルミニウム合金板のマグネシウム(Mg)やその他の元素の組成を限定することで、成形加工によってストレッチャーストレインマーク(SSマーク)が生じ難いアルミニウム合金板とすることができる。
さらに、本発明に係るアルミニウム合金板によれば、アルミニウム合金板の表面から深さ15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅濃度分布のピーク濃度が0.15質量%以上である。そのため、リン酸亜鉛処理中に、アルミニウム合金板の表面においてカソード反応(2)が促進され、リン酸亜鉛が均一に析出する。また、本発明のアルミニウム合金板では、マグネシウム等の合金組成を限定し、平均結晶粒径が15μm以下の再結晶組織を有する。そのため、成形加工によってストレッチャーストレインマークが生じ難く、さらに成形性に優れたアルミニウム合金板を提供することができる。
また、本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法では、薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚さ2〜15mmのスラブを連続的に鋳造している。そして、当該スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取った後、冷間圧延を施している。その際、最終冷延率を70〜95%にしている。そして、冷間圧延した後、当該薄スラブに最終焼鈍を施している。そのため、溶湯中の銅濃度が0.03〜0.12質量%であっても、最終的に、アルミニウム合金板の表面からの深さ15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅濃度分布のピーク濃度が0.15質量%以上となる。このような銅濃度分布のピーク濃度は、後述するように、薄スラブ鋳造特有の鋳造方式によって可能になると考えられる。
ところで、鋳造起因の銅偏析は、半連続鋳造機(DC鋳造機)によって半連続鋳造されたスラブの表層部にも存在する。つまり、当該スラブの表層部においても、いわゆる偏析層として、鉄、ケイ素、銅等の溶質元素が濃縮された部分が存在する。しかしながら、半連続鋳造スラブの場合、通常は、表面の発汗などによる欠陥や、いわゆる偏析層を除去するため、均質化処理前に両面面削を施す。合金や用途、或いはスラブ形状にもよるが、面削によって片面で5〜40mm程度のスラブ表層部を除去していた。
そして、面削された半連続鋳造スラブは、均質化処理工程、熱間圧延工程、冷延後の最終焼鈍工程において熱処理等を施す。そのため、銅等の元素が酸化膜と合金板の表面との境界へ拡散し、濃縮される。したがって、その濃縮層は、リン酸亜鉛処理時において、反応の初期に合金板の表面でカソード反応(2)が促進され、その効果を生ずる。しかし、反応が進行すると、表面のアルミニウムが溶液中にAl3+イオンとして溶解し、合金板の表面が浸食される。そのため、やがて銅濃縮層によるカソード反応(2)の促進効果が消滅してしまう。
図1は、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金板を用いた一例としての車輌を示す模式図である。 図2は、No.1,No.4及びNo.5の供試材の、表面から深さ500nm程度までの領域における銅濃度を示すグラフである。 図3は、No.1及びNo.4の供試材における化成処理後の結晶外観を示す写真である。
以下に図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分は同一の符号で表している。ただし、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚さや寸法は以下の説明を照らし合わせて判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
