JP2000345364A - 耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材 - Google Patents

耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材

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JP2000345364A JP21980599A JP21980599A JP2000345364A JP 2000345364 A JP2000345364 A JP 2000345364A JP 21980599 A JP21980599 A JP 21980599A JP 21980599 A JP21980599 A JP 21980599A JP 2000345364 A JP2000345364 A JP 2000345364A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 耐糸錆び性を改善したCuを含む6000系Al合
金材を提供することを目的とする。 【解決手段】 Si:0.2〜1.8% (質量% 、以下同じ) 、
Mg:0.2〜1.6%、Cu:0.05〜1.5%を含み、化成処理後塗装
されて用いられるAl-Mg-Si系アルミニウム合金材であっ
て、表面に厚さが100 Å (オングストローム) 以下のア
ルミニウムの酸化皮膜を有するとともに、アルミニウム
の酸化皮膜最表層部から少なくとも80Åの深さ部分にお
けるCu含有量を、アルミニウム合金材自体のCu含有量以
下とすることである。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、化成処理後塗装さ
れて用いられるアルミニウム合金材であって、耐糸さび
(錆) 性に優れたAl-Mg-Si系アルミニウム合金材(以
下、アルミニウムを単にAlと言う)に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】自動車、船舶あるいは車両などの輸送機
の外板や構造材あるいは部品用、また家電製品の構造材
あるいは部品用、更には屋根材などの建築、構造物の部
材用として、成形性に優れたAA乃至JIS5000 系や成形性
や焼付硬化性に優れたAA乃至JIS 6000系 (以下、単に50
00系乃至6000系と言う) のAl合金材が使用されている。
この中でも、特に、自動車のドアやフェンダーあるいは
ボンネットなどのパネル材或いはホイール等の自動車用
部材についても、前記材料特性やリサイクル性の点か
ら、圧延板材、押出材、鋳鍛材などの、6000系Al合金材
の使用が検討されている。
【0003】6000系Al合金は、基本的にSi:0.2〜1.8%
(質量% 、以下同じ) 、Mg:0.2〜1.6%を含有するAl-Mg-S
i系Al合金である。そして、この6000系Al合金は、プレ
ス成形加工時には成形加工性を低耐力により確保すると
ともに、プレス成形後の焼付塗装時に時効硬化して耐力
が向上し、必要な強度を確保できる。また、スクラップ
をAl合金溶解原料として再利用する際に、比較的合金量
が少なく、元の6000系Al合金鋳塊を得やすい。したがっ
て、従来から輸送機用として使用されてきたMg量などの
合金量が多い5000系のAl合金に比して有利である。
【0004】このAl合金材の内、例えば板材を輸送機用
のパネルなどとして採用するためには、Al合金板を部材
形状にするための、深絞り、張出し、曲げ、伸びフラン
ジなどのプレス成形加工が施される。この際、深絞りや
張出し、或いは伸びフランジ成形においては、高い深絞
り性 (限界絞り比 LDRや限界絞り高さLDH0) や高い形状
凍結性を確保することが必要である。そして製品乃至部
材形状の複雑化に伴い、プレス成形加工条件は益々厳し
いものとなっている。
【0005】このため、従来から、6000系Al合金板の成
形性を向上させる手段として、6000系Al合金板の化学成
分組成を制御することが行われている。その代表例が、
Cuなどを添加して成形性を向上させることであり、特開
平6-2064号、特開平6-136478号、特開平8-109428号、特
開平9-209068号、特開平9-202933号公報等で多数提案さ
れている。また、板以外の押出材や鋳鍛材などでも、Cu
は強度や靱性を向上させる手段としても汎用されてい
る。
【0006】しかし、Cuを添加すると確かに成形性は向
上するものの、一方で、塗装後耐蝕性である耐糸さび性
が劣化する。例えば、Cuを0.3%以上含有すると、Cuを含
有しないもの(Cu が0.05% 未満のもの) に比して、極端
に耐糸さび性が劣化する。
【0007】近年、特に板の分野では、輸送機用の6000
系Al合金の中でも、特に、人工時効処理後の高耐力化を
狙い、Si量を高くするとともに、Siの粒界への析出の抑
制のため、連続熱処理炉にて溶体化処理後に焼入れ処理
されるAl合金材が主流となっている。そして、このよう
な高Si系の6000系Al合金材において、前記Cuを0.05〜3.
0%含有した場合、塗装後の糸さび発生の感受性が、バッ
チ式の熱処理炉により溶体化処理および焼入れされる場
合に比して、著しく高くなる。したがって、このような
Cuを含む6000系Al合金材、特に高Si系の6000系Al合金材
の耐糸さび性を向上させることが課題となっている。
【0008】一方、このような高Si系の6000系Al合金板
ならずとも、Al合金材は、鋼板に比して、元々塗装下地
処理としてのリン酸塩処理性に劣り、塗装後の耐糸さび
性も劣ってくる。そして、このリン酸亜鉛等のリン酸塩
処理性が劣ると、Al合金材表面に、均一で適当量のリン
酸亜鉛等の皮膜が確保されにくく、その後の塗膜の密着
性や耐糸さび性が劣化する。
【0009】また、リン酸塩処理の側からも、Al合金材
のリン酸塩処理性にとって、不利な条件となっている。
例えば、輸送機のなかでも、自動車の製造ラインにおい
ては、成形、組み立て後の車体は、通常、リン酸塩処理
およびカチオン電着塗装処理などの塗装下地処理を施さ
れた後、焼付け硬化する中塗り、上塗りなどの塗装を施
される。そして、この製造ラインにおける各工程条件
は、これまで主として使用されている鋼材に適した条件
となっている。このため、鋼材とともに複合材化乃至併
用されることが多いAl合金材は、鋼材とともに、或いは
鋼材と同じ工程で処理される。この場合、Al合金材は、
鋼材に適した処理条件では、よりリン酸塩処理性が劣る
ことになる。
【0010】これに対し、Al合金材のリン酸塩処理性を
改善するための方法として、従来からリン酸塩処理浴の
側を改善することが行われている。例えば、その代表例
としては、リン酸塩処理浴に数十〜数百ppm 程度の高濃
度のフリーフッ素(F) イオンを添加することが行われて
いる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】このフリーフッ素(F)
イオンの添加によって、確かに、Al合金材のリン酸塩処
理性は改善される。しかし、Al合金材表面へのリン酸塩
皮膜の形成は、Al合金材表面からのAlイオンの溶出によ
って促進されるため、Al合金材のリン酸塩処理性が良く
なるほど、Al合金材表面からのAlイオンの溶出量が多く
なる。そして、このAlイオンの溶出量が多くなると、肝
心の鋼材の方のリン酸塩処理性が阻害されるという新た
な問題を生じる。
【0012】勿論、リン酸塩処理浴より、蓄積したAlイ
オンを除去してやれば良いが、除去に伴うリン酸塩浴の
ロス分や、処理設備のコストが大きく、省エネや効率化
が厳しく追求される自動車などの製造ラインにとって、
これらのコストアップは不利となってしまう。
【0013】そして、何より問題なのは、後述する本発
明者らの知見によれば、このようにリン酸塩浴中のフリ
ーフッ素イオンの濃度が高くなった場合、本発明で対象
とするCuを含む6000系Al合金材乃至高Si系の6000系Al合
金材の場合、耐糸さび性が極端に低下する現象が生じる
という点である。
【0014】一方、Al合金材の素材側からのリン酸処理
性の改善として、特開平6-287672号公報では、Cuを0.01
〜5%添加した6000系などのAl合金板を、エッチングなど
の処理により、表面にCuを0.1 〜10wt% 析出 (濃縮) さ
せ、析出したCuをリン酸塩処理の際のカソード反応点と
して働かせて、リン酸塩処理性を改善することが開示さ
れている。また、軽金属学会第93回秋期大会講演概要集
(1997 年発行) にも、6000系Al合金にCuを0.30、0.69wt
% 含有させて、酸洗などによりAl合金板表面にCuを0.9
8、3.98wt% 積極的に析出させて、リン酸塩処理性を改
善することが開示されている。
【0015】しかし、本発明者らの知見によれば、Al合
金材の表面にCuを濃縮させた場合、確かに、Al合金材の
リン酸塩処理性は改善されるものの、表面にCuを濃縮さ
せた6000系Al合金板の耐糸さび性の方は、逆に、極端に
低下してしまうという矛盾する現象が生じる。したがっ
て、Al合金材の表面にCuを濃縮させる前記従来技術は、
Cuを含む6000系Al合金材の耐糸さび性向上のためには、
却って逆効果となってしまう。このため、塗装後の糸さ
び発生に対する感受性が著しく高い、Cuを含む6000系Al
合金材の耐糸さび性を向上させる有効な技術は、今まで
に無かったのが実情である。
【0016】本発明はこの様な事情に着目してなされた
ものであって、その目的は、耐糸さび性を改善したCuを
含む6000系Al合金材を提供しようとするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するため
に、本発明Al合金材の要旨は、Si:0.2〜1.8% (質量%、
以下同じ) 、Mg:0.2〜1.6%、Cu:0.05 〜1.5%を含み、化
成処理後塗装されて用いられるAl-Mg-Si系アルミニウム
合金材であって、表面に厚さが100 Å (オングストロー
ム) 以下のアルミニウムの酸化皮膜を有するとともに、
アルミニウムの酸化皮膜最表層部から少なくとも80Åの
深さの表面部分におけるCu含有量を、アルミニウム合金
材自体のCu含有量以下とすることである。
【0018】本発明者らは、Cuを含む6000系Al合金材表
面について、Al酸化皮膜最表層部から80Å程度の深さの
表面部分の、Al酸化皮膜やAl酸化皮膜下のAl合金材生地
最表面部 (Al酸化皮膜との界面部) のCu含有量が、Al合
金材の耐糸さび性に大きく影響していることを知見し
た。
【0019】Al酸化皮膜の組成乃至性状を左右するAl合
金材の製造工程として、Al合金材の洗浄工程がある。通
常、プレス成形用などの6000系Al合金板を製造する際、
冷間圧延などの塑性加工後の最終の溶体化および焼入処
理の後に、酸あるいはアルカリ、更にはこれらを組み合