本実施形態に係るアルミニウム合金板の製造方法は、まず、アルミニウム合金溶湯を調製する。アルミニウム合金溶湯の組成は、質量%で、3.0〜4.0%のマグネシウム(Mg)と、0.2〜0.4%のマンガン(Mn)と、0.1〜0.5%の鉄と、0.03%以上0.10%未満の銅と、不可避的不純物として0.2%未満のケイ素(Si)とを含有し、残部がアルミニウム(Al)及び不可避的不純物からなる。次に、薄スラブ連続鋳造機を用いて、このアルミニウム合金溶湯を、厚さ2mm〜15mmの薄スラブに連続的に鋳造する。そして、薄スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取った後、冷間圧延を施す。冷間圧延では、薄スラブの最終冷延率を70〜95%にする。冷間圧延を施した後は、当該薄スラブに最終焼鈍を施す。このようにして得られたアルミニウム合金板(アルミニウム合金基板)は、表面からの深さ15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅(Cu)の濃度分布のピーク濃度が0.15質量%以上である。さらに、アルミニウム合金板(アルミニウム合金基板)は、平均結晶粒径が15μm以下の再結晶組織を有する。
薄スラブ連続鋳造機は、双ベルト鋳造機、双ロール鋳造機の双方を包含するものとする。双ベルト鋳造機は、エンドレスベルトを備え上下に対峙する一対の回転ベルト部と、当該一対の回転ベルト部の間に形成されるキャビティーと、回転ベルト部の内部に設けられた冷却装置とを備える。そして、耐火物からなるノズルを通して前記キャビティー内に金属溶湯が供給されて、連続的に薄スラブを鋳造するものである。
双ロール鋳造機は、エンドレスロールを備え上下に対峙する一対の回転ロール部と、当該一対の回転ロール部の間に形成されるキャビティーと、回転ロール部の内部に設けられた冷却装置とを備える。そして、耐火物からなるノズルを通して前記キャビティー内に金属溶湯が供給されて、連続的に薄スラブを鋳造するものである。
そして、前記薄スラブ連続鋳造機において、アルミニウム溶湯を前記ノズルからキャビティー内に供給する際、溶湯がノズル先端からベルトに移行するまでの短い時間、溶湯表面はメニスカスを形成する。そして、メニスカスの溶湯表面は、キャビティー内の雰囲気(空気)と接している。この間にメニスカスの溶湯表面は酸化されるとともに徐冷されて、溶湯表面に極薄い酸化膜を形成し、さらにその内部側に極薄いα−Al相(固相)を晶出すると考えられる。この極薄いα−Alシェルが形成される際、表面からα−Al相が成長し溶湯中のCu等の溶質元素がスラブ内部側に排出されて、偏析層(液相)が生成すると考えられる。この偏析層(液相)に濃縮されたCu等の溶質元素は、十分な時間があればスラブの液相側に拡散する。しかしながら、実質的な滞留時間を考慮すると、濃縮層のCu等の溶質元素が十分に液相側に拡散するだけの時間的余裕はない。
そして、メニスカスの状態で表面に極薄い酸化膜と極薄いα−Alシェルとを形成したアルミニウム溶湯は、次にベルトに接触して、急冷(チル)されることとなる。このため、極薄いα−Alシェルもその内部に形成された偏析層(液相)も急冷されてしまい、スラブ表面から順に酸化膜、α−Alシェル、偏析層(固相)、急冷凝固組織が形成される。これらがいわゆる一般的にシェルと呼ばれるものである。この偏析層では、薄スラブの材料表面から深さ200nm程度の位置に銅濃度ピークが存在する。そして、α−Alシェルの厚みは、ベルト速度等に依存する可能性もあるが、スラブ表層部で比較的均一になる。以上のような現象は、双ロール鋳造機による連続薄スラブ鋳造においても当然のことながら起こると考えられる。
このようにして形成される偏析層の濃度ピークは、薄スラブの材料表面から200nm程度の深さに存在すると推定される。そして、本実施形態に係る製造方法では、この薄スラブを連続的に鋳造し、該薄スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取った後、冷間圧延を施す。
ここで、上記冷間圧延では、薄スラブの最終冷延率を70〜95%にする。冷間圧延を施した後は、薄スラブに最終焼鈍を施す。このため、従来の半連続鋳造スラブ(DC鋳造スラブ)に必要となる面削工程、均質化処理工程、熱間圧延工程を省略することができ、加工コストを低く抑えることができる。さらに後述するように、遷移金属元素の所定の固溶量を確保しながら加工を加えることで転位が蓄積されて、最終焼鈍工程で15μm以下のアルミニウム合金の微細な再結晶粒を得ることが可能となる。