わせた洗浄液による、Al合金材の洗浄 (エッチング)が
行われている。この洗浄工程は、その前の工程である冷
間圧延などの塑性加工や溶体化処理によりAl合金材表面
に付着している油や汚れを除去する、あるいは前記自動
車製造ラインにおけるリン酸亜鉛などの化成処理性を阻
害するMgO を含有する酸化皮膜を除去する目的で行われ
るものである。
【0020】しかし、この洗浄により、Al合金材表面の
酸化皮膜乃至Al合金板生地が強エッチングされると、残
留する酸化皮膜、或いはエッチング後の乾燥工程以降で
再生成する酸化皮膜中およびAl酸化皮膜下のAl合金材生
地最表面部には、Al合金材生地のCu量よりもCuが濃縮す
る現象が生じる。
【0021】このCuの濃縮自体については、前記特開平
6-287672号公報などで公知である。しかし、前記した通
り、これら従来技術により、Al合金材の表面にCuを濃縮
させた場合、Al合金材のリン酸塩処理性は改善されるも
のの、Al合金材の耐糸さび性は、逆に、極端に低下して
しまう。そして、このAl合金材の耐糸さび性低下の現象
は、特に、フリーフッ素イオン量が高いリン酸塩処理を
施した場合、例えば、フリーフッ素イオン濃度が150ppm
程度以上の場合に顕著となる。
【0022】これは、Al合金材の表面に濃縮したCuが、
リン酸塩処理の際のカソード反応点として働き、確か
に、リン酸塩処理性は改善されるものの、Cuの濃縮によ
って、リン酸塩処理および塗装後も、Al合金材の表面
に、Cuが必然的に残留し、この表面のCuが耐糸さび性を
著しく劣化させるものと考えられる。したがって、本発
明では、Al合金材表面の、特に酸化皮膜中のCu含有量
を、Al合金材生地のCu含有量以下とし、前記従来技術と
は逆に、少なくとも、酸化皮膜などのAl合金材の表面に
Cuを析出乃至濃縮させないようにすることを骨子とす
る。
【0023】また、これらの従来技術がCuの析出乃至濃
縮の対象とする部分は、本発明で言うAl酸化皮膜下のAl
合金材生地最表面部であって、本発明で言うAl酸化皮膜
ではない。これら従来技術では、酸洗などのエッチング
により、一旦表面の酸化皮膜を全て除去し、更にAl合金
材生地表面もエッチングして、Al合金材生地表面にCuの
析出乃至濃縮を行うからである。
【0024】
【発明の実施の形態】(Al酸化皮膜の厚さ)Al合金材表面
のAl酸化皮膜の厚さはリン酸亜鉛などの化成処理性の点
からは薄いほど好ましい。Al酸化皮膜の厚さが100 Åを
越えた場合には、却って化成処理時にAl酸化皮膜が溶解
(エッチング) しにくくなり、リン酸亜鉛などの化成処
理皮膜の付着性が悪くなる。化成処理皮膜の付着性が悪
くなると、皮膜の付着量が低下し、塗装後耐蝕性として
の耐糸さび性を低下させる。したがって、Al合金材表面
のAl酸化皮膜の厚さは100 Å以下とする。
【0025】なお、Al合金材表面のAl酸化皮膜の膜厚
は、X線光電子分光法(XPS) により、比較的簡単に、か
つ精度良く測定することができる。Al酸化皮膜の膜厚の
測定方法としては、他に、ハンターホール法や静電容量
法等があるが、Al酸化皮膜は薄膜であり、測定方法が違
うと、測定値のバラツキが生じる場合があるので、本発
明のAl合金材表面のAl酸化皮膜の膜厚は前記XPS により
測定するものとする。
【0026】XPS による具体的な測定方法は、Al酸化皮
膜中のAl原子から放出され、XPS の検出器で観測される
光電子数(NOX) 、下地のAl基材中Al原子から放出され、
XPSの検出器で観測される光電子数(NAl) を用い、d=20
cosθ In(1.15 NOX/NAl+1)の算出式 (但し、θは光電
子の検出角度) により、酸化皮膜の膜厚d(Å: オングス
トローム) を算出する。
【0027】(表層部のCu量)本発明で、Al合金材表面の
Cu量を規定するに際し、Al酸化皮膜最表層部から少なく
とも80Åの深さ (厚み) の表面部分としたのは、前記洗
浄等によるCuの濃縮が、Al酸化皮膜やAl酸化皮膜下のAl
合金材生地最表面部 (Al酸化皮膜との界面部) で進むこ
とを知見したからである。そして、これら、Cuの濃縮が
進み、耐糸さび性に大きく影響している表面部分は、Al
酸化皮膜の厚みによっても勿論異なるが、概ね、Al酸化
皮膜最表層部から80Åの深さ範囲に含まれることを知見
したからである。したがって、Cuの濃縮が問題となるAl
酸化皮膜の最大厚さを、本発明では100 Åとしているの
で、本発明で規定する少なくとも80Åの深さとは、最大
でも、このAl酸化皮膜の厚さ程度であれば良く、それ以
上の、Al合金材生地最表面部を越えて、Al合金材の生地
に至るような深さまでは不要である。
【0028】本発明でいう、前記表面部分のCu含有量と
は、エスカ(Electron Spectroscopyfor Chemical Analy
sis) とも呼称されるX 線光電子分光法(XPS:X-ray Phot
oelectron Spectroscopy)分析により検出されるCuおよ
びCu量を言う。Al酸化皮膜のような薄膜中のCu量は、通
常の材料の成分分析に使用されるカント分析 (発光分光
分析) では不可能であり、本発明では、固体表面分析に
汎用される、X 線光電子分光法を用いて、Al合金材の表
層部のCu量を測定する。そして、より具体的には、この
X 線光電子分光法により、Al酸化皮膜最表層部から深さ
(厚み) 方向に対し80Åの深さまで、10Å毎の各ポイン
ト (深さ位置) で検出されるCu量の平均を、この深さ部
分のCu含有量(at%) とする。
【0029】更に、本発明では、耐糸さび性をより向上
させるために、前記アルミニウムの酸化皮膜最表層部か
ら10Åまでの深さの表面部分における、前記X 線光電子
分光法により検出される、Cu含有量を0at%とすることが
好ましい (請求項2 に対応)。これによって、耐糸さび
性に影響している、酸化皮膜中乃至Al生地の最表面部
(酸化被膜とAl生地との界面部) に存在するCuが実質的
に無くなり、Al合金材の耐糸さび性は更に向上する。
【0030】なお、酸化皮膜中乃至Al生地の最表面部に
存在するCuが耐糸さび性に影響していることは疑いがな
いものの、このCuの存在形態および特に耐糸さびに影響
するCuの存在形態は、金属Cuであるのか、Cuの酸化物で
あるのか、必ずしも明確ではない。したがって、本発明
では、種々存在すると推考されるCuの存在形態によら
ず、前記X 線光電子分光法による計測される、Al合金材
の表層部のCu含有量を規定する。
【0031】そして、一方、これと比較すべき、Al合金
材の方のCu含有量は、本発明のAl合金材の主要成分量の
測定などに用いる、通常のカント分析によるものではな
く、Al合金材の表層部のCu量と同じく、前記X 線光電子
分光法により測定されるCu含有量(at%) とする。そし
て、その規準測定位置は、Al酸化皮膜最表層部から300
Åの深さのAl合金材の生地部分とする。この規準測定位
置は、300 Å以上の深さであれば、Al合金材の生地部分
となり、いずれの深さでも良いが、測定位置による多少
のばらつきを考慮して、本発明では前記300 Åとする。
Al合金材の方のCu含有量の測定もX 線光電子分光法によ
るものとしたのは、Al合金材の表層部のCu量とAl合金材
の生地のCu量との比較(Cu 量の濃縮度) を正確に行うた
めに、両者の測定のベースを同じとするためである。ま
た、本発明のようなÅ単位の極薄膜でもある、酸化皮膜
や、これにつながるAl生地のCu量を求めるためには、通
常のAl合金成分量を求める前記カント分析(wt%または質
量%)では、測定が困難であることにもよる。
【0032】本発明において、Al合金材自体のCu含有量
は、前記した通り、0.05〜1.5%であり、このCu含有量に
対応して、前記溶体化および焼入処理材の洗浄後、或い
はリン酸塩処理などの化成処理前のAl合金材における、
Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さの表面部分のCu含有
量を、前記Al合金材のCu含有量以下とする。
【0033】Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さの表面
部分のCu含有量が、Al合金材の前記Cu含有量を越えて、
濃縮して存在した場合、前記した通り、Al合金材の塗装
後の糸さび発生の感受性が著しく高くなり、耐糸さびが
著しく低下する。中でも、特に、人工時効処理後の高耐
力化を狙い、Si量を1.0%程度と高くするとともに、Siの
粒界への析出の抑制のため、連続熱処理炉にて溶体化処
理および焼入れされる高Si系の6000系Al合金材におい
て、Cuを0.05〜1.5%含有した場合、塗装後の糸さび発生
の感受性が著しく高くなる。
【0034】Al合金材表面のCu含有量は、最終の溶体化
および焼入処理の後の、酸あるいはアルカリ、更にはこ
れらを組み合わせた洗浄液による、Al合金材の洗浄 (エ
ッチング) 工程により大きく影響を受ける。言い換える
と、この洗浄力乃至エッチング量を制御することによ
り、Cu含有量を制御することが可能である。
【0035】前記特開平6-287672号公報等の、強エッチ
ングを行い、Al酸化皮膜およびAl合金材の溶解量を大き
くした場合、著しくCuは濃縮しやすくなる。前記特開平
6-287672号公報等でも、Al合金板のCu量が0.01〜5wt%で
あるのに対し、強エッチングにより、表面のCu量は0.1
〜10wt% と数倍〜数十倍に濃縮析出している。この点
は、本発明で規定する、Al酸化皮膜最表層部から80Åの
深さの表面部分のCu含有量も同様である。
【0036】したがって、本発明においては、硝酸、硫
酸等の酸、カセイソーダ等のアルカリ溶液、あるいは市
販の洗剤等を適宜組み合わせた洗浄条件 (洗浄液の濃
度、温度、洗浄時間等) を、極力、酸化物皮膜やAl合金
材をエッチングしない条件を選択する必要がある。な
お、酸化物皮膜やAl合金材をエッチングしないために、
Al合金材表面に圧延油などによる汚れの問題がなけれ
ば、無洗浄とすることも、勿論、選択肢の一つとなる。
但し、Al合金材表面へのCuの濃縮量は、洗浄条件だけで
は一義的に決まらない部分もあるので、Al合金材表面へ
のCuの濃縮の規制のためには、元のCu含有量や他の製造
条件にも注意する必要がある。
【0037】次に、本発明Al合金材に適用するAl合金を
説明する。本発明Al合金材には、自動車、船舶などの輸
送機材や構造材あるいは部品用などの、具体的な用途毎
の特性を満足するために、AA乃至JIS 6000系のAl合金が
適宜使用される。なお、Al合金材としては、圧延による
板材のみではなく、押出による形材、或いは鍛造による
鍛造材が適宜選択され、要はAl合金材の形状や製造方法
は限定されない。
【0038】Al-Mg-Si系の6000系Al合金は、特に自動車
のパネル材やフレーム材として、基本的に、耐力が120N
/mm2以上でプレス成形性や曲げ加工性に優れることや、
成形後の塗装焼付後に150N/mm2以上、好ましくは200N/m
m2以上の耐力となる人工時効硬化性、あるいは、合金元
素量が少なく、スクラップが元の合金用の溶解原料とし
て使用できるリサイクル性などの特性に優れている。
【0039】以下、6000系Al合金における、好ましい化
学成分組成について説明する。前記自動車のパネル材や
フレーム材としての諸要求特性を満足するために、化学
成分組成の好ましい範囲は、6000系Al合金の成分規格
(AA 6101 、6111、6003、6151、6061、6N01、6063など)
に相当するものとして、基本的にSi:0.2〜1.8%、Mg:0.