最終冷延率が70%未満であると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が小さすぎて、最終焼鈍によって15μm以下の微細な再結晶粒を得ることができない。最終冷延率が95%を超えると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が大きすぎて、加工硬化が激しく、エッジに耳割れを生じて圧延が困難となる。したがって、好ましい最終冷延率は、70〜95%の範囲である。より好ましい最終冷延率は、70〜90%の範囲である。さらに好ましい最終冷延率は、70〜85%の範囲である。なお、本明細書において、最終冷延率とは、冷間圧延をする際の圧延の度合いを示す。例えば、厚み1.0mmのアルミニウム板を冷延して0.6mmに圧延した場合、最終冷延率は40%と表現する。
そして、最後の最終焼鈍において、アルミニウム合金板の表面から例えば50nm程度の深さに銅濃度ピークを有する偏析層から、銅等の元素が酸化膜と合金板表面との境界へ拡散して濃縮される。しかし、偏析層の銅濃度ピークは消滅しない。そして、上述のように、アルミニウム合金の場合には銅量による影響が特に大きく、銅含有量が多いほどリン酸亜鉛処理性が向上する傾向がある。したがって、本実施形態に係るアルミニウム合金板では、所定量の銅を含有するため、リン酸亜鉛処理において、反応の初期でも表面でのカソード反応(2)が促進される。しかも、本実施形態のアルミニウム合金板の表面から所定深さに0.15質量%以上の銅濃度ピークを有する銅偏析層が存在する。そのため、表面のAlが溶液中にAl3+イオンとして溶解し、合金板表面が浸食されても、この銅偏析層によってカソード反応(2)の促進効果が持続する。
以上のことより、本実施形態に係るアルミニウム合金板(アルミニウム合金基板)全体の銅組成範囲は、0.03以上0.10質量%未満である必要がある。ただ、最終的なアルミニウム合金板において、アルミニウム合金板の表面からの深さ15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅濃度分布のピーク濃度は、0.15質量%以上となる。
なお、アルミニウム合金板の表面からの深さ15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅濃度分布のピーク濃度は、下限は0.15質量%であるが、上限は特に限定されない。ただ、ピーク濃度の上限としては、例えば1.0質量%とすることができる。また、アルミニウム合金板における再結晶組織の平均結晶粒径は、上限は15μmであるが、下限は特に限定されない。ただ、平均結晶粒径の下限としては、例えば5μmとすることができる。
本実施形態に係る製造方法においては、鋳造する薄スラブの厚さは2mm〜15mmとすることが好ましい。薄スラブの厚さが2mm未満であると、アルミニウム溶湯をキャビティー内に均一に流し込んで良好な薄スラブを鋳造することが困難となる。薄スラブの厚さが15mmを超えると、薄スラブをコイルに巻き取ることが困難となる。この範囲の厚さであれば、スラブ厚さの1/4の範囲において20〜500℃/sec程度の凝固速度を容易に確保できるので、均一な鋳造組織を得ることが可能である。その結果、後述するように、Fe,Mn等の遷移金属元素の、マトリックス中への所定の固溶量を確保することができる。
また、薄スラブの厚さがこの範囲であれば、鋳造凝固時に生成される金属間化合物のサイズを5μm未満に抑え、合金板の単位体積当たりの金属間化合物の数を増加させることができる。平均粒径1〜5μm程度の金属間化合物は、最終焼鈍時に再結晶粒の核となるとともに、結晶粒界の移動を妨げるピン止め効果を発揮する。
これらの効果によって、結果的に最終焼鈍後におけるアルミニウム合金の再結晶粒の平均粒径を15μm以下に制御することが容易になり、成形性に優れたアルミニウム合金板を得ることができる。より好ましい薄スラブの厚さは、3mm〜12mmの範囲である。さらに好ましい薄スラブの厚さは、5mm〜12mmの範囲である。
所定の厚さまで冷間圧延された薄スラブのコイルは、バッチ焼鈍炉を用いて、保持温度を300〜400℃で1〜8時間の最終焼鈍を施すことが好ましい。バッチ焼鈍とは、薄スラブのコイルを静置した状態で行う焼なましをいう。バッチ焼鈍炉での保持温度が300℃以上であると、再結晶が進行し、アルミニウム合金の均一な再結晶組織を容易に得ることが可能となる。また、保持温度が400℃以下であると、再結晶粒同士の合体による再結晶粒の粗大化が起こり難く、平均粒径15μm以下のアルミニウム合金の再結晶組織を容易に得ることができる。さらに、薄スラブの過度の軟化を防止し、所定の強度を得ることが容易となる。