2〜1.6%、Cu:0.3〜1.5%を含有し、その他、好ましく
は、Zn:0.005〜1.0%、Ti:0.001〜0.1%の一種または二種
以上、B:1 〜300ppm、Be:0.1〜100ppmの一種または二
種、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.15%以下、V:0.
15% 以下の一種または二種以上を、選択的に合計で0.01
〜1.5%含み、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl合
金とする。
【0040】しかし、本発明では成形性の向上のため
に、Cuの含有を必須とするため、このCuの含有量は必ず
しも各々のAA乃至JIS の成分規格内とはならない場合が
ある。また、基本となる成分のSi、Mg以外の元素は、AA
乃至JIS の各成分規格通りにならずとも、前記基本的な
特性を有してさえいれば、更なる特性の向上や他の特性
を付加するための、適宜成分組成の変更は許容される。
この点、用途および要求特性に応じて、Fe、Ni、V 、M
n、Cr、Zr、Sc、Agなどの他の元素を適宜含むことは許
容される。更に、酸素や水素等の不純物は、Al合金材の
諸特性を劣化させない程度の含有は許容される。
【0041】次に、本発明Al合金材の各元素の含有量の
好ましい範囲について説明する。
【0042】Si:0.2〜1.8%。SiはMgとともに、人工時効
処理により、Mg2 Siとして析出して、使用時の高強度
(耐力) を付与するために必須の元素であるが、0.2%未
満、より厳密には0.8 % 未満の含有では人工時効で十分
な強度が得られない。一方、1.8%を越えて、より厳密に
は1.3 % を越えて含有されると、鋳造時および焼き入れ
時に粗大な粒子として析出して、伸びが低くなるなど、
成形性を阻害する。したがって、Siの含有量は0.2 〜1.
8%、また、特に、Siの粒界への析出の抑制のために、連
続熱処理炉にて溶体化および焼入れ処理することを前提
に、人工時効処理後の高耐力化を狙うためには、好まし
くは0.8 〜1.3%の範囲とする。
【0043】Mg:0.2〜1.6%。Mgは人工時効時 (成形、塗
装後の焼き付け硬化処理など) により、SiとともにMg2
Siとして析出して、また、Cu含有組成では更にCu、Alと
化合物相を形成して、使用時の高強度 (耐力) 乃至焼き
付け硬化性を付与するために必須の元素である。Mgの0.
2%未満の含有では加工硬化量が低下して、プレス成形や
曲げ加工を受けた際の剪断変形に耐えられず、割れを生
じる可能性がある。また、人工時効でも十分な強度が得
られない。一方、1.6%を越えて、より厳密には0.7%を越
えて含有されると、強度 (耐力) が高くなりすぎ 成形
性を阻害する。したがって、Mgの含有量は0.2 〜1.6%、
好ましくは0.2 〜0.7%の範囲とする。
【0044】Cu:0.05 〜1.5%。Cuは焼き付け加熱時にM
g、Alと化合物相を形成して析出し、焼き付け硬化性を
付与するとともに、T4調質時の固溶状態において、成形
性を向上させる。Cuの含有量が0.05% 未満では、これら
の効果が無く、1.5%を越えると効果が飽和する。しか
も、Cuの含有量が1.5%を越えると、Al合金材をエッチン
グ処理した際に、Al合金材表面にCuが多量に析出 (濃
縮) し、却って、Al合金材の耐糸さび性を劣化させる。
したがって、Cuの含有量は0.05〜1.5%とする。
【0045】次に、Zn、Ti、B 、Be、Mn、Cr、Zr、V
は、各々目的に応じて、選択的に含有される元素であ
る。
【0046】Zn:0.005 〜1.0%。Znは人工時効時におい
て、MgZn2 を微細かつ高密度に析出させ高い強度を実現
させる。しかし、Znの0.005%未満の含有では人工時効で
十分な強度が得られず、一方、1.0%を越えて含有される
と、耐蝕性が顕著に低下する。したがって、Znの含有量
は0.005 〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
【0047】Ti:0.0001 〜0.1%。Tiは鋳塊の結晶粒を微
細化し、プレス成形性を向上させるために添加する元素
である。しかし、Tiの0.001%未満の含有では、この効果
が得られず、一方、Tiを0.1%を越えて含有すると、粗大
な晶出物を形成し、成形性を低下させる。したがって、
Tiの含有量は0.0001〜0.1%の範囲とすることが好まし
い。
【0048】B:1 〜300ppm。B はTiと同様、鋳塊の結晶
粒を微細化し、プレス成形性を向上させるために添加す
る元素である。しかし、B の1ppm未満の含有では、この
効果が得られず、一方、300ppmを越えて含有されると、
やはり粗大な晶出物を形成し、成形性を低下させる。し
たがって、B の含有量は1 〜300ppmの範囲とすることが
好ましい。
【0049】Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.15%以
下、V:0.15% 以下。これらの元素は均質化熱処理時およ
びその後の熱間圧延時に、Al20Cu2Mn3、Al12Mg2Cr 、Al
3Zr、Al2Mg3Zn3 などの分散粒子を生成する。これらの
分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるた
め、微細な結晶粒を得ることができる。しかし過剰な含
有は溶解、鋳造時に粗大な金属間化合物を生成しやす
く、成形時の破壊の起点となり、成形性を低下させる原
因となる。また、Zrの過剰な含有はミクロ組織を針長状
にしやすく、特定方向の破壊靱性および疲労特性更には
成形性を劣化させる。このため、これらの元素の含有量
は各々、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.15%以下、
V:0.15% 以下とする。
【0050】Fe: 不純物として含まれるFeは、Al7Cu2F
e、Al12(Fe,Mn)3Cu2 、(Fe,Mn)Al6などの晶出物を生成
する。これらの晶出物は、破壊靱性および疲労特性更に
は成形性を劣化させる。特に、Feの含有量が0.5%を越え
ると顕著にこれらの特性が劣化するため、Feの含有量は
0.5%以下とすることが好ましい。なお、鋳造中に生じる
晶出物は、前記Fe系以外に、Al2Cu2Mg、Al2Cu2、Mg2Si
などの可溶のものがあり、これらは溶体化処理および焼
入で、Alマトリックス中に十分に再固溶させることが好
ましい。その他、Niは0.05% 以下とすることが好まし
い。
【0051】本発明におけるAl合金材自体は常法により
製造が可能である。例えば、6000系Al合金成分規格範囲
内に溶解調整されたAl合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半
連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選
択して鋳造する。次いで、このAl合金鋳塊に均質化熱処
理を施した後、熱間圧延および冷間圧延 (必要により中
間焼鈍) 、または押出、或いは鍛造などの塑性加工方法
により、板材、型材、線棒材、鍛造材など、所望のAl合
金材の形状に塑性加工される。そして、塑性加工された
圧延材あるいは押出材は、圧延あるいは押出や鍛造まま
か、必要によりT6処理 (溶体化処理後焼入れ) 或いは時
効処理、過時効処理などの調質処理が行われ、前記した
所望の機械的性質とされる。
【0052】但し、6000系Al合金板材のプレス成形性を
より向上させるとともに、プレス成形後の焼付塗装時の
時効硬化能をより向上させるためには、前記した通り、
Si量を0.8 〜1.3%として、Si量を高めることが好まし
い。しかし、Si量を高めた場合には、前記調質処理の
際、粒界へのSi析出による成形性の低下の問題が大きく
なる。このため、これを防止するためには、短時間で板
を加熱および急速に冷却することが必要で、この点、特
に最終的な溶体化処理および水焼入れ処理をバッチ式で
はなく、コイルから板を連続的に通板して熱処理するこ
とのできる連続熱処理炉にて行うことが好ましい。
【0053】更に、Al酸化皮膜最表層部から80Åの深さ
の表面部分のCu含有量を制御したAl合金材の、保管等に
よるAl酸化皮膜の経時変化 (酸化による膜厚の増加) や
組成変化(Mg 量の増加) を抑制することが、リン酸塩処
理性の点から好ましい。そのための実施態様として、表
面に、更に亜鉛めっきを施すことが好ましい。亜鉛めっ
き( 純亜鉛や亜鉛合金めっきを含む) を施せば、リン酸
塩処理などの化成処理性をより優れたものとすることが
できる。但し、この亜鉛めっきを施す場合には、リン酸
塩処理などの化成処理後、亜鉛めっき層が残留すると、
却って耐糸さび性などの塗装後の耐蝕性を劣化させる。
したがって、リン酸塩処理などの化成処理後に、Al合金
材の表面に亜鉛めっき層が残留しない量乃至厚さだけ亜
鉛めっきを施すことが好ましい。
【0054】また、Al合金材表面に防錆油や潤滑油など
塗布することも、プレス成形などの成形性向上のために
も好ましい。言い換えると、単に無処理のAl合金材だけ
ではなく、このような新たな特性向上のための表面処理
が本発明では許容される。そして、以上のAl合金材製造
上の対策を行うことにより、このAl合金材を使用する側
における長期の保管も可能になる利点もある。
【0055】なお、Al合金材表面へのCuの濃縮により、
耐糸さび性が劣化する問題は、リン酸塩処理だけではな
く、他の燐酸- クロム酸塩処理、クロム酸塩処理やジル
コニウムやチタンを含む非クロム酸塩処理、或いはAlの
水和酸化物系皮膜を設ける処理等の、塗装下地としての
化成処理が施された上で塗装される場合でも同様に生じ
る。したがって、本発明で言う化成処理とは、塗装下地
処理として汎用されているこれら化成処理も含む。
【0056】
【実施例】次に、本発明の実施例を説明する。表1 に示
す組成のAl合金の鋳塊をDC鋳造法により溶製後、470 ℃
×8 時間の範囲で均質化熱処理を施し、厚さ3.5mm まで
熱間圧延した。次に厚さ1.0mm まで冷間圧延し、連続熱
処理炉において、560 ℃で数秒溶体化処理した後、水冷
による急冷を行ってAl合金板を作成した。
【0057】更に、表1 に示す組成のAl合金鋳塊をDC鋳
造法により150mmvφビレットを溶製後、470 ℃×8 時間
の範囲で均質化熱処理を施し、押出温度500 ℃、押出速
度10m/分で厚さ2mm 、幅100mm の平板材を押出した。こ