したがって、バッチ焼鈍における好ましい最終焼鈍の温度は、300〜400℃の範囲である。また、上記焼鈍温度の保持時間が1時間以上であると、コイル全体をより均一な温度で処理することが可能となる。さらに、保持時間が8時間以下であると、平均粒径が15μm以下の再結晶組織が得られ、さらに生産性が向上する。したがって、好ましい保持時間は、1〜8時間の範囲である。
また、所定の厚さまで冷間圧延された薄スラブのコイルは、連続焼鈍炉(CAL焼鈍炉)を用いて、保持温度を400〜500℃で10〜60秒の最終焼鈍を施すことが好ましい。連続焼鈍とは、薄スラブのコイルを炉中で連続的に動かしながら行う焼なましをいう。連続焼鈍での保持温度が400℃以上であると、再結晶が進行し、均一な再結晶組織を容易に得ることができる。また、保持温度が500℃以下であると、再結晶粒同士の合体による再結晶粒の粗大化が起こり難く、平均粒径15μm以下の再結晶組織を容易に得ることができる。さらに、薄スラブの過度の軟化を防止し、所定の強度を得ることが容易となる。
したがって、連続焼鈍における好ましい最終焼鈍の温度は、400〜500℃の範囲である。また、上記焼鈍温度における保持時間が10秒以上であると、コイル全体をより均一な温度で処理することが可能となる。さらに、保持時間が60秒以下であると、平均粒径15μm以下の再結晶組織が得られ、さらに生産性が向上する。したがって、好ましい保持時間は、10〜60秒の範囲である。
本実施形態において、上述のようにして得られたアルミニウム合金板(アルミニウム合金基板)における引張強度は、必ずしも必須の要件ではない。しかしながら、自動車用構造部材に使用される用途によっては、高強度特性が要求される場合がある。したがって、アルミニウム合金板(アルミニウム合金基板)の好ましい引張強度は240MPa以上であり、より好ましい引張強度は250MPa以上である。
以下、本実施形態のアルミニウム合金板(アルミニウム合金基板)における合金成分の組成範囲の限定理由について説明する。
[3.0〜4.0質量%のマグネシウム(Mg)について]
本実施形態のアルミニウム合金板において、マグネシウム(Mg)は必須元素である。そして、マグネシウムは、アルミニウムのマトリックス中に固溶して固溶体を強化する元素として作用するため、強度と成形性を付与するために添加する。
マグネシウム濃度が3.0質量%未満であると、その効果が小さく所定の引張強度のアルミニウム合金板を得ることができない。マグネシウム濃度が4.0質量%を超えると、SSマークが生じ、応力腐食割れに対して敏感になる等の問題も生じる可能性がある。したがって、好ましいマグネシウム濃度は、3.0〜4.0質量%の範囲である。より好ましいマグネシウム濃度は、3.2〜4.0質量%の範囲である。さらに好ましいマグネシウム濃度は、3.4〜3.8質量%の範囲である。
[0.2〜0.4質量%のマンガン(Mn)について]
本実施形態のアルミニウム合金板において、マンガン(Mn)は必須元素であり、鉄(Fe)、ケイ素(Si)と共存させることにより、薄スラブ中にAl−Fe系化合物、Al−(Fe・Mn)−Si系化合物などを均一かつ微細に晶出させる。この結果、上述したように、アルミニウム合金の平均再結晶粒径が15μm以下と細かくなる。また、マンガンは鉄に比べて、鋳造時にマトリックスに過飽和に固溶し易い元素であるため、最終的なアルミニウム合金板に耐焼付軟化性を付与することができる。
マンガン濃度が0.2質量%未満であると耐焼付軟化性が小さく、所定の引張強度及び平均再結晶粒径が得られない。マンガン濃度が0.4質量%を超えると、強度が高くなりすぎて、成形性を低下させる虞があるため望ましくない。したがって、好ましいマンガン濃度は、0.2〜0.4質量%の範囲である。より好ましいマンガン濃度は、0.25〜0.4質量%の範囲である。さらに好ましいマンガン濃度は、0.3〜0.4質量%の範囲である。
[0.1〜0.5質量%の鉄(Fe)について]