の際、押出直後に、プラテン内で押出材の周囲と長手方
向に水スプレーを延在させ、強制的に水冷した。そし
て、バッチ式熱処理炉において、560 ℃で数十分溶体化
処理した後、水冷による急冷を行ってAl合金形材を作成
した。
【0058】そして、これら溶体化処理および焼入れ後
の、種々のAl板乃至形材の、洗浄条件を変えることによ
り (洗浄を行わないことも含め) 、Al合金材表面のAl酸
化皮膜の厚さと、Al酸化皮膜の最表層部から80Åの深さ
の表面部分におけるCu含有量を変えた供試材とした。
【0059】表2 に示す洗浄条件は、洗浄を全く行わな
かった「洗浄無し」と、30℃の中性洗剤によるエッチン
グを殆ど伴なわない洗浄を行った「弱洗浄」と、50℃の
5wt%水酸化ナトリウム水溶液と80℃の10wt% 硫酸水溶液
との2 段階のエッチングを伴う洗浄を行った「強洗浄」
の3 種類とした。
【0060】なお、表2 に示す発明例の内、No.5、6
は、洗浄後大気雰囲気下で1 カ月間放置し、比較例10、
12は、洗浄後大気雰囲気下で3 カ月間放置した後のもの
を供試材とした。
【0061】これら供試材表面のAl酸化皮膜の膜厚を前
記XPS により測定した。また、Al酸化皮膜最表層部から
80Åの深さの表面部分のCu含有量は、前記XPS により、
深さ方向に10Å毎の各ポイントで検出されるCu量(at%)
を測定し、これの平均値とした。更にAl合金材の生地の
Cu含有量は、前記XPS により、Al酸化皮膜最表層部から
300 Åの深さ部分のCu量(at%) を測定した。これらの結
果を表2 に示す。また、表2 の内、発明例No.1 (洗浄無
し) 、比較例No.9 (弱洗浄) 、比較例No.11(強洗浄) の
場合の、Al酸化皮膜最表層部からAl合金材の深さ( 厚
み) 方向へのCuの濃度分布を図1 に示す。
【0062】因みに、表2 の発明例の内、溶体化処理後
に水量を大として水冷で焼入れ処理したAl板および前記
押出後直ちに水量を大として水冷した形材は、いずれ
も、後述する塗装焼付後に200N/mm2以上の耐力を有して
いた。
【0063】次に、これら供試材をそのまま( 発明例N
o.2のみはジンケート処理により亜鉛めっきを1g/m2
面に付着させ、1 ケ月放置後) 、リン酸チタンのコロイ
ド分散液による処理を行い、次いでフリーフッ素を150p
pmの低濃度含むリン酸亜鉛浴に浸漬してリン酸亜鉛処理
を行い、各々の供試材へのリン酸亜鉛の被覆率を測定し
た。リン酸亜鉛の被覆率の測定は、1000倍のSEM 観察に
より、各々の供試材表面の単位面積 (0.04mm2)当たり
の、リン酸亜鉛が被覆された供試材表面面積率を求めて
行った。
【0064】そして、更にこのリン酸亜鉛皮膜を設けた
供試材に、カチオン電着塗装およびスプレー塗装により
2 コート2 ベークの塗装皮膜を設け、これら塗膜を設け
た供試材に対し、耐糸さび性評価試験を行った。これら
の結果を表3 に示す。なお、2 コート2 ベークの塗装皮
膜は、中塗り塗装として、30μm 厚さのポリエステルメ
ラミン系塗装皮膜を設けて、140 ℃×20分の焼き付けを
行い、更に上塗り塗装として、30μm 厚さのポリエステ
ルメラミン系塗装皮膜を設けて、180 ℃×20分の焼き付
けを行った。
【0065】耐糸さび性評価試験は、塗装試験片に一片
が7cm のクロスカットを施した後、35℃の3%HCl 水溶液
に2 分間浸漬した後、40℃、85RHの恒温恒湿の雰囲気に
1500時間放置し、その後発生した糸さびの最大長さL(ク
ロスカットより垂直方向の距離) を測定した。耐糸さび
性評価は、表1 の比較例No.12 のAl合金塗装試験片に発
生した糸さびの最大長さL を1 とし、これとの比較で、
◎:L≦0.1 、○:0.1<L ≦0.5 、△:0.5<L <1 、×:L
≧1 と評価した。なお、この耐糸さび性評価試験は、例
えば5%NaCl溶液などに浸漬して同様の条件で試験を行う
ような他の耐糸さび性評価試験に比して、HCl 水溶液に
浸漬しているなどの点で、より厳しい試験条件となって
いる。
【0066】表2 から明らかな通り、Al酸化皮膜の厚さ
が100 Å以下で、かつAl酸化皮膜最表層部から80Å程度
の深さの表面部分のCu含有量が、300 Åの深さ部分のAl
合金材のCu含有量以下である発明例No.1〜8 は、この要
件から外れる比較例No.9〜12に比して、リン酸亜鉛の被
覆率は却って少ないものの、耐糸さび性が向上してい
る。これは、比較例が、Cuの表面濃縮により、リン酸亜
鉛の被覆率は向上しているものの、逆にCuの表面濃縮に
より、塗装Al合金材の耐糸さび性が低下していることを
裏付けている。
【0067】そして、Al酸化皮膜最表層部からAl合金材
の深さ( 厚み) 方向へのCuの濃度分布を示す図1 から明
らかな通り、比較例におけるCuの表面濃縮は、発明例N
o.1 (Alの酸化皮膜最表層部から80Åまでの深さにおけ
るCu含有量がAl合金材のCu含有量以下) に比して、比較
例No.9 (弱洗浄) 、比較例No.11(強洗浄) の場合に顕著
である。また、弱洗浄にも拘わらず、Al酸化皮膜最表層
部から80Å程度の深さの表面部分のCu含有量が、Al合金
材のCu含有量より僅かに高くなっている比較例No.9にお
いても、耐糸さび性は発明例より劣っており、本発明の
Al合金材表面におけるCu量の規定の臨界的意義が分か