本実施形態のアルミニウム合金板において、鉄(Fe)は必須元素であり、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)と共存させることにより、薄スラブ中にAl−Fe系化合物、Al−(Fe・Mn)−Si系化合物などを均一かつ微細に晶出させる。この結果、上述したように、アルミニウム合金の平均再結晶粒径が15μm以下と細かくなる。また、鉄はマンガンに比べて、鋳造時に晶出し易い元素であるため、最終的なアルミニウム合金板に耐焼付軟化性に寄与する割合は、マンガンよりも小さい。
鉄濃度が0.1質量%未満であると耐焼付軟化性が小さく、所定の引張強度、平均再結晶粒径が得られない。鉄濃度が0.5質量%を超えると、粗大な針状の金属間化合物が生成して、成形性を低下させる虞があるため望ましくない。したがって、好ましい鉄濃度は、0.1〜0.5質量%の範囲である。より好ましい鉄濃度は、0.1〜0.4質量%の範囲である。さらに好ましい鉄濃度は、0.1〜0.3質量%の範囲である。
[0.03以上0.10質量%未満の銅(Cu)について]
本実施形態のアルミニウム合金板において、銅(Cu)は必須元素である。そして、アルミニウム合金板(アルミニウム合金基板)の全体の銅濃度を0.03%以上0.10質量%未満と規定している。さらに表面からの深さが15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅濃度分布のピーク濃度を、0.15質量%以上と規定している。そのため、リン酸亜鉛処理中に、アルミニウム合金板の表面においてカソード反応(2)の促進効果が持続し、リン酸亜鉛が均一に析出する。
銅濃度が0.03質量%未満であると、合金板表面からの深さ15nm〜200nmの領域における銅のピーク濃度が0.15質量%未満となり、リン酸亜鉛の析出が不均一となる虞がある。銅濃度が0.10質量%以上であると、塗装後の糸錆や塗膜膨れ等の耐食性が低下する可能性がある。したがって、好ましい銅濃度は、0.03%以上0.10質量%未満の範囲である。より好ましい銅濃度は、0.03%以上0.07質量%未満の範囲である。さらに好ましい銅濃度は、0.03%以上0.05質量%未満の範囲である。
[0.20質量%未満のケイ素(Si)について]
不可避的不純物としてのケイ素(Si)の濃度は、0.20質量%未満、つまり0質量%以上0.20質量%未満に制限することが好ましい。ケイ素濃度が0.20質量%以上であると、薄スラブ鋳造時に粗大なAl−(Fe・Mn)−Si系の金属間化合物を晶出して、成形性を低下させるため、好ましくない。
より好ましいケイ素濃度は、0.18質量%未満である。さらに好ましいケイ素濃度は、0.15質量%未満である。本実施形態において、ケイ素濃度が0.15質量%未満であれば成形性について低下することはない。
[その他の不可避的不純物について]
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入するものである。不可避的不純物の許容できる濃度は、例えば、亜鉛(Zn)が0.4質量%未満、ニッケル(Ni)が0.2質量%未満、ガリウム(Ga)及びバナジウム(V)が0.05質量%未満である。また、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)については、それぞれ0.02質量%未満である。その他の元素はそれぞれ0.05質量%未満であり、この範囲でその他の元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
[Mn/Fe比について]
鉄に対するマンガンの質量比(Mn/Fe比)は、本実施形態のアルミニウム合金板において必須の構成要素ではない。ただ、Al−Fe−Si系の金属間化合物にマンガンを含有し、さらにマンガン濃度が高くなるにつれてAl−Fe・Mn−Si系の金属間化合物が生成し易くなる。そして、Al−Fe−Si系の金属間化合物が針状であるのに対して、Al−Fe・Mn−Si系の金属間化合物は球状である。そのため、アルミニウム合金板の疲労強度、伸び等の機械的性質を向上させることが可能となる。
Mn/Fe比が1.0以上であると、上記機械的性質の効果を得ることができ、5.0以下であると、十分な強度を確保しつつ高い成形性を得ることができる。したがって、好ましいMn/Fe比は、1.0〜5.0の範囲である。より好ましいMn/Fe比は、1.0〜4.0の範囲である。さらに好ましいMn/Fe比は、1.0〜3.0の範囲である。
[チタン(Ti)について]
本実施形態のアルミニウム合金板は、上記元素のほかにチタン(Ti)が含まれてもよい。チタンは返り材から混入することもあり、不可避的不純物でもある。また、チタンは、鋳塊中の結晶粒の微細化剤として、さらに通常Al−Ti系、Al−Ti−B系のハードナーとして溶湯に添加される。
チタン濃度が0.005質量%以上であると、微細化剤及びハードナーの効果が得やすくなる。また、チタン濃度が0.1質量%以下であると、鋳塊に粗いAlTiなどの金属間化合物を晶出することによる成形性の低下を効果的に防ぐことができる。したがって、好ましいチタン濃度は、0.005〜0.1質量%の範囲である。より好ましいチタン濃度は、0.005〜0.08質量%の範囲である。さらに好ましいチタン濃度は、0.005〜0.05質量%の範囲である。
[ホウ素(B)について]
本実施形態のアルミニウム合金板は、上記元素のほかにホウ素(B)が含まれてもよい。ホウ素(B)は返り材から混入することもあり、不可避的不純物でもある。また、ホウ素は、鋳塊中の結晶粒の微細化剤として、さらに通常Al−Ti系、Al−Ti−B系のハードナーとして溶湯に添加される。
ホウ素濃度が0.0005質量%以上であると、微細化剤及びハードナーの効果が得やすくなる。ホウ素濃度が0.01質量%以下であると、TiBなどの金属間化合物が炉底などに沈降し凝集することを防ぐことができる。なお、TiBなどの金属間化合物が鋳塊に混入すると、成形性が低下する虞がある。したがって、好ましいホウ素濃度は、0.0005〜0.01質量%の範囲である。より好ましいホウ素濃度は、0.0005〜0.005質量%の範囲である。さらに好ましいホウ素濃度は、0.001〜0.005質量%の範囲である。
本実施形態の化成処理性に優れたアルミニウム合金板は、自動車車体用パネル及び構造用部材等として好適である。例えば、図1に示すフード10、ドア11、フェンダー12、ルーフ13、トランク14等のアウターパネル及びインナーパネルやレインフォース類が挙げられる。
本発明の効果を、以下の実施例及び比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
まず、表1に示す組成(No.1〜No.4)の合金溶湯を溶製した。次に、前記合金溶湯を双ベルト鋳造機によって厚さ10mmの薄スラブに連続鋳造して、これを直接コイルに巻き取った。このコイルに巻き取った薄スラブに対し、厚さ2.3mmまで冷間圧延を施して、バッチ炉にて330℃で4時間保持する最終焼鈍を施した。なお、この場合の最終冷延率は、77%であった。そして、最終焼鈍を施した最終板に硝酸水溶液で洗浄を施し、供試材を得た。なお、これらの供試材は連続鋳造により調製されているため、表1の製法では「CC」と示されている。
また、別途表1に示す組成(No.5,No.6)の合金溶湯を溶製した。次に、前記合金溶湯をDC鋳造機によって幅600mm、厚さ400mm、長さ4000mmのスラブに鋳造した。そして、このスラブの両面を、フライスを用いて、片面20〜30mm程度面削した。その後、面削したスラブに440℃、8時間の均質化処理を施した後、熱間圧延を施して、7mmの熱延板をコイルに巻き取った。その後、コイルに巻き取った薄スラブに対し、厚さ2.3mmまで冷間圧延を施して、バッチ炉にて330℃で4時間保持する最終焼鈍を施した。そして、最終焼鈍を施した最終板に硝酸水溶液で洗浄を施し、供試材を得た。この酸洗浄により、表面の脱脂やMgO等の一部の酸化物の除去を行う。なお、これらの供試材は半連続鋳造により調製されているため、表1の製法では「DC」と示されている。
これら板状の供試材(No.1〜6)について、それぞれ金属組織評価(平均結晶粒径測定)、引張特性評価、プレス成形性評価、グロー放電発光分光分析(GD-OES分析、板厚方向の銅濃度プロファイル調査)及び化成処理性評価を行った。
[平均結晶粒径測定]
供試材の断面を観察できるように樹脂に埋め込み、さらに研磨、鏡面研磨を施した。この研磨面にホウフッ化水素酸水溶液にて陽極酸化処理を施して、偏光顕微鏡にて200倍で3視野の写真撮影を行った。そして、交線法を採用して各供試材の断面における、アルミニウム合金の平均結晶粒径を測定した。なお、交線法とは、写真撮影により得られた画像に対し任意の方向に直線を引き、引いた直線と交わる結晶粒界数をnとすると、(n−1)で直線の長さを割って、平均結晶粒径を算出する方法である。各板材の平均結晶粒径(μm)の値を表2に示す。