る。
【0068】更に、図1 における発明例No.1の、Alの酸
化皮膜最表層部から10Åまでの深さにおけるCu含有量
の、より詳細な濃度分布を図2 に示す。図2 から明らか
な通り、Alの酸化皮膜最表層部から10Åまでの深さにお
けるCu含有量を0at%とした発明例No.1は、表1 に示す発
明例の中でも、リン酸亜鉛被覆率や耐糸さび性に優れて
いる。この耐糸さび性を、より具体的に糸さび長さL で
示すと、耐糸さび性が特に優れる (◎印) の発明例No.1
〜4 、7 、8 の糸さび長さL は0.1 以下であったが、そ
の中でも発明例No.1の糸さび長さL は0.06程度であり、
発明例No.2〜4 、7 、8 のL が0.08〜0.1 (Lは比較例N
o.12 の糸さび長さに対する比で表す) であるのに対し
て、糸さび長さが短くなっている。この例からも、酸化
皮膜中乃至Al生地の最表面部 (酸化被膜とAl生地との界
面部) に存在するCuが耐糸さび性に影響し、この部分に
存在するCuを抑制するほど、リン酸亜鉛被覆率や耐糸さ
び性に優れることが分かる。
【0069】なお、発明例の内でも、大気雰囲気下で3
カ月間放置したNo.5、6 は比較的Al酸化皮膜の厚さが厚
くなっており、リン酸亜鉛の被覆率が他の発明例よりも
低くなっており、耐糸さび性も他の発明例よりも低い。
これは、前記Al酸化皮膜の厚さが厚くなるとともに、水
分雰囲気下でAl酸化皮膜中の水酸化物等が増加し、Al酸
化皮膜が変性しているのが一因となっていると推考され
る。そして、大気雰囲気下で、より長く3 カ月間放置し
た比較例No.10 、12において、これらの傾向はより顕著
になっている。
【0070】これらの結果から、本発明におけるAl酸化
皮膜の厚さと、Al酸化皮膜最表層部から80Å程度の深さ
の表面部分のCu含有量の規定の臨界的意義が裏付けられ
る。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【発明の効果】本発明によれば、優れた耐糸さび性を有
する6000系Al合金板を提供することができる。したがっ
て、Al合金板の自動車、車両、船舶などの輸送機材用へ
の用途の拡大を図ることができる点で、多大な工業的な
価値を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】Al酸化皮膜最表層部から深さ方向へのCuの濃度
分布を示す説明図である。
【図2】Al酸化皮膜最表層部から深さ方向へのCuの濃度
分布を示す説明図である。

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Si:0.2〜1.8% (質量% 、以下同じ) 、M
    g:0.2〜1.6%、Cu:0.05 〜1.5%を含み、化成処理後塗装
    されて用いられるAl-Mg-Si系アルミニウム合金材であっ
    て、表面に厚さが100 Å (オングストローム) 以下のア
    ルミニウムの酸化皮膜を有するとともに、アルミニウム
    の酸化皮膜最表層部から少なくとも80Åの深さの表面部
    分におけるCu含有量を、アルミニウム合金材自体のCu含
    有量以下とすることを特徴とする耐糸さび性に優れたア
    ルミニウム合金材。
  2. 【請求項2】 前記アルミニウムの酸化皮膜最表層部か
    ら10Åまでの深さの表面部分における、X 線光電子分光
    法により検出される、Cu含有量を0at%とする請求項1に
    記載の耐糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  3. 【請求項3】 前記アルミニウム合金材が、Si:0.8〜1.
    3%、Mg:0.2〜0.7%を含み、連続熱処理炉にて溶体化およ
    び焼入処理された板である請求項1または2に記載の耐
    糸さび性に優れたアルミニウム合金材。
  4. 【請求項4】 前記化成処理がリン酸塩処理である請求
    項1乃至3のいずれか1項に記載の耐糸さび性に優れた
    アルミニウム合金材。
  5. 【請求項5】 前記アルミニウム合金材が、リン酸塩処
    理の前処理としてコロイダルTiにより表面処理される
    ものである請求項4に記載の耐糸さび性に優れたアルミ
    ニウム合金材。
  6. 【請求項6】 前記リン酸塩の浴中のフリーフッ素イオ
    ン量が100ppm以上である請求項4または5に記載の耐糸
    さび性に優れたアルミニウム合金材。
  7. 【請求項7】 前記アルミニウム合金材が、鋼材ととも
    に同一のラインでリン酸塩処理された後に塗装される請
    求項1乃至6の何れか1項に記載の耐糸さび性に優れた
    アルミニウム合金材。
  8. 【請求項8】 前記アルミニウム合金材が輸送機用であ
    る請求項1乃至7の何れか1項に記載の耐糸さび性に優
    れたアルミニウム合金材。
  9. 【請求項9】 前記アルミニウム合金板が、前記溶体化
    および焼入処理された後に洗浄処理されたものである請
    求項1乃至8の何れか1項に記載の耐糸さび性に優れた
    アルミニウム合金材。
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