[引張特性評価]
まず、圧延方向に平行な方向、垂直な方向、45°方向に沿って、供試材からJIS−5号形の引張試験片を採取した。次に、最大荷重が50kNのオートグラフを用いて、室温(25℃)にて引張試験を行い、0.2%耐力及び引張強さを測定した。引張試験は、0.2%耐力までは、歪速度を6.7×10−4−1とし、0.2%耐力以降は歪速度を3.3×10−3−1とした。なお、伸びは破断した試料同士を突き合わせて測定した。3方向の平均引張強度(MPa)、0.2%耐力(MPa)、伸び(%)の値を表2に示す。
[プレス成形性評価]
自動車部品成形用金型を用いてプレスし、成形後の製品外観を目視で評価して、ストレッチャーストレインマーク(SSマーク)の有無を確認した。SSマークとは、Al−Mg合金を引張試験や張出し成形すると板表面に生じる表面模様のことであり、ランダムマークとパラレルバンドに分けられる。ランダムマークとは、歪量の比較的低い部位で発生する火炎状とも呼ばれる不規則な帯状模様のことをいう。また、パラレルバンドとは、歪量の比較的高い部位で引張方向に対し特定の角度をなすように発生する帯状模様のことをいう。ランダムマークは降伏点伸びに起因し、パラレルバンドは応力−歪曲線上のセレーションに起因することが知られている。マグネシウム濃度が高いほどSSマークが生じやすい。供試材No.1〜6のSSマークの有無を表2に示す。
[GD-OES分析による板厚深さ方向の銅濃度プロファイル調査]
GD-OES(グロー放電発光分光分析)は、次のようにして行う。まず、500〜950Pa程度に真空に引かれた試料室内にアルゴン等の不活性ガスを導入する。次に、試料を陰極にして、30〜70W程度の高出力を印加してグロー放電を発生させる。この際、正イオンの衝突によりスパッタされた陰極物質を、アルゴンイオン及び二次電子との非弾性衝突でイオン化させる。そして、この非弾性衝突による励起で発生した光を分光測定することにより、試料の表面から深さ方向の組成分布を測定する。
まず、高周波グロー放電発光表面分析装置(堀場製作所株式会社製、型式GD−Profiler2)を用い、アルゴンガス圧力が600Pa、RFパワーが35W、波長が325nmの測定条件で、標準試料における銅(Cu)のGD−OES分析を行った。これにより、銅について発光強度−銅含有量の検量線を作成した。次に、各供試材の材料表面から深さ方向(時間経過)に対する波長325nmの光の強度を測定して、材料表面から深さ500nmまでの領域における銅濃度分布に換算した。
図2は供試材No.1、No.4、No.5の材料表面から深さ500nm程度までの領域における銅濃度を示す。この図から、No.1の材料表面から深さ15nm〜200nmの領域において銅濃度分布に明瞭なピークが存在することが分かる。また、供試材No.4、No.5について、測定した銅濃度分布図では、材料表面から深さ15nm〜200nmの領域において、銅濃度分布に明瞭なピークが存在しなかったが、暫定的に銅濃度の最大値をCuピーク濃度とした。このようにして、No.1〜No.6について測定した銅濃度分布図から、材料表面から深さ15nm〜200nmの領域におけるCuピーク濃度を読み取った。各供試材のCuピーク濃度を表2に示す。
[化成処理性評価]
各供試材から70mm×150mmの試験片を切り出し、アルカリ性脱脂液に120秒間浸漬し、スプレーで水洗後、Zn系表面調整剤にて表面調整を行った。次に、各供試材の表面にリン酸亜鉛の化成処理を行った。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて結晶の外観を観察することにより、皮膜均一性を確認した。各供試材において、結晶の外観にムラのないものを「○」、外観にムラのあったものを「×」として評価した。各供試材の化成処理性の評価結果を表2に示す。
[各種評価結果]
No.1〜3の供試材は、平均結晶粒径、銅のピーク濃度、SSマーク、化成処理性のいずれの評価項目においても所定の条件を満足しており、引張強度が240MPa以上であった。
これに対し、No.4〜6の供試材は、いずれかの評価項目において所定の条件を満足していない。No.4の供試材については、CC材であるが銅濃度が0.01質量%と低く、化成処理性が劣っていた。
No.5の供試材については、銅濃度が0.05質量%であるがマグネシウム濃度が4.60質量%と高く、DC材であっても引張強度が高い値となった。しかし、平均結晶粒径が23μmと所定の値より大きいため、成型後の外観においてSSマークが観察された。また、DC材の場合、均質化処理前に両面面削を施していたため、スラブ表層部が除去され、アルミニウム合金板の材料表面から深さ15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅濃度分布に明瞭なピークは存在しなかった(図2中のNo.5参照)。
No.6の供試材については、銅濃度が0.05質量%であるがDC材であるため、平均結晶粒径が21μmと所定の値より大きく、引張強度が235MPaと低下していた。
図3では、No.1及びNo.4の供試材における化成処理後の結晶外観を示す。図3(a)に示すように、No.1の供試材では、銅の添加によって外観のムラが改善し、リン酸亜鉛皮膜が均一に生成している様子が分かる。これに対し、図3(b)に示すように、No.4の供試材では、銅の添加量が不十分であることから、リン酸亜鉛皮膜が偏析し、アルミニウム合金板が露出していることが分かる。
特願2011−162284号(出願日:2011年7月25日)の全内容は、ここに援用される。
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
本発明によれば、成形性及び化成処理性に優れたアルミニウム合金板及びアルミニウム合金板の製造方法を提供することができる。
10 フード
11 ドア
12 フェンダー
13 ルーフ
14 トランク

Claims (6)

  1. 質量%で、3.0〜4.0%のマグネシウムと、0.2〜0.4%のマンガンと、0.1〜0.5%の鉄と、0.03%以上0.10%未満の銅と、0.20%未満のケイ素とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる組成のアルミニウム合金板であって
    前記アルミニウム合金板の表面からの深さ15nm〜200nmの領域における厚さ方向の銅濃度分布のピーク濃度が0.15質量%以上であり、
    前記アルミニウム合金板は、平均結晶粒径が15μm以下の再結晶組織を有することを特徴とするアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板は、0.03質量%以上0.07質量%未満の銅を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金板は、引張強度が240MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金板。
  4. 質量%で、3.0〜4.0%のマグネシウムと、0.2〜0.4%のマンガンと、0.1〜0.5%の鉄と、0.03%以上0.10%未満の銅と、0.20%未満のケイ素とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる組成のアルミニウム合金溶湯を、薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚さ2〜15mmのスラブに連続的に鋳造する工程と、
    前記スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取る工程と、
    前記スラブを巻き取った後、最終冷延率が70〜95%の冷間圧延を施す工程と、
    前記スラブに冷間圧延を施した後、最終焼鈍を施す工程と、
    を有することを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
  5. 前記最終焼鈍は、バッチ焼鈍により、保持温度が300〜400℃で1〜8時間保持することを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
  6. 前記最終焼鈍は、連続焼鈍により、保持温度が400〜500℃で10〜60秒間保持することを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
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